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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】修飾抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240726BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240726BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240726BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240726BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240726BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
A61P35/00
A61K39/395 Y
A61K39/395 T
A61K39/395 E
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021534636
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 GB2019053570
(87)【国際公開番号】W WO2020128447
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】1820547.6
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,サイモン・ジョン
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-533249(JP,A)
【文献】特表2017-521046(JP,A)
【文献】特表2007-528194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0201746(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体変異体分子であって、
(A)可変ドメイン(VH)、3つの定常ドメイン(C 1、C 2、およびC 3)、ならびにC 1およびC 2の間に位置するヒンジ領域を含む重鎖ポリペプチド;
(B)可変ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)を含む軽鎖ポリペプチド;
(C)スペーサー部分およびあってもよい第2のスペーサー部分、
を含み、
(i)Fc受容体結合部位がC 2内またはC 3内に位置し
(ii)VHおよびVLが抗原結合部位を形成し
(iii)該スペーサー部分が該ヒンジ領域内に位置し、または該スペーサー部分が該C 1中に位置し、そして該第2のスペーサー部分が該CL中に位置し、
(iv)(A)の重鎖ポリペプチドおよび(B)の軽鎖ポリペプチドを含み、(C)のスペーサー部分を欠く親抗体が、アゴニスト活性を有し、そして、
スペーサー部分が、該親抗体に比較した際、T-細胞トランスファーアッセイまたはIL-2分泌により測定した、該抗体変異体分子のアゴニスト活性を減少させる
(v)該スペーサー部分が20アミノ酸から80アミノ酸のポリペプチド配列を含み、
(vi)該スペーサー部分のポリペプチド配列のアミノ酸の少なくとも25%が、セリンおよびスレオニン残基であり、そして
(vii)該スペーサー部分が、該分子の長さおよび/または全体の寸法を少なくとも50Å増加させる、
抗体変異体分子。
【請求項2】
スペーサー部分が分子の長さおよび/または全体の寸法を少なくとも60Å、70Å、または75Å増加させる、請求項1記載の抗体変異体分子。
【請求項3】
スペーサー部分が 1またはヒンジ領域中に位置する、請求項1または2記載の抗体変異体分子。
【請求項4】
スペーサー部分の包含から生じる抗体変異体サイズの増加により、該抗体変異体がその抗原に結合した際、抗体変異体のFc受容体結合部位が、膜からさらに離れて配置される、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体変異体分子。
【請求項5】
スペーサー部分のポリペプチドが少なくとも4nmの長い持続長を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体変異体分子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体変異体分子であって、ポリペプチド配列が、ムチンまたはムチン様ポリペプチド配列であるか、またはこうした配列を含該ポリペプチド配列が、配列番号3~6からなる群から選ばれる配列を含んでもよい、抗体変異体分子。
【請求項7】
スペーサー部分の存在が、スペーサー部分を欠く同じ抗体と比較して、抗体変異体のアゴニスト活性を少なくとも25%減少させる、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体変異体分子。
【請求項8】
抗体変異体がヒトまたはヒト化抗体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体変異体分子。
【請求項9】
抗原結合領域が、免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフまたは免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフを有する受容体を認識する、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体変異体分子。
【請求項10】
チェックポイント経路分子、例えば:PD-1、CTLA-4、TIGIT、BTLA、PD-1H、TLT2およびTIM-3からなる群より選択される分子に結合するものである、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体変異体分子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体分子をコードする、1つまたはそれより多い核酸分子。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体分子の重鎖ポリペプチドをコードする配列を含む、核酸分子であって、スペーサー部分が重鎖ポリペプチドのヒンジ領域内またはC 1内に挿入されている、核酸分子
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体分子の軽鎖ポリペプチドをコードする配列を含む、核酸分子であって、第2のスペーサー部分が軽鎖ポリペプチドのCL内に挿入されている、核酸分子。
【請求項14】
宿主細胞において、(a)請求項11に記載の1つまたはそれより多い核酸分子、(b)請求項12に記載の核酸分子および請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体分子の軽鎖ポリペプチドをコードする核酸分子、または(c)請求項13に記載の核酸分子および請求項12に記載の核酸分子を発現させる工程を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体分子を産生する方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体分子を調製するための方法であって、(i)関心対象の抗体をコードする単数または複数の核酸を同定し;(ii)関心対象の抗体の変異体をコードするように前記核酸配列(単数または複数)を修飾し、該変異体が請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体をコードするように導入されたポリペプチドスペーサー部分を含む;(iii)宿主細胞内に、工程(ii)由来の前記修飾核酸を導入し;そして(iv)前記抗体変異体分子を発現させる工程を含む方法。
【請求項16】
抗体分子のアゴニスト活性を減少させるための方法であって、抗体分子内にスペーサー部分を導入する工程を含み、該スペーサー部分が20アミノ酸から80アミノ酸のポリペプチド配列を含み、該スペーサー部分のポリペプチド配列のアミノ酸の少なくとも25%がセリンおよびスレオニン残基であり、該スペーサー部分が抗体のC 1、ヒンジ領域、またはCL中に導入されている、方法。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体分子および少なくとも1つの薬学的に許容されうる賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項18】
療法において、例えば癌の治療のために使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体変異体分子または請求項17記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
クロスリファレンス
本出願は、2018年12月17日出願の英国出願第1820547.6号の利益を主張し、該出願は、その全体が本明細書に援用される。
発明の分野
本発明は、一般的に、抗体またはその抗原結合断片のアゴニスト活性を減少させるための方法およびアプローチに、そしてこうした修飾抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ球活性化および生存につながる決定は、抗原認識のみによるのではなく、細胞をその環境に同調させる活性化または阻害性共受容体からのシグナルの統合にもよる。これらのプロセスの理解は、活性化受容体、例えばCD28のリガンドをマスキングする免疫抑制抗体の開発に、そして阻害性受容体、例えばPD-1に結合し、天然リガンドの会合をブロッキングすることによって、抗腫瘍反応を増進させる「チェックポイント阻害剤」にもつながってきている。ブロッキングリガンド会合は、チェックポイント受容体によるシグナル伝達を防止すると考えられる。
【0003】
しかし、ブロッキング性免疫チェックポイント抗体がPD-1遺伝子全体の欠失と同程度には腫瘍増殖防止に有効ではないという、動物腫瘍モデルにおける知見(US7,595,048)は、抗体が、シグナル伝達防止に完全に有効ではないことを示唆する。
【0004】
ヒトPD-1に対して作製された最初のブロッキング抗体は、強力なアゴニスト活性を有することが観察された(WO/2004/056875; Bennettら, J Immunol. 170, 711-8, 2003を参照されたい)。しかし、抗CD28抗体TGN1412の場合に起こるように、アゴニスト抗体がターゲット受容体シグナル伝達を過剰に活性化する状況もある(Attarwala, J Young Pharm. 2, 332-6, 2010)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US7,595,048
【文献】WO/2004/056875
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bennettら, J Immunol. 170, 711-8, 2003
【文献】Attarwala, J Young Pharm. 2, 332-6, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、減弱されたアゴニスト活性を持つ修飾抗体に関する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、とりわけ、抗体のアゴニスト活性が、少なくとも部分的に、リンパ球およびターゲット細胞の間で形成される接触領域からの、抗体が仲介するホスファターゼの排除により仲介されるという、予期せぬ発見に基づく。本発明者らはさらに、巨大なホスファターゼがより少なく排除されるかまたはもはや排除されないように、抗体のサイズを増加させることによって、抗体のアゴニスト活性を減少させうることを発見した。こうした抗体修飾を、とりわけ、ブロッキング抗体のアゴニスト活性を減少させるために用いてもよい。
【0009】
特定の状況において、アゴニスト抗体は、抗CD28抗体TGN1412の場合に起こるように、ターゲット受容体シグナル伝達を過剰に活性化しうる(Attarwala, J Young Pharm. 2, 332-6, 2010)。これらの状況においては、アゴニスト抗体がホスファターゼを排除する効果が高すぎる。ホスファターゼの排除を回避し、そして抗体のアゴニスト活性を弱めるため、抗体の全体の寸法を増加させることによって、この「スーパーアゴニスト」効果を減弱させてもよい。
【0010】
本明細書に開示するのは、制御された方式でシグナル伝達の量が減少するように、受容体結合抗体を含有する接触へのホスファターゼの制限された再進入を可能にする、伸長された抗体である。本開示はしたがって、最適な療法活性を持つ伸長された抗体の設計を可能にする。
【0011】
本明細書に開示する伸長抗体のFc受容体(FcR)結合型は、受容体を、他の分子によって形成される緊密な接触から能動的に隔離し、典型的にはアゴニスト効果を完全に排除するが、これはFcR結合のみを排除するアプローチを用いては不可能である。また、FcR(または他の操作されたリガンド)を通じて細胞表面に結合するチェックポイントブロッキング抗体からの、特異性または遮断の半減期に関する有意なさらなる利点、あるいはこれらが例えば阻害性FcRを緊密な接触から排除するために使用可能であることによる、有意なさらなる利点もある可能性もある。
【0012】
本開示はさらに、とりわけ、抗原結合部位およびFc受容体結合部位の間(例えば抗原結合断片(Fab)可変/定常領域界面、Fab定常領域またはヒンジ領域中)にスペーサー部分を挿入することにより、抗体をより大きくすることによって、活性化(例えば抗CD28)および阻害性(例えば抗PD-1)抗体の両方のリガンド独立性アゴニスト活性を実質的に減少させうるという発見に基づく。特定の態様において、スペーサー部分は、抗体のサイズを増加させ、そして抗体の抗原結合部位およびFc受容体結合部位を空間的に分離するように、強固なコンホメーションを採用するポリペプチドである。こうした分子は、抗原結合を、そして望ましい場合、FcR結合特性を保持しうるが、抗体のサイズ/長さを増加させることによって、これらの分子は、典型的には、減少したアゴニスト(アンタゴニスト抗体の場合)およびスーパーアゴニスト(アゴニスト抗体の場合)活性を有する。理論によって束縛されることは望ましくないが、抗体サイズが増進されると、ターゲット受容体への結合がリガンド結合をブロッキングし、そしてそうでなければ受容体がシグナル伝達を開始するであろう、ターゲット細胞(例えば癌細胞)およびT細胞の間の緊密な接触からの受容体の排除を生じるようになる(図1を参照されたい)と考えられる。これらの方式の両方で、シグナル伝達を減少させる(最小限にするかまたは排除する)能力は、臨床使用抗体には非常に望ましい。
【0013】
データによって、抗体は、巨大膜結合受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)を排除するために十分に緊密である細胞-細胞接触内(すなわち「緊密な接触」)で受容体と会合する場合、アゴニストとして作用すると示唆される[https://ora.ox.ac.uk/objects/uuid:1c97e755-e61d-4d55-8b20-b2546c826eee]。この理解の理論的な基礎は、動力学的分離モデルから得られる(Davisおよびvan der Merwe, Nat Immunol 7, 803-809, 2006)。抗体に適用される機構の重要な要件は、抗体および受容体によって形成される複合体が、リンパ球によって発現される最小のRPTP、例えば約216ÅであるCD45R0よりも小さくなければならない(細胞表面平面に対して直交する方向で)ことである(Changら, Nat Immunol. 17, 574-82, 2016)。抗体がFc受容体ならびにそのターゲット受容体に結合する場合(図1a)、ホスファターゼが枯渇した接触で受容体が保持されるため、強いシグナル伝達が確実になると予期される。しかし、本発明者らは、Fc受容体に結合しない抗体であっても、原理的に、他の分子、例えば小分子接着タンパク質によって生成される、ホスファターゼを排除するギャップ中に存在するために十分に小さい複合体を形成可能であり、それによって連続したシグナル伝達が可能であると予期する(図1b)。
【0014】
前記は、小分子受容体、例えばPD-1に結合する、すべてではなくても大部分の抗体は、これらが、FcR会合を伴いまたは伴わずに、そのターゲットと形成する複合体が約216Åより小さいため、ある程度のアゴニスト活性を有することを暗示する。これは、シグナル伝達ブロッカーとして用いられる抗体の有効性を鈍化させるであろう。
【0015】
本明細書において、緊密な接触は、接触に渡る局所接着分子の相互作用によって生成される、2つの相互作用細胞の間の界面の緊密な膜並置の領域である。緊密に接触する膜の緊密並置は、ホスファターゼの排除に関与する。
【0016】
本発明者らが論じるアゴナイズ可能な受容体のすべては、Fc受容体を含めて、チロシン含有リン酸化モチーフ(すなわち免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)等)を有する。本発明者らは、これらがすべて、ホスファターゼ排除によって誘発されると提唱している。伸長抗体がまた、Fc受容体とも会合する能力は、これらの受容体が潜在的に、緊密な接触から排除される可能性もあり、双方向的にシグナル伝達潜在能力を改変することを意味する。
【0017】
本発明の第一の側面にしたがって、(i)Fc受容体結合部位、(ii)抗原結合部位、ならびに(iii)(i)および(ii)の間に位置するスペーサー部分を含む、抗体変異体/構築物分子であって、(iii)を欠く抗体変異体に比較した際、分子のアゴニスト活性を減少させるため、スペーサー部分が(i)および(ii)の間の距離を増加させるように働く、前記抗体変異体/構築物分子を提供する。
【0018】
特定の態様において、スペーサー部分の導入は、分子の全体の寸法を増加させる。
特定の態様において、スペーサー部分は、抗原結合部位およびFc受容体結合部位の間の定常領域中に位置する。
【0019】
特定の態様において、スペーサー部分は抗体のヒンジ領域中に位置する。
