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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】電鋳品の製造方法及び電鋳品
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/00 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
C25D1/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020195664
(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公開番号】P2021139038
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2020033185
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽介
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-045232(JP,A)
【文献】特開2015-151581(JP,A)
【文献】特開2002-226988(JP,A)
【文献】特開2008-030152(JP,A)
【文献】特表2011-514846(JP,A)
【文献】特開2008-208431(JP,A)
【文献】特開2019-137894(JP,A)
【文献】特開昭62-173748(JP,A)
【文献】特開昭63-093886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属めっきで形成される電鋳部分を厚さ方向に積層することにより、複数層の前記電鋳部分を一体的に形成する電鋳品の製造方法であって、
先行して形成された電鋳部分の、次の電鋳部分が積層される側の表面に、酸化皮膜を形成し難い、耐食性の良い、貴金属の金属皮膜又は貴金属の合金の金属皮膜を形成し、
次いで、前記金属皮膜の上に前記次の電鋳部分用のレジストを形成し、
次いで、前記レジストのうち、前記次の電鋳部分に対応する部分を露光及び現像により除去し、
前記レジストの除去された部分に、前記次の電鋳部分を形成し、
前記金属皮膜を形成するのに先立って、前記先行して形成された電鋳部分の表面から、酸化皮膜を除去する電鋳品の製造方法。
【請求項2】
前記次の電鋳部分が形成される前、前記レジストのうち、前記次の電鋳部分を形成するための除去されなかった他の部分の少なくとも一部は、前記金属皮膜の上に残されている請求項1に記載の電鋳品の製造方法。
【請求項3】
前記先行して形成される電鋳部分に対応した層に空洞を形成し、
前記空洞に、前記空洞に挿入されたアンカー部を前記次の電鋳部分に形成する請求項1又は2に記載の電鋳品の製造方法。
【請求項4】
前記空洞の前記次の電鋳部分に近い側の部分に、前記次の電鋳部分から遠い側の部分よりも太さの細いくびれ部を形成し、
前記アンカー部の、前記空洞の前記次の電鋳部分から遠い側の部分に挿入される部分を、前記くびれ部よりも太く形成する請求項3に記載の電鋳品の製造方法。
【請求項5】
基板の上に、前記金属皮膜とは異なる導電性の材料の庇形成層を形成し、
前記庇形成層の上に、前記先行して形成される電鋳部分を形成し、
前記庇形成層を、前記先行して形成された電鋳部分の側面よりも内側に引っ込んだ位置まで除去し、
前記基板及び前記先行して形成された電鋳部分に対して、前記金属皮膜を形成し、
前記庇形成層を前記引っ込んだ位置まで除去したことにより、前記基板に形成された前記金属皮膜と前記先行して形成された電鋳部分の側面に形成された前記金属皮膜との間に、隙間を形成し、
前記金属皮膜を介して前記先行して形成された電鋳部分の上に前記次の電鋳部分が形成された後に、エッチングにより、前記隙間を介して、前記先行して形成された電鋳部分と前記基板との間に残存している前記庇形成層を除去する請求項1から4のうちいずれか1項に記載の電鋳品の製造方法。
【請求項6】
前記庇形成層の上に前記先行して形成される電鋳部分を形成するのに先立って、前記庇形成層の上に前記金属皮膜を形成し、
前記金属皮膜の上に、前記先行して形成される電鋳部分を形成する、請求項5に記載の電鋳品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電鋳品の製造方法及び電鋳品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、時計の部品等微小な形状の構造物を、電鋳により製造することが行われている。そして、電鋳品として、厚さ方向の位置によって輪郭形状が異なる、多層(多段)の電鋳部分で形成したものも提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の技術によれば、1層(1段)目の電鋳部分(電鋳(めっき)工程で形成された部分)の表面(2層(2段)目の電鋳部分と接する面)にバリア層を設け、バリア層及び1層目のレジストの表面の全体に、2層目のレジストを形成し、2層目のレジストに対する露光と現像の後に、1層目の電鋳部分の表面のバリア層を除去して、1層目の電鋳部分の表面に接する2層目の電鋳部分を形成する。
【0004】
特許文献2に記載の技術によれば、1層目の電鋳部分(電鋳(めっき)工程で形成された部分)の表面の全体に、2層目のレジストを形成し、2層目のレジストに対する露光と現像の後に、1層目の電鋳部分の表面に接する2層目の電鋳部分を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6284144号公報
【文献】欧州特許出願公開第2405301号明細書(EP-A1-002405301)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、1層目の電鋳部分の表面のバリア層を除去する際に、1層目の電鋳部分の表面に形成されたバリア層のうち、2層目の電鋳部分に接する範囲のバリア層だけでなく、2層目のレジストに接する範囲のバリア層も除去される。
【0007】
そうすると、1層目の電鋳部分と2層目のレジストとの間に、除去されたバリア層に相当する空隙が形成される。この結果、2層目の電鋳部分がこの空隙にも形成されて、本来は2層目のレジストで輪郭が画されるべき2層目の電鋳部分が、2層目のレジストよりも外側である空隙にまで形成され、電鋳部分の形状の寸法精度が低下するという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術は、形成された1層目の電鋳部分の表面には、電鋳部分と空気中の酸素との反応によって酸化皮膜が形成される。酸化皮膜は、2層目の電鋳部分と1層目の電鋳部分との結合度合いを低下させる。したがって、2層目のレジストに対する露光と現像の後に、1層目の電鋳部分の表面に形成された酸化皮膜を、強酸などによって除去する必要がある。
【0009】
しかし、この酸化皮膜の除去の際に、1層目の電鋳部分の表面に形成された酸化皮膜のうち、2層目の電鋳部分に接する範囲の酸化皮膜だけでなく、2層目のレジストに接する範囲の酸化皮膜も除去される。
【0010】
