(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】調整力計量装置、調整力計量システム、調整力計量方法、プログラム、及び計測器
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240726BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240726BHJP
H02J 3/14 20060101ALI20240726BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20240726BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240726BHJP
G16Y 10/35 20200101ALI20240726BHJP
G16Y 20/30 20200101ALI20240726BHJP
G16Y 40/20 20200101ALI20240726BHJP
G16Y 40/30 20200101ALI20240726BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
H02J3/00 180
H02J3/14 160
H02J3/46
G06Q50/06
G16Y10/35
G16Y20/30
G16Y40/20
G16Y40/30
(21)【出願番号】P 2020135162
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】広江 隆治
(72)【発明者】
【氏名】井手 和成
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 遼
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170151(JP,A)
【文献】特開2019-170152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
H02J 13/00
G06Q 50/06
G16Y 10/35
G16Y 20/30
G16Y 40/20
G16Y 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置であって、
当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、
所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部と、
算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、
を備える調整力計量装置。
【請求項2】
前記調整力演算部は、前記確率分布において前記有効電力変動が負の値となる領域をペナルティとして調整力から減じる、
請求項
1に記載の調整力計量装置。
【請求項3】
管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置であって、
当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、
前記接続点において授受された有効電力の計測誤差の統計モデル、及び前記接続点における周波数の計測誤差の統計モデルの少なくとも一方と、前記送配電網における調整力係数を正規分布で表す調整力計数の統計モデルと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値及び前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部と、
算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、
を備える調整力計量装置。
【請求項4】
前記計測値取得部は、取得した前記周波数変動に対し、所定の伝達関数によるフィルタリングを実施する、
請求項1から
3の何れか一項に記載の調整力計量装置。
【請求項5】
前記調整力演算部は、調整力提供手段による定常的な出力を前記周波数変動で按分した値を差し引いて前記調整力を算出する、
請求項1から
4の何れか一項に記載の調整力計量装置。
【請求項6】
請求項1から
5の何れか一項に記載の調整力計量装置と、
前記送配電網と前記調整力提供手段との接続点に設置され、当該接続点において授受される有効電力と、当該接続点における周波数とを計測可能な計測器と、
を備え、
前記計測値取得部は、前記計測器を通じて、前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とを取得する、
調整力計量システム。
【請求項7】
管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量方法であって、
当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得するステップと、
所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出するステップと、
算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出するステップと、
を有する調整力計量方法。
【請求項8】
管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、前記コンピュータに、
当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得するステップと、
所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出するステップと、
算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出するステップと、
を実行させるプログラム。
【請求項9】
管理対象とする送配電網と、当該送配電網に対し電力需給バランスの調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点に設置される計測器であって、
前記接続点において授受される有効電力と、当該接続点における周波数とを計測可能なセンサと、
前記センサを通じて、前記有効電力の計測値と、前記周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、
所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部と、
算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、
を備える計測器。
【請求項10】
管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量方法であって、
当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得するステップと、
前記接続点において授受された有効電力の計測誤差の統計モデル、及び前記接続点における周波数の計測誤差の統計モデルの少なくとも一方と、前記送配電網における調整力係数を正規分布で表す調整力計数の統計モデルと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値及び前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出するステップと、
算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出するステップと、
を有する調整力計量方法。
【請求項11】
管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、前記コンピュータに、
当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得するステップと、
前記接続点において授受された有効電力の計測誤差の統計モデル、及び前記接続点における周波数の計測誤差の統計モデルの少なくとも一方と、前記送配電網における調整力係数を正規分布で表す調整力計数の統計モデルと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値及び前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出するステップと、
算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出するステップと、
を実行させるプログラム。
【請求項12】
管理対象とする送配電網と、当該送配電網に対し電力需給バランスの調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点に設置される計測器であって、
