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特許7527583電子部品保護膜用の樹脂組成物および樹脂組成物を用いた電子部品保護膜
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】電子部品保護膜用の樹脂組成物および樹脂組成物を用いた電子部品保護膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 135/00 20060101AFI20240729BHJP
   C09D 125/18 20060101ALI20240729BHJP
   C08L 35/00 20060101ALI20240729BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20240729BHJP
   C08F 222/40 20060101ALI20240729BHJP
   C08F 212/34 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C09D135/00
C09D125/18
C08L35/00
C08L25/18
C08F222/40
C08F212/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020086152
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021178946
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 謙
(72)【発明者】
【氏名】町田 一己
(72)【発明者】
【氏名】佐口 裕夢
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 剛
(72)【発明者】
【氏名】大塚 恵子
(72)【発明者】
【氏名】米川 盛生
(72)【発明者】
【氏名】木村 肇
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-041332(JP,A)
【文献】特開2013-256586(JP,A)
【文献】国際公開第2020/095882(WO,A1)
【文献】特開2014-114368(JP,A)
【文献】特開平02-064113(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002704(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 135/00
C09D 125/18
C08L 35/00
C08L 25/18
C08F 222/40
C08F 212/34
C08G 65/40
C08F 283/12
C08F 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)剛直構造を備えるアリル基含有フェノール化合物と、
(B)剛直構造を備える芳香族マレイミド基含有化合物と、
(C)柔軟構造を備える脂肪族マレイミド基含有化合物と、
(D)シリコーン粒子と
を含有
前記化合物(A)が下記の式1で表され、前記化合物(B)が下記の式2で表され、ならびに前記化合物(C)が下記の式3で表され、
前記シリコーン粒子は、シリコーンゴム又はシリコーンレジンのいずれかのみからなる粒子であり、
前記シリコーン粒子の含有量は、樹脂組成物の総量に対して10~25重量%であり、
前記シリコーン粒子は、平均粒径2~5μmである、電子部品保護膜用のアリルフェノール-マレイミド共重合体を製造するための樹脂組成物。
【化1】
(式中、nは0~2である。)
【化2】
(式中、nは0~2である。)
【化3】
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を加熱により硬化する工程を含む
電子部品保護膜用のアリルフェノール-マレイミド共重合体を製造するための方法。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂組成物の加熱硬化物である
アリルフェノール-マレイミド共重合体を含む電子部品用保護膜。
【請求項4】
絶縁基板と、絶縁基板の少なくとも一面に対向して形成された一対の電極と、前記一対の電極間を電気的に接続する抵抗体と、前記抵抗体を覆う第1保護膜と、前記第1保護膜を覆う第2保護膜とを有する電子部品の前記第2保護膜への、請求項に記載のアリルフェノール-マレイミド共重合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品保護膜用の樹脂組成物および樹脂組成物を用いた電子部品用保護膜等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)等の電子制御化された自動車などが増加しており、これらに搭載されている電子制御ユニット(ECU)は、エンジンへの直接搭載やエンジンに電子部品を統合する機電一体化のために、より厳しい温度環境下に曝される可能性が高まっている。また、将来は、250℃で作動するSiC半導体やGaN半導体とともに同一基板上に実装されることが想定され、受動部品である抵抗器にも同レベルの耐熱性が求められる。
たとえば、下記特許文献1には、250~350℃程度の高温環境下で、長時間動作させても電極が劣化しない電極構造を備えたチップ抵抗器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-119125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されている抵抗器は、アルミナ等の絶縁基板上に一対の電極を形成し、一対の電極間に跨るように抵抗体が形成されている。
【0005】
さらに、抵抗体は、ガラス保護膜により被覆され、その上面はガラスまたは樹脂からなり最外層にあたる保護膜により被覆され、基板端面には端面電極が形成されている。
最外層にあたる保護膜としては、ガラスやエポキシ樹脂が用いられる。
【0006】
しかしながら、ガラス保護膜は、高温で焼成する必要があるため材料相互の拡散による抵抗値への影響等の問題があり、また、エポキシ樹脂を保護膜とすると、要求される耐熱性能を満たすには、その化学構造上難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、耐熱性に優れた新規な電子部品用保護膜を提供することを目的とする。また、低温/短時間硬化が可能な電子部品用保護膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、(A)剛直構造を備えるアリル基含有フェノール化合物と、(B)剛直構造を備えるN-芳香族マレイミド基含有化合物と、(C)柔軟構造を備えるN-脂肪族マレイミド基含有化合物と、(D)シリコーン粒子とを含有する、電子部品保護膜用のアリルフェノール-マレイミド共重合体を生成するための樹脂組成物が提供される。
【0009】
前記化合物(A)が下記の式1で表され、前記化合物(B)が下記の式2で表され、ならびに前記化合物(C)が下記の式3で表される、ことが好ましい。
【化1】
(式中、nは0~2である。)
【化2】
(式中、nは0~2である。)
【化3】
【0010】
前記シリコーン粒子は、シリコーンゴム粒子又はシリコーンレジン粒子のいずれかであることが好ましい。
【0011】
また、前記シリコーン粒子の含有量は、前記樹脂組成物の総量に対して10~25重量%であることが好ましい。
また、前記シリコーン粒子は、平均粒径1~10μmであることが好ましい。
