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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20240726BHJP
【FI】
A61M25/10 510
A61M25/10 550
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021021412
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022123938
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】393015324
【氏名又は名称】株式会社グッドマン
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100152515
【弁理士】
【氏名又は名称】稲山 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0073328(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張状態と収縮状態との間で拡縮可能なバルーンと、
前記拡張状態における前記バルーンの径である拡張径を制御する為の径制御部材であって、
周方向において前記バルーンの異なる位置に夫々固定された複数の制御要素を有し、
前記複数の制御要素の夫々が前記周方向に互いに離隔した離隔状態と、1組以上の少なくとも2つの制御要素間の距離が前記離隔状態よりも小さい接近状態とが、前記少なくとも2つの制御要素間に作用する外部力の変化に応じて切り替わり、
前記離隔状態の時、前記バルーンを、前記拡張径が最大径となる最大径状態とし、
前記接近状態の時、前記バルーンを、前記拡張径が前記最大径よりも小さい中間径となる中間径状態とする
前記径制御部材と
を備え
前記外部力が、前記バルーンの拡張力であり、
前記径制御部材は、摩擦力により前記バルーンの前記拡張径を制御し、
前記少なくとも2つの制御要素は、
凹部を含む第1制御要素と、
前記凹部に嵌合可能な凸部を有する第2制御要素と
を少なくとも含むことを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項2】
拡張状態と収縮状態との間で拡縮可能なバルーンと、
前記拡張状態における前記バルーンの径である拡張径を制御する為の径制御部材であって、
周方向において前記バルーンの異なる位置に夫々固定された複数の制御要素を有し、
前記複数の制御要素の夫々が前記周方向に互いに離隔した離隔状態と、1組以上の少なくとも2つの制御要素間の距離が前記離隔状態よりも小さい接近状態とが、前記少なくとも2つの制御要素間に作用する外部力の変化に応じて切り替わり、
前記離隔状態の時、前記バルーンを、前記拡張径が最大径となる最大径状態とし、
前記接近状態の時、前記バルーンを、前記拡張径が前記最大径よりも小さい中間径となる中間径状態とする
前記径制御部材と
を備え、
前記外部力が、外部磁場であり、
前記径制御部材は、磁力により前記バルーンの前記拡張径を制御することを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記複数の制御要素は磁性体により形成されたことを特徴とする請求項2に記載のバルーンカテーテル。
【請求項4】
拡張状態と収縮状態との間で拡縮可能なバルーンと、
前記拡張状態における前記バルーンの径である拡張径を制御する為の径制御部材であって、
周方向において前記バルーンの異なる位置に夫々固定された複数の制御要素を有し、
前記複数の制御要素の夫々が前記周方向に互いに離隔した離隔状態と、1組以上の少なくとも2つの制御要素間の距離が前記離隔状態よりも小さい接近状態とが、前記少なくとも2つの制御要素間に作用する外部力の変化に応じて切り替わり、
前記離隔状態の時、前記バルーンを、前記拡張径が最大径となる最大径状態とし、
前記接近状態の時、前記バルーンを、前記拡張径が前記最大径よりも小さい中間径となる中間径状態とする
前記径制御部材と
を備え、
前記外部力は、前記複数の制御要素に対する通電であり、
前記径制御部材は、静電力により前記バルーンの前記拡張径を制御することを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項5】
前記複数の制御要素は導電体又は帯電体により形成されたことを特徴とする請求項4に記載のバルーンカテーテル。
【請求項6】
前記複数の制御要素は、
軸心と平行に延びる平面により一部が切り欠かれた円柱形を有し、
前記軸心と直交する断面において、前記軸心から、前記平面に対応する弦の両端部に向けて延びる2つの直線の間の角度が、90°~180°の範囲内である
ことを特徴とする請求項2から5の何れかに記載のバルーンカテーテル。
【請求項7】
前記複数の制御要素は、4つ以上の制御要素を含み、
前記接近状態において、2組以上の2つの制御要素間の距離が前記離隔状態よりも小さくなる
ことを特徴とする請求項1から6の何れかに記載のバルーンカテーテル。
【請求項8】
前記複数の制御要素は、
前記離隔状態において、前記周方向に等間隔で配置されることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のバルーンカテーテル。
【請求項9】
前記少なくとも2つの制御要素は、
前記接近状態において互いに接触することを特徴とする請求項1からの何れかに記載のバルーンカテーテル。
【請求項10】
前記バルーンの少なくとも一部に薬剤が塗布されたことを特徴とする請求項1からの何れかに記載のバルーンカテーテル。
【請求項11】
前記バルーンは、
前記中間径状態において露出する第1露出部分と、
前記中間径状態において露出せず、且つ、前記最大径状態において露出する第2露出部分と
を有し、
前記第1露出部分と前記第2露出部分とで異なる前記薬剤が塗布されたことを特徴とする請求項10に記載のバルーンカテーテル。
【請求項12】
前記複数の制御要素は、前記バルーンよりも硬いことを特徴とする請求項1から11の何れかに記載のバルーンカテーテル。
【請求項13】
前記複数の制御要素は、前記バルーンよりも硬く、
前記複数の制御要素に、前記バルーンに塗布された前記薬剤と同じ前記薬剤が塗布されたことを特徴とする請求項10に記載のバルーンカテーテル。
【請求項14】
前記複数の制御要素は、前記バルーンよりも硬く、
前記複数の制御要素に、前記バルーンに塗布された前記薬剤と異なる薬剤が塗布されたことを特徴とする請求項10に記載のバルーンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
