IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SCREENホールディングスの特許一覧

特許7526765ポンプ制御パラメーターの調整方法、コンピュータープログラム、記録媒体、吐出装置および塗布装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ポンプ制御パラメーターの調整方法、コンピュータープログラム、記録媒体、吐出装置および塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/10 20060101AFI20240725BHJP
   B05C 5/02 20060101ALI20240725BHJP
   F04B 49/08 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B05C11/10
B05C5/02
F04B49/08 311
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022138994
(22)【出願日】2022-09-01
(65)【公開番号】P2024034617
(43)【公開日】2024-03-13
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】岡本 悟史
(72)【発明者】
【氏名】木村 崇也
(72)【発明者】
【氏名】安陪 裕滋
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-040046(JP,A)
【文献】中国特許第113399201(CN,B)
【文献】韓国公開特許第2012-0041729(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 11/10
B05C 5/02
F04B 49/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプで送出した処理液を、塗布位置に位置決めしたノズルから基板に向けて吐出させる吐出動作のためのポンプ制御パラメーターの調整方法であって、
前記ノズルを予備吐出位置に位置決めし、前記ポンプ制御パラメーターを仮設定して前記ポンプから前記処理液を送出し、送出される前記処理液に付与される吐出圧力の時間変化を表す吐出圧力プロファイルを取得し、取得された前記吐出圧力プロファイルが予め定められた目標プロファイルに近づくように、回帰モデルを用いた機械学習により前記ポンプ制御パラメーターを調整する調整工程と、
前記ノズルを前記塗布位置に位置決めし、前記調整工程で調整された前記ポンプ制御パラメーターに基づき前記ポンプを作動させて前記吐出動作を実行し、前記吐出圧力プロファイルを取得する工程と、
前記調整工程で調整された前記ポンプ制御パラメーターを用いて前記予備吐出位置および前記塗布位置のそれぞれで取得された、前記吐出圧力プロファイルの差分に応じたオフセット量を設定する工程と、
前記ノズルを前記予備吐出位置に位置決めし、前記ポンプ制御パラメーターを仮設定して前記ポンプから前記処理液を送出して前記吐出圧力プロファイルを取得し、取得された前記吐出圧力プロファイルに前記オフセット量を加算したプロファイルが前記目標プロファイルに近づくように、前記機械学習により前記ポンプ制御パラメーターを再調整する再調整工程と
を備える、ポンプ制御パラメーターの調整方法。
【請求項2】
前記機械学習の手法としてベイズ最適化法が用いられる、請求項1に記載のポンプ制御パラメーターの調整方法。
【請求項3】
前記調整工程では、取得された前記吐出圧力プロファイルと前記目標プロファイルとの乖離の程度を定量化したスコアが小さくなるように前記ポンプ制御パラメーターが調整される、請求項1または2に記載のポンプ制御パラメーターの調整方法。
【請求項4】
前記調整工程および前記再調整工程では、前記吐出圧力プロファイルおよび前記スコアに基づく前記ポンプ制御パラメーターの推定と、推定された前記ポンプ制御パラメーターを用いた前記吐出圧力プロファイルの取得とを反復実行する、請求項3に記載のポンプ制御パラメーターの調整方法。
【請求項5】
前記再調整工程では、取得された前記吐出圧力プロファイルに前記オフセット量を加算したプロファイルと前記目標プロファイルとの乖離の程度を定量化したスコアが小さくなるように前記ポンプ制御パラメーターが再調整される、請求項3に記載のポンプ制御パラメーターの調整方法。
【請求項6】
前記予備吐出位置と前記塗布位置とが互いに異なる、請求項1または2に記載のポンプ制御パラメーターの調整方法。
【請求項7】
前記調整工程で調整された前記ポンプ制御パラメーターを用いて前記予備吐出位置および前記塗布位置のそれぞれで取得される前記吐出圧力プロファイルの間の差分が所定の閾値より小さい場合には、前記再調整工程を行わず、そのときの前記ポンプ制御パラメーターの設定値を最適値として決定する、請求項1または2に記載のポンプ制御パラメーターの調整方法。
【請求項8】
ポンプで送出した処理液を、塗布位置に位置決めしたノズルから基板に向けて吐出させる吐出動作を実行する吐出装置を制御するコンピューターに、
前記ノズルを予備吐出位置に位置決めし、ポンプ制御パラメーターを仮設定して前記ポンプから前記処理液を送出させ、送出される前記処理液に付与される吐出圧力の時間変化を表す吐出圧力プロファイルを取得し、取得された前記吐出圧力プロファイルが予め定められた目標プロファイルに近づくように、回帰モデルを用いた機械学習により前記ポンプ制御パラメーターを調整する調整工程と、
前記ノズルを前記塗布位置に位置決めし、前記調整工程で調整された前記ポンプ制御パラメーターに基づき前記ポンプを作動させて前記吐出動作を実行し、前記吐出圧力プロファイルを取得する工程と、
前記調整工程で調整された前記ポンプ制御パラメーターを用いて前記予備吐出位置および前記塗布位置のそれぞれで取得された、前記吐出圧力プロファイルの差分に応じたオフセット量を設定する工程と、
前記ノズルを前記予備吐出位置に位置決めし、前記ポンプ制御パラメーターを仮設定して前記ポンプから前記処理液を送出させて前記吐出圧力プロファイルを取得し、取得された前記吐出圧力プロファイルに前記オフセット量を加算したプロファイルが前記目標プロファイルに近づくように、前記機械学習により前記ポンプ制御パラメーターを再調整する再調整工程と
を実行させる、コンピュータープログラム。
【請求項9】
ポンプで送出した処理液を、塗布位置に位置決めされたノズルから基板に向けて吐出させる吐出動作を実行する吐出装置を制御するコンピューターに、
前記ノズルが予備吐出位置に位置決めされた状態で、前記ポンプから送出される前記処理液に付与される吐出圧力の時間変化を表す吐出圧力プロファイルを取得する工程と、
取得された前記吐出圧力プロファイルに所定のオフセット量を加算し、加算後のプロファイルと、前記塗布位置に位置決めされた前記ノズルが理想的な吐出状態を実現するための前記吐出圧力プロファイルである目標プロファイルとの乖離の程度を定量化したスコアを算出する工程と、
回帰モデルを用いた機械学習により、前記スコアが最小となるポンプ制御パラメーターを探索する工程と
を実行させる、コンピュータープログラム。
【請求項10】
前記オフセット量は、前記ノズルが前記予備吐出位置に位置決めされて取得された前記吐出圧力プロファイルと、前記ノズルが前記塗布位置に位置決めされて取得された前記吐出圧力プロファイルとの差分に応じて設定される、請求項9に記載のコンピュータープログラム。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれかに記載のコンピュータープログラムを非一時的に記録した、コンピューター読み取り可能な記録媒体。
【請求項12】
基板に向けて処理液を吐出する吐出動作を実行する吐出装置であって、
前記処理液を吐出するノズルと、
前記ノズルに向けて前記処理液を送出するポンプと、
前記ポンプにより送出される前記処理液に付与される吐出圧力を検出する検出部と、
所定のポンプ制御パラメーターに基づき前記ポンプを制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記送出される前記処理液に付与される吐出圧力の時間変化を表す吐出圧力プロファイルを前記検出部の検出結果に基づいて求め、請求項1または2に記載のポンプ制御パラメーターの調整方法を実行して前記ポンプ制御パラメーターを最適化する、吐出装置。
【請求項13】
請求項12に記載の吐出装置と同一の構成を有する吐出部と、
前記ノズルと前記基板とを相対移動させる相対移動機構と
を備える、塗布装置。
【請求項14】
前記吐出動作に先立って前記予備吐出位置に位置決めされた前記ノズルから吐出される前記処理液を受ける液受け部を備える、請求項13に記載の塗布装置。
【請求項15】
前記液受け部は、前記予備吐出位置に位置決めされる前記ノズルの直下に配置されるローラー部材を有する、請求項14に記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、処理液に吐出圧力を与えることで処理液をノズルから吐出する技術に関する。なお、ノズルから処理液を吐出する対象物としては、例えば半導体基板、フォトマスク用基板、液晶表示用基板、有機EL表示用基板、プラズマ表示用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に示されるように、ノズルから吐出した処理液を基板に塗布する場合、処理液に与えられる吐出圧力が、基板に塗布される処理液の厚みに大きく影響する。そこで、特許文献1では、吐出圧力の波形を複数の区間に分割して、各区間での波形の傾きに基づき、吐出圧力が許容範囲であるか否かが評価される。また、特許文献2では、立ち上がり領域や定常吐出領域といった各領域について、吐出圧力に関連する制御パラメーターの最適化が図られている。つまり、特許文献1、2では、複数の区分あるいは領域のそれぞれにおいて吐出圧力の波形を評価することで、吐出圧力の高精度な評価を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-005465号公報
【文献】特開2020-040046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、吐出圧力の評価は、実際に基板を塗布する吐出動作における位置とは異なる位置(例えば、メンテナンス位置)にノズルを位置決めした状態で取得された、吐出圧力の計測結果に基づいて行われる。したがって、評価時の吐出条件と実際の吐出動作時の吐出条件とは必ずしも同じではない。特にその違いが大きい場合には、評価結果に基づいて最適化された制御パラメーターを用いて基板への塗布を行った際に、必ずしも目標特性通りの吐出が行われないという問題が生じ得る。この点において、上記従来技術には改良の余地が残されている。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、ポンプからノズルへ処理液を送出するためのポンプ制御パラメーターを、実際の吐出動作において目標通りの特性が得られるように最適化することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様は、ポンプで送出した処理液を、塗布位置に位置決めしたノズルから基板に向けて吐出させる吐出動作のためのポンプ制御パラメーターの調整方法であって、前記ノズルを予備吐出位置に位置決めし、前記ポンプ制御パラメーターを仮設定して前記ポンプから前記処理液を送出し、送出される前記処理液に付与される吐出圧力の時間変化を表す吐出圧力プロファイルを取得し、取得された前記吐出圧力プロファイルが予め定められた目標プロファイルに近づくように、回帰モデルを用いた機械学習により前記ポンプ制御パラメーターを調整する調整工程と、前記ノズルを前記塗布位置に位置決めし、前記調整工程で調整された前記ポンプ制御パラメーターに基づき前記ポンプを作動させて前記吐出動作を実行し、前記吐出圧力プロファイルを取得する工程と、前記調整工程で調整された前記ポンプ制御パラメーターを用いて前記予備吐出位置および前記塗布位置のそれぞれで取得された、前記吐出圧力プロファイルの差分に応じたオフセット量を設定する工程と、前記ノズルを前記予備吐出位置に位置決めし、前記ポンプ制御パラメーターを仮設定して前記ポンプから前記処理液を送出して前記吐出圧力プロファイルを取得し、取得された前記吐出圧力プロファイルに前記オフセット量を加算したプロファイルが前記目標プロファイルに近づくように、前記機械学習により前記ポンプ制御パラメーターを再調整する再調整工程とを備えている。
【0007】
また、本発明の他の一の態様は、基板に向けて処理液を吐出する吐出動作を実行する吐出装置であって、前記処理液を吐出するノズルと、前記ノズルと前記基板とを相対移動させる相対移動機構と、前記ノズルに向けて前記処理液を送出するポンプと、前記ポンプにより送出される前記処理液に付与される吐出圧力を検出する検出部と、所定のポンプ制御パラメーターに基づき前記ポンプを制御する制御部とを備えている。そして、前記制御部は、前記送出される前記処理液に付与される吐出圧力の時間変化を表す吐出圧力プロファイルを前記検出部の検出結果に基づいて求め、上記発明に係るポンプ制御パラメーターの調整方法を実行して前記ポンプ制御パラメーターを最適化する。
【0008】
このように構成された発明では、調整工程において、ノズルが予備吐出位置に位置決めされた状態で、仮設定されたポンプ制御パラメーターを用いた処理液の送出と、そのときの吐出圧力プロファイルの検出結果に基づくポンプ制御パラメーターの調整が行われる。これにより、このときの吐出条件でポンプ制御パラメーターが最適化される。一方、このようにして最適化されたポンプ制御パラメーターは、実際の吐出動作においても必ずしも最適とは限らない。
【0009】
