(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】アルコールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/56 20060101AFI20240725BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A23L2/56
A23L2/00 B
(21)【出願番号】P 2023017592
(22)【出願日】2023-02-08
(62)【分割の表示】P 2018240996の分割
【原出願日】2018-12-25
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】垣谷 彩乃
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1721520(CN,A)
【文献】J. Agric. Food Chem.,1978年,Vol.26,No.6,pp.1422-1426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12C
C12G
C12H
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオン酸2-フェニルエチル及び/又は酢酸1-フェニルエチルを100~2000ppbの含有量で含み、
アルコール濃度が1体積%未満であるアルコールテイスト飲料
(ビールテイスト飲料を除く)。
【請求項2】
リナロールをさらに含有する、請求項
1に記載のアルコールテイスト飲料。
【請求項3】
アルコール濃度が1体積%未満であるアルコールテイスト飲料
(ビールテイスト飲料を除く)の製造方法であって、
プロピオン酸2-フェニルエチル及び/又は酢酸1-フェニルエチルを100~2000ppbの含有量で含有させることを含む、
前記アルコールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
リナロールを含有させることをさらに含む、請求項
3に記載の製造方法。
【請求項5】
アルコール濃度が1体積%未満である飲料
(ビールテイスト飲料を除く)において
プロピオン酸2-フェニルエチル及び/又は酢酸1-フェニルエチルを100~2000ppbの含有量で含有させることを含む、該飲料に酒感を付与または増強する方法。
【請求項6】
リナロールを含有させることをさらに含む、請求項
5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルコールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の健康志向の高まりにより、アルコールの摂取量を控えようとする傾向が強まっている。また飲酒運転の防止等の観点からも、アルコール飲料を飲めない場面が多く存在する。そのため、アルコール飲料の替わりに飲用できる、ノンアルコールのアルコールテイスト飲料の需要が高まってきている。
【0003】
ノンアルコールのアルコールテイスト飲料とは、アルコールを実質的に含有しないにもかかわらず、アルコール飲料らしい香りや味が感じられる飲料をいう。ノンアルコールのアルコールテイスト飲料としては、ノンアルコールビール、ノンアルコールカクテル、ノンアルコール酎ハイ、ノンアルコールワイン、ノンアルコールハイボール等が挙げられ、それぞれ新製品が開発されており、市場も拡大してきている。
【0004】
上記のノンアルコールのアルコールテイスト飲料は、通常の清涼飲料と同様に、甘味料、酸味料、その他の呈味物質、果汁、香料等を調合することによって製造するのが一般的であり、特にアルコール飲料らしい香味や飲用感を付与するために、上記に示したような配合原料の種類や、組合せ、比率等が工夫されている。
【0005】
例えば特許文献1には、炭素数4または5の脂肪族アルコール:1~100mg/lと収斂味付与物質とを含んでなるアルコール感が付与された非アルコール飲料が記載されている。
特許文献2には、カプサイシン類:0.002~0.056ppmと、炭素数3~5の脂肪族1価アルコール:12.5~400ppmとを含んでなるアルコール感が付与された非アルコール飲料が記載されている。
特許文献3には、アセトアルデヒドを1~100ppmの含有量で含み、かつ炭酸ガス圧が0.1~0.35MPaである、アルコール飲料の飲用感が付与された炭酸ガス含有非アルコール飲料が記載されている。
