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  • 特許-燃料電池用ラジカル硬化性シール部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】燃料電池用ラジカル硬化性シール部材
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0284 20160101AFI20240726BHJP
   C08F 290/04 20060101ALI20240726BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240726BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240726BHJP
【FI】
H01M8/0284
C08F290/04
C09K3/10 E
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021161124
(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2023050825
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2024-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】今井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/029978(WO,A1)
【文献】特開2014-006325(JP,A)
【文献】特開2016-199669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C08F 290/04
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(E)成分を含有し、かつ下記(B)成分の含有割合が、下記(A)成分100質量部に対し0.1~10質量部であるラジカル硬化性組成物の架橋体からなる、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
(A)ラジカル硬化性官能基を有し、かつ分子鎖内にウレタン結合およびエステル結合の少なくとも一方を有する燃料電池シール部材用ポリマー。
(B)エーテル基、炭素数が3以上の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有する、カルボジイミド化合物。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
【請求項2】
前記(A)成分のラジカル硬化性官能基が、(メタ)アクリロイル基である、請求項1に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項3】
前記(A)成分のラジカル硬化性官能基が、前記(A)成分の分子鎖末端に有する、請求項1または2に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項4】
前記(A)成分の主鎖が、ポリ(メタ)アクリレート、ポリオレフィンからなる群から選ばれた少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の構成部材をシールするために用いられるラジカル硬化性シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を構成する部材には各種のシール部材が用いられている。例えば、自動車用の固体高分子型燃料電池では、ガスおよび冷媒の漏れを防止するとともに、セル内を湿潤状態に保持するために、膜電極接合体(MEA)および多孔質層の周囲や、セパレータ間のシール性を確保するシール部材が用いられている。
前記シール部材には、生産性に優れ、薄膜化が可能なものとして、ラジカル硬化性シール部材が好ましく用いられる。このような燃料電池用のラジカル硬化性シール部材は、近年において各種のものが提案されており、例えば、そのポリマーとして、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ポリイソブチレンポリマーや(メタ)アクリルポリマー等のポリマーを用いたもの等がある(特許文献1および2参照)。
前記特定のポリマーを用いたラジカル硬化性シール部材は、高温~低温の広い温度領域において、柔軟性や伸び等に優れている。
【0003】
また、前記のような用途においては、生産性等により優れるよう、早く架橋反応させること、ラジカル硬化性が高いこと等が求められている。そのため、前記ポリマーとしては、その分子鎖中にウレタン結合やエステル結合を有するものが、好ましく用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/029978号
【文献】特開2019-155491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記のようなウレタン結合やエステル結合を分子鎖中に有するポリマーは、熱に弱く、加水分解しやすいといった欠点を有する。このような熱劣化や加水分解が生じると、燃料電池シール部材において、硬度や伸びが低下したり、へたり易くなるという問題が生じる。
