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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】押圧式治療具
(51)【国際特許分類】
   A61H 39/04 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
A61H39/04 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024061811
(22)【出願日】2024-04-06
【審査請求日】2024-04-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593016178
【氏名又は名称】株式会社ユニオン電器
(74)【代理人】
【識別番号】100166671
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 恵子
(72)【発明者】
【氏名】四宮 俊一
(72)【発明者】
【氏名】大脇 則幸
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雄太
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05632765(US,A)
【文献】特許第6101893(JP,B1)
【文献】登録実用新案第3150845(JP,U)
【文献】特開平06-195136(JP,A)
【文献】特開2002-360691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 39/04
A61H 23/00-23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びた本体部と、
前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に保持され、身体の対象部に接触可能な接触部を備えた押圧軸と、
前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に、前記押圧軸の後方に隙間を隔てて保持された衝突軸と、
前記本体部と前記衝突軸との間に設けられ、前記本体部に対する前記衝突軸の前記軸線方向の相対移動を抑制する状態である移動抑制状態と前記相対移動を許容する状態である移動許容状態とに切換可能な切換機構と
を含み、前記切換機構が前記移動許容状態に切り換えられて、前記本体部に対して前記衝突軸が前方に移動することにより前記押圧軸に衝突することで、前記対象部に押圧力を加える押圧式治療具であって、
前記衝突軸が、外周部に設けられた1つ以上の凹部を含み、
前記切換機構が、(a)1つ以上の球状体と、(b)前記本体部に設けられ、前記1つ以上の球状体を半径方向に移動可能に保持する球状体保持部と、(c)前記球状体保持部の外周側において、前記球状体保持部に保持された前記1つ以上の球状体が前記衝突軸の前記1つ以上の凹部に係合する係合状態を保持する第1位置と、前記1つ以上の球状体の、前記係合状態から前記1つ以上の凹部に係合しない非係合状態への半径方向外方への移動を許容する第2位置との間で、前記本体部に前記軸線方向に移動可能に保持された切換部材とを含み、
前記切換部材が前記第1位置から前記第2位置へ前記本体部に対して相対移動させられることにより、前記切換機構が前記移動抑制状態から前記移動許容状態に切り換わる押圧式治療具。
【請求項2】
軸線方向に延びた本体部と、
前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に保持され、身体の対象部に接触可能な接触部を備えた押圧軸と、
前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に、前記押圧軸の後方に隙間を隔てて保持された衝突軸と、
前記本体部と前記衝突軸との間に設けられ、前記本体部に対する前記衝突軸の前記軸線方向の相対移動を抑制する状態である移動抑制状態と前記相対移動を許容する状態である移動許容状態とに切換可能な切換機構と
