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特許7527006摺動部材、摺動部材の製造方法および摺動システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】摺動部材、摺動部材の製造方法および摺動システム
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20240726BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20240726BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20240726BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240726BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20240726BHJP
   C08J 5/16 20060101ALI20240726BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240726BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
F16C33/20 Z
F16C33/12 Z
F16C33/14 Z
C23C26/00 A
C08J9/26 102
C08J5/16
B32B5/18 101
B32B27/38
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020568183
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2020002077
(87)【国際公開番号】W WO2020153394
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019010938
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(1)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)革新的燃焼技術「モノリス構造を利用したナノブラシの階層化による高度潤滑」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの(2)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】清水 吉彦
(72)【発明者】
【氏名】本田 知己
(72)【発明者】
【氏名】三原 雄司
(72)【発明者】
【氏名】石塚 紀生
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-166273(JP,A)
【文献】特開2017-066526(JP,A)
【文献】特開2010-286038(JP,A)
【文献】特開2010-111791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
C23C 26/00
C08J 5/16,9/26
B32B 5/18,27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手部材との摺動側の表面の表面粗さRaが0.5~1000μmである基材の前記摺動側の表面にポリマーモノリスが形成された摺動部材であって、
前記基材の前記摺動側の表面には、深さが0.5~100μmの条痕が形成されており、
前記ポリマーモノリスの最大膜厚が2000μm以下であり、
前記ポリマーモノリスの空孔率が60~90%であり、
前記ポリマーモノリスの平均空孔径が0.2~10μmである、
摺動部材
【請求項2】
前記ポリマーモノリスは潤滑油を含む、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記ポリマーモノリスのポリマー骨格は、2官能以上のエポキシ化合物と2官能以上のアミン化合物の重合物である、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記ポリマーモノリスは、更にシリカ粒子を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記基材は金属基材である、請求項1~のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記基材の前記摺動側の表面の凹部の少なくとも一部に前記ポリマーモノリスを有している、請求項1~のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記基材の前記摺動側の表面の凹部の少なくとも一部に前記ポリマーモノリスを有し、かつ、前記基材の前記摺動側の表面の少なくとも一部が前記ポリマーモノリスから露出している、請求項に記載の摺動部材。
【請求項8】
前記摺動部材はすべり軸受である、請求項1~のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項9】
相手部材との摺動側の表面に深さが0.5~100μmの条痕が形成され、かつ、表面粗さRaが0.5~1000μmである基材の前記摺動側の表面に、重合性化合物と架橋剤と孔形成剤とを含むポリマーモノリス形成用組成物を塗布して塗布膜を形成し、前記塗布膜を硬化し、硬化により形成された硬化膜から前記孔形成剤を除去して、最大膜厚が2000μm以下であり、空孔率が60~90%であり、平均空孔径が0.2~10μmであるポリマーモノリスを形成する、摺動部材の製造方法。
【請求項10】
前記基材の前記摺動側の表面の凹部の少なくとも一部に前記ポリマーモノリスを形成する、請求項に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項11】
前記基材の前記摺動側の表面の凹部の少なくとも一部に前記ポリマーモノリスを形成するとともに、前記基材の前記摺動側の表面の少なくとも一部を前記ポリマーモノリスから露出させる、請求項10に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項12】
前記重合性化合物は2官能以上のエポキシ化合物であり、前記架橋剤は2官能以上のアミン化合物である、請求項9~11のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項13】
前記ポリマーモノリス形成用組成物は、更にシリカ粒子を含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項14】
前記ポリマーモノリス形成用組成物は、更に沸点が100℃以下の有機溶剤を含む、請求項9~13のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項15】
すべり軸受と、
前記すべり軸受けの内周面側に設けられた回転軸と、
前記すべり軸と前記回転軸との間に介在する潤滑油と、を備えた摺動システムであって、
前記すべり軸受が、請求項1~のいずれか1項に記載の摺動部材である、摺動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材、摺動部材の製造方法および摺動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
すべり軸受などの摺動部材においては、特許文献1に記載されているように、母体となる基材の相手部材との摺動側の表面に、条痕加工などのテクスチャリングを施して用いることがある。
【0003】
一方で、近年では、ポリマーモノリスに関する研究が進められている。
【0004】
