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特許7527589切断型の変異型Calreticulinに結合する抗体、及び骨髄増殖性腫瘍の診断、予防又は治療薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】切断型の変異型Calreticulinに結合する抗体、及び骨髄増殖性腫瘍の診断、予防又は治療薬
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20240729BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240729BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240729BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20240729BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240729BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 Y
G01N33/574 A
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021502656
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008434
(87)【国際公開番号】W WO2020175689
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019036119
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】000006091
【氏名又は名称】Meiji Seikaファルマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 真理人
(72)【発明者】
【氏名】木原 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】小松 則夫
【審査官】坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-062127(JP,A)
【文献】特表2016-537012(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0269092(US,A1)
【文献】Leukemia,2014年,Vol.28,pp.1811-1818
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(c)、(d)及び(e)から選ばれる、切断後の変異型CALR蛋白質に結合する抗体又は切断後の変異型CALR蛋白質に結合するその断片。
(c)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号17、18及び19に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号26、27及び28に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
(d)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号20、21及び22に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号29、30及び31に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
(e)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号23、24及び25に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号32、33及び34に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
【請求項2】
前記(c)、(d)及び(e)から選ばれる、切断後の変異型CALR蛋白質に結合する抗体が、次の(C)、(D)及び(E)から選ばれる抗体である、請求項1記載の切断後の変異型CALR蛋白質に結合する抗体又は切断後の変異型CALR蛋白質に結合するその断片。
(C)配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~8個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列において1~8個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
(D)配列番号6に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列において1~8個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列において1~8個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
(E)配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列において1~8個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列において1~8個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の抗体又は切断後の変異型CALR蛋白質に結合するその断片を含有する医薬組成物。
【請求項4】
骨髄増殖性腫瘍の診断、予防又は治療薬である請求項記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1又は2記載の抗体又は切断後の変異型CALR蛋白質に結合するその断片を用いて、生体試料中の次の(a)のポリペプチドを免疫学的検出することを特徴とする変異型CALR蛋白質の検出方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項6】
請求項1又は2記載の抗体又は切断後の変異型CALR蛋白質に結合するその断片を用いて、次の(a)のポリペプチドを認識する薬物をスクリーニングすることを特徴とする骨髄増殖性腫瘍治療薬のスクリーニング方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項7】
請求項1又は2記載の抗体又は切断後の変異型CALR蛋白質に結合するその断片の、骨髄増殖性腫瘍診断薬製造のための使用。
【請求項8】
請求項1又は2記載の抗体又は切断後の変異型CALR蛋白質に結合するその断片の、骨髄増殖性腫瘍の予防又は治療薬製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄増殖性腫瘍の診断、予防及び治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍(Philadelphia-negative myeloproliferative neoplasms;MPNs)患者の一部では、Calreticulin(CALR)遺伝子の第9エクソンに、塩基欠失や挿入が見出される(非特許文献1、2)。CALR変異遺伝子から産生される変異型CALR蛋白質は、トロンボポエチン受容体を恒常的に活性化することで、単独で骨髄増殖性腫瘍(MPN)を引き起こす腫瘍原性を有していることがすでに明らかにされている(非特許文献3~6)。
【0003】
MPN患者で見出されるCALR遺伝子変異は、必ず最終エクソンの限局された場所におけるフレームシフト変異であり、フレームシフト変異によるアミノ酸の読み枠のずれは、必ず+1である。これらのことから、変異型CALR蛋白質のカルボキシル末端には、野生型に存在しない配列が存在し、特にそのカルボキシル末端の44アミノ酸は、ほぼすべての変異型CALR蛋白質に共通している。その例として、MPN患者で見出されるCALR遺伝子変異の中で最も頻度の高い、52塩基欠失型(Del 52)、その次に頻度が高い、5塩基挿入型(Ins 5)のカルボキシル末端の配列を、野生型CALR蛋白質の当該領域と比較したものを図1に示した。
MPNを引き起こす原因である変異型CALR蛋白質は、腫瘍細胞に発現していることから、フレームシフト変異により生じた変異型CALR蛋白質に特異的な配列は、ネオ抗原として、診断時のマーカーや、治療標的となる可能性が示唆されていた(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-537012号公報
【文献】国際公開第2016/087514号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Klampfl T, Gisslinger H, Harutyunyan AS, et al. Somatic mutations of calreticulin in myeloproliferative neoplasms. The New England journal of medicine. 2013; 369: 2379-90.
【文献】Nangalia J, Massie CE, Baxter EJ, et al. Somatic CALR mutations in myeloproliferative neoplasms with nonmutated JAK2. The New England journal of medicine. 2013; 369: 2391-405.
【文献】Araki M, Yang Y, Masubuchi N, et al. Activation of the thrombopoietin receptor by mutant calreticulin in CALR-mutant myeloproliferative neoplasms. Blood. 2016; 127: 1307-16.
【文献】Elf S, Abdelfattah NS, Chen E, et al. Mutant Calreticulin Requires Both Its Mutant C-terminus and the Thrombopoietin Receptor for Oncogenic Transformation. Cancer Discov. 2016; 6: 368-81.
【文献】Marty C, Pecquet C, Nivarthi H, et al. Calreticulin mutants in mice induce an MPL-dependent thrombocytosis with frequent progression to myelofibrosis. Blood. 2016; 127: 1317-24.
