(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20240726BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20240726BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
F16F15/08 W
F16F1/36 K
F16B5/02 A
(21)【出願番号】P 2021027071
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】古町 直基
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮太
(72)【発明者】
【氏名】水川 弘樹
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089487(JP,A)
【文献】特開平04-038227(JP,A)
【文献】特開2001-105896(JP,A)
【文献】特開2018-021584(JP,A)
【文献】特開2008-80872(JP,A)
【文献】特開2003-49483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00-15/36
F16F 1/36
F16B 5/00-5/12
B60K 1/00-6/12
B60K 7/00-8/00
B60K 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結された防振装置であって、
前記第一の取付部材は、防振対象物に対する締結用ボルトが螺合されるボルト穴が形成されて前記本体ゴム弾性体に固着される固着部と、該固着部とは別体で該固着部に螺着されて該固着部から突出するガイドピンとを備えており、
該ボルト穴の中心軸と該ガイドピンの中心軸とが相対的に傾斜している防振装置。
【請求項2】
前記ガイドピンは、前記固着部のねじ穴に螺着されるねじ部と、該固着部から突出するガイド部とを備えており、
該ねじ部の外径寸法が該ガイド部の外径寸法よりも小さくされている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記ガイドピンは、前記固着部のねじ穴に螺着されるねじ部と、該固着部から突出するガイド部と、それらねじ部とガイド部との間で外周へ突出する鍔状部とを備えており、
該固着部における該鍔状部が重ね合わされた部分には、凹状逃がし部が設けられている請求項1又は2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記固着部は、前記防振対象物に重ね合わされて固定される取付面を備えており、
該取付面に対して前記ボルト穴が開口して形成されている一方、
該固着部は、前記ねじ穴が開口するピン装着面を備えており、
該取付面と該ピン装着面が相対的に傾斜して相互に隣接して設けられていると共に、該ピン装着面における前記凹状逃がし部の開口位置が該取付面から離れている請求項3に記載の防振装置。
【請求項5】
前記固着部の前記ボルト穴の中心軸と前記ガイドピンの中心軸とが、前記本体ゴム弾性体の弾性中心軸に対して何れも傾斜しており、
該ボルト穴が該固着部を貫通していると共に、
該ボルト穴に対して該本体ゴム弾性体と反対側に位置する該固着部の先端部分に該ガイドピンが螺着されている請求項1~4の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項6】
前記ガイドピンの螺着されるねじ穴が有底穴形状とされて、底部に行くに従って前記ボルト穴に向かって接近する方向に延びており、
該ねじ穴の底部側における該ボルト穴との最小離間距離が、該ボルト穴の半径以上とされていると共に、
該ねじ穴の中心軸と該ボルト穴の中心軸との交点が、該ボルト穴の長さ方向の中央よりも、該ボルト穴において前記締結用ボルトが螺入される基端側の開口端とは反対の先端側に位置している請求項5に記載の防振装置。
【請求項7】
前記固着部が、長軸と短軸を有する楕円状横断面をもって軸方向に延びており、
前記ガイドピンの螺着されるねじ穴の中心軸と前記ボルト穴の中心軸が何れも該長軸を含む縦断面上に形成されていると共に、
該ねじ穴と該ボルト穴の各中心軸が何れも該固着部の中心軸に対して傾斜しており、
