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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】抄紙用フェルトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/10 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
D21F7/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020142732
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038303
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000180597
【氏名又は名称】イチカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】荻原 泰之
(72)【発明者】
【氏名】村岡 勇登
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-036046(JP,A)
【文献】特開2004-360101(JP,A)
【文献】特開2010-100961(JP,A)
【文献】特開平01-306696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、第1のMD方向端部と第2のMD方向端部とからなるMD方向端部が接合された接合部を有する基布が2枚以上直接重なり合ってなる組み合わせを含み、
含まれるすべての接合部を有する基布について、基布の接合部のMD方向の最大距離をx(cm)、最小距離をy(cm)としたとき、下記式(1)および(2)を満たすことを特徴とする、抄紙用フェルトであって、
x≦750 (1)
10≦y (2)
ここで、該抄紙用フェルトのMD方向の長さは、1550cm以上40000cm以下であり、
MD糸材およびCD糸材を構成する繊維の構成材料は、熱可塑性樹脂であり、
繊維の形態は、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンヤーン、加工糸、またはこれらの糸を撚り合わせてなる撚糸であり、
基布は、1重織構造または多重織構造である、前記抄紙用フェルト
【請求項2】
xが下記式(3)を満たす、請求項1に記載の抄紙用フェルト。
x≦500 (3)
【請求項3】
yが下記式(4)を満たす、請求項1または2に記載の抄紙用フェルト。
51≦y (4)
【請求項4】
接合部を有する基布を2枚含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抄紙用フェルト。
【請求項5】
接合部を有する基布を3枚以上含み、基布の接合部のMD方向の距離が互いに等しくない、請求項1~3のいずれか一項に記載の抄紙用フェルト。
【請求項6】
エンドレス基布をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抄紙用フェルト。
【請求項7】
接合部を有する基布のMD方向端部が溶着により接合されたものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の抄紙用フェルト。
【請求項8】
不織繊維材料のバット繊維層を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の抄紙用フェルト。
【請求項9】
(a)フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、第1のMD方向端部と第2のMD方向端部とからなるMD方向端部が接合された接合部を有する基布が2枚以上直接重なり合ってなる組み合わせを含む各基布を重ね合わせる工程、
(b)含まれるすべての接合部を有する基布について、基布の接合部のMD方向の最大距離をx(cm)、最小距離をy(cm)としたとき、下記式(1)および(2)を満たすように基布を配置する工程、
x≦750 (1)
10≦y (2)
(c)工程(b)で重ね合わせた基布とバット繊維層とを一体化する工程、
を含む、抄紙用フェルトの製造方法であって、
ここで、製造される抄紙用フェルトのMD方向の長さは、1550cm以上40000cm以下であり、
MD糸材およびCD糸材を構成する繊維の構成材料は、熱可塑性樹脂であり、
