(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】光走査装置及び光走査方法
(51)【国際特許分類】
G02B 26/10 20060101AFI20240725BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20240725BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20240725BHJP
【FI】
G02B26/10 C
G02B26/08 E
G02B26/10 104Z
B23K26/082
(21)【出願番号】P 2023524006
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008111
(87)【国際公開番号】W WO2022249607
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2021087101
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】難波 年賢
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-020873(JP,A)
【文献】特開平11-030763(JP,A)
【文献】特開2004-160522(JP,A)
【文献】国際公開第2020/254444(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10,26/12
G02B 26/08
B23K 26/00
B81B 3/00
H02N 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部と、
前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成部と、
前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得部と、
前記第1指令波形および前記第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正部と、を備え、
前記指令波形補正部は、前記軌跡の真円度を高めるように、前記第1指令波形の振幅である第1振幅、および、前記第2指令波形の振幅である第2振幅の少なくとも何れかと、前記第1指令波形と前記第2指令波形との位相差とを補正する、
ことを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記第1指令波形および前記第2指令波形は、各々の周波数が等しく、かつ、前記第1振幅および前記第2振幅が等しく、かつ、前記位相差が90°である正弦波である、
ことを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記走査部は、ピエゾ素子を用いて前記ミラーの傾きを変化させる2軸チルトステージを更に備え、
前記第1指令波形および前記第2指令波形の各々は、ぞれぞれ、前記2軸チルトステージの前記第1方向および前記第2方向に対する傾きを制御する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記ピエゾ素子は、前記第1指令波形に応じて変位する第1ピエゾ素子と、前記第2指令波形に応じて変位する第2ピエゾ素子と、により構成されており、
前記第1ピエゾ素子の変位である第1変位を検出する第1変位センサと、
前記第2ピエゾ素子の変位である第2変位を検出する第2変位センサと、
前記第1変位センサが検出した前記第1変位の振幅中心が第1目標値に近づくように、前記第1指令波形を補正する第1補正値を生成する第1補正値生成部と、
前記第2変位センサが検出した前記第2変位の振幅中心が第2目標値に近づくように、前記第2指令波形を補正する第2補正値を生成する第2補正値生成部と、
前記第1指令波形と前記第1補正値とを合成することによって第1合成波形を生成する第1合成波形生成部と、
前記第2指令波形と前記第2補正値とを合成することによって第2合成波形を生成する第2合成波形生成部と、
前記第1合成波形にしたがって前記第1ピエゾ素子を駆動する第1駆動部と、
前記第2合成波形にしたがって前記第2ピエゾ素子を駆動する第2駆動部と、を更に備えている、
ことを特徴とする請求項3に記載の光走査装置。
【請求項5】
前記走査部は、前記ミラーの後段に設けられたガルバノスキャナであって、レーザ光を反射する第1ミラーおよび第2ミラーと、前記第1ミラーの傾きを変化させる第1モータと、前記第2ミラーの傾きを変化させる第2モータと、を備えたガルバノスキャナを更に備え、
前記第1指令波形は、前記第1モータを制御することにより前記第1ミラーの前記第1方向における傾きを制御し、
前記第2指令波形は、前記第2モータを制御することにより前記第2ミラーの前記第2方向における傾きを制御する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光走査装置。
【請求項6】
レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部と、
前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成部と、
前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得部と、を備え、
前記第1指令波形および前記第2指令波形は、各々に共通する周波数と、各々の振幅である第1振幅および第2振幅と、各々の位相差とにより規定される正弦波であり、
指令波形生成部は、(1)前記レーザ光を走査する周波数と、前記軌跡の直径と、前記第1振幅と、前記第2振幅と、前記位相差との関係を表すテーブルを参照し、(2)所望の周波数を有し、かつ、当該所望の周波数および所望の直径に対応する第1振幅、第2振幅、および位相差を有する前記第1指令波形および前記第2指令波形を生成し、
前記テーブルは、前記第1振幅と前記第2振幅とが等しく、かつ、前記位相差が90°である場合と比較して、前記軌跡の真円度を高めるように前記第1振幅、前記第2振幅、および前記位相差が定められている、
ことを特徴とする光走査装置。
【請求項7】
前記走査部は、ピエゾ素子を用いて前記ミラーの傾きを変化させる2軸チルトステージを更に備え、
前記第1指令波形および前記第2指令波形の各々は、ぞれぞれ、前記2軸チルトステージの前記第1方向および前記第2方向に対する傾きを制御し、
前記ピエゾ素子は、前記第1指令波形に応じて変位する第1ピエゾ素子と、前記第2指令波形に応じて変位する第2ピエゾ素子と、により構成されており、
前記第1ピエゾ素子の変位である第1変位を検出する第1変位センサと、
前記第2ピエゾ素子の変位である第2変位を検出する第2変位センサと、
前記第1変位センサが検出した前記第1変位の振幅中心が第1目標値に近づくように、前記第1指令波形を補正する第1補正値を生成する第1補正値生成部と、
前記第2変位センサが検出した前記第2変位の振幅中心が第2目標値に近づくように、前記第2指令波形を補正する第2補正値を生成する第2補正値生成部と、
前記第1指令波形と前記第1補正値とを合成することによって第1合成波形を生成する第1合成波形生成部と、
前記第2指令波形と前記第2補正値とを合成することによって第2合成波形を生成する第2合成波形生成部と、
前記第1合成波形にしたがって前記第1ピエゾ素子を駆動する第1駆動部と、
前記第2合成波形にしたがって前記第2ピエゾ素子を駆動する第2駆動部と、を更に備えている、
ことを特徴とする請求項6に記載の光走査装置。
【請求項8】
前記軌跡を表す画像を撮像する撮像部を更に備え、
前記軌跡取得部は、前記画像に画像処理を施すことによって当該画像から前記軌跡を取得する、
ことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の光走査装置。
【請求項9】
レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部を用いた光走査方法であって、
前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成工程と、
前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得工程と、
前記第1指令波形および前記第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正工程と、を含み、
前記指令波形補正工程は、前記軌跡の真円度を高めるように、前記第1指令波形の振幅である第1振幅、および、前記第2指令波形の振幅である第2振幅の少なくとも何れかと、前記第1指令波形と前記第2指令波形との位相差とを補正する、
ことを特徴とする光走査方法。
【請求項10】
前記指令波形生成工程は、各々の周波数が等しく、かつ、前記第1振幅および前記第2振幅が等しく、かつ、前記位相差が90°である正弦波である前記第1指令波形および前記第2指令波形を生成する、
ことを特徴とする請求項9に記載の光走査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
レーザ光によって対象物を走査する光走査装置及び光走査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工の分野では、レーザ光によって対象物を走査する光走査装置が広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開特許公報特開2015-30011号
【文献】日本国公開特許公報特開2014-217875号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光走査装置としては、例えば、特許文献1に記載のように、レーザ光を走査する走査部としてガルバノスキャナを用いた装置が知られている。ガルバノスキャナは、レーザ光を反射する一対のミラーである第1ミラーおよび第2ミラーと、前記第1ミラーの第1方向における傾きを変化させる第1モータと、前記第2ミラーの第2方向における傾きを変化させる第2モータと、を備えている。第1モータは、第1指令波形により制御され、第2モータは、第2指令波形により制御される。また、別のタイプの光走査装置として、特許文献2に記載のように、走査部として2軸チルトステージを用いた装置が知られている。2軸チルトステージは、第1指令波形に従って第1方向に対してミラーを傾ける(例えば、x軸を回転軸としてミラーを微小回転させる)機能と、第2指令波形に従って第2方向に対してミラーを傾ける(例えば、y軸を回転軸としてミラーを微小回転させる)機能と、を有している。
【0005】
