(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】単層ビトリファイドボンド砥石
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20240726BHJP
B24D 3/16 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
B24D3/00 330G
B24D3/16
(21)【出願番号】P 2020045911
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】岩井 広幸
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 暁
(72)【発明者】
【氏名】花井 寛弥
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特許第3729700(JP,B2)
【文献】特公昭39-029600(JP,B1)
【文献】特開平11-300620(JP,A)
【文献】特開平06-114739(JP,A)
【文献】特開平09-193022(JP,A)
【文献】特開2012-056013(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0060130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に設けられた緻密なガラス質からなるボンド層と、表面が露出された状態で前記ボンド層によって前記基材上に単層で固着された無数の砥粒とを備え、
前記ボンド層には、前記ボンド層よりも高硬度であり、前記砥粒よりも平均粒径が
1%以上、30%以下であることにより、前記ボンド層が前記砥粒となす濡れ角を小さくして前記砥粒を前記ボンド層に強固に保持する無数のフィラーが含有され
、
前記各フィラーは、前記ボンド層中で0.10~50.00体積%含有され、
前記各フィラーは前記ボンド層の表面でフィラー層を形成しており、
前記フィラー層は、前記ボンド層の表面からの厚みに対し、1~70%であり、
前記各フィラーは、前記ボンド層の表面に対し、被覆率が20~100%であり、
前記各砥粒は、前記ボンド層の表面において、密度が40%以下で固着されていることを特徴とする単層ビトリファイドボンド砥石。
【請求項2】
前記各フィラーの平均粒径は前記砥粒の20%以下である請求項1記載の単層ビトリファイドボンド砥石。
【請求項3】
前記各フィラーの平均粒径は前記砥粒の10%以下である請求項2記載の単層ビトリファイドボンド砥石。
【請求項4】
前記砥粒はダイヤモンドである請求項1乃至
3のいずれか1項記載の単層ビトリファイドボンド砥石。
【請求項5】
前記各フィラーは、シリカ、イットリア安定化ジルコニア、アルミナ、SiC、CBN又はダイヤモンドである請求項
4記載の単層ビトリファイドボンド砥石。
【請求項6】
前記各フィラーは、SiCである請求項
5記載の単層ビトリファイドボンド砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単層ビトリファイドボンド砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の単層ビトリファイドボンド砥石が開示されている。この単層ビトリファイドボンド砥石は、基材と、ボンド層と、無数の砥粒とを備えている。ボンド層は、基材の表面に設けられた緻密なガラス質からなる。無数の砥粒は、表面が露出された状態でボンド層によって基材上に単層で固着されている。特許文献1の単層ビトリファイドボンド砥石は、各砥粒が、第1砥粒と、第1砥粒よりも平均粒径が小さい第2砥粒とからなる。
【0003】
この単層ビトリファイドボンド砥石はドレッシング工具として具体化され、ドレッシング加工の際に用いられる。この際、第1砥粒間のボンド層の表面に第2砥粒が固着されているので、第1砥粒間のボンド層に相手材である加工物等の切粉が接触することによるボンド層の破損を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、単層ビトリファイドボンド砥石は、砥粒が単層でしか固着されていないため、砥粒の脱落が起こってしまうと、研削抵抗が増大し、研削ができなくなってしまう。特に単層ビトリファイドボンド砥石を乾式研削に用いる場合、研削抵抗の増加や切粉によりボンド層の摩耗の影響が大きくなり、砥粒が脱落し易くなる。このため、単層ビトリファイドボンド砥石が早期に寿命を迎えてしまう。