を含み、前記切換機構が前記移動許容状態に切り換えられることにより、前記本体部に対して前記衝突軸が前方に移動し、前記押圧軸に衝突することにより、前記対象部に押圧力を加える押圧式治療具であって、
前記衝突軸が、外周部に設けられた1つ以上の凹部を含み、
前記切換機構が、(a)1つ以上の球状体と、(b)前記本体部に設けられ、前記1つ以上の球状体を半径方向に移動可能に保持する球状体保持部と、(c)前記球状体保持部の外周側において、前記球状体保持部に保持された前記1つ以上の球状体が前記衝突軸の前記1つ以上の凹部に係合する係合状態を保持する第1位置と、前記1つ以上の球状体の、前記係合状態から前記1つ以上の凹部に係合しない非係合状態への半径方向外方への移動を許容する第2位置との間で、前記本体部に前記軸線方向に移動可能に保持された切換部材とを含み、
前記切換部材が、前記切換部材の本体部と、前記切換部材の本体部より内周側に突出した凸部とを含み、
前記切換部材の前記第1位置において前記凸部が前記1つ以上の球状体の外周側に位置し、前記第2位置において前記凸部が前記1つ以上の球状体から外れて位置し、
前記切換部材と前記本体部との間に、前記切換部材に、前記第1位置に向かう弾性力を付与するリターンスプリングが設けられ、
前記切換部材が前記第1位置から前記第2位置へ前記本体部に対して相対移動させられることにより、前記切換機構が前記移動抑制状態から前記移動許容状態に切り換わる押圧式治療具。
【請求項3】
前記球状体保持部が、小径部と、前記小径部より大径の大径部と、前記小径部に設けられ、前記1つ以上の球状体を保持可能な1つ以上の半径方向に貫通する球状体保持孔とを含み、
前記切換部材の凸部が前記球状体保持部の小径部の外周側に位置し、前記切換部材の本体部が前記球状体保持部の大径部の外周側に位置する請求項2に記載の押圧式治療具。
【請求項4】
軸線方向に延びた本体部と、
前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に保持され、身体の対象部に接触可能な接触部を備えた押圧軸と、
前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に、前記押圧軸の後方に隙間を隔てて保持された衝突軸と、
前記本体部と前記衝突軸との間に設けられ、前記本体部に対する前記衝突軸の前記軸線方向の相対移動を抑制する状態である移動抑制状態と前記相対移動を許容する状態である移動許容状態とに切換可能な切換機構と
を含み、前記切換機構が前記移動許容状態に切り換えられることにより、前記本体部に対して前記衝突軸が前方に移動し、前記押圧軸に衝突することにより、前記対象部に押圧力を加える押圧式治療具であって、
前記衝突軸が、外周部に設けられた1つ以上の凹部を含み、
前記切換機構が、(a)1つ以上の球状体と、(b)前記本体部に設けられ、前記1つ以上の球状体を半径方向に移動可能に保持する球状体保持部と、(c)前記球状体保持部の外周側において、前記球状体保持部に保持された前記1つ以上の球状体が前記衝突軸の前記1つ以上の凹部に係合する係合状態を保持する第1位置と、前記1つ以上の球状体の、前記係合状態から前記1つ以上の凹部に係合しない非係合状態への半径方向外方への移動を許容する第2位置との間で、前記本体部に前記軸線方向に移動可能に保持された切換部材とを含み、
当該押圧式治療具が、前記衝突軸に前進方向の力を加えるグリップ部を含み、
前記グリップ部が、グリップと、前記グリップを保持するとともに、前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に保持されたグリップ保持部とを含み、
前記グリップ保持部が、概して筒状を成し、前記本体部の内周側かつ前記衝突軸の外周側に、前記切換部材の後方に前記軸線方向の隙間を隔てた状態で位置し、
前記グリップに前進方向の力が加えられることにより、前記グリップ保持部が前進し、前記切換部材に当接して、前記切換部材を前記第1位置から前記第2位置に移動させることにより、前記切換機構を前記移動抑制状態から前記移動許容状態に切り換える押圧式治療具。
【請求項5】
前記グリップ保持部が、前記グリップに取り付けられるグリップ保持体と、前記グリップ保持体にねじ機構を介して前記軸線方向に相対移動可能に保持された調節部材とを含み、
