(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】設計知見の分析方法、設計知見の分析プログラム、および該分析プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20240729BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20240729BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20240729BHJP
【FI】
G06F30/10
G06F30/15
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2020157733
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-07-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年9月20日ウェブサイト(https://www.jsme.or.jp/conference/dsdconf19/doc/program.html)で公開された日本機械学会第29回設計工学・システム部門講演会の講演論文集にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立川 智章
(72)【発明者】
【氏名】小平 剛央
(72)【発明者】
【氏名】釼持 寛正
(72)【発明者】
【氏名】岡本 定良
(72)【発明者】
【氏名】近藤 俊樹
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-267025(JP,A)
【文献】特開2008-059106(JP,A)
【文献】特開2015-153354(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0317019(US,A1)
【文献】小平剛央 ほか,複合領域最適化とトレードオフ分析による車体構造の軽量化に向けた設計知見の抽出,電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌),日本,一般社団法人電気学会,2014年09月01日,第134巻, 第9号,pages 1348-1354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラムを実行する演算部と、ユーザに情報を表示する表示部と、を備えるコンピュータを用いることによって、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数
を複数組み合わせることで構成される複数の設計変数の組み合わせの中から、1つ以上の組み合わせを抽出するための設計知見の分析方法であって、
前記複数の設計変数の組み合わせの中から、それぞれ所定の物品性能に対応した複数の制約条件を全て満足する組み合わせの集合を前記演算部が抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップによって抽出された集合に対して前記演算部が階層的クラスタリングを施すことで、該集合を元の類似度に応じてクラスタリングするクラスタ化ステップと、
前記クラスタ化ステップによってクラスタリングされた集合における各元の前記各設計変数に基づいて、前記演算部が、前記物品性能とは異なる性能に対応した指標を元毎に算出する指標算出ステップと、
前記表示部が、前記クラスタリングされた集合の階層構造と、前記指標算出ステップによって算出された前記指標と、を関連付けて表示する可視化ステップと、を備える
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載された設計知見の分析方法において、
前記指標の大きさに基づいて、前記演算部が、前記クラスタリングされた集合から2つ以上の元を抽出する第2の抽出ステップと、
前記第2の抽出ステップにおいて抽出された各元について、前記複数の制約条件それぞれの達成状況を、元同士で比較するように前記表示部が表示する第2の可視化ステップと、を備える
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項3】
請求項2に記載された設計知見の分析方法において、
前記第2の抽出ステップでは、前記演算部は、前記指標の大きさが所定基準を満たす元のうち、該元と、該元に対して類似度が最大となる元との間で前記指標の変化量が所定未満になる元を抽出する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項4】
請求項2に記載された設計知見の分析方法において、
前記第2の抽出ステップでは、前記演算部は、前記指標の大きさが所定基準を満たす元のうち、該元における複数の設計変数を各々所定量変化させた場合における前記指標の変化量が所定未満になる元を抽出する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載された設計知見の分析方法において、
前記第2の可視化ステップでは、前記表示部は、前記複数の制約条件に対し、各制約条件の達成状況を示す数値をプロットしてなる平行座標プロットを表示する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載された設計知見の分析方法において、
前記抽出ステップでは、前記演算部は、多目的最適化問題を解くことで、前記複数の設計変数の組み合わせの中から、前記複数の制約条件を全て満足し、かつ、複数の目的関数を全て最適化するようなパレート最適解の集合を抽出する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項7】
請求項6に記載された設計知見の分析方法において、
前記複数の目的関数は、複数の構造体全体の合計重量を示す関数と、該複数の構造体の各々で同じ部位にありかつ板厚が共通となる部品点数を示す関数と、からなり、
