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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20240726BHJP
   F16J 15/3252 20160101ALI20240726BHJP
   F16J 15/3276 20160101ALI20240726BHJP
   F16J 15/3224 20160101ALI20240726BHJP
【FI】
F16J15/3204 101
F16J15/3252
F16J15/3276
F16J15/3224
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020094014
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021188675
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 裕
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-298074(JP,A)
【文献】特開2013-217392(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181210(WO,A1)
【文献】実開昭59-147937(JP,U)
【文献】特開平10-082467(JP,A)
【文献】特開2010-242791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
F16J 15/3252
F16J 15/3276
F16J 15/3224
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部材と、当該円筒部材に挿通される軸との間に装着され、前記円筒部材に充填された流体をシールする密封装置であって、
前記軸が挿入される孔を有するベース部と、
前記ベース部の流体側に固定され、前記円筒部材の内周面に接触する第1密封部材と、
前記ベース部の前記流体側に固定され、前記軸に摺動自在に接触する第2密封部材と、
前記ベース部の大気側に設けられ、前記円筒部材の内周面に接触するリップ、および、前記軸に摺動自在に接触するダストシールが形成された弾性体と、
を含む密封装置であって、
前記円筒部材の端部が内周に向かって折り曲げられ、
前記円筒部材の内周面から前記軸側に張り出した張出部分と、前記ベース部とで前記弾性体の一部が挟まれる
密封装置
【請求項2】
前記ベース部は、プレートと補強プレートとを含み、
前記第1密封部材および前記第2密封部材は、前記プレートに設けられ、
前記弾性体は、前記補強プレートに設けられる
請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記ベース部は、プレートの単体であり、
前記第1密封部材、前記第2密封部材および前記弾性体が前記プレートに設けられる
請求項1に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
密封装置が適用されるショックアブソーバーは、次のような構造となっている。具体的には、ショックアブソーバーは、ピストンに連結された軸と、当該軸の外周側において同心に配置された円筒部材とを含み、当該軸に発生する軸方向の衝撃を、円筒部材の内部空間に充填されたオイル等の流体の粘性を用いて吸収する。密封装置は、軸と円筒部材との間における環状の隙間をシールし、流体が大気側に漏れないようにするために設けられる。密封装置は、例えば特許文献1に記載されているように、円筒部材の内周面に接触するアウターシール(第1密封部材)と、軸に摺動自在に接触するインナーシール(第2密封部材)とを含み、充填された流体が大気側に漏出するのを防止する構成が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-13138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術において、円筒部材に充填される流体の種類や、熱、圧力等によってアウターシールの弾性力が低下して、密封装置から流体が漏出してしまうことがあった。このような事情に鑑みて、本発明は、密封装置からの流体の漏出を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様に係る密封装置は、円筒部材と、当該円筒部材に挿通される軸との間に装着され、前記円筒部材に充填された流体をシールする密封装置であって、前記軸が挿入される孔を有するベース部と、前記ベース部の流体側に固定され、前記円筒部材の内周面に接触する第1密封部材と、前記ベース部の前記流体側に固定され、前記軸に摺動自在に接触する第2密封部材と、前記ベース部の大気側に設けられ、前記円筒部材の内周面に接触するリップ、および、前記軸に摺動自在に接触するダストシールが形成された弾性体と、を含む。第1態様によれば、第1密封部材の弾性力が低下して、当該第1密封部材から流体が漏れ出しても、漏れ出した流体は、リップによってシールされる。
【0006】
