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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】層状中性子遮蔽体
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20240726BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20240726BHJP
   G21B 1/05 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G21F3/00 N
G21F1/08
G21B1/05
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022537313
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2020086259
(87)【国際公開番号】W WO2021122623
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】1919059.4
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2015029.8
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512317995
【氏名又は名称】トカマク エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】アストベリー、 ジャック
(72)【発明者】
【氏名】デービス、 トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ミドルバーグ、 サイモン
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0096536(US,A1)
【文献】特表2017-524928(JP,A)
【文献】Samuel A. Humphry-Baker and George D. W. Smith,“Shielding materials in the compact spherical tokamak”,Philosophical Transactions of the Royal Society A,2019年02月04日,377: 20170443,p.1-20
【文献】WINDRIDGE Melanie J. et al.,「4.トカマクエナジー社における核融合研究」,プラズマ・核融合学会誌,2017年,Vol. 93,p.28-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/00-7/06
G21B 1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子遮蔽体であって、
それぞれがホウ化タングステン又は炭化タングステンを含む複数の吸収層と、
金属水素化物を含む少なくとも1つの減速層と
を含み、
それぞれの減速層は少なくとも2つの吸収層の間にあり、使用時に最も外側の吸収層が隣接する減速層と中性子源との間にあるように構成されている、中性子遮蔽体。
【請求項2】
前記金属水素化物は、周期表の第4族、第5族及び第6族の金属のうちの1つ以上、及び/又はイットリウム、ベリリウム、ガドリニウム、又はウランを含む、請求項1に記載の中性子遮蔽体。
【請求項3】
前記金属水素化物は、ハフニウム、ニオブ、タンタル、チタン、イットリウム、及びジルコニウムのうちの1つ以上を含む、請求項2に記載の中性子遮蔽体。
【請求項4】
前記金属水素化物は少なくとも5つの金属を含み、それぞれの金属が、前記金属水素化物中の金属原子の総数に対して、5モル%から50モル%の原子比を有する、請求項1に記載の中性子遮蔽体。
【請求項5】
前記金属水素化物は、金属原子に対する水素原子の比率が0.1から4の間である、請求項1に記載の中性子遮蔽体。
【請求項6】
それぞれの吸収層が、タングステン金属とホウ化タングステン及び/又は炭化タングステンとの合金を含む、請求項1に記載の中性子遮蔽体。
【請求項7】
前記吸収層の総厚は、前記吸収層と前記減速層を合わせた総厚の少なくとも75%である、請求項1に記載の中性子遮蔽体。