前
記設計変数は、前記複数の構造体を構成する各部品の板厚を示し、
前記指標は、前記複数の構造体それぞれの重量を示し、
前記抽出ステップでは、前記演算部は、構造体別に階層的クラスタリングを実行する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項8】
プログラムを実行する演算部と、ユーザに情報を表示する表示部と、を備えるコンピュータを用いることによって、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数
を複数組み合わせることで構成される複数の設計変数の組み合わせの中から、1つ以上の設計変数の組み合わせを抽出するための設計知見の分析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記複数の設計変数の組み合わせの中から、それぞれ所定の物品性能に対応した複数の制約条件を全て満足する組み合わせの集合を前記演算部が抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップによって抽出された集合に対して前記演算部が階層的クラスタリングを施すことで、該集合を元の類似度に応じてクラスタリングするクラスタ化ステップと、
前記クラスタ化ステップによってクラスタリングされた集合における各元の前記各設計変数に基づいて、前記演算部が、前記物品性能とは異なる性能に対応した指標を元毎に算出する指標算出ステップと、
前記表示部が、前記クラスタリングされた集合の階層構造と、前記指標算出ステップによって算出された前記指標と、を関連付けて表示する可視化ステップと、を実行させる
ことを特徴とする設計知見の分析プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載された設計知見の分析プログラムを記憶している
ことを特徴とするコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、設計知見の分析方法、設計知見の分析プログラム、および該分析プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、階層的クラスタリングを用いた構造解析の一例が開示されている。具体的に、この特許文献1によれば、まず、階層的クラスタリングによりサンプリングを分類し、所定のしきい値を満たすクラスタを選択する。次いで、選択された領域内に新たなサンプリングを生成し、その新たなサンプリングを含む領域に対して応答曲面近似式を作成して最適値を抽出する。このように、領域別に応答曲面近似式を作成することで、精度の高い最適値を抽出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、設計知見の理解を深めるべく、所定の商品性能を満足するような設計変数の組み合わせを抽出するとともに、抽出された各組み合わせに対し、前述の階層的クラスタリングを施すことを検討した。
【0005】
しかしながら、従来知られた手法では、前記特許文献1に記載されているしきい値のように、クラスタリングに関連したパラメータを用いた分析こそ知られているものの、そうしたパラメータとは異なる観点から階層構造を分析することに関しては、なんら知られていなかった。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、従来とは異なる観点からアプローチすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、プログラムを実行する演算部と、ユーザに情報を表示する表示部と、を備えるコンピュータを用いることによって、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数を複数組み合わせることで構成される複数の設計変数の組み合わせの中から、1つ以上の組み合わせを抽出するための設計知見の分析方法に係る。
【0008】
そして、本開示の第1の態様によれば、前記設計知見の分析方法は、前記複数の設計変数の組み合わせの中から、それぞれ所定の物品性能に対応した複数の制約条件を全て満足する組み合わせの集合を前記演算部が抽出する抽出ステップと、前記抽出ステップによって抽出された集合に対して前記演算部が階層的クラスタリングを施すことで、該集合を元の類似度に応じてクラスタリングするクラスタ化ステップと、前記クラスタ化ステップによってクラスタリングされた集合における各元の前記各設計変数に基づいて、前記演算部が、前記物品性能とは異なる性能に対応した指標を元毎に算出する指標算出ステップと、前記表示部が、前記クラスタリングされた集合の階層構造と、前記指標算出ステップによって算出された前記指標と、を関連付けて表示する可視化ステップと、を備える。
【0009】
ここで、「複数の制約条件」は、それぞれ、所定の物品性能に対応した条件を示す。
【0010】
前記方法は、複数の制約条件を全て満足するような設計変数の組み合わせをクラスタリングして階層構造を演算するとともに、クラスタ化された各元について、各制約条件とは異なる性能に対応した指標を演算する。
【0011】
そして、前記方法によれば、元の類似度に基づいて得られた階層構造と、制約条件とは異なる観点から算出された指標と、が同時に可視化されることになる。ここで、クラスタ化された階層構造では、制約条件の達成状況が近い(例えば、制約条件値が近い)もの同士が近接する一方、各設計変数に基づいて算出される指標は、そうした達成状況とは無関係に算出されることになる。
【0012】
よって、例えば、階層的クラスタリングによって、最適解と目される組み合わせが複数個にわたり見つかった場合に、その階層構造とは異なる観点から、各組み合わせの良否を判定することができるようになる。
【0013】
これにより、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、従来とは異なる観点からアプローチすることが可能になる。複数の観点からアプローチすることで、指標と物品性能との関係等を深掘りすることができ、ひいては、構造体の設計知見を新たな観点から抽出することができるようになる。
