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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】ファン駆動構造
(51)【国際特許分類】
   F16D 43/25 20060101AFI20240726BHJP
   F01P 7/08 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
F16D43/25 A
F01P7/08 L
F16D43/25 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020215662
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101211
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2022-12-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大下 雅史
(72)【発明者】
【氏名】中村 正
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-093114(JP,A)
【文献】実開昭58-048925(JP,U)
【文献】特開2010-229825(JP,A)
【文献】実開平03-015013(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0055027(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 43/25
43/208
F01P 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動力により駆動軸芯を中心に回転可能な駆動軸と、
前記駆動軸に対し、前記駆動軸芯を中心に回転自在に支持されるファンと、
前記駆動軸の回転駆動力を前記ファンに伝えるクラッチ機構と、
温度上昇に伴い前記クラッチ機構を遮断状態から伝動状態に切り換える操作力を作り出す感温操作部と、を備え、
前記クラッチ機構が、前記駆動軸芯に沿って作動自在な作動部材と、前記作動部材が前記感温操作部からの前記操作力によって前記駆動軸芯に沿って作動する際の力の作用方向を前記駆動軸の径方向に変換する作動変換部と、前記作動変換部からの力により前記径方向に変位する変位部材と、温度上昇に伴う前記変位部材の変位に伴い前記駆動軸の回転駆動力を前記ファンに伝える被駆動部とを備え、
前記感温操作部が、前記駆動軸の先端に備えられた感温部と、前記駆動軸の先端の筒状部に収容され温度上昇に伴い突出するように前記駆動軸芯と同軸芯に配置されるプランジャとを有し、
前記筒状部に、前記駆動軸の前記径方向に貫通する貫通孔部が形成され、
前記変位部材が、前記貫通孔部に対して移動自在に収容され、
前記クラッチ機構は、前記変位部材が前記径方向の外方に押し出された際に、前記変位部材からの圧力により前記駆動軸と一体回転する状態で前記駆動軸芯に沿う方向に作動する伝動体と、当該伝動体に接触した際に摩擦により前記駆動軸からの回転駆動力を前記ファンに伝える前記被駆動部としての受動体とを、備えているファン駆動構造。
【請求項2】
前記筒状部に前記作動部材が収容され、前記作動変換部が前記筒状部に収容されている請求項に記載のファン駆動構造。
【請求項3】
前記プランジャの突出側の端部が、前記作動部材に当接する位置に配置されている請求項2に記載のファン駆動構造。
【請求項4】
記変位部材が、前記貫通孔部に対して移動自在に収容されたボールで構成され、
前記作動変換部が、前記作動部材の外周に形成され前記ボールの一部が嵌まり込む溝部で形成され、この溝部は、前記感温操作部から伝えられる前記操作力によって前記作動部材が作動するに伴い前記ボールを前記径方向の外方に押し出すように前記溝部の深さが設定されている請求項のいずれか一項に記載のファン駆動構造。
【請求項5】
前記駆動軸の外部を覆う位置において、前記駆動軸芯を中心とする円筒状で前記駆動軸芯を中心に前記駆動軸に対して相対回転自在に円筒状体が支持され、
前記円筒状体の外周に前記ファンが固定され、前記円筒状体の内部空間に前記感温操作部が収容されている請求項1~のいずれか一項に記載のファン駆動構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファン駆動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンを冷却するファンを例に挙げると、エンジンの温度や回転状態に応じて駆動と非駆動との切り換えを行うものが以下の特許文献1~3に記載されている。