前記接続点において授受される有効電力と、当該接続点における周波数とを計測可能なセンサと、
前記センサを通じて、前記有効電力の計測値と、前記周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、
前記接続点において授受された有効電力の計測誤差の統計モデル、及び前記接続点における周波数の計測誤差の統計モデルの少なくとも一方と、前記送配電網における調整力係数を正規分布で表す調整力計数の統計モデルと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値及び前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部と、
算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、
を備える計測器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、調整力計量装置、調整力計量システム、調整力計量方法、プログラム、及び計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統は電力需要の変動周期に応じて、(1)ガバナーフリー(Governor Free;GF)、(2)負荷周波数制御(Load Frequency Control;LFC)、(3)経済負荷配分制御(Economic load Dispatching Control;EDC)による発電機の調整力を組み合わせて周波数が維持されている。電力自由化により、系統運用者は調整力も公募か市場で発電事業者から調達する。
【0003】
オフィスや工場、一般家庭等における電力需要は時々刻々変動する。送配電系統の電力需要が電力供給を超過すると送配電系統の周波数は基準値(例えば、50Hz又は60Hz)より低下し、逆に電力供給が電力需要を超過すると周波数は基準値より上昇する。調整力とは時々刻々変動する需要と供給をバランスさせるためのものであり、調整力が理想的に働いた場合には周波数は基準値に一致する。
【0004】
調整力の増減は、概ね30分未満の需要変動については、系統の周波数の変動に基づいて行われる。系統の周波数が基準値に不足した場合、系統運用者は、プラスの調整力を電力事業者から調達する。逆に、周波数が基準値を超過した場合には、マイナスの調整力を電力事業者から調達する。調整力調達の実際は、系統運用者からの時々刻々の指令に発電事業者が電源の出力を調整して応じることにより行われる。
【0005】
電力の安定供給は、発電事業者が指令どおりに調整力を提供することに掛かっている。したがって、発電事業者は指令どおりに調整力を提供することが重用であり、それができない場合には、提供の実績に応じて精算することが検討されている。
【0006】
しかしながら、系統運用者が必要以上の調整力を極短時間に指令した場合など、電力事業者は指令に応じることができずペナルティとしての精算金を課せられることになる。また、周波数は電力系統の場所ごとに違いがある。例えば、日本では北海道と九州の周波数は周期3~5秒で、逆位相で搖動する。このため、系統運用者は電源の場所ごとにきめ細かく調整力を指令することが望ましいが、周期3~5秒の揺動に対してそれを行うことは現実的でなく、電源で自立的に行われるガバナーフリーにまかせている。ガバナーフリーによる調整力は指令によらず各電源で自律的に行われるので、電源が短周期で発生した調整力は計量されず、精算されることもなく、電力事業者は対価を得ることもできない。
【0007】
短周期の調整力としては、ガバナーフリーに限らず、発電機やそれに接続した外燃機関や内燃機関の運動エネルギーも重要な役割を果たす。たとえば、電力系統の周波数が低下するとそれに合わせて発電機の回転速度も低下することになるが、回転速度の変動による運動エネルギーの減少が電力系統に供給され、調整力として機能する。近年、電力系統において太陽光発電の占める割合が増えている。太陽光発電は固体素子で発電するので、従来型の発電機のような運動エネルギーがないので、太陽光発電の比率が増えると短周期の調整力をガバナーフリーで補うことが電力の安定供給には重要である。
【0008】
ガバナーフリーの調整力を充実するために、短周期の調整力を計量し対価の対象とすることが求められている。例えば、特許文献1には、電源が電力系統に供給する有効電力の変動ΔPと、電源及び電力系統の接続点の周波数の変動Δfとに基づいて調整力係数kp[W/Hz]を算出し、この調整力係数kpを用いて電源の有効電力の変動のうち周波数の偏移を打ち消す側に寄与するものを調整力としてカウントする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の技術は、大別すると、(1)調整力係数を算出する過程と、(2)調整力係数に基づき時間ステップ毎の調整力を算出して、一定期間(例えば、24時間、1時間、30分間など)の調整力を積算する過程との二つに分けられる。また、従来の技術では、調整力係数を所定時間(例えば、30分)経過する毎に更新している。例えば、時刻t-1が調整力係数の更新タイミングであったとすると、時刻t-1から所定時間前までのNステップ(t-1,t-2,…,t-N)分の有効電力の変動ΔP及び周波数の偏移Δfに基づいて、調整力係数kp(t-1)を算出する。この調整力係数kp(t-1)は、次の更新タイミングまで調整力の計算に用いられる。
【0011】
しかしながら、この従来の技術における方式の課題は、過去の時刻{t-1,t-2,…}の値で定めた調整力係数kpを、現在の調整力ΔP(t)の算出に使うところである。調整力係数kpは、発電所が調停率を変更すること、ガバナーフリーの開始/停止を行うことなどにより値が変わるので、時間とともに変化する性質がある。このため、調整力係数kpが過去の値であれば、調整力の算出誤差が生じることは避けられない。
【0012】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであって、より精度よく調整力を計算可能な調整力計量装置、調整力計量システム、調整力計量方法、プログラム、及び計測器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値Pと、当該接続点における周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の絶対値の積算値と、前記調整力係数とに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、を備える。
【0014】
本開示の一態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部と、算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、を備える。
【0015】
本開示の一態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、前記接続点において授受された有効電力の計測誤差の統計モデル、及び前記接続点における周波数の計測誤差の統計モデルの少なくとも一方と、前記送配電網における調整力係数を正規分布で表す調整力計数の統計モデルと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値及び前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部と、算出された前記調整力係数と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散と、に基づいて周波数変動に応じた前記有効電力変動の確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、を備える。
【0016】
本開示の一態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動に対し、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動を重み係数として乗じた値の積算値に基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、を備える。
【0017】
本開示の一態様によれば、調整力計量システムは、第1から第7の何れか一の態様に係る調整力計量装置と、前記送配電網と前記調整力提供手段との接続点に設置され、当該接続点において授受される有効電力と、当該接続点における周波数とを計測可能な計測器と、を備える。前記計測値取得部は、前記計測器を通じて、前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とを取得する。
【0018】
