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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】ポリオキシメチレン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/02 20060101AFI20240726BHJP
   C08L 35/06 20060101ALI20240726BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240726BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C08L59/02
C08L35/06
C08K5/13
C08L33/26
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021554387
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 US2020022698
(87)【国際公開番号】W WO2020186188
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】62/817,689
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519393129
【氏名又は名称】デュポン ポリマーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラマブハドラ ラトナギリ
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-188152(JP,A)
【文献】特表平06-509137(JP,A)
【文献】特表2014-533770(JP,A)
【文献】特表2006-511649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)80~99重量パーセントの少なくとも1つのポリオキシメチレンポリマーと、
(B)1~20重量パーセントの少なくとも1つのスチレンマレイン酸無水物コポリマーと、
(C)任意選択により、0.5~5重量パーセントの少なくとも1つの添加剤と
を含むポリオキシメチレン(POM)組成物であって、
前記POM組成物は、ISO75-2A:2013に従って測定されるとき、少なくとも100℃の加熱撓み温度を示し、
前記少なくとも1つのスチレンマレイン酸無水物コポリマーが、変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーを含み、
重量パーセントは、前記POM組成物中の成分(A)、(B)及び(C)の重量に基づいており、且つ合計で100重量パーセントになり、
任意選択により、前記POM組成物は、
ISO899-1:2017に従って決定される、90℃及び25MPaの荷重で測定されるときの、少なくとも2時間の10%歪みまでの引張クリープ、及び
20分のホールドアップ時間後に215℃、100sec -1 の剪断速度で測定されるときの少なくとも90パーセントの溶融粘度保持
の一方又は両方と、を示す、
ポリオキシメチレン(POM)組成物。
【請求項2】
前記ポリオキシメチレンポリマーは、ホモポリマーである、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項3】
前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、2,500g/モル~20,000g/モル重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項4】
前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、1:1~6:1の範囲のスチレン:マレイン酸無水物のモル比を有する、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項5】
前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、125~160℃の範囲のガラス転移温度を有する、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項6】
任意選択の添加剤(C)は、存在する、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項7】
添加剤(C)は、酸化防止剤及び熱安定剤の1つ又は複数を含む、請求項6に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項8】
前記酸化防止剤は、立体障害フェノール化合物であるか、又は前記熱安定剤は、ポリアクリルアミドである、請求項7に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項9】
前記変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、イミド化スチレンマレイン酸無水物コポリマー、エステル化スチレンマレイン酸無水物コポリマー又はアミド化スチレンマレイン酸無水物コポリマーを含む、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物を含む物品。
【請求項11】
ギア、摺動及び案内要素、ハウジング部品、バネ、チェーン、ネジ、ナット、ファンホイール、タービンブレード、ポンプ部品、弁体、絶縁体、コネクタ、電子デバイス用部品、燃料センダーユニット、エアゾール缶、車両の貯蔵タンク、コーヒーブリューワー部品並びに銃又はナイフのハンドルの形態である、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、5~0.1ミクロンの範囲の粒径を有する離散粒子としてポリオキシメチレンマトリックス樹脂中に分散される、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリオキシメチレンと、スチレンマレイン酸無水物(SMA)コポリマー又は変性SMAコポリマーとを含むポリオキシメチレン(POM)組成物であって、SMAコポリマーを含まないPOM組成物と比べて加熱撓み温度などの改良された物理的特性を示すポリオキシメチレン(POM)組成物が本明細書において記載される。