脈管内の狭窄部をバルーンカテーテルにより拡張する場合の拡張能力は、拡張された状態のバルーンの径(以下、「拡張径」という。)に依存する。このため、脈管内の狭窄部の種類や大きさに応じた適切な拡張径のバルーンを含むバルーンカテーテルを選択して使用することが要求される。しかし、狭窄部の内径は長手方向に亘って一定でない場合が多いこと、及び、内径の異なる複数の狭窄部が同時に存在する場合が多いこと等から、1回の施術を行うときに用いられるバルーンの適切な拡張径が一定でない場合がある。この場合、1回の施術が行われる場合でも、バルーンの拡張径が夫々異なる複数のバルーンカテーテルの使用が必要となる。この場合、施術時間が長くなることで患者、医療従事者、施術者等の負担が増大する可能性がある。
【0003】
特許文献1は、選択的に展開可能なカッティング又はスコアリング要素(以下、単に「要素」という。)を有する血管形成術バルーンを開示する。血管形成術バルーンにおいて、要素はバルーンの周囲にらせん状に巻かれている。血管形成術バルーンでは、要素に接続した引張部材の引っ張る度合を調整することにより、バルーンが完全に膨張した状態と部分的に膨張した状態とに切り替えることができる。これにより、バルーンの拡張径を施術中に変化させることができるので、複数のバルーンカテーテルを用いずに済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-520369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記の血管形成術バルーンでは、バルーンが適切な拡張径となるように引張部材の引っ張る度合を調整する必要がある。このため、バルーンを所望の拡張径とするための操作は、操作に熟練した使用者でも困難な場合が多いという問題点がある。
【0006】
本発明の目的は、夫々異なる複数の拡張径となるようにバルーンを容易に調整できるバルーンカテーテルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るバルーンカテーテルは、拡張状態と収縮状態との間で拡縮可能なバルーンと、前記拡張状態における前記バルーンの径である拡張径を制御する為の径制御部材であって、周方向において前記バルーンの異なる位置に夫々固定された複数の制御要素を有し、前記複数の制御要素の夫々が前記周方向に互いに離隔した離隔状態と、1組以上の少なくとも2つの制御要素間の距離が前記離隔状態よりも小さい接近状態とが、前記少なくとも2つの制御要素間に作用する外部力の変化に応じて切り替わり、前記離隔状態の時、前記バルーンを、前記拡張径が最大径となる最大径状態とし、前記接近状態の時、前記バルーンを、前記拡張径が前記最大径よりも小さい中間径となる中間径状態とする前記径制御部材とを備えたことを特徴とする。
【0008】
バルーンカテーテルは、径制御部材によってバルーンの拡張径を制御する。径制御部材は、複数の制御要素が離隔状態の時にバルーンの拡張径を最大径とし、複数の制御要素が接近状態の時にバルーンの拡張径を中間径とする。ここで径制御部材は、夫々に作用する外部力に応じて、複数の制御要素を離隔状態と接近状態とに切り替わる。このため、ユーザは、複数の制御要素に作用する外部力を調整することにより、バルーンの拡張径を切り替えることができる。従ってユーザは、夫々異なる複数の拡張径となるようにバルーンを容易に調整できる。
【0009】
本発明において、前記複数の制御要素は、4つ以上の制御要素を含み、前記接近状態において、2組以上の2つの制御要素間の距離が前記離隔状態よりも小さくなってもよい。この場合、バルーンカテーテルは、複数の制御要素の接近状態を安定化できるので、バルーンを中間径状態で安定的に維持できる。
【0010】
本発明において、前記複数の制御要素は、前記離隔状態において、前記周方向に等間隔で配置されてもよい。この場合、バルーンカテーテルは、中間径状態としたバルーンの断面形状を円形に近づけることができるので、狭窄部を、バルーンの周方向において均一に拡張できる。
【0011】
本発明において、前記少なくとも2つの制御要素は、前記接近状態において互いに接触してもよい。この場合、バルーンカテーテルは、複数の制御要素間に誘引力を適切に作用させることができるので、複数の制御要素を離隔状態と接近状態とに確実に切り替え、バルーンの拡張径を適切に調整できる。
【0012】
本発明において、前記外部力が、前記バルーンの拡張力であり、前記径制御部材は、摩擦力により前記バルーンの前記拡張径を制御してもよい。この場合、バルーンカテーテルは、複数の制御要素を接近状態で安定的に維持できる。
【0013】
本発明において、前記少なくとも2つの制御要素は、凹部を含む第1制御要素と、前記凹部に嵌合可能な凸部を有する第2制御要素とを少なくとも含んでもよい。この場合、バルーンカテーテルは、少なくとも2つの制御要素間に摩擦力を効率よく作用させることができる。
【0014】
本発明において、前記外部力が外部磁場であり、前記径制御部材は、磁力により前記バルーンの前記拡張径を制御してもよい。この場合、バルーンカテーテルは、磁力を利用して複数の制御要素を離隔状態と接近状態とに切り替えることができる。
【0015】
本発明において、前記複数の制御要素は磁性体により形成されてもよい。この場合、バルーンカテーテルは、磁力を利用して複数の制御要素を離隔状態と接近状態とに切り替えることが可能な径制御部材を、磁性体により実現できる。
【0016】
本発明において、前記外部力は、前記複数の制御要素に対する通電であり、前記径制御部材は、静電力により前記バルーンの前記拡張径を制御してもよい。この場合、バルーンカテーテルは、静電力を利用して複数の制御要素を離隔状態と接近状態とに切り替えることができる。
【0017】
本発明において、前記複数の制御要素は導電体又は帯電体により形成されてもよい。この場合、バルーンカテーテルは、静電力を利用して複数の制御要素を離隔状態と接近状態とに切り替えることが可能な径制御部材を、導電体又は帯電体により実現できる。
【0018】
本発明において、前記複数の制御要素は、軸心と平行に延びる平面により一部が切り欠かれた円柱形を有し、前記軸心と直交する断面において、前記軸心から、前記平面に対応する弦の両端部に向けて延びる2つの直線の間の角度が、90°~180°の範囲内であってもよい。この場合、バルーンカテーテルは、2つの制御要素の間に強い誘引力を作用させることができる。従って、バルーンカテーテルは、複数の制御要素を接近状態で安定的に維持できる。
【0019】
