(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】イミュニティ評価システムおよびイミュニティ評価方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/30 20060101AFI20240726BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G01R31/30
G01R31/28 F
(21)【出願番号】P 2021025746
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】方田 勲
(72)【発明者】
【氏名】大前 彩
(72)【発明者】
【氏名】パオレティ ウムベルト
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-014518(JP,A)
【文献】特開2014-021013(JP,A)
【文献】特開2015-224995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/30
G01R 31/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号発生装置の近傍界プローブより電磁波を照射することにより、電子回路基板の電磁
耐性を評価するイミュニティ評価システムであって、
前記近傍界プローブを走査し、前記近傍界プローブに印加する信号を発生させる信号発生装置と、
前記信号発生装置の前記近傍界プローブに印加する信号の信号レベルを制御し、前記近傍界プローブより電磁波を照射した試験結果を受取り、その試験結果を評価するイミュニティ評価装置とを備え、
前記イミュニティ評価装置は、
特性データと前記試験結果を記憶する記憶部と、評価対象ICの端子に到達する信号レベルを推定するIC到達信号レベル推定部とを有し、
前記イミュニティ評価装置は、試験対象回路基板の基板設計情報と、前記近傍界プローブの情報と、前記近傍界プローブに印加した信号の試験波形指示情報とが入力され、
前記記憶部が記憶する特性データは、前記近傍界プローブと回路基板特性の組み合わせで決まるプローブと回路基板配線間の結合特性を含み、
前記IC到達信号レベル推定部は、前記試験対象回路基板の基板設計情報と前記近傍界プローブの情報に基づいて、前記記憶部から前記結合特性を読み出し、前記試験対象回路基板の基板設計情報と前記近傍界プローブの情報と前記結合特性から評価対象ICの端子に到達するIC到達信号レベルを推定し、IC到達信号レベル推定値を出力することを特徴とするイミュニティ評価システム。
【請求項2】
前記イミュニティ評価装置は、
さらに、前記近傍界プローブより電磁波を照射した結果のエラーの発生状況をモニタリングする誤動作判定部と、
前記試験対象回路基板の脆弱箇所表す脆弱箇所マップ生成する脆弱箇所マッピング生成部を有し、
前記脆弱箇所マッピング生成部が脆弱箇所マップを出力することを特徴とする請求項1記載のイミュニティ評価システム。
【請求項3】
前記脆弱箇所マップは、動作不具合が発生したプローブ印加点におけるエラー率を表示することを特徴とする請求項2記載のイミュニティ評価システム。
【請求項4】
前記脆弱箇所マップは、前記IC到達信号レベル推定部により推定され、出力された前記IC到達信号レベル推定値を出力することを特徴とする請求項2記載のイミュニティ評価システム。
【請求項5】
前記イミュニティ評価装置は、事前のイミュニティ試験結果情報が入力され、
前記イミュニティ試験結果情報と、前記IC到達信号レベル推定部により推定され、出力された前記IC到達信号レベル推定値に基づいて、前記IC到達信号レベル推定部と、
前記試験対象回路基板に対して試験合格のために必要な改善量を算出する必要改善量算出部を備え、
前記必要改善量算出部が、前記試験対象回路基板に対して試験合格のために必要な改善量を算出し、出力することを特徴とする請求項1記載のイミュニティ評価システム。
【請求項6】
前記イミュニティ評価装置は、
さらに、
前記試験対象回路基板の設計情報に基づき、前記試験対象回路基板の問題のある配線の情報を抽出することを特徴とする過敏配線抽出部を有することを特徴とする請求項1記載のイミュニティ評価システム。
【請求項7】
信号発生装置の近傍界プローブより電磁波を照射することにより、電子回路基板の電磁耐性を評価するイミュニティ評価システムによるイミュニティ評価方法であって、
前記イミュニティ評価システムは、
前記近傍界プローブを走査し、前記近傍界プローブに印加する信号を発生させる信号発生装置と、
前記信号発生装置の前記近傍界プローブに印加する信号の信号レベルを制御し、前記近傍界プローブより電磁波を照射した試験結果を受取り、その試験結果を評価するイミュニティ評価装置とを備え、
