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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/427 20060101AFI20240726BHJP
   B60R 21/239 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
B60N2/427
B60R21/239
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022559046
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2021038685
(87)【国際公開番号】W WO2022091889
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2020179688
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石垣 良太
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-195202(JP,A)
【文献】特開2010-163064(JP,A)
【文献】特許第5716659(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/427
B60R 21/207
B60R 21/239
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両シートのシートクッションの内部又は下方に設けられる乗員保護装置であって、
前記シートクッションの座面を押し上げるように膨張展開可能なエアバッグクッションと、
車両緊急時に前記エアバッグクッションの内部に膨張展開用のガスを供給するインフレータと、を備え、
前記エアバッグクッションは、
上下方向に対向する上部基布パネル及び下部基布パネルを有する基布パネルにより構成され、前記インフレータからのガスにより膨張展開する膨張展開部と、
上下方向に対向する上部延長パネル及び下部延長パネルを有する基布パネル延長部であって、当該上部延長パネル及び当該下部延長パネルがそれぞれ前記上部基布パネル及び前記下部基布パネルから連続する基布パネル延長部により構成され、前記エアバッグクッションの周縁から突出するように設けられた排気ベント部と、を有し、
前記基布パネル延長部は、
前記上部延長パネルと前記下部延長パネルとの間に構成されるか、又は、前記上部延長パネル及び前記下部延長パネルの少なくとも一方に形成される排気口を有し、
前記膨張展開部が膨張展開した際、荷重が前記膨張展開部に作用されるまでは前記上部延長パネル及び前記下部延長パネルが互いに密着して前記排気口を閉塞する一方、前記荷重が前記膨張展開部に作用されることにより前記上部延長パネル及び前記下部延長パネルの密着が解消されて前記排気口が開放され、前記膨張展開部の内部を外部に連通させるように構成されている、乗員保護装置。
【請求項2】
前記荷重は、乗員が前記車両シートに着座しているときに、膨張展開した前記エアバッグクッションが前記座面を押し上げた際の反力を含む、請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記排気ベント部は、前記膨張展開部の一端部から突出する、請求項1又は2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記膨張展開部の前記一端部は、前記エアバッグクッションを平面的に展開した状態における、前記膨張展開部の長手方向の一端部である、請求項3に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記排気ベント部は、前記膨張展開部の前記一端部の中央部から突出する、請求項3又は4に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記基布パネルは、上下方向に直交する方向において互いに対向し、前記上部基布パネル及び前記下部基布パネルに接合されたサイドパネルをさらに有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項7】
前記基布パネル延長部は、前記基布パネルとの境界付近よりも、当該基布パネル延長部の先端部の方が幅広に形成されている、請求項から6のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項8】
前記エアバッグクッションは、前記基布パネル延長部の途中にくびれ構造を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項9】
前記上部基布パネル及び前記上部延長パネルと、前記下部基布パネル及び前記下部延長パネルとは、互いに二枚に分割されたパネルからなるか、又は、一枚のパネルを折り返して上下に重ねてなる、請求項1から8のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項10】
前記膨張展開部は、膨張展開する前の状態では折り畳まれており、
前記排気ベント部は、折り畳まれた前記膨張展開部の上部に重ねられるように折り畳まれている、請求項1から9のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項11】
前記膨張展開部は、膨張展開する前の状態では折り畳まれており、
前記排気ベント部は、折り畳まれた前記膨張展開部内にタックインされている、請求項1から9のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項12】
前記膨張展開部は、膨張展開する前の状態では折り畳まれており、