本開示の一態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量方法は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得するステップと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出するステップと、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の絶対値の積算値と、前記調整力係数とに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出するステップと、を有する。
【0019】
本開示の一態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置のコンピュータを機能させるプログラムは、前記コンピュータに、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得するステップと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出するステップと、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の絶対値の積算値と、前記調整力係数とに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出するステップと、を実行させる。
【0020】
本開示の一態様によれば、管理対象とする送配電網と、当該送配電網に対し電力需給バランスの調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点に設置される計測器は、前記接続点において授受される有効電力と、当該接続点における周波数とを計測可能なセンサと、前記センサを通じて、前記有効電力の計測値と、前記周波数の計測値とを取得する計測値取得部と、所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の絶対値の積算値と、前記調整力係数とに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0021】
本開示に係る調整力計量装置、調整力計量システム、調整力計量方法、プログラム、及び計測器によれば、より精度よく調整力を計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係る調整力計量システムの全体構成を示す図である。
【
図2】本開示の第1の実施形態に係る調整力計量システムの構成を詳細に示す第1図である。
【
図3】本開示の第1の実施形態に係る調整力計量装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】本開示の第1の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】本開示の第2の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図6】本開示の第3の実施形態に係る調整力計量装置の機能を説明するための第1の図である。
【
図7】本開示の第3の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図8】本開示の第3の実施形態に係る調整力計量装置の機能を説明するための第2の図である。
【
図9】本開示の第3の実施形態に係る調整力計量装置の機能を説明するための第3の図である。
【
図10】本開示の第4の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示す第1のブロック図である。
【
図11】本開示の第4の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示す第2のブロック図である。
【
図12】本開示の第5の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図13】本開示の第6の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示す第1のブロック図である。
【
図14】本開示の第6の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示す第2のブロック図である。
【
図15】従来技術における調整力算出手段を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る調整力計量装置、及び、当該調整力計量装置を具備する調整力計量システムについて、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0024】
(調整力計量システムの全体構成)
図1は、第1の実施形態に係る調整力計量システムの全体構成を示す図である。
図1には、発電を行う発電事業者Gと、発電された電力の送配電を行う一般送配電事業者Tと、送配電された電力を消費する需要家Cとを示している。
図1に示す例では、一般送配電事業者Tが管理対象とする送配電網(以下、対象送配電網N1とも記載する。)には、発電事業者Gと需要家Cとが接続されている。発電事業者Gが発電した電力は、対象送配電網N1を通じて、需要家Cへと流れる。なお、対象送配電網N1は、他の一般送配電事業者が管理対象とする送配電網(以下、対象外送配電網N2とも記載する。)とも接続されている。
【0025】
図1に示すように、調整力計量システム1は、調整力計量装置10と、計測器50とを有してなる。
調整力計量装置10は、一般送配電事業者Tに管理(又は、運用)される。調整力計量装置10は、対象送配電網N1における電力需給バランスの安定化のために発電事業者G等が実際に提供した「調整力」を計量可能とする。調整力計量装置10の具体的な機能構成及び処理の内容については後述する。
計測器50は、対象送配電網N1と、発電事業者G等が管理する調整力提供手段との接続点に設置され、当該接続点において授受される有効電力と、当該接続点における周波数とを計測可能とする。ここで、「調整力提供手段」とは、送配電網(対象送配電網N1)に対し電力需給バランスの調整力を提供可能な装置等であって、具体的には、発電事業者Gが管理する電源(後述)、安定化機器、需要家Cが管理する負荷、及び、一般送配電事業者Tの管理対象外とする送配電網(対象外送配電網N2)を指す。
なお、本実施形態に係る計測器50は、よく知られている周波数計測機能付きの電力計などであってもよい。
【0026】
(調整力計量システムの構成の詳細)
図2は、第1の実施形態に係る調整力計量システムの構成を詳細に示す第1図である。
図2に示すように、発電事業者Gは、複数の電源21、22、23、・・を管理している。
【0027】
以下、発電事業者Gが管理する複数の電源21、22、23、・・のうち、一つの電源21を例に、説明する。なお、他の電源22、23、・・の構成及び機能は、電源21と同様である。
【0028】
電源21は、制御部210と、タービン装置211(例えば、ガスタービン、蒸気タービン等)と、発電機212とを有してなる。
【0029】
制御部210は、タービン装置211及び発電機212の運転制御を行う。特に、制御部210は、発電機212の回転速度(出力の周波数に対応)を常時モニタリングして、当該回転速度が一定に保たれるように、タービン装置211への燃料、又は蒸気の供給量を自動調整する(ガバナーフリー運転)。このような運転制御によれば、例えば、短期間で負荷(電力需要)が増大し、発電機212の回転速度が低下した場合には、制御部210は、直ちに、タービン装置211への燃料等の供給量を上昇させ、元の回転速度に復帰させるよう指令する。その指令に応じて、発電機212が増やした出力は、上記負荷(電力需要)の増大に対応して電源21が提供した「調整力」である。このように、短周期(周期3~5秒程度)の電力需要変動に対しては、電源21のガバナーフリー運転により、逐次、調整力が提供される。
【0030】
電源21は、対象送配電網N1に接続されている。電源21と対象送配電網N1との接続点には、計測器50が設置されている。
電源21と対象送配電網N1との接続点に設置された計測器50は、当該電源21から対象送配電網N1へと出力される有効電力の計測値(以下、「有効電力計測値P1」とも記載する。)、及び、周波数の計測値(以下、「周波数計測値f1」とも記載する。)を取得する。計測器50は、所定の通信網(インターネット回線等)を介して、有効電力計測値P1、周波数計測値f1を一般送配電事業者Tが管理する調整力計量装置10に送信する。
同様に、他の電源22、23、・・と対象送配電網N1との接続点に設置された計測器50は、当該電源22、23、・・の各々から対象送配電網N1へと出力される有効電力計測値P2、P3、・・、及び、周波数計測値f2、f3、・・を取得し、調整力計量装置10に送信する。
【0031】
(調整力計量装置のハードウェア構成)
図3は、第1の実施形態に係る調整力計量装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3に示すように、調整力計量装置10は、CPU100と、メモリ101と、通信インタフェース102と、ストレージ103とを備えている。
