(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】生体用電極
(51)【国際特許分類】
A61B 5/265 20210101AFI20240726BHJP
【FI】
A61B5/265
(21)【出願番号】P 2022505756
(86)(22)【出願日】2020-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2020041836
(87)【国際公開番号】W WO2021181752
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2020044436
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】森田 崇
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 竜也
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003697(WO,A1)
【文献】特開昭55-160543(JP,A)
【文献】特開平06-205750(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0261565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極性電極層と、前記分極性電極層に積層された非分極性電極層とを備え、
前記非分極性電極層は、樹脂と、銀と、シリカに担持された塩化銀とを含有し、
前記銀の含有量が、前記樹脂100質量部に対して150~300質量部であり、
前記銀と前記塩化銀との含有量の比率が、97:3~95:5であり、
前記非分極性電極層の厚みが、3~5μmである、生体用電極。
【請求項2】
前記シリカの含有量が、前記樹脂100質量部に対して20~50質量部である、請求項1に記載の生体用電極。
【請求項3】
前記分極性電極層の厚みが、5~10μmである、請求項1又は2に記載の生体用電極。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、日本国特願2020-044436号の優先権を主張し、引用によって本願明細書の記載に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生体用電極に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、生体用電極として、分極性電極層と、銀及び塩化銀を含有する非分極性電極層とを備えたものが使用されている。
【0004】
かかる生体用電極は、心電図検査などにおいて患者に貼り付けられて用いられる。このとき、生体用電極が患者に貼り付けられた状態で、X線画像の撮影が行われる場合がある。このため、前記生体用電極は、X線画像に写り込まないように、銀の量が少なくされてX線透過性が向上されていることが好ましい。また、生体用電極を安価に製造する上でも、銀の量が少なくされることが好ましい。
【0005】
このような生体用電極として、例えば、特許文献1には、印刷や蒸着などの方法によって、分極性電極層に、銀/塩化銀の薄膜が数μmの厚みで形成された非分極性電極層を備えたものが知られている。
【0006】
また、銀/塩化銀の量をさらに低減させるために、銀/塩化銀が樹脂に分散された樹脂組成物によって形成された非分極性電極層を有する生体用電極が知られている。このような生体用電極として、例えば、特許文献2には、樹脂と銀/塩化銀粒子とカーボン粒子とを含有する導電性塗料によって形成された非分極性電極層(高多孔性最上導電層)を有するものが記載されている。これによれば、非分極性電極層が高多孔質性となることによって、低含有量の銀/塩化銀粒子で、要求される電気特性を示すことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開平5-95922号公報
【文献】日本国特開平10-248820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術の生体用電極は、銀の含有量の低減が不十分であり、特にX線透過性が不十分になるという問題点を有している。一方で、従来技術の方法で、銀の含有量の低減を図ろうとすると、生体用電極の電気的な性能が低下するという問題点がある。例えば、カーボン粒子を用いる方法で製造された生体用電極は、非分極性が低下して電気的な性能が不十分になるという問題点があり、例えば、米国標準規格(ANSI/AAMI EC12:2000/(R)2010)を十分に満たすことができない場合がある。
【0009】
上記問題点に鑑み、本発明は、銀の含有量が低減されつつも電気的な性能に優れる生体用電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る生体用電極は、
分極性電極層と、前記分極性電極層に積層された非分極性電極層とを備え、
前記非分極性電極層は、樹脂と、銀と、シリカに担持された塩化銀とを含有し、
前記銀の含有量が、前記樹脂100質量部に対して150~300質量部であり、
前記銀と前記塩化銀との含有量の比率が、97:3~95:5であり、
