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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H02M3/155 W
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021131309
(22)【出願日】2021-08-11
(65)【公開番号】P2023025881
(43)【公開日】2023-02-24
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】本間 宏輝
(72)【発明者】
【氏名】山口 俊行
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-005649(JP,A)
【文献】国際公開第2021/074981(WO,A1)
【文献】特開2010-004726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧動作が可能に構成され中点電位よりも高い正の電圧を出力する正極側コンバータと、昇圧動作が可能に構成され前記中点電位よりも低い負の電圧を出力する負極側コンバータとを含み、前記正極側コンバータと前記負極側コンバータとが前記中点電位の極を挟んで直列に接続されている同期整流型のDCDCコンバータと、
前記DCDCコンバータが出力する電圧と、前記DCDCコンバータに対する入力電圧とに基づいて前記DCDCコンバータの出力電流に関する指令値を調整し、前記調整後の指令値に基づいて前記DCDCコンバータの出力電流に関する電流制御を実施する制御部と、
を備え
前記制御部は、
前記DCDCコンバータが出力する電圧として、前記正極側コンバータが出力する前記正の電圧と前記負極側コンバータが出力する前記負の電圧との平均値を用いて、前記DCDCコンバータに対する入力電圧として、前記正極側コンバータと前記負極側コンバータとに対する入力電圧の変動の大きさを用いて、前記DCDCコンバータの出力電流に関する前記指令値を調整する、
力変換システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記DCDCコンバータが出力する電圧に係る第1指標値と、前記DCDCコンバータに対する入力電圧に係る第2指標値との割合に基づいて、前記DCDCコンバータの出力電流に関する前記指令値を調整する、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
昇圧動作が可能に構成され中点電位よりも高い正の電圧を出力する正極側コンバータと、昇圧動作が可能に構成され前記中点電位よりも低い負の電圧を出力する負極側コンバータとを含み、前記正極側コンバータと前記負極側コンバータとが前記中点電位の極を挟んで直列に接続されている同期整流型のDCDCコンバータと、
前記DCDCコンバータが出力する電圧と、前記DCDCコンバータに対する入力電圧とに基づいて前記DCDCコンバータの出力電流に関する指令値を調整し、前記調整後の指令値に基づいて前記DCDCコンバータの出力電流に関する電流制御を実施する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記DCDCコンバータが出力する電圧に係る第1指標値と、前記DCDCコンバータに対する入力電圧に係る第2指標値との割合に基づいて、前記DCDCコンバータの出力電流に関する前記指令値を調整する、
力変換システム。
【請求項4】
前記正極側コンバータと前記負極側コンバータは、
互いに逆並列に接続されたSiC型のMOSFETとSiC型のダイオードの組を夫々複数含み、
前記制御部は、
前記ダイオードの順方向電流が流れる期間に前記MOSFETを導通させて電力損失を低減させるように前記MOSFETの導通期間を調整して、前記MOSFETをスイッチングさせる、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電力変換システム。
【請求項5】
前記DCDCコンバータは、
前記正極側コンバータの出力と前記中点電位の極に接続される正極側コンデンサと、
前記負極側コンバータの出力と前記中点電位の極に接続される負極側コンデンサと、
を備える請求項1から請求項4の何れか1項に記載の電力変換システム。
【請求項6】
前記制御部は、
