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特許7527588ナノマテリアル構造体を製造する方法およびデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ナノマテリアル構造体を製造する方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   B82B 3/00 20060101AFI20240729BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240729BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240729BHJP
【FI】
B82B3/00
G01N21/64 Z
B82Y40/00
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021204059
(22)【出願日】2021-12-16
(65)【公開番号】P2022115801
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】102294
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】518014874
【氏名又は名称】フィジカルニ ウースタヴ アーヴェー チェーエル ヴェーヴェーイー
【氏名又は名称原語表記】FYZIKALNI USTAV AV CR, V.V.I.
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ネイサン グッドフレンド
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンデル ヴェー ブルガーコフ
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/156632(WO,A1)
【文献】特表2013-521033(JP,A)
【文献】特開2018-056565(JP,A)
【文献】特表2019-514207(JP,A)
【文献】Jian Xu, et al.,Laser-assisted forward transfer of multi-spectral nanocrystal quantum dot emitters,Nanotechnology ,2007年01月17日,Vol. 18, No. 2,025403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82B 1/00-3/00
B82Y 40/00
G01N 21/64
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシーバー基板(14)上にナノ粒子層を製造する方法であって、
透過層(10)、前記透過層(10)上の犠牲層(11)、前記犠牲層(11)上に堆積されたドナー膜(12)を含むプレート(1)を提供する工程と、
前記犠牲層(11)に、前記透過層(10)を介して、照射ビーム(2)を照射する工程であり、前記ドナー膜(12)の一部分(15)が前記プレート(1)から前記レシーバー基板(14)に転写されて受け取られるようにし、該レシーバー基板(14)および/または該プレート(1)が移動して、該レシーバー基板(14)が該ドナー膜(12)の少なくとも前記一部分(15)を事前に設定されたスポットで受け取り、該プレート(1)と前記レシーバー基板(14)が相対的に移動する、または該ドナー膜(12)が前記照射ビーム(2)に対して相対的に移動する、前記照射する工程と、
前記犠牲層(11)への前記照射ビーム(2)による照射に同期させたイメージングビーム(3)により、前記レシーバー基板(14)と前記ドナー膜(12)を同時に走査する工程と
を含むナノ粒子層を製造する方法。
【請求項2】
記イメージングビーム(3)が前記ナノ粒子層の内部に高調波を発生させて、前記ナノマテリアル構造体(13)から受け取る高調波が検出され、該レシーバー基板は、該イメージングビーム(3)の波長について透過的である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イメージングビーム(3)による前記レシーバー基板(14)の照射は、偏光レーザ光による照射である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記同時に走査する前記工程は、広帯域光(42,52)による前記プレート(1)および/または前記レシーバー基板(14)のイメージングであり、該プレート(1)および/または該レシーバー基板(14)は、前記広帯域光(42,52)のそれぞれの波長について透過的である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記レシーバー基板(14)から反射された前記広帯域光(52)は、イメージング検出器(7)により検出される前に、広帯域カラーフィルタ(8)を通過する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ドナー膜(12)から前記レシーバー基板(14)へ転写されるナノ粒子の集合体は、レーザ誘起前方転写、より好ましくはブリスターを利用するレーザ誘起前方転写により提供される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
レシーバー基板(14)上にナノ粒子層を形成し、それを同時に検出するデバイスであって、
透過層(10)、前記透過層(10)上の犠牲層(11)、前記犠牲層(11)上に堆積されたドナー膜(12)を含む、プレート(1)と、
照射ビーム(2)を前記プレート(1)に集光させることが可能である前記照射ビーム(2)の光源(21)であり、前記照射ビーム(2)により前記ドナー膜(12)の少なくとも一部分(15)が前記照射ビーム(2)により放出されるように構成される、前記光源(21)と、
前記プレート(1)が前記光源(21)により照射されている間に該プレート(1)および/または前記レシーバー基板(14)を移動させる手段と、
前記レシーバー基板(14)と前記ドナー膜(12)を同時に走査する手段と
を含み、
前記レシーバー基板(14)と前記ドナー膜(12)を同時に走査する前記手段は、前記犠牲層(11)への前記照射ビーム(2)による照射に同期させたイメージングレーザである、デバイス。
【請求項8】
前記レシーバー基板(14)と前記ドナー膜(12)を同時に走査する前記手段は、前記ナノ粒子層を形成するマテリアルの内部に高調波を発生させることが可能であるイメージングレーザであり、前記デバイスは、ナノマテリアル構造体(13)から到達する高調波を検出することが可能である検出器を含み、前記プレート(1)および/または該レシーバー基板(14)は、それぞれの波長ついて透過的である、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記イメージングレーザは、偏光を放射するように構成されている、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記プレート(1)および/または前記レシーバー基板(14)を照射することが可能である広帯域光(52)の少なくとも1つの光源(5)をさらに備える、請求項7から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
