(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】鉄筋スペーサー及びそれを用いた鉄筋保持工法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/18 20060101AFI20240729BHJP
E04C 5/20 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
E04C5/18 104
E04C5/20
(21)【出願番号】P 2020079602
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】592199102
【氏名又は名称】株式会社アストン
(73)【特許権者】
【識別番号】519334041
【氏名又は名称】株式会社サンエム工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】守屋 茂樹
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-089714(JP,U)
【文献】特開2018-145774(JP,A)
【文献】中国実用新案第207513027(CN,U)
【文献】実開昭52-007914(JP,U)
【文献】特開2000-310006(JP,A)
【文献】特開2020-084514(JP,A)
【文献】特開2021-042630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/18-5/20
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ第1板部材と第2板部材とからなる鉄筋スペーサーであって、
第1板部材は、第1底部領域、第1側面領域及び第2側面領域で囲まれる空間に開口部を有し、第1底部領域と対向する位置から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、第1側面領域と第1底部領域とのなす角及び第2側面領域と第1底部領域とのなす角がそれぞれ45°となるように第1板部材の両端部が互いに逆方向に折り曲げられて第1側面領域と第2側面領域とが並行に配置されてなり、
第2板部材は、第2底部領域、第3側面領域及び第4側面領域で囲まれる空間に開口部を有し、第2底部領域から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、第3側面領域と第2底部領域とのなす角及び第4側面領域と第2底部領域とのなす角がそれぞれ45°となるように第2板部材の両端部が互いに逆方向に折り曲げられて第3側面領域と第4側面領域とが並行に配置されてなり、
第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせられ、第1側面領域、第2側面領域、第3側面領域及び第4側面領域で囲まれる鉄筋保持領域を有
し、前記鉄筋保持領域は1本の鉄筋が嵌合されるものであり、当該鉄筋の直径を基準として前記鉄筋保持領域の最短幅が、直径-1mm以上直径+5mm以下であることを特徴とする鉄筋スペーサー。
【請求項2】
第1側面領域、第2側面領域、第3側面領域及び第4側面領域の先端の少なくとも一部が、鉄筋が嵌合される側と反対方向に折り曲げられてなる請求項1に記載の鉄筋スペーサー。
【請求項3】
第1板部材及び/又は第2板部材の切り込み部において、切り込み部側面の少なくとも一部が折り曲げられてなる請求項1又は2に記載の鉄筋スペーサー。
【請求項4】
第1板部材及び/又は第2板部材における当該板部材中心部側の切り込み部の先端に、スリット幅拡大領域を有する請求項1~3のいずれかに記載の鉄筋スペーサー。
【請求項5】
第1板部材又は第2板部材のいずれか一方が切り込み部側面に突起を有し、第1板部材と第2板部材とが組み合わせられた際に前記突起を嵌合する孔を他方が有する請求項1~4のいずれかに記載の鉄筋スペーサー。
【請求項6】
前記鉄筋が異形鉄筋である請求項1~5のいずれかに記載の鉄筋スペーサー。
【請求項7】
前記鉄筋保持領域が、1本の異形鉄筋を嵌合した際の当該異形鉄筋の凸部が2本以上接する長さを有する請求項6に記載の鉄筋スペーサー。
【請求項8】
デッキプレート合成スラブ造用である請求項1~7のいずれかに記載の鉄筋スペーサー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材とからなる鉄筋スペーサー用板部材キット。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の鉄筋スペーサーを用いて鉄筋を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋保持工法であって、