そこで、本発明では、調整されたポンプ制御パラメーターを用い、ノズルを塗布位置に位置決めして吐出動作を実行し、その際に取得された吐出圧力プロファイルと目標プロファイルとの差分がオフセット量として求められる。そして、再調整工程では、ノズルが予備吐出位置に位置決めされた状態で実測された吐出圧力プロファイルにオフセット量が加算される。これにより、オフセット量が加算された状態で吐出圧力プロファイルが評価されポンプ制御パラメーターが調整されることとなり、調整工程および再調整工程における吐出条件と、実際の吐出動作における吐出条件との違いを加味した最適化が可能となる。すなわち、このような再調整工程を実行することで、実際の吐出動作における吐出圧力プロファイルを目標プロファイルに合わせ込むことができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、ポンプからノズルへ処理液を送出するためのポンプ制御パラメーターを、実際の吐出動作において目標通りの特性が得られるように最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る塗布装置の一実施形態の全体構成を模式的に示す図である。
図2】塗布液供給機構の構成を示す図である。
図3】制御ユニットの構成の一例を示すブロック図である。
図4】吐出圧力評価方法の一例を示すフローチャートである。
図5】吐出圧力の評価に用いる各期間を説明するための図である。
図6】圧力評価部が実行する演算の一例を模式的に示す図である。
図7】特徴量Fv1に基づく評価項目を説明するための図である。
図8】特徴量Fv2に基づく評価項目を説明するための図である。
図9】特徴量Fv3に基づく評価項目を説明するための図である。
図10】特徴量Fv4に基づく評価項目を説明する図である。
図11】特徴量Fv5に基づく評価項目を説明する図である。
図12】特徴量Fv6に基づく評価項目を説明するための図である。
図13】特徴量Fv7に基づく評価項目を説明するための図である。
図14】特徴量Fv8に基づく評価項目を説明するための図である。
図15】特徴量Fv9に基づく評価項目を説明するための図である。
図16】特徴量Fv10に基づく評価項目を説明するための図である。
図17】特徴量Fv11に基づく評価項目を説明するための図である。
図18】特徴量Fv12に基づく評価項目を説明するための図である。
図19】特徴量Fv13に基づく評価項目を説明するための図である。
図20】特徴量Fv14に基づく評価項目を説明するための図である。
図21】パラメーター調整処理の一例を示すフローチャートである。
図22】オフセット量の一例を示す図である。
図23】吐出圧力の評価項目の変形例で用いる各期間を説明するための図である。
図24】特徴量Fv1_1に基づく評価項目の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明に係る塗布装置の一実施形態の全体構成を模式的に示す図である。この塗布装置1は、図1の左手側から右手側に向けて水平姿勢で搬送される基板Sの上面Sfに塗布液を塗布するスリットコーターである。なお、以下の各図において装置各部の配置関係を明確にするために、基板Sの搬送方向を「X方向」とし、図1の左手側から右手側に向かう水平方向を「+X方向」と称し、逆方向を「-X方向」と称する。また、X方向と直交する水平方向Yのうち、装置の正面側から背面側へ向かう方向を「-Y方向」と称するとともに、これと反対の方向を「+Y方向」と称する。さらに、鉛直方向Zにおける上方向および下方向をそれぞれ「+Z方向」および「-Z方向」と称する。
【0013】
塗布装置1では、基板Sの搬送方向Dt(+X方向)に沿って、入力コンベア100、入力移載部2、浮上ステージ部3、出力移載部4、出力コンベア110がこの順に近接して配置されており、以下に詳述するように、これらにより略水平方向に延びる基板Sの搬送経路が形成されている。なお、以下の説明において基板Sの搬送方向Dtと関連付けて位置関係を示すとき、「基板Sの搬送方向Dtにおける上流側」を単に「上流側」と、また「基板Sの搬送方向Dtにおける下流側」を単に「下流側」と略することがある。この例では、ある基準位置から見て相対的に(-X)側が「上流側」、(+X)側が「下流側」に相当する。
【0014】
処理対象である基板Sは図1の左手側から入力コンベア100に搬入される。入力コンベア100は、コロコンベア101と、これを回転駆動する回転駆動機構102とを備えており、コロコンベア101の回転により基板Sは水平姿勢で下流側、つまり(+X)方向に搬送される。入力移載部2は、コロコンベア21と、これを回転駆動する機能および昇降させる機能を有する回転・昇降駆動機構22とを備えている。コロコンベア21が回転することで、基板Sはさらに(+X)方向に搬送される。また、コロコンベア21が昇降することで基板Sの鉛直方向Zの位置が変更される。このように構成された入力移載部2により、基板Sは入力コンベア100から浮上ステージ部3に移載される。
【0015】
浮上ステージ部3は、基板の搬送方向Dtに沿って3分割された平板状のステージを備える。すなわち、浮上ステージ部3は入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33を備えており、これらの各ステージの上面は互いに同一平面の一部をなしている。さらに、浮上ステージ部3は、リフトピン駆動機構34、浮上制御機構35および昇降駆動機構36を有する。リフトピン駆動機構34は、入口浮上ステージ31に設けられたリフトピン(図示省略)を昇降させることができる。浮上制御機構35は、基板Sを浮上させるための圧縮空気を浮上ステージ部3の各ステージに供給することができる。昇降駆動機構36は、出口浮上ステージ33を昇降させることができる。
【0016】
入口浮上ステージ31および出口浮上ステージ33のそれぞれの上面には浮上制御機構35から供給される圧縮空気を噴出する噴出孔がマトリクス状に多数設けられており、噴出される気流から付与される浮力により基板Sが浮上する。こうして基板Sの下面Sbがステージ上面から離間した状態で水平姿勢に支持される。基板Sの下面Sbとステージ上面との距離、つまり浮上量は、例えば10マイクロメートルないし500マイクロメートルとすることができる。
【0017】
一方、塗布ステージ32の上面では、圧縮空気を噴出する噴出孔と、基板Sの下面Sbとステージ上面との間の空気を吸引する吸引孔とが交互に配置されている。浮上制御機構35が噴出孔からの圧縮空気の噴出量と吸引孔からの吸引量とを制御することにより、基板Sの下面Sbと塗布ステージ32の上面との距離が精密に制御される。これにより、塗布ステージ32の上方を通過する基板Sの上面Sfの鉛直方向Zの位置が規定値に制御される。浮上ステージ部3の具体的構成としては、例えば特許第5346643号に記載のものを適用可能である。なお、塗布ステージ32での浮上量については後で詳述するセンサ61、62による検出結果に基づいて制御ユニット9により算出され、また気流制御によって高精度に調整可能となっている。
【0018】
入力移載部2を介して浮上ステージ部3に搬入される基板Sは、コロコンベア21の回転により(+X)方向への推進力を付与されて、入口浮上ステージ31上に搬送される。入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33は基板Sを浮上状態に支持するが、基板Sを水平方向に移動させる機能を有していない。浮上ステージ部3における基板Sの搬送は、入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33の下方に配置された基板搬送部5により行われる。
【0019】
基板搬送部5は、基板Sの下面周縁部に部分的に当接することで基板Sを下方から支持するチャック機構51と、チャック機構51上端の吸着部材に設けられた吸着パッド(図示省略)に負圧を与えて基板Sを吸着保持させる機能およびチャック機構51をX方向に往復走行させる機能を有する吸着・走行制御機構52とを備えている。チャック機構51が基板Sを保持した状態では、基板Sの下面Sbは浮上ステージ部3の各ステージの上面よりも高い位置に位置している。したがって、基板Sは、チャック機構51により周縁部を吸着保持されつつ、浮上ステージ部3から付与される浮力により全体として水平姿勢を維持する。なお、チャック機構51により基板Sの下面Sbを部分的に保持した段階で基板Sの上面の鉛直方向Zの位置を検出するために板厚測定用のセンサ61がコロコンベア21の近傍に配置されている。このセンサ61の直下位置に、基板Sを保持していない状態のチャック(図示省略)が位置することで、センサ61は吸着部材の上面、つまり吸着面の鉛直方向Zの位置を検出可能となっている。
【0020】
入力移載部2から浮上ステージ部3に搬入された基板Sをチャック機構51が保持し、この状態でチャック機構51が(+X)方向に移動することで、基板Sが入口浮上ステージ31の上方から塗布ステージ32の上方を経由して出口浮上ステージ33の上方へ搬送される。搬送された基板Sは、出口浮上ステージ33の(+X)側に配置された出力移載部4に受け渡される。
【0021】
出力移載部4は、コロコンベア41と、これを回転駆動する機能および昇降させる機能を有する回転・昇降駆動機構42とを備えている。コロコンベア41が回転することで、基板Sに(+X)方向への推進力が付与され、基板Sは搬送方向Dtに沿ってさらに搬送される。また、コロコンベア41が昇降することで基板Sの鉛直方向Zの位置が変更される。出力移載部4により、基板Sは出口浮上ステージ33の上方から出力コンベア110に移載される。
【0022】
出力コンベア110は、コロコンベア111と、これを回転駆動する回転駆動機構112とを備えており、コロコンベア111の回転により基板Sはさらに(+X)方向に搬送され、最終的に塗布装置1外へと払い出される。なお、入力コンベア100および出力コンベア110は塗布装置1の構成の一部として設けられてもよいが、塗布装置1とは別体のものであってもよい。また例えば、塗布装置1の上流側に設けられる別ユニットの基板払い出し機構が入力コンベア100として用いられてもよい。また、塗布装置1の下流側に設けられる別ユニットの基板受け入れ機構が出力コンベア110として用いられてもよい。
【0023】
このようにして搬送される基板Sの搬送経路上に、基板Sの上面Sfに塗布液を塗布するための塗布機構7が配置される。塗布機構7はスリット状の吐出口を有するスリットノズル(以下、単に「ノズル」という)71を有している。また、図示を省略するが、ノズル71には位置決め機構が接続されており、位置決め機構によりノズル71は塗布ステージ32の上方の塗布位置(図1中で実線で示される位置)や後で説明するメンテナンス位置に位置決めされる。さらに、ノズル71には、塗布液供給機構8が接続されており、塗布液供給機構8から塗布液が供給され、ノズル71下部に下向きに開口する吐出口から塗布液が吐出される。なお、以下において「吐出動作」というとき、当該語句は、ノズル71からの塗布液の吐出を伴う動作のうち、特にノズル71が塗布位置に位置決めされた状態で行われるものを指すものとする。
【0024】
図2は塗布液供給機構の構成を示す図である。塗布液供給機構8は、図2に示すように、塗布液をノズル71に送給するための送給源として体積変化により塗布液を送給するポンプ81を備えている。ポンプ81としては、例えば特開平10-61558号公報に記載されたベローズタイプのポンプを使用することができる。このポンプ81は、径方向に弾性膨張収縮自在の可撓性チューブ811を有している。この可撓性チューブ811の一方端は配管82により塗布液補充ユニット83と接続され、他方端は配管84によりノズル71と接続されている。
【0025】
可撓性チューブ811の外側には、軸方向に弾性変形自在のベローズ812が配置されている。このベローズ812は小型ベローズ部813と大型ベローズ部814とを有し、可撓性チューブ811とベローズ812との間のポンプ室815には非圧縮性媒体が封入されている。また、小型ベローズ部813と大型ベローズ部814との間に作動ディスク部816が設けられている。作動ディスク部816には駆動部817が接続されている。制御ユニット9からの指令に応じて駆動部817が作動すると、所定の移動パターン(時間経過に対する作動ディスク部816の速度の変化を示すパターン)で作動ディスク部816が軸方向に変位し、ベローズ812の内側の容積を変化させる。これによって、可撓性チューブ811が径方向に膨張収縮してポンプ動作を実行し、塗布液補充ユニット83から適宜補給される塗布液をノズル71に向けて送給する。このため、作動ディスク部816の移動パターンはノズル71から吐出される塗布液の吐出特性(吐出圧力の時間変化)と密接に関連しており、移動パターンに応じて所定の吐出特性が得られる。
【0026】
作動ディスク部816の移動パターンは、予め設定されているポンプ制御パラメーター(以下、単に「制御パラメーター」ということがある)に基づく動作を駆動部817が行い作動ディスク部816を移動させることにより実現される。したがって、作動ディスク部816の移動パターンを規定するのはポンプ制御パラメーターであり、ポンプ制御パラメーターが変更されれば作動ディスク部816の移動パターンも変わり、これによりノズル71から吐出される塗布液の吐出特性も変化することになる。
【0027】
塗布液補充ユニット83は塗布液を貯留する貯留タンク831を有している。この貯留タンク831は配管82によりポンプ81と接続されている。また、配管82には、開閉弁833が介挿されている。この開閉弁833は制御ユニット9からの補充指令に応じて開成し、貯留タンク831内の塗布液をポンプ81の可撓性チューブ811に補充可能とする。逆に、制御ユニット9からの補充停止指令に応じて閉成し、貯留タンク831からポンプ81の可撓性チューブ811への塗布液の補充を規制する。
【0028】
ポンプ81の出力側(図2の左手側)に接続された配管84には、開閉弁85が介挿されており、開閉弁85は制御ユニット9からの開閉指令に応じて開閉する。これによってノズル71への塗布液の送液と送液停止とを切替可能となっている。また、配管84には、圧力計86が取り付けられており、圧力計86はノズル71に送液される塗布液の圧力(吐出圧力)を検出し、その検出結果(圧力値)を制御ユニット9に出力する。
【0029】
このように塗布液供給機構8から塗布液が供給されるノズル71には、図2に示すように、基板Sの浮上高さを非接触で検知するための浮上高さ検出用のセンサ62が設置されている。このセンサ62によって、浮上した基板Sと、塗布ステージ32のステージ面の上面との離間距離を測定することが可能であり、その検出値に応じて制御ユニット9が位置決め機構(図示省略)を制御することでノズル71が下降する位置を調整する。なお、センサ62としては、光学式センサや、超音波式センサなどを用いることができる。
