(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】造形装置、造形方法、および造形プログラムを格納した記憶媒体
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20240729BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20240729BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240729BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240729BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/04 A
B23K9/04 B
B23K9/04 N
B23K9/04 P
B23K9/04 Y
B23K9/032 Z
B33Y30/00
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2020175431
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520348314
【氏名又は名称】花井メディテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153947
【氏名又は名称】家成 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 壮志
(72)【発明者】
【氏名】花井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】久保田 優典
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-147703(JP,A)
【文献】特開2018-27558(JP,A)
【文献】特開2008-55506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 9/032
B33Y 30/00
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形対象物の形状に対応した形状を有する型を支持するための支持機構と、
前記型に対して第1の金属ワイヤを供給するとともにアーク放電により前記第1の金属ワイヤを溶融させて滴下させるための溶接トーチと、
前記第1の金属ワイヤが滴下して形成された溶融池に対して前記第1の金属ワイヤとは異なる第2の金属ワイヤを供給するためのフィラーワイヤ供給機構と、
を含む、造形装置。
【請求項2】
前記型と、前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構と、を相対的に移動させるための移動装置をさらに含み、
前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構は、前記移動装置によって前記型に対して相対的に移動することにより前記第1の金属ワイヤおよび前記第2の金属ワイヤを含む合金のビードを形成するとともに前記ビードを積層するように構成される、
請求項1に記載の造形装置。
【請求項3】
前記造形対象物の形状に応じて前記支持機構の姿勢を制御するように構成される制御装置、
をさらに含み、
前記制御装置は、前記造形対象物のオーバーハング形状の傾きに応じて前記ビードの積層方向が鉛直方向に近づくように前記支持機構の姿勢を制御するように構成される、
請求項2に記載の造形装置。
【請求項4】
前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構によって形成されるビードを冷却するように構成された冷却機構をさらに含む、
請求項2または3に記載の造形装置。
【請求項5】
前記冷却機構は、前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構によって所定の層数のビードが積層されるたびに前記ビードを冷却するように構成される、
請求項4に記載の造形装置。
【請求項6】
前記型は、造形対象物の形状に対応した形状を有するオス型またはメス型である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項7】
造形対象物の形状に対応した形状を有する型を準備するステップと、