【背景技術】
【0002】
比較的高分子量、すなわち50,000~100,000の分子量を有するPOM組成物を使用して、圧縮成形、射出成形、押出、ブロー成形、溶融紡糸、スタンピング及び熱成形などの熱可塑性材料と共に一般的に使用される技術のいずれかによって物品を作製することができる。このような比較的高分子量のPOM組成物から製造される物品は、剛性、強度、靭性、寸法安定性及び耐溶媒性などの望ましい物理的特性を有する。POM組成物は、自動車、工業、電子及び消費財産業において一般的に使用される。
【0003】
未変性又はニートのPOMは、典型的には、約96℃の加熱撓み温度(HDT)を有し、溶融粘度保持が良好である。多くの工学的用途のために、100℃以上のHDTを有するPOM組成物が望ましい。POMのHDTを増加させる従来の方法は、ガラス繊維などの補強剤を添加することであった。ガラス繊維の添加は、HDTを増加させるが、重量を増加させ、不十分な表面外観を助長し、成形を難しくし、靭性を低下させる。
【0004】
熱安定剤及び他の添加剤などの材料をPOM組成物に添加することにより、POM組成物から作製される物品の熱安定性を改良する試みは、別の物理的特性を犠牲にして熱安定性を改良する場合がある。
【0005】
国際公開第2013/081785号パンフレットは、改良された加熱撓み温度を示すイミド化アクリル樹脂を含むポリオキシメチレン組成物を開示している。
【0006】
米国特許出願公開第2008/0097012号明細書は、アミン置換トリアジン化合物と、無水マレイン酸0.05~5重量部をエチレン-プロピレンコポリマー及びエチレン-プロピレンターポリマー上にグラフトすることによって調製される化合物と、1,12-ドデカンジカルボン酸との組み合わせを含むポリオキシメチレン組成物を開示している。このような組成物は、改良された熱安定性を示す。
【0007】
米国特許第6,191,222号明細書は、従来の添加剤と、1つ又は複数の(メタ)アクリレートと1つ又は複数の(メタ)アクリルアミドとの混合物を重合させることによって得られるコポリマーとを含むポリオキシメチレン組成物を開示している。このような組成物は、改良された熱安定性及び変色に対する安定性を示す。
【0008】
国際公開第90/15840号パンフレットは、微結晶性セルロース及び繊維セルロースから選択される安定剤と、補助安定剤とから本質的になるポリアセタール組成物を開示している。これらの組成物は、ポリアセタール組成物の熱安定性の改良を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
加熱撓み温度が高くなったPOM組成物を開発することが望ましく、可能な場合、溶融粘度安定性及び耐クリープ性などの他の望ましい物理的特性を維持又は改良しながらHDTを同時に改良することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書において、
(A)80~99重量パーセントの少なくとも1つのポリオキシメチレンポリマーと、
(B)1~20重量パーセントの少なくとも1つのスチレンマレイン酸無水物コポリマー(styrene maleic anhydride copolymer)と、
(C)任意選択により、0.5~5重量パーセントの、酸化防止剤及び熱安定剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤と
を含むPOM組成物が記載され、ここで、
POM組成物は、ISO75-2A:2013に従って測定されるとき、少なくとも100℃の加熱撓み温度を示し、
重量パーセントは、POM組成物中の成分(A)、(B)及び(C)の重量に基づいており、且つ合計で100重量パーセントになる。
【0011】
加えて、本明細書において、
(A)80~99重量パーセントの、少なくとも1つのポリオキシメチレンポリマーと、
(B)1~20重量パーセントの、ASTM D974-14に従って測定されるとき、50mgKOH/g以下の酸価を有する少なくとも1つの変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーと、
(C)任意選択により、0.5~5重量パーセントの、酸化防止剤及び熱安定剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤と
を含むPOM組成物が記載され、ここで、
重量パーセントは、POM組成物中の成分(A)、(B)及び(C)の重量に基づいており、且つ合計で100重量パーセントになり、
前記POM組成物は、ISO75-2A:2013に従って測定されるとき、少なくとも100℃の加熱撓み温度を示す。
【0012】
変性SMAコポリマーを含むこれらのPOM組成物は、20分のホールドアップ時間後に215℃、100sec-1の剪断速度で測定されるとき、少なくとも90パーセントの溶融粘度保持を示すこともできる。
【0013】
変性SMAコポリマーを含むこれらのPOM組成物は、ISO899-1:2017に従って決定される、90℃及び25MPaの荷重で測定されるときの、少なくとも2時間の10%歪みまでの引張クリープをさらに示すことができる。
【0014】
本明細書において、本明細書に記載のPOM組成物を含む物品も記載される。物品を作製するために使用されるPOM組成物に応じて、物品は、前記SMAコポリマー又は変性SMAコポリマーを含まないこと以外には同一の物品の加熱撓み温度を超える、ISO75-2に従って決定される加熱撓み温度を少なくとも有する。本明細書に記載の特定のPOM組成物は、変性SMAコポリマーを含まないPOM組成物と比べて改良された物理的特性の組み合わせを示すことが驚くべきことに発見された。具体的には、これらのPOM組成物から作製される物品は、ISO75-2A:2013に従って測定されるときの少なくとも100℃の加熱撓み温度、ISO899-1:2017に従って決定される、90℃及び25MPaの圧力で少なくとも2時間の10%歪みまでの引張クリープ、及び20分のホールドアップ時間後に215℃、100sec-1の剪断速度で測定されるときの少なくとも90パーセントの溶融粘度保持などの特性の組み合わせを示すことができる。
【0015】
本明細書において、POM組成物を含む物品を作製するための方法も記載され、この方法は、
(1)少なくとも1つのポリオキシメチレン樹脂を少なくとも1つのコポリマー及び/又は変性コポリマー並びに何らかの任意選択の添加剤と溶融ブレンドして、溶融POM組成物を提供する工程と、
