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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】タービン静翼、及び蒸気タービン
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/02 20060101AFI20240726BHJP
   F01D 25/32 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
F01D9/02 103
F01D25/32 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023531452
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015932
(87)【国際公開番号】W WO2023276385
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2021106944
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】水見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田畑 創一朗
(72)【発明者】
【氏名】石橋 光司
(72)【発明者】
【氏名】三宅 哲
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-080705(JP,A)
【文献】特開昭63-263204(JP,A)
【文献】特開2017-106451(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02985426(EP,A1)
【文献】国際公開第2021/117883(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0154586(US,A1)
【文献】特開2020-139423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 9/02
F01D 25/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気の流れ方向に交差する径方向に延びるとともに、前記流れ方向の上流側の前縁と下流側の後縁を有する静翼本体と、
該静翼本体の表面に形成され、前記後縁に沿って径方向に延びるとともに前記静翼本体の表面に沿って流れる液膜を回収する回収部と、
前記静翼本体の表面に形成され、前記流れ方向の上流側から前記回収部に向かって延びる複数の第一微細溝が形成された中央領域と、
を備え、
前記中央領域の前記前縁における前記径方向の寸法は、前記回収部の前記径方向の寸法よりも大きくなっており、
上流側から前記回収部に向かうに従って、互いに隣り合う前記第一微細溝同士の間の間隔が狭くなっているタービン静翼。
【請求項2】
前記回収部に向かうに従って、前記流れ方向に対して前記第一微細溝の延びる方向がなす角度である転向角が次第に小さくなっている請求項1に記載のタービン静翼。
【請求項3】
前記回収部に向かうに従って、前記流れ方向に対して前記第一微細溝の延びる方向がなす角度である転向角の増加率が次第に小さくなっている請求項1に記載のタービン静翼。
【請求項4】
蒸気の流れ方向に交差する径方向に延びる静翼本体と、
該静翼本体の表面に形成され、該表面に沿って流れる液膜を回収する回収部と、
前記静翼本体の表面に形成され、前記流れ方向の上流側から前記回収部に向かって延びる複数の第一微細溝が形成された中央領域と、
を備え、
上流側から前記回収部に向かうに従って、互いに隣り合う前記第一微細溝同士の間の間隔が狭くなっており、
前記回収部に向かうに従って、前記流れ方向に対して前記第一微細溝の延びる方向がなす角度である転向角が次第に小さくなっているタービン静翼。
【請求項5】
蒸気の流れ方向に交差する径方向に延びる静翼本体と、
該静翼本体の表面に形成され、該表面に沿って流れる液膜を回収する回収部と、
