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特許7527386新型コロナウイルスのヒトモノクローナル抗体およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】新型コロナウイルスのヒトモノクローナル抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/10 20060101AFI20240726BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240726BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240726BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240726BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240726BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240726BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240726BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240726BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240726BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C07K16/10
C12P21/08
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61K39/395 S
A61P31/14
A61K35/12
A61K48/00
G01N33/569 L
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022550744
(86)(22)【出願日】2021-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(86)【国際出願番号】 CN2021077392
(87)【国際公開番号】W WO2021169932
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】202010114283.8
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010137486.9
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110044541.4
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517121939
【氏名又は名称】中国科学院微生物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MICROBIOLOGY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100221523
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】厳 景華
(72)【発明者】
【氏名】史 瑞
(72)【発明者】
【氏名】王 奇慧
(72)【発明者】
【氏名】高 福
(72)【発明者】
【氏名】馬 素芳
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】Emerging Microbes and Infections,2020年02月17日,Vol.9, No.1,pp.382-385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
019-nCoV受容体結合ドメイン(RBD)に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
前記抗体またはその抗原結合フラグメントが、
(I)それぞれ、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3を有する重鎖可変領域、ならびに、それぞれ、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3を有する軽鎖可変領域、または
(II)それぞれ、配列番号25、配列番号26および配列番号27に示されるアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3を有する重鎖可変領域、ならびに、それぞれ、配列番号28、配列番号29および配列番号30に示されるアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3を有する軽鎖可変領域を含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、
(I)前記重鎖可変領域が、配列番号7に示されるアミノ酸配列、または配列番号7に示される前記アミノ酸配列に対する少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号8に示されるアミノ酸配列、または配列番号8に示される前記アミノ酸配列に対する少なくとも95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいは
(II)前記重鎖可変領域が、配列番号31に示されるアミノ酸配列、または配列番号31に示される前記アミノ酸配列に対する少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号32に示されるアミノ酸配列、または配列番号32に示される前記アミノ酸配列に対する少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
(I)配列番号7に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または
(II)配列番号31に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号32に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
前記抗体が、重鎖および軽鎖を含み、
(I)前記重鎖が、配列番号22に示されるアミノ酸配列、または配列番号22に示される前記アミノ酸配列に対する少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記軽鎖が、配列番号23に示されるアミノ酸配列、または配列番号23に示される前記アミノ酸配列に対する少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいは
(II)前記重鎖が、配列番号33に示されるアミノ酸配列、または配列番号33に示される前記アミノ酸配列に対する少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記軽鎖が、配列番号34に示されるアミノ酸配列、または配列番号34に示される前記アミノ酸配列に対する少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
前記抗体が、
(I)配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号23に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖、または
(II)配列番号33に示されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号34に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む、請求項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
前記抗原結合フラグメントが、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、scFv、F(ab’)2、ダイアボディから選択される、請求項1~のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
配列番号31、32、33または34から選択される配列を含むポリペプチドであって、前記ポリペプチドは、2019-nCoV受容体結合ドメイン(RBD)に特異的に結合するモノクローナル抗体の一部であり、
前記ポリペプチドが、配列番号31を含む場合、前記モノクローナル抗体は、配列番号32に示されるポリペプチドをさらに含み、
前記ポリペプチドが、配列番号32を含む場合、前記モノクローナル抗体は、配列番号31に示されるポリペプチドをさらに含み、
前記ポリペプチドが、配列番号33を含む場合、前記モノクローナル抗体は、配列番号34に示されるポリペプチドをさらに含み、または
前記ポリペプチドが、配列番号34を含む場合、前記モノクローナル抗体は、配列番号33に示されるポリペプチドをさらに含む、ポリペプチド。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項に記載のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターであって、好ましくは、前記ベクターは、真核生物発現ベクターである、発現ベクター。
【請求項10】
請求項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項に記載の発現ベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は、真核細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞である、宿主細胞。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項に記載のポリペプチドをインビトロにて調製するための方法であって、前記抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは前記ポリペプチドを、請求項10に記載の宿主細胞において、前記抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは前記ポリペプチドの発現に適した条件下で発現させ、次いで発現された前記抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは前記ポリペプチドを前記宿主細胞から回収することを含む、方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項に記載のポリペプチド、請求項に記載のポリヌクレオチド、請求項に記載の発現ベクターおよび/または請求項10に記載の宿主細胞と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項13】