(2)溶融POM組成物を所望の形状に形成する工程と、
(3)溶融POM組成物を冷却して造形物品を提供する工程と
を含み、造形物品は、ISO75-2A:2013に従って決定される少なくとも100℃の加熱撓み温度を有する。
【0016】
SMAコポリマーがポリオキシメチレン樹脂と溶融ブレンドされるとき、SMAコポリマーの粒径は、造形物品が所望の特性を示すために特定の範囲内であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
以下の定義は、本説明において考察され、且つ特許請求の範囲において列挙される用語の意味を解釈するために用いられるべきである。
【0018】
本明細書において使用される場合、冠詞「1つの(a)」は、1つだけでなく、2つ以上も意味し、その指示対象の名詞を単数に必ずしも限定しない。
【0019】
本明細書において使用される場合、用語「物品」は、未完成の若しくは完成した品物、物、物体又は未完成の若しくは完成した品物、物若しくは物体の要素若しくは特徴を意味する。本明細書において使用される場合、物品が未完成と認定される場合、用語「物品」は、完成品に含まれ、且つ/又は完成品になるためにさらなる処理を受けることになる任意の品物、物、物体、要素、装置等を指し得る。本明細書において使用される場合、物品が完成と認定される場合、用語「物品」は、それにより特定の使用/目的に好適になるように完成まで処理を経た品物、物、物体、要素、装置等を指す。
【0020】
本明細書中で用いられるとき、用語「溶融粘度」は、熱可塑性ポリマー組成物の溶融体が流れる能力の尺度を意味する。溶融粘度は、ASTM D-3835-08に従って215℃及び100sec-1剪断速度で測定される。溶融粘度の単位は、Pa・secである。溶融粘度の値が低くなるほど、熱可塑性組成物が溶融状態で流れる能力がより良好になる。
【0021】
本明細書中で用いられるとき、用語「ポリオキシメチレン」及び「ポリオキシメチレン樹脂」は、・CH2O・の繰り返し単位を有する1つ又は複数のホモポリマー、コポリマー及びこれらの混合物を意味する。これらのポリマーの末端基は、水又はアルコールなどの開始基、末端基若しくは連鎖移動基により、又はアセテート、アセチル、アルキル若しくはメトキシ基など、エステル若しくはエーテル基をもたらす化学反応などの化学反応により誘導される。
【0022】
本明細書中で用いられるとき、用語「引張クリープ」及び「10%歪みまでの引張クリープ」は、一般的に、特定の荷重下において特定の温度で試験試料が規定のパーセントの歪みに達するのにかかる時間を指す。用語「90℃及び25MPaの荷重における10%歪みまでの引張クリープ」は、90℃に加熱された試験試料が25MPaの荷重下で10%歪みに達する時間を意味する。歪みまでの引張クリープは、ISO899-1:2017に従って決定され、特定の条件下での成形試験試料の長期耐クリープ性について情報を与える。
【0023】
本明細書中で用いられるとき、用語「加熱撓み温度」、「加熱撓み温度」及び「HDT」は、ポリマー試料が規定荷重下で変形する温度を意味する。決定は、1.8MPaの荷重を使用して、ISO-75-2A:2013に従って行われる。
【0024】
略語
特許請求の範囲及び本明細書での説明は、以下に示される略語及び定義を用いて解釈されるべきである。
「%」は、用語パーセントを意味する。
「重量%」は、重量パーセントを意味する。
「sec」は、秒を意味する。
「min」は、分を意味する。
「g」は、グラムを意味する。
「ml」は、ミリリットルを意味する。
「mg」は、ミリグラムを意味する。
「Tg」は、ガラス転移温度を意味する。
「kg」は、キログラムを意味する。
「Pa・sec」は、パスカル・秒を意味する。
「MPa」は、メガパスカルを意味する。
「Mw」は、重量平均分子量を意味する。
【0025】
範囲及び好ましい変形形態
本明細書に記載される任意の範囲は、特に明記されない限り、その端点を包含する。量、濃度又は他の値若しくはパラメーターの範囲としての記載は、このような対が別々に本明細書に開示されるかどうかに関わらず、任意の上限範囲と任意の下限範囲との対から形成される全ての範囲を具体的に開示する。本明細書に記載のプロセス及び物品は、本明細書での範囲の定義で開示される具体的な値に限定されない。
【0026】
本明細書に記載のプロセス、組成物及び物品の - 好ましい変形形態であると確認されるか否かに関わらず - 材料、方法、工程、値及び/又は範囲等についての任意の変形形態の本明細書における開示は、このような材料、方法、工程、値、範囲等の任意の組み合わせを含む任意のプロセス及び物品を開示することが具体的に意図されている。請求項についての正確且つ十分な裏付けを与えることを目的として、任意のこのような開示の組み合わせは、具体的には、本明細書に記載のプロセス、組成物及び物品の好ましい変形形態であることを意図する。
【0027】
本明細書に記載の組成物には、ポリオキシメチレンポリマーが、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー及びこれらの混合物からなる群から選択される全ての可能な限りの変形形態が含まれる。
【0028】
POM組成物
少なくとも1つのSMAコポリマー又は変性SMAコポリマーを含む、本明細書に記載のPOM組成物は、SMAコポリマーを有さない同一のPOM組成物と比べて改良された加熱撓み温度を示す。具体的には、本明細書に記載のPOM組成物のHDTは、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも102℃及びより好ましくは少なくとも104℃である。
【0029】
少なくとも1つの変性SMAコポリマーを含むPOM組成物は、驚くべきことに、変性SMAコポリマーを有さない同一のPOM組成物と比べて改良されたHDT、耐クリープ性及び溶融粘度安定性の組み合わせを示す。
【0030】
ポリオキシメチレン(A)
本明細書に記載のPOM組成物において使用されるポリオキシメチレンは、ホモポリマー、コポリマー及びこれらの混合物を含む。ポリオキシメチレンホモポリマーは、ホルムアルデヒドのホモポリマー又はホルムアルデヒドの環状オリゴマー、例えばトリオキサン及びテトラオキサンを含む。POMホモポリマーは、そのより大きい剛性及び強度のために好ましい。好ましいポリオキシメチレンホモポリマーには、それらの末端ヒドロキシル基が、エステル又はエーテル基、好ましくはアセテート又はメトキシ基をそれぞれ形成する化学反応によってエンドキャップされているポリオキシメチレンホモポリマーが含まれる。