【0012】
本発明は、上記のいずれか1に記載の樹脂組成物を加熱により硬化する工程を含む、電子部品保護膜用のアリルフェノール-マレイミド共重合体を製造するための方法である。
【0013】
本発明は上記のいずれか1に記載の樹脂組成物の加熱硬化物であるアリルフェノール-マレイミド共重合体を含む電子部品用保護膜である。
【0014】
本発明はさらに、絶縁基板と、絶縁基板の少なくとも一面に対向して形成された一対の電極と、前記一対の電極間を電気的に接続する抵抗体と、前記抵抗体を覆う第1保護膜と、前記第1保護膜を覆う第2保護膜とを有する電子部品の前記第2保護膜への、上記に記載のアリルフェノール-マレイミド共重合体の使用を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性および耐酸化性に優れた新規な電子部品用保護膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】発明者らによる下記先の出願に係る電子部品保護膜用アリルフェノール-マレイミド共重合体(「電子部品保護膜用樹脂硬化物」)を生成するための樹脂組成物の製造工程の一例を示す図である。
図2】先の出願に係る電子部品保護膜用樹脂硬化物の引張せん断接着強度の測定原理を示す図である。
図3】先の出願に係る電子部品保護膜用樹脂硬化物の破壊靱性の測定原理を示す図である。
図4】最適化した電子部品保護膜用樹脂硬化物の耐熱・耐湿試験100時間前後の引張せん断接着強度試験の結果(n=5)を示す図である。
図5】最適化した電子部品保護膜用樹脂硬化物の熱的特性を示す図であり、DMAの測定結果を示す図である。
図6】最適化した電子部品保護膜用樹脂硬化物の熱的特性を示す図であり、TG-DTAの測定結果を示す図である。
図7】MP1(試料11)、MP3(試料12)およびエポキシ樹脂系硬化物中の無機フィラー分を除去した樹脂分の250℃加熱時の残存重量分率(n=3)を示す図である。
図8】EGA-MSの分析結果を示す図であり、アリルフェノール-マレイミド共重合体の分析結果を示す図である。
図9】EGA-MSの分析結果を示す図であり、異常品(溶媒組成を変更したもの)の分析結果を示す図である。
図10】先の出願に係る電子部品保護膜用樹脂硬化物を最終保護膜として適用することができる電子部品の一例として示す厚膜チップ抵抗器の一構成例を示す断面図である。
図11図10に示す厚膜チップ抵抗器の製造工程の一例を示すフロー図である。
図12】高温放置試験(H250)、1000時間前後の絶縁抵抗の変化(n=5)の製品状態の評価結果を示す図である。
図13】高温放置試験(H250,250℃放置試験)を行ったときの、厚膜チップ抵抗器のΔRの変化を示す図である。
図14】耐湿負荷寿命試験(MR85,85℃,85%RH,印加電圧75Vの負荷あり)時のΔRの経時変化(n=20)を示す図である。
図15】耐湿負荷寿命試験(MR60,60℃,95%RH,印加電圧75Vの負荷あり)時のΔRの経時変化(n=20)を示す図である。
図16】耐湿寿命試験(M60,60℃,95%RH,負荷なし)時のΔRの経時変化(n=20)を示す図である。
図17】温度サイクル試験時(-55/155℃)のΔRの経時変化(n=20)を示す図である。
図18】本発明の実施の形態によるマレイミド系樹脂組成物の一構成例を示す図である。
図19】厚膜チップ抵抗器(2A、1MΩ)の230℃、240℃、250℃における長期(1000h)耐熱性試験後の厚膜チップ抵抗器の表面の外観を示す図である。
図20】厚膜チップ抵抗器の保護膜のH250高温放置試験前(硬化直後)の断面SEM像とAlとSiの分布を示す図である。
図21】厚膜チップ抵抗器保護膜のH250高温放置試験前(硬化直後)のフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の計測結果を示す図である。
図22】厚膜チップ抵抗器保護膜の250℃/1000h高温放置試験後のフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の計測結果を示す図である。
図23】厚膜チップ抵抗器の保護膜の250℃/1000h高温放置試験後の断面SEM像とAlとSiの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らによる先の出願(特願2018-208444号)の開示は以下の通りである。先の出願の開示は、本発明の基礎となるものであり、これらの開示を参照して後述する本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
(先の出願の開示)
先の出願に係る発明による電子部品保護膜用アリルフェノール-マレイミド共重合体を生成するための樹脂組成物は、剛直な分子構造を持つアリルフェノール基化合物と剛直な分子構造と柔軟な分子構造とをそれぞれ持つ2種類のマレイミド基化合物とを用いた3成分系アリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物(本発明では、単にマレイミド系樹脂組成物と称することもある。)であり、この樹脂組成物から生成される上記共重合体は、剛直構造によって高い耐熱性を付与し、柔軟構造によって高い靭性を付与した電子部品用保護膜を提供することができる。
【0019】
さらに、柔軟構造を持つ樹脂を1種類用いることによって、電子部品用保護膜の内部応力が低減され、電極や基材に対する接着力が高まり、保護膜の界面からの水分の侵入を防ぐことが可能となり、高い耐湿性を実現することができる。
【0020】
(1)先の出願に係る実施の形態による組成物
先の出願に係る樹脂組成物は、従来のエポキシ樹脂よりも耐熱性の高いビスマレイミド樹脂を用いるとともに、ビスマレイミド樹脂のもつ脆いという欠点を克服したものである。
【0021】
具体的には、フェノール環、マレイミド環、ベンゼン環という剛直構造を導入することで耐熱性を付与する。
【0022】
さらに、直鎖飽和炭化水素鎖構造を導入することによって靱性(柔軟性)を付与し、これにより内部応力を緩和し、接着強度を高める。
【0023】
以上のようにして、本発明による電子部品保護膜用アリルフェノール-マレイミド共重合体を生成するための樹脂組成物は、抵抗体および電極と保護膜との密着性を高めることができ、耐湿性を向上させることができる。
【0024】
樹脂組成物の最適化手順は以下の通りである。
a)第1段階:高耐熱性と高耐湿性を併せ持つ可能性を持つ樹脂原料選定段階
b)第2段階:高耐熱性と高耐湿性を併せ持つ樹脂組成の最適化段階
c)第3段階:決定した樹脂組成を用いた樹脂組成物の最適化段階
【0025】
樹脂組成物の原料組成は、例えば、以下の通りである。
(ビヒクルとして)
・樹脂原料
・硬化触媒
・溶媒
・添加剤:1)レオロジーコントロール剤,2)分散剤,3)消泡剤
これら添加剤は要求される樹脂組成物(樹脂ペースト)の特性によって適宜選択して添加する。この他に表面調整剤などを添加してもよい。
【0026】
(フィラーとして)
・アルミナ、酸化マグネシウム、シリカなどで、コストおよび化学的安定性から、アルミナが望ましい。フィラーの形態は球状が好ましく、粒径は約0.1~約10μmとすることができる。例えば、より好ましい球状アルミナ粒子は、粒径約0.1~約10μmの範囲であり、例えば粒径約0.1~約0.5μm(例えば、平均粒径約0.3μm)および粒径約1~約10μm(例えば、平均粒径約4μm)の範囲の2種類の粒子を用いることもできる。
【0027】
(無機フィラー)
無機フィラーを含むことによる効果は、以下の通りである。
・低線膨張率の無機フィラー(アルミナ球状粒子)を含有することで、線膨張率を低くすることができる。