【0006】
この点、上記従来の単層ビトリファイドボンド砥石は、第1砥粒と第2砥粒とを平均粒径の大小のみで区別している。具体的には、平均粒径が150μmの第1砥粒と、平均粒径が110μmの第2砥粒とを用いたり、平均粒径が150μmの第1砥粒と、平均粒径が75μmの第2砥粒とを用いたりしているに過ぎない。発明者らの試験結果によれば、第2砥粒の平均粒径が砥粒の平均粒径の一定値以下でなければ、第1砥粒がボンド層に保持され難い。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ボンド層の破壊防止効果を確保しつつ、砥粒がボンド層から脱落し難く、長期の寿命を実現できる単層ビトリファイドボンド砥石を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の単層ビトリファイドボンド砥石は、基材と、前記基材の表面に設けられた緻密なガラス質からなるボンド層と、表面が露出された状態で前記ボンド層によって前記基材上に単層で固着された無数の砥粒とを備え、
前記ボンド層には、前記ボンド層よりも高硬度であり、前記砥粒よりも平均粒径が1%以上、30%以下であることにより、前記ボンド層が前記砥粒となす濡れ角を小さくして前記砥粒を前記ボンド層に強固に保持する無数のフィラーが含有され、
前記各フィラーは、前記ボンド層中で0.10~50.00体積%含有され、
前記各フィラーは前記ボンド層の表面でフィラー層を形成しており、
前記フィラー層は、前記ボンド層の表面からの厚みに対し、1~70%であり、
前記各フィラーは、前記ボンド層の表面に対し、被覆率が20~100%であり、
前記各砥粒は、前記ボンド層の表面において、密度が40%以下で固着されていることを特徴とする。
【0009】
発明者らの試験結果によれば、ボンド層中のフィラーの平均粒径が砥粒の平均粒径の30%以下であれば、砥粒がボンド層に強固に保持され、砥粒がボンド層から脱落し難くなることから、長期の寿命を実現できる。
【0010】
すなわち、上記公報において、第1砥粒を本発明に係る砥粒とし、第2砥粒を本発明に係るフィラーとした場合、上記公報のように、砥粒の平均粒径を150μmとし、フィラーの平均粒径を110μmとすれば、フィラーの平均粒径は砥粒の平均粒径の73%を超えてしまう。また、砥粒の平均粒径を150μmとし、フィラーの平均粒径を75μmとすれば、フィラーの平均粒径は砥粒の平均粒径の50%となってしまう。発明者らの試験結果では、平均粒径が砥粒の平均粒径の50%であるフィラーを用いた場合、砥粒がボンド層に保持され難く、砥粒の脱落によって早期に寿命を迎えてしまう。一方、平均粒径が砥粒の平均粒径の30%以下であるフィラーを用いた場合には、砥粒がボンド層に強固に保持され、砥粒がボンド層から脱落し難くなることから、長期の寿命を実現できる。
【0011】
発明者らはこの理由を以下のように推察している。すなわち、砥粒よりもかなり小さいフィラーをボンド層に含有すれば、ボンド層が砥粒となす濡れ角が小さくなる。これは、ボンド層の溶融時にボンド層にフィラーの表面張力が作用するからであると考えられる。このため、この場合には、ボンド層が強力に砥粒を保持し、砥粒にボンド層から脱落するように作用する力に対抗し易い。フィラーの平均粒径が砥粒の平均粒径の30%以下であれば、この作用効果が生じると考えられる。しかし、砥粒とほぼ同等の大きさのフィラーでは、ボンド層にフィラーを含有させない場合と同様、ボンド層が砥粒となす濡れ角が90°に近く、ボンド層が砥粒を保持する力が向上していない。このため、その場合には、砥粒にボンド層から脱落するように作用する力に十分に対抗できず、砥粒がボンド層から早期に脱落すると考えられる。
【0012】
また、この単層ビトリファイドボンド砥石では、砥粒間のボンド層の表面にフィラーが固着されているので、砥粒間のボンド層に相手材である加工物等の切粉が接触することによるボンド層の破損を防止できる。
【0013】
したがって、本発明の単層ビトリファイドボンド砥石では、ボンド層の破壊防止効果を確保しつつ、砥粒がボンド層から脱落し難く、長期の寿命を実現できる。
【0014】