また、燃料電池の発電反応の際に水が発生することから、燃料電池シール部材は、常に温水にさらされることとなる。そのため、燃料電池シール部材は、特に厳しい耐加水分解性が要求される。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、熱および加水分解によっておこる力学特性の変化(脆化による伸びの低下、硬度上昇等)が抑えられ、製品耐久性に優れている、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、(メタ)アクリロイル基等のラジカル硬化性官能基を分子鎖末端に有し、かつ分子鎖内にウレタン結合およびエステル結合の少なくとも一方を有する燃料電池シール部材用ポリマー(A)に対し、特定のカルボジイミド化合物(B)、すなわち、エーテル基、炭素数が3以上の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基といった特定の官能基を有するカルボジイミド化合物を、特定の割合で配合し、さらに、単官能(メタ)アクリルモノマー(C)、多官能(メタ)アクリルモノマー(D)、およびラジカル重合開始剤(E)を所定量配合して得られた組成物からなる架橋体を、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材として用いたところ、意外にも、熱および加水分解によっておこる力学特性の変化が抑えられ、製品耐久性の向上効果が顕著に得られるようになることを見出した。
前記のような作用効果が得られる主たる理由としては、前記燃料電池シール部材用ポリマー(A)の分子鎖内のウレタン結合やエステル結合が熱および加水分解によって破断した際に、その破断箇所に対し、前記特定のカルボジイミド化合物(B)が補修する働きを示すようになるためと考えられる。
なお、前記以外のカルボジイミド化合物を使用した場合では、このような働きを示さないか、あるいは柔軟性や伸びが損なわれて(架橋物の硬化性が高くなり)、所望の製品耐久性が得られなかったりシール性に劣るようになることが、実験の結果明らかとなった。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]をその要旨とする。
[1] 下記(A)~(E)成分を含有し、かつ下記(B)成分の含有割合が、下記(A)成分100質量部に対し0.1~10質量部であるラジカル硬化性組成物の架橋体からなる、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
(A)ラジカル硬化性官能基を有し、かつ分子鎖内にウレタン結合およびエステル結合の少なくとも一方を有する燃料電池シール部材用ポリマー。
(B)エーテル基、炭素数が3以上の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有する、カルボジイミド化合物。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
[2] 前記(A)成分のラジカル硬化性官能基が、(メタ)アクリロイル基である、[1]に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[3] 前記(A)成分のラジカル硬化性官能基が、前記(A)成分の分子鎖末端に有する、[1]または[2]に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[4] 前記(A)成分の主鎖が、ポリ(メタ)アクリレート、ポリオレフィンからなる群から選ばれた少なくとも1つである、[1]~[3]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材は、熱および加水分解によっておこる力学特性の変化(脆化による伸びの低下、硬度上昇等)が抑えられることから、製品耐久性に優れるようになる。そのため、燃料電池用のシール部材として優れた性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材をシール体とした一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施形態に限られるものではない。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの両方を包含する概念として用いられる語であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの両方を包含する概念として用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方を包含する概念として用いられる語である。また、「ポリマー」は、コポリマーおよびオリゴマーを包含する概念として用いられる語である。
【0012】
本発明の一実施形態である燃料電池用ラジカル硬化性シール部材(以下、「本シール部材」という場合がある。)は、先に述べたように、下記の(A)~(E)成分を含有し、かつ下記(B)成分の含有割合が、下記(A)成分100質量部に対し0.1~10質量部であるラジカル硬化性組成物の架橋体からなる。
(A)ラジカル硬化性官能基を有し、かつ分子鎖内にウレタン結合およびエステル結合の少なくとも一方を有する燃料電池シール部材用ポリマー。
(B)エーテル基、炭素数が3以上の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有する、カルボジイミド化合物。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
【0013】
以下に、本シール部材に使用される各成分材料について詳細に説明する。
【0014】
<(A)成分>
(A)成分は、ラジカル硬化性官能基を有し、かつ分子鎖内(主鎖内あるいは側鎖内)にウレタン結合およびエステル結合の少なくとも一方を有する燃料電池シール部材用ポリマーである。(A)成分は、本シール部材の材料である前記ラジカル硬化性組成物の主成分であり、通常、組成物全体の過半を占める。
ここで、「燃料電池シール部材用ポリマー」とは、燃料電池シール部材に要求される特性である、発電を阻害するような夾雑物を含まない、防水性に優れたポリマーのことを言う。このようなポリマーとしては、その主鎖が、例えば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリオレフィン、ポリシロキサン等であるものが挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、力学特性に優れることから、ポリ(メタ)アクリレート、ポリオレフィンが好ましく、より好ましくはポリ(メタ)アクリレートが用いられる。