そうすると、特許文献1の場合と同様に、1層目の電鋳部分と2層目のレジストとの間に、除去された酸化皮膜に相当する空隙が形成される。この結果、2層目の電鋳部分がこの空隙にも形成されて、本来は2層目のレジストで輪郭が画されるべき2層目の電鋳部分が、2層目のレジストよりも外側である空隙にまで形成され、電鋳部分の形状の寸法精度が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、層の境界における電鋳部分の腐食を防ぎ、形状の精度を向上させながら、層間の密着力を十分に得ることができる電鋳品の製造方法及び電鋳品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1は、金属めっきで形成される電鋳部分を厚さ方向に積層することにより、複数層の前記電鋳部分を一体的に形成する電鋳品の製造方法であって、先行して形成された電鋳部分の、次の電鋳部分が積層される側の表面に、酸化皮膜を形成し難い、耐食性の良い金属皮膜を形成し、次いで、前記金属皮膜の上に前記次の電鋳部分用のレジストを形成し、次いで、前記レジストのうち、前記次の電鋳部分に対応する部分を露光及び現像により除去し、前記レジストの除去された部分に、前記次の電鋳部分を形成する電鋳品の製造方法である。
【0013】
本発明の第2は、金属めっきで形成された電鋳部分が、厚さ方向に複数積層して形成され、前記積層された電鋳部分の段差が生じている境界に、酸化皮膜が無く、かつ耐食性の良い金属皮膜が形成されている電鋳品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電鋳品の製造方法及び電鋳品によれば、層の境界における電鋳部分の腐食を防ぎ、形状の精度を向上させながら、層間の密着力を十分に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明の一実施形態である2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その1)である。
図1B】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その2)である。
図1C】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その3)である。
図1D】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その4)である。
図1E】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その5)である。
図1F】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その6)である。
図1G】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その7)である。
図1H】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その8)である。
図1I】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その9)である。
図1J】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その10)である。
図1K】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その11)である。
図1L】実施形態の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その12)である。
図1M図1Eに示した工程に対応した、2層目の電鋳部分が1層目の電鋳部分よりも大きいサイズの電鋳品を製造する変形例1の製造方法における工程での、電鋳品の模式的な断面図(その1)である。
図1N図1Hに示した工程に対応した、変形例1の製造方法における工程での、電鋳品の模式的な断面図(その2)である。
図1O図1Lに示した工程に対応した、変形例1の製造方法における工程での、電鋳品の模式的な断面図(その3)である。
図1P図1Aに示した工程に対応した、1層目の電鋳部分の側面に金属皮膜を形成した電鋳品を製造する変形例2の製造方法における、庇形成層上に1層目のレジストを形成する工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
図1Q】変形例2の製造方法における、1層目の電鋳部分を形成した後に1層目のレジストを除去した工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
図1R】変形例2の製造方法における、庇形成層の一部を除去した工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
図1S】変形例2の製造方法における、1層目の電鋳部分の表面、側面及び基板の上面に金属皮膜を形成した工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
図1T】変形例2の製造方法における、2層目のレジストを形成した工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
図1U】変形例2の製造方法における、2層目の電鋳部分を形成してレジストを除去した工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
図1V】変形例2の製造方法における、1層目の電鋳部分と2層目の電鋳部分とが一体化して、1層目の電鋳部分の側面にも金属皮膜が形成された電鋳品を形成した工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
図1W】エッチングにより金属皮膜のうち1層目の電鋳部分の直下の部分を除いた部分の金属皮膜を除去した工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
図2A】変形例3の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その1)である。
図2B】変形例3の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その2)である。
図2C】変形例3の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その3)である。
図2D】変形例3の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その4)である。
図2E】変形例3の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その5)である。
図2F】変形例3の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その6)である。
図2G】変形例3の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その7)である。
図2H】変形例3の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その8)である。
