(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】せん断強度測定装置、及びせん断強度測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/24 20060101AFI20240729BHJP
G01N 19/04 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G01N3/24
G01N19/04 B
(21)【出願番号】P 2020211990
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-12-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「データ駆動型分子設計を基点とする超複合材料の開発」及び「材料特性評価の自動データ収集システムの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 千明
(72)【発明者】
【氏名】ジョゼ ジャクイム ダ モタ マチャド
(72)【発明者】
【氏名】関口 悠
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-259138(JP,A)
【文献】特開2005-265806(JP,A)
【文献】特開2014-182090(JP,A)
【文献】特開平02-032231(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102680319(CN,A)
【文献】米国特許第06216531(US,B1)
【文献】特開2010-160007(JP,A)
【文献】特開平03-216534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/24
G01N 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸に沿った第1方向及び第2方向に移動可能に構成され、前記第1方向側を向いた押圧面を有する押圧部と、前記第2方向への力を受ける加圧作用部と、を有する可動部と、
前記可動部の前記第1軸に沿った移動の際に前記押圧面が通過する軌道上にサンプルを突出させて保持する保持部と、前記第1方向への力を受ける受圧作用部と、前記受圧作用部に受ける力によって前記サンプルを前記保持部に固定する固定機構と、を有するサンプルホルダと、
前記加圧作用部と前記受圧作用部との間で圧縮力を受けることで弾性変形する弾性体と、
前記押圧面に前記第2方向に加わる荷重を検出する検出部と、
を具備し、
前記可動部を前記第1方向に移動させる過程において、前記弾性体を弾性変形させた後に、前記押圧面によって前記サンプルをせん断破壊する
せん断強度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のせん断強度測定装置であって、
前記サンプルは、第1基材と、第2基材と、前記第1基材と前記第2基材とを接着する接着部と、を有し、
前記保持部は、前記軌道上に前記第2基材を突出させて前記第1基材を保持する
せん断強度測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載のせん断強度測定装置であって、
前記第1基材及び前記第2基材がいずれも、前記第1軸と直交する第2軸に沿った軸を中心とする円柱状である
せん断強度測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載のせん断強度測定装置であって、
前記押圧面は、前記第2軸に沿って延び、前記第2方向に窪む溝状である
せん断強度測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載のせん断強度測定装置であって、
前記押圧面は、前記第2基材の外周面よりも曲率半径が大きい曲面である
せん断強度測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載のせん断強度測定装置であって、
前記押圧面の前記第2方向側において前記第2軸に沿った軸を中心に回動可能なよう前記押圧部を支持する支持部を更に具備する
せん断強度測定装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のせん断強度測定装置であって、
前記押圧面によってせん断された前記サンプルの前記保持部内に残った部分を前記軌道上に突出させる昇降機構を更に具備する
せん断強度測定装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のせん断強度測定装置と、
前記サンプルを供給する供給部と、
前記サンプルを前記供給部から前記保持部に搬送する搬送部と、
前記可動部及び前記搬送部を制御する制御部と、
を具備するせん断強度測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断強度を測定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤の接着強度は、例えば、せん断強度によって評価することができる。接着剤のせん断強度を得るための一般的な手法としては、例えば、評価の対象となる接着剤によって2枚の基材を接着して得られる単純重ね合わせ接着継手サンプルを用いた引張試験が知られている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Da Silva, Lucas FM, et al. "Effect of adhesive type and thickness on the lap shear strength." The journal of adhesion 82.11 (2006): 1091-1115.