前記静翼本体の表面に形成され、前記流れ方向の上流側から前記回収部に向かって延びる複数の第一微細溝が形成された中央領域と、
を備え、
上流側から前記回収部に向かうに従って、互いに隣り合う前記第一微細溝同士の間の間隔が狭くなっており、
前記回収部に向かうに従って、前記流れ方向に対して前記第一微細溝の延びる方向がなす角度である転向角の増加率が次第に小さくなっているタービン静翼。
【請求項6】
前記静翼本体の表面における前記中央領域の径方向外側に形成され、上流側から下流側に向かうに従って径方向外側に向かって延びる複数の第二微細溝が形成された外側領域をさらに備える請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項7】
前記静翼本体の表面における前記中央領域の径方向内側に形成され、上流側から下流側に向かうに従って径方向内側に向かって延びる複数の第三微細溝が形成された内側領域をさらに備える請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項8】
軸線に沿って延びる回転軸と、
該回転軸の外周面から径方向外側に延びるとともに周方向に配列された複数のタービン動翼と、
前記回転軸、及び前記複数のタービン動翼を外側から覆うケーシングと、
該ケーシングの内周面から径方向内側に向かって延びるとともに周方向に複数配列された請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼と、
を備える蒸気タービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タービン静翼、及び蒸気タービンに関する。
本願は、2021年6月28日に日本に出願された特願2021-106944号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンは、軸線回りに回転可能な回転軸と、当該回転軸の外周面上で軸線方向に間隔をあけて配列された複数のタービン動翼列と、回転軸、及びタービン動翼列を外周側から覆うケーシングと、ケーシングの内周側で内輪と外輪とによって径方向から支持されている複数のタービン静翼列と、を備えている。各タービン動翼列は、回転軸の周方向に配列された複数の動翼を有しており、各タービン静翼列は、回転軸の周方向に配列された複数の静翼を有している。タービン動翼列は、タービン静翼列と軸線方向の下流側に隣接して配置されることで一つの段落を形成している。ケーシングの上流側には外部から蒸気を取り込む入口配管につながる吸入口が形成され、下流側には排気室が形成されている。ボイラで生成した蒸気は、調整弁で圧力と温度が調整され、タービン入口弁で流量を調整されて、タービンへ流入する。入口配管から取り込まれた高温高圧の蒸気は、タービン静翼列で流れの方向と速度を調整された後、タービン動翼列で回転軸の回転力に変換される。
【0003】
タービン内を通過する蒸気は、上流側から下流側に向かうにつれてエネルギーを失い、温度(と圧力)が低下する。特に、火力発電用の蒸気タービンは一般的に高圧タービン、中圧タービン、及び低圧タービンで構成されている。低圧タービンの最も下流側から数えて2つの段落(タービン静翼列とタービン動翼列の対)では、気液二相流環境となっている。したがって、最も下流側の段落では、蒸気の一部が液化して微細な液滴(水滴)として気流中に存在しており、その液滴の一部はタービン静翼の表面に付着する。この液滴は、タービン静翼の表面上で上流側から下流側にかけて存在し、これら液滴が翼面上で集合することで成長して液膜となる。液膜は、常に高速の蒸気流に曝されている。液膜がさらに成長して厚みが増すと、その一部が蒸気流によって引きちぎられて粗大液滴として下流側へ飛散する。大きな液滴ほど慣性力が大きいことから、蒸気流に乗ってタービン動翼の間を通過することができずに、タービン動翼に衝突する。タービン動翼の周速は、先端側に向かうほど大きくなり、音速を超える場合があることから、飛散した液滴がタービン動翼に衝突した場合、タービン動翼の表面にエロージョン(侵食)を発生させることがある。また、液滴の衝突によってタービン動翼の回転が阻害され、制動損失が生じることもある。
【0004】