図3A】変形例4の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その1)である。
図3B】変形例4の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その2)である。
図3C】変形例4の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その3)である。
図3D】変形例4の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その4)である。
図3E】変形例4の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その5)である。
図3F】変形例4の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その6)である。
図3G】変形例4の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その7)である。
図3H】変形例4の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その8)である。
図4A】変形例5の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その1)である。
図4B】変形例5の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その2)である。
図4C】変形例5の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その3)である。
図4D】変形例5の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その4)である。
図4E】変形例5の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その5)である。
図4F】変形例5の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その6)である。
図4G】変形例5の2層の電鋳品の製造方法の流れを示す模式的な断面図(その7)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電鋳品の製造方法及び電鋳品の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0017】
図1A~1Lは本発明の一実施形態である電鋳品100の製造方法の流れを示す模式的な断面図である。図示の電鋳品100の製造方法は、金属めっきで形成される電鋳部分40,80を厚さ方向に積層することにより、2層の電鋳部分40,80を一体的に形成する電鋳品100の製造方法である。
【0018】
この製造方法は、まず、図1Aに示すように、導電性の基板10上に、1層目のレジスト20を塗布する。
【0019】
導電性の基板10は、導電性の金属で形成されてもよいし、又は、半導体であるシリコン等の基板本体や非導電性の樹脂等の基板本体にそれぞれ導電性の膜を形成して導電性を発揮するように形成されてもよい。なお、導電性の基板10は、複数種類の金属を積層して形成したものでもよい。
【0020】
レジスト20は、例えば、化学増幅型のエポキシ系ネガ型フォトレジストで形成されているが、ネガ型に限定されず、例えば、ポリメチルメタクリレート系ポジ型フォトレジスト等であってもよい。
【0021】
本実施形態の製造方法は、次に、図1Bに示すように、開口部31と遮蔽部32とが形成されたフォトマスク30を介して、レジスト20にUV光(紫外線)Lを照射(露光)する。これにより、レジスト20には、開口部31を通じてUV光Lが照射された領域(露光領域)21と、遮蔽部32によりUV光Lが照射されなかった領域(未露光領域)22とが形成される。
【0022】
次いで、図1Cに示すように、現像を行うことで、レジスト20のうち未露光領域22が除去され、未露光領域22が存在していた部分に対応した空洞23が形成される。
【0023】
次いで、図1Dに示すように、基板10を陰極にして電気ニッケル(Ni)めっきすることで、露光領域21及び基板10を型として、空洞23を埋めるニッケルによる1層目の電鋳部分40(先行して形成された電鋳部分)が形成される。
【0024】
なお、電鋳材料はニッケルに限定されるものではなく、銅(Cu)、錫(Sn)、コバルト(Co)など電鋳可能な材料の全てを適用することができる。ここで、必要に応じて、1層目の電鋳部分40の表面41及び1層目のレジスト20(露光領域21)の表面が平らになるように研削及び研磨する。
【0025】
次に、1層目の電鋳部分40の表面41(次の電鋳部分(2層目の電鋳部分80)が積層される側の面(図1Eにおいて上面))に形成された酸化皮膜を除去して、貴金属(例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金族元素、からなる群から選択される金属)又は貴金属の合金(例えば、金の場合、金と銀の合金である金銀合金、金と白金の合金である金白金合金など、酸化皮膜を形成し難い合金であればよい。)の層である金属皮膜50を形成する。
【0026】
金属皮膜50には、下層側にチタン(Ti)やクロム(Cr)の層を備えていてもよいが、上層側(露出する側)に貴金属又は貴金属の合金が形成されていることを要する。
【0027】
なお、電鋳部分40の表面41以外のレジスト20の露光領域21の表面にも、金属皮膜50が形成されてもよいが、この露光領域21の表面の金属皮膜50は最終的に除去されるため、電鋳品100としては不要である。
【0028】
電鋳部分40の表面41のみへの金属皮膜50は、湿式めっきで形成してもよいし、電鋳部分40の表面41に対応した開口部が形成されたステンシルマスクを表面に密着させスパッタリングや蒸着、イオンプレーティング等の乾式めっきで形成してもよい。また、金属皮膜50は、1層目にレジスト20の露光領域21を除去した上で、電鋳部分40の表面41を含む全面へ前述したいずれかの方法で形成してもよい。
【0029】
電鋳部分40の表面41に金属皮膜50を形成した後、図1Fに示すように、1層目の電鋳部分40及びレジスト20の露光領域21の上に、2層目のレジスト60(次の電鋳部分用のレジスト)を形成する。
【0030】
次に、図1Gに示すように、開口部71と遮蔽部72とが形成されたフォトマスク70を介して、レジスト60にUV光Lを照射(露光)する。これにより、2層目のレジスト60には、開口部71を通じてUV光Lが照射された領域(露光領域)61と、遮蔽部72によりUV光Lが照射されなかった領域(未露光領域)62とが形成される。未露光領域62は、少なくとも一部が、1層目の電鋳部分40に重なるように形成される。
【0031】
次いで、図1Hに示すように、現像を行うことで、レジスト60のうち未露光領域62が除去され、未露光領域62に対応した空洞63(次の電鋳部分に対応する部分)が形成される。また、レジスト60のうち、除去されなかった露光領域61の一部は、金属皮膜50の上に残されている。