【文献】Naito, Kimiyoshi, Mutsumi Onta, and Yasuo Kogo. "The effect of adhesive thickness on tensile and shear strength of polyimide adhesive." International Journal of Adhesion and Adhesives 36 (2012): 77-85.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような引張試験では、サンプルを構成する基材の曲げ変形や位置ずれなどの影響が加わりやすいため、接着剤の正確なせん断強度が得られにくい。また、上記のような引張試験では、サンプルの作製及びセッティングに手間がかかるため、接着剤の評価を効率的に進めることが難しい。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、正確なせん断強度を効率的に測定可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るせん断強度測定装置は、可動部と、サンプルホルダと、弾性体と、検出部と、を具備する。
上記可動部は、第1軸に沿った第1方向及び第2方向に移動可能に構成され、上記第1方向側を向いた押圧面を有する押圧部と、上記第2方向への力を受ける加圧作用部と、を有する。
上記サンプルホルダは、上記可動部の上記第1軸に沿った移動の際に上記押圧面が通過する軌道上にサンプルを突出させて保持する保持部と、上記第1方向への力を受ける受圧作用部と、上記受圧作用部に受ける力によって上記サンプルを上記保持部に固定する固定機構と、を有する。
上記弾性体は、上記加圧作用部と上記受圧作用部との間で圧縮力を受けることで弾性変形する。
上記せん断強度測定装置は、上記可動部を上記第1方向に移動させる過程において、上記弾性体を弾性変形させた後に、上記押圧面によって上記サンプルをせん断破壊する。
【0007】
このせん断強度測定装置では、可動部を第1方向に移動させる単一の動作のみによって、サンプルをサンプルホルダの保持部に固定しつつ、サンプルをせん断破壊することができる。このため、このせん断強度測定装置では、シンプルな装置構成によって、正確なせん断強度を効率的に測定することができる。
【0008】
上記サンプルは、第1基材と、第2基材と、上記第1基材と上記第2基材とを接着する接着部と、を有してもよい。この場合、上記第1基材及び上記第2基材がいずれも、上記第1軸と直交する第2軸に沿った軸を中心とする円柱状であってもよい。また、上記押圧面は、上記第2軸に沿って延び、上記第2方向に窪む溝状であってもよい。更に、上記押圧面は、上記第2基材の外周面よりも曲率半径が大きい曲面であってもよい。加えて、上記せん断強度測定装置は、上記押圧面の上記第2方向側において上記第2軸に沿った軸を中心に回動可能なよう上記押圧部を支持する支持部を更に具備してもよい。
これらの構成によって、サンプルの接着部を構成する接着剤のせん断強度を良好に評価することができる。
【0009】
上記せん断強度測定装置は、上記押圧面によってせん断された上記サンプルの上記保持部内に残った部分を上記軌道上に突出させる昇降機構を更に具備してもよい。
この構成では、せん断後のサンプルにおけるサンプルホルダの保持部内に残った部分を、昇降機構によって突出させることで、サンプルをせん断破壊する動作と同様の動作によって除去することができる。これにより、複数のサンプルのせん断強度を連続して効率的に測定することが可能となる。
【0010】
本発明の一形態に係るせん断強度測定システムは、上記せん断強度測定装置と、供給部と、搬送部と、制御部と、を具備する。
上記供給部は、上記サンプルを供給する。
上記搬送部は、上記サンプルを上記供給部から上記保持部に搬送する。
上記制御部は、上記可動部及び上記搬送部を制御する。
【発明の効果】
【0011】
正確なせん断強度を効率的に測定可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るせん断強度測定装置の概略構成図である。
【
図2】上記せん断強度測定装置のサンプルホルダの平面図である。
【
図4】上記せん断強度測定装置に対応するサンプルを示す図である。
【
図5】上記サンプルホルダにサンプルが挿入された状態を示す平面図である。
