(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】間欠塗工方法および間欠塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20240726BHJP
B05C 5/02 20060101ALI20240726BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05C5/02
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2018156536
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-05-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 倫弘
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 光明
(72)【発明者】
【氏名】和田 享司
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】加藤 友也
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-233506(JP,A)
【文献】特開2005-222911(JP,A)
【文献】特開2018-1124(JP,A)
【文献】特開2010-58097(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104069984(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/26
B05C5/02
B05C11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一面と当該第一面とは反対側の第二面とを有し長手方向に搬送される基材の前記第二面と接触した状態で前記基材が巻き掛けられたバックアップロールと、
塗工液を間欠的に供給する供給機構と、
前記供給機構と流路を介して接続された吐出口が設けられ、前記基材の前記バックアップロールに巻き掛けられた部分の前記第一面と前記吐出口とが対向する塗工位置で、前記供給機構から供給された前記塗工液を前記吐出口から前記第一面に吐出するダイと、
前記ダイを移動させる移動機構と、
を備えた間欠塗工装置で実行される間欠塗工方法であって、
前記塗工位置に位置された前記ダイが、前記第一面に対して、前記バックアップロールの中心軸に向かう水平方向に前記塗工液を吐出することにより、前記バックアップロールに
巻き掛けられて、前記塗工位置において、前記バックアップロールの周方向に沿って、前記中心軸の下方から上方に搬送される前記基材の前記第一面に塗工部を形成する工程と、
前記塗工部の形成中に、前記流路内の前記塗工液を吸引する工程と、
前記塗工液の吐出を終了するとともに、前記塗工液の吸引を行うことにより前記塗工部の形成
が完了した後で、前記塗工部の後端部が、前記塗工位置よりも上方に移動する前記ダイと当たらない位置へ移動するのに要する時間以上の所定時間が経過すると、前記移動機構が
、前記ダイを、
前記塗工部の後端部よりも上方に移動させる工程と、
を含む、間欠塗工方法。
【請求項2】
第一面と当該第一面とは反対側の第二面とを有し長手方向に搬送される基材の前記第二面と接触した状態で前記基材が巻き掛けられたバックアップロールと、
塗工液を間欠的に供給する供給機構と、
前記供給機構と流路を介して接続された吐出口が設けられ、
当該供給機構から供給された前記塗工液を、前記吐出口から
、前記基材の第一面と前記吐出口とが対向する塗工位置に向けて、前記バックアップロールの中心軸に向かう水平方向に吐出する
ことによって、当該バックアップロールに巻き掛けられて、前記塗工位置において、前記バックアップロールの周方向に沿って、前記中心軸の下方から上方に搬送される前記基材の前記第一面に塗工部を形成するダイと、
前記流路内の前記塗工液を吸引する吸引機構と、
前記塗工液の吐出を終了するとともに、前記塗工液の吸引を行うことにより前記塗工部の形成が完了した後で、前記塗工部の後端部が、前記塗工位置よりも上方に移動する前記ダイと当たらない位置へ移動するのに要する時間以上の所定時間が経過すると、前記ダイを
、前記塗工部の後端部よりも上方に移動させる移動機構と、
前記ダイの重量を支えるバランスシリンダと、
