(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】横隔膜刺激によって心機能に影響を及ぼすためのおよび横隔膜の健康をモニタリングするための埋め込み型医療システム、機器、および方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2022519400
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(86)【国際出願番号】 US2020052246
(87)【国際公開番号】W WO2021061793
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-05-25
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516238935
【氏名又は名称】ヴィスカルディア インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バウアー, ピーター ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ウィーラー, ティモシー
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0312509(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0312507(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0022988(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0172040(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0021166(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0215106(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0048640(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0296973(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0024176(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0287820(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0175908(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼすための装置であって、
横隔膜
上に配置されるように構成された1つまたは複数の電極と、
前記横隔膜上に配置されるように構成された前記1つまたは複数の電極
から感知した信号を受信するために結合され、
前記患者の心臓周期における拡張期中に、
前記横隔膜上に配置されるように構成された前記1つまたは複数の電極から拡張期刺激パルスを前記患者の前記横隔膜に送達すること、および
前記心臓周期における収縮期中に、
前記横隔膜上に配置されるように構成された前記1つまたは複数の電極から収縮期刺激パルスを前記横隔膜に送達すること
を行うように構成されたコントローラであって、前記拡張期刺激パルスおよび前記収縮期刺激パルスがそれぞれ、前記横隔膜の無症候性一過性部分的収縮をもたらす、コントローラと、
を備え、
前記コントローラが、
前記感知した信号中の前記患者の第1の心臓事象の発生を検出することと、
検出した前記第1の心臓事象
の後の期間に前記拡張期刺激パルスを送達することであって、
検出した前記第1の心臓事象の後の前記期間は前記拡張期刺激パルスが前記心臓周期の前記拡張期の後半に送達されるように選択される、前記拡張期刺激パルスを送達することと、
を行うようにさらに構成されることによって、前記拡張期刺激パルスを送達し、
前記コントローラが、
前記感知した信号中の前記患者の第2の心臓事象の発生を検出することと、
検出した前記第2の心臓事象
の後の期間に前記収縮期刺激パルスを送達することであって、
検出した前記第2の心臓事象の後の前記期間は前記収縮期刺激パルスが前記心臓周期の前記収縮期の前半に送達されるように選択される、前記収縮期刺激パルスを送達することと、
を行うようにさらに構成されることによって、前記収縮期刺激パルスを送達する、装置。
【請求項2】
前記コントローラが、
複数の心臓周期にわたって、
前記感知した信号中の、a)前記第1の心臓事象、b)
心電(EGM)解析モジュールによる検出P波、ならびにc)
前記心電(EGM)解析モジュールによるQRS群中の検出Q点または心臓運動/心音解析モジュールによる検出S1心音の発生した時間を検出することと、
前記発生した時間をそれぞれ処理して、前記第1の心臓事象からa)
前記検出P波とb)
前記検出P波に続く
前記QRS群中の検出Q点との間の時間までの期間を計算することであって、前記期間が
検出した前記第1の心臓事象の後の前記期間に対応する、期間を計算することと、
を行うようにさらに構成されることによって、
検出した前記第1の心臓事象の後の前記期間を決定するようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コントローラが、
複数の心臓周期にわたって、
前記感知した信号中の、a)前記第2の心臓事象、b)
心電(EGM)解析モジュールによるQRS群中の検出Q点および
心臓運動/心音解析モジュールによる検出S1心音の一方、ならびにc)
前記心電(EGM)解析モジュールによる検出T波および
前記心臓運動/心音解析モジュールによる検出S2心音の一方の発生した時間を検出することと、
前記発生した時間をそれぞれ処理して、前記第2の心臓事象からa)
前記検出Q点または
前記検出S1心音とb)
前記検出T波または
前記検出S2心音との間の時間までの期間を計算することであって、前記期間が
検出した前記第2の心臓事象の後の前記期間に対応する、期間を計算することと、
を行うようにさらに構成されることによって、
検出した前記第2の心臓事象の後の前記期間を決定するようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の心臓事象および前記第2の心臓事象が、連続する心臓周期における同じ心臓事象タイプであり、前記同じ心臓事象タイプが電気的心臓事象および機械的心臓事象の一方に対応し、
前記電気的心臓事象は、
前記横隔膜上に配置されるように構成された前記1つまたは複数の電極により検知されたECGの特徴に対応するものであり、前記特徴はP波、QRS群、QRS群中のQ点、R波、QRS群中のS点、またはT波のうちの1つであり、
前記機械的心臓事象は、
前記横隔膜上に配置されるように構成された運動センサにより検知された心音に対応するものであり、前記心音はS1心音、S2心音、S3心音、またはS4心音のうちの1つである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の心臓事象および前記第2の心臓事象が、同一心臓周期における異なる心臓事象であり、前記異なる心臓事象がそれぞれ電気的心臓事象および機械的心臓事象の一方に対応し、
前記電気的心臓事象は、
前記横隔膜上に配置されるように構成された前記1つまたは複数の電極により検知されたECGの特徴に対応するものであり、前記特徴はP波、QRS群、QRS群中のQ点、R波、QRS群中のS点、またはT波のうちの1つであり、
前記機械的心臓事象は、
前記横隔膜上に配置されるように構成された運動センサにより検知された心音に対応するものであり、前記心音はS1心音、S2心音、S3心音、またはS4心音のうちの1つである、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
心臓上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極をさらに備え、前記コントローラが、前記心臓上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極により検知された信号に基づいて、第1の心臓事象の前記発生および第2の心臓事象の前記発生の少なくとも一方を検出するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記横隔膜上もしくはその近傍または心臓上もしくはその近傍に配置されるように構成された運動センサをさらに備え、前記コントローラが、前記運動センサにより検知された信号に基づいて、第1の心臓事象の前記発生および第2の心臓事象の前記発生の少なくとも一方を検出するように構成される、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月26日に出願された米国仮特許出願第62/906,682号「Implantable Medical Systems, Devices and Methods that Affect Pressures Within the Intrathoracic Cavity」の利益および優先権を主張するものであり、そのすべての開示内容を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本開示は、一般的には心機能に影響を及ぼすためのシステム、機器、および方法に関し、より詳細には、横隔膜刺激によって胸腔内腔内の圧力に影響を及ぼす埋め込み型医療システム、機器、および方法に関する。また、本開示は、一般的には患者の健康をモニタリングするためのシステム、機器、および方法に関し、より詳細には、横隔膜の筋電(EMG)電気的活動をモニタリングして患者の健康を評価する埋め込み型医療システム、機器、および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
横隔膜は、胸腔と腹腔とを隔てるドーム状の骨格筋構造であって、吸気時の収縮により下方に移動して機械的な呼吸運動を担う主要な筋肉器官である。横隔神経は、横隔膜を支配するとともに、収縮を合図する神経興奮の主要な方途として機能する。また、外肋間筋および内肋間筋は、肋骨を挙上させて、胸腔の前後径を大きくする。吸気時には、横隔膜の動きによって、横隔膜および肋間筋が胸郭のサイズを大きくするため、胸腔が拡張して内部が陰圧になる。胸郭の拡張によって胸腔内圧が大気圧を下回るため、空気が肺に入る。呼気時には、吸気筋が弛緩し、肺組織の弾性反動が胸腔内圧の上昇と組み合わさって、空気が肺から出る。
【0004】
横隔膜の収縮および胸郭の拡張による胸腔内圧の変化は、胸腔内構造すなわち心臓、心膜、大動脈および静脈に伝達され得る。自然吸気によって胸膜陰圧が生じ、心房充填(前負荷)および心室排出に対する抵抗(後負荷)等の心臓血管のはたらきに影響が及ぶ。この影響は、横隔膜の収縮が吸気を生じさせるのに十分な持続時間、強度、および拡張である場合の正常機能時の心臓血管血行動態パラメータにおいて観察可能であり、患者が閉じた声門に対する横隔膜筋を用いた強制的な吸気および呼気によって胸部圧力を急速に変化させるバルサルバ法およびミュラー法での臨床診療において使用可能である。これらの方法によって胸腔内圧が急激に変化し、その変化が心室および血管と関連付けられた圧力勾配を変化させ、心臓充填および心拍出量等の心機能に影響を及ぼす。
【0005】
胸腔内圧が心臓系のはたらきに及ぼす影響は複雑である。しゃっくりは、急速かつ部分的な横隔膜の収縮により胸腔内圧の急速な低下をもたらすもので、以前から、心臓および全身のはたらきへの影響を明らかにするために用いられている。動物およびヒトの両者を対象とした研究では、全体的な心室の拡張期および収縮期圧力、心拍出量等の血行動態パラメータの変化ならびに大動脈の膨張および血管抵抗等の全身的な基準の変化が明らかとなっている。また、これらの研究では、胸腔内圧の影響の急激な変化が心臓周期に対するタイミングの影響を大きく受け、しゃっくりが心室拡張期、収縮期、または拡張期-収縮期移行時に発生した場合は異なる観察結果となることも明らかとなっている。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に開示の機器、システム、および方法は、心機能を向上させるため、胸腔内腔内の圧力に影響を及ぼす無症候性横隔膜刺激(ADS)療法のさまざまな形態を提供する。これらのADS療法の形態は、1)心臓周期の拡張フェーズ中に第1のADSパルスが送達され、収縮フェーズ中に第2のADSパルスが送達される二重パルスADS療法と、2)第1のADSパルスの直後に、横隔膜の一過性部分的収縮のフェーズを延長または増強するように機能する第2のADSパルスが送達される対パルスADS療法と、3)パルス間の時間が心拍に基づくADSパルスストリームが送達される多重パルスADS療法と、を含む。
【0007】
本開示の一態様において、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす二重パルスADS療法を提供するための装置は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラと、を備える。コントローラは、患者の心臓周期の拡張フェーズ中に、拡張期刺激パルスを患者の横隔膜に送達することと、心臓周期の収縮フェーズ中に、収縮期刺激パルスを横隔膜に送達することと、を行うように構成されている。拡張期刺激パルスおよび収縮期刺激パルスがそれぞれ送達されることにより、横隔膜の無症候性一過性部分的収縮がもたらされる。このため、各パルス送達は、横隔膜の別個の無症候性一過性部分的収縮を生じさせるように各パルスの送達をタイミング規定する刺激パラメータ(オフセット期間または遅延期間を含む)により規定されていてもよい。
【0008】
本開示の一態様において、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす二重パルスADS療法を提供する方法は、患者の心臓周期の拡張フェーズ中に、拡張期刺激パルスを患者の横隔膜に送達することと、心臓周期の収縮フェーズ中に、収縮期刺激パルスを横隔膜に送達することと、を含む。拡張期刺激パルスおよび収縮期刺激パルスがそれぞれ送達されることにより、横隔膜の無症候性一過性部分的収縮がもたらされる。このため、各パルス送達は、横隔膜の別個の無症候性一過性部分的収縮を生じさせるように各パルスの送達をタイミング規定する刺激パラメータ(オフセット期間または遅延期間を含む)により規定されていてもよい。
【0009】
本開示の一態様において、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす対パルスADS療法を提供するための装置は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラと、を備える。コントローラは、第1の刺激パルスを患者の横隔膜に送達し、横隔膜が第1の刺激パルスから依然として動いている間または収縮している間に、第2の刺激パルスを横隔膜に送達するように構成されている。第1の刺激パルスは、横隔膜の一部が尾部方向に移動する時間に対応する尾部フェーズと、それに続く、横隔膜のこの一部が頭部方向に移動する時間に対応する頭部フェーズと、を含む横隔膜の一過性部分的収縮を誘導するように構成されている。第2の刺激パルスは、尾部フェーズおよび頭部フェーズの一方の持続時間を延長するように構成されている。このため、第2の刺激パルスは、尾部フェーズおよび頭部フェーズの一方の持続時間を延長するように第2のパルスの送達をタイミング規定する刺激パラメータ(オフセット期間または遅延期間を含む)により規定されていてもよい。
【0010】
本開示の一態様において、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす対パルスADS療法を提供する方法は、第1の刺激パルスを患者の横隔膜に送達することと、横隔膜が第1の刺激パルスから依然として動いている間または収縮している間に、第2の刺激パルスを横隔膜に送達することと、を含む。第1の刺激パルスは、横隔膜の一部が尾部方向に移動する時間に対応する尾部フェーズと、それに続く、横隔膜のこの一部が頭部方向に移動する時間に対応する頭部フェーズと、を含む横隔膜の一過性部分的収縮を誘導する。第2の刺激パルスは、尾部フェーズおよび頭部フェーズの一方の持続時間を延長する。このため、第2の刺激パルスは、尾部フェーズおよび頭部フェーズの一方の持続時間を延長するように第2のパルスの送達をタイミング規定する刺激パラメータ(オフセット期間または遅延期間を含む)により規定されていてもよい。
【0011】
本開示の一態様において、患者の胸腔中の圧力に影響を及ぼす多重パルスADS療法を提供するための装置は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラと、を備える。コントローラは、患者の心臓周期中に、複数の刺激パルスを患者の横隔膜に送達するように構成されている。複数の刺激パルスはそれぞれ、横隔膜の一部が尾部方向に移動する時間に対応する尾部フェーズと、それに続く、横隔膜のこの一部が頭部方向に移動する時間に対応する頭部フェーズと、を含む横隔膜の対応する一過性部分的収縮をもたらす。このため、連続する刺激パルス間のタイミングは、心拍および横隔膜の一過性部分的収縮の持続時間に基づくことから、パルス間のタイミングによって、各パルスは、横隔膜の完全かつ別個の一過性部分的収縮を生じさせ得る。
【0012】
本開示の一態様において、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす多重パルスADS療法を提供する方法は、患者の心臓周期中に、複数の刺激パルスを患者の横隔膜に送達することを含み、複数の刺激パルスはそれぞれ、横隔膜の一部が尾部方向に移動する時間に対応する尾部フェーズと、それに続く、横隔膜のこの一部が頭部方向に移動する時間に対応する頭部フェーズと、を含む横隔膜の対応する一過性部分的収縮をもたらす。このため、連続する刺激パルス間のタイミングは、心拍および横隔膜の一過性部分的収縮の持続時間に基づくことから、連続する刺激パルス間のタイミングによって、各パルスは、横隔膜の完全かつ別個の一過性部分的収縮を生じさせ得る。
【0013】
また、本明細書に開示の機器、システム、および方法は、基本EMG活動に対して、横隔膜の筋電(EMG)活動をモニタリングすることにより、ADS療法の対象となる横隔膜の健康を評価するとともに、ADS療法パラメータまたは検知パラメータを調整する。
【0014】
本開示の一態様において、ADSの送達により、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼすための装置は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラと、を備える。コントローラは、ある期間にわたって、ADS療法を患者に送達するように構成され、ADS療法は、1つまたは複数の刺激パラメータにより規定されたADSパルスを含む。また、コントローラは、この期間にわたって、1つまたは複数の検知パラメータに従って横隔膜の1つまたは複数の骨格筋により生じたEMG電気的活動を周期的に検知することと、ADS療法の開始に先立って検知された患者の基本EMG電気的活動に対して、EMG電気的活動が基準を満たすかを判定することと、を行うように構成されている。コントローラは、基準が満たされない場合に、ADS療法の改善を目的として、1つまたは複数の刺激パラメータおよび1つまたは複数の検知パラメータのうちの少なくとも1つを調整するようにさらに構成されている。