【0014】
また、本開示の第2の態様によれば、前記設計知見の分析方法は、前記指標の大きさに基づいて、前記演算部が、前記クラスタリングされた集合から2つ以上の元を抽出する第2の抽出ステップと、前記第2の抽出ステップにおいて抽出された各元について、前記複数の制約条件それぞれの達成状況を、元同士で比較するように前記表示部が表示する第2の可視化ステップと、を備える。
【0015】
この方法によれば、指標の大きさに基づいて抽出された各組み合わせについて、各制約条件それぞれの達成状況を可視化することができる。これにより、設計者は、構造体の設計知見を抽出することができる。
【0016】
また、本開示の第3の態様によれば、前記第2の抽出ステップでは、前記演算部は、前記指標の大きさが所定基準を満たす元のうち、該元と、該元に対して類似度が最大となる元との間で前記指標の変化量が所定未満になる元を抽出する、としてもよい。
【0017】
この方法によれば、指標の大小関係に加えて、ロバスト性に基づいた判定を行うことができる。その結果、よりロバストな構造体を設計することができるようになり、ひいては、構造体の設計知見を抽出する上で有利になる。
【0018】
また、本開示の第4の態様によれば、前記第2の抽出ステップでは、前記演算部は、前記指標の大きさが所定基準を満たす元のうち、該元における複数の設計変数を各々所定量変化させた場合における前記指標の変化量が所定未満になる元を抽出する、としてもよい。
【0019】
この方法によれば、指標の大小関係に加えて、ロバスト性に基づいた判定を行うことができる。その結果、よりロバストな構造体を設計することができるようになり、ひいては、構造体の設計知見を抽出する上で有利になる。
【0020】
また、本開示の第5の態様によれば、前記第2の可視化ステップでは、前記表示部は、前記複数の制約条件に対し、各制約条件の達成状況を示す数値をプロットしてなる平行座標プロットを表示する、としてもよい。
【0021】
この方法によれば、設計者は、各制約条件それぞれの達成状況を容易に視認することができる。これにより、構造体の設計知見を抽出する上で有利になる。
【0022】
また、本開示の第6の態様によれば、前記抽出ステップでは、前記演算部は、多目的最適化問題を解くことで、前記複数の設計変数の組み合わせの中から、前記複数の制約条件を全て満足し、かつ、複数の目的関数を全て最適化するようなパレート最適解の集合を抽出する、としてもよい。
【0023】
前記方法は、多目的最適化問題に基づいた設計知見の抽出に際し、極めて有用である。
【0024】
また、本開示の第7の態様によれば、前記複数の目的関数は、複数の構造体全体の合計重量を示す関数と、該複数の構造体の各々で同じ部位にありかつ板厚が共通となる部品点数を示す関数と、からなり、前記設計変数は、前記複数の構造体を構成する各部品の板厚を示し、前記指標は、前記複数の構造体それぞれの重量を示し、前記抽出ステップでは、前記演算部は、構造体別に階層的クラスタリングを実行する、としてもよい。
【0025】
前記方法は、車体構造における設計知見の抽出に際し、極めて有用である。
【0026】
また、本開示の第8の態様は、プログラムを実行する演算部と、ユーザに情報を表示する表示部と、を備えるコンピュータを用いることによって、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数を複数組み合わせることで構成される複数の設計変数の組み合わせの中から、1つ以上の設計変数の組み合わせを抽出するための設計知見の分析プログラムであって、前記コンピュータに、前記複数の設計変数の組み合わせの中から、それぞれ所定の物品性能に対応した複数の制約条件を全て満足する組み合わせの集合を前記演算部が抽出する抽出ステップと、前記抽出ステップによって抽出された集合に対して前記演算部が階層的クラスタリングを施すことで、該集合を元の類似度に応じてクラスタリングするクラスタ化ステップと、前記クラスタ化ステップによってクラスタリングされた集合における各元の前記各設計変数に基づいて、前記演算部が、前記物品性能とは異なる性能に対応した指標を元毎に算出する指標算出ステップと、前記表示部が、前記クラスタリングされた集合の階層構造と、前記指標算出ステップによって算出された前記指標と、を関連付けて表示する可視化ステップと、を実行させる。
【0027】
前記プログラムによれば、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、従来とは異なる観点からアプローチすることが可能になる。複数の観点からアプローチすることで、指標と物品性能との関係等を深掘りすることができ、ひいては、構造体の設計知見を新たな観点から抽出することができるようになる。
【0028】
また、本開示の第9の態様は、前記設計知見の分析プログラムを記憶しているコンピュータ読取可能な記憶媒体に係る。
【0029】
前記記憶媒体によれば、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、従来とは異なる観点からアプローチすることが可能になる。複数の観点からアプローチすることで、指標と物品性能との関係等を深掘りすることができ、ひいては、構造体の設計知見を新たな観点から抽出することができるようになる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本開示によれば、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、従来とは異なる観点からアプローチすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、設計知見の分析装置のハードウェア構成を例示する図である。
【
図2】
図2は、設計知見の分析装置のソフトウェア構成を例示する図である。
【
図3】
図3は、設計知見の分析手順を例示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、ウォード法による距離の測定方法について説明する図である。