基材は、剛性を有する基材の他、ボンド層を変形させない程度の可撓性を有する基材を採用することができる。剛性を有する基材としては、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、ムライト等のセラミックス、鉄、SUS、銅等の金蔵、歪点が600°C以上のガラス等を採用することができる。可撓性を有する基材としては、天然繊維、合成繊維、炭素繊維等の繊維から成る織布又は不織布からなるシートや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アラミド等の合成樹脂、アルミニウム、銅等の金属からなる単層又は複層のフィルムを採用することができる。
【0015】
緻密なガラス質からなるボンド層としては、硼珪酸ガラス等のフリットを含むガラス結合剤の粉末又はペーストを採用し、その粉末又はペーストを基材上に形成して溶融、固化させたものを採用することができる。本発明は単層ビトリファイドボンド砥石であり、ボンド層は砥粒を単層で固着しているだけであることから、ボンド層は気孔を実質的に含まない。
【0016】
砥粒としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ムライト、CBN、イットリア安定化ジルコニア、ダイヤモンド等を採用することができる。
【0017】
フィラーとしても、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ムライト、CBN、イットリア安定化ジルコニア、ダイヤモンド等を採用することができる。特に、アルミナ、SiC、CBN及びダイヤモンドが好ましい。
【0018】
発明者らの試験結果によれば、各フィラーの平均粒径は砥粒の20%以下であることがより好ましい。各フィラーの平均粒径が砥粒の10%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
発明者らの試験結果によれば、各フィラーは、ボンド層中で0.10~50.00体積%含有されていることが好ましい。各フィラーがボンド層中で0.10体積%未満で含有されているだけでは、効果が十分ではない。各フィラーがボンド層中で60.00体積%を超えて含有されている場合には、ガラス質が不足し、ボンド層が砥粒を十分に保持できない。各フィラーがボンド層中で1.00~30.00体積%含有されていることがより好ましい。各フィラーがボンド層中で1.00~10.00体積%含有されていることがさらに好ましい。
【0020】
発明者らの試験結果によれば、各フィラーはボンド層の表面でフィラー層を形成していることが好ましい。そして、フィラー層は、ボンド層の表面からの厚みに対し、1~70%であることが好ましい。フィラー層がボンド層の表面からの厚みに対し、10~50%であることがより好ましい。フィラー層がボンド層の表面からの厚みに対し、20~30%であることがさらに好ましい。
【0021】
発明者らの試験結果によれば、各フィラーは、ボンド層の表面に対し、被覆率が20~100%であることが好ましい。各フィラーは、被覆率が50~100%であることがより好ましい。各フィラーは、被覆率が70~90%であることがさらに好ましい。
【0022】
発明者らの試験結果によれば、各砥粒は、ボンド層の表面において、密度が40%以下で固着されていることが好ましい。砥粒密度が高いと、切粉が目詰まりし易くなり、フィラーの効果が得られない。各砥粒は、ボンド層の表面において、5%以下で固着されていることがさらに好ましい。
【0023】
フィラーは、ボンド層の表面から20μmまでの深さに含有されていることが好ましい。また、フィラーは、ボンド層の奥から表面に向けて含有量が徐々に高くなっていることが好ましい。この場合、ボンド層の破壊防止効果を確保し易い。
【発明の効果】
【0024】
本発明の単層ビトリファイドボンド砥石では、ボンド層の破壊防止効果を確保しつつ、砥粒がボンド層から脱落し難いことによって長期の寿命を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施例に相当する試験品1-2の模式断面図である。
【
図2】
図2は、実施例に相当する試験品1-2に係り、レーザ顕微鏡3D画像である。
【
図3】
図3は、実施例に相当する試験品1-2に係り、レーザ顕微鏡2D画像である。
【
図4】
図4は、実施例に相当する試験品1-2に係り、
図3の線上の断面形状を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例に相当する試験品1-2のさらなる拡大模式断面図である。
