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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】位置検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/249 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
G01D5/249 Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021007156
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111613
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(72)【発明者】
【氏名】長田 航太
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 正吾
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-79618(JP,A)
【文献】特開2002-139352(JP,A)
【文献】特開2020-67414(JP,A)
【文献】特開平10-318791(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第612979(EP,A1)
【文献】特開2005-17220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の絶対位置を示すための絶対指標目盛りを具備する標示部と、
前記絶対指標目盛りを読み取る読取部と、
前記読取部による読取結果に基づいて、前記絶対位置を演算する演算部とを備え、
物体の絶対位置を検出する位置検出装置であって、
前記演算部が、前記読取部による読取結果に基づいて、複数の規則のうち、何れの規則で前記絶対位置を演算するべきであるかを判定する規則判定処理を実行し、前記規則判定処理における判定結果に基づいて前記絶対位置を演算する、
ことを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
前記演算部が、前記規則判定処理における判定結果を記憶部に記憶し、前記規則判定処理の実行後において、記憶済みの規則に基づいて前記絶対位置を演算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記演算部が、前記規則判定処理において、前記読取結果と、2つの規則のうちの一方とに基づいて、前記物体の位置変化について連続的であるか否かを判定し、連続的である場合には、一方の規則を前記記憶部に記憶し、連続的でない場合には、他方の規則を前記記憶部に記憶する、
ことを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記演算部が、前記規則判定処理において、前記読取結果に基づいて、3つ以上の複数の規則の中から、前記物体の位置変化について連続的な変化として検出し得る規則を特定し、特定結果を前記判定結果として前記記憶部に記憶する、
ことを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の絶対位置を検出する位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の絶対位置を示すための絶対指標目盛りを具備する標示部と、絶対指標目盛りを読み取る読取部と、読取部による読取結果に基づいて、絶対位置を演算する演算部とを備える位置検出装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の位置検出装置としての磁気式エンコーダ装置は、標示部たる磁気スケールと、読取部たる磁気センサと、絶対位置を演算する演算処理部とを備える。磁気センサ及び算出部は、磁気センサ装置のホルダ内に設けられる。磁気スケールは、直線状に延びるリニアスケールである。磁気スケール及び磁気センサ装置のうち、何れか一方は、磁気スケールの延在方向に移動する。磁気スケールは、スケール延在方向に沿って延びる絶対指標目盛りとしてのアブソリュートトラックを備える。アブソリュートトラックは、着磁した着磁領域と無着磁の無着磁領域とをランダムなピッチでスケール延在方向に配置されるアブソリュートパターンを備える。磁気センサ装置の磁気センサは、磁気スケール又は磁気センサ装置の移動に伴って、磁気スケールのアブソリュートパターンに応じた信号を出力する。