【0015】
本開示の一態様において、ADS療法の送達により、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす装置の検知および/または刺激パラメータを修正する方法は、ある期間にわたって、ADS療法を患者に送達することを含む。ADS療法は、1つまたは複数の刺激パラメータにより規定されたADSパルスを含む。また、この方法は、この期間にわたって、1つまたは複数の検知パラメータに従って横隔膜の1つまたは複数の骨格筋により生じたEMG電気的活動を周期的に検知することと、ADS療法の開始に先立って検知された患者の基本EMG電気的活動に対して、検知したEMG電気的活動が基準を満たすかを判定することと、を含む。この方法は、基準が満たされない場合に、ADS療法を改善するため、1つまたは複数の刺激パラメータおよび1つまたは複数の検知パラメータのうちの少なくとも1つを調整することをさらに含む。
【0016】
本開示の一態様において、患者の健康をモニタリングするための装置は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラと、を備える。コントローラは、ある期間にわたって、1つまたは複数の検知パラメータに従って横隔膜の1つまたは複数の骨格筋により生じたEMG電気的活動を周期的に検知することと、患者の基本EMG電気的活動に対して、検知したEMG電気的活動が基準を満たすかを判定することと、を行うように構成されている。
【0017】
本開示の一態様において、患者の健康をモニタリングする方法は、ある期間にわたって、1つまたは複数の検知パラメータに従って横隔膜の1つまたは複数の骨格筋により生じたEMG電気的活動を周期的に検知することを含む。また、この方法は、患者の基本EMG電気的活動に対して、検知したEMG電気的活動が基準を満たすかを判定することを含む。
【0018】
当業者には、装置および方法の種々態様を一例として図示および記述する以下の詳細な説明から、装置および方法の他の態様が容易に明らかとなるであろうことが了解される。以下に実現される通り、これらの態様は、他の異なる形態で実施されるようになっていてもよく、そのいくつかの詳細は、他のさまざまな点において変更可能である。したがって、図面および詳細な説明は、本質的に例示であり、何ら限定的なものと見なされるべきではない。
【0019】
以下、詳細な説明において、添付の図面を参照しつつ、横隔膜刺激によって胸腔内腔内の圧力に影響を及ぼすシステム、機器、および方法の種々態様を一例として提示するが、これらは何ら限定的なものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】患者の胸腔に対する2つの代替場所で無症候性横隔膜刺激(ADS)療法送達メカニズムを示した図である。
【
図2C】横隔膜の下側から尾部方向に見た横隔膜および仙骨を示した図である。
【
図3A】横隔膜の下側に埋め込まれたADS療法を提供するための埋め込み型医療機器の複合体実施形態を示した図である。
【
図4A】横隔膜の下側に埋め込まれたADS療法を提供するための埋め込み型医療機器の単体実施形態を示した図である。
【
図5A】ADS療法および心調律管理(CRM)療法等の別の療法を提供する埋め込み型医療装置を示した図である。
【
図6】外部機器と、マスター/スレーブ構成にて動作するADS療法を提供する1つまたは複数の埋め込み型機器とを含む医療システムのブロック図である。
【
図7】ADS療法送達メカニズムによる横隔膜刺激の送達によって、胸腔内腔内の圧力に影響を及ぼすように構成された埋め込み型医療機器のブロック図である。
【
図8A】一方のパルスが拡張期後半に送達され、他方のパルスが収縮期前半に送達される心臓周期当たり二重刺激パルスを含むADS療法の模式図である。
【
図8B】
図8AのADS療法の送達の結果としての横隔膜の離隔した複数対の一過性部分的収縮を含む心電(ECG)波形および横隔膜加速波形であって、各一過性部分的収縮が、単一のADSパルスの送達の結果であり、横隔膜の一部が尾部方向に移動する尾部フェーズと、横隔膜の一部が頭部方向に移動する頭部フェーズと、を含む、心電(ECG)波形および横隔膜加速波形を示した図である。
【
図9】心臓周期当たり二重のADSパルスの送達によって、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす方法のフローチャートである。
【
図10】尾部フェーズと、それに続く、近接してタイミング規定された一対のADSパルスの送達の結果としての延長または増強頭部フェーズと、をそれぞれ有する一連の一過性部分的収縮を含むECG波形および横隔膜加速波形を示した図である。
【
図11】一対のADSパルスの送達によって、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす方法のフローチャートである。
【
図12A】二重のADSパルスが心臓周期ごとに送達される
図8Aに基づく療法を含む異なるADS療法の結果としての横隔膜の一連の一過性部分的収縮を含むECG波形および横隔膜加速波形を示した図である。
【
図12B】より多くのADSパルスが心拍に基づいて心臓周期ごとに送達される療法を含む異なるADS療法の結果としての横隔膜の一連の一過性部分的収縮を含むECG波形および横隔膜加速波形を示した図である。
【
図13】心臓周期当たり複数のADSパルスの送達によって、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす方法のフローチャートである。
【
図14A】患者の基本ECG/筋電(EMG)信号に対応するECG/EMG複合信号を示した図である。
【
図14B】ADS療法の開始後のある時点における患者のECG/EMG信号に対応するECG/EMG複合信号を示した図である。
【
図15A】ECG成分を含まない純粋なEMG信号であって、健康な患者からのEMG信号を示した図である。
【
図15B】ECG成分を含まない純粋なEMG信号であって、神経障害の患者からのEMG信号を示した図である。
【
図15C】ECG成分を含まない純粋なEMG信号であって、筋疾患の患者からのEMG信号を示した図である。
【
図16A】第1の広帯域フィルタを含む異なる信号フィルタ設定により得られたECG/EMG複合信号を示した図である。
【
図16B】第2の広帯域フィルタを含む異なる信号フィルタ設定により得られたECG/EMG複合信号を示した図である。
【
図16C】狭帯域フィルタを含む異なる信号フィルタ設定により得られたECG/EMG複合信号を示した図である。
【
図17】ADS療法の送達により、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす装置の検知および/または刺激パラメータを修正する方法のフローチャートである。
【
図18】横隔膜のEMG電気的活動に基づいて患者の健康をモニタリングする方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書は、胸腔内腔内の圧力に影響を及ぼす無症候性横隔膜刺激(ADS)療法のさまざまな形態を提供する埋め込み型医療機器、システム、および方法を開示する。ADS療法の一形態(本明細書においては、二重パルスADS療法と称する)においては、心臓周期の拡張フェーズ中に第1のADSパルスが送達され、収縮フェーズ中に第2のADSパルスが送達される。ADS療法の別の形態(本明細書においては、対パルスADS療法と称する)においては、第1のADSパルスの直後に、横隔膜の特定方向の一過性部分的収縮を延長または増強するように機能する第2のADSパルスが送達される。ADS療法の別の形態(本明細書においては、多重パルスADS療法と称する)においては、パルス間の時間が心拍に基づく連続ADSパルスストリームが送達される。
【0022】
また、ADS療法の対象となる横隔膜の健康およびADS療法の対象となる患者の心不全状態を評価する埋め込み型医療機器、システム、および方法を開示する。これらのシステム、機器、および方法では、基本活動に対する横隔膜の筋電(EMG)活動をモニタリングして、患者の状態を決定するとともに、刺激パラメータおよび/または検知パラメータ等のADS療法パラメータを調整する。
【0023】
横隔膜に対する電気的刺激によって無症候性一過性部分的横隔膜収縮が誘導され、これにより胸腔内圧の変化が誘導される。適当にタイミング規定および設定された横隔膜刺激によれば、心臓血管性能および心機能が向上して、心不全を管理できる可能性がある。たとえば、心室収縮等の周期的な心臓事象の発生との同期あるいはタイミング規定がなされた横隔膜刺激により、左心室充填時に胸腔内陰圧(吸引)が加速されて充填量が増えた後、胸腔内腔陽圧(圧縮)が加速され、左心室により生じる収縮力が増大し得る。
【0024】
心不全の管理は複雑であり、医師は、心臓と血管との間のさまざまな相互依存的生理作用を最適化する必要があるため、本明細書に開示の療法の目的は、誘発横隔膜収縮を利用して、心臓および血管の胸腔内圧条件を最適化することにより、患者の全身状態を改善することである。たとえば、胸腔内の心臓血管系の1つまたは複数のチャンバへの血液量、収縮期出力(スターリング)の変化を引き起こす拡張期終末圧力(前負荷)が挙げられ、心臓内血流(拡張期冠動脈灌流)と動作機構(効率)との仲介、心臓充填を担う血管(大静脈および右心房)のコンプライアンスの低下、または心臓の動作能力により一致するような心臓血管のコンプライアンスの変更(インピーダンスの一致または最適化)がもたらされる。これらの間接的な生理的メカニズムによって、心臓の機械的な力を機械的に増強するとともに心拍出量に対する血管抵抗を抑える直接的な生理的メカニズムが増強されることになる。
【0025】
無症候性横隔膜刺激
図1は、患者の横隔膜104上またはその近傍で患者の胸腔102の領域に埋め込まれた無症候性横隔膜刺激(ADS)療法送達メカニズム100の模式図である。ADS療法送達メカニズム100は、横隔膜刺激プログラムに従って、刺激パルスを横隔膜104に送達するように構成されている。ADS療法送達メカニズム100は、横隔膜上またはその近傍に位置決めされるように構成された1つまたは複数の電極であってもよい。
図1においては一般化して示しているが、ADS療法送達メカニズム100は、以下のいずれかであってもよい。
【0026】
1)a)取り外し可能な構成部品を有さず、電子機器を収容するとともにADS療法送達メカニズムを備えた一体型構造またはb)電子機器を収容する容器およびADS療法送達メカニズムを備えた部分構造(たとえば、リード)を有する複合体埋め込み型医療機器(IMD)の形態の独立型IMDであってもよい。部分構造は、容器に対して電気的かつ機械的に結合されたリードであってもよいし、容器と無線通信する別個の非接続モジュールであってもよい。
【0027】
2)あるいは、ADS療法送達メカニズム100は、ペースメーカの形態の心調律管理(CRM)機器、心臓再同期療法機器、または除細動器等、他の療法を提供するIMDの一部であってもよい。この一部は、たとえばADS療法送達メカニズムを備え、CRM機器の容器に対して電気的かつ機械的に結合されたリードであってもよいし、CRM機器の容器と無線通信する別個の非接続モジュールであってもよい。
【0028】
3)あるいは、ADS療法送達メカニズム100は、外部機器と一体的にマスター/スレーブ構成にて動作する1つまたは複数の埋め込み型機器を具備する医療システムの一部であってもよい。
【0029】
引き続き
図1を参照して、ADS療法送達メカニズム100は、従来の腹腔鏡により、横隔膜104の下側の横隔膜の選択表面領域において、下側埋め込み場所120と称する場所に配置されていてもよい。あるいは、ADS療法送達メカニズム100は、従来の開胸術により、横隔膜104の上側の横隔膜104の選択表面領域において、上側埋め込み場所122と称する場所に配置されていてもよい。たとえば、ADS療法送達メカニズム100は、横隔膜104の上面と患者の左肺124aの下面との間に位置決めされていてもよい。
【0030】
胸腔内腔および縦隔とも称する胸腔120は、さまざまな接続構造により形成された密閉空洞である。これらの構造は、横隔膜104、胸部側壁106a、106b、ならびに気管112および心臓114の近傍の層状壁108、110を含む。
【0031】
横隔膜104は、肺124a、124bの下方に位置付けられ、腹腔126から胸腔102を分離するドーム状の骨格筋構造である。横隔膜104は、胸腔102の下端を規定して、機械的な呼吸運動を担う主要な筋肉器官である。胸部側壁106a、106bは、肋骨116と、肋骨間の空間を充填する膜118と、で形成され、胸腔102の胸部側壁106a、106bを規定する。層状壁108、110は、互いに重なり合って胸腔102の頂部を封止するさまざまな膜および血管で形成されている。
【0032】
機械的な呼吸運動は、吸気(inspirationまたはinhalation)フェーズおよび呼気(expirationまたはexhalation)フェーズを含む。前述の通り、横隔膜104は、機械的な呼吸運動を担う主要な筋肉器官である。横隔神経(図示せず)が横隔膜104を支配し、信号を横隔膜に送って、吸気および呼気を制御する。これらの信号は、神経興奮によって横隔膜の収縮を開始する主要なメカニズムとして機能する。横隔膜には痛みを感じる末端神経がないため、近くの支配された他の胸腔筋に含まれる痛み神経の領域刺激の可能性を最小限に抑えるのと同時に、所望の血行動態作用を心臓血管系にもたらす療法出力が制約を受ける。
【0033】
図2Aは、吸気終末における胸腔を示した図である。吸気時、横隔膜104は収縮し(たとえば、平らになり)、肺124a、124bから離れる方向へと下方に移動する。吸気時の横隔膜の下方移動と同時に、肺124a、124bの周りの外肋間筋および内肋間筋が肋骨116を挙上させて、胸腔102の前後径を大きくする。吸気時には、横隔膜104の動きによって、横隔膜および肋間筋が胸郭のサイズを大きくするため、胸腔102が拡張して内部が陰圧になる。胸郭の拡張によって、胸腔102の開放空間内の圧力すなわち胸腔内圧が大気圧を下回る。この圧力低下によって、外気が肺124a、124bに入る。
【0034】
図2Bは、呼気終末における胸腔を示した図である。呼気時、横隔膜104は拡張し(たとえば、ドーム形状となる)、肺124a、124bの方向へと上方に移動する。呼気時、横隔膜104は、肺124a、124bの周りの外肋間筋および内肋間筋とともに弛緩する。横隔膜104が拡張すると(たとえば、ドーム形状を回復すると)、肋骨116が下垂するため、胸腔102の前後径が小さくなって、胸腔内圧が大気圧を上回る。胸腔内圧の上昇が肺組織の弾性反動と組み合わさって、空気が肺から出る。
【0035】
横隔膜の収縮および胸腔の拡張ならびに横隔膜の拡張および胸腔の収縮による胸腔102の開放空間内の圧力すなわち胸腔内圧の変化によって、心臓114、心膜、大動脈および静脈等の胸腔内構造と関連付けられた圧力を含む胸腔内腔内の他の圧力が変化する。たとえば、右心房(RA)圧、右心室(RV)圧、左心室(LV)圧、大動脈(AO)圧等の心臓血管圧の変化は、胸腔内圧の変化の結果である。
【0036】
本明細書に開示の実施形態によれば、ADS療法送達メカニズムを通じた横隔膜刺激の制御送達によって胸腔内圧が操作され、胸腔内腔内の他の圧力が望ましく変化することにより心機能が向上する。適当にタイミング規定された刺激療法の横隔膜への送達により、1つまたは複数の心臓事象と同期またはほぼ同期して横隔膜の無症候性一過性部分的収縮が誘導され、心臓周期の特定の部分にADS療法が送達される。心臓事象に対するこれら無症候性一過性部分的収縮の発生のタイミング規定によって胸腔内圧が変化し、これによって、心臓、心膜、大動脈および静脈と関連付けられた圧力が上昇および/または降下するため、心臓の血行動態機能が向上する。
【0037】
本明細書で使用される、横隔膜の「一過性」収縮は、60~180msecの範囲、通常はおよそ100msec継続する横隔膜の短時間(単収縮)の尾部方向の運動とそれに続く頭部方向の運動である。横隔膜の「部分的」収縮は、「一過性」収縮を示す横隔膜の部分または領域(横隔膜の全体には及ばない)である。たとえば、
図2Cを参照して、横隔膜204の左半球上に配置されたADS療法送達メカニズム100を通じて送達された横隔膜刺激パルスは、左半球の全体よりも小さな部分202または左半球の一部の収縮をもたらす。
【0038】
胸腔内腔内の圧力(胸腔内圧それ自体を含む)および心臓血管圧等の他の圧力を示す信号がモニタリングされ、ADS療法を調整するためのフィードバックメカニズムとして用いられるようになっていてもよい。このため、ADS療法を規定する1つまたは複数のパラメータの変更により、心臓、心膜、大動脈および静脈と関連付けられた圧力の所望の上昇および/または降下を得るようにしてもよい。たとえば、電気的刺激療法の場合は、電気的刺激パルスが送達されるタイミング、パルス波形の種類、パルス振幅、パルス持続時間、およびパルス極性のうちの1つまたは複数が調整されるようになっていてもよいし、変更されるようになっていてもよい。
【0039】
また、心音等、胸腔内腔内の圧力を示す他の信号がモニタリングされ、ADS療法を調整するためのフィードバックメカニズムとして用いられるようになっていてもよい。たとえば、心臓事象の発生間のタイミングの決定に心音信号が用いられるようになっていてもよい。ADS療法を規定する1つまたは複数のパラメータの変更により、これらのタイミングの所望の延長および/または短縮を得るようにしてもよい。
【0040】
また、胸腔内腔内の圧力と関連しない他の信号がモニタリングされ、ADS療法を調整および最適化するためのフィードバックメカニズムとして用いられるようになっていてもよい。たとえば、変化すなわちパルス伝播時間の変化の血行動態的影響と関連した信号がモニタリングされるようになっていてもよい。一構成においては、R波(または、他のECG基準)と横隔膜に送達されたADSパルスとの間のさまざまな固定タイミング遅延に対して、R波(または、他のECG基準)からSpO2(プレチスモグラフ)信号のピークまたは最大一次導関数までの時間が測定されるようになっていてもよい。結果が傾向分析され、その傾向の特性すなわち極小値および極大値が臨床医によって、アルゴリズム的および/または視覚的に判断される。最良の設定は、R波(または、他のECG基準)からSpO2(プレチスモグラフ)信号の最大一次導関数までの最長時間と関連付けられたADS遅延設定であるが、これは、この患者にとって最良の心臓血管インピーダンス整合および後負荷の最適な減少を反映するためである。別の構成においては、プログラムされたADS遅延設定ごとに、Q点(または、他のECG基準)から最初の心音(S1)の僧帽弁成分までの時間が評価された後、最短のQ~S1と関連付けられた設定が患者にとって最良の設定と判定される。これは、心臓収縮機能が最も効率的となる最良の設定を反映するためである。