【文献】Vainchenker W, Kralovics R. Genetic basis and molecular pathophysiology of classical myeloproliferative neoplasms. Blood. 2017; 129: 667-79.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記のフレームシフト変異により出現する変異型CALR蛋白質に特異的な配列(ネオ抗原)を認識する抗体では、細胞抽出液や細胞表面における変異型CALR蛋白質を正確に検出できないことが判明した。
従って、本発明の課題は、MPNの変異型CALR遺伝子及び蛋白質を正確に検出することができる検出手段、MPNの診断、予防又は治療薬、及びMPN治療薬のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、変異型CALR蛋白質の機能解析をさらに重ねた結果、発現させた変異型CALR蛋白質の多くが、変異型蛋白質に特異的な配列(図1)の中で切断され、ネオ抗原と考えられていた配列の大部分が失われた変異型CALR蛋白質が多く発現していることを発見した。そこで、ネオ抗原中の、切断部位よりアミノ末端側に位置する極めて短いアミノ酸配列を特異的に認識する抗体を作成したところ、培養細胞のみならず、患者末梢血細胞、患者血小板においても、切断された変異型CALR蛋白質の発現が確認された。さらに、この抗体を用いると、細胞表面における変異型CALR蛋白質の検出感度が飛躍的に向上すること、さらには優れたMPN治療効果が得られることが明らかになった。これらのことから、CALR遺伝子変異を有するMPN患者の診断や治療においては、全長型(未切断型)だけでなく、切断型を含む変異型CALR蛋白質をも検出あるいは標的とすることで、より高性能の医薬品が開発できることが明らかになった。また、変異型CALR蛋白質の切断を阻害することで、切断で失われる配列を標的とする医薬品の効果を増強させることが可能であることが強く示唆され、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の[1]~[14]を提供するものである。
【0009】
[1](a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖、又は(b)配列番号1において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖中に抗原認識部位を有する、切断後の変異型CALR蛋白質に結合する抗体又はその機能的断片。
[2]次の(c)、(d)及び(e)から選ばれる、[1]記載の切断後の変異型CALR蛋白質に結合する抗体又はその機能的断片。
(c)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号17、18及び19に示されるアミノ酸配列、又は配列番号17、18及び19に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号26、27及び28に示されるアミノ酸配列、又は配列番号26、27及び28に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
(d)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号20、21及び22に示されるアミノ酸配列、又は配列番号20、21及び22に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号29、30及び31に示されるアミノ酸配列、又は配列番号29、30及び31に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
(e)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号23、24及び25に示されるアミノ酸配列、又は配列番号23、24及び25に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号32、33及び34に示されるアミノ酸配列、又は配列番号32、33及び34に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
[3]次の(C)、(D)及び(E)から選ばれる[1]又は[2]記載の切断後の変異型CALR蛋白質に結合する抗体又はその機能的断片。
(C)配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
(D)配列番号6に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
(E)配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
[4]切断型の変異型CALR蛋白質中の配列番号1で表されるアミノ酸配列部分への結合において、[2]又は[3]の抗体と競合する抗体又はその機能的断片。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の抗体又はその機能的断片を含有する医薬組成物。
[6]骨髄増殖性腫瘍の診断、予防又は治療薬である[5]記載の医薬組成物。
[7]生体試料中の次の(a)又は(b)のポリペプチドを検出することを特徴とする骨髄増殖性腫瘍に関連する変異型CALR蛋白質の検出方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
[8](a)又は(b)のポリペプチドの検出が、[1]~[4]のいずれかに記載の抗体又はその機能的断片を用いる免疫学的検出である[7]記載の変異型CALR蛋白質の検出方法。
[9]次の(a)又は(b)のポリペプチドに結合する薬物をスクリーニングすることを特徴とする骨髄増殖性腫瘍治療薬のスクリーニング方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
[10]生体試料中の次の(a)又は(b)のポリペプチドを検出することを特徴とする骨髄増殖性腫瘍の診断方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
[11](a)又は(b)のポリペプチドの検出が、[1]~[4]のいずれかに記載の抗体又はその機能的断片を用いる免疫学的検出である[10]記載の診断方法。
[12][1]~[4]のいずれかに記載の抗体又はその機能的断片を投与することを特徴とする骨髄増殖性腫瘍の予防又は治療方法。
[13]骨髄増殖性腫瘍の診断に用いるための、[1]~[4]のいずれかに記載の抗体又はその機能的断片。
[14][1]~[4]のいずれかに記載の抗体又はその機能的断片の、骨髄増殖性腫瘍診断薬製造のための使用。
【発明の効果】
【0010】
前記(a)又は(b)のポリペプチド鎖中に抗原認識部位(エピトープ)を有する抗体を用いれば、変異型CALR蛋白質の切断によって生じた変異型CALR蛋白質を検出でき、細胞表面における変異型CALR蛋白質の検出感度が飛躍的に向上する。従って、本発明のMPN診断薬を用いれば、MPNの検出感度が飛躍的に向上する。また、この抗体を用いれば、MPNが特異的に予防又は治療できる。また、(a)及び(b)のポリペプチドに結合する薬物をスクリーニングすれば、MPN治療薬をスクリーニングできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】変異型CALR蛋白質の特徴を示す図である。骨髄増殖性腫瘍患者の発症原因であるCALR遺伝子変異は、+1フレームシフト変異であり、その結果できる変異型CALR蛋白質のカルボキシル末端には、変異型蛋白質に共通したアミノ酸配列が見出される。SP:シグナル配列、N:Nドメイン、P:Pドメイン。矢印は、野生型(WT)と異なるアミノ酸配列が始まる部分を示している。
図2】CALR蛋白質のアミノ末端側と変異型CALR蛋白質のカルボキシル末端側の配列を認識する抗体を示す図である。CALR蛋白質のアミノ末端側の配列を認識する抗体は、変異型CALR蛋白質の変異箇所よりアミノ末端側のアミノ酸配列を認識する市販の抗体(抗CALR抗体)である。また、変異型CALR蛋白質のカルボキシル末端の配列を認識する抗体は、CALR蛋白質のカルボキシル末端側に塩基配列の変異により新たに形成されたアミノ酸配列を認識する市販の抗体(抗変異型CALR抗体)である。