【請求項8】
前記最も外側の吸収層が、前記吸収層と前記減速層を合わせた総厚の30%から90%の間の厚さを有する、請求項1に記載の中性子遮蔽体。
【請求項9】
前記最も外側の吸収層ではない更なる吸収層が、前記吸収層と前記減速層を合わせた総厚の少なくとも10%の厚さを有する、請求項8に記載の中性子遮蔽体。
【請求項10】
前記吸収層と前記減速層との間に配置された冷却剤チャネルを含む、請求項1に記載の中性子遮蔽体。
【請求項11】
前記吸収層及び/又は前記減速層のうちの1つ以上の内部に組み込まれた冷却剤チャネルを含む、請求項1に記載の中性子遮蔽体。
【請求項12】
請求項10に記載の中性子遮蔽体と、前記冷却剤チャネルに接続された冷却剤源とを含み、前記冷却剤源は、前記中性子遮蔽体を前記金属水素化物の分解温度より低い温度に維持するように構成されている、アセンブリ。
【請求項13】
トカマク核融合炉であって、
トロイダルプラズマチャンバと、
前記トロイダルプラズマチャンバの内部にプラズマを閉じ込めるための磁場を生成するように配置されたプラズマ閉じ込めシステムと、
請求項1に記載の中性子遮蔽体であって、最も外側の層が前記トロイダルプラズマチャンバの内部に面するように、前記トロイダルプラズマチャンバの内部と前記プラズマ閉じ込めシステムとの間に配置された中性子遮蔽体と
を含むトカマク核融合炉。
【請求項14】
前記中性子遮蔽体は、前記吸収層及び/又は前記減速層のうちの1つ以上の内部に組み込まれた冷却剤チャネルを含み、前記冷却剤チャネルに接続された冷却剤源を含み、前記冷却剤源は、前記中性子遮蔽体を前記金属水素化物の分解温度より低い温度に維持するように構成されている、請求項13に記載のトカマク核融合炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に(それに限られる訳ではないが)トカマク核融合炉に用いる中性子遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
核融合発電の課題は非常に複雑である。核融合中性子は、重水素-三重水素プラズマ(D-T)又は重水素-重水素(D-D)プラズマを、原子核がクーロン静電反発力に打ち勝って融合し、高エネルギー中性子と核融合生成物(例えばD-Tの場合は4He)を放出するのに十分なエネルギーを有するように加熱するときに生成される。現在のところ、これを達成する最も有望な方法は、トカマク装置を使用することである。従来の核融合へのトカマクアプローチ(ITERによって具体化されている)では、プラズマは、このプロセスを最適化するために、長い閉じ込め時間、高温、及び高密度を有する必要がある。
【0003】
トカマクは、強いトロイダル磁場BT、高いプラズマ電流Ip、通常は大きいプラズマ体積及びかなりの補助加熱の組合せを特徴とし、核融合が起こるように高温で安定したプラズマを提供する。核融合が起こるのに必要な十分高い値まで温度を上昇させるため、及び/又はプラズマ電流を維持するために、補助加熱(例えば、高エネルギーH、D又はTの数十メガワットの中性ビーム入射による)が必要である。
【0004】
原子炉を可能な限りコンパクトにするために(これにより、特に「球状トカマク」プラズマ構成の場合に、より高い効率が可能となる)、放射線遮蔽体の厚さは、他のコンポーネントに対する適切な保護を維持しながら、可能な限り薄くする必要がある。プラズマと磁場コイルとの距離を最小化することで、コイル内の電流を低くした状態でプラズマ内の磁場を高くすることができる。
【0005】
図1は、中央カラムの一部を示し、遮蔽材料が克服しなければならない問題を示す。中心カラムは、高温超伝導体(HTS)コイル11の中心コアと、遮蔽体12の外層とを含む。遮蔽体に使用される材料に応じて、外側表面に酸化した遮蔽材料13の層が存在し得る。プラズマ14によって生じる損傷の主な原因は3つある。第一に、核融合反応によって生成された高エネルギー中性子15は、本質的に遮蔽体の構造から原子をノックアウトし、材料を通って伝播し、材料特性(機械的特性、熱的特性又は超伝導特性など)を劣化させる損傷カスケード16を生成する。第二に、核融合反応からの熱流束17は著しく、不均一な加熱及びHTSコアによって誘導される熱応力により遮蔽体に損傷を与える可能性がある。温度が高くなると、超伝導性を維持しながら流すことができる電流が減少し、コイルの抵抗が急激に増加し、磁石がクエンチする可能性がある。最後に、プラズマのエネルギー粒子は、遮蔽体の外側表面を除去する(18)。これは遮蔽体自体に損傷を与えるだけでなく、遮蔽体がプラズマに直接曝されるとプラズマを汚染する可能性もある。これらの影響に抵抗し、中性子が超伝導コイルに到達するのを防ぐことができる遮蔽材料を有することが望ましい。
