(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】6種混合液状ワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/116 20060101AFI20240725BHJP
A61K 39/05 20060101ALI20240725BHJP
A61K 39/08 20060101ALI20240725BHJP
A61K 39/10 20060101ALI20240725BHJP
A61K 39/13 20060101ALI20240725BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240725BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240725BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K39/116
A61K39/05
A61K39/08
A61K39/10
A61K39/13
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2023515483
(86)(22)【出願日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2022018211
(87)【国際公開番号】W WO2022224966
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2021070897
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山下 駿
(72)【発明者】
【氏名】白井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】大門 和広
(72)【発明者】
【氏名】簑田 智博
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 慎二
(72)【発明者】
【氏名】石川 香奈衣
(72)【発明者】
【氏名】岩田 春菜
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203043(JP,A)
【文献】特表2015-533148(JP,A)
【文献】特表平07-508267(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/116
A61K 39/05
A61K 39/08
A61K 39/10
A61K 39/13
A61P 31/12
A61P 31/16
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ジフテリア(Diphtheria)、百日せき(Pertussis)、破傷風(Tetanus)、ポリオ、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)およびB型肝炎(HepB)に対する6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法:
(1)ジフテリアトキソイド(D)および破傷風トキソイド(T)をアルミニウムアジュバントと混合してDTアジュバントを生成する工程;
(2)工程(1)で得られたDTアジュバントにB型肝炎表面(HBs)抗原を混合してDT-HBsアジュバントを生成する工程;
(3)工程(2)で得られたDT-HBsアジュバントに百日せき抗原(P)を混合し、DPT-HBsアジュバントを生成する工程;
(4)工程(3)で得られたDPT-HBsアジュバントに不活化ポリオウイルス(IPV)を混合し、DPT-IPV-HBsアジュバントを生成する工程;
(5)工程(4)で得られたDPT-IPV-HBsアジュバントにコハク酸リン酸緩衝液を添加した後、Hib抗原としてのPRP(PRP-Tコンジュゲート)を添加してDPT-IPV-Hib-HBsアジュバントとPRP-Tコンジュゲートの混合物を生成する工程;および
(6)工程(5)で得られたDPT-IPV-Hib-HBsアジュバントとPRP-Tコンジュゲートの混合物のpHを5.4~5.9に調整する工程
、
ここで、アルミニウムアジュバントがリン酸アルミニウムゲルである、製造方法。
【請求項2】
アルミニウムアジュバントの添加量が200~400 μg/doseである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(5)において、添加リン酸濃度が終濃度換算で2~8 mmol/Lになるようにコハク酸リン酸緩衝液(pH5.5)を添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルミニウムアジュバントの添加量が200μg/doseであり、添加リン酸濃度が終濃度換算で2~6 mmol/Lである、請求項