前記調節部材が、前記切換部材の後方に、前記切換部材との間に前記軸線方向の隙間を隔てて位置し、
前記隙間が、前記調節部材の前記グリップ保持体に対する前記軸線方向の相対位置を調節することにより調節される請求項4に記載の押圧式治療具。
【請求項6】
前記グリップ保持部が、前記グリップに取り付けられたグリップ保持体と、前記グリップ保持体にねじ機構を介して前記軸線方向に移動可能に設けられた調節部材とを含み、
前記グリップ保持体と前記調節部材とが、半径方向に重ねて設けられ、
前記グリップ保持体が前記球状体保持部に対向し、前記調節部材が前記切換部材に対向し、
前記グリップ保持体と前記球状体保持部との間にリターンスプリングが設けられた請求項4に記載の押圧式治療具。
【請求項7】
当該押圧式治療具が、
前記衝突軸に前進方向の力を加えるグリップ部と、
前記グリップ部と前記衝突軸との間に設けられ、前記衝突軸に前記軸線方向の弾性力を付与するスプリングと
を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載の押圧式治療具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体の対象部を押圧して治療を施す押圧式治療具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)軸線方向に延びた本体部と、(b)本体部に軸線方向に相対移動可能に保持され、被験者の治療部位に接触可能な接触部を備えた押圧軸と、(c)本体部に軸線方向に相対移動可能に、押圧軸の後方に隙間を隔てて保持された衝突軸と、(d)本体部と衝突軸との間に設けられ、衝突軸の本体部に対する相対的な移動を許容する移動許容状態と相対的な移動を抑制する移動抑制状態とに切換可能な切換機構とを含む押圧式治療具が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の押圧式治療具において、切換機構は、(i)複数のボールと、(ii)本体部に設けられた複数の半径方向に伸びた孔である半径方向穴と、(iii)複数の半径方向穴の各々に配設され、複数のボールの各々をそれぞれ衝突軸の外周面に設けられた凹部に向かって押し付けるスプリングとを含む。衝突軸に前進方向の力が加えられ、ボールを介して加えられる半径方向外方に向かう力がスプリングのセット荷重より大きくなると、ボールの半径方向外方への移動が許容される。切換機構が、移動抑制状態から移動許容状態に切り換えられ、衝突軸の本体部に対する軸線方向の相対移動が許容される。衝突軸が押圧軸に衝突し、押圧軸を介して押圧力が被験者の治療部位に加えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6101893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、押圧式治療具における切換機構の改良を図ることである。
【課題を解決するための手段および作用】
【0006】
本発明に係る押圧式治療具において、切換機構が、(i)1つ以上の球状体と、(ii)本体部に設けられ、1つ以上の球状体を半径方向に移動可能に保持する球状体保持部と、(iii)球状体保持部の外周側に、本体部に対して軸線方向に相対移動可能に保持された切換部材とを含むものである。切換部材が、1つ以上の球状体の半径方向外方への移動を抑制することにより、球状体保持部に保持された1つ以上の球状体が衝突軸の外周部に設けられた凹部に係合する係合状態を保持する第1位置と、1つ以上の球状体の半径方向外方への移動を許容することにより、係合状態から前記1つ以上の球状体が凹部に係合しない非係合状態への切換わりを許容する第2位置との間で移動させられることにより、切換機構が移動抑制状態と移動許容状態とに切り換えられる。
【0007】
このように、本発明に係る押圧式治療具においては、球状体に対応して設けられた半径方向に延びたスプリングが不要になる。その結果、押圧式治療具の半径方向の寸法を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例1に係る押圧式治療具の全体を示す図である。
図2】上記押圧式治療具の断面図である。