図3】UT-7/TPO細胞(Komatsu N.et al.,Blood,1996,87,4552-4556)から分泌された蛋白質を、図2の抗体を用いてイムノブロット解析した結果を示す図である。vecは、発現ベクターのみを導入した細胞であることから、UT-7/TPO細胞/CALR(WT)と同様に内在性のCALR蛋白質が検出される。Del 52型とIns 5型では、抗変異型CALR抗体により検出される全長型の変異型CALR蛋白質よりも分子量の小さな変異型CALR蛋白質が、抗CALR抗体でのみ検出される(図中のアスタリスク)。なお、Ins 5型では、全長型の変異型CALR蛋白質は、内在性の野生型CALR蛋白質とほぼ同じ位置に泳動されるため、抗CALR抗体で、特異的に検出することができない。
図4】変異型CALR蛋白質の代表的なDel 52型とIns 5型のアミノ(N)末端とカルボキシル(C)末端にFLAGタグ(FLAG-tag)を融合した蛋白質の模式図を示す。変異型特異的配列を黒色で、FLAGタグを斜線で図示した。
図5】抗FLAG抗体を用いたフローサイトメトリー解析により、細胞表面上における変異型CALR蛋白質の量を測定した結果を示す図である。切断の有無によらず、タグの残存するN末端にFLAGタグを配した変異型CALR蛋白質を発現する細胞では、変異型CALR蛋白質特異的配列内で生じる切断によりC末端FLAGが切り落とされる細胞に比べて、強いシグナルが検出された。なお、Del 52型の発現量がIns 5型よりも低いことによる差が見られる。
図6】変異型CALR蛋白質特異的配列(黒色)内で生じる蛋白質の切断部位よりもアミノ末端側にある、変異型特異的配列を認識する抗体を示す。
図7図6の抗体を用いて、図3で用いた細胞をフローサイトメトリー解析した結果を示す。FLAGタグの付加した位置による、認識力の違いが消失した。なお、Del 52型の発現量がIns 5型よりも低いことによる差が見られる。
図8】骨髄増殖性腫瘍患者細胞における切断型CALR蛋白質の検出を示す図である。変異型CALR蛋白質特異的配列内で生じる蛋白質の切断部位よりもアミノ末端側にあるアミノ酸配列を認識する抗体を用いて、患者細胞より調製した細胞抽出液をイムノブロット法で解析した。CALR遺伝子変異を有する骨髄増殖性腫瘍患者の末梢血単核球細胞や血小板において、当該抗体で認識できる切断型の変異型CALR蛋白質の発現が検出された。
図9】クローンB3、C6、G1抗体いずれも全長型と切断型の変異型CALR蛋白質を認識することを示す図である。UT-7/TPO細胞から分泌された蛋白質を、クローンB3抗体と、クローンC6、G1抗体を用いてイムノブロット解析した結果を示す図である。アミノ末端のシグナル配列の下流にFLAGタグを付加したDel 52型とIns 5型の全長型と、より低分子量の切断型の両方が、抗FLAG抗体と同様に、B3、C6、G1いずれの抗体を用いても検出される。
図10】クローンB3、C6、G1抗体いずれも細胞表面の変異型CALR蛋白質を認識することを示す図である。FLAGタグを付加したDel 52型あるいはIns 5型の変異型CALR蛋白質を発現するUT-7/TPO細胞、発現ベクターのみを導入したUT-7/TPO/vec細胞に対して、クローンB3抗体と、クローンC6、G1抗体を用いたフローサイトメトリー解析を行い、細胞表面上における変異型CALR蛋白質の量を測定した結果を示す図である。なお、Del 52型は、Ins 5型よりも、発現量が低いために、変異の型によるシグナル強度の差が見られる。
図11】クローンB3、C6、G1抗体の変異型CALR蛋白質に対する結合能の評価結果を示す図である。クローンB3抗体と、クローンC6、G1抗体、コントロールのラットIgGを用いて、Del 52型の変異型CALR蛋白質に対する結合特異性をELISA法により評価した。クローンB3、C6、G1抗体、いずれも濃度依存的な変異型CALR蛋白質との特異的な結合が検出された。
図12】クローンB3抗体と抗体の作成に用いた抗原に対する結合強度を、表面プラズモン共鳴解析法により評価した結果を示す図である。クローンB3抗体と抗体の作成に用いた抗原に対する結合強度を、表面プラズモン共鳴解析法により評価した。
図13A】イムノブロット法による、クローンB3、C6、G1抗体の抗原認識配列の同定結果を示す図である。Del 52型の変異型CALR蛋白質において、図中に記したアミノ酸をアラニン(A)に置換した蛋白質を発現し、それぞれの抗体の反応性をイムノブロット法を用いて評価した。Intactは、アミノ酸置換をしていないDel 52型の変異型CALR蛋白質を示している。黒太線で囲まれたアミノ酸は、抗体の作成に使用した抗原配列を示している。
図13B】ELISA法による、クローンB3、C6、G1抗体の抗原認識配列の同定結果を示す図である。図13Aと同じ蛋白質に対するそれぞれの抗体の反応性を、ELISA法を用いて評価した。Intactは、アミノ酸置換をしていないDel 52型の変異型CALR蛋白質を示している。黒太線で囲まれたアミノ酸は、抗体の作成に使用した抗原配列を示している。
図14】本発明抗体(B3、C6、G1)の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
図15】本発明抗体(B3、C6、G1)の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
図16】本発明抗体(B3、C6、G1)の重鎖可変領域の塩基配列を示す図である。
図17】本発明抗体(B3、C6、G1)の軽鎖可変領域の塩基配列を示す図である。
図18】B3マウスキメラ抗体によるMPNモデルマウスに対する治療効果を示す図である。Del 52型の変異型CALR蛋白質を発現させた造血幹細胞を移植して作出した骨髄増殖性腫瘍モデルマウス(CALR Del 52マウス)、あるいはコントロールベクターを導入した造血幹細胞を移植して作成したコントロールマウスに、移植後9週目から、毎週、B3キメラ抗体あるいは、溶媒(PBS)を投与し、骨髄増殖性腫瘍モデルマウスに特徴的な血小板増多の抑制効果を評価した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のMPNに関連する変異型CALR蛋白質の検出及び診断方法並びにMPNの予防又は治療の標的として用いられる前記(a)又は(b)のポリペプチドは、変異型CALR蛋白質に特異的な配列(図1中の変異型CALR蛋白質に共通する44アミノ酸)中で切断されて残存するカルボキシル末端側のポリペプチドである。
野生型CALR蛋白質は、図1に示すアミノ酸配列(配列番号2)を有する。また、CALR遺伝子変異の中で最も頻度の高い52塩基欠失型(Del 52)は、図1に示すアミノ酸配列(配列番号3)を有する。また、CALR遺伝子変異の中で、次に頻度の高い5塩基挿入型(Ins 5)は、図1に示すアミノ酸配列(配列番号4)を有する。また、図1中の枠で囲んだ領域は、変異型CALR蛋白質に共通するアミノ酸配列である。切断型の変異型CALR蛋白質は、この共通領域のアミノ末端側のわずか13アミノ酸のみを含む。この共通領域が切断され切断型の変異型CALR蛋白質が生じること、共通領域の大部分が変異型CALR蛋白質から失われることは、本発明者が初めて見出したことである。
【0013】
ポリペプチド(a)は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる。ポリペプチド(b)における、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、配列番号1において1~4個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましく、1~3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がより好ましい。より具体的には、配列番号1のカルボキシ末端側から3アミノ酸が欠失したアミノ酸配列がより好ましい。また、ポリペプチド(b)のアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列の同一性は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0014】
本発明のMPNに関連する変異型CALR蛋白質の検出方法及びMPN診断、予防、治療方法においては、生体試料中の前記(a)又は(b)のポリペプチドに結合する抗体又はその機能的断片が用いられる。
【0015】
