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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】潤滑方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240726BHJP
   C10M 105/02 20060101ALI20240726BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20240726BHJP
   C10M 135/04 20060101ALI20240726BHJP
   C10M 137/04 20060101ALI20240726BHJP
   C10M 137/10 20060101ALI20240726BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240726BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20240726BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/02
C10M107/02
C10M135/04
C10M137/04
C10M137/10 A
C10N30:06
C10N40:30
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021518367
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2020018150
(87)【国際公開番号】W WO2020226106
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019089255
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 剛
(72)【発明者】
【氏名】設楽 裕治
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/142157(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/105452(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の摺動部材を、潤滑油組成物(ただし、芳香族エステルと、粘度指数が140以上のポリアルファオレフィンとを配合してなる潤滑油組成物を除く。)を用いて潤滑する潤滑方法であって、
前記一対の摺動部材の一方が、エンジニアリングプラスチックを含む部材であり、他方が、鉄系材料を含む部材であり、
前記潤滑油組成物が、潤滑油基油と、構成元素としてリンを含みかつ硫黄を含まない摩耗防止剤、構成元素として硫黄を含みかつリンを含まない摩耗防止剤、並びに構成元素としてリン及び硫黄を含む摩耗防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の摩耗防止剤とを含有し、
前記潤滑油基油が、炭化水素油又は含酸素油を含み、
前記含酸素油が、エステル(ただし、芳香族エステルを除く。)、エーテル、カーボネート、及びケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記潤滑油基油の含有量が、前記潤滑油組成物全量を基準として、70質量%以上である、潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材を摺動部材として有する機械装置等においては、摺動部材を潤滑するために、各種潤滑剤が用いられている。潤滑剤としては、必要に応じて各種の添加剤を配合した潤滑油、グリース等が用いられる。
【0003】
近年、省燃費等を背景とした部品の軽量化、加工の容易性等の観点から、摺動部材として、樹脂材の使用が多くの用途で検討されている。しかし、樹脂材は、金属材に比べて機械強度に劣り、摩耗、折損等が発生する場合がある。
【0004】
例えば、引用文献1には、鉱油、合成脂環式炭化水素化合物及び合成芳香族炭化水素化合物の中から選ばれる少なくとも1種を主成分として含み、40℃における動粘度が1~8mm/sである基油を含有する潤滑剤(冷凍機油)を、ポリフェニレンサルファイド等からなる摺動部分、又はポリマーコーティング膜若しくは無機コーティング膜を有する摺動部分に適用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/058072号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