図3】上記押圧式治療具の作動状態を示す図である。(a)押圧軸の先端部を人の身体の対象部に押し当てた状態を示す図である。(b)グリップ部に力Fを加えた状態を示す図である。(c)対象部に押圧力を加えた状態を示す図である。
図4】上記押圧式治療具の切換機構の作動状態を図3の作動状態に対応して示す図である。(a),(b)移動抑制状態を示す図である。(c)移動許容状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る押圧式治療具について図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
押圧式治療具は、図1,2に示すように概して軸線Lと平行な方向(以下、単に軸線方向と称する)に延びたものである。押圧式治療具は、本体部10、押圧軸12、衝突軸14、グリップ部16、切換機構18等を含む。
【0011】
押圧軸12は、本体部10に軸線方向に相対移動可能に保持される。押圧軸12は、押圧軸本体12h、接触部12s、フランジ部12f等を含む。接触部12sは、押圧軸本体12hの前端部に設けられ、施療者(人)の身体の対象部に接触可能なものである。フランジ部12fは、押圧軸本体12hの中間部に設けられる。
【0012】
衝突軸14は、本体部10に軸線方向に相対移動可能に、押圧軸12の後方に隙間aを隔てて保持される。衝突軸14は、概して段付き形状を成すものであり、小径部14a、大径部14b、フランジ部14f等を含む。小径部14aは衝突軸14の前端部に位置する。大径部14bは小径部14aより大径であり、小径部14aの後側に位置する。フランジ部14fは大径部14bの後部に設けられる。大径部14bの外周部には軸線方向に延びたキー溝14kが設けられるとともに、球状体保持部(軸側球状体保持部と称する場合がある)14dが設けられる。球状体保持部14dとしての凹部は、環状に、隙間を隔てて複数設けられる。
【0013】
本体部10は、軸線方向に延びた筒状を成すものであり、前部20、後部22、補助グリップ24等を含む。補助グリップ24は後部22に設けられる。
【0014】
本体部10の前部20には軸線方向に延びた貫通孔30が設けられる。貫通孔30は段付き形状を成すものであり、前側に位置する小径孔部30a及び後側に位置する大径孔部30bを含む。
【0015】
前部20の貫通孔30には、押圧軸12が配設される。押圧軸本体12hの中間部が小径孔部30aに位置し、接触部12sを含む前部が小径孔部30aから突出している。また、押圧軸本体12hのフランジ部12fより後側の部分が大径孔部30bに位置する。
【0016】
フランジ部12fの前端面が、小径孔部30aと大径孔部30bとの段面30sに当接することにより、押圧軸12の前進端位置が規定される。押圧軸12の後端面12bが本体部10の後部22の前端面22fに当接することにより、押圧軸12の後退端位置が規定される。このように、本体部10の前端面22f、段面30sは、押圧軸12の後退端位置、前進端位置を規定するストッパとして機能する。なお、押圧軸12のフランジ部12fと本体部10の前端面22fとの間にはスプリング32が設けられる。スプリング32は、押圧部12に、前方に向かう弾性力を付与する。
【0017】
本体部10の後部22には軸線方向に延びた貫通孔40が設けられる。貫通孔40は段付き形状を成し、小径孔部40p、中間孔部40m、大径孔部40bを含む。小径孔部40pは、前端部22aの開口部とされる。小径孔部40p、中間孔部40m、大径孔部40bの順に孔径が大きくなり、かつ、前から順に位置する。
【0018】
本体部10の後部22は、前端部22aにおいて、前部20に連結されて、固定される。前端部22aの前端面22fが前部20の貫通孔30の大径孔部30bに対向する。また、前端部22aの開口部40pを介して、後部22の貫通孔40と前部20の貫通孔30とが連通させられる。
【0019】
後部22の貫通孔40には衝突軸14が配設される。衝突軸14の小径部14aは、前端部22fの開口部40pに位置する。本押圧式治療具の非作用状態において、衝突軸14の前端面14gは、軸線方向の隙間aを隔てて押圧軸12の後端面12bに対向する。衝突軸14の大径部14bは、中間孔部40m、大径孔部40bに位置する。衝突軸14のキー溝14kには本体部10の後部22に設けられたキーとしてのボルト22kが係合させられる。それにより、衝突軸14の本体部10に対する軸線Lの周りの相対回転が抑制され、衝突軸14の抜けが防止される。