しかしながら、実際の光走査装置においては、レーザ光の照射点が描く軌跡に歪みが生じ、軌跡の真円度が低下する。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、円軌道を描くようにレーザ光を走査する場合に、照射点が描く軌跡の真円度を高めることができる光走査装置または光走査方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光走査装置は、レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部と、前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成部と、前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得部と、前記第1指令波形および前記第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正部と、を備え、前記指令波形補正部は、前記軌跡の真円度を高めるように、前記第1指令波形の振幅である第1振幅、および、前記第2指令波形の振幅である第2振幅の少なくとも何れかと、前記第1指令波形と前記第2指令波形との位相差とを補正する。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光走査装置は、レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部と、前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成部と、前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得部と、を備え、前記第1指令波形および前記第2指令波形は、各々に共通する周波数と、各々の振幅である第1振幅および第2振幅と、各々の位相差とにより規定される正弦波であり、指令波形生成部は、(1)前記レーザ光を走査する周波数と、前記軌跡の直径と、前記第1振幅と、前記第2振幅と、前記位相差との関係を表すテーブルを参照し、(2)所望の周波数を有し、かつ、当該所望の周波数および所望の直径に対応する第1振幅、第2振幅、および位相差を有する前記第1指令波形および前記第2指令波形を生成し、前記テーブルは、前記第1振幅と前記第2振幅とが等しく、かつ、前記位相差が90°である場合と比較して、前記軌跡の真円度を高めるように前記第1振幅、前記第2振幅、および前記位相差が定められている。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光走査方法は、レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部を用いた光走査方法であって、前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成工程と、前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得工程と、前記第1指令波形および前記第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正工程と、を含み、前記指令波形補正工程は、前記軌跡の真円度を高めるように、前記第1指令波形の振幅である第1振幅、前記第2指令波形の振幅である第2振幅、および前記第1指令波形と前記第2指令波形との位相差のうち少なくとも何れかを補正する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、円軌道を描くようにレーザ光を走査する場合に、照射点が描く軌跡の真円度を高めることができる光走査装置または光走査方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光走査装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す光走査装置が備えている第1補正値生成部の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示す光走査装置における指令波形を示すグラフである。
【
図4】
図1に示す光走査装置が備えているミラーの動作を説明する模式図である。
【
図5】本発明の一実施例およびその比較例における振幅中心の指令振幅依存性を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る光走査装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図6に示す光走査装置を用いて実施したウォブル走査の結果得られる照射点の軌跡を示すリサジュー図形である。(a)は、真円である軌跡を示し、(b)は、楕円である軌跡を示す。
【
図8】
図6に示す光走査装置が実施する光走査方法のフローチャートである。
【
図9】
図6に示す光走査装置が備えている走査部の一変形例の構成を示す模式図である。
【
図10】本発明の一実施例により得られた第1振幅、第2振幅、および位相差の周波数依存性である。
【
図11】本発明の比較例により得られた第1振幅、第2振幅、および位相差の周波数依存性である。
【
図12】本発明の一実施例および比較例の各々により得られた軌跡の真円度の周波数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る光走査装置1の基本的構成について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、光走査装置1の構成を示すブロック図である。
図2は、光走査装置1が備えている第1補正値生成部13aの構成を示すブロック図である。
図3は、光走査装置1における指令波形を示すグラフである。
図4は、光走査装置1が備えているミラー11の動作を説明する模式図である。なお、
図4においては、光走査装置1が備えている2軸チルトステージ12の図示を省略している。
【0013】
(光走査装置の基本的構成)
光走査装置1は、基本的構成として、ミラー11と、2軸チルトステージ12と、第1補正値生成部13aと、第2補正値生成部13bと、第1合成波形生成部14aと、第2合成波形生成部14bと、駆動部15と、を備えている。光走査装置1は、例えば、レーザ加工機に内蔵され、レーザ光の照射点を対象物上で移動させるために利用される。
【0014】
ミラー11は、レーザ光を反射するための構成である。例えば、ミラー11にて反射されたレーザ光は、直接、対象物に照射される。或いは、ミラー11にて反射されたレーザ光は、ガルバノスキャナを介して、対象物に照射される。
【0015】
2軸チルトステージ12は、ピエゾ素子を用いてミラー11の傾きを変化させるための構成である。2軸チルトステージ12は、第1柱状ピエゾ素子と、第2柱状ピエゾ素子と、第1変位センサ12aと、第2変位センサ12bと、を備えている。なお、
図1においては、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の図示を省略している。
【0016】
本実施形態においては、2軸チルトステージ12として、(1)第1柱状ピエゾ素子の伸縮によって、ミラー11を載置するステージをx軸を回転軸として微小回転させること、及び、(2)第2柱状ピエゾ素子の伸縮によって、ミラー11を載置するステージをy軸を回転軸として微小回転させることが可能な2軸一体ピエゾステージを用いている。第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の各々が伸縮することによって、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の各々の高さが変化する。以下において、第1柱状ピエゾ素子の高さの変化量を第1変位とよび、第2柱状ピエゾ素子の高さの変化量を第2変位とよぶ。なお、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の各々は、それぞれ、第1ピエゾ素子および第2ピエゾ素子の一例である。
【0017】
また、本実施形態において、第1変位センサ12aは、第1柱状ピエゾ素子における第1変位を検出し、第2変位センサ12bは、第2柱状ピエゾ素子における第2変位を検出する。
【0018】
2軸チルトステージ12は、例えば、ミラー11により反射されたレーザ光の照射点が対象物上で円軌道を描くようにミラー11の傾きを変化させる。この場合、対象物の並進移動、又は、ガルバノスキャナによるレーザ光の照射点の並進移動を組み合わせることによって、レーザ光の照射点が対象物上で螺旋軌道を描くウォブリングを実現することができる。
【0019】
なお、2軸チルトステージ12のステージをx軸を回転軸A
rとして微小回転させることを、本明細書においては、2軸チルトステージ12を第1方向に対して傾ける、とも記載する。また、x軸を回転軸A
rとするステージの第1基準位置P
0からの回転角のことを、本明細書においては、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きとも記載する(
図3参照)。なお、第1基準位置P
0は、第1柱状ピエゾ素子に印加される電圧が0Vである場合におけるステージの第1方向における位置である。すなわち、第1基準位置P
0は、第1変位がゼロである場合におけるステージの第1方向における位置である。
【0020】
一方、y軸を回転軸としてステージを微小回転させることを、本明細書においては、2軸チルトステージ12を第2方向に傾ける、とも記載する。また、y軸を回転軸とするステージの第2基準位置からの回転角のことを、本明細書においては、2軸チルトステージ12の第2方向に対する傾きとも記載する。ここでは、y軸を回転軸としてステージを微小回転させる場合の回転軸と、第2基準位置とについては図示を省略するが、x軸を回転軸としてステージを微小回転させる場合の回転軸Arと、第1基準位置P0と同様である。なお、第2基準位置は、第2柱状ピエゾ素子に印加される電圧が0Vである場合におけるステージの第1方向における位置である。すなわち、第2基準位置は、第2変位がゼロである場合におけるステージの第1方向における位置である。
【0021】
(指令波形および2軸チルトステージの動作)
指令波形は、ピエゾ素子の変位を制御するために用いられる制御信号の波形である。ピエゾ素子は、印加される電圧に応じて変位するため、指令波形は、電圧信号の波形であることが好ましい。
【0022】
上述したように、2軸チルトステージ12は、2軸チルトステージ12を第1方向に対して傾けるために用いる第1柱状ピエゾ素子と、2軸チルトステージ12を第2方向に対して傾けるために用いる第2柱状ピエゾ素子と、備えている。したがって、指令波形は、第1柱状ピエゾ素子の第1変位を制御するために用いられる第1指令波形と、第2柱状ピエゾ素子の第2変位を制御するために用いられる第2指令波形とを含む。以下では、第1指令波形を例として用いて、2軸チルトステージ12を第1方向に対して傾ける場合のミラー11の動作について
図3および
図4を参照して説明する。第2指令波形を用いて、2軸チルトステージ12を第2方向に対して傾ける場合のミラー11の動作は、回転軸がx軸とy軸とで異なる以外は、第1指令波形を例として用いて、2軸チルトステージ12を第1方向に対して傾ける場合のミラー11の動作と同様である。したがって、ここでは、第2指令波形を用いて、2軸チルトステージ12を第2方向に対して傾ける場合のミラー11の動作の詳しい説明を省略する。
【0023】
図3に示すように、第1指令波形は、時間変化する正の電圧により表される電圧信号の波形である。ウォブル走査を実施するために、第1指令波形は、周期的に振動し、且つ、振幅中心電圧V
cに対して対称な波形を有する。振幅中心電圧V
cは、指令波形が電圧信号の波形である場合における振幅中心である。本実施形態において、第1指令波形は、周波数fと、振幅中心電圧V
cと、振幅V
Iとにより規定される正弦波の形状を有する。第1指令波形の最大電圧V
W+および最小電圧V
Wーの各々は、それぞれ、V
W+=V
c+V
I/2、および、V
Wー=V
c-V
I/2で与えられる。
【0024】
第1柱状ピエゾ素子は、印加される電圧が0Vである場合、すなわち、第1指令波形がオフである場合、第1変位がゼロである。その結果、
図4に示すように、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きは第1基準位置P
0をとり、ミラー11の反射面は、y軸と平行な状態をとる。
【0025】
また、第1柱状ピエゾ素子は、正電圧を印加された場合、その正電圧に応じた第1変位を示す。その結果、
図4に示すように、2軸チルトステージ12は、第1方向(
図4においては反時計回りの方向)に対して傾く。
【0026】
図4においては、(1)振幅中心電圧V
