(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】拡張可能なスリーブを含む流入カニューレ、及びそれを植え込むための方法
(51)【国際特許分類】
A61M 60/178 20210101AFI20240726BHJP
A61M 60/237 20210101ALI20240726BHJP
A61M 60/232 20210101ALI20240726BHJP
A61M 60/863 20210101ALI20240726BHJP
A61M 60/857 20210101ALI20240726BHJP
A61M 60/546 20210101ALI20240726BHJP
【FI】
A61M60/178
A61M60/237
A61M60/232
A61M60/863
A61M60/857
A61M60/546
(21)【出願番号】P 2021550023
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 US2020013803
(87)【国際公開番号】W WO2020176170
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-05
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518145695
【氏名又は名称】ティーシーワン エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キーン、レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】フランクリン、スティーヴ
(72)【発明者】
【氏名】アイデンシンク、トレイシー
(72)【発明者】
【氏名】デイル、テッド
(72)【発明者】
【氏名】エルツベルガー、ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】ビエットメアー、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】デュアメル、ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】トーレス、フランチェスカ
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0214619(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0143141(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0082467(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0299297(US,A1)
【文献】特開昭57-177760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/178
A61M 60/237
A61M 60/232
A61M 60/863
A61M 60/857
A61M 60/546
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植え込み可能な血液ポンプアセンブリ用の流入カニューレであって、
ポンプハウジングに接続された近位部、及び心臓に形成された開口内に配置された遠位部を含み、近位端から遠位端に延びる管状本体部と、
前記管状本体部の前記遠位部に結合された第1部、及び前記管状本体部の前記遠位端から延びる第2部を含む、前記遠位部の外表面に結合された拡張可能なスリーブであって、
前記スリーブは、外層と内層とを含む管状のメッシュを含み、前記第2部が、収納位置をなす第1の位置から、前記心臓の心内膜表面と係合及び適合するために前記第2部が径方向に拡張した、展開位置をなす第2の位置に展開可能である、該スリーブ、とを含む流入カニューレ。
【請求項2】
請求項1に記載の流入カニューレであって、
前記スリーブが前記展開位置にあるとき、前記スリーブの前記第1部と前記管状本体部の前記遠位部との係合が維持され
るように、かつ、前記スリーブが前記収納位置から前記展開位置に展開されるとき、前記スリーブの前記第2部が前記管状本体部の
前記遠位部において径方向外側に拡げられて展開される
ように、前記スリーブの前記第1部
が、前記管状本体部の前記
遠位部に固定された流入カニューレ。
【請求項3】
請求項1に記載の流入カニューレであって、
前記スリーブ
の前記内層が、前記スリーブの
前記遠位部において前記外層に
接合された流入カニューレ。
【請求項4】
請求項3に記載の流入カニューレであって、
前記スリーブが前記収納位置から前記展開位置に展開されるとき、前記内層と前記外層との間の距離が増大可能である流入カニューレ。
【請求項5】
請求項1に記載の流入カニューレであって、
前記スリーブが、前記管状本体部に結合された
前記近位端から、遊端をなす
前記遠位端に延び、
該流入カニューレが、前記スリーブの前記遠位端に結合された保持部を更に含み、
前記保持部が、前記スリーブを前記収納位置に維持する流入カニューレ。
【請求項6】
請求項5に記載の流入カニューレであって、
前記保持部に結合され、かつ、前記保持部を前記スリーブの前記遠位端から解放することにより、前記スリーブの前記第2部を前記収納位置から前記展開位置に展開させるように動作可能な解放機構を更に含む流入カニューレ。
【請求項7】
請求項6に記載の流入カニューレであって、
前記解放機構が、前記スリーブの前記遠位端から、前記管状本体部により画定される流路を通り、前記管状本体部の前記近位端の外側に延びる流入カニューレ。
【請求項8】
請求項6に記載の流入カニューレであって、
前記保持部が、保持リングを含み、
前記解放機構が、解放線を含み、
前記保持リングが、前記解放線と一体的に形成される流入カニューレ。
【請求項9】
請求項1に記載の流入カニューレであって、
前記スリーブの前記第1部が、1以上のクリンプリングによって前記管状本体部の前記遠位部に結合された流入カニューレ。
【請求項10】
請求項
1に記載の流入カニューレであって、
前記スリーブが、ニッケル・チタン合金の編組を含む流入カニューレ。
【請求項11】
植え込み可能な血液ポンプアセンブリであって、
入口、出口、及び前記入口から前記出口に延びる流路を画定するハウジングと、
前記流路内に配置され、かつ、血液を前記入口から前記出口に送血するように動作可能なロータと、
前記ハウジング内に配置され、かつ、前記ロータを駆動するように動作可能なステータと、
前記ハウジングの前記入口に結合された近位部、及び前記近位部の反対側に位置する遠位部を有する流入カニューレと、