特定の態様において、スペーサー部分は強固なスペーサー部分、例えばムチンまたはムチン様ポリペプチド配列であり、そしてスペーサー部分の包含は、抗体の長さおよび/または全体の寸法を増加させる。
【0020】
特定の態様において、スペーサー部分の包含から生じる抗体変異体/構築物サイズの増加により、該抗体変異体がその抗原に結合した際、抗体変異体のFc受容体結合部位は、緊密な接触から離れて隔離されるようになる。言い換えると、抗体変異体が抗原(例えば受容体)に結合する際、細胞間の接触からは立体的に排除され、これは、抗体会合受容体によるシグナル伝達の減少を生じる。
【0021】
特定の態様において、スペーサー部分の包含から生じる抗体変異体/構築物サイズの増加により、抗体変異体がその抗原に結合した際、抗体変異体のFc受容体結合部位は、膜からさらに離れて配置される。
【0022】
本発明の第二の側面にしたがって、本発明の第一から第四の側面のいずれかにしたがった抗体変異体/構築物をコードする、1つまたはそれより多い核酸分子を提供する。この側面の変形において、本発明の第一から第四の側面のいずれかにしたがって、抗体変異体をコードする配列を含む、核酸分子を提供する。
【0023】
本発明の第三の側面にしたがって、本発明の第二の側面の核酸を含むベクターを提供する。
本発明の第四の側面にしたがって、本発明の第二の側面にしたがった核酸配列または本発明の第三の側面にしたがったベクターを含む、宿主細胞を提供する。
【0024】
本発明の第五の側面にしたがって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体/構築物を産生する方法であって、宿主細胞において、本発明の第二の側面にしたがった核酸(単数または複数)を発現させる工程を含む、前記方法を提供する。
【0025】
本発明の第六の側面にしたがって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体/構築物を調製するための方法であって、関心対象の抗体をコードする核酸配列を同定し、そして関心対象の抗体変異体をコードするように前記核酸配列を修飾する工程を含み、この変異体が、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体をコードするように導入されたポリペプチドスペーサー部分を含む、前記方法を提供する。
【0026】
本発明の第七の側面にしたがって、抗体のアゴニスト活性を減少させるための方法であって、抗体内に、分子のFc受容体結合部位および抗原結合部位の間の距離を増加させる、スペーサー部分を導入する工程を含む、前記方法を提供する。特定の態様において、スペーサー部分は、抗体のヒンジ領域中に挿入される。特定の態様において、スペーサー部分は強固なスペーサー部分である。
【0027】
本発明の第八の側面にしたがって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体/構築物および少なくとも1つの薬学的に許容されうる賦形剤を含む、薬学的組成物を提供する。
【0028】
本発明の抗体変異体または薬学的組成物を、医薬品として用いてもよい。
医薬品での治療に適した疾患の例は、本明細書の別の個所で考慮される。
本発明の第九の側面にしたがって、療法における使用のための、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体または本発明の第八の側面にしたがった薬学的組成物を提供する。特定の態様において、療法は癌の治療である。
【0029】
本発明の第十の側面にしたがって、治療の必要がある患者を治療する方法であって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体または本発明の第八の側面にしたがった薬学的組成物を投与する工程を含む、前記方法を提供する。特定の態様において、方法は癌を治療するためである。別の態様において、癌を治療する方法は、治療の必要がある患者に、分子を伸長させて緊密な接触からの排除を最大限にすることによって、アゴニスト活性を最小限にする/欠くように適応されている、抗体変異体分子、またはその薬学的組成物を投与する工程を含む。特定の態様において、伸長は、抗体内への強固なスペーサー部分の包含によって引き起こされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】抗体によるアゴニスト性シグナル伝達。T細胞およびターゲット細胞の間の接触は、「緊密な接触」の形成を生じ、これは受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)を排除し、キナーゼの活性を増強する。(a)において、シグナル伝達受容体(例えばPD-1)およびFc受容体(FcR)へのブロッキング抗体の同時結合は、ホスファターゼが枯渇した緊密な接触に、シグナル伝達受容体を保持し、受容体のリガンド結合部位が抗体によってブロッキングされていたとしても、シグナル伝達を導く。(b)において、FcRは存在しない(例えばターゲット細胞が腫瘍細胞であるため)か、または抗体はFcRに結合不能であるが、にもかかわらず、抗体/受容体複合体が緊密な接触に進入するかまたは緊密な接触を保持することが可能であり、シグナル伝達を導く。(c)において、抗体は本明細書に記載するように伸長され、そして抗体は、RPTPが進入するために十分に大きい緊密な接触を生成する。次いで、RPTPは、受容体によるシグナル伝達をブロッキングする。(d)において、小分子接着タンパク質が緊密な接触を生成し、結合したFcRをともに所持する、伸長された抗体の立体排除を導く。これはシグナル伝達受容体およびFcRの両方によるシグナル伝達を防止する。
図2図2は、クローン2の重鎖の配列を示す。
図3】JJ316アゴニズムはFc依存性であるが、JJ316の脱グリコシル化型およびFc不活性化(FcサイレントTM)型は活性である。ガラス表面を、100μg/mL抗IgGカッパ軽鎖二次(2)抗体(Ab)で、またはコーティング緩衝液のみ(2Ab不含)でコーティングした。(a)において、BW5147細胞をフィシン生成F(ab’)2または未消化抗体とインキュベーションし、そして次いで、コーティングしたガラス表面と相互作用させた。(b)および(c)において、細胞を、それぞれ、JJ316のPNGアーゼFまたはFc不活性化型とインキュベーションした。(a)において、(b)および(c)における細胞よりも、細胞は、CD28をより高いレベルで発現し、これらを可溶性JJ316抗体により感受性にした。24時間後、ELISAアッセイ(eBioscience)によって、IL-2産生を評価した。
図4】ヒンジ領域中で伸長されたJJ316抗体の設計。(a)IgG抗体の四次構造の概観。(b)IgGヒンジ領域の詳細図、抗体を伸長する30~50残基のCD43由来ムチン様配列を付加するための、システインC1およびC2の間の挿入ポイントを示す。
図5】JJ316抗体の操作された伸長型の分析。(a)伸長抗体の図。(b)クロマトグラフィ分析。50μgの非修飾JJ316、JJ316+30、およびJJ316+50をサイズ排除クロマトグラフィに供した。異なる抗体を別個に、または~20μgの各抗体の混合物として注入するためのクロマトグラムを示す。10/300 Sepharose 200カラムを取り付けたAkta FPLC系(GE Healthcare)をクロマトグラフィに用い;注入体積は0.5mLであった。抗体を注入し、そしてリン酸緩衝生理食塩水中で溶出させた。(c)伸長JJ316抗体は、細胞表面に発現されたCD28に結合する。CD28でトランスフェクションされたBW5147細胞を、非修飾または伸長JJ316抗体(5μg/mL)とインキュベーションするか、あるいは抗体を伴わずにインキュベーションした後、Alexa647(登録商標)カップリング抗マウス二次抗体(2μg/mL)とインキュベーションした。フローサイトメトリーによって結合を測定した。
図6】伸長JJ316抗体は、結合適格性であるが、劇的に減少したシグナル伝達能を示す。(a)CD28発現BW5147細胞を、10μg/mLのJJ316、JJ316+30、JJ316+50またはJJ319(非スーパーアゴニスト性抗CD28抗体)とインキュベーションし、そして次いで、500μg/mLロバ(donkey)抗マウスIgG(DAM)二次抗体および示す力価のKT3抗CD3ε抗体でコーティングしたガラス表面上に置いた。24時間後、IL-2分泌を評価した。(b)において、KT3抗体をガラス表面から取り除き、そして代わりに、細胞に添加したJJ316抗体を示すように滴定した。
図7】CD45は、同じ抗体の伸長型よりも、アゴニスト性抗CD28抗体接触によってより効率的に排除される。(a)ロバ抗マウス抗体でコーティングしたカバーガラスと相互作用するCD28発現細胞に関する、抗体(赤)およびCD45(緑)蛍光の分布を示す合成画像。上部および下部画像は、それぞれ、スーパーアゴニストJJ316および伸長抗体JJ316+50で標識した細胞を示す。(b)において、(a)で描いた白い点線に対応する強度線プロファイルを示す。スケールバー:2μm。
図8】クローン2結合特性。(a)PD-1上のクローン2エピトープの突然変異分析。ヒト同等残基を含み、黒で着色した該残基の突然変異、すなわちN41、K53およびA56がクローン2の結合を中断させる、マウスPD-1(ヒトPD-1のモデルとして用いられる)のリガンド結合ドメインの結晶構造の直交図(orthogonal view)を示す。その突然変異が影響を及ぼさない残基をグレーで着色する。Almoおよび同僚らによって定義されるような、PD-1のリガンド結合領域の位置を円で囲む。(b)クローン2は、リガンド結合をブロッキングする。ほぼ飽和レベルのクローン2抗体(0.1mg/ml;注入2)の前(注入1)および後(注入2)、PD-L1(0.35mg/ml)を、固定PD-1を含有するBiacoreTMフローセル内に注入した。代表的なセンサグラムを示す。PD-L1へのPD-1上の類似の位に結合するPD-L2に関して、同等のデータを得た。(c)固定クローン2抗体への可溶性PD-1の結合の単回サイクル動力学分析を行い、37nMのKDを得た。
図9】OVAでの免疫後の、in vivoでのhPD-1発現対野生型OT1トランスジェニックT細胞の拡大に対する抗PD-1抗体(クローン2、クローン10およびクローン19)の影響(平均±SEM)。
図10】本明細書記載のスペーサー(50残基)の挿入による、PD-1に対するクローン2の部分的アゴニズムの消失。(a)トランスジェニックCD8 T細胞に対する抗PD-1抗体の影響および(b)トランスジェニックCD4 T細胞に対する影響。
図11】MVA-OVAでの免疫後の、in vivoのhPD-1発現対野生型OT1トランスジェニックCD8 T細胞の拡大に対する、PD-1ブロッキング抗体ニボルマブの操作変異体(D265Aまたは50残基伸長)の影響(平均±SEM)。
図12】(a)表面プラズモン共鳴(SPR)によって評価した、mIgG1および伸長ヒンジ(50残基)mIgG1抗体のFcγRIIBへの結合。(b)SPR分析から得た解離定数。
図13】MC38癌モデルにおけるクローン2対伸長(50残基)クローン2の有効性。C57BL/6メスマウスの脇腹に、1x106同系結腸癌MC38細胞を皮下注入した。腫瘍が100mm3の平均サイズに到達したら、マウスを未処置のまま放置するか、または示す抗体を週2回2週間注入した(矢印)。(a)および(b)は、2回の独立反復実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書および付随する請求項において、単数形「a」、「an」および「the」には、文脈が明らかに別に指示しない限り、複数の参照物が含まれる。したがって、例えば「1つの分子(a molecule)」に対する言及には、随意に、2つまたはそれより多いこうした分子の組み合わせが含まれる等である。
【0032】
本明細書において、側面が、用語「含む」とともに記載される場合はいつでも、「からなる」および/または「から本質的になる」の用語で記載される、そうでなければ類似の側面もまた提供されると理解される。
【0033】
文脈が明らかに別に示さない限り、本明細書記載の多様な態様の1つ、いくつかまたはすべての特性を、任意の側面に適用してもよいことが理解されるものとする。さらに、多様な態様を組み合わせて、本発明の他の態様を形成してもよい。本発明のこれらのおよび他の側面は、当業者には明らかになるであろう。本発明のこれらおよび他の態様は、続く詳細な説明によってさらに記載される。
【0034】
別に定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術的および科学的用語は、本開示が関連する技術分野の一般的な当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology, Juo, Pei-Show, 第2版, 2002, CRC Press; The Dictionary of Cell and Molecular Biology, 第3版, 1999, Academic Press;およびOxford Dictionary Of Biochemistry and Molecular Biology, 改訂版, 2000, Oxford University Pressは、一般の当業者に、本開示で用いる用語の多くの一般的な辞書的定義(dictionary)を提供する。
【0035】
用語「約」は、本明細書において、この技術分野の当業者に容易に知られる、それぞれの値の通常の誤差範囲を指す。「約」値またはパラメータへの言及は、本明細書において、その値またはパラメータ自体に向けられる態様を含む(そして記載する)。
【0036】
当該技術分野に知られるように、ポリペプチドは、ペプチド(アミド)結合によって連結される、アミノ酸の連続した非分枝鎖である。
本発明者らは、リンパ球およびそのターゲット細胞によって形成される接触領域からホスファターゼを排除することで、抗体のアゴニスト活性が生じることを発見した。本明細書に提供するのは、巨大なホスファターゼがもはや排除されないかまたはより少なく排除されるように、抗体分子のサイズが増加したならば、このアゴニスト活性を減少させうる態様を提供する。これは、ブロッキング抗体のアゴニスト活性を減少させると予期される。
【0037】
また、抗CD28抗体TGN1412(Attarwala, J Young Pharm. 2, 332-6, 2010)の場合に起こるように、アゴニストであることが知られる抗体によって、あまりにも多くのシグナル伝達がある状況もまたありうる。この場合、アゴニストがホスファターゼを排除する効果が高すぎる可能性もある。
【0038】
本発明者らは、抗体の全体の寸法を増加させて、再び、ホスファターゼの排除を回避することによって、この「スーパーアゴニスト」効果を減弱させるための、抗体修飾のための構造特徴および技術を提供している。
【0039】
受容体結合抗体を含有する接触内へのホスファターゼの制限された再進入を可能にする抗体を生成することによって、制御された方式で、シグナル伝達の量を減少させることも可能である。したがって、本発明は、最適な療法活性を持つ抗体の設計のための方法および組成物を提供する。
【0040】
本発明の伸長抗体のFc受容体(FcR)結合型は、いくつかの態様において、他の分子によって形成される緊密な接触から受容体を能動的に隔離し、典型的には受容体のシグナル伝達を完全に排除することも可能であり(図1を参照されたい)、これは、FcR結合のみを排除するアプローチを用いては不可能である。また、FcR(または他の操作されたリガンド)を通じて細胞表面に結合するチェックポイントブロッキング抗体からの、特異性または遮断の半減期に関する有意なさらなる利点、あるいはこれらが例えば阻害性FcRを緊密な接触から排除するために使用可能であることによる、有意なさらなる利点もある可能性もある。
【0041】
抗体
抗体は、ターゲット、例えば、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチド等に対して、免疫グロブリン分子の可変ドメイン中に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を通じて、特異的に結合することが可能な免疫グロブリン分子である。免疫グロブリンの5つの主要なクラス(すなわちアイソタイプ):IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、そしてこれらのいくつかは、サブクラス(サブタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2にさらに分けられうる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常領域は、それぞれ、アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマおよびミューと称される。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造および三次元立体配置が周知である。文脈的制約によって別に示されない限り、該用語は抗体のすべてのクラスおよびサブクラスをさらに含む。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、典型的には、それぞれ、ギリシャ文字の対応する小文字、α、δ、ε、γ、およびμによって示される。任意の脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と称される、2つの明らかに別個のタイプの1つに割り当てられうる。