【0030】
図1に戻って、ノズル71に対して所定のメンテナンスを行うために、塗布機構7にはノズル洗浄待機ユニット72が設けられている。ノズル洗浄待機ユニット72は、主にローラー721、洗浄部722、バット723などを有している。そして、これらによってノズル洗浄および液だまり形成を行い、ノズル71の吐出口を次の塗布処理に適した状態に整える。具体的には、ノズル71がノズル洗浄待機ユニット72の上方の洗浄位置に位置決めされた状態で、洗浄部722がノズル71下端の吐出口およびその周辺を洗浄する。また、ノズル71がローラー721の直上の予備吐出位置に位置決めされた状態で、ノズル71からローラー721に向けて塗布液を予備的に吐出することで、吐出口の周囲に液だまりを形成する。これらの洗浄位置および予備吐出位置を含む、ノズル71が塗布ステージ32から離間した位置を総称して「メンテナンス位置」と称する。
【0031】
また、後述するように、この実施形態では、ノズル71から吐出される塗布液に付与される吐出圧力を評価し、その結果に基づいて、吐出の際におけるポンプ81の制御パラメーターの最適化を行う。この目的のために、より具体的には吐出時の吐出圧力を実測するために、ノズル71から塗布液を吐出する疑似吐出が実行される。このとき、ノズル71は予備吐出位置に位置決めされ、直下に位置するローラー721に対して吐出を行う。
【0032】
さらに、塗布装置1には、装置各部の動作を制御するための制御ユニット9(図3)が具備されている。図3は制御ユニットの構成の一例を示すブロック図である。図3に示すように、制御ユニット9は、演算部91、記憶部93およびUI(User Interface)95を備えるコンピューターである。演算部91はCPU(Central Processing Unit)などで構成されるプロセッサーであり、吐出圧力評価プログラム97を実行することで、吐出圧力の測定を実行する測定実行部911と、測定された吐出圧力を評価する圧力評価部913とを構築する。また、演算部91がパラメーター調整プログラム98を実行することで、吐出圧力の評価結果に基づきポンプ制御パラメーターを調整するパラメーター調整部915を構築する。
【0033】
記憶部93は、HDD(Hard Disk Drive)あるいはSSD(Solid State Drive)などの記憶装置であり、上記の吐出圧力評価プログラム97や、吐出圧力評価プログラム97の実行に伴って測定された吐出圧力測定データ99を記憶する。
【0034】
この吐出圧力評価プログラム97は、制御ユニット9とは別に設けられた記録媒体Mによって例えば提供される。この記録媒体Mは、吐出圧力評価プログラム97をコンピューター(制御ユニット9)によって読み出し可能に記録する。かかる記録媒体Mとしては、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリ、メモリカードあるいは外部のサーバーコンピューターの記憶装置などが挙げられる。また、UI95は、ユーザーに情報を表示するディスプレイや、ユーザーによる入力操作を受け付ける入力機器を有する。このような構成を備える制御ユニット9としては、例えばデスクトップ型、ラップトップ型あるいはタブレット型の各種のコンピューターを用いることができる。
【0035】
図4は吐出圧力評価プログラムに基づき実行される吐出圧力評価方法の一例を示すフローチャートである。ステップ101では、ノズル71がメンテナンスユニット72のローラー721の直上の予備吐出位置に位置決めされる。この状態で、予め設定された制御パラメーターでポンプ81が駆動されることにより、ノズル71からローラー721への塗布液の吐出(擬似吐出)が行われる(ステップS102)。具体的には、測定実行部911が、吐出圧力評価プログラム97に規定される制御パラメーターに基づき作動ディスク部816を移動させることで、ノズル71から塗布液を吐出させる。
【0036】
このとき、圧力計86の出力(圧力値)は、制御ユニット9の測定実行部911により所定のサンプリング周期で定期的に読み込まれる。これにより、測定実行部911は、ポンプ81から送出される塗布液に付与される吐出圧力を測定することができる。吐出圧力を測定した結果は、塗布液の送出開始時を起点とする時刻と対応付けた吐出圧力測定データ99として記憶部93に記憶される。制御ユニット9は、吐出圧力測定データ99から、吐出圧力の時間変化を示す吐出圧力プロファイルを取得することができる(ステップS103)。
【0037】
吐出圧力プロファイルについては、理想的な吐出状態を実現するために必要とされる目標プロファイルが予め定められている。具体的には、吐出圧力が、
・初期圧力Piから当該初期圧力Piより大きい目標圧力Ptまで増加する、
・吐出圧力が、目標圧力Ptで安定する、
・吐出圧力が、目標圧力Ptから初期圧力Piまで減少する、
という順で変化するように、作動ディスク部816を移動させるための制御パラメーターが吐出圧力評価プログラム97に規定されている。
【0038】
ステップS104では、取得された吐出圧力プロファイルに対し、所定のオフセット量が加算される。このオフセット量の加算は、後述するパラメーター調整処理において、上記した擬似吐出と、基板Sとの対向位置で基板Sに向けて塗布液を吐出する吐出動作との間における吐出条件の違いを補償するために行われる。それ以外の場合には、オフセット量をゼロとする、またはステップS104をスキップしてよい。
【0039】
ステップS105では、圧力評価部913が吐出圧力測定データ99が示す吐出圧力の時間変化を所定の評価項目に従って評価する。この評価項目は、後述するように、吐出圧力測定データ99が示す吐出圧力の時間変化から所定の特徴量を抽出して、この特徴量に基づき吐出圧力の時間変化を評価する。評価結果は、実測された吐出圧力プロファイルと目標プロファイルとの乖離の程度を定量化した評価値により表される。評価値は、吐出圧力測定データ99が示す吐出圧力の時間変化を評価するために用意された各種の評価項目についてそれぞれ算出される。続いて、このための各評価項目について詳述する。
【0040】
図5は吐出圧力の評価に用いる各期間を説明するための図である。図5では、横軸で時刻を表しつつ縦軸で吐出圧力を示すグラフにおいて、吐出圧力の時間変化(吐出圧力プロファイル)が模式的に示されている。なお、かかるグラフの表記は、後に示す各図においても同様である。
【0041】
図5(a)は理想的な吐出状態における吐出圧力プロファイルの例であり、これを目標プロファイルとして吐出制御が行われる。理想的な吐出状態では、吐出圧力が初期圧力Piから当該初期圧力Piより大きい目標圧力Ptまで増加した後、目標圧力Ptで安定した期間が継続する。そして、吐出圧力は、目標圧力Ptから初期圧力Piまで減少し、吐出が終了する。一方、実際の動作では、図5(b)に示すように、特に吐出圧力が変動する過渡期間において、吐出圧力プロファイルが目標プロファイルから外れることがある。このような吐出圧力プロファイルの目標プロファイルからの乖離の程度が評価される。
【0042】
この例では、ノズル71からの塗布液の吐出を開始する前からノズル71からの塗布液の吐出を終了した後に亘って(すなわち、吐出期間Ttの前後に亘って)、吐出圧力測定データ99が取得される。なお、この例では、ノズル71からの塗布液の吐出を開始する時刻taにおける吐出圧力と、ノズル71からの塗布液の吐出を終了した時刻teにおける吐出圧力とは、初期圧力Piとなっている。ただし、吐出の開始時および終了時それぞれの圧力が、常に初期圧力Piに一致するとは限らない。
【0043】
図5(b)に示すように、吐出期間Ttは、4つの期間Ta、Tb、Tc、Tdに分割することができる。立ち上がり期間Ta、遷移期間Tb、定常期間Tcおよび立ち下がり期間Tdの詳細は次の通りである。
【0044】
立ち上がり期間Taは、塗布液供給機構8がノズル71からの塗布液の吐出を開始する時刻ta(すなわち、塗布液供給機構8が作動ディスク部816の移動を開始する時刻ta)から、吐出圧力が目標圧力Ptに到達する時刻tbまでの期間である。つまり、時刻taにおいてノズル71からの塗布液の吐出が開始されると、吐出圧力は、時刻taから時刻tbまでの間に、初期圧力Piから目標圧力Ptまで増加する。
【0045】
遷移期間Tbは、時刻tbから、所定の振動減衰期間を経過する時刻tcまでの期間である。この振動減衰期間は、吐出圧力の時間変化が安定するのに要する期間であり、例えばユーザーによるUI95への入力操作によって設定されて、記憶部93に記憶されている。
【0046】
定常期間Tcは、時刻tcから、塗布液供給機構8が吐出圧力の減少を開始する時刻td(すなわち、塗布液供給機構8が作動ディスク部816の目標速度からの減速を開始する時刻td)までの期間である。つまり、塗布液供給機構8は、時刻tcから時刻tdまでの間、作動ディスク部816を等速で移動させ、時刻tdに作動ディスク部816の減速を開始する。なお、定常期間Tcにおいて、吐出圧力は基本的に目標圧力Ptで安定する。ただし、定常期間Tcにおいても、吐出圧力の時間変化は微小な振動を含んでおり、吐出圧力は、目標圧力Ptより大きくなったり小さくなったりする。
【0047】
また、遷移期間Tbと定常期間Tcとで定圧期間Tbcが構成される。つまり、定圧期間Tbcは、時刻tbから時刻tdの間の期間となる。
【0048】
立ち下がり期間Tdは、時刻tdから、塗布液供給機構8がノズル71からの塗布液の吐出を終了する時刻te(すなわち、塗布液供給機構8が作動ディスク部816を停止させる時刻te)までの期間である。つまり、吐出圧力は、時刻tdから時刻teまでの間に初期圧力Piまで減少し、時刻teにおいて、ノズル71からの塗布液の吐出が停止する。
【0049】
図6は吐出圧力の時間変化に対して圧力評価部が実行する演算の一例を模式的に示す図である。図6に示すように、圧力評価部913は、吐出圧力の時間変化を時間で微分することで、吐出圧力の時間変化の1回微分D1を算出する。さらに、圧力評価部913は、吐出圧力の時間変化の1回微分D1を時間で微分することで、吐出圧力の時間変化の2回微分D2を算出する。また、圧力評価部913は、次の各式
MAE(α、β)=(1/n)・(Σ|α-β|)
RMSE(α、β)=((1/n)・(Σ(α-β)))1/2
n=データ数
に基づき、平均絶対誤差MAEおよび二乗平均平方根誤差RMSEを算出する。
【0050】
図7は特徴量Fv1に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図7の評価項目は、定常期間Tcにおける吐出圧力の平均値(すなわち定常圧力Pm)と初期圧力Piとの差に相当する振幅を有する台形波形と、吐出圧力測定データ99との誤差(理想台形絶対誤差)に基づき、吐出圧力測定データ99が示す吐出圧力の時間変化を評価する。
【0051】
具体的には、立ち上がり期間Taのうち、所定の下側基準圧力と、当該下側基準圧力より大きい所定の上側基準圧力との間における吐出圧力の時間変化に対して線形回帰分析が実行されて、立ち上がり回帰直線Lr_Rが算出される。この立ち上がり回帰直線Lr_Rは、時刻t11から時刻t12の間で、初期圧力Piから定常圧力Pmまで線形に増加する。
【0052】
同様に、立ち下がり期間Tdのうち、上側基準圧力と下側基準圧力との間における吐出圧力の時間変化に対して線形回帰分析が実行されて、立ち下がり回帰直線Lr_Fが算出される。この立ち下がり回帰直線Lr_Fは、時刻t13から時刻t14の間で、定常圧力Pmから初期圧力Piまで線形に減少する。
【0053】
なお、下側基準圧力および上側基準圧力は、初期圧力Piより大きくて目標圧力Ptより小さい圧力であり、例えばユーザーによるUI95への入力操作によって設定されて、記憶部93に記憶されている。ここの例では、下側基準圧力は、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の20%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、上側基準圧力は、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の80%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力である。
【0054】
また、時刻taから時刻t11までの区間に対して、開始時近似直線Lr_sが設定される。この開始時近似直線Lr_sは、初期圧力Piを示す傾きがゼロの直線である。つまり、開始時近似直線Lr_sは、ノズル71からの塗布液の吐出開始時点(時刻ta)から、立ち上がり回帰直線Lr_Rの開始時点までを接続する直線である。なお、回帰直線の状態(傾き)によっては、時刻t11は時刻taより前になることがあり、時刻t12は時刻tbより後になることもある。その結果、t11<taとなる場合には、開始時近似直線Lr_sは省略される。
【0055】
また、時刻t14から時刻teまでの区間に対して、終了時近似直線Lr_eが設定される。この終了時近似直線Lr_eは、初期圧力Piを示す傾きがゼロの直線である。つまり、終了時近似直線Lr_eは、立ち下がり回帰直線Lr_Fの終了時点から、ノズル71からの塗布液の吐出終了時点(時刻te)までを接続する直線である。なお、te<t14となる場合には、終了時近似直線Lr_eは省略される。
【0056】
さらに、時刻t12から時刻t13の区間に対して、定常直線Lr_mが設定される。この定常直線Lr_mは、定常圧力Pmを示す傾きがゼロの直線である。つまり、定常直線Lr_mは、立ち上がり回帰直線Lr_Rの終了時点(時刻t12)と立ち下がり回帰直線Lr_Fの開始時点(時刻t13)とを接続する、定常圧力Pmを示す直線である。
【0057】
こうして、時系列で配列された開始時近似直線Lr_s、立ち上がり回帰直線Lr_R、定常直線Lr_m、立ち下がり回帰直線Lr_Fおよび終了時近似直線Lr_eで構成された近似波形WF1が算出される。そして、圧力評価部913は、時刻taから時刻teまでの吐出期間Ttの全体において、吐出圧力測定データ99と近似波形WF1との間の平均絶対誤差MAE(理想台形絶対誤差)を、特徴量Fv1として算出する。また、圧力評価部913は、所定の閾値Th1(例えば、0.05)に基づき、特徴量Fv1を0以上で2以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv1<Th1であるなら、Fv1=0