前記排気ベント部は、折り畳まれた前記膨張展開部の折り畳まれた層の間に挟まれている、請求項1から9のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項13】
前記排気ベント部は、前記排気口の少なくとも一部を閉塞するように仮接合されており、
前記仮接合は、前記膨張展開部が膨張展開することにより解消される、請求項1から12のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項14】
前記排気ベント部は、前記エアバッグクッションの周縁側の根元部が、当該排気ベント部の先端部よりも幅狭となるように構成されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項15】
前記排気ベント部は、前記車両シートの前後方向における前方側に位置する、請求項1から14のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両シートのシートクッションの内部又は下方に設けられる乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両シートに着座した乗員に対して、シートベルトのショルダーベルトが乗員の胸の前で斜めに架け渡され、シートベルトのラップベルトが乗員の腰の前で架け渡される。車両衝突時、シートベルトは乗員の移動を拘束する。しかし、特に車両の前方衝突時、乗員の体がラップベルトの下側に潜り込むサブマリン現象が発生する可能性がある。サブマリン現象は、ラップベルトが乗員の腹部を圧迫し得るため、望ましくない。
【0003】
サブマリン現象への対策として、エアバッグを車両シートのシートクッションの内部に設けた乗員保護装置が知られている。例えば、特許文献1では、車両の前方衝突時に、車両シート内のエアバッグを瞬時に膨張させることにより、シートクッションの前端部を押し上げ、それにより乗員の腰部を拘束し、乗員の前方移動を抑制するようにしている。また、特許文献2では、エアバッグにガス抜き孔を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-118820号公報
【文献】特開2006-327577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、乗員の腰部の拘束中、エアバッグ内が高圧に維持され、エアバッグによる乗員の大腿部付近の押し上げが持続される。このため、乗員の着座姿勢によっては、エアバッグが乗員の腰部を持ち上げて後ろ側に回転させてしまう可能性がある。これは、特に、車両シートを倒したリクライニング姿勢(安楽姿勢)など、乗員の身体の重心がより後方に位置するときに起きる可能性が高くなる。仮に、このような事象が起きると、シートベルトのラップベルトが乗員の腸骨から外れ、結果的に、サブマリン現象を誘発する。
【0006】
他方、特許文献2では、エアバッグ内のガスがガス抜き孔から逃げるため、上述の事象やサブマリン現象の発生を抑制することができる。しかし、乗員の腰部を十分に拘束する前にエアバッグ内のガスが逃げてしまうといった、初期の腰部拘束性能の低下に課題がある。
【0007】
本発明は、サブマリン現象の発生を抑制することができると共に、初期の腰部拘束性能を確保することができる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る乗員保護装置は、車両シートのシートクッションの内部又は下方に設けられる乗員保護装置であって、シートクッションの座面を押し上げるように膨張展開可能なエアバッグクッションと、車両緊急時にエアバッグクッションの内部に膨張展開用のガスを供給するインフレータと、を備える。エアバッグクッションは、インフレータからのガスにより膨張展開する膨張展開部と、エアバッグクッションの周縁から突出するように設けられた排気ベント部と、を有する。膨張展開したエアバッグクッションは、荷重が膨張展開部に作用されることにより、排気ベント部が開放して膨張展開部の内部を外部に連通させるように構成される。
【0009】
この態様によれば、例えば、乗員が車両シートに着座している場合、次のように作用する。車両緊急時、インフレータからガスを供給された膨張展開部が膨張展開し、シートクッションの座面を押し上げる。この膨張展開の初期段階では、排気ベント部は開放されていないため、膨張展開部の内圧が保持される。したがって、初期の腰部拘束性能を確保することが可能となる。拘束後は、荷重(例えば、押し上げによる反力)が膨張展開部に作用する。荷重が作用すると、膨張展開部の内圧が膨張展開の初期段階よりも高くなり、膨張展開の初期段階では閉じていていた排気ベント部が開放され、膨張展開部の内圧が低下する。したがって、乗員の腰部のさらなる押し上げが抑えられ、サブマリン現象の発生を抑制することができる。また、膨張展開部によるストローク(内圧の低下に伴う収縮)を利用したソフトな拘束が可能となる。
【0010】
本発明のいくつかの態様において、エアバッグクッションは、膨張展開部を構成する基布パネルと、基布パネルから連続して設けられ、排気ベント部を構成する基布パネル延長部と、を有してもよい。また、基布パネル延長部は、上下方向に対向する上部延長パネル及び下部延長パネルと、上部延長パネルと下部延長パネルとの間に構成されるか、又は、上部延長パネル及び下部延長パネルの少なくとも一方に形成される排気口と、を有してもよい。そして、エアバッグクッションが膨張展開した際、基布パネル延長部は、前記荷重が膨張展開部に作用されるまでは上部延長パネル及び下部延長パネルが互いに密着して排気口を閉塞する一方、前記荷重が膨張展開部に作用されることにより上部延長パネル及び下部延長パネルの密着が解消されて排気口が開放されるように構成されてもよい。
【0011】
上記態様を別の視点でとらえると、本発明の他の態様において、排気ベント部は、排気口と、排気口の周辺部位と、を有し、膨張展開したエアバッグクッションは、前記荷重が膨張展開部に作用されるまでは周辺部位が互いに密着して排気口を閉塞する一方、前記荷重が膨張展開部に作用されることにより周辺部位の密着が解消して排気口が開放されるように構成されてもよい。