第1態様の具体例(第2態様)において、前記円筒部材の端部が内周に向かって折り曲げられ、前記円筒部材の内周面から前記軸側に張り出した張出部分と、前記ベース部とで前記弾性体の一部が挟まれる。第2態様によれば、第1密封部材から漏れ出した流体は、弾性体のうち、リップに加え、張出部分とベース部とで挟まれる部分によってシールされる。
【0007】
第2態様の具体例(第3態様)において、前記ベース部は、プレートと補強プレートとを含み、前記第1密封部材および前記第2密封部材は、前記プレートに設けられ、前記弾性体は、前記補強プレートに設けられる。第3態様によれば、プレートが補強プレートで補強されるので、流体からの高圧力に対処できる。
【0008】
第2態様の別の具体例(第4態様)において、前記ベース部は、プレートの単体であり、前記第1密封部材、前記第2密封部材および前記弾性体が前記プレートに設けられる。第4態様によれば、ベース部を2つ以上のパーツで構成する場合と比較して、部品点数が削減される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、密封装置からの流体の漏出を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る密封装置の半断面図である。
図2】密封装置の組み立て前の状態を示す要部拡大半断面図である。
図3】密封装置をショックアブソーバーに組み込む前の状態を示す半断面図である。
図4】第2実施形態に係る密封装置の半断面図である。
図5】比較例に係る密封装置の半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、第1実施形態に係る密封装置10aの構成を示す半断面図であり、図2は、密封装置10aの組み立て前の状態を示す要部拡大半断面図である。
図1に示されるように、密封装置10aは、ショックアブソーバーに装着される。このショックアブソーバーは、図示省略されたピストンが図の上方に連結されて、矢印で示される軸方向に往復動する軸70と、当該軸70の外周側に同心に配置し、金属などの剛体からなる円筒部材80とを含む。円筒部材80の内部空間にはオイルなどの流体90が充填される。
なお、密封装置10aは、軸70を中心に左右対称であるので、図1および図2等においては、左半分だけを図示し、右半分の図示を省略する。
【0012】
円筒部材80の図において下方の端部は、内周に向かって折り曲げられ、内周面から軸70側に張り出して、張出部分84となっている。密封装置10aは、流体90からの圧力によって図において下方に押しつけられるが、張出部分84がストッパーとして機能するので、図1に示されるような位置で静止した状態となる。
このような状態において密封装置10aは、軸70と円筒部材80との間の環状の隙間をシールして、流体90が流体側Oから大気側Aへの漏出を防ぐ。
【0013】
密封装置10aは、ベース部40とリップホルダー50とリップシール60とを含む。
ベース部40は、本実施形態ではプレート42と補強プレート46とを含む。このうち、プレート42は、円板状の剛体であって、ほぼ中心において軸70に遊挿される孔43を有する。
【0014】
第1密封部材の一例であるリップホルダー50は、環状であってゴムなどの弾性体であり、プレート42における流体側Oの平端面(図において上面)に、例えば接着剤によって架橋接着される。リップホルダー50は、円筒部材80の内周面82に接触する突起52と、プレート42の平端面に接着される面54と、リップシール60を挟持するためのリップ保持溝56(図2参照)とを備える。突起52は、リップホルダー50の外周部分である。
リップ保持溝56は、リップシール60を嵌め込むための溝であり、リップ保持溝56の断面形状は、内径方向に向かって開口する形状となっている。
【0015】
第2密封部材の一例であるリップシール60は、環状であってゴムなどの弾性体であり、軸70に接触する突起62と、リップホルダー50とプレート42との間に挟持される取付部64と、を含む。突起62は、環状のリップシール60の内周部分である。リップシール60の取付部64は、リップホルダー50のリップ保持溝56に嵌め込まれる。すなわち、リップシール60は、リップホルダー50への嵌め込みによってプレート42に固定される。
【0016】
補強プレート46は、円板状の剛体であって、プレート42の大気側Aに当該プレート42と重ねられる。補強プレート46は、中心に孔43とほぼ同径の孔47を同心に有する。補強プレート46には、環状であってゴムなどの弾性体20が例えば接着剤によって架橋接着される。弾性体20は、ダストシール22とリップ24と平端面26とを含み、補強プレート46の大気側Aをほぼ覆うように形成される。
【0017】
ダストシール22は、環状の弾性体20における内周部分であり、軸70に摺動自在に接触する。このため、軸70が往復動した際に、埃などの異物が大気側Aから流体側Oへの侵入することが、ダストシール22によって防止される。
リップ24は、環状の弾性体20における外周部分であり、円筒部材74の内周面82に接触する。
また、平端面26は、弾性体20における大気側Aの面であり、平端面26の一部は、円筒部材80における張出部分84に接触する。換言すれば、張出部分84と補強プレート46とで弾性体20の一部が挟まれる。
【0018】
なお、プレート42および補強プレート46を接着等してもよいが、ショックアブソーバーに装着された際には、張出部分84で移動が制限された状態で、流体90からの圧力によって図において下方に押しつけられる。このため、プレート42および補強プレート46は、接着しなくても、装着された場合には、ほぼ固定状態となる。