【0006】
現在の遮蔽体の設計はまた、多くの場合、遮蔽体を冷却するためと中性子を減速させる(遮蔽体の有効性を高める)ための両方に水路を使用する。しかしながら、これには問題がある。加圧されたシステム、水の汚染、活性化及び蒸発のリスク、及び取り扱いを誤ると原子炉からの水が環境に入る可能性のために、アプリケーションの廃棄又はメンテナンス時に水を処理するのが難しいためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、減速のために水を必要としない効果的な中性子遮蔽体が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様によれば、中性子遮蔽体が提供される。中性子遮蔽体は、複数の吸収層と、少なくとも1つの減速層とを含む。複数の吸収層はそれぞれ、ホウ化タングステン又は炭化タングステンを含む。少なくとも1つの減速層は金属水素化物を含む。それぞれの減速層は少なくとも2つの吸収層の間にある。
【0009】
第2の態様によれば、中性子遮蔽体が提供される。中性子遮蔽体は金属水素化物を含む。金属水素化物は、
0.02eVから0.03eVの間の中性子エネルギー範囲で0.1バーンよりも大きい平均中性子吸収断面積を有し、かつ
合金中の他のすべての金属と共に少なくとも1モル%の固溶度を有する
中性子吸収元素を含む。
【0010】
「平均中性子吸収断面積」は、存在するその元素のすべての同位体の特定の範囲における中性子吸収断面積の平均(それらの存在量によって重み付けされている)をいう。中性子吸収元素の同位体の分布は、それらの天然存在度であってもよいし、必要な平均中性子吸収断面積を有する他の分布であってもよい。
【0011】
第3の態様によれば、トカマク核融合炉が提供される。トカマク核融合炉は、トロイダルプラズマチャンバと、プラズマ閉じ込めシステムと、中性子遮蔽体とを含む。プラズマ閉じ込めシステムは、プラズマチャンバの内部にプラズマを閉じ込めるための磁場を生成するように配置される。中性子遮蔽体は、第1又は第2の態様による中性子遮蔽体であり、トロイダルプラズマチャンバの内部とプラズマ閉じ込めシステムとの間に配置される。
【0012】
更なる実施形態は、請求項2以下に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】トカマクの中心コラムの中性子遮蔽体と、その設計上の課題を示す。
図2】例示的な中性子遮蔽体の概略図である。
図3】更なる例示的な中性子遮蔽体の概略図である。
図4】トカマクプラズマチャンバの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
高エネルギー中性子源(球状トカマクの中心コラムなど)から生じる有感物質の吸収線量を低減するための効果的でコンパクトな放射線遮蔽体は、バルク材料中の高Z(原子質量)元素と低Z元素の組合せを必要とする。数MeVを超える運動エネルギーを有する高エネルギー中性子は、第一に高Z原子核との非弾性核反応、第二に低Z原子核との弾性散乱という2つの主要な機構によって効果的に減速される。非弾性散乱後、二次中性子エネルギーは通常、高Z元素との後続の非弾性核反応の反応閾値エネルギーを下回っているため、低Z元素によってのみ効果的に減速される。したがって、高Z及び低Z元素の組み合わせを使用して、遮蔽体を越えて有感物質に入射する高エネルギー中性子束を低減することができる。
【0015】
効果的な高エネルギー中性子遮蔽体は、中性子源から保護対象物までの順に、
・プラズマから中性子エネルギーを下げるための原子質量の大きい元素を含む材料(特に非弾性散乱や中性子増倍反応のための断面積の大きい材料)
・中性子をさらに減速させて最適な断面積のエネルギーにするための中性子減速材(すなわち、原子質量の小さい元素を含む材料)
・減速された中性子を吸収するための中性子吸収材
・初期段階の中性子相互作用により発生したガンマ線を吸収するためのガンマ遮蔽体