【0042】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖で構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体Y型糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結される一方、ジスルフィド連結の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の間では多様である。各重鎖および軽鎖はまた、定期的に間隔が空いた鎖間ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(VH)を、その後、いくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、そしてもう一端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第一の定常ドメインと整列し、そして軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖および重鎖可変ドメイン間で界面を形成すると考えられる。各重鎖は、1つの可変ドメイン(VH)および定常ドメインを含み、定常ドメインは、IgG、IgA、およびIgD抗体の場合は、C1、C2、およびC3と称される3つのドメインを含む(IgMおよびIgEは第四のドメイン、C4を有する)。IgG、IgA、およびIgDクラスにおいて、C1およびC2ドメインは、柔軟なヒンジ領域によって分離され、該ヒンジ領域は、多様な長さ(多様なIgGサブクラスにおいて、約10~約60アミノ酸)のプロリンおよびシステインリッチセグメントである。軽鎖および重鎖両方の可変ドメインは、約12またはそれより多いアミノ酸の「J」領域によって定常ドメインに連結され、そして重鎖はまた、約10のさらなるアミノ酸の「D」領域も有する。抗体の各クラスは、対形成システイン残基によって形成される、鎖間および鎖内ジスルフィド結合をさらに含む。重鎖可変領域(YH)および軽鎖可変領域(YL)は、各々、より保存された、フレームワーク領域(FR)と称される領域が間に散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域にさらに分けられうる。各YHおよびYLは、3つのCDRおよび4つのFRを含み、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端に、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を仲介可能であり、こうした組織または因子には、免疫系の多様な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第一成分(C1q)が含まれる。
【0043】
用語「抗体」は、本明細書において、抗原に特異的に結合する免疫グロブリン分子を指す。該用語はまた、機能的であってもまたはなくてもよい、抗体抗原結合部位およびFc受容体結合部位を含む、任意のポリペプチドまたはタンパク質も含む。本発明の抗体変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を所持するように修飾されているものである。
【0044】
本発明の抗体変異体は、ネズミ、ラット、ヒト、または任意の他の起源を含む任意の動物種由来であってもよい(キメラまたはヒト化抗体を含む)。いくつかの態様において、抗体変異体は、モノクローナル抗体である。いくつかの態様において、抗体変異体は、ヒトまたはヒト化抗体である。非ヒト抗体変異体は、ヒトにおける免疫原性を減少させるため、組換え法によってヒト化されてもよい。
【0045】
存在する「親」抗体(例えばモノクローナル抗体)を選択し、修飾して、本発明の抗体変異体を生成することが可能である一方、例えば、ファージディスプレイまたは他の抗原結合選択またはパニングアプローチを用いて選択され、抗体フレーム内に取り込まれ(例えばIgG1またはIgG4分子の定常およびヒンジ領域に融合され)てもよい、所望の抗原結合特性を有し、そしてスペーサー部分が導入されている、合成抗体を設計してもよいことが認識されるであろう。
【0046】
用語「モノクローナル抗体」(「mAb」)は、本明細書において、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、例えば集団を構成する個々の抗体は、ありうる突然変異、例えば少量存在しうる天然存在突然変異を除いて、同一である。したがって、修飾語句「モノクローナル」は、別個の抗体の混合物ではない、抗体の特性を示す。mAbは非常に特異的であり、単一の抗原性部位/エピトープに対して向けられる。
【0047】
mAbは、当業者に知られる、ハイブリドーマ、組換え、トランスジェニックまたは他の技術によって産生されてもよい。例えば、本発明にしたがったモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を、KohlerおよびMilstein(Nature 256:495, 1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製してもよいし、または例えば米国特許第4,816,567号および第6,331,415号に記載される組換えDNA法によって作製してもよい。また、「モノクローナル抗体」を、例えば、Clacksonら, Nature 1991;352:624-628およびMarksら, J. Mol. Biol. 1991;222:581-597に記載される技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。
【0048】
「ヒト」抗体(HuMAb)は、フレームワークおよびCDR領域の両方が、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を指す。さらに、抗体が定常領域を含有する場合、定常領域もまた、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来である。ヒト抗体には、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列にコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroのランダムまたは部位特異的突然変異誘発によって、あるいはin vivoの体細胞突然変異によって導入された突然変異)が含まれてもよい。しかし、用語「ヒト抗体」は、本明細書において、別の哺乳動物種、例えばマウスの生殖系列由来のCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植されている抗体を含むとは意図されない。
【0049】
抗原曝露に反応して、損なわれていない(intact)ヒト抗体またはヒト可変領域を含む損なわれていない抗体を産生するように修飾されているが、その内因性遺伝子座が不能にされているトランスジェニック動物、例えば免疫ゼノマウスに、免疫原/抗原を投与することによって、ヒト抗体を調製してもよい(XENOMOUSETM技術に関して、例えば、米国特許第6,075,181号および第6,150,584号を参照されたい)。また、例えば、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を通じて生成されるヒト抗体に関して、Liら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562, 2006)を参照されたい。こうした動物は、典型的には、ヒト免疫グロブリン遺伝子座のすべてまたは部分を含有し、これは内因性免疫グロブリン遺伝子座を置換するか、または染色体外に存在するか、または動物の染色体内にランダムに組み込まれている。こうしたトランスジェニックマウスにおいて、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の概説に関しては、Lonberg(Nat. Biotech. 23:1117-1125, 2005)を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSETM技術を記載する米国特許第6,075,181号および第6,150,584号;HUMABTM技術を記載する米国特許第5,770,429号;K-M MOUSETM技術を記載する米国特許第7,041,870号、およびVELOCIMOUSETM技術を記載する米国特許出願公報第US2007/0061900号を参照されたい。こうした動物によって生成される損なわれていない抗体由来のヒト可変領域を、例えば異なるヒト定常領域と組み合わせることによって、さらに修飾してもよい。
【0050】
また、ハイブリドーマに基づく方法によってヒト抗体を産生してもよい。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫およびマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株が記載されてきている(例えば、Kozbor J. Immunol, 133:3001(1984); Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);およびBoernerら, J. Immunol., 147:86(1991)を参照されたい)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を通じて生成されるヒト抗体もまた、Liら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562(2006)に記載される。さらなる方法には、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株由来のモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載する)およびNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268(2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載する)に記載されるものが含まれる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)もまた、VollmersおよびBrandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937(2005)、ならびにVollmersおよびBrandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91(2005)に記載される。
【0051】
用語「ヒト」抗体および「完全ヒト」抗体は、同義に用いられる。ヒト抗体のこの定義は、特に、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を排除する。
本明細書において、「ヒト化抗体」は、非ヒト抗体のCDR外部のアミノ酸のいくつか、大部分またはすべてが、ヒト免疫グロブリン由来の対応するアミノ酸で置換されている抗体を指す。いくつかの態様において、ヒト化抗体は、レシピエントのCDR由来の残基が、所望の特異性、アフィニティ、および能力を有する、非ヒト種(ドナー抗体)、例えばマウス、ラットまたはウサギのCDR由来の残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ヒト化抗体は、レシピエント抗体中、あるいは移入されたCDRまたはフレームワーク配列中のいずれにも見られないが、抗体性能をさらに改善し、そして最適化するために含まれる残基を含んでもよい。抗体のヒト化型の1つの態様において、CDRドメイン外部のアミノ酸のいくつか、大部分またはすべては、ヒト免疫グロブリン由来のアミノ酸で置換されている一方、1つまたはそれより多いCDR領域内のいくつか、大部分またはすべてのアミノ酸は不変である。抗体が特定の抗原に結合する能力を抑止しない限り、アミノ酸の小規模の付加、欠失、挿入、置換または修飾が許容されうる。「ヒト化」抗体は、元来の抗体のものと類似の抗原特異性を保持する。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、そして典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、ここで、超可変ループのすべてまたは実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、そしてFRのすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、随意に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含むであろう。さらなる詳細に関しては、例えば、Jonesら, Nature 321:522-525(1986); Riechmannら, Nature 332:323-329(1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596(1992)を参照されたい。また、例えば、VaswaniおよびHamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115(1998); Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038(1995); HurleおよびGross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433(1994);ならびに米国特許第6,982,321号および第7,087,409号も参照されたい。
【0052】
「キメラ抗体」は、可変領域が1つの種に由来し、そして定常領域が別の種に由来する抗体、例えば可変領域がマウス抗体由来であり、そして定常領域がヒト抗体由来であるかまたはその逆である抗体を指す。該用語はまた、1つの種由来の1つの個体(例えば第一のマウス)由来の可変領域、および同じ種の別の個体(例えば第二のマウス)由来の定常領域を含む抗体も含む。
【0053】
用語「抗原(Ag)」は、免疫適格性脊椎動物の免疫に用いられ、Agを認識する抗体(Ab)を産生するかまたは発現ライブラリー(例えば、とりわけ、ファージ、酵母またはリボソームディスプレイライブラリー)をスクリーニングする、分子実体を指す。本明細書において、Agはより広く使用され、そして一般的に、Abによって特異的に認識されるターゲット分子を含むよう意図され、したがって、Abを作製するための免疫プロセスにおいて、またはAbを選択するためのライブラリースクリーニングにおいて用いられる分子の部分または模倣体も含まれる。
【0054】
「二重特異性」または「二機能性」抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する、人工的ハイブリッド抗体である。伝統的には、二重特異性抗体の組換え産生は、2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現に基づき、ここで、2つの重鎖は異なる特異性を有する(MilsteinおよびCuello, Nature, 305:537-539(1983))。二重特異性抗体を作製するための方法は、当業者の範囲内である。例えば、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を含む、多様な方法によって、二重特異性抗体を産生してもよい。例えば、Songsivilaiら, (1990) Clin. Exp. Immunol. 79:315-321、Kostelnyら, (1992) J Immunol. 148:1547-1553を参照されたい。さらに、「ディアボディ」(Holligerら, (1993) PNAS USA 90:6444-6448)として、または「Janusin」(Trauneckerら, (1991) EMBO J. 10:3655-3659およびTrauneckerら, (1992) Int. J. Cancer Suppl. 7:51-52)として、二重特異性抗体を形成してもよい。
【0055】
抗原結合部位は、ターゲット抗原のすべてまたは一部に結合し、そしてこれらに相補的である分子の部分を指す。抗体分子において、これは、抗体抗原結合部位と称され、そしてターゲット抗原のすべてまたは一部に特異的に結合し、そしてこれらに相補的である抗体の部分を含む。抗原が巨大である場合、抗体は、抗原の特定の部分にしか結合しない可能性もあり、この部分をエピトープと称する。抗体抗原結合部位は、1つまたはそれより多い抗体可変ドメインによって提供されうる。好ましくは、抗体抗原結合部位は、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)を含む。
【0056】
一般的に、用語「エピトープ」は、抗体が特異的に結合する抗原の領域または部位、すなわち抗体と物理的に接触する領域または部位を指す。したがって、用語「エピトープ」は、抗体の抗原結合領域の1つまたはそれより多くで、抗体によって認識され、そして抗体によって結合されることが可能な分子の部分を指す。典型的には、エピトープは、抗体、またはその抗原結合部分(Ab)、およびその対応する抗原の間の分子相互作用の背景において定義される。エピトープは、しばしば、アミノ酸または糖側鎖などの分子の表面群からなり、そして特異的三次元構造特性ならびに特異的電荷特性を有する。いくつかの態様において、エピトープはタンパク質エピトープであってもよい。タンパク質エピトープは直鎖またはコンホメーション性であってもよい。直鎖エピトープにおいて、タンパク質および相互作用分子(例えば抗体)間の相互作用ポイントのすべてが、タンパク質の一次アミノ酸配列に沿って線形に生じる。「非直鎖エピトープ」または「コンホメーションエピトープ」は、エピトープに特異的な抗体が結合する抗原性タンパク質内に、非連続ポリペプチド(またはアミノ酸)を含む。用語「抗原性エピトープ」は、本明細書において、当該技術分野に周知の任意の方法によって、例えば慣用的イムノアッセイによって決定した際、抗体が特異的に結合可能である抗原の部分と定義される。
【0057】
エピトープに「特異的に結合する」抗体は、当該技術分野によく理解される用語であり、そしてこうした特異的結合を決定する方法もまた、当該技術分野に周知である。分子は、特定の細胞または物質と、該分子が別の細胞または物質と行うよりもより頻繁に、より迅速に、より長い期間、そして/またはより高いアフィニティで反応するかまたは会合する場合、「特異的結合」を示すと称される。
【0058】