繊維の形態は、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンヤーン、加工糸、またはこれらの糸を撚り合わせてなる撚糸であり、
基布は、1重織構造または多重織構造である、前記方法
【請求項10】
工程(b)において、xが下記式(3)を満たすように基布を重ね合わせる工程、
x≦500 (3)
を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(b)において、yが下記式(4)を満たすように基布を重ね合わせる工程、
51≦y (4)
を含む、請求項9または10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用フェルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の原料から水分を除去する抄紙機は、一般的にワイヤーパートとプレスパートとドライヤーパートとを備えている。これらワイヤーパート、プレスパートおよびドライヤーパートは、湿紙の搬送方向に沿ってこの順番に配置されている。湿紙は、抄紙機の進行方向(MD方向:Machine Direction)に垂直な方向(CD方向:Cross Machine Direction)に一定の幅をもって帯状に抄紙機内を移動し、ワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートそれぞれに取り付けられた抄紙用具に次々と受け渡されながら搬送されるとともに搾水され、最終的にはドライヤーパートで乾燥される。
【0003】
プレスパートに配置されたプレス装置は、湿紙の搬送方向に沿って直列に並設された複数のプレス装置を具備する。各プレス装置は、無端状のフェルト、あるいは有端状のフェルトを抄紙機上で連結し無端状にしたフェルトと、当該フェルトそれぞれの一部を間に挟むように上下に対向配置される一対のロール(即ち、ロールプレス)あるいはロールおよびシューを内包する円筒ベルト(即ち、シュープレス)とを有しており、略同一速度で同一方向に走行するフェルトにより搬送されてくる湿紙を、該フェルトと共にロールとロールあるいはロールとシューを内包する円筒ベルトとでプレス・加圧することにより、該湿紙から水分を連続的に脱水する。
【0004】
プレス装置に用いられるフェルトの要求機能としては、搾水性、平滑性、走行安定性等がある。搾水性とは、湿紙に含まれる水分を除去することである。この機能を果たすためには、フェルトが優れた圧縮回復特性を有すること、即ち、フェルト無加圧時に、フェルト中にこの水分を除去するための空間(ボイドボリューム)が存在し、フェルト加圧時に、フェルトの密度が最大となって、この空間の容積が減少することによって、水分がフェルト外に放出されることが重要である。また、この搾水性はフェルトの使用期間中維持され、更に除去された水分が再び湿紙に戻らないこと(再湿防止)も重要である。
【0005】
平滑性とは、湿紙表面、フェルト表面(加圧下のフェルト表面も含む)の平滑性を意味する。湿紙はフェルトを介して加圧されるため、フェルト表面状態が、湿紙表面に転写される。従って、湿紙の表面を平滑にするためには、フェルトの表面(加圧下のフェルトの表面も含む)を平滑にしなければならない。
【0006】
走行安定性とは、プレス装置に配置された無端状のフェルトが、口開き、破断、片寄りおよび蛇行、並びに振動、波打ち等が発生せずに、安定して走行することを意味する。
【0007】
新聞紙、上質紙、板紙、家庭紙などのように、紙には様々な種類があり、またこれらを製造する抄紙機にも様々な種類がある。現在、これらの紙や抄紙機に合わせて、様々な種類の抄紙用フェルトが製造されているが、一般的にこのフェルトは、基布層に不織繊維材料のバット繊維層を一体化させることによって形成される。基布層は、例えば、モノフィラメント糸、モノフィラメント撚糸、マルチフィラメント糸またはマルチフィラメント撚糸から構成される織布でもよく、この織布は、一重品でも、多重品でもよく、またこれらを積層したラミネート構造でもよい。この糸は、一般に、抄紙用具技術分野の当業者がこの目的のために使用するポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの合成高分子樹脂のいずれかの押し出し成型されたもの、羊毛等の動物性繊維、綿、麻等の植物性繊維を使用する。
【0008】