【
図5】
図5は、設計変数の構造情報と重量情報を同時可視化した図である。
【
図6】
図6は、各設計変数の値を例示するグラフである。
【
図7】
図7は、各制約条件の達成状況を可視化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
【0033】
<装置構成>
図1は、本開示に係る設計知見の分析装置(具体的には、その分析装置を構成するコンピュータ1)のハードウェア構成を例示する図であり、
図2は、そのソフトウェア構成を例示する図である。
【0034】
図1に例示するように、コンピュータ1は、コンピュータ1全体の制御を司る中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)3と、ブートプログラム等を記憶するリードオンリーメモリ(Read Only Memory:ROM)5と、メインメモリとして機能するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)7と、2次記憶装置としてのハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)9と、を備える。なお、2次記憶装置としては、HDD9の代わりに、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等を用いることもできる。
【0035】
これらの要素のうち、CPU3は、種々のプログラムを実行する。CPU3は、本実施形態における演算部として機能する。また、RAM7およびHDD9は、CPU3により実行されるプログラムを一時的または継続的に記憶する。RAM7およびHDD9は、それぞれ、本実施形態における記憶部として機能する。
【0036】
コンピュータ1はまた、表示部11と、表示部11上に表示される画像データを格納するグラフックスメモリ(Video RAM:VRAM)13と、マンマシンインターフェースとしてのキーボード15およびマウス17と、を備える。表示部11は、CPU3による演算結果等、ユーザに各種情報を表示することができる。表示部11は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL等を用いて構成することができる。また、本実施形態に係るコンピュータ1は、通信用のインターフェース21を介して外部機器との間でデータを送受することができる。
【0037】
図2に例示するように、HDD9のプログラムメモリには、オペレーティングシステム(Operating System:OS)19、多目的最適化プログラム29A、クラスタリングプログラム29B、指標算出プログラム29C、可視化プログラム29D、ロバスト性判定プログラム29E、アプリケーションプログラム39等が格納される。
【0038】
これらの要素のうち、多目的最適化プログラム29A、クラスタリングプログラム29B、指標算出プログラム29C、可視化プログラム29Dおよびロバスト性判定プログラム29Eは、本実施形態における設計知見の分析プログラム29を構成する。
【0039】
ここで、設計知見の分析プログラム29とは、後述の設計知見の分析方法を実行させるためのプログラムであって、同分析方法を構成する各ステップをコンピュータ1に実行させるように構成されている。設計知見の分析プログラム29は、コンピュータ読取可能な記憶媒体18に予め記憶されている。
【0040】
HDD9のプログラムメモリにおいて、多目的最適化プログラム29A、クラスタリングプログラム29B、指標算出プログラム29C、可視化プログラム29Dおよびロバスト性判定プログラム29Eは、それぞれ、キーボード15、マウス17等から入力される指令に応じて起動される。その際、多目的最適化プログラム29A等は、HDD9からRAM7にロードされ、CPU3によって実行されることになる。CPU3が多目的最適化プログラム29A等を実行することで、コンピュータ1が設計知見の分析装置として機能することになる。
【0041】
一方、HDD9のデータメモリには、分析対象とされる設計変数の初期値、および、その初期値に基づいて算出される実行可能解および実行不可能解等の値が格納される(設計変数データ49)。また、各設計変数に対応した部品同士の接続関係を示す情報(不図示)も、HDD9に記憶される。
【0042】
この他、多目的最適化プログラム29A等を実行することで生成される種々のデータ、並びに、アプリケーションプログラム39の実行結果については、必要に応じて、HDD9のデータメモリに格納されたり、メインメモリとしてのRAM7に格納されたりする。
【0043】
以下、設計知見の分析方法について詳細に説明する。
【0044】
<方法論>
図3は、設計知見の分析手順を例示するフローチャートである。
図3に例示した方法は、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数の組み合わせの中から、1つ以上の組み合わせを抽出するための設計知見の分析方法である。
【0045】
本実施形態に係る設計知見の分析方法は、種々の条件設定を行う初期設定ステップSt1と、複数の制約条件を同時に満足するような設計変数の組み合わせの集合を抽出する第1抽出ステップSt2と、抽出された組み合わせの集合に階層的クラスタリングを施すクラスタ化ステップSt3と、クラスタ化された各組み合わせについて指標を算出する指標算出ステップSt4と、階層構造と指標を同時に可視化する第1可視化ステップSt5と、ロバスト性に基づいて2つ以上の組み合わせを抽出する第2抽出ステップSt6と、抽出された組み合わせ同士で、各制約条件の達成状況を比較表示する第2可視化ステップSt7と、を備える。
【0046】