【
図6】上記サンプルホルダにサンプルが挿入された状態を示す縦断面図である。
【
図7】上記せん断強度測定装置の押圧部及び支持部を示す平面図である。
【
図8】上記せん断強度測定装置の動作を示す概略構成図である。
【
図9】上記サンプルホルダにサンプルが固定された状態を示す平面図である。
【
図10】上記サンプルホルダにサンプルが固定された状態を示す縦断面図である。
【
図11】上記せん断強度測定装置の動作を示す図である。
【
図12】上記せん断強度測定装置の昇降機構を示す図である。
【
図14】上記せん断強度測定装置の動作を示す概略構成図である。
【
図15】上記せん断強度測定装置の他の形態を示す概略構成図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係るせん断強度測定システムの概略構成図である。
【
図17】上記せん断強度測定システムの搬送部の動作を示す平面図である。
【
図18】上記せん断強度測定装置のサンプルの製造過程を示す斜視図である。
【
図19】上記せん断強度測定装置のサンプルの製造過程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。各図面には、適宜、空間座標系を規定する相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸及びY軸は水平方向に延び、Z軸は鉛直方向に延びる。また、各図面には、適宜、X軸に沿った方向として、前方X1及び後方X2も示されている。
【0014】
[せん断強度測定装置1]
図1は、本発明の一実施形態に係るせん断強度測定装置1の概略構成図である。せん断強度測定装置1は、せん断強度の測定対象となるサンプルSを保持可能なサンプルホルダ10と、サンプルホルダ10の後方X2に位置する可動部20と、サンプルホルダ10及び可動部20を保持するフレーム部Fと、を有する。
【0015】
図2はサンプルホルダ10をZ軸方向上方から見た平面図であり、
図3はサンプルホルダ10のX-Z平面に沿った縦断面図である。サンプルホルダ10は、X-Y平面に沿って延びる上向きの平面であるステージ面11と、ステージ面11の中央部において下方に窪む保持部12と、を有する。
【0016】
図4は、本実施形態でせん断強度の測定対象となるサンプルSを示す図である。サンプルSは、Z軸に沿った軸を中心とする円柱状であり、下側の第1基材S1と、上側の第2基材S2と、第1基材S1と第2基材S2とを接着する接着部Saと、で構成される。接着部Saは、評価対象となる接着剤によって形成される。
【0017】
せん断強度測定装置1は、例えば直径8mm程度の小さいサンプルSに対応可能であるため、少量の接着剤によってせん断強度の評価を実施可能である。なお、サンプルSでは、例えば、第1基材S1及び第2基材S2の厚みをそれぞれ3mmとすることができ、接着部Saの厚みを0.2mmとすることができる。
【0018】
サンプルSにおける第1基材S1及び第2基材S2は、変形しにくい高剛性の材料で形成される。第1基材S1及び第2基材S2を構成する材料は、接着部Saを構成する接着剤を用いた接着の対象となる材料に応じて、樹脂材料、金属材料、セラミック材料などから適宜選択可能である。
【0019】
図5,6は、サンプルホルダ10の保持部12内にサンプルSが挿入された状態を示している。
図6に示すように、保持部12内に挿入されたサンプルSでは、第1基材S1が保持部12内に位置し、第2基材S2がステージ面11から上方に突出し、接着部Saがステージ面11と水平方向に重なっている。
【0020】
図5,6に示す状態では、サンプルSの第1基材S1の周囲に隙間が形成され、サンプルSが保持部12に固定されていない。サンプルホルダ10は、サンプルSを保持部12に固定するための固定機構を有する。本実施形態に係るサンプルホルダ10では、固定機構がスリット部13を含んだ構成とされる。
【0021】
スリット部13は、保持部12のX軸方向中央部とY軸方向に重なる位置に設けられている。スリット部13には、サンプルホルダ10をZ軸に沿って貫通し、Y軸に沿って延びる複数のスリットLが設けられている。各スリットLは、サンプルホルダ10をY軸方向に貫通しておらず、つまりサンプルホルダ10をX軸方向に分断していない。
【0022】
サンプルホルダ10は、受圧作用部14を有する。受圧作用部14は、サンプルホルダ10の後方X2を向いた背面に位置する。また、サンプルホルダ10は、