【
図6】
図6は、実施例に相当する試験品 の拡大模式断面図である。
【
図7】
図7は、実施例に相当する試験品 の拡大模式断面図である。
【
図8】
図8は、比較例に相当する試験品1-1の模式断面図である。
【
図9】
図9は、比較例に相当する試験品1-1に係り、レーザ顕微鏡3D画像である。
【
図10】
図10は、比較例に相当する試験品1-1に係り、レーザ顕微鏡2D画像である。
【
図11】
図11は、比較例に相当する試験品1-1に係り、
図10の線上の断面形状を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を試験1~7により説明するとともに、実施例と比較例とを説明する。
【0027】
(試験1)
まず、アルミナ製の基材と、硼珪酸ガラス等のフリットを含む公知のガラス結合剤と、80メッシュアンダーのダイヤモンド(平均粒径177μm)からなる砥粒とを用意した。平均粒径はJISB4130による。また、フィラーとして、平均粒径が2μmのSiC粉末を用意した。フィラーの粒径はレーザー回折法により測定し、体積換算のD(50)を平均粒径とする(マルバーン社製マスターサイザー2000)。
【0028】
ターピネオールを溶媒としてガラス結合剤をペーストとする。このペーストにフィラーを混合し、フィラー入りペーストを得る。ペースト中におけるフィラーの含有量は、ペーストの固形分に対して10.0体積%である。つまり、フィラー入りペーストのみによってボンド層が形成されれば、そのボンド層中のフィラーは10体積%となる。
【0029】
基材上にペースト又はフィラー入りペーストをコーティングし、第1準備品とする。この際、試験品1-1については、フィラーの入っていないペーストをコーティングした。試験品1-2については、フィラーの入っていないペーストをコーティングした後、フィラー入りペーストを1度コーティングした。試験品1-3については、フィラーの入っていないペーストをコーティングした後、フィラー入りペーストを2度コーティングした。試験品1-4については、フィラー入りペーストのみをコーティングした。ペースト又はフィラー入りペーストをコーティングしてなるコーティング層の厚みはいずれも同じである。
【0030】
各第1準備品上に続けて砥粒を振り掛け、第2準備品とする。各第2準備品を乾燥し、コーティング層の水を蒸発させて第3準備品とする。各第3準備品を非酸化雰囲気下、900°Cで焼成してガラス結合剤を溶融させ、一定時間の経過後、徐冷する。こうして、ガラス結合剤を固化させて緻密なガラス質からなるボンド層を形成する。常温まで冷却し、各試験品1-1~4を得る。
【0031】
試験品1-2の模式断面図を
図1に示す。試験品1-1の模式断面図を
図8に示す。
図1及び
図8に示すように、試験品1-1、1-2は、基材1と、基材1の表面に設けられた緻密なガラス質からなるボンド層3と、表面が露出された状態でボンド層3によって基材1上に単層で固着された無数の砥粒5とを備えている。試験品1-2は、
図1に示すように、ボンド層3に無数のフィラー7が含有されている。一方、試験品1-1は、
図8に示すように、ボンド層3にフィラーは含有されていない。
【0032】
各試験品1-1~4において、砥粒5の突き出し量、つまり各砥粒5がボンド層3から突出している長さの平均値は100μmである。ボンド層3の厚みはいずれも70μm±10μmである。各試験品1-2~4において、各フィラー7は、ボンド層3の表面に対し、被覆率が90%である。
【0033】
以下の条件下、各試験品1-1~4を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。
加工物:単結晶Siウエハ
研削条件:10m/分
切り込み量:20μm
研削方式:乾式研削
【0034】
この際、1パスとして、10mm幅の加工物の短冊の片方から切込み、もう片方へ加工物と各試験品とを平行移動する。10パス以内に砥粒の脱落があった場合を「×」、10パスを超え、50パス以内に砥粒の脱落があった場合を「△」、50パスを超え、100パス以内に砥粒の脱落があった場合を「〇」、100パスでも砥粒に脱落がない場合を「◎」とした。結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
表1に示すように、試験品1-2~4のように、ボンド層3中にフィラー7が存在すれば、砥粒5がボンド層3から脱落し難く、寿命が長くなっている。