該ねじ穴が非貫通の有底穴とされて、該ねじ穴が該固着部の軸方向外側端面に開口して底部側に向かって次第に該固着部の外周面に接近する方向に延びており、該ねじ穴の周壁部の最小厚さ部分が該ねじ穴の底部側に設定されている請求項1~6の何れか一項に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に用いられる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば自動車のエンジンマウント等に適用される各種の防振装置が提案されている。防振装置は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結された構造を有している。このような防振装置は、例えば、特開2019-089487号公報(特許文献1)にも示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、防振装置は、特許文献1に示されているように、第一の取付部材としてのマウント金具がエンジンブラケットを介してエンジンに取り付けられる場合もある。特許文献1では、マウント金具が、エンジンブラケットとの締結に用いられるボルト穴と、エンジンブラケットに対する位置決めに用いられるピン(ガイドピン)とを備えている。特許文献1において、ピンは、マウント金具に一体形成されて突出している。
【0005】
しかし、本発明者が検討したところ、ガイドピンが第一の取付部材に予め突出した状態で一体的に設けられていると、防振装置の製造時にガイドピンが邪魔になり得ることが明らかになった。
【0006】
そこで、本発明者は、ガイドピンを第一の取付部材に予め一体的に設けるのではなく、別部品のガイドピンを第一の取付部材に圧入固定することを検討した。しかしながら、締結用のボルト穴が設けられた第一の取付部材において、ボルト穴に対して傾斜する方向に延びるガイドピンを圧入固定しようとすると、第一の取付部材において圧入固定構造を設けるためのスペースを確保し難く、固定力の不足や第一の取付部材の損傷などが問題になることが分かった。
【0007】
本発明の解決課題は、第一の取付部材において締結用のボルト穴に対する傾斜方向に延びる別体のガイドピンを設けることができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結された防振装置であって、前記第一の取付部材は、防振対象物に対する締結用ボルトが螺合されるボルト穴が形成されて前記本体ゴム弾性体に固着される固着部と、該固着部とは別体で該固着部に螺着されて該固着部から突出するガイドピンとを備えており、該ボルト穴の中心軸と該ガイドピンの中心軸とが相対的に傾斜しているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、第一の取付部材においてガイドピンが固着部とは別体とされていることから、例えば、本体ゴム弾性体の加硫成形工程や本体ゴム弾性体の予圧縮工程などが完了した後で、ガイドピンを固着部に取り付けることができる。それゆえ、例えば、固着部から突出するガイドピンが防振装置の製造作業の邪魔になったり、ガイドピンによって金型構造が複雑になったりするのを、防ぐことができる。
【0011】
また、ガイドピンが固着部に対してねじ構造で固定されることにより、ボルト穴の形成によって固着部におけるガイドピンの固定領域を大きく確保し難い場合にも、固着部とガイドピンの損傷を防ぎつつ、ガイドピンを固着部に対して十分な固定力で固定することができる。特に、ボルト穴の形成によってガイドピンを固定可能な部位が制限される固着部においても、ボルト穴の中心軸とガイドピンの中心軸が相対的に傾斜していることにより、ねじ穴などのガイドピンの固定構造を比較的に設け易い。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記ガイドピンは、前記固着部のねじ穴に螺着されるねじ部と、該固着部から突出するガイド部とを備えており、該ねじ部の外径寸法が該ガイド部の外径寸法よりも小さくされているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、ねじ部がガイド部よりも外径寸法を小さくされていることによって、固着部のねじ穴を小径とすることができて、ガイドピンを固着部に対して優れたスペース効率で固定することができる。また、ガイド部がねじ部よりも外径寸法を大きくされていることによって、例えば、ガイド部の剛性を十分に大きくすることができて、ガイド部のブラケットへの挿通による第一の取付部材とブラケットの位置決めが有効に実現される。