・とくに樹脂組成物(樹脂ペースト)中に75wt%含有したときには、はんだ(20程度)と同等レベルの線膨張率、かつアルミナ基板(7程度)やガラス(3~10)により近い線膨張率(17)に調整することができる。
・耐熱性だけでなく、温度サイクル(-55℃⇔155℃等)に強い、耐熱衝撃性の高い保護膜を形成することが可能となる。
【0028】
以下に、樹脂組成物の一例について説明する。本実施の形態による樹脂組成物は、下記原料1)から3)までを含む。これらの樹脂原料は、高耐熱性と高耐湿性を併せ持つ可能性があるものとして選定した樹脂原料である。
【0029】
1)原料A:アリル基含有フェノール化合物(アリル化ノボラック)
例えば、以下に示すアリル基含有フェノール化合物(アリル化ノボラック)は、剛直構造のジアリルフェノール化合物であり、2個以上のアリルフェノール構造とその間の連結基がC1以上(例えばC1~C6、好ましくはC1)の直鎖の炭素鎖から構成されていても良い。
【0030】
【化1】
(式中、nは0~2である。)
【0031】
上記化学構造は、N-芳香族マレイミドよりも剛直性が低いため、樹脂において、耐熱性を維持しながらも靭性を付与することができる。
【0032】
尚、原料Aの代替物として、例えば、以下のものが挙げられる。
アリルフェノールノボラック
2,2’-ジアリルビスフェノールA
【0033】
2)原料B:N-芳香族マレイミド基含有化合物((ポリマータイプ)フェニルメタンマレイミド)
例えば、以下に示すN-芳香族マレイミド基含有化合物((ポリマータイプ)フェニルメタンマレイミド)は、2個以上の剛直なN-芳香族マレイミド構造とその間の連結基が-CH-の炭素鎖で構成されていても良い。
【0034】
【化2】
(式中、nは0~2である。)
【0035】
上記化学構造によれば、剛直構造のN-芳香族マレイミドのため、樹脂において、耐熱性を高くすることができる反面硬化物はもろくなりやすい。
【0036】
尚、原料Bの代替物として、例えば、以下のものが挙げられる。
4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド
m-フェニレンビスマレイミド
ビスフェノール A ジフェニルエーテルビスマレイミド
3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド
4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド
4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド
4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド
1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン
1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン
【0037】
3)原料C:N-脂肪族マレイミド基含有化合物(1,6‐ビスマレイミド‐(2,2,4‐トリメチル)ヘキサン)
例えば、以下に示すN-脂肪族マレイミド基含有化合物(1,6‐ビスマレイミド‐(2,2,4‐トリメチル)ヘキサン)は、2個のマレイミド構造とその間の連結基がC1以上(例えばC1~C10、好ましくはC6)の直鎖の炭素鎖で構成されていても良い。
【0038】
【化3】
【0039】
上記化学構造によれば、柔軟構造のN-脂肪族マレイミドのため、耐熱性は低下するものの靭性を高くすることができる。
【0040】
尚、原料Cの代替物として、例えば、以下のものが挙げられる。
1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン
1,6-ビスマレイミド-(2,4,4-トリメチル)へキサン
N,N’-デカメチレンビスマレイミド
N,N’-オクタメチレンビスマレイミド
N,N’-ヘキサメチレンビスマレイミド
N,N’-トリメチレンビスマレイミド
N,N’-エチレンビスマレイミド
【0041】
【表1】
【0042】
表1は、樹脂原料組成比の一例を示す表である。表1に、試料1から試料12までを例示的に示した。
【0043】
表1に示した樹脂原料組成を含む条件を最適化したペースト原料組成と硬化条件の一例について、以下に示す。
【0044】
(ビヒクルについて)
・樹脂原料最適組成:A/B/C=1/1/0.6(当量比)
・樹脂原料組成範囲:
A/(B+C)=アリルフェノール化合物 : ビスマレイミド化合物 =1:1~1:3
B:C=1:0.6~1:1.6
・硬化触媒:無し
・樹脂原料(A+B+C)と溶媒の組成比:75/25(重量比)
・溶媒の組成:
BCA(ブチルカルビトールアセテート,bp:約250℃)/EC(エチルカルビトール,bp:約200℃) = 25/75(重量比)
・添加剤:1)レオロジーコントロール剤(例えば、有機系材料)、2)分散剤(例えば、ウレタン系)、3)消泡剤(例えば、ポリマー系)
【0045】
(フィラーについて)
溶融球状アルミナ粒子(平均粒径4μmと0.3μmの組み合わせ)
【0046】
(ビヒクルとフィラーの組成について)
1)MP1は50/50(重量比)
2)MP3は、25/75(重量比)
【0047】
また、硬化条件は以下の通りである。
200℃/10分+250℃10分のように、短時間の2段階硬化を行った。
製造コストを低減するためには、250℃以下、30分以内での硬化処理が好ましい。
【0048】
次に、図1を参照して、樹脂ペーストの製造方法について説明する。
・ビヒクル製造工程:樹脂原料Bと樹脂原料Cの所定量を150℃に加熱して溶融させる(ステップS1)。溶融した樹脂混合物中に、樹脂原料Aを所定量添加し、100~150℃で均一に撹拌しながら混合した後、混合溶媒(BCA(ブチルカルビトールアセテート、bp:約250℃)/EC(エチルカルビトール、bp:約200℃)=25/75)を添加して(ステップS2)、100~150℃で均一に撹拌し混合した後(ステップS3)、常温までゆっくりと自然冷却すると、均一な樹脂原料液が得られる(ステップS4、S5)。
・樹脂ペースト製造工程1:得られた樹脂原料液10g中に、アルミナフィラー(デンカ:溶融球状アルミナDAW-03(d50=4μm),ASFP-20(d50=0.3μm))を合計10gあるいは30g添加し(ステップS6)、公転自転ミキサーおよび三本ロールを用いて混錬(ステップS7)、ペースト状の樹脂組成物(混合物)を作製する。このとき、湿潤分散剤を0.5~1.5g添加してもよい。
・樹脂ペースト製造工程2:得られたペースト状樹脂組成物(混合物)に、湿潤分散剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤を添加して(ステップS8)、公転自転ミキサーを用いて混錬(ステップS9)し、樹脂組成物(電子部品用保護膜用ペースト)を作製する(ステップS10)。
・保護膜製造工程:アルミナ等の絶縁基板上に形成した抵抗体の上部および電極の一部を覆うように樹脂組成物をスクリーン印刷し、硬化する。保護膜用ペーストの硬化条件は、200℃/10分+250℃/10分とした。
【0049】
以上のようにして、先の出願に係る電子部品保護膜用の樹脂硬化物を製造することができる。樹脂硬化物としての電子部品保護膜の膜厚は、約10~約15μmが好ましく、例えば約12μmである
【0050】
以下に、先の出願に係る電子部品保護膜用樹脂硬化物の特性評価方法について説明する。
【0051】
1)引張せん断接着強度の測定方法
図2は、先の出願に係る電子部品保護膜用樹脂硬化物の引張せん断接着強度の測定原理を簡単に示す図である。
JIS K6850に準じて、本実施の形態による樹脂の試験片を作製して測定を行った。
