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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】射出成形機のガス置換方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/17 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
B29C45/17
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023175875
(22)【出願日】2023-10-11
(62)【分割の表示】P 2019176333の分割
【原出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2023171566
(43)【公開日】2023-12-01
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229601
【氏名又は名称】エア・ウォーター・メカトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 直之
(72)【発明者】
【氏名】横須賀 秀作
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅人
(72)【発明者】
【氏名】中 芳晃
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-009489(JP,A)
【文献】特開平10-113945(JP,A)
【文献】特開平03-034820(JP,A)
【文献】特開2018-171800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給手段から供給された射出材料を加熱溶融する加熱溶融部と、上記加熱溶融部で溶融された射出材料を先端の射出穴に向かって押出すスクリューを有するスクリューシリンダとを備えた射出成形機において、上記スクリューシリンダ内のガスを置換する方法であって、
不活性ガスを噴出する噴出ノズルをさらに備え、
上記噴出ノズルは、上記供給手段のシュート部内に上下に延びるように配置され、上記スクリューシリンダにおける上記加熱溶融部よりも上記供給手段側において不活性ガスを噴出し、上記噴出ノズルの先端部は、上記シュート部内において、噴出する不活性ガスの噴出方向が上記スクリューシリンダの軸に対して傾斜角をもつよう屈曲され、
上記噴出ノズルのノズル開口、上記スクリューシリンダの射出穴側に向かうように上記不活性ガスを噴出する
ことを特徴とする射出成形機のガス置換方法。
【請求項2】
供給手段から供給された射出材料を加熱溶融する加熱溶融部と、上記加熱溶融部で溶融された射出材料を先端の射出穴に向かって押出すスクリューを有するスクリューシリンダとを備えた射出成形機において、上記スクリューシリンダ内のガスを置換する装置であって、
不活性ガスを噴出する噴出ノズルをさらに備え、
上記噴出ノズルは、上記供給手段のシュート部内に上下に延びるように配置され、上記スクリューシリンダにおける上記加熱溶融部よりも上記供給手段側において不活性ガスを噴出し、上記噴出ノズルの先端部は、上記シュート部内において、噴出する不活性ガスの噴出方向が上記スクリューシリンダの軸に対して傾斜角をもつよう屈曲され、
上記噴出ノズルのノズル開口、上記スクリューシリンダの射出穴側に向かうように上記不活性ガスを噴出する
ことを特徴とする射出成形機のガス置換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機のスクリューシリンダ内をガス置換する射出成形機のガス置換方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック樹脂製品の製造方法として、射出成形法が現在最も普及している。上記射出成形法を実施する射出成形機は、プラスチック素材を装置内部で加熱溶融し、溶融した素材を加圧して金型に注入した後に冷却固化させて成型品を得る装置である。
【0003】