本発明において、前記バルーンの少なくとも一部に薬剤が塗布されてもよい。バルーンカテーテルは、バルーンに塗布された薬剤を狭窄部に作用させ、狭窄部を治療できる。
【0020】
本発明において、前記バルーンは、前記中間径状態において露出する第1露出部分と、前記中間径状態において露出せず、且つ、前記最大径状態において露出する第2露出部分とを有し、前記第1露出部分と前記第2露出部分とで異なる前記薬剤が塗布されてもよい。バルーンカテーテルは、バルーンを中間径状態と最大径状態とに切り替えることにより、夫々異なる薬剤を狭窄部に作用させることができる。
【0021】
本発明において、前記複数の制御要素は、前記バルーンよりも硬くてもよい。バルーンカテーテルは、例えば狭窄部を切開する機能を、複数の制御要素により実現できる。
【0022】
本発明において、前記複数の制御要素は、前記バルーンよりも硬く、前記複数の制御要素に、前記バルーンに塗布された前記薬剤と同じ前記薬剤が塗布されてもよい。バルーンカテーテルは、例えば複数の制御要素により狭窄部を切開した場合、切開された場所に、バルーンに塗布された薬剤と同じ薬剤を作用させることができる。
【0023】
本発明において、前記複数の制御要素は、前記バルーンよりも硬く、前記複数の制御要素に、前記バルーンに塗布された前記薬剤と異なる薬剤が塗布されてもよい。バルーンカテーテルは、例えば複数の制御要素により狭窄部を切開した場合、切開された場所に、バルーンに塗布された薬剤と異なる薬剤を作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】バルーン3が収縮状態である場合のバルーンカテーテル1Aを示す図である。
図2】バルーン3が中間径状態である場合のバルーンカテーテル1Aを示す図である。
図3】バルーン3が最大径状態である場合のバルーンカテーテル1Aを示す図である。
図4】バルーンカテーテル1Aの使用態様を説明するための図である。
図5】バルーンカテーテル1Aの使用態様を説明するための図である。
図6】第1変形例におけるバルーンカテーテル1Aを説明するための図である。
図7】第2変形例における複数の制御要素6D、及び、第3変形例における複数の制御要素6E、6Fを説明するための図である。
図8】第4変形例におけるバルーンカテーテル1B、1Cを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<バルーンカテーテル1Aの概要>
本発明に係るバルーンカテーテル1Aの一実施形態について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0026】
バルーンカテーテル1Aは、血管、精管、ファロピーオ管、リンパ管等の脈管に形成された狭窄性の病変(以下、「狭窄病変」という。)を拡張し、脈管を再灌流化するために使用される。ここで、狭窄病変の内径が長手方向に亘って一定でない場合や、内腔径の異なる複数の狭窄病変が同時に存在する場合には、狭窄病変を拡張するために必要となる適切なバルーンの拡張時の径(以下、「拡張径」という。)が一定とはならない可能性がある。
【0027】
これに対してバルーンカテーテル1Aは、後述のカテーテルシャフト2、バルーン3及び径制御部材6(図1図3参照)を有する。バルーンカテーテル1Aは、径制御部材6を用いることにより、複数の異なる拡張径に膨張することが可能である。このため、狭窄病変に応じた適切な拡張径となるようにバルーン3を制御することによって、共通のバルーンカテーテル1Aを用いて施術を行うことが可能となる。
【0028】
図1図3に示すように、バルーン3は、カテーテルシャフト2の一方側の端部に接続される。径制御部材6はバルーン3に設けられる。バルーンカテーテル1Aは、カテーテルシャフト2の他方側の端部に非図示のハブが接続された状態で使用される。ハブは、カテーテルシャフト2を介してバルーン3に圧縮流体を供給可能である。以下、カテーテルシャフト2の両端のうち一方側の端を、「先端」という。カテーテルシャフト2の両端のうち他方側の端を、「基端」という。カテーテルシャフト2に沿って延びる方向を、「延伸方向」という。延伸方向と直交する平面上において、カテーテルシャフト2の断面中心を基準とする半径方向のうち、カテーテルシャフト2の断面中心に近接する側を「内側」といい、カテーテルシャフト2の断面中心から離隔する側を「外側」という。
【0029】
<カテーテルシャフト2>
カテーテルシャフト2は、外側チューブ21及び内側チューブ22を有する。外側チューブ21及び内側チューブ22は、それぞれ、可撓性を有する管状の部材である。外側チューブ21の内径は、内側チューブ22の外径よりも大きい。内側チューブ22は、先端側の所定部分を除き、外側チューブ21の内腔に配置される。内側チューブ22の先端側の所定部分は、外側チューブ21の先端側の端(以下、「先端211」という。)から先端側に向けて突出する。内側チューブ22の先端側の端(以下、「先端221」という。)は、外側チューブ21の先端211よりも先端側に配置される。以下、内側チューブ22の先端側の所定部分を、「突出部分225」という。外側チューブ21及び内側チューブ22の材料は特に限定されないが、一例としてポリアミド系樹脂が用いられる。
【0030】
外側チューブ21の内腔のうち、内側チューブ22の内腔以外の空間には、ハブから供給される圧縮流体が通流する。バルーン3は、圧縮流体の供給に応じて膨張する。内側チューブ22の内腔には、非図示のガイドワイヤが挿通される。
【0031】
<バルーン3>
バルーン3は、収縮状態(図1参照)と拡張状態(図2図3参照)とに拡縮可能である。収縮状態は、圧縮流体が供給されないバルーン3の状態を示す。拡張状態は、圧縮流体が供給されたバルーン3の状態を示す。バルーン3のうち延伸方向の一方側の端部(以下、「先端3D」という。)は、内側チューブ22の突出部分225のうち先端221の近傍に、熱溶着によって接続される。バルーン3のうち延伸方向の他方側の端部(以下、「基端3P」という。)は、外側チューブ21の先端211の近傍に、熱溶着によって接続される。バルーン3は、内側チューブ22の突出部分225を外側から覆う。バルーン3の材料は特に限定されないが、一例としてポリアミド系樹脂が用いられる。
【0032】
図1に示すように、バルーン3は、収縮状態で3枚の羽根(羽31、32、33)が形成される、3枚羽式のバルーンである。羽31、32、33のそれぞれは折り畳まれ、内側チューブ22の突出部分225の周囲に巻きつく。羽31、32、33は、「フラップ」「ウイング」とも呼ばれる。収縮状態におけるバルーン3の径を、「最小径Rmin」という。なお図1では、後述する径制御部材6(図2図3参照)は省略されている。