前記型に対して溶接トーチを用いて第1の金属ワイヤを供給するとともにアーク放電により前記第1の金属ワイヤを溶融させて滴下させるステップと、
前記第1の金属ワイヤが滴下して形成された溶融池に対してフィラーワイヤ供給機構を用いて前記第1の金属ワイヤとは異なる第2の金属ワイヤを供給するステップと、
を含む、造形方法。
【請求項8】
前記型と、前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構と、を相対的に移動させることによって、前記第1の金属ワイヤおよび前記第2の金属ワイヤを含む合金のビードを形成するとともに前記ビードを積層するステップ、
をさらに含む、請求項7に記載の造形方法。
【請求項9】
前記造形対象物のオーバーハング形状の傾きに応じて前記ビードの積層方向が鉛直方向に近づくように前記型を支持する支持機構の姿勢を制御するステップ、
をさらに含む、請求項8に記載の造形方法。
【請求項10】
所定の層数のビードが積層されるたびに冷却機構を用いて前記ビードを冷却するステップ、
をさらに含む、請求項8または9に記載の造形方法。
【請求項11】
造形対象物の形状に対応した形状を有する型に対して溶接トーチを用いて第1の金属ワイヤを供給するとともにアーク放電により前記第1の金属ワイヤを溶融させて滴下させるステップと、
前記第1の金属ワイヤが滴下して形成された溶融池に対してフィラーワイヤ供給機構を用いて前記第1の金属ワイヤとは異なる第2の金属ワイヤを供給するステップと、
を含む造形方法を造形装置のコンピュータに実行させるための造形プログラムを格納した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形装置、造形方法、および造形プログラムを格納した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な造形技術の1つとして、アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing(AM))が知られている。例えば特許文献1、2には、金属の溶接ワイヤを溶融してビード(溶接ビード)を形成し、ビードを積層することによって三次元造形物を造形するAM造形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-160217号公報
【文献】特開2018-27558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の造形装置は、造形対象物の金属成分によってはAM造形を行うのが難しい場合がある。すなわち、従来技術の造形装置は、造形対象物の金属成分を有する金属ワイヤを溶融してビードを形成するものである。これに対して、造形対象物が複数の金属成分を含む合金であり、その合金が延性に乏しい場合には、その合金をワイヤ状に加工することができず、その結果、所望の金属成分を有する造形物を造形するのが困難になる。
【0005】
また、従来技術の造形装置は、ビードを鉛直方向以外の方向に積層する必要がある異形形状が造形対象物に含まれている場合には、所望の形状を造形するのが難しい場合がある。例えば、造形対象物にオーバーハング形状が含まれている場合には、下層のビードに対して上層のビードを斜め方向に積み上げるので、重力が要因となって上層のビードが垂れ、その結果、所望の形状を有する造形物を造形できないおそれがある。
【0006】
そこで本願発明の一実施形態は、所望の金属成分を有し、かつ所望の形状を有する造形物を造形することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の一実施形態の造形装置は、造形対象物の形状に対応した形状を有する型を支持するための支持機構と、前記型に対して第1の金属ワイヤを供給するとともにアーク放電により前記第1の金属ワイヤを溶融させて滴下させるための溶接トーチと、前記第1の金属ワイヤが滴下して形成された溶融池に対して前記第1の金属ワイヤとは異なる第2の金属ワイヤを供給するためのフィラーワイヤ供給機構と、を含む。
【0008】
本願発明の一実施形態の造形装置は、前記型と、前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構と、を相対的に移動させるための移動装置をさらに含み、前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構は、前記移動装置によって前記型に対して相対的に移動することにより前記第1の金属ワイヤおよび前記第2の金属ワイヤを含む合金のビードを形成するとともに前記ビードを積層するように構成され得る。
