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特許7526790増大した太陽エネルギー変換のための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】増大した太陽エネルギー変換のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/055 20140101AFI20240725BHJP
   H01L 31/054 20140101ALI20240725BHJP
【FI】
H01L31/04 622
H01L31/04 620
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022521960
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-13
(86)【国際出願番号】 US2020054596
(87)【国際公開番号】W WO2021076372
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】62/913,315
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/927,228
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522143184
【氏名又は名称】サンデンシティ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】サンウォーカー,ニシカント
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0001827(KR,A)
【文献】米国特許第04188238(US,A)
【文献】特開2012-216620(JP,A)
【文献】特開2012-230968(JP,A)
【文献】特表2010-541000(JP,A)
【文献】特開2010-186845(JP,A)
【文献】実開昭59-166455(JP,U)
【文献】特開2014-022471(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0034923(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0285531(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/056
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイの全体にわたり反復されるパターンで分布している光コンセントレーターの平面アレイ;
光コンセントレーターのパターンと位置合わせされて分布している光起電力(PV)セルの平面アレイ;および
光コンセントレーターの平面アレイとPVセルの平面アレイの光路中に延在するスペクトル変換器
を含む、太陽エネルギーの電力変換のための装置であって、
該スペクトル変換器は、第1のスペクトル分布を有する入射太陽光を、PVセルのアレイに向かう第2のスペクトル分布の出射光に変換するように構成され
該スペクトル変換器が、
あらかじめ決定された波長範囲を反射し、入射太陽光の第1のスペクトル分布を第1の波長範囲にシフトさせるように形成された層のセット、ここで、該層のセットは、交互になっている第1および第2の層を2対以上包含し、該第1の層は第1の屈折率n を有し、該第2の層は、第1の屈折率n より大きい第2の屈折率n を有し、該第2の層はそれぞれ、第1の材料のナノ粒子の第1の分布を包含する;および
表面増強ラマン散乱層、ここで、該表面増強ラマン散乱層は第2の材料のナノ粒子の第2の分布を伴って構成されて、該表面増強ラマン散乱層中の第2の材料のナノ粒子の第2の分布に従って、第1の波長範囲を第1の波長範囲とは異なる第2の波長範囲にさらにシフトする、
を含む、
装置
【請求項2】
第2のスペクトル分布が、PVセルのp-n接合のバンドギャップエネルギーと同一の光エネルギーを包含する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
スペクトル変換器が、光コンセントレーターの平面アレイに対し平行に延在するコーティングされたシートを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
スペクトル変換器が、2以上の金属酸化物層を有するガラスシートを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
スペクトル変換器が、蛍光ナノ粒子を包含するコーティングを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
光コンセントレーターの平面アレイがフレネルレンズを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
PVセルが封入ケーシングを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
スペクトル変換器が、光コンセントレーターの平面アレイと光起電力セルの平面アレイとの間に置かれる、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
光コンセントレーターの平面アレイが、スペクトル変換器と光起電力セルの平面アレイとの間に置かれる、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
請求項1に記載の太陽光の電力変換のための光起電力セルアレイをレトロフィットするための装置であって、
光起電力セルアレイ中の各セルは、少なくとも1つの対応する光コンセントレーターを通って方向付けられている光を受け取り
該スペクトル変換器は、光コンセントレーターの平面アレイと光起電力セルアレイの間に延在し、
該第2のスペクトル分布は、第1のスペクトル分布より長い波長においてより多くのエネルギーを含む
装置
【請求項11】
光コンセントレーターのアレイが1以上のフレネルレンズを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
フレネルレンズがポリカーボネート材料から作製される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
光コンセントレーターのアレイが屈折率分布型レンズアレイを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
第1のスペクトル分布と比較して、第2のスペクトル分布が、PVセルのバンドギャップに関連するスペクトル範囲にわたり増大した光エネルギーを有する、請求項10に記載の装置。
【請求項15】
光起電力セルが封入ケーシングを有する、請求項10に記載の装置。
【請求項16】
光コンセントレーターの2以上の平面アレイ、スペクトル変換器、および光起電力セルアレイの間の距離が調整可能である、請求項10に記載の装置。
【請求項17】
太陽エネルギーの電力変換のための方法であって、
第1のスペクトル分布を有する入射太陽光を、第1のスペクトル分布から波長をシフトさせた第2のスペクトル分布の状態調整した光に変換し、ここで、該変換は、入射太陽光を、
(i)あらかじめ決定された波長範囲を反射し、入射太陽光の第1のスペクトル分布を第1の波長範囲にシフトさせるように形成された層のセット、ここで、該層のセットは、交互になっている第1および第2の層を2対以上包含し、該第1の層は第1の屈折率n を有し、該第2の層は、第1の屈折率n より大きい第2の屈折率n を有し、該第2の層はそれぞれ、第1の材料のナノ粒子の第1の分布を包含する;
を通過させた後、
(ii)表面増強ラマン散乱層、ここで、該表面増強ラマン散乱層は第2の材料のナノ粒子の第2の分布を伴って構成されて、該表面増強ラマン散乱層中の第2の材料のナノ粒子の第2の分布に従って、第1の波長範囲を第1の波長範囲とは異なる第2の波長範囲にさらにシフトする、
を通過させることによって達成される
状態調整した光を集中化し、その光を、1つのアレイに分布している複数の光起電力セルのそれぞれに向かって方向付け;そして、
複数の光起電力セルから、状態調整した光の集中度および第2のスペクトル分布に対応する電流を受け取る
ことを含む、方法
【請求項18】
入射太陽光を、状態調整した光に変換することが、光をブラッグ反射層、つぎに表面増強ラマン散乱層に通して方向付けることを含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、本明細書中で全体を援用するNishikant Sonwalkarの名義で“METHOD AND APPARATUS FOR INCREASED SOLAR ENERGY CONVERSION”という表題で2019年10月29日に仮出願された米国仮特許出願第62/927228号の利益を主張するものであり;さらに、本出願は、本明細書中で全体を援用するNishikant Sonwalkarの名義で“OPTICAL COATING FOR SPECTRAL CONVERSION”という表題で2019年10月10日に仮出願された米国仮特許出願第62/913315号の利益を主張するものである。
技術分野
[0002]本発明は、一般に光起電性材料のスペクトル性能に関し、より詳細には、入射光エネルギーのスペクトルを効率的に再マッピングするための光学コーティングを有する光起電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[0003]太陽エネルギーハーベスティングをより効率的にする改善は、漸進的であっても、重大な経済的および環境面での影響を有することができることは、広く認められている。特に興味深い分野には、太陽エネルギーをより有用な形態に変換するための改善された材料の開発がある。