前記流入カニューレの前記遠位部に結合された第1部、及び前記流入カニューレの遠位端から延びる第2部を含む、前記遠位部の外表面に結合された拡張可能なスリーブであって、
前記スリーブは、外層と内層とを含む管状のメッシュを含み、前記第2部が、収納位置をなす第1の位置から、心臓の心内膜表面と係合及び適合するために前記第2部が径方向に拡張した、展開位置をなす第2の位置に展開可能である、該スリーブ、とを含む血液ポンプアセンブリ。
【請求項12】
請求項
11に記載の血液ポンプアセンブリであって、
前記スリーブが、ニッケル・チタン合金の編組を含み、
前記スリーブが、前記流入カニューレに結合された近位端から、遊端をなす
前記遠位端に延び、
保持部が、前記スリーブの前記遠位端に結合され、かつ、前記スリーブを前記収納位置に維持し、
前記スリーブが前記展開位置にあるとき、前記スリーブの前記第1部と前記流入カニューレの前記遠位部との係合が維持され
るように、かつ、前記スリーブが前記収納位置から前記展開位置に展開されるとき、前記スリーブの前記第2部が前記流入カニューレの
前記遠位部において径方向外側に拡げられて展開される
ように、前記スリーブの前記第1部
が、前記流入カニューレの前記
遠位部に固定された血液ポンプアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年2月28日出願の米国仮特許出願第62/811,814号明細書に対する優先権を主張するものであり、その開示内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して機械的循環補助システムに関し、より詳細には、血液ポンプアセンブリの流入カニューレであって、該流入カニューレの周囲の低血流領域又はうっ血に関連するリスクを低減するように構成された拡張可能なスリーブを含む、該流入カニューレに関する。
【背景技術】
【0003】
VAD(Ventricular assist devices)と呼ばれる補助人工心臓は、一般に心不全又はうっ血性心不全と呼ばれる、患者の心臓が適切に血液を循環できない場合において、短期間(すなわち、数日間又は数ヶ月間)及び長期間(すなわち、数年間又は一生間)のいずれの用途においても使用される植え込み可能な血液ポンプである。心不全を患う患者は、心臓移植を待つ間、又は長期的なデスティネーション治療としてVADを使用する場合がある。別の例では、患者は心臓手術からの回復中にVADを使用する場合もある。このように、VADは、機能が低下した心臓を補助することができる(すなわち部分補助)、又は心臓の本来の機能を実質的に代替することができる。VADは、患者の体内に植え込まれ、患者の体内又は体外の電力源から電力が供給されてもよい。
【0004】
特定の用途では、心室内の血液をVADのポンプに供給するために、VADの流入カニューレは患者の心臓の左心室内に植え込まれる。いくつかの例では、流入カニューレの周囲において血流が弱まり、これにより低血流領域又はうっ血領域を生じることがある。これらの低血流領域又はうっ血領域は、患者の心臓に形成された穴の周囲の血栓形成促進性心筋組織と組み合わさって、心室内に血栓を形成する可能性のある領域である。
【0005】
したがって、流入カニューレの周囲の低血流領域又はうっ血領域を低減又は排除する、改良されたVAD用の流入カニューレが必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、植え込み可能な血液ポンプアセンブリ用の流入カニューレに関する。流入カニューレは、近位端から遠位端に延びる管状本体部を含む。管状本体部は、ポンプハウジングに接続された近位部、及び心臓に形成された開口内に配置された遠位部を含む。流入カニューレは、遠位部の外表面に結合された拡張可能なスリーブを更に含む。スリーブは、管状本体部の遠位部に結合された第1部、及び管状本体部の遠位端から延びる第2部を含む。第2部は、収納位置をなす第1の位置から、心臓の心内膜表面と係合及び適合するために前記第2部が径方向に拡張した、展開位置をなす第2の位置に展開可能である。
【0007】
本開示は、更に、ハウジング、ロータ、ステータ、及び流入カニューレを含む植え込み可能な血液ポンプアセンブリに関する。ハウジングは、入口と、出口と、入口から出口に延びる流路と、を画定している。ロータは、流路内に配置され、かつ、血液を入口から出口に送血するように動作可能である。ステータは、ハウジング内に配置され、かつ、ロータを駆動するように動作可能である。流入カニューレは、ハウジングの入口に結合された近位部、及び近位部の反対側に位置する遠位部を有する。植え込み可能な血液ポンプアセンブリは、流入カニューレの遠位部の外表面に結合された拡張可能なスリーブを更に含む。スリーブは、管状本体部の遠位部に結合された第1部、及び管状本体部の遠位端から延びる第2部を含む。第2部は、収納位置をなす第1の位置から、心臓の心内膜表面と係合及び適合するために第2部が径方向に拡張した、展開位置をなす第2の位置に展開可能である。
【0008】
本開示は、更に、患者の体内に流入カニューレを植え込む方法に関する。この方法は、流入カニューレの遠位部を心臓に形成された穴内に配置するステップを含む。流入カニューレは、流入カニューレの遠位部に結合された第1部、及び流入カニューレの遠位端から延びる第2部を含む拡張可能なスリーブを含む。この方法は、流入カニューレを心臓に固定するステップと、スリーブの第2部を、収納位置をなす第1の位置から、心臓の心内膜表面と係合及び適合するために第2部が径方向に拡張した、展開位置をなす第2の位置に展開するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、患者の体内に植え込まれた機械的循環補助システムを示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す循環補助システムの一部の構成要素の分解図である。
【
図3】
図3は、
図1の循環補助システムにおける使用に適した血液ポンプアセンブリを示す図であり、該血液ポンプアセンブリは、患者の体内に植え込まれた動作状態で示されている。
【
図4】
図4は、
図3の血液ポンプアセンブリの模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、
図3の血液ポンプアセンブリと共に使用するのに適した流入カニューレの例示的な一実施形態の斜視図であり、該流入カニューレは、展開位置で示されている拡張可能なスリーブを含む。
【
図6】
図6は、患者の心臓に植え込まれた
図5の流入カニューレの断面図であり、拡張可能なスリーブは展開位置で示されている。
【
図7】
図7は、
図5に示す流入カニューレの斜視図であり、拡張可能なスリーブが、収納位置で示されている。
【
図8】
図8は、