上記基布層には、様々な種類の織布があり、例えば、織機上で無端状となるように製織したり(袋織)、平織された有端状の織布の端部同士を縫合して無端状としたり、また、有端状織布の二つの機械横断方向または機械方向の端部同士をつなぎ合わせて無端状としたものがある。この内、織機上で無端状となるように製織した基布(袋織)や有端状織布の機械横断方向端部同士をつなぎ合わせて無端状とした基布(スパイラル基布)をエンドレス基布という。
【0009】
これらのうち、袋織により製造された基布層(抄紙用フェルト)は、つなぎ目のない連続的な表面を有するため、平滑性に優れる。しかしながら、各抄紙機は種々の寸法を備えているため、それぞれに対応する基布層は完全なオーダーメードで製造される必要がある。このため、袋織による基布層の製造のためには、寸法を変更するたびに細かな織機の設定変更が必要となり、非常に生産性が悪く、また歩留まりも悪い。
【0010】
これに対し、効率的な抄紙用フェルトの製造方法として、平織基布のMD方向の端部同士を接合する方法が提案されている(特許文献1)。具体的には、バット繊維層の取り付けの前に、基布の横ヤーンを除去したMD方向端部同士を重ね合わせてプレスし、該端部同士を取り付ける態様が開示されている。湿紙側に該基布を用い、抄紙機側に袋織基布を用いたラミネート構造も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2006-510812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記先行技術に開示される製造方法により得られる抄紙用フェルトは、抄紙機側に袋織基布を用いたラミネート構造の場合、用いる基布の2分の1が袋織基布である為、非常に生産性が悪かった。
また、平織基布のみを用いたラミネート構造のフェルトの場合、バット繊維層の取り付け時または抄紙用フェルトの使用中に接合部が口開きする恐れがあった。本明細書でいう口開きとは、バット繊維層の取り付け時または抄紙用フェルトの使用中に力が掛かって、接合部が開くことを意味する。その一方で、口開きしない為にバット繊維層の取り付け時に低張力とすれば、2枚以上の基布の内、いずれかの基布の長さが余り、基布同士の貼り合わせができないため、基布の長さ調整ができず生産性が低下する恐れがあった。
【0013】
基布が3枚以上のラミネート構造のフェルトの場合、平織基布を2分の1以上用いることで生産性を良好とすることができる。具体的には、基布が3枚の場合、平織基布を2枚または3枚用いることで生産性を良好とすることができる。基布が3枚以上のラミネート構造のフェルトの場合、平織基布以外にエンドレス基布を用いることができる。この場合も、平織基布のみを用いたラミネート構造のフェルトと同様、バット繊維層の取り付け時または抄紙用フェルトの使用中に接合部が口開きする恐れがあった。また、口開きしない為にバット繊維層の取り付け時に低張力とすれば、基布の長さ調整ができず生産性が低下する恐れがあった。
本発明の目的は、口開きが抑制され、かつ、生産性の良い、平織基布を2枚以上用いたラミネート構造の抄紙用フェルトおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意検討の結果、バット繊維層の取り付け終了まで、または、抄紙用フェルトの使用中に複数枚の平織基布の接合部の強力がいずれも十分保たれるように、バット繊維層の取り付け時に該接合部のMD方向の距離を一定の範囲とすることで本願発明の課題が解決されることを見出した。
【0015】
<1>フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、第1のMD方向端部と第2のMD方向端部とからなるMD方向端部が接合された接合部を有する基布が2枚以上直接重なり合ってなる組み合わせを含み、含まれるすべての接合部を有する基布について、基布の接合部のMD方向の最大距離をx(cm)、最小距離をy(cm)としたとき、下記式(1)および(2)を満たすことを特徴とする、抄紙用フェルト。
x≦750 (1)
10≦y (2)
【0016】
<2>xが下記式(3)を満たす、<1>に記載の抄紙用フェルト。
x≦500 (3)
【0017】
<3>yが下記式(4)を満たす、<1>または<2>に記載の抄紙用フェルト。
51≦y (4)
【0018】
<4>接合部を有する基布を2枚含む、<1>~<3>のいずれか一つに記載の抄紙用フェルト。
【0019】
<5>接合部を有する基布を3枚以上含み、基布の接合部のMD方向の距離が互いに等しくない、<1>~<3>のいずれか一つに記載の抄紙用フェルト。
【0020】
<6>エンドレス基布をさらに含む、<1>~<5>のいずれか一つに記載の抄紙用フェルト。