【0012】
一般に、膨張展開するエアバッグクッションでは、その内圧が高くなると、膜面張力も高くなる。上述の態様によれば、エアバッグクッションが膨張展開した際、荷重が作用する前は、膨張展開部が膨張展開の初期からその後に通常展開が進んだとき(なお、膨張展開が完了した時を含んでもよい。)までの間の段階にあり、その段階の内圧は、膜面張力との相対的な関係において、排気ベント部(上部延長パネル及び下部延長パネル同士、又は周辺部位)を密着状態又は密着に近い状態に維持する。このようにして、排気ベント部の排気口を閉塞して、初期の腰部拘束性能を確保する。他方、荷重が加わることで、膨張展開部の内圧は上述の段階における内圧よりも高くなり、一方で排気ベント部の近傍では、他の部分(荷重が加わる部分)と比べて膜面張力がそれほど上昇しない(すなわち、相対的に、膜面張力の上昇よりも内圧の上昇が大きくなる)。それによって、内圧と膜面張力との相対的なバランス関係が逆転し、上記の密着状態又は密着に近い状態が解消され、排気ベント部の排気口が開放される。こうして、膨張展開部の内圧が低下し、乗員の腰部のさらなる押し上げが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】実施形態に係る乗員保護装置が設けられる車両シートの外観形状を示す斜視図である。
図1B図1Aの車両シートの内部のフレーム構造を示す斜視図である。
図2】車両シートのシートパンに取り付ける前の、実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグクッションを示す平面図である。
図3】車両シートのシートパンに取り付けた後の、実施形態に係る乗員保護装置の断面図である。
図3A】実施形態の変形例に係る乗員保護装置の断面図であり、排気ベント部が折り畳まれた膨張展開部の折り畳まれた層の間に挟まれた状態を示す図である。
図4A】実施形態に係る乗員保護装置の、膨張展開したエアバッグクッションについて、荷重が膨張展開部に作用されるまでの状態を示す模式断面図である。
図4B】実施形態に係る乗員保護装置の、膨張展開したエアバッグクッションについて、荷重が膨張展開部に作用されたときの状態を示す模式断面図である。
図5】実施形態に係る乗員保護装置と比較例に係る乗員保護装置のそれぞれのエアバッグクッションの内圧の変化を示すグラフである。
図6】比較例(排気ベント部なし)に係る乗員保護装置と乗員との関係を示すものであり、(a)は通常時、(b)は車両緊急時の初期(拘束時)、(c)は車両緊急時の中期又は後期(拘束後)を示す模式図である。
図7】別の比較例(丸ベントホールあり)に係る乗員保護装置と乗員との関係を示すものであり、(a)は通常時、(b)は車両緊急時の初期(拘束時)、(c)は車両緊急時の中期又は後期(拘束後)を示す模式図である。
図8】実施形態に係る乗員保護装置と乗員との関係を示すものであり、(a)は通常時、(b)は車両緊急時の初期(拘束時)、(c)は車両緊急時の中期又は後期(拘束後)を示す模式図である。
図9】第2の実施形態に係る乗員保護装置の断面図である。
図10】第3の実施形態に係る乗員保護装置の断面図である。
図11】第4の実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグクッションを示す平面図である。
図12】第5の実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグクッションを示す平面図である。
図13】第6の実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグクッションが膨張展開した状態を示す斜視図である。
図14図13のエアバッグクッションのサイドパネルを示す平面図であり、(A)は一方のサイドパネルを、(B)は他方のサイドパネルを示している。
図15】第7の実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグクッションを示す平面図である。
図16】第8の実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグクッションを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る乗員保護装置について説明する。本書において、上下、左右及び前後を以下のとおり定義する。乗員が正規の姿勢で座席(車両シート)に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し座標の軸を示すときは前後方向とする。また、乗員が正規の姿勢で車両シートに着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称し座標の軸を示すときは左右方向とする。同様に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称し座標の軸を示すときは上下方向とする。
【0015】
図1A及び1Bに示すように、車両シート100は、乗員の背中を支えるシートバック1と、乗員が着座するシートクッション2と、乗員の頭部を支えるヘッドレスト3と、を備えている。車両シート100は、例えば、運転席又は助手席であるが、後部座席であってもよい。
【0016】
シートバック1及びシートクッション2の内部には、それぞれ、シートの骨格を形成するシートフレーム10及び着座フレーム20が設けられている。シートフレーム10及び着座フレーム20は、金属部品又は硬質樹脂を加工してなり、互いにリクライニング機構4を介して連結されている。着座フレーム20は、左右に離間して配置された一対のサイドフレーム22、22を有しており、一対のサイドフレーム22、22同士の間にシートパン24(参照:図3)が架設されている。シートクッション2は、例えば、着座フレーム20の表面及び周囲を覆うウレタン発泡材等からなるシートパッドと、シートパッドの表面を覆う皮革やファブリック等からなるシートカバーと、を有している。シートカバーの上面が、乗員が着座する面、すなわちシートクッション2の座面26を構成する。