2019-nCoV感染の治療および/または予防のための医薬を調製するための、請求項1~のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項に記載のポリペプチド、請求項に記載のポリヌクレオチド、請求項9に記載の発現ベクター、請求項10に記載の宿主細胞および/または請求項12に記載の医薬組成物の使用。
【請求項14】
請求項1~のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項に記載のポリペプチド、請求項に記載のポリヌクレオチド、請求項に記載の発現ベクター、請求項10に記載の宿主細胞および/または請求項12に記載の医薬組成物を含む、キット。
【請求項15】
2019-nCoV感染の診断のための医薬を調製するための、請求項14に記載のキットの使用。
【請求項16】
サンプルにおける2019-nCoVの存在を検出するための薬剤であって、請求項1~のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは請求項に記載のポリペプチドを含む、薬剤。
【請求項17】
2019-nCoV感染を治療および/または予防するための薬剤であって、請求項1~のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項に記載のポリペプチド、請求項に記載のポリヌクレオチド、請求項に記載の発現ベクター、請求項10に記載の宿主細胞、および/または請求項12に記載の医薬組成物を含む、薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療技術の分野にあり、特に、高い中和活性を有する新型コロナウイルス(2019-nCoV、SARS-CoV-2としても知られる)に対するヒトモノクローナル抗体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年10月22日の時点で、新型コロナウイルス2019-nCoVが引き起こす疾患(COVID-19)の確認された症例数は、全世界で4000万を超え、死亡数は、110万を超えており、公衆の生命および健康に大きな脅威を及ぼしている。
【0003】
しかしながら、現在、このウイルスに対して特異的な薬剤は存在しない。
【0004】
治療用抗体医薬は、腫瘍および自己免疫疾患においてだけでなく、感染性疾患の治療においても重要な役割を果たしている。現在市販されているウイルス感染を治療および予防するための薬物は、小児呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染を予防するためのSynagis、HIV感染を治療するためのTrogarzo、および狂犬病ウイルスの曝露後予防のためのRabishieldである。臨床研究の種々の段階にあるいくつかのモノクローナル抗体もまた存在する(https://clinicaltrials.gov/)。
【0005】
2019-nCoVは、コロナウイルスに属する。コロナウイルスの同じ属の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)および中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)もまた、それぞれ2002~2003年および2012年にアウトブレイクを引き起こした。世界保健機関(WHO)によれば、SARS-CoVは8,000人の感染および794人の死亡を引き起こしている(https://www.who.int/)。MERS-CoV感染性ウイルス症例の数は、2012年以来増加し続けており、2019年の終わりまでに全世界で2,499人の感染および861人の死亡が確認されている。2020年1月12日に、世界保健機関は、新型コロナウイルスを「2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)」と公式に命名し、次いで、新たなコロナウイルス(2019-nCoV)が、2020年2月11~12日に国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)として公式に分類されたことを発表した。世界保健機関(WHO)は、同日、ジュネーブで開催されたGlobal Research and Innovation Forumで、このウイルスによって引き起こされる疾患が「COVID-19」と公式に命名されたことを発表した。
【0006】
細胞に感染するために、ウイルスはまずエンベロープタンパク質を通じて宿主の受容体に結合する必要がある。抗体、特に中和活性抗体は、エンベロープタンパク質に結合することによってウイルス感染を遮断し、それによってウイルスの細胞受容体への結合を遮断する。その間、抗体は、エンベロープタンパク質に結合し、それによって遊離ウイルスまたは感染細胞を標識し、マクロファージまたは免疫細胞(例えば、補体)および免疫分子を抗体のFc領域を通じて動員し、それによって遊離ウイルスおよび感染細胞を排除する。したがって、受容体結合ドメイン(RBD)を標的とする抗体は、ウイルス感染を中和する活性を有するだけでなく、また、ウイルスおよび感染細胞のクリアランスを促進するようにFc領域を通じて作用する。
【0007】
他のコロナウイルスの研究、特にSARS-CoVおよびMERS-CoVの研究に基づけば、受容体に結合する重要なエンベロープタンパク質は、スパイクタンパク質(S)である。Sは、S1およびS2の2つの部分にさらに分けられ得る。S2の役割は、膜融合を媒介することである。S1のN末端(NTD)およびC末端(CTD)の両方がRBDであり得る。2019-nCoVの研究を通じて、チームは、CTDがこのコロナウイルスのRBDであり、受容体ACE2に結合することを見出した。したがって、RBDを標的とし、SのACE2への結合を遮断する抗体は、ウイルス感染を阻害する中和抗体であり得る。本発明の目的は、2019-nCoVに対する防御効果を有する特異的ヒト中和抗体を同定することである。
【発明の概要】
【0008】
防御効果を有するヒト中和抗体を得るために、本発明は、まず、昆虫細胞によって発現された2019-nCoV RBDを抗原として使用するフローソーティングによって、2019-nCoV感染後に治癒した退院者の末梢血単核細胞(PBMC)から、2019-nCoV RBDタンパク質に特異的に結合するメモリーB細胞を選択し、次いで、選択された単一B細胞に対してRT-PCRを行って、抗体の可変領域配列およびフラグメントを得、さらに定常領域を発現ベクター中に連結する。哺乳動物細胞において発現および精製された後、2019-nCoV RBDタンパク質への結合能力、2019-nCoV RBDのACE2への結合を遮断する遮断効果、および2019-nCoV感染を阻害する中和効果を含む、一連の機能試験が行われた。2019-nCoV感染を中和するヒトモノクローナル抗体が得られ、それらはそれぞれCB6およびGH12と命名された。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】2019-nCoV RBDのゲルろ過クロマトグラフィーおよびSDS-PAGE同定を示す。
図2】2a:CB6抗体のモレキュラーシーブクロマトグラフィーおよびSDS-PAGE同定を示す。2b:GH12抗体のモレキュラーシーブクロマトグラフィーおよびSDS-PAGE同定を示す。
図3】3a:2019-nCoV RBDに結合するCB6抗体の動力学プロファイルを示す。3b:2019-nCoV RBDに結合するGH12抗体の動力学プロファイルを示す。
図4】4a:CB6抗体は、2019-nCoV RBDのHEK293T-hACE2への結合を遮断する。4b:GH12抗体は、2019-nCoV RBDのHEK293T-hACE2への結合を遮断する。
図5】5a:VSV-2019-nCoV感染を中和するCB6抗体の効果を示す。5b:VSV-2019-nCoV感染を中和するGH12抗体の効果を示す。
図6】SARS-CoV-2生ウイルスに対するCB6抗体の中和を示す。
図7】実験動物の体温および体重変化を示す。7a:実験動物の温度変化を示す。7b:実験動物の体重変化を示す。
図8】実験動物の咽喉スワブ、鼻腔スワブおよび肛門スワブのウイルス量の変化を示す。8a:咽頭スワブウイルス量:咽頭スワブのウイルス量は、ウイルスが動物において有効に増幅され得ることを反映するが、抗体処理後、ウイルス量は大いに減少するかまたは基本的に検出され得ない。8b:鼻腔スワブウイルス量:鼻腔スワブ中のウイルス量は低く、すべて検出限界付近であるかまたはそれより下である。8c:肛門スワブウイルス量:ウイルス量は低く、すべて検出限界付近であるかまたはそれより下である。L.O.D(検出限界):200コピー/ml。
図9】実験動物の画像分析を示す。9a:対照群中の動物のX線観察を示す。(上):C1、(中):C2、(下):C3。9b:予防群中の動物の画像観察を示す。(上):PA1、(中):PA2、(下):PA3。9c:治療群中の動物の画像観察を示す。(上):AC1、(中):AC2、(下)AC3。
図10】実験動物の気管、気管支および肺のウイルス量の分析を示す。10a:チャレンジ後5日目。10b:チャレンジ後6日目。10c:チャレンジ後7日目。L.O.D(検出限界):検出限界、1000コピー/g。
【発明を実施するための形態】
【0010】
具体的には、本発明は以下の態様によって達成される。
【0011】
(I)
一態様では、本発明は、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を含む、2019-nCoV受容体結合ドメイン(RBD)に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
重鎖可変領域が、
(I)それぞれ、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3、または、それぞれ、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列との1、2もしくは3個のアミノ酸の差異を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3、あるいは
(II)それぞれ、配列番号25、配列番号26および配列番号27に示されるアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3、または、それぞれ、配列番号25、配列番号26および配列番号27に示されるアミノ酸配列との1、2もしくは3個のアミノ酸の差異を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、
軽鎖可変領域が、
(I)それぞれ、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3、または、それぞれ、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示されるアミノ酸配列との1、2もしくは3個のアミノ酸の差異を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3、あるいは
