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特許7526758被験体において血管を安定化させるための、ベニバナエキスを含んでなる組成物
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  • 特許-被験体において血管を安定化させるための、ベニバナエキスを含んでなる組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】被験体において血管を安定化させるための、ベニバナエキスを含んでなる組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/286 20060101AFI20240725BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240725BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20240725BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20240725BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20240725BHJP
【FI】
A61K36/286
A61P9/14
A61P43/00 111
A61K8/9789
A61Q19/00
A61P17/00
A23L33/105
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022089908
(22)【出願日】2022-06-01
(65)【公開番号】P2023177144
(43)【公開日】2023-12-13
【審査請求日】2024-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】菊池 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】東條 も絵
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2005-0112322(KR,A)
【文献】国際公開第2007/032551(WO,A1)
【文献】特開2013-035820(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104887870(CN,A)
【文献】LIU, Ya-Li et al.,Hydroxysafflor yellow A ameliorates lipopolysaccharide-induced acute lung injury in mice via modulating toll-like receptor 4 signaling pathways,International Immunopharmacology,2014年,Volume 23, Issue 2, Pages 649-657,<DOI: 10.1016/j.intimp.2014.10.018>
【文献】SUN, Yang et al.,Protective cerebrovascular effects of hydroxysafflor yellow A (HSYA) on ischemic stroke,European Journal of Pharmacology,2018年,Volume 818,Pages 604-609,<DOI: 10.1016/j.ejphar.2017.11.033>
【文献】CHEN, Tangting et al.,Hydroxysafflor Yellow A Promotes Angiogenesis via the Angiopoietin 1/ Tie-2 Signaling Pathway,J Vasc Res,2017年,53 (5-6): 245-254,<DOI: 10.1159/000452408>
【文献】福原 茂朋,血管透過性のダイナミックかつ巧妙な制御を可能にするシグナル伝達系,Journal of Japanese Biochemical Society,2017年,89(3):368-376 ,<doi: 10.14952/SEIKAGAKU.2017.890368>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L 33/
A61Q
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Pubmed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において血管を安定化させるための組成物であって、ベニバナエキスを含んでなる、血管内皮細胞においてVEカドヘリンの発現を上昇させるための組成物。
【請求項2】
前記被験体がヒト被験体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口用または局所用の組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
経口用の組成物が、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、ペースト、粉末、顆粒、丸剤、錠剤、ブロック、またはカプセルの形態である、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