【0052】
まず、前準備として、長さ100mm×幅25mm×厚み1.6mmの冷間圧延鋼板(JIS G3141 SPCC-SB)の試験片をIPA(イソプロピールアルコール)で脱脂し、240番のSiC製研磨紙で研磨した後、IPA中で超音波洗浄し乾燥を行った。
【0053】
次に、試料は樹脂の組成に基づいて溶液を作製し、これを2枚の鋼板の各々の一部分に一定量塗布し(塗布面積 約25mm×12.5mm)、塗布した部分が重なるようにして2枚の鋼板をゼムクリップで挟んで圧着する。はみだした樹脂溶液を除去して、所定の硬化条件で硬化させた。その後、作製した試料片をH175,H200,H250,M85,M60の試験槽で各々100時間暴露した。引張せん断接着強度は、オートグラフ AGS-X 10kN(島津製作所)を用いて、図2のように試験片(n=5)を装置にセットして、環境温度23℃,荷重速度5mm/minの条件で、破断時の応力の最大点を計測した。
【0054】
2)破壊靱性の測定方法
図3は、先の出願に係る電子部品保護膜用樹脂硬化物の破壊靱性の測定原理を示す図である。
図3に示すように、作製した硬化物から、試験片(長さ40mm×幅5mm×厚み3mm)をダイヤモンドカッターによって切り出し、試料表面をSiC研磨紙(240番)で研磨した。
【0055】
その後、恒温室(23℃)に一日静置した。図3には、寸法等を符号で示した。
作製した硬化物から破壊靱性測定用試験片X(図3参照)をマイクロカッティングマシンによって切り出し、試料表面をSiC研磨紙(240番)で研磨した。次に、ミクロトーム用の刃を用いてノッチ(0.45~0.55mm)を入れた。その後、恒温室(23℃)に一日静置した。破壊靱性値の測定は、オートグラフ(島津製作所AL5-X)によって、三点曲げの治具を用いて、圧縮モードで測定した。次に、得られた破壊荷重値をASTM D5045-93の所定の式に導入して、破壊靱性値を算出した。
【0056】
【表2】
【0057】
表2は、比較検討した各試料の耐熱・耐湿試験100時間前後の引張せん断接着試験の結果を示す表である。比較試料として、エポキシ樹脂系のものを用いた。
【0058】
尚、最適な試料を選択する指標は以下の通りである。
指標1:ガラス転移温度 ⇒ 目標:250℃以上
指標2:初期引張せん断接着強度 ⇒ エポキシ樹脂(10Pa)と同等レベル
指標3-1:(H175)、H200、H250、試験100時間前後の接着強度の変化率の目標として、-50%以上
指標3-2:M60,M85試験100時間前後の接着強度の変化率の目標として、-20%以上
【0059】
以上の結果から、A/B1/B2=1/1/0.6の試料10の樹脂原料組成が上記の3つの指標の目標値をクリアしたことから最適に近いものと判断できる。
【0060】
図4は、上記において最適化した電子部品保護膜用樹脂硬化物の耐熱・耐湿試験100時間前後の引張せん断接着強度試験の結果(n=5)を示す図である。
【0061】
H200試験100時間前後の接着強度の変化率は-5.5%と小さかったが、H250試験100時間前後の接着強度の変化率は-42.9%と大きかった。
【0062】
M60とM85試験100時間前後の接着強度の変化率は-9.8%、-16.8%と比較的小さかった。
【0063】
このことから、上記において最適化したアリルフェノール-マレイミド共重合体は、200℃以上の高い耐熱性と耐湿性を併せ持つことがわかる。
【0064】
図5図6は、最適化した電子部品保護膜用樹脂硬化物の熱的特性を示す図であり、図5はDMAの測定結果を、図6はTG-DTAの測定結果を示す図である。
【0065】
図5に示すように、DMAの測定結果によれば、最適化したアリルフェノール-マレイミド共重合体のTg(ガラス転移温度)は300℃以上であり、物理的耐熱性が高いことがわかる。
【0066】
図8に示すように、TG-DTAの測定結果から、Td5(5%熱重量減少温度)が424℃である。この結果から、化学的耐熱性が高いことがわかる。
【0067】
【表3】
【0068】
表3は、破壊靱性の測定結果を示す表である。KICは、0.960となり、エポキシ樹脂と同等レベルであることが確認できた。
【0069】
図7は、MP1,MP3およびエポキシ樹脂系硬化物中の無機フィラー分を除去した樹脂分の250℃加熱時の残存重量分率(n=3)である。
【0070】
開発品のMP1,MP3(アリルフェノール-マレイミド樹脂系)は、H250/1000時間で40%程度まで減少しているが、重量減少がほぼ飽和に達している。
比較例のエポキシ樹脂系1では、H250/1500時間でも減少し続け、ほとんど樹脂が残っていない。
【0071】
よって、最適化したアリルフェノール-マレイミド共重合体は、エポキシ樹脂系1に比べて、樹脂の熱劣化が進みにくいといえる。
【0072】
図8図9は、EGA-MSの分析結果を示す図である。図8は、アリルフェノール-マレイミド共重合体の、図9は、異常品(溶媒組成を変更したもの)の分析結果をそれぞれ示す図である。
【0073】
共重合体の硬化状態の評価には、発生ガス分析(EGA-MS)を用いた。従来は、樹脂の硬化状態の簡易評価にはFT-IR、熱分析、HPLC、またはPy-GC/MS等が用いられる。しかし、本実施の形態によるアリルフェノール-マレイミド共重合体は、硬化反応のメカニズムや生成物が複雑であるため、従来の方法では満足なデータが得られなかった。
【0074】
EGA-MSは熱分解質量分析の構成の一つで、試料導入用の加熱炉と質量分析装置をステンレス製の直管で接続し分離を行うことなく発生ガスの全量を検出する方法である。得られる質量スペクトルは混合物のデータとなるため複雑であるが、原材料の分析結果や、熱分解GC/MS(Py-GC/MS)による分析結果と比較することで、樹脂の状態について解析が可能である。また、抽出などの前処理を行うことなく1時間程度の分析で結果が得られることから、多数の条件検討を行う場合の分析方法として有効である。
【0075】
・EGA-MS測定方法
試料の硬化物を適宜採取し、乳鉢等で粉砕する。粉砕後の試料を約1mg計量し、測定用の試料カップに投入する。試料を装置にセットし、200℃に予熱した炉に投入し、20分間保持して溶剤などの低沸点揮発分を除去する。その後、炉を600℃まで昇温(10℃/分)し、加熱中に発生する熱分解ガスを質量分析により検出する。
【0076】
図8では、ピーク温度は470℃である。図9では、470℃のピークとともに、550℃のピークが見られる。550℃のピークは、原料単独の場合の硬化物のピークと一致している。
【0077】
・解析結果
得られた強度と、温度(時間)の関係を表すサーモグラムに出現するピーク温度の位置と、それぞれのポイントにおける検出質量数のデータより、樹脂の状態を解析する。今回対象としたアリルフェノール-マレイミド共重合体樹脂については、事前の分析により硬化後の樹脂が正常な状態であれば470℃に1つのピークが出現することがわかっている(図8)。
【0078】
また、原材料およびその単独硬化物を分析した際に検出されるピーク位置と検出質量についても、事前に分析を行い確認した。これらの情報をもとに各種条件または組成を変えた樹脂共重合体の分析結果について、ピーク位置と質量数が図8のデータと一致するかどうかを確認した。また、データに相違がみられた際には、原材料の分析結果と比較することで、異常の判別が可能である。図9は、溶媒組成を変えた配合における分析例である。一部の原料が硬化前に析出し、単独の硬化物が生成されていることがわかる。このような場合、強度や接着力などにばらつきが生じるなどの可能性があり、共重合体の作製条件としては不適であると判断した。
【0079】