CPU100は、調整力計量装置10の動作全体の制御を司るプロセッサである。
メモリ101は、いわゆる主記憶装置であって、CPU100がプログラムに基づいて動作するための命令及びデータが展開される。
通信インタフェース102は、外部装置(特に、計測器50)との間で情報をやり取りするためのインタフェース機器である。なお、本実施形態においては、通信インタフェース102によって実現される通信手段及び通信方式は、特に限定されない。例えば、通信インタフェース102は、有線通信を実現するための有線接続インタフェースであってもよいし、無線通信を実現するための無線通信モジュールであってもよい。
ストレージ103は、いわゆる補助記憶装置であって、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等であってよい。
【0032】
(調整力計量装置の機能構成)
図4は、第1の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示すブロック図である。
図4に示すように、調整力計量装置10のCPU100は、プログラムに従って動作することで、計測値取得部1001、積算処理部1002、調整力係数演算部1003、調整力演算部1004としての機能を発揮する。なお、ここでは、調整力計量装置10が電源21の調整力を計量する例について説明する。
【0033】
計測値取得部1001は、各接続点に設置された計測器50を通じて、所定の時間ステップ毎に有効電力計測値P(P1(
図2参照))と、周波数計測値f(f1(
図2参照))とを取得する。
【0034】
積算処理部1002は、計測値取得部1001によって有効電力計測値P及び周波数計測値fが取得される毎に、有効電力の変動の計測値ΔP(以下、「有効電力変動計測値」とも記載する。詳細は後述する。)と周波数の変動の計測値Δf(以下、「周波数変動計測値」とも記載する。詳細は後述する。)との積算値SΔPΔf、周波数変動計測値Δfの二乗値の積算値SΔfΔf、周波数変動計測値Δfの絶対値の積算値S|Δf|を算出する。
【0035】
調整力係数演算部1003は、所定期間に取得された有効電力計測値Pと周波数計測値fとに基づいて、有効電力の変動の周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数kpを算出する。なお、所定期間とは、計測値取得部1001が各計測値をN回取得する期間(Nステップ)である。
【0036】
調整力演算部1004は、所定期間に取得された周波数変動計測値Δfの絶対値の積算値S|Δf|と、調整力係数kpとに基づいて、電源21が対象送配電網N1に提供した調整力を算出する。
【0037】
(調整力について)
図15は、従来技術における調整力算出手段を説明するための図である。
ここで、従来技術(例えば、特許文献1)の調整力算出手段900における調整力の算出方法について説明する。電源の出力のうち、電源の所在地の周波数に依存する成分を調整力としてカウントする。電源の周波数の調整力の指標として速度調停率δがある。速度調停率δによると,周波数変動計測値Δfに対し、電源が追加的に発生する出力、言い換えれば調整力ΔPは、次式(1)で表される。
【0038】
【0039】
式(1)において、『fn』は電力系統の基準周波数、『Pn』は電源21の定格出力[MW]である。周波数変動計測値Δfは、基準周波数fn[Hz](例えば、50Hz、60Hz等)から接続点の計測器50によって計測された周波数計測値fを差し引いたものであり、実周波数(周波数計測値f)が基準周波数fnを超過したときには負の値となる。この関係式は、周波数と出力の静的な釣り合い状態を示す名目的なものであり、実際には電源の出力の時間遅れのために誤差がある。遅れの主要なものは、電源が有する発電機の慣性や制御装置の動作遅れである。
【0040】
調整力算出手段900は、出力の時間遅れがあるときにも電源の調整力ΔPの真値を計量するためのものであり、
図15に示すように計測値取得手段9001、調整力係数算出手段9002、調整力算出手段9003、積算手段9004からなる。計測値取得手段9001は、発電事業者の電源と系統運用者の電力系統との接続点において授受される電力の周波数と有効電力と計測器50を通じて取得し、調整力係数算出手段9002及び調整力算出手段9003に伝送する。
【0041】
調整力係数算出手段9002では、電源が電力系統に供給する有効電力の変動をΔP、電源と電力系統の接続点の周波数の偏移をΔfとすると、電源の調整力係数kpを次式(2)で算出する。式(2)は、同有効電力の変動のうち同周波数の偏移を打ち消す側に寄与するものを調整力としてカウントするためのものであり、調整力係数の単位はW/Hzである。
【0042】
【0043】
調整力算出手段9003は、調整力係数kpを用いて電源の調整力ΔPRを次式(3)で計算する。式(2)の演算では、例えば分子はΔPとΔfの積を時刻tについて積算を要する。そして、その積算のためには、ΔPとΔfの時刻歴をどこかに記憶しておかなければならないかと感じるがその必要はない。分子の積算値を『SΔPΔf』と記すと、時間ステップ毎に、『SΔPΔf←SΔPΔf+ΔPΔf』を実行すれば時刻歴の記憶は不要である。これは、分母についても同様である。
【0044】
【0045】
これを、例えば24時間、1時間または30分などの一定期間積算したものが、電源により発生した調整力である。この演算は、次式(4)を用いて積算手段9004が実行する。
【0046】
【0047】
有効電力変動計測値ΔP(t)は、式(5A)に示すように有効電力計測値P(t)の期待値E[・]からの偏差であってもよい。周波数変動計測値Δf(t)は、式(5B)に示すように周波数計測値Δf(t)の期待値E[・]からの偏差であってもよい。
【0048】
【0049】
【0050】
期待値E[・]は、簡単に前回値としてもよい。このとき、式(5A)及び式(5B)は式(6A)、式(6B)のように表される。
【0051】
【0052】
【0053】
調整力係数kpは毎時刻更新する必要はないのでNステップ毎に式(2)を用いて更新する。時刻t-1が調整力係数kpの更新のタイミングであったとすると、調整力係数算出手段9002は、次式(7)のように、時刻t-1において、過去の時刻のN点のΔPとΔf、すなわち、{ΔP(t-1),ΔP(t-2),…,ΔP(t-N)}と、{Δf(t-1),Δf(t-2),…, Δf(t-N)}から調整力係数kp(t-1)を演算する。
【0054】
【0055】
そうすると、調整力算出手段9003は、式(3)を用いて調整力ΔPRを算出する。調整力算出手段9003は、次式(8)のように、次の更新タイミングt+iまで、kp(t-1)を利用して調整力を計算することができる。
【0056】
【0057】
しかしながら、従来技術における調整力算出手段9003の課題は、過去の時刻{t-1,t-2,…}の値で定めた調整力係数kpを、現在の調整力ΔPR(t+i)の算出に使うところである。調整力係数kpは、発電所が調停率を変更すること、ガバナーフリーの開始/停止を行うことにより値が変わるので、時間とともに変化する性質がある。このため、調整力係数kpが過去の値であれば、上式(8)による調整力の算出誤差が生じることは避けられない。
【0058】
このような課題を踏まえ、本実施形態では、調整力ΔP
Rの算出に、現時点の調整力係数k
pを用いることを可能とする。具体的には、本実施形態に係る調整力計量装置10は、調整力ΔP
Rを算出する過程において、周波数変動計測値Δfの絶対値の積算値を利用することを特徴とする。以下、
図4を参照しながら、調整力計量装置10の各部における処理の詳細について説明する。
【0059】
(調整力計量装置の処理フロー)
本実施形態に係る調整力計量装置10も、従来技術と同様に、調整力係数kpを式(2)により算出する過程と、調整力係数kpに基づき式(3)により調整力ΔPRを算出し、式(4)によって一定期間の調整力を積算する過程とを有している。調整力係数kpを算出する手法も従来技術と同様である。説明のために以下の状況を想定する。調整力係数kpはNステップ毎に更新されるとして、時刻t-1が調整力係数kpの更新タイミングであったとする。
【0060】
まず、計測値取得部1001は、計測器50を通じて、毎ステップ、有効電力計測値P及び周波数計測値fを取得する(処理S1)。
【0061】
また、積算処理部1002は、式(2)の分子をSΔPΔfと記すと、次式(9A)により、前回調整力係数kpを更新した時刻の次の時刻t-Nから時刻t-1までの有効電力変動計測値ΔPと周波数変動計測値Δfとの積を積算する(処理S2)。
【0062】
【0063】
同じく、式(2)の分母をSΔfΔfと記すと、積算処理部1002は、次式(9B)により、前回調整力係数kpを更新した時刻の次の時刻t-Nから時刻t-1までの周波数変動計測値Δfの二乗値を積算する(処理S3)。
【0064】
【0065】