【0015】
(A)成分の主鎖がポリ(メタ)アクリレートの場合、その主鎖は、1種以上の(メタ)アクリルモノマーの単独重合体や共重合体、または、1種以上の(メタ)アクリルモノマーおよびこれと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体で構成される。
(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸オレイル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸2-デシルテトラデカニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸トリル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数を共重合させてもよい。
【0016】
また、前記(メタ)アクリルモノマーを他のモノマーと共重合、さらにはブロック共重合させてもよい。共重合させるモノマーとしては、例えば、スチレン等のスチレン系モノマー、パーフルオロエチレン等のフッ素含有ビニルモノマー、ビニルトリメトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー等が挙げられる。
【0017】
前記のなかでも、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましく、エステル基の炭素数が2~14のアクリル酸エステルモノマー、エステル基の炭素数が8~14のメタクリル酸エステルモノマーがより好ましい。エステル基の炭素数が前記範囲外になると、低温における圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられる。また、特に、炭素数が前記範囲より大きくなると、重合時の反応性が悪くなり、合成し難くなる傾向がみられる。
【0018】
他方、(A)成分の主鎖がポリオレフィンの場合、その主鎖は、エチレン、プロピレンブテン、ブタジエン、イソブチレン、イソプレン等の、比較的低分子量のオレフィンあるいはジオレフィンを重合させて得ることができる。なかでも、柔軟性、力学特性に優れることから、前記主鎖は、ポリブタジエン、ポリイソブチレンが好ましい。
前記オレフィンに対し、一部他のモノマーと共重合、さらにはブロック共重合させてもよい。共重合させるモノマーとしてスチレン系モノマー、ビニル系モノマー、アリル系モノマー等が挙げられる。
また、(A)成分の分子鎖内には、ウレタン結合およびエステル結合の少なくとも一方を有することを要するため、例えば、ウレタン結合を付与する場合、特開2007-211240号公報に記載されたように、主鎖に水酸基を有するオレフィンを重合し、さらにイソシアネート基を有する(メタ)アクリル酸エステルを反応させることで、これらの結合を(A)成分の分子鎖内に導入することができる。また、エステル結合を付与する場合、種々方法はあるが、例えば、フリーデル・クラフツ反応を用いアクリル酸エステル等のラジカル重合性反応基およびエステル基を有する構造を付与することで、これらの結合を(A)成分の分子鎖内に導入することができる。
【0019】
また、(A)成分は、ラジカル硬化性官能基を有するポリマーである。そして、ラジカル硬化性に優れることから、(A)成分は、その分子鎖末端にラジカル硬化性官能基を有するポリマーであることが好ましく、その分子鎖の両末端にラジカル硬化性官能基を有するポリマーであることがより好ましい。
さらに、(A)成分1分子当たりに導入されるラジカル硬化性官能基の平均数は、1.5~4個であることが好ましく、より好ましくは1.7~2.3個である。
ここで、ラジカル硬化性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、反応性に優れることから、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーが好ましい。
【0020】
主鎖となるポリマーの分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を導入するには、合成手法によって異なるが、基本的には主鎖となるポリマー末端に反応基を付与し、付与した反応基と反応性を有する官能基を有する低分子量の(メタ)アクリル酸エステルモノマーを反応させる、といったことが行われる。具体的な合成手法としては、原子移動ラジカル重合や先に挙げたフリーデル・クラフツ反応等が挙げられる。
【0021】
(A)成分は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、下記一般式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
前記一般式(1)中、炭素数1~20のエステル残基としては、直鎖状、分岐状および環状のいずれでもよく、例えば、メチルエステル残基、エチルエステル残基、n-プロピルエステル残基、イソプロピルエステル残基、n-ブチルエステル残基、イソブチルエステル残基、t-ブチルエステル残基、ペンチルエステル残基、ヘキシルエステル残基、ヘプチルエステル残基、オクチルエステル残基、シクロペンチルエステル残基、シクロヘキシルエステル残基等が挙げられる。なかでも、前記エステル残基としては、炭素数2~14のエステル残基が好ましい。また、一般式(1)中、有機基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基等の炭素数1~20の非置換、または置換1価の炭化水素基等が挙げられる。前記有機基としては、反応性を高める観点から、水素原子またはアルキル基が好ましく、なかでも、水素原子またはメチル基がより好ましい。また、一般式(1)中、nは20~800であるが、なかでも、50~400が好ましい。
【0024】