また、同様に原料の残留などについても確認することができる。このように、EGA-MSによる分析で、樹脂の構造を分解温度と発生する熱分解物の強度の関係で可視化することが可能である。
【0080】
以上の分析により、上記の最適化したアリルフェノール-マレイミド共重合体は、低温/短時間硬化が可能で、耐熱性に優れた電子部品用保護膜候補となることが確認できた。
【0081】
次に、上記の最適化したアリルフェノール-マレイミド共重合体を、電子部品の一例として抵抗器に適用した結果について説明する。
【0082】
図10は、本実施の形態による電子部品保護膜用樹脂硬化物を最終保護膜として適用することができる電子部品の一例として示す厚膜チップ抵抗器の一構成例を示す図である。
【0083】
図10に示す厚膜チップ抵抗器Aは、絶縁基板1に抵抗体3が形成されている。抵抗体3は、例えばレーザーにより抵抗値を調整するためのトリミング工程によってトリミング溝3aが形成されている。トリミング工程の前に、抵抗体3を保護する第1保護膜11を形成し、トリミング工程後に外部環境から抵抗体3と電極5a、5bを保護するとともに、抵抗体3と電極5a、5bを覆う上記の最適化したアリルフェノール-マレイミド共重合体による保護膜(第2保護膜)17が形成される。第2保護膜17をオーバーコート膜と称することがある。
【0084】
尚、絶縁基板1の端面および裏面には、それぞれ端面電極(Ni/Cr等)9a、9bおよび裏面電極(Ag、Cuまたは導電性接着剤)7a、7bが形成されている。さらに、これらの電極を覆うNi、Snなどのめっき層13a、13bが形成されている。
【0085】
図11は、図10に示す厚膜チップ抵抗器の製造工程の一例を示すフロー図である。
まず、ステップS11において、多数個取り用の大判の絶縁基板として、例えば、純度96%のアルミナ基板を準備する。ステップS12において、例えば、Ag/Ag-Pd電極ペースト材料を作製する。ステップS13において、Ag/Ag-Pd電極ペースト材料を裏面電極7a、7bとして絶縁基板1の一面に、例えばスクリーン印刷法により印刷・焼成する。次いで、ステップS14において裏面電極7a、7bを形成した絶縁基板1の面と反対の面に、ステップS15として、ステップS14において作製したAg/Ag-Pd電極ペースト材料を用いて表面電極5a、5bを、例えばスクリーン印刷法により印刷・焼成する。
【0086】
次いで、ステップS16において、例えば、RuO抵抗体ペーストを作製し、ステップS17において、表面電極5a、5bに一端を接続する抵抗体3を、例えばスクリーン印刷法により印刷・焼成する。
【0087】
次いで、ステップS18において、ガラスペーストを作製し、ステップS19において、第1保護膜11を、例えばスクリーン印刷法により抵抗体3上に印刷・焼成する。
【0088】
この状態で、抵抗値を測定し、ステップS20において、所望の抵抗値になるように、レーザートリミングによりトリミング溝3aを形成することで抵抗値調整を行う。
【0089】
次いで、ステップS21において、本実施の形態による最適化したアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物を、抵抗体3および第1保護膜11上に、少なくともトリミング溝3aを覆うようにスクリーン印刷し、例えば約200℃で最適化したアリルフェノール-マレイミド系樹脂原料組成物を加熱硬化することにより第2保護膜17を形成する。
【0090】
ステップS23において、基板1を短冊状に分割し、ステップS24において、端面電極9a、9bを形成し、ステップS25において短冊を分割して抵抗器の個片化を行う。ステップS26で、めっき工程などにより、外部電極13a、13bを形成する。
以上の工程により、本実施の形態により抵抗器が完成する。
【0091】
抵抗体3、裏面電極7a、7b、表面電極5a、5b、第1,2保護膜11、17は、すべてスクリーン印刷により形成することができる。尚、第1保護膜11は省略可能である。
【0092】
表面電極5a、5bおよび裏面電極7a、7bの各電極の形成工程は同一工程により形成しても良く、工程の順番の前後を変更しても良い。抵抗体形成工程と表面電極形成工程とに関しても、工程の順番の前後を変更しても良い。
【0093】
端面電極9a、9bは、例えば、絶縁基板1を短冊状に分割した後、スパッタリング法などにより形成することができる。
【0094】
先の出願では、保護膜を2層としたが、第1保護膜11は形成しなくても良く、保護膜は単層とすることができる。
【0095】
以上のようにして製造した、本実施の形態による最適化されたアリルフェノール-マレイミド共重合体を第2保護膜とした厚膜チップ抵抗器の評価結果について説明する。
【0096】
(厚膜チップ抵抗器の絶縁抵抗の評価)
図12は、高温放置試験(H250)、1000時間前後の絶縁抵抗の変化(n=5)の製品状態の評価結果を示す図である。
【0097】
先の出願に係る最適化されたアリルフェノール-マレイミド共重合体MP1,MP3(表1参照)は、250℃1000時間後においても、絶縁抵抗が、MP1は74TΩから14TΩ、MP3は69TΩから31TΩに減少しているだけであり、いずれも10TΩ程度の高い絶縁抵抗が得られた。一般的なエポキシ樹脂系1、2を保護膜として使用した場合に比べると、加熱による絶縁抵抗の減少の度合いが少ないことがわかる。このことから、保護膜ペーストとして製品に適用した状態で、良好な絶縁抵抗が得られていることが確認できた。
【0098】
なお、エポキシ樹脂系1と2は、250℃/1000時間後に、絶縁抵抗が、エポキシ樹脂系1は75TΩから0.28TΩ、112TΩから1.9TΩと、大きく低下していることが製品の状態で確認できた。
【0099】
(厚膜チップ抵抗器の絶縁抵抗の長期寿命試験の結果)
次に、先の出願に係る最適化されたアリルフェノール-マレイミド共重合体MP1,MP3(表1参照)含む、250℃での長期放置試験の結果について説明する。比較例としてエポキシ樹脂(通常品および耐熱品)の結果も示す。
【0100】
図13は、高温放置試験(H250,250℃放置試験)を行ったときの、厚膜チップ抵抗器のΔRの変化を示す図である。
【0101】
図13に示すように、従来のエポキシ樹脂系1は、H250試験,3000時間後における抵抗値変化ΔRが+0.8%以上となった。
【0102】
一方、アリルフェノール-マレイミド共重合体MP1,MP3、エポキシ樹脂系2ともに、H250試験3000時間後、ΔRが±0.5%未満となった。
【0103】
このことから、従来のエポキシ樹脂1と比較すると、本実施の形態による最適化されたアリルフェノール-マレイミド共重合体MP1,MP3を用いると、抵抗値の変化が小さいことがわかる。
【0104】
尚、初期の段階において、抵抗値変化ΔRが高くなる理由は、抵抗体のレーザーによるトリミング時に抵抗体に入った歪みの影響が回復することに起因するものであり、保護膜の影響は少ないと考えられる。
【0105】
(厚膜チップ抵抗器の耐湿負荷寿命試験の結果)
耐湿負荷寿命試験は、下記の各温度および相対湿度条件で、恒温恒湿槽(ESPEC PL-3J)において、電圧印加を1.5時間オン、0.5時間オフ切り替えて3000時間の間、抵抗率を測定したものである。抵抗器への印加電圧は75Vである。
【0106】
図14は、耐湿負荷寿命試験(MR85,85℃,85%RH,負荷あり)時のΔRの経時変化(n=20)を示す図である。用いた試料は図13の場合と同様である。
【0107】
図14に示すように、MR85試験3000時間後は、すべての試料でほとんど差異が見られず、ΔRは±0.1%未満と良好な結果であった。
【0108】
また、図15は、耐湿負荷寿命試験(MR60,65℃,95%RH,負荷あり)時のΔRの経時変化(n=20)を示す図である。