【0014】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された防振装置において、前記ガイドピンは、前記固着部のねじ穴に螺着されるねじ部と、該固着部から突出するガイド部と、それらねじ部とガイド部との間で外周へ突出する鍔状部とを備えており、該固着部における該鍔状部が重ね合わされた部分には、凹状逃がし部が設けられているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、例えばガイドピンを傾斜させようとする力が作用する場合に、当該入力に対する抗力が鍔状部と固着部の重ね合わせ部分において発揮されて、固着部とガイドピンの損傷等が防止される。また、鍔状部の少なくとも一部が固着部の表面に開口する凹状逃がし部に収容されることにより、鍔状部の固着部からの突出量を小さくすることができる。
【0016】
第四の態様は、第三の態様に記載された防振装置において、前記固着部は、前記防振対象物に重ね合わされて固定される取付面を備えており、該取付面に対して前記ボルト穴が開口して形成されている一方、該固着部は、前記ねじ穴が開口するピン装着面を備えており、該取付面と該ピン装着面が相対的に傾斜して相互に隣接して設けられていると共に、該ピン装着面における前記凹状逃がし部の開口位置が該取付面から離れているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、取付面の面積が凹状逃がし部の形成によって減少するのを防ぐことができて、凹状逃がし部を設けることによる効果を有効に得ながら、第一の取付部材の防振対象物に対する固定強度を大きく得ることができる。
【0018】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記固着部の前記ボルト穴の中心軸と前記ガイドピンの中心軸とが、前記本体ゴム弾性体の弾性中心軸に対して何れも傾斜しており、該ボルト穴が該固着部を貫通していると共に、該ボルト穴に対して該本体ゴム弾性体と反対側に位置する該固着部の先端部分に該ガイドピンが螺着されているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、固着部におけるガイドピンの固定領域が、固着部を貫通するボルト穴よりも先端部分に制限されている場合にも、ガイドピンが固着部に対して螺着されることにより、ガイドピンを固着部に固定することができる。
【0020】
さらに、ガイドピンが螺着されるねじ穴の長さ寸法を確保しつつ、締結用ボルトやガイドピンが螺着されるボルト穴やねじ穴の周壁部分の強度を効率的に確保するなどの目的から、以下の第六や第七の態様が、好適に採用され得る。
【0021】
第六の態様は、第五の態様に記載された防振装置において、前記ガイドピンの螺着されるねじ穴が有底穴形状とされて、底部に行くに従って前記ボルト穴に向かって接近する方向に延びており、該ねじ穴の底部側における該ボルト穴との最小離間距離が、該ボルト穴の半径以上とされていると共に、該ねじ穴の中心軸と該ボルト穴の中心軸との交点が、該ボルト穴の長さ方向の中央よりも、該ボルト穴において前記締結用ボルトが螺入される基端側の開口端とは反対の先端側に位置しているものである。
【0022】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記固着部が、長軸と短軸を有する楕円状横断面をもって軸方向に延びており、前記ガイドピンの螺着されるねじ穴の中心軸と前記ボルト穴の中心軸が何れも該長軸を含む縦断面上に形成されていると共に、該ねじ穴と該ボルト穴の各中心軸が何れも該固着部の中心軸に対して傾斜しており、該ねじ穴が非貫通の有底穴とされて、該ねじ穴が該固着部の軸方向外側端面に開口して底部側に向かって次第に該固着部の外周面に接近する方向に延びており、該ねじ穴の周壁部の最小厚さ部分が該ねじ穴の底部側に設定されているものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、第一の取付部材において締結用のボルト穴に対する傾斜方向に延びる別体のガイドピンを設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す断面図であって、
図2のI-I断面に相当する図
【
図3】
図1に示すエンジンマウントを構成する一体加硫成形品の断面図
【
図4】
図1のエンジンマウントを構成するガイドピンを拡大して示す正面図
【
図5】
図1に示すエンジンマウントを車両への装着状態で示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1,