例えば、特許文献2には、硬化性樹脂と硬化剤とポロゲンと増粘剤とを含む硬化性組成物を基材上に塗布し、前記塗布により形成された塗布物を硬化し、前記硬化により形成された硬化塗膜内のポロゲンを除去することにより、多孔質モノリスコーティング膜を基材の表面に保持する、多孔質モノリスコーティング構造物の製造方法に関する発明が記載されている。特許文献2に関する発明によれば、表面に非多孔性のスキン層が形成されていない多孔質モノリスコーティング構造物を、研磨等の工程を経ることなく、基材上に成膜することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-269454号公報
【文献】特開2016-166273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、すべり軸受などの摺動部材は、相手部材とのなじみ処理を経て用いられている。ここで、なじみ処理とは、あらかじめ摺動部材と相手部材とを摺動させておくことにより、両者の摺動面を均一化させていく処理のことである。
【0007】
しかしながら、従来より知られているすべり軸受などの摺動部材では、相手部材との摩擦係数が大きい傾向にあった。このため、良好ななじみ面を得るのに時間を要することがあった。また、なじみ処理中に摩耗粉の発生量が多い傾向にあり、良好ななじみ面が得られにくい傾向にあった。また、なじみ処理中に摺動部材の温度が突発的に上昇して焼付きが生じることもあった。例えば、相手部材との摺動面に強い荷重が印加された状態で相手部材と摺動させた場合において、摺動部材の温度が上昇して焼付きが生じやすかった。
【0008】
また、一般的に、なじみ処理は、摺動部材と相手部材との間に潤滑油を介在させた状態で行うことが多いが、潤滑油の供給が少ない貧潤滑条件下でもなじみ処理を行うこともある。このような貧潤滑条件下では、なじみ処理中に摺動部材と相手部材とが直接接しやすく、摺動部材の温度が急激に上昇して焼付きが生じ易かった。
【0009】
このように、従来より知られているすべり軸受などの摺動部材は、なじみ性について更なる改善の余地があった。
【0010】
なお、特許文献2には、多孔質モノリスコーティング構造物に関する発明が記載されているが、摺動部材に関する記載はない。
【0011】
よって、本発明の目的は、なじみ性に優れた摺動部材、摺動部材の製造方法および摺動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、表面粗さがある程度高い基材の表面にポリマーモノリスを形成することにより、優れたなじみ性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。よって、本発明は以下を提供する。
<1> 相手部材との摺動側の表面の表面粗さRaが0.5~1000μmである基材の上記摺動側の表面にポリマーモノリスが形成された摺動部材。
<2> 上記ポリマーモノリスは潤滑油を含む、<1>に記載の摺動部材。
<3> 上記ポリマーモノリスのポリマー骨格は、2官能以上のエポキシ化合物と2官能以上のアミン化合物の重合物である、<1>または<2>に記載の摺動部材。
<4> 上記ポリマーモノリスの空孔率が30%以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の摺動部材。
<5> 上記ポリマーモノリスの平均空孔径が0.01~100μmである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の摺動部材。
<6> 上記ポリマーモノリスは、更にシリカ粒子を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の摺動部材。
<7> 上記基材は金属基材である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の摺動部材。
<8> 上記基材の上記摺動側の表面には凹凸が形成されて表面粗さRaが0.5~1000μmとされており、
上記基材の上記摺動側の表面の凹部の少なくとも一部に上記ポリマーモノリスを有している、<1>~<7>のいずれか1つに記載の摺動部材。
<9> 上記基材の上記摺動側の表面の凹部の少なくとも一部に上記ポリマーモノリスを有し、かつ、上記基材の上記摺動側の表面の少なくとも一部が上記ポリマーモノリスから露出している、<8>に記載の摺動部材。
<10> 上記基材の上記摺動側の表面には、条痕が形成されている、<1>~<9>のいずれか1つに記載の摺動部材。
<11> 上記ポリマーモノリスの最大膜厚が2000μm以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の摺動部材。
<12> 上記摺動部材はすべり軸受である、<1>~<11>のいずれか1つに記載の摺動部材。
<13> 相手部材との摺動側の表面の表面粗さRaが0.5~1000μmである基材の上記摺動側の表面に、重合性化合物と架橋剤と孔形成剤とを含むポリマーモノリス形成用組成物を塗布して塗布膜を形成し、上記塗布膜を硬化し、硬化により形成された硬化膜から上記孔形成剤を除去してポリマーモノリスを形成する、摺動部材の製造方法。
<14> 上記基材の上記摺動側の表面には凹凸が形成されて表面粗さRaが0.5~1000μmとされており、
上記基材の上記摺動側の表面の凹部の少なくとも一部に上記ポリマーモノリスを形成する、<13>に記載の摺動部材の製造方法。
<15> 上記基材の上記摺動側の表面の凹部の少なくとも一部に上記ポリマーモノリスを形成するとともに、上記基材の上記摺動側の表面の少なくとも一部を上記ポリマーモノリスから露出させる、<13>に記載の摺動部材の製造方法。
<16> 上記重合性化合物は2官能以上のエポキシ化合物であり、上記架橋剤は2官能以上のアミン化合物である、<13>~<15>のいずれか1つに記載の摺動部材の製造方法。
<17> 上記ポリマーモノリス形成用組成物は、更にシリカ粒子を含む、<13>~<16>のいずれか1つに記載の摺動部材の製造方法。
<18> 上記ポリマーモノリス形成用組成物は、更に沸点が100℃以下の有機溶剤を含む、<13>~<17>のいずれか1つに記載の摺動部材の製造方法。
<19> すべり軸受と、
上記すべり軸受けの内周面側に設けられた回転軸と、
上記すべり軸と上記回転軸との間に介在する潤滑油と、を備えた摺動システムであって、
上記すべり軸受が、<1>~<12>のいずれか1つに記載の摺動部材である、摺動システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、なじみ性に優れた摺動部材、摺動部材の製造方法および摺動システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の摺動部材の一実施形態を示す概略図である。
図2】条痕の形状を示す図である。
図3】条痕の形状を示す図である。
図4】条痕の形状を示す図である。
図5】本発明の摺動部材の他の実施形態を示す概略図である。
図6】本発明の摺動システムの一実施形態を示す図である。
図7図6のすべり軸受11のA-A線断面図である。
図8】実施例で用いた試験装置の概略図である。
図9】試験例1の試験結果であって、実施例1の摺動部材を用いた軸受試験片の摩擦係数および温度の変化を示す試験結果である。
図10】試験例1の試験結果であって、比較例1の摺動部材を用いた軸受試験片の摩擦係数および温度の変化を示す試験結果である。
図11】試験例1の試験結果であって、比較例2の摺動部材を用いた軸受試験片の摩擦係数および温度の変化を示す試験結果である。
図12】試験例1の試験結果であって、実施例1、比較例1、比較例2のストライベック曲線である。
図13】試験例1の試験結果であって、実施例1の摺動部材を用いた軸受試験片の試験後の摺動面の図である。
図14】試験例1の試験結果であって、比較例1の摺動部材を用いた軸受試験片の試験後の摺動面の図である。
図15】試験例1の試験結果であって、比較例2の摺動部材を用いた軸受試験片の試験後の摺動面の図である。