局所用の組成物が、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
化粧料組成物である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体において血管を安定化させるための、ベニバナエキスを含んでなる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生命がその活動を正常に維持するためには、各臓器へ十分な酸素や栄養を供給し、さらにその活動で生じる老廃物を適切に運搬・処理することが重要であるが、この機能を担う器官が血管である。血管は、血液を通して全身の臓器に酸素や栄養素を送るだけでなく、組織中からの老廃物を運び体外へ排泄する役割を担っており、人体が生命活動を維持するにあたって重要な組織である。
【0003】
血管には、心臓から送り出された血液が流れる動脈、心臓へ戻る血液が通る静脈の他に、血管のうち90%以上(人間の場合)を占める毛細血管がある。毛細血管は主に血管内皮細胞と血管壁細胞により構成される。
【0004】
血管内皮細胞は、例えば、互いに接着し血管内環境因子(細胞および液性因子)が容易には血管外に漏出しないような内皮細胞間の接着斑を形成すること等によって、血管のバリアとして働き、また、物質の透過性すなわちバリア機能を調節することで、生命の健康維持に重要な役割を担うことが近年分かってきた。血管バリア機能の障害により、炎症、動脈硬化など様々な血管の病気の引き金となるだけではなく、末梢細胞への酸素、栄養の不足が生じることが知られている。
【0005】
また、血管壁細胞と総称される血管平滑筋細胞やペリサイトは、血管内皮細胞の外腔面から、細胞外マトリックスを介してまたは直接的に血管内皮細胞に接着している。血管径の大きさによっては血管内皮細胞と血管壁細胞の接着する比率は異なり、大血管系では、1層の血管内皮細胞に、複数層の血管壁細胞が裏打ちしており、中、小血管では、血管内皮細胞1細胞に血管壁細胞が1細胞裏打ちするものが多く、また、さらに径の細い血管では、1個の血管壁細胞が複数の血管内皮細胞に接着している。このように、血管壁細胞が血管内皮細胞に対し裏打ちすることは血管の構造上重要である。例えば、組織の酸素や栄養分の需要に応じて、とくにそれらが不足する際には、血管は管腔を拡大化させることで血流を増加させ、酸素、養分を組織に十分に行き渡らせるように調節することが可能である。
【0006】
この血管のバリア機能に影響を与える因子としては、例えば、血管内皮細胞に発現する受容体型チロシンキナーゼであるTie2(Tyrosine kinase with Ig and EGF homology domain2)があり、Tie2を活性化することにより、血管が成熟化および安定化すること等が知られている。
【0007】
より具体的には、例えば、非特許文献1において、Ang-1が、Tie2受容体を介して、内皮細胞間および内皮細胞-壁細胞間接着を増強し、血管安定化と血管透過性の低下を引き起こすこと、Ang-1がin vitroの内皮細胞において、VEカドヘリン接着を増強し、血管透過性を低下させること、およびAng-1-Tie2シグナルはVEカドヘリン接着を増強し、血管バリア機能を制御していると考えられることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 368-376 (2017)
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、ベニバナエキスが、被験体において血管を安定化させることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0010】
よって、本発明は、被験体において血管を安定化させるための、ベニバナエキスを含んでなる組成物を提供する。
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)被験体において血管を安定化させるための組成物であって、ベニバナエキスを含んでなる、組成物。
(2)血管内皮細胞においてVEカドヘリンの発現を上昇させるための、(1)に記載の組成物。
(3)血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させるための、(1)または(2)に記載の組成物。
(4)前記被験体がヒト被験体である、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)経口用または局所用の組成物である、(1)~(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)経口用の組成物が、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、ペースト、粉末、顆粒、丸剤、錠剤、ブロック、またはカプセルの形態である、(5)に記載の組成物。
(7)局所用の組成物が、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である、(5)に記載の組成物。
(8)化粧料組成物である、(1)~(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)被験体における血管の安定化を目的とする薬剤の製造のための、ベニバナエキスの使用。
