(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】プロテオグリカン含有量の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20240726BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20240726BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20240726BHJP
G01N 30/00 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G01N30/88 N
G01N30/26 A
G01N30/02 B
G01N30/00 B
(21)【出願番号】P 2021083758
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2020091046
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達治
(72)【発明者】
【氏名】辻 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】ワイズ 里沙
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-204473(JP,A)
【文献】特開2018-151207(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0151584(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110627863(CN,A)
【文献】特開2019-162056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00~30/96
B01J 20/281~20/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物に含まれるプロテオグリカン含有量の測定方法であって、
前記組成物を、プロテオグリカンの官能基の解離に適した緩衝液に溶解し、測定試料を調製する工程と、
前記緩衝液を含む平衡化緩衝液でイオン交換樹脂を平衡化する工程と、
前記測定試料を前記イオン交換樹脂に負荷して前記プロテオグリカンを吸着させる工程と、
前記プロテオグリカンが吸着したイオン交換樹脂を、前記緩衝液を含む洗浄緩衝液で洗浄する工程と、
前記イオン交換樹脂から溶出緩衝液でプロテオグリカンを溶出する工程と、
前記溶出されたプロテオグリカンを定量する工程と、
を含む、
前記緩衝液が、pHが中性領域の緩衝液であって、ナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンを含む緩衝液である、
測定方法。
【請求項2】
前記緩衝液が、アミノスルホン酸誘導体を含む、請求項
1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記緩衝液がpH6.6~7.5を示す、請求項1
又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記緩衝液が、NaOHで
pHを中性領域にしたPIPES緩衝剤
又はKOHでpHを中性領域にしたPIPES緩衝剤を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項5】
前記イオン交換樹脂が、弱塩基性陰イオン交換樹脂である請求項1~
4のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記組成物が、コラーゲン又はゼラチンを含む請求項1~
5のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項7】
前記プロテオグリカンを定量する工程がHPLC法により行う請求項1~
6のいずれか一項に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サプリメントなどの飲食品等の組成物に含有されているプロテオグリカンを簡便に測定する方法(例えば、コラーゲンやゼラチンなどの高分子タンパク質と共に組成物に含まれるプロテオグリカン含有量の測定方法)、などに関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは、コラーゲンやヒアルロン酸と共に細胞外マトリックス中の基質を形成する主要な生体高分子である。ヒトや牛などの哺乳動物、鮭や鮫など魚類の軟骨に含まれていることが知られており、プロテオグリカンを含むサプリメントなどの食品、プロテオグリカンの製造方法等が数多く報告されている。また、プロテオグリカン自体の有用性も数多く報告されており、プロテオグリカンは軟骨分化促進作用やひざ関節改善作用、皮膚色素沈着抑制作用など報告されている(特許文献1参照)。
【0003】
上述のように、プロテオグリカンは複合体であり、サプリメントなどの飲食品等の組成物に含有されているプロテオグリカンの含有量を正確に測定することは難しい。そのため、組成物に含まれているプロテオグリカンの含有量について、未だその測定技術が確立されていないのが現実である。例えば、カルバゾール硫酸法は、プロテオグリカン糖鎖の主成分のひとつであるウロン酸の呈色反応を利用した定量法であり、サンプル水溶液にカルバゾール溶液と濃硫酸を添加すると、サンプル水溶液にウロン酸が含まれていれば赤紫色に呈色する。呈色度合はウロン酸含量に比例するが、カルバソール硫酸法による分析では、組成物中に含まれるコンドロイチン硫酸とプロテオグリカンの分別定量が難しい、と考えられている。
【0004】
プロテオグリカンは巨大な分子であるため凝集しやすく、抽出溶媒や抽出方法の違いにより立体構造の変化を起こしてその物理的性質が変化すると考えられる。例えば、ブタ軟骨組織に存在するタンパク質-コンドロイチン硫酸複合体は、カルシウムイオンに対する選択的な親和性を有し、当該タンパク質部分の分解によりカルシウムイオンを放出することが示唆されている(非特許文献1参照)。また、プロテオグリカンに結合するカルシウムイオンをナトリウムイオンに置換すると、プロテオグリカンの保水性が向上することも報告されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Woodward C and Davidson EA. Structure-function relationships of protein polysaccharide complexes: specific ion-binding properties. Proc Natl Acad Sci USA. 1968;60(1):201-205.