【0003】
特許文献1の第二実施形態には、遠心ウエイトによって作動する摩擦部材と、摩擦部材が遠心力の作用により変位した場合に接触するクラッチアウタと、遠心力が作用する際に遠心ウエイトの作動を抑制するスプリングと、温度上昇時に摩擦部材をクラッチアウタに接触させる方向に遠心ウエイトを変位させるサーモスタットとを備えた構成が記載されている。
【0004】
この特許文献1では、遠心ウエイトがエンジンのクランクシャフトによって駆動回転し、クラッチアウタが冷却ファンと一体形成されており、温度が上昇するほど、クランクシャフトから冷却ファンに対し回転力の伝動を開始する回転数(単位時間あたりの回転数)を低下させ、早期の冷却を可能にしている。
【0005】
また、特許文献2では、冷却ファンの回転軸と、駆動軸との間に冷却水の温度に応じて変速比を増減する無段変速手段を備えた構成が記載されている。無段変速装置は、テーパ状の動力伝達部材と、このテーパ状に対応する内面形状の駆動部材と、これらの間に配置される摩擦球体と、摩擦球体の位置を温度変化によって移動させるピストン等を備えて構成されている。
【0006】
この特許文献2では、冷却ファンがラジエータの放熱を行うものであり、温度検出器のシリンダ部にワックス等の熱膨張液を収容し、このシリンダ部にピストンを収容し、温度検出器にエンジンの冷却水の温度を伝えるように構成している。これにより、エンジンの冷却水の温度上昇により膨張した場合には、ピストンの作動により摩擦球体の位置を変化させ、冷却ファンの回転数の上昇を可能にしている。
【0007】
また、特許文献3では、クランク軸とファンとの間にフリクションクラッチを装着し、このフリクションクラッチを押圧可能な位置に配置した押圧ロッドと、可動片を有する感温体と、押圧ロッドの位置を決めるバネと、可動片の位置を決めるバネとを備えた構成が記載されている。
【0008】
この特許文献3では、低温時にはフリクションクラッチが非伝動状態にあり、温度が上昇した場合には、感温体の可動片が突出して押圧ロッドに圧力を作用させ、フリクションクラッチを接続状態にすることにより、クランク軸の駆動力をファンに伝えて、ファンの駆動を可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-229825号公報
【文献】実開昭53-111131号公報
【文献】実開昭58-48925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~3に記載されるようにエンジンを冷却するファンでは、低温時に駆動されず、温度上昇に伴い駆動されることが重要となるものの、特許文献1,3では摩擦クラッチと同様に摩擦による伝動であるため、ファンの駆動が開始された直後にはファンによって充分な風量を得られないことも想像できた。
【0011】
また、特許文献2に記載される構成では、エンジンが低温である場合にも低速でファンが回転することになり、エンジンの暖機を効率的に行えないことも考えられた。
【0012】
このような理由から、エンジンが低温である場合に無駄な冷却を行わず、エンジンの温度が上昇した場合に充分な量の冷却風を供給できるファン駆動構造が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るファン駆動構造の特徴構成は、駆動源からの駆動力により駆動軸芯を中心に回転可能な駆動軸と、前記駆動軸に対し、前記駆動軸芯を中心に回転自在に支持されるファンと、前記駆動軸の回転駆動力を前記ファンに伝えるクラッチ機構と、温度上昇に伴い前記クラッチ機構を遮断状態から伝動状態に切り換える操作力を作り出す感温操作部と、を備え、前記クラッチ機構が、前記駆動軸芯に沿って作動自在な作動部材と、前記作動部材が前記感温操作部からの前記操作力によって前記駆動軸芯に沿って作動する際の力の作用方向を前記駆動軸の径方向に変換する作動変換部と、前記作動変換部からの力により前記径方向に変位する変位部材と、温度上昇に伴う前記変位部材の変位に伴い前記駆動軸の回転駆動力を前記ファンに伝える被駆動部とを備え、前記感温操作部が、前記駆動軸の先端に備えられた感温部と、前記駆動軸の先端の筒状部に収容され温度上昇に伴い突出するように前記駆動軸芯と同軸芯に配置されるプランジャとを有し、前記筒状部に、前記駆動軸の前記径方向に貫通する貫通孔部が形成され、前記変位部材が、前記貫通孔部に対して移動自在に収容され、前記クラッチ機構は、前記変位部材が前記径方向の外方に押し出された際に、前記変位部材からの圧力により前記駆動軸と一体回転する状態で前記駆動軸芯に沿う方向に作動する伝動体と、当該伝動体に接触した際に摩擦により前記駆動軸からの回転駆動力を前記ファンに伝える前記被駆動部としての受動体とを、備えている点にある。