特許文献4には、シトロネロール濃度が0.2ppm以上10ppm未満である、アルコール感が付与されたエタノール濃度が1.0v/v%未満である非アルコール飲料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-60975号公報
【文献】特開2012-16308号公報
【文献】特開2012-16307号公報
【文献】特開2012-249560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1~4に記載されている方法によれば、ノンアルコール飲料に一定の酒感(お酒らしさ)を付与することができるものの、添加する物質由来の香味が飲料全体の香味に悪影響を与えてしまい、嗜好性が低下し易い問題がある。
また酒感を構成する要素の中でも、お酒らしいまろやかさやお酒らしいコク味について上記方法では特に不足しており、結果として酒感についても上記方法で実現するのはいまだ不十分である。
【0008】
本発明は、飲料に酒感を付与または増強できる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために、酒感を付与できる成分について鋭意探索、研究を重ねた。その結果、飲料中に後述の一般式(1)で表されるエステル化合物を特定の濃度範囲で含有させることにより、飲料に酒感を付与、増強できること、特にお酒らしいまろやかさや、お酒らしいコク味の付与、増強が可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 一般式(1):
【化1】
(式(1)中、R1は1-フェニルエチル基または2-フェニルエチル基を、R2は炭素数1から5のアルキル基を表す)で表されるエステル化合物を100~2000ppbの含有量で含有するアルコールテイスト飲料。
[2] 前記エステル化合物として、酢酸1-フェニルエチル、酢酸2-フェニルエチル、プロピオン酸1-フェニルエチルおよびプロピオン酸2-フェニルエチルからなる群から選択される1または2以上のエステル化合物を含有する、[1]に記載のアルコールテイスト飲料。
[3] アルコール濃度が1体積%未満である、[1]または[2]に記載のアルコールテイスト飲料。
[4] アルコール濃度が0.05体積%未満である、[3]に記載のアルコールテイスト飲料。
[5] その含有量が100~500ppbであるリナロールをさらに含有する、[1]から[4]のいずれか一つに記載のアルコールテイスト飲料。
[6] 糖質の含有量が0.5g/100mL未満である、[1]から[5]のいずれか一つに記載のアルコールテイスト飲料。
[7] 甘味度が2以下である、[1]から[6]のいずれか一つに記載のアルコールテイスト飲料。
[8] 前記アルコールテイスト飲料が炭酸飲料であり、ガスボリュームが、1.5以上4.5未満である、[1]から[7]のいずれか一つに記載のアルコールテイスト飲料。
[9] アルコールテイスト飲料の製造方法であって、
一般式(1):
【化2】
(式(1)中、R1は1-フェニルエチル基または2-フェニルエチル基を、R2は炭素数1から5のアルキル基を表す)で表されるエステル化合物を100~2000ppbの含有量で含有させることを含む、アルコールテイスト飲料の製造方法。
[10] 飲料において一般式(1):
【化3】
(式(1)中、R1は1-フェニルエチル基または2-フェニルエチル基を、R2は炭素数1から5のアルキル基を表す)で表されるエステル化合物を100~2000ppbの含有量で含有させることを含む、該飲料に酒感を付与または増強する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、飲料に酒感を付与または増強できる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態はアルコールテイスト飲料に関し、一般式(1)で表されるエステル化合物を100~2000ppbの含有量で含有する。
【0013】
【0014】
式(1)中、R1は1-フェニルエチル基または2-フェニルエチル基を、R2は炭素数1から5のアルキル基を表す。炭素数1から5のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。また、一般式(1)で表される化合物の具体例としては、酢酸1-フェニルエチル、酢酸2-フェニルエチル、プロピオン酸1-フェニルエチル、プロピオン酸2-フェニルエチル、酪酸1-フェニルエチル、酪酸2-フェニルエチル、吉草酸1-フェニルエチル、吉草酸2-フェニルエチル、カプロン酸1-フェニルエチル、カプロン酸2-フェニルエチル等が挙げられる。