図16】試験例2の試験結果であって、実施例1および比較例1の軸受試験片の摩擦係数および温度の変化を示す試験結果である。
図17】試験例2の試験結果であって、実施例1および比較例1のストライベック曲線である。
図18】試験例3の試験結果であって、実施例11、実施例12および比較例11のストライベック曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において「~」という記号を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および「メタクリレート」の両方、または、いずれかを意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の両方、または、いずれかを意味する。
【0017】
<摺動部材>
本発明の摺動部材は、相手部材との摺動側の表面の表面粗さRaが0.5~1000μmである基材の前記摺動側の表面にポリマーモノリスが形成された摺動部材であることを特徴とする。
【0018】
本発明の摺動部材は、なじみ処理中における摺動部材の温度の突発的な上昇を抑制して焼付きの発生を抑制できる。また、なじみ処理中に荷重やすべり速度(摺動速度)が変動しても、摩擦係数の急激な上昇を抑制でき、なじみ処理を安定的に行うことができる。このように、本発明の摺動部材は、なじみ性に優れ、焼付きなどがなく、良好ななじみ面を短時間で形成することができる。このような効果が得られる理由としては、以下によるものと推測される。
【0019】
本発明の摺動部材は、基材の表面にポリマーモノリスを有しているが、ポリマーモノリスは、連続空孔とポリマー骨格の3次元共連続構造を有しているので、柔軟性が高く、内部に潤滑油を効率よく保持しやすい。このようなポリマーモノリスが、摺動側の表面の表面粗さRaが0.5~1000μmである基材の摺動側の表面に形成されていることにより、なじみ処理時における相手部材との摩擦係数を低く抑えることができる。また、なじみ処理時に相手部材との摺動面に強い荷重が印加されても、摺動部材の温度の突発的な上昇を抑制することもでき、焼付きの発生を抑制することができる。また、摩擦係数の急激な変動なども抑制できる。
【0020】
また、なじみ処理が徐々に進むと、基材の摺動側の表面(以下、摺動面ともいう)の凸部が摩耗されて摺動面が徐々に平坦化されるとともに、ポリマーモノリスも徐々に摩耗されていくが、なじみ処理がある程度進んだ段階でも摺動面の凹部にポリマーモノリスが残存した状態でなじみ処理が進行すると推測される。このため、なじみ処理がある程度進行した段階でも、ポリマーモノリスによる優れた摩擦特性の改善効果や焼付き抑制効果を持続させることができると推測される。そのため、例えば、なじみ処理がある程度進んだ段階で、相手部材との摺動面に強い荷重が印加されたり、すべり速度(摺動速度)が変動しても、摩擦係数の急激な変動や、摺動部材の温度の突発的な上昇を抑制できる。
【0021】
このような理由により、本発明の摺動部材は、優れたなじみ性を有していると推測される。
【0022】
また、ポリマーモノリスは柔軟性に優れた構造を有しているので、なじみ処理時に強い衝撃が加わっても、焼付けなどの発生を抑制できる。このため、本発明の摺動部材は耐衝撃性にも優れる。
【0023】
また、なじみ処理後も基材の摺動面の凹部にポリマーモノリスが残存している場合もあり、この場合は、ポリマーモノリスによって優れた潤滑特性や優れた耐衝撃性を得ることができる。
【0024】
また、従来は、基材の摺動面に条痕加工などのテクスチャリングを施す場合、高度に研磨加工を行っていたが、本発明の摺動部材によれば、ポリマーモノリスを形成することにより、高度研磨を施さなくても(例えば、一次機械加工のみなど)優れたなじみ性を得ることができ、摺動部材の製造コストを低減することもできる。なお、本発明の摺動部材において、基材の摺動面に対して高度に研磨加工が施されたものを用いてもよいことは言うまでもない。
【0025】
また、本発明の摺動部材によれば、潤滑油の供給が少ない貧潤滑条件下でなじみ処理を行った場合であっても、摺動部材の温度の突発的な上昇や摩擦係数の急激な変動を抑制することができる。このような効果が得られる理由としては、ポリマーモノリスが内部に潤滑油を効果的に保持しやすいためであると推測される。
【0026】
また、本発明の摺動部材によれば、起動と停止を繰り返して行うような間欠運転にてなじみ処理を行った場合であっても、摺動部材の温度の突発的な上昇や摩擦係数の急激な変動を抑制することができ、良好ななじみ面を形成することができる。このような効果が得られる理由としては、上述したように、ポリマーモノリスが内部に潤滑油を効果的に保持しやすいことから、潤滑油を内部に保持したポリマーモノリスの効果により、装置の駆動停止時のオイル切れによる焼き付き等を問題を回避することができるためであると推測される。
【0027】
本発明の摺動部材について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、摺動部材の一実施形態を示す図である。符号1は基材であり、符号2はポリマーモノリスであり、符号10は摺動部材である。
【0028】
基材1の材質としては、特に限定されない。例えば、金属、樹脂、無機材料などが挙げられる。金属としては、鉄、アルミニウム、銅及びこれらの金属原子を含む合金などが挙げられる。樹脂としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。無機材料としては、炭化ケイ素、酸化アルミニウムなどが挙げられる。基材1は、単層構造体であってもよく、積層構造体であってもよい。なかでも、より優れたなじみ性が得られ、本発明の効果がより顕著に得られやすいという理由から基材1の材質は金属であることが好ましい。すなわち、基材1は金属基材であることが好ましい。また、金属の種類としては、硬さ・じん性・耐磨耗性・耐衝撃性に優れるという理由からはだ焼き鋼(例えばSCM420など)や高炭素合金鋼(例えば炭素クロム鋼・SUJ2など)が好ましい。
【0029】
基材1の相手部材との摺動側の表面(摺動面)の表面粗さRaは0.5~1000μmである。摺動面には、凹凸が形成されて表面粗さRaが0.5~1000μmとされていることが好ましい。摺動面の表面粗さRaが上記範囲であることにより、優れたなじみ性が得られる。摺動面の表面粗さRaは、機械加工のしやすさから500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましく、25μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることが更に一層好ましい。また、摺動面の表面粗さRaは、ポリマーモノリスによる効果をより効果的に発現させやすいという理由から0.75μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることが更に好ましい。ここで、表面粗さRaとは、表面の算術平均粗さのことである。基材の摺動面の表面粗さRaを上記範囲に調整する方法としては、レーザ加工、機械加工(例えば、ボーリング加工、ブローチ加工、切削加工、サンドブラスト加工、ピーニング加工など)などの方法で基材の摺動面を加工して調整する方法が挙げられる。
【0030】
図1に示す摺動部材10では、基材1の摺動面に条痕が形成されている。すなわち、図1に示す摺動部材10の基材1は、条痕が形成されて摺動面の表面粗さRaが0.5~1000μmとされている。基材1の表面にこのような条痕が形成されていることにより、優れたなじみ性が得られやすい。条痕は、相手部材との摺動方向と略並行に延びていることが好ましい。なお、略並行とは-5~+5°の範囲を示し、-3~+3°の範囲であることが好ましく、-1~+1°の範囲であることがより好ましい。
【0031】