鉄筋スペーサーにおける第1側面領域、第2側面領域、第3側面領域及び第4側面領域で囲まれる鉄筋保持領域に1本の鉄筋が嵌合するように鉄筋スペーサーを当該鉄筋の上方から押し込み、
鉄筋スペーサーが当該鉄筋保持領域を支点に回転し、鉄筋を上方に持ち上げることにより、当該鉄筋スペーサーが鉄筋の下方に設置されることを特徴とする鉄筋保持工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋スペーサー及びそれを用いた鉄筋保持工法に関する。
【背景技術】
【0002】
自走式駐車場など建築物のコンクリート床を施工するにあたって、コンクリートを打設する場合には、鉄筋の位置を底面から一定高さに保持することが求められている。このように、鉄筋の位置を一定高さに保持するために、鉄筋スペーサーが用いられるが、鉄筋スペーサーを設置する数が少ない場合には、組み立てた鉄筋の上を作業者が歩いたり、コンクリートポンプ車の配管を載せたりすると、鉄筋の位置が下がってしまう。また十分な数の鉄筋スペーサーを設置してもコンクリートが硬化するまでに外れてしまうと鉄筋位置が下がってしまう。そして、鉄筋の位置が下がると、床版のたわみに対する鉄筋の応力が大きくなるためコンクリートにひび割れが発生しやすくなるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、凸条部と凹陥部とが交互に配置したデッキプレート上にコンクリートスラブを打設する際に、縦横一方向に平行配置する上位筋と他方向に平行配置する下位筋とが各交点で溶接された溶接金網を前記コンクリートスラブ中に埋入させるために、前記デッキプレート上に設置して前記溶接金網をデッキプレートから浮かせて支承するデッキプレート用スペーサーであって、前記溶接金網の異なる支承高さに対応した複数の金網支承部を具備すると共に、各金網支承部が前記溶接金網の上位筋と下位筋を各々嵌合可能な一対の上方に開いた嵌合部より構成されてなるデッキプレート用スペーサーが記載されている。これによれば、凸条部と凹陥部とが交互に配置したデッキプレート上にコンクリートスラブを打設する際に、縦横一方向に平行配置する上位筋と他方向に平行配置する下位筋とが各交点で溶接された溶接金網を前記コンクリートスラブ中に埋入させるために、前記デッキプレート上に設置して前記溶接金網をデッキプレートから浮かせて支承するデッキプレート用スペーサーとして、コンクリートスラブの設定厚さが異なる場合にも共用でき、且つ溶接金網の上位筋と下位筋の両方の支承に利用でき、もって単品種の量産による製作コストの低減が可能であるとともに、溶接金網を簡単な操作によって安定した支承状態とでき、該溶接金網上を作業者が歩いても倒れたり当該金網から外れたりしにくいものを提供できるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋スペーサー用板部材であって、前記板部材が、略スリット状の第1開口部及び第2開口部を有し、第1開口部と対向する位置に第2開口部が配置され、第1開口部及び第2開口部のそれぞれの側面に、開口部のスリット幅を狭くする第1突出領域と第2突出領域とを有し、第1開口部及び第2開口部の底部が略半円弧状であり、第1開口部及び第2開口部の少なくとも一方の前記底部から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、2枚の板部材を互いに直交するように前記切り込み部で組み合わせて鉄筋スペーサーが構成されることを特徴とする鉄筋スペーサー用板部材が記載されている。これによれば、重ねることにより現場で多量に鉄筋スペーサー用板部材を持ち運ぶことができ、2枚の板部材を切り込み部で組み合わせると鉄筋スペーサーとなり、鉄筋スペーサーの上下に存在する開口部のいずれにおいても鉄筋を保持することが可能であるため、コストを抑えることができるとともに作業効率が良好になるとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の複雑な形状のスペーサーはコスト高となり、実際に施工する際に採用されない場合があった。これまで、施工現場で鉄筋スペーサーを設置するには、溶接金網の上に作業者が乗った状態で、溶接金網を持ち上げながら該溶接金網における鉄筋と鉄筋とが重なった交点に下方から鉄筋スペーサーを設置する必要があり、施工性の改善が望まれていた。デッキプレートとコンクリートを組み合わせた合成スラブ造の場合、鉄筋と鉄筋とが重なった交点が、デッキプレートの谷部分と非常に近い位置にあると、交点のみに設置する鉄筋スペーサーでは、設置場所を微調整することができず、改善が望まれていた。また、鉄筋が異形鉄筋の場合には、異形鉄筋の凸部の位置が少しずれると、鉄筋スペーサーの嵌合部から異形鉄筋が外れてしまう問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-331331号公報