【0041】
ADS療法の機器およびシステム
上述の通り、ADS療法送達メカニズム100は、1)横隔膜刺激療法のみを送達する単体または複合体独立型IMDの一部、2)横隔膜刺激療法の他、CRM療法等の他の療法を提供する多重療法IMDの一部、または3)さまざまな患者の状態をモニタリング、診断、および処置する医療システムの一部であってもよい。
【0042】
複合体独立型埋め込み型医療機器
図3Aおよび
図3Bを参照して、ADS療法のみを送達する複合体独立型IMD300は、電子機器を収容する容器またはハウジング302と、リング電極330および螺旋電極332を備えたADS療法送達メカニズムを有する部分構造304(たとえば、リード)と、を具備する。リード304は、密閉された生体腔の一部を構成する生体膜の表面に埋め込まれるように構成されている。たとえば、
図1を参照して上述した通り、生体膜が横隔膜204であってもよく、密閉された生体腔が胸腔であってもよい。
図3Aにおいて、IMD300は、横隔膜204の下側に位置付けられている。
【0043】
リード304は、このリードの遠位端308にセンサアセンブリ306を具備する。センサアセンブリ306は、リードの遠位端308からリードの近位端316のコネクタ314まで延びたリード本体312に対して電気的に結合されたハウジング310(円筒形状であってもよい)を具備する。センサアセンブリ306は、センサ構造体322をさらに具備する。導電性ワイヤがリード本体312からハウジング310を通ってセンサとつながっている。
【0044】
センサ構造体322は、1つまたは複数のセンサ326、328を含む。センサは、たとえば心臓の電気的活動を検知するための電極326であってもよいし、運動センサ328(たとえば、心音を検知するための音響トランスデューサ)であってもよいし、心臓および/または横隔膜の機械的運動を検知するための加速度計であってもよい。電極326の場合、これらの電極は、平面電極であってもよいし、リング電極であってもよい。一構成において、センサ構造体322は、円周を有するリング330と、リングの円周で離隔した1つまたは複数の電極326と、場合により1つまたは複数の運動センサ328と、を具備する。別の構成においては、リング330の全体が単一の電極であってもよいし、別の電極がリング内に位置付けられていてもよい。
【0045】
センサアセンブリ306は、ハウジング310と関連付けられて、このセンサアセンブリを生体膜に固定するための1つまたは複数の固定構造体をさらに具備する。一実施形態において、固定構造体は、円筒状ハウジングの中心軸336に沿ってハウジング310から離れる方向に延びた突出構造体332であってもよい。たとえば、突出構造体332は、センサ構造体322の一部を構成するリング330の中心に位置付けられた螺旋状構造物の形態であってもよい。突出構造体332は、導電性材料で形成されていてもよく、また、センサアセンブリ306を生体膜(たとえば、横隔膜)に固定するための固定機器およびセンサアセンブリの付加的な電極の両者として機能するようになっていてもよい。
【0046】
別の実施形態において、固定構造体は、ハウジング310の外周を越えて延びた延長部材334であってもよい。このため、延長部材334は、ハウジング310の最大寸法(たとえば、直径)よりも大きな最大寸法(たとえば、直径)を有する。延長部材334は、センサアセンブリ306を囲むリングの形態であってもよい。以下にさらに説明する通り、延長部材334は、さまざまな方法で生体膜の表面に取り付けられ、センサアセンブリ306を適所に固定するように構成されていてもよい。
【0047】
さらに別の実施形態において、固定構造体は、突出構造体332および延長部材334の両者を含んでいてもよい。本実施形態において、延長部材334は、突出構造体332を囲み、それ自体と生体膜との間を封止する(突出構造体を囲む)ように構成されている。延長部材334は、突出構造体332が横隔膜に延入するエリアの周りのセンサアセンブリ306の接触表面積の全体サイズを大きくする大略平面状の構造体である。接触表面積は、横隔膜に接触するセンサアセンブリ306の表面積に対応する。センサアセンブリ306を埋め込んで時間が経つと、横隔膜がセンサアセンブリの存在に応答して、センサアセンブリと接着結合し得る。
【0048】
延長部材334は、センサアセンブリ306の適所への固定および/または横隔膜の表面との封止の促進に役立つ他の特徴を含んでいてもよい。たとえば、延長部材334は、センサアセンブリ306の適所への固定および突出構造体332が横隔膜に延入するエリアの周りでの横隔膜の表面との密封の両者を行う接着剤を含んでいてもよい。
【0049】
別の構成において、延長部材334は、センサアセンブリ306を適所に固定するとともに、突出構造体332が横隔膜に延入するエリアの周りでの横隔膜の表面との封止を促進するように構成された材料で形成されていてもよい。たとえば、延長部材334は、Dacronまたは他の繊維等、ポリエステル織物繊維で形成されたメッシュ材料であってもよい。メッシュ構造体334は、横隔膜に接触すると、横隔膜の表面の生体液を吸収して横隔膜に付着し、それ自体と横隔膜とを封止する。
【0050】
リードのコネクタ314は、センサアセンブリ306と関連付けられた電極326およびセンサ328の数に対応する数のコンタクト342を具備する。リード本体312は、近位端316のコンタクト342をセンサアセンブリ306のセンサ326、328と電気的に接続する導電体を具備する。
【0051】
単体独立型埋め込み型医療機器
図4Aおよび
図4Bを参照して、ADS療法のみを送達する単体独立型IMD400は、少なくとも2つの電極404、406が表面と密に関連付けられたハウジング402を具備する。単体IMD400は、密閉された生体腔の一部を構成する生体膜の表面に埋め込まれるように構成されている。たとえば、
図1を参照して上述した通り、生体膜が横隔膜204であってもよく、密閉された生体腔が胸腔であってもよい。
図4Aにおいて、IMD400は、横隔膜204の下側に位置付けられている。
【0052】
図4Bに示すIMD400は、細長ディスクの形状に形成されているが、たとえばチューブ等、他の形状因子を有していてもよい。リード無しIMD400は、長さがおよそ1.25インチ、幅がおよそ0.5インチ、厚さがおよそ0.125インチであってもよい。2つの電極404、406は、およそ1インチだけ離隔し、ハウジングの表面408上に位置付けられている。非導電性の生体適合性メッシュ410が表面408に固定されて、横隔膜204の表面領域に対するIMD400の解剖学的結合を促進していてもよい。
【0053】
多重療法埋め込み型医療機器
図5Aおよび
図5Bを参照して、CRM療法等の別の療法の一部としてADS療法を送達する多重療法IMD500は、電子コンポーネント502、1つまたは複数の心臓リード504、506、および横隔膜刺激リード508を具備する。1つまたは複数の心臓リード504、506は、ペースメーカ機能、除細動機能、または両者に対応する。心臓リード504、506はそれぞれ、鎖骨下静脈を通じて心臓に埋め込まれるように構成されている。たとえば、ペーシングリード506が右心房で終端となっていてもよく、一方、除細動器リード504が右心室に延入している。横隔膜刺激リード508は、ADS療法に対応して、
図3Bのリード304と同じ構成であってもよい。
【0054】
横隔膜刺激リード508のADS療法送達メカニズム100の部分は、鎖骨下ポケットの近くでアクセスする従来の開胸術によって横隔膜104の上側に埋め込まれていてもよいし、電子コンポーネント502の場所から胸骨と平行に、横隔膜の上側領域に達する剣状突起下の場所で腹腔鏡下開胸術が実行される胸骨下の場所に達するまで皮下トンネルを形成することにより、剣状突起下アプローチによって埋め込まれていてもよい。
【0055】
電子コンポーネント502は、標準的なペースメーカ埋め込み術に従って、鎖骨下胸部領域で外科的に形成されたポケットにおいて皮下に埋め込まれていてもよい。電子コンポーネント502は、心臓リード504、506のうちの1つまたは複数を通じて心臓114をペーシングするペーシングパルスを生成することと、心臓リード504を通じて心臓を除細動する除細動エネルギーパルスを生成することと、横隔膜刺激リード508を通じて横隔膜104を刺激する無症候性刺激パルスを生成することと、を行うように構成された電気的構成要素を含む。電子コンポーネント502および横隔膜刺激リード508は、心臓同期横隔膜刺激を目的とした心臓検知機能を実行するための電気的および機械電気的構成要素を含んでもよい。あるいは、ペースメーカの場合は、心臓リード504、506のうちの1つまたは複数が心臓同期横隔膜刺激を目的とした心臓検知機能を実行するようにしてもよい。
【0056】
医療機器システム
図6を参照して、ADS療法を提供する医療システム600は、埋め込み型マスターユニット602、少なくとも1つの埋め込み型スレーブユニット604、および外部ユニット606を具備する。マスターユニット602は、ADS療法の設定を決定するとともに、埋め込み型スレーブユニット604の動作を制御して、ADS療法を送達する。マスターユニット602は、センサ608と、ADS療法のモニタリングした影響に基づいて、ADS療法刺激パラメータおよび療法送達タイミングを修正するように構成されたメモリ格納アルゴリズム610と、を具備する。また、マスターユニット602のメモリ格納アルゴリズム610は、外部ユニット606(たとえば、プログラム装置およびユーザインターフェース)を用いたスレーブユニット604のADS療法の設定のプログラミングを可能にするように構成されている。
【0057】
スレーブユニット604は、横隔膜上に配置された1つまたは複数の刺激装置612(たとえば、電極)によるADSパルスの出力によって、ADS療法を送達する。スレーブユニット604は、搭載バッテリによる能動給電がなされていてもよいし、マスターユニット602または外部ユニット606による受動給電(たとえば、RF給電)がなされていてもよい。スレーブユニット604は、自己充電であってもよい。このため、スレーブユニット604は、横隔膜の運動をエネルギーに変換するように構成されていてもよい。
【0058】
スレーブユニット604は、1つまたは複数のセンサ614を具備していてもよいし、1つまたは複数のセンサ614に結合されていてもよい。これら1つまたは複数のセンサ614は、インピーダンス、ECG、EMG、心音、横隔膜の運動/強度、圧力(腹腔または胸腔)、歪みゲージ、温度、SpO2、およびPH等のさまざまな信号を提供するようにしてもよい。これらの信号は、プロセッサ616によりスレーブユニット604上で処理されるようになっていてもよいし、マスターユニット602に伝達されて処理されるようになっていてもよい。マスターユニット602は、療法の改善(ADSパルスパラメータおよび時間の調整、検知パラメータの調整)の他、診断(心不全の状態、横隔膜の健康)を目的として、信号を解析するようにしてもよい。また、スレーブユニット604は、診断を目的として、検知した信号を外部ユニット606に伝達するようにしてもよい。
【0059】
マスターユニット602およびスレーブユニット604のいずれかは、他の埋め込み型機器または外部機器と通信して、別の診断情報を集めるようにしてもよい。たとえば、埋め込み型マスターユニット602および埋め込み型スレーブユニット604は、肺動脈(PA)に埋め込まれた機器と通信して、PA圧力情報を収集するようにしてもよい。また、外部ユニット606は、「マスター」としての機能を制御することも可能である。すなわち、外部ユニット606は、ADS療法の設定を決定するとともに、埋め込み型スレーブユニット604または埋め込み型マスターユニット602の動作を制御して、ADS療法を送達することも可能である。
【0060】
ADS療法を伴う埋め込み型医療機器
図7は、ADS療法の送達によって、胸腔内腔内の圧力に影響を及ぼすように構成されたIMD700のブロック図である。IMD700は、コントローラ702、心臓事象源706、圧力測定源708、およびADS療法送達メカニズム100を具備しており、それぞれが有線接続または無線接続によって、コントローラとの相互作用のために結合されていてもよい。コントローラ702は、心臓信号モジュール728、圧力信号モジュール730、療法モジュール740、および他のさまざまなモジュールを具備する。
【0061】
心臓事象源706は、心臓事象を表す信号をコントローラ702に与えるように構成されている。たとえば、心臓事象源706は、横隔膜上またはその近傍に位置決めされて、心臓事象を表す電気信号を検知するとともに、信号をコントローラ702に与えるように構成された1つまたは複数の電極712、714であってもよい。あるいは、1つまたは複数の電極712、714は、胸腔内腔内の胸腔内構造(たとえば、心臓、心膜、大動脈および静脈)中、構造上、またはその隣に位置決めされるように構成されていてもよい。この場合、1つまたは複数の電極712、714は、コントローラ702から離れて埋め込まれるとともに、この電極により検知された信号を無線通信リンクによってコントローラに与えるように構成された機器と関連付けられていてもよい。
【0062】
また、心臓事象源706は、横隔膜上またはその近傍に位置決めされて、心臓の運動または心音を検知するとともに、このような運動を表す電気信号を出力するように構成された運動センサ716であってもよい。あるいは、運動センサ716は、胸腔内腔内の胸腔内構造(たとえば、心臓、心膜、大動脈および静脈)中、構造上、またはその隣に位置決めされるように構成されていてもよい。この場合、運動センサ716は、コントローラ702から離れて埋め込まれるとともに、この運動センサにより検知された信号を無線通信リンクによってコントローラに与えるように構成された機器と関連付けられていてもよい。いずれの場合も、運動センサ716は、たとえば心臓の動きと関連する信号を提供する加速度計(多軸(たとえば、3次元)加速度計等)であってもよいし、心音と関連する信号を提供する音響トランスデューサであってもよい。
【0063】
圧力測定源708は、胸腔内腔内の1つまたは複数の圧力を表す信号をコントローラ702に与えるように構成されている。「胸腔内腔内の圧力」は、胸腔内腔の開放空間で胸腔内の任意の胸腔内構造(たとえば、心臓、心膜、大動脈および静脈)の外側に配置された圧力センサによって直接得られる胸腔内圧を含み得る。また、「胸腔内腔内の圧力」は、たとえば胸腔内圧を示す尺度または胸腔内圧と相関する尺度を提供する胸腔内腔の外側に配置された加速度計によって間接的に得られる胸腔内圧の尺度を含み得る。また、「胸腔内腔内の圧力」は、心臓、心膜、大動脈および静脈等の胸腔内構造と関連付けられた圧力を含み得る。たとえば、これらの「胸腔内腔内の圧力」は、右心房圧、右心室圧、左心室圧、および大動脈圧を含み得る。
【0064】
圧力測定源708は、胸腔内腔の開放空間または胸腔内の胸腔内構造(たとえば、心臓、心膜、大動脈および静脈)中、構造上、またはその隣に位置決めされるとともに、圧力を表す電気信号を出力するように構成された1つまたは複数の圧力センサ718であってもよい。このため、1つまたは複数の圧力センサ718は、コントローラ702に直接結合されていてもよいし、あるいは、コントローラ702から離れて埋め込まれるとともに、この1つまたは複数の圧力センサにより検知された信号を無線通信リンクによってコントローラに与えるように構成された機器と関連付けられていてもよい。
【0065】
図1に示すように、IMD700が上側埋め込み場所122で患者の横隔膜の上側に埋め込まれている場合は、1つまたは複数の圧力センサ718とコントローラ702との間の直接結合が適当と考えられる。この場所に埋め込まれている場合、コントローラ702に直接結合された圧力センサ718は、胸腔102の開放空間に配置されることになる。
図1に示すように、IMD700が下側埋め込み場所120で患者の横隔膜の下側に埋め込まれている場合は、1つまたは複数の圧力センサ718とコントローラ702との間の遠隔結合が適当と考えられる。この場所に埋め込まれている場合、胸腔内腔において別個に埋め込まれるとともにコントローラ702に遠隔結合された1つまたは複数の圧力センサ718が圧力信号を提供するようにしてもよい。たとえば、圧力センサ718は、1)右心房の圧力信号を得るため右心房、2)右心室の圧力を得るため右心室、3)肺動脈の圧力を代わりに得るため右心室、または4)肺動脈それ自体に埋め込まれるように構成された機器に含まれていてもよい。
【0066】
また、圧力測定源708は、胸腔内圧を示す信号または胸腔内圧に相関する信号を提供するように構成された運動センサ720であってもよい。たとえば、運動センサ720は、横隔膜上またはその近傍に位置決めされて、横隔膜の運動を検知するとともに、このような運動を表す電気信号をコントローラ702へと出力するように構成された加速度計であってもよい。以下にさらに説明する通り、これらの電気信号の変動は、呼吸周期と関連付けられた胸腔内圧の変化に相関する。また、運動センサ720は、患者内に位置決めされて、心機能と関連付けられた音を検知するとともに、このような音を表す電気信号を出力するように構成された加速度計であってもよいし、音響トランスデューサであってもよい。これらの電気信号の変動は、呼吸周期と関連付けられた胸腔内圧の変化に相関する。あるいは、運動センサ720は、横隔膜中または横隔膜上に位置決めされ、横隔膜組織のインピーダンスまたはコンダクタンスを表す電気信号を出力するように構成された一対の電極の形態のインピーダンス/コンダクタンスセンサであってもよい。インピーダンスまたはコンダクタンスの変動は、横隔膜の拡張および収縮の変化に相関し、この変化は、呼吸周期と関連付けられた胸腔内圧の変化に相関する。
【0067】
ADS療法送達メカニズム100は、刺激を横隔膜に与えて、横隔膜の無症候性一過性部分的収縮をもたらすように構成されている。前述の通り、横隔膜の「一過性」収縮は、60~180msecの範囲、通常はおよそ100msec継続する横隔膜の短時間(単収縮)の尾部方向の運動とそれに続く頭部方向の運動である。横隔膜の「部分的」収縮は、「一過性」収縮を示す横隔膜の部分または一部(横隔膜の全体には及ばない)である。刺激は、呼吸に影響を及ぼさない横隔膜の部分的収縮を誘導する一組の刺激パラメータによって特徴付けられる。より具体的に、刺激は、横隔膜が吸気を誘導するレベルまで収縮しないように構成されている。ADS療法送達メカニズム100は、横隔膜上またはその近傍に位置決めされて、電気的刺激パルスを横隔膜に送達するように構成された1つまたは複数の電極722、724であってもよい。
【0068】
コントローラ702をより詳細に考えると、コントローラの心臓信号モジュール728は、心臓事象源706から信号を受信し、信号を処理して関心心臓事象を検出するように構成されている。たとえば、以下にさらに説明する通り、心臓信号モジュール728は、R波により表される心室脱分極等の電気的な心臓事象および2)S1心音により表される心室収縮等の機械的な心臓事象のうちの1つまたは複数を検出するように構成されていてもよい。検出された心臓事象に対応する情報が与えられると、療法モジュール740は、心臓事象情報を処理して、刺激療法の1つまたは複数のパラメータを決定または調整する。
