(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】アスファルト組成物の製造方法及びアスファルト混合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20240725BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L97/00
(21)【出願番号】P 2022557532
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038477
(87)【国際公開番号】W WO2022085641
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2020175639
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390002185
【氏名又は名称】大成ロテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石崎 雅也
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 正一
(72)【発明者】
【氏名】辻 志穂
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 清隆
(72)【発明者】
【氏名】山田 敏広
(72)【発明者】
【氏名】青木 政樹
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-294077(JP,A)
【文献】特開2004-143243(JP,A)
【文献】特表2017-508862(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112724692(CN,A)
【文献】特開2021-195433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン及びアスファルトを含むアスファルト組成物の製造方法であって、
前記リグニンのガラス転移温度である所定温度以下の前記リグニンと、前記所定温度以下の前記アスファルトとを開放系で混合する第1混合工程を含む
ことを特徴とするアスファルト組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1混合工程では、前記所定温度以下の前記アスファルトを攪拌しながら、前記所定温度以下の前記リグニンを混合する
ことを特徴とする請求項1に記載のアスファルト組成物の製造方法。
【請求項3】
混合される前記アスファルトの温度は60℃以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1混合工程では、前記リグニン及び前記アスファルトの合計100質量部において前記リグニンが0質量部より多く50質量部以下になるように、前記リグニン及び前記アスファルトを混合する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト組成物の製造方法。
【請求項5】
前記リグニンは、クラフトリグニンの乾燥物を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト組成物の製造方法。
【請求項6】
前記アスファルトは、ストレートアスファルトを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト組成物の製造方法。
【請求項7】
前記アスファルトは、アスファルト再生骨材を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト組成物の製造方法。
【請求項9】
前記第1混合工程後、前記所定温度以下において所定時間保持する保持工程を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト組成物の製造方法。
【請求項10】
リグニン、アスファルト及び骨材を含むアスファルト混合物の製造方法であって、
前記リグニン、前記アスファルト及び前記骨材を、前記リグニンのガラス転移温度である所定温度以下の状態で混合する原料混合工程を含み、
前記原料混合工程は、
前記リグニンのガラス転移温度である所定温度以下の前記リグニンと、前記所定温度以下の前記アスファルトとを開放系で混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程により製造したアスファルト組成物と、前記骨材と、を少なくとも混合する第2混合工程と、を含む
ことを特徴とするアスファルト混合物の製造方法。
