(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】カルボン酸フルオリドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/58 20060101AFI20240726BHJP
C07C 53/48 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C07C51/58
C07C53/48
(21)【出願番号】P 2021542950
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2020032110
(87)【国際公開番号】W WO2021039817
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019154843
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】木村 涼
(72)【発明者】
【氏名】前原 渉平
(72)【発明者】
【氏名】中西 晶子
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第02460821(DE,A1)
【文献】特表2001-504845(JP,A)
【文献】特表2002-531426(JP,A)
【文献】特開2009-126860(JP,A)
【文献】BUXTON, M. W.; MOBBS, R. H.; WOTTON, D. E. M.,Perfluoroaralkyl ethers,Journal of Fluorine Chemistry,1973年,Vol.2, No.3,pp.231-245,第236-237頁、第239-240頁(Octafluoroadipoyl fluoride)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/58
C07C 53/48
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸クロリドと金属フッ化物とを反応させる工程を含むカルボン酸フルオリドの製造方法
であって、前記カルボン酸クロリドはガスとして流して前記反応を行う、方法。
【請求項2】
カルボン酸が炭素数1~7のカルボン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カルボン酸がフッ素置換されたカルボン酸である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
カルボン酸がパーフルオロカルボン酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
カルボン酸がトリフルオロ酢酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
金属フッ化物が活性炭、アルミナ、ゼオライト、及び発泡金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の担体に担持されている、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
金属フッ化物が、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物及び遷移金属フッ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
アルカリ金属フッ化物が、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム及びフッ化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アルカリ土類金属フッ化物が、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム及びフッ化バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
遷移金属フッ化物が、フッ化クロム、フッ化モリブデン、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化銅、フッ化ニッケル、フッ化亜鉛、及びフッ化銀からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
反応温度が100~500℃である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボン酸フルオリドの製造方法、より詳細には金属フッ化物を使用するカルボン酸フルオリドの製造方法、特にトリフルオロ酢酸フルオリドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸フルオリドの製造方法として、従来、CF3CHClFなどのハロゲン化エタンを光化学的に酸化することによりカルボン酸クロリドへと誘導し、トリフルオロ酢酸フルオリド(CF3C(O)F)を製造する方法(特許文献1)、酸塩化物とアンモニウムフッ化水素酸塩又は有機窒素塩基のフッ化水素酸塩のフッ化水素付加体とを反応させる方法(特許文献2)などが知られている。
【0003】
しかし、特許文献1及び2の方法では、反応系中にHClが副生し、HClが生成物であるCF3C(O)Fと錯体を形成するので、遊離した状態のCF3C(O)Fの収率が低下するという問題がある。また特許文献1の方法では、光反応装置が必要であるという設備上の問題もある。また特許文献2の方法では、特定のフッ化水素付加体を調整する必要があるという作業工程の複雑化の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2001-504845号公報