前記抗体としては、(a)又は(b)のポリペプチド鎖中に抗原認識部位(エピトープ)を有する抗体であればよいが、切断型の変異型CALR蛋白質にのみ結合するものであっても、切断型の変異型CALR蛋白質と全長型の変異型CALR蛋白質の両方に結合するものであってもよく、切断型の変異型CALR蛋白質と全長型の変異型CALR蛋白質の両方に結合する「変異型CALR蛋白質」に特異的な抗体であることが好ましい。具体例としては、次の(c)、(d)及び(e)から選ばれる抗体が挙げられる。
(c)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号17、18及び19に示されるアミノ酸配列、又は配列番号17、18及び19に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号26、27及び28に示されるアミノ酸配列、又は配列番号26、27及び28に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
(d)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号20、21及び22に示されるアミノ酸配列、又は配列番号20、21及び22に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号29、30及び31に示されるアミノ酸配列、又は配列番号29、30及び31に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
(e)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号23、24及び25に示されるアミノ酸配列、又は配列番号23、24及び25に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号32、33及び34に示されるアミノ酸配列、又は配列番号32、33及び34に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗体。
【0016】
前記配列番号17~34に示されるアミノ酸配列における、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、配列番号17~34において1~4個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましく、1~3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がより好ましく、1~2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がさらに好ましい。また、配列番号17~34に示されるアミノ酸配列と、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列の同一性は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0017】
前記の(a)又は(b)のポリペプチド鎖中に抗原認識部位(エピトープ)を有する抗体としては、さらに次の(C)、(D)及び(E)から選ばれる抗体であるのが好ましい。
(C)配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
(D)配列番号6に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
(E)配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗体。
【0018】
前記配列番号5~10に示されるアミノ酸配列における、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、配列番号5~10において1~10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましく、1~8個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がより好ましく、1~5個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がさらに好ましい。また、配列番号5~10に示されるアミノ酸配列と、配列番号5~10に示されるアミノ酸配列の1~数個が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列の同一性は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0019】
本発明の抗体は、前記(c)~(e)の各CDRの配列、又は(C)~(E)の免疫グロブリンVH領域及びVL領域の配列を有するものであって、これらの領域以外の領域のアミノ酸配列は特に制限されない。従って、本発明の抗体は、ヒト抗体のようなラット以外の哺乳動物抗体でもよく、ヒト化抗体でもよい。より具体的には、ヒト以外の哺乳動物、例えば、ラット抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなるキメラ抗体であっても良く、この様な抗体はラット抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばラット抗体のCDRをヒト抗体のCDRへ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体例として、ラット抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のFRのアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res,1993,53,851-856.)。
【0020】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原又は所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227,WO92/03918,WO94/02602,WO94/25585,WO96/34096,WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388を参考にすることができる。
【0021】
抗体のクラスは特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。精製の容易性等を考慮すると好ましくはIgGである。
【0022】
機能的断片としては、抗体断片(フラグメント)等の低分子化抗体や抗体の修飾物が挙げられる。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、Diabodyなどを挙げることができる。
【0023】
また、本発明の抗体のうち、前記(a)又は(b)のポリペプチドの検出に用いる抗体はこれらのポリペプチドに結合すればよい。一方、MPNの予防又は治療に用いる抗体は、前記(a)又は(b)のポリペプチドに結合し、細胞傷害活性を有する抗体が好ましい。
【0024】
切断型の変異型CALR蛋白質に結合する抗体としては、配列番号1で表される配列を有するポリペプチド鎖に結合する抗体であればよいが、切断型の変異型CALR蛋白質中の配列番号1で表されるアミノ酸配列部分への結合において、少なくとも前記抗体又はその機能的断片のいずれか一つと競合する抗体であることが好ましい。
【0025】
ここで、前記検出に用いられる生体試料としては、例えば被験者から採取された生体試料であって、(a)又は(b)のポリペプチドが含まれる試料が挙げられる。具体的には、全血、血漿、血清、リンパ球、リンパ液、血小板、単核球、顆粒球、唾液や尿などの体液、骨髄生検により得られる組織標本(骨髄液、骨髄組織)などが挙げられる。
【0026】
(a)又は(b)のポリペプチドの検出手段としては、液体クロマトグラフィー質量分析法、免疫学的法、特異的結合能を有する低/中分子や核酸あるいは核酸誘導体を用いた方法等が挙げられるが、簡便かつ測定感度が高い免疫学的方法が好ましい。
【0027】
免疫学的方法としては、(a)又は(b)のポリペプチド鎖中に抗原認識部位(エピトープ)を有する抗体又はその機能的断片を用いる免疫学的方法が好ましい。(a)又は(b)のポリペプチド鎖中のエピトープとしては、(a)又は(b)のポリペプチド鎖中に存在する配列であればよく、(a)又は(b)のポリペプチド鎖中の連続する3アミノ酸以上のアミノ酸を有するペプチドが好ましく、(a)又は(b)のポリペプチド鎖中の連続する5アミノ酸以上のアミノ酸を有するペプチドがより好ましい。