そうすると、調整力係数演算部1003において、時刻t-1の調整力係数kpは次式(10)により求められる(処理S4)。
【0066】
【0067】
本実施形態に係る調整力計量装置10の特徴は、式(9A)及び式(9B)の積算(
図4の処理S2及び処理S3)と同時に、周波数変動計測値Δfの絶対値を次式(11)により積算するところにある(処理S5)。
【0068】
【0069】
積算値S|Δf|を用いると、時刻t-1までのNステップ分の調整力の積算値ΔS(t-1)は次式(12)となる(処理S6)。
【0070】
【0071】
そして、一定期間(例えば、24時間、1時間、30分等)の調整力の積算値Sとして次式(13)を得る(処理S7)。
【0072】
【0073】
このようにすれば、時刻歴を記録することなく、調整力の精度を改善できる。なお、調整力計量装置10は、複数の電源21、22、・・それぞれについて、上述の一連の処理を実行することにより、電源毎の一定期間の調整力の積算値Sを算出する。
【0074】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る調整力計量装置10は、所定期間に取得された有効電力計測値Pと周波数計測値fとに基づいて調整力係数kpを算出し、所定期間に取得された周波数変動計測値Δfの絶対値の積算値S|Δf|と、算出された調整力係数kpとに基づいて、所定期間における電源21の調整力を算出する。
このようにすることで、調整力計量装置10は、調整力係数kpの算出と、調整力の積算値ΔSの算出との両方について、同じ所定期間に取得された計測値を用いて実行することができる。これにより、調整力の算出誤差を低減させることができる。
【0075】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る調整力計量装置、及び、当該調整力計量装置を具備する調整力計量システムについて、
図5を参照しながら説明する。第1の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0076】
電力系統には大小さまざまな電力供給者や電力需要者が接続しており、個々の電力の供給量や需要量はランダムに変動する確率変数とみなすことができる。確率論では、中心極限定理が良く知られている。中心極限定理は、標本の平均の分布が正規分布に近づくということを表している。たとえ、元の集団が正規分布ではなくても、標本数が多くなるにつれ、その標本の平均の分布は正規分布に近づく。標本の和は、標本の平均に標本数を掛けただけのものだから、標本数を増やすと標本の平均が正規分布に近付くのと同様に、標本の和も正規分布に近付く。電力系統の周波数の偏移は、電力の供給量と需要量の総和に従うから、中心極限定理のとおり正規分布で近似できる。
【0077】
本実施形態では、周波数偏移が正規分布で近似できることを利用して、調整力を周波数変動計測値Δfの分散と、有効電力変動計測値ΔPの分散と、周波数変動計測値Δfと有効電力変動計測値ΔPとの相関関数だけから算出することを可能とするものである。なお、周波数変動計測値Δfと有効電力変動計測値ΔPとの相関関数とは、調整力係数kpである。
【0078】
(調整力計量装置の処理フロー)
図5は、本開示の第2の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示すブロック図である。まず、計測値取得部1001は、第1の実施形態と同様に、計測器50を通じて、毎ステップ、有効電力計測値P及び周波数計測値fを取得する(処理S11)。
【0079】
また、周波数変動計測値Δfと有効電力変動計測値ΔPを式(14)で表す。ここに、dはΔPやΔfと独立な観測雑音である。
【0080】
【0081】
第1の実施形態と同様に、調整力係数演算部1003は、Nステップ毎に式(10)により調整力係数kpを更新するものとする(処理S14)。このとき、積算処理部1002も同様に、時刻t-Nから時刻t-1までの有効電力変動計測値ΔPと周波数変動計測値Δfとの積、及び周波数変動計測値Δfの二乗値をそれぞれ積算した値SΔPΔf、SΔfΔfを毎ステップ算出する(処理S12~S13)。Nステップの時刻歴におけるΔfの分散をσΔf
2、dの分散をσd
2と記すと、ΔPの分散は式(15)で表される。
【0082】
【0083】
一方、計測器50を通じて実測した時系列データから算出したΔPの分散の値をσΔP
2と記すと,次の等式(16)が成り立ち、観測雑音dの分散が式(17)のように得られる。
【0084】
【0085】
【0086】
そうすると、Δfが既知のときΔPの条件付き分布は式(18)で表される。
【0087】
【0088】
これより、調整力の分布は次式(19)で表される。
【0089】
【0090】
正規分布の確率密度関数は左右対称だから、期待値は次式(20)となる。
【0091】
【0092】
したがって、時刻t-1までのNステップ分の調整力の積算値ΔS(t-1)は次式(21)となる(処理S15)。
【0093】
【0094】
そして、一定期間(例えば、24時間、1時間、30分等)の調整力の積算値Sを、第1の実施形態と同様に式(13)により算出する(処理S16)。
【0095】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る調整力計量装置10は、有効電力変動計測値の分散σΔP
2と、周波数電動計測値の分散σΔf
2と、調整力係数kpとに基づいて、周波数変動計測値Δfに応じた有効電力変動計測値ΔPの確率分布を求めるとともに、当該確率分布に基づいて電源21の所定期間における調整力ΔSを算出する。
このようにすることで、第1の実施形態と同様に、調整力の算出誤差を低減させることができる。
【0096】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態に係る調整力計量装置、及び、当該調整力計量装置を具備する調整力計量システムについて、
図6~
図9を参照しながら説明する。第1及び第2の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0097】
図6は、本開示の第3の実施形態に係る調整力計量装置の機能を説明するための第1の図である。
図6は、周波数変動計測値Δfと有効電力変動計測値ΔPの散布図である。
【0098】
式(14)で述べたように,ΔPはΔfに依存して分布する。第2の実施形態における式(18)を、期待値をμ、分散をσd
2と記して書き直したものが式(22)である。
【0099】
【0100】
図6の曲線p(ΔP)は、Δfがある値のときのΔPの確率密度を表している。ΔPは、期待値μを中心に、分散σ
d
2で分布している。
【0101】
第2の実施形態では、式(19)で述べたように、Δfの値を一つ決めたときに、その調整力ΔP
R|Δfの期待値を『k
p|Δf|』で評価している。しかし、
図6の縦軸、すなわちΔfが0付近の取り扱いに課題が残る。この領域では、確率密度曲線の裾がΔPの負の領域に属する部分(
図7の領域R1)の割合が増えるので、調整力として期待できない。
【0102】
このような課題を踏まえ、本実施形態では、例えばΔfが0に近い領域のように、調整力として期待できない領域については、調整力への参入の比率を小さくする。これにより、調整力として確実なものだけを調整力の積算値に参入することを可能とする。
【0103】
(調整力計量装置の処理フロー)
図7は、本開示の第3の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示すブロック図である。
まず、計測値取得部1001は、第1の実施形態と同様に、計測器50を通じて、毎ステップ、有効電力計測値P及び周波数計測値fを取得する(処理S21)。また、積算処理部1002は、時刻t-Nから時刻t-1までの有効電力変動計測値ΔPの二乗値、有効電力変動計測値ΔPと周波数変動計測値Δfとの積、及び周波数変動計測値Δfの二乗値をそれぞれ積算した値S
ΔPΔP、S
ΔPΔf、S
ΔfΔfを毎ステップ算出する(処理S22~S24)。調整力係数k
pの更新(処理S25)、Δfが既知のときΔPの条件付き分布を求める処理(処理S26)については、第2の実施形態と同様である。
【0104】
周波数調整の原理式である上式(1)に従うと、Δfが負のときには、ΔPは正でなければならない。しかし、前述のように、Δfが小さいときには調整力として期待できないので、予め調整力の計算から除外することにより、調整力の算出を確実なものとすることができる。具体的には、確率密度曲線p(ΔP)の裾がΔPの負の領域に属する部分(
図7の領域R1)はペナルティ(罰金)として差し引く。例えば式(23)のような計量法が考えられる。右辺の第一項がペナルティに相当する。
【0105】
【0106】
図8は、本開示の第3の実施形態に係る調整力計量装置の機能を説明するための第2の図である。
式(23)の定積分は、
図8の表TB1のように標準正規分布に対してテーブル化したものを表引きして利用する。表TB1で『Φ(x)』は,式(24)の右辺の定積分である。
【0107】
【0108】
