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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】弾性波デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
H03H9/17 F
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021537314
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020029759
(87)【国際公開番号】W WO2021025004
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019145908
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】門田 道雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀治
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-528996(JP,A)
【文献】特開2005-051447(JP,A)
【文献】特表2015-502065(JP,A)
【文献】特開2013-225945(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198654(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/031748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板に接するよう設けられた電極と、
前記圧電基板および/または前記電極に接するよう設けられた音響多層膜とを有し、
前記音響多層膜は、少なくとも3層で、低音響インピーダンス膜と高音響インピーダンス膜とが交互に積層され、
前記音響多層膜の各低音響インピーダンス膜および各高音響インピーダンス膜のうち、前記少なくとも3層を構成する層の平均厚みが、バルク波の0.016波長~0.11波長であり、
前記バルク波の共振特性のうちの6GHz以上となる高次モードを利用するよう構成されていることを
特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記音響多層膜は、低音響インピーダンス膜と高音響インピーダンス膜とが交互に連続して3層以上20層以下で積層されていることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記音響多層膜は、前記低音響インピーダンス膜を1層以上、前記高音響インピーダンス膜を2層以上有し、1層の前記低音響インピーダンス膜の厚みまたはいずれか2層の各低音響インピーダンス膜の平均厚みと、いずれか2層の各高音響インピーダンス膜の平均厚みとの和が、前記バルク波の0.07~0.15波長であることを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記音響多層膜の各低音響インピーダンス膜および/または各高音響インピーダンス膜は、Mg合金、SiO、Al、Si、Ge、Ti、ZnO、Si、SiO(ここで、xおよびyは正の実数)、AlN、SiC、Al、Ag、Hf、TiO、Ni、Au、Ta、Mo、Pt、W、およびCuのうちの少なくとも1つを含む膜、または、これらのうちの少なくとも1つを含む酸化膜、窒化膜、炭化膜もしくはヨウ化膜から成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記圧電基板は、LiNbO、LiTaO、Li、またはランガサイトの単結晶から成ることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記圧電基板は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、66.5°~82°、0°~180°)および(90°±5°、90°±5°、0°~180°)のいずれか一方、または、これらのいずれか一方と結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電基板の厚みすべり振動を利用するよう構成されていることを
特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記圧電基板は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、119°~133°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電基板の厚み縦振動を利用するよう構成されていることを
特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電基板は、LiNbO結晶から成り、ストリップ型で、オイラー角が(0°±5°、-123°~-80°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電基板の厚みすべり振動を利用するよう構成されていることを
特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記圧電基板は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、56°~96°、0°~180°)および(90°±5°、90°±5°、0°~180°)のいずれか一方、または、これらのいずれか一方と結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電基板の厚みすべり振動を利用するよう構成されていることを
特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記圧電基板は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、112°~138°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電基板の厚み縦振動を利用するよう構成されていることを
特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記圧電基板は、LiTaO結晶から成り、ストリップ型で、オイラー角が(0°±5°、63°~91°、0°~180°)および(90°±5°、90°±5°、0°~180°)のいずれか一方、または、これらのいずれか一方と結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電基板の厚みすべり振動を利用するよう構成されていることを
特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項12】
前記圧電基板との間に前記音響多層膜を挟むよう、前記音響多層膜の前記圧電基板とは反対側に設けられた保持基板を有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項13】
圧電基板と、
前記圧電基板に接するよう設けられた電極と、
前記圧電基板および/または前記電極に接するよう設けられた音響多層膜とを有し、
バルク波の共振特性のうちの高次モードを利用するよう構成され、
前記圧電基板は2枚を重ね合わせて成り、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ、ψ)である、または、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ+180°)、下面のオイラー角が(φ、θ、ψ+180°)である、または、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ+180°)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ+180°)であり、
前記圧電基板の厚み縦振動の2倍波の約3倍または約5倍の高次モードを利用するよう構成されていることを
特徴とする弾性波デバイス。
【請求項14】
各圧電基板は、φ=-5°~5°、θ=119°~133°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiNbO結晶、または、φ=-5°~5°、θ=112°~138°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiTaO結晶から成ることを特徴とする請求項13記載の弾性波デバイス。