【0031】
ポリオキシメチレンコポリマーには、ホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、少なくとも2個の隣接した炭素原子をポリマー鎖中に有するオキシアルキレン基をもたらすモノマーとのコポリマーが含まれる。ポリオキシメチレンコポリマーを調製するときに一般的に使用されるコモノマーには、アルキレンオキシドを有さないコモノマー及び2~12個の炭素原子のアルキレンオキシドを有するコモノマー並びにホルムアルデヒドとのそれらの環状付加生成物が含まれる。コモノマーは、一般的に、ポリオキシメチレンポリマーの全重量の約20重量パーセント以下、好ましくは約15重量パーセント以下、最も好ましくは約2重量パーセントである。
【0032】
本明細書に記載のPOM組成物中のポリオキシメチレンポリマーは、0.1g/10分からの任意の十進値から、50g/10分を含めて最大50g/10分までの範囲のポリマーメルトフローレートを特徴とし得る。好ましくは、本明細書に記載のPOM組成物中のPOMは、0.5~35グラム/10分、より好ましくは約1~20グラム/10分、最も好ましくは約1~5グラム/10分のメルトフローレートを有する。
【0033】
POM組成物中のポリオキシメチレンポリマーの濃度は、POM組成物中の成分(A)、(B)及び(C)の全重量パーセント(それらの合計は、100重量パーセントになる)に基づいて約80~約99重量パーセント、好ましくは約85~98重量パーセント、より好ましくは約90~95重量パーセントの範囲であり得る。
【0034】
スチレン系マレイン酸無水物コポリマー(B)
本明細書に記載のPOM組成物中のコポリマー(B)として有用であるスチレン系マレイン酸無水物コポリマーは、SMAコポリマー及び変性SMAコポリマーを含み、SMA又は変性SMAコポリマー中の約50モル%の最大MA含有量(スチレン:マレイン酸無水物の1:1モル比MA)の実用限界で様々なマレイン酸無水物(MA)モノマー含有量を含み得る。SMA又は変性SMAコポリマーの分子量は、好ましくは、約20,000g/モル以下、より好ましくは約10,000g/モル以下であり、最小分子量は、約2,500g/モルである。SMA又は変性SMAコポリマーのガラス転移温度は、約125℃~約160℃、好ましくは約130~約155℃、より好ましくは約135~約150℃の範囲であり得る。
【0035】
変性SMAコポリマーは、無水物官能基が他の官能基に変換又は変性されているコポリマーであり、50mgKOH/g以下の酸価を有する前記変性SMAコポリマーをもたらす。SMAコポリマーは、無水物官能基を他の官能基に変換するための当技術分野の任意の公知の方法によって変性され得る。例えば、SMAコポリマーは、無水物官能基をイミド官能基、エステル官能基、アミド官能基及び他の官能基に変換することによって変性され得、50mgKOH/g以下の酸価を有する変性SMAコポリマーをもたらすことができる。50mgKOH/g以下の酸価を達成するために、SMAコポリマー中に存在する無水物官能基の大部分又は本質的に全てが、イミド、エステル又はアミド基などの酸価に寄与しない他の官能基に変換されるべきである。
【0036】
SMAコポリマーの無水物官能基をイミド官能基に変換するために使用され得る分子には、第一及び/又は第二アミノ基を含む分子(第一アミノ基が好ましい)が含まれる。このような分子の例には、直鎖、分岐又は環状脂肪族第一アミン及び芳香族第一アミンが含まれる。脂肪族第一アミンの例には、1~20個の炭素原子を含むアミン、例えばプロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン及びシクロヘキシルアミンが含まれる。芳香族第一アミンの例には、アニリン、4-アミノフェノール、2-アミノフェノール、4-アミノトルエン及び2-アミノトルエンが含まれる。
【0037】
SMAコポリマーの無水物官能基をエステル官能基に変換するために使用され得る分子には、ヒドロキシル基を含む分子、例えばフェノール、C2~C10直鎖、分岐環状又は芳香族アルコール、例えばメタノール、エタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール及びフェノールが含まれる。
【0038】
図1は、無水物官能基が反応してイミド官能基を形成する、変性SMAコポリマーの例を示す。R1は、1~20個の炭素原子を含む直鎖、分岐又は環状脂肪族基などの脂肪族又は芳香族置換基から選択される。R1の脂肪族置換基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、s-プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル及びシクロヘキシル置換基などが含まれる。R1の芳香族置換基に例には、フェニル、トリル及び置換フェニル、例えば4-アミノフェニル、2-アミノフェニル、4-アミノトリル、2-アミノトリル、4-メチルフェニル、2-メチルフェニル及び他の置換フェニル基が含まれる。
【0039】
Rは、水素又は1~20個の炭素原子を含む直鎖、分岐若しくは環状脂肪族置換基又はフェニル環上の芳香族置換基であり得る。図1のフェニル環は、2つ以上のR基で置換され得る。例えば、フェニル環は、環の2位及び4位の両方にメチル基を有することができる。
【0040】
【化1】
【0041】
図2は、無水物官能基が反応してアミド又はエステル官能基などの官能基を形成する、変性SMAコポリマーの例を示す。R2及びR3は、好ましくは、同一であり、-NR45又は-OCR678置換基であり得る。直鎖、分岐又は環状R4、R5、R6、R7及びR8は、同一であるか又は異なり得、1~20個の炭素原子を含む直鎖、分岐又は環状脂肪族基などの脂肪族又は芳香族置換基から選択され得る。R4及びR5又はR6、R7及びR8の脂肪族置換基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、s-プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル及びシクロヘキシル置換基が含まれる。R4、R5、R6、R7及びR8の芳香族置換基に例には、フェニル、トリル及び置換フェニル、例えば4-メチルフェニル、2-メチルフェニル並びに他の置換フェニル基が含まれる。図2におけるRは、図1におけるRと同じである。
【0042】
【化2】
【0043】