磁気センサ装置の演算処理部は、磁気センサから出力される信号に基づいて、物体たる磁気スケール又は磁気センサ装置の絶対位置を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-138694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の磁気式エンコーダ装置において、磁気スケールをより長いものに交換する場合には、磁気スケールのみならず、磁気センサ装置も交換する必要が生じて、コスト高を招いてしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、磁気スケール等の絶対指標目盛りをより長いものに交換する場合のコストを低減することができる位置検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、物体の絶対位置を示すための絶対指標目盛りを具備する標示部と、前記絶対指標目盛りを読み取る読取部と、前記読取部による読取結果に基づいて、前記絶対位置を演算する演算部とを備え、物体の絶対位置を検出する位置検出装置であって、前記演算部が、前記読取部による読取結果に基づいて、複数の規則のうち、何れの規則で前記絶対位置を演算するべきであるかを判定する規則判定処理を実行し、前記規則判定処理における判定結果に基づいて前記絶対位置を演算する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、絶対指標目盛りをより長いものに交換する場合のコストを低減することができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る磁気式エンコーダ装置を示す斜視図である。
図2】同磁気式エンコーダ装置の磁気スケールの一部を示す平面図である。
図3】同磁気式エンコーダ装置の磁気センサを示す平面図である。
図4】同磁気式エンコーダ装置の電気回路の一部、及び磁気スケールを示すブロック図である。
図5】M系列の次数を11次としてアブソリュート値を求めた場合における不規則循環乱数コードとアブソリュート値との関係を示すグラフ。
図6】同磁気式エンコーダ装置の判定処理部によって実施される規則判定処理の各工程の流れを示すフローチャートである。
図7】実施例に係る磁気式エンコーダ装置の判定処理部によって実施される規則判定処理の各工程の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る位置検出装置としての磁気式エンコーダ装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各構成をわかり易くするために、実際の構造、並びに、各構造における縮尺及び数、などを異ならせる場合がある。
【0011】
まず、実施形態に係る磁気式エンコーダ装置の基本的な構成について説明する。図1は、実施形態に係る磁気式エンコーダ装置を示す斜視図である。また、図2は、磁気式エンコーダ装置の磁気スケールの一部を示す平面図である。
【0012】
図1に示されるように、磁気式エンコーダ装置1は、磁気スケール2と、磁気スケール2を読み取る磁気センサ装置3とを備える。標示部としての磁気スケール2は、直線状に延びる形状のリニアスケールである。磁気スケール2及び磁気センサ装置3は、産業用ロボットなどの機械に搭載される。機械は、直線状の軌道に沿って往復移動可能な移動体を備え、磁気スケール2は、その軌道に沿って延びる姿勢で機械に固定される。磁気スケール2と磁気センサ装置3とのうち、何れか一方は機械の移動体に固定され、移動体とともに直線状の軌道を往復移動する。
【0013】
磁気スケール2は、スケール延在方向に沿って延びる磁気トラック5を備える。機械の移動体が移動すると、磁気センサ装置3が磁気スケール2の表面に形成された磁界の磁気変化を検出して、磁気スケール2又は磁気センサ装置3の絶対位置の信号を出力する。なお、以下、移動体の移動方向をX方向、X方向と直交し且つ磁気スケール2の表面に沿った方向をY方向として、磁気式エンコーダ装置1の構成を説明する。
【0014】
磁気センサ装置3は、非磁性材料からなるホルダ7と、ホルダ7から延びるケーブル8と、読取部たる磁気センサ10とを備える。ホルダ7において、磁気スケール2と対向する対向面9には、開口部9aが設けられる。磁気センサ10は、開口部9aと対向する姿勢で、ホルダ7内に固定される。
【0015】
図3は、磁気式エンコーダ装置1の磁気センサを示す平面図である。磁気センサ10は、シリコン基板、セラミックグレース基板等からなるセンサ基板11を備える。センサ基板11は、磁気スケール(図2の2)と対向する基板面に形成された第1感磁素子12及び第2感磁素子13を備える。第1感磁素子12、第2感磁素子13のそれぞれは、例えば、パーマロイ膜を感磁膜として具備する磁気抵抗素子を有するものである。第1感磁素子12及び第2感磁素子13のそれぞれは、磁気スケール2と所定の隙間を介して対向する。
【0016】
図2に示されるように、磁気スケール2の磁気トラック5は、X方向に沿って延びるアブソリュートトラック15と、X方向に沿って延びるインクリメンタルトラック16とを備える。アブソリュートトラック15と、インクリメンタルトラック16とは、Y方向に沿って並ぶ態様で磁気スケール2に配置される。