(II)それぞれ、配列番号28、配列番号29および配列番号30に示されるアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3、または、それぞれ、配列番号28、配列番号29および配列番号30に示されるアミノ酸配列との1、2もしくは3個のアミノ酸の差異を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体またはその抗原結合フラグメントが、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を含み、
重鎖可変領域が、
(I)それぞれ、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3、または
(II)それぞれ、配列番号25、配列番号26および配列番号27に示されるアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、
軽鎖可変領域が、
(I)それぞれ、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3、または、
(II)それぞれ、配列番号28、配列番号29および配列番号30に示されるアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0013】
いくつかの実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体またはその抗原結合フラグメントが、
(I)それぞれ、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3を有する重鎖可変領域、ならびに、それぞれ、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変領域、または
(II)それぞれ、配列番号25、配列番号26および配列番号27に示されるアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3を有する重鎖可変領域、ならびに、それぞれ、配列番号28、配列番号29および配列番号30に示されるアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3を有する軽鎖可変領域を含む、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0014】
いくつかの実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、
(I)重鎖可変領域は、配列番号7に示されるアミノ酸配列、または配列番号7に示されるアミノ酸配列に対する少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号8に示されるアミノ酸配列、または配列番号8に示されるアミノ酸配列に対する少なくとも95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいは
(II)重鎖可変領域は、配列番号31に示されるアミノ酸配列、または配列番号31に示されるアミノ酸配列に対する少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号32に示されるアミノ酸配列、または配列番号32に示されるアミノ酸配列に対する少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、
(I)配列番号7に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(II)配列番号31に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号32に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体が、重鎖および軽鎖を含み、
(I)重鎖が、配列番号22に示されるアミノ酸配列、または配列番号22に示されるアミノ酸配列に対する少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖が、配列番号23に示されるアミノ酸配列、または配列番号23に示されるアミノ酸配列に対する少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいは
(II)重鎖が、配列番号33に示されるアミノ酸配列、または配列番号33に示されるアミノ酸配列に対する少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖が、配列番号34に示されるアミノ酸配列、または配列番号34に示されるアミノ酸配列に対する少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0017】
いくつかの実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体が、
(I)配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号23に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖、または
(II)配列番号33に示されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号34に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0018】
いくつかの実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗原結合フラグメントが、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、scFv、F(ab’)2、ダイアボディから選択される、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号7、8、22または23からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ポリペプチドを提供する。
【0020】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号31、32、33または34からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ポリペプチドを提供する。
【0021】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号31、32、33または34から選択される配列を含むポリペプチドであって、ポリペプチドは、2019-nCoV RBDに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体の一部であり、
ポリペプチドが、配列番号31を含む場合、ヒトモノクローナル抗体は、配列番号32に示されるポリペプチドをさらに含み、
ポリペプチドが、配列番号32を含む場合、ヒトモノクローナル抗体は、配列番号31に示されるポリペプチドをさらに含み、
ポリペプチドが、配列番号33を含む場合、ヒトモノクローナル抗体は、配列番号34に示されるポリペプチドをさらに含むみ、または
ポリペプチドが、配列番号34を含む場合、ヒトモノクローナル抗体は、配列番号33に示されるポリペプチドをさらに含む、ポリペプチドを提供する。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載のヒトモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは本明細書に記載のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターであって、好ましくは、ベクターは、真核生物発現ベクターである、発現ベクターを提供する。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載のポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、宿主細胞は、真核細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞である、宿主細胞を提供する。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載のヒトモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはポリペプチドを調製するための方法であって、抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはポリペプチドを、本明細書に記載の宿主細胞において、抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはポリペプチドの発現に適した条件下で発現させ、次いで発現された抗体もしくはその抗原結合フラグメントを宿主細胞から回収することを含む、方法を提供する。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載のヒトモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクターおよび/または宿主細胞と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、2019-nCoV感染の治療および/または予防のための医薬の製造における、本明細書に記載のヒトモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメント、ポリペプチドまたは医薬組成物の使用を提供する。
【0028】
さらに別の態様では、本発明は、2019-nCoV感染を治療および/または予防するための方法であって、治療および/または予防を必要とする対象に、本明細書に記載のヒトモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメント、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクター、宿主細胞および/または医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、本明細書に記載のポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクター、宿主細胞および/または医薬組成物を含む、キットを提供する。
【0030】