Fv1≧Th1であるなら、Fv1=(Fv1+1-Th1)×c1
に基づき、特徴量Fv1を、規格化された特徴量Fv1(すなわち、評価値V1)に変換する。ここで、係数c1は規格化係数であり、特徴量Fv1が2以下の範囲に収まる値(例えば、15)に予め設定されている。
【0058】
図7の特徴量Fv1に基づく評価によれば、吐出期間Ttの全体における吐出圧力の時間変化が理想的な形状(すなわち、台形形状)から大きく乖離する場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0059】
図8は特徴量Fv2に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図8の評価項目は、吐出圧力の立ち上がりの滑らかさを評価する。具体的には、立ち上がり期間Taのうち、下側基準圧力P2_lと、当該下側基準圧力P2_lより大きい上側基準圧力P2_uとの間における吐出圧力の時間変化に対して曲線回帰分析が実行されて、立ち上がり回帰曲線Nrが算出される。この曲線回帰分析は二次曲線によって実行される。
【0060】
下側基準圧力P2_lは初期圧力Piに設定される。一方、上側基準圧力P2_uは、下側基準圧力P2_lより大きくて目標圧力Ptより小さい圧力であり、例えばユーザーによるUI95への入力操作によって設定されて、記憶部93に記憶されている。ここの例では、上側基準圧力P2_uは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の20%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力である。この立ち上がり回帰曲線Nrは、時刻t21から時刻t22の間で、下側基準圧力P2_l(初期圧力Pi)から上側基準圧力P2_uまで増加する。なお、時刻t21は時刻taに一致し、時刻t22は時刻taより後で時刻tbより前の時刻である。
【0061】
こうして、立ち上がり回帰曲線Nrで構成された波形WF2が算出される。そして、圧力評価部913は、時刻t21ら時刻t22までの立ち上がり初期期間Ta_sにおいて、吐出圧力測定データ99と波形WF2との間の二乗平均平方根誤差RMSEを、特徴量Fv2として算出する。また、圧力評価部913は、所定の閾値Th2(例えば、0.05)に基づき、特徴量Fv2を0以上で2以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv2<Th2であるなら、Fv2=0
Fv2≧Th2であるなら、Fv2=2
に基づき、特徴量Fv2を、規格化された特徴量Fv2(すなわち、評価値V2)に変換する。
【0062】
図8の特徴量Fv2に基づく評価によれば、ノズル71からの塗布液の吐出開始前の状態の影響を受けて、吐出開始直後の吐出圧力に異常が発生した場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。なお、曲線回帰分析に使用可能な曲線は二次曲線に限られず、指数関数などの別の曲線でもよい。
【0063】
図9は特徴量Fv3に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図9の評価項目は、立ち上がり期間Taが一定期間内に収まっているかを評価する。具体的には、圧力評価部913は、初期圧力Piから目標圧力Ptへ吐出圧力が増大するのに要する時刻taから時刻tbまでの立ち上がり期間Taの長さ(=tb-ta)を特徴量Fv3として算出する。また、圧力評価部913は、所定の閾値Th3(例えば、350ms)に基づき、特徴量Fv3を0以上で1以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv3<Th3であるなら、Fv3=0
Fv3≧Th3であるなら、Fv2=1
に基づき、特徴量Fv3を、規格化された特徴量Fv3(すなわち、評価値V3)に変換する。
【0064】
図9の特徴量Fv3に基づく評価によれば、目標圧力Ptまでの立ち上がりに時間を要する吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0065】
図10は特徴量Fv4に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明する図である。より具体的には、図10(a)は吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図であり、図10(b)は特徴量Fv4に基づく評価によって不適正と判断される吐出圧力の時間変化の例を示す図である。図10(a)の評価項目は、吐出圧力の立ち上がりにおける異常の有無を評価する。具体的には、圧力評価部913は、時刻taから時刻tbまでの立ち上がり期間Taについて、吐出圧力の時間変化の1回微分D1を算出して、1回微分波形WF4を求める。
【0066】
そして、圧力評価部913は、立ち上がり期間Taにおいて、1回微分波形WF4が、所定の閾値Th4と交差する回数を、特徴量Fv4として求める。図10(a)の例では、1回微分波形WF4と閾値Th4(例えば、0.002)とは、時刻t41および時刻t42のそれぞれで交差しており、交差回数(特徴量Fv4)は2回となる。また、圧力評価部913は、特徴量Fv4を0以上で1以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv4≦2であるなら、Fv4=0
Fv4>2であるなら、Fv4=1
に基づき、特徴量Fv4を、規格化された特徴量Fv4(すなわち、評価値V4)に変換する。
【0067】
図10(a)の特徴量Fv4に基づく評価によれば、立ち上がり期間Taにおける吐出圧力の時間変化に段が生じた場合に(例えば、図10(b)に示すように)、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0068】
図11は特徴量Fv5に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明する図である。より具体的には、図11(a)は吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図であり、図11(b)は特徴量Fv5に基づく評価によって不適正と判断される吐出圧力の時間変化の例を示す図である。図11(a)の評価項目は、吐出圧力の立ち上がりにおける異常の有無を評価する。具体的には、圧力評価部913は、時刻taから時刻tbまでの立ち上がり期間Taについて、吐出圧力の時間変化の2回微分D2を算出して、2回微分波形WF5を求める。
【0069】
そして、圧力評価部913は、立ち上がり期間Taにおいて、2回微分波形WF5の絶対値が、所定の閾値Th5と交差する回数を、特徴量Fv5として求める。図11(a)の例では、2回微分波形WF5の絶対値と閾値Th5(例えば、0.0002)とは、時刻t51、t52、t53およびt54のそれぞれで交差しており、交差回数(特徴量Fv5)は4回となる。また、圧力評価部913は、特徴量Fv5を0以上で1以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv5=4であるなら、Fv5=0
Fv5≠4であるなら、Fv5=1
に基づき、特徴量Fv5を、規格化された特徴量Fv5(すなわち、評価値V5)に変換する。
【0070】
図11(a)の特徴量Fv5に基づく評価によれば、立ち上がり期間Taにおける吐出圧力の時間変化に段が生じた場合に(例えば、図11(b)に示すように)、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0071】
図12は特徴量Fv6に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図12の評価項目は、吐出圧力の立ち上がりが後半において失速していないかを評価する。具体的には、圧力評価部913は、時刻taから時刻tbまでの立ち上がり期間Taについて、吐出圧力の時間変化の2回微分D2を算出して、2回微分波形WF6を求める。
【0072】
そして、圧力評価部913は、立ち上がり期間Taにおいて、2回微分波形WF6が、所定の正の閾値(Th5)より大きくなる時間T_1stと、2回微分波形WF6が所定の負の閾値(-Th5)より小さくなる時間T_2ndとをそれぞれ求める。ここで、正の閾値と負の閾値とは、同一の絶対値(Th5)を有して、互いに異なる符号を有する。かかる正および負の閾値の絶対値(Th5)は、上記の特徴量Fv5による評価で用いた閾値Th5のそれと等しい。そして、圧力評価部913は、これらの時間の比(=T_1st/T_2nd)を、特徴量Fv6として求める。さらに、圧力評価部913は、次式
Fv6=|1-Fv6|
に基づき、特徴量Fv6を変換する。
【0073】
また、圧力評価部913は、こうして変換された特徴量Fv6を、所定の閾値Th6(例えば、0.2)を用いて、0以上で2以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv6<Th6であるなら、Fv6=0
Fv6≧Th6であるなら、Fv6=f(Fv6)
f(γ)=4×γ-0.8
に基づき、特徴量Fv6を、規格化された特徴量Fv6(すなわち、評価値V6)に変換する。なお、γを変数とする関数f(γ)は、ここの例に限られず、任意に変更できる。
【0074】
塗布液の塗布対象となる基板Sの搬送速度は、加速期間の後半においても失速することなく目標速度に到達する。したがって、塗布液に与えられる吐出圧力も立ち上がり期間Taにおいて失速することなく、目標圧力Ptに到達することが好適となる。これに対して、図12の特徴量Fv6に基づく評価によれば、立ち上がり期間Taにおいて吐出圧力が失速した場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0075】
図13は特徴量Fv7に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図13の評価項目は、立ち上がりの終了時における吐出圧力の時間変化の鋭さを評価する。具体的には、立ち上がり期間Taのうち、下側基準圧力P7_lと、当該下側基準圧力P7_lより大きい上側基準圧力P7_uとの間における吐出圧力の時間変化に対して直線回帰分析が実行されて、立ち上がり終期回帰直線Lrが算出される。ここで、下側基準圧力P7_lは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の80%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、上側基準圧力P7_uは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の90%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、吐出圧力は、時刻t71から時刻t72までの間に、下側基準圧力P7_lから上側基準圧力P7_uへ増大する。
【0076】
この立ち上がり終期回帰直線Lrは、時間経過に伴って増大して、時刻t73において定常圧力Pm(定常期間Tcにおける吐出圧力の平均値)に到達する。こうして、時刻t71から時刻t73の区間に対して、立ち上がり終期回帰直線Lrが設定される。さらに、圧力評価部913は、時刻t73から時刻tbまでの間において定常圧力Pmを示す傾きがゼロの延設直線Lmを設定する。上述の通り、時刻tbは、吐出圧力が目標圧力Ptに到達する時刻であり、立ち上がり期間Taの終了時刻に相当する。つまり、この延設直線Lmは、立ち上がり終期回帰直線Lr(の終了時点)から立ち上がり期間Taの終了時点まで延設するように設けられる。なお、tb<t73の場合には、延設直線Lmは省略される。
【0077】
こうして、時系列で配列された立ち上がり終期回帰直線Lrおよび延設直線Lmで構成された近似波形WF7が算出される。そして、圧力評価部913は、吐出圧力が目標圧力Ptの90%となる時刻t72から100%となる時刻tbまでの立ち上がり終期期間Ta_eにおいて、吐出圧力測定データ99と近似波形WF7との間の差を示す値を、特徴量Fv7として算出する。具体的には、重み基準時間幅Tw=t73-t72が設定される。そして、重み付き二乗平方根誤差和が、次式
Fv7=(Σ(P_measure-WF7)×W)1/2
P_measure=吐出圧力測定データ99
時刻tb≦t73+2×Twの範囲でW=1
時刻tb>t73+2×Twの範囲でW=w
wは1より大きい重み係数であり、例えば10である
に基づき算出される。
【0078】
また、圧力評価部913は、所定の閾値Th7(例えば、0.6)に基づき、特徴量Fv7を0以上で2以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv7<Th7であるなら、Fv7=0
Fv7≧Th7であるなら、Fv7=Fv7/c7
c7は任意の正の定数であり、例えば1.1である
に基づき、特徴量Fv7を、規格化された特徴量Fv7(すなわち、評価値V7)に変換する。
【0079】
図13の特徴量Fv7に基づく評価によれば、立ち上がりの勢いが弱く丸みを帯びた波形を吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0080】
図14は特徴量Fv8に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図14の評価項目は、吐出圧力の立ち上がりに発生するオーバーシュートの程度を評価する。具体的には、圧力評価部913は、吐出圧力が最大値Pmaxに達した時刻t81において、吐出圧力の2回微分D2の符号(正/負)を求める。そして、圧力評価部913は、吐出圧力の2回微分D2の符号が、時刻t81での符号から2回切り替わる時刻t82を算出する。そして、時刻t81から時刻t82までの初期振動期間Tb_sにおける吐出圧力の時間変化が評価される。
【0081】
具体的には、この初期振動期間Tb_sにおける吐出圧力の時間変化の最小値P8minが求められて、定常圧力Pmおよび圧力P8minのうち、小さい方の圧力が、対象圧力Pgに選択される。そして、最大圧力Pmaxと対象圧力Pgとの差、すなわち次式