【0014】
この特徴構成によると、設定温度未満の環境では、感温操作部の力で作動部材が作動せず、変位部材が変位しないため、駆動軸の駆動力は被駆動部に伝えられることはなく、ファンは回転しない状態を維持する。これに対し、環境温度が上昇した場合には、感温操作部の操作力により駆動軸芯に沿って作動部材が作動し、作動変換部からの力により変位部材が駆動軸の径方向に変位する結果、この変位部材の変位に伴い駆動軸の回転駆動力が被駆動部を介してファンに伝えられファンの駆動回転を実現する。
【0015】
このように、感温操作部の圧力の作用方向にクラッチを操作するものではなく、感温操作部からの力を、作動変換部で駆動軸の径方向に変換して変位部材に伝え、更に、この変位部材の変位に基づき駆動軸の回転力を被駆動部からファンに伝えるため、例えば、温度上昇時に感温操作部の圧力で駆動軸芯に沿う方向に摩擦板に圧力を作用させ、クラッチを伝動状態に移行させる構成のように摩擦板に滑りを招く不都合を容易に解消できる。
従って、エンジンが低温である場合に無駄な冷却を行わず、エンジンの温度が上昇した場合に充分な量の冷却風を供給できるファン駆動構造が得られた。
また、温度上昇に伴い感温操作部からの操作力で作動部材が作動した場合には、作動部材の作動に伴い、変位部材が貫通孔部から駆動軸の外周より外方に突出することにより伝動体を駆動軸芯に沿う方向に作動させ、この伝動体を受動体に接触させることにより、伝動体の回転力を摩擦により受動体を介してファンに伝え、駆動軸とファンとを一体回転させることが可能となる。
【0016】
【0017】
これによると、感温操作部を駆動軸の先端に備えること、この感温操作部を積極的に環境の空気に接触させ温度取得を良好に行える。また、環境温度の上昇に伴い感温操作部の感温部からプランジャが突出した場合には、プランジャの突出に伴い、クラッチ機構を操作することが可能となる。また、プランジャが駆動軸芯と同軸芯で配置されているため、駆動軸の回転に伴う遠心力の作用によりプランジャの作動方向を変化させる不都合を招くこともない。
【0018】
上記構成に加えた構成として、前記筒状部に前記作動部材が収容され、前記作動変換部が前記筒状部に収容されても良い。
【0019】
これによると、作動部材と作動変換部とを筒状部の内周面に沿って直線的に作動させることも可能となる。
【0020】
上記構成に加えた構成として、前記プランジャの突出側の端部が、前記作動部材に当接する位置に配置されても良い。
【0021】
これによると、温度上昇に伴いプランジャからの力を作動部材に直接的に伝え、反応の良いクラッチ制御を可能にする。
【0022】
上記構成に加えた構成として、前記変位部材が、前記貫通孔部に対して移動自在に収容されたボールで構成され、前記作動変換部が、前記作動部材の外周に形成され前記ボールの一部が嵌まり込む溝部で形成され、この溝部は、前記感温操作部から伝えられる前記操作力によって前記作動部材が作動するに伴い前記ボールを前記径方向の外方に押し出すように前記溝部の深さが設定されても良い。
【0023】
これによると、温度上昇に伴い感温操作部からの操作力で作動部材が作動した場合には、作動部材の作動に伴い、ボールの一部が嵌まり込む溝部の深さが変化することでボールが駆動軸の径方向の外方に向けて変位する。この変位は駆動軸の径方向に貫通する貫通孔部に沿って行われることになり、駆動軸の外周より外方に突出したボールが係合孔部に係合することにより、駆動軸の回転駆動力をファンに伝え、駆動軸とファンとを一体回転させることが可能となる。
【0024】
【0025】
【0026】
上記構成に加えた構成として、前記駆動軸の外部を覆う位置において、前記駆動軸芯を中心とする円筒状で前記駆動軸芯を中心に前記駆動軸に対して相対回転自在に円筒状体が支持され、前記円筒状体の外周に前記ファンが固定され、前記円筒状体の内部空間に前記感温操作部が収容されても良い。
【0027】
これによると、ファンを支持する円筒状体の内部に感温操作部を収容することで、感温操作部を筒状体で保護することが可能となる。
【0028】
【0029】
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】トラクタの一部切り欠き側面図である。