【0015】
本明細書において、アルコールテイスト飲料とは、飲んだときに酒感を感じることができる飲料をいう。
また、酒感とは、香りおよび味を総合的に判断したときのお酒らしさであり、アルコール特有の香りおよび味に基づいた、あたかもアルコール飲料(お酒)を飲んだような感覚を意味する。酒感が増強されると、飲んだときにお酒をより強くイメージすることができる。
【0016】
本実施形態においてアルコールテイスト飲料は飲んだときに酒感を感じることができる
限り特に限定されず、例えばエタノールなどのアルコールを含有するアルコール飲料であってもよい。また、アルコール濃度が1体積%未満である所謂酒税法上の非酒類や、近年増加しているアルコール濃度が0.05体積%以下の飲料とすることもできる(本明細書においては、アルコール濃度が1体積%以下である場合について、以下、ノンアルコールとも称する)。
一方で、本発明の構成を適用することで酒感増強の効果がより得られるアルコール濃度範囲としては1体積%未満である場合が挙げられ好ましく、より好ましくはアルコール濃度が0.05体積%以下の場合である。
【0017】
上述のとおり、本実施形態のアルコールテイスト飲料は、一般式(1)で表されるエステル化合物を100~2000ppbの含有量で含有する。
該エステル化合物を100~2000ppb(好ましくは500~2000ppb)の含有量で含有することにより、範囲外の場合と比較してお酒らしいまろやかさやお酒らしいコク味が高まるほか、酒感もより増強される。
【0018】
なお、本明細書において、お酒らしいまろやかさとは、お酒を想起させる香りの刺激と口腔内で感じる味わいに関する感覚である。お酒らしいまろやかさが高まると、アルコールに由来する香りにおいて刺激が少なくなる。また口腔内で感じる味わいもより刺激が少なく口当たりの良さを感じるものとなり、長期熟成した蒸留酒(例えば長期樽貯蔵したウィスキーや、甕に貯蔵した泡盛の古酒(クース)など)のような、甘い芳香と飲んだ後の余韻をより感じることができるようになる。
また、お酒らしいコク味とは、お酒らしい味の濃厚さともいい、お酒を想起させる味についての感覚である。お酒らしいコク味が高まると、お酒特有の味をより強く感じられるようになり、また、味の複雑さも増す。
【0019】
お酒らしいまろやかさ、お酒らしいコク味および酒感をより高めることができるため、一般式(1)で表されるエステル化合物として、一般式(1)で表されるエステル化合物のうちR2で表されるアルキル基の炭素数が1または2の化合物が好ましい。さらに同様の理由から、一般式(1)で表されるエステル化合物として酢酸1-フェニルエチル、酢酸2-フェニルエチル、プロピオン酸1-フェニルエチル、またはプロピオン酸2-フェニルエチルがより好ましく、プロピオン酸2-フェニルエチルまたは酢酸1-フェニルエチルがさらにより好ましい。本実施形態のアルコールテイスト飲料は、例えばこれらのうち1種または2種以上を含有するようにすることができる。
【0020】
本実施形態のアルコールテイスト飲料における一般式(1)で表されるエステル化合物の含有量は、製造に用いられる原材料に基づき算出することができるほか、以下に例示する方法により測定することもできる。
<定量方法>
2mLの試料に10μLの内部標準(50 ppmリナロール-d5)を添加した後、超純水で5倍希釈する。さらに3 gの塩化ナトリウムを添加し、ヘッドスペースGC-MS分析を行う。内部標準法により定量する。
<GC測定条件>
装置:昇温気化型注入口(CIS4、Gerstel社製)、加熱脱着ユニット(TDU、Gerstel社製)、GC System(7890B、Agilent Technologies社製)、Mass Selective Detector(5977、Agilent Technologies社製)
カラム(DB-WAX、20 m×0.18 mm;0.3 μm、Agilent Technologies社製)
TDU:40℃(0.5 min)-(720℃/min)-250℃(3 min)
CIS4:-50℃(1.5 min)-(12℃/sec)-240℃(15min)
注入量:1 mL(スプリットレス)
カラム温度:40℃(3 min)-(10℃/min)-240℃(30 min)
気液平衡条件:40℃(15 min)