の4つの主要セクションを必要とする。単一の材料又は複合材料が、例えば、中性子吸収材及びガンマ遮蔽体として、複数の機能を果たすことができる場合、2つ以上のセクションを組み合わせることができる。
【0016】
従来の遮蔽体では、中性子減速材は水であることが多く、上記のように廃棄と安全のために慎重な取り扱いが必要である。
【0017】
タングステンは、鉛などの他の高Z元素と比較して、その高いZ数(74)と安定した化合物での一般に高い質量及び数密度の両方のために、第一段階の高Z構成元素として理想的な選択肢である。ホウ化タングステンは、中性子遮蔽体の構成要素としてホウ素を追加するため、遮蔽用途に特に適している。ホウ素は、低エネルギーの中性子が遮蔽体を通るのを防ぐ低エネルギーでの効果的な中性子吸収材である。さらに、タングステンはガンマ線の効果的な吸収材である。このため、ホウ化タングステンは、中性子減速材を除いて、上記セクションのすべてとして作用することができる(ホウ素は、例えば水素と比較して有意な減速効果がないため)。炭化タングステンは、炭素が中性子エネルギーの減速を提供するため、例えば水素ほど効果的ではないが、遮蔽用途にも適している。このため、炭化タングステンは上記セクションのすべてに使用することができるが、一般に減速材としては水素含有材料が、中性子吸収材としてはホウ化タングステンがより性能が優れている。
【0018】
水素は数MeV未満の理想的な中性子減速材であり、多くの可能性がある材料の構成元素として利用できる。ただし、最も一般的な水と炭化水素は、核融合発電所に統合されると問題がある。金属水素化物は、水素密度の点では水及び炭化水素と同等であるが、室内圧力では水又は典型的な炭化水素よりもかなり高い温度で固体のままである。これにより、中性子遮蔽体構造の設計が容易になり(固体構成要素は液体構成要素よりも一体化が容易であるため)、メンテナンスと廃止が容易になる(固体構成要素の漏洩のリスクが低いため)。
【0019】
このため、ホウ化タングステンと金属水素化物の「サンドイッチ」であり、ホウ化タングステンの2つの層201、203とそれらの間の金属水素化物の層202とを有する、図2に示すような複合遮蔽体は、中性子照射205から敏感なコンポーネント204を保護するための中性子遮蔽体として非常に有効である。実際、ホウ化タングステン(又は炭化タングステン)と金属水素化物との交互の層を有し、径方向外側層としてホウ化タングステン(又は炭化タングステン)を有する多層遮蔽体が一般に有効であろう。
【0020】
ホウ化タングステンは様々な形態で、例えば、硬化されたホウ化タングステン(金属マトリックス中のホウ化タングステンの粒子)、焼結されたホウ化タングステンとして、又は金属タングステン及び/又は他の元素との合金などとして提供され得る。ホウ化タングステン化合物のいずれも、遮蔽用途の特定の構造的考慮によって必要とされるように使用され得る。1つの有望なアプローチは、W2Bを有するタングステンの二相構造であり、これは、純タングステンを窒化ホウ素と共に真空ホットプレスすることを含む既知のプロセスで形成することができ、有用な熱的特性及び機械的特性を有する材料を生成する。
【0021】
炭化タングステンも様々な形態で、例えば、硬化された炭化タングステン(金属マトリックス中の炭化タングステンの粒子)として、又はセラミック金属(サーメット)炭化タングステン、反応焼結された炭化/ホウ化タングステン、又はモノリシックな炭化タングステンとして提供され得る。
【0022】
減速材として使用できる可能性がある金属水素化物には、水素化リチウム(LiHx)、水素化ハフニウム(HfHx)、水素化イットリウム(YHx)及び水素化ジルコニウム(ZrHx)、又はこれらの組み合わせが含まれる。いずれの場合も、水素化物は最も一般的な化合物の化学式で識別されているが、他の水素化物(又はその組合せ、又は純金属との合金)を使用することもできる。正確な水素対金属比xは、必要とされる減速の程度、必要とされる構造特性に基づいて選択することができ、一般に、0.1から4の間、又は1から2の間である。中性子遮蔽体のシミュレーション試験では1.33の値を使用した。
【0023】