【0003】
[0004]各タイプの光伝搬性光学材料は、ある波長帯域にわたって変動しうる光エネルギーに対し特徴的なスペクトル応答を有する。例えば、従来の光学ガラスタイプは、所定の範囲にわたり最適な透過を示すが、特定の波長ではより効率の低い透過を示す可能性がある。さまざまなタイプの光学コーティングは、特定の波長範囲において可変的な応答および効率を有する。フォトニックセンサーおよびエネルギー変換器、例えば、光起電性(PV)太陽エネルギー変換器は、いくつかの波長帯域にわたり、他のものよりはるかに効率的であることができる。
【0004】
[0005]フォトニック変換法は、さまざまなタイプの光学的構成要素および材料のスペクトル応答の補償および調整に提案され、使用されてきた。測定可能で有用な性能改善の達成を期待して、特定の光伝搬性光学材料の固有の応答を変化させるために、アップコンバージョン(UC)、ダウンコンバージョン(DC)、および他のタイプのスペクトル応答改変のための方法が開発されてきた。
【0005】
[0006]PV太陽エネルギー分野ではエネルギー発生効率の改善にいくらかの前進は見られるが、かなりの問題が残っている。とりわけPV適用、一般に光伝搬性材料のスペクトル応答の改善において直面する制約には、UCまたはDC機能をもたらす構成要素の製作に用いられる材料に関連する問題がある。例えば、光起電効率を改善する初期の試みは、高価および/または環境的に好ましくない材料を特徴としていた。ランタニドおよび希土類材料は、光伝搬性光学材料のスペクトル応答を改善するための候補としてとりわけ注目されてきた。しかしながら、これらの材料は、費用、製作、および潜在的な廃棄物処理問題を正当化する結果を達成するために、慎重に処理しなければならない。量子ドット材料は同じ問題にさらされており、光起電での適用を妨げる可能性があるいくつかの環境上の安全性の懸念を知らしめている。
【0006】
[0007]材料関連の制約に加えて、光学材料分野の技術者に広く受け入れられてきたエネルギー変換に関する実際的原理、例えば、発熱および他の実際的制約に関連する原理も知られている。
【0007】
[0008]したがって、光伝搬性光学材料のスペクトル性能および工学的設計(engineering)の改善に関する方法には、改善の余地があることがわかる。
【発明の概要】
【0008】
[0009]本開示の目的は、改善されたスペクトル応答および効率を有する材料を提供することにより、太陽エネルギーハーベスティング技術を進歩させることである。この目的を念頭に置いて、本開示は、以下を含む太陽エネルギーの電力変換のための装置を提供する:
アレイの全体にわたり反復されるパターンで分布している光コンセントレーターの平面アレイ;
光コンセントレーターと位置合わせされて分布している光起電力(PV)セルの平面アレイ;および
光コンセントレーターの平面アレイとPVセルの平面アレイの間に延在するスペクトル変換器、該スペクトル変換器は、光コンセントレーターのアレイからの第1のスペクトル分布の入射光を、PVセルのアレイに向かう第2のスペクトル分布の出射光に変換するように構成される。
【0009】
[0010]本開示の装置および方法により提供される利点は、スペクトル効率の改善について提案されてきたものに比べ環境上の難点がはるかに少ない材料を配合および使用することができる点である。
【0010】
[0011]開示される発明の他の望ましい目的、特徴、および利点について、当業者なら起想し、明らかにすることができる。本発明は、任意の添付する特許請求の範囲によって定義される。
産業上の利用可能性
[0012]本開示の広範な観点に従って、太陽エネルギー発生および関連する光伝搬性光学材料のための光起電力デバイスの改善されたスペクトル応答を達成するための装置および方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】[0013]図1は、半導体バンドギャップ効率を電子ボルト値と視覚的に関連づけるグラフである。
図2】[0014]図2は、太陽エネルギーのスペクトル分布を示すグラフである。
図3】[0015]図3は、ダウンコンバージョンを示す簡略図である。
図4】[0016]図4は、ある波長範囲にわたる入射レーザー光についてポリシリコンp-n接合によって生じた電力を示す。
図5】[0017]図5は、実験観察結果を示すグラフであり、コヒーレント波長における光子密度の増大の結果として出力は増大する。
図6】[0018]図6は、本開示の態様に従った太陽電池パネルの分解図を示す。
図7】[0019]図7は、組み立てられた太陽電池パネルの斜視図である。
図8】[0020]図8は、組み立てられた太陽電池パネルのコーナーを示す拡大図である。
図9】[0021]図9は、光学的コンセントレーターおよびバンドパスフィルターがある場合とない場合のエネルギーレベルを比較するグラフである。
図10】[0022]図10は、光学的コンセントレーターおよびバンドパスフィルターがある場合とない場合で、異なる配列についてのエネルギー発生の比較を示す表である。
図11】[0023]図11は、PV適用のためにダウンコンバージョンを提供する光処理の順序を示す流れ図である。
図12A】[0024]図12Aは、本開示の態様に従って光伝搬性材料の改善されたスペクトル応答を示すグラフである。
図12B】[0025]図12Bは、窓ガラスの透過と比較して、本開示の態様に従ったコーティングされた光伝搬性材料の改善されたスペクトル応答を示すグラフである。
図12C】[0026]図12Cは、入射光および本開示のコーティングを通過する伝搬によりスペクトル的にシフトしている光の分光放射照度を示すグラフである。
図12D】[0027]図12Dは、スペクトル変換にさまざまなコーティングを用いたときの分光放射照度対eVでのエネルギーを示すグラフである。
図12E】[0028]図12Eは、単位面積あたりの毎秒の光子数として測定される相対的光子束(photo flux)の変化を示す対応するグラフである。
図13】[0029]図13は、光エネルギーのダウンコンバージョンのための多層コーティングを示す概略側面図である。
図14】[0030]図14は、ダウンコンバージョンコーティングに用いられるブラッグ反射のための層状配列を示す側面概略図である。
図15】[0031]図15は、本開示の態様に従って形成される透明なダウンコンバージョン(DC)フィルムまたはコーティングに用いられる層状配列を示す、部分的に分解された横断面図である。
図16】[0032]図16は、アディティブファブリケーションおよびその場でのコーティング内でのナノ粒子形成の順序を示す。
図17】[0033]図17は、本開示の態様に従って、スペクトル変換に用いられるさまざまなコーティングの代表的データを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0034]本明細書中で示し説明する図面は、さまざまな態様に従った光学装置に関する操作および製作の基本原理を例示しており、実際のサイズおよび縮尺を示すことを意図して描かれたものではない。基本的な構造的関係または操作原理を強調するために、いくつかの視覚的誇張が必要である場合がある。
【0013】
[0035]本開示の文脈において、“上部”および“底部”または“上方の”および“下方の”という用語は相対的であり、構成要素または表面の必然的な方向を示すわけではなく、構成要素または材料の塊内の相対する表面または異なる光路をさし、区別するために用いられるに過ぎない。同様に、“水平の”および“垂直の”という用語は、例えば、異なる平面における構成要素または光の相対的直交関係を記載するために図面に関連して用いることができるが、真の水平および垂直方向に関して構成要素に必要な方向を示しているわけではない。
【0014】
[0036]“第1”、“第2”、“第3”などの用語は、用いられる場合、必ずしも任意の順序関係または優先関係を意味するわけではなく、1つの要素または時間間隔を他のものとより明確に区別するために用いられる。例えば、本明細書中に教示されるものに固定的な“第1”または“第2”の要素はない;これらの記載は、1つの要素を本開示の文脈における他の同様の要素と明確に区別するためにのみ用いられる。
【0015】
[0037]本開示の文脈において、“フィルム”という用語は、1以上の薄層として基材に施用されるコーティング、例えば、さまざまな屈折率を有するように処理された材料の連続的に形成された層から形成された薄フィルム光学コーティングを意味するために用いることができる。フィルムはまた、光学材料の1以上の層から形成される光伝搬性基材のシートであることもでき、独立して、または他の光学的構成要素に例えば接着剤を用いて光学的に連結させて、使用することもできる。
【0016】
[0038]本明細書中で使用する場合、“エネルギー付与可能な”という用語は、電力を受け取ることにより、および所望により許可信号を受け取ることにより、指示された機能を実行するデバイスまたは構成要素のセットに関連する。“光伝搬性”材料は、材料が受け取った光の大部分、少なくとも50%超を透過させるか、または伝達する。PV変換のための対象となる光伝搬の範囲は、一般に約200nm~2200nmである。
【0017】
[0039]“ナノ粒子”という用語は一般に、個々の原子と巨視的バルク固体の間の中間サイズを有する粒子をさし、平均径は約1nm~100nmである。材料のナノ粒子サイズは典型的にはほぼ励起子のボーア半径、または材料のド・ブロイ波長であり、これは、個々のナノ粒子が、粒子内で、個々の数または別個の数の電子もしくは正孔のいずれかの電荷担体、または励起子を捕捉することを可能にすることができる。ナノ粒子による電子(または正孔)の空間的閉じ込めは、材料の物理的、光学的、電子的、触媒的、光電子的および磁気的特性を変化させると考えられる。
