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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】血液凝固時間測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20240726BHJP
   G01N 33/86 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G01N33/48 K
G01N33/86
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020549295
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037624
(87)【国際公開番号】W WO2020067171
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018179271
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】大西 健悟
(72)【発明者】
【氏名】坂場 義正
(72)【発明者】
【氏名】西尾 朋久
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-530208(JP,A)
【文献】米国特許第05055412(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108226540(CN,A)
【文献】特開平06-201702(JP,A)
【文献】特開2017-032343(JP,A)
【文献】特開2015-148626(JP,A)
【文献】特開昭50-085393(JP,A)
【文献】特表2004-519507(JP,A)
【文献】特表平08-510057(JP,A)
【文献】特開2002-156379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織トロンボプラスチン、及びカルシウムを含む試薬を用いて行うプロトロンビン時間測定方法において、凝固反応時に前記試薬中にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上のイオンを共存させて凝固時間を短縮調整することを特徴とする正常血漿の凝固時間を予め設定した範囲に調整する方法(ただし、前記試薬中に金属キレート脂質を含む方法を除く)
【請求項2】
前記調整される正常血漿の凝固時間が、MNPT(平均正常プロトロンビン時間)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組織トロンボプラスチン、及びカルシウムを含むプロトロンビン時間測定試薬において、リン脂質、及びカルシウムを含む試薬中に0.25mmol/L~3.5mmol/Lの濃度でコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上のイオンを共存させることを特徴とする前記プロトロンビン時間測定試薬の溶液状態での保存安定性の向上方法(ただし、試薬中にコラン酸と水溶性重金属(II)塩を併用する方法を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固検査における、平均正常プロトロンビン時間の制御と組織トロンボプラスチンを含有する血液凝固時間測定試薬の保存安定性の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗凝固療法の管理には、プロトロンビン時間(以下、PTということがある。)によるモニタリングが重要である。PTは、組織トロンボプラスチン及びカルシウムイオンを含むトロンボプラスチン試薬を使用して測定を行なう。該試薬は、多種市販されているが、各社の試薬性能にバラツキがあり、また試薬を溶液状態で保存した場合の安定性も不良であった。
【0003】
特許文献1には、ニッケル化合物をトロンボプラスチン試薬に含有させて国際感度指数(ISI)を1.5以下に調整する方法、及び該方法を使用した組成物が開示されている。
特許文献2には、非イオン性界面活性剤、ニッケルイオン、及び組織因子を含有する血液凝固測定用試薬が開示され、組織因子の安定化に非イオン性界面活性剤及びニッケルイオンが必須であることが記載されている。
【0004】
しかしながら、いずれの文献にも平均正常プロトロンビン時間(以下、MNPTというころがある)の制御に関する記載はない。
【0005】
したがって、MNPTを制御する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-255332
【文献】特開2008-241621
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、血液凝固検査における、平均正常プロトロンビン時間の制御と組織トロンボプラスチンを含有する血液凝固時間測定試薬の保存安定性の向上方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、特定の金属イオンを組織トロンボプラスチンと共存させることにより、MNPTを所望の時間に制御・調整することができ、また、該特定の金属イオンを組織トロンボプラスチンと共存させた場合には、トロンボプラスチン試薬を溶液状態で保存した場合の安定性も向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は一態様において以下のものを提供する。
[1] 組織トロンボプラスチン、及びカルシウムを含む試薬を用いて行う血液凝固時間測定方法において、凝固反応時にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上のイオンを共存させて行うことを特徴とする正常血漿の凝固時間を予め設定した範囲に調整する方法。
[2] 組織トロンボプラスチン、及びカルシウムを含む血液凝固時間測定試薬において、リン脂質、及びカルシウムを含む試薬中にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上のイオンを共存させることを特徴とする前記血液凝固時間測定試薬の保存安定性の向上方法。
[3] リン脂質、及びカルシウムを含む試薬を用いて行う血液凝固時間測定方法において、凝固反応時にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上のイオンを共存させて行うことを特徴とする正常血漿の凝固時間を予め設定した範囲に調整する方法。
[4] リン脂質、及びカルシウムを含む血液凝固時間測定試薬において、リン脂質、及びカルシウムを含む試薬中にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上のイオンを共存させることを特徴とする前記血液凝固時間測定試薬の保存安定性の向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、血液凝固検査における、平均正常プロトロンビン時間の制御が可能となり、また組織トロンボプラスチンを含有する血液凝固時間測定試薬の保存安定性の向上が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は単なる例示であり、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0012】
