(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】記録媒体、情報の記録方法及び情報の読出方法
(51)【国際特許分類】
G11B 7/24035 20130101AFI20240726BHJP
G11B 7/004 20060101ALI20240726BHJP
G11B 7/24044 20130101ALI20240726BHJP
G11B 7/24088 20130101ALI20240726BHJP
G11B 7/244 20060101ALI20240726BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240726BHJP
G02F 1/361 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G11B7/24035
G11B7/004
G11B7/24044
G11B7/24088
G11B7/244
G01N21/64 Z
G02F1/361
(21)【出願番号】P 2024521585
(86)(22)【出願日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2023012103
(87)【国際公開番号】W WO2023223674
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2022080838
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 康太
(72)【発明者】
【氏名】横山 麻紗子
(72)【発明者】
【氏名】坂田 直弥
(72)【発明者】
【氏名】田頭 健司
(72)【発明者】
【氏名】荒瀬 秀和
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-022034(JP,A)
【文献】特開平06-128377(JP,A)
【文献】国際公開第03/085657(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/123065(WO,A1)
【文献】特開2013-020681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 7/24 - 7/259
G11B 7/00 - 7/013
G01N 21/64
G02F 1/361
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを含む記録層を備え、
前記ポリマーは、非線形光吸収特性を有する基を含み、かつ、200℃以上のガラス転移温度を有
し、
前記ポリマーは、カルバゾール骨格及びナフタレン骨格からなる群より選ばれる少なくとも1つを側鎖に有する、記録媒体。
【請求項2】
前記記録層における波長405nmの光の透過率が95%以上である、請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記記録層の屈折率が1.65以上である、請求項1に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記ポリマーは、スチレン類に由来する構成単位、及びスチルベン類に由来する構成単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の記録媒体。
【請求項5】
ポリマーを含む記録層を備え、
前記ポリマーは、非線形光吸収特性を有する基を含み、かつ、200℃以上のガラス転移温度を有し、
前記ポリマーは、下記式(1)で表される構成単位Aと、下記式(2)で表される構成単位B及び下記式(3)で表される構成単位Cからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む
、記録媒体。
【化1】
前記式(1)において、R
1からR
8は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含み、R
4からR
8からなる群より選ばれる少なくとも1つは、非線形光吸収特性を有する基を含み、
前記式(2)において、R
9からR
16は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含み、かつ、非線形光吸収特性を有する基以外の他の基であり、
前記式(3)において、R
17からR
27は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む。
【請求項6】
前記ポリマーにおいて、前記構成単位Aの数x、前記構成単位Bの数y、及び前記構成単位Cの数zは、0.35≦z/(x+y+z)を満たす、請求項
5に記載の記録媒体。
【請求項7】
前記ポリマーにおいて、前記構成単位Aの数x、前記構成単位Bの数y、及び前記構成単位Cの数zは、0.07≦x/(x+y+z)≦0.65を満たす、請求項
5に記載の記録媒体。
【請求項8】
前記式(1)において、R
4からR
8からなる群より選ばれる少なくとも1つは、下記式(4)で表される、請求項
5に記載の記録媒体。
-L-R
A (4)
前記式(4)において、Lは、C、N、O及びSからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む連結基であり、R
Aは、ピレン骨格を有する基である。
【請求項9】
390nm以上420nm以下の波長を有する光を発する光源を準備し、
前記光源からの前記光を集光して、請求項1から
8のいずれか1項に記載の記録媒体における前記記録層に照射する、
ことを含む、情報の記録方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の記録方法によって記録された情報の読出方法であって、
前記読出方法は、
前記記録媒体における前記記録層に対して光を照射することによって、前記記録層の光学特性を測定し、
前記記録層から情報を読み出す、
ことを含む、情報の読出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、記録媒体、情報の記録方法及び情報の読出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体の記録容量を増加させるための技術として、多層体に情報を記録する3次元記録が知られている。3次元記録の分野では、記録密度を向上させるために、より微細な集光スポットを実現する必要がある。集光させたレーザー光の回折限界の観点から、より微細な集光スポットを実現するために、短い波長を有するレーザー光が用いられる。このレーザー光としては、Blu-ray(登録商標)ディスクの規格である405nmの中心波長を有するレーザー光が挙げられる。このように、405nmの中心波長を有するレーザー光を用いた光記録媒体が知られている。
【0003】
記録媒体は、例えば、色素を含む記録層を備えている。特許文献1及び非特許文献1には、記録媒体に利用できる可能性のある色素が例示されている。特に、特許文献1では、ピレンなどの非線形光吸収色素を樹脂中に分散させた光情報記録材料が開示されている。特許文献1において、光情報記録材料からなる記録層を備えた光記録媒体は、ホログラム記録を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Harry L. Anderson et al, "Two-Photon Absorption and the Design of Two-Photon Dyes", Angew. Chem. Int. Ed. 2009, Vol. 48, p. 3244-3266.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非線形光吸収材料を用いた新たな記録媒体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様における記録媒体は、
ポリマーを含む記録層を備え、
前記ポリマーは、非線形光吸収特性を有する基を含み、かつ、200℃以上のガラス転移温度を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、非線形光吸収材料を用いた新たな記録媒体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかる記録媒体の概略構成を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本開示の一実施形態にかかる記録媒体を用いた情報の記録方法に関するフローチャートである。
【
図2B】
図2Bは、本開示の一実施形態にかかる記録媒体を用いた情報の読出方法に関するフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例の記録媒体の記録再生特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
複数の記録層を備えた記録媒体では、情報の記録又は情報の読出を行うために利用される光について、各記録層での一光子吸収が大きい場合、光が各記録層を通過するにつれて光の強度が低下する。この場合、光源から離れた位置に配置された記録層において、記録及び読出の感度が大きく低下する傾向がある。そのため、情報の記録又は情報の読出を行うために利用される光に対する一光子吸収が小さい記録層が求められている。本明細書では、情報の読出を情報の再生と呼ぶことがある。一光子吸収を線形光吸収と呼ぶことがある。