【0018】
[0040]PVデバイスまたはシステムのエネルギー出力は、適したエネルギーバンドの光量子の吸収レベルに比例する。エネルギーを生じる波長の吸収の改善は、太陽エネルギー発生の効率を相当量上昇させて、エネルギー費の低下をもたらすことができ、現在用いられている初期のPV機器のレトロフィット(retrofit)および再構築(rebuild)について関連する利点がある。
太陽電池セルの機能および効率
[0041]本開示によって提供される解決策の特質および範囲をより良く理解するためには、PVデバイスにおける典型的な太陽電池セルの基本操作をいくつか復習することが有益である。典型的な太陽電池セルは、空乏領域を有するシリコンp-nダイオードである。光がない場合、該セルはダイオードと同様に挙動する。光がセルに入射すると、光子がシリコンによって吸収される。この加えられたエネルギーはシリコン電子を励起して、価電子バンドから伝導バンドへの遷移をもたらし、ここで電子は自由に動くことができる。これらの励起電子は“自由キャリア”とよばれる。電子遷移は、“正孔”とよばれる対応する空孔を作り出す。そこで中性原子を形成する再結合の結果、空乏領域の両端間に電位が作り出される。pおよびn領域に接続される金属接点は、これらの電子に流路、すなわち外部回路を与える。電子はこの電位に従って移動し、正孔と再結合することができる。この電子の移動は電流を生じさせ、これにより、シリコンセルはバッテリーとして働く。
【0019】
[0042]既存のPVセルの固有の限界には、Shockley-Queisser(S-Q)限界などの熱力学的制約がある。熱力学的観点から、太陽および太陽電池セルは両方とも、全太陽エネルギーが標準的角度でセル表面に入射する“黒体”であると仮定することができる。カルノーの仕事量は、熱機関によってセルから抽出されると仮定する。太陽温度5760kおよび周囲温度300kの場合、セル温度2470kで最大85%の効率を得ることができる。この限界において、光子はすべて吸収されると考えられる;熱散逸はなく、最大仕事量が各光子から抽出される。
【0020】
[0043]S-Q限界は、半導体セルを、単一p-n接合を有する1つの材料としてモデル化する。バンドギャップより高いエネルギーを有する入射光子はすべて、光子あたり1電子-正孔対を生じると仮定する。余剰の光子エネルギーはすべて熱に変換される。S-Q限界は、1sunの集中化していない太陽放射線がPVセルに入射するという仮定に基づく。入射光束密度は非常に低く、安価な光学素子を用いて最大約500倍増大させることができる。
【0021】
[0044]半導体電子を外部負荷回路中に移動させるためには、そのエネルギーレベルを、標準的な価電子レベルからより高いエネルギー伝導レベルに上昇させなければならない。より高レベルに押し上げるのに必要なエネルギー量は、“バンドギャップ”エネルギーとよばれる。バンドギャップエネルギーより高いエネルギーを有する光子はすべて、電流をもたらすキャリア電子を生じることができる。しかしながら、電子を励起するのにはバンドギャップエネルギーと等しい量のエネルギーしか使用されず、余剰分の残りは熱に変換される。セルの加熱は暗電流を増加させ、セルの全体的出力を低下させる。したがって、光子が光起電太陽電池セルのp-n接合のバンドギャップに近い場合、ほとんどの光子は吸収され、残りは反射されるべきである。これは、残りは、電子-正孔対の発生に寄与しないが、太陽電池セルを加熱して、暗電流を増加させるためである。
【0022】
[0045]集光型光起電力技術(CPV)は、p-n接合の温度上昇によって引き起こされる効率低下の問題に直面している。この温度上昇は、より多くの暗電流を生じさせて、電子と正孔の再結合を引き起こし、伝導バンドにおいて電荷を減少させる。
【0023】
[0046]フォトニック太陽光変換の提案される態様では、光学コーティングを用いて、照射されたp-n接合のバンドギャップのエネルギーに近い光子のみが太陽電池セルに到達することを可能にする。光学コーティングを用いて、p-n接合のバンドギャップで吸収されない光子(すなわち、通常なら太陽電池セルの加熱を引き起こす光子)を除外したら、つづいて、集中化し太陽放射線は、電力発生を直線的に増大させ、対応して光子密度を増大させることができる。
【0024】
[0047]PVセルのエネルギー出力を改善するための光学コーティングの使用は、例えば、以下の開示物に記載されている:
Gadomskyによる米国特許出願公開第2008/0171191 A1号には、ナノ構造化反射防止光学コーティングの使用について記載されている。しかしながら、フォトニック太陽光変換の既存の態様では、ナノ光学コーティングがバンドパスフィルターとしてのみ使用される。
【0025】
Kostによる米国特許出願公開第2009/0084963 A1号には、光子を捕捉するために多層を用いて光子のダウンコンバージョンを増強するための装置および方法が記載されているが、ナノ光学コーティングまたは光学的コンセントレーターは使用していない。
【0026】
Songo Jin et.alによる国際公開2015/138990 A1号には、太陽エネルギー吸収性コーティングと、1波長領域にわたる太陽光スペクトルを吸収し、他のスペクトル部分にわたる太陽エネルギーを反射するコーティングの製作方法について記載されている。しかしながら、出力は期待はずれである。
【0027】
Cho et al.による米国特許出願公開第2006/0169971 A1号には、太陽エネルギー変換を増強するためにさまざまな量子ドットサイズを用いて、高エネルギー太陽放射線をより低エネルギーの太陽放射線に変換するのに有用な、エネルギー変換フィルムおよび量子ドットフィルムについて記載されている。
【0028】
[0048]光起電力セルにおける太陽放射線の集中化を向上させるためのさまざまな光学的な幾何学的形状が提案されてきたが、より高い効率を持続することができない。おもに、この欠点は、集中化した太陽放射線下での太陽電池セルの温度上昇に起因する。本開示の態様において、太陽電池セルの加熱は、バンドギャップに近いエネルギーを有する光子のみを太陽電池セルに入射させて、加熱を引き起こすより高エネルギーの光子の大部分を除外する光学コーティングにより、大幅に低減または除外される。
【0029】
[0049]これまでの重要な産業界の調査は、シリコンに基づく太陽電池セルの効率を、効率を向上させ、費用を低下させつつ、改善することに焦点を当ててきた。しかしながら、発電の基本である、PN接合に当たる太陽光スペクトルの状態調整には、あまり注意が払われてこなかった。提案される革新技術では、最大限の吸収を得るために、太陽電池セルのバンドギャップに到達する光子に焦点を当てる。光エネルギーの適切な選択および分布により、光量子を、光起電太陽電池セルのバンドギャップに合うように状態調整することができる。このアプローチは、高価なバンドギャップの工学的設計(engineering)に起因して費用が法外になり得るアプローチである多接合太陽電池セル、例えば、タンデム太陽電池セルを作り出すよりも、有望であることが判明している。
【0030】
[0050]図1は、いくつかのタイプの太陽電池セル材料について光子あたり1電子-正孔対に関し設定されたS-Q(Shockley-Queisser)限界と共に、黒体状態についての効率限界対半導体バンドギャップを示す。余剰の光子は、熱および他の効果となって失われる。入射エネルギーの約47%が熱として失われ;エネルギーの18%が変換されずに太陽電池セルを通過し;エネルギーの2%が再結合効果において失われることが見出された。最大で、残っている33%は電気に変換されることができる。したがって、シリコン太陽電池セルの理論上のS-Q限界は33%である。光学的配列および製造欠陥に起因する損失は、上記効率の計算に考慮されていない。
【0031】
[0051]ランタニド元素および量子ドットを使用しての成功例がいくつか示されているが、これらの材料は依然としてかなり高価であり、顕著な環境上の懸念のない広範な商業的使用は許容されない。改善された材料および結果に対する必要性に応えて、出願人は、適切に構造化され金属酸化物中に埋め込まれたナノ粒子を組み合わせる特定の配列が、700~1100nmのバンドパスと、波長300nm~600nmの太陽光の光子から800nm~900nmの低エネルギー光子へのダウンシフティング率が低いこととを達成することができることを見いだした。実験コーティングの透過率および反射率スペクトルは、独立した試験によってバリデートされている。屋外試験では、72セルの実物大パネルについて効率の向上が示され、野外実験に基づく太陽電池パネルの効率で平均15%~22%の全体的改善がみられる。
【0032】
[0052]本開示の態様に従って、後ほどより詳細に記載する工学的に設計されたナノ光学コーティングを用いるフォトニック太陽光変換(PSC)プロセスは、紫外線(UV)波長および可視光線の一部を包含する波長を有する高エネルギー光子を、c-Siセルのバンドギャップにより厳密に調整されたより低エネルギーの光に、ダウンコンバートすることができる。光エネルギーをよりエネルギー変換に適したレベルに状態調整するこのタイプのダウンコンバージョンは、フォトニックセル(photonic cell)の外部量子効率(EQE)を上昇させることができる。出願人のプロセスに従ったダウンコンバージョンを用いて形成されるコーティングは、より低価格の従来型太陽電池パネルの効率を15%~22%改善することができる。より広い観点において、本開示の態様を用いると、入射光の波長シフティング、例えば、ダウンコンバージョン、アップコンバージョン、およびバンドギャップを狭くすることなどを提供することができる。
【0033】