cが印加された場合のミラー11の位置を振幅中心位置P
cで表し、(2)最大電圧V
W+が印加された場合のミラー11の位置を振幅最大位置P
W+で表し、(3)最小電圧V
Wーが印加された場合のミラー11の位置を振幅最小位置P
Wーで表している。また、
図4においては、振幅中心位置P
cにおけるミラー11と第1基準位置P
0におけるミラー11とのなす角を角θ
cと表す。また、振幅最大位置P
W+におけるミラー11と振幅中心位置P
cにおけるミラー11とのなす角を角θ
Wと表す。
【0027】
上述したように、第1指令波形は、正弦波であり、振幅中心電圧Vcに対して対称な波形を有する。したがって、振幅最大位置PW+と振幅最小位置PW-とは、振幅中心位置Pcに対して対称である。結果として、振幅最小位置PW-におけるミラー11と振幅中心位置Pcにおけるミラー11とのなす角も角θWとなる。
【0028】
ところで、第1柱状ピエゾ素子は、ヒステリシスを有する。そのため、第1柱状ピエゾ素子に同じ電圧(例えば、振幅中心電圧V
c)を印加した場合であっても、角θ
cの値が異なる場合が多い。このように、角θ
cの値がばらつくことによって、第1柱状ピエゾ素子に同じ電圧を印加した場合であってもミラー11により反射されたレーザ光の照射点の位置がばらつく。光走査装置1においては、第1補正値生成部13aが生成する第1補正値を用いて第1指令波形を補正することによって、この照射点のばらつきを抑制することができる。なお、第1補正値生成部13aの詳しい機能については、
図2を参照して後述する。
【0029】
(指令波形の補正)
第1変位センサ12aは、時間的に変化する第1変位を表す第1モニタ波形を生成する。
【0030】
第2変位センサ12bは、時間的に変化する第2変位を表す第2モニタ波形を生成する。
【0031】
第1補正値生成部13aは、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きを制御するための第1モニタ波形および第1目標値に基づいて第1補正値を生成する。第1補正値は、周期的に振動する第1変位の振幅中心(ひいては第1方向における振幅中心位置Pc)に生じ得る経時的なドリフトを補正するための補正値であり、第1変位の振幅中心を第1目標値に近づけるための補正値である。第1補正値は、例えば、第1目標値と第1変位の振幅中心との差分(第1目標値-第1変位の振幅中心)を算出することにより得られる。第1変位の振幅中心が第1目標値よりも小さい場合、第1補正値は正となり、第1変位の振幅中心が第1目標値よりも大きい場合、第1補正値は負となる。第1補正値は、第1合成波形生成部14aに提供される。
【0032】
第1補正値生成部13aの構成例を
図2に示す。
図2に示すように、第1補正値生成部13aの構成例は、ローパスフィルタ(LPF)13a1と、平均化部13a2と、比較部13a3と、PID制御部13a4と、リミッタ13a5とを備えている。
【0033】
LPF13a1は、所定の中心周波数と、所定の帯域とにより規定される通過帯域を有する。LPF13a1は、第1モニタ波形のうち、通過帯域に含まれる成分を信号として通過させ、それ以外の成分をノイズとして遮断する。本実施形態において、LPF13a1の通過帯域は、第1指令波形の周波数fを含んでいる。LPF13a1を通過した第1モニタ波形は、平均化部13a2に供給される。
【0034】
平均化部13a2は、第1モニタ波形のうちLPF13a1が通過させた成分を平均化することによって、第1変位の振幅中心を算出する第1変位の振幅中心は、比較部13a3に供給される。
【0035】
比較部13a3は、第1目標値と第1変位の振幅中心との差分を算出することによって第1補正値を生成する。本実施形態においては、比較部13a3として減算回路を用いている。第1目標値および第1補正値は、PID制御部13a4に供給される。
【0036】
PID制御部13a4は、第1変位の振幅中心が第1目標値に近づけるために(より好ましくは一致させるために)、第1補正値をPID(Proportional-Integral-Differential)制御する。PID制御された第1補正値は、リミッタ13a5に供給される。
【0037】
リミッタ13a5においては、上限値および下限値が定められている。リミッタ13a5は、PID制御部13a4から供給された第1補正値と、上限値および下限値とを参照し、(1)第1補正値が下限値以上かつ上限値未満である場合には第1補正値を第1合成波形生成部14aに供給し、(2)第1補正値が下限値未満である場合には第1補正値として下限値を第1合成波形生成部14aに供給し、(3)第1補正値が上限値以上である場合には第1補正値として上限値を第1合成波形生成部14aに供給する。
【0038】
なお、第1補正値生成部13aにおいて、PID制御部13a4およびリミッタ13a5は省略可能である。
【0039】
第1合成波形生成部14aは、第1指令波形と第1補正値とを合成することによって、第1合成波形を生成するための構成である。本実施形態においては、第1合成波形生成部14aとして、加算回路を用いている。第1合成波形生成部14aにて生成された第1合成波形は、駆動部15に提供される。
【0040】
第2補正値生成部13bは、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きを制御するための第2モニタ波形および第2目標値に基づいて第2補正値を生成する。第2補正値は、周期的に振動する第2変位の振幅中心(ひいては第2方向における振幅中心位置Pc)に生じ得る経時的なドリフトを補正するための補正値であり、第2変位の振幅中心を第2目標値に近づけるための補正値である。第2補正値は、第1補正値と同様に、例えば、第2目標値と第2変位の振幅中心との差分(第2目標値-第2変位の振幅中心)を算出することにより得られる。第2補正値は、第2合成波形生成部14bに提供される。
【0041】
第2補正値生成部13bの構成例は、
図2に示した第1補正値生成部13aの構成例と同様に構成することができる。したがって、ここでは、第2補正値生成部13bの構成例の詳しい説明を省略する。
【0042】
第2合成波形生成部14bは、第2指令波形と第2補正値とを合成することによって、第2合成波形を生成するための構成である。本実施形態においては、第2合成波形生成部14bとして、加算回路を用いている。第2合成波形生成部14bにて生成された第2合成波形は、駆動部15に供給される。
【0043】
駆動部15は、第1合成波形に従って2軸チルトステージ12を駆動することにより、2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きを制御するための構成である。同様に、駆動部15は、第2合成波形に従って2軸チルトステージ12を駆動することにより、2軸チルトステージ12の第2方向に対する傾きを制御するための構成である。
【0044】
上述したように、第1補正値生成部13aが生成する第1補正値は、第1変位の振幅中心を第1目標値に近づけるように定められている。第1指令波形と第1補正値とを合成することによって得られる第1合成波形に従って駆動部15が2軸チルトステージ12の第1方向に対する傾きを制御することによって、第1変位の振幅中心を第1目標値に近づけることができる。同様に、第2補正値生成部13bが生成する第2補正値は、第2変位の振幅中心を第2目標値に近づけるように定められている。第2指令波形と第2補正値とを合成することによって得られる第2合成波形を用いて2軸チルトステージ12の第2方向に対する傾きを制御することによって、第2変位の振幅中心を第2目標値に近づけることができる。
【0045】
ピエゾ素子の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、指令波形の1周期と比較して遅い現象である。これは以下の理由による。すなわち、フィードバック制御(補正)は制御対象の変化に対して、十分に速い周期(頻度)で制御対象の角度や位置をサンプリングし、目標値と一致するように補正値を出力する必要がある。ここで、ピエゾ素子のドリフトは徐々に変化する(例えば、10分で0.1mrad変化)為、その変化に間に合う周期でフィードバック制御を行えばドリフトを抑制できる(例えば10s周期で補正すればフィードバック制御が間に合う。一方、指令波形が振幅0.1mrad、周波数1000Hzの正弦波の条件にて角度フィードバック制御してピエゾ素子を駆動する場合(角度補正あり)、指令波形の周期1msよりも十分に速い周期でフィードバック制御を行う必要がある(例えば1μs以下の周期で補正)。このようにドリフトの周期は指令波形の周期より十分に遅い為、ドリフトの補正頻度は指令波形の補正頻度に比べて非常に低い(例えば、ドリフトの補正頻度は指令波形の補正頻度の1/10000000以下)。このことから、指令波形の数百~数千周期に1回、ドリフトの補正を行えばドリフトを抑制できる。そのため、第1補正値生成部13aが第1補正値を生成する頻度を第1指令波形の周波数に大きく依存せずに定めることができる。また、第2補正値生成部13bが第2補正値を生成する頻度を指令波形の周波数に大きく依存せずに定めることができる。したがって、光走査装置1は、ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、走査を高速化することができる。
【0046】
(基本的構成により得られる効果)
以上のように、光走査装置1は、レーザ光を反射するミラー11と、ミラー11を載置し、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)に応じて変位するピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)によってミラー11の傾きを変化させるチルトステージ(2軸チルトステージ12)と、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の変位(第1変位,第2変位)を検出する変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)と、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)が検出した変位(第1変位,第2変位)に応じて指令波形(第1指令波形,第2指令波形)を補正する補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)と、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)と補正値(第1補正値,第2補正値)とを合成することによって合成波形(第1合成波形,第2合成波形)を生成する合成波形生成部(第1合成波形生成部14a,第2合成波形生成部14b)と、合成波形(第1合成波形,第2合成波形)にしたがってピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)を駆動する駆動部15と、を備え、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)は、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形であり、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を目標値(第1目標値,第2目標値)に近づけるように補正値(第1補正値,第2補正値)を定める。
【0047】