これらのプロセスのうち、第1抽出ステップSt2は、CPU3が前述の多目的最適化プログラム29Aを実行することで実施される。同様に、クラスタ化ステップSt3は、CPU3がクラスタリングプログラム29Bを実行することで実施され、指標算出ステップSt4は、CPU3が指標算出プログラム29Cを実行することで実施され、第1および第2可視化ステップSt5,St7は、CPU3が可視化プログラム29Dを実行することで実施され、第2抽出ステップSt6は、CPU3がロバスト性判定プログラム29Eを実行することで実施される。
【0047】
(初期設定ステップ)
初期設定ステップSt1において、コンピュータ1は、分析対象である設計変数の組み合わせと、その設計変数の組み合わせが満足すべき種々の制約条件と、設計変数の組み合わせを抽出する際に最適化されるべき所定関数(目的関数)と、を設定する。
【0048】
このうち、設計変数の組み合わせは、複数の変数を組み合わせてなる。各設計変数は、構造体を構成する各部品に割り当てられる変数である。例えば、構造体としてN個の部品からなる自動車の車体を分析対象とする場合、“設計変数の組み合わせ”は、N個の変数(設計変数)の組み合わせ、すなわちN次元変数として取り扱うことができる。
【0049】
以下、記載を簡潔にするべく、「設計変数の組み合わせ」を単に「設計変数」と呼称する場合がある。また、各設計変数を構成するN個の変数によって張られる空間を「設計変数空間」と呼称する場合もある。
【0050】
構造体としては、前述のように、自動車の車体を用いることができる。この場合、設計変数としては、車体の各構成部品の寸法、重量、製造コスト、材料等に対応した設計変数を用いることが可能である。例えば、構造体として車体を用いた場合、その構成部品に対応する設計変数としては、各構成部品の板厚を用いることができる。
【0051】
なお、構造体として車体を用いる場合、その車種の数は、1車種としてもよいし、複数の車種としてもよい。例えば、3車種について同時に分析を行うこともできる。その場合、各車種の部品点数がN個であると仮定すると、各設計変数は、3×N次元の変数として取り扱われることになる。
【0052】
このように、本実施形態に係る分析方法は、複数の構造体をグループ化したものを分析対象とすることができる。その場合の設計変数は、前述のように、グループ化された各構造体の設計変数全体となる。
【0053】
また、設計変数が満足すべき制約条件としては、分析対象である構造体に求める物品性能(商品性能)に対応した複数の条件が用いられる。この制約条件としては、少なくとも、設計変数の増減に応じて、各制約条件の達成状況が変動し得る条件を用いることができる。言い換えると、各制約条件は、前記設計変数の関数であればよい。
【0054】
例えば、設計変数として車体の各構成部品の板厚を用いた場合、それに対応する制約条件としては、車体の剛性、車体の振動の大きさ、各種衝突性能等のうちの1つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
また、本実施形態では、多目的最適化問題を解くことで、それら制約条件を全て満足するような設計変数が探索される。この場合に使用可能な目的関数は、前記設計変数を引数とし、かつ、互いにトレードオフとなるような複数の関数である。
【0056】
例えば、構造体として3種の車体を用いるとともに、設計変数として3種の車体それぞれの構成部品の板厚を用いた場合(3車種について同時に分析を行う場合)、複数の目的関数としては、3種の車体全体の合計重量を示す関数と、各車体の間で同じ部位にありかつ板厚が共通となる部品点数(共通板厚部品点数)を示す関数と、を組み合わせて用いることができる。
【0057】
初期設定ステップSt1では、予めHDD9等に記憶された各種設定、および、キーボード15等を通じて入力された各種設定が、RAM7に読み込まれる。CPU3は、読み込まれた設定に基づいて、以降のプロセスを実行する。
【0058】
(第1抽出ステップ)
第1抽出ステップSt2においては、初期設定ステップSt1で設定された各種設定に基づいて、複数の設計変数の組み合わせの中から、複数の制約条件を全て満足する組み合わせの集合を、CPU3が抽出する。
【0059】
具体的に、本実施形態に係る第1抽出ステップSt2では、CPU3は、多目的最適化問題を解くことで、複数の設計変数の組み合わせ(前述の例の場合は、3×N次元変数)の中から、初期設定ステップSt1で設定された複数の制約条件を全て満足し、かつ、同様に初期設定ステップSt1で設定された複数の目的関数を全て最適化するようなパレート最適解(実行可能解)の集合を抽出する。なお、ここでいう「パレート最適解」には、いわゆる「弱パレート最適解」を含めてもよい。
【0060】
また、多目的最適化問題を解くためのアルゴリズムとしては、種々のアルゴリズムを用いることができる。本実施形態に係るコンピュータ1は、多目的進化計算アルゴリズムを用いてパレート最適解の集合を抽出する。
【0061】
第1抽出ステップSt2で抽出された集合は、一時的にまたは継続的にコンピュータ1に記憶され、以降のプロセスにおいて用いられるようになっている。
【0062】
(クラスタ化ステップ)
クラスタ化ステップSt3においては、第1抽出ステップSt2によって抽出された集合(パレート最適解の集合)に対してCPU3が階層的クラスタリングを施すことで、該集合を元の類似度に応じてクラスタリングする。これにより、コンピュータ1は、所定の物品性能を全て満足するような設計変数が織りなす階層構造を示す情報I1を算出することができる(
図5を参照)。
【0063】
ここでいう「元」とは、複数の設計変数の組み合わせのうち、複数の制約条件を全て満足し、かつ、複数の目的関数を全て最適化するようなパレート最適解のうちのいずれか1つを指す。また、各元の類似度(距離)としては、設計変数空間における元間の距離を用いることができる。
【0064】
また、複数の構造体をグループ化したものを分析対象とした場合、クラスタ化ステップSt3において、CPU3は、各構造体別に階層的クラスタリングを実行することになる。例えば、3車種について同時に分析を行う場合、CPU3は、車種毎に階層的クラスタリングを行うことができる。
【0065】
また、階層的クラスタリングを行う際には、クラスタ間の距離を定義する必要がある。本実施形態に係るコンピュータ1は、ウォード法を用いてクラスタ間の距離を測定するように構成されている。