上記射出成形機は、樹脂素材を貯蔵、供給するためのホッパー、上記樹脂素材を加熱溶融するためのヒーター、上記樹脂素材を加圧供給するスクリュー・シリンダー、溶融させた樹脂素材を金型に注入する噴出ノズル等から構成されている。
【0004】
上記射出成形機は、スクリュー・シリンダーの内部で樹脂素材を加熱溶融するため、空気中の酸素によって樹脂素材に酸化(焼け)が発生する。これにより、成型機の内部に樹脂が焼きついたり、焼けた樹脂が成型品内に混入して不良品が発生したりするという問題が生じる。
【0005】
上記のような現象を抑制するため、ホッパーからスクリュー・シリンダー内に不活性ガス(窒素,アルゴン等)をパージガスとして注入し、スクリュー・シリンダーの内部雰囲気を置換する対策が行われてきた。
【0006】
このようなガス置換技術に関する先行技術文献として、本出願人は、下記の特許文献1および2を把握している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-248826号公報
【文献】特開平9-10910号公報
【0008】
上記特許文献1は、「射出成形機用ガス置換装置」に関するものであり、つぎの記載がある。
〔2.特許請求の範囲〕
(1)熱可塑性樹脂を射出成形する射出成形機の樹脂射出部に、ガス吸引,噴出および樹脂射出用切換弁を設けることにより構成したことを特徴とする射出成形機用ガス置換装置。
〔公報第2頁左上欄第18行目~第20行目〕
1は射出成形機の樹脂射出部であるノズルで、このノズル1の先端部に取付け枠2を介して本発明のガス置換装置3が装備されている。
〔公報第2頁右上欄第7行目~第10行目〕
また、前記取付用ノズル体5には、前記取付け枠2に固定したモータ7の回転駆動軸8を介して回転自在にガス吸引,噴出および樹脂射出用切換え弁9が装備されている。
〔公報第2頁右下欄第8行目~第12行目〕
しかる後、ガス吸引,噴出切換バルブ13を作動して導管12の端部12bが導管15に接続されて前記ガス吸引,噴出孔11がロータリーポンプ16に連結されるとともに同ポンプ16の作動によって金型内の空気を吸引する。
〔公報第2頁右下欄第17行目~第3頁左上欄第9行目〕
そこで、前記ロータリーポンプ16を介する吸引工程の終了後、ロータリーポンプ16の停止に関連して切換バルブ13を切換えて導管12を不活性ガス噴出装置14に接続し同装置14を作動せしめて前記工程にて同装置14に貯溜される不活性ガスを吸引,噴出孔11およびノズル穴4を介して金型内に噴出してキャビティ内を不活性ガスにて置換する。
そして、前記不活性ガス噴出装置14を停止した後、再度モータ7を作動して切換弁9を回転して、再度切換弁9の樹脂射出孔10をノズル穴4および6に合致せしめて両ノズル穴4および6を連通した後、ノズル1より樹脂を射出する。
【0009】
上記特許文献2は、「軽合金射出材料の射出成形方法および射出成形機」に関するものであり、つぎの記載がある。
〔0005〕
・・・上記のように成形しているときも、連続して、または間欠的にホッパ内部を不活性ガス雰囲気にする。ホッパ内部を不活性ガス雰囲気にすることにより、ホッパ下のスクリュウ供給部も不活性ガス雰囲気にする。・・・
〔0012〕
成形開始準備期間中、不活性ガス置換治具50を、駆動装置例えば図に示されていない油圧ピストン機構によりスライドさせて、図1に示されているように、開口52が射出ノズル3と軸方向に整合する第1の位置にする。そうしてピストン・シリンダ装置5のピストンロッド側の油圧室8に圧油を供給する。そうすると、射出ノズル3が不活性ガス置換治具50の開口52にタッチする。そこで、第2の圧力容器41’の元栓42’を開く。そうすると、第2のガス供給管路46により、圧力調整器48で所定圧力に調整された不活性ガスが、不活性ガス置換治具50のガス通路51から開口52に供給される。これにより、射出ノズル3の先端部が不活性ガス雰囲気に置かれる。また、第1の圧力容器41の元栓42も開く。そうすると、第1のガス供給管路43により、圧力調整器44で所定圧力に調整され、そして流量調整器45により所定流量に制御された不活性ガスが、分岐管43’、43”からホッパ20の本体21と供給口24近傍とに供給される。