【0069】
電気的な心臓事象に関して、心臓信号モジュール728は、電極712、714から電気信号を受信するとともに、これらの電気信号を処理して関心心臓事象を検出するように構成された心電(EGM)解析モジュール732を具備していてもよい。EGM解析モジュール732は、心臓の電気的活動信号(たとえば、EGM信号)を処理して、P波等の心房事象またはR波、QRS群、もしくはT波等の心室事象に対応する心臓事象を検出するように構成されていてもよい。
【0070】
機械的な心臓事象に関して、心臓信号モジュール728は、心臓の機械的な運動を解析するための心臓運動/心音解析モジュール734を具備していてもよい。心臓運動/心音解析モジュール734は、運動センサ716から信号を受信するとともに、関心心臓事象を検出するように構成されている。前述の通り、運動センサ716は、たとえば横隔膜運動および心音等の多様な機械的および音響的活動を検知するように構成された加速度計であってもよいし、音響トランスデューサであってもよい。加速度計により得られた心音信号は、心臓運動/心音解析モジュール734が処理して心臓事象を検出するようにしてもよい。
【0071】
コントローラ702の圧力信号モジュール730は、圧力測定源708から信号を受信し、関心圧力事象の検出または関心圧力尺度の導出を目的として、これらの信号を処理するように構成されている。たとえば、関心尺度に関して、圧力信号モジュール730は、圧力センサ718からの信号を処理して、異なる療法条件(たとえば、横隔膜刺激オンおよび横隔膜刺激オフ)または異なる刺激設定の下で圧力測定結果を判定するようにしてもよい。また、圧力信号モジュール730は、圧力センサ718からの信号を処理して、さまざまなタイミング(たとえば、刺激パルスの送達またはその近傍および特定の心臓事象の発生またはその近傍)での圧力測定結果を判定するようにしてもよい。関心事象に関して、圧力信号モジュール730は、運動センサ720からの信号を処理して、呼吸周期を検出するとともに、吸気終末等、周期内の1つまたは複数の関心事象を識別するようにしてもよい。検出された関心事象および関心尺度に対応する情報(圧力情報と総称する)が、療法モジュール740に与えられる。また、療法モジュール740は、圧力情報を処理して、刺激療法の1つまたは複数のパラメータの調整が必要であるかを判定する。
【0072】
圧力センサ718からの信号の処理に関して、圧力信号モジュール730は、胸腔内腔内の圧力を解析するための圧力測定モジュール736を具備していてもよい。圧力測定モジュール736は、圧力センサ718から信号を受信するように構成されている。上述の通り、圧力センサ718は、胸腔内腔の開放空間で胸腔内の任意の胸腔内構造(たとえば、心臓、心膜、大動脈および静脈)の外側に配置されることにより、胸腔内圧を表す信号を提供するように構成されていてもよい。あるいは、圧力センサ718は、胸腔内の胸腔内構造(たとえば、心臓、心膜、大動脈および静脈)中、構造上、またはその隣に配置されるように構成されていてもよい。たとえば、圧力センサ718は、右心房、右心室、左心室、大動脈、および肺動脈のうちの1つの中、その上、またはその隣に配置されることにより、右心房圧、右心室圧、左心室圧、大動脈圧、または肺動脈圧を示す対応する信号を提供するように構成されていてもよい。
【0073】
圧力測定モジュール736は、圧力センサ718から得られた信号を処理して、関心圧力尺度を導出するようにさらに構成されている。圧力測定結果は、療法モジュール740に与えられ、さらなる処理によって、より望ましい結果を与えるように刺激療法を改善可能であるかが判定される。たとえば、胸腔内圧の最良の尺度を提供する一組の刺激パラメータを決定するため、異なる一組の刺激パラメータ値によりそれぞれ規定された異なる刺激療法に対して、胸腔内圧の異なる尺度が得られるようにしてもよい。別の例においては、胸腔内圧の尺度が所定の閾値と比較され、この閾値の取得または少なくとも接近のために1つまたは複数の刺激パラメータを調整すべきかが判定されるようになっていてもよい。
【0074】
運動センサ720からの信号の処理に関して、圧力信号モジュール730は、横隔膜の運動および心臓と関連付けられた音のうちの1つまたは複数を解析するための横隔膜運動心音解析モジュール738を具備していてもよい。横隔膜運動心音解析モジュール738は、運動センサ720から信号を受信するとともに、関心圧力事象を検出するように構成されている。上述の通り、運動センサ720は、横隔膜上またはその近傍に位置決めされて、横隔膜の運動を検知するように構成された加速度計であってもよい。また、運動センサ720は、患者内に位置決めされて、心機能と関連付けられた音を検知するとともに、このような音を表す電気信号を出力するように構成された加速度計であってもよいし、音響トランスデューサであってもよい。あるいは、運動センサ720は、横隔膜中または横隔膜上に位置決めされるように構成された一対の電極の形態のインピーダンス/コンダクタンスセンサであってもよい。
【0075】
療法モジュール740に関して、これは、心臓事象解析モジュール742、圧力解析モジュール744、およびパルス発生器746を具備する。パルス発生器746は、刺激療法をADS療法送達メカニズム100に出力するように構成されている。刺激療法は、電気的刺激の形態であってもよく、この場合は、電極722、724を通じて送達されるようになっていてもよい。
【0076】
パルス発生器746により出力された刺激療法は、1つまたは複数の刺激パラメータにより規定されている。電気的刺激の場合、パラメータは、1)横隔膜の一過性部分的収縮を誘導する刺激パルスを規定するように選択された値または設定を有する1つまたは複数のパルスパラメータと、2)1つまたは複数の刺激パルスの送達のタイミングを制御するタイミングパラメータと、を含んでいてもよい。パルスパラメータは、たとえばパルス波形の種類、パルス振幅、パルス持続時間、およびパルス極性を含んでいてもよい。タイミングパラメータは、検出された心臓事象と電気的刺激パルスの送達との間の時間を規定する1つまたは複数のオフセット期間または遅延期間を含んでいてもよい。
【0077】
刺激パラメータのうちの1つまたは複数(タイミングパラメータおよびパルスパラメータを含む)が療法モジュール740により調整されるようになっていてもよい。タイミングパラメータに関しては、前述の通り、患者の心拍の変化に応答して電気的刺激の比率が調整されるようになっていてもよい。したがって、電気的刺激パルスの送達率は、たとえば30パルス/分(ppm)~180ppmの範囲であってもよく、通常の比率は60ppm前後である。同様に、検出された心臓事象間の時間間隔の移動平均に基づいて、検出された心臓事象と電気的刺激パルスの送達との間の遅延期間が調整されるようになっていてもよい。パルスパラメータに関して、パルス振幅は、0.0ボルト~7.5ボルトの値に設定されていてもよく、パルス幅は、0.0ミリ秒~1.5ミリ秒の値に設定されていてもよい。振幅は、たとえば0.1~0.5ボルト単位で調整されるようになっていてもよく、パルス幅は、0.1~1.5ミリ秒単位で調整されるようになっていてもよい。極性は、正の極性と負の極性との間で変化するようになっていてもよく、波形の種類は、単相性から二相性へと変化するようになっていてもよいし、矩形波から三角波、正弦波、または鋸歯状波へと変化するようになっていてもよい。
【0078】
心臓事象解析モジュール742は、心臓信号モジュール728から心臓事象情報を受信するとともに、この情報を処理してタイミングパラメータを決定するように構成されている。このため、一構成において、心臓事象解析モジュール742は、検出された心臓事象に対して、刺激パルスを横隔膜に送達するタイミングを決定する。決定するタイミング(遅延期間と称する)は、次に予想される心臓事象の発生の直前に刺激パルスが送達されるように選択され得る。
【0079】
オフセット期間または遅延期間は、連続して検出された心臓事象間の時間に基づいていてもよい。たとえば、心臓信号モジュール728のEGM解析モジュール732は、心室事象(たとえば、R波)を検出するとともに、このような検出を療法モジュール740に出力するように構成されていてもよい。心臓事象解析モジュール742は、検出された心室事象を処理して、多数対の連続した心室事象間の時間の統計的尺度を決定するようにしてもよい。その後、心臓事象解析モジュール742は、統計的尺度に基づいて1つまたは複数のオフセット期間または遅延期間を決定するとともに、決定したオフセット期間または遅延期間に基づいて刺激パルスを出力するように、パルス発生器746を制御するようにしてもよい。
【0080】
療法モジュール740の圧力解析モジュール744は、圧力信号モジュール730から、関心尺度(たとえば、圧力測定結果)および関心事象(たとえば、呼吸周期の吸気終末)のうちの1つまたは複数を含む圧力情報を受信するように構成されている。圧力解析モジュール744は、受信した圧力情報を処理して、刺激パラメータの調整が必要であるかを判定するようにさらに構成されていてもよい。
【0081】
一構成において、圧力解析モジュール744は、関心尺度に対応する圧力情報を受信するようにしてもよく、また、基本関心尺度に対して、関心尺度を評価するようにしてもよい。たとえば、受信された関心尺度は、基準点における胸腔内圧、RA圧、RV圧、Ao圧、またはLV圧の尺度であってもよい。圧力解析モジュール744は、受信した関心尺度を基本尺度に対して比較することにより、比較結果が許容範囲内であるかを判定するようにしてもよい。比較結果が許容範囲内でない場合、療法モジュール740は、将来の刺激療法に向けて1つまたは複数の刺激パラメータを調整することにより、最終的に許容範囲の結果となる刺激療法に到達し得る。
【0082】
別の構成において、圧力解析モジュール744は、関心圧力事象の発生に対応する圧力情報を受信するようにしてもよい。関心圧力事象は、たとえば患者の呼吸周期に関連していてもよく、また、呼吸周期内の吸気終末点であってもよい。このような圧力情報の受信に応答して、圧力解析モジュール744は、刺激療法を保留するか、1つまたは複数の刺激パラメータを変更するかを判定するようにしてもよい。
【0083】
コントローラ702は、メモリサブシステム748を具備する。メモリサブシステム748は、心臓信号モジュール728および圧力信号モジュール730に結合され、検知されたEGM、検知された胸腔内圧、心音、および検知された心臓血管圧(たとえば、右心室圧、左心室圧、右心房圧、および大動脈圧)を表すデータを受信して格納するようにしてもよい。また、メモリサブシステム748は、療法モジュール740に結合され、送達された刺激療法(それぞれと関連する複数組の刺激パラメータおよび送達タイミング)を表すデータを受信して格納するようにしてもよい。
【0084】
また、コントローラ702は、このコントローラと他の構成要素との間の通信を可能にする通信サブシステム750を具備する。これら他の構成要素は、胸腔内腔内の別個に埋め込まれた圧力センサ等、IMD700の一部を構成していてもよく、IMDのプログラムのために医師が使用する外部プログラム装置等、IMDと別個であってもよい。通信サブシステム750は、誘導結合による外部装置との信号の送受信を可能にするテレメトリコイルを具備していてもよい。通信サブシステム750の代替実施形態では、刺激を与えるIMDの電極を検知することにより検出されるRFリンクすなわち筋肉の活動も神経の活動も誘発しないセンサが放出する一連の低振幅高周波電気パルス用のアンテナを使用することも可能である。また、コントローラ702は、このコントローラの各モジュールに必要な電圧および電流を供給する電源752と、任意のクロックおよびタイミング信号をモジュールに供給するクロック源754と、を具備する。
【0085】
IMD700の物理的構造に関して、IMDに関する上記機能説明では、心臓事象源706およびADS療法送達メカニズム100とそれぞれ関連付けられた別個の複数対の電極712、714および722、724を記載しているが、IMDの構成は、二重機能を実行するように構成された単一対の電極を含んでいてもよい。すなわち、IMD700は、心臓の電気的活動の検知および電気的刺激の送達の両者を行うように構成された単一対の電極を具備していてもよい。この構成において、コントローラ702は、心臓事象源706とADS療法送達メカニズム100との間で電極の接続を必要に応じて切り替えるように構成された電極インターフェースを具備していてもよい。また、電極インターフェースは、他の特徴、能力、または態様を提供するものであってもよく、電極と横隔膜組織との間の適正なインターフェースに必要となる増幅、絶縁、および電荷平衡機能が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
同様に、心臓事象源706および圧力測定源708に関して言及した別個の運動センサ716、720の各機能は、これらの異なる心臓事象源および圧力測定源が共有する単一の運動センサにより提供されていてもよい。この構成において、コントローラ702は、心臓事象源706と圧力測定源708との間で単一のセンサの接続を必要に応じて切り替えるように構成されたセンサインターフェースを具備していてもよい。また、センサインターフェースは、他の特徴、能力、または態様を提供するものであってもよく、センサと横隔膜組織との間の適正なインターフェースに必要となる増幅、絶縁が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
IMD700の心臓信号モジュール728、圧力信号モジュール730、および療法モジュール740は、各モジュールと関連付けられたメモリに格納されたコンピュータ実行可能命令にアクセスして実行するように構成された1つまたは複数のプロセッサを具備するか、または、このような1つまたは複数のプロセッサと関連付けられている。1つまたは複数のプロセッサは、すべてのモジュール728、730、740に対する命令を実行するコントローラ702の中央演算処理装置を含んでいてもよい。あるいは、さまざまなモジュール728、730、740がそれぞれ、専用のプロセッサを有していてもよい。1つまたは複数のプロセッサが実行する命令は、メモリサブシステム748に格納されていてもよいし、コントローラ702の1つまたは複数の付加的なメモリコンポーネント(図示せず)に格納されていてもよい。
【0088】
コントローラ702の1つまたは複数のプロセッサは、必要に応じて、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせにて実装されていてもよい。コントローラ702の1つまたは複数のプロセッサのソフトウェアまたはファームウェア実装は、本明細書に記載のさまざまな機能を実行するように任意好適なプログラミング言語で記述されたコンピュータ実行可能命令または機械実行可能命令を含んでいてもよい。コントローラ702の1つまたは複数のプロセッサとしては、中央演算処理装置(CPU)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、縮小命令セットコンピュータ(RISC)プロセッサ、複数命令セットコンピュータ(CISC)プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、システムオンチップ(SOC)、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられ得るが、これらに限定されない。また、IMD700は、コントローラ702の1つまたは複数のプロセッサとIMD700のその他の構成要素のうちの1つまたは複数との間の通信を制御するためのチップセット(図示せず)を具備していてもよい。また、コントローラ702の1つまたは複数のプロセッサは、特定のデータ処理機能またはタスクを取り扱うための1つまたは複数の特定用途向け集積回路(ASIC)または特定用途向け標準製品(ASSP)を含んでいてもよい。
【0089】
IMD700のメモリサブシステム748およびその他任意のメモリコンポーネントとしては、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フラッシュRAM、磁気媒体ストレージ、光媒体ストレージ等が挙げられ得るが、これらに限定されない。メモリサブシステム748および他のメモリコンポーネントは、給電されている場合に情報を格納するように構成された揮発性メモリおよび/または給電されていない場合であっても情報を格納するように構成された不揮発性メモリを含んでいてもよい。メモリサブシステム748および他のメモリコンポーネントは、コントローラ702の1つまたは複数のプロセッサによる実行によって、さまざまな動作を実行させ得るコンピュータ実行可能命令を含み得るさまざまなプログラムモジュール、アプリケーションプログラム等を格納していてもよい。メモリサブシステム748および他のメモリコンポーネントは、コントローラ702のさまざまなモジュール728、730、740によるコンピュータ実行可能命令の実行中に操作および/または生成がなされる多様なデータをさらに格納していてもよい。
【0090】
上述の通り、IMD700は、任意好適な通信規格の使用によってIMD700と1つまたは複数の他の機器との間の通信を容易化し得る通信サブシステム750をさらに具備していてもよい。たとえば、LANインターフェースは、IEEE 802.11等の電気電子技術者協会(IEEE)のさまざまな通信規格に準拠したプロトコルおよび/またはアルゴリズムを実装していてもよい。一方、セルラーネットワークインターフェースは、3Gおよび4G(ロングタームエボリューション)等の第3世代パートナーシッププロジェクト(3GPP)および3GPP2ならびに5G等の次世代モバイルネットワーク(NGMN)アライアンスのさまざまな通信規格に準拠したプロトコルおよび/またはアルゴリズムを実装していてもよい。
【0091】
メモリサブシステム748および他のメモリコンポーネントは、コントローラ702のさまざまなモジュール728、730、740と関連付けられた1つまたは複数のプロセッサによる実行によって、上述するとともに以下にさらに説明する通り、これらのモジュールのさまざまな動作を実行させ得るコンピュータ実行可能命令を含み得るさまざまなプログラムモジュール、アルゴリズム等を格納していてもよい。このため、メモリサブシステム748および他のメモリコンポーネントは、1)心臓信号モジュール728のEGM解析および心臓運動解析動作、2)圧力信号モジュール730の圧力測定および横隔膜運動/心音解析動作、ならびに3)療法モジュール740の心臓事象解析、圧力解析、およびEMG解析をプロセッサに実行させ得るコンピュータ実行可能命令を格納する。
【0092】
また、メモリサブシステム748および他のメモリコンポーネントは、1)以下にさらに開示する二重パルスADS療法、2)以下にさらに開示する対パルスADS療法、3)以下にさらに開示する多重パルスADS療法、ならびに4)以下にさらに開示するEGMモニタリングおよび健康評価それぞれと関連付けられた信号処理、解析、およびADS療法の送達を、療法モジュール740と関連付けられたプロセッサに実行させ得るコンピュータ実行可能命令を格納する。