Φ(x)を用いると、『μ=kpΔf』だから、式(23)は以下の式(25)のように表現される。
【0109】
【0110】
図9は、本開示の第3の実施形態に係る調整力計量装置の機能を説明するための第3の図である。
関数Φ(x)のグラフを
図9に示す。『x』が3より大きいと『Φ(x)=x』と近似できる。『x』が3より小さいと、『Φ(x)』はxより小さくなっており、前述のペナルティが機能していることが分かる。
【0111】
Δfの確率密度関数はN(0,σΔf
2)だから、ΔPRの期待値は式(26)で表される。
【0112】
【0113】
式(26)の積分は、例えば以下のように数値積分して計算する。
【0114】
まず、Δfを0を始点として等間隔にサンプリングし、それを式(27)のようにベクトルvΔfで表す。Δhは離散化の幅である。式(26)で積分区間は-∞から0にしているので,Δhの値は負である。サンプリング数はN+1とする。
【0115】
【0116】
vΔfの値一つ一つについて、確率密度関数pの値を計算し、式(28)のように行ベクトルvpで表す。
【0117】
【0118】
同様に,vΔfの値一つ一つについて、条件付き期待値を計算し、式(29)のように行ベクトルvΦで表す。
【0119】
【0120】
そうすると、式(26)は式(30)で計算できる(処理S27)。ベクトルや行列の右肩の記号Tは転置を表している。式(30)において、vp
Tは、vpの転置ベクトルを表している。
【0121】
【0122】
Nステップの調整力の積算値は、式(31)で与えられる。
【0123】
【0124】
そして、一定期間(例えば、24時間、1時間、30分等)の調整力の積算値Sを、第1の実施形態と同様に式(13)により算出する(処理S28)。
【0125】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る調整力計量装置10は、有効電力変動計測値ΔPの確率分布において、有効電力変動計測値ΔPが負の値となる領域(
図6の領域R1)をペナルティとして調整力から減じる。
このようにすることで、調整力として期待できない電源21の出力の変動については、調整力の算出から除外することができるので、調整力をより正確に算出することが可能となる。
【0126】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態に係る調整力計量装置、及び、当該調整力計量装置を具備する調整力計量システムについて、
図10を参照しながら説明する。第1~第3の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0127】
第3の実施形態では、Δfが0に近いときのように、調整力が必要でないときついては、調整力への参入の比率を小さくして、たとえそのようなときに大きく出力を変えても調整力に参入しない技術、言い換えれば、ノイズの影響を除去する技術について述べた。
【0128】
第4の実施形態は、それに似た現象として、そのような状況でノイズの影響により調整力を実際よりも過大に見積もって、その結果として調整力を過大に計算することを防ぐ技術について述べる。本実施形態では、電力系統(対象送配電網N1)内の発電事業者Gや需要家Cの調整力係数kpを確率変数とみなし、ベイズ推定の方法を適用する。
【0129】
(調整力計量装置の処理フロー)
図10は、本開示の第4の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示す第1のブロック図である。
本実施形態では、調整力係数並びに、電力と周波数の計測誤差の分布の事前情報からなる電力と周波数を関連付ける数学モデルを利用することにより、調整力係数k
pの推定精度を改善し、最終的には調整力の計量の精度をより良くする。なお、処理S31~S34については、第3の実施形態の処理S21~S24(
図7)と同様である。
【0130】
発電事業者Gや需要家Cが、対象送配電網N1との接続点において授受する電力を式(32)でモデル化する。式(32)は、第2の実施形態の式(14)に対し、周波数の計測誤差dfを新規に追加したものである。
【0131】
【0132】
そして、事前情報から、調整力係数kp、周波数の計測誤差df、電力の計測誤差dPを、以下の式(33A)~(33C)の統計モデルで表現する。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
各統計モデルのうち、調整力係数kpは対象送配電網N1全体の需給の状況により変動する性質がある。このため、例えば系統運用者である一般送配電事業者Tが、発電事業者Gや需要家Cの調整力係数kpを、通信回線を介して収集して調整力係数の統計モデルを更新することが望ましい。周波数の計測誤差dfと電力の計測誤差dPは、接続点に配置する計測器50固有の値であるので、接続点毎に予め定めておけば充分である。
【0137】
図11は、本開示の第4の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示す第2のブロック図である。
また、
図11に示すように、一般送配電事業者Tが通信回線を介して、各接続点の計測誤差の統計量を収集するなどして、時間と共に有効電力及び周波数の計測誤差の統計モデルを変更しても良い。この場合、
図11の例のように、調整力計量装置10は各接続点に設置されてもよく、接続点毎の統計モデルが一般送配電事業者Tによって更新される毎に、通信回線を介して各調整力計量装置10に配信される。
【0138】
そうすると、式(32)の有効電力のモデルと、式(33A)~(33C)の事前情報から予測される有効電力ΔPと調整力係数kpの同時分布は次式(34)で表される。
【0139】
【0140】
式(34)において、{}は時間について整列した時系列データを列ベクトル化したものである。具体的に、『{Δf}』は、Δfの時系列データを時間の順にならべた列ベクトル{Δf(t),Δf(t),…, Δf(t-N+1)}である。『{ΔP}』は、ΔPの時系列データを時間の順にならべた列ベクトル{ΔP(t),ΔP(t),…, ΔP(t-N+1)}である。
【0141】
そうすると、{Δf}と{ΔP}を事後情報として得ると、調整力係数kpのベイズ推定値は次式(35)となる。
【0142】
【0143】
調整力係数演算部1003は、式(35)で得られた値を、次式(36)のように調整力係数kpに用いる(処理S35)。
【0144】
【0145】
また、調整力演算部1004がNステップ分の調整力の積算値ΔSを求める処理S36、及び一定期間の調整力の積算値Sを求める処理S37については、第3の実施形態の処理S26~S28と同様である。
【0146】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る調整力計量装置10は、接続点毎の統計モデルに基づいて調整力係数を算出する。
このようにすることで、調整力計量装置10は、調整力係数kpの推定精度を向上させることができ、その結果として、調整力の計量の精度を向上させることができる。
【0147】
<第5の実施形態>
次に、第5の実施形態に係る調整力計量装置、及び、当該調整力計量装置を具備する調整力計量システムについて、
図12を参照しながら説明する。第1~第4の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
なお、本実施形態は、第2の実施形態に係る調整力計量装置10の調整力係数k
pに代えて、有効電力ΔPを調整力に参入するときに、参入の重みとしてΔfを更に用いることを特徴としている。
【0148】
第3の実施形態では、Δfが0に近いときのように、調整力が必要でないときついては、調整力への参入の比率を小さくして、たとえそのようなときに大きく出力を変えても調整力に参入しない技術、言い換えれば、ノイズの影響を除去する技術について述べた。
【0149】
第5の実施形態は、第3の実施形態の考えを拡張して、Δfを調整力への参入の比率の重み係数として利用することについて述べる。本実施形態に係る調整力計量装置10は、同じ出力変化(有効電力変動計測値ΔP)であったとしても、それを調整力に参入する程度はΔfに比例させる。このようにすれば、需給の変動が大きいとき、すなわちΔfが大きいときに調整力を供給することが促され、対象送配電網N1の安定化に寄与する。
【0150】
図12は、本開示の第5の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示すブロック図である。
具体的には、
図12に示すように、計測値取得部1001は、第2の実施形態と同様に、計測器50を通じて、毎ステップ、有効電力計測値P及び周波数計測値fを取得する(処理S41)。また、積算処理部1002は、時刻t-Nから時刻t-1までの有効電力変動計測値ΔPと周波数変動計測値Δfとの積を積算した値S
ΔPΔPを毎ステップ算出する(処理S42)。
【0151】