互いに共通する電圧基準と、互いの位相が反転したキャリア信号とを用いたPWM制御によって、前記正極側コンバータと前記負極側コンバータとを制御する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の電力変換システム。
【請求項7】
前記制御部は、
前記DCDCコンバータの出力側の直流母線の電圧に生じる振動成分を低減させるように、前記DCDCコンバータの電流制御に対する指令値を調整する、
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池に蓄えた直流電力を変換して交流電動機を駆動させる電力変換システムにおいて、直流電力を交流電力に変換するインバータの前段にDCDCコンバータ(直流電力変換装置)を設けることがある。このような電力変換システムにおいて、電力変換の大容量化が望まれることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-192239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、大容量かつ小形高効率化を可能にする電力変換システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電力変換システムは、DCDCコンバータと、制御部とを備える。DCDCコンバータは、昇圧動作が可能に構成され中点電位よりも高い正の電圧を出力する正極側コンバータと、昇圧動作が可能に構成され前記中点電位よりも低い負の電圧を出力する負極側コンバータとを含み、前記正極側コンバータと前記負極側コンバータとが前記中点電位の極を挟んで直列に接続され、同期整流型で形成されている。制御部は、前記DCDCコンバータが出力する電圧と、前記DCDCコンバータに対する入力電圧とに基づいて前記DCDCコンバータの出力電流に関する指令値を調整し、前記調整後の指令値に基づいて前記DCDCコンバータの出力電流に関する電流制御を実施する。前記制御部は、前記DCDCコンバータが出力する電圧として、前記正極側コンバータが出力する前記正の電圧と前記負極側コンバータが出力する前記負の電圧との平均値を用いて、前記DCDCコンバータに対する入力電圧として、前記正極側コンバータと前記負極側コンバータとに対する入力電圧の変動の大きさを用いて、前記DCDCコンバータの出力電流に関する前記指令値を調整する。


【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の電力変換システムの概略構成図。
図2】実施形態のDCDCコンバータの構成図である。
図3】実施形態のDCDCコンバータのスイッチング制御を説明するためのタイミングチャートである。
図4A】実施形態のDCDCコンバータの同期整流モードの動作を説明するための図である。
図4B】実施形態のDCDCコンバータの同期整流モードの動作を説明するための図である。
図5】実施形態のDCDCコンバータの同期整流モードにおけるスイッチQ1からQ4のゲート制御を説明するための図である。
図6】実施形態のDCDCコンバータの同期整流モードの動作のシミュレーション結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電力変換システムを、図面を参照して説明する。
【0008】
なお、以下の説明における「電力変換システム」は、電力変換用の半導体装置として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)などのスイッチング素子を利用する。なお、以下の説明では、半導体装置として、ダイオードが逆並列に接続されたMOSFETへの適用を例示して説明するが、MOSFETをIGBTに置き換えてもよい。実施形態のMOSFETとダイオードは、ともにSiC(silicon carbide)型であってよく、ともにSi(silicon)型であってもよい。
【0009】
また、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。
【0010】
まず、実施形態の電力変換システム1について説明する。図1は、実施形態の電力変換システム1の概略構成図である。
【0011】
電動機2は、電力変換システム1の負荷の一例である。例えば、電動機2は、スター型(Y形)に結線された3つの巻線を有していて、供給される交流電力に応じて駆動される。電力変換システム1の負荷には上記の電動機2の他に、図示されない変圧器(1次Δ-2次Y)、コンデンサ(Δ)などが含まれていてもよい。この変圧器の1次側は、インバータ12の交流側に接続される。電動機2は、この変圧器の2次側に接続されていて、変圧器によって変圧された交流電力によって駆動される。