前記イミュニティ評価装置は、
特性データと前記試験結果を記憶する記憶部と、評価対象ICの端子に到達する信号レベルを推定するIC到達信号レベル推定部と、
試験対象回路基板に対して試験合格のために必要な改善量を算出する必要改善量算出部と、
二つの改善量を比較して、改善が十分であるか否かを判定する改善度判定部とを備え、
前記記憶部が記憶する特性データは、前記近傍界プローブと回路基板特性の組み合わせで決まるプローブと回路基板配線間の結合特性を含み、
前記イミュニティ評価装置が、事前のイミュニティ試験結果情報、試験対象回路基板の基板設計情報と、前記近傍界プローブの情報と、前記近傍界プローブに印加した信号の試験波形指示情報とが入力されるステップと、
前記必要改善量算出部が、事前のイミュニティ試験結果情報に基づいて、前記試験対象回路基板に対して試験合格のために必要な改善量を算出し、出力するステップと、
前記IC到達信号レベル推定部が、前記試験対象回路基板の基板設計情報と前記近傍界プローブの情報に基づいて、前記記憶部から前記結合特性を読み出し、前記試験対象回路基板の基板設計情報と前記近傍界プローブの情報と前記結合特性から評価対象ICの端子に到達するIC到達信号レベルを推定し、第一のIC到達信号レベル推定値を出力するステップと、
前記IC到達信号レベル推定部が、設計変更後の試験対象回路基板の基板設計情報と前記近傍界プローブの情報に基づいて、前記記憶部から前記結合特性を読み出し、前記設計変更後の試験対象回路基板設計情報と前記近傍界プローブの情報と前記結合特性から評価対象ICの端子に到達するIC到達信号レベルを推定し、第二のIC到達信号レベル推定値を出力するステップと、
前記改善度判定部が、前記
第一のIC到達信号レベル推定値と前記
第二のIC到達信号レベル推定値との差分を算出し、その差分と前記必要改善量算出部が算出した必要な改善量を比較することより、改善の判定を行なうステップとを有することを特徴とするイミュニティ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミュニティ評価システムおよびイミュニティ評価方法に係り、特に、回路基板の電磁ノイズ耐性を改善するための対象配線および改善量を示す設計フィードバックを行なうのに好適なイミュニティ評価システムおよびイミュニティ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業、インフラストラクチャ、車載分野において、システムや機器の電子・電動化が拡大していく中、長期的に電子システム・機器を安全・安心に運用し、継続的に価値を提供し続けることが重要となっている。
【0003】
このような状況において、顧客電子システムの長期高信頼運用と運用時健全性を設計段階で担保するため、電子装置における外来ノイズ耐性(イミュニティ性能)を効率的に評価することが求められる。電子装置の回路基板レベルでのイミュニティ性能を評価する手法として、例えば、国際規格(IEC 62132-4(DPI(Direct Power Injection)法):ICの各端子に容量性結合でノイズを直接注入し、誤動作の有無を確認する評価方法)、IEC 62132-9(表面走査法)など)があり、基板上の脆弱部位を可視化する市販ツールも製品化されている。
【0004】
近傍界プローブを用いた表面走査型イミュニティ評価システムとしては、例えば、特許文献1に記載された技術がある。特許文献1記載された半導体装置の試験装置は、被試験LSIにテストパターンを入力し、その被試験LSIから出力された出力パターンを取得し、それを期待値パターンと比較することにより、被試験LSIの誤動作の有無を判断するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の特許文献1に記載された技術は、被試験LSIにテストパターンを入力し、出力された出力パターンと期待値パターンとを比較し、被試験LSIの誤動作の有無を判定するものであった。しかしながら、この特許文献1に記載された技術は、試験中の誤動作判定であり、設計変更後の改善度は評価することができない。また、プローブと配線間の結合や配線の伝搬特性を加味していなかったので、誤動作発生LSIの端子に実際に到達する信号レベルを把握できなかった。そのため、この試験装置を用いても、回路・レイアウト設計変更による改善度の事前把握ができないため定量的な設計ができず、それにより試作・再評価を繰り返すことになり、余分な開発期間とコストが必要となる。
【0007】