【請求項12】
前記第2混合工程では、前記所定温度以下の前記アスファルト組成物に、前記所定温度以下の前記骨材を混合する
ことを特徴とする請求項11に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【請求項13】
前記原料混合工程では、前記リグニン及び前記アスファルトの合計100質量部において前記リグニンが0質量部より多く50質量部以下になるように、前記リグニン及び前記アスファルトを混合する
ことを特徴とする請求項10に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【請求項14】
前記原料混合工程では、前記所定温度以下に前記リグニンが維持されるように、前記リグニンと水とを含む含水リグニンと、前記所定温度以上の骨材とを混合する
ことを特徴とする請求項10に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【請求項15】
前記原料混合工程では、更にフィラーを混合し、
前記リグニンと前記フィラーとの混合物100質量部に対し前記フィラーが50質量部以下になるように、前記フィラーを混合する
ことを特徴とする請求項10に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アスファルト組成物の製造方法及びアスファルト混合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材から抽出されるリグニンの新たな利用方法が検討されている。特許文献1の段落0032には、アスファルトにリグニンを添加できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が検討したところ、詳細は実施例を挙げて説明するが、単にリグニンをアスファルトに添加しただけでは、得られるアスファルト組成物及びアスファルト混合物の安定度が低下する可能性があることがわかった。
本開示が解決しようとする課題は、安定度を向上可能なアスファルト組成物の製造方法及びアスファルト混合物の製造方法の提供である。
【発明の効果】
【0005】
本開示によれば、安定度を向上可能なアスファルト組成物の製造方法及びアスファルト混合物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】アスファルト組成物の製造方法及びアスファルト混合物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2において更に参考例のマーシャル安定度試験の結果を追加したグラフである。
【
図3】
図2において更に参考例の安定度を追加したグラフである。
【
図4】クラフトリグニンの含有割合に対するアスファルト混合物の耐久性の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0008】
図1は、アスファルト組成物の製造方法及びアスファルト混合物の製造方法を示すフローチャートである。アスファルト混合物はアスファルト組成物を用いて製造でき、アスファルト組成物はリグニン及びアスファルトを含む。アスファルト組成物の製造方法は、第1混合工程S1及び保持工程S2を含む。
【0009】
また、アスファルト混合物は、リグニン、アスファルト及び骨材を含み、更に適宜フィラーを含む。アスファルト混合物の製造方法は、リグニン、アスファルト、骨材及び適宜のフィラーを、リグニンのガラス転移温度である所定温度以下の状態で混合する原料混合工程S4を含む。原料混合工程S4は、例えば、第1混合工程S1により製造したアスファルト組成物と、骨材と、を少なくとも混合する(さらに適宜フィラーを混合してもよい)第2混合工程S3とを含む。ただし、第1混合工程S1及び第2混合工程S3は、同時に行ってもよく、具体的には、原料混合工程S4において、リグニン、アスファルト、骨材及び適宜のフィラーを同一系内で同時に混合してもよい。
【0010】
第1混合工程S1は、リグニンとアスファルトとを混合する工程である。リグニンは、自身(混合されるリグニンそのもの)のガラス転移温度(以下、適宜単に所定温度という)以下に予熱された状態で混合される。アスファルトも、当該所定温度以下に予熱された状態で混合される。
【0011】
リグニンのガラス転移温度は、リグニンを抽出する木材の種類(例えば広葉樹と針葉樹による違い、同じ針葉樹でもマツやスギなどの種類)により異なると考えられる。使用可能なリグニンのガラス転移温度は特に制限されないが、例えば100℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上、特に好ましくは140℃以上、また、上限として、例えば200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは165℃以下である。