【0009】
本願発明の一実施形態の造形装置は、前記造形対象物の形状に応じて前記支持機構の姿勢を制御するように構成される制御装置、をさらに含み、前記制御装置は、前記造形対象物のオーバーハング形状の傾きに応じて前記ビードの積層方向が鉛直方向に近づくように前記支持機構の姿勢を制御するように構成され得る。
【0010】
本願発明の一実施形態の造形装置は、前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構によって形成されるビードを冷却するように構成された冷却機構をさらに含み得る。
【0011】
本願発明の一実施形態の造形装置において、前記冷却機構は、前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構によって所定の層数のビードが積層されるたびに前記ビードを冷却するように構成され得る。
【0012】
本願発明の一実施形態の造形装置において、前記型は、造形対象物の形状に対応した形状を有するオス型またはメス型であり得る。
【0013】
本願発明の一実施形態の造形方法は、造形対象物の形状に対応した形状を有する型を準備するステップと、前記型に対して溶接トーチを用いて第1の金属ワイヤを供給するとともにアーク放電により前記第1の金属ワイヤを溶融させて滴下させるステップと、前記第1の金属ワイヤが滴下して形成された溶融池に対してフィラーワイヤ供給機構を用いて前記第1の金属ワイヤとは異なる第2の金属ワイヤを供給するステップと、を含む。
【0014】
本願発明の一実施形態の造形方法は、前記型と、前記溶接トーチおよび前記フィラーワイヤ供給機構と、を相対的に移動させることによって、前記第1の金属ワイヤおよび前記第2の金属ワイヤを含む合金のビードを形成するとともに前記ビードを積層するステップ、をさらに含み得る。
【0015】
本願発明の一実施形態の造形方法は、前記造形対象物のオーバーハング形状の傾きに応じて前記ビードの積層方向が鉛直方向に近づくように前記型を支持する支持機構の姿勢を制御するステップ、をさらに含み得る。
【0016】
本願発明の一実施形態の造形方法は、所定の層数のビードが積層されるたびに冷却機構を用いて前記ビードを冷却するステップ、をさらに含み得る。
【0017】
本願の一実施形態として、造形対象物の形状に対応した形状を有する型に対して溶接トーチを用いて第1の金属ワイヤを供給するとともにアーク放電により前記第1の金属ワイヤを溶融させて滴下させるステップと、前記第1の金属ワイヤが滴下して形成された溶融池に対してフィラーワイヤ供給機構を用いて前記第1の金属ワイヤとは異なる第2の金属ワイヤを供給するステップと、を含む造形方法を造形装置のコンピュータに実行させるための造形プログラムを格納した記憶媒体が開示される。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の一実施形態によれば、所望の金属成分を有し、かつ所望の形状を有する造形物を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態の造形装置の全体構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の溶接トーチおよびフィラーワイヤ供給機構の構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing(AM))を用いた造形を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、型を用いた造形を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、制御装置による支持機構の姿勢制御を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の造形方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本実施形態の造形装置、造形方法、および造形プログラムついて説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の造形装置の全体構成を模式的に示す図である。本実施形態の造形装置10は、肉盛溶接技術を利用して金属材料(溶接ワイヤ)を溶融してビード(溶接ビード)を形成し、そのビードを積層させることによって三次元造形を行うように構成される。
【0022】