【0028】
免疫学的方法に用いる抗体は、例えば(a)又は(b)のポリペプチド鎖中の連続する3アミノ酸以上のアミノ酸を有するペプチドを抗原として用いて得られる抗体であればよく、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。ここでモノクローナル抗体は、例えば(a)又は(b)のポリペプチド鎖中の連続する3アミノ酸以上のアミノ酸を有するペプチドを感作することにより得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させてハイブリドーマを作成し、目的とする抗体を産生するクローンを選択し、この細胞を増殖させて製造することができる。
【0029】
免疫学的方法としては、イムノクロマト法、酵素標識免疫学的測定法(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、凝集法、比濁法、フローサイトメトリー法、組織免疫染色法、ウェスタンブロット等のイムノブロット法等のいずれも用いることができる。ここでイムノブロット法は、ポリペプチドをメンブレンに転写し、メンブレン上のポリペプチドを抗体で検出する方法である。抗体の検出には、酵素標識、蛍光標識等が用いられる。
【0030】
生体試料中に(a)又は(b)のポリペプチドが検出されれば、当該生体試料は骨髄増殖性腫瘍患者由来の生体試料であると判定することができる。
【0031】
本発明のMPN診断薬は、前記(a)又は(b)のポリペプチド鎖中に抗原認識部(エピトープ)を有する抗体を含有する。この抗体は、前述の抗体であるのが好ましい。
また、本発明のMPN診断薬には、前記抗体の他、緩衝液、測定実施プロトコール等が含まれていてもよい。
【0032】
本発明のMPN予防又は治療薬等の医薬組成物は、前記の抗体を含有すればよいが、薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化して製造することができる。
【0033】
本発明の医薬組成物の予防又は治療対象となるMPNは、変異型CALRが検出されるMPNであるのが好ましい。
【0034】
経口投与用の好適な製剤は、本発明抗体を、水、生理食塩水のような希釈剤に有効量溶解させた液剤、有効量を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、顆粒剤、散剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量を懸濁させた懸濁液剤、有効量を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0035】
非経口投与用には、本発明抗体を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、坐剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、本発明の抗体を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、本発明の医薬は、油性又は水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、又は乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、本発明抗体を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液又は懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、本発明抗体を粉末化し、ラクトース又はデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、本発明抗体をカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに、本発明の治療剤は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。
【0036】
本発明のMPN治療薬のスクリーニング法は、前記(a)又は(b)のポリペプチドを認識する抗体や蛋白質、低/中分子、核酸あるいは核酸誘導体をスクリーニングすることを特徴とする。具体的には、(a)又は(b)のポリペプチドを認識する抗体を用いた抗体依存性細胞傷害活性や補体依存性細胞傷害活性を有する抗体医薬の開発が挙げられる。前記本発明の抗体が、本発明のスクリーニング法により得られた、抗体医薬の例である。この他にも、(a)又は(b)のポリペプチドに特異的に結合する低分子あるいは中分子化合物、核酸あるいは核酸誘導体、蛋白質などを作出し、殺細胞効果を有する低分子あるいは中分子化合物、核酸あるいは核酸誘導体、蛋白質などを腫瘍細胞特異的に送達する抗腫瘍薬の開発が挙げられる。
【実施例
【0037】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0038】
[試験例1]
(1)材料及び試験方法
[1]抗CALR抗体
Cell Signaling Technology社製ウサギモノクローナル抗体クローンD3E6(Cat#12238)
【0039】
[2]抗変異型CALR抗体
Dianova社製マウスモノクローナル抗体クローンCAL2(Cat#DIA-CAL)
【0040】
[3]切断部位よりもアミノ末端側の変異型CALR蛋白質を認識する抗体
配列番号1に含まれるアミノ酸配列(RRMMRTKMR)のカルボキシル末端あるいはアミノ末端にシステインを付加したペプチドを合成し、キャリアー蛋白質キーホールリンペットヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin;KLH)と結合させてから、8週齢のメスのWKY/Izmラットに免疫し、追加免疫後にリンパ球を回収した。リンパ球をマウスミエローマSP2細胞とPEG法により細胞融合させてから、選択培地で培養しハイブリドーマを取得した。培養上清中の抗体の特異性を、免疫したペプチドや精製蛋白質を用いたELISA法によりスクリーニングすることで、切断型を含む変異型CALR蛋白質に結合する抗体を産生するハイブリドーマ(クローンB3、C6及びG1)を取得した。これらのハイブリドーマから産生された抗体を精製し、試験に用いた(B3抗体、C6抗体及びG1抗体)。
【0041】
[4]試験方法
ヒト巨核芽球性白血病細胞株UT-7/TPOに、Del 52あるいはIns 5型の変異型CALR蛋白質を発現させることで腫瘍性に増殖するUT-7/TPO/CALR Del 52、UT-7/TPO/CALR Ins 5細胞と、コントロールとして野生型CALRを発現させたUT-7/TPO/CALR(WT)、遺伝子導入に使用したベクターのみを導入したUT-7/TPO/vec細胞を、6.0×10個/mLの密度でOptiMEM培地(Thermo Fisher社Cat#31985070)に播種し、5%CO存在下において37℃で32時間培養した。この際、UT-7/TPO/CALR WTとUT-7/TPO/vec細胞は、10ng/mL トロンボポエチン(Thrombopoietin;TPO)を含む培地で培養した。培養液から細胞を遠心分離(15,000g×10分、4℃)により除去した培養上清を取得し、得られた分画を還元剤存在下で加熱処理したあと、SDSポリアクリルアミド電気泳動法によりゲル上に展開した上で、ポリビリニデンジフルオライド(PVDF)膜に電気的に転写し、5%スキムミルクを含むTBS-T溶液(0.1%Tween-20、150mM塩化ナトリウム、50mM Tris-HCl、pH7.5)と室温で1時間反応させてから、野生型と変異型の両方を認識する抗体(ウサギモノクローナル抗体D3E6,Cell Signaling社Cat#12238)あるいは、変異型のカルボキシル末端配列を認識する市販の抗体(マウスモノクローナル抗体CAL2,Dianova社Cat# DIA-CAL-250)を含む5%BSA/TBS-T溶液と4℃において一晩反応させた。TBS-T溶液による洗浄を行なった後、ペルオキシダーゼ標識された抗ウサギIgG抗体(Santa Cruz社Cat#sc-2030)あるいはペルオキシダーゼ標識された抗マウスIgG抗体(Santa Cruz社Cat#sc-2005)を含む5%スキムミルク/TBS-T溶液中において、室温で1時間反応を行なった。PVDF膜をTBS-T溶液で洗浄した後に、ペルオキシダーゼ発光試薬(Thermo Fisher Scientific社Cat#34094)と反応させて得られたシグナルを、FUSION撮像装置(Vilber-Lourmat 社製)を使用して検出した。