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-138060号公報
【文献】特開2017-125164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明により解決しようとする課題は、サプリメントなどの飲食品等の組成物に含有されているプロテオグリカンを簡便に測定する方法を見出すことなど、である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討を行った結果、プロテオグリカンを含む測定試料を調製する際に、プロテオグリカンの構造を適切な状態に維持すること、例えば、適切なイオンや化合物を含み中性領域の緩衝液を用いて測定試料を調製することで、イオン交換樹脂への吸着及び脱着により、他の夾雑タンパク質と分離することができ、測定試料中のプロテオグリカンを定量しうることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
(1)組成物に含まれるプロテオグリカン含有量の測定方法であって、組成物を、プロテオグリカンの官能基の解離に適した緩衝液に溶解し、測定試料を調製する工程と、上記緩衝液を含む平衡化緩衝液でイオン交換樹脂を平衡化する工程と、測定試料をイオン交換樹脂に負荷してプロテオグリカンを吸着させる工程と、プロテオグリカンが吸着したイオン交換樹脂を、上記緩衝液を含む洗浄緩衝液で洗浄する工程と、イオン交換樹脂から溶出緩衝液でプロテオグリカンを溶出する工程と、溶出されたプロテオグリカンを定量する工程と、を含む測定方法。
(2)緩衝液が、ナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンを含む(1)に記載の測定方法。
(3)緩衝液が、アミノスルホン酸誘導体を含む(1)又は(2)に記載の測定方法。
(4)緩衝液がpH6.6~7.5を示す(1)~(3)のいずれかに記載の測定方法。
(5)緩衝液が、NaOHで中性化したPIPES緩衝剤を含む(1)~(4)のいずれかに記載の測定方法。
(6)イオン交換樹脂が、弱塩基性陰イオン交換樹脂である(1)~(5)のいずれかに記載の測定方法。
(7)組成物が、コラーゲン又はゼラチンを含む(1)~(6)のいずれかに記載の測定方法。
(8)プロテオグリカンを定量する工程がHPLC法により行う(1)~(7)のいずれかに記載の測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、サプリメントなどの飲食品等の組成物に含有されているプロテオグリカンを簡便に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態におけるプロテオグリカン含有量の測定方法の流れ示す工程図である。
【
図2】
図2は、
図1のイオン交換工程についてその詳細を示す工程図である。
【
図3】
図3は、実施例1の方法によりイオン交換処理したときの洗浄画分(
図3(A))及び脱着画分(
図3(B))のHPLC分析結果である。
【
図4】
図4は、比較例1の方法によりイオン交換処理したときの洗浄画分(
図4(A))及び脱着画分(
図4(B))のHPLC分析結果である。
【
図5】
図5は、比較例2の方法によりイオン交換処理したときの洗浄画分(
図5(A))及び脱着画分(
図5(B))のHPLC分析結果である。
【
図6】
図6は、実施例2の方法によりイオン交換処理したときの脱着画分のHPLC分析結果である。
【
図7】
図7は、実施例3の方法によりイオン交換処理したときの脱着画分のHPLC分析結果である。
【
図8】
図8は、実施例4の方法によりイオン交換処理したときの脱着画分のHPLC分析結果である。
【
図9】
図9は、実施例5の方法によりイオン交換処理したときの脱着画分のHPLC分析結果である。
【
図10】
図10は、実施例6で行ったHPLC分析結果である。
【
図11】
図11は、実施例7で行ったHPLC分析結果である。
【
図12】
図12は、実施例8で行ったHPLC分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、本明細書で用いる用語について簡単に説明する。
(組成物)
本発明の方法により測定対象となる組成物は、例えば、化粧品、及びサプリメントなどの飲食品、特に、ゼリーやゲル状の健康食品並びにそれらに含有される素材等が挙げられ、液体、固体又は半固体の形態を含む。また、この組成物に含まれるプロテオグリカンの含有量は、0μg/mg以上、好ましくは0.1μg/mg以上、より好ましくは1μg/mg以上である。組成物には、コラーゲン又はゼラチンを含んでもよく、このような組成物でも夾雑タンパク質の影響を受けずにプロテオグリカン含量を測定することができる点で、本発明の方法を用いることが好ましい。ゼラチンはコラーゲンの熱変性物質であり、通常の市販ゼラチンは、数万~数百万の分子量分布をもっている。
【0013】
(プロテオグリカン)
プロテオグリカンはコアタンパク質にコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸等のグリコサミノグリカン(以下GAGと表す。)と呼ばれる糖鎖が共有結合した糖タンパク質である。プロテオグリカンは、細胞外マトリックスの主要構成成分の一つとして皮膚や軟骨など体内に広く分布している。GAG鎖は分岐を持たない長い直鎖構造を持つ。多数の硫酸基とカルボキシル基を持つため負に荷電しており、GAG鎖はその電気的反発力のために延びた形状をとる。また、プロテオグリカンは、糖の持つ水親和性により、多量の水を保持することができる。プロテオグリカンに含まれる多数のGAG鎖群はスポンジのように水を保持することで、弾性や衝撃への耐性といった軟骨特有の機能を担っている。
【0014】