【0020】
切換機構18は、本体部10に対する衝突軸14の軸線方向の相対移動を抑制する移動抑制状態と、相対移動を許容する移動許容状態とに切換可能なものである。切換機構18は、貫通孔40の内部の衝突軸14の大径部14bの外周側に設けられる。切換機構18は、図2-4に示すように、1つ以上の球状体としての複数の球状体50、球状体保持部材52、切換部材54等を含む。
【0021】
球状体保持部材52は、概して軸線方向に延びた筒状を成し、本体部10の後部22に固定される。そのため、球状体保持部材52は本体10の一部である球状体保持部52と称することができる。また、球状体保持部52は、段付き形状を成すものであり、小径部52a、大径部52b、球状体保持孔52s等を含む。小径部52aは球状体保持部52の前部に設けられ、小径部52aより大径の大径部52bは後部に設けられる。球状体保持孔52sは、小径部52aを半径方向に貫通して設けられた半径方向孔であり、環状に、間隔を有して複数設けられる。球状体保持孔52sには、球状体50が軸線方向に相対移動不能、半径方向に相対移動可能に保持される。
【0022】
上述のボルト22kは、本体部10の後部22および/または球状体保持部52の小径部52aと螺合して、先端部が球状体保持部52の内周側に突出し、衝突軸14のキー溝14kに達する。ボルト22kはキーとしての機能を有するとともに、球状体保持部52を本体部10に固定する機能を有する。
【0023】
切換部材54は、軸線方向に延びた筒状を成すものであり、球状体保持部52の外周側に位置する。切換部材54は、前部54hが後部54bより半径方向内周側に突出した形状を成す。前部である凸部54hが球状体保持部52の小径部52aの外周側に位置し、後部である切換部材54の本体部54bが大径部52bの外周側に位置する。凸部54hの前端面と本体部10(中間孔部40mと大径孔部40bとの段面)との間に、切換部材54に後方に向かう弾性力を付与するリターンスプリング56が設けられる。
【0024】
なお、凸部54hは、断面が概して台形状を成す部分である。凸部54hの後部には、軸線方向に対して傾斜した傾斜面54pが設けられる。傾斜面54pは、後方に向かうにつれて半径方向外方に位置する向きに傾斜している。また、凸部54hの最も内周側に突出した部分は、軸線Lと平行な対向面54qとされる。それに対して、衝突軸14の凹部14dには、軸線方向に対して傾斜した傾斜面14pが設けられる。
【0025】
図4(a)、(b)に示すように、切換機構18が移動抑制状態にある場合において、複数の球状体50は、球状体保持孔52sに保持されるとともに、衝突軸14の凹部14dに係合した係合状態にある。切換部材54は第1位置にあり、凸部54hが、複数の球状体50の半径方向外側に位置する。凸部54hの対向面54pが球状体50に半径方向外側において当接した状態にある。球状体50の半径方向外方への移動が抑制され、係合状態が保持される。また、本体部10に対する衝突軸14の軸線方向の相対移動が抑制される。
【0026】
それに対して、図4(c)に示すように、切換部材54が前進させられ、凸部54hが球状体50から外れる第2位置に達すると、球状体50の半径方向外方への移動が許容される。衝突軸14の軸線方向の移動に伴って、複数の球状体50は、凹部14dの傾斜面14pに沿って半径方向外方へ移動させられ、凹部14dから抜け出す。複数の球状体50が凹部14dと係合しない非係合状態となる。その結果、切換機構18が移動許容状態に切り換えられ、衝突軸14の本体部10に対する軸線方向の相対移動が許容される。
【0027】
グリップ部16は衝突軸14に軸線方向の力を付与するものである。グリップ部16はグリップ60と、概して軸線方向に延びた筒状を成すグリップ保持部62とを含む。グリップ保持部62は、グリップ60を保持するものであり、本体部10の後部22に軸線方向に相対移動可能に保持される。グリップ保持部62は、グリップ保持体64と調節部材68とを含む。グリップ保持体64、調節部材68は、それぞれ、軸線方向に延びた筒状を成すものであり、これらグリップ保持体64と調節部材68とは、半径方向に重ねて設けられる。