摺動部材として樹脂材(特に、エンジニアリングプラスチックを含む部材)を用いる場合、金属材を用いる場合よりも、摺動性を向上させることが不可欠となる。しかしながら、従来の潤滑方法は、摺動性の向上の観点から必ずしも充分とはいえず、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、摺動部材として樹脂材を用いた場合において、摺動性を向上させることが可能な潤滑方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一対の摺動部材を、潤滑油組成物を用いて潤滑する潤滑方法を提供する。当該潤滑方法においては、一対の摺動部材の少なくとも一方が、エンジニアリングプラスチックを含む部材であり、潤滑油組成物が、潤滑油基油と、構成元素としてリンを含みかつ硫黄を含まない摩耗防止剤、構成元素として硫黄を含みかつリンを含まない摩耗防止剤、並びに構成元素としてリン及び硫黄を含む摩耗防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の摩耗防止剤とを含有する。このような潤滑方法によれば、軽量化の観点から摺動部材として樹脂材を用いた場合において、摺動部材間の摩擦係数を低減しつつ、耐摩耗性を向上させることができ、摺動性を向上させることが可能となる。
【0009】
一対の摺動部材は、好ましくは一方がエンジニアリングプラスチックを含む部材であり、他方が鉄系材料を含む部材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、摺動部材として樹脂材を用いた場合において、摺動性を向上させることが可能な潤滑方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
一実施形態の潤滑方法は、(対向して相対的に運動する)一対の摺動部材を、潤滑油組成物を用いて潤滑する方法である。
【0013】
本実施形態の潤滑方法において、一対の摺動部材の少なくとも一方は、エンジニアリングプラスチック(以下、「エンプラ」という場合がある。)を含む部材である。エンジニアリングプラスチックとは、一般に、耐熱性が100℃以上、強度が50MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上あるプラスチックを意味する。エンジニアリングプラスチックには、さらに耐熱性が150℃以上であるスーパーエンジニアリングプラスチック(以下、「スーパーエンプラ」という場合がある。)が含まれる。
【0014】
エンプラとしては、特に制限されないが、例えば、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)等の非晶性樹脂、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の(半)結晶性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、エンプラは、ポリアセタール(POM)又はポリアミド(PA)であってよい。
【0015】
エンプラは、スーパーエンプラであってもよい。スーパーエンプラとしては、特に制限されないが、例えば、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)等の非晶性樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の(半)結晶性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、スーパーエンプラは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であってよい。
【0016】
PEEKは、ベンゼン環同士をエーテル結合又はカルボニル基で連結する構造の半結晶性ポリマーの1種である。PEEKは、例えば、下記式(A)で表される構造単位を有するポリマーである。
【0017】
【化1】
【0018】
PEEKの数平均分子量Mnは、例えば、20000~50000であってよく、PEEKの重量平均分子量Mwは、例えば、60000~150000であってよい。分子量分布を示すMw/Mnは2~4であってよい。なお、数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwは、GPC法によって測定された数値を意味し、ポリスチレン基準の相対値である。
【0019】
摺動部材は、エンプラからなる部材であってよいが、摺動性をより向上させる観点から、摺動部材は、エンプラ以外に、その他の成分として、固体潤滑剤、強化繊維、充填剤、添加剤等を含む部材であってもよい。
【0020】
固体潤滑剤としては、例えば、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、フッ素樹脂、炭素系固形潤滑剤(グラファイト、カーボンブラック等)などが挙げられる。
【0021】
摺動部材が固体潤滑剤を含む場合、その含有量は、摺動部材全量を基準として、0.1~30質量%又は0.5~20質量%であってよい。固体潤滑剤の含有量が、摺動部材全量を基準として、30質量%以下であると、コンパウンドによってペレットを作製する工程において、不良が発生し難く、摺動部材としての衝撃強度等の力学物性が著しく低下することを防ぐことができる。固体潤滑剤の含有量が、摺動部材全量を基準として、0.1質量%以上であると、固体潤滑剤を含むことの効果を充分に得ることができる。
【0022】