を備えた間欠塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、間欠塗工方法および間欠塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、搬送される基材の第一面にダイの吐出口から塗工液を間欠的に吐出して、基材の第一面に複数の塗工部を間隔を空けて形成する間欠塗工装置が知られている(例えば、特許文献1)。この種の間欠塗工装置として、塗工部の後端部の膜厚形状の向上を図るために、ダイの吐出口から塗工液を無くすべくダイからの塗工液の吐出後に塗工液を吸引するものが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-100786号公報
【文献】特開2009-95752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、塗工液が糸状に長く伸び易いすなわち塗工液の曳糸性が高い場合、ダイからの塗工液の吐出後に塗工液を吸引しても、ダイと塗工部の後端部との間で塗工液が伸びて、塗工部の後端部に続く塗工液が基材の第一面上に付着する所謂塗工液の引きずりが発生する場合がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、曳糸性の高い塗工液であっても、塗工部の後端部からの塗工液の引きずりを抑制することができる間欠塗工方法および間欠塗工装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の間欠塗工方法は、第一面と当該第一面とは反対側の第二面とを有し長手方向に搬送される基材の前記第二面と接触した状態で前記基材が巻き掛けられたバックアップロールと、塗工液を間欠的に供給する供給機構と、前記供給機構と流路を介して接続された吐出口が設けられ、前記基材の前記バックアップロールに巻き掛けられた部分の前記第一面と前記吐出口とが対向する塗工位置で、前記供給機構から供給された前記塗工液を前記吐出口から前記第一面に吐出するダイと、前記ダイを移動させる移動機構と、を備えた間欠塗工装置で実行される間欠塗工方法であって、前記塗工位置に位置された前記ダイが、前記第一面に対して、前記バックアップロールの中心軸に向かう水平方向に前記塗工液を吐出することにより、前記バックアップロールに巻き掛けられて、前記塗工位置において、前記バックアップロールの周方向に沿って、前記中心軸の下方から上方に搬送される前記基材の前記第一面に塗工部を形成する工程と、前記塗工部の形成中に、前記流路内の前記塗工液を吸引する工程と、前記塗工液の吐出を終了するとともに、前記塗工液の吸引を行うことにより前記塗工部の形成が完了した後で、前記塗工部の後端部が、前記塗工位置よりも上方に移動する前記ダイと当たらない位置へ移動するのに要する時間以上の所定時間が経過すると、前記移動機構が、前記ダイを、前記塗工部の後端部よりも上方に移動させる工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の間欠塗工装置の構成図である。
【
図3】
図3は、実施形態の間欠塗工装置の塗工動作が示された図である。
【
図4】
図4は、実施形態の間欠塗工装置の動作のタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態のダイの上昇動作が示された図である。
【
図6】
図6は、実施形態の間欠塗工方法によってフィルムに形成された塗工部の画像を示す図である。
【
図7】
図7は、第一比較例の間欠塗工方法を説明するための図である。
【
図8】
図8は、第一比較例の間欠塗工方法によってフィルムに形成された塗工部の画像を示す図である。
【
図9】
図9は、第二比較例の間欠塗工方法を説明するための図である。
【
図10】
図10は、第二比較例の間欠塗工方法によってフィルムに形成された塗工部の画像を示す図である。
【
図11】
図11は、第三比較例の間欠塗工方法を説明するための図である。
【
図12】
図12は、第三比較例の間欠塗工方法によってフィルムに形成された塗工部の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、一例である。なお、本明細書では、序数は、部品や部材を区別するためだけに用いられており、順番や優先度を示すものではない。
【0009】
<実施形態>
図1は、間欠塗工装置1の構成図である。間欠塗工装置1は、例えば、搬送されるフィルム100に塗工液101を間欠的に塗工することにより、フィルム100に略一定の厚さの複数の塗工部102を形成する。フィルム100は、略一定の幅を有した長尺状に形成されている。フィルム100は、塗工部102が形成される第一面100aと当該第一面100aとは反対側の第二面100bとを有している。フィルム100は、例えば、合成樹脂材料によって構成されるが、これには限定されない。フィルム100は、ウエブとも称され、第一面100aは、表面とも称され、第二面100bは、裏面とも称されうる。フィルム100は、基材の一例である。