【文献】特開2018-145774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせられ、第1側面領域、第2側面領域、第3側面領域及び第4側面領域で囲まれる鉄筋保持領域を有する鉄筋スペーサーであって、簡単に組み付けできるとともに、前記鉄筋保持領域で保持された鉄筋が外れるのを防止することができ、鉄筋かぶり厚さを一定に保持することができる鉄筋スペーサーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、鉄筋を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ第1板部材と第2板部材とからなる鉄筋スペーサーであって、
第1板部材は、第1底部領域、第1側面領域及び第2側面領域で囲まれる空間に開口部を有し、第1底部領域と対向する位置から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、第1側面領域と第1底部領域とのなす角及び第2側面領域と第1底部領域とのなす角がそれぞれ45°となるように第1板部材の両端部が互いに逆方向に折り曲げられて第1側面領域と第2側面領域とが並行に配置されてなり、
第2板部材は、第2底部領域、第3側面領域及び第4側面領域で囲まれる空間に開口部を有し、第2底部領域から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、第3側面領域と第2底部領域とのなす角及び第4側面領域と第2底部領域とのなす角がそれぞれ45°となるように第2板部材の両端部が互いに逆方向に折り曲げられて第3側面領域と第4側面領域とが並行に配置されてなり、
第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせられ、第1側面領域、第2側面領域、第3側面領域及び第4側面領域で囲まれる鉄筋保持領域を有することを特徴とする鉄筋スペーサーを提供することによって解決される。
【0009】
このとき、第1側面領域、第2側面領域、第3側面領域及び第4側面領域の先端の少なくとも一部が、鉄筋が嵌合される側と反対方向に折り曲げられてなることが好適であり、第1板部材及び/又は第2板部材の切り込み部において、切り込み部側面の少なくとも一部が折り曲げられてなることが好適である。第1板部材及び/又は第2板部材における当該板部材中心部側の切り込み部の先端に、スリット幅拡大領域を有することが好適であり、第1板部材又は第2板部材のいずれか一方が切り込み部側面に突起を有し、第1板部材と第2板部材とが組み合わせられた際に前記突起を嵌合する孔を他方が有することが好適である。前記鉄筋が異形鉄筋であることが好適であり、前記鉄筋保持領域が、1本の異形鉄筋を嵌合した際の当該異形鉄筋の凸部が2本以上接する長さを有することが好適である。また、デッキプレート合成スラブ造用であることが好適な実施態様であり、鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材とからなる鉄筋スペーサー用板部材キットが好適な実施態様である。
【0010】
また、上記課題は、前記鉄筋スペーサーを用いて鉄筋を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋保持工法であって、鉄筋スペーサーにおける第1側面領域、第2側面領域、第3側面領域及び第4側面領域で囲まれる鉄筋保持領域に1本の鉄筋が嵌合するように鉄筋スペーサーを当該鉄筋の上方から押し込み、鉄筋スペーサーが当該鉄筋保持領域を支点に回転し、鉄筋を上方に持ち上げることにより、当該鉄筋スペーサーが鉄筋の下方に設置されることを特徴とする鉄筋保持工法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鉄筋スペーサーは、第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせられ、第1側面領域、第2側面領域、第3側面領域及び第4側面領域で囲まれる鉄筋保持領域を有するものであり、簡単に組み付けできるとともに、前記鉄筋保持領域で保持された鉄筋は外れにくく、鉄筋かぶり厚さを一定に保持することができるため、打設後のコンクリートのひび割れを効果的に抑制することが可能となる。特に、鉄筋が異形鉄筋の場合であっても、前記鉄筋保持領域で保持された鉄筋は外れにくく、通常の鉄筋だけでなく異形鉄筋を用いたデッキプレート合成スラブ造などの用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材の一例を示した図、並びにA-A、B-B、C-C、D-D、E-E、F-F、A’-A’、B’-B’、C’-C’、D’-D’、E’-E’及びF’-F’断面を示した図である。
【