補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、周期的に振動する前記変位の振幅中心を算出したうえで、当該振幅中心を用いて補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する。ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の1周期と比較して遅い現象である。そのため、光走査装置1においては、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)が補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する頻度を指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の周波数fに大きく依存せずに定めることができる。したがって、光走査装置1は、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、ウォブル走査の動作周波数をより高めることができる。すなわち、光走査装置1は、ドリフトを抑制しつつ走査を高速化することができる。
【0048】
また、光走査装置1において、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)の出力の平均値を算出し、当該平均値を前記振幅中心とする、という構成が採用されている。
【0049】
このように、変位(第1変位,第2変位)の振幅中心は、例えば、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)の出力の平均値を算出することによって得ることができる。上述したように、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の1周期と比較して遅い現象である。そのため、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)の出力の平均値を振幅中心として用い、目標値と振幅中心との差分を取ることによって補正値を算出できるので、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の経時的なドリフトを容易に抑制することができる。
【0050】
また、光走査装置1において、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、PID制御を用いて補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する、という構成が採用されている。
【0051】
このように、振幅中心を目標値に近づけるフィードバック制御としては、PID制御が好適である。
【0052】
また、光走査装置1において、ピエゾ素子は、第1方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第1ピエゾ素子と、第2方向に対する前記ミラーの傾きを変化させる第2ピエゾ素子と、を含み、チルトステージ(2軸チルトステージ12)は、前記第1ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子)と、前記第2ピエゾ素子(第2柱状ピエゾ素子)と、を備えた2軸チルトステージであり、変位センサ(第1変位センサ12a,第2変位センサ12b)は、第1ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子)の変位である第1変位を検出する第1変位センサ12aと、第2ピエゾ素子(第2柱状ピエゾ素子)の変位である第2変位を検出する第2変位センサ12bとを含み、指令波形は、前記第1ピエゾ素子を制御するための第1指令波形であって、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形である第1指令波形と、前記第2ピエゾ素子を制御するための第2指令波形であって、周期的に振動し、且つ、振幅中心に対して対称な波形である第2指令波形と、を含み、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)は、周期的に振動する前記第1変位の振幅中心が第1目標値に近づくように第1補正値を生成し、且つ、周期的に振動する前記第2変位の振幅中心が第2目標値に近づくように第2補正値を生成し、駆動部15は、第1指令波形と第1補正値との和である第1合成波形にしたがって第1ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子)を駆動し、且つ、第2指令波形と前記第2補正値との和である第2合成波形にしたがって第2ピエゾ素子(第2柱状ピエゾ素子)を駆動する、という構成が採用されている。
【0053】
上記の構成によれば、レーザ光の照射点を独立した2つの方向である第1方向及び第2方向に沿って走査することができる。そのため、対象物上に描く照射点の軌道を設定する場合の自由度を高めることができる。光走査装置1は、例えば、対象物上に円軌道または螺旋軌道を描くことができる。また、上記の構成によれば、第1ピエゾ素子および第2ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制しつつ、走査を高速化し得る。
【0054】
また、光走査装置1においては、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の周波数が1000Hz以上である、という構成が採用されている。
【0055】
光走査装置1においては、補正値生成部(第1補正値生成部13a,第2補正値生成部13b)が補正値(第1補正値,第2補正値)を生成する頻度を指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の周波数に大きく依存せずに定めることができる。したがって、光走査装置1は、指令波形(第1指令波形,第2指令波形)の周波数が1000Hz以上の場合に効果的である。
【0056】
(光走査装置の変形例)
本実施形態では、光走査装置1が2つのピエゾ素子である第1柱状ピエゾ素子と第2柱状ピエゾ素子とを備えている場合について説明した。ただし、光走査装置1においては、二次元の描画(例えば円描画)ではなく一次元の描画(例えば直線描画)の場合、第2柱状ピエゾ素子を省略することができる。
【0057】
光走査装置1において、第2柱状ピエゾ素子を省略した場合(第1柱状ピエゾ素子のみを備えている場合)、光走査装置1は、2軸チルトステージ12を第1方向に対してのみ傾けることができる。したがって、光走査装置1は、対象物上においてレーザ光の照射点を第1方向に対応した方向に沿って走査することができる。そのうえで、ガルバノスキャナを用いて、第1方向に対応した方向に交わる方向(好ましくは直交する方向)に照射点を並進移動させることによって、照射点が対象物上でジグザグな軌道を描くウォブリングを実現することができる。
【0058】
(光走査装置の追加的構成)
光走査装置1の追加的構成について、引き続き
図1を参照して説明する。光走査装置1は、上述した基本的構成に加えて、第1指令波形生成部16aと、第2指令波形生成部16bと、制御部17と、を、追加的構成として備えている。
【0059】
第1指令波形生成部16aは、第1指令波形を生成するための構成である。例えば、第1指令波形生成部16aは、第1指令波形として、制御部17により指定された周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIを有する正弦波を生成する。第1指令波形生成部16aにて生成された第1指令波形は、第1合成波形生成部14aに供給される。
【0060】
第2指令波形生成部16bは、第2指令波形を生成するための構成である。例えば、第2指令波形生成部16bは、第2指令波形として、制御部17により指定された周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIを有する正弦波を生成する。第2指令波形生成部16bにて生成された第2指令波形は、第2合成波形生成部14bに提供される。
【0061】
制御部17は、第1変位センサ12aおよび第2変位センサ12bの各々より、それぞれ、第1モニタ波形および第2モニタ波形を取得する。また、制御部17は、ユーザが選択したウォブル走査に応じて、第1指令波形および第2指令波形の各々における周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIと、第1目標値と、第2目標値と、第1指令波形と第2指令波形との位相差と、を生成する。例えば、第1指令波形および第2指令波形の各々における周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIが等しく、第1指令波形と第2指令波形との位相差がπ/2である場合、レーザ光の照射点が対象物上で円軌道を描くことができる。この場合、例えば、ガルバノスキャナによるレーザ光の照射点の並進移動を組み合わせることによって、レーザ光の照射点が対象物上で螺旋軌道を描くウォブリングを実現することができる。
【0062】
第1指令波形の周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIは、第1指令波形生成部16aに供給され、第1モニタ波形および第1目標値は、第1補正値生成部13aに供給される。また、第2指令波形の周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIは、第2指令波形生成部16bに供給され、第2モニタ波形および第2目標値は、第2補正値生成部13bに供給される。
【0063】
〔実施例〕
光走査装置1の実施例と、当該実施例に対する比較例とについて、以下に説明する。本実施例では、第1指令波形の周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIとして、それぞれ、f=3000Hz、Vc=3.59V、およびVI=0.68Vを採用した。Vc=3.59Vは、第1目標値であるθc=1.3mrad.に対応し、VI=0.68Vは、θW=0.2mrad.に対応する。
【0064】
なお、比較例は、本実施例をベースにして、第1補正値生成部13a、第1合成波形生成部14a、を省略することによって得られた。すなわち、比較例においては、第1指令波形に対する補正を実施していない。
【0065】
光走査装置1の実施例および比較例の各々を用いて、10分間にわたって第1ピエゾ素子のみを連続動作させてウォブル走査を実施した結果であって、第1方向に対する傾きの結果を、以下の表1に示す。なお、比較例の振幅中心電圧Vcは、Vc=3.40Vである。
【0066】
【表1】
表1を参照すれば、本実施例は、比較例と比較して、周波数が3000Hzであるウォブル走査を10分間にわたって実施した場合に、ピエゾ素子の振幅中心である角θ
cにおいて生じる経時的なドリフトを抑制できることが分かった。なお、従来の角度フィードバック制御を用いた光走査装置においては、ウォブル走査の周波数が高くなると(例えば1000Hzを超えると)ウォブル走査の周波数に角度フィードバック制御が追いつかなくなり、ウォブル走査が乱れる。本実施例においては、角度フィードバック制御を用いていないので、3000Hzのように高い周波数であっても、ウォブル走査が乱れることはなかった。
【0067】
次に、本実施例および比較例の各々において、第2指令波形の振幅V
Iとして、V
I=0.70V,2.11V,3.51Vと変化させた場合について説明する。V
I=0.70V,2.11V,3.51Vの各々は、それぞれ、θ
W=0.2mrad,0.6mrad,1.0mrad.に対応する。また本実施例では、第2指令波形の周波数f、振幅中心電圧Vcとして、それぞれ、f=3000Hz、Vc=3.50Vを採用した。Vc=3.50Vは、第2目標値であるθc=1.225mrad.に対応する。このような光走査装置1の実施例および比較例の各々を用いて、ウォブル走査を実施した結果であって、θwを順次0.2mrad,0.6mrad,1.0mradと変化させたときの第2方向に対する傾きの結果を