Fv8=Pmax-Pg
に基づき、特徴量Fv8が算出される。
【0082】
さらに、圧力評価部913は、所定の閾値Th8(例えば、0.035)を用いて、特徴量Fv8を0以上で2以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv8<Th8であるなら、Fv8=0
Fv8≧Th8であるなら、Fv8=Fv8/c8
c8は任意の正の定数であり、例えば0.12である
に基づき、特徴量Fv8を、規格化された特徴量Fv8(すなわち、評価値V8)に変換する。
【0083】
図14の特徴量Fv8に基づく評価によれば、立ち上がりの勢いが強く、大きなオーバーシュートを吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0084】
図15は特徴量Fv9に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図15の評価項目は、遷移期間Tbにおける吐出圧力の時間変化の安定度を評価する。具体的には、圧力評価部913は、遷移期間Tbにおける吐出圧力と、定常期間Tcにおける吐出圧力の平均値である定常圧力Pmとについて、次式
Fv9=RMSE(P_measure,Pm)
P_measure=吐出圧力測定データ99
に基づき、二乗平均平方根誤差RMSE(P_measure,Pm)を特徴量Fv9として算出する。
【0085】
さらに、圧力評価部913は、特徴量Fv9を0以上で2以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv9=Fv9/c9
c9は任意の正の定数であり、例えば0.04である
に基づき、特徴量Fv9を、規格化された特徴量Fv9(すなわち、評価値V9)に変換する。
【0086】
図15の特徴量Fv9に基づく評価によれば、遷移期間Tbにおけるリンギングを吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0087】
図16は特徴量Fv10に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図16の評価項目は、定圧期間Tbcにおける吐出圧力の時間変化の安定度を評価する。具体的には、圧力評価部913は、定圧期間Tbcにおいて、吐出圧力の最大値Pmaxと最小値P10minとを求める。そして、圧力評価部913は、定圧期間Tbcにおける最大圧力Pmaxと最小圧力P10minとの差、すなわち次式
Fv10=Pmax-P10min
に基づき、特徴量Fv10を算出する。
【0088】
さらに、圧力評価部913は、閾値Th10(例えば、0.12)を用いて、特徴量Fv10を0以上で2以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv10<Th10であるなら、Fv10=0
Fv10≧Th10であるなら、Fv10=Fv10/Th10
に基づき、特徴量Fv10を、規格化された特徴量Fv10(すなわち、評価値V10)に変換する。
【0089】
図16の特徴量Fv10に基づく評価によれば、塗布液の膜厚に影響の大きな定常期間Tcにおいて大きなばらつきを吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0090】
図17は特徴量Fv11に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図17の評価項目は、立ち上がり期間Taにおける吐出圧力の時間変化の真直度を評価する。具体的には、立ち上がり期間Taにおいて、吐出圧力が下側基準圧力P11_lになる時刻t111から、吐出圧力が当該下側基準圧力P11_lより大きい上側基準圧力P11_uになる時刻t113までの圧力上昇期間Tarが求められる。ここで、下側基準圧力P11_lは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の20%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、上側基準圧力P11_uは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の80%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、吐出圧力は、時刻t111から時刻t113までの間に、下側基準圧力P11_lから上側基準圧力P11_uへ増大する。
【0091】
さらに、圧力評価部913は、下側基準圧力P11_lと上側基準圧力P11_uとの間における吐出圧力測定データ99のうちから、所定条件を満たす特定データDmを求める。かかる所定条件について、次に詳述する。
【0092】
吐出圧力測定データ99のうちから、下側基準圧力P11_lと上側基準圧力P11_uとの間の一の測定データを、候補データDcとして選択する。そして、下側基準圧力P11_lを示す測定データDlと候補データDcとの間の吐出圧力の時間変化に対して線形回帰分析を行って求めた回帰直線を近似直線Lr_1とする。また、上側基準圧力P11_uを示す測定データDuと候補データDcとの間の吐出圧力の時間変化に対して線形回帰分析を行って求めた回帰直線を近似直線Lr_2とする。さらに、測定データDlと候補データDcとの間の区間において、吐出圧力の時間変化と近似直線Lr_1との二乗平均平方根誤差RMSE(P_measure,Lr1)が求められる。同様に、候補データDcと測定データDuとの間の区間において、吐出圧力の時間変化と近似直線Lr_2との二乗平均平方根誤差RMSE(P_measure,Lr2)が求められる。ここで、P_measureは、吐出圧力測定データ99を示す。
【0093】
さらに、これらの和が次式
Er=RMSE(P_measure,Lr1)+RMSE(P_measure,Lr2)
に基づき求められる。そして、吐出圧力測定データ99のうち、和Erが最小となる候補データDcが、特定データDmとして特定される。
【0094】
そして、特定データDmについて求められる上記の近似直線Lr_1および近似直線Lr_2それぞれの傾きをK1およびK2として、特徴量Fv11が、次式
K1>K2であるなら、Fv11=1-K1/K2
K1≦K2であるなら、Fv11=1-K2/K1
に基づき算出される。
【0095】
また、圧力評価部913は、所定の閾値Th11(例えば、0.25)に基づき、特徴量Fv11を0以上で1以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv11<Th11であるなら、Fv11=0
Fv11≧Th11であるなら、Fv11=f(Fv11)
f(γ)=4×γ-1
に基づき、特徴量Fv11を、規格化された特徴量Fv11(すなわち、評価値V11)に変換する。なお、γを変数とする関数f(γ)は、ここの例に限られず、任意に変更できる。
【0096】
図17の特徴量Fv11に基づく評価によれば、立ち上がり期間Taにおいて真直性の悪い時間変化を吐出圧力が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0097】
図18は特徴量Fv12に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図18の評価項目は、立ち上がりの終了時における吐出圧力の時間変化の鋭さを評価する。具体的には、立ち上がり期間Taのうち、下側基準圧力P12_lと、当該下側基準圧力P12_lより大きい上側基準圧力P12_uとの間における吐出圧力の時間変化に対して直線回帰分析が実行されて、立ち上がり終期回帰直線Lrが算出される。ここで、下側基準圧力P12_lは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の70%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、上側基準圧力P12_uは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の90%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、吐出圧力は、時刻t121から時刻t122までの間に、下側基準圧力P12_lから上側基準圧力P12_uへ増大する。
【0098】
この立ち上がり終期回帰直線Lrは、時間経過に伴って増大して、時刻t123において目標圧力Ptに到達する。こうして、時刻t121から時刻t123の区間に対して、立ち上がり終期回帰直線Lrが設定される。さらに、圧力評価部913は、時刻t123から時刻tbまでの間において目標圧力Ptを示す傾きがゼロの延設直線Lmを設定する。上述の通り、時刻tbは、吐出圧力が目標圧力Ptに到達する時刻であり、立ち上がり期間Taの終了時刻に相当する。つまり、この延設直線Lmは、立ち上がり終期回帰直線Lr(の終了時点)から立ち上がり期間Taの終了時点まで延設するように設けられる。なお、tb<t123の場合には、延設直線Lmは省略される。
【0099】
こうして、時系列で配列された立ち上がり終期回帰直線Lrおよび延設直線Lmで構成された近似波形WF12が算出される。そして、圧力評価部913は、吐出圧力が目標圧力Ptの90%となる時刻t122から100%となる時刻tbまでの立ち上がり終期期間Ta_eにおいて、吐出圧力測定データ99と近似波形WF12との間の差を示す値を、特徴量Fv12として算出する。具体的には、二乗平方根誤差和を次式
Fv12=(Σ(P_measure-WF12)1/2
P_measure=吐出圧力測定データ99
に基づき算出する。
【0100】
また、圧力評価部913は、所定の閾値Th12(例えば、0.8)に基づき、特徴量Fv12を0以上で1以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv12<Th12であるなら、Fv12=0
Fv12≧Th12であるなら、Fv12=f(Fv12)
f(γ)=5×γ-4
に基づき、特徴量Fv12を、規格化された特徴量Fv12(すなわち、評価値V12)に変換する。なお、γを変数とする関数f(γ)は、ここの例に限られず、任意に変更できる。
【0101】
図18の特徴量Fv12に基づく評価によれば、立ち上がりの勢いが弱く、大局的に見て丸みを帯びた波形を吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0102】
図19は特徴量Fv13に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図19の評価項目は、立ち上がりの終了時における吐出圧力の時間変化の鋭さを評価する。具体的には、立ち上がり期間Taのうち、下側基準圧力P13_lと、当該下側基準圧力P13_lより大きい上側基準圧力P13_uとの間における吐出圧力の時間変化に対して直線回帰分析が実行されて、立ち上がり終期回帰直線Lrが算出される。ここで、下側基準圧力P13_lは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の90%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、上側基準圧力P13_uは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の95%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、吐出圧力は、時刻t131から時刻t132までの間に、下側基準圧力P13_lから上側基準圧力P13_uへ増大する。
【0103】
この立ち上がり終期回帰直線Lrは、時間経過に伴って増大して、時刻t133において目標圧力Ptに到達する。こうして、時刻t131から時刻t133の区間に対して、立ち上がり終期回帰直線Lrが設定される。さらに、圧力評価部913は、時刻t133から時刻tbまでの間において目標圧力Ptを示す傾きがゼロの延設直線Lmを設定する。上述の通り、時刻tbは、吐出圧力が目標圧力Ptに到達する時刻であり、立ち上がり期間Taの終了時刻に相当する。つまり、この延設直線Lmは、立ち上がり終期回帰直線Lr(の終了時点)から立ち上がり期間Taの終了時点まで延設するように設けられる。なお、tb<t133の場合には、延設直線Lmは省略される。
【0104】
こうして、時系列で配列された立ち上がり終期回帰直線Lrおよび延設直線Lmで構成された近似波形WF13が算出される。そして、圧力評価部913は、吐出圧力が目標圧力Ptの95%となる時刻t132から100%となる時刻tbまでの立ち上がり終期期間Ta_eにおいて、吐出圧力測定データ99と近似波形WF13との間の差を示す値を、特徴量Fv13として算出する。具体的には、二乗平方根誤差和を次式
Fv13=(Σ(P_measure-WF13)1/2
P_measure=吐出圧力測定データ99
に基づき算出する。
【0105】
また、圧力評価部913は、所定の閾値Th13(例えば、0.1)に基づき、特徴量Fv13を0以上で1以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv13<Th13であるなら、Fv13=0
Fv13≧Th13であるなら、Fv13=f(Fv13)
f(γ)=(10×γ-1)/3
に基づき、特徴量Fv13を、規格化された特徴量Fv13(すなわち、評価値V13)に変換する。なお、γを変数とする関数f(γ)は、ここの例に限られず、任意に変更できる。
【0106】
図19の特徴量Fv13に基づく評価によれば、立ち上がりの勢いが弱く、局所的に見て丸みを帯びた波形を吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0107】
図20は特徴量Fv14に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図20の評価項目は、吐出圧力の立ち上がりに発生するオーバーシュートの程度を評価する。具体的には、圧力評価部913は、吐出圧力が最大値Pmaxに達した時刻t141において、吐出圧力の2回微分D2の符号(正/負)を求める。そして、圧力評価部913は、吐出圧力の2回微分D2の符号が、時刻t141での符号から2回切り替わる時刻t142を算出する。そして、時刻t141から時刻t142までの初期振動期間Tb_sにおける吐出圧力の時間変化が評価される。