図1に示すように、フレーム部Fに前方X1側から支持され、前方X1への移動が規制されている。このため、サンプルホルダ10では、受圧作用部14に受ける力が、X軸に沿った圧縮力として作用する。
【0023】
サンプルホルダ10にX軸に沿った圧縮力が加わると、各スリットLを構成する空隙が狭まることで、スリット部13がX軸に沿って弾性変形する。これに伴い、保持部12のX軸方向の寸法が縮小することで、サンプルSの第1基材S1が保持部12によって前方X1及び後方X2から挟まれてX軸方向に固定される。
【0024】
このように、サンプルホルダ10は、受圧作用部14に受ける力によって、サンプルSの第1基材S1が保持部12に固定されるように構成されている。第1基材S1がX軸方向に固定されたサンプルSでは、第2基材S2にX軸方向に受ける押圧力が、接着部Saへのせん断力として作用する。
【0025】
図1に示す可動部20は、フレーム部F上においてサンプルホルダ10に対してX軸に沿って移動可能に構成されている。せん断強度測定装置1は、可動部20を移動させるための第1駆動部である水平アクチュエータ30を有する。水平アクチュエータ30は、X軸に沿って伸縮可能なシャフト部31を有し、可動部20に対して後方X2からシャフト部31を介してモータなどの駆動力を伝達可能に構成されている。
【0026】
可動部20は、メイン本体部21と、サブ本体部22と、を有する。メイン本体部21は、フレーム部F上においてX軸に沿って移動可能に構成され、可動部20の他の構成を保持する。メイン本体部21は、X-Y平面に沿って延びる平板状の積載部21aと、積載部21aの後部から上方に延びる壁部21bと、を有する。
【0027】
メイン本体部21の壁部21bの背面には、水平アクチュエータ30のシャフト部31の前端部が接続されている。これにより、せん断強度測定装置1では、水平アクチュエータ30によるシャフト部31のX軸に沿った伸縮によって、可動部20を前方X1及び後方X2に移動させることが可能となる。
【0028】
サブ本体部22は、メイン本体部21の積載部21a上に積載されている。せん断強度測定装置1は、メイン本体部21の壁部21bとサブ本体部22との間に位置する検出部40を有する。検出部40は、メイン本体部21の壁部21bとサブ本体部22との間に加わる荷重を検出するロードセルとして構成される。
【0029】
可動部20は、サブ本体部22が積載部21a上において検出部40以外の構成によってX軸方向の拘束を受けないように構成されている。このため、せん断強度測定装置1では、サブ本体部22に対して後方X2に加わる荷重をそのまま検出部40によって検出することが可能である。
【0030】
また、可動部20は、押圧部23と、支持部24と、を有する。押圧部23は、サブ本体部22の前面に設けられた支持部24に支持され、支持部24から前方X1に延びている。つまり、押圧部23は、その後端部が支持部24を介してサブ本体部22の前面に保持されている。
【0031】
図7は、可動部20の押圧部23及び支持部24を上方から見た平面図である。押圧部23は、X-Y平面に沿って延びる平板状である。可動部20は、X軸に沿った移動の際に、押圧部23がサンプルホルダ10上におけるステージ面11に近接する位置を通るように構成されている。
【0032】
押圧部23の前端部には、前方X1を向いた押圧面23aが設けられている。押圧面23aは、Z軸に沿って延び、後方X2に向けて窪む溝状である。押圧面23aは、サンプルSの外周面よりも曲率半径が大きい曲面である。押圧面23aは、例えば、水平断面が半円形となるように形成することができる。
【0033】
支持部24は、Z軸に沿って延びる軸部24aを有し、軸部24aによって押圧部23を回動可能に支持している。このような構成により、可動部20では、押圧部23の回動による押圧面23aのY軸方向への変位が許容され、つまり押圧面23aの位置にY軸方向の遊びを持たせることができる。
【0034】
可動部20は、X軸に沿った移動の際に、押圧部23の押圧面23aがサンプルホルダ10の保持部12上を通過するように構成されている。つまり、サンプルホルダ10の保持部12に保持されたサンプルSにおけるステージ面11から突出する第2基材S2は、押圧面23aが通過する軌道上に位置する。
【0035】