2に記載の方法。
【請求項5】
アルミニウムアジュバントの添加量が300μg/doseであり、添加リン酸濃度が終濃度換算で3~6 mmol/Lである、請求項
2に記載の方法。
【請求項6】
アルミニウムアジュバントの添加量が400μg/doseであり、添加リン酸濃度が終濃度換算で6~8 mmol/Lである、請求項
2に記載の方法。
【請求項7】
アルミニウムアジュバントへのHBs抗原の吸着率が99%以上であり、Hibの遊離PRP含有率が20%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか1項に記載の方法によって製造した、6種混合ワクチンの安定な液状化製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小児用予防接種に用いられるワクチンの分野に関し、ジフテリア(Diphtheria)、百日せき(Pertussis)、破傷風(Tetanus)、ポリオ、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)、およびB型肝炎(HepB)を防御するための6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで多種類の小児用ワクチンが上市されている。百日せきジフテリア破傷風不活化ワクチン(DPT)、麻疹風疹混合ワクチン、B型肝炎(HepB)ワクチン、おたふくかぜワクチン、水痘ワクチンに加え、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、不活化ポリオ(IPV)ワクチン、肺炎球菌コンジュゲートワクチン、ロタウイルスワクチンが接種されるようになり、特に乳児期の接種スケジュールは過密を極めている。
【0003】
近年の小児用ワクチンでは、複数のウイルスや細菌等に対する防御能を同時に獲得できる混合ワクチンが求められるようになった。混合ワクチンは投与される免疫回数を最小限に抑えることで、被接種者の負担軽減、接種率向上のためにも非常に有効である。
【0004】
日本では、百日せきジフテリア破傷風ワクチン(DPT)をベースとした混合ワクチンとして、DPTに不活化ポリオワクチンを混合した製品であるクアトロバック(登録商標)(KMバイオロジクス株式会社)やテトラビック(登録商標)(一般財団法人阪大微生物病研究会)およびスクエアキッズ(登録商標)(第一三共株式会社)が上市されている。これらの4種混合ワクチンはホルムアルデヒドで不活化した抗原をアルミニウムアジュバントに吸着した液剤である。なお、クアトロバックとテトラビックは、ポリオウイルスの弱毒株であるSabin(セービン)株を不活化したものが用いられているのに対し、スクエアキッズは野生(強毒)株不活化したもの(Salk(ソーク)株)が用いられている。小児用ワクチンでは、副反応が出にくい特徴からアルミニウムアジュバントが用いられており、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムが知られている。
【0005】
さらにこれら4種混合ワクチンに、HibワクチンのためのHib抗原(ポリリボシルリビトールリン酸(Polyribosyl-Ribitol-Phosphate:PRP))を加えた5種混合ワクチンが開発中である。DPT-IPV-Hibからなる5種混合ワクチンの液剤化では、キャリアタンパク質へコンジュゲートしたPRPの結合保持、すなわち脱離抑制が技術的な課題とされ、これを解決する製造方法が特許文献1に開示されている。本文献の実施例6には具体的な製造方法が記載されていないが、非特許文献1に詳細な記載がある。まず、百日せき抗原(P)を精製し、ホルマリンで不活化する。つぎに、ジフテリアトキソイド(D)をアルミニウムゲルに吸着させ、これとは別に破傷風トキソイド(T)をアルミニウムゲルに吸着させる。つぎに、ポリオウイルスを精製し、ホルマリンで不活化する(IPV)。最終的にこれらを混合したものがDPT-IPVアジュバントであり、さらにPRPを破傷風トキソイド(T)にコンジュゲートしたもの(PRP-Tコンジュゲート)を加えることで、DPT-IPV-Hibからなる5種混合ワクチンが調製できる(特許文献1、非特許文献1)。
【0006】