MSD:SCANモード、m/z 29-230、20Hz、EI
【0021】
本実施形態のアルコールテイスト飲料においては、酒感をより高めることができるため、一般式(1)で表されるエステル化合物に加えて、モノテルペンアルコールの一種として知られるリナロールを含有することが好ましく、該リナロールをその含有量を100~500ppbとして含有することがより好ましい。
【0022】
一般式(1)で表されるエステル化合物と同様に、リナロールについてもその含有量は製造に用いられる原材料に基づき算出することができるほか、以下に例示する方法により測定することもできる。
<定量方法>
1mlの試料に200μLの内部標準(10ppm リナロール-d5)を添加した後に、超純水で50倍希釈する。希釈した試料の香気成分をTwisterに吸着(40℃、2時間)させ、GC-MS分析を行い、内部標準法により定量を行う。
<GC測定条件>
装置:昇温気化型注入口(CIS4,Gerstel社製)、加熱脱着ユニット(TDU, Gerstel社製)、GC System(7890B、Agilent Technologies社製)、Mass Selective Detector(5977、Agilent Technologies社製)およびLTMカラム(1st:DB-WAX,20m×0.18mm;0.3μm、2nd:DB-5,10m×0.18mm;0.4μm, Agilent Technologies社製)
TDU:20℃ (1min)-(720℃/min)-250℃(3min)
CIS4:-50℃(1.5min)-(12℃/sec)-240℃(45min)
スプリット比:30:1
注入口圧:508.28kPa
ベント圧:314.11kPa
1stカラム温度:40℃(3min)-(5℃/min)-180℃(0min)
2ndカラム温度:40℃(31min)-(5℃/min)-180℃(0min)
MSD:SCAN mode,m/z 29-230, 20Hz, EI
【0023】
本実施形態のアルコールテイスト飲料においては、水、一般式(1)で表されるエステル化合物や、必要に応じて含有されてもよいリナロールに加えて、本発明の目的を達成できる範囲で他の成分を含むようにすることができ、特に限定されない。
【0024】
本実施形態のアルコールテイスト飲料において含有され得る他の成分としては、例えば、アルコール、糖類や高甘味度甘味料などの甘味料、酸味料、苦味料、香料、果汁、ビタミン、着色料、酸化防止剤、乳化剤、保存料、食塩、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定化剤、増粘剤などの、飲料に通常配合される成分を挙げることができる。なお、本実施形態のアルコールテイスト飲料のpHや酸度などは当業者が適宜設定でき、特に限定されない。
【0025】
上述のとおり本実施形態のアルコールテイスト飲料はエタノール等を含有するアルコール飲料としてもよい。アルコール飲料は通常、水にアルコール源となる酒(ベース酒)が配合されて製造される。ベース酒は特に限定されないが、例えば蒸留酒を挙げることができる。蒸留酒としては、ジン、ウィスキー、ブランデー、焼酎、スピリッツ、および原料用アルコール等が例示でき、例えばこれらのうち1種または2種以上が本実施形態のアルコールテイスト飲料中に含有されるようにすることができる。
一方、例えば本実施形態のアルコールテイスト飲料がノンアルコール飲料として構成される場合には、例えば甘味料、酸味料、苦味料、香料などを含有する。
【0026】
具体的には、アルコール飲料とする場合には、日本酒、ビール、発泡酒、ワインなどの醸造酒、焼酎、ウィスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジンなどの蒸留酒、さらに醸造酒や蒸留酒およびその他の成分等を混合して調製される梅酒、酎ハイ、カクテルなどの混成酒を挙げることができる。
また、ノンアルコールのアルコールテイスト飲料とする場合には、ノンアルコールのビールテイスト飲料、ワインテイスト飲料、カクテルテイスト飲料、酎ハイテイスト飲料、ウィスキーテイスト飲料(ハイボールテイスト飲料等)などを挙げることができる。本発明の構成を適用することで、酒感の中でも特にお酒らしいまろやかさの増強効果が得られるため、例えばノンアルコールのウィスキーテイスト飲料(味と香りから総合的に判断してウィスキーをイメージできる飲料)等がより好ましい。
【0027】