これら(A)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(A)成分のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。(A)成分のガラス転移温度(Tg)が前記温度よりも高くなると、低温における圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられる。
なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-100℃であることが好ましい。
かかる(A)成分のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)で測定される。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC-5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め、その極大点からガラス転移温度を求める。
【0026】
(A)成分の数平均分子量(Mn)は、例えば、3000~100000が好ましく、5000~50000がより好ましい。数平均分子量(Mn)が前記範囲よりも小さいと、圧縮割れ性に劣る傾向がみられ、前記範囲よりも大きいと圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられるとともに、高粘性を発現しハンドリング性が低下する傾向がみられる。
【0027】
(A)成分の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、1.1~1.6が好ましく、1.1~1.4がより好ましい。
なお、前記数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。具体的には、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0028】
(A)成分の23℃での粘度(B型粘度計による粘度)は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、40~5000Pa・sが好ましく、100~4000Pa・sがより好ましい。
【0029】
また、(A)成分は市販品としても入手可能であり、例えば、TEAI-1000(日本曹達社製)等が挙げられる。
【0030】
<(B)成分>
(B)成分であるカルボジイミド化合物は、エーテル基、炭素数が3以上の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有する、カルボジイミド化合物である。
ここで、エーテル基としては、例えば、炭素数2~8(好ましくは炭素数2~4)のアルキルエーテル基等が挙げられる。
また、炭素数が3以上の脂肪族炭化水素基は、好ましくは炭素数2~10(より好ましくは炭素数3~5)の脂肪族炭化水素基である。具体的には、プロピル基、ブチル基、ベンジル基等が挙げられる。
また、脂環式炭化水素基は、好ましくは炭素数3~7(より好ましくは炭素数4~6)の脂環式炭化水素基である。具体的には、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が挙げられる。
そして、前記官能基を有するカルボジイミド化合物は、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0031】
また、(B)成分であるカルボジイミド化合物は、樹脂との相溶性の観点から、芳香族カルボジイミド化合物、脂環族カルボジイミド化合物であることが好ましい。
【0032】
また、(B)成分は、市販品としても入手可能であり、例えば、カルボジライトPF04F、カルボジライトV-02B、エラストスタブH01(以上、日清紡ケミカル社製)や、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-tert-ブチルカルボジイミド(以上、東京化成工業社製)等が挙げられる。
【0033】
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.1~10質量部である。すなわち、(B)成分が少なすぎると、(A)成分の分子鎖内のウレタン結合やエステル結合が破断した際の補修効果が充分に得られず、逆に(B)成分が多すぎると、例えばJIS K 6251に準拠して測定される初期の切断時伸び(Eb)に劣るようになるからである。そして、本発明の効果をより高める観点から、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.3~8質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。
【0034】
<(C)成分>
(C)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーは、分子構造内に1つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。具体的には、公知のエチレン性不飽和単官能モノマーが挙げられ、例えば、前記(A)の主鎖がポリ(メタ)アクリレートである場合の構成モノマーとして用いられる(メタ)アクリルモノマーが挙げられる。なかでも、本発明の効果をより高める観点から、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のアクリル酸アルキルエステルモノマーが好ましい。なかでも、アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましい。
【0035】
これらの(C)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、5~70質量部であることが、本発明の効果をより高める(特に柔軟性等を高める)観点から好ましく、同様の観点から10~50質量部であることがより好ましい。
【0037】
(C)成分のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましい。(C)成分のガラス転移温度(Tg)が前記温度よりも高くなると、低温における圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられる。
なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-100℃であることが好ましい。
かかる(C)成分のガラス転移温度(Tg)は、(C)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーのホモポリマーを、前記と同様、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
【0038】
<(D)成分>
(D)成分の多官能(メタ)アクリルモノマーは、分子構造内に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。具体的には、公知のエチレン性不飽和多官能モノマーが挙げられ、分子構造内に2つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,7-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートや、モノペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ポリペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトール構造と(メタ)アクリレート構造を有するペンタエリスリトールアクリレート系化合物等が挙げられる。
【0040】
これら(D)成分のなかでも、本発明の効果をより高める観点から、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,7-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物が好ましい。なかでも、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物がより好ましく、特に1,9-ノナンジオールジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0041】
(D)成分の多官能(メタ)アクリルモノマーの分子鎖(主鎖)の炭素数は、6以上であることが好ましい。炭素数が前記数値未満であると、圧縮割れ性に劣る傾向が見られる。
【0042】
これら(D)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物として、トリペンタエリスリトールアクリレートと、ジペンタエリスリトールアクリレートと、モノペンタエリスリトールアクリレートと、ポリペンタエリスリトールアクリレートとの混合物を用いてもよい。
【0043】
(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、1~20質量部であることが、本発明の効果をより高める(特に架橋性等を高める)観点から好ましく、同様の観点から2~10質量部であることがより好ましい。
【0044】
<(E)成分>
(E)成分のラジカル重合開始剤としては、エネルギー線を照射することによりラジカルが発生する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4-フェニルベンゾフェノン等のベンゾフェノン型化合物、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン等のアントラキノン型化合物、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン}、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等のアルキルフェノン型化合物、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン型化合物、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド型化合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル等のフェニルグリオキシレート型化合物等が挙げられる。なかでも、反応性に優れる観点から、アルキルフェノン型化合物が好ましく、具体的には、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が好ましい。
【0045】
これら(E)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
(E)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対し、0.01~10質量部であることが、本発明の効果をより高める観点から好ましく、同様の観点から0.1~5質量部であることがより好ましい。
【0047】
<増粘剤成分>
本シール部材の材料であるラジカル硬化性組成物には、前記(A)~(E)成分の他、必要に応じ、増粘剤成分として、フィラーや、脂肪酸アマイド等が配合される。すなわち、これらの増粘剤成分は、本シール部材を製造するに際し、組成物の粘度を高くする必要がある際に有用となる。
前記フィラーとしては、特に制限されないが、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタン、タルク、クレー、ガラスバルーン等が挙げられ、なかでもシリカが好ましい。また、分散性向上の観点から、表面処理剤により疎水化されたシリカがより好ましい。表面処理剤により疎水化されたシリカとしては、例えば、シラン化合物で表面処理されたシリカが好ましく、ジメチルシランで表面処理されたジメチルシリル化シリカ、トリメチルシランで表面処理されたトリメチルシリル化シリカ、オクチルシランで表面処理されたオクチルシリル化シリカ、メタクリロキシシランで表面処理されたメタクリルシリル化シリカがより好ましく、なかでも、トリメチルシリル化シリカ、メタクリルシリル化シリカが特により好ましい。
【0048】