【文献】特表2002-531426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、従来のカルボン酸フルオリドの製造方法における上記の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のものを提供する。
[1]
カルボン酸クロリドと金属フッ化物とを反応させる工程を含むカルボン酸フルオリドの製造方法。
[2]
カルボン酸が炭素数1~7のカルボン酸である、[1]に記載の方法。
[3]
カルボン酸がフッ素置換されたカルボン酸である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
カルボン酸がパーフルオロカルボン酸である、[3]に記載の方法。
[5]
カルボン酸がトリフルオロ酢酸である、[4]に記載の方法。
[6]
金属フッ化物が活性炭、アルミナ、ゼオライト、及び発泡金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の担体に担持されている、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
金属フッ化物が、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物及び遷移金属フッ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
アルカリ金属フッ化物が、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム及びフッ化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[7]に記載の方法。
[9]
アルカリ土類金属フッ化物が、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム及びフッ化バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[7]に記載の方法。
[10]
遷移金属フッ化物が、フッ化クロム、フッ化モリブデン、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化銅、フッ化ニッケル、フッ化亜鉛、及びフッ化銀からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[7]に記載の方法。
[11]
反応温度が100~500℃である、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、反応剤に金属フッ化物を用いるので、副生物は金属塩化物であり、反応系中にHClが副生しない。このため、HClが生成物であるカルボン酸フルオリドと錯体を形成することはなく、生成物の収率が向上する。本発明の方法では、光反応装置や特定のフッ化水素付加体を使用する必要がなく、作業工程の複雑化の問題もない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[作用]
本発明では、カルボン酸クロリドと金属フッ化物(MF
n)(ここで、Mは金属原子であり、nはMの原子価を表する。)とを、反応させる工程を含むカルボン酸フルオリドの製造方法が提供される。この反応は、Mが1価のアルカリ金属である場合、以下の反応式で示されるように、金属塩化物(MCl)を副生するが、HClを副生しない。このため、生成物とHClが錯体を形成する問題が解消される。Mがn価の原子価を有する場合、金属フッ化物はMF
nで表され、金属塩化物はMCl
nで表される。
【化1】
【0009】
[酸クロリド]
本発明の原料である酸クロリドとしては、例えば、炭素数1~7のカルボン酸の酸クロリド、好ましくは炭素数2~7のカルボン酸の酸クロリドが挙げられる。炭素数1~7のカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロパン酸、n-ブタン酸、イソブタン酸、n-ペンタン酸、イソペンタン酸、ネオペンタン酸、n-ヘキサン酸、イソヘキサン酸、ネオヘキサン酸、n-ヘプタン酸、イソヘプタン酸、ネオヘプタン酸、これらカルボン酸の組み合わせ、などが挙げられる。このカルボン酸上の水素原子はフッ素置換されていてもよく、好ましくは水素原子がすべてフッ素原子に置換されたパーフルオロカルボン酸クロリドである。カルボン酸クロリドの具体例としては、トリフルオロ酢酸クロリド(TFAC)、ペルフルオロn-ブタン酸クロリド、パーフルオロn-ヘプタン酸クロリドなどが挙げられる。
【0010】
[金属フッ化物]
フッ素化反応剤としての金属フッ化物は、式:MFn(式中、Mは金属原子であり、nは金属の原子価である。)で表される。金属フッ化物としては、例えば、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、遷移金属フッ化物、などが挙げられ、これらは2種以上の組み合わせでもよい。アルカリ金属フッ化物としては、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属フッ化物としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウムなどが挙げられる。遷移金属フッ化物としては、例えば、フッ化クロム、フッ化モリブデン、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化銅、フッ化ニッケル、フッ化亜鉛、フッ化銀などが挙げられる。フッ化クロムとしては、フッ化クロム(III)、フッ化クロム(VI)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化モリブデンとしては、フッ化モリブデン(IV)、フッ化モリブデン(V)、フッ化モリブデン(VI)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化マンガンとしては、フッ化マンガン(II)、フッ化マンガン(III)、フッ化マンガン(IV)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化鉄としては、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化コバルトとしては、フッ化コバルト(II)、フッ化コバルト(III)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化銅としては、フッ化銅(I)、フッ化銅(II)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。フッ化ニッケル及びフッ化亜鉛については、2価の金属フッ化物が安定に存在する。フッ化銀としては、フッ化銀(I)、フッ化銀(II)、フッ化銀(III)及びこれらの混合物のいずれも使用できる。