【0012】
リグニンのガラス転移温度は、例えば、熱機械分析法(TMA)により測定できる。熱機械分析法は、温度変化による変位又は圧力の変化を検出するものであり、熱機械分析装置(例えばリガク社製TMA8310L)を用いて実行できる。分析は、例えば上記装置を使用し、リグニンの粉末を3~5mg、窒素ガスを150mL/分、荷重49mN、始温度50℃、終了温度250℃、昇温速度2℃/分にして、分析できる。昇温中、例えば膨張率が急激に変化した温度をガラス転移温度とすることができる。
【0013】
リグニン及びアスファルトのそれぞれを上記所定温度以下の状態で混合することで、アスファルト組成物及びアスファルト混合物の安定度を向上できる。
【0014】
リグニン及びアスファルトの混合割合は特に制限されない。ただし、第1混合工程S1では、リグニン及びアスファルトの合計100質量部において、リグニンが0質量部より多く50質量部以下になるように、リグニン及びアスファルトを混合することが好ましい。混合割合をこの範囲にすることで、アスファルトの機能を発揮し易くできる。
中でも、リグニンの混合割合の上限値は、30質量部以下であることがより好ましい。混合割合を30質量部以下にすることで、特にアスファルト混合物における空隙率及び飽和度を向上できる。
また、リグニンの混合割合の上限値は、10質量部以下であることがより更に好ましい。混合割合を10質量部以下にすることで、詳細は後記するが、アスファルト混合物の製造中、リグニン及びアスファルトを骨材に十分に被覆できる。
下限値は、例えば5質量部以上である。
【0015】
リグニン及びアスファルトの混合の具体的方法は、上記所定温度以下のリグニン及び上記所定温度以下のアスファルトを混合できれば、特に制限されない。例えば、リグニンを混合装置で攪拌しながらアスファルトを投入できるし(ドライミキシング)、アスファルトを混合装置で攪拌しながらリグニンを投入できる(ウェットミキシング)。また、リグニン及びアスファルトを同時に混合装置に投入してもよい。十分な攪拌操作により、混合装置内でアスファルト及びリグニンが循環する。
【0016】
中でも、第1混合工程S1では、上記所定温度以下のアスファルトを混合装置で攪拌しながら、上記所定温度以下のリグニンを混合することが好ましい。このようにすることで、リグニンの凝集を抑制でき、リグニンをアスファルト全体に満遍なく混合できる。混合装置も特に制限されず、任意の混合装置を使用でき、例えばアスファルトミキサを使用できる。
【0017】
アスファルトの温度は60℃以上であることが好ましい。アスファルトの温度を60℃以上にすることで、アスファルトの固化を抑制でき、リグニンをアスファルトに分散できる。従って、アスファルトは、上記所定温度以下、かつ、例えば60℃以上に予熱した状態で、リグニンと混合されることが好ましい。
【0018】
リグニンの温度は、特に制限されず、混合されるアスファルトの温度以下でもよいし、混合されるアスファルトの温度以上でもよい。
【0019】
混合装置も、上記所定温度以下、かつ、例えば混合されるアスファルトの温度以上に予熱した状態で使用することが好ましい。これにより、混合装置内部でリグニン及びアスファルトが所定温度を超えることを抑制できるとともに、温度低下によるアスファルトの固化を抑制できる。
【0020】
第1混合工程S1は、開放系で行うことが好ましい。リグニン及びアスファルトは何れも上記所定温度以下で混合されるため、リグニンの分解を抑制でき、混合中の硫化水素の発生を抑制できる。このため、第1混合工程S1を開放系で行うことができ、簡便な構成を有する混合装置を使用できる。
【0021】
リグニン及びアスファルトの具体的種類も特に制限されない。ただし、リグニンは、クラフトリグニンを含むことが好ましく、中でも、クラフトリグニンの乾燥物を含むことがより好ましい。クラフトリグニンの乾燥物は入手し易いため、アスファルト組成物及びアスファルト混合物を容易に製造できる。また、リグニンは、粉末の状態で混合されることが好ましい。粉末の状態で混合することで、リグニンとアスファルトとを馴染ませ易くできる。ただし、リグニンは、乾燥リグニンに限定されず、水分を含むリグニンである含水リグニン(例えばウェット状のリグニン、スラリー等。)でもよい。含水リグニンを使用することで、詳細は後記するが、混合装置の内部での混合中にリグニンを乾燥でき、乾燥時間を省略できる。
【0022】
アスファルトは、ストレートアスファルトを含むことが好ましい。ストレートアスファルトを含むことで、アスファルト混合物を用いた舗装時に、例えば交通車両に対する耐久性を向上できる。ただし、アスファルトは改質アスファルトでもよい。