本発明の方法で測定しうるプロテオグリカンの種類としては、特に制限されるものではなく、サケ鼻軟骨などから抽出されるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、又はケラタン硫酸プロテオグリカンのいずれに分類されるものであってもよい。具体的には、アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシン、パールカン、シンデカン、グリピカン、ルミカン、ケラトカン等が例示される。これらの中でも、本発明の方法には、好ましくはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、更に好ましくはアグリカン含量の測定に適している。
【0015】
本発明の方法で測定される組成物において、組成物に含有されるプロテオグリカン含有量の下限は、0μg/mg以上、好ましくは0.1μg/mg、より好ましくは1μg/mgである。
【0016】
(タンパク質)
本発明の方法で測定される組成物において、組成物に含有されることがあるタンパク質は、例えば、乳タンパク質、植物由来のプロテイン(例えば、ソイプロテイン、エンドウ豆由来のプロテイン)、魚介類由来のプロテイン、がある。乳タンパク質は、例えば脱脂粉乳、全脂粉乳、トータルミルクプロテイン、ホエイプロテイン、カゼインプロテイン、カゼインナトリウム、乳清蛋白質、バターミルクパウダー、牛乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、ナチュラルチーズ、である。例えば、Wheyco社の販売するW80 Instantは、チーズホエイ由来のホエイタンパク質であり、主成分のβ-ラクトグロブリン(分子量36600の2量体)、α-ラクトアルブミン(分子量14200)に加え、BSAやラクトフェリンなどから構成されている。
【0017】
(緩衝液)
緩衝液は、その酸-塩基結合成分の作用によって、pHの変化に抵抗する溶液である。1つの実施形態において緩衝液は、(例えば、以下の実施例1~5のように)約6.0~約8.0の範囲のpHを有する。この範囲でpHを制御する緩衝液の例としては、MES、PIPES、MOPS、MOPSO、リン酸、酢酸、クエン酸、コハク酸及びアンモニウム緩衝液、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。本発明の方法に使用される緩衝液は、塩(例えば、NaCl、KCl、またはNaOAc)を同時に含んでもよい。
【0018】
「平衡化緩衝液」は、イオン交換樹脂を平衡化するために使用される緩衝液である。平衡化緩衝液はまた、測定対象のプロテオグリカン及び夾雑物を含む組成物をイオン交換樹脂に負荷するために使用される。平衡化緩衝液は、好ましくは、プロテオグリカンがイオン交換樹脂に結合するようなイオン強度及び/又はpHを有する。
【0019】
「洗浄緩衝液」は、測定試料の負荷後及び溶出前にイオン交換樹脂を通る緩衝液である。洗浄緩衝液は、1種類以上の夾雑物をイオン交換樹脂から溶出させるように働く。洗浄緩衝液のイオン強度及び/又はpHは、夾雑物はイオン交換樹脂から溶出されるが、プロテオグリカンは溶出されないような、イオン強度及び/又はpHである。洗浄緩衝液は、場合により所定の塩(例えば0.4M未満)を含むこともある。
【0020】
「溶出緩衝液」とはプロテオグリカンを固相から溶出するために使用される。溶出緩衝液のイオン強度及び/又はpHは、プロテオグリカンがイオン交換樹脂から溶出されるようなイオン強度及び/又はpHである。溶出緩衝液は、場合により所定の塩(例えば0.4M以上)を含むこともある。
【0021】
(イオン交換樹脂)
用語、イオン交換樹脂とは、負に荷電した固相(すなわち、陽イオン交換樹脂)、又は正に荷電した固相(すなわち、陰イオン交換樹脂)をいう。この荷電は、1つ以上の荷電したイオン基を(例えば、共有結合によって)固相に結合させることによって提供される。あるいは、この電荷は、全体として正電荷を有するキチンやキトサンのように固相の内在的性質であり得る。
【0022】
固相とは、1つ以上の荷電したイオン基が接着し得る非水性マトリックスを意味する。この固相は、精製カラム、個々の粒子の非連続的な相、膜、またはフィルターなどであり得る。固相を形成するための材料の例としては、多糖類(例えば、アガロースおよびセルロース)、及び他の機械的に安定なマトリックス(例えば、シリカ(例えば、制御された孔を有するガラス)、ポリ(スチレンジビニル)ベンゼン、ポリアクリルアミド、セラミック粒子、および上記のいずれかの誘導体)が挙げられる。
【0023】
陰イオン交換樹脂は、正に荷電した(例えば、固相に結合された4級アミノ基のような、1つ以上の正に荷電したイオン基を有する)固相を指す。市販の陰イオン交換樹脂としては、DEAEセルロース、QAE SEPHADEXTM、及びFAST Q SEPHAROSETM(Pharmacia)が挙げられる。陰イオン交換樹脂は、そのイオン基の解離性により強塩基性又は弱塩基性に分けられる。
【0024】
弱塩基性陰イオン交換樹脂とは、例えば、1~3級アミノ基を官能基として持つ樹脂のように、弱塩基性を示す陰イオン交換樹脂を意味する。弱塩基の官能基はアルカリ溶液中では解離せずイオン交換能を示さないため中性領域で使用することが好ましい。また、プロテオグリカン中のスルホ基のような比較的強い酸性基とは交換するが、夾雑タンパク質中のカルボキシ基のような弱酸性基とは交換しにくいと考えられる。
【0025】
以下に本発明を、図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態におけるプロテオグリカン含有量の測定方法の流れを示す工程図である。