【0093】
コントローラ702のさまざまなモジュール728、730、740は、ハードウェアまたはハードウェアプラットフォーム上で実行されるソフトウェアにて実装されていてもよい。ハードウェアまたはハードウェアプラットフォームは、汎用プロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)もしくは他のプログラム可能な論理コンポーネント、ディスクリートゲートもしくはトランジスタロジック、ディスクリートハードウェアコンポーネント、またはこれらの任意の組み合わせ、あるいは本明細書に記載の機能を実行するように設計されたその他任意の好適なコンポーネントであってもよい。汎用プロセッサは、マイクロプロセッサであってもよいが、その代替として、如何なる従来型プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、または状態機械であってもよい。また、プロセッサは、コンピュータコンポーネントの組み合わせ(たとえば、DSPとマイクロプロセッサとの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサ、DSPと併せた1つもしくは複数のマイクロプロセッサ、またはこのようなその他任意の構成)として実装されていてもよい。
【0094】
ソフトウェアは、ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア、マイクロコード、ハードウェア記述言語等と称するかに関わらず、命令、命令セット、コード、コードセグメント、プログラムコード、プログラム、サブプログラム、ソフトウェアモジュール、アプリケーション、ソフトウェアアプリケーション、ソフトウェアパッケージ、ルーチン、サブルーチン、オブジェクト、実行可能ファイル、実行スレッド、手続き、機能等を意味するように広く解釈されるものとする。ソフトウェアは、コンピュータ可読媒体上に存在していてもよい。コンピュータ可読媒体は、一例として、スマートカード、フラッシュメモリデバイス(たとえば、カード、スティック、キードライブ)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、プログラム可能ROM(PROM)、消去可能PROM(EPROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、汎用レジスタ、またはソフトウェアを格納するのに適したその他任意の非一過性媒体を含んでいてもよい。
【0095】
ADS療法アルゴリズム
以上、IMD700の構造上の構成要素およびそれぞれの機能について説明したので、次は、IMDが実装する複数のADS療法アルゴリズムについて説明する。
【0096】
あるアルゴリズムは、心臓周期当たりに単一の刺激パルスが横隔膜に送達されるADS療法に関する。別のアルゴリズムは、心臓周期当たりに二重の刺激パルス(心臓周期の拡張フェーズ中に一方、収縮フェーズ中に他方)が横隔膜に送達されるADS療法に関する。別のアルゴリズムは、一対の近接した刺激パルスの送達によって、特定の方向(たとえば、頭部方向または尾部方向)における横隔膜の動きの持続時間を制御するADS療法に関する。さらに別のアルゴリズムは、心拍に基づく心臓周期の特定周波数での複数の刺激パルスの横隔膜への送達によって、横隔膜の永久的かつ部分的な機械的変調をもたらすADS療法に関する。
【0097】
単一パルスADS療法
心臓周期当たりに単一のADSパルスを送達するADS療法については、たとえば米国特許第10,315,035号「Hemodynamic Performance Enhancement Through Asymptomatic Diaphragm Stimulation」および米国特許第10,335,592号「Systems, Devices, and Methods for Improving Hemodynamic Performance Through Asymptomatic Diaphragm Stimulation」に開示されている。
【0098】
二重パルスADS療法
二重パルスADS療法は、心臓周期当たりに複数(たとえば、2つ)の無症候性刺激パルスが横隔膜に送達される療法である。このADS療法の結果、横隔膜の一過性部分的収縮が心臓周期当たりに複数回生じ、患者の血行動態を補助する前負荷および後負荷の最適化に最も適した胸腔内圧の変調となる。前述の通り、横隔膜の「一過性」収縮は、60~180msecの範囲で継続し、通常はおよそ100msecである横隔膜の短時間(単収縮)の尾部方向の運動とそれに続く頭部方向の運動である。横隔膜の「部分的」収縮は、「一過性」収縮を示す横隔膜の部分(横隔膜の全体には及ばない)である。
【0099】
図8Aおよび
図8Bを参照して、一実施形態においては、心臓周期806当たりに少なくとも2つの横隔膜刺激パルス802、804が送達される。各刺激パルス802、804の送達は、一方の刺激パルス802が心臓周期806の拡張期(前負荷効果)の後半に送達され、他方の刺激パルス804が心臓周期の収縮期(後負荷効果)の前半に送達されるように、心臓事象に対して同期される。
図8Bに示すように、これらの刺激パルス802、804はそれぞれ、横隔膜の対応する一過性部分的収縮808、809をもたらすが、これらはそれぞれ、尾部方向の動きと、それに続く、頭部方向の動きとを含む。
【0100】
図8Aを参照して、「拡張期の後半」は、心房充填ウィンドウ(P波と後続のQ点との間)であってもよく、対応する刺激パルス802は、P波よりもQ点に近く送達されるのが好ましい。「収縮期の前半」は、収縮期出力(S1心音と後続のS2心音との間)であってもよく、対応する刺激パルス804は、S1心音の僧帽弁成分後のおよそ50~100msecのオフセットで送達されるのが好ましい。
【0101】
2つの横隔膜刺激パルス802、804のトリガは、検知された有効な心臓事象の発生に対してタイミング規定されていてもよい。一実施形態において、2つの横隔膜刺激パルス802、804それぞれの送達は、検知された同じ心臓事象の発生によってトリガされる。別の実施形態において、2つの横隔膜刺激パルス802、804の一方は、検知された有効な心臓事象の発生によってトリガされ、2つの横隔膜刺激パルス802、804の他方は、もう一方の横隔膜刺激パルスをトリガしたものとは異なる別の検知された心臓事象の発生によってトリガされる。
【0102】
有効な心臓事象は、有効な心室事象(V事象)であってもよいし、有効な心房事象(A事象)であってもよい。検知された有効な心臓事象の発生は、電気的な心臓事象に対応していてもよいし、機械的な心臓事象に対応していてもよい。電気的な心臓事象は、P波、QRS群、QRS群のQ点、R波、QRS群のS点、またはT波等、ECGの特徴であってもよい。機械的な心臓事象は、S1心音であってもよいし、S2心音であってもよいし、S3音であってもよいし、S4心音であってもよい。
【0103】
有効なV事象は、IMDによって電気的または機械的に検知された心室の電気的または機械的な事象であってもよい。一構成において、有効な電気的V事象は、房室(AV)結節を通じた正常な電気伝導の結果としての心室の内因性脱分極であってもよい。心電(ECG)に関する専門用語において、このように有効な電気的V事象は、正常なR波であってもよいし、正常なQRS群であってもよいし、正常なT波であってもよい。別の構成において、有効な電気的V事象は、心室に送達され、IMDにより検知される心室ペーシング刺激であってもよい。さらに別の構成において、有効な電気的V事象は、IMDにより検知される心室の誘発性応答であってもよい。この点、誘発性心室事象は、心室ペーシング刺激の送達の結果としての心室の電気的脱分極に対応する。
【0104】
内因性であるか誘発性であるかに関わらず、心室の物理的な収縮が心室脱分極と関連付けられる。したがって、内因性心室脱分極および誘発性心室脱分極はそれぞれ、たとえばS1心音またはS2心音の形態にて、機械的センサにより検知されるようになっていてもよい。場合により、IMDは、V事象が異常な心臓発作と関連付けられる場合、本来なら有効なV事象であるものを無効なV事象と見なすようにプログラムされていてもよい。たとえば、心室細動の発生中に本来有効なV事象が発生し、または本来有効なV事象の後に心室早期収縮が続く場合、IMDは、横隔膜刺激の送達を目的として、このV事象を無効と見なすようにしてもよい。
【0105】
有効なA事象は、IMDによって電気的または機械的に検知された心房の電気的な事象であってもよい。一構成において、有効な電気的A事象は、洞房(SA)結節を起点とする心房の内因性脱分極であってもよい。ECGに関する専門用語において、このように有効な電気的A事象は、正常なP波であってもよい。別の構成において、有効な電気的A事象は、心房に送達され、IMDにより検知される心房ペーシング刺激であってもよい。さらに別の構成において、有効な電気的A事象は、IMDにより検知される心房の誘発性応答であってもよい。この点、誘発性心房事象は、心房ペーシング刺激の送達の結果としての心房の電気的脱分極に対応する。
【0106】
内因性であるか誘発性であるかに関わらず、心房の物理的な収縮が心房脱分極と関連付けられる。したがって、内因性心房脱分極および誘発性心房脱分極はそれぞれ、たとえばS4心音の形態にて、機械的センサにより検知されるようになっていてもよい。場合により、IMDは、A事象が異常な心臓発作と関連付けられる場合、本来なら有効なA事象であるものを無効なA事象と見なすようにプログラムされていてもよい。たとえば、心房頻拍、心房細動、または心房粗動の発生中に本来有効なA事象が発生した場合、IMDは、横隔膜刺激の送達を目的として、このA事象を無効と見なすようにしてもよい。
【0107】
図8Aを参照して、2つの横隔膜刺激パルス802、804のトリガは、一方の刺激パルス802が拡張期後半パルスに対して計算されたR波からの負のオフセットに従って送達され、他方の刺激パルス804が収縮期前半の部分となるように計算された正のオフセットに従って送達されるように、検知された同じ内因性R波の発生に対してタイミング規定されている。この計算としては、臨床医が決定およびプログラムした値も可能であるし、ECGおよび/または心音信号の基準点間の時間間隔に基づいてIMD700により実行された実際の計算も可能である。
【0108】
IMD700により実行される計算に関して、横隔膜刺激パルス802、804の送達のタイミングは、本明細書に開示の実施形態に従って、多くの心臓周期806にわたって発生する心臓事象の発生の検知に基づいて決定されるようになっていてもよい。たとえば、多くの心臓周期806にわたるVV間隔810の測定によって、平均VV間隔を求めるようにしてもよい。IMD700は、この平均VV間隔に基づいて、第1の横隔膜刺激パルス802が心臓事象816に対して送達されるタイミングを規定する第1のオフセット期間812と、第2の横隔膜刺激パルス804が心臓事象816に対して送達されるタイミングを規定する第2のオフセット期間814と、を含む一組のオフセット期間を計算するようにしてもよい。第1のオフセット期間812は、心臓事象816に対する負のオフセットにより特徴付けられ、心臓事象の前に発生するという点で「前半」または「先行」刺激と表され得る。第2のオフセット期間814は、心臓事象816に対する正のオフセットにより特徴付けられ、心臓事象の後に発生するという点で「後半」刺激と表され得る。
【0109】
第1のオフセット期間812の値は、第1の刺激パルス802が拡張期後半に送達されるように選択される。このため、IMD700は、他の心臓事象の発生を検知して、このような配置となる値を決定するようにしてもよい。たとえば、
図8Aを参照して、IMD700は、R波816の検知と同じ数の心臓周期806にわたってP波821およびQ点822を検知するようにしてもよい。IMD700は、多くの心臓周期806にわたるP波821とR波816およびQ点822とR波との間の各タイミング差に基づいて、R波816に先立つP波821とQ点822との間のどこかに第1の刺激パルス802の送達を配置する第1のオフセット期間812を計算するようにしてもよい。一実施形態において、第1の刺激パルス802は、P波821よりもQ点822に近くなるように配置される。
【0110】
第2のオフセット期間814の値は、第2の刺激パルス804が収縮期前半に送達されるように選択される。このため、IMD700は、他の心臓事象の発生を検知して、このような配置となる値を決定するようにしてもよい。たとえば、
図8Aを参照して、IMD700は、R波816の検知と同じ数の心臓周期806にわたってS1心音824およびT波826を検知するようにしてもよい。IMD700は、多くの心臓周期806にわたるS1心音824とR波816およびT波826とR波との間の各タイミング差に基づいて、R波816の後のS1心音824とT波826との間のどこかに第2の刺激パルス804の送達を配置する第2のオフセット期間814を計算するようにしてもよい。一実施形態において、第2の刺激パルス804は、T波826よりもS1心音824に近くなるように配置される。
【0111】
前半刺激802に関して、この刺激の送達は、検知された過去の心臓事象818の発生によりトリガされる。言い換えると、心臓事象818の検出に際して、横隔膜刺激パルス802は、このような検出から、このパルスを拡張期後半に配置する遅延期間820の後に送達される。このため、IMD700は、VV間隔810と第1のオフセット期間812との間の差として、遅延期間820を計算するようにしてもよい。
【0112】
上記説明は、同じ心臓事象(たとえば、R波)の検出に基づいてそれぞれが拡張期および収縮期中に発生するようにタイミング規定された二重刺激パルス802、804の送達に焦点を当てているが、これらの刺激パルスの送達は、他の心臓事象の検出に基づいて拡張期および収縮期中に発生するようにタイミング規定されていてもよい。
【0113】
場合によっては、発生がECGのP波と大略一致する受動的な左心室充填のオフセットまたは心房充填のオンセット等の特定の拡張期心臓事象に基づいて、横隔膜を模擬するのが望ましいと考えられる。このため、IMD700は、多くの心臓周期806にわたってP波821と後続のQ点822との間の時間をモニタリングし、刺激パルス802の送達をP波821の後かつ後続のQ点822の前に配置するP波からのオフセットを計算するようにしてもよい。このオフセットが決定されると、IMD700によるこれら拡張期心臓事象の後続の検出によって、拡張期後半における刺激パルス802の送達がトリガされ得る。
【0114】
場合によっては、1)発生がECGのQ点822と大略一致する電気的収縮期のオンセットまたは心房充填のオフセット、2)発生がECGのT波826と大略一致する電気的収縮期のオフセット、3)発生がS1心音824と大略一致する機械的収縮期のオンセット、4)発生がS2心音828と大略一致する機械的収縮期のオフセットまたは受動的な左心室充填のオンセット、5)発生がS1心音824の僧帽弁成分と大略一致する左心室収縮期出力のオンセット、6)発生がS2心音828の大動脈弁成分と大略一致する左心室収縮期出力のオフセット、7)発生がS1心音824の三尖弁成分と大略一致する右心室収縮期出力のオンセット、8)発生がS2心音828の肺動脈弁成分と大略一致する右心室収縮期出力のオフセット等の特定の収縮期心臓事象に基づいて、横隔膜を模擬するのが望ましいと考えられる。
【0115】
このため、IMD700は、多くの心臓周期806にわたってQ点822およびS1心音824の一方と後続のT波826およびS2心音828の一方との間の時間をモニタリングし、刺激パルス804の送達をQ点の後かつT波の前またはS1心音の後かつS2心音の前に配置するQ点822またはS1心音824からのオフセットを計算するようにしてもよい。このオフセットが決定されると、IMD700によるこれら収縮期心臓事象の後続の検出によって、収縮期前半における刺激パルス804の送達がトリガされ得る。
【0116】
図8Bに示すように、第1のADSパルス802および第2のADSパルス804の相対的なタイミングは、横隔膜の2つの別個の異なる一過性部分的収縮808、809となる。これらの部分的収縮808、809はそれぞれ、尾部方向の動きに対応する尾部フェーズ830と、それに続く、頭部方向の動きに対応する頭部フェーズ832と、を含む。
【0117】
図9は、心臓周期当たり二重のADSパルスの送達によって、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす方法のフローチャートである。この方法は、
図7のIMD700により実行されるようになっていてもよいし、類似の装置またはシステムにより実行されるようになっていてもよい。たとえば、この方法は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極722、724と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラ702と、を有する装置により実行されるようになっていてもよい。コントローラ702は、たとえばメモリに格納された実行可能プログラム命令によって、
図9を参照しつつ後述する方法を実行するように構成されている。
【0118】
ブロック902においては、
図8Aおよび
図8Bも参照して、患者の心臓周期806の拡張フェーズ中に、拡張期刺激パルス802が患者の横隔膜に送達される。拡張期刺激パルス802は、心臓周期806の拡張フェーズ842中に、横隔膜の無症候性一過性部分的収縮840をもたらす。
【0119】
拡張期刺激パルス802の送達は、心臓事象に対してタイミング規定されていてもよい。このため、第1の心臓事象818の発生が検出され、この検出された第1の心臓事象からの拡張期オフセット期間820の最後またはその近傍に拡張期刺激パルス802が送達される。拡張期オフセット期間820は、拡張期刺激パルス802の送達を心臓周期806の拡張期の後半に配置する。
【0120】
拡張期オフセット期間820は、複数の心臓周期にわたって、a)第1の心臓事象818、b)心房事象821(たとえば、検出P波)のオンセットおよび第1の心室事象821(たとえば、同じく検出P波)のオフセットの一方、ならびにc)心房事象のオンセットおよび第1の心室事象のオンセットに続く第2の心室事象822、824のオンセットの発生時間を検出することにより決定されるようになっていてもよい。第2の心室事象のオンセットは、QRS群中の検出Q点822または検出S1心音824に対応していてもよい。各発生時間の処理により、第1の心臓事象818からa)心房事象821のオンセットまたは第1の心室事象821のオフセットとb)心房事象のオンセットおよび第1の心室事象のオンセットに続く第2の心室事象822、824のオンセットとの間の時間までの期間を計算する。計算した期間は、拡張期オフセット期間820に対応する。
【0121】
ブロック904においては、心臓周期806の収縮フェーズ中に、収縮期刺激パルス804が横隔膜に送達される。収縮期刺激パルス804は、心臓周期806の収縮フェーズ846中に、横隔膜の無症候性一過性部分的収縮844をもたらす。
【0122】