いくつかの実施形態では、本発明は、2019-nCoV感染を診断するための医薬の製造における、キットの使用を提供する。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはポリペプチドを使用して、サンプルにおける2019-nCoVの存在を検出するための方法を提供する。
【0032】
(II)
一態様では、本発明は、2019-nCoV RBDに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
そのVH鎖の相補性決定領域のCDRが、
配列番号1に示されるCDR1、
配列番号2に示されるCDR2、および
配列番号3に示されるCDR3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、
そのVL鎖の相補性決定領域のCDRが、
配列番号4に示されるCDR1、
配列番号5に示されるCDR2、および
配列番号6に示されるCDR3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0033】
一態様では、本発明は、2019-nCoV RBDに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
そのVH鎖の相補性決定領域のCDRが、
配列番号25に示されるCDR1、
配列番号26に示されるCDR2、および
配列番号27に示されるCDR3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、
そのVL鎖の相補性決定領域のCDRが、
配列番号28に示されるCDR1、
配列番号29に示されるCDR2、および
配列番号30に示されるCDR3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0034】
一実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、
配列番号7に示される重鎖可変領域と、
配列番号8に示される軽鎖可変領域と、を含む。
【0035】
一実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、
配列番号31に示される重鎖可変領域と、
配列番号32に示される軽鎖可変領域と、を含む。
【0036】
一実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、
配列番号22に示される重鎖と、
配列番号23に示される軽鎖と、を含む。
【0037】
一実施形態では、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、
配列番号33に示される重鎖と、
配列番号34に示される軽鎖と、を含む。
【0038】
一実施形態では、ここで、抗原結合フラグメントは、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、scFv、F(ab’)2、ダイアボディから選択される。
【0039】
別の態様では、本発明は、配列番号7、8、22または23から選択される配列を含む、ポリペプチドを提供する。
【0040】
別の態様では、本発明は、配列番号31、32、33または34から選択される配列を含むポリペプチドであって、ポリペプチドは、COVID-19 RBDに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体の一部であり、
ポリペプチドが、配列番号31を含む場合、ヒトモノクローナル抗体は、配列番号32に示されるポリペプチドをさらに含み、
ポリペプチドが、配列番号32を含む場合、ヒトモノクローナル抗体は、配列番号31に示されるポリペプチドをさらに含み、
ポリペプチドが、配列番号33を含む場合、ヒトモノクローナル抗体は、配列番号34に示されるポリペプチドをさらに含み、または
ポリペプチドが、配列番号34を含む場合、ヒトモノクローナル抗体は、配列番号33に示されるポリペプチドをさらに含む、ポリペプチドを提供する。
【0041】
別の態様では、本発明は、前述のヒトモノクローナル抗体もしくはその抗原結合フラグメントのいずれか1つ、または前述のポリペプチドのいずれか1つをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。
【0042】
さらに別の態様では、本発明は、上記のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0043】
さらに別の態様では、本発明は、上記の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0044】
さらに別の態様では、本発明は、前述のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントのいずれか1つと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0045】
さらに別の態様では、本発明は、2019-nCoV感染を治療するための医薬の製造における、上記のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントのいずれか1つの使用を提供する。
【0046】
本明細書に開示されるヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントはまた、SARS-CoV RBDまたはMERS-CoV RBDなどのコロナウイルスに特異的に結合する。
【0047】
本明細書において言及されるすべての文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0048】
定義
本発明の実施は、別段の指示がない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来技術を用い、これらは当技術分野の技術範囲内である。
【0049】
本発明がより容易に理解され得るために、特定の科学用語および技術用語は以下のように具体的に定義される。本明細書中の他の部分における別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。当技術分野の定義および用語について、当業者は、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubel)を特に参照し得る。アミノ酸残基のための略語は、20個の一般的に使用されるL-アミノ酸のうちの1つを指すために当技術分野で使用される標準的な3文字および/または1文字コードである。本明細書で使用される場合(特許請求の範囲を含む)、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈による明確な別段の指示がない限り、対応する複数を包む。
【0050】
「約」という用語は、数値と併せて使用される場合、指定された数値より5%小さな下限と、指定された数値より5%大きな上限とを有する範囲内の数値を包含することが意図され、±5%、±2%、±1%、および±0.1%を含むが、これらに限定されず、そのような変動は、開示される方法を行うために適切である。
【0051】
「および/または」という用語は、選択肢のうちの任意の1つ、または選択肢のうちの任意の2つもしくはそれ以上の組み合わせを意味すると理解される。
【0052】
本明細書で使用される場合、「または」という用語は、上記で定義される「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト中の項目を区切る場合、「または」または「および/または」は、包含的である、すなわち、数または要素のリストうちの少なくとも1つ(2つ以上も含む)、および、任意選択で、追加のリストされていない項目を含むものと解釈されるべきである。特許請求の範囲において使用される「1つのみ」または「実際に1つ」、または「からなる」など、用語が明確にそれとは反対に指示されている場合にのみ、1つの数またはリストの1つの要素のみを指す。
【0053】
「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」または単に「同一性」という用語は、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮することなしに最大パーセント配列同一性を得るようにアミノ酸配列に整列させた(かつ、必要に応じて、ギャップを導入した)後に、参照アミノ酸配列中のアミノ酸残基と同一である候補アミノ酸配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。配列アラインメントは、パーセントアミノ酸配列同一性を決定するための当技術分野で知られている種々の方法を使用して、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMEGALIGN(DNASTAR)ソフトウェアなどの公開されているコンピューターソフトウェアを使用して、行われ得る。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを得るために必要とされる任意のアルゴリズムを含めて、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定し得る。
【0054】
「抗体」という用語は、所望の生物学的活性を有する任意の形態の抗体を指す。したがって、それは、その最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ヒト化抗体、全ヒト抗体、キメラ抗体、およびラクダ化単一ドメイン抗体を含むが、これらに限定されない。
【0055】
「モノクローナル抗体」という用語は、抗体の実質的に均一な集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る可能な天然に存在する変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一のエピトープに対するものである。対照的に、従来の(ポリクローナル)抗体調製物は、典型的には、様々なエピトープに対する(または特異的な)多数の抗体を含む。「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均一な集団から得られているという抗体の特徴を示すものであり、いずれかの特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきでない。
【0056】
「抗原結合フラグメント」は、親抗体の抗原結合領域または可変領域の少なくとも一部、例えば、1つ以上のCDRを一般に含む、抗体および抗体アナログの抗原結合フラグメントを指す。抗体のフラグメントは、親抗体の結合特異性の少なくともいくらかを保持する。抗原結合フラグメントには、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、scFv、F(ab’)、ダイアボディ、CDR含有ペプチドなどからなる群から選択されるものが含まれる。
【0057】
「Fabフラグメント」は、1つの軽鎖および1つの重鎖のCH1および可変領域からなる。
【0058】