【0011】
記録媒体における記録層の数をより増加させるためには、1つの記録層当たりの線形光吸収を低下させて、記録又は再生を行うべき記録層以外の他の記録層による影響を最小限に留める必要がある。1つの記録層当たりの線形光吸収を低下させるために、記録又は再生を行うために利用される光に対して、線形光吸収帯をほとんど有さず、かつ非線形光学効果を有する色素を含む記録層の検討が行われている。
【0012】
なお、非線形光学効果とは、レーザー光などの強い光が物質に照射された場合に、その物質において、照射光の電場の2乗又は2乗より高次に比例した光学現象が生じることを意味する。光学現象としては、吸収、反射、散乱、発光などが挙げられる。照射光の電場の2乗に比例する二次の非線形光学効果としては、第二高調波発生(SHG)、ポッケルス効果、パラメトリック効果などが挙げられる。照射光の電場の3乗に比例する三次の非線形光学効果としては、二光子吸収などの多光子吸収、第三高調波発生(THG)、カー効果などが挙げられる。特に、複数の記録層を備えた記録媒体では、二光子吸収などの多光子吸収が利用されうる。本明細書では、二光子吸収などの多光子吸収を非線形光吸収と呼ぶことがある。非線形光吸収を行うことができる材料を非線形光吸収材料と呼ぶことがある。なお、非線形光吸収は非線形吸収と呼ばれることもある。
【0013】
これまでに、非線形光学材料として、単結晶を容易に調製できる無機材料が開発されている。一方、近年では、有機材料からなる非線形光学材料の開発が期待されている。有機材料は、無機材料と比較して、高い設計自由度を有するだけでなく、大きい非線形光学定数を有する。さらに、有機材料では、非線形応答が高速で行われる。
【0014】
有機材料を構成する化合物について、基底状態から最低一重項励起状態に電子を遷移させるための波長が、多光子吸収の励起波長に近ければ近いほど、有機材料の多光子吸収特性が向上し、例えば、大きい二光子吸収断面積を実現できる傾向がある。記録媒体では、通常、多光子吸収の励起波長と同じ波長を有する光が記録又は再生を行うために利用される。この設計方針に基づいて、様々な化合物が合成されている。本明細書では、化合物において、基底状態から最低一重項励起状態に電子が遷移することをS0-S1遷移と呼ぶことがある。なお、二光子吸収断面積は、二光子吸収の効率を示す指標である。二光子吸収断面積の単位は、GM(10-50cm4・s・molecule-1・photon-1)である。
【0015】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様にかかる記録媒体は、
ポリマーを含む記録層を備え、
前記ポリマーは、非線形光吸収特性を有する基を含み、かつ、200℃以上のガラス転移温度を有する。
【0016】
第1態様によれば、非線形光吸収材料を用いた新たな記録媒体を提供できる。
【0017】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様にかかる記録媒体では、前記記録層における波長405nmの光の透過率が95%以上であってもよい。
【0018】
本開示の第3態様において、例えば、第1又は第2態様にかかる記録媒体では、前記記録層の屈折率が1.65以上であってもよい。
【0019】
第2から第3態様にかかる記録媒体は、良好な記録再生特性を有する傾向がある。
【0020】
本開示の第4態様において、例えば、第1から第3態様のいずれか1つにかかる記録媒体では、前記ポリマーは、カルバゾール骨格及びナフタレン骨格からなる群より選ばれる少なくとも1つを側鎖に有していてもよい。
【0021】
第4態様に記載されたポリマーは、390nmから420nmの範囲の波長の光の透過率を維持しつつ、屈折率及びガラス転移温度を上昇させやすい。このポリマーは、溶剤に対して適切な溶解性を有するため、塗布液を塗布して記録層を作製する塗布法を適用しやすい。
【0022】
本開示の第5態様において、例えば、第1から第4態様のいずれか1つにかかる記録媒体では、前記ポリマーは、スチレン類に由来する構成単位、及びスチルベン類に由来する構成単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0023】
第5態様に記載されたポリマーは、390nmから420nmの範囲の波長の光の透過率、屈折率、及びガラス転移温度を高い値に調整しやすい。このポリマーは、溶剤に対する適切な溶解性を有する傾向もある。さらに、スチレン類又はスチルベン類に由来する構成単位には、非線形光吸収特性を有する基を導入しやすい。
【0024】
本開示の第6態様において、例えば、第1から第5態様のいずれか1つにかかる記録媒体では、前記ポリマーは、下記式(1)で表される構成単位Aと、下記式(2)で表される構成単位B及び下記式(3)で表される構成単位Cからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含んでいてもよい。
【化1】
前記式(1)において、R
1からR
8は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含み、R
4からR
8からなる群より選ばれる少なくとも1つは、非線形光吸収特性を有する基を含み、
前記式(2)において、R
9からR
16は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含み、かつ、非線形光吸収特性を有する基以外の他の基であり、
前記式(3)において、R
17からR
27は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む。
【0025】
第6態様に記載されたポリマーは、光の透過率、屈折率、及びガラス転移温度を高い値に調整しやすい。このポリマーには、構成単位Aによって非線形光吸収特性が付与されている。
【0026】
本開示の第7態様において、例えば、第6態様にかかる記録媒体では、前記ポリマーにおいて、前記構成単位Aの数x、前記構成単位Bの数y、及び前記構成単位Cの数zは、0.35≦z/(x+y+z)を満たしていてもよい。
【0027】
第7態様に記載されたポリマーによれば、記録層の屈折率を1.65以上に調整しやすい。
【0028】
本開示の第8態様において、例えば、第6又は第7態様にかかる記録媒体では、前記ポリマーにおいて、前記構成単位Aの数x、前記構成単位Bの数y、及び前記構成単位Cの数zは、0.07≦x/(x+y+z)≦0.65を満たしていてもよい。
【0029】
第8態様に記載されたポリマーによれば、記録層の屈折率を1.65以上に調整しやすい。さらに、このポリマーは、適切な非線形光吸収量を有する傾向がある。そのため、このポリマーを有する記録媒体は、良好な記録感度を示す傾向がある。
【0030】
本開示の第9態様において、例えば、第6から第8態様のいずれか1つにかかる記録媒体では、前記式(1)において、R4からR8からなる群より選ばれる少なくとも1つは、下記式(4)で表されてもよい。
-L-RA (4)
前記式(4)において、Lは、C、N、O及びSからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む連結基であり、RAは、ピレン骨格を有する基である。
【0031】
第9態様に記載されたポリマーは、光の透過率、屈折率、及びガラス転移温度を高い値に調整しつつ、良好な非線形光吸収量を実現しやすい。このポリマーは、溶剤に対する適切な溶解性を有する傾向もある。このポリマーを有する記録層は、良好な記録再生特性と、良好な熱安定性とを示す傾向がある。
【0032】
本開示の第10態様にかかる情報の記録方法は、
390nm以上420nm以下の波長を有する光を発する光源を準備し、
前記光源からの前記光を集光して、第1から第9態様のいずれか1つにかかる記録媒体における前記記録層に照射する、
ことを含む。
【0033】
第10態様によれば、高い記録密度で記録媒体に情報を記録することができる。
【0034】
本開示の第11態様にかかる情報の読出方法は、例えば、第10態様にかかる記録方法によって記録された情報の読出方法であって、
前記読出方法は、
前記記録媒体における前記記録層に対して光を照射することによって、前記記録層の光学特性を測定し、
前記記録層から情報を読み出す、
ことを含む。
【0035】
第11態様によれば、記録媒体から容易に情報を読み出すことができる。
【0036】
本開示の第12態様にかかる組成物は、
下記式(1)で表される構成単位Aと、下記式(2)で表される構成単位B及び下記式(3)で表される構成単位Cからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含むポリマーを有する。
【化2】
前記式(1)において、R
1からR
8は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含み、R
4からR
8からなる群より選ばれる少なくとも1つは、非線形光吸収特性を有する基を含み、
前記式(2)において、R
9からR
16は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含み、かつ、非線形光吸収特性を有する基以外の他の基であり、
前記式(3)において、R
17からR
27は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む。