強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維(カーボンファイバー)、アラミド繊維、各種ウィスカー等の繊維状物などが挙げられる。これらの中でも、摺動性をより向上させることができることから、強化繊維は、好ましくはガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド繊維であり、摺動時における摺動部材の摩耗をより抑制できることから、より好ましくは炭素繊維又はアラミド繊維である。
【0023】
摺動部材が強化繊維を含む場合、その含有量は、摺動部材全量を基準として、0.1~80質量%以下又は0.5~70質量%以下であってよい。強化繊維の含有量が、部材全量を基準として、80質量%以下であると、コンパウンドによってペレットを作製する工程において、不良が発生し難く、摺動部材としての衝撃強度等の力学物性が著しく低下することを防ぐことができる。強化繊維の含有量が、摺動部材全量を基準として、0.1質量%以上であると、強化繊維を含むことの効果を充分に得ることができる。
【0024】
充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、クレー、セリサイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、チタン酸カリウム、酸化チタン、フルオロカーボン樹脂繊維、フルオロカーボン樹脂、硫酸バリウム、各種ウィスカー等が挙げられる。
【0025】
添加剤としては、例えば、着色剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、硬化剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0026】
充填剤及び添加剤の含有量の合計は、特に限定されないが、摺動部材全量を基準として、10質量%以下又は5質量%以下であってよい。
【0027】
摺動部材は、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、エンプラ以外のポリマーを含んでいてもよい。エンプラ以外のポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0028】
対向して相対的に運動する一対の摺動部材は、摺動部材の両方が、エンプラを含む部材であってもよいが、摺動部材の一方が、エンプラを含む部材であれば、他方は、エンプラを含む部材以外の部材であってもよい。このような部材としては、例えば、鉄系材料、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料等の金属系材料、エンプラ以外のポリマー、プラスチック、カーボン等の非金属系材料などが挙げられる。これらの中でも、摺動部材の他方は、摺動性をより向上させることができることから、好ましくは金属系材料を含む部材、より好ましくは鉄系材料を含む部材である。
【0029】
摺動部材の一方がエンプラを含む部材であり、他方が金属系材料を含む部材である場合において、本実施形態の潤滑方法は、表面粗さ(算術平均粗さRa)が大きい金属系材料を含む部材であっても、摺動性を向上させることが可能となる。金属系材料を含む部材の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、0.05μm以上、0.1μm以上、又は0.3μm以上であってよい。
【0030】
本実施形態の潤滑方法は、潤滑油組成物を用いて上述した摺動部材を潤滑する。潤滑油組成物は、潤滑油基油と、所定の摩耗防止剤とを含有する。
【0031】
潤滑油基油としては、例えば、炭化水素油、含酸素油等が挙げられる。炭化水素油としては、例えば、鉱油系炭化水素油、合成系炭化水素油等が挙げられる。含酸素油としては、例えば、エステル、エーテル、カーボネート、ケトン、シリコーン、ポリシロキサン等が挙げられる。潤滑油基油は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。潤滑油基油は、炭化水素油(鉱油系炭化水素油又は合成系炭化水素油)を含むことが好ましい。
【0032】
鉱油系炭化水素油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を単独又は2つ以上適宜組み合わせて精製することによって得られるパラフィン系鉱油(ノルマルパラフィン、イソパラフィン等)、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油等が挙げられる。
【0033】
合成系炭化水素油としては、例えば、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリα-オレフィン(PAO)、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0034】
潤滑油基油の40℃動粘度は、摺動性の観点から、例えば、1mm/s以上、5mm/s以上、又は10mm/s以上であってよく、1000mm/s以下、600mm/s以下、200mm/s以下、100mm/s以下、又は50mm/s以下であってよい。なお、本明細書において、40℃動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠して測定される40℃における動粘度を意味する。
【0035】