また、可動部20は、加圧作用部25を有する。加圧作用部25は、メイン本体部21の積載部21aの前面に位置し、サンプルホルダ10の受圧作用部14とX軸方向に対向する。加圧作用部25は、可動部20のX軸に沿った移動によって、サンプルホルダ10の受圧作用部14に対する距離が変化する。
【0036】
せん断強度測定装置1は、可動部20の加圧作用部25とサンプルホルダ10の受圧作用部14との間に位置する弾性体50を有する。弾性体50は、コイルバネで構成され、その後端部が加圧作用部25に固定され、加圧作用部25と受圧作用部14との間で圧縮力を受けることでX軸に沿って弾性変形する。
【0037】
せん断強度測定装置1は、
図1に示す状態から、可動部20を前方X2に移動させることで、サンプルホルダ10の保持部12に保持されたサンプルSを押圧部23の押圧面23aでせん断破壊する。
図8は、その過程における押圧部23の押圧面23aがサンプルホルダ10の保持部12まで到達していない状態を示している。
【0038】
図8に示す状態では、弾性体50の前端部がサンプルホルダ10の受圧作用部14と接触しており、弾性体50が受圧作用部14と加圧作用部25とによって圧縮力を受けて弾性変形している。これにより、サンプルホルダ10の受圧作用部14には、弾性体50の弾性力によって前方X1への力が作用している。
【0039】
したがって、サンプルホルダ10では、
図9,10に示すように、スリット部13がX軸に沿って弾性変形することで、サンプルSの第1基材S1が保持部12によってX軸方向に固定される。つまり、せん断強度測定装置1では、サンプルSをせん断破壊する前の段階においてサンプルSがサンプルホルダ10の保持部12に固定される。
【0040】
そして、
図11に示すように、可動部20を更に前方X2に移動することで、保持部12に固定されたサンプルSを押圧部23の押圧面23aでせん断破壊する。このとき、サンプルSでは、第1基材S1が固定されているため、第2基材S2に加わる前方X1への力によって、接着部Saに対して的確にX軸方向のせん断力が加わる。せん断破壊されたサンプルSの第2基材S2は、そのまま前方X1に排出される。
【0041】
せん断強度測定装置1では、サンプルSをせん断破壊する際にサンプルSから押圧部23の押圧面23aに加わる荷重が検出部40で検出される。したがって、せん断強度測定装置1は、検出部40で検出される荷重によって、サンプルSの接着部Saの正確なせん断強度を得ることができる。
【0042】
このように、せん断強度測定装置1では、可動部20を前方X1に移動させる単一の動作のみによって、サンプルSを固定する操作と、サンプルSをせん断破壊する操作と、をこの順番通りに連続的に行うことができる。これにより、せん断強度測定装置1は、サンプルSのせん断強度を効率的に測定可能である。
【0043】
また、せん断強度測定装置1では、サンプルSを固定する操作と、サンプルSをせん断破壊する操作と、の2つの操作を行うための駆動力を単一の水平アクチュエータ30のみによって発生させることができる。これにより、せん断強度測定装置1は、シンプルな装置構成でサンプルSのせん断強度を測定可能である。
【0044】
更に、せん断強度測定装置1では、上記のとおり、サンプルSをせん断破壊する押圧面23aがY軸方向の遊びを持つため、位置や形状に誤差があるサンプルSに対しても押圧面23aが変位することで片当たりすることなく前方X1への押圧力が的確に加わる。これにより、せん断強度測定装置1では、せん断強度の測定誤差が生じにくくなる。
【0045】
そして、
図11に示す状態から、可動部20を後方X2に移動させることで、
図1に示す位置に戻す。このとき、サンプルSの第1基材S1がサンプルホルダ10の保持部12に残っている。せん断強度測定装置1は、保持部12からサンプルSの第1基材S1を除去するための第2駆動部である鉛直アクチュエータ60を有する。
【0046】
せん断強度測定装置1では、
図12に示すように、鉛直アクチュエータ60がサンプルホルダ10における保持部12の下側の領域に設けられている。サンプルホルダ10では、Z軸に沿って貫通する貫通孔15が設けられ、貫通孔15によって鉛直アクチュエータ60が設けられた領域と保持部12とが連通している。
【0047】
鉛直アクチュエータ60は、上方に延び、下側からサンプルホルダ10の貫通孔15に挿入されたピン部61を有する。鉛直アクチュエータ60は、例えば空気圧などを駆動力としてピン部61を上下に伸縮させることが可能な昇降機構として構成される。