【0037】
第12態様によれば、記録媒体の記録層の材料に適した新たな組成物を提供できる。
【0038】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0039】
(実施形態)
図1は、本開示の一実施形態にかかる記録媒体100の概略構成を示す断面図である。
図1に示すように、記録媒体100は、記録層10を備えている。記録層10は、ポリマーPを含む。ポリマーPは、非線形光吸収特性を有する基Gを含み、かつ、200℃以上のガラス転移温度を有する。
【0040】
記録媒体100は、複数の記録層10を備えていてもよい。複数の記録層10は、例えば、記録媒体100の厚さ方向に並んでいる。記録媒体100において、記録層10の数は、特に限定されず、例えば2以上1000以下である。複数の記録層10を備えた記録媒体100は、三次元光メモリとして機能する。記録媒体100の具体例は、三次元光ディスクである。
【0041】
記録媒体100は、例えば、2つの記録層10の間に位置する誘電体層20をさらに備える。本明細書では、誘電体層20を中間層と呼ぶことがある。記録媒体100は、複数の誘電体層20を備えていてもよい。記録媒体100において、複数の記録層10と複数の誘電体層20とが交互に並んでいてもよい。言い換えると、複数の記録層10と複数の誘電体層20とが交互に積層されていてもよい。一例として、複数の記録層10は、それぞれ、2つの誘電体層20の間に配置されており、2つの誘電体層20のそれぞれに直接接している。記録媒体100において、誘電体層20の数は、特に限定されず、例えば3以上1001以下である。誘電体層20は、例えば、誘電体層として機能することができる。
【0042】
[記録層]
上述のとおり、記録層10は、ポリマーPを含む。ポリマーPは、非線形光吸収特性を有する基Gを含む。一例として、ポリマーPは、上記の基Gを側鎖に有する。ポリマーPに含まれる基が非線形光吸収特性を有するかどうかは、次の方法によって判断することができる。まず、ポリマーPに含まれる基と同じ構造を有する化合物を準備する。この化合物について、光吸収特性を測定し、非線形光吸収特性を有するかどうかを特定する。この化合物が非線形光吸収特性を有する場合、ポリマーPに含まれる基も非線形光吸収特性を有していると判断できる。なお、ポリマーP自体が非線形光吸収特性を有する場合についても、ポリマーPは、非線形光吸収特性を有する基Gを含んでいると判断できる。
【0043】
ポリマーPが非線形光吸収特性を有する基Gを含むため、ポリマーPは、非線形光吸収材料として機能する。非線形光吸収材料を利用した記録層10では、記録再生波長での線形光吸収が小さく、記録感度が良好な傾向がある。記録層10において、記録再生波長での線形光吸収が小さいと、記録媒体100の記録又は再生処理を行うときに、隣接する他の記録層10に対して影響を与えにくい。このように、ポリマーPを含む記録層10は、多層構造を有する記録媒体100に適している。
【0044】
非線形光吸収特性を有する基Gとしては、例えば、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合及び芳香環からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む基が挙げられる。基Gの具体例としては、ピレン骨格を有する基、ジフェニルアセチレン骨格を有する基、stiff-stilbene骨格を有する基などが挙げられる。
【0045】
ポリマーPは、詳細には、上記の基Gを有する構成単位Aを含んでいる。構成単位Aとしては、スチレン類に由来し、かつ基Gを有する構成単位A1、スチルベン類に由来し、かつ基Gを有する構成単位A2などが挙げられる。本明細書では、構成単位A1を、単に、スチレン類に由来する構成単位A1と呼ぶことがある。構成単位A2を、単に、スチルベン類に由来する構成単位A2と呼ぶことがある。ポリマーPは、例えば、スチレン類に由来する構成単位A1、及びスチルベン類に由来する構成単位A2からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位Aを含む。ポリマーPは、スチレン類に由来する構成単位A1を含んでいてもよい。
【0046】
上記の構成単位Aは、例えば、下記式(1)で表される。
【化3】
【0047】
式(1)において、R1からR8は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む。R4からR8からなる群より選ばれる少なくとも1つは、非線形光吸収特性を有する基Gを含む。
【0048】
R1からR8は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素原子を含む基、窒素原子を含む基、硫黄原子を含む基、ケイ素原子を含む基、リン原子を含む基、又はホウ素原子を含む基であってもよい。R4からR8からなる群より選ばれる少なくとも1つは、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素原子を含む基、窒素原子を含む基、硫黄原子を含む基、ケイ素原子を含む基、リン原子を含む基、又はホウ素原子を含む基に、非線形光吸収特性を有する基Gが置換した基であってもよい。
【0049】
ハロゲン原子としては、F、Cl、Br、Iなどが挙げられる。本明細書では、ハロゲン原子をハロゲン基と呼ぶことがある。
【0050】
炭化水素基の炭素数は、特に限定されず、例えば1以上10以下であり、1以上8以下であってもよく、1以上5以下であってもよい。炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。
【0051】
炭化水素基としては、脂肪族飽和炭化水素基、脂環式炭化水素基、脂肪族不飽和炭化水素基などが挙げられる。脂肪族飽和炭化水素基は、アルキル基であってもよい。脂肪族飽和炭化水素基としては、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH(CH3)CH2CH3、-C(CH3)3、-CH2CH(CH3)2、-(CH2)3CH3、-(CH2)4CH3、-C(CH2CH3)(CH3)2、-CH2C(CH3)3、-(CH2)5CH3、-(CH2)6CH3、-(CH2)7CH3、-(CH2)8CH3、-(CH2)9CH3などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。脂肪族不飽和炭化水素基としては、-CH=CH2、-C≡CH、-C≡CCH3、-C(CH3)=CH2、-CH=CHCH3、-CH2CH=CH2などが挙げられる。
【0052】
ハロゲン化炭化水素基とは、炭化水素基に含まれる少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子によって置換された基を意味する。ハロゲン化炭化水素基は、炭化水素基に含まれる全ての水素原子がハロゲン原子によって置換された基であってもよい。ハロゲン化炭化水素基としては、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基などが挙げられる。
【0053】
ハロゲン化アルキル基としては、-CF3、-CH2F、-CH2Br、-CH2Cl、-CH2I、-CH2CF3などが挙げられる。ハロゲン化アルケニル基としては、-CH=CHCF3などが挙げられる。
【0054】
酸素原子を含む基は、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルデヒド基、エーテル基、アシル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する置換基である。
【0055】
ヒドロキシル基を有する置換基としては、例えば、ヒドロキシル基そのもの、及び、ヒドロキシル基を有する炭化水素基が挙げられる。ヒドロキシル基を有する炭化水素基としては、-CH2OH、-CH(OH)CH3、-CH2CH(OH)CH3、-CH2C(OH)(CH3)2などが挙げられる。
【0056】
カルボキシル基を有する置換基としては、例えば、カルボキシル基そのもの、及び、カルボキシル基を有する炭化水素基が挙げられる。カルボキシル基を有する炭化水素基としては、-CH2CH2COOH、-C(COOH)(CH3)2などが挙げられる。
【0057】
アルデヒド基を有する置換基としては、例えば、アルデヒド基そのもの、及び、アルデヒド基を有する炭化水素基が挙げられる。アルデヒド基を有する炭化水素基としては、-CH=CHCHOなどが挙げられる。
【0058】
エーテル基を有する置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、アルケニルオキシ基、オキシラニル基、及び、これらの官能基のうち少なくとも1つを有する炭化水素基が挙げられる。アルコキシ基に含まれる少なくとも1つの水素原子は、N、O、P及びSからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む基によって置換されていてもよい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、2-メトキシエトキシ基、ブトキシ基、2-メチルブトキシ基、2-メトキシブトキシ基、4-エチルチオブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基などが挙げられる。ハロゲン化アルコキシ基としては、-OCHF2、-OCH2F、-OCH2Clなどが挙げられる。アルケニルオキシ基としては、-OCH=CH2などが挙げられる。アルコキシ基などの官能基を有する炭化水素基としては、-CH2OCH3、-C(OCH3)3、2-メトキシブチル基、6-メトキシヘキシル基などが挙げられる。
