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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】保全リコメンドシステム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20240726BHJP
【FI】
G06Q10/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020194803
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083474
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】内田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】堀脇 一樹
(72)【発明者】
【氏名】人見 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】難波 康晴
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-181231(JP,A)
【文献】特開2020-042389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械の故障モードを特定する保全リコメンドシステムであって、
故障モードの特定に必要な少なくとも1つ以上の検査結果を入力する情報入力部と,前記検査結果を記憶する一次記憶部と,最低1回以上の前記検査結果から前記故障モードの確率を推定する故障モード確率算出部と、機械の変更に伴い前記故障モード確率算出部における前記故障モードの確率算出の基準を変更する確率更新部とを、備える、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項2】
請求項1記載の保全リコメンドシステムであって、
前記確率更新部は、前記故障モードの発生確率を変更する、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項3】
請求項1記載の保全リコメンドシステムであって、
前記確率更新部は、前記故障モードに紐づく部品が機械の変更前後で変更になっている時に、前記確率算出の基準を変更する、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項4】
請求項3記載の保全リコメンドシステムであって、
前記故障モードに紐づく部品が機械の変更前後で異なるかを判定する学習部品判定部を備える、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項5】
請求項3記載の保全リコメンドシステムであって、
前記確率更新部は、前記故障モードに紐づく部品が機械の変更前後で変更になっている時に、保全業務の記録を基に前記確率算出の基準を変更する、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項6】
請求項3記載の保全リコメンドシステムであって、
前記確率更新部は、前記故障モードに紐づく部品が機械の変更前後で変更になっている時に、部品の試験結果を基に前記確率算出の基準を変更する、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項7】
請求項6記載の保全リコメンドシステムであって、
前記確率更新部は、前記故障モードの発生確率を変更する、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項8】
請求項6記載の保全リコメンドシステムであって、
新機種の前記故障モードの発生確率を入力する設定画面を表示する表示部を備える、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項9】
請求項8記載の保全リコメンドシステムであって、
前記表示部の前記設定画面は、
信頼度パラメータを入力可能である、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【請求項10】
請求項8記載の保全リコメンドシステムであって、
前記表示部は、前記故障モード確率算出部が推定した前記故障モードの確率を表示する、
ことを特徴とする保全リコメンドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機器の故障時にその故障モードを特定するための検査箇所をリコメンドするとともに、その検査結果から故障モードを推定することで機器の保全作業を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンやエレベータ、採掘・建築機器といった機器を常に動作させるためには、機器の保守作業が必須である。機器が故障してしまった際には、どの部品がどのような故障の状態になっているのか、すなわち故障モードを症状や検査結果から推定する必要がある。そのため故障モードごとのデータのパターンから故障モード推定モデルを作ったり、更新する技術が公開されている。
【0003】