【0028】
グリップ保持体64は、段付き形状を成し、前部の小径部64aと後部の大径部64bとを含む。グリップ保持体64は、大径部64bにおいてグリップ60に取り付けらる。筒状のグリップ保持体64がグリップ60に取り付けられることにより有底の凹部70が設けられる。凹部70は、貫通孔40に連通する。衝突軸14のフランジ部14fは凹部70の内部に位置し、フランジ部14fの後端面とグリップ部16の凹部70の底面との間にはスプリング74が設けられる。スプリング74は、衝突軸14に前方に向かう弾性力を付与する。
【0029】
グリップ保持体64の小径部64aは、本体部10の後部22の貫通孔40の衝突軸14の外周側に挿入される。また、グリップ保持体64の小径部64aの前端面と本体部10(球状体保持部52の後端面)との間にリターンスプリング76が設けられる。リターンスプリング76は、グリップ保持体64に後方に向かう弾性力を付与する。
【0030】
調節部材68は、切換機構18を移動抑制状態から移動許容状態に切り換えるタイミング等を調節する場合に用いられるものである。調節部材68は、段付き形状を成し、小径部である前部68aと、大径部である後部68bとを含む。前部68aは、本体部10の後部22の貫通孔40の内周側に位置する。本押圧式治療具の非作用状態(初期状態と称することができる)において、調節部材68は切換部材54の後方に軸線方向の隙間tを隔てて位置する。
【0031】
調節部材68は、後部68bにおいて、グリップ保持体64の大径部64bにねじ機構66を介して保持される。ねじ機構66は、グリップ保持体64の外周部と調節部材68の内周部との間に設けられ、調節部材68は、グリップ保持体64の外周側に位置する。ねじ機構66により調節部材68のグリップ保持体64に対する軸線方向の相対位置を調節することができ、隙間tの大きさを調節することができる。
【0032】
以上のように構成された押圧式治療具の作動について図2図3(a)-(c)に基づいて説明する。本押圧式治療具は、初期状態において図2に示す状態にある。
【0033】
図3(a)に示すように、押圧軸12の先端面12sを人(施術者)の身体の対象部(施術部)Hに当接させる。それにより、押圧軸12が本体部10に対して相対的に後退し、フランジ部12fがスプリング32の弾性力に抗して段面30sから離間する。切換部材54は凸部54hが複数の球状体50の外周側に位置する第1位置にあり、切換機構18は移動抑制状態にある。
【0034】
図3(b)に示すように、この状態において、グリップ部16に前進方向の力Fを加える。グリップ部16は本体部10、衝突軸14に対して相対的に前進させられる。それにより、スプリング74の弾性力が大きくなる。また、グリップ保持部62がリターンスプリング76の弾性力に抗して前進させられ、調節部材68と切換部材54との間の隙間tが小さくなる。
【0035】
図3(c)に示すように、力Fが大きくなると、調節部材68が切換部材54の後端面に当接する。グリップ保持部62がリターンスプリング76,56の弾性力に抗してさらに前進させられ、切換部材54が前進させられ、第2位置へ移動させられる。凸部54hが球状体50から外れ、球状体50の半径方向外方への移動が許容される。切換機構18が移動抑制状態から移動許容状態に切り換えられ、衝突軸14の本体部10に対する前進が許容される。衝突軸14は、スプリング74の弾性力により前進し、押圧軸12に衝突する。押圧軸12には大きな力が加えられ、対象部Hが大きな力で押圧される。
【0036】
その後、リターンスプリング56、76により切換部材54、グリップ保持体64が後退させられ、調節部材68が後退させられる。グリップ保持体64の後退により、衝突軸14のフランジ部14fに、小径部64aと大径部64bとの断面64sが当接し、衝突軸14も後退させられる。
【0037】
また、切換部材54、衝突軸14の後退に伴って、複数の球状体50は半径方向内方へ移動させられ、凹部14dに係合する係合状態となる。詳細には、複数の球状体50は、凸部54hの傾斜面54pにより半径方向内方へ向かって移動させられ、凹部14dの傾斜面14pに沿って半径方向内方へ移動させられる。対向面54qが複数の球状体50の外周側に達し、複数の球状体50の内周側に衝突軸14の凹部14dが達すると、複数の球状体50は凹部14dに係合する係合状態となる。切換部材54は第1位置に達し、複数の球状体50の、係合状態からの半径方向外方の移動が抑制され、切換機構18は移動抑制状態となる。また、再び、グリップ60に力Fを加えることにより同様に対象部Hに押圧力を加えることができる。