広帯域光(42、52)の少なくとも2つの光源(4、5)を含み、前記広帯域光(42)の第1の光源(4)は、前記ドナー膜(12)を照射するように構成され、前記広帯域光(52)の第2の光源(5)は、前記レシーバー基板(14)を照射するように構成される、請求項7から10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記レシーバー基板(14)からの反射ビーム(52)、または前記ドナー膜(12)または前記レシーバー基板(14)から放射される放射光を検出するように構成される検出器(7)を含む、請求項7から11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記検出器(7)の前に配置される広帯域カラーフィルタ(8)をさらに含み、前記レシーバー基板(14)上の前記ドナー膜(12)の前記一部分(15)の位置、前記ナノマテリアル構造体(13)の材料組成、および/または前記ナノ粒子層の厚さに関する情報を提供することが可能である特定の波長を前記カラーフィルタが通過させる、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記照射ビーム(2)は、ブリスターを利用するレーザ誘起前方転写により、前記ドナー膜(12)の前記一部分(15)に作用するように構成される、請求項7から13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記レシーバー基板(14)および/または前記ドナー膜(12)を同時に走査する前記手段は、該レシーバー基板(14)および/または該ドナー膜(12)から放射される蛍光またはフォトルミネセンス発光を検出するように構成される、請求項7から14のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子スケール層の構造体を製造するためのデバイスおよび方法に関する。特に、本開示は、ナノマテリアルを堆積または転写する方法およびデバイスに関し、好ましくはブリスターを利用するレーザ誘起前方転写プロセスを用いる。好ましい実施形態において、本開示は、レーザ誘起前方転写プロセスを用いるマテリアルの転写に関し、ナノマテリアルをレシーバー基板上に堆積することで2次元パターンのマテリアルを形成する。
【背景技術】
【0002】
ドナー膜からレシーバー層へのナノマテリアルの転写については、様々な刊行物に記載されている。非特許文献1は、ナノマテリアルのパターンを製造するための方法およびデバイスを開示している。この方法は:
ガラス層であり得る透過性基板を含み、透過性基板上に金属の不透明層が堆積されているサンプルを提供する工程と;
透過層上に堆積された不透明層から転写される2次元(以下、2Dと称する)ナノマテリアルを受け取るように構成されるレシーバー層を提供する工程と;
ガラス層から金属ブリスターを生成し、堆積された2Dナノマテリアルを放出し、それをレシーバー層に転写するためのパルスレーザを提供する工程とを含む。
【0003】
この技術には、ターゲッティングまたは配向の測定と制御が組み込まれていない。ドナー膜とレシーバー層間の移動が互いにロックされているため、スタック層の製造は不可能である。実験は真空下で行われ、この技術は、外部雰囲気または制御雰囲気(希ガスまたは低圧)について設計されている。
【0004】
また、レーザ誘起前方転写プロセスを用いてドナー膜からレシーバー層へナノ粒子を転写することを開示している特許文献もある。特許文献1には、活性層がナノ粒子から構成されるドナーシートを用いて薄膜トランジスタを製造する方法が開示されている。ナノ粒子は、ドナーシートから基板に転写することができる。ドナーシートは、ベースフィルムと、ベースフィルムの一方の面に配置される、基板のような他の物体に転写可能である転写層とを含み、転写層では、ナノ粒子が互いに平行に形成されている。基板は、ガラスで形成されてもよい。ナノ粒子のマテリアルは、チタンであり得る。N型Siナノワイヤは、レーザ支援触媒成長(LCG)法によって製造される。簡潔にまとめると、N型Siナノワイヤは、Nd:YAGレーザ(532nm:パルス幅8ns、300mJ/パルス、10Hz)のレーザビームを用いてターゲットの金をアブレーションすることによって製造される。
【0005】
特許文献2は、レーザ誘起前方転写プロセスを用いるナノマテリアルの堆積または転写に関する。より詳細には、特許文献2の開示は、レーザ誘起前方転写プロセスを用いるナノマテリアルの転写に関し、転写プロセスは、1つ以上のナノマテリアルによって促進される。エネルギー源は、典型的には、転写されるナノマテリアルへの適切なエネルギー供給を生成するレーザまたは他の照射光源である。前述のように、エネルギー源は、転写されるマテリアルに適切なエネルギーを供給するパルスレーザ、連続波レーザ、その他の光源、または電磁波照射源であってもよい。よって、レーザビームは、ドナー基板の第1の表面の上に向けられ、著しくエネルギー量を失うことなくドナー基板を通過する、すなわち、十分なレーザ光エネルギーをイメ-ジング面へ供給し、所望のマテリアルの転写をイメ-ジング面で実行することが可能である。典型的には、レーザ光は、ドナー基板のイメ-ジング面上または近傍において、転写されるマテリアル(または「対象マテリアル」)上または近傍において吸収される。アクセプター基板は、典型的には、転写が所望されるアクセプター基板の面(「第1の表面」)がドナー基板に近接して配置され、ドナー基板のイメ-ジング面に対向しつつ、近傍に配置される。
【0006】
特許文献2は、レーザ誘起前方転写プロセスを用いるナノマテリアルの堆積または転写に関する。より詳細には、特許文献2の開示は、レーザ誘起前方転写プロセスを用いるナノマテリアルの転写に関し、転写プロセスは、1つ以上のナノマテリアルによって促進される。エネルギー源は、典型的には、転写されるナノマテリアルへの適切なエネルギー供給を生成するレーザまたは他の照射光源である。前述のように、エネルギー源は、転写されるマテリアルに適切なエネルギーを供給するパルスレーザ、連続波レーザ、他の光源、または電磁波照射源であってもよい。よって、レーザビームは、ドナー基板の第1の表面の上に向けられ、著しくエネルギー量を失うことなくドナー基板を通過する、すなわち、十分なレーザ光エネルギーを第2の表面へ供給し、所望のマテリアルの転写を第2の表面で実行することが可能である。典型的には、レーザ光は、ドナー基板の第2の表面上または近傍において、転写されるマテリアル(または「対象マテリアル」)上または近傍において吸収される。アクセプター基板は、典型的には、転写が所望されるアクセプター基板の面(「第1の表面」)がドナー基板に近接して配置され、ドナー基板の第2の表面に対向しつつ、近傍に配置される。
【0007】
特許文献3は、電子部品を印刷する技術の分野に関し、より具体的には、レーザを使用する印刷方法に関する。印刷方法は:
レシーバー基板を提供する工程と;
固体金属膜で構成されるコーティングが一つの面にある透過性基板を含むターゲット基板を提供する工程と;
透過性基板を介して、第1のレーザの手段により固体金属膜を局所的に照射し、固体金属膜のターゲットゾーンを液状形態の金属の溶融温度まで上げる工程と;