【0010】
間欠塗工装置1は、バックアップロール10と、供給機構20と、ダイ30と、吸引機構40と、水平移動機構50と、鉛直移動機構60と、制御装置70と、を備えている。
【0011】
バックアップロール10は、円筒状の形状を有し、中心軸C1回りに回転可能に設けられている。詳細には、バックアップロール10は、中心軸C1回りの一方向(
図1では時計回り)に回転する。バックアップロール10には、フィルム100の第二面100bが当該バックアップロール10の外周面10aと接触した状態で、フィルム100が巻き掛けられている。フィルム100は、当該フィルム100のうちバックアップロール10に巻き掛けられた部分の少なくとも一部が鉛直方向の下方から鉛直方向の上方D1に向かうように、バックアップロール10に巻き掛けられている。バックアップロール10は、不図示のモータにより回転される主動ロールであってもよいし、フィルム100の移動に伴って回転する従動ロールであってもよい。
【0012】
供給機構20は、ダイ30に塗工液101を間欠的に供給する。詳細には、供給機構20は、タンク21と、ポンプ22と、シャットバルブ23と、を有している。
【0013】
タンク21は、塗工液101を貯留している。タンク21の出口は、供給路24を介してダイ30と接続されている。ポンプ22は、供給路24に設けられている。ポンプ22は、不図示のモータにより駆動されることにより、タンク21内の塗工液101を供給路24を介してダイ30に供給する。シャットバルブ23は、ポンプ22とダイ30との間の供給路24に設けられている。シャットバルブ23は、駆動源であるモータ25によって駆動されて、供給路24を開閉する。モータ25は、例えばサーボモータである。
【0014】
また、供給機構20には、戻し部26が設けられている。戻し部26には、戻し流路26aと、リリーフバルブ27と、圧力調整バルブ28と、が設けられている。戻し流路26aは、ポンプ22とシャットバルブ23との間の供給路24と、タンク21の入口と、を接続している。リリーフバルブ27は、戻し流路26aに設けられている。リリーフバルブ27は、駆動源であるモータ29によって駆動されて、戻し流路26aを開閉する。モータ29は、例えば、サーボモータである。圧力調整バルブ28は、リリーフバルブ27と供給機構20との間の戻し流路26aに設けられている。
【0015】
供給機構20では、塗工動作中は常にポンプ22が駆動される。そして、シャットバルブ23が開弁されるとともに、リリーフバルブ27が閉弁された場合には、ポンプ22から吐出された塗工液101が、ダイ30へ供給されてダイ30から吐出される。これにより、フィルム100の第一面100a上に塗工部102が形成される。一方、シャットバルブ23が閉弁されるとともに、リリーフバルブ27が開弁された場合には、ポンプ22から吐出された塗工液101は、戻し流路26aを介してタンク21に戻される。この場合には、塗工液101は、ダイ30から吐出されないので、塗工部102は形成されない。フィルム100の第一面100a上における塗工部102が形成されない部分は、非塗工部103を構成し、塗工部102と非塗工部103とによって塗工パターンが構成される。
【0016】
吸引機構40は、シャットバルブ23とダイ30との間の供給路24と接続されており、当該供給路24内の塗工液101を吸引する。詳細には、吸引機構40は、シリンダ部材41と、シリンダ部材41に摺動可能に挿入されたピストン42と、を有している。ピストン42は、不図示のボールネジを介して接続されたモータ43によって、上位置と下位置との間を鉛直方向に沿って往復駆動される。モータ43は、例えば、サーボモータである。シリンダ部材41内には、シリンダ部材41とピストン42とに囲まれたシリンダ室41aが形成されている。シリンダ室41aは、シャットバルブ23とダイ30との間の供給路24と接続されている。シリンダ室41aの容積は、ピストン42が上位置に位置された場合が最大であり、ピストン42が下位置に位置された場合が最小である。なお、本実施形態では、ピストン42は、鉛直方向に往復するが、水平方向でもよい。
【0017】
吸引機構40は、ピストン42を下位置から上位置へ移動させることにより、供給路24内の塗工液101をシリンダ室41a内に吸引する。この吸引は、ダイ30による塗工液101の吐出が終わった後に行われる。また、吸引機構40は、ピストン42を上位置から下位置へ移動させることにより、シリンダ室41a内の塗工液101を供給路24に吐出する。この吐出は、供給機構20からダイ30へ塗工液101が供給されるのに伴って行われる。吸引機構40は、吸引吐出機構とも称されうる。