世界的には、上記5種混合ワクチンにさらにB型肝炎ワクチンのためのB型肝炎表面(Hepatitis B surface; HBs)抗原を加えたDPT-IPV-Hib-HBsからなる6種混合ワクチンとして、キット製剤のInfanrix-Hexa(GlaxoSmithKline)、液剤であるHexamine/Hexyon(Sanofi)やVaxelis(Sanofi-MSD)が承認されている。Infanrix-Hexaは、ホルムアルデヒドで不活化したDPT-IPV-HBsを水酸化アルミニウムアジュバントに吸着した溶液とHib抗原としてのPRPをリン酸アルミニウムアジュバントに吸着した凍結乾燥品からなるキット製剤である。一方、Hexacima/HexyonとVaxelisはホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドで不活化した抗原を水酸化アルミニウムアジュバントに吸着した液剤である。
【0007】
特許文献2には、DPT-IPV-Hib-HBsを含む6種混合液状ワクチン(これらの抗原はアルミニウム塩に吸着されている)が開示されている。特許文献2にはまた、破傷風タンパク質にコンジュゲートしたHib抗体価は、PRPをアルミニウム塩に吸着した場合、その免疫原性を経時的に喪失していく傾向があることが記載されている。この課題を解決するため、特許文献2にはまた、陰イオン、とりわけ、リン酸イオン、炭酸イオンまたはクエン酸イオンを加えることで、Hib抗原(PRP)が水酸化酸化アルミニウムから脱離するのを防ぐことができ、その免疫原性を維持することが記載されている。特許文献3にも同様の記載がある。一方、陰イオンの添加は、HBs抗原を水酸化酸化アルミニウムに吸着している場合には、HBs抗原を脱着させることが特許文献4に記載されている。
【0008】
特許文献4には、水酸化酸化アルミニウム、HBs抗原、キャリアタンパク質とコンジュゲートしたHib抗原を含む6種混合液体ワクチンにおいて、HBs抗原は水酸化酸化アルミニウムに吸着されたままであるが、Hib抗原は吸着されないままである、液体混合ワクチンの調製方法が開示されている。特許文献4に開示の液体混合ワクチンの調製方法は、まず、HBs抗原を水酸化酸化アルミニウムに吸着させてHBs抗原/水酸化酸化アルミニウム複合体を得た後、少なくとも100 mg/L濃度の陽イオンアミノ酸および35~45 mmol/L濃度のリン酸イオンの存在下でHBs抗原/水酸化酸化アルミニウム複合体をHib抗原と混合することを含む、調製方法である。特許文献4の実施例において、アルミニウムゲルへのHBs抗原の吸着率は調製時95~98%であり、5℃保存安定性試験でのHBs抗原の吸着率は9ヵ月で88~91%、22ヵ月で78~86%までの低下に留めていること、また、アルミニウムゲルへのPRPの非吸着は、調製時20.0~22.6μg/mLであり、5℃保存安定性試験でのPRPの非吸着は9ヵ月で23~27.0μg/mL、22ヵ月で19.9~23.9μg/mLとあまり変化がなかったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2018/074296
【文献】WO1999/013906
【文献】WO1996/037222
【文献】特開2017-203043
【非特許文献】
【0010】
【文献】クアトロバック(登録商標)の添付文書
【文献】Vaccine 12 (8) (1994) 700-706
【文献】Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 21 (6) (2000) 1087-1091
【文献】Journal of Microbiology and Biotechnology (2003), 13(3), 469-472
【文献】AUTOMATED ENZYME IMMUNOASSAY SYSTEM AIA-360のカタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
DPT-IPV-Hib-HBsからなる6種混合ワクチンの液剤化では、アルミニウムアジュバントへのHBs抗原の吸着保持、およびHib抗原であるPRPのキャリアタンパク質からの脱離抑制が技術的な課題とされている。
【0012】
本発明の目的は、アルミニウムアジュバントへHBs抗原が安定に吸着保持され、Hib抗原であるPRPがキャリアタンパク質に安定に結合保持された、DPT-IPV-Hib-HBsからなる6種混合ワクチンの液状化製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、最終添加リン酸濃度、pHを最適化することにより、アルミニウムアジュバントへHBs抗原が安定に吸着保持、およびPRPが安定的に結合保持することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
したがって、本発明は以下を含む。