図2には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とはエンジンマウント10のマウント中心軸A1の延伸方向である
図1中の上下方向を、左右方向とは
図1中の左右方向を、それぞれ言う。
【0027】
第一の取付部材12は、固着部18を備えている。固着部18は、金属等によって形成されて、硬質とされている。固着部18は、全体として略長円形乃至は楕円形の横断面形状をもって軸方向となる上下方向に延びる柱状とされている。固着部18の中心軸は、マウント中心軸A1と一致している。固着部18の下端部には、外周へ突出するフランジ状部20が一体形成されている。
【0028】
固着部18の上端面は、
図3に示すように、取付面としての第一の傾斜面22と、ピン装着面としての第二の傾斜面24とを備えている。第一の傾斜面22と第二の傾斜面24は、上下方向と直交して広がる軸直平面に対して傾斜している。第一の傾斜面22と第二の傾斜面24は、相対的に傾斜して広がっている。本実施形態において、第一の傾斜面22の軸直平面に対する傾斜角度は、第二の傾斜面24の軸直平面に対する傾斜角度よりも大きくされている。第一の傾斜面22と第二の傾斜面24は、左右方向で相互に隣接して設けられており、傾斜角度の異なる第一の傾斜面22と第二の傾斜面24が角状をなして固着部18の横断面の短軸方向(
図2中の上下方向)に連続して設けられている。
【0029】
固着部18は、防振対象物に対する締結用ボルト62(後述)が螺合されるボルト穴としてのボルト螺合孔26を備えている。ボルト螺合孔26は、上下方向に対して傾斜して延びており、固着部18を貫通している。ボルト螺合孔26は、一方の端部開口が第一の傾斜面22に開口していると共に、他方の端部開口が固着部18の外周面に開口している。ボルト螺合孔26の中心軸A2は、第一の傾斜面22に対して略直交して延びており、マウント中心軸A1に対して傾斜している。ボルト螺合孔26の中心軸A2とマウント中心軸A1との挟角αは、好適には20°以上且つ80°以下、より好適には30°以上且つ60°以下とされる。ボルト螺合孔26は、内周面にねじ山が形成されている。
【0030】
固着部18は、第二の傾斜面24に開口する凹状逃がし部28を備えている。凹状逃がし部28は、切欠き状の凹部であって、略円形断面を有していると共に、周上の一部において外周へ開放されている。凹状逃がし部28の開口位置は、第二の傾斜面24と隣接する第一の傾斜面22から離れた位置に設定されており、凹状逃がし部28が第一の傾斜面22と反対側において固着部18の側方(
図2中の左方)へ開放されている。凹状逃がし部28の底面は、第二の傾斜面24と略平行に広がっている。
【0031】
固着部18は、ねじ穴30を備えている。ねじ穴30は、有底の凹状とされて固着部18を貫通しておらず、第二の傾斜面24に設けられた凹状逃がし部28の底面に開口している。ねじ穴30は、上下方向に対して傾斜して延びている。ねじ穴30は、内周面にねじ山が形成されている。なお、ねじ穴30は、固着部18を貫通して設けられていてもよい。
【0032】
ねじ穴30の中心軸A3は、第二の傾斜面24に対して略直交して延びており、マウント中心軸A1に対して傾斜している。ねじ穴30の中心軸A3とマウント中心軸A1との挟角βは、好適には10°以上且つ60°以下、より好適には15°以上且つ45°以下とされる。ねじ穴30の中心軸A3とマウント中心軸A1との挟角βの大きさは、ボルト螺合孔26の中心軸A2とマウント中心軸A1との挟角αの大きさよりも小さくされている。ねじ穴30は、開口側から底部側へ向けてボルト螺合孔26に接近する方向へ延びている。
【0033】
また、第一の傾斜面22と第二の傾斜面24が相対的に傾斜していることから、第一の傾斜面22に対して直交するボルト螺合孔26の中心軸A2と、第二の傾斜面24に対して直交するねじ穴30の中心軸A3とが、相対的に傾斜している。ボルト螺合孔26の中心軸A2とねじ穴30の中心軸A3との挟角(相対的な傾斜角度)γは、好適には10°以上且つ70°以下、より好適には20°以上且つ60°以下とされる。
【0034】