本実施形態の潤滑方法で用いられる潤滑油基油の100℃動粘度、粘度指数、NOACK蒸発量、引火点、流動点等のその他の物性は、適宜設定することができる。
【0036】
潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、例えば、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は97質量%以上であってよく、99.9質量%以下、99.7質量%以下、又は99.5質量%以下であってよい。
【0037】
摩耗防止剤は、構成元素としてリンを含みかつ硫黄を含まない摩耗防止剤(以下、「第1の摩耗防止剤」という場合がある。)、構成元素として硫黄を含みかつリンを含まない摩耗防止剤(以下、「第2の摩耗防止剤」という場合がある。)、並びに構成元素としてリン及び硫黄を含む摩耗防止剤(以下、「第3の摩耗防止剤」という場合がある。)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0038】
第1の摩耗防止剤としては、例えば、ジアルキルリン酸亜鉛;亜リン酸エステル(亜リン酸モノ(アルキル又はアリール)、亜リン酸ジ(アルキル又はアリール)、亜リン酸トリ(アルキル又はアリール)等)(ホスファイト);リン酸エステル(リン酸モノ(アルキル又はアリール)、リン酸ジ(アルキル又はアリール)、リン酸トリ(アルキル又はアリール)等)(ホスフェート);リン酸エステル又は亜リン酸エステルのアミン塩、金属塩、誘導体;縮合リン酸エステル;ホスホン酸エステル等が挙げられる。第1の摩耗防止剤は、例えば、リン酸エステル(ホスフェート)又はその金属塩であってよい。
【0039】
リン酸ジアルキルの亜鉛塩(ジアルキルリン酸亜鉛)としては、例えば、下記式(C)で表される化合物であってよい。
【0040】
【化2】
【0041】
式(C)中、R21~R24は、それぞれ独立に直鎖状又は分枝状のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は、1以上又は3以上であってよく、24以下、12以下、又は8以下であってよい。
【0042】
亜リン酸エステルとしては、例えば、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジペンチル、亜リン酸ジヘキシル、亜リン酸ジヘプチル、亜リン酸ジオクチル、亜リン酸ジノニル、亜リン酸ジデシル、亜リン酸ジウンデシル、亜リン酸ジドデシル、亜リン酸ジオレイル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジクレジル等の亜リン酸ジ(アルキル又はアリール)、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリペンチル、亜リン酸トリヘキシル、亜リン酸トリヘプチル、亜リン酸トリオクチル、亜リン酸トリノニル、亜リン酸トリデシル、亜リン酸トリウンデシル、亜リン酸トリドデシル、亜リン酸トリオレイル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリクレジル等の亜リン酸トリ(アルキル又はアリール)などが挙げられる。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよく、不飽和結合を有していてもよい。
【0043】
リン酸エステルとしては、例えば、リン酸ジエチル、リン酸ジブチル、リン酸ジペンチル、リン酸ジヘキシル、リン酸ジヘプチル、リン酸ジオクチル、リン酸ジノニル、リン酸ジデシル、リン酸ジウンデシル、リン酸ジドデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジフェニル、リン酸ジクレジル等のリン酸ジ(アルキル又はアリール)、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリヘキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリウンデシル、リン酸トリドデシル、リン酸トリトリデシル、リン酸トリテトラデシル、リン酸トリペンタデシル、リン酸トリヘキサデシル、リン酸トリヘプタデシル、リン酸トリオクタデシル、リン酸トリオレイル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリ(エチルフェニル)、リン酸トリ(プロピルフェニル)、リン酸トリ(ブチルフェニル)、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸キシレニルジフェニル等のリン酸トリ(アルキル又はアリール)などが挙げられる。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよく、不飽和結合を有していてもよい。
【0044】
縮合リン酸エステルとしては、例えば、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。
【0045】
ホスホン酸エステルとしては、例えば、ジアルキルホスホノ酢酸、ジアルキルヒドロキシメチルホスホネート、ジアルキルヒドロキシエチルホスホネート、ジアルキルヒドロキシウンデシルホスホネート等が挙げられる。これらホスホン酸エステルのアルキル基は、例えば、炭素数が1~20の直鎖又は分岐脂肪族基等であってよい。