図1及び図2について、スチレン系モノマー対マレイン酸無水物モノマーのモル比(x:y)は、約1:1~約6:1モル比、好ましくは約2:1~約4:1モル比の範囲であり得る。換言すれば、yが1であるとき、xは、1~6の範囲であり得る。
【0044】
好ましくは、変性SMAコポリマーは、無水物官能基を本質的に含まない。換言すれば、変性SMAコポリマー中の残留無水物官能基の濃度は、変性SMAコポリマーの酸価が変性SMAコポリマーについて50mgKOH/g以下、好ましくは25mgKOH/g、より好ましくは10mgKOH/g以下であるように十分に低いべきである。
【0045】
本明細書に記載のPOM組成物において使用されるSMAコポリマーは、約2,500g/モル~約20,000g/モル、好ましくは約5,000~20,000g/モル、より好ましくは約5,000~15,000g/モルの範囲の分子量(Mw)を有する。変性SMAコポリマーは、典型的には、SMAコポリマーから調製されること及び変性SMAコポリマーの分子量範囲は、典型的には、SMAコポリマーの分子量より大きいことを理解されたい。したがって、変性SMAコポリマーの分子量を決定する目的のために、変性SMAコポリマーは、上に記載の分子量範囲を有するSMAコポリマーから調製されると思われる。当業者は、出発SMAコポリマーの分子量に基づいて変性SMAコポリマーの分子量を容易に計算することができる。
【0046】
SMAコポリマー及び変性SMAコポリマーのガラス転移温度は、約125℃~約160℃の範囲である。したがって、変性SMAコポリマーをSMAコポリマーから調製するとき、得られた変性SMAコポリマーが約125℃~約160℃の範囲内のガラス転移温度を有することは、重要である。
【0047】
さらに、SMAコポリマー及び変性SMAコポリマーは、POM組成物のPOMマトリックス中に分散されるとき、POM組成物中に均一に分散され、且つ約5~約0.1ミクロン以下、好ましくは約4~0.5ミクロン、より好ましくは約3~0.5ミクロンの範囲の大きさ(平均)の離散ドメイン/粒子として分散されるべきである。使用できる絶対的な最小粒径は、存在せず、約0.5ミクロン未満の平均粒径を有する粒子を分散させる能力によってのみ限定される。平均粒径が0.5ミクロンを下回ることを確認することは、当業者の範囲内である。
【0048】
POM組成物中のSMA又は変性SMAコポリマーの濃度は、POM組成物中の成分(A)、(B)及び(C)の全重量パーセントに基づいて約0.1~約20重量パーセント、好ましくは約0.5~8重量パーセント、より好ましくは1~8重量パーセントの範囲であり得る。
【0049】
添加剤(C)
本明細書に記載のPOM組成物中で使用され得る任意選択の添加剤には、限定されないが、ポリアクリルアミドなどの熱安定剤、加工助剤、光/紫外線安定剤、酸化防止剤、着色剤、成核剤、潤滑剤、離型剤、可塑剤、補強剤、帯電防止剤及び界面活性剤が含まれる。しかしながら、いくつかの添加剤は、それらの化学基の1つ又は複数とPOMとの反応によってPOM組成物の溶融粘度を不安定にし得る。これは、POM分子量の破壊をもたらし得、POM溶融体の粘度の低下を招く。したがって、溶融体の安定性を維持する添加剤は、これらのPOM組成物において好ましい。全ての付加的な添加剤の全濃度は、POM組成物中の全ての成分の全重量の約5重量パーセント、好ましくは約3重量パーセントを超えず、より好ましくは約2重量パーセント以下であるべきである。
【0050】
任意選択の添加剤は、酸に加水分解し得るか又は遊離酸基を含有する材料を含むべきでない。このような材料は、POMの解重合を引き起こし得る。
【0051】
適した酸化防止剤の例は、立体障害フェノール化合物、芳香族第二アミン及びホスフィットである。立体障害フェノールの例には、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert.-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert.ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2’,3ビス[3,5ジ第三級ブチル、4ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジド、N、N’ヘキサン-1,6-ジイルビス[3,5ジ第三級ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド等が含まれる。N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert.-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))が好ましい。芳香族第二アミンの例には、4、4’-ビス(アルファ、アルファ-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4’-ヒドロキシ-3,5-ジ-tブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジンが含まれる。ホスフィットの例には、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフィット、トリス(ノニルフェニル)ホスフィット、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスフィット及び同様のものが含まれる。酸化防止剤の非限定的な商用例には、BASFから入手可能なIrganox(登録商標)245、1098及び1090並びに1010などのヒンダードフェノール酸化防止剤が含まれる。
【0052】
適切な熱安定剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムが挙げられる。適切な紫外線安定剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、芳香族安息香酸塩、シアノアクリレート及びシュウ酸アニリドが挙げられる。
【0053】
本明細書に記載のPOM組成物において使用され得る補強剤の例には、限定されないが、ガラス繊維、ガラスビーズ、セラミックス、炭酸カルシウム、酸化アルミナなどの金属酸化物、ケイ酸塩、二酸化チタン、硫酸バリウムなどの硫酸塩、チタン酸塩、カオリン粘土、水酸化マグネシウム、タルク、ウォラストナイト;鉱物、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック及びこれらの組み合わせが含まれる。
【0054】