【0109】
図15に示すように、MR60試験3000時間後は、すべての試料でほとんど差異が見られず、ΔRは±0.2%未満と良好な結果であった。
【0110】
(厚膜チップ抵抗器の耐湿寿命試験の結果)
図16は、耐湿寿命試験(M60,60℃,95%RH,負荷なし)時のΔRの経時変化(n=20)を示す図である。
【0111】
図16に示すように、M60試験3000時間後は、すべての試料でほとんど差異が見られず、ΔRは±0.1%未満と良好な結果であった。
【0112】
このように、先の出願に係る最適化されたアリルフェノール-マレイミド共重合体MP1,MP3を用いた場合、耐湿負荷寿命試験および耐湿寿命試験の結果、抵抗値の経時変化がきわめて少なく、良好であることがわかる。これは、保護膜に用いた本発明のアリルフェノール-マレイミド共重合体が、柔軟構造を持つ樹脂によって保護膜の内部応力が低減され、第1保護膜のガラスや電極といった抵抗器の他の材料表面に対する密着性が高まり、界面からの水分の侵入を防ぐことができ、耐湿性が向上したためであると考えられる。
【0113】
(厚膜チップ抵抗器の温度サイクル試験の結果)
図17は、温度サイクル試験時(-55/155℃)のΔRの経時変化(n=20)を示す図である。
図17に示すように、温度サイクル試験1500サイクル後、すべての試料でほとんど差異が見られず、ΔRは+0.1%程度と良好であった。
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
表4,5は、上記の抵抗値の経時変化をまとめたものである。
表4,5に、厚膜チップ抵抗器(2A、1MΩ)に適用した時のMR60(60℃、95%RH、負荷有り)、MR85試験(85℃、85%RH、負荷有り)1000時間後のΔRの変化を示す。アリルフェノール-マレイミド系樹脂の開発品(シリコーン粒子無し)は、MR60、MR85試験ともに、エポキシ系樹脂に比べて、1000h暴露前後のΔR(抵抗値変化率)が小さいことが確認できた。よって、開発品は、エポキシ系樹脂に比べて、厚膜チップ抵抗器に適用した時、長期耐湿性が高いことが確認できた。
【0117】
以上に説明したように、先の出願に係るアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物を用いると、耐熱性および耐湿性に優れた新規な電子部品用保護膜を提供することができる。また、低温/短時間硬化が可能な電子部品用保護膜を提供することができる。
【0118】
(本発明の実施の形態)
1)上記先の出願の開示を前提として、以下に本発明について詳細に説明する。尚、抵抗器の保護膜への本実施の形態による樹脂組成物の電子部品への使用方法等については、先の出願と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0119】
2)本発明の背景と課題
近年、EVやHV等の電子制御化された自動車が増加している。これらに搭載されている電子制御ユニット(ECU)は、今後、エンジンへの直接搭載やエンジンに電子部品を統合する機電一体化のために、より厳しい温度環境下に曝される可能性が高まっている。そのため、今後、ECUに搭載される車載用実装材料に対しても、200℃以上の高温に耐える長期耐熱性が求められてきている。また、電子部品も将来250℃で作動するSiC半導体やGaN半導体とともに同一基板上に実装されることが想定されるため、受動部品である抵抗器にも同レベルの耐熱性が求められてくる可能性が高いと予測される。
【0120】
このような状況に鑑みて、実装材料用樹脂として主に使用されているエポキシ系樹脂では、要求される200℃以上の長期耐熱性を満たすことが化学構造上困難であることから、耐熱性の高いマレイミド系樹脂の適用への期待が高まっている。
先の出願に係る発明の背景としては、従来のマレイミド系樹脂の高い耐熱性は、剛直な分子構造と硬化後の高い架橋密度に由来するものであり、その反面、脆いという欠点を併せ持つ。そのため、マレイミド系樹脂の靭性の向上が求められている。また、剛直な構造ゆえに、内部応力が高くなりやすく、それに伴って被着物に対する接着力が低くなるため、接着界面を通して水が浸入しやすくなり、耐湿性が低くなるという問題がある。
先の出願においては、アリルフェノール-マレイミド共重合体を生成するための樹脂組成物を用いることで上記の課題を解決している。
【0121】
ところで、従来のマレイミド系樹脂は、熱劣化には強いが熱酸化劣化に弱いため、保護膜表面ならびに保護膜と被着面との界面にボイド等が存在すると、保護膜表面上ならびに接着界面のボイド中に含まれる空気中の酸素の存在によって、物理的な耐熱温度(ガラス転移点)より低い温度でも熱酸化劣化してしまうという問題がある。
そこで、本発明では、先の出願の樹脂組成物よりもさらに耐熱性を向上させた電子部品保護膜用のアリルフェノール-マレイミド共重合体を生成するための樹脂組成物を提供する。
【0122】
尚、本実施の形態によるアリルフェノール-マレイミド共重合体を生成するための樹脂組成物および硬化物は、表1の試料11(MP1)(A/B1/B2=1/1/0.6)の樹脂原料組成比をベースに、さらに、シリコーン粒子を添加した以下の樹脂組成物を用いたものである。フィラーについては、溶融球状アルミナ粒子(平均粒径4μmと平均粒径0.3μmの組み合わせ)を用いた。
【0123】
図18は、本実施の形態によるアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物の一構成例を示す図である。
図18に示すように、本実施の形態によるアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物は以下の樹脂原料を含む。
(A)剛直構造を備えるアリル基含有フェノール化合物
(B)剛直構造を備える芳香族マレイミド基含有化合物
(C)柔軟構造を備える脂肪族マレイミド基含有化合物
(D)シリコーン粒子
但し、硬化触媒は不要である。
上記(A)~(D)に加えて無機フィラーとしてアルミナ粒子を用いた。アルミナ粒子はペーストのスクリーン印刷における粘度調整のため、例えば平均粒径4μmと平均粒径0.3μmの組み合わせを添加した。
【0124】
このように、本実施の形態では、先の出願のアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物に加えて、シリコーン粒子を加えたことを特徴とする。シリコーン粒子は、シリコーンゴム粒子又はシリコーンレジン粒子の少なくともいずれかである。シリコーン粒子は、平均粒径1~10μmである。
そして、シリコーン粒子の含有量は、樹脂組成物の総量に対して10~25重量%である。
【0125】
以下に、本実施の形態による電子部品保護膜用アリルフェノール-マレイミド共重合体を生成するための樹脂組成物を用いた保護膜を厚膜チップ抵抗器に適用し、酸素を含む大気中において長期耐熱性/耐酸化性試験を行った結果について説明する。
【0126】
図19は、厚膜チップ抵抗器(2A(2.0×1.25mm)、1MΩ)の230℃、240℃、250℃における長期(1000時間)耐熱性試験後の厚膜チップ抵抗器の表面の外観を示す図である。
【0127】
先の出願の樹脂組成物であるMP1に対し、シリコーン粒子を添加しない試料MP31と、平均粒径5μmのシリコーンゴム粒子を樹脂組成物の総量に対して25重量%添加したMP32と、平均粒径を変えたシリコーンレジン粒子を樹脂組成物の総量に対して25重量%添加したMP33~MP35の5種類の試料を作製して長期耐熱性試験(長期の熱劣化および熱酸化劣化の評価)を行った。図19においては、MP31~MP35(それぞれn=20)のシリコーンの種別、平均粒径をパラメータとした保護膜を用いた厚膜チップ抵抗器の長期耐熱性試験の結果を示した。