【0046】
第2の摩耗防止剤としては、例えば、ジチオカルバメート、亜鉛ジチオカルバメート、モリブデンジチオカルバメート(MoDTC)、ジサルファイド、硫化オレフィン、硫化油脂等が挙げられる。第2の摩耗防止剤は、例えば、硫化オレフィンであってよい。
【0047】
第3の摩耗防止剤としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP);チオ亜リン酸エステル;ジチオ亜リン酸エステル;トリチオ亜リン酸エステル;チオリン酸エステル;ジチオリン酸エステル:トリチオリン酸エステル;チオ亜リン酸エステル、ジチオ亜リン酸エステル、トリチオ亜リン酸エステル、チオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、又はトリチオリン酸エステルのアミン塩、金属塩、誘導体、等が挙げられる。第3の摩耗防止剤は、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)であってよい。
【0048】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は、例えば、下記式(B)で表される化合物であってよい。
【0049】
【化3】
【0050】
式(B)中、R11~R14は、それぞれ独立に直鎖状又は分枝状のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は、1以上又は3以上であってよく、24以下、12以下、又は8以下であってよい。
【0051】
摩耗防止剤は、第1の摩耗防止剤、第2の摩耗防止剤、及び第3の摩耗防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である。摩耗防止剤は、好ましくは第1の摩耗防止剤又は第3の摩耗防止剤である。
【0052】
摩耗防止剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.3質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は3質量%以下であってよい。
【0053】
潤滑油組成物は、その目的に応じて、一般的に使用されている任意の潤滑油用添加剤をさらに含有していてもよい。このような潤滑油用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、消泡剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、酸捕捉剤、防錆剤等が挙げられる。これらの潤滑油用添加剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、例えば、0.1~20質量%であってよい。
【0054】
潤滑油組成物の40℃動粘度は、摺動性の観点から、例えば、1mm/s以上、5mm/s以上、又は10mm/s以上であってよく、1000mm/s以下、600mm/s以下、200mm/s以下、100mm/s以下、又は50mm/s以下であってよい。
【0055】
本実施形態の潤滑方法で用いられる潤滑油組成物の100℃動粘度、粘度指数、NOACK蒸発量、引火点、流動点等のその他の物性は、適宜設定することができる。
【0056】
本実施形態に係る潤滑方法は、様々な装置の潤滑システムに適用することができる。かかる潤滑システムとしては、例えば、(電気)自動車、鉄道、航空機等の輸送機械、工作機械、ロボット等の産業機械、洗濯機、冷蔵庫、ルームエアコン、掃除機等の家庭電化製品、時計、カメラ等の精密機械などの機械装置における、潤滑性が必要とされる部分を潤滑するための潤滑システムなどが挙げられる。潤滑性が必要とされる部分としては、例えば、ギア、軸受、ポンプ、ベーン/ローター、ピストンリング等の部品同士が接触して摺動する部分(摺動部)等が挙げられる。当該摺動部を含む機械装置としては、エンジン、ギアボックス、コンプレッサー、油圧ユニット、モーター等が挙げられる。当該摺動部を含む機械装置としては、その他に、各種冷媒を含む圧縮機システム等も挙げられる。
【0057】
潤滑システムにおいて、潤滑油組成物を摺動部材に供給する方法は特に制限されない。潤滑システムは、例えば、潤滑油組成物を収容する貯蔵部と、貯蔵部から摺動部材に潤滑油組成物を供給する供給部とを備えるシステムであってよい。供給部は、ポンプ等の供給手段によって潤滑油組成物を摺動部材に供給する循環式の供給部であってもよい。潤滑システムは、摺動部材に対して潤滑油組成物を含浸させるシステムであってよい。潤滑システムは、冷蔵庫、ルームエアコン等の冷媒循環システムにおける圧縮機のように、摺動部材を備える容器内に潤滑油組成物が充填されているシステムであってもよい。
【実施例
【0058】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1-1、1-2及び比較例1-1、1-2)
(実施例2-1~2-4及び比較例2-1)
(実施例3-1~3-3及び比較例3-1、3-2)
<潤滑油組成物の調製>