これらの増粘剤成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
増粘剤成分を含有する場合、その含有量は、通常、(A)成分100質量部に対して、0.1~50質量部である。増粘剤成分の含有量が多すぎると、高粘性を発現しハンドリング性が悪くなる、力学特性の低下が起こる傾向がある。
【0050】
<各種の添加剤>
本シール部材の材料であるラジカル硬化性組成物には、前記(A)~(E)成分や、前記増粘剤成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、老化防止剤、相溶化剤、硬化性調整剤、滑剤、顔料、消泡剤、発泡剤、光安定剤、表面改質剤等、各種の添加剤を配合してもよい。
なお、前記ラジカル硬化性組成物には、燃料電池の発電を阻害したり、燃料電池の白金触媒を汚染したりするおそれがあることから、アミン、硫黄、リン系材料といったものは、不含とすることが望ましい。
【0051】
<ラジカル硬化性組成物の製造方法>
本シール部材の材料であるラジカル硬化性組成物は、前記(A)~(E)成分や、その他の成分を加え、プラネタリーミキサー等のミキサーを用いて混合・撹拌することにより製造される。
【0052】
<硬化方法>
前記ラジカル硬化性組成物は、電子線や紫外線等の活性エネルギー線により硬化される。なかでも、基材へのダメージが少ない紫外線が好ましい。活性エネルギー源としては、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、高圧水銀灯、ブラックライト、LED、蛍光灯等を好ましく用いることができる。
【0053】
前記ラジカル硬化性組成物の架橋体からなる本シール部材のガラス転移温度(Tg)は、本発明の効果をより高める観点から、-10℃以下であることが好ましく、-30℃以下であることがより好ましい。
なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-100℃であることが好ましい。
かかるガラス転移温度(Tg)は、前記と同様、示差走査熱量計(DSC)により測定される。
【0054】
<シール方法>
前記ラジカル硬化性組成物のシール方法は、例えば、ラジカル硬化性組成物を燃料電池の構成部材に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させればよい。塗布方法としては、例えば、ディスペンサー、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷等の各種方法を用いることができる。より具体的には、FIPG(フォームインプレイスガスケット)、CIPG(キュアーインプレイスガスケット)、MIPG(モールドインプレイスガスケット)等のシール方法を用いることができる。
【0055】
前記ラジカル硬化性組成物は短時間(例えば、数十秒程度)で架橋することが可能であることから、前記ラジカル硬化性組成物を用いて、前記シール方法に従い、燃料電池の構成部材をシールすることにより、生産性に優れるようになる。また、本シール部材は、膜状のシール部材にすることが容易であり、シール部材の薄膜化により、燃料電池の小型化を実現することができる。具体的には、例えば、膜状のシール部材の厚みを50~1000μmにすることが容易であり、燃料電池の小型化を実現できる。さらに、本シール部材は、高温~低温の広い温度領域において、柔軟性や伸び等に優れているとともに、熱および加水分解によっておこる力学特性の変化(脆化による伸びの低下、硬度上昇等)が抑えられ、製品耐久性に優れている燃料電池用ラジカル硬化性シール部材とすることができる。
【0056】
<用途>
前記ラジカル硬化性組成物の架橋体からなる本シール部材は、燃料電池の構成部材に用いられる。特に、寒冷地での使用等、幅広い温度範囲におけるシール性が要求される燃料電池に好適に用いられる。
【0057】
<本シール部材(燃料電池用ラジカル硬化性シール部材)の作製>
本シール部材は、(A)~(E)成分、および必要に応じて、増粘剤成分等を含有する組成物を調製した後、燃料電池のセパレータ等の各種構成部材に対してディスペンサー等を用いて塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより作製することができる。
また、燃料電池の各種構成部材に接着剤を塗布した面に対し、前記ラジカル硬化性組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより作製することもできる。
さらに、燃料電池の各種構成部材のシール対象部分の形状に応じて、所定形状に成形しておくこともできる。例えば、フィルム状に成形すると、燃料電池の各種構成部材にシール部材を、接着剤により貼り付けて利用に供することができる。
【0058】
本シール部材によりシールされる燃料電池用の構成部材は、燃料電池の種類、構造等により様々であるが、例えば、セパレータ(金属セパレータ、カーボンセパレーター等)、ガス拡散層、MEA(電解質膜、電極)等が挙げられる。
【0059】
本シール部材をシール体とした一例を図1に示す。図1は、複数枚のセルが積層されてなる燃料電池における単一のセル1を主として示したものであり、セル1は、MEA2と、ガス拡散層3と、シール部材4と、セパレータ5と、接着層6を備えている。そして、前記シール部材4が、本シール部材である。
【0060】
また、燃料電池用の構成部材としては、例えば、セパレータ5とシール部材4とが接着層6を介して接着されてなるもの、セパレータ5と自己接着性を有するシール部材4とが接着されてなるもの等であってもよい。
【0061】
MEA2は、図示しないが、電解質膜と、電解質膜を挟んで積層方向両側に配置された一対の電極からなる。電解質膜および一対の電極は、矩形薄板状を呈している。MEA2を挟んで積層方向両側には、ガス拡散層3が配置されている。ガス拡散層3は、多孔質層で、矩形薄板状を呈している。
【0062】