これにより、ホッパ20の本体21の内部と、供給口24近傍と、ホッパ20下のスクリュウ供給部16とが不活性ガス雰囲気に置かれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に開示された技術では、ノズル1の先端部に複雑な構造のガス置換装置3を装備し、金型のキャビティ内を、吸引したのち不活性ガスを導入してガス置換する。このように、金型のキャビティの内部だけをガス置換したとしても、上記ノズル1には、ホッパーからの樹脂材料が空気とともに供給される。したがって、ノズル1内で樹脂が溶融するときに、溶融する樹脂に生じる樹脂の焼けを防止することができない。つまり、ノズル1(スクリュー・シリンダー)の内部で加熱溶融される樹脂の焼けによる、樹脂の焼きつきや不良品が発生する問題を根本的に解決しうるものではない。
【0011】
上記特許文献2に開示された技術は、ホッパ20の本体21と供給口24近傍に不活性ガスを供給する。しかしながら、これでは、ホッパ20下のスクリュウ供給部16が不活性ガス雰囲気に置かれるにとどまる。このため、上記特許文献2では、射出ノズル3の先端にも不活性ガス置換治具50を設け、射出ノズル3の先端部を不活性ガス雰囲気に置くことが行われている。つまり、ホッパ20の本体21と供給口24近傍に不活性ガスを供給するだけでは、溶融する樹脂に生じる樹脂の焼けを十分に防止することができないため、わざわざ射出ノズル3の先端にも不活性ガス置換治具50を設けている。このように、装置が複雑となり、その制御も複雑になるという問題がある。
【0012】
このように、従来のガス置換方法では、ホッパー部から不活性ガスを注入し、ホッパー内部およびホッパー下部に位置するシリンダー部の雰囲気を置換するものである。しかしながら、射出成形機はシリンダー部にガス抜き口が設けられていないため、ホッパー部から注入されたパージガスがシリンダー部を通過することができない。上記パージガスは注入箇所からシリンダー部の端部のみを通過し、その後Uターンするようにホッパー上部に抜けている。このように、従来の方法ではパージが有効に機能せず、シリンダー部の雰囲気置換に長時間を要している。このため、射出成形機が稼働を停止しているあいだもパージガスの注入を続けることが行われている。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎの目的をもってなされたものである。
射出成形機のスクリューシリンダ内を簡単な装置と制御で効率的にガス置換できる射出成形機のガス置換方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1記載の射出成形機のガス置換方法は、つぎの構成を採用した。
供給手段から供給された射出材料を加熱溶融する加熱溶融部と、上記加熱溶融部で溶融された射出材料を先端の射出穴に向かって押出すスクリューを有するスクリューシリンダとを備えた射出成形機において、上記スクリューシリンダ内のガスを置換する方法であって、
不活性ガスを噴出する噴出ノズルをさらに備え、
上記噴出ノズルは、上記供給手段のシュート部内に上下に延びるように配置され、上記スクリューシリンダにおける上記加熱溶融部よりも上記供給手段側において不活性ガスを噴出し、上記噴出ノズルの先端部は、上記シュート部内において、噴出する不活性ガスの噴出方向が上記スクリューシリンダの軸に対して傾斜角をもつよう屈曲され、
上記噴出ノズルのノズル開口、上記スクリューシリンダの射出穴側に向かうように上記不活性ガスを噴出する。
【0015】
上記目的を達成するため、請求項記載の射出成形機のガス置換装置は、つぎの構成を採用した。
供給手段から供給された射出材料を加熱溶融する加熱溶融部と、上記加熱溶融部で溶融された射出材料を先端の射出穴に向かって押出すスクリューを有するスクリューシリンダとを備えた射出成形機において、上記スクリューシリンダ内のガスを置換する装置であって、
不活性ガスを噴出する噴出ノズルをさらに備え、
上記噴出ノズルは、上記供給手段のシュート部内に上下に延びるように配置され、上記スクリューシリンダにおける上記加熱溶融部よりも上記供給手段側において不活性ガスを噴出し、上記噴出ノズルの先端部は、上記シュート部内において、噴出する不活性ガスの噴出方向が上記スクリューシリンダの軸に対して傾斜角をもつよう屈曲され、