【0066】
例えば、
図4に示すように、実行可能解Siが含まれるクラスタCaと、実行可能解Siが含まれないクラスタCbと、を結合してクラスタCcを構成した場合を考える。この場合、結合後のクラスタCcの重心Ocと、そのクラスタCc内の各サンプルとの距離(設計変数空間における距離)の2乗和をLcとし、結合前のクラスタCaにおける重心Oaとサンプル(クラスタCa内のサンプル)との距離の2乗和をLaとし、結合前のクラスタCbにおける重心Obとサンプル(クラスタCb内のサンプル)との距離の2乗和をLbとすると、
Δ=Lc-(La+Lb) …(1)
が最小となるようなクラスタ同士が順番に結合されることになる。
【0067】
階層的クラスタリングを行うことで、CPU3は、第1抽出ステップSt2において抽出された集合を、
図5に示すように階層化することができる。その階層構造を示す情報(以下、「構造情報」ともいう)I1は、一時的にまたは継続的にコンピュータ1に記憶され、以降のプロセスにおいて用いられるようになっている。
【0068】
なお、
図5に示す例では、パレート最適解の集合は、階層構造の最上層において、第1クラスタ群C1と、第2クラスタ群C2と、に分かれることが見て取れる。各クラスタ群C1,C2は、双方とも多数のクラスタに分類されるようになっている。第1クラスタ群C1に属する元は、第2クラスタ群C2に属する各元に比して、同じく第1クラスタ群C1に属する他の元との距離が近い。
【0069】
(指標算出ステップ)
指標算出ステップSt4では、クラスタ化ステップSt3によってクラスタリングされた集合における各元の各設計変数に基づいて、CPU3が、物品性能とは異なる性能に対応した指標を元毎に算出する。これにより、コンピュータ1は、集合の階層構造を示す構造情報I1と関連付けた状態で、元毎の指標の変動を示す情報I2を算出することができる(
図5参照)。
【0070】
ここでいう指標としては、制約条件に対応した物品性能とは異なる性能が用いられる。この指標としては、少なくとも、設計変数の増減に応じて変動するようなパラメータを用いることができる。言い換えると、本実施形態における指標としては、設計変数を引数とした関数のうち、制約条件とは異なる数式で表される関数を用いることができる。
【0071】
指標として、前記目的関数に関連した値を用いることもできる。例えば、目的関数として、3種の車体全体の合計重量を用いた場合、それに対応する指標としては、各車体の構成部品の合計重量を用いることができる。この他、各車体の製造コスト(車体毎に、構成部品の製造コストを合計した値)等、種々のパラメータを指標として用いることができる。
【0072】
指標は、その大きさに応じて、前記異なる性能の良否を判定可能なパラメータを用いればよい。例えば、指標として各車体の重量を用いた場合、指標が小さい場合には、それが大きい場合に比して軽量であることを意味する。この場合、重量性能に優れていると判定することができる。同様に、指標として共通板厚部品点数を用いた場合、指標が大きい場合には、それが小さい場合に比して共通板厚部品点数が多いことを意味する。
【0073】
元毎に指標を算出した後、コンピュータ1は、階層化された集合の各元と関連付けた状態で、指標の大きさを示す情報(以下、「重量情報」ともいう)I2を記憶する。この重量情報I2は、一時的にまたは継続的にコンピュータ1に記憶され、以降のプロセスにおいて用いられるようになっている。
【0074】
(第1可視化ステップ)
第1可視化ステップSt5では、表示部11が、クラスタリングされた集合の階層構造を示す構造情報I1と、指標算出ステップSt4によって算出された指標の大きさを示す重量情報I2と、を関連付けて表示する。
【0075】
ここで、指標の大小については、
図5の重量情報I2に示すように、その増減が直感的に理解されるように、折れ線グラフで表示することが好ましい。この他、棒グラフ、散布図等、種々の表示態様を用いることもできる。
【0076】
具体的に、この第1可視化ステップSt5では、
図5に示すように、構造情報I1と、重量情報I2と、が同時に可視化されるように表示される。図例では、構造情報I1と重量情報I2とが重ねて表示されるようになっているが、この表示態様には限定されない。例えば、構造情報I1と重量情報I2とを上下に並べた状態で表示してもよい。
【0077】
(第2抽出ステップ)
第2抽出ステップSt6では、指標の大きさに基づいて、CPU3が、クラスタリングされた集合から2つ以上の元(階層化された実行可能解)を抽出する。具体的に、この第2抽出ステップSt6では、CPU3は、指標の大きさに基づいて、その指標に対応する性能(所定の物品性能とは異なる性能)の良否を判定し、その性能が優れている2つ以上の元を抽出する。この抽出は、同時可視化された構造情報I1と重量情報I2とに基づいて、コンピュータ1の使用者に目視で行わせてもよい。
【0078】
ここで、例えば、指標として各車体の重量を用いた場合、CPU3は、より軽量な元を抽出する。CPU3はまた、類似度が相対的に大きく相違するクラスタから元を抽出する。例えば
図5に示すように、CPU3は、階層構造の最上層において分岐した、第1クラスタ群C1と、第2クラスタ群C2と、から1つずつ実行可能解S1,S2を抽出するようになっている。
【0079】
さらに、本実施形態に係る第2抽出ステップSt6では、CPU3は、指標の大きさに加えてさらに、各元のロバスト性に基づいた判定を行うこともできる。
【0080】
具体的に、第2の抽出ステップでは、CPU3は、指標の大きさが所定基準を満たす元のうち、該元と、該元に対して類似度が最大となる元との間で指標の変化量が所定未満になる元を抽出することができる。
【0081】
より詳細には、CPU3は、指標の大きさが所定基準を満たす元を複数解にわたって抽出する。CPU3は、そうして抽出された元のうち、最も類似した元との間で指標が相対的に大きくない元を選択する。
【0082】
例えば、指標として各車体の重量を用いた場合、CPU3は、第1クラスタ群C1から抽出されるべき元として、最軽量な実行可能解S4と、それに次いで軽量な実行可能解S1と、を抽出する。