セパレータ5は、カーボンセパレーターもしくは金属製のものが好ましく、導通信頼性の観点から、DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)やグラファイト膜等の炭素薄膜を有する金属セパレータが特に好ましい。セパレータ5は、矩形薄板状を呈しており、長手方向に延在する溝が多数凹設されている。この溝により、セパレータ5の断面は、凹凸形状を呈している。セパレータ5は、ガス拡散層3の積層方向両側に対向して配置されている。ガス拡散層3とセパレータ5との間には、凹凸形状を利用して、電極にガスを供給するためのガス流路7が区画されている。
【0063】
シール部材4は、矩形枠状を呈している。そして、シール部材4は、接着層6を介して、MEA2やガス拡散層3の周縁部、およびセパレータ5に接着され、MEA2やガス拡散層3の周縁部を封止している。
なお、図1の例において、シール部材4は、上下に分かれた2個の部材を使用しているが、両者を合わせた単一のシール部材とすることも可能である。
【0064】
接着層6を形成する材料としては、例えば、ゴム糊、常温(23℃)で液状のゴム組成物、プライマー等が用いられる。前記材料の塗布方法としては、例えば、ディスペンサー塗布等が挙げられ、通常は常温の条件下で塗布すればよい。前記接着層6の厚みは、前記液状ゴム組成物を用いる場合、通常、0.01~1mmである。
【0065】
固体高分子型燃料電池等の燃料電池の作動時には、燃料ガスおよび酸化剤ガスが、各々ガス流路7を通じて供給される。ここで、MEA2の周縁部は、接着層6を介して、シール部材4によりシールされている。このため、ガスの混合や漏れは生じない。
【実施例
【0066】
以下、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0067】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
なお、各材料に示される各数値(測定値等)は、先に説明した基準に従い求められた値である。
【0068】
<(A)成分>
アクリロイル基末端ポリアクリレートA1(分子鎖内にエステル結合を有するアクリロイル基末端ポリアクリレートの合成例):
公知の方法(例えば、特開2012-211216号公報記載)に従い、臭化第一銅を触媒、ペンタメチルジエチレントリアミンを配位子、ジエチル-2,5-ジブロモアジペートをラジカル重合開始剤とした。アクリルモノマーとして、アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチルを50質量部/50質量部用い、アクリルモノマー/ラジカル重合開始剤比(モル比)を180にして重合し、末端臭素基アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル共重合体を得た。この重合体をN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させ、アクリル酸カリウムを加え、窒素雰囲気下、70℃で加熱撹拌した。この混合液中のN,N-ジメチルアセトアミドを減圧留去したのち、残渣に酢酸ブチルを加えて、不溶分を濾過により除去した。濾液の酢酸ブチルを減圧留去して、末端にアクリロイル基を有するアクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル共重合体[A1]を得た。A1に関し、その数平均分子量は23000、分子量分布は1.1であり、A1の1分子当たりに導入された平均のアクリロイル基の数は約1.9個であった。また、A1のガラス転移温度(Tg)は-50℃であった。
【0069】
アクリロイル基末端ポリブタジエンA2(分子鎖内にウレタン結合を有するアクリロイル基末端ポリブタジエンの市販品):
TEAI-1000(日本曹達社製)を用意した。
【0070】
アクリロイル基末端ポリイソブチレンA3(分子鎖内にエステル結合を有するアクリロイル基末端ポリイソブチレンの合成例):
公知の方法(例えば、特許第6088972号公報記載)に従い、5Lのセパラブルフラスコの容器内を窒素置換した後、n-ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)280mLおよび塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)2500mLを加え、窒素雰囲気下で撹拌しながら-70℃まで冷却した。次いで、イソブチレン1008mL(10.7mol)、p-ジクミルクロライド27.4g(0.119mol)およびα-ピコリン1.33g(0.014mol)を加えた。反応混合物が-70℃まで冷却された後で、四塩化チタン5.2mL(0.047mol)を加えて重合を開始した。重合開始後、ガスクロマトグラフィーで残存イソブチレン濃度を測定して、イソブチレン残存量が0.5%を下回った段階で、約200gのメタノールを加えた。反応溶液から溶剤等を留去した後、生成物をn-ヘキサン2Lに溶解させ、1Lの純水で3回水洗を行った。溶媒を減圧下に留去して、得られた重合体を80℃で24時間真空乾燥することにより塩素末端ポリイソブチレン系重合体を得た。次に、得られた塩素末端ポリイソブチレン系重合体を100g、塩化ブチル540mL、n-ヘキサン60mL、アクリル酸2-フェノキシエチル15.2gを1Lセパラブルフラスコに入れ、撹拌しながら-70℃に冷却した。-70℃以下に冷却が完了した後、四塩化チタン22mLを添加した。その後、-70℃で6時間撹拌を続けた後、メタノール200mLを添加して反応を停止させた。反応溶液から上澄み液を分取し、溶剤等を留去した後、生成物をn-ヘキサン650mLに溶解させ、500mLの純水で3回水洗を行い、メタノールから再沈殿した後、溶媒を減圧下に留去して、得られた重合体を80℃で24時間真空乾燥することにより、目的のアクリロイル基末端ポリイソブチレン系重合体(分子鎖内にエステル結合を有するアクリロイル基末端ポリイソブチレン[A3])を得た。A3に関し、その数平均分子量は5400、分子量分布1.11であり、A3の1分子当たりに導入された平均のアクリロイル基の数は1.93個であった。また、A3のガラス転移温度(Tg)は-70℃であった。
【0071】
<(B)成分>