【0017】
乗員保護装置30は、シートクッション2の内部又は下方に設けられる。例えば、乗員保護装置30は、シートクッション2の内部に設けられ、シートカバーにより覆われる。この場合、乗員保護装置30をシートパン24の上面に設置してもよい。あるいは、シートパン24が設けられていない場合には、着座フレーム20に設置してもよい。他の例では、乗員保護装置30は、シートクッション2の内部ではなく、シートクッション2の下方に設けられる。この場合、例えば、シートクッション2の下方にて車両シート100に固定したブラケットに、乗員保護装置30が取り付けられる。以下では、乗員保護装置30をシートパン24の上面に設置した例を説明する。
【0018】
図2及び3に示すように、乗員保護装置30は、膨張展開可能なエアバッグクッション32と、車両緊急時にエアバッグクッション32の内部に膨張展開用のガスを供給するインフレータ34と、を備える。車両緊急時とは、例えば、車両の前方衝突時である。なお、図2では、インフレータ34を省略している。
【0019】
インフレータ34は、車両側ECUと電気的に接続されている。例えば、インフレータ34は、車両の前方衝突時にその衝撃を検知した信号を車両側ECUから受信して作動し、エアバッグクッション32に向けてガスを瞬時に供給する。インフレータ34としては、ガス発生剤、圧縮ガス又はこれらの両方が充填されたものなど、各種のものを利用することができる。一例を挙げると、インフレータ34は、有底の円筒体の開放端部に着火装置を有している。そして、この着火装置によって円筒体内のガス発生剤を着火することにより、ガスを発生させ、円筒体の周面にある複数の噴出孔からエアバッグクッション32内に膨張展開用のガスを供給する。
【0020】
エアバッグクッション32は、インフレータ34からのガスにより膨張展開する膨張展開部40と、エアバッグクッション32の周縁32aから突出するように設けられた排気ベント部42と、を有する。
【0021】
膨張展開部40は、エアバッグクッション32の大部分を構成している。膨張展開部40が膨張展開した際の容量は、例えば4~6リットル程度である。排気ベント部42は、膨張展開部40の一端部から突出するように、膨張展開部40に連続している。ここでは、排気ベント部42は、車両シート100の前後方向における前方側に位置し、膨張展開部40の前端部の中央部から前方に突出するように設けられている。ただし、他の実施態様では、排気ベント部42について、車両シート100の前後方向における後方側に位置させるなど、膨張展開部40の他の位置から突出させてもよい。
【0022】
膨張展開部40及び排気ベント部42は、それぞれの内部が互いに連通している。膨張展開部40の内部は、排気ベント部42の内部との連通箇所44を除き、閉じた空間となっている。排気ベント部42は、排気ベント部42の内部を外部に連通させる排気口46を有している。排気口46は、例えば、排気ベント部42において連通箇所44と反対側に位置している。排気口46は、通常時開放している。後述するように、排気口46は、車両緊急時の初期のときに閉塞され、その後開放されるように構成されている。
【0023】
排気ベント部42は、エアバッグクッション32の周縁32a側の根元部42aが、排気ベント部42の先端部42bよりも幅狭となるように構成されている。かかる構成に対応するように、排気ベント部42の内部では、左右方向の長さが先端部42bよりも根元部42aの方で短くなっている。ここでは、排気ベント部42は、先端部42bから根元部42aにかけて徐々に幅狭となるように構成されており、これに対応するように、排気ベント部42の内部も、先端部42bから根元部42aにかけて徐々に幅狭となっている。根元部42aには連通箇所44が位置し、先端部42bには排気口46が位置している。
【0024】
エアバッグクッション32は、膨張展開部40を構成する基布パネル50と、排気ベント部42を構成する基布パネル延長部52と、を有する。基布パネル延長部52は、基布パネル50から連続して設けられている。基布パネル延長部52は、基布パネル50との境界付近よりも、基布パネル延長部52の先端部の方が幅広に形成されている。これは、上述したように、排気ベント部42においては、根元部42aが先端部42bよりも幅狭となるように構成されていることと関連したものである。
【0025】
ここで、別の観点からすれば、エアバッグクッション32は、基布パネル延長部52の途中にくびれ構造220を有していると捉えることもできる。「基布パネル延長部52の途中」とは、基布パネル延長部52の中間部又は端部をいう。くびれ構造では、例えば、図2に示すように平面的に展開した状態のエアバッグクッション32の長手方向(ここでは前後方向)の一部が、他の部分よりも細くなった部分(くびれ部)となっている。ここでは、排気ベント部42の根元部42a、すなわち基布パネル延長部52の端部にくびれ部が構成されるように、くびれ構造220が設けられている。
【0026】
基布パネル50は、上下方向に対向する上部基布パネル50a及び下部基布パネル50bを有する。同様に、基布パネル延長部52は、上下方向に対向する上部延長パネル52a及び下部延長パネル52bを有する。そして、上部延長パネル52aは上部基布パネル50aから連続して設けれ、下部延長パネル52bは下部基布パネル50bから連続して設けられている。また、上部延長パネル52aと下部延長パネル52bとの間に、排気口46が構成されている。別の見方で換言すると、排気ベント部42は、排気口46の周辺部位53を、上部延長パネル52a及び下部延長パネル52bによって構成している。
【0027】