好適な潤滑添加剤としては、ジメチルポリシロキサン及びそれらの誘導体等のシリコーン潤滑剤、オレイン酸アミド、アルキル酸アミドが挙げられる。他の好適な添加剤としては、非イオン性界面活性潤滑剤、炭化水素ワックス、クロロヒドロカーボン、フルオロカーボン、オキシ脂肪酸、脂肪酸の低級アルコールエステル等のエステル、ポリグリコール及びポリグリセロール等の多価アルコール及びラウリン酸及びステアリン酸等の脂肪酸の金属塩が挙げられる。適した成核剤の例には、チタン酸化物及びタルクが含まれる。
【0055】
本明細書に記載のPOM組成物及びそれからの物品の製造
本明細書に記載されるPOM組成物は、溶融混合ブレンドであり、SMAコポリマー及び/又は変性SMAコポリマーは、POM樹脂中に十分に分散され、何らかの任意選択の添加剤は、存在する場合、ポリマーマトリックス中に十分に分散され、且つポリマーマトリックスで拘束され、それにより、ブレンドは、統一された全体を形成する。付加的な添加剤のいくつかは、溶融加工中に固体粒子として存在し得ることを理解されたい。POM組成物は、成分を任意の順又は組み合わせにおいて、任意の好都合な温度、好ましくはPOMの融点以上でブレンドすることによって製造することができる。
【0056】
任意の溶融混合法を使用して、ポリマー成分(POM及びSMAコポリマー)と任意の付加的な添加剤とを組み合わせ得る。例えば、ポリマー成分と添加剤とは、例えば、一軸若しくは二軸スクリュー押出機;ブレンダー;一軸若しくは二軸スクリュー混練機;又はバンバリーミキサーなどの溶融ミキサーに単一工程添加によって同時又は段階的に連続的のいずれかで添加され、次に溶融混合され得る。ポリマー成分と添加剤とを段階的に添加する場合、ポリマー成分及び/又は添加剤の一部が典型的には最初に添加されて溶融混合され、次に引き続いて残りのポリマー成分及び添加剤が添加されて、十分に混合された組成物が得られるまでさらに溶融混合される。
【0057】
本明細書に記載のPOM組成物は、射出成形、ブロー成形、射出ブロー成形、押出、熱成形、溶融キャスティング、真空成形、回転成形、カレンダー成形及びスラッシュ成形など、当業者に公知の方法を用いて物品に成形又は造形され得る。成形物品の例には、ギア、摺動及び案内要素、ハウジング部品、バネ、チェーン、ネジ、ナット、ファンホイール、タービンブレード、ポンプ部品、弁体、絶縁体、コネクタ、テレビ、電話、自動車のライト等の電子デバイス用部品、燃料センダーユニット、エアゾール缶、車両の貯蔵タンク、コーヒーブリューワー部品並びに銃及びナイフのハンドル及びグリップが含まれる。
【0058】
本明細書に記載のPOM組成物から作製される物品は、SMAコポリマーを含まないPOM組成物と比べてHDTの改良を少なくとも示す。さらに、変性SMAコポリマーを含むPOM組成物は、変性SMAコポリマーを含まないこと以外には同一のPOM組成物と比べて改良されたHDT、10%クリープ歪までの時間及び溶融粘度安定性などの特性の組み合わせを示す。少なくとも1つの変性SMAコポリマーを有さない同一のPOM組成物と比べて改良されたHDT、10%クリープ歪までの改良された時間及び改良された溶融粘度保持の組み合わせは、予想外である。
【実施例
【0059】
以下の実施例(E)及び比較例(C)は、本明細書に記載される組成物及び物品の範囲をさらに明らかにすることのみを意図し、限定するものではない。
【0060】
方法
下の表で列挙する組成物において、以下の方法を使用した。
【0061】
融点及びガラス転移温度
融点及びガラス転移温度は、TA Instruments製のQ1000装置で決定された。融点は、最初の加熱スキャンで10℃/分のスキャン速度で決定され、吸熱ピークの最大値を融点とした。
【0062】
引張クリープ
引張クリープ、すなわち10%歪みまでの時間は、25MPaの荷重下において90℃で実施された。歪みはISO899-1:2017に従って決定され、測定された歪みが10%に達すると、試験を止めた。
【0063】
加熱撓み温度(HDT)
Nissei 4000成形機を使用して、60秒のサイクル時間及び215℃の溶融温度でISO527、4mmの試験片を成形した。1.8MPaの荷重でISO75-2A:2013方法に従って加熱撓み温度の測定のために試験片を使用した。
【0064】
溶融粘度保持
「初期」溶融粘度であるPOM組成物の溶融粘度を215℃で6分のホールドアップ時間後(これは、POM組成物が溶融状態で平衡に達するための十分な時間を可能にする)に測定し、次に20分のホールドアップ時間(6分の出発点から14分間)にわたり、POM組成物を215℃の溶融状態に維持し続け、次に溶融粘度を再測定することによって溶融粘度保持を決定する。20分のホールドアップ時間後の溶融粘度を初期溶融粘度と比較し、20分後に保持される溶融粘度のパーセントとして記録した。例えば、初期溶融粘度が90Pa・sであり、20分のホールドアップ時間後の溶融粘度が85Pa・sである場合、溶融粘度保持は、85/90又は約94.4パーセントである。溶融粘度測定は、ASTM D3835-08に従って100s-1の剪断速度で215℃において行われた。安定な組成物は、ほぼ100%の溶融粘度保持を有する。
【0065】
酸価
キシレン/ブタノール/プロピレングリコール溶媒混合物(75/15/10体積比)を溶媒として使用したこと以外、ASTM D974-14に従って酸価を決定した。4gの試験材料を溶媒混合物に添加し、還流まで加熱することによって溶解した。0.1N KOH溶液によって終点まで溶液を滴定した。フェノールフタレイン指示薬を使用して終点を標識した。得られた酸価は、mgKOH/gコポリマーとして表される。
【0066】
メルトフローレート
メルトフローレートをASTM D1238:2013に従って決定した(190℃、2.16kg)。
【0067】
分子量
サイズ排除クロマトグラフィーを使用して分子量を決定した。Waters Corporation(Milford,MA)製のAlliance2690TMを、静的直角光散乱及び示差細管粘度計検出器を組み込むWaters 410TM示差屈折率検出器(DRI)並びにViscotek Corporation(Houston,TX)Model T-60ATMデュアル検出器モジュール(Trisec(登録商標)Triple Detector SECバージョン3.0)と組み合わせて使用した。
【0068】
試料は、試験されるポリマーを23℃(室温)のHFIP中に2時間にわたって適度に撹拌しながら溶解することによって調製された。ポリマー試料の濃度は、2ミリグラム/ミリリットルに近くなるように選択される。全ての試料溶液は、注入前に0.45ミクロンPTFEメンブレンフィルターで濾過される。