上記噴出ノズルのノズル開口、上記スクリューシリンダの射出穴側に向かうように上記不活性ガスを噴出する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の射出成形機のガス置換方法は、スクリューシリンダを備えた射出成形機において、上記スクリューシリンダ内のガスを置換する方法である。上記スクリューシリンダは、加熱溶融部とスクリューを有する。上記加熱溶融部は、供給手段から供給された射出材料を加熱溶融する。上記スクリューは、上記加熱溶融部で溶融された射出材料を先端の射出穴に向かって押出す。本発明の方法は、不活性ガスを噴出する噴出ノズルをさらに備える。上記噴出ノズルは、上記スクリューシリンダにおける上記加熱溶融部よりも上記供給手段側において不活性ガスを噴出する。上記噴出ノズルのノズル開口は、上記スクリューシリンダの射出穴側に向かうように上記不活性ガスを噴出する。
このため、供給手段から供給されて溶融する前の射出材料の周りにある空気が不活性ガスと置換され、その状態の射出材料が溶融され押出されて射出される。したがって、従来に比べ、簡単な装置と制御で効率的にスクリューシリンダ内をガス置換し、樹脂の焼けによるスクリューシリンダ内の焼きつきや不良品の発生を根本的に解決できる。
また、上記噴出ノズルは、上記供給手段のシュート部内に上下に延びるように配置され、上記噴出ノズルの先端部は、上記シュート部内において、噴出する不活性ガスの噴出方向が上記スクリューシリンダの軸に対して傾斜角をもつよう屈曲されている。これにより、上記噴出ノズルのノズル開口が、上記スクリューシリンダの射出穴側に向かうように上記不活性ガスを噴出する。このようにして、スクリューシリンダの軸に対して所定の傾斜で不活性ガスを噴出すれば、スクリューシリンダ内のガスが噴出された不活性ガスに押されて排出される。これにより、効果的にガス置換できる。
【0017】
請求項記載の射出成形機のガス置換装置は、スクリューシリンダを備えた射出成形機において、上記スクリューシリンダ内のガスを置換する装置である。上記スクリューシリンダは、加熱溶融部とスクリューを有する。上記加熱溶融部は、供給手段から供給された射出材料を加熱溶融する。上記スクリューは、上記加熱溶融部で溶融された射出材料を先端の射出穴に向かって押出す。本発明の装置は、不活性ガスを噴出する噴出ノズルをさらに備える。上記噴出ノズルは、上記スクリューシリンダにおける上記加熱溶融部よりも上記供給手段側において不活性ガスを噴出する。上記噴出ノズルのノズル開口は、上記スクリューシリンダの射出穴側に向かうように上記不活性ガスを噴出する。
このため、供給手段から供給されて溶融する前の射出材料の周りにある空気が不活性ガスと置換され、その状態の射出材料が溶融され押出されて射出される。したがって、従来に比べ、簡単な装置と制御で効率的にスクリューシリンダ内をガス置換し、樹脂の焼けによるスクリューシリンダ内の焼きつきや不良品の発生を根本的に解決できる。
また、上記噴出ノズルは、上記供給手段のシュート部内に上下に延びるように配置され、上記噴出ノズルの先端部は、上記シュート部内において、噴出する不活性ガスの噴出方向が上記スクリューシリンダの軸に対して傾斜角をもつよう屈曲されている。これにより、上記噴出ノズルのノズル開口が、上記スクリューシリンダの射出穴側に向かうように上記不活性ガスを噴出する。このようにして、スクリューシリンダの軸に対して所定の傾斜で不活性ガスを噴出すれば、スクリューシリンダ内のガスが噴出された不活性ガスに押されて排出される。これにより、効果的にガス置換できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態の射出成形機のガス置換装置を説明する構成図である。
図2】上記実施形態の射出成形機のガス置換方法を説明する線図である。
図3】実施例として行った実証試験の試験装置を説明する構成図である。
図4】上記試験装置を説明する図である。
図5】第2試験の噴出流量変化を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0020】
〔概要〕
図1は、本発明の実施形態の射出成形機のガス置換装置を説明する構成図である。