また、収縮期刺激パルス804の送達は、心臓事象に対してタイミング規定されていてもよい。このため、第2の心臓事象816の発生が検出され、この検出された第2の心臓事象826からの収縮期オフセット期間814の最後またはその近傍に収縮期刺激パルス804が送達される。収縮期オフセット期間814は、収縮期刺激パルス804の送達を心臓周期806の収縮期の前半に配置する。
【0123】
収縮期オフセット期間814は、複数の心臓周期にわたって、a)第2の心臓事象816、b)電気的収縮期822のオンセット(たとえば、検出Q点)および機械的収縮期824のオンセット(たとえば、検出S1心音)の一方、ならびにc)電気的収縮期826(たとえば、検出T波)のオフセットおよび機械的収縮期828(たとえば、検出S2心音)のオフセットの一方の発生時間を検出することにより決定されるようになっていてもよい。各発生時間の処理により、第2の心臓事象816からa)電気的収縮期822のオンセットまたは機械的収縮期824のオンセットとb)電気的収縮期826のオフセットまたは機械的収縮期828のオフセットとの間の時間までの期間を計算する。計算した期間は、収縮期オフセット期間814に対応する。
【0124】
上記説明においては、収縮期刺激パルス804の送達をトリガする
図8A中の第2の心臓事象816が拡張期刺激パルス802の送達をトリガする第1の心臓事象818と異なるが、第1の心臓事象および第2の心臓事象は、同じ心臓周期内の同じ事象であってもよい。たとえば、拡張期刺激パルス802および収縮期刺激パルス804それぞれの送達は、P波821の検出に対してタイミング規定されていてもよい。
【0125】
他の実施形態において、拡張期刺激パルス802の送達をトリガする第1の心臓事象818および収縮期刺激パルス804の送達をトリガする第2の心臓事象816は、連続する心臓周期における同じ心臓事象タイプであってもよい。
図8Aの例において、第1の心臓事象818は、現在の心臓周期806において拡張期刺激パルス802をトリガする先行の心臓周期からの検出R波である。一方、第2の心臓事象816は、現在の心臓周期806において拡張期刺激パルス802をトリガする現在の心臓周期中の検出R波である。第1および第2の心臓事象は、電気的事象(たとえば、R波)であるが、機械的事象(たとえば、S1心音)であってもよい。
【0126】
他の実施形態において、拡張期刺激パルス802の送達をトリガする第1の心臓事象および収縮期刺激パルス804の送達をトリガする第2の心臓事象は、同一心臓周期における異なる心臓事象であってもよい。たとえば、
図8Aを参照して、第1の心臓事象は、現在の心臓周期806における検出P波821であってもよい。一方、第2の心臓事象816は、現在の心臓事象における検出R波であってもよい。この場合も、第1および第2の心臓事象は、電気的事象(たとえば、P波およびR波)であってもよいが、第1および第2の心臓事象のうちの1つまたは複数が機械的事象(たとえば、S1心音)であってもよい。
【0127】
対パルスADS療法
図10を参照して、本明細書に開示の実施形態によれば、横隔膜の一過性部分的収縮の操作によって、収縮の尾部フェーズおよび頭部フェーズの一方の持続時間が充実して追加となるように、一対のADSパルス1002、1004が送達されるようになっていてもよい。たとえば、次の心臓事象によりトリガされる次のADSパルス1016の送達に対して、延長した頭部フェーズが重なり合うことなく、第1のADSパルス1002の送達の直後の第2のADSパルス1004の送達によって、しばらくの間、横隔膜の一過性部分的収縮の頭部フェーズ1014の持続時間を延長することができる。横隔膜の不応期が短く(たとえば、1msec~4msec)、心拍にほぼ依存しない(横隔膜の緊張が呼吸の必要に応じて駆動されるため)ことから、収縮の特定のフェーズの延長を目的としたADSパルス1004の送達は実現可能である。言い換えると、心拍が上昇する場合であっても、次の心臓周期1020が次のADSパルス1016を開始およびトリガする前に、現在の心臓周期1018において、部分的収縮の頭部フェーズ1014および部分的収縮の尾部フェーズの一方または両方を延長するための時間は十分にある。
【0128】
さらに、本実施形態に関して、
図10を引き続き参照しつつ、第1のADSパルス1002および第2のADSパルス1004を含み、適当にタイミング規定されて離隔した一対のADSパルスが収縮フェーズの平衡を主として尾部側または主として頭部側の一方にシフトさせることにより、胸腔内圧および心臓血管流に影響を及ぼすようにしてもよい。このため、収縮の尾部フェーズおよび頭部フェーズのいずれかにおいて動いている横隔膜204の部分202または一部が刺激されるようになっていてもよい。横隔膜204の部分202が一過性収縮を完了するのに先立ってその部分を刺激することにより、この部分の機械的応答の形態は、主として尾部側すなわちこの一部が頭部方向に移動する時間よりも長い期間にわたって横隔膜204の部分202が尾部方向に移動するフェーズと主として頭部側すなわちこの一部が尾部方向に移動する時間よりも長い期間にわたって横隔膜204の部分202が頭部方向に移動するフェーズとの間で一過性収縮のフェーズの平衡がシフトするように変化し得る。
【0129】
一実施形態において、第2のADSパルス1004の主要な機能および利益は、第1のADSパルス1002により開始となる第1の頭部フェーズが心臓周期1018において早すぎる可能性もあるため、それを短くすることである。第2のADSパルス1004は、心臓/血管の圧力の上昇によって血行動態的な利益が実現される場合、この第1の頭部フェーズを短くカットして、心臓周期1018の後半に第2の頭部フェーズを生成する。
図10には、適当にタイミング規定された一対の連続するADSパルス1002、1004の送達の結果としての横隔膜の加速のシフトを示している。第1のADSパルス1002は、横隔膜の通常の尾部方向および後続の頭部方向の一過性部分的収縮1006または単収縮をもたらすが、これは、尾部フェーズ1008と、それに続く、第1の頭部フェーズ1010の開始と、を有する。一過性部分的収縮の第1の頭部フェーズ1010においては、第2のADSパルス1004が送達される。たとえば、第2のADSパルス1004の送達のタイミングは、横隔膜が一過性部分的収縮を完了する通常の時間に基づいていてもよい。この収縮時間は通常、60~180msecであり、尾部フェーズが総時間の半分を占め、頭部フェーズが総時間の半分を占める。したがって、頭部フェーズ1014の延長を目的として適当にタイミング規定された第2のADSパルス1004は、第1のADSパルス1002の送達後の50~75msecのどこかで送達されるようになっていてもよい。
【0130】
このタイミングでの第2のADSパルス1004の送達は、第1のADSパルス1002の影響と重なって、頭部方向の横隔膜の加速度の急激な変化(たとえば、減少)を誘導する。この加速度の変化は、
図10において、ベースライン1019に向かう垂直に近い下方への短い降下を有する狭幅の第1の頭部フェーズ1010としてグラフに現れる。この加速度の減少に続いて、第2のADSパルス1004は、頭部方向の横隔膜の加速度の増大を誘導した後、頭部方向の横隔膜の加速度の減少を誘導する。これらの加速度の変化は、
図10において、第2の頭部部分1012としてグラフに現れる。第2の頭部部分1012は、第1の頭部部分1010と一体的に、主として頭部側の全体的な横隔膜収縮をもたらす。言い換えると、全体的な横隔膜の動きの平衡が頭部フェーズへとシフトする。これは、頭部方向の横隔膜の動きによって胸腔内圧が上昇し、収縮期の開始に対して正しくタイミング規定された場合に心臓出力を増大させるように、心臓および血管の圧力が高くなるため、有利である。
【0131】
図11は、一対のADSパルスの送達によって、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす方法のフローチャートである。この方法は、
図7のIMDにより実行されるようになっていてもよいし、類似の装置またはシステムにより実行されるようになっていてもよい。たとえば、この方法は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極722、724と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラ702と、を有する装置により実行されるようになっていてもよい。コントローラ702は、たとえばメモリに格納された実行可能プログラム命令によって、
図11を参照しつつ後述する方法を実行するように構成されている。
【0132】
ブロック1102においては、
図10も参照して、第1の刺激パルス1002が患者の横隔膜に送達される。第1の刺激パルス1002は、横隔膜の一部が尾部方向に移動する時間に対応する尾部フェーズ1008と、それに続く、横隔膜のこの部分が頭部方向に移動する時間に対応する頭部フェーズ1010と、を含む横隔膜の一過性部分的収縮1006を誘導するように構成されている。
【0133】
第1の刺激パルス1002の横隔膜への送達は、心臓事象によりトリガされるようになっていてもよい。このため、
図8Aも参照して、心臓事象816(たとえば、R波)の発生がIMD700により検出されるとともに、検出された心臓事象からの第1のオフセット期間814の最後またはその近傍に第1の刺激パルス1002がIMDによって出力される。心臓事象816の発生は、横隔膜上もしくはその近傍に配置されるように構成された1つもしくは複数の電極722、724、心臓上もしくはその近傍に配置された1つもしくは複数の電極712、714、または心臓上もしくはその近傍に配置された運動センサ716により検知された信号に基づいて検出されるようになっていてもよい。
【0134】
ブロック1104においては、横隔膜が第1の刺激パルス1002から依然として動いている間に、第2の刺激パルスが横隔膜に送達される。第2の刺激パルスは、横隔膜の一過性部分的収縮の尾部フェーズ1008および頭部フェーズ1014の一方の持続時間を延長するように構成されていてもよい。このため、第2の刺激パルスを規定する刺激パラメータ(たとえば、パルス振幅、パルス幅等)は、第1の刺激パルス1002を規定する刺激パラメータと同じであってもよい。あるいは、第2の刺激パルスを規定する刺激パラメータは、異なっていてもよい。たとえば、第2の刺激パルスがより高い刺激エネルギーを有することは、第2の刺激によって横隔膜のより強力な応答を引き出すのに有益と考えられるため、結果として拡張される尾部の動きまたは頭部の動きが有し得る血行動態効果は高くなる。
【0135】
第2の刺激パルスの横隔膜への送達は、さまざまな異なる事象によりトリガされるようになっていてもよいし、さまざまな異なる事象に対してタイミング規定されていてもよい。たとえば、頭部フェーズ1014の持続時間を延長する第2の刺激パルス1004の影響を示した
図10を参照して、第2の刺激パルス1004は、第1の刺激パルス1002の送達に対してタイミング規定され得る第2のオフセット期間1022の最後またはその近傍に、IMD700により出力されるようになっていてもよい。たとえば、IMD700は、第1の刺激パルス1002の送達後の20msec~300msecに第2の刺激パルス1004を出力するようにプログラムされていてもよい。別の構成において、第2のオフセット期間は、心臓事象の発生に対するものであってもよい。この心臓事象は、第1の刺激パルス1002の送達をトリガした同じ心臓事象であってもよい。
【0136】
別の構成において、IMD700は、心臓周期において密に関連付けられた一対の心臓事象を検出することにより、第2のオフセット期間1022を決定するように構成されている。たとえば、密に関連付けられた一対の心臓事象は、心臓周期の収縮フェーズの開始と関連付けられた第1の心臓事象(たとえば、QRS群のQ点822)と、第1の心臓事象に続き、同じく収縮フェーズと関連付けられた第2の心臓事象824(たとえば、S1心音)と、を含んでいてもよい。多くの心臓周期にわたって、密に関連付けられた多数対の心臓事象が検出されるようになっていてもよい。IMD700は、各対の第1の心臓事象822と第2の心臓事象824との間のタイミング差すなわち間隔に基づいて、第2のオフセット期間1022を計算するように構成されている。第2のオフセット期間1022は、これらの間隔に基づいて計算される。第2のオフセット期間1022は、決定された間隔の平均であってもよいし、固定倍率(たとえば、x%)により調整された平均間隔であってもよい。たとえば、第2のオフセット期間1022は、平均間隔の90%に設定されていてもよい。
【0137】
別の構成において、第2の刺激パルス1004の送達は、横隔膜の運動に基づいてトリガされるようになっていてもよい。このため、横隔膜の運動フェーズ(たとえば、尾部フェーズまたは頭部フェーズ)は、運動センサ720からの信号に基づいて決定されるようになっていてもよい。たとえば、
図7および
図10を参照して、IMD700のコントローラ702の横隔膜運動解析モジュール738は、横隔膜の運動信号をモニタリングして、第1の刺激パルス1002の結果としての頭部フェーズ1010の基準点を検出するとともに、このような検出に際して第2の刺激パルス1004を出力するように構成されていてもよい。頭部フェーズのトリガ基準点は、頭部フェーズ1010のピークもしくは変曲点1024またはその近傍であってもよい。
【0138】
尾部フェーズの延長の場合(
図10には示さず)、IMD700のコントローラ702は、横隔膜の運動信号をモニタリングして、第1の刺激パルス1002の結果としての尾部フェーズ1008の基準点を検出するとともに、このような検出に際して第2の刺激パルスを出力するように構成されていてもよい。これにより尾部フェーズが延長され、胸腔内圧が陰圧となる持続時間が長くなり、心臓/血管の圧力が低下するため、心臓の充填が良好になる期間が延長されることになる。
【0139】
別の構成においては、複数の第2の刺激パルスの送達によって、尾部フェーズおよび頭部フェーズがそれぞれ延長されるようになっていてもよい。この構成において、「1つ目」の第2の刺激パルスは、第1の刺激パルス1002の後で尾部フェーズ中の適当なタイミングに送達されるようになっていてもよい。たとえば、
図10に示す尾部フェーズ1008のピークにおける「1つ目」の第2の刺激パルスの送達によって、尾部フェーズが延長されるようになっていてもよい。延長された尾部フェーズの最後で、横隔膜が頭部フェーズにある間に、「2つ目」の第2の刺激バルスの適当なタイミングでの送達によって、頭部フェーズが延長されるようになっていてもよい。
【0140】
二重パルス対パルス組み合わせADS療法
図8Bおよび
図10を参照して、別の実施形態によれば、ADS療法は、二重パルスADS療法および対パルスADS療法の組み合わせであってもよい。このため、二重パルスADS療法の第1のADSパルス802が拡張期後半に送達された後、二重パルスADS療法の第2のADSパルス804が収縮期前半に送達される。また、この第2のADSパルス804は、対パルスADS療法の第1のADSパルス1002として機能する。
図10を参照して、(第2のADSパルス804に対応する)第1のADSパルス1002および第2のADSパルス1004は、収縮期前半に送達される。
【0141】
図8Bに戻って、拡張期後半に送達された第1のADSパルス802は、それぞれ正常な持続時間の尾部フェーズ830および頭部フェーズ832を有する横隔膜の対応する一過性部分的収縮808をもたらす。
図10に飛んで、収縮期前半に送達された一対のADSパルス1002、1004は、尾部フェーズ1008および延長された頭部フェーズ1010、1012を有する横隔膜の対応する一過性部分的収縮1006をもたらす。
【0142】
このように、二重パルス対パルス組み合わせADS療法においては、心臓周期当たりに3つのADSパルスが送達される。第1のADSパルスは、拡張フェーズ中に、横隔膜の正常な一過性部分的収縮をもたらす。一方、第2および第3のADSパルスは、増強された頭部フェーズを有する収縮期フェーズ中に、横隔膜の拡張された一過性部分的収縮をもたらす。
【0143】
多重パルスADS療法
図12Bを参照して、本明細書に開示の実施形態によれば、心拍に基づいて、複数(たとえば、2つ以上)のADSパルスが心臓周期中に送達される。多重パルスADS療法の説明に先立ち、多重パルスADS療法の背後にある理論の説明を目的として、
図12Aを参照する。
図12Aにおいて、横隔膜加速度信号1202は、基準となる呼吸信号1206に重畳された多数対の離隔した一過性部分的横隔膜収縮1204を含む。各対の一過性部分的横隔膜収縮1204は、ECG信号1212に見られる心臓周期1210それぞれにおいて一対の収縮1204が発生するように2つのADSパルス1208が送達される上述の二重パルスADS療法の結果である。
【0144】
図12Aの横隔膜加速度信号1202は、500msecのRR間隔に対応する心拍120bpmの動物モデルによって取り込まれたものである。各収縮1204の持続時間またはパルス幅1214は、心拍とほとんど関係しない。たとえば、収縮1204のパルス幅1214は、心拍が高くなっても短くならない。言い換えると、横隔膜の緊張は、心臓の緊張ではなく呼吸によりもたらされる。したがって、収縮1204が重ならないように心臓周期1210中に送達され得るADSパルス1208の数は、実際の心拍/RR間隔によって決まる。たとえば、RR間隔が500msec、パルス幅1214がおよそ100msecの場合、潜在的に有効な一過性部分的収縮1204の最大数は、5となる。60bpm(RRが1000msec)では、潜在的に有効な一過性部分的収縮1204の最大数が2倍の10となる。
【0145】
図12Bを参照して、横隔膜加速度信号1222は、基準となる呼吸信号1226に重畳された横隔膜の連続した一過性部分的収縮1224ストリームを含む。部分的収縮1224はそれぞれ、対応するADSパルス1228の結果であり、ADSパルスは、各心臓周期1230中に9回の収縮が発生するように送達される。多重パルスADS療法によれば、横隔膜の機械的変調すなわち一過性部分的収縮または単収縮は、一定の正弦波のような運動をする。したがって、横隔膜の収縮している部分は、尾部フェーズおよび頭部フェーズを連続的に往復するが、心臓周期1230に対しては依然として十分に同期している。
【0146】
心臓周期1230当たりの一過性部分的収縮の数(あるいは、「単収縮振動数」と称する)は、心拍によって決まる。一実施態様において、ADSパルス1228および結果としての単収縮または一過性部分的収縮1224の数は、完全な単収縮周期のみが存在するように選択される。完全な単収縮周期は、次のADSパルス1228が送達される前に、横隔膜の収縮している部分が尾部フェーズおよび頭部フェーズを完全に通過することを意味する。このため、ADSパルス1228の数は、心拍範囲またはRR間隔に基づく整数である。たとえば、RR間隔の場合は1000msec~1099msecの範囲であり、100msecの単収縮持続時間を想定すると、心臓周期1230当たりに送達されるADSパルス1228の数は、10個である。
【0147】
図13は、心臓周期当たり複数のADSパルスの送達によって、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす方法のフローチャートである。この方法は、