「Fc」領域は、抗体のCH2およびCH3ドメインを含む2つの重鎖フラグメントを含有する。2つの重鎖フラグメントは、2つ以上のジスルフィド結合によって、およびCH3ドメインの疎水作用によって一緒に保持される。
【0059】
「Fab’フラグメント」は、軽鎖と、VHドメイン、CH1ドメイン、およびCH1ドメインとCH2ドメインとの間の定常領域の部分を含む重鎖の部分とを含み、鎖間ジスルフィド結合が2つのFab’フラグメントの2つの重鎖の間に形成されて、F(ab’)分子を形成する。
【0060】
「F(ab’)フラグメント」は、2つの軽鎖と、VHドメイン、CH1ドメイン、およびCH1ドメインとCH2ドメインとの間の定常領域の部分を含む重鎖の2つの部分とを含み、それによって2つの重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合を形成する。したがって、F(ab’)フラグメントは、2つの重鎖の間のジスルフィド結合によって一緒に保持された2つのFab’フラグメントからなる。
【0061】
「Fv領域」は、重鎖および軽鎖の両方からの可変領域を含むが、定常領域を欠く。
【0062】
「単鎖Fv抗体」(scFv抗体)は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む抗原結合フラグメントを指し、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に含まれる。一般に、scFvポリペプチドは、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にするVHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーを含む。
【0063】
「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗原結合フラグメントである。このフラグメントは、同じポリペプチド鎖中に、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む(VH-VLまたはVL-VH)。短く、同じ鎖の2つのドメインの間で対形成することを可能にしないリンカーを使用することによって、ドメインは、他の鎖の相補性ドメインと対形成し、2つの抗原結合部位を形成する。
【0064】
「特異的」結合は、リガンド/受容体、抗体/抗原または他の結合対に言及する場合、タンパク質および/または他の生物学的物質の不均一な集団における、本発明のモノクローナル抗体などのタンパク質の、2019-nCoV RBDタンパク質との結合反応の存在または非存在を決定することを指す。したがって、特異的条件下で、特定のリガンド/抗原は、特定の受容体/抗体に結合し、サンプル中に存在する他のタンパク質には有意な量で結合しない。
【0065】
「親和性」または「結合親和性」は、結合対のメンバー間の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離速度定数と結合速度定数(それぞれ、kdisおよびkon)の比である、平衡解離定数(KD)によって表され得る。親和性は、当技術分野で知られている一般的な方法によって測定され得る。親和性を測定するための1つの特定の方法は、本明細書におけるForteBio動力学結合アッセイである。タンパク質または細胞に「結合しない」という用語は、それがタンパク質または細胞に結合しない、または高親和性でそれに結合しないことを意味し、すなわち、結合タンパク質または細胞のKは、1.0×10-6M以上、より好ましくは1.0×10-5M以上、より好ましくは1.0×10-4M以上、1.0×10-3M以上、より好ましくは1.0×10-2M以上である。
【0066】
IgG抗体についての「高親和性」という用語は、1.0×10-6M以下、好ましくは5.0×10-8M以下、より好ましくは1.0×10-8M以下、5.0×10-9M以下、より好ましくは1.0×10-9M以下の抗原に対するKを意味する。他の抗体サブタイプについては、「高親和性」結合は変動し得る。例えば、IgMサブタイプの「高親和性」結合は、10-6M以下、好ましくは10-7M以下、より好ましくは10-8M以下のKを指す。
【0067】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖形態のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびそのポリマーを指す。具体的に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと同様の様式で代謝される既知の天然ヌクレオチドのアナログを含有する核酸を含む(その中でウリジンがプソイドウリジンによって置換されているmRNA分子、mRNA分子を合成する方法、および治療用タンパク質をインビボで送達するための方法を開示する、Kariko et al.の米国特許第8,278,036号を参照)。別段の指示がない限り、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列だけでなく、保存的に改変されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、およびその相補配列を黙示的に含む。特に、縮重コドン置換は、その中で1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの第3位が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基によって置換されている配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.,19:5081(1991)、ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.,260:2605-2608(1985)、およびRossolini et al.,Mol.Cell.Probes,8:91-98(1994))。
【0068】
「構築物」は、任意の供給源に由来し、ゲノムに組み込まれるかまたは自律的に複製することができ、その中で1つ以上のポリヌクレオチド分子が機能的に連結されている(すなわち、作動可能に連結されている)ポリヌクレオチド分子を構成する、任意の組換えポリヌクレオチド分子(例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、自律複製ポリヌクレオチド分子、ファージまたは直鎖状もしくは環状の一本鎖もしくは二本鎖のDNAもしくはRNAポリヌクレオチド分子)を指す。組換え構築物は、典型的には、宿主細胞におけるポリヌクレオチドの転写を指示する転写開始調節配列に作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを含む。異種および非異種(すなわち内因性)の両方のプロモーターが、本発明の核酸の発現を導くために使用され得る。
【0069】
「ベクター」は、形質転換目的(すなわち、宿主細胞中への異種DNAの導入)のために使用され得る任意の組換えポリヌクレオチド構築物を指す。ベクターの1つのタイプは、「プラスミド」であり、これは、その中に追加のDNAセグメントが連結され得る環状の二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターは、その中で追加のDNAセグメントがウイルスゲノム中に連結され得るウイルスベクターである。特定のベクターは、その中にそれが導入される宿主細胞中で自律複製することができる(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞中への導入に際して宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それによって宿主ゲノムと一緒に複製される。加えて、特定のベクターは、作動可能に連結された遺伝子の発現を導くことができる。そのようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と称される。
【0070】
本明細書で使用される場合、「発現ベクター」という用語は、宿主細胞中に形質転換、トランスフェクトまたは形質導入されたときに、複製し、目的の遺伝子を発現させることができる核酸分子を指す。発現ベクターは、所望であれば、ベクターの維持を確実にし、宿主中での増幅を提供するための、1つ以上の表現型選択マーカーおよび複製起点を含有する。
【0071】
本発明はまた、本発明の2019-nCoV RBDに特異的に結合するヒト高中和活性モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物を調製するために、抗体またはその抗原結合フラグメントは、薬学的に許容される担体または賦形剤と混合することによって、種々の所望の剤形に製剤化され得る。本発明の医薬組成物の剤型のタイプとしては、例えば、錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細顆粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、小丸剤、舌下錠、軟膏剤などが経口剤として挙げられ得、非経口剤としては、注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏、硬膏剤、外用液体製剤などが挙げられ、当業者は、投与経路および投与対象などに従って適切な剤型を選択し得る。
【0072】
投与される本発明の医薬組成物の有効成分の量は、投与される対象、対象の臓器、症状、投与方法などに応じて変動し、剤形のタイプ、投与方法、患者の年齢および体重、患者の症状などを考慮して医師の判断に従って決定され得る。
【0073】
本発明の有益な効果:
本発明は、ヒト起源の高中和活性抗体であるCB6およびGH12を達成する。上記の抗体は、2019-nCoV感染を中和するヒト抗体である。2019-nCoVに対するCB6抗体の結合定数は8.15E-10Mであり、2019-nCoV RBDに対するGH12抗体の親和性は5.87E-09Mであった。ヒト高中和活性抗体CB6およびGH12は、2019-nCoV RBDのhACE2への結合を有効に遮断し得、2019-nCoVシュードウイルス感染の中和活性を阻害し得る。本発明のCB6およびGH12は、2019-nCoV感染の治療および予防における臨床的有用性を有する。
【0074】
本発明の目的、態様および利点をより明らかにするために、本発明のより詳細な説明が、具体的な実施形態と組み合わせて、図面を参照して、以下で詳細に与えられる。
【実施例
【0075】
実施例1:2019-nCoV RBDの発現および精製
2019-nCoV RBDタンパク質(配列番号9に示されるアミノ酸配列)のコード領域の3’末端に、6個のヒスチジンタグ(hexa-Hisタグ)のコード配列および翻訳終止コドンを連結し、EcoRIおよびXhoIを連結することによってpFastBac1ベクター(Invitrogenから購入)中に構築した。次いで、連結産物を、バキュロウイルス組換えのためにDH10Bacコンピテント細胞(Tiangenから購入)中に形質転換した。組換えバキュロウイルスを抽出し、バキュロウイルスのパッケージングのためにsf9細胞(Invitrogenから購入)中にトランスフェクトし、増幅し、2019-nCoV RBDタンパク質の発現のためにHi5細胞(Invitrogenから購入)に添加した。