【0033】
図2図3に示すように、拡張状態におけるバルーン3の径は、収縮状態におけるバルーン3の径である最小径Rminよりも大きくなる。以下、バルーン3の先端側コーン領域3A、膨張領域3B、及び基端側コーン領域3Cを定義する。先端側コーン領域3Aは、拡張状態のバルーン3において先端3Dから基端3Pに向けて拡径しながら延びる領域である。基端側コーン領域3Cは、拡張状態のバルーン3において基端3Pから先端3Dに向けて拡径しながら延びる領域である。膨張領域3Bは、拡張状態のバルーン3において先端側コーン領域3Aと基端側コーン領域3Cとの間に挟まれた領域であり、延伸方向に亘って径が略同一となる。バルーン3の膨張領域3Bの側面を、「側面30」という。なお詳細は後述するが、拡張状態におけるバルーン3の拡張径は、後述する径制御部材6により多段階に制御される(図2図3参照)。
【0034】
バルーン3の側面30には、薬剤が塗布される。薬剤の種類としては特に限定されないが、例えば、狭窄病変に付着させて治療を行うことが可能な周知の薬剤を用いることができる。
【0035】
<径制御部材6>
図2図3に示す径制御部材6は、拡張状態におけるバルーン3の拡張径を制御する。径制御部材6は、制御要素61A、61B、62A、62B、63A、63B(以下、総称して「複数の制御要素6C」ともいう。)を有する。複数の制御要素6Cの各々は柱状を有し、バルーン3の外周面に沿って延伸方向に延びる。複数の制御要素6Cは、バルーン3の膨張領域3Bに配置され、固定される。複数の制御要素6Cの各々の延伸方向の長さは、バルーン3の膨張領域3Bの延伸方向の長さと略等しい。複数の制御要素6Cの各々の材料として、後述する様々な材料を取り得るが、少なくともバルーン3よりも硬い材料が用いられる。以下、制御要素61A、61Bを総称して「一対の制御要素61」ともいう。制御要素62A、62Bを総称して「一対の制御要素62」ともいう。制御要素63A、63Bを総称して「一対の制御要素63」ともいう。一対の制御要素61、62、63を総称して「一対の制御要素60」という。制御要素61A、62A、63Aを総称して「制御要素60A」といい、制御要素61B、62B、63Bを総称して「制御要素60B」という。
【0036】
径制御部材6は、後述する外部力(外部磁場、非図示の外部導線に対する通電等)に応じて、制御要素60A、60Bが互いに接触した状態と離隔した状態とに切り替わる。より詳細には、外部力が作用した状態で、制御要素60A、60B間には誘引力が作用する。この誘引力により、制御要素60A、60Bは互いに接触した状態となる。この状態は、バルーン3に圧縮流体が供給された状態でも維持される。一方、外部力が作用しない場合、制御要素60A、60B間の誘引力は解消される。この場合、制御要素60A、60Bは、バルーン3に圧縮流体が供給されたことに応じて互いに離隔した状態となる。
【0037】
図2に示すように、一対の制御要素61、62、63の夫々の制御要素60A、60Bが互いに接触した複数の制御要素6Cの状態を、「接近状態」という。複数の制御要素6Cが接近状態であるバルーン3の拡張径を、「中間径Rmid」という。複数の制御要素6Cが接近状態であるバルーン3の拡張状態を、「中間径状態」という。
【0038】
中間径状態のバルーン3において、羽31の先端部は、側面30のうち羽32の一部に近接する。羽32の先端部は、側面30のうち羽33の一部に近接する。羽33の先端部は、側面30のうち羽31の一部に近接する。制御要素61Aは羽31の先端部に配置される。制御要素61Bは、バルーン3の側面30のうち羽31の先端部と近接する羽32の一部に配置される。制御要素61A、61Bは接触する。制御要素62Aは羽32の先端部に配置される。制御要素62Bは、バルーン3の側面30のうち羽32の先端部と近接する羽33の一部に配置される。制御要素62A、62Bは接触する。制御要素63Aは羽33の先端部に配置される。制御要素63Bは、バルーン3の側面30のうち羽33の先端部と近接する羽31の一部に配置される。制御要素63A、63Bは接触する。なお、制御要素61A、62A、63Aが配置される部位は、羽31、32、33の各々の先端部に限定されず、他の任意の部位(例えば、羽31、32、33の各々の中腹部)に配置されてもよい。
【0039】
バルーン3の側面30のうち、中間径状態でも露出する部分を、「第1露出部分30A」という。又、バルーン3の側面30のうち、中間径状態において羽31、32、33によって覆われることで露出しなくなる部分を、「第2露出部分30B」という。なお、第1露出部分30Aと第2露出部分30Bとでは、異なる薬剤が塗布される。以下、第1露出部分30Aに塗布される薬剤を、「第1薬剤」という。第2露出部分30Bに塗布される薬剤を、「第2薬剤」という。
【0040】
中間径状態におけるバルーン3の側面30のうち、周方向における制御要素61A、63B間の部分は、収縮状態でも露出する第1露出部分31Aに対応し、周方向における制御要素61A、61Bの間の部分は、収縮状態において露出しない第2露出部分31Bに対応する。中間径状態におけるバルーン3の側面30のうち、周方向における制御要素62A、61Bの間の部分は、収縮状態でも露出する第1露出部分32Aに対応し、周方向における制御要素62A、62Bの間の部分は、収縮状態において露出しない第2露出部分32Bに対応する。中間径状態におけるバルーン3の側面30のうち、周方向における制御要素63A、62Bの間の部分は、収縮状態でも露出する第1露出部分33Aに対応し、周方向における制御要素63A、63Bの間の部分は、収縮状態において露出しない第2露出部分33Bに対応する。
【0041】
一方、図3に示すように、拡張状態のバルーン3において各々が全て互いに離隔した複数の制御要素6Cの状態を、「離隔状態」という。複数の制御要素6Cが離隔状態であるバルーン3の拡張径を、「最大径Rmax」という。複数の制御要素6Cが離隔状態であるバルーン3の拡張状態を、「最大径状態」という。バルーン3が最大径状態の場合、複数の制御要素6Cの各々が固定される位置は、バルーン3の周方向において異なる。複数の制御要素6Cの各々は、バルーン3に対して周方向に等間隔に配置される。制御要素61A、61B、62A、62B、63A、63Bは、この順で周方向に順番に並ぶ。複数の制御要素6Cの各々は、周方向に互いに離隔する。なお、バルーン3の羽31~33は、バルーン3が最大径状態となることにより解消される。この場合、バルーン3の第1露出部分30Aだけでなく、第2露出部分30Bも露出した状態となる。
【0042】