図5に示す。なお、比較例の振幅中心電圧V
cは、V
c=3.40Vである。
【0068】
図5を参照すれば、比較例においては、(1)θ
W=0.2mrad.のとき、θ
c=1.185mrad.であり、(2)θ
W=0.6mrad.のとき、θ
c=1.225mrad.であり、(3)θ
W=1.0mrad.のとき、θ
c=1.257mrad.であった。その一方で、本実施例においては、角θ
cがθ
W=0.2mrad,0.6mrad,1.0mrad.の何れの場合においても、10分後の角θ
cがθ
c=1.225mrad.でほぼ変化しないことが分かった。
【0069】
図5の結果より、本実施例は、比較例と比較して、角θwを変化させながら周波数が3000Hzであるウォブル走査を実施した場合に、ピエゾ素子の振幅中心である角θ
cにおける角θ
Wに依存するドリフトを抑制できることが分かった。
【0070】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る光走査装置2の構成について、
図6~
図9を参照して説明する。
図6は、光走査装置2の構成を示すブロック図である。
図7は、光走査装置2を用いて実施したウォブル走査の結果得られた照射点の軌跡を示すリサジュー図形である。
図7の(a)は、真円である軌跡を示し、
図7の(b)は、楕円である軌跡を示す。
図8は、光走査装置2が実施する光走査方法M10のフローチャートである。
図9は、光走査装置2が備えている走査部20の一変形例である走査部30の構成を示す模式図である。
【0071】
(光走査装置の構成)
光走査装置2は、基本的構成として、ミラー21と、2軸チルトステージ22と、第1指令波形補正部23aと、第2指令波形補正部23bと、駆動部25と、軌跡取得部28と、判定部29と、を備えている。なお、ミラー21および2軸チルトステージ22は、走査部の一例である。光走査装置2は、光走査装置1と同様に、例えば、レーザ加工機に内蔵され、レーザ光の照射点を対象物上で移動させるために利用される。
【0072】
ミラー21および2軸チルトステージ22の各々は、それぞれ、光走査装置1が備えているミラー11および2軸チルトステージ12と同じ構成であり、第1変位センサ22aおよび第2変位センサ22bの各々は、それぞれ、2軸チルトステージ12が備えている第1変位センサ12aおよび第2変位センサ12bと同じ構成である(
図1および
図6参照)。したがって、本実施形態では、ミラー21および2軸チルトステージ22の説明を省略する。
【0073】
また、光走査装置2は、上述した基本的構成2加えて、第1指令波形生成部26aと、第2指令波形生成部26bと、制御部27と、を、追加的構成として備えている。第1指令波形生成部26a、第2指令波形生成部26b、および制御部27は、光走査装置1が追加的構成として備えている第1指令波形生成部16a、第2指令波形生成部16b、および制御部17と同様の構成である。したがって、本実施形態では、第1指令波形生成部26a、第2指令波形生成部26b、および制御部27の詳しい説明を省略する。
【0074】
(指令波形および軌跡のリサジュー図形)
本実施形態では、第1柱状ピエゾ素子に入力する第1指令波形および第2柱状ピエゾ素子に入力する第2指令波形の各々として、それぞれ、正弦波を用いてウォブル走査を実施する。後述する第1指令波形補正部23aおよび第2指令波形補正部23bの各々が、それぞれ、第1指令波形および第2指令波形に補正を施していない状態(例えば、ウォブル走査開始直後の状態)において、第1指令波形および第2指令波形は、各々の周波数fが等しく、かつ、各々の振幅である第1振幅I1および第2振幅I2が等しく、かつ、各々の位相差Δが90°である。なお、以下において、第1振幅I1および第2振幅I2のことを単に振幅I1および振幅I2とも称する。
【0075】
ところで、2軸チルトステージを用いた光走査装置においては、軸干渉と呼ばれる問題が知られている。すなわち、第1指令波形に従って第1方向に対するミラー21の傾きを周期的に変化させると、これに連動して第2方向に対するミラー21の傾きが周期的に変化してしまう。このため、第2方向に対する実際のミラー21の傾きは、第2指令波形が表す傾きに、第1方向に対するミラー21の傾きの周期的な変化に起因する傾きが重畳したものになる。つまり、第2方向に対するミラー21の傾きは、第2指令波形が表すミラー21の傾きと異なるものになる。同様に、第2指令波形に従って第2方向に対するミラー21の傾きを周期的に変化させると、これに連動して第1方向に対するミラー21の傾きが周期的に変化してしまう。このため、第1方向に対するミラー21の実際の傾きは、第1指令波形が表す傾きに、第2方向に対するミラー21の傾きの周期的な変化に起因する傾きが重畳したものになる。つまり、第1方向に対するミラー21の傾きは、第1指令波形が表すミラー21の傾きと異なるものになる。このような現象を、軸干渉と呼ぶ。
【0076】
例えば、レーザ光の照射点が円軌道を描くように、第1指令波形として正弦波を2軸チルトステージに入力し、第2指令波形として第1指令波形よりも90°遅れた正弦波を2軸チルトステージに入力しても、相互に軸干渉が生じるため、レーザ光の照射点が描く軌跡に歪みが生じ、軌跡の真円度が低下する。
【0077】
2軸チルトステージ22において生じ得る軸干渉を想定しない理想的な場合、上述した第1指令波形および第2指令波形の各々を、それぞれ、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子に入力することにより、ミラー21により反射されたレーザ光の照射点は、
図7の(a)に示すような円形の軌跡を描く。
図7の(a)に示した軌跡においては、直径を測定する角度を変化させた場合においても直径が一定である。したがって、
図7の(a)に示した軌跡は、真円度が100%である。
【0078】
なお、
図7に示すx軸は、2軸チルトステージ22を第1方向に対して傾けた場合に、照射点が描く直線状の軌跡と平行になるように定められている。同様に、
図7に示すy軸は、2軸チルトステージ22を第2方向に対して傾けた場合に、照射点が描く直線状の軌跡と平行になるように定められている。
【0079】
一方、2軸チルトステージ22において軸干渉が生じている場合、上述した第1指令波形および第2指令波形の各々を、それぞれ、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子に入力することにより、照射点は、
図7の(b)に示すような楕円の軌跡を描く。
図7の(b)に示す軌跡において、長軸および短軸は、x軸およびy軸に対して傾いている。ここで、x軸上における軌跡の直径をx軸直径と呼び、y軸上における軌跡の直径をy軸直径と呼ぶ。
【0080】
光走査装置2は、従来のフィードバック制御とは異なる手法を用いて、
図7の(b)のように楕円である軌跡を、
図7の(a)のように円の軌跡に近づけることを目的にしている。なお、従来のフィードバック制御とは、柱状ピエゾ素子の変位またはミラーの傾きを逐次モニタし、モニタしたミラーの傾きが所望の傾きになるように第1指令波形および第2指令波形を補正し続けるフィードバック制御のことを指す。
【0081】
(光走査方法M10)
光走査装置2がウォブル走査を実施する光走査方法M10であって、楕円である軌跡を円に近づけるための光走査方法M10について、
図8を参照して説明する。
図8に示すように、光走査方法M10は、工程S11~S24を含んでいる。
【0082】
工程S11は、ウォブル走査における周波数fおよび直径dを設定する工程である。光走査装置2において、周波数fおよび直径dは、ユーザが設定するように構成されていてもよいし、対象物の素材や対象物の厚みなどに応じて、光走査装置2が自動的に設定するように構成されていてもよい。本実施形態においては、周波数fとしてf=3000Hzを採用し、直径dとしてd=500μmを採用する。
【0083】
工程S12は、ウォブル走査の中心位置を固定した状態で、すなわち、照射点を並進移動させない状態で、ウォブル走査を実施する工程である。制御部27は、工程S11において設定された周波数fと、直径dに応じて定めた振幅I1と、振幅中心電圧とを第1指令波形生成部26aに供給するとともに、周波数fと、直径dに応じて定めた振幅I2と、振幅中心電圧とを第2指令波形生成部26bに供給する。第1指令波形生成部26aは、取得した周波数f、振幅I1、および振幅中心電圧に応じて、第1指令波形を生成する。第2指令波形生成部26bは、取得した周波数f、振幅I2、および振幅中心電圧に応じて、第2指令波形を生成する。駆動部25は、第1指令波形および第2指令波形にしたがって2軸チルトステージ22を制御することによりウォブル走査を実施する。
【0084】
工程S13は、照射点の軌跡を用いてx軸直径を測定する工程である。軌跡取得部28は、制御部27を介して2軸チルトステージ22から取得した第1モニタ波形および第2モニタ波形を用いて、リサジュー図形を作成し、照射点の軌跡を得る。照射点の軌跡は、判定部29に供給される。判定部29は、照射点の軌跡を用いてx軸直径を測定する。
【0085】
なお、本実施形態において、軌跡取得部28は、リサジュー図形を作成することで軌跡を得るように構成されている。ただし、
図9に示した変形例のように、光走査装置2が軌跡を表す画像(以下において、軌跡画像と称する)を撮影する撮像部34(例えばデジタルカメラ)を備えている場合、軌跡取得部28は、制御部27を介して軌跡画像を取得し、軌跡画像に画像処理を施すことによって軌跡画像から軌跡を得るように構成されていてもよい。
【0086】
工程S14において、判定部29は、x軸直径の測定値がx軸直径の設定値と等しいか否かを判定する。本実施形態において、x軸直径の設定値は500μmである。なお、この判定においては、有効数字の桁数を例えば3桁というように予め定めておき、4桁目の数字を四捨五入すればよい。四捨五入したx軸直径の測定値が設定値と等しい場合、判定部29は、「Yes」と判定する。
【0087】
x軸直径の測定値が設定値と等しくない場合、工程S15において、第1指令波形補正部23aは、x軸直径の測定値が設定値に近づくように第1指令波形の振幅I1を補正する。振幅I1が補正された第1指令波形は、駆動部25に供給される。
【0088】
工程S16において、駆動部25は、ウォブル走査を実施する。このとき、駆動部25は、振幅I1が補正された第1指令波形に従って2軸チルトステージ22の第1方向に対する傾きを制御する。
【0089】
2軸チルトステージ22は、振幅I1が補正された第1指令波形に従いミラー21の第1方向に対する傾きを変化させる。そのうえで、2軸チルトステージ22は、第1モニタ波形および第2モニタ波形を生成し、制御部27に供給する。
【0090】
軌跡取得部28は、新たな第1モニタ波形および第2モニタ波形を用いて、リサジュー図形を作成し、照射点の新たな軌跡を得る。照射点の新たな軌跡は、判定部29に供給される。
【0091】
再び工程S13に戻り、判定部29は、照射点の新たな軌跡を用いてx軸直径を測定し、x軸直径の測定値が所望の直径である設定値と等しいか否かを判定する。光走査方法M10においては、x軸直径の測定値が所望の直径である設定値と等しくなるまで、工程S13~S16を繰り返す。
【0092】
工程S17は、x軸直径が補正された照射点の軌跡を用いてy軸直径を測定する工程である。x軸直径の測定値が所望の直径である設定値と等しい場合、工程S17において、判定部29は、x軸直径が補正された照射点の軌跡を用いてy軸直径を測定する。
【0093】
工程S18において、判定部29は、y軸直径の測定値がy軸直径の設定値と等しいか否かを判定する。本実施形態において、y軸直径における設定値は500μmである。なお、この判定においては、有効数字の桁数を例えば3桁というように予め定めておき、4桁目の数字を四捨五入すればよい。四捨五入したy軸直径の測定値が設定値と等しい場合、判定部29は、「Yes」と判定する。