ホウ化タングステンは、一般に、遮蔽体の大部分を構成し、ホウ化タングステン層の総厚は、ホウ化タングステン及び金属水素化物の総厚の75%から99%の間、より詳細にはホウ化タングステン及び金属水素化物の総厚の80%から95%の間にある。中性子源に面しているホウ化タングステン層201(すなわち、外側のホウ化タングステン層の1つ)は、ホウ化タングステン及び金属水素化物の総厚の30%から90%の間、より詳細には、総厚の40%から80%の間であることができる。層201は、単一の層として図2に示されているが、複数の個別の層から構成されてもよい。他方のホウ化タングステン層(すなわち、金属水素化物層がこの層と中性子に面している層との間にあり、一般に最終層203である層)の1つは、ホウ化タングステン及び金属水素化物の総厚の少なくとも10%であり得る。他方のホウ化タングステン層の厚さの上限は、ホウ化タングステンの総厚と中性子に面している層内のホウ化タングステンの厚さとの差によって定められることが理解されるであろう。
【0024】
上記の説明のいずれにおいても、ホウ化タングステン(WB)は、炭化タングステン(WC)又はホウ化タングステンと炭化タングステンとの組合せに置き換えることができる。
【0025】
更なるHfHx層及びWB層を有する構造、例えば、複数のHfHx層がそれぞれWB層又はWC層によって分離され、径方向外側層としてWB層又はWC層を有する構造も良好に機能することができる。同様の組成は、他の金属水素化物についても良好に機能すること予想される。
【0026】
層状のWB‐HfHx‐WB遮蔽体(x=1.33の場合)のシミュレーションは、同じ総厚の炭化タングステンと水の遮蔽体の基準よりも最大5倍効果的な(すなわち、下にあるコンポーネントへのエネルギー蓄積が5分の1である)遮蔽を提供した。実際に入手可能なホウ化タングステン及び水素化ハフニウム材料(純粋なHfHx又はシミュレーションで使用される特定のホウ化タングステン組成ではなく)についてこれを調整すると、同様の結果が得られた。
【0027】
ホウ化タングステン又は炭化タングステン層は、ホウ化タングステン又は炭化タングステンを含む複合材料、例えば、金属マトリックスにホウ化タングステン又は炭化タングステン粒子を含むサーメットから形成することができる。さらに、上述のように、ホウ化タングステン/炭化タングステン層は、ホウ化タングステン又は炭化タングステンの混合物を含有することができ、これは、何らかの他の材料との複合材料(例えば、集合体としてホウ化タングステンと炭化タングステンの両方を有するサーメット)であることができる。
【0028】
同様に、1つまたは複数の金属水素化物層は、金属水素化物を含む複合材料、例えば金属被覆された金属水素化物層から形成することができる。金属水素化物層は、合金中の複数の金属の水素化物を含むことができる。これは、合金水素化物の熱分解曲線(すなわち、ある温度で材料から放出される水素の量)がより広い温度プロファイルを有し、熱分解の結果として生成される水素を吸収又は除去するように構成されている任意のシステムがより容易に水素を収容することを可能にするという利点を提供する。一例として、金属水素化物層は、互いに体心立方固溶体を形成することが知られている金属、例えば、周期表の第4族、第5族及び第6族の金属(例えば、ハフニウム、ニオブ、タンタル、チタン、タングステン、ジルコニウムなど)、及び/又はイットリウム、ガドリニウム、ベリリウム、及びウランの任意の組み合わせを含むことができる。
【0029】
1つの可能性は、いくつかの(例えば、少なくとも5つの)異なる金属を有し、どの金属も材料特性を支配しないように、それぞれの金属の原子比(すなわち、その金属の原子数を水素化物中の金属原子の総数で割ったもの)が5%から50%(又は5%-30%)である、「高エントロピー合金」のような構造を使用することである。単一の金属水素化物と同様に、水素化物中の(全)金属原子に対する水素原子の比率は、0.1から4の間、より好ましくは1から2の間であり得る。
【0030】
複合材料の可能性を考える場合、「炭化タングステン及び/又はホウ化タングステン」材料を「吸収層」と呼ぶことができ、「金属水素化物層」を「減速層」と呼ぶことができる。当然のことながら、これらのラベルはいずれかの層の機能を制限するものとみなされるべきではないが、それは、組成によっては吸収層において何らかの減速が行われ、その逆もあり得るからである。ラベルは主に、例えばホウ化タングステン層が純粋なホウ化タングステンでなければならないと暗示する可能性のある混乱を避けるために機能する。
【0031】