【0017】
絶対指標目盛りとしてのアブソリュートトラック15は、互いにY方向に沿って並ぶ第1アブソリュートトラック21及び第2アブソリュートトラック22を備える。インクリメンタルトラック16は、互いにY方向に沿って並ぶ第1インクリメンタルトラック17及び第2インクリメンタルトラック18を備える。
【0018】
第1アブソリュートトラック21は、X方向に沿って並ぶ複数の第1アブソリュートパターン21aを備える。複数の第1アブソリュートパターン21aのそれぞれは、着磁した領域であり、1組のN極及びS極を備える。図2において、符号P1は、第1アブソリュートパターン21aのX方向の長さを示す(以下、この長さを第1長さP1と言う)。互いに隣り合う第1アブソリュートパターン21aの間には、無着磁の領域が配置される。複数の無着磁領域のそれぞれにおけるX方向の長さは、ランダムである。
【0019】
アブソリュートトラック15の第2アブソリュートトラック22は、複数の第2アブソリュートパターン22aを備える。第2アブソリュートトラック22において、X方向における無着磁領域の長さの変化パターンは、第1アブソリュートトラック21と同様である。但し、第2アブソリュートパターン22aは、X方向において第1アブソリュートパターン21aよりも第2長さP2だけずれた位置に配置される。第2長さP2は、第1長さP1の半分である。実施形態に係る磁気式エンコーダ装置1において、第1長さP1は0.8〔mm〕であり、第2長さP2は0.4〔mm〕である。
【0020】
ここで、第1アブソリュートトラック15及び第2アブソリュートトラック22のそれぞれは、連続するn組分の着磁領域及び無着磁領域の配列によって絶対位置を示すM系列の不規則循環乱数コードを表現する。より具体的には、着磁領域を論理値の1とし、無着磁領域を論理値の0としたときに、連続するn組分の1と0との配列によってM系列の不規則循環乱数コード値で示す。
【0021】
第1インクリメンタルトラック17は、複数の第1インクリメンタルパターン17aを備える。それぞれの第1インクリメンタルパターン17aは、X方向に並ぶ1組のN極及びS極を備える。第1インクリメンタルパターン17aのX方向の長さは、第2長さP2である。第1インクリメンタルトラック17においては、X方向において、N極とS極とが交互に並ぶ。
【0022】
第2インクリメンタルトラック18は、複数の第2インクリメンタルパターン18aを備える。それぞれの第2インクリメンタルパターン18aは、X方向に並ぶN極及びS極を備える。第2インクリメンタルパターン18aのX方向の長さは、第2長さP2である。第2インクリメンタルトラック18においては、X方向において、N極とS極とが交互に並ぶ。第2インクリメンタルトラック18におけるN極とS極との着磁の順序は、第1インクリメンタルトラック17とは逆である。Y方向において、第1インクリメンタルパターン17aのN極と、第2インクリメンタルパターン18aのS極とが隣り合い、且つ第1インクリメンタルパターン17aのS極と第2インクリメンタルパターン18aのN極とが隣り合う。
【0023】
磁気センサ10のセンサ基板11は、図3に示されるように、磁気スケール2と対向する基板面に、アブソリュート信号生成用の第1感磁素子12と、インクリメンタル信号生成用の第2感磁素子13とを備える。第1感磁素子12と第2感磁素子13とは、互いにY方向に並ぶ。
【0024】
第1感磁素子12は、第1アブソリュートトラック21の磁気を検出するための第1磁気抵抗パターン31と、第2アブソリュートトラック22の磁気を検出するための第2磁気抵抗パターン32とを備える。第1磁気抵抗パターン31及び第2磁気抵抗パターン32のそれぞれは、X方向に延在し、且つ互いにY方向に並ぶ。第1磁気抵抗パターン31は第1アブソリュートトラック21と対向し、第2磁気抵抗パターン32は第2アブソリュートトラック22と対向する。
【0025】
第1磁気抵抗パターン31及び第2磁気抵抗パターン32のそれぞれは、X方向に感磁方向を向けた姿勢でX方向に配列された複数の磁気抵抗素子を備える。複数の磁気抵抗素子は、第1長さP1のピッチで配列されている。第1磁気抵抗パターン31は、X方向において連続する第1アブソリュートパターン21aの複数の領域のそれぞれの磁界を順次に検出してM系列の第1アブソリュート信号を出力する。同様に、第2磁気抵抗パターン32は、X方向において連続する第2アブソリュートパターン22aの複数の領域のそれぞれの磁界を順次に検出してM系列の第2アブソリュート信号を出力する。
【0026】