【0128】
アリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物に対しシリコーン粒子を添加しないMP31は、250℃/1000h経過後には保護膜の表面にクラック(図19の白枠で囲む箇所)が発生し、また抵抗体や表面電極からの保護膜の剥離も発生した。一方、アリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物にシリコーンゴム粒子(平均粒径5μm)あるいはシリコーンレジン粒子(平均粒径5μm)を添加した樹脂組成物を用いた保護膜を厚膜チップ抵抗器に適用した試料(MP32,MP33)は、250℃/1000h経過後においても、クラック、剥離共に発生しないことがわかる。但し、シリコーンレジン粒子の平均粒径を小さくした試料(MP34,MP35)は、剥離は発生しなかったものの、平均粒径が2μmのMP34では、厚膜チップ抵抗器の保護膜にわずかにクラックが発生し、平均粒径が0.7μmのMP35では多数のクラックが発生することがわかった。
【0129】
上記の結果が得られた一つの理由としては、シリコーン粒子の平均粒径が5μm程度の大きさの場合、シリコーン粒子の弾性率が低いため、シリコーン粒子が保護膜の応力緩和に寄与して熱応力による割れが発生しにくくなったと推測される。これに対して、シリコーン粒子の粒径が小さくなると、同じ含有量であってもシリコーン粒子の表面積が増え、マトリックス樹脂を拘束する力が強くなるため、アリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物からなるペーストの弾性率が高くなり、クラックが生じてしまい、その結果として保護膜(樹脂硬化物)へのクラックを誘発しやすくなったものと推測される(図19のMP35参照)。さらに、マレイミドは弾性率が高く、一方のシリコーンは弾性率が低く、シリコーン粒子を添加することで全体としてマレイミド系樹脂ペーストの弾性率が下がり、硬化時および硬化後の線膨張率差に伴う熱応力が緩和され、クラックが生じにくくなったことも要因の一つである。保護膜の接着界面に多くクラックが発生すると、酸素を含む空気が入り込みやすくなり、これが剥離の発生につながると予測する。すなわち、本実施の形態において保護膜の弾性率が下がり、保護膜にクラックが入りにくくなったことで、保護膜の剥離も抑えられたと考えられる。
【0130】
もう一つの理由としては、250℃においても熱劣化ならびに熱酸化劣化しにくいシリコーン粒子が保護膜表面を覆って、熱劣化には強いが熱酸化劣化に弱いマレイミド系樹脂を保護することで、樹脂の熱分解に伴うガスの発生が抑制されたものと推測される。以下に、アリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物にシリコーン粒子を添加することによる熱酸化劣化による保護膜の劣化の抑制メカニズムについてまとめる。
シリコーンは熱劣化/熱酸化劣化に強いという性質がある。
【0131】
一方、マレイミド系樹脂は熱劣化に強いが、熱酸化劣化にはそれほど強くなく、空気中の酸素や樹脂硬化物(例えば保護膜)のボイドを起点に劣化していくことで、保護膜にクラックが発生したり、剥離したりする。
そこで、マレイミド系樹脂の表面をシリコーンが覆えば、保護膜の熱酸化劣化が抑制されることが期待できると発明者らは考え、先の出願において説明したアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物にシリコーン粒子を混合した。
【0132】
シリコーンの比重(1程度)はマレイミド系樹脂の比重(1程度)と同程度である。比較的軽いシリコーンとマレイミド系樹脂が保護膜の上方(抵抗体、表面電極、アルミナ基板と保護膜との界面と反対側)へ、比較的比重の大きいアルミナ(4程度)は保護膜の下方へ沈降する。ここで、さらに本発明のアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物は、その硬化温度が200℃程度と高いため、硬化のために加熱する際、硬化反応に先立って樹脂の粘度が低下するとともに流動性が高まることにより、保護膜の樹脂層は2層になる。すなわち、マレイミド系樹脂の連続相の上部にシリコーン粒子を偏在させることにより、マレイミド系樹脂が空気中の酸素と接触することを抑制することができ、全体として熱酸化劣化を抑制することになる。
【0133】
よって、熱劣化/熱酸化劣化のいずれにも強いシリコーン粒子がマレイミド系樹脂の表面を覆うことで、250℃の環境下でもマレイミド系樹脂の熱酸化劣化を抑制することができる。その結果、先の出願におけるアリルフェノール-マレイミド系樹脂の耐湿性を維持したまま、さらに250℃まで耐熱性を向上させることができたものと推測される。
【0134】
【表6】
【0135】
表6は、厚膜チップ抵抗器(MP31~MP34)の250℃/1000h高温放置試験結果(絶縁抵抗)の実験結果を示す表である。絶縁抵抗残存率は、初期の絶縁抵抗を100とした時の250℃長期暴露後の相対値を表す。クラック・剥離共にほとんど発生しなかったシリコーンゴム粒子(平均粒径5μm)、シリコーンレジン粒子(平均粒径5μm、2μm)をそれぞれ添加したマレイミド系樹脂保護膜(MP32~MP34)は、250℃/1000h後に絶縁抵抗が初期の状態の80%以上を維持したのに対し、シリコーン粒子無添加(MP31)の場合は18%まで低下した。
【0136】
以上のように、MP32~34では、250℃の環境下で熱劣化にも熱酸化にも強いシリコーン粒子が保護膜の表面付近に広がり、マレイミド系樹脂を覆うことにより、250℃環境下で熱劣化には強いが熱酸化に弱いマレイミド系樹脂の熱酸化劣化を抑制したものと推測される。
【0137】
図20は、厚膜チップ抵抗器(MP31~MP33)の保護膜のH250高温放置試験前(硬化直後)の断面SEM像とAlとSiの分布を示す図である。MP31はシリコーン粒子無し、MP32はシリコーンゴム粒子添加(平均粒径5μm)、MP33はシリコーンレジン粒子添加(平均粒径5μm)を行った試料である。図20は、試料(厚膜チップ抵抗器)の表層一部を直方体状に切り取った部分を斜め上方から観察した画像である。
【0138】
すなわち、図20の示す各SEM像は、上から保護膜の表面部分(点線で囲んだ領域)、保護膜および抵抗体の断面部分(一点鎖線)、その下の部分は保護膜の表面部分(点線で囲んだ領域と同じ)である。
シリコーン粒子を添加したMP32とMP33は、MP31と比較してSiの分布(右端列のSEM像における白く見える部分)が表面部分に多く見られる。これは、シリコーン粒子が保護膜の表面(上部)に多く分布し、マレイミド系樹脂を覆っていることを示す。尚、いずれの試料にも、レオロジーコントロール剤として疎水性ナノシリカを少量添加しているため、シリコーン粒子無しのMP31にもSiの分布が観測される。
【0139】
また、シリコーンレジン粒子(平均粒径5μm)を添加したMP33は、粒子状のものが保護膜上部に分布していることがわかる。シリコーンレジン粒子は、その比重がマトリックスのマレイミド系樹脂と同程度で、かつ、アルミナ粒子の1/4程度であるため、硬化が始まる200℃までに多くのシリコーンレジン粒子が上部に移動したものと推測される。一方、シリコーンゴム粒子(平均粒径5μm)を添加したMP32は、シリコーンゴムが粒子の形状をとどめず上部に広がっていることがわかる。シリコーンゴムが溶融して上部に広がっていると推測される。図20から、シリコーンゴム粒子とシリコーンレジン粒子を添加したアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物のいずれも、保護膜が2層になりしシリコーンがマレイミド系樹脂を覆っていることがわかる。