【0012】
電力変換システム1は、例えば、蓄電池11(電源)と、インバータ12と、DCDCコンバータ13と、コンデンサ15と、制御部20とを備える。DCDCコンバータ13は、直流電力変換装置の一例である。
【0013】
蓄電池11は、その外部から供給される直流電力に基づいて蓄電され、蓄えた直流電力を出力する。蓄電池11の正極は、電源側直流母線SBLPを介して、後述する端子TBSPに接続される。蓄電池11の負極は、電源側直流母線SBLNを介して、後述する端子TBSNに接続される。
【0014】
DCDCコンバータ13は、制御により、蓄電池11から供給される直流電力を昇圧して所望の電圧(直流電圧)を負荷側の端子に出力する。DCDCコンバータ13の負荷側の端子には、直流リンクの負極N(直流母線BLN)と正極P(直流母線BLP)が接続されている。DCDCコンバータ13が出力する電圧によって、直流リンクの負極N(直流母線BLN)と正極P(直流母線BLP)の間の電圧になる。
【0015】
DCDCコンバータ13は、さらに電源側の端子として正極用の端子TBSPと負極用の端子TBSNの組を備え、負荷側の端子として正極用の端子TBPと負極用の端子TBNと端子TBCの組を備える。端子TBCは、中点電位になる端子である。
【0016】
端子TBPには直流母線BLPが接続され、端子TBPは、直流母線BLPを介してインバータ12の入力の正極に接続されている。端子TBNには直流母線BLNが接続され、端子TBNは、直流母線BLNを介してインバータ12の入力の負極に接続されている。端子TBCには直流母線BLCが接続され、端子TBCは、これを介してインバータ12の入力の中点に接続されている。
【0017】
インバータ12は、上記の直流リンクの直流母線BLP、BLC、BLNを介して供給される直流電力を、制御により交流電力に変換して出力する。上記のDCDCコンバータ13とインバータ12は、その内部に電力変換用の半導体スイッチング素子をそれぞれ備える。
【0018】
コンデンサ15は、DCDCコンバータ13の入力に並列になるように設けられていて、正極の電力ライン13PLPと、負極の電力ライン13PLNとの間の電圧を平滑する。コンデンサ15は、例えば、DCDCコンバータ13の一部として構成されてもよく、DCDCコンバータ13の外部に設けられていてもよい。
【0019】
制御部20は、例えば上位装置から供給される直流電圧基準に基づいて、DCDCコンバータ13にゲートパルスGPを送り、DCDCコンバータ13による電力変換量を制御する。また、制御部20は、インバータ12にゲートパルスGPを送り、インバータ12による電力変換量を制御する。以下の説明では、DCDCコンバータ13とその制御を中心に説明する。
【0020】
以下、電力変換システム1の一例について詳細に後述する。
【0021】
最初に、DCDCコンバータ13の詳細な構成例について説明する。
DCDCコンバータ13は、昇圧動作が可能に構成されている。DCDCコンバータ13は、例えば正極側コンバータ13Pと、負極側コンバータ13Nとを備える。
【0022】
正極側コンバータ13Pは、昇圧動作によって、中点Nの電位(中点電位)よりも高い正の電圧を出力する。正極側コンバータ13Pは、例えば、スイッチング素子131、132と、リアクトル13LPと、コンデンサ13CPとを備える。
【0023】
例えば、スイッチング素子131は、MOSFET(スイッチQ1と呼ぶ。)と、これに逆並列に接続されたダイオードD1とを備える。スイッチング素子132は、MOSFET(スイッチQ2と呼ぶ。)と、これに逆並列に接続されたダイオードD2とを備える。スイッチング素子131とスイッチング素子132は、直列に接続されていて、スイッチング素子131がハイサイドに、スイッチング素子132がローサイドになる。
【0024】
スイッチング素子131のソースとスイッチング素子132のドレインの接続点は、リアクトル13LPと電力ライン13PLPとを介して、端子TBSPに接続されている。スイッチング素子131のドレインは、端子TBPに接続されている。スイッチング素子132のソースは、端子TBCに接続されている。端子TBPと端子TBCとに並列にコンデンサ13CPが接続されている。コンデンサ13CPは、正極側コンバータ13Pの出力と中点電位の極に接続される正極側コンデンサの一例である。
【0025】
負極側コンバータ13Nは、昇圧動作によって、中点電位よりも低い負の電圧を出力する。