【0059】
アシル基を有する置換基としては、例えば、アシル基そのもの、及びアシル基を有する炭化水素基が挙げられる。アシル基としては、-COCH3などが挙げられる。アシル基を有する炭化水素基としては、-CH=CHCOCH3などが挙げられる。
【0060】
エステル基を有する置換基としては、例えば、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、及び、これらの官能基のうち少なくとも1つを有する炭化水素基が挙げられる。アルコキシカルボニル基としては、-COOCH3、-COO(CH2)3CH3、-COO(CH2)7CH3などが挙げられる。アシルオキシ基としては、-OCOCH3などが挙げられる。アシルオキシ基などの官能基を有する炭化水素基としては、-CH2OCOCH3などが挙げられる。
【0061】
窒素原子を含む基は、例えば、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アミド基、カルバメート基、ニトロ基、シアナミド基、イソシアネート基及びオキシム基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する置換基である。
【0062】
アミノ基を有する置換基としては、例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び、これらの官能基のうち少なくとも1つを有する炭化水素基が挙げられる。3級アミノ基としては、-N(CH3)2などが挙げられる。1級アミノ基などの官能基を有する炭化水素基としては、-CH2NH2、-CH2N(CH3)2、-(CH2)4N(CH3)2などが挙げられる。
【0063】
イミノ基を有する置換基としては、例えば、イミノ基そのもの、及びイミノ基を有する炭化水素基が挙げられる。イミノ基としては、-N=CCl2などが挙げられる。
【0064】
シアノ基を有する置換基としては、例えば、シアノ基そのもの、及びシアノ基を有する炭化水素基が挙げられる。シアノ基を有する炭化水素基としては、-CH2CN、-CH=CHCNなどが挙げられる。
【0065】
アミド基を有する置換基としては、例えば、アミド基そのもの、及びアミド基を有する炭化水素基が挙げられる。アミド基としては、-CONH2、-NHCHO、-NHCOCH3、-NHCOCF3、-NHCOCH2Cl、-NHCOCH(CH3)2などが挙げられる。アミド基を有する炭化水素基としては、-CH2CONH2、-CH2NHCOCH3などが挙げられる。
【0066】
カルバメート基を有する置換基としては、例えば、カルバメート基そのもの、及びカルバメート基を有する炭化水素基が挙げられる。カルバメート基としては、-NHCOOCH3、-NHCOOCH2CH3、-NHCO2(CH2)3CH3などが挙げられる。
【0067】
ニトロ基を有する置換基としては、例えば、ニトロ基そのもの、及びニトロ基を有する炭化水素基が挙げられる。ニトロ基を有する炭化水素基としては、-C(NO2)(CH3)2などが挙げられる。
【0068】
シアナミド基を有する置換基としては、例えば、シアナミド基そのもの、及びシアナミド基を有する炭化水素基が挙げられる。シアナミド基は、-NHCNで表される。
【0069】
イソシアネート基を有する置換基としては、例えば、イソシアネート基そのもの、及びイソシアネート基を有する炭化水素基が挙げられる。イソシアネート基は、-N=C=Oで表される。
【0070】
オキシム基を有する置換基としては、例えば、オキシム基そのもの、及びオキシム基を有する炭化水素基が挙げられる。オキシム基は、-CH=NOHで表される。
【0071】
硫黄原子を含む基は、例えば、チオール基、スルフィド基、スルフィニル基、スルホニル基、スルフィノ基、スルホン酸基、アシルチオ基、スルフェンアミド基、スルホンアミド基、チオアミド基、チオカルバミド基及びチオシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する置換基である。
【0072】
チオール基を有する置換基としては、例えば、チオール基そのもの、及び、チオール基を有する炭化水素基が挙げられる。チオール基は、-SHで表される。
【0073】
スルフィド基を有する置換基としては、例えば、アルキルチオ基、アルキルジチオ基、アルケニルチオ基、アルキニルチオ基、チアシクロプロピル基、及び、これらの官能基のうち少なくとも1つを有する炭化水素基が挙げられる。アルキルチオ基に含まれる少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン基によって置換されていてもよい。アルキルチオ基としては、-SCH3、-S(CH2)F、-SCH(CH3)2、-SCH2CH3などが挙げられる。アルキルジチオ基としては、-SSCH3などが挙げられる。アルケニルチオ基としては、-SCH=CH2、-SCH2CH=CH2などが挙げられる。アルキニルチオ基としては、-SC≡CHなどが挙げられる。アルキルチオ基などの官能基を有する炭化水素基としては、-CH2SCF3などが挙げられる。
【0074】
スルフィニル基を有する置換基としては、例えば、スルフィニル基そのもの、及びスルフィニル基を有する炭化水素基が挙げられる。スルフィニル基としては、-SOCH3などが挙げられる。
【0075】
スルホニル基を有する置換基としては、例えば、スルホニル基そのもの、及びスルホニル基を有する炭化水素基が挙げられる。スルホニル基としては、-SO2CH3などが挙げられる。スルホニル基を有する炭化水素基としては、-CH2SO2CH3、-CH2SO2CH2CH3などが挙げられる。
【0076】
スルフィノ基を有する置換基としては、例えば、スルフィノ基そのもの、及びスルフィノ基を有する炭化水素基が挙げられる。
【0077】
スルホン酸基を有する置換基としては、例えば、スルホン酸基そのもの、及びスルホン酸基を有する炭化水素基が挙げられる。
【0078】
アシルチオ基を有する置換基としては、例えば、アシルチオ基そのもの、及びアシルチオ基を有する炭化水素基が挙げられる。アシルチオ基としては、-SCOCH3などが挙げられる。
【0079】
スルフェンアミド基を有する置換基としては、例えば、スルフェンアミド基そのもの、及びスルフェンアミド基を有する炭化水素基が挙げられる。スルフェンアミド基としては、-SN(CH3)2などが挙げられる。
【0080】
スルホンアミド基を有する置換基としては、例えば、スルホンアミド基そのもの、及びスルホンアミド基を有する炭化水素基が挙げられる。スルホンアミド基としては、-SO2NH2、-NHSO2CH3などが挙げられる。
【0081】
チオアミド基を有する置換基としては、例えば、チオアミド基そのもの、及びチオアミド基を有する炭化水素基が挙げられる。チオアミド基としては、-NHCSCH3などが挙げられる。
【0082】
チオカルバミド基を有する置換基としては、例えば、チオカルバミド基そのもの、及びチオカルバミド基を有する炭化水素基が挙げられる。チオカルバミド基としては、-NHCSNHCH2CH3などが挙げられる。
【0083】
チオシアノ基を有する置換基としては、例えば、チオシアノ基そのもの、及びチオシアノ基を有する炭化水素基が挙げられる。チオシアノ基を有する炭化水素基としては、-CH2SCNなどが挙げられる。
【0084】
ケイ素原子を含む基は、例えば、シリル基及びシロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する置換基である。
【0085】
シリル基を有する置換基としては、シリル基そのもの、及び、シリル基を有する炭化水素基が挙げられる。シリル基としては、-Si(CH3)3、-SiH(CH3)2、-Si(OCH3)3、-Si(OCH2CH3)3、-SiCH3(OCH3)2、-Si(CH3)2OCH3、-Si(N(CH3)2)3、-SiF(CH3)2、-Si(OSi(CH3)3)3、-Si(CH3)2OSi(CH3)3などが挙げられる。シリル基を有する炭化水素基としては、-(CH2)2Si(CH3)3などが挙げられる。
【0086】
シロキシ基を有する置換基としては、シロキシ基そのもの、及び、シロキシ基を有する炭化水素基が挙げられる。シロキシ基を有する炭化水素基としては、-CH2OSi(CH3)3などが挙げられる。
【0087】
リン原子を含む基は、例えば、ホスフィノ基及びホスホリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する置換基である。
【0088】
ホスフィノ基を有する置換基としては、例えば、ホスフィノ基そのもの、及び、ホスフィノ基を有する炭化水素基が挙げられる。ホスフィノ基としては、-PH2、-P(CH3)2、-P(CH2CH3)2、-P(C(CH3)3)2、-P(CH(CH3)2)2などが挙げられる。
【0089】
ホスホリル基を有する置換基としては、例えば、ホスホリル基そのもの、及び、ホスホリル基を有する炭化水素基が挙げられる。ホスホリル基を有する炭化水素基としては、-CH2PO(OCH2CH3)2などが挙げられる。
【0090】