[0053]図2の太陽放射線スペクトルのグラフに示すように、太陽エネルギーは約300~2400nmの範囲の波長を有する。1064nmのバンドギャップを用いての太陽エネルギーPV変換にもっとも有用な波長は、約400~1200nmの範囲にある。
【0034】
[0054]図3は、スペクトルのダウンコンバージョンの機構を簡略図の形態で示し、高エネルギーの光子が2つのより低エネルギーの光子に変換されている。光伝搬性材料においてこのタイプのスペクトル変換を提供するための従来の解決法は、ランタニド材料に大きく依存する。
【0035】
[0055]従来の活用の一つとして、光を状態調整し、量子ドットおよびランタニドイオンでのフォトルミネッセンスダウンコンバージョン層(PDL)を用いてある程度のダウンコンバージョンを実施するための太陽光スペクトルの管理は、公知である。原理上、図3の簡略図に図示するように、ダウンコンバージョンは、1つの高エネルギー光子が2つ以上のより低エネルギーの光子に共鳴移動して、外部量子効率(EQE)に100%を超える増大を生じさせるため起こる。
【0036】
[0056]例えば、フッ化イットリウムYF3ホスト中にプラセオジムPr3+を有するランタニドイオン層において、波長185nmで高エネルギーを有する光子(約6700meV)は、最初にランタニドイオンに吸収された後、408nmおよび620nmの2つの低エネルギー光子にダウンコンバートされる(約3040~2000meV)。このプロセスは2つの段階で達成される;
最初に:
→ 408nmで
つぎに、第2の変換 → 620nmで
【0037】
[0057]高エネルギー光子を多数の低エネルギー光子にダウンシフティングするプロセスは、光子あたり1より多くの電子が生じる確率を上昇させ、したがって、外部量子効率は高くなる。
【0038】
[0058]エネルギーのダウンコンバージョンのための従来のアプローチに使用されるランタニド元素の使用および利点は、十分に理解されている。ランタニドの特徴であるさまざまな状態における電子の利用可能性により、これらの物質はダウンコンバージョン適用に容易に使用可能になる。一方、他の元素はこの固有の利点に恵まれておらず、ダウンコンバージョン物品を製作するための有力候補材料と見なされないであろう。
【0039】
[0059]しかしながら、ランタニド材料は、費用、利用可能性、取り扱いにおいていくつかの問題を呈し、いくつかの環境上の懸念を知らしめている。ランタニドはまた、得ることができる改善の程度を抑制するかなりの損失を示す。
フォトニック太陽光変換
[0060]光起電技術の効率を改善するための、およびスペクトル状態調整が有用性を有する他の適用のための出願人のアプローチは、太陽エネルギー変換において効率を改善するために光の波長をシフトさせるのに、ランタニドまたはリンに基づく発光に依存しない。その代わりに、出願人は、光の処理およびエネルギー変換の新規順序と併せて、光起電性適用および他の適用にもっとも有用なダウンコンバージョンをもたらすように工学的に設計することができる対応する層状構造を特定した。出願人の技術により量子マッチング(quantum matching)を波長シフティングの問題に適用して、ブラッグ反射の性質および表面増強ラマン散乱(SERS)の効率の両方が生かされる多層構造を形成する。
【0040】
[0061]本開示の態様を用いると、すでに設置されている太陽電池パネルの性能を改善することができることは重要である。出願人は、既存の太陽電池パネルの出力を押し上げるために、以下を含むいくつかの革新技術を組み合わせている:
(i)光子スペクトルの状態調整。太陽放射線を、PVセルのバンドギャップエネルギーに近い波長でコヒーレント光エネルギーに変換する。
【0041】
(ii)バンドパスフィルターおよびスペクトル変換器として機能して、PVセルのバンドギャップエネルギーに近いエネルギーレベル(波長)を有する光子を透過させる、ナノ光学コーティング。態様に従って、金属酸化物コーティングの1群の施用によって作り出されるスペクトル変換器は、入射太陽光からの放射線を、800nmのピークに近い最適波長周囲の100nmのバンドパスに変換するために用いられる。フィルター/スペクトル変換器層を光起電力パネル上に施用したら、コンセントレーターを用いて太陽放射線の強度を単位面積あたりのsunで5倍~15倍に増大させて、最適に近い波長を有する入ってくる光子の密度を増大させる。
【0042】
(iii)PVセルに焦点を合わせたコンセントレーターなど、少なくとも1つの集中化方法を使用して増大させた光子密度。態様に従って、最適波長のためのバンドパスフィルターでコーティングしたフレネルレンズのハニカムを、太陽電池セルの出力の5倍増大を達成するように設計する。
【0043】
[0062]性能を最適化するための標的波長は、可変波長固体レーザーで所定の半導体太陽電池セルの周波数応答を測定することにより決定することができる。レーザー出力は、例えば600nm~1100nmに増大させるなど、ある範囲にわたり変動させることができ、その間に該範囲にわたり増分点(incremental point)での出力および効率を測定する。
【0044】
[0063]一例として、図4のグラフは、ある波長範囲にわたる入射レーザー光についてポリシリコンp-n接合によって生じた電力を示している。最適値400は、800nm付近のピーク出力にある。
【0045】
[0064]図5のグラフは実験観察結果を示し、コヒーレント波長における光子密度の増大の結果として電流出力は増大する。図5に示すように、太陽電池セルに入射するレーザービームの最適波長におけるコヒーレント光子の強度の増大は、電力発生を直線的に増大させる。
【0046】
[0065]p-n接合に最適な波長の光を方向付けるために提供される光学フィルターは、PVパネルにおける電気エネルギーの発生に有用でない他の光子をすべて遮断するために用いられる。
【0047】
[0066]図5に示すように、x軸は、望ましい波長を有する光子を標的p-n接合に照射する固体レーザーの電力入力を、Pin電力入力として表す。y軸は、最大電力出力Pmaxを表す。電力出力は、電力入力の増加に伴い直線的に増大する。これは、太陽電池セルのバンドギャップエネルギー(マッチングエネルギー)に近い光子は、それに応じて電気へのフォトニック変換効率を増大させることを示す。電力発生の増大は光子強度の増大に対し直線的であり、光子は適切な電力レベルへ変換される。
【0048】
[0067]本開示の態様では、光学的コンセントレーターとPVパネル基材上のスペクトル変換光学コーティングとの組み合わせを用いて、電力発生を増大させる。
太陽電池パネルの配列
[0068]図6は、本開示の態様に従って形成された太陽電池パネル600の分解図を示す。光コンセントレーター層620は、光を集中化し、集中化した光をPVアレイ610上に配置されたPVセル612に向かって光路に沿って方向付けるための、レンズ素子のアレイ622、例えば隣接するフレネルレンズのアレイを有する。バンドパスフィルター/スペクトルコンディショナー630は、光コンセントレーターとPVアレイの間を伝達される光を状態調整するために光路の適所に置かれる;スペクトルコンディショナー630は、ガラスまたは光学コーティングを有する他の光学的に透明な材料の層の上部または内部に形成することができる。別の態様に従って、光コンセントレーターのアレイ620とスペクトルコンディショナー630の相対的位置は、入射太陽光のフィルタリングおよびスペクトル変換が光路における光の集中化より先に起こるように、図6に示すものから入れ替えることができる。
【0049】
[0069]図7は、態様に従って、アレイ610、フィルター/スペクトルコンディショナー630、およびコンセントレーター620を一緒に所定の位置に単一ユニットとして保持するために、さまざまなタイプのクランプ、ブラケット、または他の締結具640を用いて組み立てられた太陽電池パネル600を示す。本開示の態様に従って、層状構成要素の接面に相当する隣接する平行面の間の距離は、20mm未満である。この距離は、例えば光学的コンセントレーターの特定の配列に合うように、またはPVもしくは光を状態調整する構成要素の性能を改善するために、変動させることができる。
【0050】
[0070]本開示の態様に従って、構成要素610、620、および630の間の間隔は、調整可能であることができる。
[0071]図8は、組み立てられた太陽電池パネル600のコーナー部分を示す拡大図である。
レトロフィット適用
[0072]PVデバイスのアレイを有する既存の太陽電池パネルをレトロフィットするために、本開示の態様は、光コンセントレーター620とバンドパスフィルター/スペクトルコンディショナー630の適切な層を提供する。モジュール的アプローチを用いて、光コンセントレーター620とバンドパスフィルター/スペクトルコンディショナー630の層を、太陽電池パネルの寸法および幾何学的アレイ形状に合うように設計し、拡大縮小し、形作ることができる。
光コンセントレーター620
[0073]ナノ光学コーティングまたは使用可能なフォトニックバンドパスフィルターを通過する光子数を増大させるために、フレネルレンズコンセントレーターのアレイ(ハニカム配列を有する)などの光学的コンセントレーターのホスト層を、フォトニックバンドパスフィルターの上部で層形成することができる。バンドパスフィルターによる低集中光学(3倍~5倍)とコヒーレンス増強ナノコーティングとの組み合わせを用いるデバイスは、従来の光起電力パネルと比較してエネルギー発生の顕著な増大を提供することができる。
【0051】
[0074]平面光コンセントレーターアレイは、コンパクトな実装にもっとも有利である。フレネルレンズ素子に加えて、さまざまなタイプの光コンセントレーターを用いることができる。例えば、平面光コンセントレーターとしては、例えばホログラフィックレンズアレイおよびGRIN(屈折率分布型)レンズアレイを挙げることができる。