図2】本発明の鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように配置した一例を示した図である。
【
図3】本発明の鉄筋スペーサーの一例を示した図である。
【
図4】本発明の鉄筋スペーサーを真上から見た一例を示した図である。
【
図5】本発明の鉄筋スペーサーに鉄筋が嵌合された実施態様の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明を具体的に説明する。
図1は、本発明の鉄筋スペーサー3を構成する第1板部材1と第2板部材2の一例を示した図、並びに各断面を示した図である。
図2は、第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように配置した一例を示した図であり、
図3は、本発明の鉄筋スペーサー3の一例を示した図である。なお、
図3中の丸で囲まれた各部分を真上から見た断面の一例を右側に示している。
図4は、本発明の鉄筋スペーサー3を真上から見た一例を示した図であり、
図5は、本発明の鉄筋スペーサー3に鉄筋18が嵌合された実施態様の一例を示した図である。
【0014】
図1の左側に示されるように、第1板部材1は、第1底部領域4、第1側面領域6及び第2側面領域7で囲まれる空間に開口部10を有し、第1底部領域4と対向する位置から板部材の中心方向に向けて切り込み部11を有し、第1側面領域6と第1底部領域4とのなす角17及び第2側面領域7と第1底部領域4とのなす角17がそれぞれ45°となるように第1板部材1の両端部が互いに逆方向に折り曲げられて第1側面領域6と第2側面領域7とが並行に配置されてなる。
【0015】
また、
図1の右側に示されるように、第2板部材2は、第2底部領域5、第3側面領域8及び第4側面領域9で囲まれる空間に開口部10を有し、第2底部領域5から板部材の中心方向に向けて切り込み部12を有し、第3側面領域8と第2底部領域5とのなす角17及び第4側面領域9と第2底部領域5とのなす角17がそれぞれ45°となるように第2板部材2の両端部が互いに逆方向に折り曲げられて第3側面領域8と第4側面領域9とが並行に配置されてなる。
【0016】
そして、
図2に示されるように、第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように切り込み部11,12で組み合わせることにより、
図3に示される鉄筋スペーサー3が構成される。鉄筋スペーサー3を真上から見た
図4からも分かるように、それぞれのなす角17が45°となるように第1板部材1における第1側面領域6と第2側面領域7とが並行に配置されるとともに、第2板部材2における第3側面領域8と第4側面領域9とが並行に配置され、第1側面領域6、第2側面領域7、第3側面領域8及び第4側面領域9で囲まれる鉄筋保持領域を有する。なお、なす角17の45°は、鉄筋保持領域に鉄筋18が嵌合できる程度に±1~3°変動していても構わない。このような構成を採用することにより、第1側面領域6と第4側面領域9の合計長さ、あるいは第2側面領域7と第3側面領域8の合計長さが鉄筋保持領域の長さとなり、鉄筋18を前記鉄筋保持領域に嵌合した場合に、保持された鉄筋18が外れにくい効果を奏することになる。特に、鉄筋18が異形鉄筋の場合には、異形鉄筋の凸部の位置が少しずれると、鉄筋スペーサー3の嵌合部から異形鉄筋が外れてしまう問題があり、かかる問題を解決できることも明らかとなった。したがって、上記構成を採用する意義は大きい。
【0017】
前記鉄筋保持領域の長さは、10mm以上80mm以下であることが好ましく、12mm以上60mm以下であることがより好ましく、16mm以上40mm以下であることがさらに好ましい。第1側面領域6、第2側面領域7、第3側面領域8及び第4側面領域9の各側面領域の長さとしては、前記鉄筋保持領域の概ね2分の1の長さとなるが、具体的には、5mm以上40mm以下であることが好ましく、6mm以上30mm以下であることがより好ましく、8mm以上20mm以下であることがさらに好ましい。鉄筋18が異形鉄筋の場合には、前記鉄筋保持領域が、1本の異形鉄筋を嵌合した際の当該異形鉄筋の凸部が2本以上接する長さを有することが好適な実施態様である。このような構成を採用することにより、異形鉄筋の凸部の位置が多少ずれた場合であっても、異形鉄筋が前記鉄筋保持領域から外れるのを防止することができる。
【0018】
第1板部材1の両端部及び第2板部材2の両端部において、それぞれ当該板部材の両端部が互いに逆方向に折り曲げられて各側面領域が並行に配置されてなる。第1板部材1及び第2板部材2における両端部の折り曲げ幅としては、第1板部材1と第2板部材2とを組み合わせて形成される鉄筋保持領域が確保できるのであれば特に限定されない。前記両端部の折り曲げ幅は、2mm以上20mm以下であることが好ましく、3mm以上15mm以下であることがより好ましく、5mm以上12mm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