このようなエロージョンの発生を防ぐために、これまでに種々の技術が提唱されている。例えば下記特許文献1に記載された蒸気タービンでは、タービン動翼の表面に一つの案内溝が形成されている。この案内溝に沿って液滴が案内されることで、周速の高いタービン動翼の先端側に液滴が流れることを防ぐことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-166569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようにタービン動翼での液滴の流れを規制するのみでは、エロージョンに対する根本的な解決策とはならない。そこで、タービン静翼における液滴の抑制や回収をすることが可能な技術に対する要請が高まっていた。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、液滴をより効率的に抑制、又は回収することが可能なタービン静翼、及び蒸気タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係るタービン静翼は、蒸気の流れ方向に交差する径方向に延びるとともに、前記流れ方向の上流側の前縁と下流側の後縁を有する静翼本体と、該静翼本体の表面に形成され、前記後縁に沿って径方向に延びるとともに前記静翼本体の表面に沿って流れる液膜を回収する回収部と、前記静翼本体の表面に形成され、前記流れ方向の上流側から前記回収部に向かって延びる複数の第一微細溝が形成された中央領域と、を備え、前記中央領域の前記前縁における前記径方向の寸法は、前記回収部の前記径方向の寸法よりも大きくなっており、上流側から前記回収部に向かうに従って、互いに隣り合う前記第一微細溝同士の間の間隔が狭くなっている。
また、本開示に係るタービン静翼は、蒸気の流れ方向に交差する径方向に延びる静翼本体と、該静翼本体の表面に形成され、該表面に沿って流れる液膜を回収する回収部と、前記静翼本体の表面に形成され、前記流れ方向の上流側から前記回収部に向かって延びる複数の第一微細溝が形成された中央領域と、を備え、上流側から前記回収部に向かうに従って、互いに隣り合う前記第一微細溝同士の間の間隔が狭くなっており、前記回収部に向かうに従って、前記流れ方向に対して前記第一微細溝の延びる方向がなす角度である転向角が次第に小さくなっている。
また、本開示に係るタービン静翼は、蒸気の流れ方向に交差する径方向に延びる静翼本体と、該静翼本体の表面に形成され、該表面に沿って流れる液膜を回収する回収部と、前記静翼本体の表面に形成され、前記流れ方向の上流側から前記回収部に向かって延びる複数の第一微細溝が形成された中央領域と、を備え、上流側から前記回収部に向かうに従って、互いに隣り合う前記第一微細溝同士の間の間隔が狭くなっており、前記回収部に向かうに従って、前記流れ方向に対して前記第一微細溝の延びる方向がなす角度である転向角の増加率が次第に小さくなっている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、液滴をより効率的に抑制、又は回収することが可能なタービン静翼、及び蒸気タービンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施形態に係る蒸気タービンの構成を示す断面図である。
図2】本開示の実施形態に係る蒸気タービンの要部拡大断面図である。
図3】本開示の実施形態に係る微細溝の形状を示す断面図である。
図4】本開示の実施形態に係るタービン静翼の第一変形例を示す図である。
図5】本開示の実施形態に係るタービン静翼の第二変形例を示す図である。
図6】本開示の実施形態に係る微細溝の第一変形例を示す断面図である。
図7】本開示の実施形態に係る微細溝の第二変形例を示す断面図である。
図8】本開示の実施形態に係る微細溝の第三変形例を示す断面図である。
図9】本開示の実施形態に係る微細溝の第四変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(蒸気タービンの構成)
以下、本開示の実施形態に係る蒸気タービン1、及び静翼10(タービン静翼)について、図1図2を参照して説明する。図1に示すように、蒸気タービン1は、ロータ2と、ケーシング3と、を備えている。
【0012】