条痕の形状としては、特に限定はない。図1では、波形状の条痕が形成されているが、例えば、図2に示すような三角形状、図3に示すような矩形状、図4に示すような台形状の形状であってもよいなどが挙げられる。また、条痕の形状はこれらに限定されず、サンドブラスト加工、サンドペーパー加工、ピーリング加工などにより得られるディンプル形状などの形状であってもよい。また、条痕は所定のピッチで形成されていてもよく、ピッチを変化させて形成されていてもよい。例えば、幅方向の中央近傍のピッチを幅方向端部のピッチよりも狭くしたり、広げたりして形成してもよい。
【0032】
条痕の深さは、0.1~5000μmであることが好ましい。条痕の深さが上記範囲であれば、潤滑油が摺動面に保持されやすく、優れたなじみ性が得られやすい。条痕の深さは、機械加工のしやすさという理由から2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることがより一層好ましく、60μm以下であることが更に一層好ましい。また、条痕の深さは、ポリマーモノリスによる効果を発現させるという理由から0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましい。
【0033】
なお、図1に示す摺動部材10では、基材1の摺動面に条痕が形成されているが、条痕以外のテクスチャリングを施して表面粗さRaが0.5~1000μmとされていてもよい。
【0034】
図1に示すように、基材1の相手部材との摺動側の表面(摺動面)には、連続空孔とポリマー骨格の3次元共連続構造を有するポリマーモノリス2が形成されている。ここで、ポリマーモノリスとは、3次元的に連通した空孔を有する高分子多孔質体のことであり、連続空孔とポリマー骨格とで3次元共連続構造をおりなして形成されているもののことである。
【0035】
ポリマーモノリス2の最大膜厚は、5000μm以下であることが好ましく、2000μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより一層好ましく、100μm以下であることが更に一層好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。ポリマーモノリス2の最大膜厚が上記であれば、優れたなじみ性が得られやすい。すなわち、ポリマーモノリス2の最大膜厚が上記であれば、なじみ処理時におけるポリマーモノリス2の圧縮変形を抑制でき、摩擦係数をより小さくできる。
【0036】
ポリマーモノリス2の空孔率は30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。空孔率が30%以上であれば、潤滑液をより効果的に保持しやすい。空孔率の上限は90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましく、80%以下であることが更に好ましい。
【0037】
ポリマーモノリス2の平均空孔径は0.01~1000μmであることが好ましい。ポリマーモノリスの平均空孔径が上記範囲であれば、保液性が良好で、内部に潤滑油をより効果的に保持しやすく、優れたなじみ性が得られやすい。ポリマーモノリス2の平均空孔径は、潤滑油を含んだ状態で適度な硬度が得られやすいという理由から10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが更に好ましく、2μm以下であることが特に好ましい。また、ポリマーモノリス2の平均空孔径は、作製のしやすさという理由から0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更に好ましい。
【0038】
なお、本明細書において、ポリマーモノリス2の空孔率および平均空孔径は水銀圧入法で測定した値である。
【0039】
ポリマーモノリス2は、後述する方法により形成することができる。ポリマーモノリスのポリマー骨格は、重合性化合物と架橋剤との重合物であることが好ましく、作製の簡便さから、2官能以上のエポキシ化合物と2官能以上のアミン化合物の重合物であることがより好ましい。ポリマー骨格を構成する重合性化合物および架橋剤については後述する。
【0040】
ポリマーモノリス2は、シリカ粒子を含んでいてもよい。シリカ粒子を含む組成物を用いてポリマーモノリスを形成することで、塗布時の液だれなどを抑制することができる。シリカ粒子については後述する。
【0041】
ポリマーモノリス2は、セルロースナノファイバーを更に含んでいてもよい。これによれば、ポリマーモノリスの機械強度を高めるという効果が期待できる。また、ポリマーモノリス2は、無機フィラー;グラファイトやフッ素粒子などの自己潤滑性固体・ナノ材料を更に含んでいてもよい。
【0042】
本発明の摺動部材は、図1に示すように、基材1の摺動側の表面の凹凸が覆われるようにポリマーモノリス2が形成されて基材1の摺動側の表面がポリマーモノリス2で被覆されていてもよいが、図5に示すように、基材1の摺動側の表面の凹部の少なくとも一部にポリマーモノリス2を有し、かつ、基材1の摺動側の表面の少なくとも一部がポリマーモノリス2から露出していてもよい。基材1の摺動側の表面の少なくとも一部をポリマーモノリス2から露出させることで、より短時間で良好ななじみ面が得られやすく、より優れたなじみ性が得られやすい。基材の摺動側の表面の少なくとも一部をポリマーモノリスから露出させる場合において、基材の摺動側の表面のポリマーモノリスによる被覆率は、1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましく、30%以上であることがより一層好ましく、50%以上であることが更に一層好ましい。被覆率が上記範囲であれば、より顕著な効果が得られやすい。
【0043】
なお、図5の構成の摺動部材10では、基材1の摺動側の表面の各凹部にポリマーモノリス2が埋め込まれた構造をなしているが、一部の凹部にはポリマーモノリス2が形成されておらず、基材1の表面が露出していてもよい。また、図5の構成の摺動部材10では、基材1の摺動側の表面の各凸部がポリマーモノリス2から露出しているが、凸部の一部はポリマーモノリス2で覆われていてもよい。
【0044】
本発明の摺動部材は、ポリマーモノリス2の表面に更に保護膜が形成されていてもよい。保護膜の膜厚は0.001~1μmであることが好ましく、0.001~0.5μmであることがより好ましく、0.001~0.1μmであることが更に好ましく、0.001~0.05μmであることが特に好ましい。保護膜の材質としては、アルミニウム、チタン、窒化チタン、窒化チタンアルミニウム、窒化ジルコニウム、クロム、カーボン、炭化窒素などが挙げられる。保護膜の形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。保護膜は、上述した材質の蒸着膜またはスパッタリング膜であることが好ましい。
【0045】
本発明の摺動部材は、様々な機械用途に用いることができる。なかでも、相手部材との摺動面に強い荷重が印加された状態で相手部材と摺動させる用途に好ましく用いることができる。このような用途としては、すべり軸受などが挙げられる。より具体的には、車両などの車輪用のすべり軸受が挙げられる。
【0046】
<摺動部材の製造方法>
次に、本発明の摺動部材の製造方法について説明する。本発明の摺動部材の製造方法は、相手部材との摺動側の表面の表面粗さRaが0.5~1000μmである基材の前記摺動側の表面に、重合性化合物と架橋剤と孔形成剤とを含むポリマーモノリス形成用組成物を塗布して塗布膜を形成し、前記塗布膜を硬化し、硬化により形成された硬化膜から前記孔形成剤を除去してポリマーモノリスを形成することを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0047】
まず、相手部材との摺動側の表面の表面粗さRaが0.5~1000μmである基材の前記摺動側の表面に、ポリマーモノリス形成用組成物を塗布して塗布膜を形成する。基材については、摺動部材の項で説明した範囲と同義であり、好ましい範囲も同様である。基材には、ポリマーモノリス形成用組成物との親和性を向上させるために、シランカップリング剤などの公知のカップリング剤による処理や、プラズマ処理などが施されていてもよい。