【0023】
アスファルトは、アスファルト再生骨材を含むことも好ましい。アスファルト再生骨材は、例えば、舗装したアスファルトのうちひび割れ、わだち掘れ等の変形が生じたアスファルトであり、このようなアスファルトを剥離及び適宜粉砕することで、生成できる。アスファルト再生骨材を使用してアスファルト組成物及びアスファルト混合物を製造することで、アスファルトの使用量を削減できる。
【0024】
なお、第1混合工程S1は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で、リグニン及びアスファルト以外の任意の成分を使用してもよい。
【0025】
保持工程S2は、第1混合工程S1後、上記所定温度以下において所定時間保持する工程である。保持工程S2を含むことで、アスファルト組成物を養生させて、リグニンとアスファルトとを十分に馴染ませたアスファルト組成物を得ることができる。ただし、保持工程S2は、省略してもよい。
【0026】
保持工程S2は、上記所定温度以下で保温することで行われ、上記所定温度以下であれば必ずしも一定の温度で保温しなくてもよい。保温温度の下限値は特に制限されないが、例えば60℃以上にできる。保温は、任意の保温装置を用いて行うことができる。
【0027】
保持工程S2を行う所定時間は特に制限されないが、例えば、30分以上24時間以下にできる。保持工程S2は、静置して行ってもよく、攪拌しながら行ってもよい。中でも、攪拌により保持工程S2の時間を短縮できる。攪拌は、任意の攪拌装置を用いて行うことができる。
【0028】
以上の第1混合工程S1(原料混合工程S4の一例)を少なくとも経ることでアスファルト組成物が得られ、更に第2混合工程S3(原料混合工程S4の一例)を行うことでアスファルト混合物が得られる。
【0029】
第2混合工程S3は、少なくとも第1混合工程S1を経て製造されたアスファルト組成物と、骨材と、を少なくとも混合する工程である。第2混合工程S3を経ることで、アスファルト混合物を製造できる。骨材は、例えば直径が1mm以上の砂、石、砂利等である。骨材の使用量は特に制限せず、アスファルト組成物100質量部(アスファルト及びリグニンの合計質量)に対し、例えば骨材を1000質量部以上10000質量部以下の割合で使用できる。
【0030】
アスファルト組成物は上記のようにリグニンを含み、リグニンはアスファルト混合物において通常はフィラー(又はバインダ(熱硬化樹脂のような結合剤))として機能する。従って、アスファルト混合物は、アスファルトと、例えばフィラーとしてのリグニンと、骨材とを少なくとも含む。原料混合工程S4では、一般的に使用されるフィラー(例えば無機粉末)の使用を省略できるが、上記のように、一般的なフィラーを別途使用してもよい。原料混合工程S4で更にフィラーを混合する場合、リグニンとフィラーとの混合物100質量部に対し、フィラーが例えば50質量部以下、下限として、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上になるように、フィラーを混合することが望ましい。アスファルトとフィラーとの混合物(フィラービチューメン)により、骨材間の隙間が埋められたり、骨材をコーティングしたりできる。これにより、密度及び安定度を向上できる。
【0031】
使用されるフィラーの具体的種類は任意であるが、例えば石灰岩を粉末にした石粉を使用できるが、これに限られない。
【0032】
アスファルト組成物及び骨材の混合の具体的条件は特に制限されない。ただし、第2混合工程S3では、上記所定温度以下に予熱した状態のアスファルト組成物に、上記所定温度以下に予熱した状態の骨材を混合することが好ましい。このようにすることで、リグニン及びアスファルトを骨材に馴染ませ易くできる。他の成分(別途のフィラー等)を使用する場合も、同様にして混合することが好ましい。
【0033】
別の実施形態では、上記のように第1混合工程S1及び第2混合工程S3を同時に行うことで、リグニン、アスファルト、骨材及び適宜上記フィラーが同一系内で同時に混合される。この場合、リグニン、アスファルト、骨材及び適宜フィラーに関する記述(使用量、混合温度等)は、第1混合工程S1及び第2混合工程S3に関する各記述を同様に適用できる。例えば、原料混合工程S4では、リグニン及びアスファルトの合計100質量部においてリグニンが0質量部より多く50質量部以下になるように、リグニン及びアスファルトを混合できる。
【0034】
更に別の実施形態では、原料混合工程S4では、上記所定温度以下にリグニンが維持されるように、リグニンと水とを含む含水リグニンと、上記所定温度以上の骨材とが例えば混合装置で混合される。このようにすることで、骨材の熱により、含水リグニン中の水分を蒸発できる。これにより、混合装置内でリグニンを乾燥でき、混合前の乾燥作業を削減できる。なお、混合装置(特にリグニン)の温度がガラス転移温度以下に維持されるように、リグニンの含水量、その他成分の使用量、温度等を決定することが好ましい。