ロータ2は、軸線Oに沿って延びる円形断面の回転軸6と、この回転軸6の外周面に設けられた複数の動翼翼列7と、を有している。回転軸6は、軸線O回りに回転可能である。複数の動翼翼列7は、軸線O方向に間隔をあけて配列されている。各動翼翼列7は、軸線Oの周方向に配列された複数の動翼8を有している。動翼8は、回転軸6の外周面から径方向外側に向かって延びている。動翼8の詳細な構成については後述する。
【0013】
ケーシング3は、上記のロータ2を外周側から覆うケーシング本体3Hと、このケーシング本体3Hの内周側に設けられた外輪21(後述)と内輪23(後述)によって外周側と内周側から支持されている複数の静翼翼列9と、を有している。ケーシング本体3Hは、軸線Oを中心とする筒状をなしている。複数の静翼翼列9は、軸線O方向に間隔をあけて配列されている。蒸気タービン1は静翼翼列9と同数の動翼翼列7を備え、軸線O方向に隣接する一対の静翼翼列9同士の間には、1つの動翼翼列7が位置している。つまり、動翼翼列7と静翼翼列9は、軸線O方向に交互に配列されている。1つの静翼翼列9と1つの動翼翼列7は、1つの「段落」を形成している。各静翼翼列9は、軸線Oの周方向に配列された複数の静翼10を有している。静翼10は、軸線Oに対する径方向に向かって延びている。
【0014】
ケーシング本体3Hにおける軸線O方向一方側には、入口配管から導かれた高温高圧の蒸気をケーシング本体3Hの段落内に取り込むための蒸気流路11が形成されている。ケーシング本体3Hにおける軸線O方向他方側には、蒸気の圧力回復を担う排気室12が設けられる。
【0015】
蒸気流路11に流れ込んだ蒸気は、ケーシング本体3H内の段落を流れた後、排気室12を通過して復水器(図示せず)へ送られる。以下の説明では、排気室12から見て、蒸気流路11が位置する側を蒸気の流れ方向における上流側と呼ぶ。蒸気流路11から見て、排気室12が位置する側を下流側と呼ぶ。
【0016】
(動翼の構成)
図2に示すように、動翼8は、プラットフォーム81と、動翼本体82と、シュラウド83と、を有している。プラットフォーム81は、回転軸6の外周面(回転軸外周面6A)に設置される。プラットフォーム81の外周側には、動翼本体82が設けられている。動翼本体82は、径方向に延びるとともに、径方向から見て翼型の断面形状を有している。動翼本体82は、一例として径方向内側から外側に向かうに従って軸線O方向の寸法が次第に減少するように形成されている。動翼本体82の径方向外側の端部にはシュラウド83が設けられている。シュラウド83は、軸線O方向を長手方向とする略矩形の断面形状を有している。シュラウド83の外周面は、ケーシング本体3Hの内周面(ケーシング内周面3A)に対して径方向に間隔をあけて対向している。
【0017】
(静翼の構成)
静翼10は、外輪21と、静翼本体22(翼本体)と、内輪23とを有している。また、静翼本体22は、中央領域41と、外側領域42と、内側領域43と、スリット13(回収部14)と、を有している。外輪21は、軸線Oを中心とする円環状をなしている。外輪21は、ケーシング本体3Hに対して支持部材(図示せず)を介して支持されている。静翼本体22は、外輪21と内輪23の間に固設されている。静翼本体22は、外輪内周面21Aから径方向内側に向かって延びるとともに、径方向から見て翼型の断面形状を有している。つまり、静翼本体22は、蒸気の流れ方向に交差する方向に延びている。静翼本体22は、一例として径方向外側から内側に向かうに従って、軸線O方向の寸法が次第に減少している。静翼本体22の径方向内側の端部には、内輪23が設けられている。内輪23は、軸線O方向を長手方向とする略矩形の断面形状を有している。内輪23の内周面は、回転軸外周面6Aに対して径方向に間隔をあけて対向している。
【0018】
静翼本体22の表面(より具体的には、静翼本体22の厚さ方向の両面のうち、上流側を向く面:腹面)には、中央領域41と、外側領域42と、内側領域43と、スリット13とが形成されている。これら中央領域41、外側領域42、及び内側領域43には、静翼本体22の表面から内側に向かって凹む微細溝5が複数形成されている。微細溝5は、静翼本体22の表面で発生した液滴を蒸気の流れに沿って下流側に移送するために設けられている。微細溝5は、径方向に間隔をあけて配列されている。