負極側コンバータ13Nは、スイッチング素子133、134と、リアクトル13LNと、コンデンサ13CNとを備える。
【0026】
例えば、スイッチング素子133は、MOSFET(スイッチQ3と呼ぶ。)と、これに逆並列に接続されたダイオードD3とを備える。スイッチング素子134は、MOSFET(スイッチQ4と呼ぶ。)と、これに逆並列に接続されたダイオードD4とを備える。スイッチング素子133とスイッチング素子134は、直列に接続されていて、スイッチング素子134が負極のハイサイドに、スイッチング素子133が負極のローサイドになる。
【0027】
スイッチング素子133のソースとスイッチング素子134のドレインの接続点は、リアクトル13LNと電力ライン13PLNとを介して、端子TBSNに接続されている。スイッチング素子134のソースは、端子TBNに接続されている。スイッチング素子133のドレインは、端子TBCに接続されている。端子TBNと端子TBCとに並列にコンデンサ13CNが接続されている。コンデンサ13CNは、負極側コンバータ13Nの出力と中点電位の極に接続される負極側コンデンサの一例である。
【0028】
上記の通り、正極側コンバータ13Pと負極側コンバータ13Nは、中点電位の極を挟んで直列に接続されている。このように構成されたDCDCコンバータ13は、同期整流型の一例である。
【0029】
図2は、実施形態のDCDCコンバータの構成図である。
電力変換システム1は、さらにDC電圧センサ16、17P,17Nと、電流センサ14と、加算器18とを備える。
【0030】
DC電圧センサ16は、コンデンサ15の端子電圧を検出し、これを示す電圧v_inを出力する。DC電圧センサ17Pは、コンデンサ13CPの端子電圧を検出し、これを示す電圧v_pcを出力する。DC電圧センサ17Nは、コンデンサ13CNの端子電圧を検出し、これを示す電圧v_cnを出力する。加算器18は、DC電圧センサ17Pによって検出された電圧値の大きさ(絶対値)とDC電圧センサ17Nによって検出された電圧値の大きさ(絶対値)を加算して、その演算結果に基づいた電圧v_pnを出力する。電圧v_pnは、上記の通り電圧v_pcと電圧v_cnの和であってもよく、これを2で割った平均値であってもよく、単に上記の和を平均値と呼んでもよい。
【0031】
電流センサ14は、DCDCコンバータ13の入力電流を検出して、これを示す入力電流i_dcを出力する。
【0032】
制御部20は、DCDCコンバータ13が出力する電圧(電圧v_pn)と、DCDCコンバータ13に対する入力電圧(電圧v_in)とに基づいてDCDCコンバータ13の出力電流に関する指令値(電流指令値i_refと呼ぶ。)を調整して、調整後の指令値(電流指令値i_ref*)と、電流センサ14から取得する入力電流i_dcとに基づいてDCDCコンバータ13の出力電流に関する電流制御を実施する。
【0033】
例えば、制御部20は、電圧変動値演算部21と、減算器22、23、26と、電圧調整器(図中の記載はAVR。)24と、乗算器25と、電流調整器(ACR)27と、加算器28と、タイミング調整器29とを備える。
【0034】
電圧変動値演算部21は、低域通過フィルタ21a、21bと、除算器21c、21dとを備える。
【0035】
低域通過フィルタ21a、21bは、所定の遮断周波数よりも低域の周波数成分を通過させるローパスフィルタ(LPF)である。これによって、上記の遮断周波数よりも高域の周波数成分が減衰される。
【0036】
低域通過フィルタ21aは、電圧v_inの低域周波数成分を、電圧v_in_lpfとして出力する。除算器21cは、電圧v_inを、電圧v_in_lpfで除算することで、その商を電圧比v_in_rateとして出力する。電圧比v_in_rateは、電圧v_inに含まれている変動成分の量を示す指標値になる。
【0037】
低域通過フィルタ21bは、電圧v_pnの低域周波数成分を、電圧v_pn_lpfとして出力する。除算器21dは、電圧v_in_lpfを、電圧v_pn_lpfで除算することで、その商を電圧比v_gainとして出力する。電圧比v_gainは、電圧v_pnの低域周波数成分の大きさ(振幅)に対する電圧v_inの低域周波数成分の大きさ(振幅)の比率を示す指標値になる。
【0038】
減算器22は、所定のオフセットi0から電圧比v_gainを減算して、変調率調整量m_adjを生成する。
【0039】