ホウ素原子を含む基は、例えば、ボロン酸基を有する置換基である。ボロン酸基を有する置換基としては、例えば、ボロン酸基そのもの、及び、ボロン酸基を有する炭化水素基が挙げられる。
【0091】
R4からR8からなる群より選ばれる少なくとも1つにおいて、非線形光吸収特性を有する基GがR4からR8に隣接するベンゼン環と結合している場合、基Gの共役系が伸び、その電子状態が変化することがある。そのため、基GとR4からR8に隣接するベンゼン環との間には、アルキレン基などの連結基が設けられていてもよい。
【0092】
式(1)において、R4からR8からなる群より選ばれる少なくとも1つは、下記式(4)で表されてもよい。
-L-RA (4)
【0093】
式(4)において、Lは、C、N、O及びSからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む連結基である。Lは、例えば、炭素-炭素二重結合などの共役系に影響を与える結合を含まない。Lは、エーテル基を含んでいてもよく、-CH2-O-CH2-であってもよい。Lは、アルキレン基であってもよい。
【0094】
R
Aは、例えば、非線形光吸収特性を有する基Gであり、ピレン骨格を有する基であってもよい。R
Aは、下記式(4A)で表されてもよい。
【化4】
【0095】
式(4A)において、R28からR37は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む。R28からR37のうちの1つは、上記の式(4)のLと結合している。式(4)のLは、R28からR37のうちの1つの位置において、式(4A)で表されたピレン環と直接結合していてもよい。
【0096】
R28からR37は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素原子を含む基、窒素原子を含む基、硫黄原子を含む基、ケイ素原子を含む基、リン原子を含む基、又はホウ素原子を含む基であってもよい。これらの基としては、R1からR8について上述したものが挙げられる。
【0097】
構成単位Aの具体例としては、例えば、下記式(A-1)で表される構成単位A-1が挙げられる。
【化5】
【0098】
ポリマーPにおける構成単位Aの含有率は、例えば5モル%以上であり、7モル%以上であってもよく、10モル%以上であってもよく、15モル%以上であってもよく、20モル%以上であってもよい。構成単位Aの含有率の上限値は、特に限定されず、例えば65モル%である。
【0099】
ポリマーPは、上記の構成単位A以外の他の構成単位をさらに含んでいてもよい。他の構成単位としては、スチレン類に由来し、かつ上記の基Gを有さない構成単位B1、スチルベン類に由来し、かつ基Gを有さない構成単位B2などが挙げられる。本明細書では、構成単位B1を、単に、スチレン類に由来する構成単位B1と呼ぶことがある。構成単位B2を、単に、スチルベン類に由来する構成単位B2と呼ぶことがある。ポリマーPは、例えば、スチレン類に由来する構成単位B1、及びスチルベン類に由来する構成単位B2からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位Bを含む。ポリマーPは、スチレン類に由来する構成単位B1を含んでいてもよい。
【0100】
上記の構成単位Bは、例えば、下記式(2)で表される。
【化6】
【0101】
式(2)において、R9からR16は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含み、かつ、非線形光吸収特性を有する基G以外の他の基である。
【0102】
R9からR16は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素原子を含む基、窒素原子を含む基、硫黄原子を含む基、ケイ素原子を含む基、リン原子を含む基、又はホウ素原子を含む基であってもよい。これらの基としては、R1からR8について上述したものが挙げられる。
【0103】
R12からR16からなる群より選ばれる少なくとも1つは、求核置換反応に利用可能な脱離基又は極性官能基を含んでいてもよい。脱離基としては、ハロゲン基などが挙げられる。極性官能基としては、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基などが挙げられる。
【0104】
構成単位Bの具体例としては、例えば、下記式(B-1)で表される構成単位B-1から、式(B-8)で表される構成単位B-8が挙げられる。
【化7】
【0105】
ポリマーPにおける構成単位Bの含有率は、特に限定されず、例えば70モル%以下であり、60モル%以下であってもよく、50モル%以下であってもよく、40モル%以下であってもよく、30モル%以下であってもよく、20モル%以下であってもよく、10モル%以下であってもよい。構成単位Bの含有率の下限値は、特に限定されず、例えば1モル%である。
【0106】
ポリマーPは、カルバゾール骨格及びナフタレン骨格からなる群より選ばれる少なくとも1つを側鎖に有していてもよい。言い換えると、ポリマーPは、構成単位A以外の他の構成単位として、カルバゾール骨格及びナフタレン骨格からなる群より選ばれる少なくとも1つを側鎖に有する構成単位Cを含んでいてもよい。なお、ポリマーPにおいて、カルバゾール骨格又はナフタレン骨格は、主鎖に含まれていてもよい。ただし、カルバゾール骨格又はナフタレン骨格を主鎖に含むポリマーPは、390nmから420nmの範囲の波長の光に対して、一光子吸収特性を示す場合がある。
【0107】
上記の構成単位Cは、例えば、下記式(3)で表される。
【化8】
【0108】
式(3)において、R17からR27は、互いに独立して、H、B、C、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を含む。
【0109】
R17からR27は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素原子を含む基、窒素原子を含む基、硫黄原子を含む基、ケイ素原子を含む基、リン原子を含む基、又はホウ素原子を含む基であってもよい。これらの基としては、R1からR8について上述したものが挙げられる。
【0110】
構成単位Cの具体例としては、例えば、下記式(C-1)で表される構成単位C-1から、式(C-17)で表される構成単位C-17が挙げられる。
【化9】
【0111】
ポリマーPにおける構成単位Cの含有率は、特に限定されず、例えば10モル%以上であり、35モル%以上であってもよく、50モル%以上であってもよく、70モル%以上であってもよく、90モル%以上であってもよい。構成単位Cの含有率の上限値は、特に限定されず、例えば95モル%である。
【0112】
ポリマーPは、例えば、上記の式(1)で表される構成単位Aと、式(2)で表される構成単位B及び式(3)で表される構成単位Cからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む。ポリマーPは、構成単位AからCを含んでいてもよい。一例として、ポリマーPは、下記式(5)で表されるランダム共重合体であってもよい。
【化10】
【0113】
式(5)において、R1からR27は、式(1)、式(2)及び式(3)について上述したものと同じである。x、y及びzは、互いに独立して、任意の整数である。
【0114】
ポリマーPにおいて、構成単位Aの数x、構成単位Bの数y、及び構成単位Cの数zは、0.35≦z/(x+y+z)を満たしていてもよく、0.07≦x/(x+y+z)≦0.65を満たしていてもよい。
【0115】
上述のとおり、ポリマーPは、典型的には、ランダム共重合体である。ただし、ポリマーPは、ブロック共重合体、グラフト共重合体などであってもよい。
【0116】
ポリマーPの具体例としては、例えば、下記式(P1)で表されるランダム共重合体P1が挙げられる。
【化11】
【0117】
式(P1)において、x、y及びzは、互いに独立して、任意の整数である。
【0118】
上述のとおり、ポリマーPのガラス転移温度は、200℃以上である。この程度に高いガラス転移温度を有するポリマーPは、熱的に安定である。このポリマーPを含む記録層10では、光の照射によって形成された記録マークの形状が変化することを抑制できる傾向がある。すなわち、ポリマーPによれば、記録マークの形状の安定性を向上できる傾向がある。一方、ポリマーPのガラス転移温度が高すぎると、記録層10の記録感度が低下することがある。そのため、熱的安定性と記録感度とを両立させる観点から、ポリマーPのガラス転移温度は、例えば、200℃以上300℃以下である。ポリマーPのガラス転移温度は、200℃以上250℃以下であってもよい。
【0119】
ポリマーPのガラス転移温度は、次の方法によって特定することができる。まず、ポリマーPについて、以下の条件で熱重量・示差熱(TG-DTA)測定を行い、DTA曲線を作成する。DTA曲線における熱容量の変曲点からガラス転移温度を特定することができる。
・測定条件
雰囲気:窒素雰囲気
測定範囲:25℃から400℃
加熱速度:15℃/min
【0120】
ポリマーPの重量平均分子量がある程度大きい場合、記録層10を容易に成膜できる傾向がある。一方、ポリマーPの重量平均分子量が大きすぎると、ポリマーPの溶解性が低下し、塗布法によって記録層10を成膜することが難しい場合がある。そのため、ポリマーPの重量平均分子量は、4000以上、100000以下であってもよい。ポリマーPの重量平均分子量は、4000以上、50000以下であってもよい。