ねじ穴30は、固着部18においてボルト螺合孔26よりも上側の先端部分32に設けられており、ボルト螺合孔26から離れて配されている。ねじ穴30の周壁部における最小厚さ寸法tは、ねじ穴30とボルト螺合孔26の最短距離(最小離間距離)dよりも小さくされている。ボルト螺合孔26とねじ穴30の各中心軸A2,A3の相対的傾斜角度γが、上述の所定範囲に設定されていることで、ねじ穴30の深さを維持しつつ、ねじ穴30とボルト螺合孔26の最短距離dを確保できる。これにより、大きな力が及ぼされるボルト螺合孔26の周壁強度を得やすい。なお、かかるdの値は、好適にはボルト螺合孔26の内径の1/2以上とされることが望ましい。ねじ穴30は、底部へ向けてボルト螺合孔26に接近する方向に延びていることから、ねじ穴30とボルト螺合孔26の最短距離dは、ねじ穴30の周壁における底側端部とボルト螺合孔26との距離とされている。また、ねじ穴30は、底部へ向けて固着部18の周壁に接近する方向に傾斜して延びていることから、ねじ穴30の周壁部の最小厚さ寸法tはねじ穴30の底部側に設定されている。
【0035】
また、ボルト螺合孔26の中心軸A2とねじ穴30の中心軸A3の両方が位置する
図3の断面において、ねじ穴30の周壁部の厚さ寸法は、ねじ穴30の開口から底に向けて小さくなっており、ねじ穴30の底側端部において最小となっている。ねじ穴30の直径は、ボルト螺合孔26の直径よりも小さくされている。
【0036】
さらに、ボルト螺合孔26とねじ穴30の各中心軸A2,A3は、固着部18において横断面の長軸を含んで上下方向に延びる平面上(
図1,3に示された縦断面上)に設定されている。また、第一の傾斜面22と第二の傾斜面24の境界線(稜線)が、
図2に示すように、固着部18の横断面の短軸と平行に延びており、特に本実施形態では、かかる境界線が、固着部18の横断面の長軸方向において、固着部18の横断面の中心よりも僅かに第一の傾斜面22側に偏倚している。
【0037】
これにより、
図2に示す平面視において第二の傾斜面24よりも投影面積が小さい第一の傾斜面22は、垂線の中心軸A1に対する傾斜角度(α)が比較的大きくされることで、実質的な表面積が確保されている(
図3参照)。また、中心軸A1に対してマウント中心軸Aと同じ方向に傾斜するものの第一の傾斜面22よりも垂線と中心軸A1の傾斜角度(β)が小さい第二の傾斜面24は、
図2に示す平面視において、第一の傾斜面22よりも大きな投影面積を設定されることで、実質的な表面積の確保が図られている。
【0038】
また、ボルト螺合孔26は、固着部18において、中心軸A1に対して所定角度(α)傾斜して且つ長軸を含む面内を延びる中心軸A2をもって貫通形成されることで、有効長を確保している。更に、ねじ穴30は、ボルト螺合孔26と同様に固着部18の長軸を含む面内に延びる中心軸A3をもって、ボルト螺合孔26と同じ方向に傾斜(0<α,β)している。これにより、ねじ穴30を非貫通の有底構造として、ボルト螺合孔26の周壁部材厚さ(d)を確保しつつ、ねじ穴30の深さ寸法を効率的に確保できるようになっている。
【0039】
第二の取付部材14は、薄肉大径の略円筒形状とされている。第二の取付部材14の下端部には、内周へ向けて突出する略円環板状の内フランジ状部34が設けられている。本実施形態では、第二の取付部材14における内フランジ状部34の径方向の内法寸法が、第一の取付部材12におけるフランジ状部20の径方向の外法寸法よりも大きくされている。
【0040】
第一の取付部材12の固着部18と第二の取付部材14は、上下方向で相互に離れて配置されており、それら第一の取付部材12の固着部18と第二の取付部材14とが本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、全体として下方へ向けて大径となる略円錐台形状とされており、小径側の端部である上端部に固着部18の下部が埋め込まれた状態で固着されていると共に、大径側の端部である下端部の表面に第二の取付部材14が重ね合わされて固着されている。本実施形態において、本体ゴム弾性体16の弾性中心軸は、エンジンマウント10のマウント中心軸A1と一致して上下方向に延びている。
図3に示すように、本体ゴム弾性体16は、固着部18と第二の取付部材14を備える一体加硫成形品36として形成される。
【0041】
本体ゴム弾性体16は、下面に開口する凹所38を備えている。凹所38は、略球冠状の内面を有しており、下方に向けて次第に大径となっている。凹所38は、第二の取付部材14の内フランジ状部34よりも内周に設けられており、内フランジ状部34から離れた位置に開口している。
【0042】
第一の取付部材12を構成する固着部18のフランジ状部20には、本体ゴム弾性体16と一体形成されたストッパゴム40が固着されている。ストッパゴム40は、フランジ状部20の外周面及び上面を覆うように設けられている。ストッパゴム40は、周方向で部分的に設けることもできるが、本実施形態では全周にわたって連続して設けられている。
【0043】
一体加硫成形品36の固着部18には、ガイドピン42が取り付けられる。ガイドピン42は、第一の取付部材12を構成する部材であって、固着部18とは別体とされている。ガイドピン42は、金属等で形成されており、