図7のIMD700により実行されるようになっていてもよいし、類似の装置またはシステムにより実行されるようになっていてもよい。たとえば、この方法は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極722、724と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラ702と、を有する装置により実行されるようになっていてもよい。コントローラ702は、たとえばメモリに格納された実行可能プログラム命令によって、
図13を参照しつつ後述する方法を実行するように構成されている。この方法においては、検出された如何なる心臓事象とも無関係にADSパルスが送達される。言い換えると、多重パルスADS療法の送達は、心臓事象の検出によりトリガされることもなければ、心臓事象の検出と同期されることもない。
【0148】
ブロック1302においては、患者の心拍が決定される。このため、コントローラ702は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極722、724により検知された信号、心臓上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極712、714により検知された信号、あるいは横隔膜上もしくはその近傍または心臓上もしくはその近傍に配置されるように構成された運動センサ716により検知された信号に基づいて、多くの対応する心臓周期にわたって多くの心臓事象を検出するように構成されていてもよい。
【0149】
ブロック1304においては、患者の横隔膜の一過性部分的収縮の持続時間が決定される。横隔膜の部分的収縮は、横隔膜の一部が尾部方向に移動する時間に対応する尾部フェーズと、それに続く、横隔膜のこの一部が頭部方向に移動する時間に対応する頭部フェーズと、を含む。この持続時間は、たとえば横隔膜上またはその近傍に位置付けられたIMD700の運動センサ720により検知された加速度信号に基づいて決定されるようになっていてもよい。
図7を参照して上述した通り、運動センサ720は、横隔膜上またはその近傍に位置決めされて、横隔膜の運動を検知するとともに、このような運動を表す電気信号をコントローラ702の横隔膜運動/心音解析モジュール738へと出力するように構成された加速度計であってもよい。あるいは、運動センサは、胸腔内腔内の胸腔内構造(たとえば、心臓、心膜、大動脈および静脈)中、構造上、またはその隣に位置決めされるように構成されていてもよい。この場合、運動センサは、コントローラ702から離れて埋め込まれるとともに、この運動センサにより検知された信号を無線通信リンクによってコントローラに与えるように構成された機器と関連付けられていてもよい。
【0150】
ブロック1306においては、心拍および横隔膜の一過性部分的収縮の持続時間に基づいて、心臓周期中に患者に送達される複数の刺激パルスが計算される。このため、コントローラ702は、心臓周期当たりに送達されるADSパルスの数を計算するようにプログラムされている。たとえば、この数は、以下のように計算され得る。
N=RR/CPW
ここで、Nは、心臓周期当たりに送達されるADSパルスの数である。
RRは、連続するR波間の間隔として測定された心拍である。
CPWは、横隔膜の一過性部分的収縮のパルス幅である。
ブロック1308においては、患者の心臓周期中に、複数の刺激パルスが患者の横隔膜に送達される。ADSパルス間の間隔は、複数の刺激パルスがそれぞれ、横隔膜の対応する一過性部分的収縮をもたらすようにする。
【0151】
心臓周期当たり複数のADSパルスの送達は、所定の期間にわたって、連続的に発生するようになっていてもよいし、周期的に発生するようになっていてもよい。たとえば、IMD700のコントローラ702は、1日に1回、多重パルスADS療法を数時間(たとえば、4時間)にわたってオンするようにプログラムされていてもよい。また、コントローラ702は、心拍を連続的または周期的に再決定するとともに、これに応じて心臓周期当たりに送達されるADSパルスの数を調整するように構成されている。
【0152】
筋電(EMG)検知
図7を参照して、本明細書に開示の実施形態によれば、IMD700には、EMG検知および解析機能が含まれていてもよい。EMG検知によれば、IMD700は、患者の横隔膜の健康および/または心不全の代償不全状態を評価するとともに、ADS療法を調整することができる。また、EMG検知によれば、IMD700は、潜在的なIMD動作上の問題(たとえば、心臓事象検知および検出の障害)を検出するとともに、これに応じてIMD設定を調整することができる。
【0153】
横隔膜上に位置付けられた1つまたは複数のEMGセンサを通じて、EMG信号がIMD700により収集されるようになっていてもよい。一構成において、EMGセンサは、横隔膜上またはその近傍に配置された一対の電極に対応する。これらの電極は、心臓事象源706の電極712、714であってもよいし、ADS療法送達メカニズム100の電極722、724であってもよいため、心臓の電気的活動(たとえば、ECG信号)のほか、EMG活動を検知するように構成されるとともに位置付けられている。したがって、本明細書においては、EMGセンサが検知する信号をECG/EMG複合信号と記載する。
【0154】
IMD700の療法モジュール740は、ECG/EMG複合信号を解析して横隔膜の健康および/または心不全の代償不全状態を評価するように構成されたEMG解析モジュール760を含むように修正可能である。このような解析には、ADS療法中に収集されたECG/EMG複合信号のEMG成分の特性(たとえば、形態、周波数成分、振幅)とADS療法の開始に先立って収集された対応する基本特性との比較が伴っていてもよい。これらの収集および比較は、たとえば1日1回、ADS療法が行われている間に周期的に発生するようになっていてもよい。
【0155】
図14Aは、IMD700の患者への埋め込み後、ADS療法の開始に先立って収集された基本ECG/EMG複合信号1402の一例である。この基本ECG/EMG複合信号1402は、EMG信号が重畳されたECG信号1406である。基本ECG/EMG複合信号1402のEMG成分またはEMG電気的活動は、たとえばECG信号1406のR波1410間で最も顕著な高速振動の領域1408として現れる。
【0156】
図14Bは、患者が血行動態的に代償不全である場合のADS療法の開始後に収集された別のECG/EMG複合信号1404の一例である。たとえば、患者は、息切れの症状の場合がある。このECG/EMG複合信号1404は、EMG信号が重畳されたECG信号1412である。このECG/EMG複合信号1404のEMG成分は、たとえば高速振動の領域1416として現れる。これら高速振動の領域1416は、基本EMG複合信号1402の類似領域1408に対して振幅が大きくなっており、血行動態代償不全の証拠となる。EMGの振幅が大きいのは、完全な横隔膜収縮(吸気)中の横隔膜による労作が増大した結果である。また、労作の増大は、心不全患者が代償(肺内部の液体貯留)を開始する場合に発生する肺内部の空気流入抵抗の増大に起因する。
図18を参照して以下に説明する通り、これらの種類のEMG電気的活動またはEMG成分の変化の経時的なモニタリングによって、ADS療法とは無関係に患者の健康を評価するようにしてもよい。言い換えると、患者の基本ECG/EMG複合信号および後続のECG/EMG信号の取得および比較によって、ADS療法モジュールを含まないモニタリング機器による患者の健康の決定または動作停止したADS療法モジュールを含み得るモニタリング機器による患者の健康の決定を行うようにしてもよい。
【0157】
前述の通り、患者の横隔膜および横隔神経の健康の評価には、EMG信号が用いられる場合がある。たとえば、横隔膜および横隔神経の健康状態は、ECG成分を伴わない純粋なEMG信号1502、1504、1506をそれぞれ示した
図15A、
図15B、および
図15CのようなEMG信号から探り出すことができる。
図15Aは、横隔膜および横隔神経が健康な患者から検知された例示的なEMG信号1502である。
図15Bは、横隔神経が神経障害を示す患者から検知された例示的なEMG信号1504である。
図15Cは、横隔膜が筋疾患を示す患者から検知された例示的なEMG信号1506である。これらの信号の解析は、形態/パターンの変化を評価するための時間/周波数解析と、最後のベースラインとの比較すなわちIPG機器の2回の追跡調査間の比較を伴うことになる。
【0158】
本明細書に開示の実施形態によれば、IMD700は、
図14Bに示すようなECG/EMG複合信号1404の値を検知して格納し、ECG/EMG複合信号のEMG成分の尺度を周期的に導出し、
図14Aに示すようなECG/EMG複合信号1402に基づく基本尺度と比較する。たとえば、IMD700は、EMG振幅を日々計算して、基本振幅と比較するようにしてもよい。IMD700は、ある期間にわたって(たとえば、何日にもわたって)収集された多くの尺度に基づいて統計平均を計算することにより、尺度の潜在的な変化が尺度の異常値であるのみならず、統計的に有意であるものとしてもよい。一例として、IMD700は、個々の尺度に対してzスコアを計算し、これらのzスコアを傾向分析するようにしてもよい。
【0159】
統計的尺度が得られたら、IMD700は、この尺度を基本尺度と比較して、横隔膜および/もしくは横隔神経の健康ならびに/または心不全の代償不全状態の低下を示す閾値基準が満たされているかを判定する。一例において、この閾値は、統計的尺度が基本尺度を少なくとも50%上回る場合に、満たされていると考えられる。別の例において、この閾値は、個々の統計的尺度の所定数または割合(たとえば、10個中8つ、または、80%)が基本尺度を上回った後に、満たされていると考えられる。
【0160】
横隔膜および/もしくは横隔神経の健康ならびに/または心不全の代償不全状態の低下を示す閾値基準が満たされているとの上記判定の結果として、さまざまな種類の措置が行われるようになっていてもよい。たとえば、IMD700の追跡調査中(通常、3~6か月ごと)に臨床医へ通知がなされるようになっていてもよい。あるいは、IMDは、IMD700が所定の時間間隔(たとえば、毎日、毎週等)または所定のEMG振幅閾値に達した場合に関連情報の臨床医への送信を可能にする無線通信機能を含んでいてもよい。
【0161】
前述の通り、EMG信号、より具体的には、ECG/EMG複合信号のEMG成分は、患者の横隔膜の健康および/または心不全の代償不全状態の評価のほか、ADS療法の調整に使用可能である。このため、IMD700の1つまたは複数の刺激パラメータの自動調整によって、ADS療法の有効性を向上させるようにしてもよい。たとえば、ADSパルスのエネルギーは、ADSパルスが依然として患者に知覚され得ない所定の値まで、増大させることができる(たとえば、パルス振幅を増大させることができる)。このような所定の値は、IMDの埋め込み後、患者の意識がある時に、閾値/症状テストによって決定されるようになっていてもよい。また、患者の代償不全の場合は、液体貯留によって横隔膜が濡れるため、より強い刺激エネルギーによってADS療法を有効化することが必要となる可能性もある。別の例において、検出された心臓事象とADSパルス送達との間のオフセット期間または遅延期間は、心不全の代償不全が心調律に及ぼす影響を考慮するように調整され得る。このため、ECG/EMG複合信号のECG成分中の心臓事象のタイミングの経時的な(たとえば、数日分の)解析によって、ADS療法の新たなオフセット期間または遅延期間を決定するようにしてもよい。
【0162】
また、場合によっては、ADS療法を自動オフするのに、ECG/EMG複合信号を使用可能である。たとえば、信号中のEMG雑音振幅が心臓事象の検知(たとえば、R波検出)を害するレベルまで大きくなった場合は、心臓周期に対するADSパルス送達の一貫性および同期性に影響が及んで、ADS療法の効果が低下する可能性もある。この問題に対処するため、一構成において、IMD700は、R波検知の一貫性を検知して、一貫性基準が満たされている限りはADS療法を停止するように構成されていてもよい。一貫性基準は、IMDの検知/刺激履歴に基づく所定の生理学的閾値または他の統計的解析基準を超える検出R波タイミング(不応期外の心室検知事象)の変動の尺度を含んでいてもよい。別の構成において、IMD700は、信号対雑音比(SNR)すなわちECG/EMG複合信号中のR波振幅対EMG振幅を検知して、特定のSNR基準が満たされている限りはADS療法を停止するように構成されていてもよい。SNR基準には、閾値SNRを超えられないSNRの尺度を含んでいてもよい。たとえば、SNR基準は、2:1に設定されていてもよく、R波振幅がEMG振幅の少なくとも2倍となる必要がある。そうでない場合は、ADS療法が停止される。いずれの構成においても、ADS療法の停止には、臨床医への通知が伴っていてもよい。
【0163】
また、前述の通り、ECG/EMG複合信号は、潜在的なIMD動作上の問題の検出に使用可能である。このため、有効なADS療法の送達の拠り所となるR波の検出等の関連する心臓事象(たとえば、ECGの特徴)の発生を確実に検知するIMDの能力に対してEMG雑音振幅が影響を及ぼす場合は、IMD700の1つまたは複数の検知パラメータが調整されるようになっていてもよい。IMD700は、(検出R波タイミング(不応期外の心室検知事象)の一貫性によって)R波検知の障害を検出した場合、EMG振幅の増大前に検知がベースラインで有していた一貫性に戻るまで、検知チャンネルの感度設定を抑えるようにしてもよい。R波振幅が小さく、EMG雑音が著しく増大する場合は、好適な感度設定を見つけられない可能性もある。この場合、IMD700は、EMG雑音の低下および/または臨床医への通知まで、ADS療法を自動的に一時中断するようにしてもよい。
【0164】
図7、
図16A、
図16B、
図16Cを参照して、IMD700のコントローラ702は、横隔膜上またはその近傍の1つまたは複数の電極712、714、722、724により取り込まれたECG/EMG複合信号1602、1604、1606に影響を及ぼすように構成されたECG/EMGフィルタモジュール762を具備していてもよい。一構成において、ECG/EMGフィルタモジュール762は、ECG/EMG複合信号1602、1604、1606のECG成分およびEMG成分の1つまたは複数の異なる周波数範囲または帯域を取り込むことにより、EMG成分およびECG成分の一方のより良好な検出および解析を選択的に可能とするように設定されていてもよい。
【0165】
図16AのECG/EMG複合信号1602は、フィルタが広帯域状態(1~180Hz)に設定された場合に取り込まれ、ファーフィールドECG信号1610に重畳されたEMG雑音1608を含む。
図16BのECG/EMG複合信号1604は、フィルタが広帯域状態(70~180Hz)に設定された場合に取り込まれたものである。このフィルタ状態は、ECG成分1614よりもEMG成分1612を優先し、IMD700のコントローラ702が振幅を含むEMG信号特性をより良好に検知して評価できるようにする。
図16CのECG/EMG複合信号1606は、フィルタが狭帯域状態(10~50Hz)に設定された場合に取り込まれたものである。このフィルタ状態は、EMG成分1618よりもECG成分1616を優先する。このフィルタ状態は、EMG成分を減衰させて、IMDがECG成分(たとえば、R波)をより良好に検知して評価できるようにする。
【0166】
図17は、ADSの送達により、患者の胸腔内腔中の圧力に影響を及ぼす装置の検知および/または刺激パラメータを修正する方法のフローチャートである。この方法は、
図7のIMD700により実行されるようになっていてもよいし、類似の装置またはシステムにより実行されるようになっていてもよい。たとえば、この方法は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極722、724と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラ702と、を有する装置により実行されるようになっていてもよい。コントローラ702は、たとえばメモリに格納された実行可能プログラム命令によって、
図17を参照しつつ後述する方法を実行するように構成されている。
【0167】
本実施形態において、IMD700は、電極712、714が提供する入力検知チャンネルから受信されたECG/EMG複合信号を2種類のフィルタリング(より良好なEMG特徴検出を可能にするフィルタリングと、より良好なECG特徴(たとえば、R波)検出を可能にするフィルタリングと、を含む)の対象とし得るECG/EMGフィルタモジュール762をさらに具備する。一実施態様においては、それぞれがフィルタを有するECG/EMGフィルタモジュール762内の2つのフィルタ経路に沿って、検知チャンネルからのECG/EMG複合信号が案内される。第1のフィルタは、EMG成分の減衰により、心臓事象検知の検出に対してECG成分を強調するように構成された狭帯域フィルタである(後述の
図16C参照)。第2のフィルタは、ECG成分およびEMG成分の両者を含む信号を出力するように構成された広帯域フィルタである(後述の
図16B参照)。後者は、以下によりさらに説明する通り、さまざまな手段(すなわち、単純なSNR解析からより高度な周波数またはウェーブレットテンプレートマッチングまで)によって、EMG振幅の評価に使用される。
【0168】
図17に戻り、ブロック1702においては、ある期間にわたって、1つまたは複数の刺激パラメータにより規定されたADSパルスの形態のADS療法が患者に送達される。このため、IMD700は、電極712、714が提供するチャンネル等の入力検知チャンネルを通じて、ECG/EMG複合信号1404を検知する。IMD700は、ECG/EMG複合信号1404のフィルタリングによって、EMG電気的活動よりもECG電気的活動をより良好に検出できるようにする。たとえば、ECG/EMGフィルタモジュール762によって、ECG/EMG複合信号1404が狭帯域状態(10~50Hz)となるようにフィルタリングされることで、
図16Cに示すようなフィルタリングECG/EMG複合信号1606が生成されるようになっていてもよい。その後、IMD700は、フィルタリングECG/EMG複合信号1606を処理して、信号中に存在するECG成分1616において電気的心臓事象を検出する。たとえば、IMD700は、1つまたは複数のECG特徴(たとえば、R波1620)を検出するようにしてもよい。その後、IMD700は、上述のADS療法のうちの1つまたは複数に従い、検出した電気的心臓事象に応答して、1つまたは複数のADSパルスを出力する。
【0169】