【0011】
本発明では、金属フッ化物は担体に担持させて使用することができる。担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、ゼオライト、発泡金属などの多孔質の物質などが挙げられ、これらは2種以上の組み合わせであってもよい。例えば、CrF3/Cは、反応器にCrCl3/Cを充填し、反応器にHFを流し、HFによりハロゲン交換を行い、調製することができる。金属フッ化物を担体に担持させることにより、金属フッ化物担持体の成形性が向上し、粉末として使用する他に、ペレット状(円柱状)(例えば、粒径0.5~30mm)、ハニカム状、粒状(紡錘状)(例えば、粒径0.5~30mm)、球状(例えば、粒径0.5~30mm)、その他粉体を除く塊状などに当該担持体を成形することができる。金属フッ化物を担体に担持させることにより、金属フッ化物を粉末で使用するよりも取り扱い性が向上する。例えば、金属フッ化物同士の固化により原料ガスの流路が形成されてしまい反応効率が低下するという問題が起こりにくい、未反応の金属フッ化物と反応後副生する金属塩化物との焼結が起こりづらい、などの利点が得られる。
【0012】
[反応条件]
フッ素化反応のための条件としては、例えば、以下のものが挙げられる。
反応温度:好ましくは100~500℃、より好ましくは200~500℃、より好ましくは200~350℃、より好ましくは200~320℃
金属フッ化物の使用時間:好ましくは1~10時間、より好ましくは2~4時間(酸クロリドと金属フッ化物との接触時間は短いが、金属フッ化物の交換までの時間の目安)
【0013】
[反応装置]
反応装置としては、例えば、反応温度を調節するためのヒータを備えた円筒管に種々の形状の金属フッ化物を充填し、管の一端から他端へ向けて原料ガスを流せるように構成したものが挙げられる。原料ガスを流す方向は、金属フッ化物を装填した円筒管を垂直方向に延在させた場合、上から下に向けて少しずつ均一に流すようにすることが重力を利用して少しずつ原料ガスを流せるので、好ましい。円筒管を垂直方向に延在させ、原料ガスを下から上に流す場合、円筒管の下部に粒径の大きなペレット状の金属フッ化物を配置し、円筒管の上部に粒径の小さな粉末状の金属フッ化物を配置することが、反応効率の点で望ましい。反応装置の材質としては、例えば、ステンレス、インコネル、モネル、ハステロイ、ニッケルなどの耐腐食性金属などが挙げられる。これらの中でも、ニッケルが耐腐食性の観点から好ましい。
【0014】
[不活性ガス]
本発明を実施するにあたり、原料ガスの希釈、反応器の乾燥、などに不活性ガスが利用される。不活性ガスとしては、例えば、窒素(N2)、希ガス(ヘリウム、アルゴン、キセノンなど)、などが挙げられる。
【実施例】
【0015】
本発明を以下の例により具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
[実施例1](NaFを使用した製造法)
実験No.1-1~1-8の全てについて反応器にはNaF粉末落下防止および帯同による閉塞防止のため、反応器を垂直方向に延在させ、下部にNaFペレットを配置し、NaFペレットの上にNaF粉末を充填した。実験No.1-1~1-4についてはNaF粉末の上に更にNaFペレットを配置した。NaFペレットのサイズは直径1mm、高さ3mmであり、NaF粉末の粒径は、実験No.1-1~1-4については5~15μmであり、実験No.1-5~1-7については200~500μmであり、実験No.1-8については60μmであった。NaF充填後、反応器を>250℃に加熱し、反応器下からN2を流通し、乾燥を実施した。乾燥後、反応器を300℃に加熱し、原料ガス(CF3C(O)Cl)(TFAC)を反応器下から導入し、ガスクロマトグラフィ(GC)によるCF3C(O)F(TFAF)生成の確認、捕集を実施した。原料ガスの流速はマスフローコントローラー(MFC)によって制御した。表1に実験条件を、表2に実験結果を示す。
【0016】
【表1】
※1 NaFペレットの有効に反応する割合は実績より20%として計算。例えば、NaFペレットは、サイズが直径1mm、高さ3mmと大きいため比表面積20%分を掛けて算出しており、実験No.1-1の場合、3.6mol×0.2+9.5mol+3.6mol×0.2=11.0molと計算した。
【0017】
【0018】
表2の試験結果からわかるように、本発明によれば、金属フッ化物を通過させるだけでカルボン酸クロリドをカルボン酸フルオリドに80%以上の高収率で効率よく変換できる。
【0019】
[実施例2](CrF3/Cを使用した製造法)
2B縦型SUS反応器の下部にSUSタワシを配置しSUSタワシの上に17~33質量%担持のCrF3/Cを充填した。反応器を200~350℃に加熱した。CF3C(O)Cl(TFAC)を流通させ、出口ガスのGC分析によりCF3C(O)F(TFAF)の生成を確認した。500mLシリンダーを液体窒素で冷却し、生成したCF3C(O)F(TFAF)を捕集した。
【0020】
【0021】
【0022】
表3及び4の結果から、本発明によれば、金属フッ化物が担持されている場合、原料ガスと金属フッ化物とが効率よく反応するので、カルボン酸クロリドのカルボン酸フルオリドへの変換率は90%以上であることがわかる。