なお、複数の制御要素6Cには薬剤が塗布される。薬剤の種類としては特に限定されないが、例えば、狭窄病変に付着させて治療を行うことが可能な周知の薬剤を用いることができる。又、薬剤は、バルーン3の側面30に塗布される薬剤(第1薬剤又は第2薬剤)と同じ薬剤でもよいし、異なる薬剤でもよい。
【0043】
<外部力>
制御要素60A、60B間に作用する誘引力は特段限定されないが、一例として、磁力又は静電力が好適に用いられる。
【0044】
誘引力として磁力が用いられる場合、複数の制御要素6Cは、磁化された磁性体により形成される。磁性体の材料は特段限定されないが、好適には、電磁ステンレス、ケイ素鉄、ネオジム磁石等が用いられる。又、制御要素60A、60Bが互いに接触した状態と離隔した状態とを切り替えるための外部力として、外部磁場が用いられる。
【0045】
例えば、複数の制御要素6Cに外部磁場が作用した状態で、全ての制御要素60A、60B間には磁力が誘引力として作用する。この場合、制御要素61A、61B、制御要素62A、62B、制御要素63A、63Bが互いに近接しようとする向きに磁力が働くことになるので、バルーン3に圧縮流体が供給されて膨張状態となった場合、図2に示すようにバルーン3の拡張径は、収縮状態の最小径Rminよりも大きく且つ最大径状態の最大径Rmaxよりも小さい中間径Rmidとなる。
【0046】
一方、例えば複数の制御要素6Cに外部磁場が作用しない状態で全ての制御要素60A、60B間の磁力は無効となる。制御要素60A、60B間に磁力は働かなくなる。バルーン3に圧縮流体が供給されて膨張状態となった場合、全ての制御要素60A、60B間が離隔する。結果、図3に示すように、バルーン3の拡張径は、収縮状態の最小径Rmin及び中間径状態の中間径Rmidよりも大きい最大径Rmaxとなる。従って、複数の制御要素6Cに作用する外部磁場の大きさを制御することにより、膨張状態におけるバルーン3を、中間径状態と最大径状態とに切り替えることが可能となる。
【0047】
誘引力として静電力が用いられる場合、複数の制御要素6Cは帯電した導電体又は帯電体により形成される。導電体又は帯電体の材料は特段限定されないが、好適には、銅、アルミニウム、銀等が用いられる。又、複数の制御要素6Cに対する通電状態が切り替えられることにより、制御要素60A、60Bが互いに接触した状態と離隔した状態とに切り替えられる。つまり、制御要素60A、60Bが互いに接触した状態と離隔した状態とに切り替えるための外部力として、複数の制御要素6Cに対する通電が用いられる。
【0048】
例えば、非図示の外部導線を介して複数の制御要素6Cへの通電がされた状態で、全ての制御要素60A、60Bの間には静電力が誘引力として作用する。この場合、制御要素61A、61B、制御要素62A、62B、制御要素63A、63Bが互いに近接しようとする向きに静電力が働くことになるので、バルーン3に圧縮流体が供給されて膨張状態となった場合、図2に示すようにバルーン3の拡張径は、収縮状態の最小径Rminよりも大きく且つ最大径状態の最大径Rmaxよりも小さい中間径Rmidとなる。
【0049】
一方、例えば複数の制御要素6Cに対する通電が停止された状態で、制御要素61A、61B間、制御要素62A、62B間、及び制御要素63A、63B間の静電力はすべて無効となる。制御要素60A、60B間に静電力は働かなくなる。バルーン3に圧縮流体が供給されて膨張状態となった場合、全ての制御要素60A、60B間が離隔する。結果、図3に示すように、バルーン3の拡張径は、収縮状態の最小径Rmin及び中間径状態の中間径Rmidよりも大きい最大径Rmaxとなる。従って、複数の制御要素6Cに通電する電流の大きさを制御することにより、バルーン3を中間径状態と最大径状態とに切り替えることが可能となる。
【0050】
以上のように、複数の制御要素6Cは、制御要素60A、60Bが互いに接触した状態と離隔した状態とを外部力に応じて切り替えることにより、拡張状態のバルーン3の拡張径を制御する。
【0051】
<使用例>
図4図5を参照し、バルーンカテーテル1Aの使用例について説明する。脈管9の内壁の一部に発生した狭窄病変90A、90Bを拡張する為にバルーンカテーテル1Aが使用される場合を例示する。狭窄病変90Aの内腔の内径よりも、狭窄病変90Bの内腔の内径の方が大きい。
【0052】
脈管9内にガイドワイヤGが挿通される。図4(A)に示すように、バルーン3を収縮状態としたバルーンカテーテル1Aが準備される。例えば複数の制御要素6Cとして磁性体が用いられる場合、複数の制御要素6Cに外部磁場が作用しない状態とされる。又、例えば複数の制御要素6Cとして導電体又は帯電体が用いられる場合、複数の制御要素6Cに対する通電は停止される。次に、バルーンカテーテル1Aのうちバルーン3を少なくとも含む部分が脈管9内に配置される。バルーンカテーテル1Aの内側チューブ22にガイドワイヤGが挿通される。
【0053】
次に、バルーンカテーテル1Aの基端が操作されることにより、バルーンカテーテル1AはガイドワイヤGに沿って脈管9内に押し込まれる。図4(B)に示すように、バルーンカテーテル1Aは、バルーン3が移動方向の先頭に配置された状態で、狭窄病変90Aに向けて脈管9内を遠位側に移動する。バルーン3が狭窄病変90Aに到達した場合、バルーンカテーテル1Aの移動は停止される。
【0054】
次に、例えば複数の制御要素6Cとして磁性体が用いられる場合、外部磁場が複数の制御要素6Cに印加される。又、例えば複数の制御要素6Cとして導電体又は帯電体が用いられる場合、外部導線を介して電流が複数の制御要素6Cに通電される。これらの場合、全ての制御要素60A、60B間に磁力又は静電力が作用し、全ての制御要素60A、60B間は磁力又は静電力により互いに接触した状態となる。この状態で、バルーン3への圧縮流体の供給が開始され、バルーン3は拡張状態となる。しかし、全ての制御要素60A、60Bは互いに接触した状態となっているため、バルーン3の径は収縮状態の最小径Rminから中間径Rmidまで増加する。これにより、図4(C)に示すように、バルーン3は狭窄病変90Aを拡張する。
【0055】
次に、供給された圧縮流体がバルーン3から除去され、バルーン3は収縮状態となる。これにより、又、バルーン3の径は、中間径Rmidから最小径Rminまで減少する(図4(D)参照)。又、外部力の付加が停止され、全ての制御要素60A、60B間に磁力又は静電力が働かなくなる。
【0056】
次に、バルーンカテーテル1Aの基端が操作され、狭窄病変90Bに向けてバルーン3が脈管9内を遠位側に移動する。図5(A)に示すように、バルーン3が狭窄病変90Bに到達した場合、バルーンカテーテル1Aの移動は停止される。
【0057】