図5に示す流入カニューレの斜視図であり、拡張可能なスリーブが、収納位置と展開位置との間の過渡的な状態で示されている。
【
図9】
図9は、
図5に示す流入カニューレの斜視図であり、拡張可能なスリーブが、
図7に示す収納位置から、
図8に示す収納位置と展開位置との間の過渡的な状態を経て、展開位置に移行した様子が示されている。
【
図10】
図10は、収納位置で示された
図5の拡張可能なスリーブの遠位端の、概略的な拡大断面図である。
【
図11】
図11は、患者の心臓内に流入カニューレを植え込む方法の一実施形態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、植え込み可能な血液ポンプアセンブリに関し、より詳細には、血液ポンプアセンブリの植え込み後に、心臓内における血栓形成の可能性がある領域を低減させるように構成された、植え込み可能な血液ポンプアセンブリの流入カニューレに関する。特に、本明細書に開示される流入カニューレの実施形態は、心臓の心室内に配置された流入カニューレの遠位端の周囲の空間を占有又は充填するように構成された、拡張可能なスリーブを含む。拡張可能なスリーブによって占有される領域は、さもなければ低血流領域又はうっ血領域に関連し得る領域である。この空間を占有することにより、拡張可能なスリーブが該スリーブの下方の心内膜組織に形成された血栓を捕捉又はトラップすべく配置され、これにより、血栓が剥離して患者の血流中に放流されることを抑制することができる。更に、本明細書に開示される拡張可能なスリーブの実施形態は、心臓の心内膜表面に沿ったスムースな輪郭を提供し、流入カニューレの遠位端と心内膜表面との間のギャップ又は空間を充填する。これにより、さもなければ低血流領域又はうっ血領域を生じ得る流入カニューレと心内膜壁との間の界面において、鋭利な角又は曲線を回避することができる。これにより、本開示の流入カニューレは、流入カニューレの遠位端に沿った低血流領域又はうっ血領域の低減を促進する。更に、拡張可能なスリーブの実施形態は、心内膜表面に沿って組織の再内皮化を促進する材料から構成され、これにより、植え込み術後の患者における、より高速な治癒が促進されている。
【0011】
更に、本明細書に開示される拡張可能なスリーブの実施形態は、スリーブが展開されたときに、スリーブが心臓の心内膜表面に対して外側に偏っているか、又は強制されるような、柔軟でありながらも弾力性のある構造を有する。これにより、拡張可能なスリーブは、流入カニューレの遠位端における流路開口部を組織が閉塞すること、又は該流路開口部上における組織の成長を抑制し、流入カニューレを通る流路が、開口した状態に維持されることを促進する。更に、組織が過剰に成長する可能性を低減することにより、本開示の拡張可能なスリーブは、心室内に突出する流入カニューレの長さを低減又は最小化することを促進する。
【0012】
次に図面を参照すると、
図1は、患者の体12内に植え込まれた機械的循環補助システム10を示す図である。機械的循環補助システム10は、血液ポンプアセンブリ14であって、血液ポンプ16、心室カフ18、及び流出カニューレ20を含む、該アセンブリ、を含む。機械的循環補助システム10は、更に、外部システムコントローラ22及び1以上の電源24を含む。
【0013】
血液ポンプアセンブリ14は、心臓26の左心室(図示)、右心室、又は両心室の先端部に取り付けられる心室補助装置(VAD)として実施されてもよいし、又は該心室補助装置を含んでもよい。更に
図2を参照すると、血液ポンプアセンブリ14の一方の端部は、本明細書で後に説明するように、心臓26に縫い付けられて血液ポンプアセンブリ14に結合された心室カフ18を介して、心臓26に取り付けられる。血液ポンプアセンブリ14の他方の端部は、流出カニューレ20を介して上行大動脈又は下行大動脈に接続される。これにより、血液ポンプアセンブリ14は、機能が低下した心室からの血流を効率的に迂回させ、患者の血管系の残りの部分に循環させるために、大動脈へと導くことができる。本明細書で更に詳細に説明するように、VADは、肺循環から左心室に送出される出力の全体(すなわち、最大毎分10L)をポンピング可能な遠心式ポンプ(図示)又は軸流ポンプを含んでもよい。
【0014】
図1は、バッテリ駆動中の機械的循環補助システム10を示す図である。通信線28は、植え込まれた血液ポンプアセンブリ14を、システム10の動作を監視する外部システムコントローラ22に接続している。図示の実施形態では、通信線28は患者の腹部30を通って出るドライブラインとして示されているが、血液ポンプアセンブリ14は、有線通信及び/又は無線通信を含む、任意の適切な通信線を介して外部システムコントローラ22に接続されてもよいことを理解されたい。該システムは、1つ、2つ、又はそれ以上の電池24によって電力供給されてもよい。システムコントローラ22及び電源24は、患者の体の外側/外部に図示されているが、通信線28、システムコントローラ22、及び/又は電源24は、それぞれ個別の構成要素として、又は血液ポンプアセンブリ14と一体化して、患者の体内に部分的又は完全に植え込まれてもよいことが理解されよう。
【0015】
図3は、
図1の循環補助システム10における使用に適した植え込み可能な血液ポンプアセンブリ100を示す図であり、
図3では、患者の体内に植え込まれた動作位置にある血液ポンプアセンブリ100が示されている。
図4は、
図3の血液ポンプアセンブリ100の模式的な断面図である。図示の実施形態では、血液ポンプアセンブリ100は、心臓Hの左心室LVに接続された左心補助型の血液ポンプアセンブリである。
【0016】
血液ポンプアセンブリ100は、第1の外面又は第1の外壁106及び第2の外面又は第2の外壁108を有する円形状のハウジング104を含む血液ポンプ102を含む。血液ポンプアセンブリ100は、更に、図示の実施形態ではポンプのハウジング104の第1の外壁106から延びる流入カニューレ110(一般に流入導管)を含む。血液ポンプアセンブリ100が患者の体内に植え込まれたとき、
図3に示すように、ハウジング104の第1の外壁106が患者の心臓Hを向いた状態に配置され、ハウジング104の第2の外壁108が心臓Hから離れる方向を向く。流入カニューレ110は、血液ポンプアセンブリ100を心臓Hに接続するために、心臓Hの左心室LV内に延びている。ハウジング104の第2の外壁108は、例えば患者の横隔膜などの、血液ポンプアセンブリ100と接触し得る他の組織を刺激しないように、面取りされた端部109を有する。
【0017】