【0038】
なお、押圧式治療具の初期状態において調節部材68をグリップ保持体64に対して回転させつつ軸線方向に移動させることにより、初期状態における隙間tの大きさを調節することができる。それにより、切換機構18が移動抑制状態から移動許容状態に切り換えられるタイミングや、押圧軸12に加えられる力の大きさを調節することが可能となる。
【0039】
本実施例において、押圧軸10の前進および後退は、非常に速い速度で行われるため、施術者(人)の痛みを緩和しつつ治療を行うことができる。
また、切換機構18が半径方向に伸びたスプリングを含まないものである。そのため、押圧式治療具の半径方向の大きさを小さくすることができる。その結果、押圧式治療具の重量を軽減し、使い勝手を向上させることができる。また、特許文献1に記載の押圧式治療具においては、複数の球状体が設けられ、複数の球状体の各々に対応して半径方向に延びたスプリングが設けられる。それに対して、本実施例に係る押圧式治療具においては、複数の球状体の各々に対応してスプリングを設ける必要がない。その結果、部品点数を減らせることができ、コストダウンを図ることができる。
【0040】
その他、本発明は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
10:本体部 12:押圧軸 14:衝突軸 14d:凹部 16:グリップ部 18:切換機構 50:球状体 52:球状体保持部 54:切換部材 54h:凸部 62:グリップ保持部 64:グリップ保持体 66:ねじ機構 68:調節部材
【特許請求可能な発明】
【0042】
以下、特許請求可能な発明について説明する。
(1) 軸線方向に延びた本体部と、
前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に保持され、身体の対象部に接触可能な接触部を備えた押圧軸と、
前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に、前記押圧軸の後方に隙間を隔てて保持された衝突軸と、
前記本体部と前記衝突軸との間に設けられ、前記本体部に対する前記衝突軸の前記軸線方向の相対移動を抑制する状態である移動抑制状態と前記相対移動を許容する状態である移動許容状態とに切換可能な切換機構と
を含み、前記切換機構が前記移動許容状態に切り換えられることにより、前記本体部に対して前記衝突軸が前方に移動し、前記押圧軸に衝突することにより、前記対象部に押圧力を加える押圧式治療具であって、
前記衝突軸が、外周部に設けられた1つ以上の凹部を含み、
前記切換機構が、(a)1つ以上の球状体と、(b)前記本体部に設けられ、前記1つ以上の球状体を半径方向に移動可能に保持する球状体保持部と、(c)前記球状体保持部の外周側において、前記球状体保持部に保持された前記1つ以上の球状体が前記衝突軸の前記1つ以上の凹部に係合する係合状態を保持する第1位置と、前記1つ以上の球状体の、前記係合状態から前記1つ以上の凹部に係合しない非係合状態への半径方向外方への移動を許容する第2位置との間で、前記本体部に前記軸線方向に移動可能に保持された切換部材とを含み、
前記切換部材が前記第1位置から前記第2位置へ移動させられることにより、前記切換機構が前記移動抑制状態から前記移動許容状態に切り換わる押圧式治療具。
【0043】
(2) 前記切換部材と前記本体部との間に、前記切換部材に、前記第1位置に向かう弾性力を付与するリターンスプリングが設けられた(1)項に記載の押圧式治療具。
【0044】
(3) 前記切換部材が、前記切換部材の本体部と、前記切換部材の本体部より内周側に突出して設けられた凸部とを含み、
前記切換部材の前記第1位置において前記凸部が前記1つ以上の球状体の外周側に位置し、前記第2位置において前記凸部が前記1つ以上の球状体から外れて位置する(1)項または(2)項に記載の押圧式治療具。
【0045】