上部基布パネル50a及び下部基布パネル50bは、二枚に分割されたパネル(それぞれ一枚の個別のパネル)であってもよいし、一枚のパネルを折り返して上下に重ねてなるものであってもよい。上部延長パネル52a及び下部延長パネル52bについても、同様である。
【0028】
一枚のパネルを折り返す場合の一例を説明する。まず、不織布等からなる一枚のパネルをその長手方向の中央部で折り返し、折り返した部分同士を上下に重ね合わせる。そして、この重ね合わせたときの上側の部分となる上部基布パネル50a及び上部延長パネル52aと、下側の部分となる下部基布パネル50b及び下部延長パネル52bとについて、それぞれの周縁部50c、52cをシーム54で縫合する。ただし、排気口46の位置では縫合しない。このような縫合により、シーム54よりも内側の、上基布(上部基布パネル50a及び上部延長パネル52a)と下基布(下部基布パネル50b及び下部延長パネル52b)との間の内部に気室が画成される。この気室にインフレータ34からのガスが供給されることにより、膨張展開部40が袋状に膨張展開する。
【0029】
エアバッグクッション32は、車両シート100のシートパン24への取付点として、例えば、前方取付点60及び後方取付点62a、62bを有している。前方取付点60は、インフレータ34を車両シート100側に取り付けるための取付点を兼ねたものとすることができる。例えば、インフレータ34として、上記の有底の円筒体を用いた場合、円筒体の軸線方向を左右方向に合わせ、膨張展開部40の内部に収容させる。そして、その円筒体の外周部に突設させた左右一対のスタッドボルト34aを、エアバッグクッション32の外側(下部基布パネル50bの下方)に突出させ、ナットによってシートパン24に締結固定する。こうすることで、スタッドボルト34a及びナットによって、インフレータ34及びエアバッグクッション32がシートパン24に共締めされる。この共締めされているところが、前方取付点60を構成する。
【0030】
後方取付点62a、62bは、車両シート100の前後方向において前方取付点60よりも後方側に設けられる。後方取付点62a、62bは、エアバッグクッション32の周縁32aの後ろ側のコーナー部に設けられ、互いに左右方向に離間している。後方取付点62a、62bは、例えば、留め具70が使用される孔である。後方取付点62a、62bは、上部基布パネル50a及び下部基布パネル50bの周縁部50cに形成され、シーム54よりも外側に位置している。したがって、後方取付点62a、62bは、膨張展開部40ではなく、エアバッグクッション32の非膨張部分に設けられている。
【0031】
シートパン24に取り付けたエアバッグクッション32は、膨張展開前の状態では、少なくとも一部が折り畳まれている。例えば、膨張展開部40が、前方取付点60と後方取付点62a、62bとの間で折り畳まれている。一例を挙げると、膨張展開部40は、前方側に、アコーディオン状に折り畳まれることで互いに上下方向に重なった複数の折り返し部64を有している。他の実施態様では、膨張展開部40をアコーディオン状以外の態様(例えばロール状)で折り畳んでもよいし、複数の態様を組み合わせたものであってもよい。排気ベント部42は、折り返し部64の前側に垂れ下がるように設けてもよいし、折り畳むように設けてもよい。
【0032】
あるいは、図3Aに示す変形例のように、排気ベント部42は、折り畳まれた膨張展開部40の折り畳まれた層の間に挟まれてもよい。例えば、排気ベント部42は、根元部42aを起点として後ろ側に折られ、先端部42bが膨張展開部40の複数の折り返し部64の間に入れられてもよい。なお、排気ベント部42の他の設け方については図9及び10を用いて後述する。エアバッグクッション32の取付け状態では、上部延長パネル52aと下部延長パネル52bとは内面同士が互いに接触する。
【0033】
なお、他の実施態様では、前方取付点60についても、後方取付点62a、62bと同様に、留め具を使用する孔としてもよい。また、インフレータ34を取り付ける位置を排気口46から遠ざけるように、エアバッグクッション32における後方側にしてもよい。こうすることで、インフレータ34が作動した初期段階において、インフレータ34からのガスが排気口46からリークするのを抑制することができる。
【0034】
次に、図4A及び4Bを参照して、膨張展開したエアバッグクッション32の状態推移について説明する。図4Aは、膨張展開部40が、膨張展開後、荷重が作用されるまでの状態を示している。図4Bは、膨張展開部40が、膨張展開後、荷重が作用されたときの状態を示している。
【0035】
図4Aに示すように、エアバッグクッション32は、インフレータ34からのガスの供給を受けると、膨張展開部40が、折り返し部64の折り目が解消されるように展開しつつ、上方に向けて膨張する。膨張展開したエアバッグクッション32では、矢印80に示すように、膨張展開部40が内圧により引っ張られ、膜面張力が発生し、上昇する。これにより、排気口46が閉塞される。すなわち、エアバッグクッション32の内圧が、上昇した膜面張力との相対的な関係において、上部延長パネル52a及び下部延長パネル52b(排気口46の周辺部位53)を互いに密着させ、排気口46を閉塞する。これにより、膨張展開部40内のガスが排気ベント部42からリークしないようになっている。
【0036】
図4Bに示すように、膨張展開部40に荷重Fが作用すると、膨張展開部40は変形する。例えば、膨張展開部40の外部から膨張展開部40の内部に向けて荷重Fが作用すると、膨張展開初期よりも膨張展開部40の内圧が高くなり、一方で排気ベント部42の近傍の膜面張力はそれほど上昇せず、それによって膨張展開初期では密着状態だった排気ベント部42が開放される。すなわち、上部延長パネル52a及び下部延長パネル52b(排気口46の周辺部位53)の密着が解消されて、排気口46が開放される。その結果、膨張展開部40の内部が外部に連通され、膨張展開部40内のガスが排気ベント部42からリークする。
【0037】