図12に示す状態では、鉛直アクチュエータ60のピン部61の上端部が保持部12内に進入していない。
【0048】
図13は、鉛直アクチュエータ60がピン部61を上方に伸長させた状態を示している。この状態では、保持部12内のサンプルSの第1基材S1がピン部61によって押し上げられている。これにより、鉛直アクチュエータ60は、サンプルSの第1基材S1をステージ面11上に突出させることができる。
【0049】
サンプルSの第1基材S1をステージ面11上に突出させた状態で、
図14に示すように、可動部20を前方X1に移動させることで、押圧部23の押圧面23aによって第1基材S1が前方X1に排出される。そして、可動部20及び鉛直アクチュエータ60のピン部61を元の位置に戻すことで、
図1に示す状態に戻る。
【0050】
このように、せん断強度測定装置1では、可動部20を前方X1に移動させる動作を2回繰り返すことによって、1つのサンプルSに対する操作が完結し、次のサンプルSに対する操作に移ることができる。このため、せん断強度測定装置1では、複数のサンプルSのせん断強度を連続して効率的に測定することができる。
【0051】
なお、せん断強度測定装置1の構成は、上記に限定されない。例えば、サンプルホルダ10の構成は、上記と異なっていてもよい。一例として、保持部12の形状は、サンプルSの形状などに応じて適宜変更可能である。また、ステージ面11は、サンプルSの突出の起点となればよく、上記のような平面でなくてもよい。
【0052】
更に、サンプルホルダ10の固定機構は、受圧作用部14に受ける力によってサンプルSを保持部12に固定可能であればよく、スリット部13を用いた構成に限定されない。具体的に、サンプルホルダ10の固定機構は、例えば、前後方向に分割して設けられた前方部と後方部とを弾性部材によって接続した構成とすることができる。
【0053】
また、可動部20の構成も、上記と異なっていてもよい。一例として、可動部20のメイン本体部21及びサブ本体部22は、図面に示した構成に限定されない。加えて、可動部20は、メイン本体部21及びサブ本体部22を用いた構成に限定されず、他の公知の構成を用いて上記と同様の機能を実現してもよい。
【0054】
更に、可動部20の押圧部23は、サンプルSに対してせん断力を適切に加えられればよく、上記の構成に限定されない。例えば、押圧面23aの形状は、サンプルSの形状などに応じて変更可能である。また、可動部20の支持部24は、押圧部23を適切に支持可能であればよく、上記の構成に限定されない。
【0055】
また、弾性体50の構成も、上記と異なっていてもよい。一例として、弾性体50は、
図15に示すように、サンプルホルダ10の受圧作用部14に固定されていてもよい。加えて、弾性体50は、サンプルホルダ10の受圧作用部14と可動部20の加圧作用部25との間において他の部材に保持されていてもよい。
【0056】
更に、せん断強度測定装置1には、複数の弾性体50が設けられていてもよい。この場合、弾性体50の個数に応じて、サンプルホルダ10に複数の受圧作用部14を設け、可動部20に複数の加圧作用部25を設けてもよい。加えて、弾性体50としては、コイルバネ以外の弾性体を用いてもよく、例えば板バネなどを用いることができる。
【0057】
また、せん断強度測定装置1で測定可能なサンプルSは、上記に限定されない。一例として、サンプルSの形状は、必要に応じて、角柱状などの他の形状に変更することができる。この場合、サンプルSの形状に応じて、サンプルホルダ10の保持部12及び可動部20の押圧部23の構成を変更することができる。
【0058】
更に、せん断強度測定装置1は、接着剤のせん断強度の評価のみならず、各種材料のせん断強度の評価にも利用可能である。この場合、評価対象となる材料によって一体に形成されたサンプルSを用いることができる。この場合にも、上記と同様の要領によってサンプルSのせん断強度を測定することができる。
【0059】
また、せん断強度測定装置1は、必要に応じて、上記以外の構成を有していてもよい。例えば、せん断強度測定装置1は、サンプルSの温度を例えば200℃程度まで上昇させることが可能な温度調整機構を有していてもよい。また、温度調整機構は、サンプルSの温度を低下させる機能を有していてもよい。
【0060】