【0021】
<7>接合部を有する基布のMD方向端部が溶着により接合されたものである、<1>~<6>のいずれか一つに記載の抄紙用フェルト。
【0022】
<8>不織繊維材料のバット繊維層を有する、<1>~<7>のいずれか一つに記載の抄紙用フェルト。
【0023】
<9>(a)フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、第1のMD方向端部と第2のMD方向端部とからなるMD方向端部が接合された接合部を有する基布が2枚以上直接重なり合ってなる組み合わせを含む各基布を重ね合わせる工程、
(b)含まれるすべての接合部を有する基布について、基布の接合部のMD方向の最大距離をx(cm)、最小距離をy(cm)としたとき、下記式(1)および(2)を満たすように基布を配置する工程、
x≦750 (1)
10≦y (2)
(c)工程(b)で重ね合わせた基布とバット繊維層を一体化する工程、
を含む、抄紙用フェルトの製造方法。
【0024】
<10>工程(b)において、xが下記式(3)を満たすように基布を重ね合わせる工程、
x≦500 (3)
を含む、<9>に記載の製造方法。
【0025】
<11>工程(b)において、yが下記式(4)を満たすように基布を重ね合わせる工程、
51≦y (4)
を含む、<9>または<10>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
以上の構成により、バット繊維層の取り付け時または抄紙用フェルトの使用中に口開きが発生せず、基布同士の貼り合わせができる、平織基布を2枚以上用いた生産性の良いラミネート構造の抄紙用フェルトおよび製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の基布の概略図である。
図2】本発明の製造過程で形成される、MD方向端部が接合された基布が2枚重なり合ったものの概略図である。
図3】本発明の製造過程で形成される、MD方向端部が接合された基布が3枚重なり合ったものの概略図である。
図4】本発明の製造過程で形成される、MD方向端部が接合された基布が2枚、エンドレス基布が1枚重なり合ったものの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の抄紙用フェルト用基布およびその製造方法の態様について、図面を用いて説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
また、本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照するすべての特許、出願および他の出版物(インターネットから入手可能な情報を含む)は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0029】
本発明の抄紙用フェルトに用いられる基布は、フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなる。
平織基布(有端状の状態)におけるMD/CD方向は、図1の矢印(MD/CD)で示され、抄紙機で抄紙用フェルトが使用される際、MD方向はフェルトの走行方向(回転方向)、CD方向はフェルトの走行方向を横切る方向として定義される。当該基布は、図1に示すように第1のMD方向端部1、第2のMD方向端部2を有する。
エンドレス基布(無端状の状態)におけるMD/CD方向は、図4の湿紙側基布(最も外側の基布)で示され、平織基布と同様、フェルトの走行方向および走行方向を横切る方向として定義される。
【0030】
本発明の抄紙用フェルトは、
フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、第1のMD方向端部と第2のMD方向端部とからなるMD方向端部が接合された接合部を有する基布(以下、「接合部を有する基布」ともいう)が2枚以上直接重なり合ってなる組み合わせを含む抄紙用フェルトである。
本発明の抄紙用フェルトは、含まれるすべての接合部を有する基布について、接合部のMD方向の最大距離をx(cm)としたとき、下記式(1)を満たすこと、を特徴とする。
x≦750 (1)
【0031】
前記xが750を超える場合、バット繊維層の取り付け時または抄紙用フェルトの使用中に接合部に口開きが生じやすくなり、また、基布の長さの調整ができなくなるため、好ましくない。ここで、基布の長さの調整ができないとは、いずれかの基布の長さが余り、皺が入ることをいう。