【0032】
ここで、1層目の電鋳部分40の表面41は金属皮膜50に覆われていて、空洞63に面した領域も、電鋳部分40が空洞63に露出するのではなく、電鋳部分40を覆っている金属皮膜50が露出している。
【0033】
本実施形態とは異なる、電鋳部分40の表面を金属皮膜50で覆っていないものでは、2層目のレジスト60を形成する前段階で、電鋳部分40の表面が空気中に露出しているため、電鋳部分40の表面は酸化して酸化皮膜が形成される。この酸化皮膜は、未露光領域62を除去する現像や、空洞63に露出することによっても生じる。
【0034】
そして、酸化皮膜は、1層目の電鋳部分40と、その上層に形成される2層目の電鋳部分80との密着性を低下させるため、除去する必要がある。酸化皮膜を除去するためには、例えば、塩酸等の強酸が用いられるが、空洞63に面した領域の酸化皮膜を強酸で除去する際に、強酸が、電鋳部分40の表面41と、2層目の残ったレジスト60(露光領域61)との境界65に浸みこみ、この境界65に形成されていた酸化皮膜も除去する。
【0035】
境界65の酸化皮膜が除去されると、境界65には隙間が生じ、後述する2層目の電鋳部分80の輪郭形状に誤差が生じる。また、境界65は狭いため、腐食性の酸化皮膜除去液やめっき液が残留しやすく、電鋳部分40の表面を腐食させてしまうことがある。
【0036】
これに対して、本実施形態の製造方法では、1層目の電鋳部分40の表面41は、図1Hに示すように金属皮膜50で覆われていて、金属皮膜50は酸化し難い元素で構成されており、酸化することがほぼ無いため、酸化皮膜に比べて2層目の電鋳部分80との親和性が良く、密着性が高い。したがって、本実施形態の製造方法では、図1Hに示した空洞63が形成された段階で、既に金属皮膜50があるため、強酸を用いた酸化皮膜の除去の工程を行う必要が無い。
【0037】
なお、現像した後に、金属皮膜50の表面にレジスト60の残渣がある場合は、プラズマアッシング等により、残渣を除去すればよく、このプラズマアッシングにより、境界65に隙間が生じることはない。
【0038】
次いで、図1Iに示すように、基板10を陰極にして電気ニッケルめっきすることで、露光領域61及び1層目の電鋳部分40を型として、空洞63を埋めるニッケルによる2層目の電鋳部分80が形成される。
【0039】
なお、電鋳材料はニッケルに限定されるものではなく、銅、錫、コバルトなど電鋳可能な材料の全てを適用することができる。ここで、必要に応じて、2層目の電鋳部分80の表面及び2層目のレジスト60(露光領域61)の表面が平らになるように研削及び研磨する。
【0040】
次いで、図1Jに示すように、1層目のレジスト20(露光領域21)及び2層目のレジスト60(露光領域61)を除去することで、1層目の電鋳部分40と、1層目とは形状の異なる2層目の電鋳部分80とが一体化された電鋳品100が形成される。
【0041】
次いで、図1Kに示すように、必要に応じて、電鋳品100の境界65に形成されていた金属皮膜50を、エッチングにより除去する(必要に応じて、金属皮膜50を、除去された金属皮膜51、除去されずに残った金属皮膜52と区別することがある)。金属皮膜50が金の場合、エッチング液としては、例えば、ヨウ素系のエッチング液を用いることができる。
【0042】
最後に、電鋳品100を基板10から取り外すことにより、図1Lに示すように、2層の形状が一体化された電鋳品100を得ることができる。
【0043】
このように、本実施形態の電鋳品100の製造方法によれば、1層目の電鋳部分40の表面に酸化皮膜が存在しないため、1層目の電鋳部分40の表面と2層目のレジスト60との境界65に隙間ができない。
【0044】
このため、境界65に隙間が生じたことに起因して2層目の電鋳部分80の輪郭形状の誤差、形状不良や腐食が生じるのを防ぐことができ、製造された電鋳品100の寸法精度を向上させることができる。
【0045】
また、2層目の電気めっきの前に、例えば腐食性液体(強酸等)による酸化皮膜の除去を行う必要が無い。
【0046】
本実施形態の製造方法により製造された電鋳品100は、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80と段差が生じている境界に、金属皮膜50が形成されているが、金属皮膜50は、電鋳部分40,80間の密着性が良好であるため、電鋳部分40と電鋳部分80との一体化の強度を確保することができる。
【0047】
また、本実施形態の電鋳品100は、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との境界に、酸化皮膜が存在しないため、腐食性の酸化皮膜除去液やめっき液が残留することに起因する腐食による変色、強度低下を防止することができる。
【0048】
<変形例1>
上述した実施形態の電鋳品100の製造方法及び電鋳品100は、後に形成される2層目の電鋳部分80の方が、先に形成された1層目の電鋳部分40よりも小さいサイズであり、図1Eに示すように、1層目の電鋳部分40の表面にのみ形成され、1層目のレジスト20の露光領域21の表面には形成されていない金属皮膜50の領域の一部に対応するサイズで、2層目の電鋳部分80が形成される。
【0049】
しかし、本発明の電鋳品の製造方法及び電鋳品は、2層目の電鋳部分が1層目の電鋳部分よりも小さいサイズであるものに限定されず、2層目の電鋳部分が1層目の電鋳部分よりも大きいサイズであってもよいし、2層目の電鋳部分が1層目の電鋳部分と同じサイズであってもよい。
【0050】
例えば、2層目の電鋳部分80が1層目の電鋳部分40よりも大きいサイズの電鋳品100を製造する方法の変形例1について具体的に説明する。
【0051】
図1Mは、図1Eに示した工程に対応した、2層目の電鋳部分80が1層目の電鋳部分40よりも大きいサイズの電鋳品を製造する変形例1の製造方法における工程での、電鋳品の模式的な断面図(その1)である。
【0052】
図1Eに示した工程では、電鋳部分40の表面41のみに金属皮膜50を形成すればよい。一方、図1Mに示した工程では、1層目の電鋳部分40の表面41だけでなく、電鋳部分40に隣接するレジスト20の露光領域21の表面も含めて、金属皮膜50を形成する。
【0053】
なお、2層目の電鋳部分80が1層目の電鋳部分40よりも大きい場合であっても、電鋳部分40の表面41のみに金属皮膜50を形成し、隣接するレジスト20の露光領域21の表面には、必ずしも金属皮膜50を形成しなくてもよい。
【0054】
しかし、隣接するレジスト20の露光領域21の表面にも金属皮膜50を形成すると、2層目の電鋳部分80のうち、1層目の電鋳部分40から幅方向に突出した領域でのめっきの成長を促進することができるため、隣接するレジスト20の露光領域21の表面にも金属皮膜50を形成するのが好ましい。
【0055】
また、2層目の電鋳部分80の形状に合わせて、金属皮膜50を形成してもよい。その場合は、ステンシルマスクやフォトリソグラフィーを用いたエッチングにより、2層目の電鋳部分80の形状に合わせた金属皮膜50を形成することができる。
【0056】
1層目の電鋳部分40の表面41及びレジスト20の露光領域21の表面に金属皮膜50を形成(図1M)した後、金属皮膜50の上に、図1Fと同様、2層目のレジスト60を形成し、レジスト60に、図1Gと同様のフォトマスク70を介して、UV光Lを照射(露光)する。