本実施形態の造形装置10は、造形対象物の形状に対応した形状を有する(
図1には図示していない)型を支持するための支持機構Su(例えば支持台)と、少なくとも2種類の金属ワイヤを溶融させるため溶接装置30と、支持機構Suと溶接装置30とを相対的に移動させるための移動装置20と、を含む。
【0023】
移動装置(機構)20は代表的には数値制御装置であるが、ロボット装置(直交型ロボット、スカラロボットのいずれでもよい)なども利用できる。この実施例では、移動装置20は、溶接装置30と支持機構Suとを相対的に三次元直交3軸(X、Y、Z軸)方向へ移動させることが可能である。また、移動装置20は、溶接装置30と支持機構Suとを相対的にX軸まわり(A方向)およびZ軸まわり(C方向)に回転させることが可能である。C方向回転は連続的に360度以上の回転が可能であるが、A方向回転は180度の範囲で充分である。支持機構Suは回転体29上に固定される(固定具は図示略)。Z軸方向が鉛直方向にとられており、Z軸に垂直な平面がXY平面である。図示の状態では回転体29上の支持機構Suの型設置面は水平である。
【0024】
移動装置20は、固定された基台21と、基台21の上面の案内面21Aに沿ってX軸方向に移動自在に支持されたX方向可動体22と、を含む。また、移動装置20は、X方向可動体22の前面の案内面22Aに沿って上下方向(Z方向)に移動自在に支持された昇降体23を含む。昇降体23には溶接装置30が固定されている。
【0025】
また、移動装置20は、基台21に固定されたYテーブル24と、Yテーブル24の案内面24Aに沿ってY方向に移動自在に支持されたY方向可動体25と、を含む。Y方向可動体25のX方向における両側部には支持体26が設けられ、この支持体26に回転体27がそれぞれA方向に回転自在に支持されている。両側の回転体27の間において、それらの回転中心の位置に支持体28が固定的に支持されている。支持体28は回転体27の回転に伴って180度の範囲で回転自在である。支持体28には回転体29がC方向に回転自在に支持されている。上記のように回転体29上には支持機構Suが固定される。
【0026】
回転体29の表面が水平であれば、支持機構Suは水平面内で回転する。支持体28が90度回転して、回転体29の表面が垂直になると、回転体29の表面に固定された支持機構Suは垂直面内で回転する。移動装置20は、X方向可動体22、Y方向可動体25、昇降体23それぞれの移動のための駆動装置(モータや回転/移動変換機構など)(図示略)を備えている。これにより、X方向可動体22はX方向に沿って、Y方向可動体25はY方向に沿って、昇降体23はZ方向に沿って移動可能である。また、移動装置20は、回転体27、29の回転駆動装置(モータ、歯車など)(図示略)をそれぞれ支持体26、28に備えている。これにより、回転体27はA方向に沿って、回転体29はC方向に沿って回転可能である。なお、本実施形態では、X軸およびZ軸まわりに回転可能な移動装置について説明したが、さらにY軸のまわりに回転させる機構を設けることもできる。
【0027】
造形装置10は、制御装置50を備え、造形装置10の各構成要素は制御装置50により制御される。一実施形態において、制御装置50は、入出力装置、CPU(中央処理装置)などを備える一般的なコンピュータから構成することができる。さらに、
図1に示すように、制御装置50は記憶媒体52を備える。記憶媒体52には、造形装置10で用いられる各種データの他、下記の造形方法における各ステップを造形装置10のコンピュータ(制御装置50)に実行させるためのプログラムが格納されている。制御装置50のCPU(中央処理装置)は、記憶媒体52に格納されたプログラムを読み出して実行することができる。このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録され、記憶媒体を介して制御装置50に提供され得る。或いは、このプログラムは、インターネットなどの通信ネットワークを介して制御装置50に提供されてもよい。
【0028】
図2は、本実施形態の溶接トーチおよびフィラーワイヤ供給機構の構成を模式的に示す図である。
図2に示すように、溶接装置30は、型35または下層のビードに対して第1の金属ワイヤ310を供給し、アーク放電Arcにより第1の金属ワイヤ310を溶融させて滴下させるための溶接トーチ31を含む。第1の金属ワイヤ310は、例えば、90重量%の銅(Cu)と10重量%のスズ(Sn)を含む合金ワイヤであるが、これに限定されない。溶接トーチ31は、第1の金属ワイヤ310をZ軸下方向(重力方向)に送給するように構成される。