なお、本明細書における接合部同士の距離とは、接合部を有する各基布の接合部を垂直方向(基布の厚み方向)へ移動させ、これらがいずれも湿紙側基布(最も外側の基布)上にあると仮定したときの、当該湿紙側基布のMD方向に沿った最短距離を意味する。また、接合部がMD方向に巾を有する場合は、当該巾を有する接合部のMD方向の中央を基準とした接合部同士の距離を意味する。
【0032】
本発明の抄紙用フェルトは、含まれるすべての接合部を有する基布について、接合部のMD方向の最大距離を750cm以下、好ましくは500cm以下とすること、すなわち、上記式(1)、好ましくは下記式(3)を満たすこと、を特徴とする。
x≦500 (3)
【0033】
本発明の抄紙用フェルトは、含まれるすべての接合部を有する基布について、接合部のMD方向の最小距離をy(cm)としたとき、下記式(2)を満たすこと、を特徴とする。
10≦y (2)
前記yが10未満の場合、口開きが生じる恐れがあり、好ましくない。
【0034】
本発明の抄紙用フェルトは、含まれるすべての接合部を有する基布について、接合部のMD方向の最小距離を10cm以上、好ましくは51cm以上とすること、すなわち、上記式(2)、好ましくは下記式(4)を満たすこと、を特徴とする。
51≦y (4)
【0035】
本発明の抄紙用フェルトは、接合部を有する基布の接合部がMD方向に近いため、当該部分の強力が十分であり、バット繊維層の取り付け時または抄紙用フェルトの使用中に口開きが発生しない。バット繊維層の取り付け時において、長さが他より長い基布を他の基布同様に緊張させる為に張力を掛けるが、バット繊維層が取り付けられていない接合部は強力の低下もしくは口開きが発生する恐れがある。しかしながら、本発明の抄紙用フェルトは、MD方向に距離の近いいずれもの接合部にバット繊維層を取り付けた後に張力を掛ける為、当問題は起こらない。
【0036】
基布の接合部のMD方向の距離をさらに近づけた場合は、バット繊維層がいずれもの接合部により早期に取り付けられ、バット繊維層が取り付けられていない基布の長さはより長い。この状態で各基布の長さを等しくすることができる為、掛ける張力はより低張力で済む。この事によっても、各接合部の強力の低下や口開きの発生を防ぐことができる。
この結果、バット繊維層の取り付け時または抄紙用フェルトの使用中に口開きが発生せず、基布同士の貼り合わせができる平織基布(貼り合わせることで接合部を有する基布を与える基布)を2枚以上用いた生産性の良いラミネート構造の抄紙用フェルトを得ることができる。ここで、本発明の抄紙用フェルトは、用いるすべての基布について、2枚重なり合っていてもよいし、3枚以上重なり合っていてもよい。2枚の基布が重なり合っている場合は、接合部を有する基布のみを用いる。また、3枚以上の基布が重なり合っている場合は、接合部を有する基布のみでも良いしエンドレス基布を用いても良い。エンドレス基布を用いる場合は、本発明の抄紙用フェルトは2枚以上直接重なり合う接合部を有する基布を含む。
【0037】
一方で、各基布の接合部の距離が非常に近い場合は、抄紙用フェルトの使用中に振動を引き起こす可能性がある。バット繊維層の取り付けは、基布をMD方向へ進行させながらバット繊維層をCD方向へ往復かつ重ねて基布上に並べる。この時のバット繊維層の重ね合わせピッチと各接合部の距離が同じ範囲にあると振動の原因となる恐れがある。一般的に、バット繊維層の重ね合わせピッチは8~50cmの範囲であることが好ましい。
張力を掛けた時、接合部間の基布とバット繊維層の固着力(剪断強力)は、接合部の強力を補う役目を果たす。従って、接合部の距離を一定の距離以上離すことによって、接合部の口開きが発生し難くなるため、好ましい。一般的に、接合部間の基布とバット繊維層の固着力(剪断強力)が接合部の強力を補うのは、接合部間の距離が10cm以上の場合である。
【0038】
上述のとおり、本発明の抄紙用フェルトは、接合部を有する基布を2枚含んでもよく、3枚以上含んでもよい。
接合部を有する基布が3枚以上の場合、接合部の周期が等しいと振動の原因となる可能性がある為、本発明の抄紙用フェルトは、基布の接合部のMD方向の距離が互いに等しくないことが好ましい。本明細書において、抄紙用フェルトにおける基布の接合部のMD方向の距離が互いに等しくないとは、3枚以上の接合部を有する基布の2つの接合部の組み合わせのすべてについて接合部間の距離を求めた場合に、接合部間の距離が等しい組み合わせが存在しないことを意味する。例えば、接合部を有する基布が4枚の場合、接合部は4つであり、考えられる2つの接合部の組合せの5通り(各接合部をa、b、c、dとした場合、a-b間とb-c間、a-b間とc-d間、a-b間とb-d間、a-c間とc-d間、b-c間とc-d間)において、接合部間の距離が等しい組合せが存在しないことが好ましい。