【0035】
製造されたアスファルト混合物は、例えば道路等での舗装や屋根防水、ダム、空港滑走路等への遮水材として使用される。製造されたアスファルト混合物は既設のコンクリートと付着し易いため、施工性が良好である。また、製造されたアスファルト混合物では、マーシャル安定度試験において、供試体が破壊するまでに示す最大荷重とそれに対する変形量の比が1.7MPa/mm以上である。これにより、アスファルト混合物の強度を向上できる。なお、マーシャル安定度試験は、文献:「社団法人日本道路協会、B0001マーシャル安定度試験方法、舗装調査・試験法便覧〔第3分冊〕(平成19年度6月,p.5-15)」に記載の方法に沿って行うことができる。
【0036】
また、本開示のアスファルト混合物は、大気中の二酸化炭素を吸収した木材由来のリグニンを含む。このため、大気中の二酸化炭素に由来する炭素が例えば舗装等に固定され、大気中の二酸化炭素量を削減できる。これにより、大気中の二酸化炭素量の削減と、舗装等によるインフラ整備等とを両立でき、持続可能な開発目標(SDGs(Sustainable Development Goals))の目標13「[気候変動]気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」を実行できる。使用する木材は植林と伐採サイクルを組み合わせることで目標15「[陸上資源]陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」並びに目標12「[持続可能な消費と生産]持続可能な消費生産形態を確保する」を実行できる。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
図1に示したフローチャートに沿ってアスファルト組成物及びアスファルト混合物を作製し、性能を評価した。
【0038】
以下の方法によりクラフトリグニンの粉末を作製した。まず、黒液中に高分子として分散しているクラフトリグニンをろ過により抽出し、50℃の乾燥炉で十分に乾燥させて含水比0のクラフトリグニンの乾燥物を得た。次いで、乾燥物を十分に粉砕し、目開き0.0075mm篩を通過した粉末を得た。この粉末は、クラフトリグニンの乾燥粉末である。
【0039】
クラフトリグニンの乾燥粉末について、ガラス転移温度を上記の熱機械分析法により測定した。この結果、ガラス転移温度は161℃であった。
【0040】
次に、以下の方法によりアスファルト及びリグニンを混合した(第1混合工程S1(
図1))。混合したクラフトリグニンのガラス転移温度(161℃)以下である160℃に予熱したアスファルト(舗装用石油アスファルト/ストレートアスファルトpen60-80;ストレートアスファルト)の2000gを、攪拌翼を備える混合装置に投入し、混合装置内部で循環させながら混合した。混合装置は160℃で混合可能に設定され、混合装置内部と外部とが連通した開放系で混合可能な装置である。そして、アスファルトを攪拌しながら、常温(20℃)のクラフトリグニンの乾燥粉末2000g(リグニン及びアスファルトの合計100質量部においてリグニンが50質量部。リグニン:アスファルト=50:50)を1分あたり100gずつ投入し、全量投入後、160℃に保温しながら1時間循環させて混合した。
【0041】
1時間経過後、混合を停止し、静置した状態で160℃で12時間養生した(保持工程S2)。12時間経過後、混合装置から取り出し、アスファルト組成物を得た。
【0042】
混合装置から取り出したアスファルト組成物71.2gを160℃に予熱し、同じく160℃に予熱し60秒間混合した骨材1200gへ、1分以内に全量投入し、全量投入後、180秒間循環させながら混合した(第2混合工程S3)。混合は、アスファルト組成物の作製で使用した混合装置と同じく、160℃で混合可能に設定され、混合装置内部と外部とが連通した開放系で混合可能な装置を使用して行った。180秒間経過後、混合を停止し、混合装置から取り出すことでアスファルト混合物を得た。アスファルト混合物は、同じ操作を繰り返すことで合計3つ作製した(n=3)。他にも、アスファルト組成物含有割合が同じ(7.6質量%)になるように、アスファルト組成物712g及び骨材12000gを使用してスケールアップしたアスファルト混合物も作製した。
【0043】
以上のアスファルト組成物及びアスファルト混合物の作製は、混合装置の付近に硫化水素濃度測定装置(新コスモス電気社製XS-2200)を設置し、硫化水素濃度を測定しながら行った。この結果、作製中、硫化水素は検出限界以下であり、硫化水素の発生は認められなかった。