【0057】
フォトマスク70の遮光部72は2層目の電鋳部分80に対応したサイズ、すなわち、1層目の電鋳部分40よりも大きいサイズに形成されている。
【0058】
図1Nは、上記実施形態の図1Hに示した工程に対応した、変形例1の製造方法における工程での、電鋳品の模式的な断面図(その2)である。
【0059】
2層目のレジスト60の、フォトマスク70により遮光された未露光領域62は、図1N図1Hに対応する図面)に示すように、その後の現像により除去される。このとき、未露光領域62を除去して形成された空洞63の底には、全面に金属皮膜50が残されて露出している。
【0060】
次いで、図1Iの工程と同様に、基板10を陰極にして電気ニッケルめっきすることで、空洞63を埋めるニッケルによる2層目の電鋳部分80が形成される。これにより、1層目の電鋳部分40よりもサイズの大きい2層目の電鋳部分80が形成される。
【0061】
その後、図1Jの工程と同様に、2層目の電鋳部分80と1層目の電鋳部分40とを除いた2層目のレジスト60の残り部分と1層目のレジスト20の残り部分とを除去する。
【0062】
このとき、上記実施形態とは異なり、1層目のレジスト20の表面には金属皮膜50が形成されているため、1層目を覆っている2層目のレジスト60は除去される。しかし、1層目のレジスト20は金属皮膜50によって覆われているため、2層目のレジスト60を除去する工程において、1層目のレジスト20を同時に除去することができないことも起こりうる。
【0063】
そこで、2層目のレジスト60を除去する工程において1層目のレジスト20を同時に除去することができなかった場合は、2層目のレジスト60を除去した後、1層目のレジスト20の表面を覆っている金属皮膜50のうち、2層目の電鋳部分80から突出した領域の金属皮膜50を、エッチングにより除去し、この金属皮膜50が除去された後に、1層目のレジスト20を除去すればよい。
【0064】
図1Oは、上記実施形態の図1Lに示した工程に対応した、変形例1の製造方法における工程での、電鋳品の模式的な断面図(その3)である。
【0065】
最後に、電鋳品100を基板10から取り外すことにより、図1Oに示すように、1層目の電鋳部分40と、1層目とは形状の異なる、1層目よりもサイズの大きい2層目の電鋳部分80とが一体化された電鋳品100を得ることができる。
【0066】
なお、2層目の電鋳部分80の底面の金属皮膜50のうち、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80とで挟まれた領域から突出した部分の金属皮膜50は、必要に応じて、エッチングにより除去してもよい。
【0067】
このように、2層目の電鋳部分80が1層目の電鋳部分40よりも大きいサイズに形成された電鋳品100の製造方法によっても、1層目の電鋳部分40の表面と2層目のレジスト60との境界65(図1N参照)に隙間ができず、製造された電鋳品100の寸法精度を向上させることができる。
【0068】
これにより、2層目の電鋳部分80が1層目の電鋳部分40よりも小さいサイズに形成された電鋳品100の製造方法と同様の作用、効果を発揮することができる。
【0069】
<変形例2>
上述した実施形態の電鋳品100の製造方法及び電鋳品100は、電鋳部品100の側面(1層目の電鋳部40と2層目の電鋳部80とが積層される積層方向に沿った面)には、金属皮膜50が形成されていない。
【0070】
しかし、金属皮膜50が形成されている面は、耐摩耗性、耐食性及び装飾性を向上させることができるため、製造された電鋳品100を、側面の耐摩耗性、耐食性及び装飾性を向上させることが求められている部品(例えば、歯車、時計用文字板、時計用インデックス)に適用する場合は、電鋳品100の側面に金属皮膜50を形成することが好ましい。
【0071】
そこで、例えば、1層目の電鋳部分40の側面に金属皮膜50を形成した電鋳品100を製造する変形例2の製造方法について、前述した実施形態との異なる点を示して説明する。
【0072】
図1Pは、図1Aに示した工程に対応した、1層目の電鋳部分40の側面40aに金属皮膜50を形成した電鋳品100を製造する変形例2の製造方法における、基板10上に1層目のレジスト20を形成する工程での、電鋳品の模式的な断面図である。
【0073】
図1Aに示した工程では、基板10上に1層目のレジスト20を直接積層すれば良い。一方、図1Pに示した工程では、基板10上に1層目のレジスト20を形成する前に、基板10上に庇形成層11を形成し、この庇形成層11上に1層目のレジスト20を形成する。
【0074】
ここで、庇形成層11は、後述する1層目の電鋳部分40の底部の縁部を、基板10に対して庇状にオーバーハングさせた形状とするために、基板10と1層目の電鋳部分40との間の隙間を形成する層である。庇形成層11は、金属皮膜50を形成する金属とは異なる導電性の材料で形成されている。
【0075】
図1Qは、変形例2の製造方法における、1層目の電鋳部分40を形成した後に1層目のレジスト20を除去した工程での、電鋳品100の模式的な断面図である。図1Pに示すように、庇形成層11上に1層目のレジスト20を形成し、その後は、図1B~1Dの工程と同様に、1層目の電鋳部分40を形成する。その後、図1Qに示すように1層目のレジスト20を除去し、さらに、基板10上の庇形成層11の一部をエッチングにより除去する。
【0076】
図1Rは変形例2の製造方法における、庇形成層11の一部を除去した工程での、電鋳品100の模式的な断面図である。庇形成層11をエッチングにより除去するとき、通常は、庇形成層11のうちレジスト20に面していた庇形成層11だけがエッチングにより除去されるが、変形例2では、エッチングの時間を長くするなどして、図1Rに示すように、1層目の電鋳部分40と基板10との間の庇形成層11の一部も除去する。
【0077】
具体的には、1層目の電鋳部分40と基板10との間の庇形成層11の側面11aが、電鋳部分40の側面40aよりも内側に引っ込んだ位置となるように、1層目の電鋳部分40と基板10との間の庇形成層11の一部を除去する。
【0078】
これにより、1層目の電鋳部分40と基板10との間の、1層目の電鋳部分40の側面40aに隣接する電鋳部分40の縁部の下方には、庇形成層11が除去された隙間12が形成され、この隙間12においては、基板10に対して、電鋳部分40の側面40aに隣接する電鋳部分40の縁部が庇状となる。
【0079】
図1Sは、変形例2の製造方法における、1層目の電鋳部分40の表面41、側面40a及び基板10の上面に金属皮膜50を形成した工程での、電鋳品100の模式的な断面図である。図1Rに示した状態で、図1Eと同様に、スパッタリング又は蒸着で金属皮膜50を形成する。これにより、図1Sに示すように、1層目の電鋳部分40の上面に対応した表面41及び側面40aと、基板10の上面とに、それぞれ金属皮膜50が形成される。
【0080】
なお、1層目の電鋳部分40の側面40aに隣接する電鋳部分40の縁部の下方には隙間12が形成されているため、電鋳部分40の側面40aに形成された金属皮膜50と、基板10の上面に形成された金属皮膜50とは繋がらずに、切れ目が形成されている。
【0081】