本実施形態は、スクリューシリンダ10を備えた射出成形機において、上記スクリューシリンダ10内のガスを置換する装置および方法である。
【0021】
〔スクリューシリンダ10〕
上記スクリューシリンダ10は、先端部がすぼまって前後に延びる円筒状のシリンダ本体10Aを有する。上記シリンダ本体10Aの先端には、加熱溶融された射出材料が射出される射出穴12が形成されている。上記スクリューシリンダ10は、加熱溶融部20とスクリュー30を有する。
【0022】
〔加熱溶融部20〕
上記加熱溶融部20は、供給手段11から供給された射出材料(図示していない)を加熱溶融するためのものである。上記加熱溶融部20は、シリンダ本体10Aの先端側の外周に複数のヒータ21が設けられることにより構成される。上記ヒータ21によりシリンダ本体10Aが加熱され、内部に充填された射出材料が加熱溶融される。
【0023】
〔スクリュー30〕
上記スクリュー30は、上記加熱溶融部20で溶融された射出材料を先端の射出穴12に向かって押出すためのものである。上記スクリュー30は、シリンダ本体10Aの内部に、シリンダ本体10Aと同軸状になるよう挿入されている。上記スクリュー30の先端は、シリンダ本体10Aのすぼまった先端部近傍に位置している。上記スクリュー30の後端は、図示しないモータに連結されている。上記スクリュー30には、シリンダ本体10の後端開口から射出材料を漏出させないためのフランジ31が設けられている。上記スクリュー30の上記フランジ31より先端側の外周には、射出材料を先端側に向かって送るためのらせん突条32が形成されている。
【0024】
〔供給手段11〕
上記供給手段11は、一時的に貯留した射出材料を上記スクリューシリンダ10内に供給するためのものである。上記供給手段11は、この例では、ホッパ部11Aとシュート部11Bとを含んで形成されている。上記ホッパ部11Aは上広がりの漏斗状であり、射出材料を受け入れて貯留する。上記シュート部11Bは、上記ホッパ部11Aの下端開口13と上記シリンダ本体10Aに形成された供給口14を接続する管状体である。
【0025】
上記シリンダ本体10Aの供給口14は、上記加熱溶融部20よりも根元側に形成されている。つまり、スクリューシリンダ10の上記加熱溶融部20よりも根元側で、スクリュー30のフランジ31より先端側に、上記供給口14が設けられる。上記供給口14から新しい射出材料がスクリューシリンダ10内に供給される。
【0026】
〔射出材料〕
上記射出材料は、熱可塑性樹脂等の樹脂材料や軽合金等の金属材料を用いることができる。上記射出材料は、ペレット状の材料が供給手段11のホッパ部11Aに供給される。上記射出材料は、ペレット状のままシュート部11Bを通過してスクリューシリンダ10内に供給される。スクリューシリンダ10内で上記射出材料は、スクリュー30の回転によって先端側に徐々に送られ、加熱溶融部20に達すると加熱されて溶融する。溶融した射出材料は、射出穴12から射出され、図示しない金型のキャビティ内に注入される。
【0027】
〔噴出ノズル40〕
本実施形態は、不活性ガスを噴出する噴出ノズル40をさらに備えている。
上記噴出ノズル40は、上記スクリューシリンダ10における上記加熱溶融部20よりも上記供給手段11側において不活性ガスを噴出する。上記噴出ノズル40のノズル開口は、上記スクリューシリンダ10の射出穴12側に向かうように上記不活性ガスを噴出する。この例では、上記噴出ノズル40は、ノズル開口41から噴出する不活性ガスの噴出方向が、上記スクリューシリンダ10の軸に対して傾斜角をもつようになっている。
【0028】
上記噴出ノズル40には、図示しない不活性ガスの供給源から不活性ガスが供給される。上記不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスを用いることができる。
【0029】
この例では、上記噴出ノズル40は、上記供給手段11のシュート部11B内に配置されている。図示した例の噴出ノズル40は、上記シュート部11B内を上下に延びるように配置され、下側の先端部が所定の傾斜角で屈曲されることにより、先端のノズル開口41から不活性ガスが、上記スクリューシリンダ10の軸に対して傾斜角をもつ噴出方向で噴出する。