【0083】
次いで、CPU3は、一方の実行可能解S4と、それに最も類似した実行可能解S5との間の指標の変化量を算出するとともに、他方の実行可能解S1と、それに最も類似した実行可能解S3との間の指標の変化量を算出する。そして、CPU3は、2つの変化量を比較し、より変化量が小さな実行可能解S1を選択する。これにより、ロバスト性に優れた最適解を抽出することができるようになる。
【0084】
なお、ここでは第1クラスタ群C1について説明したが、第2クラスタ群C2においても同様の処理を実行し、指標としての重量の変化量が相対的に小さい実行可能解S2を選択することができる。
【0085】
前記の構成の代わりに、CPU3は、指標の大きさが所定基準を満たす元のうち、該元における複数の設計変数を各々所定量変化させた場合における前記指標の変化量が所定未満になる元を抽出することもできる。
【0086】
具体的に、3N次元の設計変数空間における実行可能解を
x=(x1,x2,…,x3N) …(2)
とし、この実行可能解に対応した指標を
g(x)=g(x1,x2,…,x3N) …(3)
とすると、各設計変数を所定量変化させた場合における指標の変化量は、
Δg=|g(x+Δx)-g(x)| …(4)
と記述することができる。前記Δgが所定未満となるような元を探索することで、前述の手法と同様に、ロバスト性に優れた最適解を抽出することができるようになる。
【0087】
前記の構成の代わりに、CPU3は、指標の大きさの変動量が所定未満となるクラスタ領域R1を決定し、そのクラスタ領域R1の中から指標の良否に基づいて実行可能解を抽出することもできる(
図5を参照)。
【0088】
(第2可視化ステップ)
第2可視化ステップSt7では、第2抽出ステップSt6において抽出された各元について、複数の制約条件それぞれの達成状況を、元同士で比較するように、表示部11が表示する。
【0089】
ここで、第2可視化ステップSt7では、
図7に示すように、表示部11は、複数の制約条件(cons01~cons09)に対し、各制約条件の達成状況を示す数値(制約条件値)をプロットしてなる平行座標プロットG1,G2を表示することが好ましい。
【0090】
また、各制約条件値の大きさは、条件毎の達成状況を容易に比較できるように、正規化することがさらに好ましい。
図7に示す例では、各制約条件値は、上限値と下限値とが[0,1]で正規化されている。0を下回ると制約違反を意味することになる。実行可能解S1,S2は、双方とも全ての制約条件を満足する。そのため、各解の制約条件値は、いずれも、正規化された範囲内に収まるようになっている。
【0091】
<実施例>
図5は、設計変数の構造情報と重量情報を同時可視化した図である。
図6は、各設計変数の値を例示するグラフである。
図7は、各制約条件の達成状況を可視化した図である。
【0092】
以下、本実施形態に係る分析方法の実施例を具体的に説明する。前述の
図5および
図7は、この実施例を通じて得られた分析結果である。
【0093】
この実施例では、多目的進化計算アルゴリズムを用いてデータセットを算出するとともに、そのデータセットを用いて分析を行った。分析対象としての構造体は、前述したように、3種の車体である。3つの車種とは、SUV車、大型車および小型車である。
【0094】
また、目的関数として、3種の車体全体の合計重量と、車種間の共通板厚部品点数と、を示す関数を用いた。この場合、前者の関数を最小化し、後者の関数を最大化することが、最適化されるべき対象となる。
【0095】
また、設計変数として、車体の構造部品の板厚を用いた。この場合、1車種につき74部品となるため、設計変数空間は74×3=222次元となる。また、制約条件として、車体剛性、低周波振動、衝突性能、および、設計要件で求められる板厚間の大小関係を用いた。具体的に、制約条件を示す関数は、それぞれ、前面フルラップ衝突時の車体変形量(cons01)、前面オフセット衝突時の車体変形量(cons02~cons04)、側面衝突時の車体変形量(cons05~cons07)、および後面オフセット時の車体変形量(cons08~cons09)、車体のねじり、横曲げ、縦曲げの固有振動数(cons10~cons12)、車体ねじり剛性(cons13~cons14)、および、パーツ間の関係(cons15~cons18)である。この場合、制約条件は、1車種につき18条件となるため、3車種では計54条件となる。
【0096】
そして、多目的進化計算アルゴリズムを用いて多目的最適化問題を解くことで、SUV車については256個の実行可能解と291個の実行不可能解が算出され、大型車については118個の実行可能解と381個の実行不可能解が算出され、小型車については273個の実行可能解と247個の実行不可能解が算出された。
【0097】
そうして得られた実行可能解の集合に対して、構造体の種別(車種)毎にウォード法に基づいた階層的クラスタリングを実行し、板厚の類似度に応じてクラスタリングを行った。クラスタリングは、構造体の種別(車種)毎に行われることになる。ここで、大型車についてクラスタリングを行った結果が、
図5の構造情報I1に相当する。
【0098】
板厚の類似度に応じてクラスタリングしているため、同じクラスタに属するということは、板厚の分布が似ていること、すなわち、車体構造が類似していることを示している。反対に、第1クラスタ群C1と第2クラスタ群C2のように、異なるクラスタに属するということは、車体構造が非類似であることを示している。
【0099】
また、構造情報I1を構成する各実行可能解について、構造体の種別に応じた指標(ここでは、大型車の重量)を算出し、その変動を示す重量情報I2を、構造情報I1と同時に可視化した。
【0100】
図5において、第1クラスタ群C1には、比較的軽量な実行可能解として、解S1と、解S4と、が含まれる。CPU3は、前述のようにロバスト性に基づいた判定を行うことで、分析対象として、実行可能解S1を選択することができる。同様に、CPU3は、指標としての重量の大小と、ロバスト性とに基づいて、第2クラスタ群C2から実行可能解S2を選択する。