【0029】
溶接トーチ31は円筒形状を成し、内部の円筒空間には同軸状に給電部312が配置されている。溶接トーチ31内に引き込まれた第1の金属ワイヤ310は、給電部312と接触摺動することにより電力が供給される。溶接トーチ31に送り込まれてくるシールドガスGaは、溶接トーチ31の円筒空間を通過して、端部開口から噴射される。シールドガスGaは、例えば二酸化炭素であり、溶融した第1の金属ワイヤ310が空気と触れることを防ぐと共に、溶滴314の飛散を防ぐ役割を担う。
【0030】
図2には溶接金属(ビード)が第1層L1、第2層L2、および第3層L3の一部まで積層された状態が描かれている。溶接トーチ31の先端に送給される第1の金属ワイヤ310と型35との間に電圧が印加され、第1の金属ワイヤ310の先端と型35または既に積層されたビードとの間にアーク放電Arcが発生する。これにより第1の金属ワイヤ310が溶融して滴下し(溶滴)、溶融池Poが形成される。
【0031】
本実施形態の溶接装置30は、第1の金属ワイヤ310が滴下して形成された溶融池Poに対して第1の金属ワイヤ310とは異なる第2の金属ワイヤ340を供給するためのフィラーワイヤ供給機構34を含む。第2の金属ワイヤ340は、例えば、99重量%のスズ(Sn)と1重量%のその他の金属とを含む合金ワイヤであるが、これに限定されない。
【0032】
フィラーワイヤ供給機構34は、円筒形状を成し、溶融池Poに対して第2の金属ワイヤ340を送給するように構成される。第2の金属ワイヤ340は、溶融池Poの熱またはアーク放電Arcの熱によって溶融し、溶融池Po内で第1の金属ワイヤ310と第2の金属ワイヤ340が混合される。
【0033】
図3は、アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing(AM))を用いた造形を模式的に示す図である。
図3は、一例として円柱状の形状を有する造形対象物ObをAMによって造形する過程を示している。なお、
図3においては、説明の簡略化のために型35を省略している。
【0034】
図3に示すように、造形装置10は、まず、移動装置20によってXY平面に沿って円を描くように溶接装置30と支持機構Suを相対的に移動させながら、第1の金属ワイヤ310および第2の金属ワイヤ340を溶融、混合する。これにより、最下層の円状のビードBe1が形成される。続いて、造形装置10は、移動装置20によって溶接装置30のZ方向の位置を上昇させた後、再びXY平面に沿って円を描くように溶接装置30と支持機構Suを相対的に移動させながら第1の金属ワイヤ310および第2の金属ワイヤ340を溶融、混合する。これにより、既に形成されたビードBe1の上に新たなビードBe2が積層される。造形装置10は、新たなビードを積層するたびに溶接装置30をZ方向に上昇させながらビードを積層することによって、最終的に円柱状の形状を有する造形対象物Obを造形することができる。
【0035】
ここで、本実施形態の造形装置10は、溶接装置30(溶接トーチ31およびフィラーワイヤ供給機構34)によって形成されるビードを冷却するように構成された冷却機構40を含む。冷却機構40は、ビードに対して空気(Air)を吹き付けることによってビードを冷却する空冷装置であり得る。しかしながら、冷却機構40は、空冷装置に限らず、例えば水冷式など、ビードを冷却することができる機構を有する任意の装置である。冷却機構40は、移動装置20によって支持機構Suを移動(Z軸まわりに回転)させながらビードを冷却することによって、ビード全体を冷却するように構成することができる。
【0036】
冷却機構40は、溶接装置30(溶接トーチ31およびフィラーワイヤ供給機構34)によって所定の層数のビードが積層されるたびにビードを冷却するように構成されている。すなわち、ビードを冷却せずに造形対象物Obの全体を造形しようとすると、積層されたビードに蓄えられた熱によってビードが溶融して形状が変化するおそれがある。一方で、ビードを1層形成するたびにビードを冷却すると、造形に要する時間が長くなり生産性の観点で好ましくない。そこで、本実施形態の冷却機構40は、所定の層数(例えば、3の倍数の層)のビードが形成されたら、新たに積層されたビードに対して空気を吹き付けて冷却するように構成される。
【0037】