多様なアッセイ形式を用いて、関心対象の分子に特異的に結合する抗体またはペプチドを選択してもよい。例えば、抗原または受容体と特異的に反応する抗体、あるいは同族リガンドまたは結合パートナーと特異的に結合するそのリガンド結合部分を同定するために使用してもよい多くのアッセイの中には、固相ELISAイムノアッセイ、免疫沈降、BiacoreTM(GE Healthcare、ニュージャージー州ピスカタウェイ)、KinExA、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)、OctetTM(ForteBio, Inc.、カリフォルニア州メンローパーク)およびウェスタンブロット分析がある。典型的には、特異的または選択的反応は、バックグラウンドシグナルまたはノイズの少なくとも2倍であり、より典型的にはバックグラウンドの10倍より高く、さらにより典型的にはバックグラウンドの50倍より高く、より典型的にはバックグラウンドの100倍より高く、さらにより典型的にはバックグラウンドの500倍より高く、さらにより典型的にはバックグラウンドの1000倍より高く、そしてさらにより典型的にはバックグラウンドの10,000倍より高いであろう。また、抗体は、平衡解離定数(KD)が<7nMである場合、抗原に「特異的に結合する」と言われる。
【0059】
本発明の抗体変異体分子
本発明の第一の側面にしたがって、(i)Fc受容体結合部位、(ii)抗原結合部位、ならびに(iii)(i)および(ii)の間に位置するスペーサー部分を含む、抗体変異体分子であって、(iii)を欠く抗体に比較した際、分子のアゴニスト活性を減少させるように、スペーサー部分が(i)および(ii)の間の距離を増加させる、前記抗体変異体分子を提供する。
【0060】
上述のように、抗体は任意の動物由来であってもよい。特定の態様において、抗体変異体はヒト抗体である。
特定の態様において、抗体変異体は、ヒト抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体等からなる群より選択される。
【0061】
本発明の抗体変異体分子は、IgG、例えばIgG1、IgG2(またはアグリコシルIgG2)、IgG3またはIgG4であってもよい。
特定の態様において、抗体変異体はモノクローナル抗体である。
【0062】
分子の長さの増加は、単純に、抗体のポリペプチド鎖のアミノ酸数の増加を指す。分子の全体の寸法の増加は、完全にフォールディングされた状態での分子のサイズ、特に抗体の長さ(NからC末端)の増加を指す。
【0063】
例えば混合リンパ球反応において観察されるようなT細胞活性化剤に対するin vitro反応、または免疫原、例えばオボアルブミンに対するin vivo反応などの、当該技術分野に周知のアッセイを用いて、スペーサー部分を所持するかまたは欠く抗体のアゴニスト特性を決定してもよい。
【0064】
抗体の重要なドメイン(例えばCDR、C1、C2、C3、ヒンジドメイン、Fc受容体結合部位等)のポリペプチド一次構造配列内の正確な位置は、抗体間で、そして抗体の特定のクラスで異なることが認識されるであろう。にもかかわらず、抗体のこれらの別個の部分の位置を同定することは、当業者に対してルーチンである。これをさらに容易にするため、本発明者らはまた、本開示において、参照ヒトIgG1重鎖ポリペプチドのポリペプチド配列もまた指し、これを配列番号1として示し、そしてまた、「参照ポリペプチド」とも称する。参照ネズミIgG1重鎖ポリペプチド配列(「参照ネズミポリペプチド」)もまた、本明細書の配列番号2に開示し、該配列は、EP2342228B1において、クローン2として開示される抗体に対応する。もちろん、これらの参照配列における残基の番号付けおよびその中の重要なドメインの位置は、別の抗体におけるものと同じではない可能性もあるが、これらの参照配列を、別の抗体重鎖ポリペプチド中の重要な抗体ドメインの位置をマッピングするガイドとして使用してもよい。
【0065】
配列番号1に開示する参照ポリペプチドに関して、重要な抗体ドメインは、以下のように、配列番号1中の位に位置する:
CDR1:31~35位、両端を含む
CDR2:50~66位、両端を含む
CDR3:99~116位、両端を含む
1:128~225位、両端を含む
ヒンジ:226~240位、両端を含む
2:241~350位、両端を含む
3:351~457位、両端を含む
Fc受容体結合領域:241~249位、両端を含む;274~280位、両端を含む;304~309位、両端を含む;335~342位、両端を含む。
【0066】
CDRの位は、SabPredサーバーによって提供されるABodyBuilderツールにより、「Kabat」セッティングを用いて予測された(Dunbarら, SabPred structure-based antibody prediction serve. Nucleic Acids Res. 2016 Jul 8;44(W1):W474-8)。
【0067】
Fc受容体結合部位を決定するため、以下のタンパク質データバンク(PDB)ファイルを用いた:4X4M(hIgG1 Fcと複合体化したFcγRI)、3RY6(hIgG1 Fcと複合体化したFcγRIIA)、3WJJ(点突然変異P238Dを含むhIgG1 Fcと複合体化したFcγRIIB)、3WJL(V12突然変異hIgG1 Fcと複合体化したFcγRIIC)、3SGJ(hIgG1 Fcと複合体化したFcγRIIIA)、および1T83(hIgG1 Fcと複合体化したFcγRIIIB)。個々のFc受容体結合部位を形成する残基の位を、PISAを用いて予測した(KrissinelおよびHenrick. J. Mol. Biol. 372:774-797, 2007)。
【0068】
配列番号2は、EP2342228B1中のクローン2に対応する、参照ネズミIgG1ポリペプチド配列(参照ネズミポリペプチド)である。
Fc受容体結合部位は、表面会合Fc受容体によって結合される抗体の領域であり、そして典型的には、抗体のFc領域のC2ドメイン中、ヒンジのC末端に隣接する位に位置する。例えば、参照ポリペプチド(配列番号1)において、Fc受容体結合部位/領域(単数または複数)は、両端を含む241~342位の残基を含む。
【0069】
本発明の抗体変異体分子は、単離/精製型であってもよい。本発明の単離/精製抗体変異体は、天然に会合している物質、例えばその天然環境で、あるいはこうした調製がin vitroまたはin vivoで実施される組換えDNA技術による場合は調製された環境(例えば細胞培養)で、ともに見られる他のタンパク質または核酸を含まないかまたは実質的に含まないであろう。
【0070】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、80%より高く、例えば90%より高く、95%より高く、97%より高く、そして99%より高く純粋である。
スペーサー部分または脱アゴニスト部分
スペーサー部分または脱アゴニスト部分は、抗体のストークス半径の例えば>40Åの増加(最大の寸法増加)として測定可能な、抗原結合およびFc受容体結合領域の間の距離を増加させることによって、抗体の全体の寸法を増加させる、抗体内に導入可能ないかなる構造であってもよい(Erickson, Size and Shape of Protein Molecules at the Nanometer Level Determined by Sedimentation, Gel Filtration, and Electron Microscopy. Biol Proced Online. 11:32-51, 2009を参照されたい)。適切には、これはポリペプチド配列の包含による。特定の態様において、スペーサー部分は、溶液中の強固な空間的コンホメーションまたは限定された柔軟性のコンホメーションを採用してもよい。特定の態様において、スペーサー部分は、ポリペプチド配列(ポリペプチドスペーサー)、例えば強固なコンホメーションを採用するものである。
【0071】
適切には、ポリペプチド配列は天然アミノ酸で構成されるが、非天然アミノ酸もまた使用してもよく、またはスペーサー部分はペプチド擬似体部分であってもよい。今日まで、100を超える異なる非天然アミノ酸がタンパク質に組み込まれており、そして30を超える非天然アミノ酸が翻訳と同時にタンパク質内に取り込まれている(Xieら, Curr Opin Chem Biol. 9:548-554, 2005;ならびにLuおよびFreedland Genome Biology. 7(1):102, 2006を参照されたい)。
【0072】
適切な例示的ポリペプチド配列は、アミノ酸セリンおよびスレオニンを高い比率で含有する、ムチンまたはムチン様配列を含み、そして高密度のO連結オリゴ糖で修飾される。特定の態様において、ポリペプチドスペーサー配列は、免疫グロブリン中に天然には見られないものである。
【0073】
スペーサー部分は、抗体の全体の寸法を増加させうるいかなるものであってもよい。特定の態様において、スペーサー部分はポリペプチドである(ポリペプチドスペーサー)。適切には、ポリペプチドスペーサーは、長さ少なくとも20アミノ酸、例えば長さ少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも55、少なくとも60、少なくとも65、少なくとも70、少なくとも75、少なくとも80、少なくとも90、または少なくとも100アミノ酸である。いくつかの態様において、ポリペプチドスペーサーは、約10~100アミノ酸、10~90アミノ酸、10~80アミノ酸、10~70アミノ酸、10~60アミノ酸、10~50アミノ酸、10~40アミノ酸、10~30アミノ酸、20~100アミノ酸、20~90アミノ酸、20~80アミノ酸、20~70アミノ酸、20~60アミノ酸、20~50アミノ酸、20~40アミノ酸、または20~30アミノ酸を含む。100アミノ酸(残基)の増加は、タンパク質のムチン様セグメントの持続長のおよそ2倍に等しい。
【0074】
「脱アゴナイズ」は、本明細書において、本発明にしたがって(スペーサー部分の挿入によって)修飾されていない分子に比較して、より少ないアゴニスト活性を持つことを意味する用語である。
【0075】
特定の態様において、スペーサー部分は強固なスペーサーである。強固なスペーサーは、強固なコンホメーションを採用するように、柔軟性が減少しているかまたは最小限であるスペーサーである。特定の態様において、スペーサー部分は、目的に合った(tailored)アゴニズムの減少に適用するために、限定された柔軟性を有するように設計される。
【0076】
「強固なコンホメーション」によって、本発明者らは、堅く、そして伸長したコンホメーションを採用する、すなわち有意な柔軟性を欠くものを意味する。例えば、強固なコンホメーションは、タンパク質のムチン様セグメントを採用したものに類似であろう。
【0077】
ムチンは、10~80残基配列の多数のタンデムリピートで形成される巨大な中央領域を含有し、この中で、最大でアミノ酸の半数までがセリンまたはスレオニンであり、O連結オリゴ糖で飽和している(Perez-VilarおよびHill, The Structure and Assembly of Secreted Mucins. J Biol Chem 274, 31751-31754, 1999)。ムチンの非常にグリコシル化されたドメインは、長く伸長された構造であり、非グリコシル化ランダムコイルよりもはるかにより柔軟でなく、そして二次構造を欠く(Jentoft, Trends Biochem. Sci. 15:291-294, 1991)。オリゴ糖は、ペプチド結合の周りの回転を制限することによって、そして隣接する負に荷電したオリゴ糖基の間の電荷反発によって、この堅さに寄与する。強固な構造を採用するこれらのタンデムリピートは、したがって、本発明における使用に適している。
【0078】
特定の態様において、ポリペプチドスペーサーは、ムチンまたはムチン様ポリペプチドである。
特定の態様において、ポリペプチドスペーサー中の少なくとも25%、例えば少なくとも30%または少なくとも40%のアミノ酸は、セリンおよびスレオニン残基である。こうした量のセリンおよびスレオニン残基の存在は、特に、これらの特定の数が、O連結オリゴ糖で飽和している場合に、強固なコンホメーションを生じる。いくつかの例において、散在するプロリン残基もまた、構造の強固さに寄与しうる。
【0079】
本明細書において、ムチンポリペプチド配列は、O連結オリゴ糖で飽和されることが可能であり、そして散在するプロリン残基を含有していてもよい、高比率のセリンおよびスレオニン残基を含む、ムチンタンパク質において見られるリピート配列を含むものである(例えば配列番号3、4、5または6におけるもの)。
【0080】
使用可能なムチンリピート配列の例は:Perez-VilarおよびHill, The Structure and Assembly of Secreted Mucins. J Biol Chem 274, 31751-31754, 1999の補助情報の表Lに提供される。ムチン様タンパク質の例はCD43であり、該タンパク質は、O連結オリゴ糖で飽和している高比率のセリンおよびスレオニン残基、ならびに散在するプロリン残基を含む、細胞外領域を含む、膜係留タンパク質である。
【0081】
タンデムリピートドメインを含めて、多くの種(例えばヒト、マウス、イヌ、ラット、カエル等)由来のムチンのアミノ酸配列が知られる。本発明において、抗体の長さを伸長させるように、スペーサー部分のすべてまたは一部として、これらのリピートドメイン由来の配列を用いてもよい。
【0082】
マウスCD43由来の適切な配列には、配列番号3に開示される50アミノ酸配列(RTTMLPSTPHITAPSTSEAQNASPSVSVGSGTVDSKETISPWGQTTIPVS)または配列番号4に開示される30アミノ酸配列(RTTMLPSTPHITAPSTSEAQNASPSVSVGS)が含まれる。
【0083】
ヒト抗体に関して、免疫原性を減少させるため、ヒトCD43と同等の配列を用いてもよい。したがって、ヒトCD43由来の適切な配列には、配列番号5(STTAVQTPTSGEPLVSTSEPLSSKMYTTSITSDPKADSTGDQTSALPPST)または配列番号6(STTAVQTPTSGEPLVSTSEPLSS)中の配列が含まれる。
【0084】
ムチン様ポリペプチドは、野生型ムチンリピート配列とは異なるが、該配列に有意な同一性(例えば、該配列に少なくとも70%、例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、および少なくとも95%の同一性)を含むものであるか、あるいは、ポリペプチド中のアミノ酸の少なくとも25%、例えば少なくとも30%、または少なくとも35%、または少なくとも40%、または少なくとも45%がセリンおよびスレオニン残基である配列である。特定の態様において、特定のこれらのセリンおよび/またはスレオニン残基は、O連結オリゴ糖で飽和されることが可能である。
【0085】
特定の態様において、ポリペプチドスペーサーは、配列番号3、4、5または6に開示するアミノ酸配列を含む。
抗体のFc受容体結合部位および抗原結合(または複合)領域は、2つの並置細胞の間にギャップを確立し、そして複合体が排除されるかどうかを決定する、抗体に関するアンカーポイントである。こうしたものとして、この領域の長さの増加(スペーサー部分の存在による)および/またはこれらの2つの結合部位間の全体の距離に対してこのスペーサーが有する影響が、複合体が排除されるかどうかを決定する。
【0086】
本発明者らは、抗体の長さまたは全体の寸法を増加させることによって、抗体変異体/受容体複合体が緊密な接触から排除されうると理解している(図1を参照されたい)。したがって、特定の態様において、スペーサー部分は、少なくとも40Å、例えば少なくとも50Å、少なくとも60Å、少なくとも70Å、少なくとも75Å、少なくとも100Å、少なくとも125Å、少なくとも150Å、少なくとも175Å、または少なくとも200Å、抗体の長さおよび/または全体の寸法を増加させるものである。特定の態様において、全体の寸法の増加は、少なくとも1つの抗原結合部位およびFc受容体結合部位の間のスペースの増加を意味する。
【0087】
特定の態様において、スペーサー部分の存在は、抗体変異体の全体の寸法、または抗体変異体中の抗原結合部位およびFc受容体結合部位の間のスペーシングを、スペーサー部分を欠く抗体に比較して、少なくとも50Å、少なくとも75Å、少なくとも100Å、少なくとも125Å、少なくとも150Å、少なくとも175Å、少なくとも200Å、または少なくとも250Å増加させる。
【0088】
50Åのサイズの増加は、接触部分での受容体再編成を達成するために十分なサイズ相違であることが示されている(Schmidら, Size-dependent protein segregation at membrane interfaces. Nat Phys. 2016 Jul;12(7):704-711. Epub 2016 Mar 7)。
【0089】
特定の態様において、ポリペプチドスペーサーは、長さ少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、15または20nmなどの、長い持続長を有する。抗体の長さを例えば4nmまたはそれより長く増加させることによって、変異体抗体は、界面の受容体の自発的再編成を引き起こすことが可能である(図1を参照されたい)。
【0090】
ムチン様タンパク質は、125Åの持続長を有し、すなわち約50残基の増加を有する(例えばJentoft, Why are proteins O-glycosylated? Trends Biochem Sci 15:291-294, 1990を参照されたい)。
【0091】
持続長は、ポリマーの堅さを定量化する基礎機械特性である。非公式に、これは、コースを変更する前に、ポリマーの方向が持続する向きに沿った距離の測定値を提供する(TrachtenbergおよびHammel. Determining the persistence length of biopolymers and rod-like macromolecular assemblies from electron microscope images and deriving some of their mechanical properties. Microscopy: Science, Technology, Applications and Education A. Mendez-VilasおよびJ. Diaz監修 2010中)。
【0092】
スペーサー部分の位置
スペーサー部分は、抗体がその抗原に結合する能力に干渉しない、抗体中のいかなる場所に配置してもよい。したがって、理想的には、スペーサー部分は、Fabの最上部の抗原結合領域(相補性決定領域(CDR))内には位置しない。
【0093】
特定の態様において、スペーサー部分を、抗体の抗原結合部位およびFc受容体結合部位の間に導入する。