[1]以下の工程を含む、ジフテリア(Diphtheria)、百日せき(Pertussis)、破傷風(Tetanus)、ポリオ、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)およびB型肝炎(HepB)に対する6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法:
(1)ジフテリアトキソイド(D)および破傷風トキソイド(T)をアルミニウムアジュバントと混合してDTアジュバントを生成する工程;
(2)工程(1)で得られたDTアジュバントにB型肝炎表面(HBs)抗原を混合してDT-HBsアジュバントを生成する工程;
(3)工程(2)で得られたDT-HBsアジュバントに百日せき抗原(P)を混合し、DPT-HBsアジュバントを生成する工程;
(4)工程(3)で得られたDPT-HBsアジュバントに不活化ポリオウイルス(IPV)を混合し、DPT-IPV-HBsアジュバントを生成する工程;
(5)工程(4)で得られたDPT-IPV-HBsアジュバントにコハク酸リン酸緩衝液を添加した後、Hib抗原としてのPRP(PRP-Tコンジュゲート)を添加してDPT-IPV-Hib-HBsアジュバントとPRP-Tコンジュゲートの混合物を生成する工程;および
(6)工程(5)で得られたDPT-IPV-Hib-HBsアジュバントとPRP-Tコンジュゲートの混合物のpHを5.4~5.9に調整する工程。
[2]アルミニウムアジュバントがリン酸アルミニウムゲルである、[1]に記載の方法。
[3]アルミニウムアジュバントの添加量が200~400μg/doseである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]工程(5)において、添加リン酸濃度が終濃度換算で2~8 mmol/Lになるようにコハク酸リン酸緩衝液(pH5.5)を添加する、[1]から[3]のいずれか1に記載の方法。
[5]アルミニウムアジュバントの添加量が200μg/doseであり、添加リン酸濃度が終濃度換算で2~6 mmol/Lである、[3]または[4]に記載の方法。
[6]アルミニウムアジュバントの添加量が300 μg/doseであり、添加リン酸濃度が終濃度換算で3~6 mmol/Lである、[3]または[4]に記載の方法。
[7]アルミニウムアジュバントの添加量が400 μg/doseであり、添加リン酸濃度が終濃度換算で6~8 mmol/Lである、[3]または[4]に記載の方法。
[8]アルミニウムアジュバントへのHBs抗原の吸着率が99%以上であり、Hibの遊離PRP含有率が20%未満である、[1]から[7]のいずれか1に記載の方法。
[9][1]から[8]のいずれか1に記載の方法によって製造した、6種混合ワクチンの安定な液状化製剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、アルミニウムアジュバントへのHBs抗原吸着率が99%以上で、キャリアタンパク質に結合したHibの遊離PRP含有率が20%未満の安定な6種混合ワクチンの液状化製剤を得ることが可能になる。本発明の方法によって製造した6種混合ワクチンの安定な液状化製剤は、予防接種に求められる6つの細菌またはウイルスに対する十分な抗体価(免疫原性)を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明は、以下の工程を含む、ジフテリア(Diphtheria)、百日せき(Pertussis)、破傷風(Tetanus)、ポリオ、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)およびB型肝炎(HepB)に対する6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法に関するものであり、アルミニウムアジュバントへのHBs抗原吸着率が99%以上で、かつキャリアタンパク質に結合したHibの遊離PRP含有率が20%未満の安定な液状ワクチン組成物の提供を可能とするものである:
(1)ジフテリアトキソイド(D)および破傷風トキソイド(T)をアルミニウムアジュバントと混合してDTアジュバントを生成する工程;
(2)工程(1)で得られたDTアジュバントにB型肝炎表面(HBs)抗原を混合してDT-HBsアジュバントを生成する工程;
(3)工程(2)で得られたDT-HBsアジュバントに百日せき抗原(P)を混合してDPT-HBsアジュバントを生成する工程;
(4)工程(3)で得られたDPT-HBsアジュバントに不活化ポリオウイルス(IPV)を混合して、DPT-IPV-HBsアジュバントを生成する工程;
(5)工程(4)で得られたDPT-IPV-HBsアジュバントにコハク酸リン酸緩衝液を添加した後、Hib抗原としてのPRP(PRP-Tコンジュゲート)を添加してDPT-IPV-HBsアジュバントとPRP-Tコンジュゲートの混合物を生成する工程;および