【0042】
アミノ末端のシグナル配列の下流にヒスチジンタグを挿入したDel 52型の変異型CALR蛋白質を、HEK293T細胞内で発現させて、分泌された変異型CALR蛋白質を含む培養上清を遠心分離(15,000g×10分、4℃)により調製した。得られた上清をHisTrapカラム(GEヘルスケア社Cat#17531901)にアプライし、20mMイミダゾールを含有する精製バッファー(0.3M塩化ナトリウム、25mM Tris-HCl、pH7.4)でカラムを洗浄後、50mMイミダゾールを含有する精製バッファーを用いて変異型CALR蛋白質を精製した。精製蛋白質は、2-nitro-5-thiocyanobenzoic acid(NTCB)と反応させることでシステイン残基をシアノ化した後、アルカリ性条件下で断片化した後、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計を用いて、蛋白質断片の質量を同定し、Del 52型の変異型CALR蛋白質のペプチド配列情報から、切断部位を決定した。
【0043】
アミノ末端のシグナル配列の下流にFLAGタグで標識、あるいは、カルボキシル末端をFLAGタグで標識したDel 52型あるいはIns 5型の変異型CALR蛋白質を、UT-7/TPO細胞において発現させ、ウシ胎児非働化血清10%を含むIscove’s Modified Dulbecco’s(IMDM)培地を用いて、5%CO存在下において37℃で培養した。増殖期の細胞1×10個をPBS(137mM塩化ナトリウム、27mM塩化カリウムを含むリン酸緩液)で洗浄後に2% FBS/PBS溶液中で、マウス抗DYKDDDDK tag抗体(富士フイルム和光純薬社Cat#014-22383)あるいは、切断部位よりもアミノ末端側を認識するラット抗変異型CALR抗体と、氷上で30分間反応させた。反応後、2%FBS/PBS溶液を用いて細胞を洗浄したあと、2次抗体として、それぞれ抗マウスIgG-Alexa Fluor 647(Thermo Fisher Scientific社Cat#A21235)と抗ラットIgG-Alexa Fluor 647(Thermo Fisher Scientific社Cat#A21247)を2%FBS/PBS溶液中において氷上で30分間反応させた。反応終了後に遠心により回収した細胞に、2%パラホルムアルデヒドを含むPBS溶液を、氷上で15分反応させた。最後に、2%FBS/PBS溶液を加えてから、遠心分離(400g×5分、4℃)し、上清を廃棄することで細胞を洗浄し、2%FBS/PBS溶液を300μL加え、FACS Calibur(BD biosciences社製)を用いてフローサイトメトリー解析により、シグナルを定量した。
【0044】
ヒト末梢血単核球細胞は、凝固防止剤の含まれるスピッツ管に採血された末梢血を遠心分離(500g×10分、4℃)して得られる細胞画分をPBS溶液に懸濁した上で、リンパ球分離液Lymphosep(MP biomedicals社Cat#11444815)の上に重層し、遠心分離(1500rpm×30分、室温)することでバフィーコートを取得した。得られたバフィーコートにPBS溶液を加え、再懸濁した後、遠心分離(1500rpm×10分、室温)し、上清を除去することで、末梢血単核球細胞を取得した。得られた細胞をRIPA溶液(150mM塩化ナトリウム、1mM EDTA、1%NP-40、1%デオキシコール酸ナトリウム、2mMオルトバナジン(V)酸ナトリウム、10mM β-グリセロリン酸、1μg/mLアプロチニン、2μg/mL E-64、1μg/mLロイペプチン、0.67μg/mLベスタチン、0.67μg/mLペプスタチン、43.5μg/mL PMSF、20mM Tris-HCl、pH7.4)に懸濁した後、超音波破砕してから、遠心分離(15000g×15分、4℃)して上清を回収し、細胞抽出液を調製した。得られた細胞抽出液を還元剤存在下で加熱処理したあと、SDSポリアクリルアミド電気泳動法によりゲル上に展開した上で、ポリビリニデンジフルオライド(PVDF)膜に電気的に転写し、5%スキムミルクを含むTBS-T溶液と室温で1時間反応させてから、切断部位よりもアミノ末端側を認識するラット抗変異型CALR抗体を含む5%BSA/TBS-T溶液と4℃において一晩反応させた。TBS-T溶液による洗浄を行なった後、ペルオキシダーゼ標識された抗ラットIgG抗体(Santa Cruz社Cat#sc-2006)を含む5%スキムミルク/TBS-T溶液と室温で1時間反応を行なった。PVDF膜をTBS-T溶液で洗浄した後に、ペルオキシダーゼ発光試薬と反応させて得られたシグナルを、FUSION撮像装置を使用して検出した。
【0045】
血小板は、EDTAを含むスピッツ管に採血された末梢血を遠心分離(500g×10分、4℃)して得られる上清を、遠心分離(2000×g、15分、4℃)して得られた沈殿物を、血小板洗浄溶液(10mMクエン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、1mM EDTA、1%デキストロース、pH7.4)500μLで2回リンスすることで調製した。得られた血小板をRIPA溶液に懸濁した後、超音波破砕してから、遠心分離(15000g×15分、4℃)して上清を回収し、細胞抽出液を調製した。得られた細胞抽出液を還元剤存在下で加熱処理したあと、SDSポリアクリルアミド電気泳動法によりゲル上に展開した上で、ポリビリニデンジフルオライド(PVDF)膜に電気的に転写し、5%スキムミルクを含むTBS-T溶液と室温で1時間反応させてから、切断部位よりもアミノ末端側を認識するラット抗変異型CALR抗体(B3抗体)を含む5%BSA/TBS-T溶液と4℃において一晩反応させた。TBS-T溶液による洗浄を行なった後、ペルオキシダーゼ標識された抗ラットIgG抗体(Santa Cruz社Cat#sc-2006)を含む5%スキムミルク/TBS-T溶液と室温で1時間反応を行なった。PVDF膜をTBS-T溶液で洗浄した後に、ペルオキシダーゼ発光試薬と反応させて得られたシグナルを、FUSION撮像装置を使用して検出した。
【0046】
(2)結果
ヒト巨核芽球性白血病細胞株UT-7/TPOに、Del 52あるいはIns 5型の変異型CALR蛋白質を発現させることで腫瘍性に増殖するUT-7/TPO/CALR Del 52、UT-7/TPO/CALR Ins 5細胞と、コントロールとして野生型CALRを発現させたUT-7/TPO/CALR(WT)、遺伝子導入に使用したベクターのみを導入したUT-7/TPO/vecの培養上清中に含まれるCALR蛋白質を、野生型と変異型の両方を認識する抗体(モノクローナル抗体D3E6,Cell Signaling社Cat#12238)と、変異型のカルボキシル末端配列を認識する市販の抗体(モノクローナル抗体CAL2,Dianova社Cat# DIA-CAL-250)で評価した(図2)。その結果、図2に示すように、野生型と変異型CALR蛋白質を認識する抗体(B3抗体)を用いたイムノブロットにおいて、変異型CALR蛋白質を発現する細胞では、内在性のCALRの他に、変異型抗体で認識できないバンドが検出された(図3)。
【0047】
NTCBを用いてシステイン残基のアミノ末端側で断片化したペプチド断片のうち、変異型CALR蛋白質(Del 52型を使用)の切断型にのみ見出されたペプチド断片の分子量として、25827.7と25418.4を得た。この数値と、切断されたシステイン残基の位置から求めた推定分子量を比較することで、Del 52型の変異型CALR蛋白質の切断部位として、380番目のメチオニン残基と381番目のアルギニン残基の間と、377番目のメチオニン残基と378番目のアルギニン残基の間、を同定した。
【0048】