本発明の目的は、回路基板の電磁ノイズ耐性を改善するための対象配線および改善量を考慮した設計フィードバックを可能にし、設計変更後の改善度合いを解析により推定することにより、設計変更が必要十分であるかを事前に把握し、試作を繰り返さずに短期間・低コストな設計フィードバックを可能とするイミュニティ評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のイミュニティ評価システムの構成は、好ましくは、信号発生装置の近傍界プローブより電磁波を照射することにより、電子回路基板の電磁耐性を評価するイミュニティ評価システムであって、近傍界プローブを走査し、近傍界プローブに印加する信号を発生させる信号発生装置と、信号発生装置の近傍界プローブに印加する信号の信号レベルを制御し、近傍界プローブより電磁波を照射した試験結果を受取り、その試験結果を評価するイミュニティ評価装置とを備え、イミュニティ評価装置は、特性データと試験結果を記憶する記憶部と、評価対象ICの端子に到達する信号レベルを推定するIC到達信号レベル推定部とを有し、イミュニティ評価装置は、試験対象回路基板の基板設計情報と、近傍界プローブの情報と、近傍界プローブに印加した信号の試験波形指示情報とが入力され、記憶部が記憶する特性データは、近傍界プローブと回路基板特性の組み合わせで決まるプローブと回路基板配線間の結合特性を含み、IC到達信号レベル推定部は、試験対象回路基板の基板設計情報と近傍界プローブの情報に基づいて、記憶部から結合特性を読み出し、試験対象回路基板の基板設計情報と近傍界プローブの情報と結合特性から評価対象ICの端子に到達するIC到達信号レベルを推定し、IC到達信号レベル推定値を出力するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回路基板の電磁ノイズ耐性を改善するための対象配線および改善量を考慮した設計フィードバックを可能にし、設計変更後の改善度合いを解析により推定することにより、設計変更が必要十分であるかを事前に把握し、試作を繰り返さずに短期間・低コストな設計フィードバックを可能とするイミュニティ評価システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係るイミュニティ評価システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態1に係るイミュニティ評価システムのハードウェア・ソフトウェア構成図である。
【
図3】イミュニティ試験結果情報の一例を示す図である。
【
図6B】周波数掃引ステップにおける周波数ごとのデータを示した図である。
【
図7A】変調方式(CW、AM、PM)ごとの波形を示した示す図である。
【
図7B】IEC 61000-4-4規格の波形を示す図である。
【
図8】イミュニティ評価システムによる電磁耐性を考慮した基板の設計改善の一連の処理を示すフローチャートである。
【
図9】IC到達信号レベルの把握により信号レベルの改善量を定量化する概念について説明する図である。
【
図10】IC到達信号レベル推定部と記憶部のより詳細な機能構造と、各ブロック間におけるデータフローを示した図である。
【
図11】試験対象回路基板における配線の様子を示す図である。
【
図12】プローブ-配線間結合特性テーブルの一例を示す図である。
【
図13】試験対象回路基板の配線のポートと結合特性の具体例を示した図である。
【
図14】脆弱箇所マップの表示画面の一例について説明する図である。
【
図15】実施形態2に係るイミュニティ評価システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る各実施形態を、
図1ないし
図15を用いて説明する。
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本発明に係る実施形態1を、
図1ないし
図14を用いて説明する。
【0013】
先ず、
図1および
図2を用いて実施形態1に係るイミュニティ評価システムの構成とその動作の概要について説明する。
【0014】
以下、イミュニティ評価システム1による電磁耐性を考慮した設計改善を行なうための処理の概要について説明する。
【0015】
先ず、評価対象基板についての設計情報に基づき、プローブと配線の結合特性、および、信号を印加するプローブから基板上のIC端子への伝搬特性を印加点ごとに計算して、そのIC端子に到達する信号レベルを推定し、主メモリに保存する。このように、イミュニティ評価装置は、プローブを走査しながら妨害信号を印加して、メモリアクセスエラーや通信エラーなどの発生状況をモニタリングする。そして、プローブによる信号の印加点におけるエラー率分布などの形式で脆弱箇所をマッピングして脆弱箇所マップとして画面上に出力する。
【0016】
基板の設計者は、その基板上で問題があるエリアやトレース(配線)を把握し、配線設計にフィードバックする。
【0017】
設計者は、事前のイミュニティ試験(RF照射など)の結果から、必要な改善量を算出し、上記の脆弱箇所マップに基づいて、基板設計を見直した後、設計改善後の設計情報に基づき、IC端子に到達する信号レベルを再推定する。そして、設計変更前後のIC到達信号レベル推定値の差分と必要な改善量から、改善が十分であるか否かを判定し、再設計のレビューを行なう。