【0101】
選択された実行可能解S1,S2それぞれの板厚の大きさは、
図6に示す通りである。ここで、
図6の縦軸は、初期設計点との板厚差を示す。
図6の横軸は、大型車に対応した74種の設計変数を示している。
図6の示すように、3番目の設計変数(X3)と7番目の設計変数(X7)を除いて、実行可能解S1,S2は、概ね類似した値となっている。
【0102】
そのため、
図5の重量情報I2に示すように、実行可能解S1,S2の重量差は、比較的、わずかとなっている。2つの解S1,S2が異なるクラスタに属するのは、重量が同程度であったとしても、板厚の組み合わせ次第では、制約条件の達成状況が相違することが推測される。
【0103】
そうした達成状況を可視化したのが
図7に示すグラフG1,G2である。グラフG1は、第1クラスタ群C1に属する実行可能解S1の制約条件値を示し、グラフG2は、第2クラスタ群C2に属する実行可能解S2の制約条件値を示す。
【0104】
図7に示すように、実行可能解S1と実行可能解S2とで、各制約条件の達成状況が大きく相違することが視認される。具体的に、第1クラスタ群C1に属する実行可能解S1では、前面オフセット衝突における車体変形量cons02、cons03が下限値に接近しており、これらの制約条件に余裕が無いことが視認される。一方、第2クラスタ群C2に属する実行可能解S2では、前面オフセット衝突における車体変形量cons02、cons03については下限値を相対的に大きく上回っているもの、前面オフセット衝突時の車体変形量cons04と、前面オフセット衝突時の車体変形量cons08については、下限値を僅かに上回る程度の大きさとなっている。
【0105】
このように、指標としての重量の大きさは同程度であったとしても、各制約条件の達成状況は、解毎に異なっていることが理解されよう。
図7に示す同時可視化を行うことで、そうした相違点を容易に把握することができるようになる。
【0106】
<設計知見の抽出に関して>
以上説明したように、本実施形態に係る分析方法は、
図3のステップSt3およびSt4に示すように、複数の制約条件を全て満足するような設計変数の組み合わせをクラスタリングして階層構造を演算するとともに、クラスタ化された各元について、各制約条件とは異なる性能に対応した指標を演算する。
【0107】
そして、本実施形態に係る分析方法によれば、
図5の構造情報I1および重量情報I2に示すように、元の類似度に基づいて得られた階層構造(構造情報I1)と、制約条件とは異なる観点から算出された指標(重量情報I2)と、が同時に可視化されることになる。ここで、クラスタ化された階層構造では、制約条件の達成状況が近い(例えば、制約条件値が近い)もの同士が近接する一方、各設計変数に基づいて算出される指標は、そうした達成状況とは無関係に算出されることになる。
【0108】
よって、例えば、階層的クラスタリングによって、最適解と目される組み合わせが複数個にわたり見つかった場合に、その階層構造とは異なる観点から、各組み合わせの良否を判定することができるようになる。
【0109】
これにより、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、従来とは異なる観点からアプローチすることが可能になる。複数の観点からアプローチすることで、指標と物品性能との関係等を深掘りすることができ、ひいては、構造体の設計知見を新たな観点から抽出することができるようになる。
【0110】
図5に示すように、構造情報I1(設計変数)の類似性と、重量情報I2(指標)の定量的な差異と、を同時に表現することができる。そして、重量差が小さくかつ、類似性の低い設計仕様を抽出し、それを平行座標プロットで可視化することで、可視化された情報に基づいて、軽量化に必要な情報を明らかにすることができるようになる。
【0111】
また、
図7に示すように、指標の大きさに基づいて抽出された各組み合わせについて、各制約条件それぞれの達成状況を可視化することができる。これにより、設計者は、構造体の設計知見を抽出することができる。
【0112】
また、式(4)を用いて説明したように、本実施形態に係る分析方法によれば、指標の大小関係に加えて、ロバスト性に基づいた判定を行うことができる。その結果、よりロバストな構造体を設計することができるようになり、ひいては、構造体の設計知見を抽出する上で有利になる。
【0113】
また、
図7に示すように、平行表示プロットを用いて各制約条件の達成状況を表示することで、設計者は、各制約条件それぞれの達成状況を容易に視認することができる。これにより、構造体の設計知見を抽出する上で有利になる。
【0114】
《他の実施形態》
前記実施形態では、コンピュータ1の一例として、1つのCPU3を有するものを例示したが、本開示は、その例に限定されない。コンピュータ1には、パーソナルコンピュータに加え、スーパーコンピュータ、PCクラスタ等の並列計算機も含まれる。例えば、
図3の第1抽出ステップSt2、クラスタ化ステップSt3等、一部の工程のみを並列計算機に実行させ、その他の工程をパーソナルコンピュータに実行させてもよい。
【0115】
すなわち、本開示における「演算部」は、特定の計算機における演算部と、その他の計算機における演算部と、を組み合わせて構成してもよい。その場合、「コンピュータ1」の語は、複数の計算機の集合体を意味することになる。
【0116】
《産業上の利用可能性》
以上説明したように、本開示は、自動車の車体等、構造体を構成する各部品の設計変数の分析に有用であり、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0117】
1 コンピュータ
3 CPU(演算部)
11 表示部
18 記憶媒体
I1 構造情報
I2 重量情報
St2 第1抽出ステップ(抽出ステップ)
St3 クラスタ化ステップ
St4 指標算出ステップ
St5 第1可視化ステップ(可視化ステップ)
St6 第2抽出ステップ(第2の抽出ステップ)
St7 第2可視化ステップ(第2の可視化ステップ)