アミノ末端のシグナル配列の下流にFLAGタグで標識、あるいは、カルボキシル末端をFLAGタグで標識したDel 52型あるいはIns 5型の変異型CALR蛋白質を、UT-7/TPO細胞において発現させ、細胞表面における、変異型CALR蛋白質の発現について、抗FLAG抗体を用いたフローサイトメトリー解析を行うと、アミノ末端のFLAGタグを有する変異型CALR蛋白質を発現する細胞では、カルボキシル末端をFLAGタグ標識した変異型CALR蛋白質を発現する細胞に比べて、より強いシグナルが得られた(図4、5)。次に、切断部位よりもアミノ末端側で、かつ変異型CALR蛋白質に特異的な配列を含むペプチドを免疫して得られた抗体を用いて、図4、5の解析に用いた細胞株のフローサイトメトリー解析を行うと、FLAGタグの付加位置による検出量の違いが消失した(図6、7)。これにより、変異型CALR蛋白質に特異的な配列中で切断されて残存するカルボキシル末端側に抗原認識部位を設定することが、より高感度な検査薬あるいは、より強力な治療薬の創作に重要であることが示された。
【0049】
実際に、切断部位よりもアミノ末端側の変異型CALR特異的抗体を用いて、CALR遺伝子変異陽性の患者から得られた末梢血単核球や血小板の細胞抽出液をイムノブロット法を用いて解析したところ、細胞株の場合と同様に、切断された変異型CALR蛋白質の発現が確認された(図8)。これらのことから、実際に、患者細胞でも、同様の切断が生じていること、切断されて残存するカルボキシル末端側に抗原認識部位を設定することが、より高感度な検査薬あるいは、より強力な治療薬の創作に重要であることが示された。
【0050】
[試験例2]
(1)3種の抗体が、全長型と切断型の変異型CALR蛋白質を認識することの確認
アミノ末端のシグナル配列の下流にFLAGタグを挿入したDel 52型あるいはIns 5型の変異型CALR蛋白質を発現するUT-7/TPO細胞を培養し、分泌された変異型CALR蛋白質を含む培養上清を遠心分離(1,600g×5分、4℃)により調製した。得られた培養上清をSDSと還元剤存在下で加熱処理したあと、SDSポリアクリルアミド電気泳動法によりゲル上に展開した上で、ポリビリニデンジフルオライド(PVDF)膜に電気的に転写し、5%スキムミルクを含むTBS-T溶液と室温で1時間反応させてから、ラットクローンB3、C6、G1抗体、あるいはマウス抗DYKDDDDK tag抗体(富士フイルム和光純薬社Cat#014-22383)を含む5%BSA/TBS-T溶液と4℃において一晩反応させた。TBS-T溶液による洗浄を行なった後、それぞれ、ペルオキシダーゼ標識されたヤギ抗ラットIgG抗体(Jackson Immuno Research Inc.社Cat#112-035-003)、あるいはペルオキシダーゼ標識されたヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson Immuno Research Inc.社Cat#115-035-003)を含む5%スキムミルク/TBS-T溶液と室温で1時間反応を行なった。PVDF膜をTBS-T溶液で洗浄した後に、ペルオキシダーゼ発光試薬と反応させて得られたシグナルを、FUSION撮像装置を使用して検出した。
その結果、図9に示すように、クローンB3、C6、G1抗体いずれも全長型と切断型の変異型CALR蛋白質を認識することが確認された。
【0051】
(2)3種の抗体が、細胞表面の変異型CALR蛋白質を認識することの確認
アミノ末端のシグナル配列の下流にFLAGタグで標識したDel 52型あるいはIns 5型の変異型CALR蛋白質を、UT-7/TPO細胞において発現させ、ウシ胎児非働化血清10%を含むIMDM培地を用いて、5%CO2存在下において37℃で培養した。増殖期の細胞1×10個をPBSで洗浄後に2% FBS/PBS溶液中で、マウス抗DYKDDDDK tag抗体(富士フイルム和光純薬社Cat#014-22383)あるいは、ラットクローンB3、C6、G1抗体と、氷上で30分間反応させた。反応後、2%FBS/PBS溶液を用いて細胞を洗浄したあと、2次抗体として、それぞれ抗マウスIgG-Alexa Fluor 647(Thermo Fisher Scientific社Cat#A21235)と抗ラットIgG-Alexa Fluor 647(Thermo Fisher Scientific社Cat#A21247)を2% FBS/PBS溶液中において氷上で30分間反応させた。反応終了後に遠心により回収した細胞に、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS溶液を、氷上で15分反応させた。最後に、2%FBS/PBS溶液を加えてから、遠心分離(400g×5分、4℃)し、上清を廃棄することで細胞を洗浄し、2%FBS/PBS溶液を300μL加え、FACS Calibur(BD biosciences社製)を用いてフローサイトメトリー解析により、シグナルを定量した。
その結果、図10に示すように、クローンB3、C6、G1抗体いずれも、細胞表面の変異型CALR蛋白質を認識することが確認された。
【0052】
[試験例3]
(抗体の抗原結合力の評価)
(1)ELISAによる抗原結合力の評価
1ウエル当たり精製した100ngのDel 52型の変異型CALR蛋白質、あるいはコントロールのBSAを吸着させたELISAプレート(住友ベークライト Cat#MS-8896F)を、5mg/mL BSAを含むPBSで室温において1時間反応させた。PBSでウエルを洗浄したのち、0、6.25、12.5、25、50、100、200、400、800ng/mLのクローンB3、C6、G1抗体、あるいはラットIgG(Santa Cruz社Cat#2026)と5mg/mL BSAを含むPBSを、室温で1時間反応させた。PBSでウエルを洗浄したのち、16ng/mLのペルオキシダーゼ標識されたヤギ抗ラットIgG抗体(Jackson Immuno Research Inc.社Cat#112-035-003)と5mg/mL BSAを含むPBSを、室温で1時間反応させた。TBS-T溶液でウエルを洗浄したのち、TMB溶液(ナカライテスク Cat#05298-80)を添加して、室温で15分間反応させてから、1M硫酸水溶液を添加し、450nmと620nmの吸光度を測定し、吸光度の差を求めた上で、コントロールのBSAで得られた値を減じた値を算出した。
その結果、図11に示すように、本発明の抗体(B3、C6、G1)は、いずれも変異型CALR蛋白質と低濃度から結合することがわかる。
【0053】
(2)表面プラズモン共鳴解析による抗原結合力の評価
表面プラズモン共鳴解析装置Biacore T200(GEヘルスケア社)に表面プラズモン共鳴解析用のセンサーチップ(GEヘルスケア社Cat#BR100530)を装填してから、HBS-EPバッファー(GEヘルスケア社Cat#BR100669)で平衡化した。Acetate 5.5(GEヘルスケア社Cat#BR100352)で10μg/mLの濃度に調製したクローンB3抗体を、Amine coupling kit(GEヘルスケア社Cat#BR100050)を用いて、固定化量が200RUとなるよう固定化した。続いて、HBS-EPバッファーにより20、10、5、2.5、1.25nMの濃度に調製した、配列番号1に含まれるアミノ酸配列(RRMMRTKMR)のアミノ末端にシステインを付加したペプチドを用いて、表面プラズモン共鳴を測定し、BiacoreT200 Evaluation Softwareにより解離定数を取得した。
その結果、図12に示すように、本発明の抗体は、変異型CALR蛋白質と強力に結合することがわかる。
【0054】
[試験例4]
(抗体の抗原認識部位の同定)
クローンB3、C6、G1抗体がCALR変異蛋白質上で抗原に用いたアミノ酸配列を認識することを確認した。抗原に用いたアミノ酸とその周辺のアミノ酸を1つずつアラニンに置換した変異型CALR蛋白質に対するそれぞれの抗体の反応性をイムノブロット法(図13A)とELISA法(図13B)を用いて評価した。
【0055】
(1)イムノブロット法
Del 52型の変異型CALR蛋白質の367番目のスレオニン(T)から378番目のアルギニン(R)までの領域のアミノ酸を、1アミノ酸ずつアラニン(A)に置換した蛋白質、あるいは置換を行わなかった蛋白質をHEK293T細胞内で発現させて、分泌された変異型CALR蛋白質を含む培養上清を遠心分離(1,600g×5分、4℃)により調製した。得られた蛋白質溶液を、SDSと還元剤存在下で加熱処理したあと、SDSポリアクリルアミド電気泳動法によりゲル上に展開した上で、PVDF膜に電気的に転写し、5%スキムミルクを含むTBS-T溶液と室温で1時間反応させてから、ペルオキシダーゼ標識したクローンB3、C6、G1抗体あるいは、マウス抗CALR抗体(abcam社Cat#ab22683)を含む5%BSA/TBS-T溶液と4℃において一晩反応させた。マウス抗CALR抗体と反応させたPVDF膜は、TBS-T溶液による洗浄を行なった後、ペルオキシダーゼ標識された抗マウスIgG抗体(Jackson Immuno Research Inc.社Cat#115-035-003)を含む5%スキムミルク/TBS-T溶液中において、室温で1時間反応を行なった。続いて、すべてのPVDF膜をTBS-T溶液で洗浄した後に、ペルオキシダーゼ発光試薬(Thermo Fisher Scientific社Cat#34094)と反応させて得られたシグナルを、FUSION撮像装置(Vilber-Lourmat社製)を使用して検出した。