血液ポンプアセンブリ100は、更に、ステータ112、ロータ114、及びオンボードコントローラ116を含み、これらはすべてポンプハウジング104内に収容されている。図示の実施形態では、ステータ112及びオンボードコントローラ116は、第1の外壁106側を向くポンプハウジング104の流入側に配置され、ロータ114は、第2の外壁108に沿って配置されている。他の実施形態として、ステータ112、ロータ114、及びオンボードコントローラ116は、血液ポンプアセンブリ100が本明細書に記載されているように機能できることとなる、ポンプハウジング104内の任意の適切な位置に配置されてもよい。電力は、電源ケーブル120を介して、遠隔電源から血液ポンプアセンブリ100の動作可能な構成要素(例えば、ステータ112及びオンボードコントローラ116)に供給される。
【0018】
図4を更に参照すると、ポンプハウジング104は、心臓の心室(例えば、左心室LV)から血液を受け入れるための入口122と、血液を循環系に戻すための出口124と、入口122から出口124に延びる流路126と、を画定している。ポンプハウジング104は、更に、例えば1以上の仕切り壁130によって流路126から隔てられた内部コンパートメント128を画定している。また、ポンプハウジング104は、第1の外壁106と第2の外壁108との間に配置された中間壁132と、第1の外壁106と中間壁132との間を延びる周壁134と、を更に含む。第1の外壁106、仕切り壁130、中間壁132、及び周壁134が協働して、ステータ112及びオンボードコントローラ116が収容された内部コンパートメント128を画定している。
【0019】
また、図示の実施形態では、ポンプハウジング104は、中間壁132に沿ってポンプハウジング104に対して取り外し可能に取り付けられたキャップ136を更に含む。図示の実施形態では、キャップ136はポンプハウジング104に螺合されているが、他の実施形態として、キャップ136が、血液ポンプアセンブリ100が本明細書に記載されているように機能できることとなる、任意の適切な接続手段を用いてポンプハウジング104に接続されてもよい。いくつかの実施形態では、例えば、キャップ136は、例えば溶接によって、ポンプハウジング104に対して取り外し不可能に接続される。取り外し可能なキャップ136は、第2の外壁108及び面取りされた端部109を含み、出口124を画定している。キャップ136は、更に、出口124に対して流体連通された渦巻部138と、ロータ114が配置されるロータチャンバ140と、を画定している。キャップ136は、任意の適切な接続構造を用いてポンプハウジング104に取り付けされてもよい。例えば、ねじ山を介してキャップ136を周壁134に係合させることにより、周壁134と係合したキャップ136が封止されてもよい。
【0020】
ロータ114は、血液流路126内、詳細にはロータチャンバ140内に配置される。ロータ114は、血液を入口122から出口124に送血するために、ステータ112によって生成された電磁場に応答して回転するように動作できる。ロータ114は、血液ポンプ102の動作中に血液が流れる中央開口部142を画定している。ロータ114は、血液流路126の渦巻部138内に配置されたインペラブレード144と、渦巻部138内への血流の誘導を補助するための、第2の外壁108を向くインペラブレード144の端部を覆うシュラウド146と、を含む。
【0021】
図示の実施形態では、ロータ114は、中央開口部142を画定する永久磁石148を含む。永久磁石148は、ロータ114の回転、並びに、能動的な磁気浮上及び受動的な磁気浮上が組み合わされたロータ114の磁気浮上に使用される永久N磁極N及び永久S磁極Sを有する。動作時には、ステータ112は、永久磁石148の永久磁極S及び永久磁極Nと相互作用する電磁場を発生させることにより、ロータ114を駆動し(すなわち回転させ)、かつ、径方向に浮上させるように制御される。
【0022】
ロータ114を回転させるために、任意の適切なステータ112が採用されてもよい。ステータ112は、一般に、ロータ114を回転及び浮上させるべくロータ114と相互作用する適切な電磁場を発生させる複数の巻線構造を含む。図示の実施形態では、ステータ112は、仕切り壁130の周りに周方向に間隔をおいて配置された複数のポールピース150を含む。例示の血液ポンプアセンブリ100は6つのポールピース150を含み、
図4にはそのうちの2つが示されている。他の実施形態として、血液ポンプアセンブリ100は、例えば、4つのポールピース、8つのポールピース、又は血液ポンプアセンブリ100が本明細書に記載されているように機能できることとなる、他の適切な任意の数のポールピースなどの、6つよりも多い又は少ないポールピースを含んでもよい。図示の実施形態では、各ポールピース150は、ロータ114を回転させる電磁場を発生させるための駆動コイル152と、ロータ114の径方向位置を制御する電磁場を発生させるための浮上コイル154と、を含む。
【0023】
駆動コイル152及び浮上コイル154は、それぞれ、ポールピース150に巻かれた導体の、複数の巻線を含む。ステータ112の駆動コイル152及び浮上コイル154は、互いに対向するペアで配置され、かつ、永久磁石148の永久磁極S及び永久磁極Nと相互作用する電磁場を発生させることにより、ロータ114を駆動し、かつ、径方向に浮上させるように制御される。ロータ114を回転させ、かつ、径方向に浮上させる電磁場を、ステータ112を制御することにより発生させるための適切な方法は、例えば、参照によりその内容全体があらゆる目的のために本明細書に組み込まれる米国特許第9,849,224号明細書に記載されている。駆動コイル152及び浮上コイル154は、図示の実施形態では別個のコイルとして示されているが、駆動コイル152及び浮上コイル154は、ロータ114を回転し、かつ径方向に浮上させる電磁場を発生させるように構成された単一のコイルとして実施されてもよいことを理解されたい。
【0024】
流入カニューレ110は、入口122において、ポンプハウジング104に取り付けられている。ポンプハウジング104は、入口122において、流入カニューレ110をポンプハウジング104に接続するための適切な接続構造を含む。いくつかの実施形態では、ポンプハウジング104は、例えば、流入カニューレ110をポンプハウジング104に接続するための、流入カニューレ110の下流又は近位端に設けられたねじ山と螺合するねじ山付きのスリーブを含む。
【0025】
オンボードコントローラ116は、ステータ112に動作可能に接続され、かつ、ステータ112への電流供給を制御することでポンプ102の動作を制御することにより、ロータ114の回転を制御するように構成されている。いくつかの実施形態では、オンボードコントローラ116は、血液ポンプアセンブリ100に含まれる1つ又は複数のセンサ(例えば、圧力センサや、流量センサや、加速度計など)から受信したフィードバックに基づいてロータ114の閉ループ速度制御を行うように構成されている。オンボードコントローラ116は、連続的な流量動作及び/又は脈動的な流量動作でロータ114を制御するように構成されてもよい。