(6)工程(5)で得られたDPT-IPV-HBsアジュバントとPRP-Tコンジュゲートの混合物のpHを5.4~5.9に調整する工程。
【0019】
本発明の製造方法において、アルミニウムアジュバントとしては、リン酸アルミニウムゲルを用いるのが好ましい。アルミニウムアジュバントとしては、リン酸アルミニウムの他に水酸化アルミニウム(水酸化酸化アルミニウムと同義)等も知られているが、アルミニウムアジュバントへのHBs抗原吸着率が99%以上で、かつキャリアタンパク質に結合したHib抗原の遊離PRP含有率が20%未満の安定な液状ワクチン組成物を得るためにはリン酸アルミニウムゲルを用いるのが好ましい。また、アルミニウムアジュバントの添加量としては、200~400 μg/doseの範囲が挙げられるが、これに限られない。さらに、キャリアタンパク質に結合したPRP-Tコンジュゲートのリン酸アルミニウムゲルへの吸着率は30%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において、ジフテリア(Diphtheria)、百日せき(Pertussis)、破傷風(Tetanus)、ポリオ、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)およびB型肝炎(HepB)のための6種混合ワクチンの各抗原として、ジフテリアトキソイド(D)、破傷風トキソイド(T)、B型肝炎表面(HBs)抗原、百日せき抗原(P)、不活化ポリオウイルス(IPV)およびHib抗原としてのPRPを用いるが、これらは、当業者に知られたいかなる抗原をも用いることができる。Hib抗原としてのPRPとしては、例えば、PRP-Tコンジュゲートを用いることができる。
【0021】
工程(1):
工程(1)では、ジフテリアトキソイド(D)および破傷風トキソイド(T)をアルミニウムアジュバントに吸着させてDTアジュバントを生成する。アルミニウムアジュバントとしては、上記のようにリン酸アルミニウムゲルを用いるのが好ましい。破傷風トキソイドは、WHO規格により1,000 Lf(Limit of flocculation)/mgPNを超える純度が要求されている。また欧州薬局方(EP:European Pharmacopoeia)のHibコンジュゲートワクチンの規格では、>1,500 Lf/mgPNとなっている。破傷風トキソイドの精製方法としては、硫安沈殿やトリクロロ酢酸沈殿、カラムクロマトグラフィー(ゲルろ過クロマト、アフィニティークロマト)、塩析、透析などが用いられている。
【0022】
工程(2):
工程(2)では、工程(1)で得られたDTアジュバントにB型肝炎表面(HBs)抗原を混合し、15-30℃で40-96時間置くことでDT-HBsアジュバントを生成する。
【0023】
工程(3):
工程(3)では、工程(2)で得られたDT-HBsアジュバントに百日せき抗原(P)を混合させてDPT-HBsアジュバントを生成する。
【0024】
工程(4):
工程(4)では、(3)で得られたDPT-HBsアジュバントに不活化ポリオウイルス(IPV)を混合させてDPT-IPV-HBsアジュバントを生成する。
【0025】
工程(5):
工程(5)では、工程(4)で得られたDPT-IPV-HBsアジュバントにコハク酸リン酸緩衝液を添加した後、Hib抗原としてのPRP、例えば、PRP-Tコンジュゲートを添加してDPT-IPV-HBsアジュバントとPRP-Tコンジュゲートの混合物を生成する。工程(5)においてコハク酸リン酸緩衝液を添加するのは、アルミニウムアジュバントの添加量に応じて最終添加リン酸の濃度を調整するためである。すなわち、添加リン酸濃度が終濃度換算で2~8 mmol/Lになるようにコハク酸リン酸緩衝液(pH5.5)を添加する。例えば、アルミニウムアジュバントの添加量が200 μg/doseである場合、添加リン酸濃度が終濃度換算で2~6 mmol/Lとなるようにコハク酸リン酸緩衝液(pH5.5)を添加する。アルミニウムアジュバントの添加量が300 μg/doseである場合、添加リン酸濃度が終濃度換算で3~6 mmol/Lとなるようにコハク酸リン酸緩衝液(pH5.5)を添加する。アルミニウムアジュバントの添加量が400 μg/doseである場合、添加リン酸濃度が終濃度換算で6~8 mmol/Lとなるようにコハク酸リン酸緩衝液(pH5.5)を添加する。
【0026】
本発明において、Hib抗原であるPRPとしては、PRPとキャリアタンパク質とを結合させたPRPコンジュゲートを用いることができる。Hib感染の防御にはHibの莢膜多糖体であるPRPに対する抗体が有効であることが知られているが、PRP成分のみに基づくHibワクチンはT細胞非依存性のため、免疫系の未熟な生後18ヶ月未満の乳幼児に対しては効果不十分である。そこで、PRPにキャリアタンパク質をコンジュゲート(結合)させてT細胞依存性にしたコンジュゲートワクチンが開発され、乳幼児に対して使用されている。