【0030】
上記傾斜角度としてたとえば、0°を超える角度で、60°程度以下の角度に設定することができる。
【0031】
上記噴出ノズル40は、上記不活性ガスの噴出流量を間欠的に切り替えることが好ましい。具体的には、上記噴出ノズル40に不活性ガスを導入するための導入路に設けた開閉弁42の開閉制御等により実現することができる。図において符号43は、上記開閉弁42を制御する制御部43である。
【0032】
図2は、上記実施形態の射出成形機のガス置換方法の一例を説明する線図である。具体的には、上記噴出ノズル40から不活性ガスを噴出させるときの噴出流量の変化を示す。横軸が経過時間、縦軸が流量である。
【0033】
この例では、上記開閉弁42の開閉制御は、弁を開く動作や閉じる動作を徐々に行うのではなく、一気に弁を開き一気に弁を閉じるオンオフ制御である。このため、弁を開いたときは急峻な増加率で流量が一気に増えて一定流量となり、弁を閉じたときは即時に流量がゼロになる。
【0034】
上記噴出ノズル40が不活性ガスの噴出流量を間欠的に切り替える際、不活性ガスの噴出流量が小さい時間TSを、不活性ガスの噴出流量が大きい時間TOと同等かまたはそれ以上となるよう設定するのが好ましい。たとえば、上記TSを上記TOの1.5倍以上とすることができる。また、上記TSを上記TOの4~5倍以下とすることができる。好ましくは、上記TSを上記TOの2倍以上3倍以下とすることができる。上記TSがTOよりも短くなると、スクリューシリンダ10内のガスの排出が行われにくく、置換効率が良くならないおそれがある。
【0035】
上記TOは、たとえば1~2秒とすることができる。上記TSは、上述したように、上記TOに対して1.5倍以上4~5倍以下に設定できる。
【0036】
〔実施形態の効果〕
【0037】
上記実施形態では、スクリューシリンダ10を備えた射出成形機において、上記スクリューシリンダ10内のガスを置換する方法および装置である。上記スクリューシリンダ10は、加熱溶融部20とスクリュー30を有する。上記加熱溶融部20は、供給手段11から供給された射出材料を加熱溶融する。上記スクリュー30は、上記加熱溶融部20で溶融された射出材料を先端の射出穴12に向かって押出す。本実施形態は、不活性ガスを噴出する噴出ノズル40をさらに備える。上記噴出ノズル40は、上記スクリューシリンダ10における上記加熱溶融部20よりも上記供給手段11側において不活性ガスを噴出する。上記噴出ノズル40のノズル開口41は、上記スクリューシリンダ10の射出穴12側に向かうように上記不活性ガスを噴出する。
このため、供給手段11から供給されて溶融する前の射出材料の周りにある空気が不活性ガスと置換され、その状態の射出材料が溶融され押出されて射出される。したがって、従来に比べ、簡単な装置と制御で効率的にスクリューシリンダ10内をガス置換し、樹脂の焼けによるスクリューシリンダ10内の焼きつきや不良品の発生を根本的に解決できる。
【0038】
上記実施形態は、上記噴出ノズル40が、ノズル開口41から噴出する不活性ガスの噴出方向が、上記スクリューシリンダ10の軸に対して傾斜角をもつ。
スクリューシリンダ10の軸に対して所定の傾斜で不活性ガスを噴出すれば、スクリューシリンダ10内のガスが噴出された不活性ガスに押されて排出される。これにより、効果的にガス置換できる。
【0039】
上記実施形態は、上記噴出ノズル40が不活性ガスの噴出流量を間欠的に切り替える。
不活性ガスの噴出流量を間欠的に切り替えれば、スクリューシリンダ10内に大きい噴出流量で不活性ガスを送り込み、噴出流量が小さいあいだにスクリューシリンダ10内のガスが排出される。たとえば、不活性ガスの噴出と停止を間欠的に繰り返せば、不活性ガスの噴出によってスクリューシリンダ10内に不活性ガスを送り込み、噴出を停止しているあいだにスクリューシリンダ10内のガスが排出される。これにより、効果的にガス置換できる。
【0040】
上記実施形態は、上記噴出ノズル40が不活性ガスの噴出流量を間欠的に切り替える際、不活性ガスの噴出流量の小さい時間TSが、不活性ガスの噴出流量の大きい時間TOと同等かまたはそれ以上となるよう設定されている。