IgG Fc領域は、特徴的なFc受容体結合部位を含有する(例えば、Winesら, The IgG Fc contains distinct Fc receptor(FcR) binding sites: the leukocyte receptors Fc gamma RI and Fc gamma RIIa bind to a region in the Fc distinct from that recognized by neonatal FcR and protein A. J Immunol. 164, 5313-8, 2000を参照されたい)。
【0094】
配列番号1に開示する例示的な抗体重鎖ポリペプチド(参照ポリペプチド)配列を参照すると、スペーサー部分は、両端を含めて、128位(抗原結合領域の起点を示すC1ドメインの始まり)および240位によって囲まれる領域内の部位に位置してもよい。
【0095】
ネズミIgG1重鎖参照配列(配列番号2)を用いる場合、スペーサー部分挿入部位の位置をマッピングするため、スペーサー部分は、両端を含めて、残基121位(抗原結合領域の起点を示すC1ドメインの始まり)およびマウスIgGのFc受容体結合領域の一部を形成する残基である262位(Baudinoら, Crucial role of aspartic acid at position 265 in the C2 domain for murine IgG2a and IgG2b Fc-associated effector functions. J. Immunol. 181, 6664-6669, 2008)の間の部位に位置してもよい。上に説明するように、例示的な配列は、単に、スペーサー部分の配置をガイドするために含まれ、そして別個の抗体における正確なアミノ酸位置は異なるであろうことが認識されるであろう。
【0096】
特定の態様において、スペーサー部分を、抗体のFab領域およびFcR結合領域の間に導入する。
特定の態様において、スペーサー部分をヒンジドメイン内に導入する。参照ポリペプチド(配列番号1)に関して、これは、両端を含めて226~240位であろう。
【0097】
特定の態様において、スペーサー部分をC1ドメイン内に導入する。参照ポリペプチドに関して、これは、両端を含めて128~225位であろう。
特定の態様において、スペーサー部分を、抗体の第一の定常ドメイン(C1としてもまた知られる)の開始部およびFcR結合領域の間の部位に導入する。参照ポリペプチドに関して、これは、両端を含めて128~240位であろう。
【0098】
したがって、特定の態様において、スペーサー部分は、配列番号1に開示するような参照ポリペプチドにおいて、両端を含めて128および240位によって囲まれる領域内の部位に位置する。
【0099】
特定の態様において、スペーサー部分を、第一の定常ドメイン(C1としてもまた知られる)の開始部およびヒンジドメインの終端部の間の部位に導入する。参照ポリペプチドに関して、これは、両端を含めて128~240位であろう。
【0100】
特定の態様において、スペーサー部分はFab領域内に位置する。これを達成するため、スペーサー部分を、抗体の軽鎖および重鎖ポリペプチドの両方の定常領域(例えばC1/Cκ1またはCλ1領域)内に、例えばこれらのポリペプチド鎖をコードする核酸内に、導入してもよい。
【0101】
特定の態様において、スペーサー部分は、重鎖定常領域(単数または複数)内、例えばヒンジ領域中にのみ導入される。重鎖内のみにスペーサー部分を導入することによって、重鎖とカップリングした際、抗原結合部位を生成するコンパニオン軽鎖は、(スペーサー部分の包含によって)修飾される必要がないことが認識されるであろう。したがって、本発明の抗体変異体を生成する「修飾」は、重鎖内でのみ、例えば重鎖コード核酸内でのみ操作されればよい。この方式で、スペーサー部分は、重鎖ポリペプチド鎖をコードする核酸から発現可能であればよい。
【0102】
したがって、スペーサー部分が抗体の重鎖内のみに導入されるポリペプチドであるならば、親抗体分子に比較して、重鎖抗体ポリペプチドのみが、ポリペプチドスペーサーの包含によって適応している抗体変異体を産生すればよい。軽鎖ポリペプチドを適用させる必要はない。
【0103】
特定の態様において、スペーサー部分は、定常領域中に位置し、そして定常領域を伸長させるように働く。
特定の態様において、スペーサー部分は、抗体のヒンジ領域中の部位に位置する。配列番号1に開示する参照ポリペプチド配列に関して、ヒンジ領域は、両端を含めてアミノ酸226~240位に位置する。したがって、特定の態様において、スペーサー部分は、配列番号1に開示するような参照ポリペプチドにおいて、両端を含めて226および240位に囲まれる領域内の部位に位置する。
【0104】
組換え/分子生物学技術を用いて、親抗体分子内にスペーサー部分を導入するために必要な方法は、ルーチンであり、そして当業者に周知である。
特定の態様において、ポリペプチドスペーサー部分は、スペーサーの一端または両端で、リンカー配列を用いて、抗体ポリペプチド内に導入される。任意の適切なリンカー配列を用いてもよい。リンカー配列は、典型的には短いペプチドである。したがって、スペーサーポリペプチドは、リンカー/スペーサーポリペプチド/リンカーを含んでもよい。適切には、リンカー配列は、グリシン-セリン(GS)またはグリシン-グリシン(GG)である。したがって、スペーサーポリペプチドは、各端にリンカー、例えばGSまたはGGを含んでもよい。適切な例には、GS/スペーサーポリペプチド/GS、GG/スペーサーポリペプチド/GG、GS/スペーサーポリペプチド/GGおよびGG/スペーサーポリペプチド/GSが含まれる。
【0105】
スペーサー部分の存在は、スペーサー部分を欠く対応する抗体に比較した際、抗体のアゴニスト活性を減少させる。特定の態様において、スペーサー部分の導入は、スペーサー部分を欠く抗体/抗体変異体に比較した際、少なくとも25%、例えば少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも85%または少なくとも90%、アゴニスト活性を減少させる。
【0106】
特定の態様において、スペーサー部分の導入(または存在)は、スペーサー部分を欠く抗体/抗体変異体に比較した際、アゴニスト活性を実質的に除去する(>95%)。
T細胞トランスファーアッセイなどの慣用的なアッセイを用いて、in vivoで分子(単数または複数)のアゴニスト活性を評価してもよい。このアッセイにおいて、ヒト化および野生型細胞の混合物を含むT細胞を宿主内にトランスファーし、その後、マウスを免疫し、そして次いでアゴニスト性抗ヒト受容体抗体を投与する。その後何らかの時点で、互いに比較した細胞の2つの集団の拡大を測定する。野生型対照に比較した、抗ヒト受容体抗体に結合するヒト化細胞集団の縮小は、抗体のアゴニスト潜在能力を反映する。
【0107】
特定の態様において、本発明の抗体変異体分子がその抗原に結合した際、抗体および受容体の複合体は、緊密な接触(例えばターゲット細胞およびT細胞の間の接触。図1を参照されたい)から立体的に排除される。
【0108】
「緊密な接触から立体的に排除される」によって、本発明者らは、抗体および受容体の複合体が、細胞間の浅いギャップ中に収容不能であり、そしてしたがって、複合体が接触から排除されることを意味する。
【0109】
核酸分子
本発明の抗体変異体/構築物は、核酸によってコードされるであろう。抗体変異体/構築物は、単一の核酸分子によってコードされてもよいし、あるいは2つまたはそれより多い核酸分子によってコードされてもよい。例えば、抗原結合部位は、典型的には、重鎖可変ポリペプチド領域および軽鎖可変ポリペプチド領域が集合することによって形成されるため、2つの可変(重鎖および軽鎖)ポリペプチド領域が、別個の核酸分子によってコードされてもよい。あるいは、他の状況において、これらは、同じ核酸分子によってコードされてもよい。
【0110】
本発明の第二の側面にしたがって、本発明の第一から第四の側面のいずれかにしたがった抗体変異体をコードする1つまたはそれより多い核酸分子を提供する。
上述のように、ポリペプチドスペーサーは、重鎖ポリペプチド内にのみ位置していてもよい。したがって、この側面の変形にしたがって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体の重鎖ポリペプチドをコードする核酸を提供する。特に、重鎖ポリペプチドは、本明細書に記載するようなポリペプチドスペーサーを含むように操作されている。
【0111】
核酸分子の1つは、抗体変異体のVLポリペプチド配列のみをコードしてもよい。核酸分子の1つは、抗体変異体のVHポリペプチド配列のみをコードしてもよい。しかし、核酸分子はまた、VHおよびVL両方の抗体変異体配列もまたコードしてもよい。
【0112】
例えば本発明の第一の側面にしたがった、本発明の抗体変異体をコードする核酸分子(単数または複数)は、他の機能的領域(要素)、例えば1つまたはそれより多いプロモーター、1つまたはそれより多い複製起点、1つまたはそれより多い選択可能マーカー(単数または複数)、および発現ベクター中に典型的に見られる1つまたはそれより多い他の要素を含んでもよい、プラスミドベクター、例えば発現ベクターであってもよいし、またはこうしたベクターの一部であってもよい。抗体を含むタンパク質をコードする核酸のクローニングおよび発現は、よく確立されており、そして十分に当業者の技術の範囲内である。
【0113】
本発明の第三の側面にしたがって、本発明の第二の側面の核酸を含むベクターを提供する。特定の態様において、ベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、または人工染色体である。
【0114】
本発明の抗体変異体を形成可能なポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むベクター核酸を含む、本発明の核酸は、精製/単離型であってもよい。
本発明の抗体変異体をコードする単離核酸は、天然に会合している物質、例えばその天然環境で、あるいはこうした調製がin vitroまたはin vivoで実施される組換えDNA技術による場合は調製される環境(例えば細胞培養)で、ともに見られる他のタンパク質または核酸を含まないかまたは実質的に含まないであろう。
【0115】
特定の態様において、本発明の核酸は、80%より高く、例えば90%より高く、95%より高く、97%より高く、そして99%より高く純粋である。
したがって、本発明の第三の側面の別の変形にしたがって、本発明の抗体変異体の重鎖可変ポリペプチドまたは軽鎖可変ポリペプチドをコードする核酸またはヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。特定の態様において、ベクターは、重鎖および軽鎖可変領域の両方をコードする核酸を含む。特定の態様において、前記ポリペプチドはまた、他のドメイン、例えば定常ドメイン、ヒンジ領域、およびFc領域、例えば1つまたはそれより多いFc受容体結合部位を含むものもまた含んでもよい。
【0116】
本発明の核酸および/またはベクターを宿主細胞内に導入してもよい。導入は、任意の利用可能な技術を使用してもよい。真核細胞に関しては、適切な技術には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム仲介トランスフェクション、およびレトロウイルスまたは他のウイルス、例えばワクシニア、あるいは昆虫細胞に関しては、バキュロウイルスを用いた、形質導入が含まれてもよい。宿主細胞、特に真核細胞における核酸の導入は、ウイルスまたはプラスミドに基づく系を用いてもよい。プラスミド系をエピソームで維持してもよいし、あるいは宿主細胞内にまたは人工染色体内に取り込んでもよい。取り込みは、単一または多数の遺伝子座での1つまたはそれより多いコピーのランダムまたはターゲティング組込みのいずれによってもよい。細菌細胞に関しては、適切な技術には、塩化カルシウム形質転換、エレクトロポレーションおよびバクテリオファージを用いたトランスフェクションが含まれてもよい。
【0117】
1つの態様において、本発明の核酸を宿主細胞のゲノム(例えば染色体)内に組み込む。組込みは、標準的技術にしたがって、ゲノムとの組換えを促進する配列の包含によって促進されてもよい。
【0118】
宿主細胞
本発明のさらなる側面は、本明細書に開示するような核酸を含有する宿主細胞を提供する。こうした宿主細胞は、in vitroであってもよく、そして培養中であってもよい。
【0119】
本発明の第四の側面は、本明細書に開示するような核酸を含有する宿主細胞を提供する。こうした宿主細胞はin vitroであってもよいし、そして培養中であってもよい。
【0120】
宿主細胞は、任意の種、例えば細菌または酵母由来であってもよいが、適切には、宿主細胞は、動物細胞、例えばヒト細胞、例えばヒト胚性腎臓細胞、または非ヒト哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞である。
【0121】
核酸の導入後に、例えば遺伝子の発現のための条件下で宿主細胞を培養することによって、核酸からの発現を引き起こすかまたは可能にしてもよい。当業者に知られる方法によって、発現された産物の精製を達成してもよい。
【0122】
したがって、本発明の抗体変異体を形成可能なポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むベクター核酸を含む、本発明の核酸は、単離宿主細胞中に存在してもよい。宿主細胞は、典型的には、宿主細胞のクローン集団の一部である。本明細書において、宿主細胞への言及はまた、前記細胞のクローン集団も含む。クローン集団は、単一の親宿主細胞から増殖しているものである。宿主細胞は、任意の適切な生物由来であってもよい。適切な宿主細胞には、細菌、真菌または哺乳動物細胞が含まれる。
【0123】
宿主細胞は、ベクター核酸(例えばプラスミドを用いるもの)の増幅を補助するように働いてもよいし、または本発明の抗体変異体を形成する、本発明のポリペプチド(単数または複数)を発現する生物学的工場として働いてもよい。ベクター核酸を増幅するために適した宿主は、細菌または真菌細胞、例えば大腸菌(Escherichia coli)細胞またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞であってもよい。本発明のタンパク質(すなわち、本発明の抗体変異体を構成するポリペプチド)を発現するために適切な宿主は、哺乳動物細胞、例えばヒト胚性腎臓(HEK)293またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)K1細胞であろう。特定の態様において、宿主細胞は、哺乳動物細胞、例えばHEK293またはCHO-K1細胞である。
【0124】
多様な宿主-発現ベクター系を利用して、本明細書に記載するような抗体変異体分子を発現させてもよい(例えば米国特許第5,807,715号を参照されたい)。例えば、ベクター、例えばヒトサイトメガロウイルス由来の主要中間初期遺伝子プロモーター要素と組み合わされた、哺乳動物細胞、例えば、CHOは、CEAタンパク質のための有効な発現系である(Foeckingら, Gene, 45:101, 1986;およびCockettら, Bio/Technology, 8:2, 1990)。異なる宿主細胞は、タンパク質および遺伝子産物の翻訳後プロセシングおよび修飾のための特徴的でそして特異的な機構を有する。適切な細胞株または宿主系を選択して、本開示のタンパク質の正しい修飾およびプロセシングを確実にしてもよい。この目的に向けて、遺伝子産物の一次転写物の適切なプロセシング、グリコシル化、およびリン酸化のための細胞機構を所持する真核宿主細胞を用いてもよい。こうした哺乳動物宿主細胞には、限定されるわけではないが、CHO、HEK293、VERY、BHK、Hela、COS-7、MDCK、3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2OおよびT47D、NS0、CRL7O3OおよびHsS78Bst細胞が含まれる。
【0125】
抗体変異体産生
本発明の第五の側面にしたがって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体を産生する方法であって、宿主細胞において、本発明の第二の側面にしたがった1つまたはそれより多い核酸を発現させる工程を含む、前記方法を提供する。
【0126】
例えば、発現に適した型で、抗体変異体をコードする核酸を含有する宿主細胞を、こうした抗体変異体を産生するために適した条件下で培養し、そして抗体変異体を回収する工程を含むプロセスによって、当該技術分野に知られる方法を用いて、本発明の抗体変異体を作製してもよい。
【0127】
1つの態様において、抗体変異体の産生法には、コードする核酸からの発現を引き起こす工程が含まれる。こうした方法は、前記抗体変異体の産生のための条件下で、宿主細胞を培養する工程を含んでもよい。
【0128】
本発明の第五の側面の変形にしたがって、本発明の抗体変異体を産生する方法であって、本発明の抗体変異体を形成するポリペプチド(単数または複数)をコードする核酸を含む宿主細胞を、前記抗体変異体の産生のための条件下で培養する工程を含み、随意に、本発明の前記抗体変異体を単離し/精製する工程をさらに含む、前記方法を提供する。
【0129】
例えばKnappikら(J Mol Biol 296, 57-86, 2000)またはKrebsら(J Immunol Methods 254, 67-84, 2001)に記載されるように、合成され、そして適切な発現ベクター内で組み立てられたオリゴヌクレオチドによって生成された遺伝子からの発現により、合成抗体分子を生成してもよい。
【0130】
本発明の抗体変異体の産生および前記分子の精製のための条件が当該技術分野に周知である。これを処理する1つの方法は、本発明の抗体変異体を発現可能な細胞のクローン集団を調製し、そして細胞集団の拡大/増殖および関心対象のタンパク質(単数または複数)の発現を可能にすることを促進する期間および温度で、適切な増殖培地中でこれらを培養することである。関心対象のタンパク質(単数または複数)(例えば本発明の抗体変異体)が増殖培地内に分泌される場合、培地を精製プロセスに供する。抗体精製は、関心対象のタンパク質を、望ましくない宿主または組織培地由来のタンパク質および他の細胞性混入物質(例えば核酸、炭水化物等)から分離するため、典型的にはクロマトグラフィを伴う(例えばアフィニティクロマトグラフィ、陰イオンおよび/または陽イオン交換クロマトグラフィまたは他の分離技術を用いる)、よく確立された方法を用いて、ハイブリドーマ細胞株の、例えば培地からの、または培養上清からの抗体の単離を伴う。また、精製タンパク質をウイルス不活性化工程に供してもよい。最後に、関心対象の精製タンパク質を、例えば、凍結乾燥するかまたは配合して、保存、輸送および続く使用に備えてもよい。好ましくは、関心対象のタンパク質(例えば本発明の抗体またはその抗原結合断片)は、発現後に培地中に元来存在した、混入タンパク質を実質的に含まないであろう。