ブロック1704においては、ある期間にわたって、1つまたは複数の検知パラメータに従い、横隔膜の1つまたは複数の骨格筋により生成されたEMG電気的活動が周期的に検知される。臨床医によって初期設定およびプログラムされるIMDの1つまたは複数の検知パラメータは、1)心臓事象の検出を容易化する信号比較器の基準電圧である検知感度(ミリボルト単位で測定)(たとえば、R波検出等のECG基準点)と、2)a)ECG基準の検出を目的としてIMDがECG信号に対してブラインド化されるウィンドウであるブランキング間隔(msec単位で測定)およびb)IMDがECG信号を検知してECG基準を検出する一方、ADSパルスの横隔膜への送達にはこれらの検出を使用しないウィンドウである不応期(msec単位で測定)を含むタイミングウィンドウと、を含んでいてもよい。「ブラインド化」は、IMDの検知チャンネルがオフされることを意味する。これは、ADSパルスが横隔膜に送達された後に必要である。その結果としての後電位によって、IMD検知チャンネルの検知増幅器が刺激中にオーバドライブされるからである。したがって、IMDの検知チャンネルは、後電位が問題を起こさない程度に低くなるまで「ブランク化」される。ブランキング間隔の持続時間は通常、臨床医が決定する。
【0170】
引き続きブロック1704に関して、IMD700は、電極712、714が提供するチャンネル等の入力検知チャンネルを通じて、ECG/EMG複合信号1404を検知する。IMD700は、ECG/EMG複合信号1404のフィルタリングによって、ECG電気的活動よりもEMG電気的活動をより良好に検出できるようにする。たとえば、ECG/EMGフィルタモジュール762によって、ECG/EMG複合信号1404が広帯域状態(70~180Hz)となるようにフィルタリングされることで、
図16Bに示すようなフィルタリングECG/EMG複合信号1604が生成されるようになっていてもよい。その後、ECG/EMG複合信号1604の処理によって、信号のEMG成分1612中の電気的活動の特徴を検出する。たとえば、IMD700は、EMG信号振幅、EMG信号周波数、またはEMG信号形態のうちの1つまたは複数を検出するようにしてもよい。
【0171】
ブロック1706において、IMD700は、ADS療法の開始に先立って検知された患者の基本EMG電気的活動に対して、EMG電気的活動が基準を満たすかを判定する。このため、IMD700は、フィルタリングECG/EMG複合信号1604(
図16B参照)中のEMG成分の形態特性(たとえば、R波の幅)を基本形態特性と比較するようにしてもよい。IMD700は、フィルタリングECG/EMG複合信号1604(
図16B参照)中のEMG成分の周波数特性(たとえば、高周波成分)を基本周波数特性と比較するようにしてもよい。IMD700は、フィルタリングECG/EMG複合信号1604(
図16B参照)中のEMG成分の振幅特性を基本振幅特性と比較するようにしてもよい。
【0172】
ブロック1708においては、基準が満たされない場合、刺激パラメータおよび検知パラメータの少なくとも一方が調整される。たとえば、ブロック1706における形態比較の場合、ECG/EMG複合信号(たとえば、
図16Bに示す広帯域フィルタリング信号1604)においてEMG信号強度が高いためにR波の幅がベースラインに対して増大すると、検知パラメータの調整(たとえば、感度設定の低下(基準電圧の上昇))がトリガされる可能性もある。ブロック1706における周波数特性比較の場合、ECG/EMG複合信号(たとえば、
図16Bに示す広帯域フィルタリング信号1604)のスペクトログラムを見て、高周波成分がベースラインに対して増大すると、検知パラメータの調整(たとえば、感度設定の低下(基準電圧の上昇))がトリガされる可能性もある。ブロック1706における振幅比較の場合、顕著なECG基準を含まない(すなわち、R波、P波、T波いずれの周りでもない)心臓周期中のある期間において、ECG/EMG複合信号(たとえば、
図16Bに示す広帯域フィルタリング信号1604)の振幅がベースラインに対して増大すると、検知パラメータの調整(たとえば、感度設定の低下(基準電圧の上昇))がトリガされる可能性もある。
【0173】
検知パラメータに関する他の例においては、ECG/EMG複合信号中のEMG成分の存在を抑えるように入力検知チャンネルの検知感度を下げることによって、R波を検出するIMD700の能力に対してEMG信号が及ぼす影響を抑えることができる。刺激パラメータに関しては、ADSパルスの刺激エネルギーを増大させることも可能であるし、ADSパルスのオフセット期間の調整によって、療法の有効性を向上させることも可能である。IMD700は、刺激パラメータおよび検知パラメータの少なくとも一方を調整している間、ADS療法の送達を中断するようにしてもよい。
【0174】
刺激パラメータ
IMDにより送達されるADS療法は、1)横隔膜の一過性部分的収縮を誘導する刺激パルスを規定するように選択された値または設定を有する1つまたは複数のパルスパラメータと、2)1つまたは複数のADSパルスの送達のタイミングを制御するタイミングパラメータと、を含む刺激パラメータによって規定される。パルスパラメータは、たとえばパルス波形の種類、パルス振幅、パルス持続時間、およびパルス極性を含んでいてもよい。タイミングパラメータは、検出された心臓事象と電気的刺激パルスの送達との間の時間を規定する1つまたは複数のオフセット期間または遅延期間を含んでいてもよい。
【0175】
パルスパラメータに関して、上述の通り、横隔膜の一過性部分的収縮は通常、横隔膜の非常に短い(数十ミリ秒程度の)パルス状で二相性(1つの尾部フェーズと、それに続く1つの頭部フェーズ)の無症候性運動を伴う。特に療法モジュール740を具備するIMD700は、横隔膜の非常に短い二相性の無症候性運動をもたらす刺激パルスを生成するように構成されている。このため、療法モジュール740は、パルス波形の種類として矩形波、正弦波、三角波、または鋸歯状波の設定を選択するとともに、パルス極性として正または負の設定を選択するように構成されていてもよい。療法モジュール740は、パルス振幅の値として0.0ボルト~7.5ボルトを選択するとともに、パルス持続時間の値として0.0ミリ秒~5ミリ秒を選択するようにさらに構成されていてもよい。
【0176】
タイミングパラメータに関して、療法モジュール740は、1つまたは複数のオフセット期間または遅延期間を決定するように構成されていてもよい。上述の通り、遅延期間は、連続して検出された心臓事象間の時間に基づいていてもよい。たとえば、心臓信号モジュール728のEGM解析モジュール732は、心室事象(たとえば、R波)を検出するとともに、このような検出を療法モジュール740に出力するように構成されていてもよい。心臓事象解析モジュール742は、検出された心室事象を処理して、多数対の連続した心室事象間の時間の統計的尺度を決定するようにしてもよい。その後、心臓事象解析モジュール742は、統計的尺度に基づく遅延期間および統計的尺度に対するオフセットを決定するとともに、決定したオフセット期間または遅延期間に基づいてADSパルスを出力するように、パルス発生器746を制御するようにしてもよい。
【0177】
療法モジュール740によるパルスパラメータの設定および値ならびにタイミングパラメータの初期選択は、外部機器(たとえば、プログラム装置)を通じて医師により実行されるようになっていてもよい。この場合、外部機器は、無線通信リンクを通じて選択コマンドを療法モジュール740に与え、療法モジュールは、これらのコマンドに従ってパルスパラメータおよびタイミングパラメータを選択する。あるいは、療法モジュール740によるパルスパラメータの設定および値ならびにタイミングパラメータの選択は、自動化されていてもよい。
【0178】
検知パラメータ
前述の通り、IMD700の検知パラメータは、1)心臓事象の検出を容易化する信号比較器の基準電圧である検知感度(たとえば、R波検出等のECG基準点)と、2)a)ECG基準の検出を目的としてIMDがECG信号に対してブラインド化される心臓周期の部分であるブランキング間隔ならびにb)IMDがECG信号を検知および解析してECG基準を検出する一方、ADSパルスの横隔膜への送達にはこれらの検出を使用しない心臓周期の部分である不応期を含むタイミングウィンドウと、を含んでいてもよい。
【0179】
感度パラメータに関して、このパラメータは、ECG/EMG複合信号内のEMG成分の変化する振幅と比較される基準電圧(たとえば、閾値電圧)の値の設定に用いられる。感度電圧が高い場合、これは、心臓事象(たとえば、R波に対応する基準点)の検出のために、ECG/EMG複合信号内のECG成分に対してIMD700の感度が低いことを意味する。基準電圧が高すぎてECG成分よりも大きい場合は、基準点(たとえば、R波)を検出できない。この状況を検知過少と称する。基準電圧がSNRをはるかに下回る場合は、基準点(たとえば、R波)の不適切な検出が発生し得る。この状況を過大検知と称する。横隔膜の緊張によってECG/EMG複合信号内のEMG成分が大きくなった場合(
図14Bに示すように、EMG信号中の雑音により表される)、IMD700が測定するSNRは基本SNRを下回り、過大検知の可能性が高くなる。対策のため、過大検知を示すSNRの検出に際して、IMD700は、基準電圧を高くすることにより、検知の感度設定を自動的に抑えるようにしてもよい。同様に、IMD700は、R波検出の一貫性を経時的にモニタリングして、過大検知を検出するとともに、検知感度を抑えて検知パラメータを調整するようにしてもよい。
【0180】
一構成において、IMD700は、フィルタリングECG/EMG複合信号におけるECG成分と比較する基準電圧を設定し、ADSパルスの送達のためのタイミング基準としてのECG信号中の心臓事象(たとえば、R波または他の基準)の検出を容易化するように選択され、たとえば0.1ミリボルト~10ミリボルトの値または設定を有する感度電圧パラメータを含んでいてもよい。たとえば、ECG/EMGフィルタモジュール762の上述の狭帯域フィルタの感度電圧は、心臓事象検知を検出する目的で十分に顕著なR波1620をECG成分が有するECG/EMG複合信号1606を生成するように調整され得る(
図16C参照)。あるいは、言い換えると、適当なレベルすなわち上述のSNR基準を満たさないレベルまでSNRが高くなるまで、または、適当なレベルすなわち上述の一貫性基準を満たさないレベルまでR波の一貫性尺度が高くなるまで、基準電圧は高くなり得る。
【0181】
タイミングウィンドウパラメータに関して、これらのパラメータ(たとえば、ブランキング間隔および不応期)は一般的に、療法関連ECG基準点が存在しない可能性のある心臓周期中の期間ならびに/または信号雑音およびADSパルス後電位等のアーチファクトが誤検出をもたらす可能性もある心臓周期中の期間に対応する。ブランキング間隔および不応期は、ADSパルス送達が同期される心臓事象検出(たとえば、R波等の基準点検出)の特異度が高くなるように、臨床医によって設定される。ブランキング間隔および不応期によれば、IMD700は、ADS療法の送達を目的とした検出が意図されるECG基準点を含む可能性が高い心臓周期中の特定の期間のみを使用可能である。これら特定の期間中、IMD700が実行する信号解析では、心臓事象(たとえば、R波)または他のECG基準の存在の検出によって、このように検出した心臓事象それぞれを有効な心臓事象または無効な心臓事象(たとえば、雑音(絶対不応期中に検出された事象))として分類するとともに、これに応じてADSパルスを送達する。本質的には、ブランキング間隔および不応期によって、IMD状態機械による措置が講じられる。すなわち信号の閾値交差(検知事象)が横隔膜刺激をもたらすかと、そのタイミングと、が決定される。心臓事象の検出を目的としてIMD700により解析された信号は、
図16Cに示すフィルタリング狭帯域ECG/EMG複合信号1606に対応していてもよい。
【0182】
ECG基準の検出を目的としてIMDがECG/EMG複合信号に対してブラインド化される間隔であるブランキング間隔は、アーチファクトを含む可能性が高い期間に適用される。たとえば、ブランキング間隔は、ADSパルスの横隔膜への送達後のある期間(たとえば、20msec)に対応していてもよく、その期間には、対応する後電位が検知ECG/EMG複合信号のECG成分に影響を及ぼして無効な心臓事象の検出となり得る。これらのブランキング間隔は、EMG雑音の検出によって変化しない。
【0183】
不応期は、ECG基準の検出を可能にするが、このような検出は、ADSパルスの送達のトリガに用いられない。不応期中にIMDが実行する信号解析では、ADS療法の送達が発生すべきではない心臓事象または状態(たとえば、特定の心拍であって、IMD700にプログラムされた最大追従レートまたはその近傍での心拍の上昇を含む)の存在を検出する。心臓事象の検出を目的としてIMD700により解析された信号は、
図16Cに示すフィルタリング狭帯域ECG/EMG複合信号1606に対応していてもよい。
【0184】
不応期は、R波の検出または心臓ペーシングパルスの送達(心臓ペーシング療法の対象となる心臓の場合)後のある期間(たとえば、400msec)に対応していてもよい。EMG雑音が増大した検知ECG/EMG複合信号は、無効な心臓事象の検出(たとえば、R波の誤検出)ひいては誤ってタイミング規定されたADSパルスの送達に至るが、この場合、IMD700は、不応期を長くするように調整可能である。たとえば、IMD700は、SNRすなわちR波振幅対EMG振幅を検知して、特定のSNR基準が満たされている場合は不応期を長くするように構成されていてもよい。上述の通り、SNR基準は、閾値SNRを超えられないSNRの尺度を含んでいてもよい。たとえば、SNR基準は、2:1に設定されていてもよく、R波振幅がEMG振幅の少なくとも2倍となる必要がある。同様に、IMD700は、R波検出の一貫性を経時的にモニタリングして、過大検知を検出するとともに、不応期を長くするように調整可能である。いずれの場合も、長くなった不応期によって、ADSパルスの送達をトリガする任意の心臓事象検出が抑えられてIMD700がADSパルスを送達しなくなる点まで、不応期を長くすることが可能であり、ADS療法が効果的に無効化される。
【0185】
モニタリング機器
別の実施形態において、患者の健康をモニタリングするためのIMDは、
図7に関して述べたものと類似するECG/EMG複合信号のECG成分およびEMG成分を検知して解析するためのコンポーネントおよびモジュールを具備していてもよい。このIMDは、ECG/EMG複合信号をモニタリングして横隔膜/患者の健康を決定することのみを行うように構成されていてもよい。言い換えると、このIMDは、ADS療法モジュールを具備していない。あるいは、このIMDは、オフされるADS療法の機能を有していてもよい。いずれの場合も、このIMDは、そのモニタリング機能のほか、信号検知および解析に対応し、臨床医が後で解釈するデータの格納および/または臨床医への送信を行うように構成されていてもよい。
【0186】
図18は、患者の健康をモニタリングする方法のフローチャートである。この方法は、
図7のIMD700に類似するもののADS療法の機能を備えていないIMDにより実行されるようになっていてもよい。たとえば、この方法は、横隔膜上またはその近傍に配置されるように構成された1つまたは複数の電極712、714と、1つまたは複数の電極に結合されたコントローラ702と、を有する装置により実行されるようになっていてもよい。コントローラ702は、心臓信号モジュール728、圧力信号モジュール730、EMG解析モジュール760、メモリサブシステム748、通信サブシステム750、電源752、およびクロック源754を具備していてもよい。コントローラ702は、たとえばメモリに格納された実行可能プログラム命令によって、
図18を参照しつつ後述する方法を実行するように構成されている。
【0187】
ブロック1802においては、ある期間にわたって、横隔膜の1つまたは複数の骨格筋により生成されたEMG電気的活動が周期的に検知される。このため、IMD700は、電極712、714が提供するチャンネル等の入力検知チャンネルを通じて、ECG/EMG複合信号1404を検知する。IMD700は、ECG/EMG複合信号1404のフィルタリングによって、ECG電気的活動よりもEMG電気的活動をより良好に検出できるようにする。たとえば、ECG/EMGフィルタモジュール762によって、ECG/EMG複合信号1404が広帯域状態(70~180Hz)となるようにフィルタリングされることで、
図16Bに示すようなフィルタリングECG/EMG複合信号1604が生成されるようになっていてもよい。その後、ECG/EMG複合信号1604の処理によって、信号に存在するEMG成分1612中のEMG信号の特徴を検出する。たとえば、IMD700は、EMG信号振幅、EMG信号周波数、またはEMG信号形態のうちの1つまたは複数を検出するようにしてもよい。
【0188】
ブロック1804において、IMD700は、患者の基本EMG電気的活動に対して、EMG電気的活動が基準を満たすかを判定する。このため、IMD700は、フィルタリングECG/EMG複合信号1604(
図16B参照)中のEMG成分の形態特性(たとえば、R波の幅)を基本形態特性と比較するようにしてもよい。IMD700は、フィルタリングECG/EMG複合信号1604(
図16B参照)中のEMG成分の周波数特性(たとえば、高周波成分)を基本周波数特性と比較するようにしてもよい。IMD700は、フィルタリングECG/EMG複合信号1604(
図16B参照)中のEMG成分の振幅特性を基本振幅特性と比較するようにしてもよい。
【0189】
この基準は、患者の健康の変化を示す偏差に対応する。たとえば、形態比較の場合は、基本R波幅に対して、(
図16Bに示すような)広帯域フィルタリングECG/EMG複合信号中に存在するR波の幅の閾値上昇が患者の健康の悪化に対応すると考えられる。周波数特性の場合は、ベースラインの高周波成分に対して、(
図16Bに示すような)広帯域フィルタリングECG/EMG複合信号のスペクトログラムを見た場合の同じ周波数成分の閾値上昇が患者の健康の悪化に対応すると考えられる。振幅比較の場合は、ベースラインの心臓周期のある期間内の振幅に対して、心臓周期中の同じ期間内の(
図16Bに示すような)広帯域フィルタリングECG/EMG複合信号中に存在するEMG成分1612の同じ振幅の閾値上昇が患者の健康の悪化に対応すると考えられる。閾値の上昇は、相対的な尺度の所定量または所定割合の上昇であってもよい。
【0190】
本開示の種々態様は、当業者が本発明を実施可能となるように提供するものである。本開示の全体に提示の例示的な実施形態のさまざまな改良は、当業者には容易に明らかとなり、本明細書に開示の概念は、他の磁気記憶装置にも拡張可能である。このため、特許請求の範囲は、本開示の種々態様に限定されることを意図したものではなく、特許請求の範囲の文言と一致する全範囲を対象とする。本開示の全体に記載の例示的な実施形態のさまざまな構成要素に対するすべての構造的および機能的均等物については、当業者が既に把握している場合もあれば、後で把握することになる場合もあるが、参照により本明細書に明示的に援用するとともに、特許請求の範囲に含まれるものとする。さらに、本明細書の開示内容は、特許請求の範囲に明示的に記載されているかどうかに関わらず、一般に公開されることを意図したものではない。特許請求の範囲に係る要素は、ミーンズプラスファンクション表現「(means for)」を用いた明示的な列挙も、方法クレームの場合のステッププラスファンクション表現(「step for」)を用いた列挙もなされていなければ、米国特許法第112条第6段落の規定に基づいて解釈されることはない。