次に、調整力演算部1004は、Nステップ分の調整力ΔSを算出する(処理S43)。まず、単位を合わせるために、ΔPは周波数で除してトルクに換算後にΔfを乗じる。周波数は50Hzまたは60Hzなどの基準周波数値から大きく偏位することはないので、基準周波数fnで除して、式(37)で計算する。
【0152】
【0153】
調整力の期待値は次式(38)で計算する。
【0154】
【0155】
また、Nステップの調整力の積算値は、式(39)で与えられる。
【0156】
【0157】
そして、一定期間の調整力の積算値Sを、第2の実施形態と同様に式(13)により算出する(処理S44)。
【0158】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る調整力計量装置10は、周波数変動計測値Δfを重み係数として、調整力を算出する。
このようにすることで、周波数の変動が大きいほど、電源21の出力の変動が調整力として大きくカウントされることとなる。これにより、需給の変動が大きいとき、すなわちΔfが大きいときに調整力を供給することが促され、対象送配電網N1の安定に寄与することができる。
【0159】
<第6の実施形態>
次に、第6の実施形態に係る調整力計量装置、及び、当該調整力計量装置を具備する調整力計量システムについて、
図13を参照しながら説明する。第1~第5の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0160】
対象送配電網N1の需給は時々刻々変動しており、需給の不平衡の程度も時間と共に変動する。例えば、電力需要は、夜間は少なく、昼間は多いことが知られている。このため、早朝から会社の始業時に掛けて電力需要が増加し、周波数は定常的に低く偏位することがしばしばである。このような場合、定常的な偏移を打ち消すべく、発電事業者Gには需要の増加に合わせて持続的に電力供給を増やすことが求められる。
【0161】
本実施形態は、周波数偏移が持続的であるときには、出力変動の持続に応じて、調整力の価値を変更することを可能とするものである。
【0162】
図13は、本開示の第6の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示す第1のブロック図である。
図13に示すように、本実施形態に係る調整力計量装置10において、計測値取得部1001は、計測器50を通じて有効電力計測値及び周波数計測値fを取得すると(処理S51)、取得した周波数計測値fと、伝達関数Tとに基づいて、周波数変動計測値Δfにフィルタリング演算を実施する(処理S52)。伝達関数Tは、たとえば一般送配電事業者Tなどが指定しても良いし、予め、季節や時刻に応じて変更するように調整力計量装置10にプログラミングしておいてもよい。
【0163】
また、積算処理部1002、調整力係数演算部1003、調整力演算部1004の処理は、第1~第5の実施形態のうち何れかの処理と同様である。
【0164】
このようにすることで、対象送配電網N1の需給状況に応じて、調整力の価値を変更することができる。例えば、電源21による持続的な出力増加が必要な状況については、フィルタを積分特性に設定して、持続的な出力上昇の価値を高める。あるいは、速応性が求められるときには、フィルタを比例または微分的に設定して、速応性の価値を高めてもよい。
【0165】
図13の重みフィルタ(処理S52A)は、積分的なフィルタの例である。『s』はラプラス演算子、『T』は積分の時定数、『ε』は積分を遮断する角速度である。本実施形態に係る計測値取得部1001は、周波数変動計測値Δfに代えて、フィルタリング演算により得た値Δf
Fを積算処理部1002に出力する。
【0166】
図14は、本開示の第6の実施形態に係る調整力計量装置の機能構成を示す第2のブロック図である。
また、計測値取得部1001は、フィルタ演算により積分計算を実装する代わりに、周波数変動計測値Δfではなくて周波数計測値fを入力してもよい。周波数計測値fから基準周波数f
nを差し引いて、整定状態で入力がゼロになるよう調整すると、
図14の処理S52Bのようになる。これも、本実施形態の一態様である。
【0167】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る調整力計量装置10は、周波数変動計測値Δfを伝達関数によりフィルタリングして、調整力の演算に用いる。
このようにすることで、例えば周波数の偏移が持続的であるとき、または、周波数の偏移に対し速応性が求められるときなどの状況に応じて、調整力の価値を変更することが可能となる。これにより、よりきめ細かく調整力を算出することができる。
【0168】
なお、上述の各実施形態においては、上述した調整力計量装置10の各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0169】
上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0170】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
【0171】
上述の各実施形態において、調整力ΔPは式(1)にしたがって出力されるものとして説明してきた。しかしながら、式(1)に限定せず、たとえばバリエーションとして、式(40)を用いてもよい。
【0172】
【0173】
式(40)は、周波数変動計測値Δf[Hz]に比例して、トルクT[Nm]を追加的に発することを表している。式(1)と式(40)との違いは、追加するものが有効電力P(または出力P)か、トルクTかである。機械システムのような力学系の制御においては、制御入力はトルクや荷重が一般的であるので、式(40)は対象送配電網N1の周波数調整を、発電機212の回転運動の制御として捉えたときの制御系を表していると考えられる。調整力の表現方法は、観点の違いに依存する。本願の調整力の計量方法も、式(40)に対応したものを説明しておく。
【0174】
式(1)のΔPは次式(41)のように表される。係数2πは、Hzをrad/sに換算するためのものである。
【0175】
【0176】
式(41)の括弧内の第三項目の『Tt-1Δf』は、式(40)にあるΔTに依存しない。これを差し引いたものを『ΔP~』と表記し、式(42)で表す。
【0177】
【0178】
上述の各実施形態に係る調整力計量装置10において、調整力演算部1004は、これらの式を利用して調整力を算出するようにしてもよい。このような態様によっても上述の各実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0179】
また、上述の各実施形態において、複数の電源21、22、・・それぞれの一定期間の調整力の積算値Sを求める態様について説明したが、これに限られることはない。他の実施形態では、上述の各実施形態に係る調整力計量装置10は、特許文献1と同様に、発電事業者Gが管理する安定化機器、需要家Cが管理する負荷、及び、一般送配電事業者Tの管理対象外とする送配電網(対象外送配電網N2)による一定期間の調整力の積算値Sを算出するようにしてもよい。
【0180】
また、上述の各実施形態において、一般送配電事業者Tが調整力計量装置10を有している態様を例として説明したが、これに限られることはない。調整力計量装置10は、各接続点に設置されていてもよい。また、調整力計量装置10の各部の機能は、計測器50に組み込まれていてもよい。この場合、計測器50は調整力計量装置10としても機能する。
【0181】
また、上述の各実施形態において、電源21、22、・・がタービン装置211及び発電機を用いて発電を行う態様について説明したが、これに限られることはない。他の実施形態では、電源21、22、・・は、太陽電池を用いて太陽光発電を行う態様であってもよい。
【0182】
<付記>
上述の実施形態に記載の調整力計量装置、調整力計量システム、調整力計量方法、プログラム、及び計測器は、例えば以下のように把握される。
【0183】
本開示の第1の態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置10は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値Pと、当該接続点における周波数の計測値fとを取得する計測値取得部1001と、所定期間に取得された前記有効電力の計測値Pと前記周波数の計測値fとに基づいて、前記有効電力の変動ΔPの前記周波数の変動Δfへの影響の度合いを示す調整力係数kpを算出する調整力係数演算部1003と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動Δfの絶対値の積算値S|Δf|と、前記調整力係数kpとに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部1004と、を備える。
【0184】
このようにすることで、調整力計量装置10は、調整力係数kpの算出と、調整力の積算値ΔSの算出との両方について、同じ所定期間に取得された計測値を用いて実行することができる。これにより、調整力の算出誤差を低減させることができる。