例えば特許文献1では機器各部の状態や機器を使うユーザの操作履歴ごとに故障確率を定義した推定モデルを用いて、今どのような故障モードが発生しているかを確率で推定する技術が開示されている。故障確率は機器の設計者の知識や経験および故障日報などから推定し、モデルに設定する。本技術は加えて発生頻度が一定値を超えた故障モードの発生確率を更新することで市場での故障状況の実情に即して、臨時の更新も行なうことを開示している。
【0004】
また特許文献2には故障時のデータが少ない場合には正常時の検査結果のデータを学習しておき、転移学習で少量の故障モード・検査結果のデータから推定モデルを作成する技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-211472号公報
【文献】特開2019-185422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
故障確率の情報源である故障日報には故障モードの記載はあっても、それを見つける過程で実施した検査の情報が書いてないことが多い。これは1件1件の保全現場での作業時間が限られていること、また「何の故障モードが起きていてどのような処置をしたか?」は報告義務があっても、どのような検査をしたかについては必ずしも報告義務はないためである。それでも大量の故障日報があれば、割合は少ないが検査項目が書いてある日報を必要量収集できる可能性は高い。しかし市場に出荷されてから時間が経ってない新機種の機器はそれが難しい。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決し、新機種でも正確に故障モードを推定し、機器の保全作業を支援することが可能な保全リコメンドシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明においては、機械の故障モードを特定する保全リコメンドシステムであって、故障モードの特定に必要な少なくとも1つ以上の検査結果を入力する情報入力部と,検査結果を記憶する一次記憶部と,最低1つ以上の検査結果から故障モードの確率を推定する故障モード確率算出部と、機械の変更に伴い故障モード確率算出部における故障モードの確率算出の基準を変更する確率更新部とを備える保全リコメンドシステムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
市場出荷して間もなくデータが集ってない機器でも正確に故障モードを推定して無駄な交換作業を減らす、また調査時間を短縮し、機器の故障から復帰までの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例に係る保全リコメンドシステムの全体構成図。
図2】実施例1に係るデータ構造の一例を示す図。
図3A】実施例1に係るデータ構造の他の例を示す図。
図3B】実施例1に係るデータ構造の他の例を示す図。
図4A】実施例1に係るデータ構造の他の例を示す図。
図4B】実施例1に係るデータ構造の他の例を示す図。
図5】実施例1に係るデータ構造の他の例を示す図。
図6】実施例1に係る処理内容のフローチャートの一例を示す図。
図7】実施例1に係る処理内容のフローチャートの他の例を示す図。
図8】実施例1に係る処理内容のフローチャートの他の例を示す図。
図9】実施例1に係る処理内容のフローチャートの他の例を示す図。
図10】実施例1に係るシステムで提示する画面の一例を示す図。
図11】実施例1に係るシステムで提示する画面の他の例を示す図。
図12】実施例1に係るシステムで提示する画面の他の例を示す図。
図13】実施例1に係るシステムのアルゴリズムを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を図面に従い説明するが、機器は蒸気圧縮式冷凍機を持つ冷蔵庫と想定して実施例を説明する。また本発明の主眼は旧機種の推定モデルを新機種向けに修正する点であるが、推定モデルを用いた推定方法についても実施例に記載した。実施例としては図6のフローチャートのように旧機種の故障モードの推定、推定モデルの修正、新機種の故障モードの推定の順に説明する。
【0012】
新機種の機器も多くは旧機種の派生開発であり、新旧で共通した部品には同一の故障モードと症状が出る。ただし調達先や型式変更により部品の信頼性は変化するため、故障モードの発生確率も変化する。そこで、本発明の保全リコメンドシステムにおいては、知識経験や故障日報などから既に作成済みの旧機種の推定モデルを元に、当該推定モデルのパラメータをa)故障モードの発生確率、b)故障モード発生時の検査項目の確率に分け、a) 故障モードの発生確率のみを修正する。修正には故障日報に記載の故障モードの情報を学習するか、変更した部品の加速試験に基づく発生確率の情報があればそれを用いる。故障日報には検査項目の情報は無くても故障モードの情報はあるので学習が可能である。
【実施例1】
【0013】
<実施例1を構成する各要素の説明>
図1の本実施例の保全リコメンドシステムを示した全体構成において、まず大きくは保全員102と保全員102が修理する故障した機器104、保全員102が故障モード推定を指示するための端末100、端末100が通信を介して接続するセンタ側システム150で構成される。
【0014】