第2感磁素子13は、SIN+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+a)、COS+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+b)、SIN-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-a)、及びCOS-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-b)を備える。SIN+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+a)と、COS-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-b)とは、互いにX方向に並ぶ。また、COS+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+b)と、SIN-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-a)とは、互いにX方向に並ぶ。SIN+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+a)と、COS+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+b)とは、互いにY方向に並ぶ。COS-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-b)と、SIN-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-a)とは、互いにY方向に並ぶ。SIN+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+a)、及びCOS-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-b)は、第1インクリメンタルトラック17と対向し、SIN+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+a)、及びCOS-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-b)は、第2インクリメンタルトラック18と対向する。
【0027】
機械の移動体の移動に伴い、磁気抵抗パターン34(+a)から出力される信号と、磁気抵抗パターン34(+b)から出力される信号とは、互いに90°の位相差を有する。また、磁気抵抗パターン34(-a)から出力される信号と、磁気抵抗パターン34(-b)から出力される信号とは、互いに90°の位相差を有する。また、磁気抵抗パターン34(+a)から出力される信号と、磁気抵抗パターン34(-a)から出力される信号とは、互いに180°の位相差を有する。また、磁気抵抗パターン34(+b)から出力される信号と、磁気抵抗パターン34(-b)から出力される信号とは、互いに180°の位相差を有する。
【0028】
図4は、磁気式エンコーダ装置1の電気回路の一部、及び磁気スケール2を示すブロック図である。磁気センサ装置3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read only memory)、RAM(Random access memory)等を具備する演算処理部40を備える。演算部としての演算処理部40は、センサ基板11に実装されている。演算処理部40の入力側には、アブソリュート信号生成用の第1感磁素子12、及びインクリメンタル信号生成用の第2感磁素子13が接続されている。演算処理部40は、アブソリュート値取得部41、インクリメンタル信号取得部42、規則判定部43、及び絶対位置を算出する算出部44を備える。アブソリュート値取得部41は、第1アブソリュート値取得部45と、第2アブソリュート値取得部46とを備える。
【0029】
アブソリュート信号生成用の第1感磁素子12の第1磁気抵抗パターン31と、第1アブソリュート値取得部45とは、第1アブソリュートトラック21を読み取って第1アブソリュート値ABS1を出力する第1アブソリュート値出力部37を構成する。アブソリュート信号生成用の第1感磁素子12の第2磁気抵抗パターン32と、第2アブソリュート値取得部46とは、第2アブソリュートトラック22を読み取って第2アブソリュート値ABS2を出力する第2アブソリュート値出力部38を構成する。インクリメンタル信号生成用の第2感磁素子13とインクリメンタル信号取得部42とは、インクリメンタルトラック16を読み取ってインクリメンタル信号INCを出力するインクリメンタル信号出力部39を構成する。
【0030】
第1アブソリュート値取得部45は、第1磁気抵抗パターン31から出力されるM系列の第1アブソリュート信号(読取結果)に基づいて第1不規則循環乱数コードCODE1を取得する。次に、第1アブソリュート値取得部45は、取得した第1不規則循環乱数コードCODE1を整数の数列に置き換えて第1アブソリュート値ABS1を取得する。第1アブソリュート値取得部45が第1アブソリュート値ABS1を取得すると、第1アブソリュート値出力部37は第1アブソリュート値ABS1を出力する。
【0031】