【0019】
図3は、密封装置10を円筒部材80の内部に組み込む前の状態を示す図である。図3に示されるように、密封装置10aは、下方が折り曲げられていない状態の円筒部材80に矢印の方向に挿入される。密封装置10aの挿入後、図1に示されるように、円筒部材80の下方が内周に向かって折り曲げられる、すなわちカシメられる。
この後、流体90が図において上方から充填されて、流体90の圧力によって、密封装置10aが張出部分84に押しつけられる。
【0020】
なお、組み込む前の状態において、円筒部材80の内周面82から軸70までの径方向の距離L1は、突起52の先端から突起62までの径方向の距離L2よりも短い。また、距離L1は、リップ24の先端からダストシール22の先端までの径方向の距離L3よりも短い。
このため、密封装置10が円筒部材80の内部に組み込まれると、突起52の先端は変形した状態で内周面82に接触する。同様に、突起62の先端は変形した状態で軸70に接触し、リップ24の先端は変形した状態で内周面82に接触し、ダストシール22の先端は変形した状態で軸70に接触する。なお、ここでいう変形とは、組み込む前の形状から変化することをいう。
【0021】
密封装置10aが組み込まれて、円筒部材80の内部空間に流体90が充填されると、リップホルダー50およびリップシール60は、当該流体90に曝される。このため、流体90の種類や、温度、圧力等の条件次第では、リップホルダー50およびリップシール60の弾性力が低下し、シール性能が低下してしまう場合がある。
【0022】
例えば、図5に示されるような比較例に係る密封装置100では、詳細には、リップ24を有さず、ベース部400と張出部分84とで弾性体20の一部が挟まれない密封装置100では、リップホルダー50の弾性力が低下すると、突起52のシール性能が低下するので、突起52から流体90から漏出し、漏出した流体90がベース部400と張出部分84との間を介して染み出してくる場合がある。
【0023】
これに対して、第1実施形態に係る密封装置10aでは、突起52のシール性能が低下して、突起52から流体90から漏出しても、漏出した流体90は、リップ24による内周面82への接触、さらに平端面26による張出部分84への接触によってシールされる。このため、密封装置10aからの流体の漏出を低減することができる。
【0024】
密封装置10aでは、弾性体20が通常時であれば流体90に直接曝されず、高温、高圧になりにくい。このため、弾性体20の弾性力は、リップホルダー50と比較して低下しにくいので、シール性能が維持されやすい。
【0025】
また、密封装置10aでは、突起52から漏出した流体90は、リップ24および平端面26による接触によってシールされるので、内周面82から軸70に向かう張出部分84の距離が短くて済む。
一方、図5に示される密封装置100では、リップ24が存在せず、ベース部400と張出部分84とで弾性体20が挟まれない。このため、密封装置100において、突起52から漏出した流体90の染み出しを防ぐには、張出部分84の距離(カシメ量)を長くとる必要がある。張出部分84の距離を長くとるためには、円筒部材80の端部を折り曲げる際に大きな荷重が必要となる。
第1実施形態に係る密封装置10aでは、張出部分84の距離が短くて済むので、円筒部材80の端部を折り曲げる際の荷重が小さくて済む、という利点もある。
【0026】
密封装置10aでは、プレート42が補強プレート46に重ねられるので、ベース部40の強度が増す。このため、流体90から高圧力に耐えることができる。
【0027】
なお、ダストシール22には、異物の侵入を防ぐ機能のほか、突起62から漏出した流体90をシールする機能がある。このため、突起62を含むリップシール60の弾性力の低下は、突起52を含むリップホルダー50と比較して問題となりにくい。
【0028】
図4は、第2実施形態に係る密封装置10bの構成を示す片側断面図である。
第1実施形態に係る密封装置10aでは、ベース部40がプレート42および補強プレート46の重ね合わせで構成されたが、第2実施形態に係る密封装置10bでは、図4に示されるベース部40がプレート42のみで構成される。
【0029】
密封装置10bでは、プレート42の流体側Oとなる面にリップホルダー50が架橋接着され、プレート42の大気側Aとなる面に弾性体20が架橋接着される。接着後、リップホルダー50にリップシール60が組み込まれる。
なお、プレート42へのリップホルダー50または弾性体20の接着順は、リップホルダー50が先であってもよいし、弾性体20が先でもよいし、双方同時でもよい。
【0030】
第2実施形態に係る密封装置10bにおいても、突起52のシール性能が低下して、突起52から流体90から漏出しても、漏出した流体90は、リップ24による内周面82への接触および平端面26による張出部分84への接触によってシールされる。このため、密封装置10bからの流体の漏出を低減することができる。
また、密封装置10bでは、ベース部40がプレート42の単体であるので、密封装置10aと比較して、部品点数を削減することができる。
【符号の説明】
【0031】
10a、10b…密封装置、20…弾性体、22…ダストシール、24…リップ、52…突起、62…突起、70…軸、80…円筒部材、82…内周面、84…張出部分、90…流体。
図1
図2
図3
図4
図5