減算器23は、直流電圧基準v_refと電圧v_pnとの差を示す電圧偏差Δvを算出する。電圧調整器24は、例えば比例積分演算によって、電圧偏差Δvが0になるような電流基準i_refを生成する。電圧v_pnは、電圧制御における帰還量になる。
【0040】
乗算器25は、電流基準i_refに電圧比v_in_rateを掛けて、電流基準i_ref*を生成する。
【0041】
減算器26は、電流基準i_ref*と入力電流i_dcとの差を示す電流偏差Δiを算出する。電流調整器27は、例えば比例積分演算によって、電流偏差Δiが0になるような変調率基準m_ref*を生成する。電圧i_dcは、電流制御における帰還量になる。
【0042】
加算器28は、変調率基準m_ref*に変調率調整量m_adjを加算して、変調率基準m_refを生成する。
【0043】
タイミング調整器29は、変調率基準m_refと、キャリア信号fp,fnとを用いて、スイッチQ1からQ4のON/OFFを制御するためのパルス信号を生成して、このパルス信号に対するデッドタイムの調整を行って、スイッチQ1からQ4に対するゲートパルスを生成する。
【0044】
例えば、タイミング調整器29は、比較器29a、29bと、NOT演算ブッロク29c、29dと、波形成型ブロック29fから29hとを備える。波形成型ブロック29fから29hは、予め定められた時間幅でデッドタイムを付与するように、入力される信号のパルス幅を短縮して出力する。
【0045】
比較器29aは、変調率基準m_refと、キャリア信号fpとを比較して、その結果を2値で示すパルス信号refp_pを生成する。NOT演算ブッロク29cは、パルス信号refp_pの論理を反転して、波形成型ブロック29eに供給する。波形成型ブロック29eは、これに基づいたゲートパルスgate_Q1を生成する。波形成型ブロック29fは、パルス信号refp_pに基づいたゲートパルスgate_Q2を生成する。
【0046】
比較器29bは、変調率基準m_refと、キャリア信号fnとを比較して、その結果を2値で示すパルス信号refp_nを生成する。NOT演算ブッロク29dは、パルス信号refp_nの論理を反転して、波形成型ブロック29hに供給する。波形成型ブロック29hは、これに基づいたゲートパルスgate_Q4を生成する。波形成型ブロック29gは、パルス信号refp_nに基づいたゲートパルスgate_Q3を生成する。
【0047】
図3は、実施形態のDCDCコンバータのスイッチング制御を説明するためのタイミングチャートである。図3の上段側から、(a)にキャリア信号fp、fnと変調率基準m_refを示し、(b)に入力電流i_dcを示し、(c)から(f)に夫々スイッチQ1からQ4のゲートパルスを示す。以下の説明において、スイッチQ1からQ4を単に、Q1からQ4と呼ぶことがある。
【0048】
図4A図4Bは、実施形態のDCDCコンバータの同期整流モードの動作を説明するための図である。図5は、実施形態のDCDCコンバータの同期整流モードにおけるスイッチQ1からQ4のゲート制御に関する真理値表を示す図である。
【0049】
図4A(a)に示すモード1について説明する。モード1では、Q1とQ4をON状態に、Q2とQ3をOFF状態にする。これにより、蓄電池11の正極を起点に、リアクトル13LP、Q1、負荷R、Q4、リアクトル13LNを通って、蓄電池11の負極に戻る電流経路が形成される。このときコンデンサ13CP、13CNは、ともに放電状態になり、コンデンサ13CPから負荷Rを通ってコンデンサ13CNに電流が流れる。
【0050】
次に、図4A(b)に示すモード2について説明する。モード2では、Q4をON状態に、Q1とQ2とQ3をOFF状態にする。これにより、蓄電池11の正極を起点に、リアクトル13LP、D1、負荷R、Q4、リアクトル13LNを通って、蓄電池11の負極に戻る電流経路が形成される。このときコンデンサ13CP、13CNは、ともに放電状態になり、コンデンサ13CPから負荷Rを通ってコンデンサ13CNに電流が流れる。
【0051】
次に、図4A(c)に示すモード3について説明する。モード3では、Q2とQ4をON状態に、Q1とQ3をOFF状態にする。これにより、蓄電池11の正極を起点に、リアクトル13LP、Q2、コンデンサ13CN、Q4、リアクトル13LNを通って、蓄電池11の負極に戻る電流経路が形成される。このときコンデンサ13CNは、充電される。なお、モード1、2と同様に、コンデンサ13CPから負荷Rを通ってコンデンサ13CNに電流が流れる。
【0052】
次に、図4A(d)に示すモード4と、図4B(a)に示すモード5とについて説明する。モード4は、前述のモード2と同じである。モード5は、前述のモード1と同じである。