図2】遮断状態にあるファン駆動構造の断面図である。
図3】伝動状態にあるファン駆動構造のクラッチ機構の断面図である。
図4】駆動軸芯に沿う方向視におけるクラッチ機構の断面図である。
図5】作動部材の側面図である。
図6】別実施形態(a)で遮断状態にあるファン駆動構造の断面図である。
図7】別実施形態(a)で伝動状態にあるファン駆動構造の断面図である。
図8】別実施形態(b)のファン駆動構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
【0032】
図1には、ファン駆動構造Aをエンジンルームに配置したトラクタを示している。トラクタは、前車輪31と後車輪32とを有した車体の前後方向の中央位置にステアリングホイール33と運転座席34とを備えている。
【0033】
車体の前部には、バッテリー35と、ラジエータ36と、エンジン37とを、この順序で前部から後部に向けて配置してボンネット38に収容している。前述したファン駆動構造Aは、ラジエータ36とエンジン37との間に配置され、図1図2に示すように、このファン駆動構造Aの冷却ファン4(図2を参照)は、エンジン37からファンベルト39を介して回転駆動力が伝えられる。
【0034】
詳細は後述するが、このファン駆動構造Aは、感温操作部5で温度変化を感知してクラッチ機構Cを操作することで、冷却ファン4に対する回転駆動力の遮断と伝動との切換を可能にするものであり、感温操作部5をラジエータ36に近い位置に配置している。
【0035】
つまり、このファン駆動構造Aは、低温時に冷却風の供給を停止し、温度が上昇した場合にラジエータ36に冷却風を吸引し、エンジン37の方向に流すように冷却ファン4を制御する。尚、このファン駆動構造Aは、トラクタ以外に、コンバインや自動車等の車両に備えることが可能である。
【0036】
図2には遮断状態にあるファン駆動構造Aを示している。同図に示すようにエンジン37(駆動源の一例)からの駆動力により駆動軸芯Xを中心に回転する駆動軸1と、駆動軸1に対してボールベアリング型の軸受2を介し駆動軸芯Xを中心に回転自在に支持される筒状支持体3と、この筒状支持体3の外周に固設された冷却ファン4と、駆動軸1から冷却ファン4に伝える回転駆動力を断続するクラッチ機構Cと、温度上昇に伴いクラッチ機構Cを遮断状態から伝動状態に切換える操作力を作り出す感温操作部5とを備えている。
【0037】
このファン駆動構造Aは、駆動軸1の一方の端部(外端側の端部)に駆動軸芯Xを中心とする筒状部1aを形成して柱状の軸内空間1Sを作り出している。この筒状部1aの外端位置(図2で左端)に感温操作部5を備え、この反対側の内端位置(図2で右端)に駆動軸1と一体回転するディスク部1bを形成し、このディスク部1bの外端面にプーリ6を備えている。
【0038】
駆動軸1は、ディスク部1bの外周を車体側のフレーム等に対し軸受機構等により回転自在に支持される(支持構造は図示せず)。また、駆動軸1は、プーリ6に巻回するファンベルト39から伝えられるエンジン37(駆動源)からの駆動力により駆動軸芯Xを中心に回転する。
【0039】
図2図3に示すように、感温操作部5は、筒状部1aの先端に備えられた感温部5aと、筒状部1aの内部で駆動軸芯Xと同軸芯で配置されるプランジャ5bとを有し、温度変化に伴いプランジャ5bを出退作動させるサーモスタットとして機能する。
【0040】
尚、感温部5aは、温度変化に対応して変形するバイメタル、あるいは、温度変化に応じて体積が変化するシリコンオイル等を収容しており、温度上昇に対応してプランジャ5bを突出させるように構成されている。
【0041】
感温部5aは、フランジ部5cを有し、駆動軸1の筒状部1aの外周に固定したスリーブ7の大径部7aと、リング体8とでフランジ部5cを挟み込み、複数のビス等の締結力によって圧着する形態で、駆動軸1の外端に支持されている。
【0042】
〔クラッチ機構〕
図2図5に示すように、クラッチ機構Cは、駆動軸1の筒状部1aの軸内空間1Sに対し、駆動軸芯Xに沿って移動自在に収容された作動部材11と、この作動部材11の外周に形成された溝部12(作動変換部の一例)に一部が嵌め込まれた鋼製のボール13(変位部材の一例)と、駆動軸1の筒状部1aにおいて径方向に沿う姿勢で形成されボール13を収容する貫通孔部1cと、筒状支持体3(被駆動部の一例)に対し、この筒状支持体3の径方向に沿う姿勢で形成された係合孔部3aと、作動部材11を、プランジャ5bの方向に付勢するスプリング14とを有している。クラッチ機構Cは、貫通孔部1cの直径がボール13の直径より僅かに大きい値で形成されるが、係合孔部3aはボール13の直径より小さい値で形成されている。