(10)血管内皮細胞におけるVEカドヘリン発現の上昇を目的とする薬剤の製造のための、(9)の使用。
(11)血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇を目的とする薬剤の製造のための、(9)または(10)に記載の使用。
(12)前記被験体がヒト被験体である、(9)~(11)のいずれかに記載の使用。
(13)ベニバナエキスを含んでなる組成物の、被験体において血管を安定化させるための使用。
(14)血管内皮細胞においてVEカドヘリンの発現を上昇させるための、(13)に記載の使用。
(15)血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させるための、(13)または(14)に記載の使用。
(16)前記被験体がヒト被験体である、(13)~(15)のいずれかに記載の使用。
(17)前記組成物が経口用または局所用の組成物である、(13)~(16)のいずれかに記載の使用。
(18)前記経口用の組成物が、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、ペースト、粉末、顆粒、丸剤、錠剤、ブロック、またはカプセルの形態である、(17)に記載の使用。
(19)前記局所用の組成物が、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である、(17)に記載の使用。
(20)前記組成物が化粧料組成物である、(13)~(19)のいずれかに記載の使用。
(21)被験体において、血管を安定化させるための方法であって、ベニバナエキスを含んでなる組成物の有効量を投与することを含む、方法。
(22)血管内皮細胞においてVEカドヘリンの発現を上昇させるための、(21)に記載の方法。
(23)血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させるための、(21)または(22)に記載の方法。
(24)前記被験体がヒト被験体である、(21)~(23)のいずれかに記載の方法。
(25)前記組成物が経口用または局所用の組成物である、(21)~(24)のいずれかに記載の方法。
(26)前記経口用の組成物が、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、ペースト、粉末、顆粒、丸剤、錠剤、ブロック、またはカプセルの形態である、(25)に記載の方法。
(27)前記局所用の組成物が、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である、(25)に記載の方法。
(28)前記組成物が化粧料組成物である、(21)~(27)のいずれかに記載の方法。
【0012】
本発明によれば、被験体において血管を安定化させるための、ベニバナエキスを含んでなる組成物を提供することができる。この組成物は、血管内皮細胞においてVEカドヘリンの発現を上昇させることも可能である。また、この組成物は、血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、ベニバナエキスをHuVECに0時間、24時間、および48時間適用した場合、HuVECの増殖に与える影響を評価した結果を表す。
図2図2は、ベニバナエキスをHuVECに48時間適用した場合、HuVECの増殖に与える影響を評価した結果を表す。
図3図3は、ベニバナエキスをHuVECに適用した場合、HuVECおけるVE-カドヘリンの発現に与える影響を評価した結果を表す。
図4図4は、ベニバナエキスをHuVECに適用した場合、HuVECおけるVE-カドヘリン遺伝子の発現に与える影響を評価した結果を表す。
図5図5は、ベニバナエキスをHuVECに適用した場合、HuVECおける細胞内カルシウム濃度に与える影響を評価した結果を表す。
【発明の具体的説明】
【0014】
本発明によれば、ベニバナエキスを含んでなる組成物が提供され、該組成物は、被験体において血管を安定化させることが可能である。
【0015】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の組成物は、血管内皮細胞においてVEカドヘリンの発現を上昇させるためのものとされる。本発明の別の好ましい実施態様によれば、本発明の組成物は、血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させるためのものとされる。
【0016】
本発明における「ベニバナ」は、キク科植物のベニバナ(Carthamus tinctorius L.)を意味する。使用部位としては、限定されるわけではないが、葉、茎、幹、花、根、果実等が挙げられ、好ましくは花である。
【0017】
本発明における「ベニバナ」の産地としては、限定されるわけではないが、中国、韓国、日本国、イスラエル、アメリカ、インド等が挙げられる。また、本発明における「ベニバナ」の仕入れ時期も限定されず、いかなる仕入れ時期のものを使用してもよい。
【0018】
本発明におけるベニバナエキスの製造方法は、特に制限されず、該技術分野において通常使用される方法に応じて抽出することができる。前記抽出方法としては、限定されるわけではないが、例えば、熱水抽出法、超音波抽出法、ろ過法、還流抽出法、溶媒抽出法等が挙げられる。これらは単独で実行、または2種以上の方法を併用して行ってもよい。また、高純度のエキスを得るためにエキスを同様の方法で1回以上ずつさらに抽出してもよい。