【0048】
ポリマーモノリス形成用組成物の塗布方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、浸漬塗布、スプレー塗布、スピン塗布、バーコーター塗布、アプリケーター塗布、ロールコーター塗布、カーテンコーター塗布、スクリーン印刷等が挙げられ、凹凸面や曲面への塗布が容易に行えるという理由から浸漬塗布が好ましい。ポリマーモノリス形成用組成物の詳細については後述する。
【0049】
次に、基材に形成したポリマーモノリス形成用組成物の塗布膜を硬化させる。すなわち、重合性化合物と架橋剤とを反応させて重合性化合物を重合し、塗布膜を硬化させる処理(硬化処理)を行う。重合性化合物の重合に伴い、ポリマー成分が増大し、スピノーダル分解が起こり、共連続構造を発現させることができる。
【0050】
上記塗布膜の硬化処理方法としては特に限定されず、重合性化合物や架橋剤の種類に応じて、適宜選択すれることができる。例えば、加熱による方法や、紫外線や電子線等の電磁波を照射する方法などが挙げられる。加熱により硬化処理を行う場合、加熱温度は、25~200℃であることが好ましく、30~180℃であることがより好ましく、40~160℃であることが更に好ましい。また、低い温度で硬化処理を行った場合は、最終的に形成されるポリマーモノリスの平均空孔径をより大きくすることができる。また、高い温度で硬化処理を行った場合は、最終的に形成されるポリマーモノリスの平均空孔径をより小さくすることができる。
【0051】
また、硬化処理を行った後、更にアニール処理を行うことも好ましい。アニール処理を行うことで、硬化反応を完了させるとともに基材との密着性を向上させるという効果が得られる。アニール処理を行う場合、温度は、100~200℃であることが好ましく、120~180℃であることがより好ましく、150~180℃であることが更に好ましい。
【0052】
次に、形成された硬化膜から孔形成剤を除去する。具体的には、硬化膜中に含まれる孔形成剤を抽出する処理を行う。孔形成剤として、後述する成分を用いた場合には、これらは水溶性であるため、孔形成剤を、水、アルコール、アセトン等の孔形成剤よりも揮発性の高い溶媒中に入れることにより、孔形成剤を硬化膜から抽出できる。この後、置換された溶媒を揮発除去することにより、連続空孔とポリマー骨格の3次元共連続構造を有するポリマーモノリスが得られる。
【0053】
また、孔形成剤を抽出する方法としては、前述の溶媒による抽出とそれに続く熱乾燥法ではなく、孔形成剤を直接加熱除去することも可能である。またこの場合、沸点が高い孔形成剤については減圧下に加熱することでより低温で孔形成剤を揮発除去することもできる。
【0054】
また、本発明の摺動部材の製造方法においては、基材の摺動側の表面の全面にポリマーモノリスを形成してもよく、基材の摺動側の表面の凹部の少なくとも一部にポリマーモノリスを形成するとともに、基材の摺動側の表面の少なくとも一部をポリマーモノリスから露出させてもよい。例えば、基材の摺動側の表面の全面にポリマーモノリスを形成した後、研磨などの処理を行うことで、基材の摺動側の表面の凹部の少なくとも一部にポリマーモノリスが形成され、かつ、基材の摺動側の表面の少なくとも一部がポリマーモノリスから露出した構造の摺動部材を製造することができる。
【0055】
このようにして、本発明の摺動部材を形成することができる。
【0056】
次に、本発明の摺動部材の製造方法で用いるポリマーモノリス形成用組成物について説明する。このポリマーモノリス形成用組成物は、重合性化合物と架橋剤と孔形成剤とを含む。
【0057】
重合性化合物としては、特に限定されず、架橋剤との重合によりポリマー骨格を形成可能な化合物であればよい。例えば、エポキシ化合物、(メタ)アクリレート化合物、スチレン化合物などが挙げられる。なかでも、柔軟性に優れ、微細な多孔質構造のポリマーモノリスを形成しやすいという理由からエポキシ化合物が好ましい。
【0058】
エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンべ-スなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、2,2,2,-トリ-(2,3-エポキシプロピル)-イソシアネートなどのトリグリシジルイソシアヌレート、トリアジン環含有エポキシ樹脂等、複素芳香環を含むエポキシ樹脂、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンなどの芳香環由来の炭素原子を含む芳香族系エポキシ化合物や、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどの芳香環由来の炭素原子を含まない脂肪族系エポキシ化合物などが挙げられる。なかでも2官能以上のエポキシ化合物である、分子内にグリシジル基を2つ以上有する化合物が好ましい。好ましい具体例としては、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0059】
架橋剤としては、アミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、ヒドラジド化合物などが挙げられる。
【0060】
アミン化合物としては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなどの芳香族アミン化合物;トリアジン環などの複素芳香環を有する芳香族アミン化合物;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタンおよびこれらの変性品などの脂環族アミン化合物;1,6-ヘキサメチレンビス(N,N-ジメチルセミカルバジド)などの脂肪族ポリアミンヒドラジド化合物;ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミン類やポリアミノアミド類などが挙げられる。
【0061】
酸無水物としては、無水フタル酸、無水トリメット酸、無水ピロメット酸などの芳香族酸無水物が挙げられる。
【0062】
フェノール化合物としては、ノボラック型フェノール樹脂などが挙げられる。
【0063】
ヒドラジド化合物としては、イソフタル酸ジヒドラジドなどの芳香族ヒドラジド化合物;アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジドなどの脂肪族ヒドラジド化合物が挙げられる。
【0064】
架橋剤は重合性化合物の種類に応じて適宜選択することが好ましい。重合性化合物として、エポキシ化合物を用いた場合は、架橋剤はアミン化合物であることが好ましく、2官能以上のアミン化合物である分子内にアミノ基を2つ以上有する化合物ことがより好ましい。また、2官能以上のアミン化合物は脂環族アミン化合物であることが好ましい。好ましい具体例としては、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタンなどが挙げられる。
【0065】
特に、重合性化合物が2官能以上のエポキシ化合物(好ましくは2官能以上の脂肪族系エポキシ化合物)であり、架橋剤が2官能以上のアミン化合物(好ましくは2官能以上の脂環族アミン化合物)である組み合わせが好ましい。このような組み合わせとすることにより、なじみ性に優れた摺動部材を製造しやすい。
【0066】
ポリマーモノリス形成用組成物中における重合性化合物と架橋剤の配合割合は、架橋密度などを考慮して決定すればよい。例えば、重合性化合物が2官能以上のエポキシ化合物であり、架橋剤が2官能以上のアミン化合物である場合、重合性化合物のエポキシ基1当量に対して、架橋剤のアミン当量が0.6~1.5の範囲になるように調整することが好ましい。
【0067】