図1に示すように、本実施形態の測定方法は、測定対象となる組成物を緩衝液に加温溶解して測定試料を調製する測定試料の調製工程(S1)と、イオン交換樹脂にプロテオグリカンを吸着及び脱着させるイオン交換工程(S2)と、イオン交換樹脂から溶出されたプロテオグリカンを含む溶出物を脱塩するよう溶出物の脱塩工程(S3)と、HPLC分析により脱塩後のプロテオグリカンを定量する定量工程(S4)と、を含む。
【0026】
ここで、測定試料の調製工程S1は、本発明の方法における最も重要な工程である。上述したように、プロテオグリカンは極めて高分子量の糖タンパク質であるため溶液中での凝集を防ぐ必要がある。このため、測定対象の組成物を、プロテオグリカンの官能基の解離に適した緩衝液に溶解する。このような緩衝液としては、例えば、ナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンを含む緩衝液が挙げられる。好ましくは、ナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンを含み、及びカルシウムイオンを含まない緩衝液である。ナトリウムイオン及びカリウムイオンの濃度は特に限定されないが、5mM以上の濃度であることが好ましく、さらに好ましくは10mM以上である。
【0027】
本発明の他の好ましい実施形態では、緩衝液にはアミノスルホン酸誘導体を含む。アミノスルホン酸誘導体としては、N,N-ビス(2-ハイドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(以下BESと略す)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(以下CAPSと略す)、N-シクロヘキシル-2-ハイドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(以下CAPSOと略す)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(以下CHESと略す)、3-{N,N-ビス(2-ハイドロキシエチル)アミノ}-2-ハイドロキシプロパンスルホン酸(以下DIPSOと略す)、N-トリス(ハイドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(以下TAPSと略す)、2-ハイドロキシ-N-トリス(ハイドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(以下TAPSOと略す)、N-トリス(ハイドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(以下TESと略す)等を挙げることができる。
【0028】
また、他の実施形態におけるアミノスルホン酸誘導体としては、ピペラジン環を有する化合物である、3-{4-(2-ハイドロキシエチル)-1-ピペラジニル}プロパンスルホン酸(以下EPPSと略す)、2-{4-(2-ハイドロキシエチル)-1-ピペラジニル}エタンスルホン酸(以下HEPESと略す)、2-ハイドロキシ-3-{4-(2-ハイドロキシエチル)-1-ピペラジニル}プロパンスルホン酸(以下HEPPSOと略す)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(以下PIPESと略す)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ハイドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(以下POPSOと略す)等を挙げることができる。
【0029】
また、他の実施形態におけるアミノスルホン酸誘導体としては、モルホリン環を含む化合物である、2-モルホリノエタンスルホン酸(以下MESと略す)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(以下MOPSと略す)、2-ハイドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(以下MOPSOと略す)等を挙げることができる。
【0030】
これらの緩衝液の濃度は、溶液のpH値を約6.0~約8.0、好ましくは、6.6~7.5の間に安定的に保持できる濃度であれば特に制限されないが、好ましくは、5mM~100mM,さらに好ましくは、10mM~50mMである。
【0031】
図2は、上記イオン交換工程(S2)をさらに詳細に説明したものである。イオン交換工程(S2)は、最初に、平衡化緩衝液でイオン交換樹脂を平衡化する平衡化工程(S21)と、測定試料をイオン交換樹脂に負荷してプロテオグリカンを吸着させる吸着工程(S22)と、プロテオグリカンが吸着したイオン交換樹脂を、上記緩衝液を含む洗浄緩衝液で洗浄する洗浄工程(S23)と、イオン交換樹脂から溶出緩衝液でプロテオグリカンを溶出する及び/又は脱着する工程(S24、
図2では「溶出」と標記)と、を含む。
【0032】
平衡化工程(S21)では、通常、カラム容積の10倍以上の平衡化緩衝液を流すことにより平衡化を行う。あるいは、カラムから溶出される平衡化緩衝液のベースラインが安定すること、カラム圧変動が安定すること、同じ成分を繰り返し分析した際に保持時間の移動がないことなどが目安となる。本実施形態の方法では、平衡化緩衝液は、測定試料の調製に用いた緩衝液と同じ緩衝液を用いることが、プロテオグリカンのカラムへの吸着を促進するために好ましい。
【0033】
吸着工程(S22)において負荷される試料中のプロテオグリカンは、官能基の解離に適した緩衝液に溶解されているため効率よくイオン交換樹脂に吸着される。プロテオグリカンの吸着を促進するために、室温ないし低温(4℃~10℃)で、低流速で測定試料をチャージすることが好ましい。
【0034】