【0140】
図21は、厚膜チップ抵抗器の保護膜(シリコーンレジン粒子を添加したMP33~MP35)のH250試験投入前のFT-IRスペクトルを示す図である。
図21に示すように、MP31(シリコーン粒子無し)は、マレイミド系樹脂とレオロジーコントロール剤として添加した疎水性シリカ由来のピークが観測された。
【0141】
一方、シリコーンレジン粒子を添加したMP33~MP35は、シリコーン由来の強いピークが観測されたのに対し、マレイミド系樹脂由来のピークは弱く観測された。ここで、シリコーン由来のピークには、シリコーンレジンとレオロジーコントロール剤として添加した疎水性ナノシリカ由来のピークとの両方が含まれる。
図21より、シリコーンレジン粒子を添加したMP33~35は、シリコーンが抵抗器の保護膜の表面に多く存在していることを示唆している。
【0142】
図22は、厚膜チップ抵抗器の保護膜(シリコーンゴム粒子を添加したMP32)のATR法を用いたフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による測定結果を示す図である。
図22に示すように、MP31(シリコーン粒子無し)の場合には、マレイミド由来のピーク強度(高さ)に対して、シリコーン由来のピーク強度はほぼ同じであり、強度比は1程度であった。ここで、MP31にシリコーン由来のピークが観測されるのは、レオロジーコントロール剤として添加した疎水性ナノシリカに由来するものである。
【0143】
一方、シリコーンゴム粒子を添加したMP32は、シリコーン由来のピークが強く観測され、強度比はマレイミド由来のピークの2倍程度であった。強度比は相対的な組成比を示し、MP32ではシリコーンの相対量が多いことが確認できる。
ここで、シリコーン由来のピークには、シリコーンゴムとレオロジーコントロール剤として添加した疎水性ナノシリカ由来のピークとの両方を含む。
【0144】
FT-IRにおけるATR測定は、表面数μmの組成を分析する手法である。これをふまえると、図22より、シリコーンゴム粒子を添加したMP32は、シリコーンゴムが保護膜の表面に多く存在していることを示唆している。
以上より、図20の観測結果と図21図22の測定結果とは、良い一致を示していることがわかる。
【0145】
図23は、厚膜チップ抵抗器(MP31~MP33)の保護膜の250℃/1000h高温放置試験後の断面SEM像とAlとSiの分布を示す図である。MP32では、シリコーンゴム粒子が高温放置試験前よりもさらに溶融して広がっている。一方、MP33では、シリコーンレジン粒子は高温放置試験前と同じく保護膜の上部に分布している。従って、シリコーンレジン粒子(平均粒径5μm)の場合、250℃の環境下で溶融などの変化をうけることなく、熱劣化にも熱酸化にも強いシリコーン粒子が保護膜の表面を覆う(Siが広がって上部に粒子の偏りが見える)ことで、250℃の環境下で熱劣化には強いが熱酸化に弱いマレイミドの熱酸化劣化を抑制したものと推測される。シリコーンゴム粒子(MP32)とシリコーンレジン粒子(MP33)のいずれを添加した保護膜も、シリコーンがマレイミド系樹脂の上部に偏在した状態が維持されており、耐湿性を維持したまま250℃以上の耐熱性を持つ優れた電子部品用保護膜を得ることができた。
【0146】
マレイミド系樹脂は、熱だけによる熱劣化には強いが、熱と酸素の相乗作用による熱酸化劣化に弱い。これに対し、シリコーン(シリコーンレジンとシリコーンゴムの両方を含む)は、熱劣化にも、熱酸化劣化にも強いが、機械的強度が弱いという欠点がある。また、マレイミド系樹脂とシリコーンは基本的には親和性が低いため、マレイミド系樹脂層の上に、シリコーン層を重ねると、その界面で剥離が生じやすくなる上に、印刷工程が2回必要となる。
【0147】
本発明においては、マレイミド系樹脂中にシリコーン粒子を分散させると、高粘度ではシリコーン粒子の動きが抑制されて分散しているが、硬化温度(200℃以上)に温度を上げていく過程においてマレイミド系樹脂の粘度が低下し、アルミナ粒子よりも比重が軽く、かつマレイミド系樹脂との親和性が低いシリコーン粒子が上層に移動してくることになる。シリコーン粒子の間にマレイミド系樹脂が入り込むことで、剥離が起きにくくなっていると推測される。マレイミド系樹脂の連続相の上部にシリコーン粒子を偏在させることにより、マレイミド系樹脂が空気中の酸素と接触することを抑制することができ、全体として熱酸化劣化を抑制することになる。また、保護膜の機械的強度は、比較的良好な機械的強度を持ったマレイミド系樹脂の連続相にシリコーンが分散することになるため、十分な機械的強度を得ることができる。
【0148】
本実施の形態による厚膜チップ抵抗器の樹脂保護膜では、樹脂保護膜の表面をシリコーンが覆う(保護膜がシリコーンとマレイミド系樹脂の2層になる)ためには表面積に対してシリコーン粒子が少なすぎないように、樹脂組成物の総量に対して10重量%以上は添加することが好ましい。
【0149】
ここで、マレイミド系樹脂は粘度が低いため、アルミナ粒子によりペーストに粘性を持たせている。シリコーンを増やすとアルミナを減らすことになるため、シリコーン粒子が多すぎると好ましくないため、シリコーン粒子は樹脂組成物の総量に対して25重量%以下とする。
【0150】
なお、シリコーン粒子はシリコーンゴム粒子およびシリコーンレジン粒子を2種類混合して、樹脂背組成物の総量に対してシリコーン粒子を合計で10重量%~25重量%の範囲で含有するようにしても良い。
【0151】
本実施の形態では、剛直な分子構造を持つアリルフェノール化合物1種類と剛直な分子構造と柔軟な分子構造を持つマレイミド系化合物2種類を用いて、これらを適切な配合組成にすることで、その硬化物に、剛直構造によって高い耐熱性、柔軟構造によって高い靭性を付与することができる先の出願に対し、平均粒径数μmのシリコーンレジン粒子又はシリコーンゴム粒子を添加して、これらがアリルフェノール-マレイミド系樹脂をベースとした保護膜表面を覆うことで、250℃以上の高い耐熱性を付与することが可能となった。
【0152】
さらに、平均粒径1~10μmのシリコーンレジン粒子又はシリコーンゴム粒子を保護膜中に10~25重量%添加することで、200℃で硬化が始まる前に、熱劣化にも熱酸化にも強く比重がマレイミド系樹脂と同程度のシリコーン粒子が保護膜の表面を覆う(表面に多く分布する)ことで、250℃の環境下において、熱劣化には強いが熱酸化に弱いというマレイミド系樹脂の熱酸化劣化を抑制することが可能となる。
【0153】
以上のように、次世代半導体は250℃作動が好ましく、電子部品にも同程度の耐熱性が求められるため、本実施の形態によるアリルフェノール-マレイミド系樹脂硬化膜は、抵抗器を含む電子部品の保護膜として極めて有用である。
【0154】
尚、本発明のアリルフェノール-マレイミド系樹脂組成物は、各種電子部品の保護膜として用いることができる。また、電子部品は、チップ抵抗器の他に、コンデンサ、チップヒューズ、バリスタ等に適用できる。
【0155】
上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0156】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明は、抵抗器の保護膜に利用可能である。
【符号の説明】
【0158】
A 厚膜チップ抵抗器
1 絶縁基板
3 抵抗体
3a トリミング溝
5a、5b 表面電極
7a、7b 裏面電極
9a、9b 端面電極
13a、13b めっき層(外部電極)
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