孔形成剤は、重合時はポリマー骨格を形成させる重合反応の系中に存在し、硬化後の膜中から除去することによって、連続空孔とポリマー骨格の3次元共連続構造を形成させるための成分である。孔形成剤としては、重合性化合物および架橋剤を溶解可能であり、かつ、重合性化合物と架橋剤とが重合した後、反応誘起相分離を生じさせることが可能な化合物であることが好ましい。
【0068】
孔形成剤の具体例としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類などが挙げられる。これらのなかでも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコールおよびジエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールの分子量は600未満であることが好ましいが、分子量600を超えるものを用いることもできる。
【0069】
また、孔形成剤は、摺動部材に使用する潤滑油と相溶性の良いものを用いることも好ましい。このような孔形成剤を用いた場合は、ポリマーモノリス中に孔形成剤が含まれた状態でも部品として使用することができ、孔形成剤の洗浄除去などの工程を簡略化または省略するもともでき、摺動部材の製造コストをより低減できる。
【0070】
ポリマーモノリス形成用組成物中における孔形成剤の配合量は、重合性化合物と架橋剤の合計100質量部に対して、50~700質量部であることが好ましく、200~500質量部であることがより好ましい。孔形成剤の配合量が上記範囲であれば、なじみ性に優れた摺動部材を製造しやすい。
【0071】
ポリマーモノリス形成用組成物は、更に界面活性剤を含んでいてもよい。ポリマーモノリス形成用組成物に界面活性剤を含有させることで、重合後の相分離サイズを制御しやすい。界面活性剤としては、特に制限されず、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、親水性ブロックと疎水性ブロックからなるブロックコポリマー、例えばポリアクリル酸ブロックとポリアクリルエステルブロックからなるブロックコポリマー、ポリオキシエチレンブロックとポリアクリルエステルブロックからなるブロックコポリマー、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックからなるブロックコポリマー等が挙げられる。また、界面活性剤の分子量についても、特に限定されず、低分子化合物でも高分子化合物でも使用することができる。
【0072】
アニオン界面活性剤としては、脂肪酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、脂肪アルコールのリン酸エステル塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ホルマリン縮合ナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、アルキル1級アミン塩、アルキル2級アミン塩、アルキル3級アミン塩、アルキル4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類等が挙げられる。高分子界面活性剤としては、部分ケン化ポリビニルアルコール、澱粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、部分ケン化ポリメタクリル酸塩等が例示される。
【0073】
ポリマーモノリス形成用組成物中における界面活性剤の配合量は、重合性化合物と架橋剤の合計100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましい。界面活性剤の配合量が上記範囲であれば、なじみ性に優れた摺動部材を製造しやすい。
【0074】
ポリマーモノリス形成用組成物は、更にシリカ粒子を含んでいてもよい。ポリマーモノリス形成用組成物にシリカ粒子を含有させることで、ポリマーモノリス形成用組成物の粘度を適度に増粘することができ、塗布時の液だれなどを抑制できる。
【0075】
シリカ粒子の平均粒子径は、0.001~100μmであることが好ましく、0.01~10μmであることがより好ましく、0.01~0.1μmであることが更に好ましい。シリカ粒子の平均粒子径が上記範囲であれば、ポリマーモノリス形成用組成物の粘度を適度の増粘させることができ、塗布時の液だれなどを抑制しやすい。
【0076】
シリカ粒子の市販品としては、例えば、「アエロジル」(日本アエロジル株式会社)、「レオロシール」(株式会社トクヤマ)等が挙げられる。
【0077】
シリカ粒子の配合量は、重合性化合物と架橋剤と孔形成剤の合計100質量部に対して、0.001~20質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましい。シリカ粒子の配合量が上記範囲であれば、ポリマーモノリス形成用組成物の粘度を適度の増粘させることができ、塗布時の液だれなどを抑制しやすい。
【0078】
ポリマーモノリス形成用組成物は、沸点が100℃以下の低沸点溶剤を配合してもよい。低沸点溶剤の沸点は、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましい。低沸点溶剤の沸点が上記範囲であれば、塗布膜から溶剤が速やかに除去されやすく、塗布時の液だれなどを抑制しやすい。好ましい低沸点溶剤としては、アセトン、テトラヒドロフラン、エタノールなどが挙げられ、アセトンが特に好ましい。
【0079】
ポリマーモノリス形成用組成物に低沸点溶剤を配合する場合、低沸点溶剤の配合量は、重合性化合物と架橋剤と孔形成剤の合計100質量部に対して、1~1000質量部であることが好ましく、1~100質量部であることがより好ましい。低沸点溶剤の配合量が上記範囲であれば、塗布時の液だれなどを抑制しやすい。
【0080】
ポリマーモノリス形成用組成物には、その機械的特性を向上させるという目的でセルロースナノファイバーを配合してもよい。セルロースナノファイバーの原料として用いることができるセルロースの種類も特に限定されず、例えば木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースや、さらにレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースを用いることができる。セルロースナノファイバーの製造方法も特に限定されないが、例えばグラインダーによる機械処理の他、TEMPO等のN-オキシル化合物を用いた酸化処理、希酸加水分解処理、酵素処理等を機械処理と併用してセルロースナノファイバーを得る方法が知られている。また、バクテリアセルロースもセルロースナノファイバーとして用いることができる。さらに、各種天然セルロースを各種セルロース溶剤に溶解させたのち、電界紡糸することによって得られる再生セルロースナノファイバーを用いてもよい。
【0081】
ポリマーモノリス形成用組成物にセルロースナノファイバーを配合する場合、セルロースナノファイバーの配合量は、重合性化合物と架橋剤と孔形成剤の合計100質量部に対して、0.01~1000質量部であることが好ましく、1~100質量部であることがより好ましい。セルロースナノファイバーの配合量が上記範囲であれば、ポリマーモノリスの機械的特性を向上する。
【0082】
ポリマーモノリス形成用組成物は、種々の特性を向上させるなどの目的で、レベリング剤、消泡剤、着色剤、無機フィラー、グラファイトやフッ素粒子などの自己潤滑性固体・ナノ材料等の各種添加剤を添加することができる。なお、モノリス構造を生じるためのスピノーダル分解を阻害しないものを選択するように留意するべきである。
【0083】
ポリマーモノリス形成用組成物の25℃における粘度は、10mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましい。粘度が上記は範囲であれば、塗布時の液だれを抑制しやすい。
【0084】
<摺動システム>