端末100は保全員102が機器104の稼働サイトに持っていきやすい軽量なタブレットなどが好ましい。端末100は、液晶ディスプレイなどの表示部105と、タッチディスプレイなどで構成される入力部120を持つ。なお本実施例では保全員102が機器104のある客先に出かけて保全作業を行うという、かつセンタ側システム150を複数の保全員で共有するという想定なので、端末100とセンタ側システム150を分けている。しかし端末100とセンタ側システム150を一体化してもよい。
【0015】
本実施例の機器104は、発電機や建設機器、医療機器といった保守を行う対象となる機器である。この機器104の各部を検査してその結果を端末100に入力することで、保全員102は次に検査すべき項目と故障モードの推定結果を得る。なお機器104の中に端末100が内蔵されていても本実施例の内容と本質的には等価である。
【0016】
センタ側システム150は、端末100に入力された機器104の検査結果を通信で受信し、故障モードおよび次に検査すべき項目、すなわち検査項目候補を保全員102に返すシステムである。そのための通信部190を備える。センタ側システム150は、記憶部、中央処理部(CPU)、通信部、入出力部などを備えたコンピュータなどで構成できる。
【0017】
また、センタ側システム150は新機種の機器がリリースされた時にセンタ側システム150をメンテナンスするSE151が更新指示部152を介して新機種向けに故障モード確率テーブル160を更新することも行う。なお更新指示部152はタッチディスプレイや液晶ディスプレイで構成され、入出力画面が提示される。
【0018】
センタ側システム150は保全員102が実施した検査の結果を記憶する一次記憶部155、故障モードの確率を推定するのに使う故障モード確率算出部175、部品が新旧で異なるかを判定する学習部品判定部180と、異なる場合にSE151が更新を指示するための更新指示部152と、更新指示部152を介して受け取った更新指示を実行する確率更新部170を持つ。なお、確率更新部170、故障モード確率算出部175、学習部品判定部180は、所定のプログラムをCPUで実行することで実現する。
<データ構造の説明>
処理で必要なデータを記憶する記憶部である検査項目確率テーブル185、故障モード確率テーブル160、BOM(Bill Of Materials)テーブル195のデータ構造を図2図3A図3B図4A図4Bで説明する。一次記憶部155以外は、本実施例によるシステムの設計時に初期値を定義する。
<検査項目確率テーブル185の説明>
図2に示すように、本テーブルは「故障モード200が起きた時に、検査部位210の検査項目220が検査項目の挙動225のような挙動を示す確率230」を記憶したテーブルである。
【0019】
この確率230は統計学の用語で言えば条件付確率のことであり、故障モード200が起きている時に検査項目の挙動225が起きる条件付確率P(検査項目の挙動=True|故障モード=True)と言える。例えば図2のテーブル1行目は、凝縮器冷水減少という故障モード200が起きた時に、電源部の入力電力という検査項目の挙動225が上昇する確率が0.30であるという意味である。この確率は必ずしも厳密な値ではなくて良い。例えば機器104の設計者や保全員の経験から見積ったり、信頼性データベースの故障率、過去の実験した値、物理モデルに基づく故障シミュレーションなどから見積り、本実施例を適用したシステムの設計時に入力しておく。この条件付確率と、次に説明する故障モード確率テーブル160の確率から、故障モードの推定を行うことができる。
<故障モード確率テーブル160の説明>
故障モード確率テーブル160の構造を図3A図3Bに示す。図3Aは旧機種MT1の部品に関する情報で、図3B図3Aに新機種MT2の故障モードの情報を追加したテーブルであって情報303~330と情報333~355は同じ意味である。新機種MT2の情報は図6のS620で追加される。情報333~355は情報303~330と同じなので説明は省略する。
【0020】
機器機種303は故障モードが起きる機器機種を意味し、図3Aは旧機種のMT1が、図3Bはそれに新機種MT2を加えたものになる。
【0021】
部品305は故障モードが起きる部品を示す。例えば図3Aの1行目の凝縮器冷水減少という故障モード310は凝縮器に関する故障モードなので部品305に凝縮器と書いてある。
【0022】
部品型式307は旧機種、新機種で使われている部品305の型式を記録している。例えば図3Aの上から2行目の部品型式はPT2であるが、新機種MT2の情報が追加された図3Bの下から3行目は、同じ冷媒でも部品型式340がPT2-1になっている。これは新旧で部品型式が変更になった例である。
【0023】
故障モード310は、部品305に起きる故障モードの名称を、発生確率320はその発生確率Pが記憶されている。故障モード310は、図2の故障モード200と同じものが記憶されている。ただし図3Aでは条件付確率ではなく、各故障モードが起きる一般的な確率を発生確率320に記憶している。この確率は、実際の今まで起きた故障モードの発生件数から割り出したり、機器104のFMEA(Failure Mode and Effect Analysis)に記載されている発生確率といった情報から作る。
【0024】