【0037】
また、試験品1-2~4では、砥粒5間のボンド層3の表面にフィラー7が固着されているので、砥粒5間のボンド層3に加工物の切粉が接触することによるボンド層3の破損を防止できる。
【0038】
(試験2)
フィラーの平均粒径を種々異ならせ、試験1と同様にして試験品2-1~6を得る。ボンド層3中のフィラー7の平均粒径、つまりフィラー7の平均粒径/砥粒5の平均粒径は、試験品2-1が50%、試験品2-2が30%、試験品2-3が20%、試験品2-4が10%、試験品2-5が5%、試験品2-6が1%である。
【0039】
試験1と同一の条件下、各試験品2-1~6を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表2に示す。
【0040】
【0041】
表2に示すように、試験品2-1は、ボンド層3中のフィラー7の平均粒径が砥粒5の平均粒径の50%であり、10パス以内に砥粒の脱落を生じてしまっている。一方、試験品2-2~6は、ボンド層3中のフィラー7の平均粒径が砥粒5の平均粒径の30%以下であるため、砥粒5がボンド層3から脱落し難くなっている。特に、試験品2-3~6は、各フィラー7の平均粒径が砥粒5の20%以下であるため、50パスを超えても砥粒5の脱落を生じない。また、試験品2-4~6は、各フィラー7の平均粒径が砥粒5の10%以下であるため、100パスを超えても砥粒5の脱落を生じない。したがって、試験品2-2~6は長期の寿命を実現できることがわかる。
【0042】
試験品1-2のレーザ顕微鏡3D画像を
図2に示し、レーザ顕微鏡2D画像を
図3に示す。また、
図3の線上の断面形状を
図4に示す。さらに、試験品1-2のさらなる拡大模式断面図を
図5に示す。
図2~5に示すように、砥粒5よりもかなり小さいフィラー7をボンド層3に含有すれば、ボンド層3が砥粒5となす濡れ角θが小さくなっている。このため、この場合には、ボンド層3が強力に砥粒5を保持し、砥粒5にボンド層3から脱落するように作用する力に対抗し易いと推察される。
【0043】
一方、試験品1-1のレーザ顕微鏡3D画像を
図9に示し、レーザ顕微鏡2D画像を
図10に示す。また、
図10の線上の断面形状を
図11に示す。
図9~11に示すように、フィラー7をボンド層3に含有していなければ、砥粒5とほぼ同等の大きさのフィラー7を含有させている場合と同様、ボンド層3と砥粒5との境界は急峻であり、ボンド層3が砥粒5となす濡れ角が90°に近い。このため、この場合には、ボンド層3が砥粒5を保持する力が向上しておらず、砥粒5にボンド層3から脱落するように作用する力に十分に対抗できず、砥粒5がボンド層3から早期に脱落すると推察される。
【0044】
(試験3)
ボンド層3中のフィラー7の体積%を種々異ならせ、試験1と同様にして試験品3-1~7を得る。ボンド層3中のフィラー7の体積%は、試験品3-1が0.01%、試験品3-2が0.10%、試験品3-3が1.00%、試験品3-4が10.00%、試験品3-5が30.00%、試験品3-6が50.00%、試験品3-7が60.00%である。
【0045】
試験1と同一の条件下、各試験品3-1~7を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表3に示す。
【0046】
【0047】
表3に示すように、各フィラー7は、ボンド層3中で0.10~50.00体積%含有されていることが好ましいことがわかる。各フィラー7がボンド層3中で1.00~30.00体積%、特に1.00~10.00体積%含有されていることがより好ましいことがわかる。
【0048】
(試験4)
試験1と同様、フィラーの入っていないペーストをコーティングした後、フィラー入りペーストをコーティングする。フィラーの入っていないペーストからなるコーティング層の厚みと、フィラー入りペーストからなるコーティング層の厚みを変化させる。フィラー入りペーストからなるコーティング層によって、ボンド層3中のフィラー7は、
図6に示すように、フィラー層7aを形成する。こうして、ボンド層3の厚みTに対するフィラー層7aの厚みTfを種々異ならせ、試験1と同様にして試験品4-1~7を得る。
【0049】
ボンド層3の厚みTに対するフィラー層7aの厚みTfは、試験品4-1が1%、試験品4-2が10%、試験品4-3が20%、試験品4-4が30%、試験品4-5が50%、試験品4-6が70%、試験品4-7が80%である。