次に本発明の摺動システムについて説明する。本発明の摺動システムは、上述した本発明の摺動部材からなるすべり軸受と、すべり軸受けの内周面側に設けられた回転軸と、すべり軸と回転軸との間に介在する潤滑油と、を備える。
【0085】
図6は、摺動システムの一実施形態を示す図であり、図7は、図6のすべり軸受のA-A線断面図である。符号50は軸受システムである。
【0086】
図6の符号11は、上述した本発明の摺動部材からなるすべり軸受である。すなわち、相手部材との摺動側の表面の表面粗さRaが0.5~1000μmである基材1の摺動側の表面に、連続空孔とポリマー骨格の3次元共連続構造を有するポリマーモノリス2が形成されている。
【0087】
すべり軸受11の内周面側には、回転軸31が設けられている。矢印方向が回転軸31の回転方向を示している。回転軸31のすべり軸受11側の表面には、上述したポリマーモノリスが形成されていてもよい。これにより、すべり軸受11の回転軸側表面に露出した金属の表面に迅速にポリマーモノリスを供給することができるため、特に摺動開始直後に優れたなじみ性を速やかに実現し得る。
【0088】
すべり軸と回転軸との間には、潤滑油21が介在している。潤滑油の種類としては特に限定はなく、公知の潤滑油を用いることができる。例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油;ポリブテン、ポリ(α-オレフィン)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどの炭化水素系油;天然油脂;ポリオールエステル油;リン酸エステル油;ジエステル油;ポリグリコール油;シリコーン油;ポリフェニルエーテル油;アルキルジフェニルエーテル油;フッ素化油;イオン液体などが挙げられる。これらの潤滑油は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、潤滑油には、必要に応じて公知の添加剤を添加できる。添加剤としては、例えば、カーボンブラックなどの導電性付与剤、有機亜鉛化合物、有機モリブデン化合物などの極圧剤、アミン系、フェノール系、イオウ系化合物などの酸化防止剤、イオウ系、リン系化合物などの摩耗抑制剤、多価アルコールエステルなどの防錆剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数調整剤、二硫化モリブデン、グラファイトなどの固体潤滑剤、エステル、アルコールなどの油性剤などが挙げられる。
【0089】
本発明の摺動システムは、車両等の車輪駆動系ユニット、電動モーターの軸駆動系等が挙げられる。
【実施例
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0091】
<ポリマーモノリス形成用組成物の調製>
重合性化合物として、エポキシ当量が95~110(平均102)である下記式(1)で表されるエポキシ化合物(商品名「テトラッドーC」、三菱ガス化学工業株式会社)10質量部、架橋剤として、アミン価が520~550である下記式(2)で表されるビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン(東京化成工業株式会社製)5.75質量部、孔形成剤として、平均分子量が200である下記式(3)で表されるポリエチレングリコール200(キシダ化学株式会社製)40質量部、シリカ粒子としてアエロジル130(日本アエロジル株式会社製)を2.5質量部を用い、これらを、自転・公転ミキサーの「あわとり練太郎」で混合することで、ポリマーモノリス形成用組成物を得た。
【化1】
【0092】
<摺動部材の製造>
(実施例1)
深さ12μmの波形状の条痕が300μmピッチで形成された、表面粗さRa2.776μm、厚さ330μmのアルミ合金の表面に、ポリマーモノリス形成用組成物を浸漬塗布した後、110℃で60分間加熱して硬化処理を行い、次いで、180℃で30分間アニール処理を行い硬化膜を形成した。次いで、メタノール浸漬による洗浄、水に浸漬しながら研磨紙による表面除去、水洗浄の方法で硬化膜から孔形成剤を除去して連続空孔とポリマー骨格の3次元共連続構造を有するポリマーモノリスを形成して実施例1の摺動部材を製造した。得られたポリマーモノリスの最大膜厚は12μmであり、空孔率が72%であり、平均空孔径が1μmであった。
【0093】
(比較例1)
深さ12μmの波形状の条痕が300μmピッチで形成されたアルミ合金(表面粗さRa2.776μm、厚さ330μm)を比較例1の摺動部材として用いた。
【0094】
(比較例2)
表面粗さRa0.082μm、厚さ330μmのアルミ合金の表面に、ポリマーモノリス形成用組成物を浸漬塗布した後、110℃で60分間加熱して硬化処理を行い、次いで、180℃で30分間アニール処理を行い硬化膜を形成した。次いで、メタノール洗浄の方法で硬化膜から孔形成剤を除去して連続空孔とポリマー骨格の3次元共連続構造を有するポリマーモノリスを形成して比較例2の摺動部材を製造した。得られたポリマーモノリスの最大膜厚は10μmであり、空孔率が72%であり、平均空孔径が1μmであった。
【0095】
[試験例1]
図8に示す試験装置を用いて、実施例1、比較例1および比較例2の摺動部材の摺動試験を行った。図8において、符号101はアコースティックエミッションセンサーであり、符号102はサーモカップラであり、符号103は軸受試験片であり、符号104はリング試験片であり、符号201はトルクメータであり、符号202はオイルバスであり、符号203はシャフトであり、符号204はスイングパーツであり、符号205はパーティクルカウンターである。軸受試験片103として実施例1、比較例1、比較例2の摺動部材をそれぞれ用いた。
【0096】
オイル注入口(Oil inlet)の矢印の方向から58~62℃の潤滑油(基油として鉱油、添加剤として粘度指数向上剤を含む潤滑油、60℃での動粘度10.37mm/s)を5mL/sの流量で供給し、2.0m/sのすべり速度で回転するリング試験片104に対して、上部から軸受試験片103を100Nの荷重(Load)をかけて摺動した。すべり距離が2000mに達したら荷重(Load)を500Nまで増加させて摺動した。次いで、すべり距離が2500mに達したら荷重(Load)を1000Nまで増加させて摺動した。次いで、すべり距離が3000mに達したら荷重(Load)を1500Nまで増加させて摺動した。次いで、すべり距離が3500mに達したら荷重(Load)を2000Nまで増加させて摺動した。そして、すべり距離が4000mに達したら荷重(Load)を2000Nの状態を維持しつつ、潤滑油の供給を停止し、すべり距離が5000mに達するまで摺動させた。
【0097】
【表1】
【0098】
軸受試験片の摩擦係数および温度の変化を示す図を図9~11に示す。図9は実施例1の摺動部材を用いた軸受試験片の試験結果であり、図10は比較例1の摺動部材を用いた軸受試験片の試験結果であり、図11は比較例2の摺動部材を用いた軸受試験片の試験結果である。図9~11において、(1)のチャートは摩擦係数のチャートであり、(2)のチャートは軸受試験片の温度のチャートである。また、図12に実施例1、比較例1、比較例2の軸受試験片のストライベック曲線を示す。また、図13図15に摺動試験後の軸受試験片の摺動面を示す。図13は実施例1の摺動部材を用いた軸受試験片の摺動面であり、図14は比較例1の摺動部材を用いた軸受試験片の摺動面であり、図15は比較例2の摺動部材を用いた軸受試験片の摺動面である。
【0099】
図9~12の試験結果より、実施例1は、すべり距離0~2000mの一定荷重下(荷重100N)では、摩擦係数は徐々に低下し、軸受試験片の温度は50℃付近で安定していた。すべり距離2000~4000mでは、荷重を段階的に増加させたて摺動したが、摩擦係数や温度の急激な変動はなく、比較例1、2よりも安定した挙動を示していた。すべり距離4000~5000mでは、潤滑油の供給を停止して摺動したが、摩擦係数や温度の急激な変動はなかった。また、図13に示すように、良好ななじみ面が形成されていた。走査型電子顕微鏡を用いて摺動面を観察したところ、実施例1の摺動部材は、試験後もアルミ合金の表面の凹部にポリマーモノリスが残存している個所があった。