第2アブソリュート値取得部46は、第2磁気抵抗パターン32から出力されるM系列の第2アブソリュート信号(読取結果)に基づいて第2不規則循環乱数コードCODE2を取得する。そして、第2アブソリュート値取得部46は、取得した第2不規則循環乱数コードCODE2を整数の数列に置き換えて第2アブソリュート値ABS2を取得する。第2アブソリュート値取得部46が第2アブソリュート値ABS2を取得すると、第2アブソリュート値出力部38は第2アブソリュート値ABS2を出力する。第1アブソリュート値出力部37から出力される第1アブソリュート値ABS1と、第2アブソリュート値出力部38から出力される第2アブソリュート値ABS2とは、機械の移動体の移動に伴い、第2長さP2に相当する時間分だけずれて出力される。
【0032】
インクリメンタル信号取得部42は、SIN+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+a)からの信号と、SIN-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-a)からの信号とに基づいて正弦波信号を取得する。また、インクリメンタル信号取得部42は、COS+信号生成用の磁気抵抗パターン34(+b)からの信号と、COS-信号生成用の磁気抵抗パターン34(-b)からの信号とに基づいて余弦波信号を取得する。さらに、インクリメンタル信号取得部42は、正弦波信号および余弦波信号に基づいて内挿分割処理を行い、ゼロから所定の最大値まで変化する周期的なインクリメンタル信号INCを生成する。インクリメンタル信号取得部42によりインクリメンタル信号INCが生成されると、インクリメンタル信号出力部39は、インクリメンタル信号INCを出力する。
を生成する。
【0033】
算出部44は、第1アブソリュート値ABS1、第2アブソリュート値ABS2、及びインクリメンタル信号C_INCに基づいて、絶対位置を算出する。具体的には、算出部44は、インクリメンタル信号C_INCが0となる時点から補正インクリメンタル信号C_INCがゼロと最大値の中央値に達するまでの期間において絶対位置の算出に第1アブソリュート値ABS1を用いる。また、算出部44は、インクリメンタル信号C_INCが中央値となったから補正インクリメンタル信号C_INCが最大値に達するまでの期間T2において絶対位置の算出に第2アブソリュート値ABS2を用いる。
【0034】
なお、演算処理部40の規則判定部43の役割については、後に詳述する。
【0035】
上述の第1アブソリュート値ABS1及び第2アブソリュート値ABS2を適正に取得するためには、磁気スケール2の全長を大きくするほど、M系列の次数を大きくする必要がある。例えば、全長約1600〔mm〕の磁気スケール2を用いる場合には、M系列の次数を11に設定する必要がある。また、磁気センサ10として、第1感磁素子12のX方向の長さを、M系列の11次に対応する長さ以上にしたものを用いる必要がある。
【0036】
一方で、全長約3200〔mm〕の磁気スケール2を用いる場合には、M系列の次数を12に設定する必要がある。また、磁気センサ10として、第1感磁素子12のX方向の長さを、M系列の12次に対応する長さ以上にしたものを用いる必要がある。
【0037】
従来において、例えば、磁気スケール2を全長1600〔mm〕のものから、全長2000〔mm〕のものに交換するには、磁気スケール2のみならず、磁気センサ装置3も交換することを強いられていた。具体的には、磁気センサ装置3として、第1感磁素子12のX方向の長さを、M系列の11次に対応する長さにしたものから、12次に対応する長さにしたものに交換する必要があり、コストアップを引き起こしていた。
【0038】
なお、例えば、M系列の12次に対応する長さの第1感磁素子12を搭載した磁気センサ装置3であっても、次数を11次として扱うと、図5に示されるように、絶対位置を正しく演算することができなくなる。図5に示される例では、機械の移動体が0.8〔mm〕移動する毎に、不規則循環乱数コードと、これに応じたアブソリュート値(ABS1、ABS2)とが生成される。データ取得番号=2~13の範囲(データ12個分)では、アブソリュート値が適切に連番になっているのに対し、それ以外の範囲では、アブソリュート値が連番になっていない。このため、第1感磁素子12の長さがM系列の12次に対応する長さであったとしても、全長2000〔mm〕の磁気スケール2のうち、0.8mm×(12-1)=8.8〔mm〕の範囲でしか、移動体の絶対位置を正しく検出することができない。
【0039】
次に、実施形態に係る磁気式エンコーダ装置1の特徴的な構成について説明する。
磁気式エンコーダ装置1の磁気センサ装置3は、第1感磁素子12として、M系列の12次に対応する長さのものを備える。よって、理論的には、磁気スケール2の全長を最大で約3200〔mm〕まで大きくすることが可能である。
【0040】