図1に示されるように、第1板部材1と第2板部材2を、各板部材における開口部10が同方向になるように並べた際に、第1板部材1の両端部の折り曲げ方向と、同位置における第2板部材2の両端部の折り曲げ方向とがそれぞれ逆方向になることが好適な実施態様である。
【0020】
本発明において、第1板部材1は、第1底部領域4と対向する位置から板部材の中心方向に向けて切り込み部11を有し、第2板部材2は、第2底部領域5から板部材の中心方向に向けて切り込み部12を有する。切り込み部11,12の形や大きさとしては、第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように切り込み部11,12で組み合わせて鉄筋スペーサー3を形成することが可能な形や大きさであれば特に限定されない。形としては、略長方形の切り込み部11,12であることが好ましい。切り込み部11,12の長さとしては特に限定されず、第1板部材1及び第2板部材2の大きさによって適宜調整することが好ましい。具体的には、4mm以上30mm以下であることが好ましく、6mm以上25mm以下であることがより好ましい。
【0021】
切り込み部11,12の幅としては特に限定されず、1.5mm以上6mm以下であることが好ましい。本発明者らが検討したところ、金属板からなる第1板部材1と第2板部材2に対し、切り込み部11,12を打ち抜き工程により形成した場合、切り込み部11,12の幅の寸法によって打ち抜き刃の耐久性に問題が生じることが明らかとなった。かかる観点から、切り込み部11,12の幅は、1.8mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることが更に好ましく、2.5mm以上であることが特に好ましい。一方、切り込み部11,12の幅は、5mm以下であることがより好ましく、4mm以下であることが更に好ましい。
【0022】
第1板部材1の切り込み部11及び/又は第2板部材2の切り込み部12において、切り込み部側面13の少なくとも一部が折り曲げられてなることが好適な実施態様である。このような構成を採用することにより、折り曲げられた箇所の強度が向上し、第1板部材1と第2板部材2とを組み合わせて構成される鉄筋スペーサー3全体の強度が向上する利点を有する。切り込み部側面13の折り曲げ長さとしては特に限定されず、2mm以上20mm以下であることが好ましく、3mm以上15mm以下であることがより好ましく、5mm以上12mm以下であることがさらに好ましい。また、切り込み部側面13の折り曲げ幅としては特に限定されず、1mm以上5mm以下であることが好ましい。鉄筋スペーサー3の強度をより向上させる観点から、第1板部材1の切り込み部11と第2板部材2の切り込み部12の両方において、切り込み部側面13の少なくとも一部が折り曲げられてなることがより好適な実施態様である。なお、切り込み部側面13の折り曲げ長さとは、切り込み部11,12の長さ方向と平行になる長さのことを意味し、切り込み部側面13の折り曲げ幅とは、前記切り込み部側面13の折り曲げ長さ方向と垂直に交わる方向にある幅のことを意味する。
【0023】
そして、第1板部材1及び/又は第2板部材2における当該板部材中心部側の切り込み部の先端に、スリット幅拡大領域14を有することが好適な実施態様である。このような構成を採用することにより、切り込み部側面13の少なくとも一部が折り曲げられた箇所を有する場合に、第1板部材1と第2板部材2とを切り込み部11,12で組み合わせやすい利点を有する。スリット幅拡大領域14は、第1板部材1と第2板部材2の両方に有することがより好適である。スリット幅拡大領域14の形や大きさとしては特に限定されず、切り込み部側面13の折り曲げ箇所の大きさにより適宜調整することが好ましい。具体的には、4mm2以上200mm2以下であることが好ましく、5mm2以上100mm2以下であることが好ましい。
【0024】
第1板部材1又は第2板部材2のいずれか一方が切り込み部側面に突起15を有し、第1板部材1と第2板部材2とが組み合わせられた際に前記突起15を嵌合する孔16を他方が有することが好適な実施態様である。このような構成を採用することにより、第1板部材1と第2板部材2とを切り込み部11,12で組み合わせた際に、突起15と孔16とが噛み合い、第1板部材1と第2板部材2とが外れるのを防止することができる。突起15の大きさとしては特に限定されないが、0.1mm以上2mm以下であることが好ましい。突起15の大きさが0.1mm未満の場合、突起15の形成が困難となるおそれがあり、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることが更に好ましい。一方、突起15の大きさが2mmを超える場合、第1板部材1と第2板部材2との組付けが困難になるおそれがあり、1.5mm以下であることがより好ましく、1.2mm以下であることが更に好ましく、1mm以下であることが特に好ましい。また、孔16の大きさとしては特に限定されず、突起15の大きさに応じて適宜調整することが好ましい。