洗浄工程(S23)で用いられる洗浄緩衝液は、測定試料の調製に用いた緩衝液及び/又は平衡化緩衝液と同じ緩衝液が好ましい。洗浄緩衝液には、夾雑物をカラムから除去するために溶液のイオン強度を上げるための塩を含んでもよい。例えば、NaClを添加する場合の濃度は0~0.4M未満であり、好ましくはNaClを含まない緩衝液と約0.2MのNaClを含む緩衝液を逐次的に用いてもよい。
【0035】
溶出工程(S24)で用いられる溶出緩衝液は、測定試料の調製に用いた緩衝液を含んでも含まなくてもよいが、溶出されるプロテオグリカンの凝集を抑止するために、平衡化緩衝液と同じ緩衝液を用いることが好ましい。溶出液のイオン強度は、イオン交換樹脂に対するプロテオグリカンの吸着力を減弱させる程度のイオン強度が好ましく、例えば、NaClを添加する場合の濃度は0.4M以上であり、好ましくは約0.5MのNaClを含む緩衝液を用いることができる。
【0036】
図1に戻って、脱塩工程(S3)は、本発明の方法に必ずしも必須ではないが、後続するHPLC工程での検出を容易にする上で、溶出液に含まれる塩濃度を低下させることが好ましい。
【0037】
イオン交換樹脂からの溶出物中のプロテオグリカンを定量する定量工程(S4)は、特に限定されないが、本発明の一実施形態では、
図1に示すHPLC分析を行うことが好ましい。この工程におけるサイズ排除ゲルクロマトグラフィー用のカラムとしては、分析可能な分子量が10万~200万に対応しているカラムを用いればよいが、分離能がよくなることから粒子径10μm以上の充填剤を含むカラムやタンパク分析用のカラムを使用することが好ましく、特に基材がメタクリレートポリマーのカラムを用いることが好ましい。
【0038】
HPLC法における検出は、溶媒と比較した被分析物の屈折率を利用する示唆屈折率検出器や、UV検出器を使用して200~280nmの吸光度を検出する方法等が使用でき、特に200~220nmのUV波長におけるUV検出器が好ましい。また、プロテオグリカンのピークは標準品であるプロテオグリカン、サケ鼻軟骨由来(富士フイルム和光純薬工業製)を用意し、分析対象の試料とクロマトグラムを重ねほぼ同じ溶出範囲にピークがあれば、そのピークがプロテオグリカンを検出したピークであることが分かる。また、予めプロテオグリカンの標準品で検量線を作成することで、試料中のプロテオグリカンの定量を行う。
【0039】
以下に示す実施例は、単なる例示であって、上述した実施形態と共に本発明を詳細に説明することのみを意図しており、本発明を限定するものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、係る変更も本発明の範囲に含まれる。なお、以下の実施例において、プロテオグリカン含有率(「PG含有率」という場合もある。)を示す数値の単位%は、質量%を意味する。
【実施例】
【0040】
[実施例1]10mMのPIPES-NaOH緩衝液によるプロテオグリカン含有量の測定
1.組成物の調製
97.45gの水を入れたビーカー内に、2.0gの市販ゼリー素(森永製菓株式会社製クックゼラチン)と、0.55gの「プロテオグリカンF(プロテオグリカン含量20.0%以上、一丸ファルコス株式会社)」とを添加し、合計100gとした。これを約50℃のウォータバスにて攪拌しながら完全に溶解した。この溶解液を型容器に入れ、冷蔵庫にて一晩冷やしてプロテオグリカン含有ゼリーを作製した。
【0041】
2.測定試料の調製
3.05gのPIPES(DOJINDO)に、精製水約800mLを加えて、室温で攪拌し、5NのNaOHにてpH7.0に調整した。これに精製水を加えて全容を1000mLとし、10mMのPIPES溶液を調製した。このようにして調製した10mMのPIPES-NaOH(pH7.0)緩衝液10mLに、上記で作成した約180mgのゼリー組成物(PGとして約200μg含有)を正確に加え、約40℃で加温しながら攪拌して完全に溶解した。
【0042】
3.イオン交換処理
弱塩基性陰イオン交換用ゲルであるTOYOPAK DEAE M(ゲル量1.0mL、東ソー株式会社製)のカラムに、精製水10mLを流した後、上記で調製した10mMのPIPES-NaOH緩衝液(pH7.0)10mLを流してイオン交換樹脂を平衡化した。このカラムに同緩衝液に溶解した上記測定試料10mLを負荷した。続いて、5mLの同緩衝液でカラムを洗浄後、0.2MのNaClを含む同緩衝液10mLを流してさらに洗浄した。洗浄後のカラムに、0.5MのNaClを含む同緩衝液10mLを流してプロテオグリカンをカラムから脱着させた。
【0043】
4.脱塩処理
上記イオン交換処理で回収した脱着画分10mLを、アミコンウルトラ遠心式フィルターユニット(分画分子量50K、メルク株式会社製)を用いて最初に脱着液で1回洗浄後、精製水で3回洗浄して脱塩した。遠心後のフィルターカップから濃縮液を回収し、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて5mLに定容した。
【0044】
5.HPLC分析
上記で回収した溶液を、以下の操作条件でHPLCを行い標準品の検量線からプロテオグリカン量を求めた。
カラム :TSKgel G5000PWXL(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:100μL
移動相 :リン酸緩衝液(pH6.8)
流量 :0.5mL/min
検出器 :示差屈折率検出器(RID-10A、株式会社島津製作所製)
【0045】