各基布の接合部のMD方向の距離を一定の範囲とし、接合部を有する基布が3枚以上の場合はいずれの接合部間の距離も等しくしないことにより、振動や接合部の口開きの問題が起こりにくくなるため、好ましい。
【0039】
本発明の抄紙用フェルトは、上述のとおり、バット繊維層を有することができる。バット繊維層を構成する材料には特に制限がないが、不織繊維材料を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の抄紙用フェルトのMD方向の長さは1550cm以上40000cm以下であることが好ましく、2000cm以上20000cm以下であることがより好ましい。本明細書でいう抄紙用フェルトのMD方向の長さとは、抄紙用フェルトを構成する湿紙側基布のMD方向に沿った一周の長さを意味する。
抄紙用フェルトのMD方向の長さをかかる範囲とすることにより、バット繊維層の取り付け時にバット繊維層が取り付けられていない基布の長さが長く、この状態で各基布の長さを等しくすることができる為、掛ける張力はより低張力で済み、各接合部の強力の低下や口開きの発生を防ぐことができるため好ましい。
【0041】
本発明の抄紙用フェルトの具体的態様としては、以下の態様(a)、(b)、(c)が例示される。
(a)第1のMD方向端部と第2のMD方向端部を接合した基布が2枚重なり合っている抄紙用フェルト。
(b)第1のMD方向端部と第2のMD方向端部を接合した基布が3枚以上重なり合っている抄紙用フェルト。
(c)第1のMD方向端部と第2のMD方向端部を接合した基布が2枚以上直接重なり合ってなり、更にエンドレス基布が重なり合っている抄紙用フェルト。
【0042】
接合部を有する基布を2枚重ね合わせて抄紙用フェルトを製造する場合、例えば図2のように、基布B’の接合部と基布B’’の接合部をMD方向に離して重ね合わせることができる。接合部の距離は、近い(小さい)側とその反対側の遠い(大きい)側が考えられる。本発明の抄紙用フェルトでは、距離の近い(小さい)側を接合部の距離と定義する。例えば、接合部のMD方向の最大距離を750cm以下とする場合、距離の近い側が750cm以下となっていればよい。2枚の基布の場合、距離5は、最大距離xでもあり最小距離yでもある。
【0043】
接合部を有する基布を3枚以上重ね合わせて抄紙用フェルトを製造する場合、例えば図3のように、3枚の基布B’、B’’、B’’’の接合部をMD方向に離して重ね合わせることができる。2枚の基布の時と同様、3箇所の接合部は750cm以内に配置され、MD方向に最も離れた接合部の距離が最大距離x(cm)となる。図3の場合、湿紙側基布の接合部と、湿紙側基布と抄紙機側基布(最も内側の基布)の間の基布の接合部の距離6が最大距離xとなり、抄紙機側基布の接合部と、湿紙側基布と抄紙機側基布の間の基布の接合部の距離7が最小距離yとなる。ここで、距離6は、湿紙側基布の接合部と抄紙機側基布の接合部の距離より大きく、他方、距離7は、湿紙側基布の接合部と抄紙機側基布の接合部の距離より小さい。
【0044】
接合部を有する基布の2枚以上とエンドレス基布を重ね合わせて抄紙用フェルトを製造する場合、例えば図4のように、抄紙機側基布と、湿紙側基布と抄紙機側基布の間の基布を直接重ね合わせ、更に湿紙側基布として袋織基布を重ね合わせることができる。2枚の接合部を有する基布は、基布B’’の接合部と基布B’’’の接合部をMD方向に離して重ね合わせることができる。この場合も、2枚の基布を重ね合わせて抄紙用フェルトを製造する場合と同様に、距離の近い(小さい)側を接合部の距離と定義し、距離5は最大距離xでもあり最小距離yでもある。
【0045】
基布が3枚以上のラミネート構造のフェルトにおいて、2枚以上の接合部を有する基布とエンドレス基布を重ね合わせて抄紙用フェルトを製造する場合の基布の位置は、接合部を有する基布が少なくとも2枚以上直接重なり合っていれば良く、その他の接合部を有する基布やエンドレス基布はいかなる位置でもよい。
【0046】
また、直接重なり合う接合部を有する2枚以上の基布が1組とこれと隣接せずに重なり合う接合部を有する1枚の基布が存在した場合、接合部を有する基布のすべてについて、接合部のMD方向の距離を式(1)および(2)が満たされる範囲とすればよい。