【0025】
第1板部材1及び/又は第2板部材2において、強度が損なわれない範囲で上記孔16とは別に切り抜き穴が少なくとも1つ以上設けられていても構わない。これにより、鉄筋スペーサー3を軽量化することが可能となる。前記切り抜き穴の大きさとしては、3mm2以上400mm2以下であることが好ましく、5mm2以上300mm2以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明の鉄筋スペーサー3は、第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように切り込み部11,12で組み合わせることにより構成されるため、第1板部材1及び第2板部材2の大きさによって、鉄筋18の位置を調整することが可能である。鉄筋コンクリート構造物のコンクリート厚さと鉄筋18の位置は構造強度、腐食や耐火から鉄筋18を保護するかぶりコンクリート厚さから設計され、施工では設計通りに組み立て、コンクリートの打設時に鉄筋18の位置が移動しないように確保することが重要である。鉄筋かぶり厚さとしては、20mm以上120mm以下に保つことが好ましい。鉄筋かぶり厚さが20mm未満の場合、鉄筋腐食の危険性が大きくなるおそれがある。鉄筋かぶり厚さは25mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることが更に好ましい。耐火を考慮すると30mm以上の鉄筋かぶり厚さが必要となる。一方、鉄筋かぶり厚さが120mmを超える場合、施工後のコンクリートにひび割れが生じるおそれがあり、鉄筋かぶり厚さは80mm以下であることがより好ましく、50mm以下であることが更に好ましい。
【0027】
第1板部材1及び第2板部材2の形や大きさとしては、鉄筋かぶり厚さを一定範囲に保つことが可能な形や大きさであれば特に限定されない。形としては、略正方形、略台形、略長方形等を好適に使用することができる。中でも、鉄筋スペーサー3の強度と重量のバランスが良好である観点から、略台形であることが好ましい。また、後述する鉄筋保持工法において、鉄筋18を上方に持ち上げた際に、鉄筋スペーサー3が鉄筋保持領域を支点に回転し易く、鉄筋18の下方への設置が容易となる観点から、略台形であることが好ましい。第1板部材1及び第2板部材2において、底辺方向と斜辺方向とのなす角度が30~90度であることが好ましく、40~80度であることがより好ましく、概ね45度であることが更に好ましい。特に、45度の角度が加工時にロスが出ないので好ましい。第1板部材1及び第2板部材2の大きさとしては、高さが20mm以上120mm以下であることが好ましく、30mm以上100mm以下であることがより好ましく、幅が30mm以上120mm以下であることが好ましく、40mm以上100mm以下であることがより好ましい。
【0028】
第1板部材1及び第2板部材2の厚みとしては、鉄筋スペーサー3が鉄筋18を保持できるのであれば特に限定されない。前記厚みとしては、0.6mm以上3mm以下であることが好ましい。前記厚みが0.6mm未満の場合、鉄筋スペーサー3の強度が不足するおそれがあり、0.8mm以上であることがより好ましく、1mm以上であることが更に好ましく、1.2mm以上であることが特に好ましい。一方、前記厚みが3mmを超える場合、鉄筋スペーサー3の重量が増加し、現場で多量に持ち運ぶことが困難となるおそれがあるとともに、コスト高となるおそれがある。前記厚みは、2mm以下であることがより好ましく、1.8mm以下であることが更に好ましく、1.5mm以下であることが特に好ましい。
【0029】
第1板部材1及び第2板部材2の素材としては、鉄筋スペーサー3が鉄筋18を保持できるのであれば特に限定されない。鉄、鉄鋼、ステンレス、アルミニウム合金、亜鉛合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金などの金属を用いてもよいし、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどの樹脂を用いてもよい。加工し易く強度が良好であり耐火性も良好である観点から、金属であることが好ましい。
【0030】