なお、標準品によるプロテオグリカンの検量線は、以下のように作成した。プロテオグリカンの標準品(富士フイルム和光純薬工業製)2mgを精密に量り、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて10mL容量に調製した(A液)。A液5mLを取り、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて10mL容量に調製したもの、A液2mLを取り、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて10mL容量に調製したもの及びA液をそれぞれ検量線作成用標準液とする。検液及び標準液について0.45μmのメンブレンフィルターを通した後、次の操作条件で液体クロマトグラフィーを行い、得られた検量線からプロテオグリカン量を求めた。なお、標準品:プロテオグリカン,サケ鼻軟骨由来(富士フイルム和光純薬工業製)は、室温減圧デシケーター(シリカゲル)で3時間乾燥してから採取した。
【0046】
HPLC分析の結果を
図3に示す。
図3(A)は、上記イオン交換処理における洗浄画分を濃縮したものであり、夾雑タンパク質の大きなピークが認められた。一方、
図3(B)は脱着画分を分析した結果であり、夾雑タンパク質と分離されたプロテオグリカンのピークが認められた。検量線のピーク面積から計算した組成物のPG含有率は0.123%であった。
【0047】
[比較例1]
実施例1における10mMのPIPES-NaOH緩衝液の代わりに、精製水を用いて実施例1と同様の方法にて測定試料を定量した。すなわち、精製水を用いてカラムの平衡化を行い、カラムの洗浄液及び脱着液は、精製水にNaClをそれぞれ0.2M及び0.5M添加したものを用いた。HPLC分析の結果を
図4に示す。
図4(A)は、上記イオン交換処理における洗浄画分の濃縮物であり、夾雑タンパク質の大きなピークが認められた。一方、
図4(B)は脱着画分を分析した結果であり、夾雑タンパク質と共にプロテオグリカンの小さなピークが認められた。検量線のピーク面積から計算した組成物のPG含有率は、0.070%であった。
【0048】
[比較例2]
実施例1における10mMのPIPES-NaOH緩衝液の代わりに、4Mのグアニジン塩酸を用いて実施例1と同様の方法にて測定試料を定量した。すなわち、4Mのグアニジン塩酸水溶液を用いてカラムの平衡化を行い、カラムの洗浄液及び脱着液は、4Mのグアニジン塩酸水溶液にNaClをそれぞれ0.2M及び0.5M添加したものを用いた。HPLC分析の結果を
図5に示す。
図5(A)は、上記イオン交換処理における洗浄画分の濃縮物であり、
図5(B)は脱着画分を分析した結果である。何れの画分からもタンパク質は検出されず、4Mグアニジン塩酸を用いた方法ではプロテオグリカンの定量ができないことが分かった。
【0049】
[実施例2]
実施例1における10mMのPIPES-NaOH緩衝液の代わりに、日局法に基づき、リン酸二水素カリウム3.40gと、無水リン酸水素二ナトリウム3.55gとを水に溶かし、1000mLとして調製したリン酸塩緩衝液(pH6.8)を用いて実施例1と同様の方法にて測定試料を定量した。すなわち、カラムの平衡化液、洗浄液及び脱着液に用いた緩衝液をリン酸塩緩衝液(pH6.8)に置換した。0.5N-NaClを含むリン酸塩緩衝液(pH6.8)で脱着した画分のHPLC分析の結果を
図6に示す。
図6に示したように、プロテオグリカンのピークが認められ、検量線のピーク面積から計算した組成物のPG含有率は、0.110%であった。
【0050】
[実施例3]
実施例1における10mMのPIPES-NaOH緩衝液の代わりに、7M尿素/50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)を用いて実施例1と同様の方法にて測定試料を定量した。すなわち、カラムの平衡化液、洗浄液及び脱着液に用いた緩衝液をすべて7M尿素/50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に置換した。0.5N-NaClを含む7M尿素/50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で脱着した画分のHPLC分析の結果を
図7に示す。
図7に示したように、プロテオグリカンのピークが認められ、検量線のピーク面積から計算した組成物のPG含有率は、0.102%であった。
【0051】
[実施例4]
実施例1における10mMのPIPES-NaOH緩衝液の代わりに、酢酸ナトリウム三水和物0.3gに水80mL加え溶解し、酢酸でpH6.0に調製後、水を加え100mLとして調製した酢酸塩緩衝液(pH6.0)を用いて実施例1と同様の方法にて測定試料を定量した。すなわち、カラムの平衡化液、洗浄液及び脱着液に用いた緩衝液をすべて酢酸塩緩衝液(pH6.0)に置換した。0.5N-NaClを含む酢酸塩緩衝液(pH6.0)で脱着した画分のHPLC分析の結果を
図8に示す。
図8に示したように、プロテオグリカンのピークが認められ、検量線のピーク面積から計算した組成物のPG含有率は、0.108%であった。
【0052】
[実施例5]
実施例1における10mMのPIPES-NaOH緩衝液の代わりに、10mMのPIPES-KOH緩衝液(pH7.0)を用いて実施例1と同様の方法にて測定試料を定量した。すなわち、カラムの平衡化液、洗浄液及び脱着液に用いた緩衝液をすべて10mMのPIPES-KOH緩衝液(pH7.0)に置換した。0.5N-NaClを含む10mMのPIPES-KOH緩衝液(pH7.0)で脱着した画分のHPLC分析の結果を
図9に示す。
図8に示したように、プロテオグリカンのピークが認められ、検量線のピーク面積から計算した組成物のPG含有率は、0.116%であった。
【0053】
実施例1~5並びに比較例1及び2の結果を以下の表1にまとめた。表1には、それぞれの組成物中のPG含量(組成物のPG含有率)とともに、実施例1で検出されたプロテオグリカン(PG)の回収率を100%としたときの各実施例及び比較例の回収率相対値(%)も示した。これらの結果より、比較例1及び2と比べて、中性領域の緩衝液であって、ナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンを含む実施例1~5の緩衝液を用いた場合に効率よくプロテオグリカンを回収できることが分かった、特に緩衝液としてPIPESを用いた場合の回収率が優れていることが分かる。