【0043】
このクラッチ機構Cでは、貫通孔部1cの数と、係合孔部3aの数とを等しく、これらの周方向でのピッチを等しくすることで、クラッチ機構Cが伝動状態に達する場合には、複数の貫通孔部1cと、複数の係合孔部3aとに亘って同時にボール13が嵌まり込むように設計されている。
【0044】
図4に示すように、作動部材11は、筒状部1aの内周に隙間なく嵌まり込む外径で、全体的に柱状に成形され、外周には駆動軸芯Xに沿って伸びるように複数(実施形態では4つ)の溝部12(作動変換部)が形成され、夫々の溝部12にボール13(作動体)を嵌め込んでいる。特に、溝部12は、作動部材11が駆動軸芯Xに沿う方向に作動した際に貫通孔部1cに収容されているボール13の押し出し量(駆動軸1の径方向での移動量)を決めるように、溝深さが設定されている。
【0045】
この作動変換部としての溝部12は、溝深さが滑らかに変化するように形成しているが、これに代えて、例えば、一定の溝深さのものであっても良い。このように決まった溝深さに形成した場合には、作動部材11が図3に示す高温位置まで移動した場合に、溝部12の駆動軸芯Xに沿う方向での端部に乗り上げる形態で、径方向の外方に押し出される作動形態となる。
【0046】
図2には、低温状態において感温操作部5のプランジャ5bの突出量が小さく、作動部材11が低温位置にあるものを示している。このように作動部材11が低温位置にある場合には、図2図4に示すように複数のボール13が溝部12の最も深い領域に保持され、複数のボール13は、駆動軸1の外周より内側(駆動軸芯Xに近い位置)にある。これにより、ボール13は筒状支持体3の係合孔部3aに入り込むことはなく、クラッチ機構Cは遮断状態に維持される。その結果、駆動軸1の回転駆動力は筒状支持体3に伝えられることはなく、冷却ファン4は駆動されない。
【0047】
これに対して、図3に示すように環境温度が上昇し、感温操作部5のプランジャ5bの突出量が増大し、スプリング14の付勢力に抗して作動部材11が高温位置に移動した場合には、複数のボール13が相対的に溝部12の浅い領域に移動する。これにより、複数のボール13が駆動軸1の外周から外方に露出する位置に押し出され、複数のボール13は、筒状支持体3の係合孔部3aに入り込み、駆動軸1の回転駆動力が筒状支持体3から冷却ファン4に伝えられ、結果として冷却ファン4が駆動され送風が行われる。
【0048】
〔実施形態の作用効果〕
このファン駆動構造Aは、エンジン37の放熱を必要とする冷却温度を予め設定し、環境温度(例えば、車両のエンジンルームの温度)が冷却温度未満にある場合には、感温操作部5のプランジャ5bから押圧力を殆ど作用させず、作動部材11がスプリング14の付勢力により図2に示す低温位置に保持されるように構成される。従って、環境温度が冷却温度を超えた場合には、感温操作部5のプランジャ5bの突出作動による押圧力により作動部材11がスプリング14の付勢力に抗して図3に示す高温位置まで作動するように作動形態が設定されている。
【0049】
これにより、環境温度が冷却温度未満にある場合には、作動部材11が低温位置にあるため、クラッチ機構Cが遮断状態に維持され、冷却ファン4は駆動されない。これに対し、環境温度が冷却温度を超える値に上昇した場合には、作動部材11が高温位置に移動するため、クラッチ機構Cが伝動状態に切り換わり、駆動軸1の回転駆動力を複数のボール13を介して筒状支持体3(被駆動部)に伝え、冷却ファン4の駆動回転が実現する。
【0050】
このように、ファン駆動構造Aは、駆動軸1の貫通孔部1cと、筒状支持体3(被係合部)の係合孔部3aとに亘る領域に配置されるボール13によって回転駆動力が伝えられるため、例えば、感温操作部5のプランジャ5bの圧力によって摩擦板を圧接させるように構成されたクラッチを想定すると、摩擦板に滑りを招くことなく、クラッチ機構Cを確実に伝動状態に切り換え、冷却を可能にする。
【0051】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0052】
(a)図6図7に示すようにファン駆動構造Aを構成する。この別実施形態(a)のファン駆動構造Aは、実施形態と同様に駆動軸1の筒状部1aの外端位置に感温操作部5を備えている。この別実施形態(a)では、このような構成に加えて、溝部12が形成された作動部材11と、ボール13と、スプリング14とを備え、駆動軸1の外周にボール13が押し出された際に、ボール13から押圧力を受けて駆動軸芯Xに沿って移動する伝動体21と、この伝動体21に接触した際に摩擦により駆動力が伝える被駆動部としての受動体9とを備えたクラッチ機構Cを有している。