【0069】
排除限界2×107及び8,000/30cm理論段を有する2つのShodex GPC HFIP-806MTMスチレン-ジビニルベンゼンカラム並びに排除限界2×105及び10,000/30cm理論段を有する1つのShodex GPC HFIP-804MTMスチレン-ジビニルベンゼンカラムを分離のために使用した。カラムの温度は、35℃であり、流速は、1.00ml/分であり、且つ注入量は、100マイクロリットルであった。実行時間は、約50分であった。使用される溶媒は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)及び0.01Mトリフルオロ酢酸ナトリウムであった。
【0070】
このトリプル検出方法は、全ての3つの検出器:屈折計、粘度計及び光散乱光度計(直角)からのデータを組み込む。角度非対称光散乱の補正のためにFlory-Fox式を使用した。データ処理にカラム校正は含まれない。
【0071】
粒径
分散されたSMAコポリマー又は変性SMAコポリマーの粒径を決定するため、POM組成物の成形試験片を取り(HDT試験の場合と同じ)、クライオウルトラミクロトームを使用して、試験片を、OsO4で染色された20ミクロン切片に形成し、調製して透過型電子顕微鏡で画像化した。SMAコポリマーが優先的に染色された。ImageJ(登録商標)処理ソフトウェアを使用して画像を後処理して、分散体の粒径を測定した。
【0072】
配合及び成形
全ての配合は、203℃の溶融温度において26mmWerner&Pfleiderer二軸スクリュー押出機で行われた。全ての材料が押出機の後部に供給された。得られた押出物を水浴中で急冷して、造粒した。その後、ペレットを80℃で4時間にわたって炉で乾燥させた。乾燥されたペレットを試験片の溶融粘度測定及び成形のために使用した。
【0073】
原材料:
POM-100:E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,Delaware,USA[DuPont]からDELRIN(登録商標)100として入手可能である、178℃の融点を有し、2.16kg重量を使用して190℃で測定されるときに2.5g/10分のメルトフローレートを有するポリオキシメチレンホモポリマー。
【0074】
SMA-1:スチレン:マレイン酸無水物の1:1モル比、155℃の報告されたTg、465~495mgKOH/gの酸価、5000のMwを有し、Total Cray Valley,Exton PA,USAからSMA1000として入手可能なスチレンマレイン酸無水物コポリマー。
【0075】
SMA-2:スチレン:マレイン酸無水物の2:1モル比、137℃の報告されたTg、335~375mgKOH/gの酸価、7500のMwを有し、Total Cray Valley,Exton PA,USAからSMA2000として入手可能なスチレンマレイン酸無水物コポリマー。
【0076】
SMA-3:スチレン:マレイン酸無水物の3:1モル比、125℃の報告されたTg、255~305mgKOH/gの酸価、9500のMwを有し、Total Cray Valley,Exton PA,USAからSMA3000として入手可能なスチレンマレイン酸無水物コポリマー。
【0077】
SMA-4:スチレン:マレイン酸無水物の4:1モル比、116.5℃の報告されたTg、195~235mgKOH/gの酸価、11,000のMwを有し、Total Cray Valley,Exton PA,USAからSMA4000として入手可能なスチレンマレイン酸無水物コポリマー。
【0078】
SMA-5:4-アミノフェノールでイミド化されており、148℃の報告されたTgを有し、Total Cray Valley,Exton PA,USAからSMAEP400として入手可能なSMA4000。
【0079】
SMA-6:4-アミノフェノールで約50%イミド化されており、136℃の報告されたTgを有し、Total Cray Valley,Exton PA,USAからSMAEP450として入手可能なSMA4000。
【0080】
AO-1:Irganox(登録商標)1098、BASFから入手可能である、637g/モルの分子量を有する立体障害フェノール系酸化防止剤。
【0081】
HS-1:MAP1070、DuPont製のポリアクリルアミド熱安定剤であり、水性ゲル透過クロマトグラフィーによって24,000g/モルの重量平均分子量(Mw)及び3.1の多分散指数を有する20重量パーセントポリエチレングリコール被覆ポリアクリルアミドである。
【0082】
表1は、様々なSMAコポリマーを含むPOM組成物(E1~E4)の物理的特性を示す。SMAコポリマーを含まないPOM組成物(対照標準)と比べて、実施例E1~E4の全ては、対照標準よりも少なくとも4パーセント又は4℃高いHDTを示す。また、10%クリープ歪は、全ての実施例において対照標準に対して少なくとも200%改良される。SMAコポリマーのマレイン酸無水物含有量が増加するとき、POM組成物のMV残留は、より低いマレイン酸無水物含有量を含むSMAコポリマーを有する実施例に対して改良されると思われる。
【0083】
【表1】
【0084】
表2の結果は、i)50mgKOH/g以下の酸価ii)約2,500g/モル~約20,000g/モルの範囲の分子量(Mw)、及びiii)約125℃~約160℃の範囲のガラス転移温度を有する変性SMAコポリマーを含むPOM組成物の物理的特性が、コポリマーを有さない同一のPOM組成物と比べて改良されたHDT、耐クリープ性及び溶融粘度安定性の組み合わせを驚くべきことに示すことを示す。実施例E5~E8の全ては、変性SMAコポリマーを全く含まないこと以外には実施例と同じである対照標準と比べて改良されたHDT、MV残留及び10%歪みまでのクリープを示す。
【0085】
【表2】
本発明は以下の実施の態様を含む。
1.(A)80~99重量パーセントの少なくとも1つのポリオキシメチレンポリマーと、
(B)1~20重量パーセントの少なくとも1つのスチレンマレイン酸無水物コポリマーと、
(C)任意選択により、0.5~5重量パーセントの少なくとも1つの添加剤と
を含むポリオキシメチレン(POM)組成物であって、
前記POM組成物は、ISO75-2A:2013に従って測定されるとき、少なくとも100℃の加熱撓み温度を示し、
重量パーセントは、前記POM組成物中の成分(A)、(B)及び(C)の重量に基づいており、且つ合計で100重量パーセントになる、ポリオキシメチレン(POM)組成物。