透過性基板を介してイメージングレーザでターゲットゾーン上の液状形態の膜を照射し、ターゲットゾーンで液体ジェットを形成し、溶融金属の形態で基板から液体ジェットを放出させる工程と;
画定されたレシーバーゾーンで溶融金属滴をレシーバー基板上に堆積させ、冷却によりその滴を固化させる工程とを含む。特許文献3に係る発明では、ブリスターを利用するレーザ誘導前方転写を提供することが不可能である。
【0008】
光学スキャナは、2つのレーザビームの移動を制御するために使用される。しかしながら、レシーバー層の品質は明らかではない。
【0009】
いくつかの産業用途において、前述の発明は、特許文献4に開示されているように、特定のアドレスで指定可能な位置におけるサブマイクロ特徴サイズを正確に直接書き込むために用いられる。直接書き込みを行うための光媒体を提供するために、媒体は;
溝が形成された基板層と;
基板層上に設けられた反射層と;
ドナー基板とを含み、
ドナー基板は、基板層と、基板層上に設けられたアブレーション層と、転写層とを含み、
光媒体は、媒体上での読取り/書込みレーザの位置を光ドライブが決定することが可能なように構成されるトラッキングおよびアドレス指定手段を含み、光学媒体は、アブレーション層がレーザ光ビームによってアブレーションされる際に、転写層の一部分がドナー基板からアクセプター基板に転写されるように配置され、光ビームの位置は、トラッキングおよびアドレス指定手段を用いて決定することが可能である。特許文献4における解決策の主な欠点は、基板上に反射層が使用されることである。
【0010】
このようなトラッキングおよびアドレス指定手段は、バイナリ情報をトラッキングするものであり、光媒体内に形成された溝、およびそこでの空または満たされたギャップに基づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2005/191448A1号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/130427号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/110127号明細書
【文献】国際公開第2012/066338号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Goodfriend NT, Heng SY, Nerushev OA, et al. Blister-based-laser-induced-forward-transfer: a non-contact, dry laser-based transfer method for nanomaterials. Nanotechnology. 2018;29(38):385301. doi:10.1088/1361-6528/aaceda
【文献】A. Logotheti, et al., Appl. Surf. Sci. 512 (2020) 145730 https://doi.org/10.1016/j.apsusc.2020.14573
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術に鑑みて、本開示により解決される技術的な課題は、少なくともナノマテリアルの2次元構造体を製造することが可能であり、ナノマテリアルを特定のスポット上で配向し、および配置することが可能とする方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の第1の形態において、ナノマテリアル構造体を製造する方法が開示される。ある形態において、ナノマテリアル構造体は、金属ナノ粒子、液滴、ナノ粒子を含有するインク、または生物学的材料からなる層を形成することが可能である。ナノマテリアル構造体は、その幾何学的な形状の観点から、孤立ドット、矩形パターン、線、ピラミッド、またはシングルドットのパターンであるアレイなどの任意のパターンを形成することが可能である。さらに、レシーバー基板および/またはドナー膜を含むプレートの位置を可変的に決めることで、レシーバー基板上の複数のナノ粒子を同じスポットに転写する手段により3D構造体を形成することが可能である。
【0015】
ナノマテリアル構造体を製造する方法は:
透過層と、透過層上の犠牲層と、犠牲層上に堆積されたドナー膜とを含むプレートを提供する工程と;
犠牲層に透過層を介して照射ビームを照射する工程であり、ドナー膜の一部分がプレートからレシーバー基板に転写されて受け取られるようにし、レシーバー基板がドナー膜の少なくとも一部分を事前に設定されたスポットで受け取るようにレシーバー基板および/またはプレートが移動する、工程と;
レシーバー基板とドナー膜を同時に走査する工程とを含む。
【0016】
前述のように構成される方法により、レシーバー基板上に形成されるナノマテリアル構造体の製造が行われる。レシーバー基板またはプレートが移動することにより、ナノマテリアルの一部分をドナー膜から転写し、それを所望の位置に配置することが可能となる。同時走査は、ドナー膜を照射するプロセスの最中に、ナノ粒子の配向の位置を決めること、および調整することに役立つ。プレートがxyz移動、回転、または傾斜可能なステージ上に搭載されている間に、ドナー膜および/またはレシーバー基板を走査することが可能である。ステージは、ドナー膜のナノマテリアルを目的の対象物の焦点に向かって移動させる。位置合わせが適切に行われた場合、焦点の中心は、照射される照射光(例えば、レーザパルス)が中心に来るスポットに向けられる。照射ビームは、マテリアルの適切な放出プロファイルのために選択された任意の形状および/または時間的および特別なプロファイルを取り得る。よって、転写されるナノマテリアルを検出するためにステージを使用してドナー膜の走査を行うことで、ナノマテリアルの放出ターゲットが設定される。(膜厚の検出に役立つ)イメージングレーザの偏光を調整すること、および要求条件の特定の角度でターゲットを再配置することが可能となる。また、XYZおよび/または回転ステージを用いてレシーバー基板を走査することで、マテリアルの転写を意図する位置を検出し、要求条件に応じてその配向を調整することも可能となる。ステージによる移動は、さらに、ターゲットマテリアルとターゲット位置を整列させて、照射パルスの照射に役立つ。可動ステージを用いてレシーバー基板を走査することで、マテリアルを転写する位置を検出し、要求条件に応じてその配向を調整するのに役立つ。ターゲットマテリアル、ターゲット位置、および照射パルスの照射は、整列される。
【0017】
以下、ナノマテリアルとは、ナノ粒子の集合体で構成されるマテリアルであり、薄膜は、厚さ約1μm未満、より好ましくは厚さ100nm未満で構成され、約1μm未満、好ましくは100nm未満の寸法が少なくともある一方向に存在するものとする。より好ましい実施形態では、ナノ粒子の寸法は0.3nm未満であり、原子スケールに対応する。
【0018】