図4に示すように、全体として直線的に延びるロッド状とされている。ガイドピン42は、両端部分にガイド部44とねじ部46が設けられていると共に、それらガイド部44とねじ部46の間に鍔状部48が設けられた構造を有している。本実施形態のガイドピン42は、ガイド部44とねじ部46と鍔状部48とが、鉄等の金属によって一体で形成されている。
【0044】
ガイド部44は、円形断面を有するロッド状とされており、先端部が先細の略円錐形状とされている。ガイド部44の外周面は、後述する第一のブラケット50への挿通時に引っ掛かり等が生じ難いように、滑らかな面とされていることが望ましい。
【0045】
ねじ部46は、円形断面を有するロッド状とされており、外周面にねじ山が形成されている。ねじ部46の長さ寸法L2は、ガイド部44の長さ寸法L1よりも小さくされている。ねじ部46の外径寸法R2は、ガイド部44の外径寸法R1よりも小さくされている。
【0046】
鍔状部48は、ガイド部44及びねじ部46よりも外周へ突出しており、本実施形態では六角筒状の外周面を有している。鍔状部48は、ガイド部44とねじ部46の接続部分に設けられており、鍔状部48に対して一方側へガイド部44が延び出していると共に、他方側へねじ部46が延び出している。
【0047】
ガイドピン42は、
図1に示すように、固着部18に取り付けられている。即ち、ガイドピン42のねじ部46が固着部18のねじ穴30へねじ込まれることにより、ガイドピン42が固着部18に対してねじ固定されている。ガイドピン42は、固着部18の先端部分32に取り付けられており、固着部18から上方へ向けて突出している。ガイドピン42が固着部18に取り付けられることにより、固着部18とガイドピン42を備える第一の取付部材12が構成される。
【0048】
第一の取付部材12が別体の固着部18とガイドピン42を固定した構造とされていることから、固着部18の形状自由度がガイドピン42によって制限される、或いは、ガイドピン42の形状自由度が固着部18によって制限されるのを防ぐことができる。また、固着部18とガイドピン42の材料や製法を互いに異ならせることもできる。
【0049】
ガイドピン42は、ねじ部46のねじ穴30への螺着によって、固着部18に固定されることから、ガイドピンが固着部に圧入固定される場合に比して、固定時にガイドピン42及び固着部18に作用する力を小さくすることができる。それゆえ、ボルト螺合孔26の形成によってガイドピン42の固定スペースが制限される固着部18において、ねじ穴30の周壁の厚さが薄くなったとしても、ガイドピン42を固定する際の入力によって割れ等の損傷が生じ難く、固着部18とガイドピン42の安定した固定を実現することができる。また、大きな圧入力を受けるための構造(治具の当接面等)を固着部18に設ける必要もない。
【0050】
ガイドピン42においてねじ部46がガイド部44よりも小径とされていることから、固着部18に形成するねじ穴30の直径を小さくすることができる。それゆえ、ボルト螺合孔26によってねじ穴30を形成可能な部分が制限される固着部18において、ガイドピン42を有効に固定することができる。
【0051】
本実施形態では、ボルト螺合孔26が固着部18を貫通して形成されており、ボルト螺合孔26によってサイズが制限された固着部18の先端部分32にガイドピン42が固定されているが、このようなサイズを制限された固着部18の先端部分32にも、ガイドピン42を固定することができる。
【0052】
ガイドピン42の固着部18への取付けにおいて、例えば鍔状部48の外周面に嵌め合わされる工具によってガイドピン42を回転させて、ねじ部46をねじ穴30へ螺着することもできる。鍔状部48と凹状逃がし部28の周壁内面との間には、凹状逃がし部28に挿し入れられた工具に対して鍔状部48に嵌め合わされた状態での回転作動を許容する隙間が設けられていることが望ましい。
【0053】
固着部18に固定されたガイドピン42は、ねじ部46が固着部18に螺着されると共に、ガイド部44が固着部18から突出している。本実施形態では、ガイドピン42の鍔状部48が固着部18の凹状逃がし部28の底面に重ね合わされることにより、ねじ部46のねじ穴30へのねじ込み量が規定されて、ガイド部44の固着部18からの突出量が規定される。また、ねじ部46側に位置する鍔状部48の略半分が凹状逃がし部28に収容されることから、鍔状部48の第二の傾斜面24に対する上方への突出が抑えられる。
【0054】