前記非分極性電極層の厚みが、3~5μmである。
【0011】
また、本発明に係る生体用電極は、好ましくは、
前記シリカの含有量が、前記樹脂100質量部に対して20~50質量部である。
【0012】
また、本発明に係る生体用電極は、好ましくは、
前記分極性電極層の厚みが、5~10μmである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る生体用電極の断面構造を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例の表1に示す結果をグラフ化したものである。
【
図3】
図3は、実施例の表3に示す結果をグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る生体用電極について説明する。
【0015】
本実施形態の生体用電極1は、心電図、脳波、筋電図などの生体情報を取得するために使用される。よって、生体用電極1は、米国標準規格(ANSI/AAMI EC12:2000/(R)2010)を十分に満たすものであることが好ましい。例えば、生体用電極1のインピーダンス(以下ではACZとも称する)は、2,000Ω以下であることが好ましく、1,000Ω以下であることがより好ましく、750Ω以下であることがさらに好ましい。また、生体用電極1の除細動負荷後の分極(非分極性の指標となり、以下ではSDR/DCOとも称する)は、100mV以下であることが好ましく、20mV以下であることがより好ましい。また、生体用電極1は、保管安定性を備えていることが好ましく、例えば、温度57℃の条件で5週間以上又は10週間以上にわたって上記の電気的な性能を維持可能であることが好ましい。さらに、生体用電極1は、上記生体情報の取得と並行して、X線画像が撮影される際に好適に用いられるように構成されている。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態の生体用電極1は、シート状の基材10と、基材10の一表面に積層されており生体からの電気信号を検出するための電極層20とを備えている。生体用電極1は、電極層20にリード線30が接続されて使用される。
【0017】
基材10は、通常、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の電気絶縁性フィルムにより形成されている。ここで、電気絶縁性フィルムとは、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上のフィルムを意味する。基材10の厚みは、通常5~100μmに設定されている。
【0018】
リード線30は、従来公知のものが使用可能である。リード線30は、例えば、金属導体と該金属導体を覆う被覆材で構成されていてもよい。また、リード線30がX線画像に写りにくくなるように、リード線30の導体は、金属導体に代えて、導電性のカーボン繊維が束ねられることにより構成された導体であることが好ましい。リード線30は、一端部の導体が電極層20に電気的に接続されている。
【0019】
電極層20は、基材10の一表面に形成された分極性電極層22と、分極性電極層22の一表面に形成された非分極性電極層24と、非分極性電極層24の一表面に形成された導電性ゲル層26とを有している。本実施形態では、非分極性電極層24と導電性ゲル層26との間にリード線30が配されている。
【0020】
本実施形態では、分極性電極層22は、樹脂に黒鉛及び/又はカーボン粉が分散されたカーボンペーストにより形成されている。
【0021】
分極性電極層22の厚みは、通常2~100μmである。生体用電極1のACZが十分に低減されるという観点から、分極性電極層22の厚みは、5μm以上であることが好ましい。また、生体用電極1が安価に製造され得るという観点から、分極性電極層22の厚みは、10μm以下であることが好ましい。
【0022】
非分極性電極層24は、樹脂と、銀と、シリカに担持された塩化銀とを含有している。すなわち、非分極性電極層24は、銀と、塩化銀を担持するシリカとが樹脂に分散された樹脂組成物が分極性電極層22の一表面に、印刷され、転写され、又は塗工されるなどして被覆されることによって形成されている。なお、以下では、シリカに担持された塩化銀を塩化銀担持シリカと呼ぶことがある。
【0023】
非分極性電極層24の厚みは、2μmより大きく8μmより小さいことが好ましく、3~5μmであることがより好ましい。これによって、生体用電極1の電気的な性能が維持されつつ生体用電極1がX線透過性に優れたものとなる。
【0024】
分極性電極層22及び非分極性電極層24の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察によって、平均厚みとして算出される。具体的な測定方法としては、例えば、生体用電極1から導電性ゲル層26を剥がし、電極層20からミクロトームなどにより切片を切り出し、SEMによって倍率10,000倍以下で該切片の断面観察を行い、分極性電極層22及び非分極性電極層24の任意複数箇所(例えば9箇所)の厚みを測定し、測定した厚みの算術平均値を平均厚みとする方法が挙げられる。
【0025】