図1Tは、変形例2の製造方法における、2層目のレジスト60を形成した工程での、電鋳品100の模式的な断面図である。図1Tに示すように、1層目の電鋳部分40を完全に覆い、1層目の電鋳部分40の上に、2層目の電鋳部分80を形成できる高さ範囲まで、2層目のレジスト60を形成する。
【0082】
図1Uは、変形例2の製造方法における、2層目の電鋳部分80を形成してレジスト60を除去した工程での、電鋳品100の模式的な断面図、図1Vは、変形例2の製造方法における、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80とが一体化して、1層目の電鋳部分40の側面40aにも金属皮膜50が形成された電鋳品100を形成した工程での、電鋳品100の模式的な断面図である。
【0083】
図1G~1Iの工程と同様に、1層目の電鋳部分40の上に、金属皮膜50を介して2層目の電鋳部分80を形成し、図1Jと同様に図1Uに示すようにレジスト60を除去し、最後に、エッチングにより庇形成層11を除去する。これにより、図1Vに示す、1層目の電鋳部分40の側面40aに、金属皮膜50が形成された電鋳品100を製造することができる。
【0084】
なお、図1Uに示すように、1層目の電鋳部分40の側面40aに形成された金属皮膜50と、基板10上に形成された金属皮膜50との間には、切れ目が形成されているため、庇形成層11を除去するエッチング液が、この切れ間を通って1層目の電鋳部分40と基板10との間に浸入することができる。
【0085】
これにより、図1Uに示したものは、切れ目がないもの(庇形成層11を介さずに、基板10上に直接、1層目の電鋳部分40を形成したもの)に比べて、1層目の電鋳部分40と基板10との間に形成された庇形成層11を、エッチング液によって容易に除去することができる。
【0086】
なお、図1Qに示したものは、庇形成層11の上に電鋳部分40を接して形成しているが、庇形成層11の上面に金属皮膜50を形成した後に、その金属皮膜50の上に電鋳部分40を形成してもよい。
【0087】
図1Wは、エッチングにより金属皮膜50のうち1層目の電鋳部分40の直下の部分を除いた部分の金属皮膜50を除去した工程での、電鋳品100の模式的な断面図である。図1Rに示すように1層目の電鋳部分40と基板10との間の庇形成層11の一部を除去して隙間12を形成するのに先立って、図1Wに示すように、エッチングにより、庇形成層11上に形成された金属皮膜50のうち1層目の電鋳部分40の直下の部分を除いた部分の金属皮膜50を除去する。
【0088】
このとき、電鋳部分40の直下の金属皮膜50については、前述した庇形成層11のように、電鋳部分40の側面40aよりも内側に引っ込んだ位置まで除去する必要はなく、その後に、図1Rと同様に、1層目の電鋳部分40(の直下に残った金属皮膜50)と基板10との間の庇形成層11を、電鋳部分40の側面40aよりも内側に引っ込んだ位置まで除去すればよい。
【0089】
このように、1層目の電鋳部分40の側面40aにも金属皮膜50を残した、変形例2の電鋳品100の製造方法によっても、1層目の電鋳部分40の表面と2層目のレジスト60との境界65(図1T参照)に隙間ができず、製造された電鋳品100の寸法精度を向上させることができる。
【0090】
これにより、2層目の電鋳部分80が1層目の電鋳部分40よりも小さいサイズに形成された電鋳品100の製造方法と同様の作用、効果を発揮することができるとともに、1層目の電鋳部分40の側面40aの耐摩耗性、耐食性及び装飾性を向上させることができる。
【0091】
<変形例3>
実施例の電鋳品100は、2層目の電鋳部分80が1層目の電鋳部分40の表面41に載った状態で一体化されたものであるが、2層目の電鋳部分80の一部(アンカー部)が1層目の電鋳部分40に挿入された状態で一体化されたものであると、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との境界でのせん断に対する強度を向上させることができる。
【0092】
図2A~2Hは、図1A~1Lに示した実施形態の一変形例(変形例3)である2層の電鋳品100の製造方法の流れを示す模式的な断面図である。図示の変形例3の製造方法は、まず、図2Aに示すように、導電性の基板10上に、1層目のレジスト20を塗布し、上述した実施形態と同様に、フォトマスク30を用いたUV光Lの照射により、レジスト20に、露光領域21と未露光領域22とを形成し、未露光領域22を除去して電鋳部分40を形成する。
【0093】
このとき、2つの未露光領域22(図中の電鋳部分40に相当)の間の露光領域21は、後に、2層目の電鋳部分80に形成されるアンカー部81が形成される空洞に対応する。
【0094】
そして、現像後のめっきにより、2つの未露光領域22に対応した部分に、1層目の電鋳部分40を形成する。
【0095】
次いで、図2Bに示すように、1層目のレジスト20の露光領域21を全て除去すると、2つの電鋳部分40の間に空洞24が形成される。そして、2つの電鋳部分40の表面41を含む全面へ乾式めっきや湿式めっきすることで、図2Cに示すように、電鋳部分40の表面41に金皮膜50を形成する。金属皮膜50の形成は、電鋳部分40の表面の酸化皮膜を予め除去してから行う。
【0096】
電鋳部分40の表面41に金属皮膜50を形成した後、図2Dに示すように、1層目の電鋳部分40の上まで覆うように、基板10に、2層目のレジスト60を形成する。
【0097】
次に、図2Eに示すように、開口部91と遮蔽部92とが形成されたフォトマスク90を介して、レジスト60にUV光Lを照射する。これにより、レジスト60には、開口部91を通じてUV光Lが照射された領域(露光領域)61と、遮蔽部92によりUV光Lが照射されなかった領域(未露光領域)62とが形成される。未露光領域62は、少なくとも一部が、1層目の2つの電鋳部分40に跨るように、すなわち、空洞24を含むように形成される。
【0098】
次いで、図2Fに示すように、現像を行うことで、レジスト60のうち未露光領域62が除去され、未露光領域62が存在していた部分に対応した空洞63が形成される。この空洞63は、1層目の2つの電鋳部分40の間の空洞24を含む。
【0099】
ここで、1層目の電鋳部分40の表面41は金属皮膜50に覆われていて、空洞63に面した領域も、電鋳部分40が空洞63に露出するのではなく、電鋳部分40を覆っている金皮膜50が露出している。また、レジスト60のうち、除去されなかった露光領域61の一部は、金属皮膜50の上に残されている。
【0100】
次いで、図2Gに示すように、基板10を陰極として電気ニッケルめっきすることで、露光領域61、1層目の電鋳部分40及び基板10を型として、空洞63を埋めるニッケルによる2層目の電鋳部分80が形成される。ここで、2層目の電鋳部分80の一部は、1層目の2つの電鋳部分40の間の空洞24に挿入されたアンカー部81を形成する。
【0101】
なお、電鋳材料はニッケルに限定されるものではなく、銅、錫、コバルトなど電鋳可能な材料の全てを適用することができる。
【0102】
次いで、必要に応じて、2層目の電鋳部分80の表面及び2層目のレジスト60(露光領域61)の表面が平らになるように研削及び研磨し、2層目のレジスト60(露光領域61)を除去することで、1層目の電鋳部分40と、1層目とは形状の異なる2層目の電鋳部分80とが一体化された電鋳品100が形成される。