いくつかの実施形態では、ドナー膜からのマテリアルの転写は、レーザ誘起前方転写(laser induced forward transfer:LIFT)により行われ、より好ましくは、ブリスターを利用するレーザ誘起前方転写(blister-based laser induced forward transfer:BB-LIFT)により行われる。ドナー膜は、透過性材料(透過層とも称される)上にある犠牲層の1つの表面上にコーティングされ、これらの層はプレートを一体的に形成し、レシーバー基板と近接して配置される。適切な強度のレーザパルスが透過層を介して犠牲層とドナー膜の界面に集光されると、ドナー膜のナノマテリアルが、ドナー膜からレシーバー基板上の特定のスポットに転写される。犠牲金属層におけるレーザーエネルギーの吸収、およびドナー膜の少なくとも一部分の前方転写は、典型的には、犠牲層とドナー膜の界面でのアブレーションがナノマテリアルの確実な転写を提供する場合に起こる。好ましい実施形態では、ブリスターを利用する(BB)LIFTの形態は、犠牲層および透過層の界面のみに相互作用するのに十分である低エネルギーでのフェムト秒パルスを利用する。特に、(BB)LIFTで用いる照射ビームの強度プロファイルは、トップハット、ガウスまたはドーナツ型の強度プロファイルを含むものからいくつか選択することが可能である。照射パルスにより表面が変形し、犠牲層と透過層でブリスター状の変形が引き起こされ、転写されるマテリアルが最小拡散方向で物理的に放出される。本実施形態のような犠牲層からのナノ粒子の放出メカニズムは、動的放出層として知られている。ブリスターを利用するレーザ誘起前方転写において、表面マテリアルが放出される一方で、動的放出層はその状態を保つ。可動プレートまたはレシーバー基板を一緒に用いることで、本実施形態による方法は、レシーバー基板上にナノマテリアル構造体を製造することを可能とする。この方法は、人工的に選択された気体または真空状態を含む周囲雰囲気、または通常の大気条件下で、提供することが可能である。プレートまたはレシーバー基板を同時に走査することにより、レシーバー基板に転写され堆積されるナノ粒子の配向の調整が改善される。
【0019】
別の実施形態では、マテリアルの転写は、レーザ誘起後方プロセスによって提供可能である。レーザ誘起後方転写は、当業者には公知であり、例えば非特許文献2がある。
【0020】
別の実施形態では、照射パルスは、時間的な関係性を有し、空間的に重複している2つのパルスから構成することが可能である。この実施形態では、連続からフェムト秒まで可変する持続時間を有する初期パルスは、転写されるマテリアルに物理的な変化を誘発する。一方で、可変的な時間プロファイルまたは空間プロファイルを有する第2のパルスは、現時点でレーザ改質されたマテリアルを転写するために用いられる。一つの実施形態では、これら2つのパルスは空間的に重複し、このような2つのパルスの時間的プロファイルは、第2のパルスが第1のパルスの持続時間内に生成される、または時間的に別個に離された時間で生成される時に重複可能であり、ここで、マテリアルはある有限時間で非照射のままである。
【0021】
例えば、シリコンを原料とするレシーバー基板の場合、ナノ回路を用いてあらかじめパターン化することが可能である。このようなデバイス製造の手順では、多くの場合、数千のグリッド構造の位置が決められる。ドナー膜がステージ上で移動される際には、ナノマテリアルの初期配向および位置決めを達成しておく必要がある。次いで、必要に応じて、配向および位置決めのためのドナー膜のイメージングを可能とするために、レシーバー基板を所定の距離で移動してもよい。
【0022】
ある形態において、同時検出は、ラマン分光法、動的光散乱、蛍光、フォトルミネセンスイメージングによって、または好ましくは高調波発生(high harmonic generation:HHG)によって提供することが可能である。イメージングレーザは、多くの2Dマテリアル内で高調波発生を誘発する。これは、非常に精度の高い測定に用いることが可能である。グラフェンなどのマテリアルでは、後続のデータ分析が行われるとの条件で、当業者が、高調波発生を特定し、ナノマテリアルの堆積層の数に関する情報を提供し、層数が奇数または偶数であるかの情報を提供することさえ可能である。他のほとんどのマテリアルでは、マテリアルがバルク(20~30層)に向かって連続的に厚くなるにつれて、HHGは5桁のオーダーで減少する。さらに、このHHGの強度は、偏光に対する結晶の配向によって変化する。
【0023】
さらなる形態において、当業者は、レーザ誘導前方転写(LIFT)またはブリスターを利用するLIFTに基づく転写技術に適したマテリアルを選択することが可能である。このような適切なマテリアルの例としては、金属(例えば、Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Ni、Cr、Ti、Fe、Zn、W、Si、およびAl、その他を含む)、合金、金属化合物(例えば、ZnO、TiO、インジウムスズ酸化物、MnTiO、CoAl、およびCuO、その他を含む)、無機誘電体マテリアル(例えば、SiOおよびSi、その他を含む)、グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、有機誘電体マテリアル、無機半導体マテリアル、有機半導体マテリアル、ポリマー(例えば、ポリスチレン、メラミン樹脂、およびPMMA-ポリメチルメタクリレート、その他を含む)、ガラス、およびセラミックが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
好ましい実施形態では、方法は、イメージングビームによりレシーバー基板をイメージングする工程を含む。イメージングビームは、照射されるプレート上での選択されたマテリアルの同時イメージングを可能とし、転写される前にその場での調整を可能にする。一つの実施形態では、イメージングは、照射ビームとは対照的である広帯域光の光源によって達成される。別の実施形態では、イメージングビームは、ナノマテリアル構造体を形成するナノマテリアルの内部に高調波を発生させることが可能である。ナノマテリアルから到達する高調波は、検出器によって検出される。より好ましくは、HHGを引き起こすイメージングレーザビームは、偏光レーザビームである。イメージングレーザビームの偏光を調整することは、堆積されるナノマテリアル膜の厚さおよび配向を検出し、ターゲットを要求条件の特定の角度に再配向するのに役立つ。より好ましい実施形態では、デバイスのドナー膜側のイメージングシステムは、レシーバー基板上の堆積の位置を画定するためには使用されない。位置の選択は、並進ステージを用いて記録された位置決めにより行われる。
【0025】
好ましい実施形態において、レシーバー基板は、レシーバー基板およびドナー膜を同時に走査することが可能であるイメージングレーザビームに関して透過性がある。レシーバー基板に透過性がある場合、レシーバー基板を通してドナーを走査することが可能であり、よって、ナノマテリアル構造体を適切に走査するためのステージのさらなる機械的な操作を行うことなく、その場での測定が可能となる。よって、レシーバー基板とドナー膜の同時イメージングでは、表面上の特定のナノマテリアルを識別するためにレシーバー基板を干渉しないところに移動させる必要性がなく、本実施形態は、製造方法を高速化する。
【0026】
好ましい実施形態では、同時走査の工程は、広帯域光によるプレートおよび/またはレシーバー基板のイメージングによって提供される。より好ましくは、広帯域光は偏光を利用する。広帯域光の光源は、一般的な識別に利用される。狭帯域フィルタの追加により、2Dマテリアルの異なる特性を観測することが可能である。偏光およびその向きは、これらのような原子的に薄いマテリアルの検出を改善することが可能である。ある実施形態では、プレートおよび/またはレシーバー基板への照射は、別のイメージング、特にイメージングレーザビームによるHHGイメージングと並行して提供することが可能である。