【0019】
中央領域41に形成された微細溝5(第一微細溝51)は、静翼本体22の前縁22a側から後縁22b側に向かうに従って、互いに隣り合う第一微細溝51同士の間の間隔が狭くなっている。つまり、中央領域41は、前縁22a側から後縁22b側に向かうに従って次第に径方向の寸法が小さくなっている。これら第一微細溝51の下流側の端部は後述するスリット13に連通している。
【0020】
外側領域42は、中央領域41の径方向外側に形成されている。外側領域42に形成された微細溝5(第二微細溝52)は、前縁22a側から下流側に向かうに従って、径方向外側に向かうように湾曲している。第二微細溝52の下流側の端部は、外輪21の内周面に接続されている。
【0021】
内側領域43は、中央領域41の径方向内側に形成されている。内側領域43に形成された微細溝5(第三微細溝53)は、前縁22a側から下流側に向かうに従って、径方向内側に向かうように湾曲している。第三微細溝53の下流側の端部は、後縁22bにおける径方向内側の領域(内輪23の近傍)まで延びている。
【0022】
前縁22a側では、中央領域41(第一微細溝51)が最も大きな比率を占め、外側領域42、及び内側領域43は中央領域41よりも占有する面積が小さい。
【0023】
上記の中央領域41における後縁22b側には、第一微細溝51中を流れてきた液膜を回収する回収部14としてのスリット13が形成されている。スリット13は、後縁22bに沿って延びている。スリット13は、静翼本体22の内部に連通する1つ以上の長孔である。つまり、この静翼本体22は中空とされている。静翼本体22の内部空間は、図示しない装置によって負圧状態とされることが望ましい。
【0024】
次いで、図3を参照して微細溝5の寸法について説明する。同図に示すように、本実施形態では微細溝5は矩形の断面形状を有している。隣接する微細溝5同士の間の間隔(ピッチ)をpとし、微細溝5の深さをh、開口部の幅をw、底面部の幅をbとした場合、wの値は0.3~2.0mmであることが望ましい。また、b/wの値は、0~2.0であることが望ましい(詳しくは後述するが、この値が0である場合とは、微細溝5が三角形状の断面を有している場合に相当する。)。さらに、h/wの値は、0.5~2.0であることが望ましい。p/wの値は、0.5~3.0であることが望ましい。
【0025】
(作用効果)
続いて、本実施形態に係る蒸気タービン1の動作、及び静翼10における液滴の挙動について説明する。蒸気タービン1を運転するに当たっては、まず蒸気流路11を通じてケーシング本体3Hの内部に高温高圧の蒸気を導入する。蒸気は、ケーシング本体3Hの内部を下流側に向かって流通する中途で、上述の静翼翼列9、及び動翼翼列7を交互に通過する。静翼翼列9は、蒸気の流れを整流して、下流側に隣接する動翼翼列7に流入する。動翼翼列7に蒸気が作用することによって、当該動翼翼列7を通じて回転軸6にトルクが与えられる。このトルクによって、ロータ2が軸線O回りに回転する。ロータ2の回転エネルギーは、軸端から取り出されて、発電機(不図示)の駆動等に用いられる。
【0026】
ここで、タービンの主流路内の段落を通過する蒸気は、上流側から下流側に向かうにつれて段落を通過する度にエネルギーが回転エネルギーに変換され、温度(と圧力)が低下する。したがって、最も下流側の静翼翼列9では、蒸気の一部が液化して微細な液滴として気流中に存在しており、その液滴の一部は静翼10(静翼本体22)の表面に付着する。この液滴が成長して液膜となる。さらに、液滴が増え続けることによって、液膜が下流に流れていくに伴い厚みが増すと、その一部が蒸気流によって引きちぎられて、又は、静翼翼列に付着したままの液膜は静翼後縁から粗大液滴として飛散する。飛散した液滴は蒸気流により徐々に加速しながら下流側に流れる。粗大液滴が下流側の動翼8に衝突すると、当該動翼8の表面にエロージョン(侵食)を発生させることがある。また、液滴の衝突によって動翼8(ロータ2)の回転が阻害され、制動損失が生じることもある。
【0027】