上記噴出流量が小さい時間TSのあいだにスクリューシリンダ10内のガスが排出され、その後の上記噴出流量が大きい時間TOのあいだに不活性ガスがスクリューシリンダ10内に送り込まれる。これにより、効果的にガス置換できる。
【0041】
〔実施例〕
▽試験装置
図3は、実施例として行った実証試験の試験装置を説明する構成図である。
この試験装置では、上述したシリンダ本体10Aとシュート部11Bを樹脂製のパイプ材によって模型にしたモデルシリンダ50を準備した。上記モデルシリンダ50は、シリンダ本体10Aに対応するシリンダモデル部50Aと、シュート部11Bに対応するシュートモデル部50Bとを有している。
【0042】
図4は、上記試験装置を説明する図であり、モデルシリンダ50の詳細を示す。(A)は第1例であり、(B)は第2例である。
【0043】
上記シリンダモデル部50Aとシュートモデル部50Bは、いずれも樹脂パイプを所定の長さに切断したものを用いて作成した。上記シリンダモデル部50Aの根元側に上記シュートモデル部50Bを90°の角度で接合した。上記シリンダモデル部50Aの先端は先キャップ51で閉塞し、上記シリンダモデル部50Aの根元端部も根元キャップ52で閉塞した。上記シュートモデル部50Bの上部開口を、排気管55つきの栓53で閉塞した。
【0044】
上記栓53に上記噴出ノズル40に対応するノズル管を設けた。図4(A)第1例が第1ノズル管54A、図4(B)第2例が第2ノズル管54Bである。
【0045】
図4(A)第1例の第1ノズル管54Aは、先端部を45°屈曲させ、不活性ガスの噴出方向がシリンダモデル部50Aの先端側に向かうようにした。
図4(B)第2例の第2ノズル管54Bは、不活性ガスの噴出方向がシリンダモデル部50Aの軸に対して直交するようにした。
【0046】
図3に戻って説明すると、上記ノズル管には、窒素ガスボンベ61から不活性ガスとして窒素ガスが導入される。上記窒素ガスボンベ61には窒素ガス製造装置65から窒素ガスが補充される。窒素ガスの導入管62には、流量制御器63と開閉弁64を並列で接続した。上記開閉弁64が、図1の装置における開閉弁42に相当する。上記ノズル管からの窒素ガスの連続的な噴出に上記流量制御器63を用い、上記ノズル管からの窒素ガスの間欠的な噴出に開閉弁64を用いた。
【0047】
上記シリンダモデル部50Aには、先端近傍に先端ポート72を設け、先端と根元の中間部分に中間ポート71を設けた。上記中間ポート71には、サンプリングポンプ73と酸素濃度計74を接続し、シリンダモデル部50Aからサンプリングしたガスの酸素濃度を測定するように、上記サンプリングポンプ73には、パージライン75を接続し、酸素濃度計74の窒素パージを可能とした。上記中間ポート71からサンプリングしたガスの酸素濃度を酸素濃度計74で計測し、ガス置換の評価を行った。上記先端ポート72には空気パージライン77と空気圧縮機76を接続し、シリンダモデル部50A内部の空気によるパージを可能とした。一度の測定が終了するごとに、シリンダモデル部50A内部を空気でパージして状態をリセットした。
【0048】
▽第1試験
まず、上記シリンダモデル部50Aに空気を入れた状態から、ノズル管から窒素ガスを一定時間噴出したのち、中間ポート71からサンプリングしたガスの残留酸素濃度を測定した。ガス置換の程度を、その最大値で評価した。この数値が小さいほど、ノズル管から窒素ガスを噴出することによって、シリンダモデル部50Aの内部が良好にガス置換されたと評価した。ノズル管から窒素ガスを噴出するときの流量は全て10L/分で統一した。連続噴出は、流量10L/分で連続して窒素ガスを噴出した。間欠噴出では、窒素ガスの噴出をON/OFFさせ、平均の噴出流量が10L/分となるようにした。同じ時間であれば第1例も第2例も同じ量の窒素が噴出されている。その結果をつぎの表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1からわかるように、噴出時間が長くなると残留酸素濃度が低下する傾向がある。つまり、噴出時間が長いほどシリンダモデル部50A内部のガス置換が進むことがわかる。また、連続噴出と間欠噴出を比較すると、間欠噴出のほうが残留酸素濃度が低く、ガス置換が進んでいることがわかる。また、噴出方向を比較すると、下向きの第2例よりも傾斜角度をもたせた第1例のほうが残留酸素濃度が低く、ガス置換が進んでいる。たとえば、120分後の結果は第2例の連続噴射で残留酸素濃度が73,000ppm、第1例の間欠噴射が47,700ppmである。第2例と第1例を比較すると、第1例の残留酸素濃度が約35%低い。