その結果、図13Aに示すように、本発明の抗体が、配列番号1の1番目のアルギニンから9番目のアルギニンの間を認識していることがわかる。
【0056】
(2)ELISA法
上記の方法で調製した変異型CALR蛋白質を吸着させたELISAプレートを、5mg/mL BSAを含むPBSで室温において1時間反応させた。PBSでウエルを洗浄したのち、200ng/mLのクローンB3、C6、G1抗体、あるいはマウス抗CALR抗体(Santa Cruz社Cat#sc-373863)と5mg/mL BSAを含むPBSを、室温で1時間反応させた。PBSでウエルを洗浄したのち、16ng/mLのペルオキシダーゼ標識されたヤギ抗ラットIgG抗体(Jackson Immuno Research Inc.社Cat#112-035-003)あるいはヤギ抗マウスIgG抗体(Santa Cruz社Cat#sc-2005)と5mg/mL BSAを含むPBSを、室温で1時間反応させた。TBS-T溶液でウエルを洗浄したのち、TMB溶液を添加して、室温で15分間反応させてから、1M硫酸水溶液を添加し、450nmと620nmの吸光度を測定し、吸光度の差を求めた。
その結果、図13Bに示すように、本発明の抗体が、配列番号1の1番目のアルギニンから9番目のアルギニンの間を認識していることがわかる。
【0057】
[試験例5]
(本発明抗体の配列情報の決定)
本発明の抗体(B3、C6、G1)の重鎖及び軽鎖の配列情報を、抗体を産生する細胞から、PureLinc RNA Miniキット(ThermoFisher社Cat#12183025)を使用して、mRNAを調製した。得られたmRNAを鋳型に、重鎖あるいは軽鎖特異的な逆転写プライマーを用いて、Rapid amplification of cDNA ends法によりcDNAを合成した後、プラスミドにクローニングした。得られたプラスミドをサンガーシークエンス解析することで、重鎖と軽鎖のcDNAの全長配列を決定した。
その結果を、図14図17及び配列番号5~34に示す。
【0058】
図14は、本発明抗体(B3、C6、G1)の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。図15は、本発明抗体(B3、C6、G1)の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。図16は、本発明抗体(B3、C6、G1)の重鎖可変領域の塩基配列を示す。図17は、本発明抗体(B3、C6、G1)の軽鎖可変領域の塩基配列を示す。
【0059】
配列番号5は、B3抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。配列番号6は、C6抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。配列番号7は、G1抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。配列番号8は、B3抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。配列番号9は、C6抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。配列番号10は、G1抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号11は、B3抗体の重鎖可変領域の塩基配列を示す。配列番号12は、C6抗体の重鎖可変領域の塩基配列を示す。配列番号13は、G1抗体の重鎖可変領域の塩基配列を示す。配列番号14は、B3抗体の軽鎖可変領域の塩基配列を示す。配列番号15は、C6抗体の軽鎖可変領域の塩基配列を示す。配列番号16は、G1抗体の軽鎖可変領域の塩基配列を示す。
【0060】
配列番号17は、B3抗体のVHのCDR1のアミノ酸配列を示す。配列番号18は、B3抗体のVHのCDR2のアミノ酸配列を示す。配列番号19は、B3抗体のVHのCDR3のアミノ酸配列を示す。配列番号20は、C6抗体のVHのCDR1のアミノ酸配列を示す。配列番号21は、C6抗体のVHのCDR2のアミノ酸配列を示す。配列番号22は、C6抗体のVHのCDR3のアミノ酸配列を示す。配列番号23は、G1抗体のVHのCDR1のアミノ酸配列を示す。配列番号24は、G1抗体のVHのCDR2のアミノ酸配列を示す。配列番号25は、G1抗体のVHのCDR3のアミノ酸配列を示す。配列番号26は、B3抗体のVLのCDR1のアミノ酸配列を示す。配列番号27は、B3抗体のVLのCDR2のアミノ酸配列を示す。配列番号28は、B3抗体のVLのCDR3のアミノ酸配列を示す。配列番号29は、C6抗体のVLのCDR1のアミノ酸配列を示す。配列番号30は、C6抗体のVLのCDR2のアミノ酸配列を示す。配列番号31は、C6抗体のVLのCDR3のアミノ酸配列を示す。配列番号32は、G1抗体のVLのCDR1のアミノ酸配列を示す。配列番号33は、G1抗体のVLのCDR2のアミノ酸配列を示す。配列番号34は、G1抗体のVLのCDR3のアミノ酸配列を示す。
【0061】
[試験例6]
(治療効果の評価)
クローンB3抗体の重鎖と軽鎖の可変領域と、対応するマウスIgG2aの重鎖と軽鎖の定常領域を融合したキメラB3抗体を作成し、Del 52型のCALR変異遺伝子を発現する造血幹細胞を移植して作出した骨髄増殖性腫瘍モデルマウスに投与し、キメラ抗体による治療効果を評価した。
クローンB3抗体の重鎖可変領域とマウスIgG2aの定常領域をコードする遺伝子配列あるいは、クローンB3抗体の軽鎖可変領域とマウイムノグロブリンκの定常領域をコードする遺伝子配列を連結して、B3マウスキメラ重鎖と軽鎖遺伝子を組み込んだ発現ベクターを、ExpiCHO-S細胞(ThermoFisher社Cat#A29127)に導入し、ExpiCHO Expression培地(ThermoFisher社Cat#A2910001)を用いて、5%CO存在下において37℃で、10日培養した。遠心分離(4,000g×30分、4℃)により培養上清を回収してから、HiTrap ProteinG HPカラム(GEヘルスケア社Cat#29048581)にキメラ抗体を吸着させたあと、0.1M Glycine-HCl(pH2.7)を用いて溶出し、1M Tris-HCl(pH 9.0)により中和した溶出画分を、PBSに透析してB3マウスキメラ抗体を調製した。
B3マウスキメラ抗体による治療効果の評価には、骨髄移植モデルマウスを用いた。8から10週齢のB6.CD45.1コンジェニックマウス(三協ラボ)の大腿骨から骨髄細胞を精製し、APC標識抗c-kit抗体で標識されるc-kit陽性細胞を分取してから、Ter119、CD4、CD8、Gr-1、CD45R、CD3e、CD11b陰性で、CD117とSca1陽性のLSK細胞を分取し、Del 52型の変異型CALR遺伝子を発現するpMSCV-IRES-GFPベクター、あるいはコントロールのベクターを包含するレトロウイルスを感染させた。感染72時間後に、1匹あたり4000個のLSK細胞を、6グレイx2回の放射線を照射した8から10週齢のC57BL/6Jマウス(オリエンタル酵母)に移植し、末梢血中の血小板数を多項目自動血球計数装置(シスメックス社 Cat#pocH-100iV Diff)により経時的に測定し、移植2ヶ月目に、変異型CALR遺伝子の発現により引き起こされる骨髄増殖性腫瘍の表現型である血小板増多を確認してから、移植後9週目より毎週、上記のB3マウスキメラ抗体を1匹あたり250μg、あるいは溶媒(PBS)を投与し、B3マウスキメラ抗体に特異的な血小板増多の抑制効果を評価した。
その結果、図18に示すように、本発明抗体は、MPNに対して優れた治療効果を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
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