【0018】
イミュニティ評価システム1は、上記のように、試験対象回路基板10に、外部から高周波信号や静電気などの電磁界ノイズ信号を照射して、その影響を調べるシステムである。ここで、試験対象回路基板とは、イミュニティ評価試験の対象となる電子回路基板である。イミュニティ評価システム1は、
図1に示されるように、イミュニティ評価装置100と信号発生装置200からなる。
【0019】
イミュニティ評価装置100は、信号発生装置200を制御し、試験対象回路基板10からの出力情報を受取って、試験対象回路基板10の信号照射の影響を評価する装置であり、
図1に示されるように、入力部101、必要改善量算出部102、IC到達信号レベル推定部103、改善度判定部104、出力部105、脆弱箇所マッピング生成部106、記憶部110、印加波形制御部120、信号制御I/F部121、走査制御部122、コントローラI/F部123、誤動作判定部124、通信I/F部125からなる。
【0020】
入力部101は、外部からイミュニティ試験結果、評価対象基板設計情報、印加プローブ(「印加プローブ」とは、試験対象回路基板10の信号を印加するプローブの意味、以下、同じ)情報、試験波形指示情報などをイミュニティ評価装置100に入力するための機能部である。必要改善量算出部102は、イミュニティ試験結果から評価対象基板10の各諸元に対する必要な設計の改善量を算出するための機能部である。IC到達信号レベル推定部103は、評価対象基板設計情報、印加プローブ情報から試験対象回路基板10上の半導体装置への到達信号レベルを推定して、信号レベル推定値として出力する機能部である。改善度判定部104は、信号照射し、イミュニティ評価装置100によりイミュニティ評価を行なって、試験対象回路基板10の設計変更したときに、次の信号照射試験により、どの位、評価対象基板10の各諸元に対して改善されたかの改善度を判定する機能部である。出力部105は、脆弱箇所マッピング情報や動作不具合が発生したプローブ印加点ごとのIC到達信号レベルを出力する機能部である。脆弱箇所マッピング生成部106は、評価対象基板10の外部信号に対する脆弱箇所を示すマッピング情報を生成する機能部である。記憶部110は、イミュニティ評価装置100に入力されたデータやワークデータを記憶する機能部である。印加波形制御部120は、試験対象回路基板10に印加する信号を制御する機能部である。信号制御I/F部121は、印加波形制御部120と信号発生部201のインタフェース処理を行う機能部である。走査制御部122は、プローブの走査を制御する機能部である。コントローラI/F部123は、走査制御部122とプローブ走査部のインタフェース処理を行う機能部である。誤動作判定部124は、信号照射試験の結果から、試験対象回路基板10の誤動作する可能性を判定する機能部である。通信I/F部125は、試験対象回路基板10と誤動作判定部124のインタフェース処理を行う機能部である。
【0021】
信号発生装置200は、試験対象回路基板10に信号を照射する装置であり、
図1に示されるように、信号発生部201、信号増幅部202、プローブ走査部210、信号照射部211からなる。
【0022】
信号発生部201は、試験対象回路基板10に印加する信号を発生する機能部である。信号増幅部202は、信号発生部201により発生された信号の増幅を行なう機能部である。プローブ走査部210は、信号を印加するプローブの3次元(x,y,z)方向の走査を行なう機能部である。信号照射部211は、試験対象回路基板10に対して試験するための信号を照射する機能部である。
【0023】
イミュニティ評価装置100のハードウェア構成としては、例えば、
図2に示されるパーソナルコンピュータのような一般的な情報処理装置で実現される。
【0024】
イミュニティ評価装置100は、CPU(Central Processing Unit)302、主メモリ304、表示I/F308、入出力I/F310、補助記憶I/F312、信号制御I/F320、コントローラI/F322、通信I/F324がバスにより結合された形態になっている。
【0025】
CPU302は、イミュニティ評価装置100の各部を制御し、主メモリ304に必要なプログラムをロードして実行する。
【0026】
主メモリ304は、通常、RAMなどの揮発メモリで構成され、CPU302が実行するプログラム、参照するデータが記憶される。
【0027】
表示I/F308は、LCD(Liquid Crystal Display)などの表示装置340を接続するためのインタフェースである。
【0028】
入出力I/F310は、入出力装置を接続するためのインタフェースである。