【0108】
具体的には、この初期振動期間Tb_sにおける吐出圧力の時間変化の最小値P14minが求められる。そして、最大圧力Pmaxと定常圧力Pmとの差を次式
OVER=Pmax-Pm
に基づき算出し、定常圧力Pmと最小圧力P14minとの差を次式
UNDER=Pm-P14min
に基づき算出する。そして、OVERとUNDERとの和、すなわち次式
Fv14=OVER+UNDER
に基づき、特徴量Fv14が算出される。
【0109】
さらに、圧力評価部913は、所定の閾値Th14(例えば、0.01)を用いて、特徴量Fv14を0以上で1以下の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv14<Th14であるなら、Fv14=0
Fv14≧Th14であるなら、Fv14=f(Fv14)
f(γ)=(100×γ-1)/9
に基づき、特徴量Fv14を、規格化された特徴量Fv14(すなわち、評価値V14)に変換する。
【0110】
図20の特徴量Fv14に基づく評価によれば、オーバーシュートした点とリングバッ(急激な立ち上がりの後に反動で圧力が下がる現象)した点のそれぞれについて、目標圧力Ptからの誤差を算出している。そのため、大きなオーバーシュートやリングバックを吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0111】
以上が、吐出圧力の時間変化を評価するために使用できる各評価項目と、各評価項目で抽出される特徴量Fv1~Fv14や評価値V1~V14の説明である。このように、種々の評価項目について、実測された吐出圧力プロファイルと濃度プロファイルとの乖離の程度を定量的に表す評価値V1~V14が求められる。各評価値V1~V14では、実測結果が目標プロファイルに近いほど小さなスコアが与えられる一方、目標プロファイルからの乖離が大きくなるとスコアは大きくなる。このように、実測された吐出圧力プロファイルと濃度プロファイルとの乖離の程度は、乖離が大きいほどスコアが大きくなる評価値により定量的に表される。
【0112】
次に、評価結果に基づくポンプ制御パラメーターの最適化処理について説明する。ここまで説明してきた評価方法により、現在設定されている制御パラメーターを用いて吐出を行った際の吐出圧力プロファイルが、どの程度目標プロファイルに近いか(あるいは乖離しているか)が定量的に示される。実際に基板Sに塗布液を塗布する際の吐出動作においては、吐出圧力プロファイルが目標プロファイルにできるだけ近くなるように、制御パラメーターが設定される必要がある。
【0113】
したがって、単に評価を行うだけでなく、評価結果に基づき必要であれば制御パラメーターの変更設定を行って、吐出圧力プロファイルを目標プロファイルに近づける必要がある。制御ユニット9では、演算部91がパラメーター調整プログラム98を実行することで、吐出圧力プロファイルを目標プロファイルに近づけるように制御パラメーターを調整する。なお、制御パラメーターとしては1種類でもよく、また複数種類であってもよい。
【0114】
図21はパラメーター調整プログラムに基づき実行されるパラメーター調整処理の一例を示すフローチャートである。ステップS201では初期化処理が実行される。より具体的には、初期化処理では、オフセット量がゼロに設定される。また、ポンプ制御パラメーターが適宜の初期値に設定される。この制御パラメーターの初期値については、予めデフォルト値として用意されたものでもよく、また例えば、過去の吐出動作において最後に使用された設定値であってもよい。また、これらの値にランダムな値を加えて意図的に最適値から遠ざけるような設定としてもよい。
【0115】
ステップS202では、前記した吐出圧力評価処理(図4)が実行される。すなわち、ノズル71が予備吐出位置に位置決めされ(ステップS101)、設定された制御パラメーターを用いた擬似吐出が行われ(ステップS102)、そのときの吐出圧力プロファイルが取得される(ステップS103)。オフセット量はゼロに初期設定されているためステップS104は実質的にスキップされ、取得された吐出圧力プロファイルが評価されて(ステップS105)、評価値V1~V14が求められる。各評価値V1~V14のスコアについては、それが得られた制御パラメーターの設定値と関連付けて記憶部93に記憶される。
【0116】
そして、これらの評価値V1~V14により表されるスコアが所定の閾値未満であるか否かが判定される(ステップS203)。ここで、スコアの評価については、評価値V1~V14のそれぞれに対して個別に設定された閾値に基づき行われてもよい。また、これらの評価値V1~V14のスコアを適宜の演算式に当てはめて単一のまたはいくつかに集約されたスコアを求め、それを閾値と比較する態様でもよい。
【0117】
取得された吐出圧力プロファイルが目標プロファイルに十分に近いものである場合、スコアは小さくなる。一方、吐出圧力プロファイルと目標プロファイルとの乖離が大きければスコアは大きくなる。したがって、ステップS203においてNO、つまり吐出圧力プロファイルと目標プロファイルとの乖離が許容される範囲を超えて大きいと判断された場合には、スコアが最小となるような制御パラメーターが探索される(ステップS204)。
【0118】
このときの制御パラメーターの探索には、過去に設定された制御パラメーターとそれにより得られるスコアとの関係から、より小さなスコアを得られる制御パラメーターを推定することのできる、適宜の機械学習アルゴリズムを適用することができる。本実施形態の目的からは、回帰モデルを用いた機械学習アルゴリズムが好ましく、例えばベイズ最適化法を好適に適用可能である。
【0119】
ベイズ最適化法は公知であるためここでは詳しい説明を省略するが、本実施形態への適用では、これまでに得られている制御パラメーターとスコアとの関係に基づき、よりスコアが小さくなるような制御パラメーターの値が探索され、最終的にはスコアが最小となる蓋然性が高いと推定される制御パラメーターの値が出力される。
【0120】
こうして推定された値を新たな制御パラメーターとして変更設定し(ステップS205)、ステップS202に戻って再び吐出圧力評価処理が実行される。スコアが閾値を下回る(ステップS203においてYES)、つまり吐出圧力プロファイルと目標プロファイルとの乖離が許容範囲内に収まるまで、上記の処理が繰り返される。これにより、擬似吐出における吐出圧力プロファイルについては、目標プロファイルに十分近い状態を現出することができる。すなわち、擬似吐出における吐出圧力プロファイルが目標プロファイルに十分近くなるように、制御パラメーターを調整することができる。
【0121】
スコアが閾値を下回ったときに実行されるステップS206では、所定の処理終了条件が満たされていればステップS212へジャンプし、そのときの制御パラメーターの設定値が最適値として決定される。処理終了条件については後述するが、この時点では処理終了条件は満足されていないものとする。
【0122】
ところで、ノズル71が予備吐出位置に位置決めされて実行される擬似吐出と、ノズル71が塗布ステージ32上を搬送される基板Sの上面Sfに対向する塗布位置に位置決めされて実行される本来の吐出動作との間では、その動作条件は完全に同一とは言えない。このことに起因して、上記のように擬似吐出における吐出圧力プロファイルに関して最適化された制御パラメーターは、基板Sへの吐出動作においては必ずしも最適ではない場合があり得る。
【0123】
その意味では、実際の吐出動作を行って吐出圧力プロファイルを求め、制御パラメーターを調整することが有効である。しかしながら、一般的には、制御パラメーターを最適化するためには吐出圧力プロファイルを複数回取得する必要があり、これにより基板上に吐出される塗布液の後処理を考えれば、基板への吐出を繰り返し実行することは現実的ではない。
【0124】
そこで、この実施形態のパラメーター調整処理では、上記のように擬似吐出を行って制御パラメーターの調整を行った上で、その制御パラメーターを用いてノズル71を塗布位置に位置決めして塗布液を吐出させる吐出動作を実行する。そして、その結果として得られる吐出圧力プロファイルと、擬似吐出で取得された吐出圧力プロファイルとの間に有意な差がある場合には、その差異を加味して制御パラメーターの再調整を行い、最終的に吐出動作における吐出圧力プロファイルが目標プロファイルに近づくようにする。
【0125】
具体的には、ノズル71を塗布位置に位置決めし(ステップS207)、調整された制御パラメーターを用いてポンプ81を作動させる吐出動作を実行し(ステップS208)、そのときの吐出圧力プロファイルが取得される(ステップS209)。このとき、塗布ステージ32には例えばダミー基板を載置しておくことができる。
【0126】
こうして取得された吐出圧力プロファイルと、先に擬似吐出を行って最終的に取得された吐出圧力プロファイルとが比較される。このとき、両者の動作条件の違いに起因する差異が現れると考えられる。具体的には、これら2つの吐出圧力プロファイルの差分が求められ(ステップS210)、差分が予め定められた閾値未満であれば(ステップS210においてYES)、そのときの制御パラメーターの設定値が最適値として決定される(ステップS212)。
【0127】
一方、差分が閾値以上であるとき(ステップS210においてNO)、差分に応じたオフセット量が設定され(ステップS211)、オフセット量は記憶部93に記憶保存される。そして、ステップS202に戻って処理が繰り返される。このときに実行される吐出圧力評価処理では、擬似吐出を行って取得された吐出圧力プロファイルに、ステップS210で設定されたオフセット量が加算され(ステップS104)、加算後のプロファイルに基づく評価(ステップS105)が行われる。
【0128】
擬似吐出により取得される吐出圧力プロファイルには、擬似吐出と吐出動作との間の動作条件の差異は影響を及ぼさない。しかしながら、それにオフセット量を加算したプロファイルは、見かけ上この差異を反映したものとなっている。したがって、オフセット量が加算されたプロファイルをあたかも実測結果であるかのように扱って制御パラメーターの最適化(ステップS202~S205)を行うことで、擬似吐出と吐出動作との間の差異をキャンセルするような制御パラメーターの設定が可能となる。つまり、このようにして設定された制御パラメーターは、実際にノズル71を塗布位置に位置決めして行う吐出動作における吐出圧力プロファイルを目標プロファイルに近いものとすることが可能な動作条件を実現することができる。
【0129】
オフセット量の設定(ステップS211)が行われた後に実行される制御パラメーターの最適化(ステップS202~S205)において、擬似吐出に伴って得られた吐出圧力プロファイルを評価するスコアが閾値を下回っていた場合に、ステップS206における処理終了条件が満たされるものとする。
【0130】
吐出圧力プロファイルにオフセット量が加算された上で評価されているため、このときのポンプ制御パラメーターは、擬似吐出において理想的な吐出圧力プロファイルを得るための条件を必ずしも満たしていない。しかしながら、オフセット量は擬似吐出時と吐出動作時との間の差異を加味して設定されたものであるため、それに基づき設定されたポンプ制御パラメーターは、実際の吐出動作における吐出圧力プロファイルを、目標プロファイルに近いものとすることが可能なものとなっている。
【0131】
したがって、このときの制御パラメーターの設定値を最終的な最適値とすることで(ステップS212)、基板Sに塗布液を塗布する際の吐出特性を目標通りのものとすることが可能となる。つまり、当初の目的である、吐出動作時に適用されるポンプ制御パラメーターの最適化が実現されたことになる。ここまでの一連の処理において、ノズル71が塗布位置において塗布液を吐出する吐出動作は1回のみである。ただし、最適化された制御パラメーターを用いて再度吐出動作を実行し、制御パラメーターの再評価を行うようにすることも可能である。
【0132】
図22はオフセット量の一例を示す図である。図において点線は擬似吐出により最適化された制御パラメーターを用いて得られる吐出圧力プロファイルを、実線は同じ制御パラメーターを用いた吐出動作において得られる吐出圧力プロファイルの例を示している。そして、これらから求められるオフセット量が破線により示されている。この場合のオフセット量としては、両者の差分をそのまま用いてもよく、またノイズの影響を排除するために、適宜のフィルタリング処理が適用されてもよい。フィルタリング処理は、差分を求める前の各吐出圧力プロファイルに対して適用されてもよく、また求められた差分に対して適用されてもよい。
【0133】
以上のように、上記実施形態では、擬似吐出を行うことで得られる吐出圧力プロファイルを評価し、その結果に基づきポンプ制御パラメーターを最適化するのに際して、擬似吐出で得られる吐出圧力プロファイルと、同じポンプ制御パラメーターを適用して吐出動作を行ったときに得られる吐出圧力プロファイルとの差分に対応するオフセット量を、実測された吐出圧力プロファイルに加算する。したがって、吐出圧力プロファイルの評価およびそれに基づくポンプ制御パラメーターの最適化処理には、擬似吐出時と吐出動作時との動作条件の違いが反映されることになる。
【0134】
このため、擬似吐出の結果に基づいて行われるポンプ制御パラメーターの最適化が、結果的には吐出動作時のポンプ制御パラメーターを最適化していることになる。こうして最適化されたポンプ制御パラメーターを用いて吐出動作を実行することで、この実施形態では、実際に基板Sに対して塗布液を吐出する際の吐出圧力プロファイルを、目標プロファイルに準じたものとすることができる。これにより、基板Sに対し、所期の吐出特性で良好に塗布を行うことが可能となる。
【0135】
ここで、図7に示すように、特徴量Fv1は、吐出期間Ttの全体における吐出圧力の時間変化を近似した近似波形WF1(第1近似波形)と、吐出期間Ttの全体における吐出圧力の時間変化との差を示す。かかる構成では、ノズル71からの塗布液の吐出の開始から終了までの吐出期間Ttの全体における吐出圧力の時間変化に対する近似波形WF1に基づき、当該吐出期間Ttの全体における吐出圧力を適切に評価できる。
【0136】
特に、近似波形WF1は、