図4に示されるように、演算処理部40の規則判定部43は、機械の移動体の絶対位置について、M系列の次数を何次として機械の移動体の絶対位置を演算すべきであるかを判定するものであり、判定処理部43aと記憶部43bとを備える。M系列の次数は、本発明における規則の一例である。また、演算処理部40のアブソリュート値取得部41は、無通電状態でも記憶データを保持することが可能なフラッシュメモリ等からなるデータ記憶部を備える。
【0041】
図6は、判定処理部43aによって実施される規則判定処理の各工程の流れを示すフローチャートである。規則判定処理は、磁気式エンコーダ装置1を搭載した機械の初回運転の開始前に実行される。実行のトリガーとしては、初回運転の開始前に、機械の制御部から磁気センサ装置3に実行開始命令信号をトリガーとして送信させてもよいし、磁気センサ装置3に付設される開始ボタンを作業者が押したときに発せられる信号をトリガーとしてもよい。
【0042】
規則判定処理が実行されるためには、機械の移動体をX方向に沿って一方向に移動させる必要がある。この移動については、機械の制御部と、規則判定部43との相互通信に基づいて開始させればよい。
【0043】
判定処理部43aは、規則判定処理を開始すると、M系列の次数DEGを、11次としてアブソリュート値取得部41に送信する(ステップ1:以下、ステップをSと記す)。アブソリュート値取得部41は、M系列の次数DEGを11次としてデータ記憶部に記憶する。
【0044】
次に、判定処理部43aは、アブソリュート値取得部41から出力される新たなアブソリュート値(ABS)を取得すると(S2にてY)、その値を記憶部43bに記憶した後(S3)、それまでに取得したアブソリュート値の個数に基づいて、機械の移動体の移動量について所定量に達したか否かを判定する(S4)。移動量が所定量に達していない場合(S4でN)、判定処理部43aは、処理フローを上述のS2にループさせる。このループにより、新たなアブソリュート値が取得される。
【0045】
機械の移動体の移動量が所定量に達した場合(S4でY)、判定処理部43aは、記憶部43bに記憶された複数のアブソリュート値について、全てが連番になっているか否かを判定する(S5)。そして、連番になっている場合(S5でY)には、判定処理部43aは、一連の処理フローを終了する。この場合、アブソリュート値取得部41は、データ記憶部に記憶している次数DEG=11次という規則に従って、アブソリュート値を算出する。一方、連番になっていない場合(S5でN)には、判定処理部43aは、M系列の次数DEGを、12次としてアブソリュート値取得部41に送信した後(S6)、一連の処理フローを終了する。アブソリュート値取得部41は、M系列の次数DEGを12次としてデータ記憶部に記憶し、以降、次数DEG=12次という条件でアブソリュート値を求める。
【0046】
かかる構成の磁気式エンコーダ装置1においては、磁気スケール2が、全長約1600〔mm〕のものから、3200〔mm〕を上限とするより大きい全長のものに交換されても、既設の磁気センサ10を用いて絶対位置を正しく求めることが可能である。よって、磁気式エンコーダ装置1によれば、磁気スケール2をより長いものに交換する場合における磁気センサ装置3の交換を不要にしてコストを低減することができる。
【0047】
次に、実施形態に係る磁気式エンコーダ装置1に、より特徴的ない構成を付加した実施例について説明する。なお、以下に特筆しない限り、実施例に係る磁気式エンコーダ装置1の構成は、実施形態と同様である。
【0048】
磁気式エンコーダ装置1の磁気センサ装置3は、第1感磁素子12として、M系列の13次に対応する長さのものを備える。よって、理論的には、磁気スケール2の全長を3200〔mm〕よりも大きくすることが可能である。
【0049】
実施例に係る磁気式エンコーダ装置1のアブソリュート値取得部41は、規則判定処理の実行中に、不規則循環乱数コードを規則判定部43に出力するように構成されている。
【0050】
図7は、実施例に係る磁気式エンコーダ装置1の判定処理部43aによって実施される規則判定処理の各工程の流れを示すフローチャートである。判定処理部43aは、規則判定処理を開始すると、M系列の次数DEGを、11次としてアブソリュート値取得部41に送信する(S1)。アブソリュート値取得部41は、M系列の次数DEGを11次としてデータ記憶部に記憶する。
【0051】
次に、判定処理部43aは、アブソリュート値取得部41から出力される新たな不規則循環乱数コード(CODE)を取得すると(S2にてY)、その値を記憶部43bに記憶した後(S3)、機械の移動体の移動量について所定量に達したか否かを判定する(S4)。移動量が所定量に達していない場合(S4でN)、判定処理部43aは、処理フローを上述のS2にループさせる。このループにより、新たな不規則循環乱数コードが取得される。
【0052】