ここで、本実施形態のアルコールテイスト飲料は、本発明の構成を適用する場合に酒感増強の効果がより得られるため、糖質の含有量が0.5g/100mL未満であることが好ましい。
本明細書において糖質とは、食物繊維ではない炭水化物をいう。糖質の含有量は、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)の別表第9に記載された方法に従って算出することができる。
【0028】
また、本実施形態のアルコールテイスト飲料は、本発明の構成を適用する場合に酒感増強の効果がより得られるため、甘味度が2以下であることが好ましい。
甘味度は甘味の強さを示す尺度であり、ショ糖1重量%(20℃)の甘味を1とした場合の相対比である。飲料の甘味度は、当該飲料に含まれる各甘味成分の量(重量濃度)を、ショ糖の甘味1に対する当該甘味成分の甘味の相対比に基づいてショ糖の相当量に換算し、次いで当該飲料に含まれる全ての甘味成分のショ糖甘味換算量を総計することで求めることができる。なお、ショ糖の甘味1に対する各種甘味成分の甘味の相対比は、公知の砂糖甘味換算表(マクマリー有機化学(第7版)988頁)から求めることができる。
【0029】
また、本実施形態のアルコールテイスト飲料は炭酸ガスを含む炭酸飲料であるようにしてもよい。炭酸ガスを含む場合のガス圧については特に限定されず当業者が適宜設定できるが、本発明の構成を適用することで酒感増強の効果がより得られるため、ガスボリュームが1.5以上4.5未満である飲料とすることが好ましい。
【0030】
なお、本明細書において、ガスボリュームとは、1気圧、20℃における容器詰飲料中に溶解している炭酸ガスの容積と飲料の容積比をいう。
ガスボリュームの値は、試料を20℃とした後、ガス内圧力計を取り付け、一度活栓を開いてガス抜き(スニフト)操作を行い、直ちに活栓を閉じてから激しく振とうし、圧力が一定になった時の値として得ることができる。
【0031】
本実施形態のアルコールテイスト飲料は、一般式(1)で表されるエステル化合物を100~2000ppbの含有量で含有させることで製造することができる。
【0032】
具体的には、例えば、本実施形態のアルコールテイスト飲料は、原料水に一般式(1)で表されるエステル化合物をその含有量を100~2000ppbとして添加するとともに、その他リナロールなど必要に応じて加えられる他の成分を添加することで製造することができる。一般式(1)で表されるエステル化合物その他必要に応じて添加される成分を添加する方法や順序などは特に限定されず、当行者が適宜設定できる。上記の原料水は、水自体のほか、含有される他の成分の溶液等であってもよい。
【0033】
さらに本実施形態のアルコールテイスト飲料は上述のとおり炭酸ガスを含有していてもよく、その場合、例えば飲料中に二酸化炭素を溶存させる処理を含んで製造される。該処理についても特に限定されず、例えば、原料水に一般式(1)で表されるエステル化合物を溶解させて得られる溶液に二酸化炭素を溶存させた水を混合する方法(ポストミックス法)や、上述の溶液に二酸化炭素を直接噴き込んで溶解させる方法(プレミックス法)が挙げられる。ガスボリュームを1.5以上4.5未満とするにあたっては飲料中に溶存させる二酸化炭素量を調整するなどすればよい。
【0034】
製造された本実施形態のアルコールテイスト飲料は、特に限定されないが、例えば容器に封入された容器詰飲料とすることができる。
容器への封入方法などは特に限定されず、例えば常法に従って行うことができる。
容器も公知のものを適宜選択して用いることができ、素材や形状など特に限定されない。容器の具体例としては、例えば、紙容器、透明又は半透明のビン、PETボトル等の透明又は半透明のプラスチック容器、スチール缶やアルミニウム缶等の金属缶などが挙げられる。
【0035】
以上、本実施形態においては、一般式(1)で表されるエステル化合物を100~2000ppbの含有量で含有することにより、お酒らしいまろやかさやお酒らしいコク味をより感じられ、酒感もより増強されている(ノンアルコール飲料のようなアルコールを実質的に非含有の飲料の場合は、酒感をより増強して付与されている)。そのため、本実施形態によれば、嗜好性のより高いアルコールテイスト飲料の提供に寄与することが可能である。
【0036】
また、本発明の一態様として、飲料において一般式(1)で表されるエステル化合物を100~2000ppbの含有量で含有させることを含む、該飲料に酒感を付与または増強する方法も提供することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