・ノズル71からの塗布液の吐出の開始後に、時間経過に伴って増大する吐出圧力の時間変化を直線近似することで、初期圧力Pi(吐出開始圧力)から初期圧力Piより大きい定常圧力Pmまで時間経過に伴って線形に増大する立ち上がり回帰直線Lr_R(立ち上がり近似直線)と、
・ノズル71からの塗布液の吐出の開始時点(時刻ta)と立ち上がり回帰直線Lr_Rとの間に設けられて初期圧力Piを示す開始時近似直線Lr_sと、
・ノズル71からの塗布液の吐出の終了前に、時間経過に伴って減少する吐出圧力の時間変化を直線近似することで、定常圧力Pmから定常圧力Pmより小さい初期圧力Pi(吐出終了圧力)まで時間経過に伴って線形に減少する立ち下がり回帰直線Lr_F(立ち下がり近似直線)と、
・立ち下がり回帰直線Lr_Fとノズル71からの塗布液の吐出の終了時点(時刻te)との間に設けられて初期圧力Pi(吐出終了圧力)を示す終了時近似直線Lr_eと、
・立ち上がり回帰直線Lr_Rおよび立ち下がり回帰直線Lr_Fのそれぞれの間を接続して、定常圧力Pmを示す定常直線Lr_mと
を有する。かかる構成では、ノズル71からの塗布液の吐出の開始から終了までの吐出期間Ttの全体における吐出圧力の時間変化を台形波形により近似して、当該吐出期間Ttの全体における吐出圧力を適切に評価できる。
【0137】
また、2番目の評価段階では、吐出期間Ttのうち、吐出期間Ttより短い期間(第2期間)における吐出圧力の時間変化が持つ特徴量Fv2~Fv10(第2特徴量)が抽出されて、特徴量Fv2~Fv10に基づき吐出圧力の時間変化が評価される(ステップS102)。かかる構成では、ノズル71からの塗布液の吐出の開始から終了までの吐出期間Ttより短い期間における吐出圧力の時間変化に基づき、吐出圧力を高精度に評価することができる。
【0138】
また、図8に示す評価項目では、ノズル71からの塗布液の吐出の開始から所定の立ち上がり初期期間Ta_s(第2期間)における吐出圧力が評価される。この立ち上がり初期期間Ta_sを通じて、吐出圧力は時間経過に伴って増大し、立ち上がり初期期間Ta_sにおける吐出圧力の時間変化の立ち上がり回帰曲線Nrと、立ち上がり初期期間Ta_sにおける吐出圧力の時間変化との差を示す特徴量Fv2(第2特徴量)が抽出される。かかる構成では、ノズル71からの塗布液の開始直後における吐出圧力の時間変化を加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0139】
また、ノズル71からの塗布液の吐出の開始から、吐出圧力が目標圧力Pt(所定圧力)に増大するまでの立ち上がり期間Ta(第2期間)における吐出圧力が評価される。かかる構成では、立ち上がり期間Taにおける吐出圧力の時間変化を加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0140】
具体的には、図9に示す評価項目では、立ち上がり期間Taの長さが特徴量Fv2(第2特徴量)として抽出される。かかる構成では、吐出圧力の立ち上がりの速さを加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0141】
また、図10に示す評価項目では、立ち上がり期間Taにおいて、吐出圧力の時間変化の一回微分D1が所定の閾値Th4と交差する回数が、特徴量Fv4(第2特徴量)として抽出される。かかる構成では、立ち上がり期間における吐出圧力の時間変化の滑らかさを加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0142】
また、図11に示す評価項目では、立ち上がり期間Taにおいて、吐出圧力の時間変化の二回微分D2の絶対値が所定の閾値Th5と交差する回数が、特徴量Fv5(第2特徴量)として抽出される。かかる構成では、立ち上がり期間Taにおける吐出圧力の時間変化の滑らかさを加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0143】
また、図12に示す評価項目では、立ち上がり期間Taにおいて、吐出圧力の時間変化の二回微分D2が所定の正の閾値(Th5)より大きくなる時間T_1stと、吐出圧力の時間変化の二回微分D2が、正の閾値と同じ絶対値を有する負の閾値(-Th5)より小さくなる時間T_2ndとの比が、特徴量Fv6(第2特徴量)として抽出される。かかる構成では、立ち上がり期間Taの初期と終期とでの吐出圧力の時間変化の違いを加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0144】
また、図13に示す評価項目では、吐出圧力が目標圧力Pt(所定圧力)に増大するまでの立ち上がり終期期間Ta_e(第2期間)における吐出圧力が評価される。つまり、立ち上がり終期期間Ta_eにおける吐出圧力の時間変化を近似した近似波形WF7(立ち上がり終期近似波形)と、立ち上がり終期期間Ta_eにおける吐出圧力の時間変化との差を示す特徴量Fv7(第2特徴量)が抽出される。この近似波形WF7は、立ち上がり終期回帰直線Lr(立ち上がり終期近似直線)と延設直線Lmとで構成される。立ち上がり終期回帰直線Lrは、目標圧力Ptよりも小さい圧力範囲(P7_l~P7_u)において時間経過に伴って増大する吐出圧力の時間変化を直線近似することで求めた近似曲線に重なり、時間経過に伴って定常圧力Pmまで線形に増大する。延設直線Lmは、立ち上がり終期回帰直線Lr(の終了時点)から立ち上がり終期期間Ta_eの終了時点まで延設されて定常圧力Pmを示す。かかる構成では、立ち上がり期間Taの終期における吐出圧力の失速の程度を加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0145】
また、図14に示す評価項目では、吐出圧力が最大値Pmaxに達した時点(時刻t81)から、吐出圧力の時間変化の二回微分D2が2回ゼロに交差した時点(時刻t82)までの初期振動期間Tb_s(第2期間)における吐出圧力が評価される。具体的には、初期振動期間Tb_sにおける吐出圧力の最小値P8minが求められ、この最小値P8minと定常圧力Pmとのうちの小さい方の圧力と、吐出圧力の最大値Pmaxとの差が、特徴量Fv8(第2特徴量)として抽出される。かかる構成では、吐出圧力のオーバーシュートを加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0146】
また、図15に示す評価項目では、吐出圧力が目標圧力Pt(所定圧力)を超えた時点(時刻tb)から所定の遷移期間Tb(第2期間)における吐出圧力が評価される。具体的には、定常圧力Pmに対する、立ち上がり期間Taにおける吐出圧力の差を示す特徴量Fv9(第2特徴量)が抽出される。かかる構成では、吐出圧力が目標圧力Ptに到った後の吐出圧力の安定度を加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0147】
また、図16に示す評価項目では、吐出圧力が目標圧力Pt(所定圧力)を超えた時点(時刻tb)から、ノズル71からの塗布液の吐出の終了に向けて吐出圧力の減少が開始する時点(時刻td)までの定圧期間Tbcにおける吐出圧力が評価される。具体的には、定圧期間Tbcにおける吐出圧力の最大値Pmaxと最小値P10minとの差を示す特徴量Fv10が抽出される。かかる構成では、吐出圧力の定圧期間Tbcにおける吐出圧力の安定性を加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0148】
また、3番目の評価段階では、吐出期間Ttのうち、吐出期間Ttより短い期間(第3期間)における吐出圧力の時間変化が持つ特徴量Fv11~Fv14(第3特徴量)が抽出されて、特徴量Fv11~Fv14に基づき吐出圧力の時間変化が評価される(ステップS102)。かかる構成では、ノズル71からの塗布液の吐出の開始から終了までの吐出期間Ttより短い期間における吐出圧力の時間変化に基づき、吐出圧力を高精度に評価することができる。
【0149】
また、図17に示す評価項目では、ノズル71からの塗布液の吐出の開始後に、吐出圧力が下側基準圧力P11_l(下側基準値)から上側基準圧力P11_u(上側基準値)まで時間経過とともに増加する圧力上昇期間Tar(第3期間)における吐出圧力が評価される。具体的には、下側基準圧力P11_lと上側基準圧力P11_uとの間における吐出圧力測定データ99のうちの一の測定データであって、下側基準圧力P11_lと一の測定データとの間の区間(t111~t112)において吐出圧力の時間変化に対する線形回帰により求めた近似直線Lr_1と吐出圧力の時間変化との二乗平均平方誤差と、一の測定データと上側基準圧力P11_uとの間の区間(t112~t113)において吐出圧力の時間変化に対する線形回帰により求めた近似直線Lr_2と吐出圧力の時間変化との二乗平均平方誤差との和が最小となる一の測定値が求められる。そして、下側基準圧力P11_lと一の測定データとの間の直線の傾きK1と、一の測定データと上側基準圧力P11_uとの間の直線の傾きK2との比をが、特徴量Fv11(第3特徴量)として抽出される。かかる構成では、吐出圧力の増大の線形性を加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0150】
また、図18に示す評価項目では、吐出圧力が目標圧力Pt(所定圧力)に増大するまでの立ち上がり終期期間Ta_e(第3期間)における吐出圧力が評価される。つまり、立ち上がり終期期間Ta_eにおける吐出圧力の時間変化を近似した近似波形WF12(立ち上がり終期近似波形)と、立ち上がり終期期間Ta_eにおける吐出圧力の時間変化との差を示す特徴量Fv12(第3特徴量)が抽出される。ここで、立ち上がり終期近似波形WF12は、立ち上がり終期回帰直線Lrと延設直線Lmとで構成される。立ち上がり終期回帰直線Lrは、目標圧力Ptよりも小さい圧力範囲(P12_l~P12_u)において時間経過に伴って増大する吐出圧力の時間変化を直線近似することで求めた近似曲線に重なり、時間経過に伴って目標圧力Ptまで線形に増大する。延設直線Lmは、立ち上がり終期回帰直線Lr(の終了時点)から立ち上がり終期期間Ta_eの終了時点まで延設されて、目標圧力Ptを示す。かかる構成では、立ち上がり期間Taの終期における吐出圧力の失速の程度を加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0151】
また、図19に示す評価項目では、吐出圧力が目標圧力Pt(所定圧力)に増大するまでの立ち上がり終期期間Ta_e(第3期間)における吐出圧力が評価される。つまり、立ち上がり終期期間Ta_eにおける吐出圧力の時間変化を近似した近似波形WF13(立ち上がり終期近似波形)と、立ち上がり終期期間Ta_eにおける吐出圧力の時間変化との差を示す特徴量Fv13(第3特徴量)が抽出される。ここで、立ち上がり終期近似波形WF13は、立ち上がり終期回帰直線Lrと延設直線Lmとで構成される。立ち上がり終期回帰直線Lrは、目標圧力Ptよりも小さい圧力範囲(P13_l~P13_u)において時間経過に伴って増大する吐出圧力の時間変化を直線近似することで求めた近似曲線に重なり、時間経過に伴って目標圧力Ptまで線形に増大する。延設直線Lmは、立ち上がり終期回帰直線Lr(の終了時点)から立ち上がり終期期間Ta_eの終了時点まで延設されて、目標圧力Ptを示す。かかる構成では、立ち上がり期間Taの終期における吐出圧力の失速の程度を加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0152】
また、図20に示す評価項目では、吐出圧力が最大値Pmaxに達した時点(時刻t141)から、吐出圧力の時間変化の二回微分D2が2回ゼロに交差した時点(時刻t142)までの初期振動期間Tb_s(第3期間)における吐出圧力が評価される。具体的には、吐出圧力の最大値Pmaxから定常圧力Pmを減算した値と、定常圧力Pmから初期振動期間Tb_sにおける吐出圧力の最小値P14minを減算した値との和が、特徴量Fv14(第3特徴量)として抽出される。かかる構成では、吐出圧力のオーバーシュートを加味して、吐出圧力を評価することができる。
【0153】
以上説明したように、この実施形態の塗布装置1は、本発明における「塗布装置」の一実施形態であるとともに、本発明の「吐出装置」の一実施形態であるとも言える。狭義には、そのうちノズル71、ポンプ81、圧力計86および制御ユニット9が、本発明の「吐出装置」として機能している。このうち、圧力計86は本発明の「検出部」に、制御ユニット9は本発明の「制御部」に相当している。
【0154】
また、上記実施形態では、基板搬送部5が本発明の「相対移動機構」に、ローラー721が本発明の「ローラー部材」に、それぞれ相当している。また、吐出圧力測定データ99が、本発明の「吐出圧力プロファイル」に相当するものとなっている。
【0155】
また、上記実施形態では、ステップS102~S105が本発明の「調整工程」に相当しており、ステップS102~S105、S207~S210が一体として本発明の「再調整工程」に相当している。また、ステップS103およびステップS208は本発明の「吐出圧力プロファイルを取得する工程」に相当し、ステップS209は本発明の「オフセット量を求める工程」に相当している。
【0156】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、配管82に取り付けられた圧力計86により検出された圧力値に基づいて吐出特性を計測しているが、圧力計86の取付位置はこれに限定されず、ノズル71に送給される塗布液の圧力を検出することができる位置であれば、その取付位置は任意である。
【0157】
また、上記実施形態では、ポンプ制御パラメーターの最適値を探索する機械学習アルゴリズムとしてベイズ最適化法が適用されている。この方法は本発明のパラメーター探索に好適なものであるが、パラメーターの探索方法はこれに限定されるものではない。すなわち、離散的に設定された制御パラメーターとその条件下で得られたスコアとの関係を蓄積した情報から、スコアがより小さくなる制御パラメーターを推定することが可能な各種のアルゴリズムを用いて制御パラメーターの最適化を図ることが可能である。
【0158】