【0026】
オンボードコントローラ116は、ポンプハウジング104内に収容された1以上のモジュール又はデバイスを含んでもよい。オンボードコントローラ116は、一般に、オンボードコントローラ116は、一般に、コンピュータ、処理装置、及び/又は互いに通信可能に結合される同様の装置の任意の好適な組み合わせを含む、任意の好適なコンピュータ及び/又は他の処理装置を含む(例えば、オンボードコントローラ116は、コントローラネットワークの全て又は一部を形成することができる)。したがって、オンボードコントローラ116は、種々のコンピュータ実装機能(例えば、本明細書に開示されている方法、ステップ、計算、及び/又はこれらと同様のもの)を実行するように構成された、1以上のプロセッサ及び関連するメモリデバイスを含んでもよい。本明細書における「プロセッサ」という用語は、コンピュータに含まれるものとして当技術分野で言及される集積回路だけでなく、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロコンピュータ、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)、特定用途向け集積回路(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、及びその他のプログラマブル回路も含む。更に、オンボードコントローラ116のメモリデバイスは、一般に、非一過性のコンピュータ可読媒体(例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM))、コンピュータ可読不揮発性媒体(例えば、フラッシュメモリ)、フロッピーディスク、コンパクトディスク・リードオンリーメモリ(CD-ROM)、光磁気ディスク(MOD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、及び/又は他の適切なメモリ素子を含むが、これらに限定されるものではない。一般に、そのようなメモリ装置は、プロセッサによって実装された場合に、ステータ112への電流供給の制御、ロータ114の速度調整、及び他の様々な適切なコンピュータ実装機能を含むがこれらに限定されない様々な機能を実行するようにオンボードコントローラ116を構成する、適切なコンピュータ読み取り可能な命令を収納するように構成されている。
【0027】
図示の実施形態では、オンボードコントローラ116は、ステータ112への電気供給の制御によってポンプ102の動作を制御するための、1以上の回路基板156及び該回路基板上に担持された様々な構成要素(例えば、プロセッサ及びメモリデバイス)として実装されている。
【0028】
通信線(例えば、通信線28)は、血液ポンプアセンブリ100及びオンボードコントローラ116を、種々のソフトウェアアプリケーションを介してシステム動作を監視する外部システムコントローラ22に接続する。また、血液ポンプアセンブリ100自体が、例えば、動作中にポンプアセンブリ100のロータ114の径方向浮上及び/又は駆動を制御するなどの種々の機能のために、オンボードコントローラ116によって実行可能ないくつかのソフトウェアアプリケーションを含んでもよい。次に、外部システムコントローラ22は、電池24又はAC電気コンセントに接続する電源モジュール(図示せず)に結合されてもよい。外部システムコントローラ22はまた、(例えば、電池24が消耗したときに)システムに電力を供給するための緊急バックアップ電池(EBB)、及び無線データ通信用のBluetooth(登録商標)機能を有するメンブレンオーバーレイを含んでもよい。更に、外部システムコントローラ22、植え込まれたポンプアセンブリ100、及び/又は患者固有のパラメータを構成するために、外部システムコントローラ22及び/又は植え込まれたポンプアセンブリ100のソフトウェアを更新するために、システム動作を監視するために、並びに/若しくはシステム入力用又はシステム出力用の導管として、循環補助システム10に、例えば臨床医又は患者などのオペレータによって構成可能な外部コンピュータが結合されてもよい。
【0029】
図5は、
図3の血液ポンプアセンブリ100及び
図1の循環補助システム10における使用に適した流入カニューレ200の例示的な一実施形態を示す斜視図である。
図6は、患者の心臓Hに植え込まれた流入カニューレ200を示す断面図である。流入カニューレ200は、近位端204から遠位端206に延びる管状本体部202と、管状本体部202に結合された拡張可能な管状のスリーブ208と、を含む。本明細書で後述して説明するように、スリーブ208は、流入カニューレ200の周囲の低血流又はうっ血の可能性がある領域を占有するように構成されており、それにより、血液ポンプアセンブリ100が植え込まれた後、心臓Hの血栓形成性領域に関連する問題を低減又は緩和することができる。
【0030】
図6に示すように、本体部202は、例えばポンプハウジング104などのポンプハウジングに接続するように適合された近位部210と、心臓Hに形成された開口内又は穴内に配置されるように適合された遠位部212と、を含む。すなわち、遠位部212は、心臓Hに形成された中空穴(cored hole)内に受容されるようなサイズ及び形状を有する。流入カニューレ200が患者に植え込まれたとき、遠位部212は心臓Hに形成された開口を通過する。例えば
図1及び
図3に示すように、血液ポンプアセンブリが患者内に完全に植え込まれたとき、近位部210は、ポンプハウジング104に結合される、及び/又はポンプハウジング104内に収容される。
【0031】
図示の実施形態では、近位部210の外径は、遠位部212の外径よりも小さい。更に、図示の実施形態では、近位部210及び遠位部212はそれぞれ円筒形状を有するが、他の実施形態として、近位部210及び遠位部212のうちの一方又は両方が、円筒形状でない形状を有してもよい。
【0032】
図6に示すように、流入カニューレ200は、心臓Hの心室(
図6では左心室LVとして示されている)内からポンプハウジング104の入口122(いずれも
図4に示す)に血液を供給するための流路214を画定している。図示の実施形態では、流路214は、カニューレ本体部202の遠位端206からカニューレ本体部202の近位端204にかけて径方向内側にテーパされていることにより、その断面積が近位部210に沿って減少している。
【0033】
カニューレ本体部202の近位部210は、流路214を画定する内面216と、外面220と、を含み、カニューレ本体部202の遠位部212は、流路214を画定する内面218と、外面222と、を含む。
【0034】