本発明の鉄筋スペーサー3において、第1側面領域6、第2側面領域7、第3側面領域8及び第4側面領域9の先端の少なくとも一部が、鉄筋18が嵌合される側と反対方向に折り曲げられてなることが好適な実施態様である。これにより、鉄筋18を前記鉄筋保持領域に嵌合させやすくなる利点を有する。かかる観点から、第1側面領域6、第2側面領域7、第3側面領域8及び第4側面領域9の先端が全て折り曲げられてなることがより好適な実施態様である。前記折り曲げる先端の長さとしては、鉄筋18が嵌合される側と反対方向に1mm以上10mm以下であることが好ましく、2mm以上5mm以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の鉄筋スペーサー3において、第1底部領域4又は第2底部領域5から前記鉄筋保持領域の先端表面までの高さとしては、鉄筋18を保持することができる大きさであれば特に限定されない。例えば、鉄筋18の直径が10mmの場合、前記高さが8mm以上20mm以下であることが好ましく、10mm以上15mm以下であることがより好ましい。なお、鉄筋18が異形鉄筋の場合の直径としては、本明細書においては異形鉄筋の凸部周囲に基づいた直径のことを意味する。
【0032】
前記鉄筋保持領域の幅としては、第1板部材1において平行に配置された第1側面領域から第2側面領域までの長さと、第2板部材2において平行に配置された第3側面領域から第4側面領域までの長さに基づいて決まることになるが、鉄筋18の直径に応じて適宜調整される。前記鉄筋保持領域に嵌合した鉄筋18を外れにくくする観点から、鉄筋18の直径を基準として、前記鉄筋保持領域の最短幅が、直径-1mm以上直径+5mm以下であることが好ましい。例えば、鉄筋18の直径が10mmの場合、前記鉄筋保持領域の最短幅は9mm以上15mm以下であることが好ましい。なお、前記鉄筋保持領域の最短幅は、第1側面領域から第3側面領域までの最短長さ、又は第2側面領域から第4側面領域までの最短長さのことを意味する。本発明の鉄筋スペーサー3により保持できる鉄筋の直径としては、6mm以上22mm以下が好ましい。
【0033】
本発明の鉄筋スペーサー3の製造方法としては特に限定されない。第1板部材1及び第2板部材2の素材が金属である場合、第1板部材1及び第2板部材2における開口部10、切り込み部11,12、スリット幅拡大領域14などを打ち抜き工程により形成することが好ましい。また、第1板部材1及び第2板部材2の両端部、切り込み部側面13などの折り曲げる工程を行う場合は、前記打ち抜き工程を行ってから折り曲げる工程を行うことが好ましい。そして、得られた第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように切り込み部11,12で組み合わせる方法により、本発明の鉄筋スペーサー3を好適に製造することができる。
【0034】
本発明の鉄筋スペーサー3により、鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋保持工法を提供することができる。すなわち、鉄筋スペーサー3の鉄筋保持領域に1本の鉄筋18が嵌合するように鉄筋スペーサー3を当該鉄筋18の上方から押し込み、鉄筋スペーサー3が当該鉄筋保持領域を支点に回転し、鉄筋18を上方に持ち上げることにより、当該鉄筋スペーサー3が鉄筋18の下方に設置されることを特徴とする鉄筋保持工法を提供することができる。すなわち、鉄筋スペーサー3を鉄筋18の上方から押し込み、当該鉄筋18に嵌合した鉄筋スペーサー3は、当該鉄筋18を上方に持ち上げると鉄筋スペーサー3の自重により鉄筋保持領域を支点に回転することになる。したがって、鉄筋18を上方に持ち上げるだけで、鉄筋スペーサー3が当該鉄筋18の下方に設置されて鉄筋保持領域で当該鉄筋18を保持することができるため、鉄筋スペーサー3の設置場所の自由度が大きく、施工性に優れるものである。そして、鉄筋スペーサー3の鉄筋保持領域で保持された鉄筋18は外れにくく、特に、凹凸部を有する異形鉄筋の場合でも外れるのを防止することができる。また、鉄筋18を格子状にし、当該格子状の鉄筋18の上を作業者が歩いたりした場合であっても外れるのを防止することができる。前記格子状の鉄筋18としては、各交点が結ばれていてもよいし、溶接金網のように各交点が溶接されていてもよい。このように、本発明の鉄筋スペーサー3は、鉄筋かぶり厚さを一定に保持することができるため、打設後のコンクリートのひび割れを効果的に抑制することが可能となる。本発明の鉄筋スペーサー3は、鉄筋コンクリート造(RC造)、デッキプレート合成スラブ造などの用途に好適に用いることができる。中でも、デッキプレート合成スラブ造用としてより好適に用いることができる。また、本発明の鉄筋スペーサー3を構成する第1板部材1と第2板部材2とからなる鉄筋スペーサー3用板部材キットも好適な実施態様である。
【符号の説明】
【0035】
1 第1板部材
2 第2板部材
3 鉄筋スペーサー
4 第1底部領域
5 第2底部領域
6 第1側面領域
7 第2側面領域
8 第3側面領域
9 第4側面領域
10 開口部
11 切り込み部
12 切り込み部
13 切り込み部側面
14 スリット幅拡大領域
15 突起
16 孔
17 なす角
18 鉄筋