【0053】
次に、図4B(b)に示すモード6について説明する。モード6では、Q1をON状態に、Q2とQ3とQ4とをOFF状態にする。これにより、蓄電池11の正極を起点に、リアクトル13LP、Q1、負荷R、D4、リアクトル13LNを通って、蓄電池11の負極に戻る電流経路が形成される。このときコンデンサ13CP、13CNは、ともに放電状態になり、コンデンサ13CPから負荷Rを通ってコンデンサ13CNに電流が流れる。
【0054】
次に、図4B(c)に示すモード7について説明する。モード7では、Q1とQ3をON状態に、Q2とQ4をOFF状態にする。これにより、蓄電池11の正極を起点に、リアクトル13LP、Q1、コンデンサ13CP、Q3、リアクトル13LNを通って、蓄電池11の負極に戻る電流経路が形成される。このときコンデンサ13CPは、充電される。なお、モード1、2と同様に、コンデンサ13CPから負荷Rを通ってコンデンサ13CNに電流が流れる。
【0055】
次に、図4B(d)に示すモード8について説明する。モード8は、前述のモード6と同じである。
【0056】
上記の実施形態によれば、制御部20は、DCDCコンバータ13が出力する電圧と、DCDCコンバータ13に対する入力電圧とに基づいてDCDCコンバータ13の出力電流に関する指令値を調整し、その調整後の指令値に基づいてDCDCコンバータ13の出力電流に関する電流制御を実施する。これにより、電力変換システム1の大容量かつ小形高効率化を可能にする。
【0057】
例えば、制御部20は、上記のDCDCコンバータ13が出力する電圧として、正極側コンバータ13Pが出力する正の電圧v_pcと負極側コンバータ13Nが出力する負の電圧v_cnとの平均値を用いるとよい。制御部20は、DCDCコンバータ13に対する入力電圧v_inとして、正極側コンバータ13Pと負極側コンバータ13Nとに対する入力電圧v_inの変動の大きさを用いて、DCDCコンバータ13の出力電流に関する指令値(電流基準i_ref)を調整することで、電流基準i_ref*を生成してもよい。
【0058】
制御部20は、DCDCコンバータ13が出力する電圧に係る第1指標値(電圧v_pn)と、DCDCコンバータ13に対する入力電圧v_inに係る第2指標値との割合(電圧比v_gain)に基づいて、DCDCコンバータ13の出力電流に関する指令値(変調率基準m_ref)を調整するとよい。
【0059】
制御部20は、正極側コンバータ13Pと負極側コンバータ13Nによって、互いに共通する電圧基準である変調率基準m_refと、互いの位相が反転したキャリア信号とを用いたPWM制御によって、正極側コンバータ13Pと負極側コンバータ13Nとを制御するとよい。
【0060】
制御部20は、直流母線の入力電圧(電圧v_in)に生じる振動成分を低減させるように、DCDCコンバータ13の出力電流に関する指令値(電流基準i_ref)を調整して電流基準i_ref*を生成してもよい。
【0061】
図6は、実施形態のDCDCコンバータの同期整流モードの動作のシミュレーション結果を説明するための図である。
【0062】
図6の上段側から順に、出力電圧(電圧v_pn)、入力電圧(電圧v_in)、入力電流i_dc(リアクトル電流)の振幅を示す。横軸は、時間軸を示す。
【0063】
この図6の時間軸の左端に当たる初期状態は、比較的少ない電流で、電動機2を駆動させている状態とし、時刻t1において、電流基準を調整して負荷をステップ状に増加させたことをモデル化している。なお、初期状態から時刻t2までは、本実施形態の制御を適用させていない比較例としての動作を示す。時刻t2において、本実施形態の制御を適用して、それ以降、最後まで本実施形態の制御を継続している。
【0064】
時刻t1において、負荷が増加する変動が生じて、これに応じて出力電圧(電圧v_pn)が低下し、入力電圧(電圧v_in)が振動して不安定になっている。この振動が収束しないため、この不安定な状態は、時刻t2まで継続している。この結果から、比較例の場合には、負荷が増加する変動に対する制御の安定性を確保できないこと、一旦不安定になるとそれが解消しないことがわかる。
【0065】
そこで、時刻t2に、本実施形態の制御を適用すると、入力電圧(電圧v_in)に生じていた振動が収束して安定する。この安定になった状態は時刻t3まで継続する。
【0066】