図2の例では、キーボード330とポインティングデバイスのマウス332が接続されている。
【0029】
補助記憶I/F312は、HDD(Hard Disk Drive)350やSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を接続するためのインタフェースである。
【0030】
HDD350は、大容量の記憶容量を有しており、本実施形態を実行するためのプログラムが格納されている。イミュニティ評価装置100には、必要改善量算出プログラム360、IC到達信号レベル推定プログラム361、改善度判定プログラム362、出力プログラム363、脆弱箇所マッピング生成プログラム364、印加波形制御プログラム365、走査制御プログラム366、誤動作判定プログラム367がインストールされている。
【0031】
必要改善量算出プログラム360、IC到達信号レベル推定プログラム361、改善度判定プログラム362、出力プログラム363、脆弱箇所マッピング生成プログラム364、印加波形制御プログラム365、走査制御プログラム366、誤動作判定プログラム367は、それぞれ必要改善量算出部102、IC到達信号レベル推定部103、改善度判定部104、出力部105、脆弱箇所マッピング生成部106、記憶部110、印加波形制御部120、走査制御部122、誤動作判定部124の各機能を実行するプログラムである。
【0032】
信号制御I/F320は、例えば、GPIB(General Purpose Interface Bus)規格により、信号発生装置200の信号発生器400に対しての信号の制御を行なうインタフェース回路である。
【0033】
コントローラI/F322は、例えば、Ethernet(登録商標)により、信号発生装置200の3次元ロボットアームに対して制御を行なうインタフェース回路である。
【0034】
通信I/F324は、例えば、CAN(Controller Area Network)、I2Cにより、試験対象回路基板10の計測結果のモニタ通信を行なうインタフェース回路である。
【0035】
信号発生装置200は、ハードウェアとして信号発生器400、信号増幅器402は、信号発生器400により発生された信号の増幅を行なう回路である。3次元ロボットアーム404は、信号を印加するプローブ406の3次元(x,y,z)方向の走査を行なうロボットアームである。プローブ406は、試験対象回路基板10に印加する信号を発生する針状部位である。
【0036】
次に、
図3ないし
図7Bを用いてイミュニティ評価システムに使用されるデータについて説明する。
【0037】
イミュニティ試験結果情報600は、例えば、イミュニティ試験によって得られる不具合発生情報(周波数、必要な改善量)である。
図3は、試験項目が、束線電流注入試験(BCI試験)、放射電磁界照射試験のときの例を示したものである。
【0038】
ここで、妨害波情報とは、イミュニティ試験でエラー(不具合動作)が発生した妨害波の変調方式・周波数・試験レベルをリストアップした情報である。閾値レベルとは、試験レベルでエラーが発生した変調方式・周波数において、妨害波レベルを順に下げていったときに、エラーが発生しなくなるレベルである。そして、試験レベルと閾値レベルとの差が最低限必要な改善量となる。具体的には、信号レベルを表す単位が、dBなら引き算(例えば、100dBuA-88dBuA=12dB低減要)、V/mなら割り算(例えば、56÷70=0.8 → 20%低減要)となる。
【0039】
評価対象基板設計情報601は、評価対象基板10の基本的な設計情報であり、例えば、
図4に示される4層基板30により説明すると、PCB(Printed Circuit Board)レイアウト(基板CAD)データ、PCBレイアウトツールのデータ、試験対象配線名(PCBレイアウトデータやPCBレイアウトツールのデータ含まれる配線の座標と配線幅33が含まれる)、基板構成(基板の層構成(4層基板)であること、銅厚32、誘電体層34の誘電率(例えば、誘電体層がガラスエポキス素材のときには、比誘電率は、4.7)、誘電体層厚31、内部導体層35の構成など)、基板の材質、搭載部品の試験対象配線に対する入出力インピーダンス特性などである。
【0040】
印加プローブ情報602は、信号を印加するプローブ406に関する情報であり、例えば、使用プローブ、プローブ-基板間距離、最大入力定格である。
図5は、そのような印加プローブ情報の具体的な例を示したものである。
【0041】
試験波形情報603は、プローブ406によって評価対象基板10によって与えられる信号の波形に関する情報である。
図6Aは、波形種別(変調方式)ごとの諸元と対応する規格を示したものであり、
図6Bは、周波数掃引ステップにおける周波数ごとのデータを示したものである。また、
図7Aと
図7Bは、
図6Aに採り上げられている波形の具体例を示したものである。