次に、バルーン3への圧縮流体の供給が開始される。なお、バルーン3により狭窄病変90Aが拡張される場合(図4(C)参照)と異なり、複数の制御要素6Cに対して外部力が印加されない。このため、全ての制御要素60A、60B間の磁力又は静電力が働かない状態は維持される。バルーン3の拡張径は、最小径Rminから最大径Rmaxまで増加する。これにより、図5(B)に示すように、バルーン3は狭窄病変90Bを拡張する。
【0058】
次に、バルーン3から圧縮流体が除去される。この場合、図5(C)に示すように、バルーン3は収縮状態となり、径は最小径Rminまで減少する。
【0059】
狭窄病変90A、90Bの拡張が完了した後、バルーンカテーテル1Aの基端部が操作されることにより、図5(D)に示すように、バルーンカテーテル1Aは近位側に移動する。バルーンカテーテル1Aが脈管9から外部に引き抜かれることにより、施術は完了する。
【0060】
<本実施形態の作用、効果>
バルーンカテーテル1Aは、径制御部材6によってバルーン3の拡張径を制御する。径制御部材6は、複数の制御要素6Cが離隔状態の時にバルーン3の拡張径を最大径Rmaxとする。一方、径制御部材6は、複数の制御要素6Cが接近状態の時にバルーン3の拡張径を中間径Rmidとする。ここで径制御部材6は、夫々に作用する外部力に応じて、複数の制御要素6Cを離隔状態と接近状態とに切り替える。このためユーザは、複数の制御要素6Cに作用する外部力を調整することにより、バルーン3の拡張径を切り替えることができる。従ってユーザは、夫々異なる複数の拡張径となるようにバルーン3を容易に調整できる。
【0061】
なお、バルーンを所望の拡張径で拡張させることができるように、適切なバルーンカテーテルが選択されることが好ましい。しかし、所望の拡張径の特定が困難である場合、例えば、拡張径が中程度のバルーンを使用して施術が行われ、狭窄病変の拡張が不十分な場合に、拡張径の大きいバルーンを使用して施術が行われる場合も発生する可能性がある。このような問題に対しても、バルーンカテーテル1Aは有効である。何故ならば、共通のバルーンカテーテル1Aを用い、バルーン3の拡張径を複数に切り替えて使用することができるためである。
【0062】
制御要素60A、60Bは、接近状態において互いに接触する。このためバルーンカテーテル1Aは、制御要素60A、60B間に誘引力を適切に作用させることができるので、複数の制御要素6Cを離隔状態と接近状態とに確実に切り替え、バルーン3の拡張径を適切に調整できる。
【0063】
径制御部材6は、一対の制御要素61、62、63を有する。複数の制御要素6Cが接近状態のとき、図2に示すように、制御要素60A、60Bは互いに接触する。この場合、バルーンカテーテル1Aは、複数の制御要素6Cの接近状態を安定化できるので、バルーン3を中間径状態で安定的に維持できる。
【0064】
複数の制御要素6Cは、離隔状態において周方向に等間隔で配置される(図3参照)。この場合、バルーンカテーテル1Aは、中間径状態としたバルーン3の断面形状を円形に近づけることができる。このため、バルーンカテーテル1Aは、狭窄病変を、バルーン3の周方向において均一に拡張できる。
【0065】
外部力として外部磁場が用いられる場合、径制御部材6は、磁力によりバルーン3の拡張径を制御する。又、複数の制御要素6Cは磁性体により形成される。この場合、バルーンカテーテル1Aは、磁力を利用して複数の制御要素6Cを離隔状態と接近状態とに切り替えることができる。
【0066】
外部力として、複数の制御要素6Cに対する通電が用いられる場合、径制御部材6は、静電力によりバルーン3の拡張径を制御する。又、複数の制御要素6Cは導電体又は帯電体により形成される。この場合、バルーンカテーテル1Aは、静電力を利用して複数の制御要素6Cを離隔状態と接近状態とに切り替えることができる。
【0067】
バルーン3の側面30には薬剤が塗布される。この場合、バルーンカテーテル1Aは、バルーン3に塗布された薬剤を狭窄病変に作用させ、狭窄病変を治療できる。又、バルーン3の側面30のうち中間径状態において露出する第1露出部分30Aと、中間径状態において露出せず且つ最大径状態において露出する第2露出部分30Bとで、異なる薬剤が塗布される。この場合、バルーンカテーテル1Aは、バルーン3を中間径状態と最大径状態とに切り替えることにより、夫々異なる薬剤を狭窄病変に作用させることができる。
【0068】
複数の制御要素6Cはバルーン3よりも硬いので、バルーンカテーテル1Aは、例えば狭窄病変を切開する機能を、複数の制御要素6Cにより実現できる。又、例えば、複数の制御要素6Cに対してバルーン3に塗布された薬剤と同じ前記薬剤が塗布された場合、バルーンカテーテル1Aは、複数の制御要素6Cにより切開した狭窄病変に、バルーン3に塗布された薬剤と同じ薬剤を作用させることができる。一方、例えば複数の制御要素6Cに対してバルーン3に塗布された薬剤と異なる前記薬剤が塗布された場合、バルーンカテーテル1Aは、複数の制御要素6Cにより切開した狭窄病変に、バルーン3に塗布された薬剤と異なる薬剤を作用させることができる。
【0069】
<第1変形例>
制御要素60A、60Bに外部力が作用したときの誘引力の変化の傾向が、一対の制御要素61、62、63の夫々で相違してもよい。この場合、例えば、外部力の大きさを調整することによって、一対の制御要素61、62、63の夫々について、制御要素60A、60Bが互いに接触した状態と離隔した状態とを個別に切り替えることができる。
【0070】
例えば、所定の第1強さF1の外部力がバルーン3に対して作用した場合、制御要素61A、61B間には磁力又は静電力が作用しなくなり、互いに離隔してもよい。一方、制御要素62A、62B間、及び、制御要素63A、63B間には、磁力又は静電力が誘引力として作用し、互いに接触してもよい。この場合、図6に示すように、制御要素61A、61Bは互いに離隔して羽31(図1参照)が解消されてもよい。一方、制御要素62A、62Bが互いに接触し、且つ、制御要素63A、63Bが互いに接触した状態は維持され、羽32、33も維持されてもよい。この状態におけるバルーン3の拡張径は、中間径Rmid(図2参照)よりも大きく、且つ、最大径Rmax(図3参照)よりも小さくなる。以下、この状態におけるバルーン3の拡張径を、「中間径Rmid(1)」という。
【0071】
又、例えば、第1強さF1よりも小さい所定の第2強さF2の外部力がバルーン3に対して作用した場合、制御要素61A、61B間だけでなく、制御要素62A、62B間にも磁力又は静電力が作用しなくなり、互いに離隔してもよい。この場合、バルーン3は、図6に示す状態から更に拡張し、制御要素62A、62Bが更に互いに離隔して羽32(図2参照)が解消されてもよい。なお、制御要素63A、63Bが互いに接触した状態は維持されるので、羽33は維持される。この状態におけるバルーン3の拡張径は、中間径Rmid(1)よりも大きく、且つ、最大径Rmaxよりも小さくなる。以下、この状態におけるバルーン3の拡張径を、「中間径Rmid(2)」という。