【0094】
y軸直径の測定値が設定値と等しくない場合、工程S19において、第2指令波形補正部23bは、y軸直径の測定値が設定値に近づくように第2指令波形の振幅I2を補正する。振幅I2が補正された第2指令波形は、駆動部25に供給される。
【0095】
工程S20において、駆動部25は、ウォブル走査を実施する。このとき、駆動部25は、振幅I2が補正された第2指令波形に従って2軸チルトステージ22の第2方向に対する傾きを制御する。
【0096】
2軸チルトステージ22は、振幅I2が補正された第2指令波形に従いミラー21の第2方向に対する傾きを変化させる。そのうえで、2軸チルトステージ22は、第1モニタ波形および第2モニタ波形を生成し、制御部27に供給する。
【0097】
軌跡取得部28は、第1モニタ波形および新たな第2モニタ波形を用いて、リサジュー図形を作成し、照射点の新たな軌跡を得る。照射点の新たな軌跡は、判定部29に供給される。
【0098】
再び工程S17に戻り、判定部29は、照射点の新たな軌跡を用いてy軸直径を測定し、y軸直径の測定値がy軸直径の設定値と等しいか否かを判定する。光走査方法M10においては、y軸直径の測定値が所望の直径である設定値と等しくなるまで、工程S17~工程S20を繰り返す。
【0099】
工程S21は、x軸直径およびy軸直径が補正された照射点の軌跡を用いて軌跡の真円度を算出する工程である。y軸直径の測定値が所望の直径である設定値と等しい場合、工程S21において、判定部29は、x軸直径およびy軸直径が補正された照射点の軌跡の真円度を算出する。
【0100】
工程S22において、判定部29は、算出された真円度が真円度の設定値以上であるか否かを判定する。真円度は、最新の軌跡の短軸の長さを長軸の長さで割ることによって得られる。本実施形態において、真円度における設定値として95%を採用している。
【0101】
算出した真円度が所望の真円度である設定値未満である場合、工程S23において、第2指令波形補正部23bは、算出した真円度が設定値に近づくように、第1指令波形に対する第2指令波形の位相差Δを補正する。位相差Δが補正された第2指令波形は、駆動部25に供給される。
【0102】
工程S24において、駆動部25は、ウォブル走査を実施する。このとき、駆動部25は、振幅I2が補正された第2指令波形に従って2軸チルトステージ22の第2方向に対する傾きを制御する。
【0103】
2軸チルトステージ22は、振幅I2が補正された第2指令波形に従いミラー21の第2方向に対する傾きを変化させる。そのうえで、2軸チルトステージ22は、第1モニタ波形および第2モニタ波形を生成し、制御部27に供給する。
【0104】
軌跡取得部28は、第1モニタ波形および新たな第2モニタ波形を用いて、リサジュー図形を作成し、照射点の新たな軌跡を得る。照射点の新たな軌跡は、判定部29に供給される。
【0105】
再び工程S21に戻り、判定部29は、照射点の新たな軌跡を用いて、軌跡の真円度を算出し、算出された真円度が設定値以上であるか否かを判定する。光走査方法M10においては、算出された真円度が設定値以上になるまで、工程S21~S24を繰り返す。
【0106】
(テーブルを用いた補正)
図8に示した光走査方法M10では、(1)ウォブル走査を実施することにより得られた照射点の軌跡を用いて、当該軌跡のx軸直径、y軸直径、および真円度を取得し、(2)工程S13~S16、工程S17~工程S20、および工程S21~S24を繰り返す構成を採用していた。このように構成された光走査方法M10は、補正後の軌跡における真円度が真円度の設定値を超えるように、かつ、補正後の軌跡におけるx軸直径およびy軸直径が各々の設定値に近づくように、第1指令波形および第2指令波形を補正する。
【0107】
ただし、光走査装置2の一変形例においては、典型的な周波数fおよび直径dに関して、周波数f、直径d、振幅I1、振幅I2、および位相差Δの関係を表すテーブルを予め作成しておき、当該テーブルを光走査装置2が備えている記憶部に格納しておいてもよい。
【0108】
表2に、d=500μmであり、f=100,1000,2000,3000,4000Hzの各々である場合についてのテーブルを例示する。このテーブルは、d=500μmであり、f=100,1000,2000,3000,4000Hzの各々である各場合について、
図8に示した光走査方法M10を実施することにより得られる。すなわち、このテーブルは、第1指令波形および第2指令波形において、振幅I
1と振幅I
2とが等しく、かつ、位相差Δが90°である場合と比較して、軌跡の真円度を高めるように位相差Δが定められており、かつ、直径dが設定値である500μmに近づくように振幅I
1および振幅I
2が定められている。
【0109】
【表2】
第1指令波形生成部26aは、表2のテーブルを参照することにより、所望の周波数fおよび直径dに対応する振幅I
1および位相差Δを有する第1指令波形を容易に生成することができる。また、第2指令波形生成部26bは、表2のテーブルを参照することにより、所望の周波数fおよび直径dに対応する振幅I
2および位相差Δを有する第2指令波形を容易に生成することができる。第1指令波形生成部26aおよび第2指令波形生成部26bは、ともに指令波形生成部の一例を構成する。
【0110】
なお、表2のテーブルは、d=500μmである場合のテーブルであるが、d=300,400,600μmというように用いる頻度が高い直径dに関するテーブルを併せて作成しておくことが好ましい。
【0111】
これらのテーブルに登録されていない周波数fおよび直径dを用いたウォブル走査を実施する場合には、1又は複数のテーブルに登録されている周波数fおよび直径dに対応する振幅I1、振幅I2、および位相差Δから、線形補間により求めればよい。
【0112】
例えば、f=3500Hzであり、d=500μmである場合の振幅I1、振幅I2、および位相差Δは、表2に示したテーブルに登録されているf=3000Hzかつd=500μmの行と、f=4000Hzかつd=500μmの行とを用いて線形補間することにより得ることができる。
【0113】
また、f=3000Hzであり、d=450μmである場合の振幅I1、振幅I2、および位相差Δは、表2のテーブルに登録されたf=3000Hzかつd=500μmの行と、d=400μmに対応する振幅I1、振幅I2、および位相差Δが登録されているテーブルのf=3000Hzかつd=400μmの行とを用いて線形補間することにより得ることができる。
【0114】
(走査部の変形例)
図6に示した光走査装置2では、2軸チルトステージ22を含む走査部20を用いてウォブル走査を実施した。しかし、光走査装置2は、走査部20の代わりに走査部30(
図9参照)を用いてウォブル走査を実施するように構成されていてもよい。走査部30は、走査部20を構成していたミラー21及び2軸チルトステージ22の後段にガルバノスキャナを設けたものである。また、
図9においては、光走査装置2が備えている対物レンズOLと、対象物Wと、対象物Wを載置するテーブルTと、撮像部34と、を走査部30に加えて図示している。
【0115】
図9に示すように、走査部30は、第1ミラー31aと、第2ミラー31bと、第1ガルバノモータ32aと、第2ガルバノモータ32bと、を備えているガルバノスキャナである。第1ガルバノモータ32aは、2軸チルトステージ22の第1柱状ピエゾ素子に対応し、第1ミラー31aを第1方向に対して傾けるために用いられる。第1ガルバノモータ32aは、第1指令波形により制御される。同様に、第2ガルバノモータ32bは、2軸チルトステージ22の第2柱状ピエゾ素子に対応し、第2ミラー31bを第2方向に対して傾けるために用いられる。走査部30においては、第1ガルバノモータ32a及び第2ガルバノモータ32bが一体化されておらず、第1ミラー31aおよび第2ミラー31bが独立して設けられている。
【0116】
このように構成された走査部30においては、第1ガルバノモータ32aおよび第2ガルバノモータ32bが独立しているため、軸干渉は生じにくい。ただし、走査部20のミラー21と比較して第1ミラー31aおよび第2ミラー31bが大型化するため、ウォブル走査の周波数fを高めることが難しいという課題が走査部30にはある。
【0117】
また、ガルバノスキャナにおいては、例えば省スペース化を図るといった理由で、第1ミラー31a、第2ミラー31b、第1ガルバノモータ32a、および第2ガルバノモータ32bの各々の配置が制約される。たとえば、第1ミラー31aと第1ガルバノモータ32aとに共通する回転軸である第1回転軸、および、第2ミラー31bと第2ガルバノモータ32bとに共通する回転軸である第2回転軸の少なくとも何れかが理想的な角度からずれて配置される場合がある。この場合、ガルバノスキャナの第1回転軸および第2回転軸は、互いに直行しない。第1ミラー31a、第2ミラー31b、第1ガルバノモータ32a、および第2ガルバノモータ32bの各々が理想的に配置されている場合、第1指令波形として正弦波を第1ガルバノモータ32aに入力し、第2指令波形として第1指令波形よりも位相が90°遅れた正弦波を第2ガルバノモータ32bに入力することによって、照射点は円軌道を描く。2軸チルトステージの後段に、第1回転軸および第2回転軸が互いに直交しない2軸ガルバノスキャナを配置した構成を用いて、2軸チルトステージにより円描画した場合、軌跡の真円度が低下する。
【0118】
また、特開2009-06641号公報の背景技術の欄に記載されているように、ガルバノスキャナを構成する光学系には、糸巻き型歪みおよび樽型歪みと呼ばれる歪みが生じ得ることが知られている。糸巻き型歪みは、ガルバノスキャナの第1ミラー31aおよび第2ミラー31bのピンクッションエラーに起因する。また、樽型歪みは、第1ミラー31aおよび第2ミラー31bの後段に設けられる対物レンズOLの歪曲収差に起因する。これらの糸巻き型歪みおよび樽型歪みも、照射点が描く軌跡を歪ませ、軌跡の真円度を低下させる。
【0119】
光走査装置2は、2軸チルトステージ22の後段に、第1回転軸および第2回転軸が互いに直交しない2軸ガルバノスキャナを配置した構成を用いて、2軸チルトステージ22により円描画した場合、糸巻き型歪み、樽型歪みに起因する真円度の低下を抑制できる。
【0120】
(第2の実施形態により得られる効果)
以上のように、光走査装置2は、レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部20,30と、走査部20,30の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および走査部20,30の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成部(第1指令波形生成部26a,第2指令波形生成部26b)と、レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得部28と、第1指令波形および第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正部(第1指令波形補正部23a,第2指令波形補正部23b)と、を備え、指令波形補正部(第1指令波形補正部23a,第2指令波形補正部23b)は、軌跡の真円度を高めるように、第1振幅I1および第2振幅I2の少なくとも何れかと、位相差Δとを補正する。
【0121】
なお、走査部20は、ミラー21を備えており、走査部30は、第1ミラー31a,第2ミラー31b、ミラー21を備えている。
【0122】
上記の構成によれば、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を高めることができる。
【0123】