【0042】
図7Aは、CW(Continuous Wave:連続波)変調、AM(Amplitude Modulation)変調、PM(Pulse Modulation)変調での波形の一例を示している。また、
図7Bは、イミュニティ試験の規格のIEC61000-4-4の電気的ファーストトランジェントバースト・イミュニティ試験の波形の一例を示している。
【0043】
次に、
図8を用いてイミュニティ評価システムによる電磁耐性を考慮した基板の設計改善の一連の処理について説明する。
図8は、イミュニティ評価システムによる電磁耐性を考慮した基板の設計改善の一連の処理を示すフローチャートである。
【0044】
先ず、検査者は、試験対象回路基板に対してのイミュニティ試験(RF(Radio Frequency)(高周波)照射・BCI(Bulk Current Injection)(束線電流注入)・ESD(Electro-Static Discharge)(静電気)など)を行なう(S100)。
【0045】
そして、その試験結果を判定し(S101)、試験結果が合格でたときには(S101:Pass)、処理を終了し、試験結果が不合格のときには(S101:Fail)、S102に行く。
【0046】
次に、検査者の指示により、イミュニティ評価システムは、近傍界プローブにより、指示された波形の信号を、試験対象回路基板10に対して印加・走査する(S102)。
【0047】
次に、イミュニティ評価システムは、試験対象回路基板10の不具合発生状況を評価する(S103)。
【0048】
次に、イミュニティ評価システムは、不具合発生したIC端子での信号レベル推定する(S104)。
【0049】
次に、イミュニティ評価システムは、基板上の脆弱部+信号レベル推定値マップを生成する(S105)。
【0050】
次に、設計者は、そのマップにより、どのエリアに問題がありそうかを判断し(S106)、回路・レイアウトの設計変更を行なう(S107)。回路・レイアウト設計変更に際しては、イミュニティ試験により、対信号レベルに対する必要な改善量40が得られているときには、その値も参照される。
【0051】
次に、設計変更後の試験対象回路基板10に対して、イミュニティ評価システムは、再度、IC端子での信号レベル推定する(S108)。
【0052】
そして、設計者は、設計変更後により、改善度が十分か否かを判定し(S109)、十分なときには(S109:十分)、基板の試作や再評価を行い(S110)、不十分なときには(S109:不十分)、S107の回路・レイアウトの設計変更のステップに戻る。
【0053】
次に、
図9ないし
図12を用いてIC到達信号レベル推定部の処理の詳細について説明する。
【0054】
先ず、
図9を用いてIC到達信号レベルの把握により信号レベルの改善量を定量化する概念について説明する。
図9は、近傍界プローブの印加信号レベル50、プローブ直下の誘起信号レベル51、IC端子の信号レベル52の各々の信号レベルと、放射イミュニティ試験結果70の電界強度を対比して示した図である。
【0055】
この放射イミュニティ試験は、試験周波数80として、1GHz近傍における試験対象回路基板の誤動作の有無を検証する試験であるとする。放射イミュニティ試験結果として、試験周波数範囲83において、
図9に示されるような試験において誤動作が発生しない閾値81のグラフが得られたとする。これは、試験周波数近傍83において、誤動作が発生しない閾値81のグラフの下の電界強度では、試験対象回路基板に対しては、誤動作が起こらず、誤動作が発生しない閾値81のグラフの上の電界強度では、試験対象回路基板に誤動作が起こることを意味する。そして、試験周波数範囲83における電磁耐性に対する必要な改善量84は、試験周波数範囲83における最大値と最小値の差分となる。
【0056】
一方、近傍界プローブの印加信号レベル50は、イミュニティ評価装置100により実際に指示できる信号レベルであり、プローブ直下の誘起信号レベル51とは、プローブ-基板間結合(電界・磁界)による信号レベル損失60の差分がある。IC端子の信号レベル52は、実際にCPU、FPGA、RAMなどのIC端子に到達する信号レベルであり、伝播損失+フィルタ特性による信号レベル損失61の差分がある。
【0057】
ここで、IC端子の信号レベル52が推定できると、試験周波数範囲83における最大値のときIC端子の信号レベル52の値と、最小値のときIC端子の信号レベル52の値の信号レベル差分62により、試験周波数範囲83における電磁耐性に対する必要な改善量84が求められることになる。
【0058】
次に、
図10を用いてIC到達信号レベル推定部の詳細な構成と処理の詳細について説明する。
IC到達信号レベル推定部103は、既に説明したように、評価対象基板設計情報、印加プローブ情報から試験対象回路基板10上の半導体装置への到達信号レベルを推定して、信号レベル推定値として出力する機能部であり、より詳細には、