【0185】
本開示の第2の態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置10は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値Pと、当該接続点における周波数の計測値fとを取得する計測値取得部1001と、所定期間に取得された前記有効電力の計測値Pと前記周波数の計測値fとに基づいて、前記有効電力の変動ΔPの前記周波数の変動Δfへの影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部1003と、算出された前記調整力係数kpと、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値Pそれぞれの変動量を示す有効電力変動ΔPの分散σΔP
2と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値fそれぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動Δfの分散σΔf
2と、に基づいて周波数変動Δfに応じた前記有効電力変動ΔPの確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部1004と、を備える。
【0186】
このようにすることで、調整力の算出誤差を低減させることができる。
【0187】
本開示の第3の態様によれば、第2の態様に係る調整力計量装置10において、前記調整力演算部1004は、前記確率分布において前記有効電力変動ΔPが負の値となる領域をペナルティとして調整力から減じる。
【0188】
このようにすることで、調整力として期待できない電源21の出力の変動については、調整力の算出から除外することができるので、調整力をより正確に算出することが可能となる。
【0189】
本開示の第4の態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置10は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値Pと、当該接続点における周波数の計測値fとを取得する計測値取得部1001と、前記接続点において授受された有効電力の計測誤差dPの統計モデル、及び前記接続点における周波数の計測誤差dfの統計モデルの少なくとも一方と、前記送配電網における調整力係数を正規分布で表す調整力計数の統計モデルと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値P及び前記周波数の計測値fとに基づいて、前記有効電力の変動ΔPの前記周波数の変動Δfへの影響の度合いを示す調整力係数kpを算出する調整力係数演算部1003と、算出された前記調整力係数kpと、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動の分散σΔP
2と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の分散σΔf
2と、に基づいて周波数変動Δfに応じた前記有効電力変動ΔPの確率分布を求めるとともに、前記確率分布に基づいて前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部1004と、を備える。
【0190】
このようにすることで、調整力計量装置10は、調整力係数kpの推定精度を向上させることができ、その結果として、調整力の計量の精度を向上させることができる。
【0191】
本開示の第5の態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置10は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値Pと、当該接続点における周波数の計測値fとを取得する計測値取得部1001と、前記所定期間に取得された前記有効電力の計測値それぞれの変動量を示す有効電力変動ΔPに対し、所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動Δfを重み係数として乗じた値の積算値SΔPΔfに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部1004と、を備える。
【0192】
このようにすることで、周波数の変動が大きいほど、電源21の出力の変動が調整力として大きくカウントされることとなる。これにより、需給の変動が大きいとき、すなわちΔfが大きいときに調整力を供給することが促され、対象送配電網N1の安定に寄与することができる。
【0193】
本開示の第6の態様によれば、第1から第5の何れか一の態様に係る調整力計量装置10において、前記計測値取得部1001は、取得した前記周波数変動Δfに対し、所定の伝達関数Tによるフィルタリングを実施する。
【0194】
このようにすることで、例えば周波数の偏移が持続的であるとき、または、周波数の偏移に対し速応性が求められるときなどの状況に応じて、調整力の価値を変更することが可能となる。これにより、よりきめ細かく調整力を算出することができる。
【0195】
本開示の第7の態様によれば、第1から第6の何れか一の態様に係る調整力計量装置10において、前記調整力演算部1004は、調整力提供手段による定常的な出力を前記周波数変動Δfで按分した値を差し引いて前記調整力を算出する。
【0196】
このようにすることで、第1から第6の何れか一の態様に係る調整力計量装置と同様の効果を得ることができる。
【0197】
本開示の第8の態様によれば、調整力計量システム1は、第1から第7の何れか一の態様に係る調整力計量装置10と、前記送配電網と前記調整力提供手段との接続点に設置され、当該接続点において授受される有効電力と、当該接続点における周波数とを計測可能な計測器50と、を備える。前記計測値取得部1001は、前記計測器50を通じて、前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とを取得する。
【0198】
本開示の第9の態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量方法は、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得するステップと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出するステップと、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の絶対値の積算値と、前記調整力係数とに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出するステップと、を有する。
【0199】
本開示の第10の態様によれば、管理対象とする送配電網に対し提供された電力需給バランスの調整力を計量する調整力計量装置10のコンピュータを機能させるプログラムは、前記コンピュータに、当該送配電網に対し前記調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点において授受される有効電力の計測値と、当該接続点における周波数の計測値とを取得するステップと、所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出するステップと、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の絶対値の積算値と、前記調整力係数とに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出するステップと、を実行させる。
【0200】
本開示の第11の態様によれば、管理対象とする送配電網と、当該送配電網に対し電力需給バランスの調整力を提供可能な調整力提供手段との接続点に設置される計測器50は、前記接続点において授受される有効電力と、当該接続点における周波数とを計測可能なセンサと、前記センサを通じて、前記有効電力の計測値と、前記周波数の計測値とを取得する計測値取得部1001と、所定期間に取得された前記有効電力の計測値と前記周波数の計測値とに基づいて、前記有効電力の変動の前記周波数の変動への影響の度合いを示す調整力係数を算出する調整力係数演算部1003と、前記所定期間に取得された前記周波数の計測値それぞれの基準値からの偏差を示す周波数変動の絶対値の積算値と、前記調整力係数とに基づいて、前記調整力提供手段が前記送配電網に提供した調整力を算出する調整力演算部1004と、を備える。
【符号の説明】
【0201】
1 調整力計量システム
10 調整力計量装置
100 CPU
1001 計測値取得部
1002 積算処理部
1003 調整力係数演算部
1004 調整力演算部
101 メモリ
102 通信インタフェース
103 ストレージ
21、22、23 電源
210 制御部
211 タービン装置
212 発電機
50 計測器