【0018】
ダイ30には、供給機構20と供給路24を介して接続された吐出口30aが設けられている。ダイ30は、塗工位置P1に位置された状態で、供給機構20から供給路24を介して供給された塗工液101を吐出口30aからフィルム100の第一面100aに吐出する。塗工位置P1は、吐出口30aの中心の鉛直方向の位置がバックアップロール10の中心軸C1の鉛直方向の位置と同じとなる位置であって、フィルム100のバックアップロール10に巻き掛けられた部分100cの第一面100aと吐出口30aとが水平方向に対向する位置である。よって、塗工位置P1に位置されたダイ30では、吐出口30aと、バックアップロール10の中心軸C1とが水平方向に並ぶ。これにより、塗工位置P1に位置されたダイ30は、吐出口30aから水平方向に塗工液101を吐出する。
【0019】
水平移動機構50は、塗工位置P1に位置されたダイ30の吐出口30aとバックアップロール10の外周面10aとの間隔が変わる方向、具体的には水平方向に、ダイ30を移動させることが可能である。詳細には、水平移動機構50は、テーブル51と、モータ52と、ボールネジ53と、を有している。テーブル51は、ダイ30を支持している。詳細には、テーブル51の上面には、バランスシリンダ80が設けられ、当該バランスシリンダ80に設けられたサドル81にダイ30が固定されている。ボールネジ53は、モータ52の回転運動をテーブル51ひいてはダイ30の水平方向の直動運動に変換する。
【0020】
バランスシリンダ80は、鉛直方向に伸縮可能に構成されている。バランスシリンダ80には、圧縮空気供給装置82が減圧弁83を介して接続されており、バランスシリンダ80には、圧縮空気供給装置82からの圧縮空気が減圧弁83で減圧されて供給される。バランスシリンダ80は、圧縮空気供給装置82からの圧縮空気によりダイ30の重量を支える。
【0021】
鉛直移動機構60は、鉛直方向にダイ30を移動させることが可能である。詳細には、鉛直移動機構60は、ベース部材61と、モータ62と、ボールネジ63と、を有している。ベース部材61は、テーブル51の上面に固定されている。モータ62およびボールネジ63は、ベース部材61を介してテーブル51に支持されている。これにより、鉛直移動機構60は、テーブル51と一体に水平方向に移動する。ボールネジ63は、モータ62の回転運動をダイ30の鉛直方向の直動運動に変換する。ダイ30の鉛直方向の直動運に応じてバランスシリンダ80が伸縮する。鉛直移動機構60は、ダイ30の塗工液101の吐出時には、ダイ30を塗工位置P1に位置させている。本実施形態では、ダイ30の重量はバランスシリンダ80が支えるため、鉛直移動機構60に掛るダイ30の重量がキャンセルされる。鉛直移動機構60は、移動機構の一例である。
【0022】
次に、ダイ30の詳細を
図2に基づいて説明する。
図2は、ダイ30の断面図である。ダイ30には、流路30bが設けられている。流路30bの一端部には、供給口30cが形成されている。供給口30cは、供給路24と接続されている。また、流路30bの他端部には、吐出口30aが形成されている。吐出口30aは、長手方向がバックアップロール10の軸方向に沿う長方形に形成されている。また、流路30bにおける供給口30cと吐出口30aとの間には、液溜部30dが形成されている。流路30bは、供給路24とともに、タンク21から吐出口30aに至る流路90を構成している。
【0023】
また、ダイ30は、リップ30eを有している。リップ30eは、上部30e1と下部30e2とを有している。下部30e2は、上部30e1の鉛直方向の下方に間隔を空けて設けられている。上部30e1と下部30e2との間に吐出口30aが形成されている。
【0024】
図1に示される制御装置70は、間欠塗工装置1の全体の動作を制御し、間欠塗工装置1の各種の機能を実現する制御部である。制御装置70は、各種プログラムに従って各種の演算処理および制御を実行する。制御装置70には、モータ25,29、43,52、62等が接続されている。
【0025】
次に、制御装置70の制御により間欠塗工装置1が行う間欠塗工方法を
図3に基づいて説明する。
図3は、間欠塗工装置1の塗工動作が示された図である。
【0026】
まず、間欠塗工装置1は、塗工位置P1に位置されたダイ30による塗工液101の吐出を開始、すなわちフィルム100の第一面100aへ塗工液101の塗工を開始する(