このような、排気ベント部42の開放の原理をより詳細に説明すると、次のとおりである。一般に、均等に膨らむエアバッグクッションでは、その内圧が高くなると、膜面張力も高くなる。この膜面張力は、曲率半径やエアバッグクッション自体の変形具合によっても変わる(例えばエアバッグクッションの変形によって膜面張力の方向が拘束前と拘束時とでは上下左右で変わる)。排気ベント部42のある位置は、荷重Fが作用する位置から離れており、かかる位置では、エアバッグクッション自体の荷重Fによる変形が小さく、曲率半径も大きく変化しない。このため、荷重Fが作用しても、排気ベント部42では、膜面張力が他の部分(荷重Fが作用する部分)に比べてさほど大きくならないと考えらえる。一方、膨張展開部44では、インフレータ34からのガスや、荷重Fによるバッグの変形などによって内圧は上昇する。
【0038】
ここで、荷重Fが作用する前の、膨張展開の初期からその後に通常展開が進んだとときまでの内圧は、膜面張力との相対的な関係において、排気ベント部42を密着又は密着に近い状態に維持するものとなる。これにより、排気ベント部42の排気口46が閉塞される。その後、荷重Fが作用すると、膨張展開部44の内圧がさらに高くなり、一方で排気ベント部42の近傍では、他の部分(荷重Fが加わる部分)と比べて膜面張力がそれほど上昇しない(すなわち、相対的に、膜面張力の上昇よりも内圧の上昇が大きくなる)。その結果、膨張中の内圧と膜面張力とのバランス関係によって展開初期から密着状態で閉じていた排気ベント部42の排気口46が開放される。すなわち、荷重Fが作用されることにより、排気ベント部42の近傍では、内圧と膜面張力との相対的なバランス関係が逆転し、上記の密着状態又は密着に近い状態が解消され、排気口46が開放される。
【0039】
ここで、荷重Fは、例えば、乗員が車両シート100に着座しているときに、膨張展開したエアバッグクッション32が座面26を押し上げた際の反力を含むものとすることができる。膨張展開した膨張展開部40は、座面26を押し上げ、それにより乗員の大腿部(例えば乗員の尻に近い大腿部近傍)を持ち上げる。膨張展開部40が座面26を介して乗員の大腿部を押圧した際、膨張展開部40には、その押圧の反力として、シートクッション2及び乗員の各自重による力や、乗員が前方へ移動しようとする慣性力が作用する。このときに作用する力を、排気口46を開放させる荷重Fとすることができる。他方、乗員が車両シート100に着座していないときには、荷重Fは膨張展開部40に作用しない。したがって、排気ベント部42を開放させる条件は、車両緊急時の乗員移動時における乗員の大腿部押圧時(腰部拘束時)を含む、と理解することも可能である。
【0040】
図5は、乗員が車両シートに着座しているときのエアバッグクッションの内圧の時間に対する変化を示すグラフである。曲線Y1は、排気ベント部42を有しない比較例に係るエアバッグクッションに関するものであり、曲線Y2は、排気ベント部42を有する実施形態に係るエアバッグクッション32に関するものである。時間t1は、膨張展開したエアバッグクッションが乗員の大腿部を押圧したタイミング(腰部拘束時)を示している。時間t1は、例えば、エアバッグクッションの膨張展開の開始から15msecである。時
間t1までは、比較例及び実施形態は、ほぼ同様に内圧が上昇し続ける。
【0041】
曲線Y1に示す比較例では、時間t1後においても、エアバッククッションの内圧は上昇を続け、その後ピークに達する。したがって、比較例のエアバッククッションは、乗員の腰部拘束後においても、より高い内圧で乗員の大腿部を押し上げ続けることになる。
【0042】
これに対し、曲線Y2に示す実施形態では、時間t1後において、エアバッグクッション32の内圧の上昇が抑えられ、低下傾向となる。これは、時間t1において排気口46が開放されるからである。したがって、実施形態のエアバッククッション32は、比較例のエアバッグクッションと同様の初期の腰部拘束を可能としつつ、腰部拘束後においては比較例のエアバッグクッションよりも低い内圧で腰部拘束を継続することができる。
【0043】
続いて、図6~8をさらに参照して、実施形態に係る乗員保護装置30の車両緊急時の動作について、二つの比較例に係る乗員保護装置と比較しながら説明する。図6は、排気ベント部42を有しない比較例に係るエアバッグクッション32´(すなわち、図5の曲線Y1を示すエアバッグクッション)に関するものであり、図7は、排気ベント部42ではなく、丸ベントホールを膨張展開部に有する別の比較例に係るエアバッグクッション32´´(すなわち、膨張展開部の一部に円形の排気口を形成したもの)に関するものであり、図8は、実施形態に係るエアバッグクッション32に関するものである。各図において、(a)は通常時、(b)は車両緊急時の初期(腰部拘束時)、(c)は車両緊急時の中期又は後期(拘束後)を示している。
【0044】
まず、排気ベント部42を有しない比較例では、図6(b)に示すように、膨張展開したエアバッククッション32´は座面26を介して乗員107の大腿部を押し上げ、乗員107の腰部を拘束する。しかし、乗員107の腰部の拘束中、エアバッグクッション32´は高圧に維持され、乗員107の大腿部を押し上げ続ける。その結果、矢印90に示すように、エアバッグクッション32´が乗員107の腰部を持ち上げて、後ろ側に回転させ得る。すると、図6(c)に示すように、シートベルトのラップベルト105が乗員107の腸骨110から外れ、乗員107の体がラップベルト105の下側に潜り込むサブマリン現象が発生し得る。
【0045】
また、丸ベントホールを有する別の比較例では、図7(b)に示すように、膨張展開したエアバッククッション32´´は、座面26を介して乗員107の大腿部を押し上げるものの、図6の比較例と比べると、その押し上げ力が弱い。これは、図7に示す比較例では、膨張展開の開始後にエアバッグクッション32´´内のガスが丸ベントホールからリークし、内圧が保持されないからである。したがって、乗員107の腰部の初期拘束力が低く、図7(c)の矢印94に示すように、乗員107の前方移動を十分に拘束することができない。