【0076】
ニッケルイオンアフィニティークロマトグラフィー(HisTrap TMHP(GE))およびゲルろ過クロマトグラフィー(Superose(商標)6 Increase 10/300 GL(GE))による精製の後、比較的純粋な標的タンパク質を、標的タンパク質を含有する細胞培養液から得ることができる。SDS-PAGEは、30KDのサイズを同定し、結果を図1に示す。
【0077】
実施例2:2019-nCoV RBDタンパク質特異的メモリーB細胞の単離
2019-nCoV感染後に回復した退院者のインフォームドコンセントを得て、15mLの血液を採取し、PBMCを単離した。単離したPBMCを、10/mLの密度で、400nMの最終濃度の2019-nCoV RBDタンパク質とともに、結合のために半時間氷上でインキュベートし、次いで、PBSで2回洗浄し、次いで、以下の抗体とともにインキュベートした(すべてBDから購入):抗ヒトCD3/PE-Cy5、抗ヒトCD16/PE-Cy5、抗ヒトCD235a/PE-Cy5、抗ヒトCD19/APC-Cy7、抗ヒトCD27/Pacific Blue、抗ヒトCD38/APC、抗ヒトIgG/FITC、および抗His/PE。氷上での半時間のインキュベーションの後、PBMCをPBSで2回洗浄した。
【0078】
PBS洗浄したPBMCをFACSAria IIIによってソートし、PE-Cy5-APC-APC-Cy7+Pacific Blue+FITC+PE+の細胞(すなわち、B細胞)を96ウェルプレート中に1細胞/ウェルで直接採取した。
【0079】
実施例3:単一B細胞PCR、配列分析およびヒト抗体設計
Qihui Wang et al.Molecular determinants of human neutralizing antibodies isolated from a patient infected with Zika virus,science Translational Medicine,vol.8,No.369,Dec.2016に記載される方法に従って、実施例2で得たB細胞を、表1に示す逆転写プライマーを用いてSuperscript III逆転写酵素(Invitrogen)によって逆転写し、55℃で60分間反応させた。
【表1】
【0080】
3.1 ヒト抗体CB6
上記の逆転写産物をテンプレートとして使用して、抗体可変領域配列を、HotStar Tap Plus酵素(QIAgen)を使用するPCR(PCRa)によって増幅した。対応するプライマーを設計し、反応条件は以下のとおりである:95℃5分;95℃30秒、55℃(重鎖)30秒、72℃90秒、35サイクル;72℃7分。この産物を、PCR産物を得るために、以下の条件下での別のラウンドのPCR(PCRb)のためのテンプレートとして使用した:95℃5分;95℃30秒、58℃(重鎖)/60℃(κ鎖)30秒、72℃90秒、35サイクル;72℃7分。
【0081】
PCR産物を、1.2%アガロースゲル電気泳動によって分離した。400~500bpのバンドサイズのゲルを回収し、シーケンシングに送った。シーケンシング結果を、IMGTオンラインソフトウェアを使用して分析した。
【0082】
分析からの適正な可変領域配列を、ブリッジPCRによって対応する重/カッパ鎖定常領域と連結し、発現ベクターpCAGGS(Addgeneから購入)中にクローニングした。重鎖をEcoRIおよびXhoIを用いて連結し、κ鎖をSacIおよびXhoIを用いて連結した。B細胞シーケンシングおよび発現プラスミド構築は以下のとおりである。
ヒト抗体設計戦略は以下のとおりである:
重鎖:CMVプロモーター-EcoRI-リーダー配列-重鎖可変領域-CH-XhoI、
軽鎖(κ):CMVプロモーター-SacI-リーダー配列-軽鎖可変領域-CL(κ)-XhoI、
ここで、リーダー配列のアミノ酸配列を配列番号18に示し、CHのアミノ酸配列を配列番号19に示し、CLのアミノ酸配列を配列番号20に示す。配列決定によって、CB6と命名された抗体の配列を得た。
【0083】
ここで、CB6の重鎖可変領域配列を配列番号7に示し、軽鎖可変領域配列を配列番号8に示し、重鎖配列を配列番号22に示し、軽鎖配列を配列番号23に示す。
【0084】
CB6の重鎖可変領域は、それぞれ、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を有し、軽鎖可変領域は、それぞれ、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3のアミノ酸配列を有する。ここで、生殖系列遺伝子に対するCB6抗体の配列同一性は、以下のように比較される。
【表2】

【表3】
【0085】
3.2 ヒト抗体GH12
上記の逆転写産物をテンプレートとして使用して、抗体可変領域配列を、HotStar Tap Plus酵素(QIAgen)を使用するPCR(PCRa)によって増幅した。対応するプライマーを設計し、反応条件は以下のとおりである:95℃5分;95℃30秒、55℃(重鎖)/50℃(ラムダ鎖)30秒、72℃90秒、35サイクル;72℃7分。この産物を、PCR産物を得るために、以下の条件下での別のラウンドのPCR(PCRb)のためのテンプレートとして使用した:95℃5分;95℃30秒、58℃(重鎖)/64℃(ラムダ鎖)30秒、72℃90秒、35サイクル;72℃7分。
【0086】
PCR産物を、1.2%アガロースゲル電気泳動によって分離した。400~500bpのバンドサイズのゲルを回収し、シーケンシングに送った。シーケンシング結果を、IMGTオンラインソフトウェアを使用して分析した。
【0087】
分析からの適正な可変領域配列を、ブリッジPCRによって対応する重/ラムダ鎖定常領域と連結し、発現ベクターpCAGGS(Addgeneから購入)中にクローニングした。ここで、重鎖を、EcoRIおよびXhoIを用いてラムダ鎖に連結する。B細胞シーケンシングおよび発現プラスミド構築は以下のとおりである。
ヒト抗体設計戦略は以下のとおりである:
重鎖:CMVプロモーター-EcoRI-リーダー配列-重鎖可変領域-CH-XhoI、
軽鎖(λ):CMVプロモーター-EcoRI-リーダー配列-軽鎖可変領域-CL(λ)-XhoI、
ここで、リーダー配列のアミノ酸配列を配列番号18に示し、CHのアミノ酸配列を配列番号19に示し、CLのアミノ酸配列を配列番号24に示す。配列決定によって、GH12と命名された抗体の配列を得た。
【0088】
ここで、GH12の重鎖可変領域配列を配列番号31に示し、軽鎖可変領域配列を配列番号32に示し、重鎖配列を配列番号33に示し、軽鎖配列を配列番号34に示す。
【0089】
GH12の重鎖可変領域は、それぞれ、配列番号25、配列番号26および配列番号27に示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を有し、軽鎖可変領域は、それぞれ、配列番号28、配列番号29および配列番号30に示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3のアミノ酸配列を有する。
【0090】
ここで、生殖系列遺伝子に対するGH12抗体の配列同一性は、以下のように比較される。
【表4】

【表5】
【0091】
実施例4:抗体の発現
293T細胞を、10%FBSを含有するDMEM中で培養した。293Tを、実施例3で得た特異的抗体の軽鎖および重鎖をコードする遺伝子を含有するプラスミドを用いて同時トランスフェクトした。トランスフェクションの4~6時間後に、細胞培養培地を無血清DMEMに交換し、培養を3日間継続した。上清を採取した後、DMEMを再度添加し、培養を4日間継続し、上清を採取した。
【0092】
採取した上清を5000rpmで30分間遠心分離し、20mMリン酸ナトリウム(pH8.0)を含有する等量のバッファーと混合し、0.22μmフィルター膜を通してろ過し、プロテインAプレパックカラム(5mL、GE Healthcare)と合わせた。結合したタンパク質を、10mMグリシン(pH3.0)を用いて溶出した。タンパク質を、採取し、濃縮し、モレキュラーシーブクロマトグラフィーに供した。目的のピークをSDS-PAGE(還元および非還元)によって決定し、結果を図2a(CB6抗体)および図2b(GH12抗体)に示す。精製CB6およびGH12抗体を得た。
【0093】
実施例5:2019-nCoV RBDに対する抗体の結合能の表面プラズモン共鳴検出
表面プラズモン共鳴分析を、Biacore 8K(Biacore Inc.)を使用して行った。具体的なステップは以下のとおりである。
プロテインAチップ(GE Healthcareから購入)を使用し、実施例4で得た精製抗体を、抗体のFcに対するプロテインAの親和性によってチップ上に約5000RUの量で固定化し、2019-nCoV RBDタンパク質を、10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4溶液で2倍溶液で希釈し、1つずつ低濃度から高濃度へロードした。2019-nCoV RBDに対する抗体結合の動力学プロファイルを、図3a(CB6抗体)および図3b(GH12抗体)に示す。2019-nCoV RBDに対する抗体結合についての動力学定数を表6に示す。結合動力学定数を、BIAevaluationソフトウェア8K(Biacore,inc.)を使用して算出した。CB6およびGH12抗体は、より高い親和性で2019-nCoV RBDに結合することができることがわかる。
【表6】
【0094】
実施例6:2019-nCoV RBDのACE2への結合を遮断する本発明の抗体の検出
hACE2(配列番号21に示されるアミノ酸配列)をコードする遺伝子を、XhoIおよびBamHIによってpEGFP-N1ベクター(Addgeneから購入)中に構築し、GFPとの融合によって発現させて、pEGFP-hACE2プラスミドを形成した。pEGFP-hACE2プラスミドを、HEK293T細胞中にトランスフェクトし、GFP発現を、蛍光顕微鏡下で24時間観察した。HEK293T-hACE2細胞を、反応当たり2×10個で採取し、2019-nCoV RBD(200ng/mL)とともに30分間室温でインキュベートした。500×gで5分間遠心分離した後、上清を除去し、PBSで2回洗浄した。抗His/APC(anti-His/APC)との30分間室温でのインキュベーションおよびPBSでの2回の洗浄の後、細胞表面蛍光を、BD FACSCantoを用いて検出した。
【0095】