[せん断強度測定システム100]
図16は、上記実施形態に係るせん断強度測定装置1を用いたせん断強度測定システム100の概略構成図である。せん断強度測定システム100は、上記実施形態に係るせん断強度測定装置1に加えて、供給部110と、搬送部120と、制御部130と、データ処理部140と、を有する。
【0061】
供給部110は、測定の対象となる複数のサンプルSを供給する。搬送部120は、供給部110によって供給されるサンプルSをせん断強度測定装置1のサンプルホルダ10の保持部12に搬送する。
図17は、せん断強度測定システム100の供給部110及び搬送部120の一例を示す平面図である。
【0062】
供給部110は、複数のサンプルSを1つずつ収容する複数の収容部111aが配列された供給トレー111を有する。搬送部120は、ロボットアームとして構成され、先端部に吸着部121aが設けられた伸縮可能なアーム121と、アーム121の後端部を回転可能に支持する軸部122と、を有する。
【0063】
搬送部120は、供給トレー111の収容部111a内のサンプルSを1つずつ、アーム121の吸着部121aに吸着させて、サンプルホルダ10の保持部12に搬送する。これにより、せん断強度測定システム100は、サンプルホルダ10の保持部12に対して複数のサンプルSを連続的に自動挿入することができる。
【0064】
制御部130は、搬送部コントローラ131と、可動部コントローラ132と、を含む。搬送部コントローラ131は、搬送部120によるサンプルSの搬送動作を制御する機能を有する。可動部コントローラ132は、水平アクチュエータ30によって可動部20のX軸に沿った移動動作を制御する機能を有する。
【0065】
また、制御部130は、鉛直アクチュエータ60の動作を制御するための昇降コントローラなどの他の構成を有していてもよい。制御部130は、例えば、少なくとも1つのコンピュータで構成することができ、また異なる位置に配置された複数のコンピュータで構成されていてもよい。
【0066】
データ処理部140は、例えば、検出部40から荷重の検出信号を取得し、取得した荷重の検出信号からせん断強度を算出する機能を有する。データ処理部140は、例えば、少なくとも1つのコンピュータで構成することができ、制御部130と共通のコンピュータを用いて構成してもよい。
【0067】
なお、せん断強度測定システム100は、データ処理部140を含んでいなくてもよく、この場合、データ処理部140の機能を外部機器によって実現してもよい。また、せん断強度測定システム100は、必要に応じ、上記の構成に変更を加えてもよく、また上記以外の構成を更に含んでもよい。
【0068】
[サンプルSの製造方法]
上記実施形態に係るせん断強度測定装置1による接着剤のせん断強度の評価に利用可能な
図4に示す構成のサンプルSの製造方法について説明する。本実施形態に係るサンプルSの製造方法では、
図18に示すように、第1基材S1に対応する第1シートS1Lと、第2基材S2に対応する第2シートS2Lと、を用いる。
【0069】
より詳細に、
図18に示すように、第1シートS1L又は第2シートS2L上に評価対象となる接着剤を塗布することで接着部Saに対応する接着層SaLを形成し、第1シートS1Lと第2シートS2Lとを接着層SaLを介して接着する。これにより、サンプルSと同様の積層構造を有するサンプルシートSLが得られる。
【0070】
そして、
図19に示すように、サンプルシートSLを円形のパンチによって打ち抜くことで、1枚の大判のサンプルシートSLから多数の小さいサンプルSを得ることができる。このように、本実施形態では、評価対象となる接着剤の種類ごとに、複数のサンプルSについて一括して接着部Saを形成することができるため、サンプルSを低コストで迅速に製造可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…せん断強度測定装置
10…サンプルホルダ
11…ステージ面
12…保持部
13…スリット部
14…受圧作用部
20…可動部
21…メイン本体部
22…サブ本体部
23…押圧部
23a…押圧面
24…支持部
25…加圧作用部
30…水平アクチュエータ
40…検出部
50…弾性体
60…鉛直アクチュエータ
100…せん断強度測定システム
110…供給部
120…搬送部
130…制御部
S…サンプル
S1…第1基材
S2…第2基材
Sa…接着部