【0103】
そして、必要に応じて、電鋳品100の境界65(図2F参照)に形成されていた金属皮膜50を、エッチングにより除去し、最後に、電鋳品100を基板10から取り外すことにより、図2Hに示すように、2層の形状が一体化された電鋳品100を得ることができる。
【0104】
このように、変形例3の製造方法により製造された電鋳品100は、実施形態の電鋳品100と同じ効果を得ることに加えて、2層目の電鋳部分80の一部がアンカー部81として、1層目の電鋳部分40の空洞24に挿入された状態で一体化されているため、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との段差が生じているところの境界におけるせん断に対する強度を向上させることができる。
【0105】
<変形例4>
変形例3の電鋳品100の製造方法は、1層目の電鋳部分40を形成(図2A参照)した後、金属皮膜50を形成する(図2C参照)前に、1層目のレジスト20(露光領域21)を除去したが、本発明の電鋳品の製造方法は、この形態に限定されるものではない。
【0106】
図3A~3Hは、変形例4である2層の電鋳品100の製造方法の流れを示す模式的な断面図である。
【0107】
変形例4の電鋳品100の製造方法は、図1A~1Lに示した実施形態の別の変形例であり、一部の工程が相違する以外は変形例3と同じである。変形例4の製造方法は、1層目の電鋳部分40を形成(図3A参照)した後、図3Bに示すように、1層目の電鋳部分40の表面41に金属皮膜50を形成してから、図3Cに示すように、1層目のレジスト20(露光領域21)を除去する。
【0108】
ここで、1層目の電鋳部分40の表面41への金属皮膜50の形成は、図3Bに示すように、電鋳部分40の表面41に対応した開口部111が形成されたステンシルマスク110を用いた乾式めっきにより行う。なお、金属皮膜50は、湿式めっきで形成することも可能であるが、電鋳部分40の表面の酸化膜を除去する際に、レジスト21との隙間に染み込んだ除去液が残留し、腐食する可能性に留意する必要がある。
【0109】
これにより、電鋳部分40の表面41にのみ金属皮膜50が形成され、開口部111以外の遮蔽された部分に対応したレジスト20の表面には、金属皮膜50は形成されない。これにより、変形例3よりも少ない量で金属皮膜50を形成することができ、金属皮膜50を形成する高価な貴金属の使用量を抑制することができる。
【0110】
電鋳部分40の表面41に金属皮膜50が形成された(図3B)後、図3Cに示すように、1層目のレジスト20の露光領域21を全て除去し、次いで、1層目の電鋳部分40の上まで覆うように、基板10に、2層目のレジスト60を形成する(図3D)。
【0111】
次に、図3Eに示すように、開口部91と遮蔽部92とが形成されたフォトマスク90を介して、レジスト60にUV光Lを照射する。これにより、レジスト60には、開口部91を通じてUV光Lが照射された領域(露光領域)61と、遮蔽部92によりUV光Lが照射されなかった領域(未露光領域)62とが形成される。未露光領域62は、少なくとも一部が、1層目の2つの電鋳部分40に跨るように、すなわち、1層目の電鋳部分40の空洞24を含むように形成される。
【0112】
次いで、図3Fに示すように、現像を行うことで、レジスト60のうち未露光領域62が除去され、未露光領域62が存在していた部分に対応した空洞63が形成される。この空洞63は、1層目の2つの電鋳部分40の間の空洞24を含む。
【0113】
ここで、1層目の電鋳部分40の表面41は金属皮膜50に覆われていて、表面41以外の空洞63に面した領域は、電鋳部分40が空洞63に露出している。
【0114】
したがって、次の電気めっきの前に、空洞63に対向する側の電鋳部分40の側面の酸化皮膜を除去する必要がある。このとき、レジスト60(露光領域61)と電鋳部分40との境界65には金属皮膜50が存在するため、境界65に空隙が発生することはない。なお、レジスト60のうち、除去されなかった露光領域61の一部は、金属皮膜50の上に残されている。
【0115】
次いで、図3Gに示すように、基板10を陰極にして電気ニッケルめっきすることで、露光領域61、1層目の電鋳部分40及び基板10を型として、空洞63を埋めるニッケルによる2層目の電鋳部分80が形成される。ここで、2層目の電鋳部分80の一部は、1層目の2つの電鋳部分40の間の空洞24に挿入されたアンカー部81を形成する。
【0116】
なお、電鋳材料はニッケルに限定されるものではなく、銅、錫、コバルトなど電鋳可能な材料の全てを適用することができる。
【0117】
次いで、必要に応じて、2層目の電鋳部分80の表面及び2層目のレジスト60(露光領域61)の表面が平らになるように研削及び研磨し、2層目のレジスト60(露光領域61)を除去することで、1層目の電鋳部分40と、1層目とは形状の異なる2層目の電鋳部分80とが一体化された電鋳品100が形成される。
【0118】
そして、電鋳品100の境界65(図3F参照)に形成されていた金属皮膜50を、エッチングにより除去し、最後に、電鋳品100を基板10から取り外すことにより、図3Hに示すように、2層の形状が一体化された電鋳品100を得ることができる。
【0119】
このように、変形例4の製造方法により製造された電鋳品100は、実施形態の電鋳品100と同じ効果を得ることに加えて、2層目の電鋳部分80の一部がアンカー部81として、1層目の電鋳部分40の空洞24に挿入された状態で一体化されているため、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との境界でのせん断に対する強度を向上させることができる。
【0120】
しかも、変形例3の製造方法よりも、金属皮膜50の使用量を抑制することができ、製造コストを低減することができる。
【0121】
また、2層目の電鋳部分80におけるアンカー部81と、1層目の電鋳部分40との境界(周面)には、金属皮膜50が介在せず、同一種類の金属(例えば、ニッケル)が直接接した構造にすることができるため、金属皮膜50が介在している構造に比べて、親和性が向上し、密着性がより高くなり、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との一体化の強度を一層高めることができる。
【0122】
<変形例5>
変形例3,4の電鋳品100は、2層目の電鋳部分80のアンカー部81が1層目の電鋳部分40に挿入されているため、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との境界でのせん断に対する強度を向上させることができるが、1層目の電鋳部分40がくびれ部を有し、アンカー部81の先端部をくびれ部よりも大きく形成することにより、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との積層方向への引っ張りに対する強度を、変形例3,4の電鋳品100よりも強くすることができる。
【0123】