直接重なり合う接合部を有する2枚以上の基布が2組以上重なり合っていた場合も同様に、接合部を有する基布のすべてについて、接合部のMD方向の距離を式(1)および(2)が満たされる範囲とすればよい。例えば、基布が5枚のラミネート構造のフェルトにおいて、2枚の接合部を有する基布、エンドレス基布、2枚の接合部を有する基布の順に重なり合っており、接合部のMD方向の最大距離を750cm以下とする場合、4箇所の接合部すべてが750cm以内に配置されていればよい。
これらの様に、直接重なり合う接合部を有する2枚以上の基布以外に、接合部を有する基布が重なり合っていた場合、接合部を有する基布のすべてについて、接合部のMD方向の距離を式(1)および(2)が満たされる範囲とすればよい。
【0047】
接合部を有する基布のMD方向端部の接合は、ミシン縫製、縫合、接着剤、ニードリング、溶融、溶着等により行うことができる。これらのうち、操作の簡便性等の観点から、接合は溶着により行うことが好ましい。
また、複数の基布ごとに、接合方法は同一であっても異なっていてもよい。
【0048】
本発明の抄紙用フェルトに用いる基布のすべてについて、基布のMD糸材およびCD糸材を構成する繊維の構成材料としては、熱可塑性樹脂であることが好ましい。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、等を使用することができるが、中でもポリアミド樹脂が好ましい。また、MD糸材およびCD糸材の構成材料は、同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
MD糸材およびCD糸材を構成する繊維の形態は、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンヤーンや、捲縮加工、嵩高加工等が施されたテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーン等の加工糸、更には、これらの糸を撚り合わせてなる撚糸とすることができる。繊維の断面形状は、円形、略楕円形、多角形、略星型、略矩形等とすることができる。
【0050】
MD糸材およびCD糸材を構成する繊維の繊度は、特に限定されないが、モノフィラメントの場合、好ましくは89~2240dtex(0.10~0.50mm)、より好ましくは200~1440dtex(0.15~0.40mm)とすることができる。
【0051】
本発明の抄紙用フェルトに用いる基布のすべてについて、基布を構成するMD糸材およびCD糸材は、1種のみでもよく、2種以上でもよい。
基布は1重織構造、多重織構造のいずれの組織であってもよく、織組織も特に限定されず、例えば、平織、綾織、朱子織、及び変織等のその他の組織、並びにこれらの組合せの何れであってもよい。また、織布に限定せず、地経糸と地緯糸が上下に配置された格子状素材を用いることも可能である。
【0052】
本発明の抄紙用フェルトに用いる基布のすべてについて、基布の目付は特に限定されないが、通常100~800g/m、好ましくは、150~500g/mとすることができる。基布の厚みは、特に限定されないが、通常0.4~1.3mm、好ましくは0.6~1.1mmとすることができる。基布の密度は、特に限定されないが、通常0.25~0.55g/cm、好ましくは0.35~0.45g/cmとすることができる。
【0053】
本発明の抄紙用フェルトの接合部を有する基布以外の基布は、特に限定されないが、シーム基布、平織縫合基布、袋織基布、スパイラル基布、無製織基布のいずれの基布であってもよい。これらのうち、平滑性など観点から、袋織やスパイラル基布などのエンドレス基布が好ましい。
エンドレス基布の好ましい態様としては、上述のMD糸材およびCD糸材を構成する繊維の構成材料、繊維の形態、繊維の繊度、基布の目付とすることができる。
【0054】
本発明の抄紙用フェルトに用いる基布のすべてについて、基布の寸法は特に限定されないが、平織の各基布のMD方向端部を接合し2枚以上直接重なり合ってなる組み合わせを含む基布を重ね合わせて最終製品(抄紙用フェルト)の寸法を満足できる寸法であればよい。
【0055】
また、本発明は、(a)フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、第1のMD方向端部と第2のMD方向端部とからなるMD方向端部が接合された接合部を有する基布が2枚以上直接重なり合ってなる組み合わせを含む各基布を重ね合わせる工程、
(b)含まれるすべての接合部を有する基布について、基布の接合部のMD方向の最大距離をx(cm)、最小距離をy(cm)としたとき、下記式(1)、(2)を満たすように基布を配置する工程、
x≦750 (1)
10≦y (2)