前記樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂又はポリビニルアルコール樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0026】
前記銀としては、銀粉が使用され得る。前記銀粉の形状は、特に限定されないが、球状や鱗片状であることが好ましい。また、銀粉は、ステアリン酸などの脂肪酸により表面処理されたものであることが好ましく、これによって、前記樹脂への分散性が向上する。
【0027】
前記銀の粒子径は、非分極性電極層24の厚みを薄く設定することが可能となるように、通常4μm以下であり、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。なお、前記銀の粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定されたメジアン径(D50)を意味するものとする。
【0028】
前記銀の含有量は、前記樹脂100質量部に対して、140質量部より大きいことが好ましく、150質量部以上であることがより好ましく、180質量部以上であることがさらに好ましい。これによって、生体用電極1のACZが十分に低減される。また、前記銀の含有量は、300質量部以下であることが好ましく、250質量部以下であることがより好ましく、200質量部以下であることがさらに好ましい。これによって、生体用電極1のX線透過性が優れたものになる。
【0029】
前記塩化銀担持シリカは、例えば、国際公開第2018/003702号に記載の方法で調製されたものが使用される。前記塩化銀が前記シリカに担持されることによって、塩化銀の凝集が回避され、非分極性電極層24に均一に塩化銀を存在させることが可能となる。
【0030】
非分極性電極層24の厚みを薄く設定することが可能となるように、前記塩化銀担持シリカの粒子径は、好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下であることが好ましい。なお、前記塩化銀担持シリカの粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定されたメジアン径(D50)を意味するものとする。
【0031】
前記シリカは、従来公知のものが使用可能であり、沈殿法シリカやゲル化法シリカなどの湿式法シリカであってもよく、乾式法シリカであってもよいが、なかでも、ゲル化法シリカが好ましい。
【0032】
前記シリカの比表面積は、20m2/g以上1000m2/g以下であることが好ましく、400m2/g以上700m2/g以下であることがより好ましい。なお、前記比表面積は、不活性気体の吸着によるBET法により測定された値を意味するものとする。
【0033】
前記シリカの細孔容積は、0.2mL/g以上2.0mL/g以下であることが好ましく、0.3mL/g以上0.6mL/g以下であることがより好ましい。なお、前記細孔容積は、水銀ポロシメーターにより測定された値を意味するものとする。
【0034】
前記シリカの吸油量は、50mL/100g以上500mL/100g以下であることが好ましく、70mL/100g以上170mL/100g以下であることがより好ましい。なお、前記吸油量は、JIS K 5101-13-1に記載の試験方法により測定された値を意味するものとする。
【0035】
前記シリカの平均細孔径は、2nm以上100nm以下であることが好ましく、2nm以上7nm以下であることがより好ましい。なお、前記平均細孔系は、水銀ポロシメーターにより測定された値を意味するものとする。
【0036】
前記シリカの粒子径は、非分極性電極層24の厚みを薄く設定することが可能となるように、通常4μm以下であり、3μm以下であることが好ましい。なお、前記シリカの粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定されたメジアン径(D50)を意味するものとする。
【0037】
前記シリカの含有量は、前記樹脂100質量部に対して、通常20~50質量部であり、24~40質量部であることが好ましい。後述するように、本実施形態では、非分極性電極層24の形成時に、前記樹脂と前記銀と前記塩化銀担持シリカとが有機溶剤に分散された分散体が調製される。非分極性電極層24において前記銀を均一に分散させる上で、前記分散体は、含有する前記銀の沈降が抑制されるような粘度を有していることが好ましい。前記分散体の粘度を高める上で、前記シリカの含有量は、前記樹脂100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましく、24質量部以上であることがより好ましい。
【0038】
前記塩化銀の使用量は、できるだけ少なくされることが好ましい。これによって、前記樹脂組成物を調製するための設備や塗工などをするための設備の汚染が低減される。また、生体用電極1の製造におけるハロゲン物質の使用が低減されることから、環境面においても好ましい。前記塩化銀の使用量を低減しつつ、生体用電極1の電気的な性能が維持されるという観点から、前記銀の含有量と前記塩化銀の含有量との比率は、97:3~95:5であることが好ましい。
【0039】
上記シリカの含有量及び塩化銀の含有量を勘案すると、前記塩化銀担持シリカ全体量に対する前記塩化銀の含有量は、通常5~45%であり、10~30%であることが好ましく、15~25%であることがより好ましい。