【0019】
本発明におけるベニバナエキスの製造のために使用される抽出溶媒の種類は特に制限されず、本発明の組成物に本発明の効果を付するベニバナエキスが得られるものであれば、該技術分野において公知となっている任意の溶媒を使用してもよい。そのような溶媒の例としては、限定されるわけではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、酢酸、酢酸エチル、エーテル、ヘキサン等が挙げられ、これらは2つ以上組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ベニバナエキスが商業的に販売されている場合、本発明の組成物に本発明の効果を付するものであれば、それを使用してもよい。
【0021】
本発明の組成物に含まれるベニバナエキスの配合量は、用途に応じて適宜決定できる。
【0022】
本発明の組成物は、限定されるわけではないが、化粧料組成物としてもよい。本発明における化粧料組成物とは、化粧をすることを目的に使用される組成物のことを意味し、経口用組成物、局所用組成物のいずれであってもよい。また、本発明の組成物としては、限定されるわけではないが、医薬組成物、食品組成物等も挙げられる。
【0023】
本発明の組成物は、経口用組成物、局所用組成物のいずれであってもよい。
【0024】
本発明の組成物を経口用組成物とする場合、経口用組成物に配合される公知の成分(添加剤)をさらに配合することができる。このような成分としては、限定されるわけではないが、例えば、甘味料、高糖味度甘味料、香料、着色料、酸味料、抗酸化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、溶媒、賦形剤、結合剤、滑沢剤、充填剤、粉末、ビタミン、アミノ酸等が挙げられる。
【0025】
本発明における経口用組成物は、液体、半固体、固体のいずれであってもよく、限定されるわけではないが、好ましくは、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、ペースト、粉末、顆粒、丸剤、錠剤、ブロック、またはカプセルの形態である。
【0026】
本発明の組成物を局所用組成物とする場合、局所用組成物に配合される公知の成分(添加剤)をさらに配合することができる。このような成分としては、限定されるわけではないが、例えば、乳化剤、水和剤、溶媒、エモリエント、安定剤、増粘剤、保存剤、滑沢剤、キレート剤、充填剤、賦形剤、粉末、芳香剤、香料、吸収剤、染料、乳白剤、抗酸化剤、ビタミン、アミノ酸等が挙げられる。
【0027】
本発明における局所用組成物は、液体、半固体、固体のいずれであってもよく、限定されるわけではないが、好ましくは、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である。
【0028】
本発明における被験体は、いかなる動物であってもよく、限定されるわけではないが、好ましくは哺乳動物、例えば、ヒト、チンパンジーなどの霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類等の哺乳動物とされ、より好ましくはヒトとされる。
【0029】
本発明の組成物の「血管の安定化」という用途は、直接的にまたは間接的に、血管を安定な状態にすることを意味し、血管の状態が健常者のそれと同等でない対象の血管の状態が、健常者と同等の血管の状態に戻るもしくは近づくこと、または血管の状態が健常者のそれと同等である対象の血管の状態が、維持もしくは健常者と同等の血管の状態よりも良好になることをいう。該血管が存在する場所は皮膚をはじめ身体のどこであってよい。また、本発明の組成物の「血管の安定化」という用途は、血管における細胞同士の接着を調節することの有無によらず達成され、限定されるわけではないが、例えば、Tie2活性化、血管透過性抑制、血管の成熟化、血管の正常化、血管の健全化、血管のバリア機能の強化等の作用によって達成されてもよい
【0030】
一般的に、「Tie2」とは、受容体型チロシンキナーゼ(Tyrosine kinase with Ig and ECF homology domain 2)を意味する。本発明において「Tie2活性化」とは、Tie2をリン酸化することで、その活性体(リン酸化Tie2)に変換できる能力をいう。毛細血管の構造の安定化には血管内皮細胞に存在するTie2と呼ばれる受容体の活性化が重要な役割を果たしている。このTie2は血管内皮細胞のほかリンパ管内皮細胞にも存在が示され、血管壁細胞等から放出されるアンジオポエチン-1によって活性化され、血管内皮細胞同士の接着や血管壁細胞との接着を強め、血管構造の安定化に関与している。このTie2の活性は、例えば、年齢と共に低下するという知見も報告され、それに伴い血管やリンパ管も老化することが明らかとなっている。また、Tie2活性化により血管内皮細胞の安定化、血管透過性の抑制等が観察される。よって、例えば、血管内皮細胞が強固に結びつくことにより肌に栄養が行き渡り、肌のハリやキメの改善、しわ防止等をすることも可能である。また、血管やリンパ管の内皮細胞の隙間が塞がれることにより血流が改善し、組織中からの水分や老廃物が回収されて、冷え、肩こり、むくみ、クマなどの諸症状を改善、予防することも可能である。したがって、Tie2活性化作用により血管やリンパ管の状態を改善することによって、本発明の「血管の安定化」という用途を達成し得る。