機械の移動体の移動量が所定量に達した場合(S4でY)、判定処理部43aは、記憶部43bに記憶された複数の不規則循環乱数コード(CODE)と、次数DEG(11次)とに基づいて、複数の不規則循環乱数コードのそれぞれに対応する複数のアブソリュート値(ABS)を算出する(S5)。その後、判定処理部43aは、複数のアブソリュート値について、全てが連番になっているか否かを判定し(S6)、連番になっている場合(S6でY)には、一連の処理フローを終了する(以後、アブソリュート値取得部41が次数DEGを11次として取り扱う)。一方、連番になっていない場合(S6でN)には、S5にてアブソリュート値の算出に用いた次数DEGについて、12次であったか否かを判定する(S7)。この判定結果が12次でない場合(S7でY)、判定処理部43aは、記憶部43bに記憶された複数の不規則循環乱数コードと、DEG=12次とに基づいて、複数の不規則循環乱数コードのそれぞれに対応する複数のアブソリュート値を算出する(S8)。その後、判定処理部43aは、複数のアブソリュート値について、全てが連番になっているか否かを判定し(S9)、連番になっている場合(S9でY)には、M系列の次数DEGを12次としてアブソリュート値取得部41に送信した後(S10)、一連の処理フローを終了する。以後、アブソリュート値取得部41は、次数DEGを12次として取り扱う。一方、全てのアブソリュート値が連番になっていない場合(S9でN)、判定処理部43aは、M系列の次数DEGを13次としてアブソリュート値取得部41に送信した後(S11)、一連の処理フローを終了する。以後、アブソリュート値取得部41は、次数DEGを13次として取り扱う。
【0053】
かかる構成の磁気式エンコーダ装置1においては、実施形態に比べて、磁気スケール2の長さを大きくすることができる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、実施形態及び実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。実施形態及び実施例は、発明の範囲及び要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0055】
本発明は、以下の態様毎に特有の効果を奏する。
〔第1態様〕
第1態様は、物体の絶対位置を示すための絶対指標目盛り(例えばアブソリュートトラック15)を具備する標示部(例えば磁気スケール2)と、前記絶対指標目盛りを読み取る読取部(例えば磁気センサ10)と、前記読取部による読取結果に基づいて、前記絶対位置を演算する演算部(例えば演算処理部40)とを備え、物体の絶対位置を検出する位置検出装置(例えば磁気式エンコーダ装置1)であって、前記演算部が、前記読取部による読取結果に基づいて、複数の規則(例えばM系列の次数)のうち、何れの規則で前記絶対位置を演算するべきであるかを判定する規則判定処理を実行し、前記規則判定処理における判定結果に基づいて前記絶対位置を演算する、ことを特徴とするものである。
【0056】
第1態様においては、標示部が、より大きい全長のものに交換されても、既設の読取部を用いて絶対位置を正しく求めることが可能である。よって、第1態様によれば、標示部をより長いものに交換する場合における読取部の交換を不要にしてコストを低減することができる。
【0057】
〔第2態様〕
第2態様は、第1態様の構成を備え、且つ、前記演算部が、前記規則判定処理における判定結果を記憶部(例えばデータ記憶部)に記憶し、前記規則判定処理の実行後において、記憶済みの規則に基づいて前記絶対位置を演算する、ことを特徴とするものである。
【0058】
第2態様によれば、指標部がより長いものに交換された場合に、規則判定処理を1回実行するだけで、絶対位置を正しく演算することが可能になる。
【0059】
〔第3態様〕
第3態様は、第2態様の構成を備え、且つ、前記演算部が、前記規則判定処理において、前記読取結果と、2つの規則のうちの一方とに基づいて、前記物体の位置変化について連続的であるか否かを判定し、連続的である場合には、一方の規則を前記記憶部に記憶し、連続的でない場合には、他方の規則を前記記憶部に記憶する、ことを特徴とするものである。
【0060】
第3態様によれば、後述する第4態様に比べて、規則判定処理における処理フローを簡素化することができる。
【0061】
〔第4態様〕
第4態様は、第2態様の構成を備え、且つ、前記演算部が、前記規則判定処理において、前記読取結果に基づいて、3つ以上の複数の規則の中から、前記物体の位置変化について連続的な変化として検出し得る規則を特定し、特定結果を前記判定結果として前記記憶部に記憶する、ことを特徴とするものである。
【0062】
第4態様によれば、第3態様に比べて、標示部の長さを大きくすることができる。
【符号の説明】
【0063】
1・・・磁気式エンコーダ装置(位置検出装置)、 2・・・磁気スケール(標示部)、 15・・・アブソリュートトラック(絶対指標目盛り)、 40・・・演算処理部(演算部)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7