【0050】
試験1と同一の条件下、各試験品4-1~7を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表4に示す。
【0051】
【0052】
表4に示すように、フィラー層7aは、ボンド層3の表面からの厚みに対し、1~70%であることが好ましいことがわかる。フィラー層7aがボンド層3の表面からの厚みTに対し、10~50%、特に20~30%であることがより好ましいことがわかる。
【0053】
(試験5)
ペースト中のフィラー7の含有率を種々異ならせ、試験1と同様にして試験品5-1~7を得る。フィラー層7aによるボンド層3の被覆率は、試験品5-1が10%、試験品5-2が20%、試験品5-3が30%、試験品5-4が50%、試験品5-5が70%、試験品5-6が90%、試験品5-7が100%である。
【0054】
試験1と同一の条件下、各試験品5-1~7を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表5に示す。
【0055】
【0056】
表5に示すように、各フィラー7は、ボンド層3の表面に対し、被覆率が20~100%であることが好ましいことがわかる。各フィラー7は、被覆率が50~100%、特に70~90%であることがより好ましいことがわかる。
【0057】
(試験6)
砥粒5の密度を種々異ならせ、試験1と同様にして試験品6-1~6を得る。砥粒密度は、試験品6-1が60%、試験品6-2が50%、試験品6-3が40%、試験品6-4が30%、試験品6-5が5%、試験品6-6が1%である。
【0058】
試験1と同一の条件下、各試験品6-1~6を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表6に示す。
【0059】
【0060】
表6に示すように、各砥粒5は、ボンド層3の表面において、密度が40%以下で固着されていることが好ましい。各砥粒5は、ボンド層3の表面において、密度が5%以下で固着されていることがより好ましい。
【0061】
(試験7)
フィラー7の種類を種々異ならせ、試験1と同様にして試験品7-1~7を得る。フィラー7は、試験品7-2がシリカ、試験品7-3が3YSZ(3mol%イットリア安定化ジルコニア)、試験品7-4がアルミナ、試験品7-5がSiC、試験品7-6がCBN、試験品7-7がダイヤモンドである。フィラー7を含有しないボンド層3のビッカース硬さ(Hv)は600である。各フィラー7のビッカース硬さ(Hv)は、シリカが1000、3YSZが1200、アルミナが2300、SiCが2400、CBNが4000、ダイヤモンドが7000である。
【0062】
試験1と同一の条件下、各試験品7-1~7を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表7に示す。
【0063】
【0064】
表7に示すように、フィラー7としては、シリカ、YSZ等を採用できることがわかる。特に、アルミナ、SiC、CBN及びダイヤモンドがフィラー7として好ましいことがわかる。
【0065】
以上において、本発明を試験品1-2等に即して説明したが、本発明は上記試験品1-2等に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0066】
例えば、本発明の単層ビトリファイドボンド砥石は、ボンド層3全体にフィラー7を含有させてもよいが、
図1に示すように、ボンド層3の表面のみにフィラー7を含有させることが好ましい。ボンド層3の表面から20μmまでの深さにフィラー7を含有させることが好ましい。
【0067】
また、
図7に示すように、ボンド層を奥側の第1層31と表面側の第2層32とに分け、ペースト中のフィラー7の含有量を変化させることにより、第1層31には少量のフィラー7を含有させ、第2層32には多量のフィラー7を含有させ、奥から表面に向けてフィラー7の含有量が徐々に高くなるようにすることも好ましい。ボンド層3を3層以上にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明はドレッシング工具等に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…基材
3…ボンド層(31…第1層、32…第2層)
5…砥粒
7…フィラー
7a…フィラー層