近位部210は、ポンプハウジング104に結合するために適切なカプラ224を含む。これらに限定されるものではないが、適切なカプラとしては、例えば、ねじ山、スナップフィットカプラ、クイックコネクトカプラ、及びカフロック機構などが挙げられる。図示の実施形態では、カプラ224は、流入カニューレ200の近位部210に沿った外部のねじ山として示されている。
【0035】
いくつかの実施形態では、流入カニューレ200は、
図6に示す心室カフ226によって、心臓Hに結合されるか、さもなければ固定される。カフ226は、その内部において、流入カニューレ200を受容する開口部228を画定している。カフ226は、カフ226を流入カニューレ200に結合する適切なカプラ(例えばクランプ(
図6には図示せず))を含む。カフ226はまた、カプラを閉位置に固定するロック機構(例えばカム(
図6には図示せず))を含むことにより、カフ226と流入カニューレ200との結合が誤って解除される可能性が制限されていてもよい。いくつかの実施形態では、カフ226は、カフ226をポンプハウジング104に結合するための別個のカプラを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、患者の心臓Hに穴を形成するコア形成プロセスの後、心室カフ226が(例えば、縫合糸を用いて)心臓Hに結合される。更に、いくつかの実施形態では、カフ226が心臓Hに結合された後、流入カニューレ200が心臓H内に配置され、かつ、(例えば、心室カフ226を介して)心臓Hに結合される。
【0037】
流入カニューレ200及び心室カフ226は、本開示の態様から逸脱しない範囲の他の適切な構成を有してもよいことを理解されたい。本開示の特定の態様と共に使用するのに適した、流入カニューレ及び心室カフの他の構成、並びに流入カニューレ及び心室カフを患者の心臓に結合するための技術は、例えば、米国特許第9,981,076号に記載されており、その内容全体がすべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
スリーブ208は、遠位部212の外面222に結合されている。また、スリーブ208は、収納位置をなす第1の位置(
図7に示す)から、展開位置をなす第2の位置(
図5及び
図6に示す)へと展開することにより、カニューレ本体部202の遠位部212の周囲(すなわち径方向外側)の空間を占有し、それによりカニューレ本体部202の遠位部212の周囲の、うっ血の可能性がある領域を充填又は占有するように構成されている。より具体的には、図示の実施形態では、スリーブ208は、カニューレ本体部202に結合された近位端230から遠位端(遊端)232に延び、かつ、カニューレ本体部202の遠位部212に結合された第1部234と、カニューレ本体部202の遠位端206から延びる第2部236と、を含む。第2部236は、収納位置から、心臓Hの心内膜表面と係合及び適合するために第2部236が径方向に拡張した展開位置に展開可能である。図示の実施形態では、例えば、スリーブ208の第2部236は、カニューレ本体部202に直接固定されておらず、スリーブ208の第1部234を介してカニューレ本体部202に固定されているに過ぎない。したがって、一度展開されると、スリーブ208の第2部236は自由に拡張され、カニューレ本体部202の遠位部212を取り囲む表面、例えば心臓Hの心内膜表面などに適合することができる。
【0039】
図示の実施形態では、スリーブ208の第1部234は、複数のクリンプリング238によって、カニューレ本体部202の遠位部212に結合されている。
図5には2つのクリンプリング238が示されているが、スリーブ208は、2より多い又は2より少ない数を含む、任意の適切な数のクリンプリングを用いてカニューレ本体部202に結合されてもよい。更に、図示の実施形態では、スリーブ208が展開位置にあるときにスリーブ208の第1部234とカニューレ本体部202の遠位部212との間の係合が維持されるように、スリーブ208は、スリーブ208の第1部234に沿ってカニューレ本体部202の遠位先端部240に固定されている。更に、スリーブ208がスリーブ208の第1部234に沿ってカニューレ本体部202の遠位先端部240に固定されているため、スリーブ208が収納位置から展開位置に展開されるとき、スリーブ208の第2部236は、
図7~
図9に示すように、カニューレ本体部202の遠位先端部240に対して展開される。他の実施形態として、スリーブ208は、スリーブ208が本明細書に記載されているように機能できることとなる、任意の適切なカプラ又はファスナを用いてカニューレ本体部202に結合されてもよい。
【0040】
図7に示す収納位置では、スリーブ208の第2部236の直径は、スリーブ208の第1部234及びカニューレ本体部202の遠位部212の直径よりも小さい。また、収納位置におけるスリーブ208の第2部236の直径は、展開位置における第2部236の直径よりも小さい。流入カニューレ200を心臓Hへと送達して植え込む前に、心臓Hに形成された穴を介する流入カニューレ200の挿入を容易にするために、スリーブ208の第2部236が収納位置に維持されてもよい。一度穴を介して流入カニューレ200が挿入され、心臓Hに固定又は結合されると、スリーブ208の第2部が展開位置に展開することができる。
【0041】
図7を参照すると、スリーブ208の遠位端232には、スリーブ208を収納位置に維持するための保持部242が結合されている。図示の実施形態では、保持部242は、スリーブ208の遠位端232の周りに延在する保持リングである。他の実施形態として、保持部242は、概して、スリーブ208が本明細書に記載されているように機能できることとなる、任意の適切な保持機構を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、流入カニューレ200は、スリーブ208の遠位端232の周りに嵌められたキャップを含んでもよい。
【0042】
更に、図示の実施形態では、解放機構244が保持部242に結合されている。また、解放機構244は、保持部242をスリーブ208の遠位端232から解放することにより、スリーブ208の第2部236を収納位置から展開位置に展開させるように動作することができる。図示の実施形態では、解放機構244は、カニューレ本体部202及びスリーブ208の外側に配置されて示されているが、他の実施形態として、解放機構244は、スリーブ208及び/又はカニューレ本体部202内に配置されてもよい。例えば、一実施形態では、解放機構244は、スリーブ208の遠位端232から、カニューレ本体部202により画定される流路214を通り、カニューレ本体部202の近位端204の外側に延びている。図示の実施形態では、解放機構244は、例えば縫合糸などの材料からなる糸又はワイヤにより構成される解放線である。更に、図示の実施形態では、解放線は保持部242と一体的に形成されている。すなわち、図示の実施形態では、保持部242及び解放機構244は、例えば縫合糸などの材料からなる、連続したワイヤ又は糸により構成されている。例えば保持キャップを含む実施形態などの他の実施形態では、解放機構244は、保持部242をスリーブ208から押し上げ、スリーブ208が展開された後、保持部242をカニューレ本体部202によって画定された流路214を通って引き戻すために、流路214及びスリーブ208を通って延びる細長の物体又はツールを含んでもよい。