【0052】
[0075]光コンセントレーター620およびPVセルは、光起電力変換のために提供されるエネルギー収集を最適化するように位置合わせして配列されている。スペクトルコンディショナー630は、例えば、アレイ形態で、または連続シートまたはコーティングとして、提供されることができる。
バンドパスフィルター/スペクトルコンディショナー630のための光の処理
[0076]光学工業では、太陽放射線の選択的透過および反射のために、透明媒体上に施用されるさまざまなタイプのコーティングが用いられてきた。化学蒸着(CVD)および物理蒸着は、透明媒体を通過する光の波長を制限するためのバンドパスフィルターを形成するために適合されてきた成熟技術である。出願人は、太陽光放射を受けた光子の波長分布を、単結晶シリコン太陽電池セルのバンドギャップにより厳密に対応するように位置合わせすると同時に、例えばコーティングを用いて提供される、基材上に形成されたバンドパスフィルター/スペクトル変換器630を用いて光子のコヒーレンスを増強する、独占所有権のあるナノ粒子に基づく光学コーティングを開発した。
【0053】
[0077]フォトニック太陽光変換を達成するために、薄フィルム光学フィルター技術は、所定のバンドパス内での太陽放射線の透過を制限するように構成されてきた。p-n接合太陽電池セルによって(例えば、Si太陽電池セルによって)受け取られる光子は、電磁放射エネルギーレベルを有する。太陽電池セルの吸収に対するスペクトル応答は、入射光の波長がバンドギャップに近づくにつれ直線的に増大する。したがって、2つの効果が望ましい:1)バンドギャップに近くなるように波長を抑制する;および2)吸収を最適化するために、p-n接合のバンドギャップに十分に近い波長を有する多数の光子を作り出す。
【0054】
[0078]太陽放射線は、図2に示すように、300nm~2400nmの広範囲の波長を有する。1064nmにバンドギャップを有するSi太陽電池セルに関する太陽エネルギー光起電力変換の対象領域は、約400nm(可視)~1200nm(赤外)の範囲にある。バンドギャップを超える太陽放射線はバンドギャップを通過し、光起電力変換には有用でない。
【0055】
[0079]効率が向上するように太陽放射線を状態調整するために、出願人は、バンドパスフィルター/光コンディショナー630を、太陽放射線を800nm~1100nmの波長に向かってシフトするように状態調整する化学蒸着または他の適した付着方を用いて形成される薄フィルム光学フィルターとして開発した。このバンドパスフィルターは、金属酸化物の組み合わせ、例えばSiO2およびTiO2を用いて形成される。これらの酸化物を用いて、独占所有権のあるナノ粒子混合物を生じさせる。例えば、二価のマンガンおよび三価のクロムは、1064nmのp-n接合バンドギャップに近い波長で蛍光を発する。この独占所有権のある薄コーティングは、この範囲におけるより適した波長に必要な光子の状態調整を提供する。このようにして形成されたフィルター層は、光起電力セルのアレイへの光路中にある、ガラス基材上に施用することができる。その後、光学的コンセントレーターを用いて、光子密度の濃度を単位面積あたり最大で10~100sunまで増大させることができる。
【0056】
[0080]図9のグラフは、本開示の態様に従って、3つの異なる構成要素の配列、すなわち、ベアセルPV出力910、レンズまたは他の光学的コンセントレーターを加えての出力920としてのPV発電、および加えられたバンドパスフィルターを用いての出力としてのPSC発電930、を用いて得たエネルギーレベルの比較を示す。図10の表は、4日間にわたり取られた測定値(ワット-時)でのPV、PVCおよびPSCの事例に代表的なエネルギー値を示す。
バンドパスフィルター/光コンディショナーの構成
[0081]図11の流れ図は、バンドパスフィルター/スペクトルコンディショナー630によって実行される、ダウンコンバージョンまたは他のタイプのスペクトルシフティングを提供する光処理の順序を示す。代表的態様に従って、この順序は、受け取った太陽光放射線中のより高エネルギーの紫外線および可視光線の一部を、従来のシリコンPVセルのより低エネルギーのバンドギャップ範囲である1064nmにシフトさせるために用いることができる。出願人のコーティングによって達成される順序は以下の通りである:
(i)工程S200:入射光エネルギーを受け取る。例えば、入射太陽光の場合、ほとんどの放射照度は可視領域内、おおよそ約450~700nmにある。
【0057】
(ii)工程S210:分布ブラッグ反射(DBR)を量子閉じ込めと共に用いてスペクトルシフトおよび選択を行う。
(iii)工程S220:表面増強ラマン散乱(SERS)を用いてさらなるスペクトルシフトを行う。
【0058】
(iv)工程230:エネルギーを取り入れるために光を透過させる;これは、PV変換器20などにおいてスペクトル的にシフトさせた光を包含する。
[0082]光起電作用の結果、工程S230に続いて電流が発生する。発生した電流は、バッテリー電池または他の蓄電池などに蓄えることができ、または、電気エネルギーを得るために直接用いることができる。
【0059】
[0083]光エネルギーの集中化は図11の順序に示されていないことに留意すべきである。一態様において、図6を参照して記載したように、工程S200で受け取られた光エネルギーは、コンセントレーターアレイ620で集中化された。別の態様に従って、光の集中化は、スペクトルシフトの後、すなわち、図11の順序の工程S220とS230の間で行われる。
【0060】
[0084]図12Aのグラフは、コーティングしていない光学ガラスの透過スペクトルを、本開示の態様に従って形成したコーティングを有する同じガラス材料の透過スペクトルと比較している。見てわかるように、透過効率は、より高波長の光で向上している。この向上は、PV適用に有益であることができる。図12Bは、窓ガラスの透過と比較して、スペクトルコンディショナー630として用いられる本開示の態様に従ってコーティングされた光伝搬性材料の改善されたスペクトル応答を示す。
【0061】
[0085]図12Cのグラフは、空気中の入射光の分光放射照度(破線)および本開示のコンディショナー630のコーティングを通過する伝搬によりスペクトル的にシフトしている光の分光放射照度(実線)を示す。陰影部分は、電力密度全体におけるエネルギーの分布および変化の対応するシフトを示す。
【0062】
[0086]図12Dは、スペクトル変換に異なるコーティングを用いての分光放射照度対eVでのエネルギーを、エアマス(AM1.5)標準に対して示すグラフである。
[0087]図12Eは、単位面積あたりの毎秒の光子数として測定される相対的光子束の変化を、eVでのエネルギーに対して示す対応するグラフである。
【0063】
[0088]図13の横断面図は、バンドパスフィルター/スペクトルコンディショナー630の構造を、一定の縮尺ではない略図の形態で示している。構成要素630は、透明基材52上のコーティング40を提供するために用いることができる層の配列を有し、コーティング40は、PV適用における光エネルギーのダウンコンバージョンに関し上記スペクトル挙動を有し、光は、示した方向で上方から入射している。カバー42は、光伝搬性材料、典型的にはガラスまたはプラスチックから形成される。改変された分布ブラッグ反射体(DBR)部分44は、入射光の一部のコヒーレンス長を変化させることにより、図2の順序に記した選択を伴う第1のスペクトルシフトを提供する多層構造である。その後、スペクトル的にシフトした光は表面増強ラマン散乱(SERS)層46に方向付けられ、そこで次のスペクトルシフティングが起こる。その後、望ましいバンドギャップ、例えばPVデバイスのバンドギャップなどの方へシフトした得られた光エネルギーを、PV材料または他の基材に方向付けることができる。
ブラッグ反射体部分44の構造および組成
[0089]本開示の態様では、以下に記載するように、量子マッチングのために改変させたブラッグ反射の原理を使用する。ブラッグ反射は、ひとりでにスペクトルシフトを生じさせるわけではなく、どちらかというと狭いスペクトル部分の選択的反射に用いられることに、留意しなければならない。ブラッグ反射体構造内で形成される追加的なシフティング機構をより良く理解するためには、最初にブラッグ反射の基本原理をいくつか復習することが有用である。分布ブラッグ反射体の配列は、代替的に、特定のエネルギーバンドを集合的に定義するミクロ構造の周期的配列として形成される1次元フォトニック結晶とみなすことができる。
【0064】
[0090]図14の概略側面図および図15の分解図は、態様に従ったブラッグ反射体部分44に関する多層60、66の配列を示す。ブラッグ反射体部分44は、フォトニック結晶を提供する4分の1波スタックとして形成される。互いに重なり合っている一連の透明層は、屈折率が交互になっている交互層を有し、屈折率をそれぞれn1、n2として示す。図1に4層を示す;ブラッグ反射体を形成するために、追加の層を代替的に用いてもよい。態様に従って、6~12周期が用いられ、各周期は指数が交互になっている一対の層を有する。屈折率の周期的変動は、λ/4の厚さを有する層によってもたらすことができ、ここで、波長λは、特定の適用に適した波長である。本開示の代表的態様に従って、標的ブラッグ波長λは約600nmである。
【0065】
[0091]それぞれ指数n1およびn2を有する異なる材料について値d1とd2の間でわずかに変動する層の厚さは、ブラッグ波長λにおいてブラッグ反射を提供することができ、変動する厚さの値は以下によって与えられる:
【0066】
【化1】
【0067】
シリコン(Si)に関し、層厚は、典型的には60nm範囲にある。
[0092]ブラッグ層の配列の周期Λは以下で表すことができる:
【0068】
【化2】
【0069】
または
【0070】
【化3】
【0071】
式中、
【0072】
【化4】
【0073】
したがって、
【0074】
【化5】
【0075】
[0093]ブラッグ反射波長:
【0076】
【化6】
【0077】
を用いて、伝搬定数を得ることができる:
【0078】
【化7】
【0079】
[0094]波長の光の場合:
【0080】
【化8】
【0081】
[0095]回折格子と同一位相の光の場合、指数n1とn2の差は比較的小さい。ブラッグ波長では、透過損失は非常に少ない可能性がある;この波長における反射能は99.99%を超える可能性がある。
【0082】
[0096]光起電デバイスへの光または光起電デバイス内の光を処理するための他のより従来型の提案されている解決法は、入射光を捕捉するか、さもなければ含有するためにブラッグ反射率を用いるが、波長シフトを提供する能力に欠ける。本開示の態様は、分布ブラッグ反射体構造の形成に量子マッチングを使用して波長シフティングの問題に対処する。量子閉じ込めブラッグ回折格子において、反射体配列は、光学利得を2倍増強するために、光エネルギーを波腹で維持する。
【0083】
[0097]態様に従って、量子閉じ込めまたは量子マッチングは、酸化ケイ素(SiO2)基材内に埋め込まれたシリコン(Si)ナノ粒子/ナノ結晶の分布を用いて達成される。分布しているナノ粒子間の空間は、SiO2基材内に垂直キャビティを形成する(“垂直”は、層およびPVデバイス表面の平面に対し概して直角方向に伸長している)。キャビティ内の光信号の共鳴は、全体的分布およびこれらのキャビティの垂直距離に対応する周波数(波長)で光コヒーレンスをもたらす。したがって、量子マッチングにおいて、DBR構造の1以上の各層内のナノ粒子の相対的濃度および分布は、Si/SiO2層の屈折率および得られるスペクトルシフティングの範囲の両方に影響を有する。
【0084】
[0098]本開示の態様によると、2つの異なる層が、DBRコーティング40構造中で交互になっている:
(i)図5に示す層状配列中の層60は、SiO2基材内にSi粒子の分布を有する工学的に設計された材料から形成され;そして
(ii)交互になっている層66は、インジウム-スズ酸化物(ITO)など他の透明な導電性材料から形成される。同様に用いることができる代替材料としては、さまざまなタイプのドープされた二元化合物、例えば、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウムドープ酸化カドミウム、およびアルミニウム、カリウムまたはインジウムがドープされた酸化亜鉛(AZO、GZOまたはIZO)などが挙げられる。
【0085】
[0099]基材およびナノ粒子構成要素を提供するために用いられる材料は、標的波長に適した幾何学的形状を有する垂直キャビティを形成するための適合性に関連して選択される。
SERS層46の構造および組成
[00100]ふたたび図13の略図を参照すると、SERS層46は、ブラッグ反射体部分44を通過する光の伝達および波長の初期シフティングに続いて、入ってくる光に追加的な波長シフトをもたらす波長変換機関を形成する。
【0086】
[00101]光子のダウンコンバージョンを散乱およびストークスシフトで考えると、近共鳴ラマン散乱は、紫外線(UV)または可視(VIS)励起源、例えば325nm励起源と仮定すると、赤外線(IR)エネルギー領域にT2(LO)ピークをもたらす。したがって、例えば、325nm源は、対象となる600nm~1050nmの領域内にピークを生じさせることができる。生じるT2(LO)ピークの強度は、6nm~30nmのZnSナノ粒子サイズに伴い上昇する。
【0087】
[00102]態様において、表面増強ラマン効果は、350nm~450nmの範囲にあるUVおよびVISを、ラマンシフト(ストークスシフト)の結果、600nm~1000nm領域にあるT2(LO)ピークに励起させる。このシフトは、量子閉じ込めと、表面プラズモンによって作り出される自由励起子発光エネルギーとによって生じるバンドギャップエネルギーの変化によってもたらされることができる。ZnS金属ナノ粒子はストロークシフトに必要なプラズモンエネルギーを提供し、したがって、対象領域で放出されるシフトした光子のエネルギー損失をもたらさない。
【0088】
[00103]ラマン散乱は、分子材料の電子からの双極子雲(dipole cloud)の形成の結果である。ラマン散乱信号のスペクトルシフティングおよび表面増強は、SERS層46を形成する基材内での適切な材料、例えば、銀、金および亜鉛などの導電性ナノ粒子の分布に起因する。材料およびそれらの分布を適切に選択することにより、SERS層46を局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示すように構成して、適した波長範囲の方へのスペクトルシフティングを提供することができる。本明細書中で用いられる“導電性”という用語は、比較的低い体積抵抗率、例えば、限定されるものではないが、20℃で10オーム-m未満である体積抵抗率を有することをさす。体積抵抗率は、材料が電流の流れに逆らう能力に関連する。
【0089】
[00104]SERS層46は局在表面プラズモン共鳴(LSPR)をもたらして、適した波長範囲へのスペクトルシフティングを生じさせる。
[00105]埋め込まれたナノ結晶の分布がまばらな媒体を通過する光の伝搬は、以下のように計算して、均質媒体の有効屈折率によって概算することができる:
【0090】
【化9】
【0091】
式中:
m=ナノ粒子が埋め込まれている光伝達性媒体の屈折率;
κ=ω/c 媒体中の波数;
ρ=N/V 粒子数N÷体積V;
S(0)は、前方向の散乱振幅である;
[00106]吸収媒体が複素屈折率を有する場合の吸収係数は、一般に以下である:
【0092】
【化10】
【0093】
小さな同一のナノ粒子を含む薄層の場合、吸収係数は以下により与えられる:
【0094】
【化11】
【0095】
式中、Cextは単一粒子の消散断面積であり、散乱振幅RS(0)の実部に比例する。
[00107]ベールの法則に従って、距離hにわたり有効媒体を通って伝搬する平行ビームの減衰は、以下を用いて得られる:
【0096】
【化12】
【0097】
式中、Iは強度である。
[00108]波長シフティングは、本明細書中で参考として援用するvan Dijk et al.による“Competition between Extinction and Enhancement in Surface-Enhanced Raman Spectroscopy”という表題の論文、Physical Chemistry Letters, American Chemical Society, 2013. pp.1193-1196に記載されているように、競合過程の間の相互作用によって生じる。SERSは、ナノ粒子のプラズモン周波数において共鳴信号の消散をもたらすと同時に、共鳴波長からある距離において対応するラマン散乱信号の増強をもたらす働きをする。ナノ粒子がプラズモン共鳴で励起されたときにラマン信号が低減するこの直感に反した挙動は、典型的にPV適用に望ましい挙動である、より長波長への入射光のアップコンバージョンをもたらすように適合させることができる。あるいは、SERSは、波長バンドマッチングと同様に、より短波長への入射光のダウンコンバージョンを生じさせるために用いることができる。
【0098】
[00109]ラマン散乱光エネルギーの波長および強度を調整するために制御することができる因子には、ナノ粒子のタイプ、形状、全体的サイズ、および濃度/分布がある。SERS構造を用いたスペクトル応答の設計は、例えば、A. Bouali, S. Haxha, F. Abdelmalek, M. Dridi,およびH. Bouchrihaによる“Tuning of Plasmonic Nanoparticle and Surface Enhanced Wavelength Shifting of a Nanosystem Sensing Using 3-D-FDTD Method”という表題の論文、IEEE Journal of Quantum Electronics Vol.50, No.8(2014年8月), pp.651-657に記載されており、これを本明細書中で参考として援用する。
【0099】
[00110]プラズモン共鳴材料は、材料の粒径、サイズ、および周囲基材の誘電特性に特徴的な周波数スペクトルにわたり入射光を散乱させる。いくつかの材料についての共鳴散乱光は、波長を増大させて、例えば入射光への“赤方偏移(red-shift)”をもたらすことができる。
【0100】
[00111]金属粒子におけるプラズモン発生の特徴は、その表面付近の領域における増強された電場の生成である。この電場と隣接材料の間の相互作用は、共鳴粒子および隣接材料の両方の散乱特性を著しく変化させることができる。表面増強ラマン分光法(SERS)では、ラマン散乱が数桁増強されるように工学的に設計された粒子コーティングされたフィルムにおける局在プラズモン共鳴が活用される。この技術を使用すると、対象材料に由来するラマン散乱を観察することができる;プラズモンによって生成される局所電場を用いて、散乱の強度を増強することができる。
【0101】
[00112]本開示の態様に従って、SERS層46は、透明な導電性ベース材料またはマトリックス内に埋め込まれた、酸化亜鉛(ZnO)または他の透明な導電性金属から形成された金属ナノ粒子から形成される。本開示の態様に従って、ITOは導電性ベース材料である。必要とされる波長シフティングの量に応じて、いくつかのタイプの金属ナノ粒子を、SERS層46でプラズモン応答を得るために用いることができる。適した金属ナノ粒子としては、金および銀などの貴金属、ならびに、低反応性および高反射に好ましい特性を有する金属、例えば、コバルトおよびクロムなどを挙げることができる。硝酸亜鉛などのさまざまな化合物を代替的に用いることができる。量子エレクトロニクス分野の技術者なら知っているように、もたらされるスペクトルシフトの量は、例えば適切に設計されたコーティングを施用することにより、材料中に工学的に設計することができる。達成されるスペクトルシフトは、部分的に、ナノ粒子のサイズおよび分布、ならびにベース材料またはマトリックスの複素屈折率の因子であることができる。