【0040】
導電性ゲル層26は、生体用電極1を皮膚の表面に接触させる層である。導電性ゲル層26は、電解質として塩化ナトリウムなどのハロゲン化アルカリ塩を含有している。導電性ゲル層26は、従来公知のものが使用可能である。
【0041】
次に、生体用電極1の製造方法、特に、分極性電極層22及び非分極性電極層24の形成方法について説明する。
【0042】
生体用電極1の製造方法は、基材10の一表面に分極性電極層22を形成する第1の層形成工程S1と、分極性電極層22の一表面に非分極性電極層24を形成する第2の層形成工程S2とを備える。
【0043】
第1の層形成工程S1は、樹脂、黒鉛及び/又はカーボン粉を有機溶剤に分散させて調製したカーボンペーストを基材10の一表面にコーティングした後、前記有機溶剤を乾燥により除去し、分極性電極層22を形成する工程である。
【0044】
第2の層形成工程S2は、銀及び塩化銀担持シリカを樹脂に分散させた分散体を調製する工程と、前記分散体を分極性電極層22の表面に被覆して非分極性電極層24を形成する工程とを有する。
【0045】
前記分散体を調製する工程では、前期樹脂を有機溶剤に溶解し、前記銀及び前記塩化銀担持シリカを分散させ、常温で撹拌することによって前記分散体を調製する。
【0046】
前記有機溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)及びシクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサンなどの環状アルカン系溶剤、ベンゼン、キシレン(異性体のo-キシレン、m-キシレン、p-キシレンを含む)、トルエンなどの1つのベンゼン環を有する芳香族系溶剤が好ましい。
この他、炭素数5~8の直鎖状又は分岐状アルカン系溶剤も好ましく用いられる。このような溶剤としては、例えば、炭素数5のn-ペンタン、2-メチルブタン、2,2-ジメチルプロパン、炭素数6のn-ヘキサン、3-メチルペンタン、2-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、2,2-ジメチルブタン、炭素数7のn-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、炭素数8のn-オクタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、3-エチルヘキサン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,2,3,3-テトラメチルブタンが挙げられる。
前記分散体の粘度が低下し過ぎると、前記分散体中で前記銀が沈降し易くなり、非分極性電極層24に前記銀を均一に分散させることが困難となる。よって、前記分散体全体量に対する前記有機溶剤の含有量は、60~70質量%であることが好ましい。
【0047】
非分極性電極層24を形成する工程では、前記分散体を分極性電極層22の表面に被覆する。被覆する方法としては、印刷、転写、又は塗工などが挙げられる。本実施形態の前記分散体は、シリカを含有することによって粘度が高められているため、印刷時などにおいて、前記銀の沈降が抑制されたものとなっている。これによって、非分極性電極層24に前記銀を均一に分散させることが可能となる。
【0048】
次に、有機溶剤を乾燥して除去することによって、非分極性電極層24とする。上記のように、前記分散体は、粘度が高められているため、この乾燥時においても、前記銀の沈降が抑制される。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る生体用電極1は、
分極性電極層22と、分極性電極層22に積層された非分極性電極層24とを備え、
非分極性電極層24は、樹脂と、銀と、シリカに担持された塩化銀とを含有し、
前記銀の含有量が、前記樹脂100質量部に対して150~300質量部であり、
前記銀と前記塩化銀との含有量の比率が、97:3~95:5であり、
非分極性電極層24の厚みが、3~5μmである。
【0050】
斯かる構成によれば、非分極性電極層24が上記範囲で銀と塩化銀とを含有し且つ非分極性電極層24の厚みが3~5μmであることによって、銀の含有量が低減されつつも、電気的な性能が優れたものとなる。
【0051】
また、本実施形態に係る生体用電極1は、好ましくは、
前記シリカの含有量が、前記樹脂100質量部に対して20~50質量部である。
【0052】
斯かる構成によれば、シリカの含有量が20~50質量部であることにより、非分極性電極層24の形成のための、樹脂と銀とシリカとを含む分散体であって分極性電極層22に塗工などされる分散体の粘度が高くなるため、該分散体中で銀が沈降しにくくなり、非分極性電極層24における銀の分散性が向上する。よって、生体用電極1の電気的な性能がより優れたものとなる。
【0053】
また、本実施形態に係る生体用電極1は、好ましくは、
分極性電極層22の厚みが、5~10μmである。
【0054】
斯かる構成によれば、分極性電極層22の厚みが5~10μmであることによって、電気的な性能がさらに優れたものとなる。
【0055】