また、上記実施形態では、ベローズタイプのポンプ81を用いているが、ポンプの種類はこれに限定されるものではなく、例えばピストンを用いたシリンジタイプのポンプ(例えば特開2008-101510号公報)を用いてもよい。
【0159】
また、上記実施形態では、基板Sを浮上させた状態で基板Sの表面Sfに塗布液を供給する塗布装置1に対して本発明を適用しているが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、ノズルに処理液を送給することで当該ノズルから基板の上面に処理液を供給して所定の処理を施す基板処理技術全般に本発明を適用可能である。
【0160】
また、図7の近似波形WF1を算出するにあたって、定常直線Lr_mに代えて、目標圧力Ptを示す傾きがゼロの直線を用いてもよい。
【0161】
さらに、図7に示す特徴量Fv1に代えて、次の変形例で説明する特徴量Fv1_1を算出して、この特徴量Fv1_1に基づき吐出圧力の時間変化を評価してもよい。図23は吐出圧力の評価項目の変形例で用いる各期間を説明するための図であり、図24は特徴量Fv1_1に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目の変形例を説明するための図である。ここでは、図23と上記の図5との差異点を主に説明することとし、これらの共通点は相当符号を付して適宜説明を省略する。同様に、図24と上記の図7との差異点を主に説明することとし、これらの共通点は相当符号を付して適宜説明を省略する。
【0162】
図23に示すように、評価項目の変形例では、注目期間Troiが使用される。この注目期間Troiは、時刻taから時刻tdまでの期間である。すなわち、注目期間Troiは、立ち上がり期間Ta、遷移期間Tbおよび定常期間Tcで構成され、換言すれば、立ち上がり期間Taおよび定圧期間Tbcで構成される。
【0163】
図24に示すように、この変形例では、上述の特徴量Fv1の場合と同様にして、立ち上がり回帰直線Lr_Rが算出されるとともに、開始時近似直線Lr_sが設定される。さらに、時刻t12から時刻tdの期間において、定常圧力Pm(すなわち、定常期間Tcにおける吐出圧力の測定値の平均)を示す傾きゼロの直線である定常直線Lr_m_1が設定される。
【0164】
こうして、時系列で配列された開始時近似直線Lr_s、立ち上がり回帰直線Lr_Rおよび定常直線Lr_m_1で構成された近似波形WF1_1が算出される。そして、圧力評価部913は、時刻taから時刻tdまでの注目期間Troiの全体において、吐出圧力測定データ99と近似波形WF1_1との間の平均絶対誤差MAEを、特徴量Fv1_1として算出する。また、圧力評価部913は、所定の閾値Th1_1(例えば、0.05)に基づき、特徴量Fv1_1を所定の範囲に正規化する。具体的には、次式
Fv1_1<Th1_1であるなら、Fv1_1=0
Fv1_1≧Th1_1であるなら、Fv1_1=(Fv1_1+1-Th1_1)×c1_1
に基づき、特徴量Fv1_1を、規格化された特徴量Fv1_1(すなわち、評価値V1_1)に変換する。ここで、Fv1_1の上限は2×c1_1とし、係数c1_1は規格化係数であって任意の正の定数である。なお、特徴量Fv1_1の正規化の具体的手法は、ここの例に限られず、適宜変更してもよい。
【0165】
図24の特徴量Fv1_1に基づく評価によれば、注目期間Troiの全体における吐出圧力の時間変化が理想的な形状から大きく乖離する場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、悪い評価)を与えることができる。
【0166】
かかる変形例では、図4に示す吐出圧力の測定結果評価(ステップS105)において、圧力評価部913は、特徴量Fv1ではなくて特徴量Fv1_1を吐出圧力から抽出した結果に基づき評価値V1_1を算出する。特に、1番目(I=1)の評価段階に対しては、図7に示した特徴量Fv1に基づく評価ではなく、図24に示した特徴量Fv1_1に基づく評価が割り当てられる。その上で、図21に示す測定結果評価が実行される。すなわち、図22の表において、評価段階Iが1の場合の評価項目の特徴量は、特徴量Fv1ではなくて図24に示す特徴量Fv1_1となる。
【0167】
また、ノズル71からの処理液の吐出を開始してから吐出圧力の目標圧力Pt(所定圧力)までの上昇を経て吐出圧力の目標圧力Ptからの減少が開始するまでの注目期間Troi(主要期間、評価対象期間)において、吐出圧力が測定される。そして、1番目(I=1)の評価段階では、注目期間Troiの全体における吐出圧力の時間変化が持つ特徴量Fv1_1(全体特徴量)が抽出され、特徴量Fv1_1に基づき吐出圧力の時間変化が評価される。これによって、基板Sに塗布される処理液の厚みに影響する注目期間Troiの全体における吐出圧力の適否を吐出圧力の評価に反映させることが可能となっている。
【0168】
さらに言えば、かかる変形例では、注目期間Troiが基板Sに塗布される処理液の厚みに与える影響が特に大きい場合(換言すれば、注目期間Troiを経過後の期間の影響が僅かな場合)に、当該注目期間Troiの全体における吐出圧力の適否を吐出圧力の評価に反映させることが可能となっている。
【0169】
また、特徴量Fv1_1(主要特徴量)は、注目期間Troi(主要期間)の全体における吐出圧力の時間変化を近似した近似波形WF1_1(主要近似波形)と、注目期間Troiの全体における吐出圧力の時間変化との差を示す。かかる構成では、注目期間Troiの全体における吐出圧力の時間変化に対する近似波形WF1_1に基づき、当該注目期間Troiの全体における吐出圧力を適切に評価できる。
【0170】
特に、近似波形WF1_1は、
・ノズル71からの塗布液の吐出の開始後に、時間経過に伴って増大する吐出圧力の時間変化を直線近似した、初期圧力Pi(吐出開始圧力)から初期圧力Piより大きい定常圧力Pmまで時間経過に伴って線形に増大する立ち上がり回帰直線Lr_R(立ち上がり近似直線)と、
・ノズル71からの塗布液の吐出の開始時点(時刻ta)と立ち上がり回帰直線Lr_Rとの間に設けられて初期圧力Piを示す開始時近似直線Lr_sと、
・立ち上がり回帰直線Lr_Rが定常圧力Pmに到達してから注目期間Troiの最後までの間(時刻t12から時刻tdの間)に設けられて定常圧力Pmを示す定常直線Lr_m_1と
を有する。かかる構成では、注目期間Troiの全体における吐出圧力の時間変化を近似して、当該注目期間Troiの全体における吐出圧力を適切に評価できる。
【0171】
ちなみに、図24に示す特徴量Fv1_1を用いて吐出圧力を評価する場合には、ステップS101において、注目期間Troiを経過後の期間(すなわち、立ち下がり期間Td)の吐出圧力を計測する必要はない。
【0172】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係るポンプ制御パラメーターの調整方法において、機械学習の手法としては例えばベイズ最適化法を用いることができる。本発明にベイズ最適化法が適用されるとき、過去に設定されたポンプ制御パラメーターとそれにより得られる吐出圧力プロファイルとの対応関係から、より目標プロファイルに近い吐出圧力プロファイルを得るためのポンプ制御パラメーターの設定値を効率よく推定することが可能である。そのため、実際に擬似吐出を行う試行回数を低減させることができ、ポンプ制御パラメーターの最適化を短時間で行うことができるとともに、消費される処理液の量を削減し環境負荷を軽減させることができる。
【0173】
また、調整工程では、取得された吐出圧力プロファイルと目標プロファイルとの乖離の程度を定量化したスコアが小さくなるように、ポンプ制御パラメーターを調整することができる。こうすることで、よりスコアが小さくなるようなパラメーターを探索する各種の機械学習アルゴリズムを用いて、ポンプ制御パラメーターの最適化を図ることが可能となる。
【0174】
この場合において、調整工程および再調整工程では、吐出圧力プロファイルおよびスコアに基づくポンプ制御パラメーターの推定と、推定されたポンプ制御パラメーターを用いた吐出圧力プロファイルの取得とが反復実行されてもよい。このように、ポンプ制御パラメーターの推定とそれに基づく実測とを繰り返すことにより、ポンプ制御パラメーターをより最適な値に近づけることが可能になる。このとき、ポンプ制御パラメーターの推定を効率よく行うことで、吐出圧力プロファイルを取得するための動作の実行回数を少なくすることが可能である。
【0175】
また例えば、再調整工程では、取得された吐出圧力プロファイルにオフセット量を加算したプロファイルと目標プロファイルとの乖離の程度を定量化したスコアが小さくなるように、ポンプ制御パラメーターを再調整することができる。取得された吐出圧力プロファイルにオフセット量を加算することで、吐出動作における動作条件に起因する変動要因を加味した評価が可能となり、それに基づきポンプ制御パラメーターの再調整を行うことで、吐出動作において所望の吐出特性を得るためのポンプ制御パラメーターの最適値を効率よく見出すことが可能となる。
【0176】
また、この発明に係るポンプ制御パラメーターの調整方法において、例えば、調整工程および再調整工程における吐出圧力プロファイルの取得は、吐出動作におけるノズルの位置とは異なる位置にノズルを位置決めした状態で実行されてもよい。吐出動作と同じ動作条件で吐出圧力プロファイルを取得することは、当該動作条件におけるポンプ制御パラメーターの最適値を見出すという点においては好ましいが、そのために吐出される処理液の処理等を考えれば必ずしも現実的ではない。この発明では、調整工程または再調整工程と実際の吐出動作との間で動作条件の違いがあったとしても、それを加味したポンプ制御パラメーターの最適化が可能である。そのため、吐出動作時とは異なる位置にノズルを位置させて調整工程および再調整工程を実行することで、処理液の処理等の便宜を図りつつ、ポンプ制御パラメーターを最適化することができる。
【0177】
また例えば、調整工程で調整されたポンプ制御パラメーターを用いて取得される吐出圧力プロファイルと、吐出動作において取得された吐出圧力プロファイルとの差分が所定の閾値より小さい場合には、それぞれの動作条件の違いに起因する吐出結果の差異は小さいと言える。この場合には再調整工程を行わず、そのときのポンプ制御パラメーターの設定値を最適値として決定することができる。
【0178】
また、本発明は、ポンプで送出した処理液をノズルから基板に向けて吐出させる吐出動作を実行する吐出装置を制御するコンピューターに、ポンプ制御パラメーターを仮設定してポンプから処理液を送出させ、送出される処理液に付与される吐出圧力の時間変化を表す吐出圧力プロファイルを取得し、取得された吐出圧力プロファイルが予め定められた目標プロファイルに近づくように、回帰モデルを用いた機械学習によりポンプ制御パラメーターを調整する調整工程と、調整されたポンプ制御パラメーターに基づきポンプを作動させて吐出動作を実行し、吐出圧力プロファイルを取得する工程と、調整されたポンプ制御パラメーターを用いて調整工程で取得される吐出圧力プロファイルと吐出動作において取得される吐出圧力プロファイルとの差分に応じたオフセット量を設定する工程と、ポンプ制御パラメーターを仮設定してポンプから処理液を送出させて吐出圧力プロファイルを取得し、取得された吐出圧力プロファイルにオフセット量を加算したプロファイルが目標プロファイルに近づくように、機械学習によりポンプ制御パラメーターを再調整する再調整工程とを実行させる、コンピュータープログラムとして実施することが可能である。
【0179】
あるいは、ポンプで送出した処理液をノズルから基板に向けて吐出させる吐出動作を実行する吐出装置を制御するコンピューターに、ポンプから送出される処理液に付与される吐出圧力の時間変化を表す吐出圧力プロファイルを取得する工程と、取得された吐出圧力プロファイルに所定のオフセット量を加算し、加算後のプロファイルと目標プロファイルとの乖離の程度を定量化したスコアを算出する工程と、回帰モデルを用いた機械学習により、スコアが最小となるポンプ制御パラメーターを探索する工程とを実行させる、コンピュータープログラムであってもよい。この場合、オフセット量は例えば、吐出動作を実行して取得された吐出圧力プロファイルと吐出動作時のノズルの位置とは異なる位置にノズルが位置決めされて取得された吐出圧力プロファイルとの差分に応じて設定することができる。
【0180】
このようなコンピュータープログラムは、本発明に係るポンプ制御パラメーターの調整方法を、それを想定した構成を有していない既存の装置によって実施することを可能にする。例えば、このようなコンピュータープログラムを非一時的に記録した、コンピューター読み取り可能な記録媒体として、本発明を実施することが可能である。
【0181】
また、本発明に係る吐出装置に、ノズルと基板とを相対移動させる相対移動機構をさらに設けることで、基板上の広い領域に対し処理液を塗布する塗布装置を構成することが可能である。
【0182】
この場合において、吐出動作に先立って所定の予備吐出位置に位置決めされたノズルから吐出される処理液を受ける液受け部をさらに備え、調整工程ではノズルが予備吐出位置に位置決めされてもよい。さらに、液受け部は、予備吐出位置に位置決めされるノズルの直下に配置されるローラー部材を有していてもよい。このような構成によれば、ノズルから予備吐出される処理液を基板に付着させることなく回収することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0183】
この発明は、処理液をノズルに送給することでノズルから処理液を基板に向けて吐出する塗布技術全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0184】
1 塗布装置
71 ノズル(吐出装置)
81 ポンプ(吐出装置)
86 圧力計(検出部)
9 制御ユニット(制御部、吐出装置)
5 基板搬送部(相対移動機構)
721 ローラー(ローラー部材)
97 吐出圧力評価プログラム
98 パラメーター調整プログラム
99 吐出圧力測定データ(吐出圧力プロファイル)
M 記録媒体
S 基板
S102~S105 調整工程
S103、S208 吐出圧力プロファイルを取得する工程
S209 オフセット量を求める工程
S102~S105、S207~S210 再調整工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24