【0051】
▽第2試験
つぎに、窒素ガスの噴出流量を間欠的に切り替えるときの噴出流量を変化させてパージ効果を比較した。
【0052】
図5は、第2試験の噴出流量変化を説明する模式図である。
図5(A)は、実験例1の噴出流量変化を説明する図である。間欠噴出流量(図示の斜線Aの領域)を10L/分とし、連続噴出流量をゼロL/分とした。つまり、一時的に噴出流量がゼロとなる間欠パターンである。
図5(B)は、実験例2~6の噴出流量変化を説明する図である。間欠噴出流量(図示の斜線Aの領域)を9L/分、8L/分、7L/分、6L/分、5L/分、と変化させ、連続噴出流量(図示の斜線Bの領域)を1L/分、2L/分、3L/分、4L/分、5L/分、と変化させた。つまり、一定量が連続的に噴出されているところに間欠的に噴出量を増加させたパターンである。
図5(C)は、実験例7の噴出流量変化を説明する図である。連続噴出流量(図示の斜線Bの領域)を10L/分とした。つまり、一定量が連続的に噴出されているパターンである。
いずれのパターンにおいても噴出流量の平均は、10L/分あり、同じ時間であれば同じ量の窒素ガスが噴出される。
【0053】
上記実験例1~7において、それぞれ噴出時間を30分、60分、120分とした後のシリンダモデル部50Aの酸素濃度の測定値を下記の表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
上記表2に示すように、窒素ガスを噴出流量を間欠的に切り替えた場合(実験例1~6)は、窒素ガスを連続噴出した場合(実験例7)に比べて良好な結果が得られている。間欠噴出流量が少なくなるにつれて結果は悪くなる傾向にある。窒素ガスの噴出を一時的に完全に止めることで、シリンダモデル部50Aのガスの流動を促進していると考えることができる。
【0056】
また、窒素ガスの噴出を完全に止めなくても、噴出流量を間欠的に切り替えることで、結果が良好になる傾向がある。具体的には、間欠噴出流量の割合が90%以上(実験例2)であれば、実験例1と同程度の効果がある。一方、間欠噴出流量の割合が80%以下(実験例3~6)では効果が小さくなる。
【0057】
〔まとめ〕
窒素ガスをシリンダモデル部50Aに斜め上方向から噴出することにより、シリンダモデル部50A内のガスを水平方向に押して動かす作用が生じ、窒素ガスを間欠的に噴出することでシリンダモデル部50Aのガスを押さえ込むことなく、流動させることができたためと考えられる。
【0058】
〔変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は図示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
【0059】
たとえば、上記各実験例では、不活性ガスの噴出流量を間欠的に切り替える場合、噴出流量が小さいときの流量と、噴出流量が大きいときの流量をそれぞれ固定したが、噴出流量が小さいときの流量と、噴出流量が大きいときの流量を、それぞれ段階的に設定することもできる。
【符号の説明】
【0060】
10:スクリューシリンダ
10A:シリンダ本体
11:供給手段
11A:ホッパ部
11B:シュート部
12:射出穴
13:下端開口
14:供給口
20:加熱溶融部
21:ヒータ
30:スクリュー
31:フランジ
32:らせん突条
40:噴出ノズル
41:ノズル開口
42:開閉弁
43:制御部
50:モデルシリンダ
50A:シリンダモデル部
50B:シュートモデル部
51:先キャップ
52:根元キャップ
53:栓
54A:第1ノズル管
54B:第2ノズル管
55:排気管
61:窒素ガスボンベ
62:導入管
63:流量制御器
64:開閉弁
65:窒素ガス製造装置
71:中間ポート
72:先端ポート
73:サンプリングポンプ
74:酸素濃度計
75:パージライン
76:空気圧縮機
77:空気パージライン
図1
図2
図3
図4
図5