【0121】
ポリマーPでは、例えば、390nmから420nmの範囲の波長の光の透過率、屈折率、及びガラス転移温度が高い。特に、カルバゾール骨格又はナフタレン骨格を側鎖に有するポリマーPは、透過率、屈折率及びガラス転移温度を高く調整しやすい。ただし、カルバゾール骨格又はナフタレン骨格に対して、非線形光吸収特性を有する基Gを結合させることは難しい傾向がある。そのため、ポリマーPを合成する場合、前駆体ポリマーとして、ビニルカルバゾール類とスチレン類との共重合体、ビニルカルバゾール類とスチルベン類との共重合体、ナフタレン類とスチレン類との共重合体、ナフタレン類とスチルベン類との共重合体などを利用してもよい。これらの共重合体において、スチレン類又はスチルベン類に由来する構成単位に、非線形光吸収特性を有する基Gを導入することによって簡便にポリマーPを合成することができる。スチレン類及びスチルベン類は、非線形光吸収特性を有する基Gと容易に結合できるだけでなく、共重合反応に対する反応性を適度に有する。スチレン類又はスチルベン類に由来する構成単位を含むポリマーPは、390nmから420nmの範囲の波長の光の透過率に優れ、高い屈折率及び高いガラス転移温度を有する傾向がある。
【0122】
ポリマーPの合成方法は、特に限定されない。ポリマーPは、前駆体ポリマーに対して非線形光吸収色素を反応させることによって合成してもよい。ポリマーPは、非線形光吸収特性を有する基Gを有するモノマーを予め準備し、当該モノマーを含むモノマー群を重合させることによって合成してもよい。前駆体ポリマーに非線形光吸収色素を結合させる反応としては、脱離基と極性官能基とを反応させる求核置換反応、遷移金属触媒などを用いたクロスカップリング反応などを利用できる。脱離基としては、ハロゲン基などが挙げられる。極性官能基としては、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基などが挙げられる。一例として、スチレン類又はスチルベン類に由来し、かつ脱離基を有する構成単位を含む前駆体ポリマーと、極性官能基を有する非線形光吸収色素との反応によって、ポリマーPを合成してもよい。スチレン類又はスチルベン類に由来し、かつ極性官能基を有する構成単位を含む前駆体ポリマーと、脱離基を有する非線形光吸収色素との反応によって、ポリマーPを合成してもよい。
【0123】
以下では、上述したランダム共重合体P1の合成方法の一例を説明する。まず、ラジカル開始剤を用いて、ビニルカルバゾールと4-クロロメチルスチレンとを共重合して、前駆体ポリマーを合成する。この反応は、以下の反応式で表される。
【化12】
【0124】
上記の前駆体ポリマーにおいて、ビニルカルバゾールに由来する構成単位の数zが多ければ多いほど、屈折率及びガラス転移温度が向上し、溶剤に対する溶解性が低下する傾向がある。そのため、目的とする屈折率、ガラス転移温度及び溶解性に応じて、前駆体ポリマーの組成を適宜調整することができる。前駆体ポリマーの組成は、例えば、ビニルカルバゾール及び4-クロロメチルスチレンの仕込み量の比によって制御することができる。
【0125】
次に、前駆体ポリマーと、非線形光吸収色素として機能するピレン誘導体である1-ヒドロキシメチルピレンとを反応させる。この反応では、必要に応じて塩基を用いてもよい。これにより、4-クロロメチルスチレンに由来する構成単位の塩素原子が、非線形光吸収色素における極性官能基であるヒドロキシ基によって置換され、ランダム共重合体P1を得ることができる。
【化13】
【0126】
ランダム共重合体P1は、クロロベンゼン、THFなどの溶媒に対して可溶である。そのため、ランダム共重合体P1を含む塗布液を調製し、スピンコート法などを利用して成膜することによって、記録層10を容易に作製できる。
【0127】
記録層10は、例えば、ポリマーPを主成分として含む。「主成分」とは、記録層10に重量比で最も多く含まれた成分を意味する。記録層10は、例えば、実質的にポリマーPからなる。「実質的に・・・からなる」は、言及された材料の本質的特徴を変更する他の成分を排除することを意味する。ただし、記録層10は、ポリマーPの他に不純物を含んでいてもよい。
【0128】
記録層10は、例えば、1nm以上100μm以下の厚さを有する薄膜である。ただし、記録層10の厚さは、100μmを上回っていてもよい。
【0129】
記録層10における波長405nmの光の透過率は、例えば90%以上であり、95%以上であってもよく、99%以上であってもよい。波長405nmの光の透過率が高ければ高いほど、記録層10は、当該波長での線形光吸収が小さく、記録感度が良好である傾向がある。
【0130】
上記の透過率は、記録層10自体を測定試料として用いて、JIS K0115:2004の規定に準拠した方法で測定することができる。詳細には、まず、405nmの波長を有する光を記録層10に照射する。光の照射は、記録層10の厚さ方向に光が進行するように行う。光源としては、ポリマーPによる非線形光吸収がほとんど生じない光子密度の光を照射するものを用いる。次に、記録層10を透過した光から、405nmの波長に対する記録層10の吸光度Aを読み取る。吸光度Aに基づいて、下記式(I)によって、記録層10における波長405nmの光の透過率Tを算出することができる。
透過率T=10(-A) (I)
【0131】
なお、上記の測定において、記録層10が薄膜である場合、膜の干渉が生じることで正確な吸光度Aが測定できないことがある。この場合、エリプソメータを用いて消衰係数を測定することで透過率を算出してもよい。記録層10の材料を適切な溶媒に溶解させ、溶液の状態で測定した吸光度の値を用いて透過率を算出してもよい。
【0132】
記録層10の屈折率は、1.65以上であってもよく、1.68以上であってもよく、1.70以上であってもよい。記録層10の屈折率が高ければ高いほど、隣接する誘電体層20の屈折率との差を容易に大きくできる。記録層10及び誘電体層20において、屈折率の差が大きい場合、記録層10と誘電体層20との界面での光の反射率が上昇する。上記の界面での光の反射率が高い場合、記録媒体100から良好な再生信号を得ることができる傾向がある。記録層10の屈折率の上限値は、特に限定されず、例えば1.90である。本明細書において、記録層10の屈折率は、波長405nmの光に対する値であり、エリプソメータを用いて測定することができる。
【0133】
上記の非線形光吸収特性を有する基Gは、記録再生波長において、線形光吸収が小さく、かつ適切な非線形光吸収量を有していてもよい。例えば、波長405nmのレーザーを記録再生に用いる場合、非線形光吸収特性を有する基Gの二光子吸収断面積は、1GMを上回っていてもよく、10GM以上であってもよく、20GM以上であってもよく、100GM以上であってもよい。二光子吸収断面積の上限値は、特に限定されず、例えば1000GMである。二光子吸収断面積は、非線形光吸収特性を有する基Gと同じ構造を有する化合物を測定試料として用いて、例えば、J. Opt. Soc. Am. B, 2003, Vol. 20, p. 529.に記載されたZスキャン法によって測定することができる。Zスキャン法は、非線形光学定数を測定するための方法として広く用いられている。Zスキャン法では、レーザービームが集光する焦点付近において、当該ビームの照射方向に沿って測定試料を移動させる。このとき、測定試料を透過した光の光量の変化を記録する。Zスキャン法では、測定試料の位置に応じて、入射光のパワー密度が変化する。そのため、測定試料が非線形光吸収を行う場合、測定試料がレーザービームの焦点付近に位置すると、透過光の光量が減衰する。入射光の強度、測定試料の厚さ、測定試料における化合物の濃度などから予測される理論曲線に対して、透過光量の変化についてフィッティングを行うことによって二光子吸収断面積を算出することができる。一例として、ピレン誘導体の二光子吸収断面積は、50GMから300GM程度である。
【0134】
二光子吸収断面積は、計算化学による計算値であってもよい。二光子吸収断面積を計算化学によって見積もる方法がいくつか提案されている。例えば、J. Chem. Theory Comput. 2018, Vol. 14, p. 807.に記載された二次非線形応答理論に基づいて、二光子吸収断面積の計算値を算出することができる。
【0135】
非線形光吸収特性を有する基Gは、励起状態吸収による非線形光吸収現象を利用してもよい。
【0136】
なお、従来の記録層では、通常、低分子化合物である非線形光吸収色素が樹脂中に分散している。このような構成では、非線形光吸収色素が、記録層から、誘電体層などの他の層に拡散することがある。さらに、記録媒体の作製時において、塗布法を利用して誘電体層を記録層の上に作製した場合、色素が記録層から溶出することもある。色素の溶出は、色素の分子量が小さい場合に特に顕著である。
【0137】
本実施形態において、記録層10では、ポリマーPが、非線形光吸収特性を有する基Gを含んでいる。ポリマーPは、記録層10から誘電体層20などに拡散しにくい傾向がある。すなわち、本実施形態では、非線形光吸収材料として機能するポリマーPの拡散が抑制されている。これにより、例えば、記録層10と誘電体層20との界面での反射光の強度の安定性が向上する傾向がある。そのため、記録媒体100では、情報の記録及び読み取りの性能が高く、この性能を容易に維持することができる。本実施形態では、塗布法を利用して誘電体層20を記録層10の上に作製した場合であっても、ポリマーPが溶出しにくい傾向がある。そのため、本実施形態では、簡便な塗布プロセスによって、多層構造を有する記録媒体100を作製することができる。