図3の(1))。これにより、フィルム100の搬送方向における塗工部102の前端部102aから塗工部102が形成され始める。塗工部102の前端部102aは、始端部とも称されうる。
【0027】
次に、間欠塗工装置1は、ダイ30による塗工液101の吐出を終了するとともに吸引機構40による供給路24内の塗工液101の吸引を行なうことにより、塗工を終了する(
図3の(2))。これにより、フィルム100の搬送方向における塗工部102の後端部102bの形成が完了する。すなわち、塗工部102全体の形成が完了する。また、吸引機構40による供給路24内の塗工液101の吸引により、吐出口30aおよび吐出口30a周囲の塗工液101が、液溜部30dへ向かって移動する。これにより、吐出口30aおよび吐出口30a周囲において塗工液101が減少する。塗工部102の後端部102bは、終端部とも称されうる。
【0028】
次に、間欠塗工装置1は、鉛直移動機構60によりダイ30を塗工位置P1から上位置P2へ上昇させる(
図3の(3))。上位置P2は、塗工位置P1よりも鉛直方向の上方D1の位置である。
【0029】
次に、間欠塗工装置1は、鉛直移動機構60によりダイ30を上位置P2から塗工位置P1へ下降させる(
図3の(4))。
【0030】
上記の一連の動作により、フィルム100の第一面100aに一つの塗工部102が形成される。間欠塗工装置1は、上記の一連の動作を繰り返し行なうことにより、バックアップロール10の第一面100aに複数の塗工部102を間欠的に形成する。
【0031】
次に、上記の間欠塗工方法において制御装置70が実行する制御の詳細を
図4に基づいて説明する。
図4は、間欠塗工装置1の動作のタイミングチャートである。
図4の例では、時刻t1~時刻t11の順に時間が経過する。塗工開始直前(時刻t1)では、シャットバルブ23は閉じられ、リリーフバルブ27は開けられ、ピストン42は上位置に位置されている。また、ダイ30は、時刻t1に塗工位置P1に位置されるように、上位置P2から塗工位置P1へ移動される。
【0032】
制御装置70は、時刻t2にてシャットバルブ23の開弁とリリーフバルブ27の閉弁とが同時に開始されるように、モータ25,29を制御する。これにより、リリーフバルブ27が閉弁してポンプ22から吐出された塗工液101のタンク21への戻りが停止されるとともに供給機構20からダイ30への塗工液101の供給が開始され、ダイ30による塗工液101の吐出が開始される。時刻t2は、塗工開始の時刻、すなわち塗工部102の形成開始の時刻である。
【0033】
次に、制御装置70は、時刻t3にてピストン42の上位置から下位置への移動すなわちピストン42の下降が開始されるように、モータ43を制御する。これにより、吸引機構40による供給路24への塗工液101の吐出が開始される。
【0034】
次に、制御装置70は、時刻t4にてシャットバルブ23の閉弁が開始されるように、モータ25を制御する。シャットバルブ23の閉弁は、時刻t5で完了する。
【0035】
次に、制御装置70は、時刻t5にてすなわちシャットバルブ23の閉弁の完了と同時に、ピストン42の下位置から上位置への移動すなわちピストン42の上昇が開始されるように、モータ43を制御する。これにより、吸引機構40による供給路24内の塗工液101の吸引が開始される。ピストン42は、時刻t6で上位置に到達する。時刻t5は、塗工部102の形成中の時刻であり、時刻t6は、塗工終了の時刻、すなわち塗工部102の形成終了の時刻である。すなわち、吸引機構40は、塗工部102の形成中に供給路24内の塗工液101を吸引する。
【0036】
次に、制御装置70は、時刻t6にてすなわちピストン42の上位置への到達と同時に、リリーフバルブ27の開弁が開始されるように、モータ29を制御する。これにより、ポンプ22から吐出された塗工液101は、戻し流路26aを介してタンク21に戻される。
【0037】
次に、制御装置70は、時刻t7にてダイ30の塗工位置P1から上位置P2への移動すなわちダイ30の上昇が開始されるように、モータ62を制御する。ダイ30は、時刻t8にて上位置P2に到達する。時刻t7は、例えば時刻t6から50msec後である。
【0038】
次に、制御装置70は、時刻t9にてダイ30の上位置P2から塗工位置P1への移動すなわちダイ30の下降が開始されるように、モータ62を制御する。ダイ30は、時刻t10にて塗工位置P1に到達する。
【0039】
制御装置70は、時刻t2から時刻t10の間に行なった一連の処理と同じ処理を、時刻t11以降に繰り返し行なう。
【0040】
次に、ダイ30の上昇動作の詳細を
図5,6に基づいて説明する。
図5は、ダイ30の上昇動作が示された図である。