【0131】
産生法は、抗体変異体/構築物(産物)の単離/精製の工程を含んでもよい。産生法は、産物を、少なくとも1つのさらなる構成要素、例えば薬学的に許容されうる賦形剤を含む薬学的組成物に配合する工程を含んでもよい。
【0132】
特定の態様において、本発明の抗体変異体タンパク質(産物)は、80%より高く、例えば90%より高く、95%より高く、97%より高く、そして99%より高く純粋である。
【0133】
本発明の第六の側面にしたがって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体を調製するための方法であって、関心対象の抗体をコードする核酸配列を同定し、そして関心対象の抗体変異体をコードするように前記核酸配列を修飾する工程を含み、この変異体が、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体をコードするように導入されたポリペプチドスペーサー部分を含む、前記方法を提供する。
【0134】
特定の態様において、抗体変異体分子を調製するための方法は、(i)関心対象の抗体をコードする単数または複数の核酸配列を同定し;(ii)関心対象の抗体の変異体をコードするように前記核酸配列(単数または複数)を修飾し、変異体が本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体をコードするように導入されたポリペプチドスペーサー部分を含み;(iii)宿主細胞内に、工程(ii)由来の前記修飾核酸を導入し;そして(iv)前記抗体変異体分子を発現させる工程を含む。
【0135】
本発明の第七の側面にしたがって、抗体のアゴニスト活性を減少させるための方法であって、分子のFc受容体結合部位および抗原結合部位の間の距離を増加させるスペーサー部分を、抗体分子内に導入する工程を含む、前記方法を提供する。特定の態様において、スペーサー部分はポリペプチドである。特定の態様において、スペーサー部分は抗体ヒンジ領域中に挿入される。特定の態様において、スペーサー部分は、強固なスペーサー部分である。
【0136】
本発明の第六のまたは第七の側面のいずれかの特定の態様において、スペーサー部分の包含によって、アゴニズムを減少させるための抗体または関心対象の抗体は:ニボルマブ、ペムブロリズマブまたはセミプリマブ、MEDI0680、ドスタルリマブ、ピディリズマブ、AMP-224、カムレリズマブ、ティスレリズマブ、ゲノリムズマブ、JS001-PD-1、イピリムマブ、トレメリミマブ、ティラゴルマブ、エティギリマブ、BMS-986207、Ab154、コボリマブ、BMS-986258、MBG453、LY3321367、Sym023、ムロマブ、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビジリズマブおよびフォラルマブからなる群より選択される。
【0137】
薬学的組成物
本明細書記載の抗体構築物分子を単独で投与してもよいが、特定の態様において、投与は、抗体変異体分子が少なくとも1つの薬学的に許容されうる賦形剤と配合されている薬学的組成物のものである。
【0138】
本発明の第八の側面にしたがって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体/構築物、または本発明の第三から第五の側面のいずれかにしたがって産生された抗体変異体、および少なくとも1つの薬学的に許容されうる賦形剤を含む、薬学的組成物を提供する。
【0139】
「薬学的組成物」は、活性成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形であり、そして配合物が投与されるであろう被験体に許容しえないほど毒性であるさらなる構成要素を含有しない、調製物を指す。薬学的組成物には、1つまたはそれより多い薬学的に許容されうる賦形剤が含まれるであろう。用語、賦形剤は、この文脈において、任意の添加物、例えば充填剤、可溶化剤、キャリアー、ビヒクル、添加物等を指す。
【0140】
「薬学的に許容されうる」賦形剤は、使用する活性成分の有効用量を提供するために、対象哺乳動物に合理的に投与されうるものである。本発明の薬学的組成物は、随意の薬学的に許容されうるキャリアー、賦形剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版, Osol, A.監修(1980))と組成物を、凍結乾燥配合物または水溶液の形で、混合することによって、保存のために調製される。許容されうる賦形剤は、使用する投薬量および濃度で、レシピエントに対して非毒性であり、そしてこれには、例えばリン酸、クエン酸、および他の有機酸の緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン;単糖、二糖、およびグルコース、マンノース、またはデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えばスクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);および/または非イオン性界面活性剤、例えばTWEEN(TM)、PLURONICS(TM)またはポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。凍結乾燥HER2抗体配合物がWO97/04801に記載される。
【0141】
in vivo投与のために用いられる組成物は無菌でなければならない。これは、無菌ろ過膜を通じたろ過によって、容易に達成可能である。
抗体変異体分子または該分子を含む薬学的組成物の投与経路は、例えば、経口、非経口、吸入または局所であってもよい。用語、非経口には、本明細書において、例えば静脈内、動脈内、腹腔内、筋内、皮下、直腸、または膣投与が含まれる。
【0142】
経口投与のための薬学的組成物は、錠剤、カプセル、粉末、液体または半固形型であってもよい。錠剤は、固形キャリアー、例えばゼラチンまたはアジュバントを含んでもよい。液体薬学的組成物は、一般的に、液体キャリアー、例えば水、石油、動物または植物油、ミネラルオイルまたは合成油を含む。生理学的生理食塩水、デキストロースまたは他の糖溶液またはグリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールが必要に応じて含まれてもよい。
【0143】
非経口投与のための薬学的組成物には、無菌水性または非水性溶液、および懸濁物が含まれる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性キャリアーには、水、水溶液、または懸濁物が含まれ、生理食塩水および緩衝媒体が含まれる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸化リンゲル、または不揮発油が含まれる。静脈内ビヒクルには、液体および栄養補充剤、電解質補充剤(例えばリンゲルのデキストロースに基づくもの)等が含まれる。
【0144】
保存剤および他の添加物、例えば抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤、および不活性ガス等もまた、存在してもよい。さらに、組成物は、ヒト起源の特定の態様において、タンパク質性キャリアー、例えば血清アルブミンまたは免疫グロブリンを含んでもよい。静脈内注射、または罹患部位での注射のため、活性成分は、非経口的に許容されうる水溶液の形であり、これは、発熱物質不含であり、そして適切なpH、等張性および安定性を有する。適切な当業者は、例えば等張性ビヒクルを用いた適切な溶液、例えば塩化ナトリウム注射剤、リンゲル注射剤、乳酸化リンゲル注射剤を十分に調製可能である。保存剤、安定化剤、緩衝剤、酸化防止剤および/または他の添加剤が、必要に応じて含まれてもよい。上述のように、本明細書において、これらはすべて賦形剤と称される。
【0145】
注射用の組成物を当該技術分野に知られる医学的デバイス、例えば、皮下針で投与してもよい。無針注射デバイス、例えば米国特許第6620135号および第5312335号に開示されるものもまた利用してもよい。
【0146】
本発明の薬学的組成物を、治療しようとする状態に応じて、単独で、あるいは同時にまたは連続してのいずれかで、他の治療と組み合わせて、投与してもよい。
本発明の抗体変異体を、分子の物理化学的特性および送達経路に応じて、液体、半固形または固体型で配合してもよい。配合物には、賦形剤、または賦形剤の組み合わせ、例えば:糖、アミノ酸および界面活性剤が含まれてもよい。液体配合物には、広範囲の抗体濃度およびpHが含まれてもよい。固形配合物を、例えば、凍結乾燥、スプレー乾燥、または超臨界流体技術による乾燥によって、産生してもよい。
【0147】
薬学的組成物を、単回用量、多数回用量として、または注入で、確立された期間に渡って投与してもよい。投薬措置はまた、最適な望ましい反応(例えば療法的または予防的反応)を提供するように調節されてもよい。特に、非経口配合物は、単回ボーラス用量、注入または装填ボーラス用量、その後の1回またはそれより多い維持用量であってもよい。これらの組成物を特定の固定されたまたは多様な間隔で、例えば1日1回、または「必要に応じて」投与してもよい。
【0148】
投薬量
抗体変異体分子、またはこうした分子を含有する薬学的配合物の、療法的に有効であろう量を、標準的臨床技術によって、例えば用量範囲決定臨床試験を通じて、決定してもよい。さらに、随意にin vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲の同定を補助してもよい。配合物中で使用すべき正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の深刻性に応じるであろうし、そして医師の判断および各患者の状況にしたがって決定されるべきである。有効用量を、in vitroまたは動物モデル試験系から得られる用量-反応曲線から外挿してもよい。投与される組成物の投薬量は、標準的な用量-反応研究と組み合わせて、過度の実験を伴わずに、当業者によって決定されてもよい。これらの決定を行う際に考慮されるべき関連する状況には、治療されるべき単数または複数の状態、投与しようとする組成物の選択、個々の患者の年齢、体重および反応、ならびに患者の症状の重症度が含まれる。例えば、実際の患者体重を用いて、投与すべきミリリットル(mL)中の配合物の用量を計算してもよい。「理想的な」重量への下方調節はない可能性もある。こうした状況では、以下の式によって適切な用量を計算してもよい:
用量(ml)=[患者体重(kg)x用量レベル(mg/kg)/薬剤濃度(mg/mL)]
特定の疾患または障害の治療のための薬学的組成物の療法的有効用量は、投与手段、ターゲット部位、患者の生理学的状態、患者の体重、患者の性別、患者の年齢、患者がヒトまたは動物であるか、投与される他の薬剤、および治療が予防的または療法的であるかを含む、多くの異なる要因に応じて多様であろう。療法的有効用量は、臨床試験から決定されている可能性が高く、そして治療指針を用いて主治医が決定可能であるものである。通常、患者はヒトであるが、非ヒト哺乳動物もまた治療してもよい。安全性および有効性を最適化するため、当業者に知られるルーチンの方法を用いて、治療投薬量を力価決定してもよい。
【0149】
多様な態様において、約1mg/kg、約2mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kg、約5mg/kg、約6mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約9mg/kg、約10mg/kg、約11mg/kg、約12mg/kg、約13mg/kg、約14mg/kg、約15mg/kg、約16mg/kg、約17mg/kg、約18mg/kg、約19mg/kg、または約20mg/kgの濃度で、抗体変異体分子を投与する。
【0150】
療法/医学的使用
本発明の抗体変異体または本発明の前記抗体変異体を含む薬学的組成物を、療法において、典型的には医薬品として用いてもよい。
【0151】
本発明の第九の側面にしたがって、療法における使用のため、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体/構築物、または本発明の第八の側面にしたがった薬学的組成物を提供する。
【0152】
本発明は、一般的に、任意の抗体に適用可能であり、そしてこうしたものとして、本発明の抗体変異体またはこれらを含む薬学的に許容されうる配合物を、抗体療法が可能であるかまたは望ましい任意の疾患の治療に用いてもよい。
【0153】
特定の態様において、療法は癌の治療である。
特定の態様において、抗体変異体はチェックポイント阻害剤に結合し、そして癌の治療に有用である。
【0154】
本発明の第九の側面にしたがって、治療の必要がある患者を治療する方法であって、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体、または本発明の第八の側面にしたがった薬学的組成物を患者に投与する工程を含む、前記方法を提供する。特定の態様において、方法は癌を治療するためである。別の態様において、癌を治療する方法は、治療の必要がある患者に、緊密な接触からの排除を最大限にするために、分子の伸長によってアゴニスト活性を最小限にする/欠くように適応されている抗体変異体分子、またはその薬学的組成物を投与する工程を含む。特定の態様において、伸長は、強固なスペーサー部分を抗体内に包含することによって引き起こされる。特定の態様において、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体または本発明の第八の側面にしたがった薬学的組成物を、薬学的に許容されうる量で、治療の必要がある患者に投与する。
【0155】
この第九の側面の変形において、治療の必要がある患者を治療する方法において使用するための、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体、または本発明の第八の側面にしたがった薬学的組成物を提供する。特定の態様において、方法は癌を治療するためである。
【0156】
この第九の側面のさらなる変形において、治療の必要がある患者の治療のための医薬品製造における、本発明の第一の側面にしたがった抗体変異体、または本発明の第八の側面にしたがった薬学的組成物の使用を提供する。特定の態様において、患者は癌を有し、そして医薬品は前記癌を治療するためである。
【0157】
用語「有効量」は、患者における症状を軽減するか、あるいは所望の生物学的転帰、例えばT細胞細胞溶解活性の増加、腫瘍細胞死の増加、腫瘍サイズの減少等を達成するために十分である投薬量または薬剤の量を指す。疾患が癌である場合、薬剤の有効量は、癌細胞数を減少させ;腫瘍サイズを減少させ;周辺臓器内への癌細胞浸潤を阻害し(すなわちある程度遅延させ、そして好ましくは停止し);腫瘍転移を阻害し(すなわちある程度遅延させ、そして好ましくは停止し);腫瘍増殖をある程度阻害し;そして/または癌と関連する症状の1つまたはそれより多くをある程度軽減することも可能である。薬剤が腫瘍増殖を防止し、そして/または存在する癌細胞を殺しうる度合いまで、薬剤は細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性であってもよい。有効量は、無進行生存を延長させ、客観的応答(部分的応答、PR、または完全応答、CRを含む)を生じ、全生存期間を増加させ、そして/または癌の1つまたはそれより多い症状を改善することも可能である。
【0158】
Fc受容体(FcR)結合部位
特定の態様において、抗体変異体は、機能的Fc受容体(FcR)結合部位を有する。
Fc受容体は、任意のクラス、特にFc-ガンマ、Fc-イプシロンおよびFc-アルファ受容体であってもよい。特定の態様において、機能的Fc受容体結合部位は:Fc-ガンマ(Fcγ)、Fc-イプシロン(Fcε)およびFc-アルファ(Fcα)受容体より選択されるFc受容体に結合する。機能的Fc受容体結合部位を維持するため、Fc受容体結合部位よりN末端側にスペーサー部分を配置することが好ましいことが認識されるであろう。
【0159】
特定の態様において、抗体変異体は、チロシンキナーゼによってリン酸化されているFc受容体に結合可能である。特定の態様において、抗体変異体は、1つまたは2つのドメインのみを有し、そしてしたがって比較的小さいと予期され(そしてしたがって、より大きな受容体よりも、細胞表面からより少なく突出し)、そしてしたがって、本明細書に記載するような抗体変異体でのターゲティングに特に適している。この文脈において、「特に適している」によって、本発明者らは、結合した際に、抗体/Fc受容体複合体が緊密な接触から取り除かれ(抗体中の伸長のため)、そしてしたがって、ホスファターゼの排除によって誘発される受容体に対するアゴニスト効果を最小限にすることを意味する。
【0160】
特定の態様において、抗体変異体は、限定されるわけではないが:CLEC12A、CLEC12B、CLEC1A、CLEC1B、CLEC4A、BDCA2(CLEC4C)、MINCLE(CLEC4E)、デクチン-2(CLEC6A)、デクチン-1(CLEC7A)、酸化低密度リポタンパク質受容体1(CLEC8A)、DNGR-1(CLEC9A)、NKG2C、NKG2D、NKG2E、NKG2F、NKG2A、NKG2B、CD300a、CD300b、CD300c、CD300d、CD300e、CD300f、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIc、免疫グロブリンアルファFc受容体、FcεRIα/β複合体、KIR2DL1、KIR2DL2、KIR2DL3、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR2DS1、KIR2DS2、KIR2DS3、KIR2DS4、KIR2DS5、NKp46、NKp44、NKp30、CD33(SIGLEC-3)、SIGLEC-15、SLAMF1、2B4(SLAMF4)、SLAMF5、SLAMF6、SLAMF7(CRACC)、CD28、CTLA-4、ICOS、PD-1、BTLA、CD200R1、CD200R2、LAIR1、糖タンパク質VI(GPVI)およびOSCARからなる群より選択される受容体に結合可能である。