CB6およびGH12の遮断効果を調べるために、実施例4で得た精製抗体(CB6およびGH12)を、200ng/mLの2019-nCoV RBDとともに10:1のモル比で室温で1時間それぞれインキュベートし、次いで、HEK293T-hACE2細胞とともにインキュベートした。残りのステップは上記と同じであり、タンパク質の細胞への結合を検出するために抗His/APCを使用する。抗体は、図4a(CB6抗体)および図4b(GH12抗体)に示すように、2019-nCoV RBDのHEK293T-hACE2細胞への結合を遮断する。このように、CB6抗体およびGH12抗体の両方は、2019-nCoV RBDのHEK293T-hACE2細胞への結合を遮断した。
【0096】
実施例7:2019-nCoVシュードウイルス感染を中和する本発明における抗体の検出
実施例4で得た精製抗体(CB6およびGH12)を、それぞれ50μg/mLから開始して第10の勾配(2.5ng/mL)まで3倍希釈し、1.6×10TCID50のVSV-2019-nCoVシュードウイルスと混合し、1時間37℃でインキュベートし、次いで、Huh7細胞(Basic Medical Cell Center of Peking Union Medical Collegeから購入)を事前接種した96ウェルプレートに添加した。4時間のインキュベーションの後、培養培地およびウイルス溶液を捨て、10%FBSを含有するDMEM培地を添加し、インキュベーションを48時間継続した。培養液を捨て、PBSで1回洗浄し、1×溶解溶液(Promega,Luciferase Assay System)を添加して、細胞を溶解し、10μLの溶解溶液を取り、50μLの反応基質を添加し、Promega Luminometers検出を行った。VSV-2019-nCoVシュードウイルスに対する抗体の中和能力を、様々な濃度でのルシフェラーゼ活性に基づいて算出し、結果を図5a(CB6抗体)および図5b(GH12抗体)に示し、結果を表7に統計的に示す。
【表7】
【0097】
CB6抗体およびGH12抗体は高い中和活性で2019-nCoVシュードウイルスを中和し得ることがわかる。
【0098】
まとめると、CB6抗体およびGH12抗体は、新型コロナウイルス(2019-nCoV)に対する高い中和活性を有するヒトモノクローナル抗体として作用し得る。
【0099】
実施例8:2019-nCoV生ウイルスを中和する本発明における抗体の検出
本研究は、インビトロ中和アッセイによって、2019-nCoV(SARS-CoV-2)生ウイルスに対するCB6抗体の中和効果を評価した。
【表8】
【0100】
8.2 実験方法
Vero E6細胞を、96ウェル培養プレート中にウェル当たり1×10個の密度で接種し、37℃での24時間の後に使用した。96ウェル組織培養プレートにおいてDMEM培地中、50μlのCB6抗体の段階2倍希釈液(48.8ng/mLから100μg/mLまで)を添加した。次いで、200TCID50のSARS-CoV-2を含有する等量のSARS-CoV-2ワーキングストックを、100TCID50の最終ウイルス量のために添加した。抗体-ウイルス混合物を1時間37℃でインキュベートし、次いで、8量体融合Vero E6細胞を含有する96ウェルマイクロタイタープレートに移し、3日間37℃でCOインキュベーター中でインキュベートした。100TCID50のSARS-CoV-2感染細胞または対照培地(DMEM+10%FBS)中で培養した細胞を、それぞれ陽性対照または陰性非感染対照として使用した。感染の前後に各ウェルにおいて細胞変性効果(CPE)を観察および記録した。ウイルス逆タイトレーションを行って、実験において使用した適正なウイルスタイトレーションを評価した。50%中和用量(ND50)を、Prismソフトウェアを使用して算出した。すべての実験を、承認されたバイオセーフティレベル3施設において標準作業手順に従って行った。
【0101】
8.3 結果および結論
CB6の中和機能を、様々な濃度のCB6の存在下で細胞をSARS-CoV-2生ウイルスと共培養することによって評価した。図6に示すように、CB6は、Vero E6細胞に対するSARS-CoV-2ウイルスの細胞変性効果を用量依存的な様式で低下させた。中和用量中央値(ND50)は5.56nMであった。
【0102】
CB6は、SARS-CoV-2生ウイルスを中和し、ウイルスの細胞への病理学的損傷を低下させる。
【0103】
実施例9:動物に対する本発明の抗体の防御効果の評価
9.1 実験計画
1)非ヒト霊長類実験動物は、およそ7年齢のアカゲザルであり(Hubei Tianqin Biotechnology Co.Ltd.)、雌性3匹および雄性6匹、体重5.7~10.9kg、2512~2545日齢である。ルーチン病原体検出およびコロナウイルスウイロイド検出を、実験動物品質管理の要件に従って完了させ、要件を満たす実験動物を、研究室において3日間適応飼育する。
2)対照群、COVID-19抗体治療群および予防群を設定し、対照群に3匹のアカゲザル(C1、C2およびC3)を、予防群に3匹のアカゲザル(PA1、PA2およびPA3)を、治療群に3匹のアカゲザル(AC1、AC2およびAC3)を含めた。ここで、対照群に、チャレンジの24時間前にPBSの単回注射を与え、一方、予防群に、チャレンジの24時間前に50mg/kgの用量でCB6与えた。治療群に、チャレンジの24時間後および72時間後に50mg/kgの用量でCB6を注射した。
【0104】
3)動物を気管内挿管によって感染させ、1mlのウイルス溶液を接種し、ウイルス接種量は、1×10TCID50であった。
4)パラメータ収集:
a.実験動物の疾患経過および健康スコアの変化を毎日観察および記録した。
b.動物を様々な時点で麻酔した後、体重および体温を測定し、肛門スワブ、咽喉スワブ、肺胞洗浄液および血液サンプルを採取した。
c.感染後3日目および6日目に、実験動物の胸部X線画像を収集し、その時間を観察およびサンプリングと同期化した。
d.感染後5日目、6日目および7日目に、1匹の動物を剖検のために無作為に選択し、様々な組織および臓器サンプルを採取した。組織病理学、ウイルス量および免疫組織化学分析を、研究室において従来の方法によって不活化した後にサンプルに対して行った。
【0105】
5)様々なサンプル(鼻腔スワブ、咽喉スワブ、肛門スワブ、血液、組織および臓器)のウイルス量分析、血液ルーチン分析、血液生化学分析および中和抗体タイター分析を完了し、感染動物の画像化および主要な臓器組織の病理学的分析を完了した。
6)研究室の標準作業手順およびバイオセーフティ管理の要件に従って、すべての採取した動物組織および臓器サンプルを、研究室における不活化処理の後に組織病理学、ウイルス量および免疫組織化学分析に供する。実験の間に生じたすべての廃棄物を、研究室の廃棄物管理規制に従って廃棄した。
【0106】
9.2 実験方法
1)新型コロナウイルス株
新型コロナウイルス株2019-nCoV-WIV04(GISAIDアクセッション番号:EPI_ISI_402124)は、Wuhan Institute of Virology,Chinese Academy of Sciencesによって、2019年12月に武漢のウイルス性肺炎患者からの気管支肺胞洗浄液のサンプルから単離された。単離されたウイルス株を精製、培養、増殖および濃縮した後、ウイルスの50%組織細胞感染用量(TCID50)を決定し、ウイルスタイターの単位はTCID50/mlである。
【0107】
2)動物行動観察
実験動物の免疫化およびウイルスチャレンジ期の間、皮膚および毛髪、分泌物、呼吸、糞便および尿、飼料摂取および運動行動、体重および温度を毎日または指示された時刻に観察し、各動物の健康を「新型コロナウイルスチャレンジ後のアカゲザルのための臨床スコア化基準」に従ってスコア化した。
【0108】
3)ウイルスタイター決定
新型コロナウイルスサンプルをVero E6細胞含有DMEM中に接種し、37℃および5%COでの3日間の培養の後、培養液を採取し、将来の使用のためにDMEM中で貯蔵した。単離されたウイルス株を精製、培養、増殖、濃縮した後、ウイルスの50%組織細胞感染用量(TCID50)を決定する。Vero E6細胞を、エンドポイントタイトレーションによってウイルスについてタイトレートした。ウイルス希釈液の10倍希釈液を細胞に接種し、1時間のインキュベーションの後、ウイルス希釈液を吸引し、100μlのDMEM(2%ウシ胎児血清、1mm L-グルタミン、ペニシリン(100IU/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を補充)を添加した。細胞変性スコアを3日間の培養の後に行い、ウイルスタイター(TCID50/ml)を算出した。
【0109】
4)リアルタイム定量的蛍光PCR(qRT-PCR)
1ステップリアルタイム定量的RT-PCRを、サンプル中のウイルスRNAの定量分析のために使用した。ウイルスRNAを、スワブおよび血液サンプルから、QIAamp Viral RNA Mini Kit(Qiagen)を供給業者の説明書に従って使用して抽出した。サンプルをDMEM(1:10、W/V)中でホモジナイズし、4500gの低速で30分間4℃で遠心分離し、RNAをすぐに上清から抽出した。RNAを、50μlの溶出液中にRT-PCRテンプレートとして溶出した。以前の研究の結果に基づいて、S遺伝子のためのプライマー:RBD-qF1:5’-CAATGGTTAAGGCAGG-3’;RBD-qR1:5’-CTCAAGGTCTGGATCACG-3’を使用した。
【0110】
サンプル中のRNAのコピー数を、HiScript(登録商標)II One Step qRT-PCR SYBR(登録商標)Green Kit(Vazyme Biotech Co.,Ltd)キットを説明書に従って使用して決定した。40サイクルの50℃、3分、95℃、30秒(95℃、10秒の終結を含む)、60℃、30秒を、ABI 7700装置で行い、標準曲線に従ってウイルスコピー数(コピー/ml)に変換した。
【0111】
5)中和抗体アッセイ
血清サンプル中の中和抗体タイターを、血清抗体を新型コロナウイルス生ウイルスで中和することによって決定した。得られた動物血清サンプルを、56℃で30分間熱失活し、1:50、1:150、1:450、1:1350、1:4050および1:12150に希釈し、等量の生ウイルスを添加し、5%COを含有するインキュベーター中37℃でインキュベートした。1時間のインキュベーションの後、100マイクロリットルの混合物を12ウェルプレート中のVero細胞の単層上に接種し、15分ごとに振とうしながら1時間インキュベートした。残存する接種物を除去した後、0.9%メチルセルロースおよび2%FBSを含有するDMEMの培養培地を添加し、37℃、5%COで3日間インキュベートした。3日後に、細胞を4%ホルムアルデヒドで30分間固定し、固定溶液を除去し、水道水ですすぎ、次いで、クリスタルバイオレットで染色した。プラークの数を計数し、中和抗体タイター(EC50)を決定した。
【0112】
6)実験動物手順