図6は、間欠塗工方法によってフィルム100に形成された塗工部102の画像を示す図である。
【0041】
図5には、
図4の時刻t7から時刻t8迄の間のダイ30および塗工部102の移動の様子が示されている。
図5の説明では、時刻毎に位置が異なる塗工部102の後端部102bの区別のために、後端部102bを、後端部102b1や後端部102b2、後端部102b3とも称する。
図5には、
図4の時刻t7における塗工位置P1のダイ30および塗工部102における後端部102b1を含む一部が、それぞれ、一点鎖線で示されている。また、
図5には、
図4の時刻t8における上位置P2のダイ30および塗工部102の全体が、それぞれ、実線および黒塗りで示されている。この時刻t8における後端部102bは後端部102b3と称される。また、
図5では、
図4の時刻t7と時刻t8との間の途中の時刻におけるダイ30、すなわち塗工位置P1から上位置P2へ向かう途中の位置である途中位置P3のダイ30が、一点鎖線で示され、当該途中の時刻における塗工部102における後端部102b2を含む一部が、一点鎖線で示されている。
【0042】
図5に示されるように、鉛直移動機構60は、ダイ30を鉛直方向の上方D1に移動させる。詳細には、鉛直移動機構60は、ダイ30のリップ30eの先端および吐出口30aが塗工部102の後端部102b(
図5では後端部102b1~102b3)よりも鉛直方向の上方D1に位置されるように、ダイ30を、塗工位置P1から途中位置P3を経由して上位置P2へ移動させる。すなわち、鉛直移動機構60は、ダイ30が塗工部102の後端部102bを鉛直方向の上方D1に追い越すように、ダイ30を移動させる。このとき、ダイ30は、鉛直方向の上方D1に移動するにつれてフィルム100の第一面100aおよびバックアップロール10の外周面10aから離間する。
【0043】
また、鉛直移動機構60によるダイ30の上昇は、塗工部102の形成終了後に所定時間が経過したら実行される。上記所定時間は、
図4では時刻t6から時刻t7迄の時間である。上記所定時間は、塗工部102が、当該塗工部102の形成終了時点から、鉛直方向の上方D1に移動するダイ30と当該塗工部102の後端部102bとが当たらない当該塗工部102の位置へ移動するのに要する時間以上に設定される。これにより、リップ30eを含むダイ30全体が、塗工部102の後端部102bと当たることなく、鉛直方向の上方D1に移動することができる。
【0044】
図5に示されるように、ダイ30と塗工部102とが相対移動すると、塗工液101の曳糸性が高いために、塗工液101がフィルム100と離間した状態でダイ30の吐出口30aと塗工部102の後端部102bとの間に渡って糸状に伸びて、塗工液101に、フィルム100と離間した伸部101aが形成される場合がある。このような場合であっても、上記のようにダイ30が上位置P2へ上昇することにより、伸部101aが切断される。伸部101aを構成していた塗工液101は、伸部101aの切断後もフィルム100に付着しない。このとき、
図6から、フィルム100の厚さ方向から塗工部102を見た場合に塗工部102の後端部102bがフィルム100の幅方向に沿って直線状に延びた形状となり、塗工液101の引きずりが発生しないことが分かる。なお、ダイ30の上昇量や上昇タイミング、上昇速度は、塗工液101の粘度や塗工部102の厚さに応じて適宜調整される。例えば、ダイ30の上昇量と上昇速度を大きくする程、塗工液101が切断されやすくなるので、塗工液101の曳糸性が高い程、ダイ30の上昇量と上昇速度が大きくされうる。鉛直方向の上方D1は、上方の一例である。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態では、塗工部102の形成終了後に所定時間が経過したら、鉛直移動機構60がダイ30を鉛直方向の上方D1に移動させる。よって、本実施形態によれば、曳糸性の高い塗工液101であっても、塗工部102の後端部102bからの塗工液101の引きずりを抑制することができる。したがって、塗工部102を精度よく形成することができる。
【0046】
また、本実施形態では、間欠塗工装置1は、ダイ30の重量を支えるバランスシリンダ80を備えている。よって、本実施形態によれば、バランスシリンダ80がダイ30の重量を支えることにより、鉛直移動機構60に掛る負荷が減るので、鉛直移動機構60によよってダイ30を瞬時に鉛直方向の上方D1に移動させることができたり、モータ62を小型化できたりする。
【0047】
<比較例>
次に、比較例について説明する。
【0048】
図7は、第一比較例の間欠塗工方法を説明するための図である。