[試験例1]
<飲料の組成>
表1にその組成を示す基本処方に、プロピオン酸2-フェニルエチル(プロピオン酸フェネチル)をその添加量を変えて添加し、対照である比較例1の飲料(無添加)と、実施例1~4の飲料、および比較例2、3の飲料を調製した。プロピオン酸2-フェニルエチルの各飲料における添加量を表2に示す。
表1から理解できるように、これら実施例および比較例の飲料には、酸味料として無水クエン酸を、甘味料としてアセスルファムカリウムとスクラロースを使用した。また、炭酸ガス圧は2.3ガスボリューム(GV)、糖質量は0.1g/100mL、甘味度は0.78であった。なお基本処方中にプロピオン酸2-フェニルエチル、リナロールは含有されていないことを確認している。
【0039】
【0040】
【0041】
<飲料の評価方法>
プロピオン酸2-フェニルエチルの添加量を変えた表2の実施例1~4、比較例2、3の飲料について、訓練されたパネル5名により官能評価を実施した。対照は比較例1の飲料(基本処方の飲料)とした。なお、パネリスト間では、事前に同様のサンプルを試飲して、ディスカッションにより各評価用語に対する尺度合わせを実施した。
【0042】
<評価尺度>
各評価用語に対する評価尺度は以下の5段階とした。
「お酒らしいまろやかさ」、「お酒らしいコク味」、「酒感」について、対照である比較例1の飲料との比較で同程度の場合を3とした。比較例1の飲料よりも感じた場合を4、より強く感じた場合を5として評価した。また、比較例1の飲料よりも感じない場合を2、ほとんど感じない場合を1として評価した。
結果を表3に示す。
【0043】
【0044】
<飲料の評価結果>
表3から理解できるとおり、プロピオン酸2-フェニルエチルを100~2000ppb添加した場合に、お酒らしいまろやかさ、お酒らしいコク味が付与され、酒感が向上する効果が確認された。
一方、プロピオン酸2-フェニルエチルの添加量を5000ppbとした比較例3では、お酒らしいまろやかさ、お酒らしいコク味は強まったものの、お酒以外の香りが強くなって、酒感の評価は低下した。
【0045】
[試験例2]
表1に組成を示した基本処方に、プロピオン酸2-フェニルエチル(プロピオン酸フェネチル)1000ppbと、さらにリナロールをその添加量を変えて添加し、実施例5~8の飲料を調製した。表4に各飲料におけるプロピオン酸2-フェニルエチルおよびリナロールの添加量を示す。なお、基本処方中にプロピオン酸2-フェニルエチル、リナロールは含有されていないことを確認している。
【0046】
【0047】
<試験飲料の評価>
表4に示す実施例3、5~8の飲料について、試験1と同様の方法により官能評価を実
施した。
結果を表5に示す。
【0048】
【0049】
<飲料の評価結果>
試験例1で酒感の向上に高い効果が認められた実施例3の飲料(プロピオン酸2-フェニルエチル含有量:1000ppb)に、さらにリナロールを100~500ppb添加した場合に、お酒らしい複雑味がさらに付与され、酒感についての評価がより高くなった。
一方、リナロールを1000ppb以上添加した場合は、スパイシー又はフローラルといった香りを強く感じるようになり、100~500ppbの場合より酒感についての評価は低下した。
【0050】
[試験例3]
表1に組成を示した基本処方にプロピオン酸2-フェニルエチルに代えて酢酸1-フェニルエチルを添加した以外は実施例3と同様の方法で実施例9の飲料を調製した(酢酸1-フェニルエチルを添加した例)。また同様に、表1に組成を示した基本処方にプロピオン酸2-フェニルエチルに代えて酢酸1-フェニルエチルを添加した以外は実施例6と同様の方法で実施例10の飲料を調製した(酢酸1-フェニルエチルとリナロールを添加した例)。表6に実施例9、実施例10の飲料における酢酸1-フェニルエチルおよびリナロールの添加量を示す。なお、基本処方中に酢酸1-フェニルエチル、リナロールは含有されていないことを確認している。
【0051】
【0052】
<試験飲料の評価>
表6に示す実施例9、10の飲料について、試験1と同様の方法により官能評価を実施した。
結果を表7に示す。
【0053】
【0054】
<飲料の評価結果>
酢酸1-フェニルエチルを添加した場合もプロピオン酸2-フェニルエチルを添加した場合と同様に、お酒らしいまろやかさ、お酒らしいコク味が増強され、酒感が強まった。
リナロール500ppbを添加した場合はさらに複雑味等が感じられて、酢酸1-フェニルエチル単独添加よりも、より酒感が強まった。