2.前記ポリオキシメチレンポリマーは、ホモポリマーである、前記1に記載のポリオキシメチレン組成物。
3.前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、約2,500g/モル~約20,000g/モルの分子量を有する、前記1に記載のポリオキシメチレン組成物。
4.前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、約1:1~6:1の範囲のスチレン:マレイン酸無水物のモル比を有する、前記1に記載のポリオキシメチレン組成物。
5.前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、125~160℃の範囲のガラス転移温度を有する、前記1に記載のポリオキシメチレン組成物。
6.任意選択の添加剤(C)は、存在する、前記1に記載のポリオキシメチレン組成物。
7.添加剤(C)は、酸化防止剤である、前記5に記載のポリオキシメチレン組成物。
8.前記酸化防止剤は、立体障害フェノール化合物である、前記7に記載のポリオキシメチレン組成物。
9.添加剤(C)は、熱安定剤である、前記5に記載のポリオキシメチレン組成物。
10.前記熱安定剤は、ポリアクリルアミドである、前記9に記載のポリオキシメチレン組成物。
11.添加剤(C)は、酸化防止剤及び熱安定剤の両方を含む、前記1に記載のポリオキシメチレン組成物。
12.(A)80~99重量パーセントの少なくとも1つのポリオキシメチレンポリマーと、
(B)1~20重量パーセントの、50mgKOH/g以下の酸価を有する少なくとも1つの変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーと、
(C)任意選択により、0.5~5重量パーセントの少なくとも1つの添加剤と
を含むポリオキシメチレン組成物であって、
重量パーセントは、前記ポリオキシメチレン組成物中の成分(A)、(B)及び(C)の重量に基づいており、且つ合計で100重量パーセントになり、
前記ポリオキシメチレン組成物は、
ISO75-2A:2013に従って測定されるときの少なくとも100℃の加熱撓み温度、
ISO899-1:2017に従って決定される、90℃及び25MPaの荷重で測定されるときの、少なくとも2時間の10%歪みまでの引張クリープ、及び
20分のホールドアップ時間後に215℃、100sec-1の剪断速度で測定されるときの少なくとも90パーセントの溶融粘度保持
を示す、ポリオキシメチレン組成物。
13.前記ポリオキシメチレンポリマーは、ホモポリマーである、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。
14.前記変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、約2,500g/モル~約20,000g/モルの分子量を有するスチレンマレイン酸無水物コポリマーから調製される、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。
15.前記変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、約1:1~6:1の範囲のスチレン:マレイン酸無水物のモル比を有する、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。
16.前記変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、125~160℃の範囲のガラス転移温度を有する、前記1に記載のポリオキシメチレン組成物。
17.任意選択の添加剤(C)は、存在する、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。
18.添加剤(C)は、酸化防止剤である、前記17に記載のポリオキシメチレン組成物。
19.前記酸化防止剤は、立体障害フェノール化合物である、前記18に記載のポリオキシメチレン組成物。
20.添加剤(C)は、熱安定剤である、前記17に記載のポリオキシメチレン組成物。
21.前記熱安定剤は、ポリアクリルアミドである、前記20に記載のポリオキシメチレン組成物。
22.添加剤(C)は、存在し、且つ酸化防止剤及び熱安定剤の両方を含む、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。
23.前記変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、イミド化スチレンマレイン酸無水物コポリマーである、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。
24.前記変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、エステル化スチレンマレイン酸無水物コポリマーである、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。
25.前記変性スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、アミド化スチレンマレイン酸無水物コポリマー(amidized styrene maleic anhydride copolymer)である、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。
26.前記1又は12に記載のポリオキシメチレン組成物を含む物品。
27.ギア、摺動及び誘導要素、ハウジング部品、バネ、チェーン、ネジ、ナット、ファンホイール、タービンブレード、ポンプ部品、弁体、絶縁体、コネクタ、電子デバイス用部品、燃料センダーユニット、エアゾール缶、車両の貯蔵タンク、コーヒーブリューワー部品並びに銃又はナイフのハンドルの形態である、前記26に記載の物品。
28.前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、約5~0.1ミクロンの範囲の粒径を有する離散粒子としてポリオキシメチレンマトリックス樹脂中に分散される、前記1に記載のポリオキシメチレン組成物。
29.前記スチレンマレイン酸無水物コポリマーは、約5~0.1ミクロンの範囲の粒径を有する離散粒子としてポリオキシメチレンマトリックス樹脂中に分散される、前記12に記載のポリオキシメチレン組成物。