本実施形態の造形装置10によれば、所望の金属成分を有する造形物を造形することができる。すなわち、造形対象物の金属成分が、例えば銅とスズの合金であるがスズの含有率が比較的高い場合には、そのような金属成分の合金が延性に乏しく、その合金をワイヤ状に加工することが難しい。この場合、溶接トーチ31だけを含む造形装置では所望の金属成分を有する造形物を造形するのが困難になる。一方、本実施形態の造形装置10は、溶接トーチ31だけではなく、フィラーワイヤ供給機構34を含んでいる。したがって、第1の金属ワイヤ310を溶接トーチ31によって溶融し、第2の金属ワイヤ340をフィラーワイヤ供給機構34によって溶融し、溶融した第1の金属ワイヤ310および第2の金属ワイヤ340を混合することによって、所望の金属成分を有する造形物を造形することができる。なお、本実施形態では1台のフィラーワイヤ供給機構を含む例を示したが、これに限定されず、フィラーワイヤ供給機構の数は任意である。
【0038】
図4は、型を用いた造形を模式的に示す図である。
図3の例のようにビードを鉛直方向に積層する場合には造形は比較的容易である。しかしながら、ビードを鉛直方向以外の方向に積層する必要がある異形形状が造形対象物に含まれている場合には、所望の形状を造形するのが難しい場合がある。例えば
図4に示すように造形対象物Obがハンドベルであり、造形対象物Obにオーバーハング形状Ovが含まれている場合には、下層のビードに対して上層のビードを斜め方向に積み上げるので、重力が要因となって上層のビードが垂れ、その結果、所望の形状を有する造形物を造形できないおそれがある。そこで、本実施形態の造形装置10は、型35を用いて造形を行うように構成される。なお、本実施形態では、型35を用いた造形対象物Obとしてハンドベルを挙げて説明を行うが、造形対象物Obはハンドベルに限定されない。
【0039】
図4に示すように、型35は、造形対象物Ob(ハンドベル)の形状に対応した形状を有するメス型35Bまたはオス型35Aである。溶接装置30の溶接トーチ31は、型35に対して第1の金属ワイヤを供給し、アーク放電により第1の金属ワイヤを溶融させて滴下させるよう構成される。また、溶接装置30のフィラーワイヤ供給機構34は、第1の金属ワイヤが滴下して形成された溶融池に対して第1の金属ワイヤとは異なる第2の金属ワイヤを供給するよう構成される。
【0040】
これにより、造形装置10は、型35の形状に沿ってビードBeを積層することができるので、造形対象物Obにオーバーハング形状Ovが含まれており下層のビードに対して上層のビードを斜め方向に積み上げたとしても、上層のビードが垂れ難くなる。造形装置10は、型35に対してビードBeを積層した後、型35からビードBeを取り外し、切削、研削、研磨などの加工を施すことによって、所望の形状を有する造形物を造形することができる。
【0041】
図5は、制御装置による支持機構の姿勢制御を模式的に示す図である。造形装置10は、造形対象物の形状に応じて支持機構Suの姿勢を制御するように構成される制御装置50を含む。本実施形態では、制御装置50は、回転体27をA方向に回転させる回転駆動機構(モータなど)、および、回転体29をC方向の回転させる回転駆動機構(モータなど)の回転角度を調整することによって支持機構Suの姿勢を制御するように構成される。制御装置50は、
図5に示すように、造形対象物のオーバーハング形状の傾きに応じてビードBeの積層方向が鉛直方向に近づくように支持機構Suの姿勢を制御するように構成される。
【0042】
これにより、例えば
図4に示すように造形対象物がハンドベルであり、造形対象物にオーバーハング形状が含まれている場合であっても、ビードBeを鉛直方向に積層することができる。その結果、上層のビードが重力によって垂れるのを抑制することができるので、本実施形態の造形装置10は、所望の形状を有する造形物を造形することができる。なお、
図5は、型35を用いない場合に制御装置50が支持機構Suの姿勢を制御する一例を示したが、これに限らず、型35を用いて造形を行う場合にも制御装置50は支持機構Suの姿勢を制御することができる。
【0043】
次に、本実施形態の造形方法について説明する。
図6は、本実施形態の造形方法のフローチャートである。
図6に示すように、造形方法は、まず、造形対象物の形状に対応した形状を有する型35を準備する(ステップ102)。具体的には、型35を支持機構Suに設置する。
【0044】