また、光走査装置2において、第1指令波形および第2指令波形は、各々の周波数が等しく、かつ、第1振幅I1および第2振幅I2が等しく、かつ、位相差Δが90°である正弦波である、ことが好ましい。
【0124】
上記の構成によれば、レーザ光の照射点が円軌道を描くように描画する事を容易に実現できる。これにより、いずれの走査方向においても加工幅が概ね一定とすることを容易に実現できる。
【0125】
また、光走査装置2において、走査部20は、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子,第2柱状ピエゾ素子)を用いてミラー21の傾きを変化させる2軸チルトステージ22を更に備え、第1指令波形および第2指令波形の各々は、ぞれぞれ、2軸チルトステージ22の第1方向および第2方向に対する傾きを制御する、という構成が採用されている。
【0126】
上記の構成によれば、走査部の一部として2軸チルトステージを採用することによって、軸干渉が生じ得る場合であっても、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を高めることができる。
【0127】
また、光走査装置2において、走査部30は、レーザ光を反射する第1ミラー31aおよび第2ミラー31bと、第1ミラー31aの傾きを変化させる第1モータ(第1ガルバノモータ32a)と、第2ミラー31bの傾きを変化させる第2モータ(第2ガルバノモータ32b)と、を備えたガルバノスキャナであり、第1指令波形は、第1モータ(第1ガルバノモータ32a)を制御することにより第1ミラー31aの第1方向における傾きを制御し、第2指令波形は、第2モータ(第2ガルバノモータ32b)を制御することにより第2ミラー31bの第2方向における傾きを制御する、という構成が採用されている。
【0128】
上記の構成によれば、ミラー21及び2軸チルトステージ22の後段にガルバノスキャナが設けられた走査部30を採用することによって、円描画した場合に生じ得る、糸巻き型歪み、樽型歪みに起因する真円度の低下を抑制できる。
【0129】
また、光走査装置2の一変形例は、走査部20,30と、走査部20,30の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および走査部20,30の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成部(第1指令波形補正部23a,第2指令波形補正部23b)と、レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得部28と、を備え、第1指令波形および第2指令波形は、各々に共通する周波数fと、各々の振幅である第1振幅I1および第2振幅I2と、各々の位相差Δとにより規定される正弦波であり、指令波形生成部(第1指令波形生成部26a,第2指令波形生成部26b)は、(1)周波数fと、レーザ光の軌跡の直径dと、第1振幅I1と、第2振幅I2と、位相差Δとの関係を表すテーブル(例えば表1参照)を参照し、(2)所望の周波数fを有し、かつ、当該所望の周波数および所望の直径dに対応する第1振幅I1、第2振幅I2、および位相差Δを有する第1指令波形および第2指令波形を生成し、テーブルは、第1振幅I1と第2振幅I2とが等しく、かつ、位相差Δが90°である場合と比較して、軌跡の真円度を高めるように第1振幅I1、第2振幅I2、および位相差Δが定められている。
【0130】
光走査装置2の一変形例は、光走査装置2と同様の効果を奏する。さらに、光走査装置2の一変形例によれば、指令波形生成部(第1指令波形生成部26a,第2指令波形生成部26b)は、テーブルを参照することによって、所望の周波数fおよび所望の直径dに対応する第1振幅I1、第2振幅I2、および位相差Δを有する第1指令波形および第2指令波形を生成することができる。したがって、光走査装置2の一変形例は、光走査装置2と比較して、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を容易に高めることができる。
【0131】
また、光走査装置2においては、第1指令波形および第2指令波形の周波数fが1000Hz以上である、という構成が採用されている。
【0132】
2軸チルトステージ22に起因する軸干渉や、ガルバノスキャナ光学系に起因する糸巻き型歪みおよび樽型歪みなどを解消するために、ピエゾ素子(第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子)の変位またはミラーの傾きを逐次モニタし、モニタしたミラーの傾きが所望の傾きになるように第1指令波形および第2指令波形を補正し続けるフィードバック制御が広く行われている。しかしながら、このようなフィードバックには時間を要する。そのため、ウォブル走査の周波数fを高周波化していった場合に、やがてフィードバック制御がウォブル走査の周波数fに追いつかなくなる。一方、光走査装置2では、このようなフィードバック制御を用いずに、第1振幅I1、第2振幅I2、および位相差Δのうち少なくとも何れかを補正することによって照射点の軌跡の真円度を高めることができる。したがって、光走査装置2は、第1指令波形および第2指令波形の高周波化に好適である。
【0133】
また、光走査装置2においては、レーザ光の軌跡を表す画像(軌跡画像)を撮像する撮像部34を更に備え、軌跡取得部28は、画像(軌跡画像)に画像処理を施すことによって当該画像(軌跡画像)から前記軌跡を取得する、という構成が採用されている。
【0134】
このように、レーザ光の軌跡は、撮像部34が撮像した軌跡を表す画像(軌跡画像)に画像処理を施すことによって取得することもできる。
【0135】
また、上述した実施形態では、本発明を装置(光走査装置)として表現したが、本発明は方法(光走査方法)としても表現することができる。すなわち、「レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部を用いた光走査方法であって、前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成工程と、前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得工程と、前記第1指令波形および前記第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正工程と、を含み、前記指令波形補正工程は、前記軌跡の真円度を高めるように、前記第1指令波形の振幅である第1振幅I1、および、前記第2指令波形の振幅である第2振幅I2の少なくとも何れかと、前記第1指令波形と前記第2指令波形との位相差Δとを補正する、ことを特徴とする光走査方法」も本発明の範疇に含まれる。
【0136】
なお、この光走査方法において、前記指令波形生成工程は、各々の周波数が等しく、かつ、第1振幅I1および第2振幅I2が等しく、かつ、前記位相差が90°である正弦波である前記第1指令波形および前記第2指令波形を生成する、ことが好ましい。この点については、上述した光走査装置2の場合と同様である。
【0137】
〔第1の実施形態および第2の実施形態の組み合わせ〕
本発明の一実施形態に係る光走査装置においては、第1の実施形態に係る光走査装置1(
図1参照)の構成と、第2の実施形態に係る光走査装置2(
図6)の構成とを兼ね備えた構成が採用されていてもよい。このように構成された光走査装置は、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を高めることができ、当該軌跡の直径dを設定値に近づけることができ、かつ、第1柱状ピエゾ素子および第2柱状ピエゾ素子の変位である第1変位および第2変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制することができる。
【0138】
また、本発明の一実施形態に係る光走査装置においては、上述した光走査装置1の構成と光走査装置2の構成とを兼ね備えた光走査装置において、典型的な周波数fおよび直径dに関して、周波数f、直径d、振幅I1、振幅I2、および位相差Δの関係を表すテーブルを予め作成しておき、当該テーブルを当該光走査装置が備えている記憶部に格納しておいてもよい。このように構成された光走査装置は、上述した効果に加えて、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を容易に高めることができる。テーブルを参照することによって、指令波形生成部が第1指令波形および第2指令波形を生成することができるためである。
【0139】
〔実施例〕
光走査装置2に光走査装置1を組み合わせた光走査装置の実施例と、当該実施例に対する比較例とについて、以下に説明する。
図10および
図11の各々は、それぞれ、本実施例および比較例により得られた振幅I
1、振幅I
2、および位相差Δの周波数依存性である。
図12は、実施例および比較例の各々により得られた軌跡の真円度の周波数依存性を示すグラフである。
【0140】
本実施例では、起動時における第1指令波形の周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIとして、それぞれ、f=3000Hz、Vc=4.27V、およびVI=5.54Vを採用した。Vc=4.27Vは、第1目標値であるθc=1.55mrad.に対応し、VI=5.54Vは、θW=1.63mrad.に対応する。また、本実施例では、起動時における第2指令波形の周波数f、振幅中心電圧Vc、および振幅VIとして、それぞれ、f=3000Hz、Vc=5.16V、およびVI=7.32Vを採用した。Vc=5.16Vは、第2目標値であるθc=1.82mrad.に対応し、VI=7.32Vは、θW=2.09mrad.に対応する。
【0141】
また、本実施例では、光走査方法M10を実施した。本実施例では、x軸直径の設定値およびy軸直径の設定値の各々として、d=500μmを用い、真円度の設定値として95%を用いた。また、周波数fとして、f=100,1000,2000,3000,4000Hzの各々を採用した。
【0142】
なお、比較例においては、本実施例をベースにして、比較例においては、第1指令波形および第2指令波形に対する補正を実施しなかった。
【0143】
図10を参照すれば、本実施例では、光走査方法M10を実施することにより、補正後の振幅I
1、振幅I
2、および位相差Δが周波数fに応じて異なる値になった。その結果、何れの場合においても、照射点の軌跡の真円度は、95%以上になった。
【0144】
一方、
図11を参照すれば、比較例では、光走査方法M10を実施していないため、振幅I
1、振幅I
2、および位相差Δは、何れも起動時の振幅I
1、振幅I
2、および位相差Δのままだった。
図12を参照すれば、比較例においては、周波数fと真円度との間に負の相関があり、周波数fが高くなればなるほど真円度が低下することが分かった。この真円度の低下は、軸干渉に起因するものと考えられる。一方、本実施例においては、周波数fと真円度との間に相関は認められず、周波数fを変化させた場合でも真円度は、低下しなかった。
【0145】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0146】
また、上述した実施形態では、本発明を装置(光走査装置)として表現した。ただし、本発明は、方法(光走査方法)としても表現することができる。すなわち、「レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部を用いた光走査方法であって、前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成工程と、前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得工程と、前記第1指令波形および前記第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正工程と、を含み、前記指令波形補正工程は、前記軌跡の真円度を高めるように、前記第1指令波形の振幅である第1振幅、および、前記第2指令波形の振幅である第2振幅の少なくとも何れかと、前記第1指令波形と前記第2指令波形との位相差とを補正する、ことを特徴とする光走査方法」も本発明の範疇に含まれる。