【0072】
又、例えば、第2強さF2よりも小さい所定の第3強さF3の外部力がバルーン3に対して作用した場合、全ての制御要素60A、60Bが互いに離隔してもよい。この場合、バルーン3は最大径状態となり、拡張径は最大径Rmaxとなる。
【0073】
以上のように、バルーン3は、第3強さF3よりも大きい第1強F1さ又は第2強さF2の外部力を作用させることに応じ、最大径状態のバルーン3(図2参照)に対して一部のみが折り畳んだ状態とすることが可能となる。この場合、バルーンカテーテル1Aは、バルーン3の拡張径を、中間径Rmid、Rmid(1)、Rmid(2)、及び、最大径Rmaxの何れかに切り替えることができる。
【0074】
なお、上記において、バルーン3の拡張径は、中間径Rmid(0)、Rmid(1)、Rmid(2)、及び最大径Rmaxの間で可逆的に制御されてもよい。例えば、バルーン3の拡張径は、Rmid、Rmid(1)、Rmax、Rmid(2)、Rmaxのように順番に制御されることで、複数の狭窄病変を拡張してもよい。
【0075】
<第2変形例>
バルーンカテーテル1Aの第2変形例について説明する。図7(A)に示す第2変形例では、径制御部材6における複数の制御要素6Cに代えて、複数の制御要素6Dが用いられる。複数の制御要素6Cを除く他の構成は、上記実施形態に記載のバルーンカテーテル1Aと同一である。図7(A)に示すように、複数の制御要素6Dには、一対の制御要素65が複数含まれ、且つ、各々の一対の制御要素65は、制御要素65A、65Bにより構成される。
【0076】
制御要素65A、65Bは、各々、一部が切り欠かれた円柱状を有し、延伸方向に延びる。より詳細には、制御要素65A、65Bは、円柱の軸心C1と平行に延びる平面によって、円柱の一部が切り欠かれた形状を有する。制御要素65A、65Bを軸心C1と直交する平面にて切断した断面は、円弧651と、円弧651の両端部の間に延びる弦652とを含む。又、軸心C1の延びる方向から視た場合において、軸心C1から弦652の両端部Qに向けて延びる2つの直線の間の角度θは特段限定されないが、好適には90°~180°の範囲内である。
【0077】
制御要素65A、65B間に作用する誘引力として、例えば磁力が好適に用いられる。例えば、複数の制御要素6Dに外部磁場が作用した状態で、制御要素65A、65B間には磁力が誘引力として作用する。又、弦652の両端部Qが磁極となるため、制御要素65A、65B間には、互いに近接しようとする向きの磁力が強く働く。結果、制御要素65A、65Bは、夫々の弦652が対向した状態で接触する。一方、例えば複数の制御要素6Dに外部磁場が作用しない場合、制御要素65A、65B間の磁力は無効となる。この場合、制御要素65A、65B間は離隔する。
【0078】
以上のように、各々の一対の制御要素65は、制御要素65A、65Bの間に強い磁力を作用させることができる。従って、バルーンカテーテル1Aは、制御要素65A、65Bが接触した状態を安定的に維持できる。
【0079】
<第3変形例>
バルーンカテーテル1Aの第3変形例について説明する。図7(B)(C)に示す第3変形例では、径制御部材6における複数の制御要素6Cに代えて、複数の制御要素6E(図7(B)参照)、6F(図7(C)参照)が用いられる。複数の制御要素6Cを除く他の構成は、上記実施形態に記載のバルーンカテーテル1Aと同一である。
【0080】
図7(B)に示すように、複数の制御要素6Eには、一対の制御要素66が複数含まれ、且つ、各々の一対の制御要素66は、制御要素66A、66Bにより構成される。又、図7(C)に示すように、複数の制御要素6Fには、一対の制御要素67が複数含まれ、且つ、各々の一対の制御要素67は、制御要素67A、67Bにより構成される。又、制御要素66A、66B間、及び制御要素67A、67B間に作用する誘引力として、摩擦力が好適に用いられる。更に、制御要素66A、66B、及び制御要素67A、67Bが互いに接触した状態と離隔した状態とを切り替えるための外部力として、拡張時においてバルーン3の側面30に作用する周方向の力(以下、「拡張力」という。)が用いられる。
【0081】
図7(B)に示すように、制御要素66A、66Bは角柱状を有し、延伸方向に延びる。制御要素66Aの1つの面Saには、面Saと対向する面Uaに向けて凹んだ凹部661が形成される。凹部661の断面形状は円形であり、深さに関わらず径は一定である。制御要素66Bの1つの面Sbには、面Sbと対向する面Ubと反対方向に突出する凸部662を有する。凸部662の形状は円柱状であり、高さに関わらず径は一定である。制御要素66Bの凸部662は、制御要素66Aの凹部661に嵌合可能である。凸部662が凹部661に嵌合した状態で、制御要素66A、66Bは接触する。又、制御要素66A、66Bは、互いに接触する接触面に作用する摩擦力により、離隔し難くなる。
【0082】
図7(C)に示すように、制御要素67A、67Bは角柱状を有し、延伸方向に延びる。制御要素67Aの1つの面Faには、面Faと対向する面Eaに向けて凹んだ複数の凹部671を有する。複数の凹部671の各々の断面形状は円形であり、深くなる程径は小さくなる。制御要素67Bの1つの面Fbには、面Fbと対向する面Ebと反対方向に突出する複数の凸部672を有する。複数の凸部672の各々の形状は円錐状であり、高さが大きくなる程径は小さくなる。制御要素67Bの複数の凸部672は、制御要素67Aの複数の凹部671に嵌合可能である。複数の凸部672が複数の凹部671に嵌合した状態で、制御要素67A、67Bは接触する。又、制御要素67A、67Bは、互いに接触する接触面に作用する摩擦力により、離隔し難くなる。
【0083】
複数の制御要素6E、6Fの使用例について、複数の制御要素6Eを例に挙げて説明する。収縮した状態のバルーン3において、凸部662は凹部661に嵌合し、制御要素66A、66Bは互いに接触した状態となる。この状態で、バルーン3への圧縮流体の供給が開始され、バルーン3は拡張状態となる。しかし、制御要素66A、66Bは互いに接触した状態となっており、且つ、互いの接触面に作用する摩擦力によって離隔し難くなっている。このため、バルーン3は中間径状態となり、拡張径は中間径Rmid(図2参照)となる。
【0084】