【0027】
PRPなどの多糖類をキャリアタンパク質と結合したコンジュゲートワクチンは公知である。PRPコンジュゲートは公知の結合技術によって調製することができる。例えばPRPをチオエーテル結合を介して結合することができる。この結合方法では、PRPを1-シアノ-4-(ジメチルアミノ)ピリジンテトラフルオロボレート(CDAP)で活性化することにより、シアン酸エステルを形成する。このようにして活性化されたPRPは、直接又はスペーサー基を介してキャリアタンパク質のアミノ基と結合できる。好ましくは、シアン酸エステルをヘキサンジアミンと結合し、チオエーテル結合の形成を伴うヘテロライゲーション化学反応によりアミノ誘導体化多糖とキャリアタンパク質をコンジュゲートさせる。上記の他、還元アミノ化方法によりコンジュゲートを調製することもできる。さらに別の方法として、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)で誘導体化した臭化シアン(CNBr)活性化多糖を、カルボジイミド縮合でキャリアタンパク質に結合する方法が挙げられる。また、ここで用いるPRPは特許文献1に記載のように、ネイティブPRPよりも低分子化されたPRPを用いてもよい。
【0028】
キャリアタンパク質としては、破傷風トキソイドや百日咳トキソイド、ジフテリアトキソイド、ジフテリアトキソイドの遺伝子変異体であるCRM197、非莢膜型ヘモフィルスインフルエンザD抗原、髄膜炎グループBの外膜タンパク質(OMP)などが挙げられる。PRPコンジュゲートに典型的なキャリアタンパク質は、破傷風トキソイドである。破傷風トキソイドをキャリアタンパク質として用いる場合、その純度は、WHO規格である1,000 Lf/mgPN以上で使用する。本発明の方法では、破傷風トキソイドの純度はより高い方が良く、2,500~3,500 Lf/mgPNであることが好ましい。より好ましくは2,900~3,300 Lf/mgPNである。
【0029】
工程(6):
工程(6)では、工程(5)で得られたDPT-IPV-Hib-HBsアジュバントのpHが5.4~5.9の範囲にない場合に、pH調節剤を添加してpHを5.4~5.9に調整する。アルミニウムアジュバントへのHBs抗原吸着率が99%以上で、かつキャリアタンパク質に結合したHib抗原の遊離PRP含有率が20%未満の安定な液状ワクチン組成物とするためには、最終生成物のpHを5.4~5.9の範囲とする必要がある。最終生成物のpHが前記範囲にない場合、所望のHibの遊離PRP含有率を得ることはできない。
【0030】
遊離PRP含有率の測定は非特許文献2~4および特許文献4などに記載の方法で行うことができる。本発明における遊離PRP含有率の測定は特許文献1の実施例3に記載の方法で行った。また、アルミニウムアジュバントへのHBs抗原の吸着は特許文献4および非特許文献5などに記載の方法で行うことができる。本発明におけるアルミニウムアジュバントへのHBs抗原の吸着量は、HBs抗原の総含量から上清中のHBs抗原の含量を差し引くことで算出した。HBs抗原の総含量はクエン酸などのキレート剤でアルミニウムアジュバントを溶解させ、東ソー社の自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-360および東ソー社のB型肝炎ウイルス表面抗原キットを用いて測定した。また、上清中のHBs抗原の含量は、遠心分離を行い、吸着していないHBs抗原を含む上清を回収し、東ソー社の自動エンザイムイムノアッセイ装置および東ソー社のB型肝炎ウイルス表面抗原キットHBsAgを用いて測定した。安定性を検討する際の長期保存試験の温度条件は、5±3℃もしくは凍結を避けて10℃以下にて行う。あるいは、より高温条件下で安定性を加速的に評価しても構わない。
【0031】
本発明による6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法は、上記のように工程(1)~(6)により行うが、DTP-IPV4種混合ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ(セービン株)混合ワクチン;例えば、KMバイオロジクス株式会社製「クアトロバック(登録商標)」)または沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(KMバイオロジクス株式会社)に不活化ポリオウイルス(Salk-IPV)を加えたものに、PRPコンジュゲートを加えることで調製した5種混合ワクチンを製造する場合にも応用することができる。
【0032】
本発明による6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法において、安定な液状化製剤の組成条件は以下の通りである。