そこで、本実施形態では、上述のように静翼本体22の表面に複数の微細溝5が形成されている。微細溝5に捕捉された液滴は、蒸気の流れに乗って下流側に流れる。中央領域41では、液滴は第一微細溝51に沿ってスリット13に向かって流れる。スリット13の負圧によって当該液滴は回収される。また、外側領域42では、液滴は第二微細溝52に沿って径方向外側に向かって流れ、外輪21の内周面に導かれる。つまり、下流側の動翼8には液滴が到達しない。同様に、内側領域43では、液滴は第三微細溝53に沿って径方向内側に向かって流れる。これにより、周速が速い動翼8の先端部には液滴は到達しない。
【0028】
特に、上記構成によれば、上流側から回収部14(スリット13)に向かうに従って、第一微細溝51同士の間の間隔が狭くなっている。これにより、上流側のより広い範囲から液膜や液滴を回収部14に向かって案内することができる。また、これにより、回収部14自体の大きさを小さく抑えることもできる。その結果、回収部14を大きく確保した場合に比べて、蒸気の主流に影響が及ぶ可能性を低減することができる。
【0029】
また、上記構成によれば、中央領域41の径方向外側で生じた液膜を、第二微細溝52によってさらに径方向外側(例えば外輪21の内周面)に向かって導くことができる。これにより、静翼本体22の下流側に液滴が飛散する可能性をさらに低減することができる。
【0030】
さらに、上記構成によれば、中央領域41の径方向内側で生じた液膜を、第三微細溝53によってさらに径方向内側に向かって導くことができる。これにより、静翼本体22の下流側に液滴が飛散する可能性をさらに低減することができる。
【0031】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0032】
例えば、静翼10の第一変形例として図4に示す構成を採ることも可能である。当該第一変形例では、第一微細溝51bが前縁22a側からスリット13側に向かうに従って、径方向外側に向かうように湾曲している。さらに、スリット13に向かうに従って、蒸気の流れ方向Fに対して第一微細溝51bの延びる方向がなす角度である転向角が次第に小さくなっている。つまり、第一微細溝51bにおけるスリット13側の部分では、前縁22a側の部分に比べて曲率半径が大きくなっている。さらに言い換えれば、前縁22a側からスリット13側に向かうに従って、上記の転向角の増加率が次第に小さくなっている。なお、スリット13側の部分をクロソイド曲線とすることも可能である。
【0033】
上記構成によれば、スリット13に向かうに従って、第一微細溝51bの延びる方向が蒸気の流れ方向に沿うように変化する。これにより、スリット13に近づくほど液膜の流速が増し、より効率的に当該液膜を回収することが可能になる。
【0034】
さらに、静翼10の第二変形例として図5に示す構成を採ることも可能である。当該第二変形例では、中央領域41に微細溝5として主溝51cと、副溝51dとが形成されている。主溝51cは前縁22a側からスリット13に向かって延びるとともに互いに隣り合う主溝51c同士の間の間隔が狭くなっている。副溝51dは、前縁22a側を始点として、終点で主溝51cのうちの1つに合流している。このような構成によっても、前縁22a側のより広い範囲で液膜を回収することが可能となる。
【0035】
また、上記実施形態では、微細溝5が矩形の断面形状を有する例について説明した。しかしながら、上述の寸法の条件を満たす限りにおいて、微細溝5の形状は種々に変更することが可能である。例えば図6に示すように、底面部の幅bを開口部の幅wよりも大きくすることも可能である(b>w)。図7に示すように、底面部の幅bを開口部の幅wよりも小さくすることも可能である(b<w)。図8に示すように、微細溝5の断面形状を三角形とすることも可能である(b=0)。さらに、図9に示すように、底面部を円弧状とすることも可能である。
【0036】
<付記>
各実施形態に記載の装置Xは、例えば以下のように把握される。
【0037】
(1)第1の態様に係るタービン静翼(静翼10)は、蒸気の流れ方向に交差する径方向に延びる静翼本体22と、該静翼本体22の表面に形成され、該表面に沿って流れる液膜を回収する回収部14と、前記静翼本体22の表面に形成され、前記流れ方向の上流側から前記回収部14に向かって延びる複数の第一微細溝51が形成された中央領域41と、を備え、上流側から前記回収部14に向かうに従って、互いに隣り合う前記第一微細溝51同士の間の間隔が狭くなっている。