なお、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る生体用電極は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る生体用電極は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る生体用電極は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0057】
[実施例1]
基材としてのPETフィルム(厚み38μm)の一表面全体にわたって、導電性のカーボンペースト(日本黒鉛工業株式会社製、バニーハイトUCC-2)を塗布した後、120℃で乾燥し、基材の一表面に厚み5μmの分極性電極層を形成した。
次に、表1に示す配合割合となるように、非分極性電極層を形成した。以下に、具体的な手順を示す。
硝酸銀40gをイオン交換水50mLに溶解し、硝酸銀水溶液を調製した。硝酸銀水溶液にシリカ(富士シリシア化学株式会社製、商品名:サイリシア710、粒子径:2.8μm、比表面積:700m2/g、細孔容積0.44mL/g、吸油量:100mL/100g、平均細孔径:2.5nm)20gを添加し、4時間撹拌した。固形分をろ過し、イオン交換水で洗浄した。固形分を120℃で乾燥し、硝酸銀担持シリカを得た。硝酸銀担持シリカを1M塩酸200mLと混合し、4時間撹拌した。固形分をろ過し、イオン交換水で洗浄した。固形分を120℃で乾燥した後、塩化銀担持シリカを得た。塩化銀担持シリカの塩化銀含有量は20%であった。
ポリスチレン樹脂(クラレ株式会社製、EH504H)をトルエンに溶かし、銀(DOWAエレクトロニクス株式会社製、AG-4-8F、粒子径:1.9μm)及び上記で調製した塩化銀含有量が20%である塩化銀担持シリカを分散させた、分散体を調製した。
分極性電極層の表面全体にわたって、フィルムアプリケーターを用いハンドコートにより、上記で調製した分散体を被覆し、120℃で乾燥し、非分極性電極層を形成した。
分極性電極層及び非分極性電極層が形成された基材を15×30mmの大きさにカットし、非分極性電極層の表面に、15×15mmの大きさの導電性ゲル層(積水化成品工業株式会社製、CR-H)を、基材の短い方の一端縁と、導電性ゲルの一端縁とが重なり合うように貼り付け、且つ、両層の間にリード線を挟み込むようにして固定し、生体用電極とした。
【0058】
[比較例1]
シリカをカーボン粒子(D50:3.3μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして生体用電極を製造した。塩化銀担持カーボンの塩化銀含有量は20%であった。
【0059】
[比較例2]
塩化銀をシリカに担持させずにそのまま用いた以外は、実施例1と同様にして生体用電極を製造した。
【0060】
[評価方法]
生体用電極をアルミパック内で密封し、57℃に設定した恒温槽にて保管した。なお、57℃10週間の保管は、室温2年間の保管に相当すると考えられる。所定の期間経過後、アルミパックから生体用電極を取り出し、ANSI/AAMI EC12:2000の方法に準拠して、インピーダンス(ACZ)及び除細動負荷後の分極(SDR/DCO)を測定することにより、生体用電極の電気的特性を評価した。ACZが750Ω以下であり且つSDR/DCOが20mV以下であることを基準に、電気的な性能に優れる生体用電極であるかを判定した。
【0061】
表1及び
図2に示したように、実施例1は、ACZ及びSDR/DCOともに上記基準を下回り、電気的な性能に優れることが認められた。一方。比較例1はSDR/DCOが基準を上回る場合があり、比較例2はACZが基準を上回る場合があり、実施例1と比較して電気的な性能が劣っていることが認められた。
【0062】
【0063】
次に、実施例1の配合割合を基準として、銀の含有量について評価した。結果を表2に示した。銀の含有量が140質量部である比較例3は、ACZが基準を上回る場合があり、実施例1~4と比較して電気的な性能が劣っていることが認められた。
【0064】
【0065】
次に、銀の含有量と塩化銀の含有量との比率について評価した。結果を表3及び
図3に示した。銀:塩化銀=98:2とした比較例4は、ACZ及びSDR/DCOともに基準を上回り、電気的な性能が悪いことが認められた。
【0066】
【0067】
次に、実施例1の配合割合を基準として、非分極性電極層及び分極性電極の厚みについて評価した。結果を表4に示した。非分極性電極層の厚みを2μmとした比較例5は、SDR/DCOが基準を上回り、非分極性電極層の厚みを8μmとした比較例6は、ACZが基準を大きく上回り、電気的な性能が劣っていることが認められた。この結果から、非分極性電極層の厚みは、2μmより大きく、8μm未満であるのが好ましいと考えられる。
【0068】
また、実施例1及び実施例5の生体用電極のX線撮影を行った結果、X線撮影画像への電極の映り込みは、ほとんど認められなかった。
【0069】
【0070】
また、上記結果から、分極性電極層の厚みは、ACZの値に大きく寄与することが認められ、特に、この厚みの値が5μmを下回ると、ACZの値が基準を上回る可能性があると考えられる。よって、分極性電極層の厚みは、5μm以上であることが好ましいと考えられる。
【符号の説明】
【0071】
1:生体用電極、
10:基材、
20:電極層、22:分極性電極層、24:非分極性電極層、26:導電性ゲル層、
30:リード線