アルミニウムゲル::アルミ濃度200~400 μg/dose
HBs:5~10 μg/dose
pH:5.4~6.2
最終添加リン酸:アルミニウム量に応じて調整
アルミニウム量が400 μg/dose:6~8 mM
アルミニウム量が300 μg/dose::3~6 mM
アルミニウム量が200 μg/dose:2~6 mM
(IPVがSabin株の場合は上記濃度に1.5 mM増量)
【0033】
本発明は、他の側面において、本発明による6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法によって得られる、6種混合ワクチンの安定な液状化製剤をも提供する。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【比較例1】
【0035】
<リン酸アルミニウムゲルを用いた6種混合ワクチンの製造(1)>
DTP-IPV4種混合ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ(セービン株)混合ワクチン;KMバイオロジクス株式会社製「クアトロバック(登録商標)」)または沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(KMバイオロジクス株式会社製)に不活化ポリオウイルス(IPV;Salk株)を加えたものに、特許文献1の方法でPRPを破傷風トキソイドにコンジュゲートしたものを加えることで5種混合ワクチンを調製した。アジュバントとしてはリン酸アルミニウムアジュバントを用いた。得られた5種混合ワクチンにHBs抗原を添加してDPT-IPV-Hib-HBsからなる6種混合ワクチンを得た。得られた6種混合ワクチンのHBs吸着率を調べたところ、10%未満であり、HBs抗原がアジュバントに吸着していないことがわかった。
【比較例2】
【0036】
<リン酸アルミニウムゲルを用いた6種混合ワクチンの製造(2)>
比較例1と同様にして5種混合ワクチンを調製した。得られた5種混合ワクチンに、HBs抗原をリン酸アルミニウムアジュバントに吸着させたHBsワクチンを混合してDPT-IPV-Hib-HBsからなる6種混合ワクチンを得た。得られた6種混合ワクチンについて、HBs抗原のアジュバントへのHBs吸着率および遊離PRP含有率を調べたところ、HBs抗原のアジュバントへのHBs吸着率は96%以上に向上したものの未だ不十分であり、遊離PRP含有率も25%以上に増加した。
【比較例3】
【0037】
<リン酸アルミニウムゲルを用いた6種混合ワクチンの製造>
比較例1と同様にして5種混合ワクチンを調製した。得られた5種混合ワクチンに、HBs抗原をリン酸アルミニウムアジュバントに吸着させたHBsワクチンを混合してDPT-IPV-Hib-HBsからなる6種混合ワクチンを得た。この際、リン酸アルミニウム含量は300 μg/doseとし、最終添加リン酸濃度を2 mmol/Lとした。得られた6種混合ワクチンについて、HBs抗原のアジュバントへのHBs吸着率および遊離PRP含有率を調べたところ、HBs吸着率は99%以上に向上したものの、遊離PRP含有率は60%以上に増加した。
【実施例1】
【0038】
<6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造>
本発明による6種混合ワクチンの安定な液状化製剤の製造方法の製造スキームを
図1に示す。リン酸アルミニウム含量300 μg/doseとして、以下のようにして6種混合ワクチンの安定な液状化製剤を製造した。
【0039】
ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイドのリン酸アルミニウムゲルへの吸着:
ジフテリアトキソイドおよび破傷風トキソイド(ジフテリア:600 Lf/mL、破傷風:31.2 Lf/mL、調製量の1/4量)をリン酸アルミニウムゲル(終濃度1.8 mg/mL)と混合し、吸着させた。この吸着させたものを沈降ジフテリア破傷風とした。
【0040】
HBs原液の沈降ジフテリア破傷風への吸着:
上記沈降ジフテリア破傷風にHBs抗原25~50 μg/mL(沈降ジフテリア破傷風の1/5量)を加え、15~30 ℃にて40時間から96時間放置し、HBsを吸着させた。
【0041】
最終生成物の調製:
上記生成物に、精製百日せき抗原(最終生成物の1/3量)、ポリオワクチン3価バルク(以下、ポリオ;1型:2型:3型=30:1000:1000 DU(D-antigen unit)/mL、最終生成物の1/10量)、コハク酸リン酸緩衝液(pH 5.5、添加リン酸濃度が終濃度換算で4.5 mmol/L相当;Sabin IPVを用いる場合は6.0 mmol/L相当)、Hib原薬(以下、PRP-Tコンジュゲート:特許文献1の方法でPRPを破傷風トキソイド(T)にコンジュゲートしたもの)を加え、pHが5.4~5.9の範囲にあることを確認した。pHがこの範囲から外れていた場合は、範囲内に入るよう塩酸溶液または水酸化ナトリウム溶液を用いてpHの調整を行った。また、最終生成物を分析したところ、PRP-Tコンジュゲートのリン酸アルミニウムゲルへの吸着率は30%以下であった。
【0042】
このときに得られた6種混合液状ワクチン製剤(DPT-IPV-Hib-HBs)の組成を表1に示す。
【表1】
(注)
*アルミニウムゲルの素材
**Salk IPVの場合、1型:2型:3型は40:4:32(単位はDU/0.5mL)であった。
***リン酸水素二ナトリウム12水和物
****リン酸二水素ナトリウム2水和物
【実施例2】
【0043】
<遊離PRP含有率に対するpHの影響>
実施例1で得られた6種混合液状ワクチン製剤(DPT-IPV-Hib-HBs)について、遊離PRP含有率に対するpHの影響を検討した。その結果を表2に示す。リン酸アルミニウム含量は300 μg/doseであった。表2に示す結果から明らかなように、37℃、2週間後で、pHが5.4~6.2の範囲から外れると遊離PRP含有率が大きくなり、遊離が増進することが示唆された。
【表2】
【実施例3】
【0044】
<カニクイザルにおける有効性へのアルミニウム含量およびHBsの量の影響>
実施例1で見出した6種混合液状ワクチン製剤(DPT-IPV-Hib-HBs)の製造方法において、アルミニウムゲルの量およびHBsの量がワクチンとしての有効性に及ぼす影響を調べるため、カニクイザル(原産地:カンボジア、月齢31~35箇月、雌31~37箇月)に投与した。接種後4週目に採血を行い、血清を採取した。得られた血清を自家調製した各ワクチン抗原を用いたELISAまたはAIA-360(登録商標:東ソー社)を用いたEIAにて抗体価を測定した。その結果を表3および4に示す。表中、既承認薬の組み合わせを接種している対照群(クアトロバック(登録商標:KMバイオロジクス株式会社)、ビームゲン(登録商標:KMバイオロジクス株式会社)、アクトヒブ(登録商標:サノフィパスツール社)の同時接種)に対する比にて示す。
アルミニウム量:100 μg/dose、HBs量:5 μg/doseの組成においては、プライミング後の抗体価は対照群以上であったものの、ブースト後では0.2程度と低い値を示していた。一方、アルミニウム量が200 μg/dose以上では、HBsの用量いずれもブースト後で対照群比が1以上の値を示していた。HBs以外の抗体価については、すべて対照群と同等以上であったため、表3のNo.3についてのみ表4に示した。
【0045】
【0046】
【実施例4】
【0047】
<6種混合液状化製剤での安定性に関する検討>
Salk IPVを用いて実施例1で製造した6種混合液状製剤での安定性を検討するため、コハク酸リン酸緩衝液(pH5.5)における添加リン酸濃度がHBsの吸着維持およびPRPの遊離抑制に及ぼす影響を調べた。その結果を、アルミニウム量が400 μg/dose、300 μg/doseおよび200 μg/doseの場合について、それぞれ表5、表6および表7に示す。ここで示すリン酸濃度は終濃度での添加量である。Sabin IPVを用いる場合は、添加リン酸濃度を1.5mmol/L増加する。
【0048】
37℃で2週間保管後の検体の遊離PRP含有率およびHBsの吸着率を調べた。その結果、HBs吸着率が99%以上かつ遊離PRP含有率が20%未満を満たす条件は、アルミニウム量が400 μg/doseでは添加リン酸が5~8 mmol/L、アルミニウム量が300 μg/doseでは添加リン酸が3~6 mmol/L、アルミニウム量が200 μg/doseでは添加リン酸が2~6 mmol/Lであった。
【表5】
【0049】
【0050】
【実施例5】
【0051】
<6種混合液状化製剤のHBs吸着率および遊離PRP含有率の経時変化>
実施例1で得られた6種混合液状製剤について、5±3℃保管時のHBs吸着率の推移および遊離PRP含有率の推移を、それぞれ表8および表9に示す。表8および表9に示す結果から明らかなように、本発明の方法に従って製造した6種混合液状化製剤は、5±3℃で24箇月保管後も、アルミニウムアジュバントへのHBs抗原吸着率が99%以上で、かつHibの遊離PRP含有率が20%未満であり、安定な液状ワクチン組成物であることがわかった。
【表8】
No.1については9箇月で試験を終了した。
【0052】
【表9】
No.1については9箇月で試験を終了した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は医薬品の分野、特にワクチンの分野において有用である。