【0038】
上記構成によれば、上流側から回収部14に向かうに従って、第一微細溝51同士の間の間隔が狭くなっている。これにより、上流側のより広い範囲から液膜を回収部14に向かって案内することができる。また、回収部14自体の大きさを小さく抑えることもできる。これにより、蒸気の主流に影響が及ぶ可能性を低減することができる。
【0039】
(2)第2の態様に係るタービン静翼(静翼10)では、前記回収部14に向かうに従って、前記流れ方向に対して前記第一微細溝51bの延びる方向がなす角度である転向角が次第に小さくなっていてもよい。
【0040】
上記構成によれば、回収部14に向かうに従って、第一微細溝51bの延びる方向が蒸気の流れ方向に沿うように変化する。これにより、回収部14に近づくほど液膜の流速が増し、より効率的に当該液膜を回収することが可能になる。
【0041】
(3)第3の態様に係るタービン静翼(静翼10)では、前記回収部14に向かうに従って、前記流れ方向に対して前記第一微細溝51bの延びる方向がなす角度である転向角の増加率が次第に小さくなっていてもよい。
【0042】
上記構成によれば、回収部14に向かうに従って、第一微細溝51bの転向角の増加率が次第に小さくなる。これにより、回収部14に近づくほど液膜の流速が増し、より効率的に当該液膜を回収することが可能になる。
【0043】
(4)第4の態様に係るタービン静翼(静翼10)は、前記静翼本体22の表面における前記中央領域41の径方向外側に形成され、上流側から下流側に向かうに従って径方向外側に向かって延びる複数の第二微細溝52が形成された外側領域42をさらに備えてもよい。
【0044】
上記構成によれば、中央領域41の径方向外側で生じた液膜を、第二微細溝52によってさらに径方向外側(例えば外輪21の内周面)に向かって導くことができる。これにより、静翼本体22の下流側に液滴が飛散する可能性をさらに低減することができる。
【0045】
(5)第5の態様に係るタービン静翼(静翼10)は、前記静翼本体22の表面における前記中央領域41の径方向内側に形成され、上流側から下流側に向かうに従って径方向内側に向かって延びる複数の第三微細溝53が形成された内側領域43をさらに備えてもよい。
【0046】
上記構成によれば、中央領域41の径方向内側で生じた液膜を、第三微細溝53によってさらに径方向内側に向かって導くことができる。これにより、静翼本体22の下流側に液滴が飛散する可能性をさらに低減することができる。
【0047】
(6)第6の態様に係る蒸気タービン1は、軸線Oに沿って延びる回転軸6と、該回転軸6の外周面から径方向外側に延びるとともに周方向に配列された複数のタービン動翼(動翼8)と、前記回転軸6、及び前記複数のタービン動翼を外側から覆うケーシング3と、該ケーシング3の内周面から径方向内側に向かって延びるとともに周方向に複数配列された上記いずれか一の態様に係るタービン静翼(静翼10)と、を備える。
【0048】
上記構成によれば、液滴が下流側に飛散することによるエロージョンの発生が抑制された蒸気タービン1を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示によれば、液滴をより効率的に抑制、又は回収することが可能なタービン静翼、及び蒸気タービンを提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 蒸気タービン
2 ロータ
3 ケーシング
3A ケーシング内周面
3H ケーシング本体
5 微細溝
6 回転軸
6A 回転軸外周面
7 動翼翼列
8 動翼(タービン動翼)
9 静翼翼列
10 静翼(タービン静翼)
11 蒸気流路
12 排気室
13 スリット
14 回収部
21 外輪
21A 外輪内周面
22 静翼本体(翼本体)
22a 前縁
22b 後縁
23 内輪
41 中央領域
42 外側領域
43 内側領域
51,51b 第一微細溝
51c 主溝
51d 副溝
52 第二微細溝
53 第三微細溝
81 プラットフォーム
82 動翼本体
83 シュラウド
O 軸線
図1
図2
図3
図4
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図9