【0043】
植え込まれる前の状態では、拡張可能なスリーブ208が心臓Hの心筋に形成された中空穴内にフィットできるように、スリーブ208は、保持部242(例えば縫合リング)と共に纏められ収納位置に維持されている。流入カニューレ200を植え込むために、流入カニューレ200は中空穴を通って挿入され、例えば心室カフ226を介して心臓Hに固定される。いくつかの実施形態では、心室カフ226及び流入カニューレ200は、予め組み立てられた状態で一緒に、すなわち単一のユニットとして植え込まれる。他の実施形態では、心室カフ及び流入カニューレ200は、別々に、すなわち順番に植え込まれる。心室カフ226は、適切な取り付け手段(例えば縫合糸)を用いて心臓に取り付けられる。一度流入カニューレ200が心臓に固定されると(例えば、心室カフ226が心臓に縫合された後は)、スリーブ208を収納位置から展開位置に展開するように解放機構244が作動され、これにより、スリーブが拡張及び弛緩し、心臓Hの心室壁に適合できるようになる。一度スリーブ208が展開されると、ポンプハウジング104は、流入カニューレ200(詳細には、カニューレ本体部202の近位部210)及び/又は心室カフ226に接続できる。ポンプ102が作動して心室に血液が再充填されると、スリーブ208はスリーブ208と心筋壁との間から流入する血流を遮断し、これにより、最終的に再内皮化した組織により覆われ血流中に放流されることのない静止的な血栓が形成される。組織の再内皮化は、植え込み手術後30日以内に起こり得る。
【0044】
更に
図10を参照すると、スリーブ208は、外層248及び内層250を含む側壁246を含む。本実施形態では、側壁246は、メッシュ材料を自身に向けて折り返すことにより形成される。したがって、側壁246は、外側メッシュ層248と、スリーブ208の遠位先端部252において外側メッシュ層248に接合された内側メッシュ層250と、を含む。他の実施形態として、側壁246は、スリーブ208が本明細書に記載されているように機能できることとなる、任意の他の適切な方法を用いて形成されてもよい。
【0045】
図10に示すように、内層250は、外層248から間隔254だけ離間されている。
図10の間隔254は、説明のために誇張されて示されている。実際には、スリーブ208が収納位置にあるとき、間隔254は、
図10に示す間隔より大幅に狭くてもよいし、更にはゼロであってもよい(すなわち、内層250が外層248と接触していてもよい)。内層250及び外層248は、遠位先端部252を除き、スリーブ208の第2部236に沿って互いに接合又は固定されていない。したがって、スリーブ208が収納位置から展開位置に展開されるとき、カニューレ本体部202の遠位部212の周りの低血流又はうっ血の可能性がある領域を充填することを容易にするために、内層250と外層248との間の間隔254は、増加又は拡大することができる。別の言い方をすれば、外層248から内層250として測定される側壁246の厚さは、スリーブ208の第2部236が収納位置から展開位置に展開されるときに増加し得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、内層250と外層248との間の側壁の厚さ又は間隔254は、スリーブ208が展開されるときに大幅に変化しない。
図6に示すように、例えば、心臓組織がカニューレ本体部202の遠位先端部240の上に配置されている場合、スリーブ208が心臓組織に接触したときにスリーブ208の第2部236の拡張が止まり、かつ、外層248及び内層250は互いに接触した状態に維持される。他の実施形態、例えば、カニューレ本体部202の遠位部212が心臓Hの心室内に距離をもって突出し、遠位先端部240が心臓組織から離間している実施形態では、スリーブ208の第2部236は、カニューレ本体部202の遠位先端部240上に折り重ねられ、その背面へと折り返されてもよい。このような実施形態では、低血流又はうっ血の可能性がある領域の充填を容易にするために、外層248と内層250との間の側壁の厚さ又は間隔254が増加してもよい。
【0047】
スリーブ208は、スリーブ208(詳細には、スリーブ208の第2部236)を収納位置から展開し、かつ、流入カニューレ200の遠位部212を取り囲む心臓Hの心内表面に実質的に適合及び係合可能な、適切に柔軟な構造を有する。更に、スリーブ208は、展開時(例えば、保持部242がスリーブ208の遠位端232から解放された時)にスリーブ(詳細には、スリーブ208の第2部236)の大部分が展開位置に戻るように拡張されることを確実にする、十分な弾力性を有する。
【0048】
図示の実施形態では、スリーブ208は、絡み合ったワイヤ又は糸のネットワークから形成されたメッシュ構造を有することにより、適切な柔軟性及び弾力性が提供されている。すなわち、スリーブ208は管状のメッシュからなる。より詳細には、図示の実施形態では、スリーブ208は編組ワイヤにより構成されているが、他の実施形態では、スリーブ208が編組ワイヤ以外の構成を有してもよい。更に、いくつかの実施形態では、スリーブ208は、1以上の超弾性材料及び/又は形状記憶材料からなる。超弾性材料は、変形応力又は変形力が印加及び除去されるに伴って、複数回、ある形状から別の形状への擬似弾性回復又は「記憶」を呈する。小さい応力又は力によって相当量の変形が発生し得るが、そのような材料、又はそのような材料を含む構成要素は、変形応力又は変形力が除去されると元の形状へと回復する。形状記憶材料とは、例えば応力や熱などの刺激を受けた場合に、以前の、又は初期の形状又は位置を「記憶」又は保持する機能を有する材料である。したがって、いくつかの実施形態では、スリーブ208は、活性化された場合にスリーブ208を展開位置に向けて偏らせる、又は強制する形状記憶特性を有する。そのような実施形態では、形状記憶材料は、熱(例えば、患者の心臓又は他の熱源から)によって活性化され、スリーブ208の完全な展開を容易にするために、スリーブ208を元の位置又は展開位置に又は偏らせて戻すことができる。
【0049】