【0147】
なお、この光走査方法において、前記指令波形生成工程は、各々の周波数が等しく、かつ、前記第1振幅および前記第2振幅が等しく、かつ、前記位相差が90°である正弦波である前記第1指令波形および前記第2指令波形を生成する、ことが好ましい。
【0148】
(まとめ)
本発明の第1の態様に係る光走査装置は、レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部と、前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成部と、前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得部と、前記第1指令波形および前記第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正部と、を備え、前記指令波形補正部は、前記軌跡の真円度を高めるように、前記第1指令波形の振幅である第1振幅、および、前記第2指令波形の振幅である第2振幅の少なくとも何れかと、前記第1指令波形と前記第2指令波形との位相差とを補正する。
【0149】
上記の構成によれば、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を高めることができる。
【0150】
本発明の第2の態様に係る光走査装置においては、第1の態様に係る光走査装置の構成に加えて、前記第1指令波形および前記第2指令波形は、各々の周波数が等しく、かつ、前記第1振幅および前記第2振幅が等しく、かつ、前記位相差が90°である正弦波である、という構成が採用されている。
【0151】
上記の構成によれば、レーザ光の照射点が円軌道を描くように描画する事を容易に実現できる。これにより、いずれの走査方向においても加工幅が概ね一定とすることを容易に実現できる。
【0152】
本発明の第3の態様に係る光走査装置においては、第1の態様または第2の態様に係る光走査装置の構成に加えて、前記走査部は、ピエゾ素子を用いて前記ミラーの傾きを変化させる2軸チルトステージを更に備え、前記第1指令波形および前記第2指令波形の各々は、ぞれぞれ、前記2軸チルトステージの前記第1方向および前記第2方向に対する傾きを制御する、という構成が採用されている。
【0153】
上記の構成によれば、走査部の一部として2軸チルトステージを採用することによって、軸干渉が生じ得る場合であっても、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を高めることができる。
【0154】
本発明の第4の態様に係る光走査装置においては、上述した第3の態様に係る光走査装置の構成に加えて、前記ピエゾ素子は、前記第1指令波形に応じて変位する第1ピエゾ素子と、前記第2指令波形に応じて変位する第2ピエゾ素子と、により構成されており、前記第1ピエゾ素子の変位である第1変位を検出する第1変位センサと、前記第2ピエゾ素子の変位である第2変位を検出する第2変位センサと、前記第1変位センサが検出した前記第1変位の振幅中心が第1目標値に近づくように、前記第1指令波形を補正する第1補正値を生成する第1補正値生成部と、前記第2変位センサが検出した前記第2変位の振幅中心が第2目標値に近づくように、前記第2指令波形を補正する第2補正値を生成する第2補正値生成部と、前記第1指令波形と前記第1補正値とを合成することによって第1合成波形を生成する第1合成波形生成部と、前記第2指令波形と前記第2補正値とを合成することによって第2合成波形を生成する第2合成波形生成部と、前記第1合成波形にしたがって前記第1ピエゾ素子を駆動する第1駆動部と、前記第2合成波形にしたがって前記第2ピエゾ素子を駆動する第2駆動部と、を更に備えている、という構成が採用されている。
【0155】
上記の構成によれば、前記第1補正値生成部は、前記第1変位の振幅中心を算出したうえで、当該振幅中心を用いて第1補正値を生成し、前記第2補正値生成部は、前記第2変位の振幅中心を算出したうえで、当該振幅中心を用いて第2補正値を生成する。第1変位および第2変位の振幅中心において生じ得る経時的なドリフトは、第1指令波形および第2指令波形の1周期と比較して遅い現象である。そのため、本光走査装置においては、第1補正値生成部が補正値を生成する頻度、および、第2補正値生成部が補正値を生成する頻度を、第1指令波形および第2指令波形の周波数に大きく依存せずに定めることができる。したがって、本光走査装置は、ピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制することができる。
【0156】
本発明の第5の態様に係る光走査装置においては、上述した第1の態様または第2の態様に係る光走査装置の構成に加えて、前記走査部は、前記ミラーの後段に設けられたガルバノスキャナであって、レーザ光を反射する第1ミラーおよび第2ミラーと、前記第1ミラーの傾きを変化させる第1モータと、前記第2ミラーの傾きを変化させる第2モータと、を備えたガルバノスキャナを更に備え、前記第1指令波形は、前記第1モータを制御することにより前記第1ミラーの前記第1方向における傾きを制御し、前記第2指令波形は、前記第2モータを制御することにより前記第2ミラーの前記第2方向における傾きを制御する、という構成が採用されている。
【0157】
上記の構成によれば、走査部としてガルバノスキャナを採用することによって、糸巻き型歪みおよび樽型歪みと呼ばれる歪みが生じ得る場合であっても、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を高めることができる。
【0158】
本発明の第6の態様に係る光走査装置は、レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部と、前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成部と、前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得部と、を備え、前記第1指令波形および前記第2指令波形は、各々に共通する周波数と、各々の振幅である第1振幅および第2振幅と、各々の位相差とにより規定される正弦波であり、指令波形生成部は、(1)前記レーザ光を走査する周波数と、前記軌跡の直径と、前記第1振幅と、前記第2振幅と、前記位相差との関係を表すテーブルを参照し、(2)所望の周波数を有し、かつ、当該所望の周波数および所望の直径に対応する第1振幅、第2振幅、および位相差を有する前記第1指令波形および前記第2指令波形を生成し、前記テーブルは、前記第1振幅と前記第2振幅とが等しく、かつ、前記位相差が90°である場合と比較して、前記軌跡の真円度を高めるように前記第1振幅、前記第2振幅、および前記位相差が定められている。
【0159】
第6の態様に係る光走査装置は、第1の態様に係る光走査装置と同様の効果を奏する。さらに、上記の構成によれば、指令波形生成部は、テーブルを参照することによって、所望の周波数および所望の直径に対応する第1振幅、第2振幅、および位相差を有する前記第1指令波形および前記第2指令波形を生成することができる。したがって、本光走査装置は、本発明の第1の態様に係る光走査装置と比較して、レーザ光の照射点が描く軌跡の真円度を容易に高めることができる。
【0160】
本発明の第7の態様に係る光走査装置においては、第6の態様に係る光走査装置の構成に加えて、前記走査部は、ピエゾ素子を用いて前記ミラーの傾きを変化させる2軸チルトステージを更に備え、前記第1指令波形および前記第2指令波形の各々は、ぞれぞれ、前記2軸チルトステージの前記第1方向および前記第2方向に対する傾きを制御し、前記ピエゾ素子は、前記第1指令波形に応じて変位する第1ピエゾ素子と、前記第2指令波形に応じて変位する第2ピエゾ素子と、により構成されており、前記第1ピエゾ素子の変位である第1変位を検出する第1変位センサと、前記第2ピエゾ素子の変位である第2変位を検出する第2変位センサと、前記第1変位センサが検出した前記第1変位の振幅中心が第1目標値に近づくように、前記第1指令波形を補正する第1補正値を生成する第1補正値生成部と、前記第2変位センサが検出した前記第2変位の振幅中心が第2目標値に近づくように、前記第2指令波形を補正する第2補正値を生成する第2補正値生成部と、前記第1指令波形と前記第1補正値とを合成することによって第1合成波形を生成する第1合成波形生成部と、前記第2指令波形と前記第2補正値とを合成することによって第2合成波形を生成する第2合成波形生成部と、前記第1合成波形にしたがって前記第1ピエゾ素子を駆動する第1駆動部と、前記第2合成波形にしたがって前記第2ピエゾ素子を駆動する第2駆動部と、を更に備えている、という構成が採用されている。
【0161】
第7の態様に係る光走査装置は、第4の態様に係る光走査装置と同様の効果を奏する。すなわち、上記の構成によれば、テーブルを参照することによってレーザ光の軌跡の真円度を高める場合であってもピエゾ素子の変位に生じ得る経時的なドリフトを抑制することができる。
【0162】
本発明の第8の態様に係る光走査装置においては、上述した第1の態様~第7の態様の何れか一態様に係る光走査装置の構成に加えて、前記軌跡を表す画像を撮像する撮像部を更に備え、前記軌跡取得部は、前記画像に画像処理を施すことによって当該画像から前記軌跡を取得する、という構成が採用されている。
【0163】
このように、レーザ光の軌跡は、撮像部が撮像した軌跡を表す画像に画像処理を施すことによって取得することもできる。
【0164】
本発明の第9の態様に係る光走査方法は、レーザ光を反射するミラーを備え、当該ミラーの傾きを変えることにより前記レーザ光を走査する走査部を用いた光走査方法であって、前記走査部の第1方向における走査を制御するための第1指令波形および前記走査部の第2方向における走査を制御するための第2指令波形を生成する指令波形生成工程と、前記レーザ光の軌跡を取得する軌跡取得工程と、前記第1指令波形および前記第2指令波形の少なくとも何れかを補正する指令波形補正工程と、を含み、前記指令波形補正工程は、前記軌跡の真円度を高めるように、前記第1指令波形の振幅である第1振幅、前記第2指令波形の振幅である第2振幅、および前記第1指令波形と前記第2指令波形との位相差のうち少なくとも何れかを補正する。
【0165】
第9の態様に係る光走査方法は、第1の態様に係る光走査装置と同様の効果を奏する。
【0166】
本発明の第10の態様に係る光走査方法においては、上述した第9の態様に係る光走査方法の構成に加えて、前記指令波形生成工程は、各々の周波数が等しく、かつ、各々の振幅である第1振幅および第2振幅が等しく、かつ、各々の位相差が90°である正弦波である前記第1指令波形および前記第2指令波形を生成する、という構成が採用されている。
【0167】
上記の構成によれば、レーザ光の照射点が円軌道を描くように描画する事を容易に実現できる。これにより、いずれの走査方向においても加工幅が概ね一定とすることを容易に実現できる。
【符号の説明】
【0168】
1 光走査装置
11 ミラー
12 2軸チルトステージ
12a 第1変位センサ
12b 第2変位センサ
13a 第1補正値生成部
13a1 ローパスフィルタ(LPF)
13a2 平均化部
13a3 比較部
13a4 PID制御部
13a5 リミッタ
13b 第2補正値生成部
14a 第1合成波形生成部
14b 第2合成波形生成部
15 駆動部
16a 第1指令波形生成部
16b 第2指令波形生成部
17 制御部