そこで、変形例5の電鋳品100の製造方法は、変形例3,4の電鋳品100における1層目の電鋳部分40の空洞24の、2層目の電鋳部分80に近い側の部分に遠い側の部分である先端部24aよりも太さの細いくびれ部24bを形成し、2層目の電鋳部分80のアンカー部81の先端部81aを基端部81bよりも太く形成するものである。
【0124】
図4A~4Gは、変形例5である2層の電鋳品100の製造方法の流れを示す模式的な断面図である。
【0125】
変形例5の電鋳品100の製造方法は、まず、図4Aに示すように、導電性の基板10上に、2層目の電鋳部分80のアンカー部81の先端部81aに対応する、例えば銅で形成されたキャビティ形成部材120を形成する。キャビティ形成部材120は、後に空洞24の先端部24aを形成する。このとき、キャビティ形成部材120は、後に選択的に除去する必要があるため、電鋳部分40と異なる元素である必要がある。
【0126】
そして、このキャビティ形成部材120を覆うようにレジスト20を塗布し、図4Bに示すように、レジスト20の、キャビティ形成部材120の中央部に対応した部分(キャビティ形成部材よりも太さの細い部分:後にくびれ部24bを形成する部分)を露光領域21とし、キャビティ形成部材120の両側とその外側部分に対応する部分を未露光領域22とするように開口部31と遮蔽部32とが形成されたフォトマスク30を介して、レジスト20にUV光Lを照射する。
【0127】
次いで、図4Cに示すように、現像により、レジスト20の未露光領域22を除去し、キャビティ形成部材120の両側とその外側部分に対応する部分を空洞23に形成する。
【0128】
次いで、図4Dに示すように、例えば、電気ニッケルめっきにより、レジスト20の残った露光領域21及び基板10を型として、空洞23を埋めるニッケルによる1層目の電鋳部分40が形成される。ここで、基板10上には、キャビティ形成部材120及びキャビティ形成部材120の上にレジスト20の露光領域21が残っているため、1層目の電鋳部分40は中央部分が存在しない形状になる。
【0129】
次いで、必要に応じて、1層目の電鋳部分40の表面及び1層目のレジスト20(露光領域21)の表面が平らになるように研削及び研磨をおこなう。
【0130】
次いで、1層目の電鋳部分40の表面41に対応した開口部111が形成されたステンシルマスク110を用いた乾式めっき又は湿式めっきにより、1層目の電鋳部分40の表面41に金属皮膜50を形成し、次いで、図4Dに示すように、レジスト20の露光領域21を除去する。
【0131】
次いで、図4Eに示すように、キャビティ形成部材120をエッチングにより除去する。例えば、キャビティ形成部材120が銅で形成されている場合は、ペルオキソニ酸アンモニウム系のエッチング液を用いて、キャビティ形成部材120を選択的に除去する。
【0132】
これにより、1層目の電鋳部分40には、積層される2層目の電鋳部分80に近い側の部分に、遠い側の部分である先端部24aよりも太さの細いくびれ部24bを有する空洞24が形成される。
【0133】
次いで、1層目の電鋳部分40を覆うように、基板10に、2層目のレジスト60を形成する。
【0134】
次に、図4Fに示すように、開口部91と遮蔽部92とが形成されたフォトマスク90を介して、レジスト60にUV光Lを照射する。これにより、レジスト60には、開口部91を通じてUV光Lが照射された露光領域61と、遮蔽部92によりUV光Lが照射されなかった未露光領域62とが形成される。未露光領域62は、少なくとも一部が、1層目の2つの電鋳部分40に跨るように、すなわち、空洞24のくびれ部24bを含むように形成される。
【0135】
次いで、図4Gに示すように、現像を行うことで、レジスト60のうち未露光領域62が除去され、未露光領域62が存在していた部分に対応した空洞24が形成され、例えば、電気ニッケルめっきすることにより、露光領域61、1層目の電鋳部分40及び基板10を型として、空洞24を埋めるニッケルによる2層目の電鋳部分80が形成される。
【0136】
ここで、2層目の電鋳部分80の一部は、1層目の2つの電鋳部分40の間の空洞24に挿入されたアンカー部81を形成する。このアンカー部81は、空洞24のくびれ部24bに対応して形成された基端部81bよりも、空洞の24の先端部24aに対応して形成された先端部81aが太く形成されている。すなわち、アンカー部81の先端部81aは、空洞24のくびれ部24bよりも太く形成されている。
【0137】
次いで、2層目のレジスト60(露光領域61)を除去することで、1層目の電鋳部分40と、1層目とは形状の異なる2層目の電鋳部分80とが一体化された電鋳品100が形成される。
【0138】
そして、電鋳品100を基板10から取り外すことにより、図4Gに示すように、2層の形状が一体化された電鋳品100を得ることができる。
【0139】
このように、変形例5の製造方法により製造された電鋳品100は、実施形態の電鋳品100と同じ効果を得ることに加えて、2層目の電鋳部分80の一部がアンカー部81として、1層目の電鋳部分40に挿入された状態で一体化されているため、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との境界でのせん断に対する強度を向上させることができる。
【0140】
さらに、変形例5の製造方法により製造された電鋳品100は、1層目の電鋳部分40がくびれ部24bを有し、2層目の電鋳部分80のアンカー部81の先端部81aがくびれ部24bよりも太く形成されているため、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との積層方向への引っ張りに対して抜け止めとなり、変形例3,4の電鋳品100よりも引っ張りに対する強度を強くすることができる。
【0141】
なお、変形例5に示したアンカー部81の先端部81aと基端部81bとは、1層目の電鋳部分40と2層目の電鋳部分80との積層方向に延びた部分により繋がっているが、積層方向に延びた部分に代えて、基端部81bから先端部81aに向かって広がるテーパ状の部分によって繋がっていてもよい。
【0142】
上述した実施形態及び各変形例の電鋳品100は、例えば、機械式時計のアンクルに圧入して固定されるけん先部品(1項目の電鋳部分40をさおの部分とし、2層目の電鋳部分80をアンクルに圧入される軸の部分とする)であるが、実施形態及び各変形例の電鋳品100の製造方法及び電鋳品100は、上述したけん先部品に限らず、時計に用いられる種々の部品(歯車等)に適用可能であり、時計以外の種々の物品にも適用可能である。
【0143】
本発明に係る電鋳品の製造方法及び電鋳品は、特に、1層目と2層目とで輪郭形状が異なる一体部品に適用するのが好ましい。
【0144】
なお、本発明は、層間で輪郭形状の異なる、2層以上の複数の層を有する一体の電鋳品であれば適用することができ、2層のみの電鋳品に限定して適用されるものではない。
【符号の説明】
【0145】
40 1層目の電鋳部分
41 表面
50 金属皮膜
60 レジスト
62 未露光領域
80 2層目の電鋳部分
100 電鋳品
L UV光
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図1M
図1N
図1O
図1P
図1Q
図1R
図1S
図1T
図1U
図1V
図1W
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G