(定義)
特に指示がない場合、本明細書に用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者により一般に理解される意味を有する。
【0013】
本明細書において、例えば、ある事項について、複数の数値の範囲が示された場合、それら複数の範囲の各々における任意の下限値および任意の上限値の組み合わせからなる範囲も、当該事項に関して記載されている範囲の有する意味と同様の意味を有する。
【0014】
本明細書において、「MNPT」とは、「平均正常プロトロンビン時間」を意味する。
約11秒~約13秒の範囲が推奨されている。
【0015】
本発明に用いうる、金属イオンはコバルト、マンガン、及びリチウムよりなる群より選ぶことができる。各金属イオンは、例えば、塩化コバルト、EDTA2ナトリウム・コバルト、塩化マンガン、硫酸マンガン、塩化リチウム、酢酸リチウムなど、市販品の水溶液を調製することで本発明に使用することができる。
【0016】
本発明に使用可能な各金属イオンの濃度は、他の条件も考慮して実験的に適宜選択することができるが、一例として0.25mmol/L~3.5mol/Lが好適であり、また、0.5mmol/L~3.0mol/Lも好適な一例である。
【0017】
特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の金属イオンの効果は、組織トロンボプラスチン及び/又はリン脂質との相互作用により奏されていることが推定される。
【0018】
本発明によれば、
[1] 組織トロンボプラスチン、及びカルシウムを含む試薬を用いて行う血液凝固時間測定方法において、凝固反応時にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上の金属イオンを共存させて行うことを特徴とする正常血漿の凝固時間を予め設定した範囲に調整することが可能となり、
[2] 組織トロンボプラスチン、及びカルシウムを含む血液凝固時間測定試薬において、リン脂質、及びカルシウムを含む試薬中にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上の金属イオンを共存させることを特徴とする前記血液凝固時間測定試薬の保存安定性を向上させることが可能となり、
[3] リン脂質、及びカルシウムを含む試薬を用いて行う血液凝固時間測定方法において、凝固反応時にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上の金属イオンを共存させて行うことを特徴とする正常血漿の凝固時間を予め設定した範囲に調整することが可能となり、
[4] リン脂質、及びカルシウムを含む血液凝固時間測定試薬において、リン脂質、及びカルシウムを含む試薬中にコバルトイオン、マンガンイオン、及びリチウムイオンよりなる群より選択される1種又は2種以上の金属イオンを共存させることを特徴とする前記血液凝固時間測定試薬の保存安定性を向上させることが可能となる。
【0019】
また、本発明によれば、平均正常プロトロンビン時間が所望の範囲に制御され、保存安定性の向上した組織トロンボプラスチンを含有する血液凝固時間測定試薬、例えばPT(プロトロンビン時間)測定試薬が提供される。またさらに、本発明により、標準血漿の凝固時間が所望の範囲に制御され、保存安定性の向上したリン脂質を含有する血液凝固時間測定試薬、例えばAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)測定試薬が提供される。
【0020】
本発明に基づくPT測定試薬は、組織トロンボプラスチン、及びカルシウムを含有する試薬よりなり、また、本発明に基づくAPTT測定試薬は、リン脂質、及びカルシウムを含有する試薬よりなり、溶液状態で冷蔵保存が可能な試薬として提供されうる。
【0021】
本発明を実施するにあたり、血液凝固分野における公知の技術を適宜に組み合わせて使用でき、本発明の思想を逸脱しない限り、どのような改変も可能であることはいうまでもない。
【実施例
【0022】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0023】
実施例1.塩化コバルト共存によるMNPTに与える効果の確認
【0024】
(1-1)試薬及び検体
(1-1-1)トロンボプラスチン試薬
ウサギ脳よりアセトン抽出法により調製した組織トロンボプラスチン抽出物、及び1mmol/L塩化カルシウムを含む溶液を調製し、トロンボプラスチン試薬とした。
(1-1-2)塩化コバルト添加トロンボプラスチン試薬
上記トロンボプラスチン試薬に、0.0、0.5、1.0.2.0、3.0、4.0mmol/Lとなるよう塩化コバルトをそれぞれ添加し、各濃度の塩化コバルト添加トロンボプラスチン試薬を調製した。
(1-1-3)正常検体
異なる2ロットの正常クエン酸プール血漿(積水化学社)を使用した。
【0025】
(1-2)プロトロンビン時間の測定方法
上記正常血漿50μLを37℃で孵置した後、ここに上記各濃度の塩化コバルト添加トロンボプラスチン試薬100μLを添加し、37℃で凝固時間を測定した。測定は血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル社)を用いて行った。正常血漿各ロットについて、それぞれn=2で測定して平均値を算出し、さらに2ロット間の平均値を算出して測定値とした。
【0026】
(1-3)結果
塩化コバルト非添加(0mmol/L)の場合の凝固時間に対して、塩化コバルト添加(0.5mmol/L~3.0mmol/L)の場合の凝固時間は短縮していた。
各測定値を表1に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例2.各種添加物質共存によるトロンボプラスチン試薬のMNPT、及び試薬保存安定性にあたえる効果の確認
【0029】
(2-1)試薬及び検体
(2-2)プロトロンビン時間の測定方法
(2-1)、(2-2)とも、添加物質を表2の金属塩にした以外、実施例1と同様にして行った。
【0030】
(2-3)保存安定性試験方法
上記各添加物質を添加したトロンボプラスチン試薬を、37℃で28日間保存後、正常血漿のプロトロンビン時間を測定し、試薬性能の変動を確認した。
【0031】
(2-4)結果
添加物質非添加(0mmol/L)の場合の凝固時間に対して、各添加物質添加(1.0mmol/L)の場合の凝固時間は短縮していた(表2中[B])。また、37℃、28日間保存後の凝固時間は、非添加に対して同等であるか、延長率が低かった(表2中[E])。本願発明の添加物質は、組織トロンボプラスチンを含む血液凝固時間測定試薬におけるMNPTを短縮することができ、また、長期保存安定性を向上させ得ることが確認された。
各測定値を表2に示した。
【0032】
【表2】
各値の算出手順は、塩化コバルトを添加した場合を例にすると以下である。
[Bx]=「A1a」/[A0]*100は、97.4[B1a]=12.45「A1a」/12.78[A0]*100であり、
[Dx]=[Cx]-[Ax]は、0.50[D1a]=12.95[C1a]-12.45[A1a]であり、
[Ex]=[Dx]/[D0]*100は、66.7[E1a]=0.50[D1a]/0.75[D0]*100である。