スリーブ208を構成できる適切な超弾性材料及び形状記憶材料として、例えば、これに限定されるものではないが、ニッケル・チタン合金(すなわちニチノール)及びポリマーが挙げられる。特定の一実施形態では、スリーブ208は、互いに絡み合った複数のニチノールワイヤ又は編組スリーブを形成すべく自身と絡み合った単一のニチノール製ワイヤを含む編組ニチノールからなる。編組ニチノールは、血液の通過を阻止し、再内皮化を促進する能力が実証されており、これにより、領域を不動態化し、ポンプ-組織界面においてより血液適合性の高い環境を生み出すことが容易になる。
【0050】
スリーブ208を構成するために使用されるワイヤの厚さ又は直径は、スリーブ208の所望の剛性に応じて変化させてもよい。例えば、スリーブ208のより硬い構造を提供するために、より太いワイヤを使用してもよく、一方、スリーブ208のより柔軟な構造を提供するために、より細いワイヤを使用してもよい。いくつかの特定の実施形態では、スリーブ208は、編組ニチノール製ワイヤで構成され、このワイヤは、0.01~0.50mmの範囲の厚さ又は直径を有する。他の実施形態として、ワイヤは、スリーブ208が本明細書に記載されているように機能できることとなる、任意の適切な厚さ又は直径を有してもよい。
【0051】
更に、いくつかの実施形態では、スリーブ208は、近位端230から遠位端232にかけて、その剛性が可変的であってもよい。例えば、より硬い領域及びより柔軟な領域を提供するために、ワイヤの厚さは、スリーブ208の長さに沿って、スリーブ208の長さに沿って変化してもよい。追加として又は代替として、スリーブ208は、スリーブ208の長さに沿った所望の構成でスリーブ208の剛性を選択的に高めるために、1つ又は複数の構造的補強部材を含んでもよい。特定の一実施態様では、スリーブ208の第1部234は、スリーブ208の第2部236よりも硬い構造を有する。
【0052】
いくつかの実施形態では、スリーブ208は、再内皮化及び/又は血流の減少を促進する1つ以上の層を含んでもよい。例として、外層248及び/又は内層250は、それぞれの層に隣接する領域における再内皮化及び/又は血流の減少を促進する材料(例えば、コーティング、パッチなど)で形成されてもよく、及び/又はそれを含んでもよい。いくつかの実施形態では、例えば、外層248及び内層250の一方又は両方は、それぞれの層に隣接する領域での再内皮化及び血流の減少を促進するポリエステルパッチを含む。
【0053】
図11は、患者の心臓に流入カニューレ200を植え込む方法1100の一実施形態を示すフロー図である。図示の実施形態では、方法1100は、流入カニューレの遠位部を心臓に形成された穴の中に配置するステップ1102を含む。流入カニューレは、流入カニューレの遠位部に結合された第1部、及び流入カニューレの遠位端から延びる第2部を含む拡張可能なスリーブ(例えば拡張可能なスリーブ208)を含む。この方法1100は、流入カニューレを心臓に固定するステップ1104と、スリーブの第2部を、収納位置をなす第1の位置から、心臓の心内膜表面と係合及び適合するために第2部が径方向に拡張した、展開位置をなす第2の位置に展開するステップ1106と、を含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、スリーブを展開するステップ1106は、流入カニューレが心臓に固定された後にスリーブを展開するステップを含む。すなわち、スリーブは、流入カニューレが心臓に固定された後にのみ展開される。更に、いくつかの実施形態では、スリーブを展開するステップ1106は、例えば保持部242などの、スリーブの遠位端に結合された保持部を解放するステップを含む。いくつかの実施形態では、保持部は保持リングである。そのような実施形態では、保持部を解放するステップは、保持リングに結合され、スリーブの遠位端から、流入カニューレによって画定される流路を通って、カニューレの近位端から延びる解放線に張力を印加するステップを含んでもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、方法1100は、心臓に心室カフを取り付けるステップを更に含む。このような実施形態では、流入カニューレが心室カフによって心臓に固定される。いくつかの実施形態では、心室カフは中央開口部を画定し、心臓に形成された穴内に流入カニューレの遠位部を配置するステップ1102は、心室カフによって画定された中央開口部を介して流入カニューレの遠位部を挿入するステップを含む。更に、そのような実施形態では、流入カニューレを心臓に固定するステップは、流入カニューレを心室カフに結合するステップを含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、方法1100は、流入カニューレを、血液ポンプアセンブリ(例えば血液ポンプアセンブリ100)に接続するステップを更に含む。いくつかの実施形態では、例えば、方法1100は、流入カニューレの近位部を、血液ポンプアセンブリのポンプハウジングに結合するステップを含む。更に、方法1100は、ポンプハウジングを、心臓に取り付けられた心室カフに結合するステップを含んでもよい。
【0057】
例示された方法の特定のステップには番号が付けられているが、そのような番号付けは、そのステップが記載された順序で実行されなければならないことを示すものではない。したがって、特定のステップは、その説明が特にそのような順序を必要としない限り、提示された正確な順序で実行する必要はない。各ステップは、記載されている順序で実行してもよいし、別の適切な順序で実行してもよい。
【0058】
本明細書で開示した実施形態及び例は、特定の実施形態を参照して説明してきたが、これらの実施形態及び例は、本開示の原理及び応用を例示するものに過ぎないことを理解されたい。したがって、特許請求の範囲によって定義される本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態及び実施例に多数の変更を加えることができ、他の構成が考案されてもよいことを理解されたい。したがって、本願は、これらの実施形態及びその等価物の改変及び変形をカバーすることを意図している。
【0059】
本明細書は、最良の実施形態を含めて本発明を開示するために、また当業者が、任意の装置又はシステムを製造及び使用し、任意の組み込まれた方法を実行することを含めて、本発明を実施できるようにするために、様々な例を使用した。本発明の特許請求可能な範囲は、特許請求の範囲によって規定され、当業者には想到される他の例を含むことができる。そのような他の例は、特許請求の範囲における文字通りの言葉と同様の構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲における文字通りの言葉と僅かに異なる同等な構造要素を有する場合、特許請求の範囲の範囲内にあるものとして意図される。