【0044】
<実施例2>
リグニンの使用量を7.12g、アスファルトの使用量64.08g(リグニン及びアスファルトの合計100質量部においてリグニンが10質量部。リグニン:アスファルト=10:90)にしたこと以外は実施例1と同様にしてアスファルト混合物を作製した。アスファルト混合物は、同じ操作を繰り返すことで合計3つ作製した(n=3)。アスファルト組成物及びアスファルト混合物の作製中、何れも、硫化水素は検出限界以下であり、硫化水素の発生は認められなかった。アスファルト組成物及び骨材の質量を合計1tへスケールアップした場合も同様であった。
【0045】
<実施例3>
リグニンの使用量を21.36g、アスファルトの使用量49.84g(リグニン及びアスファルトの合計100質量部においてリグニンが30質量部。リグニン:アスファルト=30:70)にしたこと以外は実施例1と同様にしてアスファルト混合物を作製した。アスファルト混合物は、同じ操作を繰り返すことで合計3つ作製した(n=3)。アスファルト組成物及びアスファルト混合物の作製中、何れも、硫化水素は検出限界以下であり、硫化水素の発生は認められなかった。アスファルト組成物及び骨材の合計を10kgにスケールアップした場合も同様であった。
【0046】
<比較例1>
混合装置の設定温度及び予熱温度を160℃に代えて185℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物及びアスファルト混合物を作製した。比較例1においても、硫化水素濃度を測定しながら作製を行った。この結果、作製中、硫化水素の発生が認められた。
【0047】
<性能評価>
実施例1及び比較例1のアスファルト混合物について、マーシャル安定度試験を行い、安定度に関する性能評価を行った。マーシャル安定度試験は、上記文献に記載の方法に沿って行った。結果を
図2に示す。
【0048】
図2は、実施例1及び比較例1のマーシャル安定度試験の結果を示すグラフである。縦軸は、マーシャル安定度試験により測定された安定度(kN)を示す。安定度の数値が大きいほど、アスファルト混合物が安定していることを示す。実施例1のアスファルト混合物の安定度は13.9kNであり、比較例1のアスファルト混合物の安定度は10.8kNであった。従って、リグニンのガラス転移温度以下で製造した実施例1のアスファルト混合物は、リグニンのガラス温度を超えた温度で製造した比較例1のアスファルト混合物よりも、安定度が高いことが分かった。
【0049】
図3は、
図2において更に参考例のマーシャル安定度試験の結果を追加したグラフである。参考例は、リグニンを使用せずアスファルトのみを使用したこと以外は実施例1と同様にしてアスファルト混合物を製造し、実施例1と同様にしてマーシャル安定度試験を行ったものである。参考例のアスファルト混合物の安定度は13.85kNであった。
【0050】
リグニンのガラス転移温度以下で製造した実施例1のアスファルト混合物は、リグニンを使用せずアスファルトのみを使用した参考例のアスファルト混合物と同等の安定度を有していた。この理由は、リグニンのガラス転移温度以下で混合装置での攪拌により、リグニンが均一にアスファルト混合物内に分散し、安定度が高くなる(ストレートアスファルトと同程度に維持されている)ためと考えられる。
【0051】
しかし、リグニンのガラス転移温度を超えた温度で製造した比較例1のアスファルト混合物は、参考例のアスファルト混合物の安定度よりも20%程度安定度が低かった。この理由は、混合装置に投入されたリグニンがガラス転移温度を超えて温度上昇し、硫化水素を発生させる等の性状変化が生じたためと考えられる。この結果、比較例1においては、ガラス転移温度に達しない状態の実施例1のリグニンとは異なる性状のリグニンになるため、安定度が低くなる(ストレートアスファルトとして作用の効果が低い)と考えられる。
【0052】
別の性能として、実施例1~3及び参考例について、クラフトリグニンの含有割合に対するアスファルト混合物の耐久性を評価した。耐久性の指標として、動的安定度(DS)を評価した。動的安定度の評価は、「社団法人日本道路協会,B0003▲L▼ホイールトラッキング試験方法,舗装調査・試験法便覧〔第3分冊〕,平成19年度6月,p.39-56」に記載の方法に沿って行った。
【0053】
図4は、クラフトリグニンの含有割合に対するアスファルト混合物の耐久性の違いを示すグラフである。
図4の縦軸は動的安定度であり、数値が大きいほど、耐久性が高いことを表す。動的安定度は、実施例1では3653、実施例2では1115、実施例3では2640、参考例では760であった。
【0054】