図10に示されるように、配線・プローブ情報抽出部500、配線特性演算部501、IC到達信号レベル推定演算部502からなる。
【0059】
配線・プローブ情報抽出部500は、入力される評価対象基板設計情報、試験波形指示情報、印加プローブ情報から、必要な評価対象基板の配線に関する情報と使用されるプローブの情報を抽出する機能部である。配線特性演算部501は、配線・プローブ情報抽出部500から入力される情報に基づき、必要な配線の特性を演算する機能部である。IC到達信号レベル推定演算部502は、配線・プローブ情報抽出部500で抽出された配線に関する情報と使用されるプローブの情報、配線特性演算部501で演算された配線特性に基づいて、ICに到達する信号レベルを演算する機能部である。
【0060】
一方、記憶部110には、プローブ-配線間結合特性テーブル610が保持されている。プローブ-配線間結合特性テーブル610は、試験対象回路基板の配線情報と印加プローブの組合せごとに、結合特性を格納するテーブルである。なお、プローブ-配線間結合特性テーブル610の具体例は、後に説明する。
【0061】
配線・プローブ情報抽出部500は、評価対象基板設計情報、試験波形指示情報、印加プローブ情報が入力され、プローブ-配線間結合特性テーブル610を参照して対応するプローブ-配線間結合特性を取得して、IC到達信号レベル推定演算部502に出力する。配線・プローブ情報抽出部500は、IC到達信号レベル推定演算部502に、印加プローブ入力電力、入出力インピーダンス特性を出力する。
【0062】
また、配線・プローブ情報抽出部500は、配線特性演算部501に、プローブにより信号を印加した部位と、IC間のPCBレイアウト情報を出力する。
【0063】
配線特性演算部501は、IC到達信号レベル推定演算部502に、入力されたプローブにより信号を印加した部位と、IC間のPCBレイアウト情報に基づいて、配線2ポートSパラメータを計算する。ここで、Sパラメータ(Scattering parameter)とは、交流信号を波動と捉えたとき、その波の散乱度合いで対象となる回路の特性を表したパラメータである。
【0064】
IC到達信号レベル推定演算部502は、入力された配線特性演算部501からの配線2ポートSパラメータ、配線・プローブ情報抽出部500から入力されたプローブ-配線間結合特性、印加プローブ入力電力、入出力インピーダンス特性に基づいて、IC到達信号レベル推定値601を出力し、記憶部110に書き込む。
【0065】
次に、
図11および
図12を用いてプローブ-配線間結合特性テーブルについて説明する。
【0066】
プローブ-配線間結合特性テーブル610は、プローブと配線間結合特性の情報を保持するテーブルであり、
図12に示されように、試験対象配線610a、印加プローブ610bのフィールドよりなる。
【0067】
試験対象配線610aは、配線種別610a1、配線幅610a2、銅厚610a3、誘電体層厚610a4、比誘電率610a5のサブフィールドを有する。配線種別610a1としては、単一配線(
図11(a))、並走配線(
図11(b))がある。
【0068】
単一配線は、GND間の信号配線が一つの場合であり、並走配線は、GND間の信号配線が複数、並走する場合である。なお、
図11(b)の場合では、三本の信号配線が並走しており、真ん中の配線が、試験対象の配線として示している。
【0069】
印加プローブ610bは、使用するプローブの種別ごとを表すサブフィールドごとに、試験対象配線ごとの結合特性を保持する。
【0070】
例えば、配線種別610a1「単一配線」、配線幅610a2「150um」、銅厚610a3「35nm」、誘電体層厚610a4「60um」、比誘電率610a5「4.7」の試験対象回路基板で、印加プローブ610bが「プローブA」のときには、「結合特性A-1」である。
【0071】
次に、
図13を用いて試験対象回路基板の配線のポートと結合特性の考え方について説明する。
【0072】
ここで、
図13(a)に示されているように、試験対象回路基板10に、IC-A700A、
IC-B700Bが搭載されており、それらを結ぶ配線を信号印加対象配線610とし、それにプローブにより信号を印加する場合を考える。
【0073】
このとき、
図13(b)に示されているように、IC間配線への印加の場合、印加点近傍への影響、配線への影響、ICに対する入出力インピーダンスに切り分けて考える。
【0074】
試験対象回路基板10のIC-Aの配線の近傍部分10aでは、PCBレイアウトデータと試験対象配線名から計算される2ポートSパラメータと、IC-Aの入出力インピーダンスが得られる。IC-Bの配線の近傍部分10cも同様である。
【0075】