固着部18に取り付けられたガイドピン42の中心軸は、ねじ穴30の中心軸A3と一致している。従って、ガイドピン42の中心軸A3と本体ゴム弾性体16の弾性中心軸A1とが挟角βで相対的に傾斜していると共に、ガイドピン42の中心軸A3とボルト螺合孔26の中心軸A2とが挟角γで相対的に傾斜している。
【0055】
また、ボルト螺合孔26の第一の傾斜面22側の開口は、ねじ穴30の第二の傾斜面24(凹状逃がし部28の底面)側の開口よりも右方に位置していると共に、ボルト螺合孔26とねじ穴30が何れも左方へ向けて下傾している。ボルト螺合孔26の中心軸A2とねじ穴30に螺着されたガイドピン42の中心軸A3との交点Cは、ボルト螺合孔26の長さ方向(ボルト螺合孔26の中心軸A2の延伸方向)においてボルト螺合孔26の中央Oよりも第一の傾斜面22から離れた位置にある。より好適には、ボルト螺合孔26の中心軸上において締結用ボルト62の螺入側開口端(
図3の右側開口端)から深さ方向で先端側に向かって孔全長の3/4以上離れた位置に交点Cが設定される。本実施形態の交点Cは、ボルト螺合孔26の第一の傾斜面22と反対側の開口付近に位置しており、中心軸A2の延伸方向においてボルト螺合孔26を外側へ実質的に外れて位置している。これにより、ねじ穴30に螺着されるガイドピン42のねじ部46を通じて中心軸A3方向に及ぼされる引抜力や押圧力が、締結用ボルト62が螺着されるボルト螺合孔26に周壁部に対して直接的に作用することが軽減乃至は回避されて、締結用ボルト62の固定状態の安定化や信頼性の向上が図られ得る。
【0056】
ボルト螺合孔26とガイドピン42(ねじ穴30)が、相対的に傾斜しながら、左方へ向けて下傾する同じ向きで傾斜していることにより、固着部18においてボルト螺合孔26よりも上側となる先端部分32において、ガイドピン42を固定可能な部分(ねじ穴30を形成可能な部分)を比較的に確保し易くなる。
【0057】
また、ねじ穴30は、略長円乃至は楕円の横断面形状で上下に延びる固着部18において、第二の傾斜面24の略中央に開口して外周面に向かって傾斜する中心軸A3をもって形成されている。これにより、螺着されるガイドピン42のガイド部44とねじ部46を、何れも、固着部18の中心軸A1方向での投影において第二の傾斜面24内に納まる領域で長さ寸法を確保しやすくなっている。しかも、ねじ部46が螺着されるねじ穴30は、底部側に向かって、固着部18の外周面に近づく傾斜方向とされていることから、ねじ部46の螺合強度が要求される開口付近の周壁部分では、周壁厚さ寸法を確保しやすく、少なくとも最小厚さ寸法tよりも大きく設定され得る。
【0058】
第一の取付部材12において、ガイドピン42が本体ゴム弾性体16に固着される固着部18とは別体とされていることから、例えば、固着部18と第二の取付部材14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品36を形成した後、固着部18にガイドピン42を取り付けることもできる。これにより、例えば、固着部18を本体ゴム弾性体16の成形用金型へセットする際などに、ガイドピン42が引っ掛かる等して邪魔になったり、ガイドピン42が損傷したりするのを防ぐことができて、部品の取り回し性が向上する。
【0059】
エンジンマウント10は、
図5に示すように、第一の取付部材12に第一のブラケット50が取り付けられると共に、第二の取付部材14に第二のブラケット52が取り付けられる。第一のブラケット50は、図示しないパワーユニットに固定されて防振対象物を構成し、第二のブラケット52は、図示しない車両ボデーに固定される。
【0060】
第一のブラケット50は、第一の傾斜面22に重ね合わされる第一の板状部54と、第二の傾斜面24と平行に広がる第二の板状部56とを、備えている。第一の板状部54は、略平板形状であって、厚さ方向に貫通するボルト挿通孔58を備えている。第二の板状部56は、略平板形状であって、厚さ方向に貫通するガイド挿通孔60を備えている。
【0061】
第一のブラケット50は、ガイドピン42の中心軸A3の延伸方向が鉛直上下方向となるように配されたエンジンマウント10に対して、鉛直上方(
図5中の上方)から接近させられる。そして、第二の板状部56のガイド挿通孔60に対して第一の取付部材12のガイドピン42のガイド部44が挿通されると共に、第一の板状部54が第一の取付部材12の第一の傾斜面22に重ね合わされる。これにより、第一のブラケット50が第一の取付部材12に対して位置決めされる。このように第一の取付部材12と第一のブラケット50が位置決めされた状態において、第一の板状部54のボルト挿通孔58に挿通された締結用ボルト62が、ボルト螺合孔26に螺着されることにより、第一の取付部材12に第一のブラケット50が固定される。第一のブラケット50は図示しないパワーユニットに固定されることから、第一の取付部材12は第一のブラケット50を介してパワーユニットに取り付けられる。