表1、表2、及び表3に示す潤滑油基油及び摩耗防止剤を混合することによって、潤滑油組成物を調製した。なお、表1、表2、及び表3に示す数値は、質量部を意味する。
【0060】
各成分の詳細は、以下のとおりである。
[潤滑油基油]
潤滑油基油1:ポリα-オレフィン(PAO、商品名:Durasyn-164、INEOS社製、40℃動粘度:17.5mm/s、100℃動粘度:4.0mm/s)
潤滑油基油2:ポリα-オレフィン(PAO、商品名:Durasyn-168、INEOS社製、40℃動粘度:46.0mm/s、100℃動粘度:8.0mm/s)
潤滑油基油3:鉱油系炭化水素油(API 1509,Appendix Eによる基油分類:GroupIII、40℃動粘度:20.3mm/s、100℃動粘度:4.3mm/s、粘度指数:121、15℃密度:0.836g/cm
潤滑油基油4:鉱油系炭化水素油(API 1509,Appendix Eによる基油分類:GroupI、40℃動粘度:3.4mm/s、100℃動粘度:1.3mm/s、粘度指数:84、15℃密度:0.830g/cm
[摩耗防止剤]
比較摩耗防止剤:N-オレオイルサルコシン(商品名:Sarkosyl O、BASF社製)
摩耗防止剤1-1:リン酸トリクレジル(商品名:TCP、大八化学工業株式会社製、第1の摩耗防止剤)
摩耗防止剤1-2:亜リン酸ジオレイル(商品名:JP-218-OR、城北化学工業株式会社製、第1の摩耗防止剤)
摩耗防止剤1-3:ジn-ブチルリン酸亜鉛(リン含有量:13.2質量%、硫黄含有量:0質量%、亜鉛含有量:13質量%、第1の摩耗防止剤)
摩耗防止剤2-1:硫化オレフィン(商品名:GS-440L、DIC株式会社製、第2の摩耗防止剤)
摩耗防止剤3-1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP、商品名:HiTEC 653、アフトンケミカルジャパン株式会社製、第3の摩耗防止剤)
【0061】
<摩擦特性の評価>
上記で作製した潤滑油組成物について、MTM(Mini Traction Machine)試験機(PCS Instruments社製)を用いて、以下の条件で摩擦特性試験を行い、最後の10分間の平均の摩擦係数(μ)を求めた。なお、ボールは、1/2インチ、高炭素クロム軸受鋼(AISI52100)、硬度800-920HV、表面粗さ<0.02μmの市販品の鋼球を用意し、これをショットブラストで処理することによって表面を算術平均粗さ(Ra)で0.5μmに調整した鋼ボールを用いた。また、ディスクは、充填剤未添加のポリエーテルエーテルケトン(PEEK、スーパーエンジニアリングプラスチック、Solvay社製KetaSpire(登録商標)KT-820NT)を射出成形し、縦40mm×横40mm×厚さ2mmのサイズに調整したPEEKシートをディスク(PEEKディスク)として用いた。結果を表1、表2、及び表3に示す。摩擦係数が小さいほど、摩擦特性に優れていることを意味する。
油温:25℃
荷重:50N
周速:0.5m/s
滑り率:50%
試験時間:60分間
【0062】
<摩耗特性の評価>
上記摩擦特性試験後のディスクにおける摩耗痕の深さを測定して体積摩耗量を求めた。結果を表1、表2、及び表3に示す。体積摩耗量が小さいほど、摩耗特性に優れていることを意味する。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
(比較例4-1、4-2)
<潤滑油組成物の調製>
表4に示す潤滑油基油及び摩耗防止剤を混合することによって、潤滑油組成物を調製した。なお、表4に示す数値は、質量部を意味する。また、各成分の詳細は、上記と同様である。
【0067】
<摩擦特性の評価及び摩耗特性の評価>
上記で作製した潤滑油組成物について、PEEKディスクを鋼ディスク(PCS社製標準鋼ディスク、材質:AISI52100)に変更した以外は、上記と同様にして、摩擦特性の評価及び摩耗特性の評価を行った。結果を表4に示す。対比のため、比較例2-1及び実施例2-3のデータも併せて示す。
【0068】
【表4】
【0069】
表1、表2、及び表3に示すように、特定の摩耗防止剤を含有する潤滑油組成物を用いた実施例は、潤滑油基油のみの比較例及び特定の摩耗防止剤を含有しない潤滑油組成物を用いた比較例に比べて、摺動部材間の摩擦係数を低減することができ、体積摩耗量を減らすことができた。また、表4に示すように、摺動部材の一対の組み合わせが鋼ボール及び鋼ディスクである場合、特定の摩耗防止剤を添加した比較例4-2の方が特定の摩耗防止剤を添加しなかった比較例4-1の方よりも摩擦特性及び摩耗特性の点で劣っていた。一方、摺動部材の一対の組み合わせが鋼ボール及びPEEKディスクである場合、比較例4-1及び比較例4-2とディスクの種類による体積摩耗量の絶対値に違いがあるものの、特定の摩耗防止剤を添加した実施例2-3の方が、特定の摩耗防止剤を添加しなかった比較例2-1の方よりも摩擦特性及び摩耗特性の点で優れていた。このことから、特定の摩耗防止剤を用いることによる摺動性の向上は、一対の摺動部材の少なくとも一方が、エンジニアリングプラスチックを含む部材であるときに特異的に発現する効果であることが判明した。以上より、本発明の潤滑方法が、摺動部材として樹脂材を用いた場合において、摺動性を向上させることが可能であることが確認された。