(c)工程(b)で重ね合わせた基布とバット繊維層を一体化する工程、を含む、抄紙用フェルトの製造方法にも関する。
【0056】
本発明の製造方法は、前記工程(b)において、xが下記式(3)を満たすように基布を重ね合わせる工程、
x≦500 (3)
を含むことが好ましい。
【0057】
本発明の製造方法は、前記工程(b)において、yが下記式(4)を満たすように基布を重ね合わせる工程、
51≦y (4)
を含むことが好ましい。
【実施例
【0058】
以下、本発明の抄紙用フェルトについて、実施例を用いて詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
以下に示す接合部を有する基布を用いて、実施例1~4、比較例1、2の抄紙用フェルトを作製した。MD方向端部の接合は超音波溶着により行い、接合部を有する基布を2枚重ね合わせた。2箇所の接合部にバット繊維層を取り付けた後、所定の張力を掛け、各基布の長さを等しくした。
基布の接合部のMD方向の距離、バット繊維層取り付け後の接合部の口開きの有無、基布の長さ調整可否、振動試験のオーバーオール値(OA値)について表1に示す。
・基布寸法:長さ(MD方向)1550cm×巾(CD方向)500cm
【0059】
【表1】
【0060】
更に以下に示す接合部を有する基布を用いて、実施例5~10、比較例3、4の抄紙用フェルトを作製した。MD方向端部の接合は超音波溶着により行い、接合部を有する基布を3枚重ね合わせた。3箇所の接合部にバット繊維層を取り付けた後、所定の張力を掛け、各基布の長さを等しくした。3箇所の接合部の内、最も進行方向側の接合部を接合部1、順に接合部2、接合部3とした。
基布の接合部のMD方向の距離、バット繊維層取り付け後の接合部の口開きの有無、基布の長さ調整可否、振動試験のオーバーオール値(OA値)について、表2に示す。
・基布寸法:長さ(MD方向)1550cm×巾(CD方向)500cm
【表2】
【0061】
更に以下に示す接合部を有する基布とエンドレス基布を用いて、実施例11~14、比較例5、6の抄紙用フェルトを作製した。接合部を有する基布のMD方向端部の接合は超音波溶着により行い、基布を2枚直接重ね合わせ、更に湿紙側基布として袋織基布を1枚重ね合わせた。2箇所の接合部にバット繊維層を取り付けた後、所定の張力を掛け、各基布の長さを等しくした。
基布の接合部のMD方向の距離、バット繊維層取り付け後の接合部の口開きの有無、基布の長さ調整可否、振動試験のオーバーオール値(OA値)について表1に示す。
・基布寸法:長さ(MD方向)1550cm×巾(CD方向)500cm
【表3】
【0062】
表1、表2、表3中の口開き、基布の長さ調整可否は、製造性を評価したものである。口開きの評価方法は、バット繊維層を取り付けた後、湿紙側基布の接合部表面および抄紙機側基布の接合部裏面のバット繊維層を取り除いて接合部の口開きの有無を目視で確認した。
【0063】
基布の長さ調整可否は、2ないし3箇所の接合部にバット繊維層を取り付けた後に3kN/mの張力を掛け、一周バット繊維層を取り付けた時にいずれかの基布の長さが余っているか(皴などがあるか)否かを目視で確認した。
【0064】
振動は、走行安定性を評価したものである。評価方法は、速度1000m/分、加圧100kg/cmにおけるFFT解析の加圧方向の加速度(オーバーオール値)を測定することによって評価した。一般的に、この値が0.3未満の場合、振動は良好であるといえる。
【0065】
表から理解できる通り、接合部を有する基布の接合部のMD方向の最大距離を750cm以下、最小距離を10cm以上とすることによって、湿紙側および抄紙機側基布のいずれも口開きは発生しなかった。基布の長さ調整は、接合部のMD方向の最大距離が750cm以下の場合に各基布の長さを等しくできた。振動は、接合部のMD方向の最小距離が51cm以上、かつ接合部を有する基布が3枚の場合は接合部のMD方向の距離が互いに等しくない場合で発生がなく、走行安定性が良好であったことが分かる。
【符号の説明】
【0066】
B 基布
B’ 湿紙側基布(接合部を有する基布)
B’’ 抄紙機側基布(接合部を有する基布)
B’’’ 湿紙側基布と抄紙機側基布の間の基布(接合部を有する基布)
B’’’’ 湿紙側基布(袋織基布)
1 第1のMD方向端部領域
2 第2のMD方向端部領域
3 湿紙側基布の接合部
4 抄紙機側基布の接合部
5 接合部のMD方向の距離
6 湿紙側基布と抄紙機側基布の間の基布の接合部
7 接合部のMD方向の最大距離
8 接合部のMD方向の最小距離
図1
図2
図3
図4