【0031】
また、血管の安定化によって血流が改善されることから、本発明の組成物を適用した被験体では血流改善が生じる。したがって、本発明の組成物は、血流改善のためにも使用することができる。
【0032】
本発明において血流改善とは、血液の流れが改善されることをいい、血流レベルが健常者のそれと同等でない対象の血流レベルが、健常者と同等の血流レベルに戻るまたは近づくことをいう。これは、正常時の血流レベルと同等でない血流レベルにある対象の血流レベルが、正常時の血流レベルに戻ることであってもよい。被験体に本発明の組成物を適用してから、健常者と同等の血流レベルまたは正常時の血流レベルに戻るまでの時間は短いことが好ましい。血流は血行と称することもある。血流は、限定されるわけではないが、例えば、血流計(例えば、超音波血流計、レーザー血流計など)、位相コントラストMRI、Vector Flow Mapping、Echo PIVなどを用いて測定することができる。血流は、末梢(例えば、指先)の血流であってよく、皮膚血流であってよい。
【0033】
本発明の組成物の「血管内皮細胞においてVEカドヘリンの発現を上昇させる」という用途は、直接的にまたは間接的に、血管内皮細胞におけるVEカドヘリンの発現レベルを上昇させることを意味し、本発明においてVEカドヘリンは遺伝子(例えば、mRNA、DNA等)またはタンパク質のいずれであってもよい。本発明の組成物の「血管内皮細胞においてVEカドヘリンの発現を上昇させる」という用途により、「血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる」または「血管の安定化」が達成されてもよいが、これに限定されない。
【0034】
本発明の組成物の「血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる」という用途は、直接的にまたは間接的に、血管内皮細胞内のカルシウムイオンの濃度を上昇させることを意味する。本発明の組成物の「血管内皮細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる」という用途により、「血管内皮細胞におけるVEカドヘリンの発現を上昇させる」または「血管の安定化」が達成されてもよいが、これに限定されない。
【実施例
【0035】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。含有量は特記しない限り、質量%で示す。
【0036】
ヒト臍帯静脈内皮細胞の培養
入手したヒト臍帯静脈内皮細胞(HuVEC)(LONZA社製)を、成長因子(LONZA社製)を含むEBM-2培地(LONZA社製)で培養した。HuVECは、コンフルエント状態の80~90%で、4日ごとに継代した。
【0037】
継代培養は以下の方法により行った。まず、HuVECを培養しているディッシュからEBM-2培地を除去し、ディッシュ上のHuVECをPBSで1回洗浄し、洗浄後PBSを除去した。次に、ディッシュ上のHuVECに1mLの0.05%のトリプシンEDTA(1x)(gibco社製)を添加し、37℃で3分間インキュベートした。インキュベート後、ディッシュを軽くたたき、ディッシュの底からHuVECを静かに剥がした。成長因子を含有した10mLのEBM-2培地をディッシュ添加した後、ディッシュ上のHuVECを15mLチューブに回収した。15mLチューブを1000rpm、3分間、室温で遠心分離し、上清を除去した後、1mLの新たなEBM-2培地を添加してHuVECを懸濁させた。このHuVECを懸濁させた培地の1/4をプレートに播き、37℃でインキュベートすることにより、HuVECの継代培養を行った。
【0038】
ベニバナエキスがHuVECの増殖に与える影響の評価
第3~5継代HuVECを、成長因子を含むEBM-2培地で培養した。コラーゲンIでコーティングされた24ウェルプレート(イワキ社製)に、2×10細胞数/ウェルになるように細胞を播き、その2日後、培地を、0.1%のベニバナエキスを含むEBM-2培地、または含まないEBM-2培地に交換した。なお、ベニバナエキスの抽出は、公知の方法に準じ、抽出溶媒として1,3ブチレングリコール水溶液を用いて行った。HuVECの増殖は、アラマーブルー(BIOSOURCE INTERNATIONAL INC社製)を、培地の10%になるように添加し、37℃で2時間インキュベート後、その培地を、黒色の96ウェルプレート(住友ベークライト社製)に200μL/ウェルになるように移し、Gen5マイクロプレートリーダー(励起555nm、発光596nm)を用いてその蛍光を測定することにより評価した。得られた結果に対しては、t-test(P<0.01の場合**、P<0.001の場合***とそれぞれ記載)による統計解析を行った。
【0039】
結果を図1および2に示す。ベニバナエキスを添加してから24時間後および48時間後のいずれの群においても、ベニバナエキスを添加していないコントロールと比較して、HuVECの細胞数が有意に増加していることが示された。以上の結果から、ベニバナエキスはHuVECの増殖を促進させることが示された。
【0040】
ベニバナエキスがHuVECおけるVE-カドヘリン発現に与える影響の評価