【0138】
[誘電体層]
誘電体層20では、例えば、記録層10との屈折率差を適切な値に調整でき、かつ記録再生波長での光透過率が高い材料が用いられる。また、誘電体層20によれば、その厚さを調整することによって、記録層10同士の層間距離を適切に調整することができる。
【0139】
記録層10と誘電体層20との屈折率差は、例えば、0.2程度である。記録層10の屈折率をn1で表し、誘電体層20の屈折率をn2で表したとき、記録層10と誘電体層20との界面での反射率は、((n2-n1)/(n2+n1))2で算出される値程度であることが知られている。すなわち、記録層10の屈折率が1.65であり、誘電体層20の屈折率が1.45である場合、これらの層の界面の反射率は、0.004程度である。
【0140】
誘電体層20は、例えば、高分子材料を含む。一般に、誘電体層20に用いられる高分子材料の屈折率は、1.4から1.6程度であり、特に1.45から1.5程度である。そのため、記録層10の屈折率が1.65より高い場合、誘電体層20との屈折率差を0.1から0.2程度に調整しやすい。記録層10と誘電体層20との屈折率差を上記の範囲に調整することによって、界面での反射光の強度を向上でき、良好な再生特性が得られうる。
【0141】
誘電体層20の材料としては、例えば、セルロースアセテート、アクリル樹脂、メタクリル樹脂などが挙げられる。
【0142】
誘電体層20の厚さは、特に限定されず、例えば5nm以上100μm以下である。ただし、誘電体層20の厚さは、100μmを上回っていてもよい。
【0143】
[記録媒体の作製方法]
記録媒体100は、例えば、次の方法によって作製できる。まず、ポリマーPを含む樹脂材料を溶剤と混合して塗布液を作製する。この塗布液をスピンコートなどの方法で基材に塗布し、得られた塗布膜を乾燥させることによって薄膜の記録層10を作製する。
【0144】
次に、記録層10の上に誘電体層20を形成する。誘電体層20が樹脂材料を含む場合、まず、樹脂材料を溶剤と混合して塗布液を作製する。この塗布液をスピンコートなどの方法で記録層10の上に塗布し、得られた塗布膜を乾燥させることによって誘電体層20を作製できる。なお、塗布液が感光性モノマーなどを含んでいてもよく、光又は熱によって当該モノマーを重合させることによって誘電体層20を作製してもよい。誘電体層20として機能する薄膜を予め作製し、当該薄膜を記録層10に貼り合わせることによって誘電体層20を作製してもよい。必要に応じて、複数の記録層10と複数の誘電体層20とを交互に作製することによって記録媒体100を得ることができる。
【0145】
[記録媒体の使用方法]
本実施形態の記録媒体100は、例えば、短波長域の波長を有する光を利用する。一例として、記録媒体100は、390nm以上420nm以下の波長を有する光を利用する。記録媒体100で利用される光は、例えば、その焦点付近において、高い光子密度を有する。記録媒体100で利用される光の焦点付近でのパワー密度は、例えば、0.1W/cm2以上1.0×1020W/cm2以下である。この光の焦点付近でのパワー密度は、1.0W/cm2以上であってもよく、1.0×102W/cm2以上であってもよく、1.0×105W/cm2以上であってもよい。記録媒体100で利用される光源としては、例えば、チタンサファイアレーザーなどのフェムト秒レーザー、又は、半導体レーザーなどのピコ秒からナノ秒のパルス幅を有するパルスレーザーを用いることができる。
【0146】
次に、記録媒体100を用いた情報の記録方法について説明する。
図2Aは、記録媒体100を用いた情報の記録方法に関するフローチャートである。まず、ステップS11において、390nm以上420nm以下の波長を有する光を発する光源を準備する。光源としては、例えば、チタンサファイアレーザーなどのフェムト秒レーザー、又は、半導体レーザーなどのピコ秒からナノ秒のパルス幅を有するパルスレーザーを用いることができる。次に、ステップS12において、光源からの光をレンズなどで集光して、記録媒体100における記録層10に照射する。詳細には、光源からの光をレンズなどで集光して、記録媒体100における記録領域に照射する。集光に用いるレンズのNA(開口数)は、特に制限されない。一例として、NAが0.8以上0.9以下の範囲のレンズを用いてもよい。この光の焦点付近でのパワー密度は、例えば、0.1W/cm
2以上1.0×10
20W/cm
2以下である。この光の焦点付近でのパワー密度は、1.0W/cm
2以上であってもよく、1.0×10
2W/cm
2以上であってもよく、1.0×10
5W/cm
2以上であってもよい。本明細書において、記録領域とは、記録層10に存在し、光が照射されることによって情報を記録できるスポットを意味する。
【0147】
上記の光が照射された記録領域では、物理変化又は化学変化が生じ、これにより、記録領域の光学特性が変化する。例えば、記録領域で反射する光の強度、記録領域での光の反射率、記録領域での光の吸収率、記録領域での光の屈折率、記録領域から放射される蛍光の光の強度、蛍光の光の波長などが変化する。一例として、記録領域で反射する光の強度、又は、記録領域から放射される蛍光の光の強度が低下する。これにより、記録層10、詳細には記録領域、に情報を記録することができる(ステップS13)。
【0148】
次に、記録媒体100を用いた情報の読出方法について説明する。
図2Bは、記録媒体100を用いた情報の読出方法に関するフローチャートである。まず、ステップS21において、記録媒体100における記録層10に対して光を照射する。詳細には、記録媒体100における記録領域に対して光を照射する。ステップS21で用いる光は、記録媒体100に情報を記録するために利用した光と同じであってもよく、異なっていてもよい。次に、ステップS22において、記録層10の光学特性を測定する。詳細には、記録領域の光学特性を測定する。ステップS22では、例えば、記録領域の光学特性として、記録領域で反射した光の強度、又は、記録領域から放射された蛍光の光の強度を測定する。ステップS22では、記録領域の光学特性として、記録領域での光の反射率、記録領域での光の吸収率、記録領域での光の屈折率、記録領域から放射された蛍光の光の波長などを測定してもよい。次に、ステップS23において、記録層10、詳細には記録領域、から情報を読み出す。
【0149】
情報の読出方法において、情報が記録された記録領域は、次の方法によって探すことができる。まず、記録媒体の特定の領域に対して光を照射する。この光は、記録媒体に情報を記録するために利用した光と同じであってもよく、異なっていてもよい。次に、光が照射された領域の光学特性を測定する。光学特性としては、例えば、当該領域で反射した光の強度、当該領域での光の反射率、当該領域での光の吸収率、当該領域での光の屈折率、当該領域から放射された蛍光の光の強度、当該領域から放射された蛍光の光の波長などが挙げられる。測定された光学特性に基づいて、光が照射された領域が記録領域であるか否かを判定する。例えば、当該領域で反射した光の強度が特定の値以下である場合に、当該領域が記録領域であると判定する。一方、当該領域で反射した光の強度が特定の値を上回っている場合に、当該領域が記録領域ではないと判定する。なお、光が照射された領域が記録領域であるか否かを判定する方法は、上記の方法に限定されない。例えば、当該領域で反射した光の強度が特定の値を上回っている場合に、当該領域が記録領域であると判定してもよい。また、当該領域で反射した光の強度が特定の値以下である場合に、当該領域が記録領域ではないと判定してもよい。記録領域ではないと判定した場合、記録媒体の他の領域に対して同様の操作を行う。これにより、記録領域を探すことができる。
【0150】
記録媒体100を用いた情報の記録方法及び読出方法は、例えば、公知の記録装置によって行うことができる。記録装置は、例えば、記録媒体100における記録領域に光を照射する光源と、記録領域の光学特性を測定する測定器と、光源及び測定器を制御する制御器と、を備えている。
【実施例】
【0151】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は一例であり、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0152】
まず、記録層の材料として、下記の化合物AからFを準備した。なお、化合物AからEは、いずれもランダム共重合体であった。
【化14】
【化15】
【0153】
[化合物A及びDの合成]
化合物A及びDは、Macromolecules 2006, 39, 3140-3146に記載された方法に準拠して、下記反応式のように合成した。化合物A及びDは、
1H-NMRにより同定した。
【化16】
【0154】
[化合物Bの合成]
まず、1-ヒドロキシメチルピレン(東京化成工業社製)をテトラヒドロフラン(THF、富士フィルム和光純薬社製)に溶解させ、過剰量の炭酸カリウム(富士フィルム和光純薬社製)及び少量のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、富士フィルム和光純薬社製)を加えて、窒素雰囲気下、80℃で1時間加熱還流した。ここに、化合物AのTHF溶液をさらに加え、撹拌しながら80℃で48時間加熱還流を行った。添加した化合物Aの重量は、1-ヒドロキシメチルピレンの重量の0.5倍であった。次に、室温まで放冷した反応溶液を大量のメタノール中に加えることによって白色沈殿を得た。得られた固体を濾過により回収し、洗浄操作を行った。洗浄操作では、洗浄液として、エタノール、水及びジエチルエーテルをこの順で用いた。固体を真空乾燥させることによって、化合物Bを得た。化合物Bは、