【0062】
ガイド部44は、ねじ部46よりも大径とされていることから、変形剛性を大きく設定し易く、位置決め時に第一のブラケット50との接触等に起因する変形や損傷が生じ難い。また、ガイドピン42の鍔状部48が固着部18の表面に重ね合わされており、ガイドピン42に作用する傾斜方向の回転モーメントが鍔状部48によって受けられることから、ガイド部44よりも小径とされたねじ部46等が当該回転モーメントの作用によって損傷するのも防止される。従って、ガイド部44が第一のブラケット50のガイド挿通孔60の内周面に当接しても、ガイドピン42の損傷等が防止されて、第一の取付部材12と第一のブラケット50がガイドピン42によって有効に位置決めされる。例えば、締結用ボルト62の締め付けによってガイドピン42が第一のブラケット50に積極的に押し当てられる場合にも、入力によるガイドピン42の損傷が回避されて、ガイドピン42と第一のブラケット50の接触による位置決め作用が有効に発揮される。
【0063】
第一の取付部材12において凹状逃がし部28が第一の傾斜面22から離れて設けられている。それゆえ、ガイドピン42の鍔状部48と第一のブラケット50の第二の板状部56との干渉を凹状逃がし部28によって防ぎつつ、第一の取付部材12の第一の傾斜面22と第一のブラケット50の第一の板状部54との接触面積を大きく得ることができて、第一の取付部材12と第一のブラケット50との固定強度を大きく得ることができる。
【0064】
第二のブラケット52は、第二の取付部材14に外挿状態で固定される筒状体64と、筒状体64の外周面から延び出すステー66とを含んで構成されている。筒状体64は、全体として略円筒形状とされており、第二の取付部材14に外挿状態で圧入固定されると共に、第二の取付部材14よりも上方へ延び出して、ストッパゴム40よりも上方まで達している。筒状体64の上端部には、内周へ向けて突出する内フランジ状のストッパ受部68が設けられている。ストッパ受部68は、第一の取付部材12のフランジ状部20に対して上方に対向していると共に、上面には円環板形状の緩衝ゴム70が重ね合わされている。ステー66は、筒状体64の周方向の一部から外周へ向けて延び出しており、延出先端には図示しない車両ボデーに固定される取付板部72が設けられていることから、第二の取付部材14は第二のブラケット52を介して車両ボデーに取り付けられる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、固着部18を貫通するボルト螺合孔26をボルト穴として例示したが、ボルト穴は、ねじ穴30と同様に、有底とされて、固着部18を貫通していなくてもよい。また、内周面にねじ山を有するボルト螺合孔26をボルト穴として例示したが、ボルト穴の内周面にねじ山はなくてもよく、例えば、ボルト穴を貫通するボルトにナットを螺着させることによって、第一の取付部材12と第一のブラケット50を固定することもできる。
【0066】
第一のブラケット50及び第二のブラケット52の具体的な形状及び構造は、特に限定されない。また、第一の取付部材12におけるボルト螺合孔26及びガイドピン42の配置や延伸方向は、第一のブラケット50の取付構造に応じて適宜に変更され得る。
【0067】
前記実施形態では、流体封入式でないソリッドタイプの防振装置を例示したが、防振装置は、例えば内部に流体が封入された液室を有する流体封入式の防振装置であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 エンジンマウント(防振装置)
12 第一の取付部材
14 第二の取付部材
16 本体ゴム弾性体
18 固着部
20 フランジ状部
22 第一の傾斜面(取付面)
24 第二の傾斜面(ピン装着面)
26 ボルト螺合孔(ボルト穴)
28 凹状逃がし部
30 ねじ穴
32 先端部分
34 内フランジ状部
36 一体加硫成形品
38 凹所
40 ストッパゴム
42 ガイドピン
44 ガイド部
46 ねじ部
48 鍔状部
50 第一のブラケット(防振対象物)
52 第二のブラケット
54 第一の板状部
56 第二の板状部
58 ボルト挿通孔
60 ガイド挿通孔
62 締結用ボルト
64 筒状体
66 ステー
68 ストッパ受部
70 緩衝ゴム
72 取付板部