次に、制御要素66A、66Bを離隔させるために、更に多くの圧縮流体がバルーン3に供給される。この場合、バルーン3は膨張し、側面30には周方向の力(拡張力)が作用する。この拡張力が、制御要素66A、66B間の摩擦力よりも大きくなった場合、制御要素66A、66Bは離隔する。この場合、バルーン3は最大径状態となり、拡張径は最大径Rmaxとなる。
【0085】
以上のように、複数の制御要素6Eは、制御要素66A、66B間の摩擦力を利用することにより、接近状態の複数の制御要素6Eを安定的に維持できる。又、凹部661と凸部662とを嵌合させることにより、制御要素66A、66B間に摩擦力を効率よく作用させることができる。
【0086】
なお、制御要素66A、66B間に摩擦力を効率よく作用させるために、互いの接触面は平滑でなくてもよく、例えば僅かな凹凸が形成されていることが好ましい。
【0087】
<第4変形例>
第4変形例に係るバルーンカテーテル1B、1Cについて、図8を参照して説明する。バルーンカテーテル1B、1Cは、各々、制御要素の形状が上記実施形態と相違する。
【0088】
図8(A)に示すバルーンカテーテル1Bにおいて、複数の制御要素71は円柱状を有し、延伸方向に延びる。複数の制御要素71の延伸方向の長さは、バルーン3の膨張領域3Bの延伸方向の長さよりも短い。複数の制御要素71は、バルーン3の周方向だけでなく、延伸方向にも配列される。つまり、複数の制御要素71は、上記実施形態に記載の複数の制御要素6Cの各々が、延伸方向において複数に分断された形状を有する。更に、バルーンカテーテル1Bでは、バルーン3の膨張領域3Bだけでなく、先端側コーン領域3A及び基端側コーン領域3Cにも設けられる。図8(B)に示すバルーンカテーテル1Cにおいて、複数の制御要素72は球状を有する。複数の制御要素72は、バルーン3の側面30にランダムに固定される。
【0089】
図8(A)に示す複数の制御要素71を有するバルーンカテーテル1Bは、脈管9に対する追従性がバルーンカテーテル1Aより良好となる。又、図8(B)に示す複数の制御要素72を有するバルーンカテーテル1Cは、脈管9に対する追従性がバルーンカテーテル1Bより更に良好となる。
【0090】
<その他の変形例>
本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。以下、バルーンカテーテル1Aを前提として変形例を説明するが、適宜、バルーンカテーテル1B、1C等に適用可能であることは言うまでもない。
【0091】
バルーンカテーテル1Aは、外側チューブ21及び内側チューブ22を有さなくてもよい。この場合、バルーンカテーテル1Aは、バルーン3及び径制御部材6を少なくとも有していればよい。複数の制御要素6Cの合計数は6つに限定されず、2以上の何れかの数であってもよい。但し、中間径状態を安定化させる為、複数の制御要素6Cの合計数は4つ以上10以下であることが好ましい。更には、複数の制御要素6Cの数は6つであることが最も好ましい。複数の制御要素6Cは、バルーン3の側面30に固定される場合に限定されず、例えば、バルーン3の内面に固定されてもよいし、バルーン3の内部に組み込まれていてもよい。複数の制御要素6Cの先端側の端部は、内側チューブ22の先端221の近傍に接続してもよい。複数の制御要素6Cの基端側の端部は、外側チューブ21の先端211の近傍に接続してもよい。
【0092】
複数の制御要素6Cの材料としては、バルーン3の拡張時における拡張径を中間径Rmidで安定的に維持できるよう、剛性がある金属や樹脂等であることが好ましい。又、脈管9に対するバルーン3の追従性を考慮し、ニッケルチタン合金等の形状記憶合金や硬質樹脂等であることが好ましい。
【0093】
複数の制御要素6Cは、放射線不透過性を有していてもよい。この場合、施術中における体内でのバルーン3の位置を容易に把握できるので、目的とする狭窄病変に対して適切な位置にバルーン3を配置させることが可能となる。又、施術中におけるバルーン3の拡張径を容易に把握できるので、目的とする拡張径となるように、複数の制御要素6Cに対して外部力を作用させることができる。
【0094】
複数の制御要素6Cは、硬化した狭窄病変を粉砕又は切開する機能を有していてもよい。この場合、複数の制御要素6Cは硬質な材料により形成され、且つ、先端が尖った形状であることが好ましい。
【0095】
複数の制御要素6Cの形状は円柱状に限定されず、角柱状(例えば三角柱)でもよい。複数の制御要素6Cの内部に、延伸方向に沿って延びる中空が形成されてもよい。即ち、複数の制御要素6Cは、中空形状を有していてもよい。
【0096】
複数の制御要素6Cが接近状態である場合において、制御要素60A、60Bは互いに接触していなくてもよく、間に隙間が形成されていてもよい。この場合、接近状態における制御要素60A、60B間の距離よりも、離隔状態における制御要素60A、60B間の距離の方が大きければよい。
【0097】
複数の制御要素6Cは、離隔状態において周方向に等間隔で配置されなくてもよい。例えば、一対の制御要素61、62、63間の距離が、他の制御要素との間の距離より短くてもよいし、長くてもよい。
【0098】
複数の制御要素6Cは、バルーン3の膨張領域3Bのうち延伸方向の一部にのみ設けられてもよい。この場合、複数の制御要素6Cは、バルーン3の拡張径を、延伸方向の部位毎に異ならせることが可能となる。
【0099】
バルーン3には、側面30の一部にのみ薬剤が塗布されてもよい。バルーン3の第2露出部分31B、32B、33Bに夫々異なる薬剤が塗布されてもよい。バルーン3の側面30に薬剤は塗布されなくてもよい。複数の制御要素6Cの硬さは、バルーン3と同一でもよいし、バルーン3より柔らかくてもよい。
【0100】
バルーンカテーテル1Aは、複数の制御要素6Cに外部磁場が作用しない状態で、全ての制御要素60A、60B間には磁力又は静電力が誘引力として作用してもよい。この状態でバルーン3に圧縮流体が供給されて膨張状態となった場合、バルーン3は中間径状態となってもよい。一方、バルーンカテーテル1Aは、複数の制御要素6Cに外部磁場が作用した状態で、全ての制御要素60A、60B間の磁力又は静電力がすべて無効となってもよい。この状態でバルーン3に圧縮流体が供給された膨張状態となった場合、バルーン3は最大径状態となってもよい。
【符号の説明】
【0101】
1A、1B、1C :バルーンカテーテル
3 :バルーン
6 :径制御部材
6C、6D、6E、6F :制御要素
30A、31A、32A、33A :第1露出部分
30B、31B、32B、33B :第2露出部分
661、671 :凹部
662、672 :凸部
G :ガイドワイヤ
Q :両端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8