【0102】
[00113]さまざまなタイプのナノ粒子を使用し、本開示のフィルムまたはコーティングの異なる層内でのそれらの相対的サイズおよび分布を制御することにより、アップコンバージョン、ダウンコンバージョン、または波長バンドマッチングへの使用を可能にする光波長の調整が可能になることに、留意すべきである。
ダウンコンバージョンフィルムの製作
[00114]例えば、太陽エネルギー変換適用に関し、出願人は、ダウンコンバージョンコーティングまたはフィルム40を上記配列を用いて形成すると、入射太陽光をPVデバイスによる効率的変換により好ましい波長に状態調整する適切な波長シフティングを提供することができることを見いだした。
【0103】
[00115]図13~15に示す層状配列に関し、製作工程は、透明なガラスまたはプラスチック基材であることができるカバー42から開始し、つぎにカバー42上にブラッグ反射体部分44の層を形成した後、SERS層46を形成する。
【0104】
[00116]ベースとしてのカバー42上にコーティング40を形成する工程は、以下の順序を用いることができる:
[00117](i)スパッタリングまたは他の付着技術を用いて50nmのITOまたは他の導電性光伝達性材料を付着させて、第1の層66を形成する。
【0105】
[00118](ii)層66上にSiの薄層をスパッタリングするか、または他の方法で付着させる。
[00119](iii)焼結またはアニーリングを用いて付着Si層からナノ結晶を形成させる。態様によると、摂氏600~800度の範囲の焼結温度では、ITO層とは異なる所定の屈折率を有する層60を形成し、適した波長におけるブラッグ反射のための垂直キャビティを形成するのに望ましいナノ結晶分布を有するのに適したサイズおよび分布のSiナノ結晶が形成する。
【0106】
[00120](iv)形成したナノ結晶上にITOまたは他の導電性光伝達性材料を付着させることにより、埋め込み層を形成する。
[00121](v)工程(i)~(iv)を2回以上繰り返して、ブラッグ反射体部分44を形成する。
【0107】
[00122](vi)ITOなどの導電性透明ベースを適用し、該ベース上にZnOを埋め込むか、または他の方法で分布させることにより、SERS層を形成する。
[00123](vii)SERSを生じさせるのに適した分布を有するナノ粒子状ZnO粒子を形成する。
【0108】
[00124]いくつかのナノ光学コーティングの形成方法が公知である。これらの方法としては、限定されるものではないが、ロールコーティング、スピンコーティング、物理蒸着、化学蒸着およびマグネトロンプラズマスパッタリングが挙げられる。ロールコーティングには、ポリマーバインダーから形成される充填剤および太陽光に暴露されると分解する充填剤を使用するという不利な点がある。
【0109】
[00125]マグネトロンプラズマスパッタリングは、無機で持続時間の長い(long-lasting)金属酸化物、例えば、TiO2、SiO2、MgF2などのナノ光学コーティングに用いることができる。この技術によりインライン処理が可能になり、好ましいサイクル時間内に非常に多くのガラスシートをスパッタリングすることができる。マグネトロンプラズマスパッタリング技術は、アディティブファブリケーション(additive fabrication)プロセスとしてナノ光学コーティングを一層ずつ構築する。
【0110】
[00126]図16の略図は、アディティブファブリケーションおよびその場でのコーティング内でのナノ粒子形成の順序を示す。左から右に、スパッタリングを用いて、(試料位置において)基材に材料および関連酸化物を施用する。その後、N/O雰囲気中のような制御条件下でのアニーリングプロセスを用いて、それの基材へのコーティングを状態調整する。アニーリング温度は、限定されるものではないが、典型的には摂氏900~1200度の範囲にある。得られたナノ粒子を試験し、望ましい透過特性および反射特性をもたらすために用いることができる。
【0111】
[00127]単一接合型c-Si太陽電池セルの上面および底面における良好な接触のために、透明導電性酸化物(TCO)内など、透明材料のマトリックスにナノ粒子を包含させるために、熱的アニーリングを達成することができる。同様に付加製造(additive manufacturing)プロセスを用いて金属酸化物のスパッタ層を熱的アニールしてその場でナノ結晶を作り出すことにより、改善された制御が可能になる;材料分野の技術者によく知られた方法を用いてアニーリングの温度および圧力を加えることにより、ナノ結晶活性層のサイズおよび密度の精密な制御が可能になる。
【0112】
[00128]記載した付加製造の順序は、インラインでの高処理量の処理に適している。石英ヒーターをスパッタリングチャンバー内に組み込むことができる。コーティングは、少なくとも1つの蛍光ナノ粒子層を包含することができる。
【0113】
[00129]態様によれば、700~1100nmのバンドパスと、PVおよび他の適用により適した、波長300nm~600nmの高エネルギー光子から800nm~900nmのより低エネルギーの光子へのダウンシフティング率が低いこととを達成するために、金属酸化物中で適切に構造化されて埋め込まれたナノ粒子を組み合わせる一連の工程がある。実験的コーティングの透過率および反射率スペクトルは、独立した試験によってバリデートされている。例えば、屋外試験では、72セルの実物大太陽電池パネルについて効率の向上が示され、野外実験に基づく太陽電池パネルの効率で平均15%~22%の全体的改善がみられる。
【0114】
[00130]図13の横断面図は、ガラス基材52に施用された層を用いてバンドパスフィルター/スペクトルコンディショナー630に用いるための層状配列を示す(縮尺は一定ではない)。態様に従って、必要な材料の層は、フィルムまたはコーティングとして形成および提供されることができる。提供されるフィルムまたはコーティングは、ロール形態またはシート形態で製作した後、基材表面に、例えばEVA(エチレン-酢酸ビニル)のような光学的接着剤を用いて施用することができる。
【0115】
[00131]本開示の態様に従って、基材は、低鉄分の太陽電池用ガラス、例えば、インド、GujaratのGujarat Borosil Ltd.によって製造された太陽電池用ガラス製品である。
【0116】
[00132]層は、いくつかの適した方法のいずれか、例えば、物理蒸着または化学蒸着により、光伝搬性基材上に形成することができる。焼結およびアニーリングプロセスは、例えば、高真空下または無酸素環境で実行することができる。
【0117】
[00133]本開示の別の態様に従って、図13に示し本明細書中に記載する層状フィルムは、ガラスまたは他の光学的材料または構成要素に施用するためにフィルム基材上に形成することができる。あるいは、フィルターを形成する層は、改善されたスペクトル効率または応答のために、光伝搬性材料またはフォトニック構成要素の表面上に直接形成することができる。
【0118】
[00134]態様ではダウンコンバージョン機能について記載したが、本開示の装置および方法は、材料の分布およびサイズを適切に変化させて、アップコンバージョンならびに好ましい波長範囲への光エネルギーのシフティングに代替的に適用することができる。
単結晶Si太陽電池セルでの予備実験の結果
[00135]フォトニック太陽光変換プロセスという概念を証明するものとして、出願人は予備実験を行った。太陽光の1軸トラッキングを用いる動的試験プラットフォームを使用して、単結晶Si単一太陽電池セル(152×152mm)を3つの比較条件に付した。3つの試験条件は以下であった:
[00136]ベアPVセル(PV)
[00137]フレネルコンセントレーターを有するPVセル(PV-C)
[00138]ナノフォトニックフィルターおよびフレネルコンセントレーターを有するPVセルを備えるフォトニック太陽光変換パネル(PSC-SP)
[00139]予備実験の結果は、ベアPVの電力発生ワット数が、もっとも少ない発生電力であることを示した。光学的コンセントレーターを有する同じPVセルでは、電力発生は増大するが、温度上昇に起因して、電力発生は低減する。最大の電力発生は、図6および図9のグラフに示すように、700nm~1100nmのバンドパスを有するフォトニックフィルターとコンセントレーターとの組み合わせによって得られる。x軸は観察時間を表し、y軸はエネルギー発生をワット時で表す。3つの状態をグラフ化する-出力910はベアPVセルを表し、つづいて、出力920は、光学的コンセントレーターを有するPVセル(PVC)の配列を表す。出力930のグラフは、ナノ光学フィルターおよびコンセントレーターアセンブリーを有するPVセルを表す。
【0119】
[00140]PV-C構成に関する電力発生は、最初はPSC-SPより高いが、時間が経つにつれ、フラットになり、PSC-SP電力発生より低くなる。図10は、3日間にわたり行われた3つの構成の比較であり、より長期間のデータ測定に関しては、7日間にわたり行われた。
【0120】