遮蔽体は、(図2に示すように)連続していることができ、すなわち、ホウ化タングステン層と金属水素化物層とが互いに当接していることができる。代替的に、図3に示すように、ホウ化タングステン層310と金属水素化物層320との間に又はこれらの層の1つ以上の内部に、冷却剤チャネル301、302又は他の要素(例えば、温度センサ、放射線センサ及び/又は応力センサ)があってもよい。冷却剤チャネルは、液体又は気体の冷却剤を運ぶように構成することができる(水は冷却剤として使用することができ、遮蔽体は、遮蔽体からの水の除去を行わない場合でも、既存の設計に対する有用な代替手段を提供するであろう)。
【0032】
遮蔽体の最大動作温度は、一般に、金属水素化物の熱分解温度(すなわち、金属水素化物が部分的に分解して水素を放出する温度)によって定義される。実際の動作温度は、原子炉の安全ケースによっていくらかの水素放出が許容される可能性があるので、熱分解温度よりもわずかに高い可能性がある。金属水素化物をステンレス鋼又は類似のもので封じ込めることにより、原子炉システムへの水素放出を防ぐことができる。パルス長が10秒未満の核融合炉などの中性子負荷が低い又は一時的な用途では、遮蔽体の直接冷却は一般に必要とされない(ただし、予防措置として提供されてもよい)。高い中性子負荷が持続する用途では、遮蔽体を使用する金属水素化物の熱分解温度より低く保つために冷却が必要とされる。一般に、水素化ハフニウム及び水素化イットリウムについては温度を約600°Cより低く保つ必要があり、水素化ジルコニウムについては温度を約300°Cより低く保つ必要があり、水素化リチウムについては温度を約200°Cより低く保つ必要がある。
【0033】
冷却は、(簡単に上述したように)遮蔽体内の冷却剤チャネルによって、又は遮蔽層の外側の冷却剤チャネルへの熱伝導によって提供することができる。
【0034】
図4は、核融合炉として使用するためのトカマクプラズマチャンバを示し、トカマクプラズマチャンバは、プラズマ容器41と、プラズマ43を閉じ込めるための磁気プラズマ閉じ込めシステム42とを含む。トカマクはまた、プラズマ容器と磁気プラズマ閉じ込めシステムとの間に位置する中性子遮蔽体44、45を、中央カラム中性子遮蔽セクション44と外側遮蔽セクション45の両方に含む。
【0035】
上記は主に多層遮蔽体を対象としているが、同様の原理を適用して、金属水素化物を含む単層中性子遮蔽体を提供することができる。例えば、少なくとも1つの中性子吸収元素を含む金属合金の水素化物である中性子吸収及び減速材料を含む中性子遮蔽体を提供することができる。本開示の用語において、「中性子吸収元素」は、0.02eVから0.03eVの間の中性子エネルギー範囲で0.1バーンよりも大きい平均中性子吸収断面積を有する。「平均中性子吸収断面積」は、存在するその元素のすべての同位体の特定の範囲における中性子吸収断面積の平均(それらの存在量によって重み付けされている)をいう。中性子吸収元素の同位体の分布は、それらの天然存在度であってもよいし、必要な平均中性子吸収断面積を有する他の分布であってもよい。合金に適した元素は、多層の解決策の金属水素化物について上述したものと同じである。好適な中性子吸収元素には、ハフニウム、タングステン、ホウ素、ジスプロシウム及びガドリニウムが含まれる(これらはすべて天然の同位体存在度で適しているが、異なる同位体存在度で使用することもできる)。
【0036】
中性子吸収元素の割合は5モル%以上であり得る。材料内の他の元素に対する水素の比率は0.1から4の間、より好ましくは1から2の間である。材料は、水素以外の少なくとも5つの元素(そのうちの少なくとも1つは強力な中性子吸収元素である)を含む高エントロピー合金であることができ、非水素元素のそれぞれは、(水素を除く原子比で)合金の5モル%から50モル%の間である。材料は、中性子吸収元素の水素化物であってもよい。
【0037】
このような材料は、多層遮蔽体、例えば、中性子を吸収し又は減速させる他の材料に加えて中性子吸収及び減速材料を含む遮蔽体、又は中性子吸収及び減速材料と金属被覆又は同様の保護層とを含む遮蔽体の一部として使用することもできる。
【0038】
材料は、その組成がその厚さによって変わるように等級分けされ得る。例えば、中性子遮蔽体の径方向外側表面に向かって中性子吸収材料の割合がより大きくなり、中性子遮蔽体の径方向内側表面に向かって水素の割合がより大きくなり得る。
図1
図2
図3
図4