カルボジライトPF04F(日清紡ケミカル社製、エーテル基を有する芳香族カルボジイミド化合物)
カルボジライトV-02B(日清紡ケミカル社製、エーテル基を有する脂環族カルボジイミド化合物)
エラストスタブH01(日清紡ケミカル社製、エーテル基を有する芳香族カルボジイミド化合物)
N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(東京化成工業社製、脂環族カルボジイミド化合物)
N,N’-ジ-tert-ブチルカルボジイミド(東京化成工業社製、炭素数が3以上の炭化水素基を有するカルボジイミド化合物)
【0072】
<(B)成分以外のカルボジイミド化合物>
1,3-ジ-p-トリルカルボジイミド(シグマアルドリッジ社製、芳香族カルボジイミド化合物)
【0073】
<(C)成分>
アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル(Tg:10~15℃、日立化成社製)
アクリル酸2-エチルヘキシル(Tg:-70℃、三菱ケミカル社製)
アクリル酸n-オクチル(Tg:-65℃、大阪有機化学工業社製)
【0074】
<(D)成分>
1,9-ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製)
【0075】
<(E)成分>
Omnirad184(iGM RESINS社製、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)
【0076】
<増粘剤成分>
アエロジルRM50(日本アエロジル社製、シリカ)
フローノンRCM300TL(共栄社化学社製、脂肪酸アマイド)
【0077】
[実施例1~13、比較例1~5]
(燃料電池用ラジカル硬化性シール部材(試験用サンプル)の作製)
下記の表1および表2に示す各成分を、同表に示す割合で配合し、プラネタリーミキサー(井上製作所社製)で混練することにより、ラジカル硬化性組成物を調製した。
ついで、前記ラジカル硬化性組成物を、バーコーターにより所定の厚みに塗布し、高圧水銀UV照射機(ヘレウス社製、F600V-10)にて紫外線を照射し(照射強度:250mW/cm2、積算光量:3000mJ/cm2)、厚み1mmの試験用サンプルを得た。
【0078】
前記のようにして得られた各試験用サンプルに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、表1および表2に併せて示す。
【0079】
≪硬度≫
前記作製の試験用サンプルについて、マイクロゴム硬度計(MD-1 type-A、高分子計器社製、測定モード:ピークホールドモード)を用いて、23℃の雰囲気下で、初期の硬度を測定した。
また、前記作製の試験用サンプルを、120℃の純水中に1000時間静置した後(耐久後)、前記と同様にして硬度(耐久後硬度)を測定した。
そして、前記耐久後硬度を、下記の基準に従い評価した。
◎:MD-1硬度の値が85以下。
○:MD-1硬度の値が85超過95以下。
×:MD-1硬度の値が95超過。
【0080】
≪初期切断時伸び≫
前記作製の試験用サンプルについて、JIS K 6251に準拠し、23℃の雰囲気下で、初期の切断時伸び(Eb)を測定した。
そして、下記の基準に従い、初期切断時伸びを評価した。
○:Ebの値が100%以上。
×:Ebの値が100%未満。
【0081】
≪耐久後切断時伸び低下率≫
前記作製の試験用サンプルを、120℃の純水中に1000時間静置した後(耐久後)、JIS K 6251に準拠し、23℃の雰囲気下で切断時伸び(Eb’)を測定した。ついで、先に述べたようにして測定した、その試験用サンプルの初期切断時伸び(Eb)に対し、前記のようにして測定した耐久後の切断時伸びの低下率(ΔEb)を、下記の式に従い算出した。
ΔEb={(Eb-Eb’)/Eb}×100
そして、下記の基準に従い、耐久後切断時伸び低下率を評価した。
○:ΔEbの値が50%未満。
×:ΔEbの値が50%以上。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
前記表1および表2の結果から、本発明に規定の各要件を充足する実施例のシール部材は、いずれも、耐久後硬度の上昇が抑えられており、耐久試験後であっても柔軟性(シール性)が維持されていることがわかる。それとともに、実施例のシール部材は、いずれも、初期切断時伸びが高く、耐久後切断時伸び低下率が低く抑えられていることから、製品耐久性に優れていることがわかる。
【0085】
これに対し、比較例1のシール部材は、本発明に規定の特定のカルボジイミド化合物(B)を含んでおらず、その結果、耐久後硬度が、MD-1硬度計の測定上限(100)を超える結果となり、また、耐久試験後の切断時伸び(Eb’)を測定する際に、割れを生じ、測定不能となる結果となった。比較例2および比較例3のシール部材は、比較例1とポリマーが変更されているものの、比較例1と同じく、本発明に規定の特定のカルボジイミド化合物(B)を含んでおらず、耐久後切断時伸び低下率を低く抑えることができない結果となった。比較例4のシール部材は、本発明に規定の特定のカルボジイミド化合物(B)を含むものの、その割合が多すぎ、初期切断時伸び(Eb)に劣る結果となった。比較例5のシール部材は、本発明に規定の特定のカルボジイミド化合物(B)ではない芳香族カルボジイミド化合物を含むものであり、耐久後硬度が、MD-1硬度計の測定上限(100)を超える結果となり、また、耐久後切断時伸び低下率を低く抑えることができない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のシール部材は、燃料電池を構成する部材に用いられ、例えば、金属セパレータ等の燃料電池用構成部材と、それをシールするゴム製のシール部材とが接着層を介して接着されてなる燃料電池シール体、もしくは前記シール部材同士が接着層を介して接着されてなる燃料電池シール体の前記シール部材に用いられる。
【符号の説明】
【0087】
1 セル
2 MEA
3 ガス拡散層
4 シール部材
5 セパレータ
6 接着層
7 ガス流路
図1