【0046】
一方、図8に示す実施形態では、乗員107の腰部の拘束までは排気ベント部42が閉じているため、乗員107の腰部の初期拘束が、図6に示す比較例と同様になされる(参照:図8(b))。そして、乗員107の腰部の拘束後は、排気ベント部42が開放するため、乗員の腰部の拘束が、図6に示す比較例よりも緩和される。したがって、エアバッグクッション32が乗員107の腰部を後ろ側に回転させることが抑制される。これにより、図8(c)に示すように、ラップベルト105が乗員107の腸骨110にかかった状態を維持することができる。また、矢印96に示す乗員107の前方移動が抑制される。図8(c)に示す腰部拘束中では、膨張展開部40によるストローク(内圧の低下に伴う収縮)を利用したソフトな拘束となる。
【0047】
以上説明したとおり、実施形態に係る乗員保護装置30は、エアバッグクッション32及びインフレータ34を有し、エアバッグクッション32は、インフレータ34からのガスにより膨張展開する膨張展開部40と、エアバッグクッション32の周縁32aから突出するように設けられた排気ベント部42と、を有する。そして、膨張展開したエアバッグクッション32は、荷重Fが膨張展開部40に作用されることにより、排気ベント部42が開放して膨張展開部40の内部を外部に連通させるように構成されている。
【0048】
かかる構成によれば、車両緊急時、インフレータ34からガスを供給された膨張展開部40が膨張展開して、シートクッション2の座面を押し上げる。この膨張展開の初期段階では、排気ベント部42は開放されていないため、膨張展開部40の内圧が保持される。したがって、初期の腰部拘束性能を確保することが可能となる。そして、腰部の拘束によって膨張展開部40には荷重Fが作用することになる。荷重Fが作用すると、膨張展開部40の内圧が膨張展開の初期段階よりも高くなり、膨張展開の初期段階では密着状態であった排気ベント部42が開放される。これにより、膨張展開部40の内圧が低下する。したがって、乗員の腰部のさらなる押し上げを抑えることができ、サブマリン現象の発生を抑制することができる。
【0049】
このように、実施形態によれば、自己適応型の排気ベント部42付きのエアバッククッション32を備えた乗員保護装置30を提供することができ、サブマリン現象の発生の抑制と初期の腰部拘束性能の確保とを両立することができる。
【0050】
とりわけ、排気ベント部42は、根元部42aが先端部42bよりも幅狭となるように構成されている。このため、車両緊急時に、荷重Fが膨張展開部40に作用されるまでの排気ベント部42の閉塞性を高めることができる。
【0051】
また、図3Aに示す変形例によれば、排気ベント部42が折り畳まれた膨張展開部40の折り畳まれた層の間に挟まれているため、エアバッグクッション32の膨張展開初期において、排気ベント部42の排気口46からのガスのリークをより一層抑制することができる。具体的には、膨張展開初期においては、膜面張力が張るまでにわずかではあるが所定の時間を要し、この所定の時間に排気口46からガスがリークされ得る。しかし、上記の如く、排気ベント部42を配置することで、構造上、膨張展開初期において、排気ベント部42に向かうガスの流れが抑制される。したがって、膨張展開初期におけるガスのリークが抑制され、初期の腰部拘束性能をより一層高めることが可能となる。
【0052】
続いて、他の実施形態について説明する。なお、他の実施形態については、上記の実施形態との相違点を中心に説明し、上記の実施形態と共通する構成、作用に関しては説明を省略する。
【0053】
図9に示す第2実施形態に係る乗員保護装置30では、シートパン24に取り付けた膨張展開前のエアバッグクッション32において、排気ベント部42が、折り畳まれた膨張展開部40の上部に重ねられるように折り畳まれている。例えば、排気ベント部42は、根元部42aを起点として上側に折られ、膨張展開部40の複数の折り返し部64の前部に対向した後、一番上の折り返し部64の上部に載るように後ろ側に折られ、先端部42bが一番上の折り返し部64の上部に重なった状態で後方を向くようになる。
【0054】
図10に示す第3実施形態に係る乗員保護装置30では、シートパン24に取り付けた膨張展開前のエアバッグクッション32において、排気ベント部42が、折り畳まれた膨張展開部40内にタックインされている。例えば、排気ベント部42は、上部延長パネル52a及び下部延長パネル52bがそれぞれ根元部42aを起点として内向きに折られ、膨張展開部40の内部に挿入されている。この挿入された上部延長パネル52a及び下部延長パネル52bは、例えば、複数の折り返し部64のうちの一つの内部に位置する。
【0055】
第2及び第3実施形態によれば、図3Aに示す変形例と同様に、構造上、膨張展開初期において、排気ベント部42に向かうガスの流れが抑制されるので、エアバッグクッション32の膨張展開初期において、排気ベント部42の排気口46からのガスのリークをより一層抑制することができる。
【0056】
図11は、第4実施形態に係る乗員保護装置30のエアバッグクッション32を示している。ここでは、排気ベント部42は、排気口46の少なくとも一部を閉塞するように仮接合されており、かかる仮接合は、膨張展開部40が膨張展開することにより解消されるようになっている。
【0057】
例えば、排気ベント部42は、根元部42aの近傍、又は、根元部42aと先端部42bとの間を仮縫合糸200によって仮縫合されている。仮縫合糸200は、上部延長パネル52aと下部延長パネル52bとを縫い合わせる。仮縫合糸200は、通常時において、排気口46を完全に閉塞するものであってもよいし、排気口46を部分的に閉塞するものであってもよい。仮縫合糸200による縫合力は、シーム54による縫合力よりも小さくなっている。このため、膨張展開部40が膨張展開すると、膨張展開部40による形状変化又は膜面張力の上昇の影響を受けて、仮縫合糸200が切断されるようになっている。したがって、第4実施形態によっても、膨張展開初期における排気口46からのガスのリークが抑制され、初期の腰部拘束性能をより一層高めることが可能となる。