【0161】
他の態様において、抗体変異体は、機能不全または不能Fc受容体(FcR)結合部位を有する。機能不全または不能Fc受容体結合部位を持つ抗体を生成する能力は周知であり、そして当業者は、発明的な努力を伴わずに、これを達成可能である。例には、Fc受容体結合部位内へのアミノ酸置換の導入が含まれる。
【0162】
抗体変異体を作製するため、スペーサーの包含によって修飾される抗体は、アゴニスト分子またはアンタゴニスト分子であってもよい。
本明細書に記載するように、抗体がアゴニスト分子である場合、抗体変異体は、抗体のスーパーアゴニスト活性を減少させるであろう。これは、スーパーアゴニスト分子のアゴニスト活性を改変する/減少させる必要がある場合、望ましい可能性もある。
【0163】
したがって、特定の態様において、本発明の抗体変異体はアゴニスト抗体である。
特定の態様において、本発明の抗体変異体分子はCD28に結合する。
TGN1412として知られる分子は、非常に毒性であることが見出されており、そのスーパーアゴニスト特性により、サイトカインストームを開始する。
【0164】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を含む、TGN1412抗体、またはTGN1412と同じエピトープに結合可能であるものである。
【0165】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、TGN1412と同じエピトープに結合可能である。
免疫チェックポイント経路
減少したアゴニスト活性を持つ療法抗体は、多様な型の癌の治療において特に有用であると予期される。
【0166】
チェックポイントタンパク質のターゲティングを伴う癌療法は、近年、特に有望であると立証されてきている。
用語「免疫チェックポイント」、「免疫チェックポイント受容体/リガンド軸」および「免疫チェックポイント経路」は、本明細書において交換可能に用いられ、T細胞において負のシグナルを送達し、そしてT細胞受容体(TCR)仲介性シグナルを減弱させる、受容体/リガンドシグナル伝達軸を指す。正常な生理学的条件下では、免疫チェックポイントは、自己寛容を維持し、そして免疫反応中に組織を損傷、例えば病原体感染から守る。免疫チェックポイントによって送達されるT細胞における負のシグナルは、例えば、細胞増殖、サイトカイン産生、および/または細胞周期進行の減少を導きうる。本明細書に開示する方法を用いてターゲティング可能である、例示的な免疫チェックポイント経路には、限定されるわけではないが、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路、および細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4、CD152)免疫チェックポイント経路が含まれる。
【0167】
本明細書に開示する抗体変異体および方法を用いてターゲティング可能である、さらなる免疫チェックポイント経路には、限定されるわけではないが:BTLA(BおよびTリンパ球減衰因子(attenuator);CD272としてもまた知られる)、TIGIT(IgおよびITIMドメインを含むT細胞免疫受容体としてもまた知られる)、PD-1H(T細胞活性化のVドメインIg抑制因子としてもまた知られる;VISTA)、TLT2(TREML2としてもまた知られる)およびTIM-3(T細胞免疫グロブリンムチン3;HAVcr2としてもまた知られる)より選択される免疫チェックポイント経路が含まれる。特に、BTLA、TIGIT、PD-1H、TLT2またはTIM3に結合する文献において知られるアゴニスト抗体を含む抗体を、本明細書に記載するようなスペーサー部分を取り込んで抗体のアゴニスト活性を減少させることによって、本明細書に記載するように修飾してもよい。
【0168】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は:PD-1、CTLA-4、TIGIT、TIM-3、BTLA、PD-1HおよびTLT2からなる群より選択される免疫チェックポイント経路分子に結合するものである。
【0169】
免疫チェックポイント経路の受容体またはリガンドに結合し、そして免疫チェックポイント経路のシグナル伝達を減弱させるアンタゴニスト組成物は、本明細書において「免疫チェックポイントアンタゴニスト」(ImCpAnt)と称される。
【0170】
PD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路
PD-1/PD-L1免疫チェックポイント軸は、末梢寛容の維持に関与し、そして組織内でのT細胞エフェクター機能を制限すると考えられる。PD-1発現の混乱は、自己免疫疾患様症状、例えばマウスにおける遅発性進行性関節炎およびループス様糸球体腎炎を引き起こすと報告されてきている。PD-1は、胸腺発達中に、主にCD4-CD8- T細胞上で発現され、そして活性化に際して、末梢T細胞、B細胞、および単球上で誘導される。PD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路のメンバーには、例えばPD-1、ならびにPD-1リガンドPD-L1(B7-H1、CD274)およびPD-L2(B7-DC、CD273)が含まれる。PD-L1は、リンパ細胞、例えばTおよびB細胞、ならびに心臓、肝臓、肺、膵臓、筋肉、および胎盤を含む非リンパ臓器上で発現される。対照的に、PD-L2発現は、樹状細胞およびマクロファージに限定される。
【0171】
いくつかの態様において、療法使用および療法使用の方法は、抗体変異体アンタゴニスト、例えばPD-1、PD-L1および/またはPD-L2に特異的に結合するモノクローナル抗体を用いる。PD-1、PD-L1および/またはPD-L2に特異的に結合するアンタゴニストが知られており、そして/またはこれらは、当該技術分野に知られる技術を用いて、容易に同定され、そして調製されることも可能である。
【0172】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、アゴニスト活性を減少させるかまたは排除するため、スペーサー部分が本明細書に記載されるように取り込まれている、アンタゴニスト抗体である。
【0173】
チェックポイント阻害剤アンタゴニスト抗体、例えばニボルマブおよびペムブロリズマブは、癌の治療において、特定の療法利益があると立証されている。こうした分子が所持しうるいかなる残りの生得的アゴニスト活性も抑制することができれば、利益が増加した分子につながりうる。
【0174】
したがって、本発明のさらなる態様にしたがって、抗体変異体はチェックポイント阻害剤である。
特定の態様において、本発明の抗体変異体はPD-1に結合する。
【0175】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を含む、ニボルマブ抗体、またはニボルマブと同じエピトープに結合可能なものである。
【0176】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を含む、ペムブロリズマブ抗体、またはペムブロリズマブと同じエピトープに結合可能なものである。
【0177】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を含む、セミプリマブ抗体、またはセミプリマブと同じエピトープに結合可能なものである。
【0178】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、PD-1上の、ニボルマブ、ペムブロリズマブまたはセミプリマブと同じエピトープに結合可能である。
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を含む、MEDI0680、ドスタルリマブ、ピディリズマブ、AMP-224、カムレリズマブ、ティスレリズマブ、ゲノリムズマブおよびJS001-PD-1からなる群より選択される抗体、またはこれらの抗体のいずれかと同じエピトープに結合可能なものである。
【0179】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、PD-1上の、MEDI0680、ドスタルリマブ、ピディリズマブ、AMP-224、カムレリズマブ、ティスレリズマブ、ゲノリムズマブおよびJS001-PD-1からなる群より選択される抗体と同じエピトープに結合可能である。
【0180】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、CTLA-4に結合する。
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を含む、イピリムマブ抗体、またはイピリムマブと同じエピトープに結合可能なものである。
【0181】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を含む、トレメリムマブ抗体、またはトレメリムマブと同じエピトープに結合可能なものである。
【0182】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、CTLA-4上の、イピリムマブまたはトレメリミマブと同じエピトープに結合可能である。
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、TIGITに結合する。
【0183】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は:ティラゴルマブ、エティギリマブ、BMS-986207およびAb154からなる群より選択される抗体である。
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、TIGIT上の、ティラゴルマブ、エティギリマブ、BMS-986207およびAb154からなる群より選択される抗体と同じエピトープに結合可能である。
【0184】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、TIM-3に結合する。
特定の態様において、本発明の抗体変異体は:コボリマブ、BMS-986258、MBG453、LY3321367およびSym023からなる群より選択される抗体変異体であり、前記変異体は、本明細書に記載するようなスペーサー部分を取り込む。
【0185】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、TIM-3上の、コボリマブ、BMS-986258、MBG453、LY3321367およびSym023からなる群より選択される抗体と同じエピトープに結合可能である。
【0186】
チェックポイント阻害抗体は周知である。免疫チェックポイント遮断に関する概説および臨床使用のために開発されている抗体の例に関しては、Parkら Exp lMol Med. 50, 109. オンライン公開2018年8月22日 doi:[10.1038/s12276-018-0130-1]を参照されたい。
【0187】
生得的なアゴニスト活性を減少させる能力はまた、TCRの弱い誘発によって、T細胞アネルギーを誘導するために臨床的に用いられている抗CD3抗体にも適用されうる。現在、これらの抗体は、弱いアゴニスト効果しか持たないようにFcR結合を最小限にするよう操作されているが、TCRのアゴニズムを減少させる別のまたは補助的アプローチは、本明細書に記載する本発明にしたがった強固なスペーサー部分を導入することである。
【0188】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、CD3に結合する。
特定の態様において、本発明の抗体変異体は:ムロマブ、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビジリズマブおよびフォラルマブからなる群より選択される抗体である。
【0189】
特定の態様において、本発明の抗体変異体は、CD3上の、抗CD3抗体:ムロマブ、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビジリズマブおよびフォラルマブからなる群より選択される抗体と同じエピトープに結合可能である。
【0190】
CD3抗体に関する概説に関しては、KuhnおよびWeiner, Immunology 8, 889-906, 2016. doi: 10.2217/imt-2016-0049. Epub 2016年5月10日を参照されたい。
【0191】
特定の態様において、本発明の抗体変異体分子は、抗体結合受容体周囲の巨大膜結合RPTPの移動を可能にする。
本明細書の説明および請求項全体で、用語「含む(comprise)」および「含有する(contain)」およびこれらの変形は、「限定されるわけではないが含む」を意味し、そしてこれらは、他の部分、付加物、構成要素、整数または工程を排除するよう意図されない(そして排除しない)。本明細書の説明および請求項全体で、単数形は、文脈が別に必要としない限り、複数形を含む。特に、不定冠詞を用いる場合、本明細書は、文脈が別に必要としない限り、複数形ならびに単数形を予期すると理解されるものとする。
【0192】
本発明の特定の側面、態様または例と組み合わせて記載される特徴、整数、特性、化合物、化学的部分または基(groups)は、これらと不適合でない限り、本明細書に記載する任意の他の側面、態様または実施例に適用可能であると理解されるものとする。本明細書(任意の付随する請求項、要約および図を含む)に開示する特徴のすべて、および/またはこうして開示される任意の方法またはプロセスの工程のすべてを、こうした特徴および/または工程の少なくともいくつかが互いに排除される組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせてもよい。本発明は、いかなる前述の態様の詳細にも制限されない。本発明は、本明細書(任意の付随する請求項、要約および図を含む)に開示する特徴の任意の新規の1つ、または任意の新規の組み合わせ、あるいはこうして開示される任意の方法またはプロセスの工程の任意の新規の1つ、または任意の新規の組み合わせに拡張される。
【0193】
読者の注意は、本出願と関連して、本明細書と同時にまたは本明細書より以前に提出され、そして本明細書での一般閲覧に対してオープンであるすべての論文および文書に向けられ、そしてすべてのこうした論文および文書の内容は、本明細書に援用される。
【0194】
本発明はここで、以下の実施例および付随する図を参照しながらさらに記載されるであろう。
【実施例
【0195】
続く実施例において、抗体のFc受容体結合活性を除去することは困難でありうることが示される。また、活性化(抗CD28)および阻害(抗PD-1)抗体の両方の場合に関して、抗体をより大きくすることによって、抗体のアゴニスト活性を実質的に減少させうることも示される。いくつかの例示的な態様において、これは、抗体のヒンジ領域内に強固なスペーサーを挿入して、定常領域を伸長することによって達成される(図1c、d)。例示的な抗体、クローン2の配列を図2の例示に示し、配列の他の領域に比較した挿入ポイントを示す。これらの例示的な方法を適用して、抗体中にスペーサー部分を導入し、抗体サイズを増加させることによって、任意の抗体をアンタゴナイズしてもよい。
【0196】
1. 方法の概説
CD28スーパーアゴニストシグナル伝達の研究に関しては、抗ラットCD28抗体、JJ316(BD Biosciences;カタログ番号554992)を用いた(Tackeら, Eur J Immunol. 27:239-47, 1997)。他の抗体を、Absolute Antibody Ltdによって調製した。いくつかの実験において、非スーパーアゴニスト抗CD28抗体、JJ319(eBioscience UK Ltd;カタログ番号16-0280-85)もまた用いた。抗体のアゴニスト活性をアッセイするため、CD28を発現するBW5147 T細胞ハイブリドーマ(American Type Cell Culture Collection、カタログ番号TIB-47)を溶液中の抗体で前処理し、そして次いで、細胞を、500μg/mlロバ抗マウスIgG(DAM)抗体(Stratech Scientific 715-001-003-JIR)でコーティングしたガラス表面上に定着させた。DAMへの一次抗体の結合は、in vivoでの抗体によるFcR結合を模倣した。抗体による「共刺激」シグナル伝達を研究するため、抗CD3抗体KT3を、DAMと並行してガラス表面に直接カップリングさせた。72時間後に測定したIL-2産生を、シグナル伝達の読み取り値として用いた。
【0197】
実施例1 JJ316のシグナル伝達効果はFc依存性である;Fcエフェクター活性を除去するための慣用的アプローチは、シグナル伝達に最小限の効果しか持たない。
300mMリン酸カリウム、12.5mM L-システイン、12.5mM EDTA中のフィシンプロテアーゼ(0.012~0.032単位/ml;Sigma-Aldrich)を用いて、JJ316抗体のFc欠如F(ab’)2断片を調製した。CD28発現BW5147 T細胞を、示す量のF(ab’)2と、または全抗体とインキュベーションし、そしてIL-2産生を測定した(図3a)。典型的には、40μlのアガロース固定フィシン(1.2mg/mlの定着ビーズ)を用いて、5mM EDTA、4mMシステイン、10mMクエン酸pH6.0中、1.2mg/mlのIgG1、0.5mgを、37℃で4時間消化した。
【0198】
JJ316のFc部分の完全除去は、抗体のスーパーアゴニスト活性を劇的に減少させ、抗体のアゴニスト活性がFc依存性であることが示された。
ここで示されるのは、抗体のアゴニスト活性が、PD-1発現細胞およびFc受容体所持細胞の間のギャップを抗体が架橋することに頼り(図1a)、そして抗体のFc受容体結合活性を不活性化することによって、この架橋効果を防止することが困難であることである。
【0199】