実施例1~3のアスファルト混合物は、いずれも、リグニンのガラス転移温度以下で製造したものである。従って、リグニンのガラス転移温度以下で製造すれば、リグニンを使用しない参考例のアスファルト混合物よりも高い耐久性が得られる。この理由は、上記
図3での考察と同様に、混合装置での攪拌によりリグニンが均一にアスファルト混合物内に分散し、安定度が高くなる(ストレートアスファルトと同程度に維持されている)ためと考えられる。
【0055】
また、実施例1~3のアスファルト混合物の中でも、リグニンの含有割合が大きい方が、動的安定度が高いことが示された。これは、リグニンの含有割合が大きいほど、リグニンを構成する高分子群のうち比較的低温で融解する相対分子量が小さいリグニン高分子群が多く含まれるためと考えられる。相対分子量が小さいリグニン高分子群は、溶融により熱硬化性樹脂として作用する。そして、溶融により生じた溶融蚋によってストレートアスファルトへの改質効果が生じ、アスファルト混合物の動的安定度が向上するものと考えられる。リグニンの分解による硫化水素発生を抑制するように混合時の温度を調整することで、この効果を発揮できる。
【0056】
下記表1は、例えば熱機械分析法にて測定されたガラス転移温度が例えば150℃である場合に、リグニン高分子群(所謂通常のリグニン)に含まれる異なる相対分子量のリグニンごとの挙動の違いを説明する表である。
【0057】
【0058】
リグニンのガラス転移温度は、正確には相対分子量ごとに異なると想定され、例えば相対分子量が大きいほど高く、相対分子量が小さいほど低い傾向である。例えば熱機械分析法にて測定されるガラス転移温度は、異なる相対分子量のリグニンを含む、いわば平均値である。しかし、例えば熱機械分析法にてガラス転移温度を測定し、例えば熱機械分析法にて測定されるガラス転移温度の測定値以下で混合することで、相対分子量が小中大のいずれのリグニンにおいても熱劣化を抑制できる。これにより、溶融物の冷却により生じる固体のリグニンをアスファルト混合物に残存でき、本開示による効果が奏される。
【0059】
更に別の性能として、実施例1~3のアスファルト混合物について、空隙率及び飽和度を算出した。空隙率は以下の式(1)に基づき、飽和度は以下の式(2)に基づき算出した。飽和度は、骨材の間隙中にストレートアスファルトが占める割合を百分率で表したものである。この結果を以下の表1に示す。
【0060】
v=Vv/V×100=(1-ρm/D)×100 …式(1)
※vは空隙率(%)であり、ρmはアスファルト混合物の密度(g/cm3)であり、Vはアスファルト混合物の体積(cm3)であり、Vvはアスファルト混合物中の空隙体積(cm3)である。
【0061】
s=Va/(V-Vag)×100=Va/(Va+v)×100 …式(2)
※sは飽和度(%)であり、Vaはアスファルトの容積率(%)であり、Vagはアスファルト混合物中の骨材体積(cm3)であり、V及びvは式(1)のV及びvと同義である。
【0062】
なお、式(1)及び(2)は文献:「社団法人日本道路協会,B0008▲L▼アスファルト混合物の密度測定方法,舗装調査・試験法便覧〔第3分冊〕,平成19年度6月 ,p.91-105」に記載の式である。
【0063】
【0064】
アスファルト混合物を舗装体に使用する場合、雨水の侵入抑制のため、アスファルト混合物の空隙率は小さいことが好ましい。空隙率を小さくすることで、透水係数を小さくできる。一方で、上記式(2)で示すように、飽和度と空隙率とは反比例の関係にある。従って、空隙率を小さくすると、飽和度は大きくなる。このため、空隙率が小さく、かつ、飽和度が大きい実施例2及び3に示すように、リグニン及び前記アスファルトの合計100質量部においてリグニンが0質量部より多く30質量部以下がよいことがわかった。この範囲にすることで、空隙率を小さく、かつ、飽和度を大きくして、例えば舗装体に好適なアスファルト混合物を得ることができる。この理由として以下のことが考えられる。
【0065】
上記の表1を参照しても説明したが、リグニン高分子群には、相対分子量小の改質効果を発揮するリグニンと、それ以外の固体のままアスファルト中に分散しているリグニンとが含まれる。前者のリグニンは、下記表3においてガラス転移温度において融解している相対分子量が小さいものである。一方で、後者のリグニンは、下記表3において相対分子量が大きなものである。
【0066】
【0067】
リグニンは、上記のように、アスファルト混合物中で例えばフィラーとして機能し、密度の計算上フィラーは骨材として振舞う。しかし、熱劣化したリグニンは冷却してもリグニンとしての機能を回復しないため、フィラーとして作用しない。このため、リグニンのガラス転移温度を超えた温度での混合により、アスファルト混合物は、骨材よりも密度が小さなリグニン(熱劣化したもの)を含み、密度が低下するため、計算上空隙率が大きくなる。
【0068】