上記に加え、発生確率320の信頼度を表すパラメータをExperience330にもつ。このパラメータはベイズ統計における事前分布をベータ分布としたときのベイズ更新に出てくるパラメータである。このベイズ更新とExperienceというパラメータ(信頼度パラメータ)は公知技術の範疇であるが簡単に以下で説明する。
【0025】
このExperience330の初期値は320の値がどれだけ信頼できるかで決める。例えばベテランのエンジニアによる経験であったり、物理的に間違いなく信頼できるなら高い数字に設定する。初期値を定義した後、確率更新部170が日々発生する故障日報を基に発生確率320を更新するたびにExperience330は増加していく。これは故障日報で更新すればするほど実績に裏打ちされた信頼できる確率になっていくという考えに基づく。
【0026】
参考としてよく知られた事前確率ベータ分布のパラメータa,bとExperienceパラメータの対応関係を以下に示す。下の式でBはベータ関数を意味する。
【0027】
ベータ分布が下式(1)としたとき、
【0028】
【数1】
【0029】
Experience330=a+b、発生確率320=a/a+b、あるいはこの関係式を使って
e = Experienceパラメータ, p = 発生確率320と定義すれば上記ベータ分布は式(2)のように表される。
【0030】
【数2】
【0031】
<一次記憶部155の説明>
図5に一次記憶部155のデータ構造を示す。まず一次記憶部155はRAMなど一時的なメモリで構成されている。これは今今の現場で保全員がこなした検査項目の結果を記憶するためである。この検査結果から故障モードや次に検査すべき項目を推定する。図5のデータ構造の情報510、520、530には、図2の情報210、220、225のうち検査完了した行がコピーされて記憶される。検査結果540は保全員が検査した結果であり、検査項目の挙動530で定義した通りの挙動であれば1、そうでなければ0が記憶される。
<BOMテーブル195の説明>
BOMテーブル195は、BOM(Bill Of Materials)として新旧の機器を構成する部品の部品型式が記録された部品表である。新旧で型式が異なる部品があるかを判定するためのテーブルである。
【0032】
図4A図4BにBOMテーブル195の内部構造を示す。図4Aの405~415が旧機種の部品型式で、図4Bの425~435が新機種の部品型式が追加されたものになる。追加は図6のフローチャートのS620で行う。405~415と425~435の意味は同じであるため425~435の説明は省略する。機器機種405は機種を示し、機器部品410は機器機種405の機器を構成する部品を示し、その部品の型式が部品型式415に記録されている。例えば図4Aの1行目ならMT1という機種の機器にはPT1という型式の凝縮器があるという事を意味している。
<メインルーチンの説明>
続いて、図6、7、8、9に示すフローチャートの処理の詳細を説明し、その処理の中で図10図12に示す画面例が表示されることを説明する。
【0033】
まず図6はメインルーチンでありS610が旧機種に対して故障モードの推定が行うサブルーチンSUB01を呼出す。SUB01の詳細は図7で後述する。S610は修理業務が発生する度に実行され、新機種がリリースされたらS620に進む。
【0034】
S620では新機種のBOM情報を登録する。具体的にはBOMテーブル195に新機種を構成する部品の型式情報を追加する。これにより旧機種MT1の情報しか入ってなかった図4Aに新機種MT2が加わり、新旧両方の情報が入った図4Bに変化する。
【0035】
S630はリリースされた新機種の故障モード確率をSE151に更新させるためのサブルーチンSUB02を呼出す。SUB02は図8で後述する。
【0036】
S640はSUB01を新機種に対して呼び出し、故障モードを推定するルーチンである。故障モードの推定対象が旧機種だったのが新機種に変わっただけでS610と同じサブルーチンである。
【0037】
S645はS640で推定した後、実際に発生していた故障モードを登録して故障モードの確率を更新するサブルーチンSUB03を呼出す。SUB03は図9で後述する。
<サブルーチンSUB01の説明>
図7を用いて旧機種あるいは新機種の故障モードを推定するサブルーチンSUB01を説明する。
【0038】
SUB01はS610とS640の両方から呼び出される共通のサブルーチンであり、S610は旧機種MT1の故障モードを、S640では新機種MT2の故障モードを推定する。
【0039】
最初のステップS700は全検査項目を端末に表示する。これは保全員102が故障した機器のある現場に到着する前に事前に機器のユーザやオーナから聞いた症状を元に入力するためのものである。表示のやりかたは検査項目確率テーブル185が記憶する検査部位210、検査項目220、検査項目の挙動225を全レコード読み取り表示する。なお検査項目は新旧の機種で共通なので区別する必要はない。
【0040】
図10に検査項目表示の画面例を示す。読み取った図2の情報210、220、225を1010、1020、1030に表示する。またS715で使うため1005に機器機種を保全員102に入力させる。
【0041】
検査結果1040は検査項目1020が検査項目の挙動1030のような挙動をしているか(True)、していないか(False)検査した結果を入力できるようにTrueとFalseの文言とチェックボックスを表示する。