続いて、造形方法は、ビードを形成する(ステップ110)。ビードを形成するステップ110は、型35に対して溶接トーチ31を用いて第1の金属ワイヤ310を供給するとともにアーク放電により第1の金属ワイヤ310を溶融させて滴下させるステップ(ステップ112)を含む。また、ビードを形成するステップ110は、第1の金属ワイヤ310が滴下して形成された溶融池Poに対してフィラーワイヤ供給機構34を用いて第1の金属ワイヤ310とは異なる第2の金属ワイヤ340を供給するステップ(ステップ114)を含む。さらに、ビードを形成するステップ110は、型35と溶接装置30(溶接トーチ31およびフィラーワイヤ供給機構34)と、を相対的に移動させるステップ(ステップ116)を含む。ステップ112、ステップ114、およびステップ116を平行して実行することによって、第1の金属ワイヤ310および第2の金属ワイヤ340を含む合金のビードを形成することができる。
【0045】
続いて、造形方法は、ビードの層が形成されたか否かを判定する(ステップ118)。ステップ118は、ステップ110によって1層のビード(
図3の例におけるビードBe1、Be2など)が形成されたか否かを判定する。造形方法は、ビードの層がまだ形成されていないと判定した場合には(ステップ118、No)、ステップ112に戻って処理を繰り返す。
【0046】
一方、造形方法は、ビードの層が形成されたと判定した場合には(ステップ118、Yes)、所定の層数のビードが積層されたか否かを判定する(ステップ120)。ステップ120は、一例として、3の倍数の層数のビードが積層されたか否かを判定する。造形方法は、例えば、1層、2層、4層、または5層など、3の倍数の層数以外の層数が積層されている場合には(ステップ120、No)、溶接装置30(溶接トーチ31およびフィラーワイヤ供給機構34)のZ方向の位置を上昇させる(ステップ122)。
【0047】
続いて、造形方法は、造形対象物の形状に応じて型35を支持する支持機構Suの姿勢を制御する(ステップ123)。このステップ123は、第2層目以降のビードを積層する際には、直下のビードに対してビードの積層方向が鉛直方向であれば、現状の支持機構Suの姿勢を保持する。一方、ステップ123は、例えば造形対象物のオーバーハング形状の部分を造形するときのように、直下のビードに対してビードの積層方向が鉛直方向から傾いている場合には、その傾きが小さくなるように(ビードの積層方向が鉛直方向に近づくように)、支持機構Suの姿勢を制御する。造形方法は、ステップ123の後、ステップ112へ戻る。
【0048】
造形方法は、3の倍数の層数のビードが積層された場合には(ステップ120、Yes)、冷却機構40を用いてビードを冷却する(ステップ124)。続いて、造形方法は、全ての層数のビードが積層されたか否かを判定する(ステップ126)。造形方法は、全ての層数のビードが積層されていない場合には(ステップ126、No)、溶接装置30(溶接トーチ31およびフィラーワイヤ供給機構34)のZ方向の位置を上昇させる(ステップ122)とともに、造形対象物の形状に応じて型35を支持する支持機構Suの姿勢を制御して(ステップ123)、ステップ112へ戻る。一方、造形方法は、全ての層数のビードが積層された場合には(ステップ126、Yes)、積層したビードを型35から取り外して(ステップ130)、処理を終了する。
【0049】
本実施形態の造形方法によれば、第1の金属ワイヤ310を溶接トーチ31によって溶融し、第2の金属ワイヤ340をフィラーワイヤ供給機構34によって溶融し、溶融した第1の金属ワイヤ310および第2の金属ワイヤ340を混合することによって、所望の金属成分を有する造形物を造形することができる。また、本実施形態の造形方法によれば、型35の形状に沿ってビードを積層することができるので、例えばオーバーハング形状が造形対象物に含まれており下層のビードに対して上層のビードを斜め方向に積み上げたとしても、上層のビードが垂れ難くなる。さらに、本実施形態の造形方法によれば、ビードの積層方向が鉛直方向に近づくように支持機構Suの姿勢を制御するので、造形対象物にオーバーハング形状が含まれている場合であっても、上層のビードが重力によって垂れるのを抑制することができる。その結果、本実施形態の造形方法によれば、所望の形状を有する造形物を造形することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 造形装置
20 移動装置
30 溶接装置
31 溶接トーチ
34 フィラーワイヤ供給機構
35 型
35A オス型
35B メス型
40 冷却機構
50 制御装置
52 記憶媒体
310 第1の金属ワイヤ
314 溶滴
340 第2の金属ワイヤ
Arc アーク放電
Be ビード
Ga シールドガス
Ob 造形対象物
Ov オーバーハング形状
Po 溶融池
Su 支持機構