すべてのチャレンジ実験を、レベルIVバイオセーフティ研究室において行った。アカゲザルを麻酔し、気管内挿管によって1mlのウイルス溶液を接種した。動物を、任意の重度のまたは可視の変化の性質、発生、重症度および持続期間を含む臨床症状について毎日観察および記録する。肺X線を、HF100Ha(MIKASA,Japan)を用いて様々な時点で行って、肺画像ならびに中咽頭、鼻甲介および肛門領域からのスワブサンプルおよび血液サンプルを得た。採取したスワブサンプルを、ペニシリン(100IU/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)1mlに入れた。全血を、ウイルスRNA抽出および血液ルーチン分析のためにK2 EDTAチューブ中で貯蔵した。気道の病態形成および病理学的損傷を研究するために、1匹の動物をチャレンジ後5、6および7日目に無作為に安楽死させた。気管、右気管支、左気管支、6つの肺葉ならびにその他の組織および臓器を、病理学的、ウイルス学的および免疫学的分析のために採取した。
【0113】
7)動物解剖および病理学的分析
動物解剖を、実験動物のための標準手順に従って行った。採取した臓器および組織サンプルを、10%中性ホルマリンバッファー中で固定し、次いで、パラフィン包埋および切片化のために研究室から取り出した。切片を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した後、光学顕微鏡下で観察した。新型コロナウイルスの分布を検出するために、パラフィン脱水した組織切片を抗原バッファーに入れ、5%ウシ血清アルブミンで1時間室温で遮断し、次いで、1:500の自製の一次抗体(ウサギ抗RP3-RP3-CoV Nタンパク質ポリクローナル抗体)で遮断した。PBSで洗浄した後、切片を少し乾燥させ、1:200希釈し、Cy3コンジュゲートヤギ抗ウサギIgG(Abcam)二次抗体で覆った。スライドをPBSで洗浄し、1:100希釈したDAPIで染色した。画像を、Pannoramic MIDIシステム(3DHISTECH,Budapest,Hungary)によって取得した。
【0114】
実験動物の肺における病理学的変化に従って、臓器および組織の損傷レベルを決定し、ここで、「+++」は重度の病変を示し、「++」は中等度の病変であり、「+」は軽度の病変であり、「-」は病変なしであり、「+/-」は軽度の病変と病変なしとの間である。
【0115】
8)その他の操作
バイオセーフティレベルIV研究室の管理システム文書の要件に従って、研究室の標準作業手順を使用して、完了する。
【0116】
9.3 実験結果
1)実験動物の選択および適応給餌
実験動物は、湖北省における実験動物の品質管理の要件を満した。実験動物の行動、健康および摂食は、研究室における3日間の適応給餌を完了した後に異常でなかった。
【0117】
2)ウイルス接種後の実験動物の臨床症状についての観察
対照群、治療群および予防群中の動物を、P4研究室に移した。研究室における3日間の適応給餌の後、以下の操作をそれぞれ行った。
【0118】
対照群および予防群:PBSおよびモノクローナル抗体(最大50mg/kg)を計画に従って屋内で静脈内注射した。24時間後、動物を気管内挿管によってチャレンジした。ルーチン観察、体温および体重試験を実験計画に従って行った。
【0119】
治療群:気管内挿管による24時間のチャレンジの後、薬物を1日目および3日目に計画どおりに投与し、ルーチン観察、体温および体重試験を実験計画に従って行った。
【0120】
結果は、対照群、COVID-19抗体治療群および予防群の実験動物が、体温(図7aを参照)および体重(図7bを参照)の有意な変化なしに、実験期間全体を通して有意な行動の差異を示さなかったことを示した。
【0121】
3)咽喉スワブ、鼻腔スワブおよび肛門スワブのウイルス量の変化
咽喉スワブ、鼻腔スワブおよび肛門スワブサンプルを毎日採取して、様々なサンプル中のウイルス量の変化を検出した。結果は、対照群における咽喉スワブのウイルス量が感染時間とともに変化し、実験動物(C1、C2およびC3)のウイルス量が接種後2日目から4日目にピークに達し、次いで、絶え間なく減少したことを示した。7日目までに、サンプル中のウイルス量はより低いレベルに下がった。しかしながら、咽喉スワブのウイルス量は、異なる動物の間で変動し、C1、C2およびC3におけるウイルス複製のピークは、それぞれチャレンジ後2、3および4日目であった。しかしながら、全体として、咽喉スワブサンプル中のウイルス量の変動は、インビボでのウイルスの増殖プロセスを示した(図8aを参照)。対照動物の咽喉スワブ中のウイルス量の検出結果と比較すると、実験期間全体を通して、予防群中のPA1およびPA2動物において、低レベルのウイルス核酸がチャレンジ後2日目および3日目に検出され得たのみであり、一方、他の検出ポイントは検出され得なかった。実験期間全体を通して、ウイルス核酸はPA3動物において検出されなかった。
【0122】
COVID-19抗体治療群において有意な個体差が存在した。しかしながら、すべてはチャレンジ後2日目にウイルス量のピーク値に達し、次いで、減少し続け、ウイルス量は対照群におけるものよりもはるかに低かった。3日目のAC1個体のウイルス量は検出下限より低い。鼻腔スワブサンプル、すべて群はより低いウイルス量を有した。チャレンジ初期の低レベルのウイルス核酸コピー数が鼻腔スワブサンプルにおいてのみ検出され、7日目までにすべての鼻腔スワブサンプルにおいてウイルス核酸は検出されなかった(図8bを参照)。
【0123】
肛門スワブサンプルのウイルス量は、すべての群において、より低かった。チャレンジ初期の低レベルのウイルス核酸コピー数が少数の動物においてのみ検出され、7日目までにすべての鼻腔スワブサンプルにおいてウイルス核酸は検出されなかった(図8cを参照)。
【0124】
4)感染動物の画像分析
チャレンジの0日目の対照群中の3匹の動物のX線肺画像はクリアであり、肺陰影は観察されなかった。ウイルスチャレンジの日に、対照群中の実験動物の肺において明らかな陰影は観察されなかった。チャレンジの3日目に、1匹の動物(C3)は、わずかにぼやけた/乱れた肺テクスチャを有しており、他の2匹の動物(C1およびC2)は、有意な肺陰影を有しており、6日目までに有意な肺陰影は見られなかった(図9aを参照)。
【0125】
しかしながら、X線画像は、チャレンジ後3日目に、予防群中の3匹の動物または治療群中の3匹の動物に関係なく、すべての感染動物において肺陰影を示さず、わずかにぼやけた/乱れた肺テクスチャは観察されたが、明らかな肺陰影は観察されなかった(図9bおよび9cを参照)。
【0126】
5)感染動物の病理学的変化
感染後5、6および7日目に、対照群、予防群および治療群の各々中の1匹の動物を解剖のために無作為に選択し、肺、気管、気管支、心臓、肝臓、脾臓、腎臓、胃腸管、生殖器およびリンパ節などの臓器および組織を採取した。実験要件に従って、各臓器の形状、色および組織病変部位を観察した。
【0127】
チャレンジ後5日目に、対照群中の動物(C2)は、肺表面全体の淡オフホワイト色、中等度およびわずかに重度の両側下肺病変、肺葉の縁での肺気腫を有しており、気管および気管支においては明らかな異常を有しなかった。チャレンジ後6日目および7日目に、対照群中の動物(D6:C3、D7:C1)は、濃赤色の肺表面全体、中等度およびわずかに重度の両側下部肺病変を有しており、肺葉の縁での肺気腫は肺硬化領域と混ざっており、気管および気管支においては明らかな異常はなかった。
【0128】
チャレンジ後5日目に、予防群中の動物(PA2)および治療群中の動物(AC2)は、濃赤色の肺表面全体、中等度およびわずかに重度の両側下肺病変、明らかな肺葉縁肺気腫を有し、気管および気管支においては明らかな異常を有しなかった。チャレンジ後6日目および7日目に、実験動物(予防群:D6:PA3、D7:PA1、治療群:D6:AC3、D7:AC1)は、肺表面全体の淡オフホワイト色、中等度を有し、肺、気管および気管支においては明らかな異常を有しなかった。
【0129】
肺の組織病理学的変化は、感染後5日目に、肺びまん性間質性肺炎、肺胞壁肥厚、線維芽細胞増殖、線維化、ならびに単球およびリンパ球の浸潤の変化が、対照群において観察されたことを示した。いくらかの肺胞浮腫およびフィブリン滲出、透明膜形成および肺出血が観察された。透明血栓が肺毛細管腔の一部において形成され、細気管支の上皮細胞は壊死性であり剥離していた。感染後6日目および7日目に、肺浮腫およびフィブリン滲出が増加し、肺胞マクロファージが増加し、肺胞壁および肺胞線維化および器質化が明らかであった。対照群と比較して、治療群または予防群に関係なく、実験動物は、より少ない、新型コロナウイルスによって引き起こされる肺傷害を有した。感染後5日目に、2匹の動物(AC2およびPA2)の肺胞構造は基本的にインタクトであり、限局性または斑状の肺線維化が観察され、単核細胞およびリンパ球浸潤が観察されたが、その数は対照群と比較して有意に低下しており、肺胞腔におけるより多くのマクロファージ、より少ない浮腫が存在し、透明膜形成は存在せず、重度の小細気管支および肺毛細血管病変は存在しなかった。感染後6日目および7日目に、動物の肺の病理学的変化は有意に改善され、肺組織の滲出性病変は基本的に消失し、限局性または斑状の組織線維化が見られ得た。
【0130】
6)様々な臓器組織におけるウイルス量
上気道および肺の様々な組織におけるウイルスの分布をさらに理解するために、対照群および2つの抗体群の動物の気管、気管支および肺の様々な部分の組織を、それぞれチャレンジ後5、6および7日目に採取し、様々な臓器および組織におけるウイルス量を決定した。結果は、チャレンジ後5日目に、4~8×10ウイルスコピー/gが予防群中の1匹の動物(AC2)のみの気管および左気管支において検出され、一方、他の組織サンプルにおいてはビロソームは検出されず、ウイルス核酸は、すべての治療群動物サンプルにおいて検出されなかったことを示した(図10aを参照)。
【0131】
図10bに示すように、感染後6日目に、4×10~1×10ウイルスコピー/gが、対照動物(C3)の気管、左および右気管支、ならびに左肺の上葉において検出され、ビロソームは他の組織サンプルにおいて検出されなかった。同時に、3×10ウイルスコピー/gがまた、予防群中の1匹の動物(AC3)の気管組織において検出され、ビロソームは他の組織サンプルにおいて検出されなかった。ウイルス核酸は、治療した動物のサンプルにおいて検出されなかった。
【0132】
図10cに示すように、感染後7日目に、5×10ウイルスコピー/gが、対照動物(C1)の左気管支および左肺の下葉において検出され、ビロソームは他の組織サンプルにおいて検出されなかった。同時に、ビロソームは、予防群および治療群中の動物の組織サンプルにおいて検出されなかった。
【0133】
7)免疫組織化学的分析
肺組織におけるウイルスの免疫組織化学的分析の結果は、ウイルスタンパク質が、5、6および7日目に対照群からの肺において検出され得たことを示した。しかしながら、ウイルスタンパク質は、様々な時点の抗体治療群および予防群からの肺において検出され得なかった。
【0134】
上記の具体的な実施形態は、本発明の目的、技術的解決法および利点をさらに例証する。前述の説明は、本発明の具体的な実施形態を例示するのみであり、本発明を限定することを意図していないことを理解されたい。本発明は、すべてのそのような改変および変更を、それが添付の特許請求の範囲またはその等価物の範囲内に入る限り、含むと解釈されることが意図される。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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