【0054】
【0055】
[実施例6]組成物中のプロテオグリカンの測定
1.粉末の調製
2種類の粉末を作製した。
図10(A)で示す測定試料作製用に、プロテオグリカンを0.44質量%含有、所定の乳タンパク質を所定量含有された試料粉末約454.5mgを準備した。
図10(B)で示す測定試料(ブランクの試料)作製用に、プロテオグリカンを含有せず、所定の乳タンパク質を所定量含有された試料粉末約454.5mgを準備した。
【0056】
ここで、当該粉末に含有された乳タンパク質は、具体的な素材としては脱脂粉乳、全脂粉乳、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、乳清タンパク質、バターミルクパウダー、牛乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、ナチュラルチーズ等である。
【0057】
2.溶液の作製
当該粉末を精密に量り、10mMのPIPES-NaOH緩衝液(pH7.0)15mLを加え、溶液を作製した。次にこの溶液を所定条件で超音波処理を行い、超音波処理後、遠心分離により上清液を回収した。当該上清液を濾紙でろ過し、50mLの溶液を調製した。
【0058】
3.イオン交換処理
弱塩基性陰イオン交換用ゲルであるTOYOPAK DEAE M(ゲル量2.0mL、東ソー株式会社製)のカラムに、精製水10mLを流した後、上記で調製した10mMのPIPES-NaOH緩衝液(pH7.0)10mLを流してイオン交換樹脂を平衡化した。このカラムに同緩衝液に溶解した上記測定試料10mLを負荷した。続いて、5mLの同緩衝液でカラムを洗浄後、0.35MのNaClを含む同緩衝液10mLを流してさらに洗浄した。洗浄後のカラムに、0.5MのNaClを含む同緩衝液10mLを流してプロテオグリカンをカラムから脱着させた。
【0059】
4.脱塩処理
上記イオン交換処理で回収した脱着画分10mLを、アミコンウルトラ遠心式フィルターユニット(分画分子量100K、メルク株式会社)を用いて最初に脱着液で1回洗浄後、精製水で洗浄して脱塩した。遠心後のフィルターカップから濃縮液を回収し、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて5mLの溶液(測定試料)とした。
【0060】
別に、プロテオグリカンの標準品(富士フイルム和光純薬工業製)約1mgを精密に量り、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて10mL(標準液)とした。
【0061】
5.HPLC分析
上述で作製した測定試料及び標準液を用いて、以下の操作条件でHPLC分析を行い、測定試料中のプロテオグリカンの含有の有無を測定した。
検出器:UV-VIS検出器SPD-20A(株式会社島津製作所製)
測定波長:215nm
カラム:TSKgel G5000-PWXL φ7.8mm×300mm(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
移動相:リン酸緩衝液(pH6.8)
流速:0.5mL/分
注入量:100μL
【0062】
この測定の結果を
図10に示す。
図10(A)の矢印は、プロテオグリカンの溶出位置(12.733min)を示す。なお、図示しないが当該標準液を用いてのHPLC分析では、プロテオグリカンの溶出位置が12.7min付近であった。
一方、
図10(B)は、プロテオグリカンを含まないブランクの試料を分析した結果である。プロテオグリカンの溶出位置が確認できなかった。
【0063】
[実施例7]組成物中のプロテオグリカンの測定
1.試料カプセルの調製
2種類の試料溶液を作製した。
図11(A)で示す測定試料作製用に、プロテオグリカンを1.66質量%含有、所定のヒアルロン酸Naを所定量含有された試料粉末約160mgを充填したハードカプセルを準備した。
図11(B)で示す測定試料(ブランクの試料)作製用に、プロテオグリカンを含有せず、所定のヒアルロン酸Naを所定量含有された試料粉末約160mgを充填したハードカプセルを準備した。
【0064】
2.標準溶液の調製
標準品のプロテオグリカンとして、サケ鼻軟骨由来(富士フイルム和光純薬株式会社製)を精密に量り、「食品添加物公定書、一般試験法、試薬・試液」に基づいて調製したリン酸緩衝液(pH6.8)に溶解し、0.04、0.1及び0.2mg/mLとなるように調製したものを標準溶液とした。なお、使用時には、室温減圧デシケーター(シリカゲル)で3時間乾燥したものを用いた。
【0065】
3.試料溶液の調製と分析方法
試料カプセルを粉砕し、その粉末約12.8mgを精密に量り、酢酸緩衝液(pH6.0)(酢酸ナトリウム三水和物0.3gに水80mLを加え溶解し、酢酸にてpH6.0に調製し、水を加えて100mLにしたもの。)10mLと、ヒアルロニダーゼ溶液(ヒアルロニダーゼ“アマノ”Streptomyces albogriseolus由来(富士フイルム和光純薬株式会社製)に酢酸塩緩衝液(pH6.0)を加えて、10mLにしたもの。)を0.1~0.2TRU量の力価になるように加え、酵素処理した。酵素失活後、遠心分離し、上清液を回収した。残留物に対してリン酸緩衝液(pH6.8)を加えて抽出し、遠心分離後、上清液を回収した。
【0066】