【0042】
S705は保全員102が故障した機器のある現場に到着する前に分かっている初期情報がもしあれば図10の検査結果1040のチェックボックスに入力する。図10の画面がタッチパネルで表示されていれば、直接チェックボックスを指でタッチすればチェック入力が可能である。例えば図10のテーブルの1行目のような機器104の冷蔵庫のアラート発報の記録があったり、冷凍機がそもそも機能しているかといった、機器の分解など特別な作業をしなくても分かる情報を入力する。診断ボタン1050を保全員102は押す。すると検査結果を一次記憶部155に記憶する。チェック結果がTrueなら1を、Falseなら0を記憶する。その後、次のS710に進む。
【0043】
S710はS705でTrue/Falseが入力された検査項目を図2の検査項目確率テーブル185から検索し、条件付確率230(P(検査項目の挙動|故障モード))と故障モード200を読み取る。
【0044】
S715は1005に入力された機器機種を303に、S710で読み取った故障モード200を310にキーとして検索し、故障モード310の発生確率320(P(故障モード))を読み取る。機器機種303は保全員102に入力部120を介して機器104の機種として入力させる。
【0045】
S720はS710、S715で読み取った複数のP(検査項目の挙動|故障モード)とP(故障モード)から検査項目の挙動と故障モードの同時確率P(複数の検査項目の挙動, 複数の故障モード)を求める。
【0046】
この処理はベイジアンネットワークと呼ばれる従来技術に基づくものであるが、計算方法を簡単に説明する。説明のため、本実施例で使用するベイジアンネットワークを図13に示した。
【0047】
図13は故障モード1410、1420、1430と検査項目の挙動1440、1450、1460、1470、1480が紐づいたネットワークである。1410、1420、1430は図2の故障モード200に、1440、1450、1460、1470、1480は検査項目に関する情報210、220、225に対応している。そして故障モードから検査項目の挙動に伸びている1412などの矢印線は故障モードから検査項目の挙動への条件付確率230に対応している。1412に例として書いた0.30という数字は検査項目が起きる確率230の確率P(検査項目の挙動|故障モード)である。また故障モード、例えば1410に書いてある0.005という数字は図3の発生確率320のP(故障モード)である。
【0048】
この図13のベイジアンネットワークにおいて検査項目の挙動と故障モードの同時確率P(複数の検査項目の挙動, 複数の故障モード)、これを図13の故障モードを示すF1や検査項目の挙動を示すI1といった記号を使って表現すると、下式となるが、
【0049】
【数3】
【0050】
これを求めるには以下の式を計算すればよい。
【0051】
【数4】
【0052】
ここで、P(I= i|Fj= fj)はS800で読み取ったP(検査項目の挙動|故障モード)のことであり、式(4)では全部でJ件読み取ったと想定している。P(Fj= fj)はS810で読み取ったP(故障モード)のことで、全部でK件読み取ったという想定である。fjは故障モードが発生していれば1(True)、発生していなければ0(False)をとる値である。 iは検査項目Iの検査結果を示す数値で、検索項目が挙動どおりなら1(True)、そうでなければ0(False)をとる。この0,1の情報は図10の検査結果1040を参照して取得する。
【0053】
なお上記の数式の導出にはベイジアンネットの因数分解とNoisy-ORと呼ばれるベイジアンネットワークの従来技術を用いている。式(4)が計算できたらS820を終了しS840に移る。
【0054】
S840ではS820で求めた下式の同時確率、
【0055】
【数5】
【0056】
【0057】
【数6】
【0058】
を計算する。これには以下の式(7)を計算すればよい。
【0059】
【数7】
【0060】
この式は検査項目I1~IK、検査結果がi1~IKだったとき、j番目の故障モードFj=fjとなる条件付確率を意味している。これが検査結果から推定される故障モードの確率である。
【0061】
S730で本故障モードの確率を表示する。表示のための画面例を図12に示す。本実施例の保全リコメンドシステムは故障モード確率算出部175が推定した故障モードの確率を表示する表示部を備えている。
【0062】
図12の1205は1005と同じ機種を表示し、故障モード1260は推定結果の確率上位N位、確率1270がその確率を表示する。チェック入力1250は真に起きていた故障モードをチェックさせるための入力項目であり、故障モード1260を処置して機器が直ったらそれが真の故障モードといえる。ただしこのチェック結果は旧機種を対象としたS610からの呼び出しでは使用せず、S640から呼び出される場合のみ使用する。以上で本サブルーチンSUB01は終了し、図6のS610に戻る。
<サブルーチンSUB02の説明>
本実施例の保全リコメンドシステムのポイントとなるサブルーチンであり、図8を用いて説明する。
【0063】