信号印加点の配線の近傍部分10bは、プローブを1ポートとして数えて、両端の配線と合わせて3ポートになるため、結合特性として、3ポートSパラメータで表される。
【0076】
次に、
図14を用いてイミュニティ評価の結果として出力される脆弱箇所マップの例について説明する。
脆弱箇所マップは、イミュニティ評価装置100から出力される試験対象回路基板10の脆弱箇所を図示するマップである。脆弱箇所マップには、例えば、不具合発生印加ポイント、エラー発生率分布、不具合発生時にIC端子に到達する信号レベル推定値が表示される。
【0077】
イミュニティ評価装置100は、印加プローブを走査し、指定した指定した信号レベルを印加した時に発生するエラー発生率によって色分けして、基板写真に重ね合わせてイミュニティ評価装置100の表示装置340などに表示させる。
図14の例では、IC-A、IC-B、IC-Cが基板に搭載される場合、例えば、領域-1:黄緑(エラー発生頻度10%未満)、領域-2:黄色(エラー発生頻度10%以上、30%未満)、領域-3:赤(エラー発生頻度30%以上)が色別でエラー発生頻度の表記をしている。
【0078】
また、図示されていないが、マウス332などで画面上でカーソルを指し示すことにより、IC端子に到達する信号レベル推定値をポップアップさせてもよい。
【0079】
以上のように、本実施形態のイミュニティ評価システムによれば、評価対象基板の設計情報と、プローブによる入力される信号レベルからIC端子への伝搬特性を印加点ごとに計算して、IC端子に到達する信号レベルを推定する。これにより、誤動作発生ICの端子に実際に到達する信号レベルが把握でき、回路・レイアウト設計で必要な改善度を明確にすることができ、設計変更が十分か否かを事前把握し、試作・再評価を繰り返すことによる余分な開発期間とコストを削減することができる。
【0080】
〔実施形態2〕
以下、本発明に係る実施形態2を、
図15を用いて説明する。
【0081】
実施形態1では、評価対象基板の設計情報を元に、プローブすら信号を入力し、IC端子への伝搬特性を印加点ごとに計算して、IC端子に到達する信号レベルを推定し、それにより回路・レイアウト設計で必要な改善度を明確にして、脆弱マップとして設計者に提示することにより、設計フィードバックを可能にするイミュニティ評価システムについて説明した。
【0082】
本実施形態は、実施形態1のイミュニティ評価システムに加えて、さらに、試験対象回路基板に対して、外部の電磁変化によりエラーが起こりやすい配線を抽出して、再設計が必要な配線を明確にできるイミュニティ評価システムに関するものである。
【0083】
以下、実施形態1のイミュニティ評価システムをベースにして異なる所を説明する。
【0084】
本実施形態のイミュニティ評価システムでは、イミュニティ評価装置100に、新たに過敏配線抽出部126が付け加わっている。
【0085】
過敏配線抽出部126は、IC到達信号レベル推定部103から出力されるIC到達信号レベル推定値と、基板設計情報((基板CAD)、層構成(銅厚、誘電率など)、材質、配線幅、搭載部品、負荷特性、電子回路基板の解析モデル(IBIS(Input / Output Buffer Information Specification)モデル、SPICEモデル))に基づいて、外来ノイズに対してセンイティブな配線、またはエラー発生が機器動作に重大な影響を及ぼす可能性のある配線を抽出する。
【0086】
これにより、抽出された配線を重点的に評価することよって、評価時間の短縮と機器の信頼性向上を実現することができる。
【符号の説明】
【0087】
100…イミュニティ評価装置、101…入力部、102…必要改善量算出部、103…IC到達信号レベル推定部、104…改善度判定部、105…出力部、106…脆弱箇所マッピング生成部、110…記憶部、120…印加波形制御部、121…信号制御I/F部、122…走査制御部、123…コントローラI/F部、124…誤動作判定部、125…通信I/F部、
200…信号発生装置、201…信号発生部、202…信号増幅部、210…プローブ走査部、211…信号照射部、
)302…CPU(Central Processing Unit、304…主メモリ、308…表示I/F、310…入出力I/F、312…補助記憶I/F、320…制御I/F、322…コントローラI/F、324…通信I/F、330…キーボード、332…マウス、340…表示装置、350…HDD(Hard Disk Drive)
360…必要改善量算出プログラム、361…IC到達信号レベル推定プログラム、362…改善度判定プログラム、363…出力プログラム、364…脆弱箇所マッピング生成プログラム、365…印加波形制御プログラム、366…走査制御プログラム、367…誤動作判定プログラム、
400…信号発生器、402…信号増幅器、404…3次元ロボットアーム、406…プローブ