【0027】
一つの実施形態において、広帯域光がドナー膜またはレシーバー基板から反射されると、イメージング検出器により検出されるよりも前に、広帯域カラーフィルタを通過する。カラーフィルタが特定の波長の光および/または偏光を選択的に通過させることで、ナノマテリアル構造体の材料組成、ナノマテリアル構造体の厚さに関する情報が得られる。
【0028】
本開示の別の形態において、本開示による方法を実施するのに適したデバイスが開示される。そのデバイスは:
照射ビームをプレートに集光させることが可能である照射ビームの光源であり、プレートは、透過層、透過層上の犠牲層、犠牲層上に堆積されたドナー膜を含み、照射ビームは、ドナー膜の少なくとも一部分を放出するように構成される、光源と;
プレートが第1の光源によって照射されている間にプレートおよび/またはレシーバー基板を移動させる手段と;
レシーバー基板および/またはドナー膜を同時に走査する手段とを含む。
【0029】
好ましい実施形態では、レシーバー基板および/またはドナー膜を同時に走査する手段は、ナノマテリアル構造体を形成するマテリアルの内部に高調波を発生させることが可能であるイメージングレーザであり、デバイスは、ナノマテリアル構造体から到達する高調波を検出することが可能である検出器を含む。より好ましくは、イメージングレーザは、偏光を放射するように構成される。
【0030】
好ましい実施形態では、デバイスは、プレートおよび/またはレシーバー基板を照射することが可能である広帯域光の少なくとも1つの光源をさらに含む。より好ましくは、広帯域光は、偏光を放射するように構成される。
【0031】
好ましい実施形態では、デバイスは、少なくとも2つの広帯域光の光源を備え、広帯域光の第1の光源は、ドナー膜を照射するように構成され、広帯域光の第2の光源は、レシーバー基板を照射するように構成される。
【0032】
さらに別の実施形態では、デバイスは、ドナー膜からの反射ビームを検出するように構成される第1の検出器をさらに含む。本実施形態に代えて、または本実施形態とともに、デバイスは、さらに、レシーバー基板からの反射ビームを検出する、またはレシーバー基板から放射される放射光を検出するように構成される第2の検出器を含んでもよい。
【0033】
さらに別の実施形態では、デバイスは、第2の検出器の前に配置されたカラーフィルタを含み、カラーフィルタは、特定の波長の光を通過させることが可能であるので、レシーバー基板上のドナー膜の一部分の位置、ナノマテリアル構造体の材料組成、および/またはナノマテリアル構造体の厚さに関する情報を提供することが可能である。
【0034】
別の実施形態では、照射ビームは、ブリスターを利用するレーザ誘起前方転写において、ドナー膜の一部分に作用するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本開示における第1の実施形態を示す図
図2】本開示における第2の実施形態を示す図
図3】本開示における第3の実施形態を示す図
図4】本開示における第4の実施形態を示す図
図5】AFMから得られた実験結果を示す図
図6】AFMから得られた実験結果を示す図
図7】AFMから得られた実験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書において開示される詳細な実施形態は、照射ビーム2の光源21を用いる転写プロセスによるナノマテリアルの転写に関し、好ましくはレーザ誘起前方転写(laser induced forward transfer:LIFT)、より好ましくはブリスターを利用するレーザ誘起前方転写(blister-based laser induced forward transfer:BB-LIFT)に関する。ある態様において、照射ビーム2の光源21は、例えばパルスレーザビーム、好ましくはフェムト秒パルスレーザビームである照射レーザビーム2であり、照射レーザビーム2が透過層10を通過して伝搬し、そのエネルギーが犠牲層11に蓄積されることによりドナー膜12の一部分15が放出され、レシーバー基板14に転写されるように構成される。ある形態において、転写は、前述のレーザ誘起前方転写(LIFT)のような前方転写、またはブリスターを利用するLIFT、またはレーザ誘起後方転写であり得る。
【0037】
ある態様において、本開示は、マイクロおよびナノマテリアル構造体13の製造、回折光学素子の製造、導波路の製造、表面テクスチャリング、マイクロ流体メタライゼーションのための電極や電子部品の修復および調整などの様々な用途における導電体の堆積に用いられる。
【0038】
本開示の第1の実施形態を、図1を参照してさらに説明する。図1は、ナノマテリアル構造体13をレシーバー基板14上に製造する方法において使用されるデバイスの概略図を示す。デバイスには、プレート1が含まれる。プレート1は、透過層10と、透過層10の上の犠牲層11を含む。犠牲層11の上には、ドナー膜12が設けられている。このデバイスおよび方法では、犠牲層11に照射ビーム2が照射されると、犠牲層11と透過層10との界面にエネルギーが蓄積され、加熱される。その結果として生成された溶融フロントは、自由表面に到達するまでドナー膜12を通過すように伝搬し、プレート1の反対側に、すなわちレーザ照射に対して前方に、ドナー膜12が放出される。ドナー膜12のナノマテリアルは、その沸点を超えて過熱され、その結果生じた界面での蒸気誘起圧力により溶融したドナー膜12がレシーバー基板14に向けて放出される。このようにして、ドナー膜12の一部分15がレーザ誘起前方転写(LIFT)により放出され、レシーバー基板14上に堆積されると、構造体13が形成される。構造体13の複数の部位は、その位置の違いにより、あるパターンを形成することが可能であり、例えばピラミッド状パターン、線、またはアレイ状に配置された個々の点などがある。この位置は、可動ステージのようなxyz方向への並進移動および/または回転および/または傾斜を行える移動手段によって調整することが可能である。移動手段は、プレート1、レシーバー基板14、またはプレート1とレシーバー基板14の双方に設けることが可能である。ドナー膜12に近接しているレシーバー基板14は、一部分15の支持体として配置される。図1はさらに、ナノマテリアルの内部に高調波を発生させるように構成されるイメージングレーザビーム3により走査されるレシーバー基板14を概略的に示す。ある実施形態では、イメージングレーザビーム3は、好ましくは、照射ビーム2を発生させるレーザーシステムとは異なる、別個のレーザーシステムによって発生させることが可能である。別の実施形態では、イメージングレーザビーム3と照射ビーム2は両方とも、同一のレーザーシステムによって発生させることが可能である。本実施形態では、同一のレーザーシステムによって発生させたレーザビームを少なくとも2つに分岐するように分割し、さらに照射ビーム2およびイメージングビーム3を要求条件に基づいて調整する。イメージングレーザビーム3を使用する場合には、関連する非線形的な光学特性を測定する測定手段、例えば、最初のポンプ波長をブロックするフィルタを用いることで、ユーザの裁量で、2次または3次のHHGの発生を検出することが可能であり、よって、解明可能なナノマテリアル構造体に関するより多くの情報を得ることが可能である。これにより、層の数、結晶粒界、および配向をより明確に識別することが可能となる。別の実施形態では、偏光制御を備えるイメージングレーザ3を用いることで、ナノマテリアル構造体に非線形的な効果を発生させることが可能であり、よって、ナノマテリアル構造体の配向および層の数に関する情報を提供可能である。ステージにより提供される回転制御と偏光レーザビームを組み合わせた実施形態では、当業者が、ナノマテリアル構造体を選択された配向に、より容易に効果的に調整することを可能にする。フィルタおよび偏光制御の光学系が照射レーザの前に配置される場合、このような実施形態は、転写される前のレシーバー基板の特性の点検および確認のために用いることも可能である。当業者は、任意選択的に、レシーバー基板14およびドナー膜12を同時に走査することで、より多くの情報を得ることが可能である。このような実施形態は、イメージングビーム3および照射ビーム2の偏光を1つの光学的構成により調整することを可能にし、よって、余分なコストをかけることなく解決策を提供可能である、光学的レイアウトにおいて特に望ましい。