【0058】
図12は、第5実施形態に係る乗員保護装置30のエアバッグクッション32を示している。ここでは、排気ベント部42は、排気口46を閉塞する閉止部210を有しており、閉止部210は、膨張展開部40が膨張展開することにより開くように構成されている。
【0059】
例えば、閉止部210は、薄い膜状部材からなる。閉止部210は、上部延長パネル52aと下部延長パネル52bとの間でこれらに取り付けられ、排気ベント部42と膨張展開部40との連通を遮断する。閉止部210は、膨張展開部40が膨張展開した際に、膨張展開部40による形状変化、膜面張力の上昇又は内圧の上昇の影響を受けて破断する。閉止部210の破断により、排気ベント部42と膨張展開部40とが連通する。したがって、第5実施形態によっても、膨張展開初期における排気口46からのガスのリークが抑制され、初期の腰部拘束性能をより一層高めることが可能となる。
【0060】
図13及び図14は、第6実施形態に係る乗員保護装置30のエアバッグクッション32を示している。なお、排気ベント部42は図示省略している。ここでは、膨張展開部40を構成する基布パネル50は、上部基布パネル50a及び下部基布パネル50bに加えて、互いに対向するサイドパネル300a、300bをさらに有している。サイドパネル300a、300bは、上下方向に直交する方向において互いに対向し、それぞれ、上部基布パネル50a及び下部基布パネル50bに接合されている。
【0061】
例えば、サイドパネル300a、300bは、互いに対となる形状(対称形状)に形成され、それぞれ、周縁部に沿ったシームライン310a、310bを上部基布パネル50a及び下部基布パネル50bに縫合される。サイドパネル300a、300bは、排気ベント部42を構成する基布パネル延長部52とは関連付けられていない(接合されていない)。サイドパネル300a、300bは、エアバッグクッション32が展開した際の高さ(展開時の断面形状)を規定する。
【0062】
第6実施形態に係る乗員保護装置30によっても、上記実施形態と同様の作用を奏することができる。とりわけ、第6実施形態のような3D(三次元)の形状からなるエアバッグクッション32によれば、上記実施形態のような2Dの形状からなるエアバッグクッションに比べて、膨張展開した際の体積を全体として減らしつつ、上方への膨らみ(ストローク又は厚み)を増やすことが可能となる。
【0063】
図15は、第7実施形態に係る乗員保護装置30のエアバッグクッション32を示している。ここでは、排気口46は、上部延長パネル52a及び下部延長パネル52bの少なくとも一方に形成されている。したがって、排気ベント部42の先端部42bは、シーム54により縫合され、閉じられている。排気口46は、例えば、上部延長パネル52aに形成されたベントホールであり、通常時開放している。なお、排気口46を下部延長パネル52bにも形成する場合には、上部延長パネル52aの排気口46に対してオフセットした位置に形成してもよい。第7実施形態に係る乗員保護装置30によっても、上記実施形態と同様の作用を奏することができる。
【0064】
図16は、第8実施形態に係る乗員保護装置30のエアバッグクッション32を示している。上記した複数の実施形態(具体的には図2、11、12及び15に関する実施形態)では、くびれ構造220を基布パネル延長部52の端部に設けたが、本実施形態では、くびれ構造220を基布パネル延長部52の中間部に設けている。具体的には、くびれ構造220は、排気ベント部42の根元部42aと先端部42bとの間の一部に、これらの両方よりも細くなったくびれ部を有している。なお、くびれ部は、根元部42aと先端部42bとの間に複数あってもよい。
【0065】
以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。各実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができると共に、各実施形態の構成を相互に組み合わせることが可能である。
【0066】
また、上記した実施形態に追加の構成を付加することも可能である。例えば、エアバッグクッション32が膨張展開したときの膜面張力が大きくなるような処理をしてもよい。また、エアバッグクッション32が膨張展開したときの、排気口46の周辺部位53の密着性が高まるような処理をしてもよい。一例を挙げると、基布パネル50及び/又は基布パネル延長部52の内面を摩擦面とするような表面処理を施してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…シートバック、2…シートクッション、3…ヘッドレスト、4…リクライニング機構、10…シートフレーム、20…着座フレーム、22…サイドフレーム、24…シートパン、26…座面、30…乗員保護装置、32、32´、32´´…エアバッグクッション、32a…周縁、34…インフレータ、34a…スタッドボルト、40…膨張展開部、42…排気ベント部、42a…根元部、42b…先端部、44…連通箇所、46…排気口、50…基布パネル、50a…上部基布パネル、50b…下部基布パネル、50c…周縁部、52…基布パネル延長部、52a…上部延長パネル、52b…下部延長パネル、52c…周縁部、53…周辺部位、54…シーム、60…前方取付点、62a、62b…後方取付点、64…折り返し部、70…留め具、80、90、94、96…矢印、100…車両シート、105…ラップベルト、107…乗員、110…乗員の腸骨、200…仮縫合糸、210…閉止部、220…くびれ構造、300a、300b…サイドパネル、310a、310b…シームライン、F…荷重、Y1…曲線、Y2…曲線
図1A
図1B
図2
図3
図3A
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16