[00141]図9は、PV-CおよびPSC-SPによる増大を示し、フォトニックフィルターおよびコンセントレーターを有するPSC-SPパネルが、PVおよびコンセントレーターを有するPVCの両方より一貫して高いことを示している。エネルギー発生における増大がより多いことは、Siのp-n接合バンドギャップに近い波長での光子の状態調整と、850nmの最適吸収波長に近い波長における多数の存在(abundance)に起因することができる。PVC/PVの増大率は平均してほぼ100%であるが、太陽電池セルの温度上昇に伴い著しく低下する。PSC-SP構成を有する単一PVセルでの増大率は平均で200%に近く、5倍集中化しても、太陽電池セルの温度は上昇しないので一定のままである。3つの構成に関するこの予備実験のデータは、提案される装置の有効性を示している。
【0121】
[00142]図17のチャートは、本開示の態様に従って、スペクトル変換に用いられるさまざまなコーティングの代表的データを示す。
[00143]本開示の態様に従って、光学コーティングは、あらかじめ決定された波長範囲を反射するように形成された層のセットを有し、該層のセットは、交互になっている第1および第2の層を2対以上包含し、該第1の層は第1の屈折率nを有し、該第2の層は、第1の屈折率nより大きい第2の屈折率nを有し、該第2の層はそれぞれ、第1の材料のナノ粒子の第1の分布を包含し、該層は、入射光波長の一部を第1の波長範囲にシフトさせ、第1の波長範囲の光を表面増強ラマン散乱層に方向付けるスペクトル特性を示す。表面増強ラマン散乱層は、第2の材料の導電性ナノ粒子の第2の分布により、第1の波長範囲の光が、ラマン散乱層中のナノ粒子の第2の分布に従って、第1の範囲とは異なる第2の波長範囲にさらにシフトするように構成される。層のスペクトル特性は、ナノ粒子の第1の分布内に形成される反射キャビティによって提供されることができる。第1の材料はシリコンであることができ;第2の材料は導電性金属であることができる。コーティングは、フィルムとして形成することができる。
【0122】
[00144]本開示の態様に従った光学コーティングは、標的波長を反射するように構成された分布ブラッグ反射体部分;ならびに、DBR部分に隣接し、DBR部分から標的波長の光を受け入れ、受け取った光からスペクトル的にシフトしている光を生じさせるように構成された、表面増強ラマン散乱部分;を有することができる。
【0123】
[00145]本開示の態様に従って、以下を含む太陽エネルギー変換装置を提供する:あるパターン、例えば、ハニカムパターンまたは行-列(row-column)パターンで分布している光コンセントレーターの平面アレイ;光コンセントレーターと位置合わせされて光路に分布しているPVセルの平面アレイ;および、光コンセントレーターの平面アレイとPVセルの平面アレイの間に延在するスペクトル変換器、該スペクトル変換器は、光コンセントレーターのアレイからの第1のスペクトル分布の入射光を、PVセルのアレイに向かう第2のスペクトル分布の出射光に変換するように構成される。
【0124】
[00146]スペクトル変換器は、コーティングされたガラスシートを含むことができる。コーティングは、2以上の金属酸化物層から形成されることができる。光コンセントレーターはフレネルレンズであることができる。第2のスペクトル分布は、PVセルのバンドギャップと関連するスペクトル範囲にわたり増大した光エネルギーを有することができる。封入ケーシングが存在していてもよい。
【0125】
[00147]本開示の態様に従って、太陽光の電力変換のための光起電力セルアレイをレトロフィットするための装置は、以下を含む:光起電力セルアレイに対応するパターンで分布している光コンセントレーターの平面アレイ;光コンセントレーターの平面アレイとPVセルアレイの間に延在するスペクトル変換器、該スペクトル変換器は、光コンセントレーターのアレイからの第1のスペクトル分布の入射光を、PVセルに向かう第2のスペクトル分布の出射光に変換するように構成される。フレネルレンズは、例えば、任意の透明ポリカーボネート材料またはポリカーボネート材料群から作製することができる。
【0126】
[00148]態様に従って、光学コーティングは、複数の波長で光子エネルギーを発生させることができる。ガラス基材は、反射防止コーティングを有していても有していなくてもよい。
【0127】
[00149]本発明を詳細に記載し、適切または現在好ましい態様に特に関連して記載した可能性があるが、本発明の精神および範囲内で変動および改変をもたらすことができることは、理解されるであろう。したがって、ここで開示する態様は、あらゆる点で例示的であり、制約的ではないとみなされる。本発明の範囲は、添付する特許請求の範囲によって示され、その等価物の意味および範囲内で生じる変化はすべて、その中に包含されることを意図する。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
以下を含む、太陽エネルギーの電力変換のための装置:
アレイの全体にわたり反復されるパターンで分布している光コンセントレーターの平面アレイ;
光コンセントレーターのパターンと位置合わせされて分布している光起電力(PV)セルの平面アレイ;および
光コンセントレーターの平面アレイとPVセルの平面アレイの光路中に延在するスペクトル変換器、該スペクトル変換器は、第1のスペクトル分布を有する入射太陽光を、PVセルのアレイに向かう第2のスペクトル分布の出射光に変換するように構成される。
[2]
第2のスペクトル分布が、PVセルのp-n接合のバンドギャップエネルギーと同一の光エネルギーを包含する、[1]に記載の装置。
[3]
スペクトル変換器が、光コンセントレーターの平面アレイに対し平行に延在するコーティングされたシートを含む、[1]に記載の装置。
[4]
スペクトル変換器が、2以上の金属酸化物層を有するガラスシートを含む、[1]に記載の装置。
[5]
スペクトル変換器が、蛍光ナノ粒子を包含するコーティングを有する、[1]に記載の装置。
[6]
光コンセントレーターの平面アレイがフレネルレンズを含む、[1]に記載の装置。
[7]
PVセルが封入ケーシングを有する、[1]に記載の装置。
[8]
スペクトル変換器が、光コンセントレーターの平面アレイと光起電力セルの平面アレイとの間に置かれる、[1]に記載の装置。
[9]
光コンセントレーターの平面アレイが、スペクトル変換器と光起電力セルの平面アレイとの間に置かれる、[1]に記載の装置。
[10]
以下を含む、太陽光の電力変換のための光起電力セルアレイをレトロフィットするための装置:
光起電力セルアレイに対応するパターンで分布している光コンセントレーターの平面アレイ、光起電力セルアレイ中の各セルは、少なくとも1つの対応する光コンセントレーターを通って方向付けられている光を受け取る;および
光コンセントレーターの平面アレイと光起電力セルアレイの間に延在するスペクトル変換器、
該スペクトル変換器は、光コンセントレーターのアレイから受け取った第1のスペクトル分布の入射光を、光起電力セルに向かって方向付けられた第2のスペクトル分布の出射光に変換するように構成されており、
該第2のスペクトル分布は、第1のスペクトル分布より長い波長においてより多くのエネルギーを含む。
[11]
光コンセントレーターのアレイが1以上のフレネルレンズを含む、[10]に記載の装置。
[12]
フレネルレンズがポリカーボネート材料から作製される、[11]に記載の装置。
[13]
光コンセントレーターのアレイが屈折率分布型レンズアレイを含む、[10]に記載の装置。
[14]
第1のスペクトル分布と比較して、第2のスペクトル分布が、PVセルのバンドギャップに関連するスペクトル範囲にわたり増大した光エネルギーを有する、[10]に記載の装置。
[15]
光起電力セルが封入ケーシングを有する、[10]に記載の装置。
[16]
光コンセントレーターの2以上の平面アレイ、スペクトル変換器、および光起電力セルアレイの間の距離が調整可能である、[10]に記載の装置。
[17]
スペクトル変換器が以下を含む、[10]に記載の装置:
あらかじめ決定された波長範囲を反射し、入射太陽光の波長範囲を第1の波長範囲にシフトさせるように形成された層のセット、該層のセットは、交互になっている第1および第2の層を2対以上包含し、該第1の層は第1の屈折率n を有し、該第2の層は、第1の屈折率n より大きい第2の屈折率n を有し、
該第2の層はそれぞれ、第1の材料のナノ粒子の第1の分布を包含する;および
第2の材料のナノ粒子の第2の分布により、波長範囲が、ラマン散乱層中のナノ粒子の第2の分布に従って、第1の範囲とは異なる第2の波長範囲にさらにシフトするように構成されている、表面増強ラマン散乱層。
[18]
以下を含む、太陽エネルギーの電力変換のための方法:
第1のスペクトル分布を有する入射太陽光を、第1のスペクトル分布から波長をシフトさせた第2のスペクトル分布の状態調整した光に変換し;
状態調整した光を集中化し、その光を、1つのアレイに分布している複数の光起電力セルのそれぞれに向かって方向付け;そして、
複数の光起電力セルから、状態調整した光の集中度および第2のスペクトル分布に対応する電流を受け取る。
[19]
入射太陽光を、状態調整した光に変換することが、光をブラッグ反射層、つぎに表面増強ラマン散乱層に通して方向付けることを含む、[18]に記載の方法。
【符号の説明】
【0128】
20 PV変換器
40 コーティング
42 カバー
44 改変された分布ブラッグ反射体(DBR)部分
46 表面増強ラマン散乱(SERS)層
52 透明基材
60 層
66 層
400 最適値
600 太陽電池パネル
610 PVアレイ
612 PVセル
620 コンセントレーター層
622 レンズ素子のアレイ
630 バンドパスフィルター/スペクトルコンディショナー
640 締結具
910 ベアセルPV出力
920 レンズまたは他の光学的コンセントレーターを加えてのPV発電の出力
930 加えられたバンドパスフィルターを用いての出力としてのPSC発電
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16