【0039】
別の実施形態では、レシーバー基板14またはドナー膜12がラマン分光法により走査される、または励起光源21によって照射されることにより、マテリアルにおいてフォトルミネセンスまたは動的光子散乱を発生させることが可能である。図1に示される実施形態では、イメージングビーム3は、イメージングビームスプリッタ33およびイメージング集光手段32を通過することが可能である。LIFTが行われると同時に、ドナー膜12および/またはレシーバー基板14に前述の同時走査が行われる技術が提供される。ラマン分光法、フォトルミネセンス、蛍光、または動的光子散乱によるドナー膜12の同時走査は、xy(z)ステージであり得る可動手段を用いて特定のスポットにマテリアルがターゲット化されることを支援する。xy(z)ステージが備えられたレシーバー基板14を横断するように行われる走査は、要求条件に応じて、ナノマテリアルをレシーバー基板14に転写させ、その位置を決定し、その配向を調整したいと望む当業者にとって、役立つ。さらに、この構造は、ナノマテリアルをターゲット位置に整列させ、レシーバー基板14上のターゲット領域にドナー膜12を放出させる照射ビーム2のパルスを集光させるのに役立つ。この方法は、真空チャンバを必要とすること無く、大気条件下で有利に適用することが可能である。
【0040】
本開示の実施形態では、転写されるナノマテリアルからなるドナー膜12は犠牲層11の上に堆積される。犠牲層11としては、チタン、銅、金、アルミニウム、バナジウム、クロム、タングステン、またはGe/Se合金が挙げられる。犠牲層11は、例えばガラス、AlおよびYBaCu高温超伝導体などの酸化物からなる基板である透過層10の上に堆積される。
【0041】
本開示の別の実施形態では、照射ビーム2は、パルス幅15nsを備える波長193nmの照射光を照射するUVエキシマであってもよい。照射ビーム2は、第1の集光手段22、例えばレンズによって、プレート1、特に、犠牲層/ドナー膜12の界面に集光され、溶融シリカからなる透過層10上の厚さ1μm程度のCuおよびAgのナノ粒子層が、シリコンを原料とするレシーバー基板14に転写されるように構成されている。照射ビーム2は、第1のビームスプリッタ23を介して伝搬することが可能である。ドナー膜12とレシーバー基板14との間の距離は、10μmである。各パルスのエネルギー密度は、約5J/cmである。このレーザビームは、ドナー膜12を矩形パターンで転写するように構成されていた。照射中、レシーバー基板14は、イメージングレーザビーム3によって同時に走査された。走査は、例えば、レシーバー基板14上に堆積されるナノマテリアル中のHHGによって提供され得る。イメージングレーザの焦点は、レシーバー基板14上に合わせ、特に、AgまたはCuが堆積されるべきスポットに合わせる。当業者は、特に、例えばイメージングレーザビーム3のような走査手段を、ステージシステムの角度を調整する手段と組み合わせて使用することで、ドナー膜とレシーバー基板の平行度を制御可能である。カメラの焦点がドナー膜12またはレシーバー基板14のいずれかの表面に合わされる場合、位置xおよび位置yの調整により、ドナー膜12およびレシーバー基板14が移動する。ステージの傾斜制御システムを用いて、焦点およびxとyの調整を繰り返すことが可能である。これにより、ドナー膜とレシーバー基板の平行度を制御することが可能となり、よって、ドナー膜とレシーバー基板の間の転写が容易になる。これにより、ドナー膜とレシーバー基板が互いに衝突するリスクを低減しつつ、xおよびyの独立した移動を可能にする。また、これにより、ドナー膜12とレシーバー基板14を互いに非常に近い位置に近接させる調整が可能となり、高精度での位置決め、および転写の方法の変更が可能になり、特に後述するようにスタンピングが可能となる。
【0042】
当業者は、照射レーザビーム2のパルス持続時間を調整可能であり、特に、100フェムト秒パルスの照射レーザビーム2のようなフェムト秒パルスビームに調整して、形成メカニズムを、2Dマテリアルの転写に好適に用いられるブリスターを利用するレーザ誘起前方転写(BB-LIFT)に変更することが可能である。より長いパルス持続時間を利用してブリスターを形成するために犠牲層が局所的に加熱される場合、ブリスターは、転写後に、その初期位置に復帰する。ドナー膜12とレシーバー基板14が非常に近接している場合、BB-LIFTは、大気を介する転写時間なしで、マテリアルをレシーバー基板14に直接スタンピングすることを可能にする。当業者は、さらに、照射パルスビーム2の空間プロファイルを調整して、より特定された照射領域を選択することが可能である。ガウス分布の場合、中央領域での転写の可能性が高い円形の堆積が形成される。一方、トップハット状のパルスの場合、照射領域全体での均等な堆積が可能となる。トップハット状の強度プロファイルが円形の場合、堆積は円形に一致する。強度プロファイルが長方形の場合、堆積は長方形の形状に一致する。この堆積形状は、当業者により選択可能である、その他の選択されたビームプロファイルに一致する。
【0043】
さらに別の実施形態では、エネルギー100mJを提供する500フェムト秒(fs)パルスレーザの照射ビーム2を、Cuナノ層からなるドナー膜12を含むプレート1に向けることが可能である。幅40μmを有するレーザパターン線をレシーバー基板14に転写することが可能である。ドナー膜12とレシーバー基板14との間の距離は、好ましくは、50μm未満である。レシーバー基板14は、HHGを引き起こす偏光レーザビームにより走査することが可能である。イメージングビーム3の偏光により、ナノ粒子系におけるフォノンのモード、特に振動モード、回転モード、およびその他の低周波モードを決定することが可能であり、よって、層の数を決定することが可能である。イメージングビーム3とドナー膜12への照射ビーム2を同期させることにより、事前に設定した層の数および形状でナノ粒子の構造体13を形成することが可能である。
【0044】
さらに別の実施形態では、チタンが構成される犠牲層と、チタン上に堆積されるドナー膜12として使用されるCVD成長MoSを含む透過性基板が用いられる。ドナー膜12の一部分15は、透過性のあるレシーバー基板14上に堆積されることが意図されている。
【0045】