コラーゲンI-C(クラボウ社製)を0.1mMのHClで1:10に希釈した。1ディッシュあたり500μLになるように広げ、室温で30分間インキュベートした。次に、ディッシュを、PBSで2回洗浄し、成長因子を含むEBM-2培地で1回洗浄した。1×10細胞/ウェルに調製した第3~5継代HuVECを、コラーゲンI-Cでコーティングした35cmガラス底ディッシュ(イワキ社製)に播いた。このディッシュにベニバナエキスを0.1%になるように適用し、37℃で24時間、インキュベートした後、HuVECをPBSで1回洗浄し、4%PFA(ナカライテスク社製)で、室温で10分間固定し、固定したHuVECに0.5%となるようにTriton-10×(ナカライテスク社製)を添加して15分間、室温でインキュベートした後、PBS(1×)で3回洗浄し、固定したHuVECにBSA(SIGMA社製)を1%になるように添加し、室温で1時間インキュベートした。続いて、1%のBSAで200倍に希釈した一次抗体、抗ウサギVE-カドヘリン(Cell Signaling Technology社製)を、固定したHuVECに適用し、室温で2時間インキュベートした。一次抗体を適用したHuVECをPBSで3回洗浄した後、1%のBSAで800倍に希釈した二次抗体、ファロイジン-488(Thermo Fisher Scientific社製)および抗ウサギ568(Thermo Fisher Scientific社製)を適用し、アルミホイルで覆いながら室温で1時間インキュベートした。二次抗体溶液を除去した後、PBSで1000倍に希釈したHoechst33342を、二次抗体を適用したHuVECに10分間適用し、染色した。
【0041】
染色したHuVECを、LSM880共焦点顕微鏡(ZEISS社製)の20倍レンズで観察した(使用レーザー:488、561、633、レーザー出力:488nm(2%)、633nm(6.5%)、405nm(2%)、ゲイン:550~600、Zスタック:20スライス)。CZI画像は、さらなる分析のために最大強度の投影TIF画像に変換した。
【0042】
結果を図3に示す。ベニバナエキスを添加したHuVECは、ベニバナエキスを添加していないHuVEC(コントロール)と比較して、細胞同士が密に接着していることが示された。
【0043】
続いて、ベニバナエキスがHuVECおけるVE-カドヘリン遺伝子発現に与える影響を評価した。まず、第3~5継代HuVECを、成長因子を含むEBM-2培地で培養した。コラーゲンでコーティングされた24ウェルプレート(イワキ社製)に、2×10細胞/ウェルで、1ウェルあたり500μLの培地になるようにHuVECを播いた。その2日後、培地を0.1%のベニバナエキスを含むEBM-2培地、またはベニバナエキス含まないEBM-2培地に交換した。この処理をしたHuVECを、QIAshredder(QIAGEN社製)を用いてホモジナイズし、次に、RNeasy Miniキット(QIAGEN社製)を用いてRNA精製をした。精製したmRNAを逆転写し、リアルタイム定量PCRは、以下の表1に示すIDを有する、Taqman(Thermo Fisher Scientific社製)プライマープローブセットを用い、LightCyclerラピッドサーマルサイクラーシステム(Roche社製)を用いて、実行した。PCRの反応条件は、初期変性48℃で15秒、変性95℃で10分、変性ーアニールー伸長を95℃で10分、60℃で1分を繰り返し回数40回とした。群のVE-カドヘリン遺伝子の発現レベルをddCt値として得た後、ハウスキーピング遺伝子であるアクチンの発現レベルを参照遺伝子として使用し、各群のVE-カドヘリン遺伝子の発現レベルを補正した。補正した後、ベニバナエキスを添加していない群(コントロール)のVE-カドヘリン遺伝子の発現レベルに対するベニバナエキスを添加した群のVE-カドヘリン遺伝子の相対的発現レベルを計算した。得られた結果に対しては、t-testによる検定(P<0.05の場合*と記載)による統計解析を行った。
【0044】
【表1】
【0045】
結果を図4に示す。ベニバナエキスを添加したHuVECにおいては、コントロールと比較して、有意にVE-カドヘリン遺伝子が上昇していた。以上、図3および4の結果から、ベニバナエキスはVE-カドヘリンの発現を増加させることが示された。
【0046】
ベニバナエキスがHuVECおける細胞内カルシウム濃度に与える影響の評価
第3~5継代HuVECを、成長因子を含むEBM-2培地で培養した。コラーゲンIでコーティングされたガラスウェルプレート(イワキ社製)に、1×10細胞/ウェルになるようにHuVECを播いた。その2日後、培養液をリンゲル液(140mMのNaCl、5mMのKCl、10mMのHEPES、2mMのCaCl、2mMのMgCl、10mMのDグルコースを含む溶液)に置換し、蛍光プローブ試薬である、5mMのFura-2-AM(Thermo Fisher Scientific Japan社製)をリンゲル液中のHuVECに30分間、37℃でロードした。このHuVECに、ベニバナエキスを0.1%または0.2%適用し、オリンパスIX83、UPLFLN10xレンズ(オリンパス社製)を用いて細胞内カルシウム濃度の経時的な変化を測定した。
【0047】
結果を図5に示す。ベニバナエキスを0.1%または0.2%適用した場合のいずれにおいても、HuVECの細胞内においてカルシウム濃度が上昇していることが観察された。したがって、ベニバナエキスは細胞内のカルシウム濃度を増加させることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5