図8は、第一比較例の間欠塗工方法によってフィルム100に形成された塗工部102の画像を示す図である。
図7に示される第一比較例の間欠塗工方法は、ダイ30の塗工終了後すなわち塗工部102の形成終了後に、鉛直移動機構60によりダイ30を塗工位置P1から上位置P2へ上昇させない。すなわち、ダイ30は、常に塗工位置P1に位置される。この場合には、ダイ30のリップ30eの先端の塗工液101がフィルム100に引っ張られることにより、
図8に示されるように、塗工部102の後端部102bに塗工液101の引きずりが発生し、当該塗工液101の引きずりによって引きずり部104が形成される。
【0049】
図9は、第二比較例の間欠塗工方法を説明するための図である。
図10は、第二比較例の間欠塗工方法によってフィルム100に形成された塗工部102の画像を示す図である。
図9に示される第二比較例の間欠塗工方法は、ダイ30の塗工終了と同時に、鉛直移動機構60によりダイ30を塗工位置P1から上位置P2への上昇を開始させる。この場合には、ダイ30のリップ30eの下部30e2に塗工液101が付着するため、
図10に示されるように、塗工部102の後端部102bに塗工液101の引きずりが発生し、当該塗工液101の引きずりによって引きずり部104が形成される。
【0050】
図11は、第三比較例の間欠塗工方法を説明するための図である。
図12は、第三比較例の間欠塗工方法によってフィルム100に形成された塗工部102の画像を示す図である。
図11に示される第三比較例の間欠塗工方法は、ダイ30の塗工終了よりも早い時点で、鉛直移動機構60によりダイ30を塗工位置P1から上位置P2への上昇を開始させる。この場合には、ダイ30の塗工中にダイ30が上昇することにより、
図12に示されるように、ダイ30のリップ30eの上部30e1および下部30e2に塗工液101が付着するため、塗工部102の後端部102bに塗工液101の引きずりが発生し、当該塗工液101の引きずりによって引きずり部104が形成される。
【0051】
上記第一~第三比較例の引きずり部104の後端部は、いずれも凹凸状となっている。また、フィルム100の搬送方向における引きずり部104の長さは、第二比較例と第一比較例とは同程度であり、第三比較例は第一および第二比較例よりも長い。
【0052】
なお、上記実施形態では、吸引機構40がシリンダ部材41とピストン42とを有した例が示されたが、これに限定されない。例えば、吸引機構40は、ダイヤフラムを有した構成であってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、バランスシリンダ80が設けられ例が示されたが、これに限定されない。例えば、バランスシリンダ80に代えて、ダイ30の重量と釣り合ってダイ30の重量を支えるカウンタウェイトを設けてもよい。バランスシリンダ80およびカウンタウェイトは、支持部とも称されうる。
【0054】
また、上記実施形態では、塗工位置P1は、吐出口30aの中心の鉛直方向の位置がバックアップロール10の中心軸C1の鉛直方向の位置と同じとなる位置である例が示されたが、これに限定されない。例えば、塗工位置P1は、吐出口30aの中心の鉛直方向の位置がバックアップロール10の中心軸C1の鉛直方向の位置とずれる位置であってもよい。一例として、塗工位置P1は、吐出口30aの中心の鉛直方向の位置がバックアップロール10の中心軸C1の鉛直方向の位置よりも上方D1となる位置であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、ダイ30が、吐出口30aから水平方向に塗工液101を吐出する例が示されたが、これに限定されない。例えば、ダイ30は、水平方向に対して斜めに塗工液101を吐出するように配置されてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、上方が鉛直方向の上方D1の例が示されたが、これに限定されない。例えば、上方は、バックアップロール10に対するダイ30の配置や、フィルム100の搬送経路等に応じて、鉛直方向ではなく上方に設定されてよい。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1…間欠塗工装置、10…バックアップロール、10a…外周面、20…供給機構、30…ダイ、30a…吐出口、40…吸引機構、60…鉛直移動機構(移動機構)、80…バランスシリンダ、90…流路、100…フィルム、100a…第一面、100b…第二面、100c…部分、101…塗工液、102…塗工部、102a…前端部、102b…後端部、D1…上方、P1…塗工位置。