均質性が高く、ランダムに配向された成長MoSを得るためには、成長MoSをレシーバー基板14上で特異的に配向する方法で転写することが必要である。イメージングビーム3を用いてMoSの内部にHHGを発生させることにより、様々な強度により配向が画定されるイメージが生成され、ドナー膜12はそれに応じて回転され、同時にイメージングされる。必要な配向が達成されると、MoSは特定の位置に堆積され得る。これは、MoSがコーティングされ配向が整列され、レーザ媒体として使用される半飽和吸収体のサイズおよびスケールに対して反復される。
【0046】
ある実施形態においては、ドナー膜12またはレシーバー基板14の同時走査は、ラマン分光法により行うことが可能である。ラマン技術は、ドナー膜12の一部分15、またはレシーバー基板14上に堆積されたドナー膜12の一部分15についての結晶配向、ドーピングレベル、応力を検査するために用いられる。別の実施形態においては、ドナー膜12および/またはレシーバー基板14は、動的光散乱、フォトルミネセンス、または蛍光分光法により走査することが可能である。さらに別の実施形態においては、暗視野(Dark field)、明視野(Bright field)、微分干渉(DIC)、または偏光を利用する光学部材のアレイなどによる同時イメージングが適切である。HHGまたはラマンの使用は、レーザを用いる同時イメージングの非網羅的なリストである。当業者はまた、共焦点レーザ顕微鏡法を実施することが可能である。
【0047】
別の実施形態では、イメージングレーザビーム3は、レシーバー基板14の表面上に堆積され得るナノマテリアルに対応するパターンを形成するのに役立つ。このイメージングレーザビーム3は、マテリアルに高調波を発生させるレーザビーム3であり得る。特に、イメージングレーザは、基本周波数で短パルスの高強度レーザビーム3を、レシーバー基板14におけるナノマテリアル構造体の最上部で堆積される小さなスポットに集光させる。小さなスポットは、ドナー膜12の一部分15が転写された場所である。転写された一部分15の内部では、特異的な周波数で高調波信号HHG(high harmonic signal)が発生する。例えば、グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイド(MoSe、MoS、WS、WSeなど)は、高調波信号を発生させることが可能であり、その特異的な周波数は当業者に知られている。高調波信号は、その後、集められて、検出される。レシーバー基板14を、xおよび/またはyおよび/またはz方向のいずれかに(すなわち、1次元において、および/または2次元において、および/または3次元において)移動させながら走査する、またはレシーバー基板14を回転させたり、傾斜させたりしてもよく、その一方、イメージングレーザビーム3によりその表面が走査されている。走査されたすべての点から高調波信号が集められ、電子的に処理されてイメージが生成される。
【0048】
好ましい実施形態では、イメージングレーザビーム3は偏光であり、より好ましくは楕円偏光である。入射光が偏光であることにより、マテリアルの結晶構造に特異的な方法でマテリアルと相互作用する。これにより、より高いコントラストが提供され、または電子的に検出可能な形態で入射光が調節される。別の実施形態では、前述のLIFTプロセスを用いて、生物学的材料の試料がプレート1からレシーバー基板14に転写される。レシーバー基板14は、走査レーザが堆積層に高調波の発生を誘起することが可能であるように配置される。より具体的には、ガラス系のレシーバー基板14上の生物学的試料である。走査レーザビームが集光されて、レーザビームがガラス系のレシーバー基板14を通過して生物学的試料に到達する。レーザビームにより試料に対して2次元で走査処理が行われることにより、試料のイメージ区画が形成される。代替的には、走査デバイスは、試料を移動させる手段を含み、2次元または3次元での走査処理を行う。図示の実施形態では、イメージングレーザビーム3の光源31は、励起後に、イメージング高調波(λ/2)および第3高調波(λ/3)を誘起するレーザビームを発生させるレーザデバイスを備える。走査レーザビームの光源31の例としては、パルス波長の範囲が1200~1350nm内であるレーザが挙げられる。この範囲内において、前述のレーザによって発生させたレーザビームの励起スペクトルは、可視光の範囲内で、明確で個別的なイメージング高調波と第3高調波を示すことになる。レーザビームは、この波長の範囲内では、試料に自家蛍光を引き起こさないこと、または万一あったとしても、自家蛍光をほとんど引き起こさないことに留意されたい。
【0049】
図2は、本開示の好ましい実施形態を概略的に示し、図1に示すデバイスを援用し、さらなる特徴を備えている。特に、図2には、広帯域光の第1の光源4がさらに開示されている。光源4は、フラッシュランプであってもよい。広帯域光42は、第3のビームスプリッタ41を通過して伝搬し、最初は、第3の集光手段44によって有利に集光される。ある時点で、広帯域光42と照射ビーム2は共伝搬し、第1の共伝搬ビーム43を形成する。第1のビームスプリッタ41の後方に狭帯域フィルタが配置されることにより、望ましくない波長の外光が除去される。ナノマテリアル構造体は非常に薄いので、簡単に観測することが困難である。よって、例えば厚さ270nmの透過性の酸化物層を有する反射型シリコン基板が実装される。透過層の上にある2Dマテリアルは、SiOと比較して、屈折率が異なり、光が移動する距離をさらに長くする。光の一部分は2Dマテリアル層の最上部で反射し、光の一部分は通過してバルクに到達し、そこで、シリコン上で反射する。シリコン上からの反射光は観測者に戻り、光が移動した距離が異なるので、干渉効果が引き起こされる。好ましい実施形態では、狭帯域フィルタまたは広帯域フィルタは、反射ビームを検出して干渉パターンを観測する検出器とドナー膜12との間に実装することが可能である。狭帯域フィルタは、干渉効果によるコントラストを増加させるように構成することが可能である。
【0050】
図2は、さらに、広帯域光52の光源5を含む、代替的な実施形態を示す。前述の段落に関連して、光52は、第4のビームスプリッタ51を通過し、第4の集光手段54によって集光される。ある時点で、広帯域光52はイメージングビーム3と共伝搬し、イメージング共伝搬ビーム53を形成する。広帯域光は、レシーバー基板14を照射するために用いられる。ただし、レシーバー基板14が透過性である場合、光52がプレート1を照射して、ドナー膜12の一部分15がレシーバー基板14上の特定のスポットに堆積されてナノマテリアル構造13が形成されるようにステージを構成することが可能である。レーザは、平行度を高レベルで達成するためにステージの傾斜を調整するのに有用である。
【0051】
好適な実施形態において、走査のためにHHGを用いる実施形態は、図2に記載される実施形態で実施することが可能である。図2は、デバイスの概略図をさらに示し、集光レンズによって集められた高調波信号は、フィルタ8(図2には示さず)に達し、そこで基本周波数のすべての背景光がフィルタリングされる。フィルタは、検出器、例えば光電子増倍管によって受け取られる純粋な高調波信号のみを通過させる。電子的に生成されたイメージは、コンピュータのスクリーン上に表示することが可能である。好適な実施形態において、高調波信号は、位置決めの手段を制御することが可能であるコンピュータユニットを用いてさらに処理することが可能であり、その結果、位置決めの手段は正確な配向で位置決めされる。
【0052】