時刻t3において、入力電圧(電圧v_in)を増加させる変動が生じさせている。これにより、出力電圧(電圧v_pn)、入力電圧(電圧v_in)、及び入力電流i_dc(リアクトル電流)のそれぞれに過渡的な振動性の変動がみられるが、比較的短い時間でその振動性の変動が収束することが確認できた。
【0067】
実施形態によれば、電力変換システム1は、DCDCコンバータ13と、制御部20とを備える。DCDCコンバータ13は、昇圧動作が可能に構成され中点電位よりも高い正の電圧を出力する正極側コンバータ13Pと、昇圧動作が可能に構成され前記中点電位よりも低い負の電圧を出力する負極側コンバータ13Nとを含む。正極側コンバータ13Pと負極側コンバータ13Nとが中点電位の極を挟んで直列に接続され、DCDCコンバータ13が同期整流型で形成されている。制御部20は、DCDCコンバータ13が出力する電圧と、DCDCコンバータ13に対する入力電圧とに基づいてDCDCコンバータ13の出力電流に関する指令値を調整し、調整後の指令値に基づいてDCDCコンバータ13の出力電流に関する電流制御を実施する。これにより、電力変換システム1は、大容量かつ小形高効率化を可能にする。
【0068】
上記の通り、正極側コンバータ13Pと負極側コンバータ13Nは、互いに逆並列に接続されたSiC型のMOSFETとSiC型のダイオードとの組を夫々複数含む。制御部20は、そのダイオードの順方向電流が流れる期間にMOSFETを導通させて電力損失を低減させるようにMOSFETの導通期間を調整して、MOSFETをスイッチングさせるとよい。このような構成によれば、MOSFETとダイオードの損失を低減させることができ、放熱用のフィンなどを含めた大きさを比較的小さくすることが可能になる。
【0069】
このような構成の電力変換システム1は、DCDCコンバータ13の負荷変動(出力電圧変動)に対して、DCDCコンバータ13の入力電流(リアクトル電流)と出力電圧の安定性を確保することができる。仮に、DCDCコンバータ13の入力電圧に変動(外乱)が生じた場合であっても、ダブルチョッパの入力電流(リアクトル電流)と出力電圧の安定性を確保できることが、上記のシミュレーションの結果から確認できる。
【0070】
なお、DCDCコンバータ13の入力側には、フィルタとして機能させるコンデンサ15とリアクトルとが設けられている。直流電源側からDCDCコンバータ13までの構成は、コンデンサ15、リアクトル、スイッチ(MOSFET)、コンデンサ13CPと13CNの順に配列されている。
【0071】
制御部20は、電流基準i_ref*と入力電流i_dcとの差を示す電流偏差Δiが0になるようにPWM制御するフィードバック制御系と、さらに、別の電圧基準v_inと、出力電圧v_pnの低域周波数成分(v_pn_lpf)の比率と、オフセット(i_0)とに基づくフィードフォワード制御とを組み合わせた2自由度制御系を形成している。その中で、制御部20は、電流基準i_refに比率を掛けて、電流基準i_ref*を生成する。制御部20は、フィードバック制御系の制御量と、フィードフォワード制御系の制御量との比率は、予め定められていてもよく、制御系の状態に応じて適応的に変更してもよい。
【0072】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、電力変換システムは、DCDCコンバータと、制御部とを備える。DCDCコンバータは、昇圧動作が可能に構成され中点電位よりも高い正の電圧を出力する正極側コンバータと、昇圧動作が可能に構成され前記中点電位よりも低い負の電圧を出力する負極側コンバータとを含み、前記正極側コンバータと前記負極側コンバータとが前記中点電位の極を挟んで直列に接続され、同期整流型で形成されている。制御部は、前記DCDCコンバータが出力する電圧と、前記DCDCコンバータに対する入力電圧とに基づいて前記DCDCコンバータの出力電流に関する指令値を調整し、前記調整後の指令値に基づいて前記DCDCコンバータの出力電流に関する電流制御を実施することにより、大容量かつ小形高効率化を可能にする。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1…電力変換システム、2…電動機、11…蓄電池、12…インバータ、13…DCDCコンバータ、14…電流センサ、15…コンデンサ、16、17P、17N…DC電圧センサ、20…制御部、21…電圧変動値演算部、22、23、26…減算器、24…電圧調整器(AVR)、25…乗算器、27…電流調整器(ACR)、28…加算器、29…タイミング調整器
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6