【0100】
これに対し、比較例1は、すべり距離0~2000mの一定荷重下(荷重100N)では、実施例1よりも摩擦係数が大きかった。また、摩耗粉の発生量が多かった。摩耗粉はパーティクルカウンター205で測定した。すべり距離2000~4000mでは、荷重を段階的に増加させたて摺動したが、摩擦係数や温度の急激な変動が見られた。また、摩耗粉の発生量が多かった。また、比較例1の摺動部材は、アルミ合金の表面の凸部が摩耗して平滑な面が形成されていたが、摩耗粉が埋設している部位があった。
【0101】
また、比較例2は、すべり距離0~2000mの一定荷重下(荷重100N)では、摩擦係数および温度は安定していた。しかしながら、すべり距離2000~4000mでは、荷重を段階的に増加させたて摺動したが、摩擦係数の急激な変動が見られた。また、温度は、すべり距離の増加とともに連続的に増加していた。また、すべり距離4000~5000mでは、潤滑油の供給を停止して摺動したが、温度が上昇して、すべり距離4500mの時点で焼付きが発生した。また、図15に示すように、比較例2の摺動部材は、ポリマーモノリスが剥離している箇所があった。更には、焼付きが発生して変形している箇所が見られた。
【0102】
実施例1について、更に摺動を継続して行ったところ、表面にポリマーモノリスが確認できなくなった後も、温度の急激な上昇や、焼付けの発生や、摩擦係数の急激な上昇は見られなかった。
【0103】
[試験例2]
図8に示す試験装置を用いて、実施例1および比較例1の摺動部材のすべり速度変化試験を行った。図8の符号の説明は上述の通りである。軸受試験片103として実施例1および比較例1の摺動部材をそれぞれ用いた。
【0104】
オイル注入口(Oil inlet)の矢印の方向から58~62℃の潤滑油(基油として鉱油、添加剤として粘度指数向上剤を含む潤滑油、60℃での動粘度10.37mm/s)を5mL/sの流量で供給し、6.0m/sのすべり速度で回転するリング試験片104に対して、上部から軸受試験片103を100Nの荷重(Load)をかけて摺動した。すべり距離が2000mに達したら荷重(Load)を500Nまで増加させて摺動した。次いで、下記表に示すように、すべり距離が2500mに達したら荷重(Load)を500Nの状態を維持しつつ、リング試験片104のすべり速度を5.5m/sに減速した。その後、すべり距離500m毎にリング試験片104のすべり速度を0.5m/sずつ減速した。すべり距離が8000mに達した時点で試験を終了した。
【0105】
【表2】
【0106】
軸受試験片の摩擦係数および温度の変化を示す図を図16に示す。図16において、(1-1)のチャートは実施例1の摩擦係数のチャートであり、(1-2)のチャートは実施例1の軸受試験片の温度のチャートであり、(2-1)のチャートは比較例1の摩擦係数のチャートであり、(2-2)のチャートは比較例1の軸受試験片の温度のチャートである。また、図17に実施例1および比較例1の軸受試験片のストライベック曲線を示す。
【0107】
図16の試験結果より、比較例1は、荷重を500Nに増加させた時点(すべり距離2000mの時点)において、摩擦係数および温度が急激に増加した。また、すべり速度を減速させた際に摩擦係数が急激に上昇した(特に、すべり距離が5500m、7000m、7500mの時点)。また、図17より、摩擦係数と軸受特性数に相関性が見られなかった。
【0108】
一方、実施例1は、荷重を500Nに増加させた時点(すべり距離2000mの時点)において、摩擦係数の急激な増加は見られなかった。また、比較例1よりも温度上昇が抑制されていた。また、すべり速度を減速させても摩擦係数の変動がほとんどなく、安定した挙動を示していた。また、図17より、摩擦係数と軸受特性数に相関性が見られ、軸受特性数が5.33×10-9の時、摩擦係数が最小値を示した。
【0109】
<摺動部材の製造>
(実施例11)
ポリアミド樹脂(MC900NC)で構成された直径30mm、厚さ2mmの円盤状の基材の表面に、レーザー加工機(オーレーザー株式会社製、PRT-HAJIMECL1)を用いて深さ50μmの波形状の条痕が300μmピッチで形成して、表面粗さRaを22μmに調整した。次に、この基材の表面に、ポリマーモノリス形成用組成物を浸漬塗布した後、110℃で60分間加熱して硬化処理を行い、次いで、180℃で30分間アニール処理を行い硬化膜を形成した。次いで、メタノール浸漬による洗浄、水に浸漬しながら研磨紙での表面除去、水洗浄の方法で硬化膜から孔形成剤を除去して連続空孔とポリマー骨格の3次元共連続構造を有するポリマーモノリスを形成して実施例11の摺動部材を製造した。得られたポリマーモノリスの最大膜厚は50μmであり、空孔率が72%であり、平均空孔径が1μmであった。
【0110】
(実施例12)
実施例11の方法で得られた摺動部材の表面に、真空蒸着機(大阪真空(株)製)を用いて厚さ15nmのアルミニウム蒸着膜を形成し、実施例12の摺動部材を製造した。アルミニウム蒸着後の表面粗さRaは22μmであった。ポリマーモノリスの最大膜厚は50μmであり、空孔率が72%であり、平均空孔径が1μmであった。
【0111】
(比較例11)
ポリアミド樹脂(MC900NC)で構成された直径30mm、厚さ2mmの円盤状の基材の表面に、レーザー加工機(オーレーザー株式会社製、PRT-HAJIMECL1)を用いて深さ50μmの波形状の条痕が300μmピッチで形成して、表面粗さRaを22μmに調整した。この基材を比較例11の摺動部材とした。
【0112】
[試験例3]
ボールオンディスクタイプの回転式摩擦計(UMT、Bruker Co.、ボールの材質:曲率半径7.79mmのガラスレンズ)を用いて摩擦力および摩擦係数を測定した。具体的には、潤滑油(ポリ(α―オレフィン)、25℃における粘度110cP)を真空含浸させた摺動部材の表面に、回転式摩擦計のボールを10Nの荷重(Load)で押し当てた状態で、摺動部材を時計回りの方向で回転速度を500rpm~1rpmまで段階的に変化させて回転させた(すべり速度=5.2×10-4~0.26m/sに相当)のち、反時計回りの方向で、で回転速度を500~1rpmまで段階的に変化させて回転させた。摩擦力および摩擦係数は、時計回りおよび反時計回りの回転における検出値の平均によって決定した。摩擦力および摩擦係数の測定温度は25℃とした。摺動部材として、実施例11、実施例12および比較例11の摺動部材を用いた。
【0113】
図18に、実施例11、実施例12および比較例11のストライベック曲線を示す。図18に示すように、比較例11の摩擦係数は、ストライベック特性数(横軸、粘度×すべり速度/荷重)に拠らずほぼ一定であることから、高速度であっても境界潤滑、すなわち二面間が接触していると判断される。このため、初期摩擦試験においては大きな影響は見られなかったが、長期摩擦試験では摩耗の進行が懸念される。これに対し、実施例11、実施例12は、摩擦係数のストライベック特性数依存性があることから混合潤滑と判断され、二面間の接触が抑制されていると考えられる。このため、長期摩擦試験での、摩耗の進行を抑制できると考えられる。
【符号の説明】
【0114】
1:基材
2:ポリマーモノリス
10:摺動部材
11:軸受
21:潤滑油
31:回転軸
50:軸受システム
101:アコースティックエミッションセンサー
102:サーモカップラ
103:軸受試験片
104:リング試験片
201:トルクメータ
202:オイルバス
203:シャフト
204:スイングパーツ
205:パーティクルカウンター
図1
図2
図3
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図5
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