図3は、図2に概略的に示される実施形態が含まれる好ましい実施形態の概略図を示す。図3の実施形態は、さらに、レシーバー基板14またはプレート1から反射された光を検出するように構成される第1の検出器6を含む。代替的な実施形態では、イメージング検出器7が提供され、レシーバー基板14またはプレート1から反射された光を検出するように構成することが可能である。好適な実施形態では、検出器6および7の双方が含まれる。
【0053】
図4は、ドナー膜12を照射した光がそこから反射され、第1のコリメータ61によって検出器6に集光される実施形態を示す。これにより、光の分布が均一でより鮮明な画像が得られる。図4には、さらに、イメージングコリメータ71およびイメージング検出器7が示される。右側、すなわちイメージングビーム3には、背景光から、例えばHHG信号を分離するための広帯域カラーフィルタ8がさらに設けられている。フィルタ8は、照射ビーム2またはイメージングレーザ3を遮断しつつ、HHG発生信号が検出されるように構成され得る。よって、広帯域の光源と組み合わせて、厚さ測定を正確に行うことが可能である。
【実施例
【0054】
以下の実施例は、図4に示される実施形態に関する説明ではあるが、当業者は、前述のその他の実施形態に対しても、以下の教示を援用してもよい。
【0055】
亀裂のないブリスターを利用するLIFTを実施するために、典型的には、フェムト秒レーザパルスである照射ビーム2を、アパーチャを用いて直径2.5mmに絞った後、焦点距離75mmのレンズ22を通過させて集光させた。ドナー膜12およびレシーバー基板14はxy並進ステージ上に搭載され、ドナー膜12はレンズ22から約55mmに配置された。
【0056】
別の実施例では、ナノ秒の照射レーザパルスは、2.5mmのアパーチャを通過した後に、100mmのレンズ22を通して集光され、ドナー膜12は、レンズ22から約115mm離して配置された。ナノ秒のレーザパルスを使用すると、照射領域が拡大され、より均質なBB-LIFTを確保することが可能である。このアプローチでは、より広い領域に渡ってエネルギーが拡散され、パルス間のエネルギー変動による変化の影響が低減される。ドナー膜12とレシーバー基板14が、それぞれ搭載され、既知の距離である約10μmから約200μmで互いに離された。これらは、傾斜調整が可能なxyz並進ステージに搭載された。パルスエネルギーは、BB-LIFTが生成されることが知られている範囲内で変化させた。ナノ秒(ns)で生成されるBB-LIFTについては、パルスエネルギーは、滑らかでひび割れのないブリスターを形成する100μJ/パルスから、ブリスターがひび割れたり、ときどき破裂したりする200μJ/パルスまで変化させた。このエネルギー値は、厚さ約300nmであるチタンの犠牲層に特に適している。フェムト秒(fs)で生成されるブリスターの場合、パルスエネルギーは、95μJ/パルスから150μJ/パルスまで変化させた。
【0057】
フェムト秒(fs)およびナノ秒(ns)を利用した実施形態について、幾何学的に非自明なパターンの堆積が達成された。堆積方法では、前述のいずれかのイメージング技術を用いて、同時検出が行われた。ドナー膜12がパルスレーザビーム2で照射される際に、HHG信号を引き起こすレーザビームによる同時イメージングが行われた。よって、特定のスポットまで並進ステージを移動させて、ドナー膜12の一部分15がレシーバー基板14上のスポットで受け取られるようにした。
【0058】
AFM(atomic force microscopy:原子間力顕微鏡)により得られた図5図6、および図7に示す結果は、酸化物層が270nmであったSiO/Siのレシーバー基板14上に0.3nmの厚さで転写されたhBN(hexagonal boron nitride)のフレーク画像である。さらに、AFM画像は、最初に堆積され転写されたhBNの厚さの範囲を示す。AFM、ラマン、および光学イメージングを組み合わせることで、BBーLIFTプロセスが行われても、転写されたナノマテリアルの大きな集合体には、明らかな劣化がないことが読み取れる。
【0059】
AFM画像は、フェムト秒(fs)レーザパルスにより、レシーバー基板と近接した状態で、hBNのフレークが転写されたことを示唆している。2次元マテリアルのマスクをGwyddionで描くと、この区画の高さは、シリコンの表面上から0.33nmであり、これは、フレークの厚さが1層のみであることを示している。また、マテリアルのRMS(root mean square)粗さは、235pmからシリコンの230pmであり、LIFTによって放出された他の柔軟なマテリアルと同様に、転写された表面でマテリアルが平滑になっていることを示唆している。チタン表面の薄層のhBNの初期粗さは、下地のチタンよりもわずかに滑らかであり、RMS粗さは、約5nmである。
【0060】
別の実施例では、レシーバー基板14および/またはドナー膜12は、広帯域光を用いて走査された。レシーバー基板14またはドナー膜12からの反射ビームに含まれる望ましくない信号をフィルタリングするためにフィルタ8が使用された。一つの実施例では、グラフェン層は、1~4層で構成され、広帯域光により走査可能であり、グラフェン層から来る信号は、緑色フィルタ(520~590nm)を通過して伝搬した。グラフェンの1層分の厚さは、青色フィルタ(435~520nm)を通過した場合の0.0114に対して、0.077のコントラスト値を示した。このような高い値の場合、イメージングが容易となる。緑色フィルタを用いた場合の初期の高いコントラスト値により、1~4層のコントラスト値は、それぞれ、0.077、0.149、0.216、および0.278となり得る。
【0061】
ガルバノミラーと称されるX軸およびY軸に対して自動的に軸を傾けるミラーが光学部品の前でイメージングレーザのビーム経路に配置されている。このミラーにより、イメージングレーザ経路を精緻に調整することが可能であり、レーザが移動することにより、ドナー膜またはレシーバー基板のいずれかの表面を横断するような走査が可能となる。
【0062】
透過光の偏光を再配向することが可能である波長板と称される光学部品は、焦点の前でイメージングレーザのビーム経路内に配置される。波長板を用いると、ナノマテリアルのHHGを増加または減少させるイメージングビームの偏光を回転させることが可能であり、ナノマテリアルを物理的に回転させるという条件無しで、その結晶配向または厚さを決定可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 プレート
10 透過層
11 犠牲層
12 ドナー膜
13 ナノマテリアル構造体
14 レシーバー基板
15 ドナー膜の一部分
2 照射ビーム
21 照射ビームの光源
22 第1の集光手段
23 第1のビームスプリッタ
3 イメージングビーム
31 イメージングレーザの光源
32 イメージング集光手段
33 イメージングビームスプリッタ
4 広帯域光の第1の光源
41 第3のビームスプリッタ
42 広帯域光
43 第1の共伝搬ビーム
44 第3の集光手段
5 広帯域光のイメージング光源
51 第4のビームスプリッタ
52 広帯域光
53 イメージング共伝搬ビーム
54 第4の集光手段
6 第1の検出器
61 第1のコリメータ
7 イメージング検出器
71 イメージングコリメータ
72 ガルバノミラー
73 波長板
8 広帯域カラーフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7