S805ではBOMテーブル195を検索し、旧機種MT1から新機種MT2で部品型式が変更になった機器部品を見つける。具体的には機器機種425の検索キーをMT1 or MT2で検索し、部品型式435が異なる機器部品430を検索する。本実施例では冷媒が部品型式PT2→PT2-1に、蒸発器がPT3→PT3-1に変更されており、検索結果は旧機種が「冷媒、PT2」「蒸発器、PT3」、新機種が「冷媒、PT2-1」「蒸発器、PT3-1」となる。この結果はS815で表示する。
【0064】
S810でS805で検索結果が1件以上見つかればS815に、見つからなければ新機種と旧機種で同じ型式の部品しか使っていないのでSUB02を終了する。
【0065】
S815ではS805の検索結果を図11のように表示する。図11は上段の1110~1130が旧機種、下段の1140~1160が新機種の変更部品の情報を表示しており、冷媒と蒸発器の1155と1160を新機種向けにSE151に入力させる。
【0066】
旧機種の情報である1110と1115はS805の検索結果である「冷媒、PT2」「蒸発器、PT3」を表示し、故障モード1120は図3Bの340にPT2,PT3をキーにして検索し、故障モード345を1120、発生確率350を1125、Experience355を1130に表示する。新機種向けに表示する1140~1160も同様である。
【0067】
SE151は旧機種の1110~1130を見ながら1155と1160を入力する。1155の値は機器部品の故障モード発生確率で、1160はその信頼度を示すExperienceパラメータである。
【0068】
もし部品の模擬故障実験や加速試験が行われていて1155が信頼度高く求められているなら、その試験結果を設定しExperienceパラメータも100など高めの値に設定する。あるいはそこまで明確でなくても以前の部品より発生確率が低いと見積もれるなら旧機種の1125の数分の1にした値を1155に設定しExperienceパラメータ1160を低めに設定する。Experienceパラメータ1160を低めに設定することで、この後行うS645から呼び出されるSUB03において、保全業務ログから1155を早く学習することができる。
【0069】
このように、本実施例の保全リコメンドシステムは、その表示部に、新機種の故障モードの発生確率を入力する設定画面を表示することができる。また、
表示部の設定画面は、Experienceパラメータ(信頼度パラメータ)を入力可能である。
<サブルーチンSUB03の説明>
図9に示すサブルーチンSUB03のS905では図12のように表示した故障モード上位N位の故障モードから選んで真の故障モードをチェック入力1250にチェックさせる。図12はS640から呼び出したSUB01の内部で表示したものを用いる。
【0070】
S910で、S640で保全員102が入力した検査結果1040とS905でチェックした故障モードから図、と図3A図3Bの確率とExperienceを更新する。これはベイズ更新として公知の技術であるが、簡単に図3A図3Bの故障モード確率テーブルの更新の場合を説明する。e=Experience 330、p=発生確率P(故障モード) 320とすると更新の式は以下になる。
e → e + 1
p → (ep+1)/(e+1)

例えば図3A図3Bの1行目の凝縮器冷水減少の場合ならば上の式は、
e → 10+1 = 11
p → (10 x 0.05 + 1)/(10+1) ≒ 0.136
の様になる。これらの更新を完了したらSUB03を終了し、S750に戻ったのち、本実施例の保全リコメンドシステムの処理を完了する。
【0071】
本発明は、以上に説明した実施形態および変形例に限定されるものではなく、さらに、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態および変形例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態や変形例の構成の一部を、他の実施形態や変形例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態や変形例の構成に他の実施形態や変形例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態や変形例の構成の一部について、他の実施形態や変形例に含まれる構成を追加・削除・置換することも可能である。
【符号の説明】
【0072】
100 端末側システム
102 保全員
104 機器
105 表示部
120 入力部
125、190 通信部
150 センタ側システム
151 SE
152 更新指示部
155 一時記憶部
160 故障モード確率テーブル
170 確率更新部
175 故障モード確率算出部
180 学習部品判定部
185 検査項目確率テーブル
195 BOMテーブル
200 故障モード
210、510 検査部位
220、520 検査項目
225、530 検査項目の挙動
230 検査項目が起きる確率
303、333、405、425 機器機種
305、335 部品
307、340、415、435 部品形式
310、345 故障モード
320、350 発生確率
330、355 Experience
410、430 機器部品
540 検査結果
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13