そして、リグニンのガラス転移温度以下で混合し、かつ、リグニンの含有量を30質量部以下にすることで、相対分子量小のリグニンを絶対的な量を減らすことができ、この結果、融解及び熱劣化するリグニンを減らし、更には、アスファルト混合物中に存在するリグニン自体も減らすことができる。これにより、締め固め時、骨材間に存在するリグニン、即ち、フィラーとして作用するリグニンを少なくして骨材同士を近づけることができ、空隙率を小さくできる。また、骨材を密にできるため、密度は大きくなる。
【0069】
なお、上記のように、空隙率を小さくすることが好ましいものの、空隙率を大きくすることもできる。例えば、雨天時の視認性の向上及び路面のすべり抵抗性を改善するため、高排水機能を有する空隙が多いアスファルト混合物を製造してもよい。このようなアスファルト混合物は、例えば、高速道路及び国道等への舗装用として利用できる。
【0070】
<実施例4>
フィラーを含むアスファルト組成物及びアスファルト混合物を作製した。そして、作製したアスファルト混合物について、上記<性能評価>に記載の方法により、マーシャル安定度試験(安定度[kN]の測定)及びホイールトラッキング試験(動的安定度[-]の測定)を行うとともに、空隙率及び飽和度を算出した。
【0071】
以下の方法により、実施例1とは異なるクラフトリグニンの含水物(含水リグニン)を作製した。まず、黒液中に高分子として分散しているクラフトリグニンをろ過により抽出し、含水リグニン(ウェット状のリグニン)を得た。含水リグニンの一部を採取して乾燥させ、リグニンのガラス転移温度を上記の熱機械分析法により測定した。この結果、ガラス転移温度は168℃であった。
【0072】
次に、以下の方法によりアスファルト、含水リグニン、フィラー(石粉)及び骨材を同時に混合した(第1混合工程S1及び第2混合工程S3を同時に行う原料混合工程S4(
図1))。混合は、リグニンのガラス転移温度を超える温度(200℃)に予熱した骨材及びフィラーを、予め含水リグニンを入れた混合装置(実施例1と同じ)に入れることで開始した。混合は100秒行った。なお、含水リグニンとの混合により骨材及びフィラーの温度は低下し、混合中、混合装置の内部がリグニンのガラス転移温度(168℃)以下に維持されたことを確認した。
【0073】
各材料の使用量は、アスファルト44kg、含水リグニン50kg(このうち、リグニンとして40kg)、フィラー25kg及び骨材891kgである。従って、原料混合工程S4(
図1)において、リグニンとフィラーとの混合物100質量部に対しフィラーが38.5質量部(50質量部以下)になるように、フィラーを混合した。また、リグニン及びアスファルトの合計100質量部に対し、リグニンの使用量は47.6質量部、骨材の使用量は1060質量部である。
混合終了後、直ちに混合装置から取り出し、アスファルト混合物を得た。
【0074】
以上のアスファルト組成物及びアスファルト混合物の作製は、混合装置の付近に硫化水素濃度測定装置(新コスモス電気社製XS-2200)を設置し、硫化水素濃度を測定しながら行った。この結果、作製中、硫化水素は検出限界以下であり、硫化水素の発生は認められなかった。
【0075】
作製したアスファルト混合物について、上記<性能評価>に記載の方法により、安定度[kN]、動的安定度[-]、空隙率及び飽和度を算出した。この結果、安定度は13.0kN、動的安定度は3150、空隙率は3.0%、飽和度は79.4%であった。
【0076】
<実施例5>
第2混合工程S3(
図1)において、リグニンとフィラーとの混合物100質量部に対しフィラーが41.7質量部(50質量部以下)になるようにフィラーを混合したこと以外は実施例4と同様にして、アスファルト混合物を作製した。作製したアスファルト混合物の安定度は14.3kN、動的安定度は7870、空隙率は3.7%、飽和度は75.8%であった。
【0077】
<比較例2>
リグニンに代えて実施例41のアスファルトを使用した(即ち、リグニンを使用せず、リグニンの使用量と等量のアスファルトを使用した)こと以外は実施例4と同様にして、比較例2のアスファルト混合物を作製した。作製したアスファルト混合物の安定度は12.8kN、動的安定度は4200、空隙率は3.0%、飽和度は80.0%であった。
【0078】
実施例4及び5と比較例2との結果を比較すると、フィラーの一部をリグニンに置き換えてもアスファルト混合物の物性に大きな影響がないことわかった。中でも、動的安定度に関しては、実施例5は比較例2よりも大きくなり、性能が向上した。このように、リグニンは、アスファルト混合物でフィラービチューメンとして振舞い、性能が向上し得ることが確認できた。
【符号の説明】
【0079】
S1 第1混合工程
S2 保持工程
S3 第2混合工程
S4 原料混合工程