上清液は分子量分画膜(Molecular Weight Cut Off(以下、MWCOと記載)が、5~10万)を用いて、遠心分離し、不透過側のプロテオグリカン画分を精製した。得られたプロテオグリカン濃縮液に塩化ナトリウム含有10mMのPIPES-NaOH緩衝液(pH7.0)(PIPES3.05gに水約800mLを加え、NaOH溶液にてpH7.0に調製し、水を加えて1000mLとしたもの。)10mLを加えて、溶解し、平衡化した陰イオン交換樹脂カラム(イオン交換容量:0.2ミリ当量以上)に供し、塩化ナトリウム濃度が0.2M~1Mの濃度勾配溶出でプロテオグリカンを脱着した。この脱着液を、分子量分画膜(MWCO5~10万)を用いて遠心分離し、精製水で洗浄して脱塩した。得られたプロテオグリカン濃縮液にリン酸緩衝液(pH6.8)を加えて正確に5mLの溶液(測定試料)とした。
【0067】
試料溶液及び標準溶液を次の操作条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行い、検量線から試料カプセル中のプロテオグリカン量を求めた。
計算方法
プロテオグリカン含量(%)=A×V×N×1/W×100
A:試験溶液中のプロテオグリカン濃度(mg/mL)
V:定容量(mL)
N:希釈倍数
W:試験品採取量(mg)
【0068】
操作条件
検出器:示差屈折率検出器(RID-10A、株式会社島津製作所製)
カラム:ゲルろ過カラム(東ソー株式会社製、TSKgel G5000PWXL)
カラム管:内径約7.8mm、長さ30cmのステンレス管
カラム温度:40℃
移動相:リン酸緩衝液(pH6.8)
流量:0.5mL/分
注入量:50μLまたは、100μL
【0069】
4.結果
試料溶液及びブランク品のクロマトグラムを
図11に示す。
図11(A)の矢印(13.292min)は、標準品を用いた分析で検出されたプロテオグリカンの溶出位置を示す。一方、
図11(B)は、プロテオグリカンを含まないブランク品を分析した結果である。これらの結果より、検量線のピーク面積から計算した組成物中に含まれるプロテオグリカンの含有率は、1.85質量%であった。
【0070】
[実施例8]組成物中のプロテオグリカンの測定
1.試料粉末の調製
2種類の試料溶液を作製した。
図12(A)で示す測定試料作製用に、プロテオグリカンを0.139質量%含有、所定の青汁粉末を所定量含有された試料粉末約9000mgを準備した。
図12(B)で示す測定試料(ブランクの試料)作製用に、プロテオグリカンを含有せず、所定の青汁粉末を所定量含有された試料粉末約9000mgを準備した。
ここで、当該粉末に含有された青汁粉末は、具体的な素材としては緑黄色野菜のしぼり汁を乾燥させた粉末であり、より具体的には大麦若葉末、ケール末、明日葉末、よもぎ末、抹茶末、小松菜末、桑葉末等である。
【0071】
2.標準溶液の調製
標準品のプロテオグリカンとして、サケ鼻軟骨由来(富士フイルム和光純薬株式会社製)を精密に量り、リン酸緩衝液(pH6.8)に溶解し、0.04、0.1及び0.2mg/mLとなるように調製したものを標準溶液とした。なお、使用時には、室温減圧デシケーター(シリカゲル)で3時間乾燥したものを用いた。
【0072】
3.試料溶液の調製と分析方法
試料約719.4mgを精密に量り、含水エタノール溶液15mLを加え、よく撹拌し、遠心分離後、上清を除去した。残留物に対して精製水15mLを加えて、所定条件で超音波処理にて抽出した。この抽出液を遠心分離後、上清液を回収した。上清液をろ紙ろ過し、そのろ液を分子量分画膜(MWCO5~10万)を用いて、遠心分離し、不透過側のプロテオグリカン画分を精製し、精製水で洗浄した。含水エタノールのエタノール濃度の下限は50%であり、好ましくは55%、より好ましくは60%である。また、含水エタノールのエタノール濃度の上限は99.9%%であり、好ましくは90%、より好ましくは80%である。
【0073】
得られたプロテオグリカン濃縮液に10mMのPIPES-NaOH緩衝液(pH7.0)を加えて正確に10mLに調製した。この調製液2mLを、10mMのPIPES-NaOH緩衝液(pH7.0)で平衡化した陰イオン交換樹脂カラム(イオン交換容量:0.2ミリ当量以上)に供し、塩化ナトリウム濃度が0.2M~1M濃度勾配溶出でプロテオグリカンを脱着した。この脱着液を、分子量分画膜(MWCO5~10万)を用いて、遠心分離し、精製水で洗浄して脱塩した。得られたプロテオグリカン濃縮液にリン酸緩衝液(pH6.8)を加えて正確に5mLの溶液(測定試料)とした。
【0074】
試料溶液及び標準溶液を次の操作条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行い、検量線から試験溶液中のプロテオグリカン濃度を算出し、次式により試料溶液中のプロテオグリカン含量を求めた。
計算方法
プロテオグリカン含量(%)=A×V×N×1/W×100
A:試験溶液中のプロテオグリカン濃度(mg/mL)
V:定容量(mL)
N:希釈倍数
W:試験品採取量(mg)
【0075】
操作条件
検出器:示差屈折率検出器(RID-10A、株式会社島津製作所製)
カラム:ゲルろ過カラム(東ソー株式会社製、TSKgel G5000PWXL)
カラム管:内径約7.8mm、長さ30cmのステンレス管
カラム温度:40℃
移動相:リン酸緩衝液(pH6.8)
流量:0.5mL/分
注入量:50μLまたは、100μL
【0076】
4.結果
試料溶液及びプラセボ品のクロマトグラムを
図12に示す。
図12(A)の矢印(13.417min)は、標準品を用いた分析で検出されたプロテオグリカンの保持時間を示す。一方、
図12(B)は、プロテオグリカンを含まないブランク品を分析した結果である。これらの結果より、検量線のピーク面積から計算した組成物中に含まれるプロテオグリカンの含有率は、0.135質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明により、サプリメントなどの飲食品等の組成物に含有されているプロテオグリカンを簡便に測定する方法が提供でき、例えば、コラーゲンやゼラチン等のタンパク質を含む食品等の品質管理分析に役立つ可能性がある。