抗体によるFcR結合を除去するための2つの広く用いられるアプローチは、(1)酵素的脱グリコシル化(Mimuraら, J. Biol. Chem. 276, 45539-45547, 2001)、および(2)Fc受容体結合を中断させるためのC2定常ドメインの突然変異(Duncanら, Nature 332, 563-564, 1988)である。スーパーアゴニスト抗体JJ316(1mg/mL)を、PNGアーゼF(New England Biolabs、500,000U/mL)で消化し、該酵素は、50mMリン酸ナトリウムpH7.5中、糖タンパク質からN-グリカンを除去する。抗体の固定型および可溶性型で刺激されたBW5147マウスT細胞ハイブリドーマによるIL-2産生に対して、PNGアーゼF処理はほとんど影響がなかった(図3b)。同様に、CD16/CD32 Fc受容体に結合不能であるように突然変異されたJJ316の操作型(Hezarehら, J Virol 75, 12161-12168, 2001)もまた、IL-2産生として測定すると、ハイブリドーマにおいて、シグナル伝達のわずかな減少しか生じなかった(図3c)。これらのデータは、全マウス抗体においてFc機能を排除するための慣用的な方法が、完全には有効でないことを示す。これらの知見は、ヒト抗体に関して、抗体のFc受容体結合部位の突然変異およびFc領域のグリコシル化の改変が、細胞Fc受容体とすべてのIgGサブクラスの相互作用を完全に消滅させるのには失敗することを見出した、Luxら(J. Immunol. 190, 4315-23, 2013)のものと一致する。Luxらは、IgGサブクラス特異的戦略が、ヒトFcγR結合に完全に干渉するために必須であると結論付けた。
【0200】
実施例2 伸長ヒンジ領域を持つ抗CD28抗体の設計。
ヒンジドメイン中の挿入で伸長されているJJ316由来抗体を設計した(図1c、d;図4)。ネズミCD43のムチン様細胞外ドメインのN末端領域から生じる、非常にグリコシル化された配列を選択して、抗体の全体の寸法を伸長させるであろう、強固で主に硬直した挿入物を生成した。各アミノ酸が2.5Åの伸長した構造を付加するという予測(Jentoft, Trends Biochem Sci 15:291-294, 1990)に基づいて、30アミノ酸の伸長は、抗体サイズを75Å(Fcドメインの長軸と平行の軸に沿って)増加させると予期された。ネズミCD43のN末端領域の50アミノ酸を挿入することによって、抗体の第二のさらに大きい型を生成した。
【0201】
マウスIgG1において、重鎖ヒンジ領域には、ジスルフィド結合形成に関与する4つのシステインがある。4つのうち最もN末端にあるもの(すなわちC1;図4)は軽鎖中のシステインと対形成し、そして抗体四次構造の安定性に重要である。操作抗体変異体の鎖が二量体化し、そして正しくフォールディングすることを可能にするため、挿入は、このシステインの直後で作製され、非常に短いグリシン-セリンリンカーで始まって、CD43挿入のジスルフィドおよびO連結グリコシル化の形成を可能にする。
【0202】
第二のグリシン-セリンリンカーを付加して、CD43挿入物をFc配列の残りに連結し、Fc配列の残りには、重鎖間ジスルフィド結合形成に関与する、残りの3つのシステインが含まれた。2つの抗体は、HEK 293T細胞において、一過性に産生された。当該技術分野に周知の方法によって、抗体を生成した(Jagerら, High level transient production of recombinant antibodies and antibody fusion proteins in HEK 293T cells. BMC Biotechnol. 13:52, 2013; Vinkら, A simple, robust and highly efficient transient expression system for producing antibodies. Methods 65, 5-10, 2014; KunertおよびReinhart, Advances in recombinant antibody manufacturing. Appl Microbiol Biotechnol. 100, 3451-61, 2016による概説を参照されたい)。概略すると、オリゴヌクレオチドを用いて、多様な型の抗体をコードする遺伝子を全体で合成した。遺伝子を発現ベクター内に挿入し、次いでこれを用いて、ヒト胚性腎細胞に一過性にトランスフェクションした。当該技術分野に周知の慣用的なクロマトグラフィ法によって、分泌された抗体を精製した(Aroraら, Affinity chromatography: A versatile technique for antibody purification. Methods. 116, 84-94, 2016による概説を参照されたい)。
【0203】
挿入された領域のアミノ酸配列(図2もまた参照されたい)。
【0204】
【化1】
【0205】
凡例:
ヒンジ領域配列:下線
ヒンジ領域システイン残基:太字
GSリンカー:通常文字
挿入CD43ムチン様配列:斜字
実施例3 伸長抗CD28抗体の特徴づけ。
【0206】
30および50アミノ酸挿入を含むJJ316の伸長型を、サイズ排除クロマトグラフィによって分析した(図5a、b)。3つの抗体に対応するオーバーレイクロマトグラムによって、JJ316+50がまず流出し、その後、JJ316+30、そして次いで非修飾JJ316が溶出することが明らかになった(図5a、b)。抗体をプールし、そして再泳動すると、タンパク質は2つのピークで溶出し、最初のものは伸長抗体に対応して広いピークを形成し、そして第二のものは非修飾JJ316に対応した。したがって、CD43挿入は、非修飾JJ316に対して抗体サイズを成功裡に増加させた。フローサイトメトリー分析によって、伸長されたおよび元来のJJ316抗体が、細胞表面に発現したCD28に等しくよく結合することが確認された(図5c)。
【0207】
実施例4 伸長抗C28抗体のシグナル伝達特性。
伸長したJJ316抗体を、抗TCR抗体KT3と組み合わせて用いて、CD28発現BW5147細胞を刺激すると、これらは、最大半量のシグナル伝達を誘導するために必要なKT3の量を減少させる際に、第二の非スーパーアゴニスト抗体、JJ319(AbCam;カタログ番号ab35024)と同程度に有効であり、共刺激活性の定義を満たした(図6a)。これは、抗体のCD28結合特性、およびこれらがロバ抗マウス抗体(DAM)[https://www.abcam.com/donkey-mouse-igg-hl-ab6707.html]に結合する能力が、ヒンジ領域の伸長によって影響を受けないことを確認した。非修飾JJ316とは対照的に、2つの伸長抗体は、スーパーアゴニズムの定義である抗CD3抗体KT3(https://www.abcam.com/cd3-antibody-kt3-ab33429.html)の非存在下でのIL-2反応の誘導に失敗した(図6b; LinおよびHunig, Efficient expansion of regulatory T cells in vitro and in vivo with a CD28 superagonist. Eur J Immunol. 33, 626-38, 2003を参照されたい)。
【0208】
30または50アミノ酸ムチン様挿入のいずれかを含む伸長JJ316は、結合活性を改変することなく、抗体のシグナル伝達活性を劇的に減少させた。
実施例5 RPTP(例えばCD45)排除に対する、抗CD28抗体スーパーアゴニストを伸長する効果。
【0209】
細胞が抗体と会合した際に、CD45の局所排除に対するアゴニスト抗体伸長の影響を視覚化するため、総内部蛍光(TIRF)画像化を用いた。スーパーアゴニスト抗体、JJ316、および該抗体の伸長型、JJ316+50を、蛍光色素(Alexa-647)で標識した。標識抗体を50μg/mlで、20μg/mlの抗マウスCD45抗体の蛍光標識Fab断片(Sir William Dunn School、オックスフォードより得た、YW62.3.20、Alexa-488蛍光色素で標識)とともに、CD28を発現する細胞とインキュベーションした後、カバーガラス(500μg/mlのロバ抗マウス抗体で一晩コーティングした)上に配置し、そしてTIRFを用いて画像化した(図7a;示す合成画像は、50ms曝露で撮影した100フレームからの平均である)。画像は、Alexa-647(すなわち抗体)蛍光に比較して、JJ316+50とインキュベーションした細胞下で、Alexa-488(すなわちCD45)蛍光がより多いことによって立証されるように、スーパーアゴニスト抗体JJ316が、伸長抗体JJ316+50よりもより有効にCD45を排除することを明らかに示した(図7a、b)。
【0210】
実施例6 抗PD-1抗体クローン2の結合特性。
マウスIgG1のFc領域との融合タンパク質として発現されたPD-1の細胞外領域で、マウスを免疫することによって、抗癌ターゲットPD-1を認識する抗体を生成した。PD-1の細胞外免疫グロブリンスーパーファミリードメイン中の表面に曝露されていると推定される残基に、劇的な突然変異を作製し、そして次いで、HEK 293T細胞の表面上に突然変異タンパク質を発現させることによって、これらの抗体の1つ、クローン2(EP2342228B1に記載されるとおり)のエピトープをマッピングした。次いで、クローン2(EP2342228B1に記載されるとおり)が突然変異タンパク質に結合する能力を、フローサイトメトリーによって評価した。この分析は、クローン2が、Almoおよび同僚らによって、天然リガンドPD-L1およびPD-L2に結合することが示されたPD-1の領域に結合することを示した(Zhangら, Immunity. 2004 20, 337-47;図8a)。表面プラズモン共鳴に基づくアッセイを用いて、抗体およびリガンドを、固定PD-1を含有するフローセル内に連続して注入することによって、PD-1がクローン2ならびにリガンドPD-L1およびPD-L2の両方に結合する能力を試験した(図8b)。PD-1がほぼ飽和レベルのクローン2抗体に結合した後、PD-L1(およびPD-L2)は、PD-1に結合するのに失敗し、クローン2がブロッキング抗体であることが確認された。単一サイクル動力学分析(図8c)によって、PD-1へのクローン2結合の解離定数(KD)が37nMであることが明らかになり、これはPD-1に対するニボルマブの結合に関するもの(16nM)より~2倍しか低くなかった。
【0211】
実施例7 PD-1ブロッキング抗体クローン2はアゴニスト性である。
感受性T細胞トランスファーアッセイを用いて、in vivoでクローン2抗体のアゴニスト対アンタゴニスト効果を測定した。このアッセイにおいて、ホモ接合性ヒトPD-1(hPD-1)を発現するマウス由来の、および野生型PD-1受容体を発現するOT1マウス(Jackson Laboratoriesより得た)由来の、オボアルブミン(OVA)に特異的な精製OT1(TCRトランスジェニック)CD8+ T細胞の混合物を含む、5x105 T細胞を、野生型(C57BL/6)レシピエントにトランスファーした。CD45.2(対CD45.1)アロタイプマーカーを用いて、宿主細胞からトランスファー細胞を区別した。翌日、レシピエントマウスを、OVAを発現する修飾ワクシニアAnkaraウイルス(MVA-OVA;108pfu)で免疫して、T細胞拡大を誘導した(オックスフォード大学、Jenner Instituteより得た)。2日目、マウスに200μgの抗体を腹腔内投与した。T細胞の最初のトランスファーから8日後、ヒト化PD-1発現および野生型OVA特異的T細胞の比を決定した。この方式で、抗ヒトPD-1抗体に結合しない野生型対照に比較して、抗ヒトPD-1抗体に結合するヒト化細胞の拡大または縮小を追跡することが可能である。
【0212】
T細胞トランスファーアッセイにおいて、PD-1ブロッキング抗体クローン2(EP2342228B1に記載されるとおり)は、アイソタイプ対照処置または未処置マウスにおいて観察されるものに比較して、hPD-1細胞の拡大を抑制した(図9;平均±SEM)。2つのさらなる抗体もまた、アゴニスト活性を示した。これには、比較的低いアフィニティ(6.2±0.3μM)でPD-1に結合する第二のブロッキング抗体クローン10(抗PD-1抗体。EP2342228B1を参照されたい)、および完全に異なるエピトープに結合する非ブロッキング抗体クローン19(EP2342228B1に記載されるとおり)が含まれた。これは、アゴニスト性シグナル伝達能が、アフィニティまたはエピトープの位置に関わらず、抗PD-1抗体の本質的な特性であることを示唆する。
【0213】
実施例8 抗体のヒンジ領域を伸長することによって、クローン2のアゴニスト活性を除去しうる。
クローン2(EP2342228B1に記載されるとおり)のアゴニスト性シグナル伝達能を除去するため、正確に実施例3に示されるように、そして図2に示す配列を用い、CD43のムチン様細胞外領域の50アミノ酸セグメントを、抗体のヒンジ領域内に挿入して、抗体の伸長型を生成した。HEK 293T細胞において、抗体を一過性に発現した。伸長抗体のアゴニスト活性を、親抗体、非ブロッキングアゴニストクローン19、およびFc受容体結合を減少させるため、D265Aで突然変異された抗hPD-1チェックポイントブロッキング抗体ニボルマブ(ニボ265A)のものに比較した。
【0214】
ニボルマブは、多くの供給業者、例えばAbsolute Antibodyより商業的に入手可能である。D265A突然変異はFcR結合を減少させ、したがって抗体のブロッキング活性は増進される。
【0215】
抗体アゴニズムのT細胞トランスファーアッセイにおいて、クローン19およびクローン2抗体は、アゴニスト性シグナル伝達効果を示し、マウス細胞、およびマウスが抗NPアイソタイプ対照抗体を注入された状況と比較して、ヒトPD-1発現CD8 T細胞の拡大を抑制した(図10a)。抗hPD-1チェックポイントブロッキング抗体ニボルマブは、不活性であり、これはおそらく、D265A突然変異がFcR結合を減少させたためであり、図1aに示すアゴニスト性シグナル伝達に関する説明を裏付ける。類似の結果は、トランスファーされたOTII(OVA特異的)CD4細胞を、抗体で処理する前に、ミョウバン中のOVAで刺激した、CD4 T細胞トランスファーアッセイで見られた(図10b)。データからわかるように、伸長クローン2抗体は、もはやアゴニストではなく、そしてFcR結合能を保持するにもかかわらず、ニボルマブのD265A突然変異型と類似のブロッキング活性を有した。
【0216】
実施例9 PD-1ブロッキング抗体ニボルマブのアゴニスト活性は、抗体のヒンジ領域の伸長によって除去可能である。
ニボルマブは、癌患者の治療のために臨床的に用いられるPD-1ブロッキング抗体である。クリニックで用いられる抗体は、ヒトIgG4アイソタイプである。ヒト化PD-1マウスにおいて抗体を評価するため、ネズミIgG1アイソタイプ重鎖および軽鎖定常領域に融合したニボルマブの可変ドメインを含むキメラとして、これを発現させた。実施例8に記載する、感受性CD8 T細胞トランスファーアッセイにおいて試験した際、このキメラ抗体はヒトPD-1発現細胞の拡大を抑制し、該抗体が、受容体を通じてアゴニスト性シグナルを送達することが示唆された(図11;平均±SEM)。逆に、FcR結合を減少させるD265A突然変異を含めてキメラ抗体を発現させた際、チェックポイントブロッキング抗体から予期されるように、ヒトPD-1発現CD8 T細胞の拡大が引き起こされた(図11)。キメラ抗体はまた、実施例3に記載する50残基伸長を含有する伸長型でも発現された。抗体のこの伸長型もまた、ヒトPD-1発現CD8 T細胞の拡大を増加させ、ヒンジ伸長が、抗体のアゴニスト潜在能力を取り除き、経路のより効率的な遮断を導くことを示唆した(図11)。
【0217】
臨床ニボルマブ化合物のヒトIgG4アイソタイプは、Fc受容体結合を示し、この薬剤が、PD-1受容体を通じたアゴニスト性シグナルを送達する能力を有することを示唆する。転移性の悪性病変の背景において、薬剤の純効果は、明らかにPD-1経路遮断である一方、この遮断の有効性は、定常領域の伸長を用いて、アゴニスト活性を除去することによって、潜在的に増加しうる。これは、反応性の患者において、より大きな腫瘍拒絶を導くか、または反応を有する患者の比率を増加させうる。
【0218】
実施例10 ヒンジ伸長は、FcγRIIBへのmIgG1抗体の結合を改変しない。
SPRを用いて、50残基伸長が、Fc受容体結合に有意に影響を及ぼすかどうかを評価した。ネズミFcγRIIB細胞外ドメインを、アミンカップリングによって、CM5シリーズSセンサーチップに共有カップリングした。類似のサイズのタンパク質(マウスCD200細胞外ドメイン)を参照チャネルにカップリングした。mIgG1抗体または伸長ヒンジmIgG1抗体の増加する濃度を、37℃でチップ上に注入し、そして平衡時の結合を測定した。平衡時の参照を減じた結合対濃度を各抗体に関してプロットし(図12a;挿入図のスキャッチャードプロットは、データ適合の品質を示す)、そして解離定数を計算した(図12b)。各抗体の伸長ヒンジ型は、親抗体と同等のアフィニティでFcγRIIBに結合した。
【0219】
実施例11 癌における抗PD-1チェックポイント遮断の有効性増加。
クローン2のアゴニスト性シグナル伝達活性の除去が、癌を治療するためのブロッキング抗PD-1抗体としての性能を改善するかどうかを試験するため、以前、抗マウスPD-1チェックポイント遮断の有効性を立証するために用いられてきたMC38同系結腸癌モデルを用いた(US 2014/0348743)。成体メスhPD-1発現C57BL/6メスマウス群の脇腹に1x106同系結腸癌MC38細胞(Crown-Bio、英国ラフバラより得た)を皮下注入した。腫瘍が100mm3の平均サイズに到達したら、マウスを未処置のまま放置するか、またはマウスに10mg/kgの抗NPアイソタイプ対照、ニボD265Aを、あるいは損なわれていないクローン2抗体または伸長(50残基)クローン2抗体を、週2回2週間注射した。クローン2および伸長クローン2抗体の有効性のこの分析は、伸長抗体の活性が、2つの独立の反復実験において、ニボD265Aのものと区別不能であることを示した(図13a、b)。対照的に、クローン2は、MC38腫瘍増殖を抑制する能力において、かなりの実験間変動を示した。1つの実験において、クローン2は、ほぼブロッキング活性を示さず、そして第二の実験では、伸長クローン2抗体と同程度に有効であった。どちらの実験においても、伸長クローン2抗体は、腫瘍増殖をブロッキングした。
【0220】
【化2-1】
【0221】
【化2-2】
【0222】
【化2-3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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