【0053】
駆動軸1と一体回転するスリーブ7の外周に対し、駆動軸芯Xと平行姿勢で複数の駆動側ボール溝7bが形成されている。また、伝動体21の内周に対し、スリーブ7に形成された駆動側ボール溝7bに対応する位置に従動側ボール溝21aが形成され、夫々にガイドボール22を嵌め込んでいる。これにより、スリーブ7と伝動体21とはボールスプラインを介して一体回転すると共に、スリーブ7に対して伝動体21が駆動軸芯Xに沿って移動自在となる。
【0054】
受動体9は、冷却ファン4の回転中心側において冷却ファン4と一体的に形成され、駆動軸芯Xを中心とする漏斗状の従動面9Sが形成されている。また、伝動体21は、従動面9Sに対向する部位に従動面9Sと密着可能な円錐状の駆動面21Sが形成され、駆動面21Sと従動面9Sとが圧接した際に摩擦により、駆動軸1の回転駆動力を冷却ファン4に伝えるように構成されている。
【0055】
特に、伝動体21のうち駆動軸1の貫通孔部1cの外側を一部覆う部位には、ボール13からの押圧力により、この伝動体21を駆動軸芯Xに沿って受動体9の方向に移動させる力を得るため駆動軸芯Xに対して傾斜する姿勢のカム面21bが形成されている。
【0056】
このような構成から、別実施形態(a)では、環境温度が、予め設定された温度より低温にある場合には、図6に示すように作動体が低温位置にあり、伝動体21と受動体9(被伝動部)とが駆動軸芯Xに沿う方向に離間しており、クラッチ機構Cは遮断状態に維持される。
【0057】
これに対し、環境温度が上昇に伴い感温操作部5のプランジャ5bの突出量が増大し、スプリング14の付勢力に抗して作動部材11が図7に示す高温位置に移動した場合には、複数のボール13が相対的に溝部12の浅い領域に移動し、複数のボール13が駆動軸1の外周から外方に露出させる位置に押し出される。
【0058】
これにより、複数のボール13は、カム面21bを押圧し、このカム面21bから駆動軸芯Xに沿う方向に作用する分力により伝動体21が受動体9に接近する方向に移動し、駆動面21Sが従動面9Sに圧接することにより、クラッチ機構Cが伝動状態に切り換わり、駆動軸1の回転駆動力が冷却ファン4に伝えられ送風が行われる。
【0059】
このように、別実施形態(a)のファン駆動構造Aは、作動部材11が高温位置に達し、ボール13の圧力で伝動体21の駆動面21Sが、受動体9の従動面9Sに圧接する場合には、ボール13の位置が決まるため駆動面21Sと従動面9Sとを圧接させ、駆動軸1の回転駆動力を、冷却ファン4に確実に伝えることが可能となる。
【0060】
(b)図8に示すように、駆動軸1に対し駆動軸芯Xを中心とする円筒状で、駆動軸芯Xを中心に駆動軸1に対して相対回転自在に円筒状体25が支持され、この円筒状体25の外側に冷却ファン4を固定し、駆動軸1の先端に備えた感温操作部5が円筒状体25の内部空間Tに配置されるようにファン駆動構造Aを構成する。
【0061】
この別実施形態(b)では、クラッチ機構Cが実施形態と同様に感温操作部5のプランジャ5bからの圧力によって作動する作動部材11と、作動部材11に形成された溝部12に嵌まり込むボール13等を備えて構成されている。このような構成において感温操作部5を円筒状体25の内部空間Tに配置することにより、感温操作部5を円筒状体25で保護することが可能となる。
【0062】
(c)作動部材11と作動変換部とを個別に構成し、作動部材11の作動に連携してリンク機構の作動やカム体の作動により変位部材(例えばボール13)を、駆動軸1の径方向に沿って出退するように構成することも考えられる。
【0063】
(d)ファン駆動構造Aは、エンジン37の冷却に限らず温度上昇が制限される機器の冷却に用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、温度に基づいてファンの駆動と停止とを可能にするために利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 駆動軸
1c 貫通孔部
3 筒状支持体(被駆動部)
3a 係合孔部
4 冷却ファン(ファン)
5 感温操作部
5a 感温部
5b プランジャ
9 受動体(被駆動部)
11 作動部材
12 溝部(作動変換部)
13 ボール(変位部材)
25 円筒状部
37 エンジン(駆動源)
C クラッチ機構
T 内部空間
X 駆動軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8