1H―NMRにより同定した。
【化17】
【0155】
[化合物Cの合成]
添加した化合物Aの重量を1-ヒドロキシメチルピレンの重量と同じ値に変更したことを除き、化合物Bと同じ方法によって化合物Cを合成した。化合物Cは、1H―NMRにより同定した。
【0156】
[化合物Eの合成]
化合物Aに代えて化合物Dを用いたこと、及び、添加した化合物Dの重量を1-ヒドロキシメチルピレンの重量と同じ値に変更したことを除き、化合物Bと同じ方法によって化合物Eを合成した。化合物Eは、1H―NMRにより同定した。
【0157】
[化合物Fの合成]
N-ビニルカルバゾールを用いなかったことを除き、化合物Aと同じ方法によって化合物Fを合成した。化合物Fは、1H―NMRにより同定した。
【0158】
<記録媒体の作製>
[実施例1]
まず、20mm角、厚さ1mmのガラス基板を準備した。ガラス基板に、化合物Bを含む溶液をスピンコートによって塗布した。溶液は、溶媒としてクロロベンゼン(富士フィルム和光純薬社製)を含んでいた。溶液において、クロロベンゼンに対する化合物Bの重量の比率は、5質量%であった。スピンコートは、3000rpm、30秒の条件で行った。次に、得られた塗布膜を80℃で30分間乾燥させることによって記録層を作製した。これにより、実施例1の記録媒体を得た。
【0159】
[実施例2]
化合物Bに代えて化合物Cを用いたことを除き、実施例1と同じ方法によって、実施例2の記録媒体を作製した。
【0160】
[実施例3]
化合物Bに代えて化合物Eを用いたことを除き、実施例1と同じ方法によって、実施例3の記録媒体を作製した。
【0161】
[比較例1]
化合物Bに代えて化合物Aを用いたこと、及び、化合物Aに対して20質量%の1-ヒドロキシメチルピレンを溶液にさらに添加したことを除き、実施例1と同じ方法によって、比較例1の記録媒体を作製した。比較例1の記録層では、非線形光吸収色素である1-ヒドロキシメチルピレンが化合物A中に分散していた。
【0162】
[比較例2]
化合物Bに代えて化合物Dを用いたこと、及び、化合物Dに対して16質量%の1-ヒドロキシメチルピレンを溶液にさらに添加したことを除き、実施例1と同じ方法によって、比較例2の記録媒体を作製した。比較例2の記録層では、非線形光吸収色素である1-ヒドロキシメチルピレンが化合物D中に分散していた。
【0163】
[比較例3]
化合物Bに代えて化合物Fを用いたことを除き、実施例1と同じ方法によって、比較例3の記録媒体を作製した。
【0164】
<特性評価>
(1)記録層における波長405nmの光の透過率の評価
実施例及び比較例について、上述の方法によって、記録層における波長405nmの光の透過率を評価した。詳細には、まず、分光光度計及びエリプソメータを用いて、記録層の線形光吸収の特性を評価した。分光光度計での測定では、ガラスのみを測定した場合に得られる測定値によってベースラインを補正した。得られたスペクトルから、波長405nmにおける透過率を算出した。実施例及び比較例の記録媒体において、記録層における波長405nmの光の透過率は、いずれも95%以上であった。
【0165】
なお、実施例1から3、比較例1及び2について、記録層の材料をクロロベンゼンに溶解させて溶液を作製し、当該溶液について、分光光度計を用いて測定を行った。その結果、いずれも、線形光吸収の極大吸収波長が350nmであり、405nmの波長には線形光吸収の吸収帯が存在しなかった。
【0166】
(2)屈折率の評価
実施例及び比較例について、エリプソメータを用いて、記録層の屈折率を評価した。詳細には、測定により得られたスペクトルから波長405nmにおける屈折率を読み取った。なお、比較例3では、記録層の屈折率の値が1.63と低い値であった。そのため、比較例3については、以下の記録再生特性の評価、耐溶剤性の評価を行わなかった。
【0167】
表1からわかるとおり、実施例1から3では、いずれも、記録層の屈折率の値が1.65以上であった。これらの記録層では、例えば、記録層の上に誘電体層を作製した場合に、誘電体層との屈折率の差を大きく調整しやすい。屈折率の差を大きく調整することによって、記録層と誘電体層との界面での光の反射率を上昇させることができる。これにより、記録媒体から良好な再生信号が得られると推定される。
【0168】
(3)ガラス転移温度の評価
化合物AからEについては、ガラス転移温度(Tg)の評価を行った。詳細には、化合物AからEについて、粉末の測定試料を用いて、以下の条件で熱重量・示差熱(TG-DTA)測定を行った。Tgは、DTA曲線における熱容量の変曲点から特定した。
・測定条件
雰囲気:窒素雰囲気
測定範囲:25℃から400℃
加熱速度:15℃/min
【0169】
表1からわかるとおり、実施例1から3では、いずれも、用いた化合物のガラス転移温度が200℃を上回っていた。これらの化合物を含む記録層は、熱的に安定であり、光の照射によって形成された記録マークの形状が変化することを抑制できることが推定される。
【0170】
(4)記録再生特性の評価
[記録操作]
まず、実施例及び比較例の記録媒体について、記録操作を行った。詳細には、記録媒体に対して、中心波長405nm、ピークパワー100mW、繰り返し周波数100kHzのパルス光をNA0.85のレンズを通して照射した。このとき、パルス光の照射は、記録媒体を10μm/secで平行移動させながら行った。パルス光のパルス幅は、10ナノ秒から1000ナノ秒の間で調整した。
【0171】
[再生操作]
次に、記録操作を行った記録媒体について、再生操作を行った。詳細には、記録層の記録線を横切るように、中心波長405nm、ピークパワー3mW、パルス幅200ナノ秒、繰り返し周波数100Hzの光をNA0.85のレンズを通して照射し、反射光信号強度を取得した。測定結果に基づいて、記録操作を行っていない部分の反射光信号強度に対する、記録操作を行った部分の反射光信号強度の変化率を算出した。
図3は、実施例及び比較例の記録媒体の記録再生特性を示すグラフである。このグラフの縦軸は、算出した変化率を示す。横軸は、記録操作時の光の照射平均エネルギーを示す。
【0172】
[記録再生特性の評価]
次に、
図3のグラフから、照射平均エネルギーが0.03mWである場合の反射光量の変化率を読み取り、この変化率を再生光が照射されたときの反射光量の変化率と仮定した。さらに、上記のグラフから、照射平均エネルギーが0.12mWである場合の反射光量の変化率を読み取り、この変化率を記録光が照射されたときの反射光量の変化率と仮定した。これらの変化率及びその差を表2に示す。
【0173】
表2からわかるとおり、実施例1から3、比較例1及び2では、いずれも、再生光が照射されたときの反射光量の変化率が0%であり、有意な反射光量の変化は見られなかった。さらに、実施例1、2、比較例1及び2では、いずれも、記録光が照射されたときの反射光量の変化率が0%を上回っており、反射光量に変化が見られた。この結果から、実施例1、2、比較例1及び2では、0.03mWの照射平均エネルギーの光を再生光として用い、0.12mWの照射平均エネルギーの光を記録光として用いることによって、記録媒体の記録再生操作を実施できることがわかる。
【0174】
一方、実施例3では、照射平均エネルギーが0.12mWである場合の反射光量の変化率が0%であり、有意な反射光量の変化は見られなかった。この結果から、実施例3の記録媒体では、0.12mWの照射平均エネルギーの光を記録光として用いた場合に、記録再生操作を実施できないことがわかる。ただし、
図3のグラフからは、0.21mW以上の照射平均エネルギーの光を記録光として用いることによって、実施例3の記録媒体について、記録再生操作を実施できることがわかる。
【0175】
(5)耐溶剤性の評価
実施例及び比較例について、以下の方法によって記録層の耐溶剤性を評価した。まず、記録層の上に溶剤を1mL滴下し、スピンコートを行った。溶剤としては、誘電体層を作製するための塗布液の溶剤を想定して、ジアセトンアルコールを用いた。スピンコートは、3000rpm、30秒の条件で行った。溶剤の滴下前後で、記録層の吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルの測定は、上記の(1)と同じ方法によって行った。得られたスペクトルから、非線形光吸収色素又は非線形光吸収を有する基の極大吸収波長である350nmの光吸収率を読み取り、溶剤の滴下前後での光吸収率の減少率を算出した。結果を表3に示す。
【0176】
表3からわかるとおり、非線形光吸収色素を高分子バインダーに分散させている比較例1及び2では、溶剤の滴下により記録層から色素が溶出し、色素の極大吸収波長における光吸収が50%から100%減少した。一方、非線形光吸収特性を有する基を含むポリマーPに相当する化合物B、C又はEを記録層に用いた場合、溶剤を滴下する前後での極大吸収波長での吸収率変化が大きく抑制されていた。この結果は、非線形光吸収特性を有する基を含むポリマーPを用いることによって、記録層の耐溶剤性が向上し、記録層からの色素の溶出が抑制されたことを示している。
【0177】
【0178】
【0179】
【産業上の利用可能性】
【0180】
本開示の記録媒体は、三次元光メモリなどの用途に利用できる。
【符号の説明】
【0181】
10 記録層
20 誘電体層
100 記録媒体