(4) 前記球状体保持部が、小径部と、前記小径部より大径の大径部と、前記小径部に設けられ、前記1つ以上の球状体を保持可能な1つ以上の半径方向に貫通する球状体保持孔とを含み、
前記切換部材の前記凸部が前記球状体保持部の小径部の外周側に位置し、前記切換部材の本体部が前記球体保持部の大径部の外周側に位置する(3)項に記載の押圧式治療具。
【0046】
(5) 前記切換部材の前記凸部の後部と前記衝突軸の前記凹部との少なくとも一方に、前記軸線方向に対して傾斜する傾斜面を設けた(3)項または(4)項に記載の押圧式治療具。
【0047】
(6) 当該押圧式治療具が、前記衝突軸に前進方向の力を加えるグリップ部を含み、
前記グリップ部が、グリップと、前記グリップを保持するとともに、前記本体部に前記軸線方向に相対移動可能に保持されたグリップ保持部とを含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の押圧式治療具。
【0048】
(7) 前記グリップ保持部が、概して筒状を成し、前記本体部の内周側かつ前記衝突軸の外周側に、前記切換部材の後方に前記軸線方向の隙間を隔てた状態で保持され、
前記グリップに前進方向の力が加えられることにより、前記グリップ保持部が前進し、前記切換部材に当接して、前記切換部材を前記第1位置から前記第2位置に移動させることにより、前記切換機構を前記移動抑制状態から前記移動許容状態に切り換える(6)項に記載の押圧式治療具。
【0049】
(8) 前記グリップ保持部が、前記グリップに取り付けられたグリップ保持体と、前記グリップ保持体にねじ機構を介して前記軸線方向に相対移動可能に保持された調節部材とを含み、
前記調節部材が、前記切換部材の後方に、前記切換部材との間に前記軸線方向の隙間を隔てて位置し、
前記隙間が、前記調節部材の前記グリップ保持体に対する前記軸線方向の相対位置を調節することにより調節される(6)項または(7)項に記載の押圧式治療具。
【0050】
(9) 前記グリップ保持部が、後部において前記グリップに取り付けられ、前部が前記本体部の内周側かつ前記衝突軸の外周側に、前記軸線方向に相対移動可能に保持されたグリップ保持体を含み、
前記グリップ保持体が、前記球状体保持部に対向して位置するとともに、前記グリップ保持体と前記球状体保持部との間にリターンスプリングが設けられた(6)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の押圧式治療具。
【0051】
(10) 前記グリップ保持部が、前記グリップに取り付けられたグリップ保持体と、前記グリップ保持体にねじ機構を介して前記軸線方向に移動可能に保持された調節部材とを含み、
前記グリップ保持体と前記調節部材とが、半径方向に重ねて設けられ、
前記グリップ保持体が前記球状体保持部に対向し、前記調節部材が前記切換部材に対向する(6)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の押圧式治療具。
【0052】
(11) 当該押圧式治療具が、前記衝突軸に前進方向の力を付与するグリップ部と、
前記グリップ部と前記衝突軸との間に設けられ、前記衝突軸に前記軸線方向の弾性力を付与するスプリングと
を含む(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の押圧式治療具。
【要約】
【課題】押圧式治療具において、切換機構の改良を図る。
【解決手段】切換機構が、1つ以上の球状体と、本体部に設けられ、1つ以上の球状体を保持する球状体保持部と、本体部に、球状体保持部の外周側において軸線方向に相対移動可能に保持された切換部材とを含む。切換部材は、1つ以上の球状体の半径方向外方への移動を抑制して、球状体保持部に保持された1つ以上の球状体が衝突軸の凹部に係合する係合状態を保持する第1位置と、1つ以上の球状体の半径方向外方への移動を許容して、係合状態から非係合状態への切換わりを許容する第2位置との間で移動させられる。それにより、切換機構を移動抑制状態と移動許容状態とに切り換えることができる。このように、半径方向に延びたスプリングが不要になるため、押圧式治療具の半径方向の寸法を小さくすることができる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4