【請求項15】
圧電基板と、
前記圧電基板に接するよう設けられた電極と、
前記圧電基板および/または前記電極に接するよう設けられた音響多層膜とを有し、
バルク波の共振特性のうちの高次モードを利用するよう構成され、
前記圧電基板は2枚を重ね合わせて成り、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ、ψ)である、または、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ+180°)、下面のオイラー角が(φ、θ、ψ+180°)である、または、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ+180°)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ+180°)であり、
前記圧電基板の厚みすべり振動の2倍波の約3倍または約5倍の高次モードを利用するよう構成されていることを
特徴とする弾性波デバイス。
【請求項16】
各圧電基板は、φ=-5°~5°、θ=66.5°~82°、ψ=0°~180°、もしくはφ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiNbO結晶、または、φ=-5°~5°、θ=56°~96°、ψ=0°~180°、もしくはφ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiTaO結晶から成ることを特徴とする請求項15記載の弾性波デバイス。
【請求項17】
前記圧電基板は、ストリップ型であることを特徴とする請求項15記載の弾性波デバイス。
【請求項18】
各圧電基板は、φ=-5°~5°、θ=-123°~-80°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiNbO結晶、または、φ=-5°~5°、θ=63°~91°、ψ=0°~180°、もしくはφ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiTaO結晶から成ることを特徴とする請求項17記載の弾性波デバイス。
【請求項19】
前記音響多層膜は、1層以上の低音響インピーダンス膜と2層以上の高音響インピーダンス膜とが交互に積層されており、1層の前記低音響インピーダンス膜の厚みまたはいずれか2層の各低音響インピーダンス膜の平均厚みと、いずれか2層の各高音響インピーダンス膜の平均厚みとの和が、前記バルク波の0.02~0.09波長であることを特徴とする請求項13乃至18のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等で主に使用されている700MHzから3GHzの周波数帯には、80近くのバンドがあり、非常に混雑している、その対策として、第5世代移動通信システム(5G)では、3.6GHzから4.9GHzの周波数帯の利用が計画されており、また、その次の第6世代では、6GHz以上の周波数帯を使用する計画もなされている。
【0003】
従来、700MHzから3GHzの周波数帯では、圧電薄膜としてLiTaO結晶(LT)やLiNbO結晶(LN)を用いた弾性表面波(SAW)デバイスや、バルク波弾性波のFBAR(薄膜圧電共振子;Film Bulk Acoustic Resonator)デバイスが用いられている。しかし、SAWデバイスの周波数fは、基板の音速をV、すだれ状電極の周期(ピッチ)をpitchとすると、f=V/pitchで決まるため、音速やピッチの限界から、高周波側では3.5GHzが限界であった。
【0004】
一方、圧電薄膜を用いたバルク波弾性波のFBARデバイスには、圧電薄膜の上下に空洞を必要とする空洞型FBAR、および、圧電薄膜の片側の空洞の代わりに、音響多層膜と保持基板とを有する音響多層膜構造FBARがある。また、空洞型FBARには、AlNやScAlNの圧電薄膜を用いたもの(例えば、非特許文献1または2参照)や、LNの単結晶薄板を用いたものがある(例えば、非特許文献3参照)。前者の空洞型FBARでは、AlNやScAlN膜などがc軸配向しているため、用いるバルク波の振動モードは、厚み縦振動のみとなる。この縦波の音速は、(c33/密度)1/2で表され(c33は弾性スティッフネス定数)、励振周波数は、厳密には電極の質量負荷により低下するが、おおよそ音速/(2×膜厚)で表される。このため、励振周波数を高周波にするためには、圧電薄膜の膜厚を極端に薄くしなければならない。また、LNの単結晶薄板を用いた空洞型FBARでも、励振周波数は基板の厚みに反比例するため、励振周波数を高周波にするためには、圧電薄膜の膜厚を極端に薄くしなければならない。非特許文献1乃至3に記載の空洞型FBARでは、圧電薄膜の膜厚が0.9~2μmのとき、約2GHzの励振周波数と、60dB程度のインピーダンス比が得られている。
【0005】
しかし、これらの空洞型FBARのうち、圧電薄膜としてAlNやScAlNを用いたものは、これらが多結晶薄膜であるため、超高周波での減衰が大きく、良好な特性を実現するのが困難であるという問題があった。例えば、AlNを用いた空洞型FBARでは、2GHzで70dBのインピーダンス比が得られているが、5GHzのときには、インピーダンス比が50dBまで低下してしまうことが確認されている(例えば、非特許文献4または5参照)。
【0006】
また、高周波で使用するための音響多層膜構造FBARとして、ZnOから成る圧電薄膜(厚みt=波長/2)と、音響膜を多数積層した音響多層膜と、保持基板とを積層した構造を有するものが提案されている(例えば、非特許文献6参照)。この弾性波デバイスでは、基本モードの励振を大きくするために、各音響膜の厚みを、圧電薄膜の厚みの半分(すなわち、波長/4)としている。この弾性波デバイスも、バルク波の振動モードが厚み縦振動であるが、基本モードの3GHzで、実測で21dBのインピーダンス比しか得られておらず、AlN膜からなる空洞型FBARより特性が劣っているため、実用化には至っていない。
【0007】
また、音響多層膜構造FBARで、高い共振周波数が得られるものとして、上下電極の間に、ZnOおよびAlNのいずれかから成り、[0001]方向が圧電体薄膜の面に略平行な1方向に配向した第1の圧電体層と、[0001]方向が第1圧電体層と180°異なる方向に配向した第2の圧電体層とを重ねた圧電体薄膜を設けた高次モード薄膜共振器が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この共振器によれば、圧電体薄膜の厚さが同じ従来のものと比べて、共振周波数が2倍になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】John D. Larson III et al., “Power Handling and Temperature Coefficient Studies in FBAR Duplexers for the 1900 MHz PCS Band”, Proc. IEEE Ultrason. Symp., 2000, p.869-874
【文献】Keiichi Umeda et al., “PIEZOELECTRIC PROPERTIES OF ScAlN THIN FILMS FOR PIRZO-MEMS DEVICES”, Proc. MEMS (Taipei, Taiwan), 2013, p.20-24,
【文献】多井知義、他3名、「LiNbO3, LiTaO3を用いた単結晶FBARの開発」、Proceeding of Symposium on Ultrasonic Electronics、2007年、Vol. 28、p.151-152
【文献】Tsuyoshi Yokoyama et al., “Highly Piezoelectric Co-Doped AlN Thin Films for Wideband FBAR Applications”, IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. & Freq. Control, June 2015, Vol. 62, No. 6, p.1007-1015
【文献】T. Nishihara et al., “High Performance and Miniature Thin Film Bulk Acoustic Wave Filters for 5 GHz”, 2002 IEEE ULTRASONICS SYMPOSIUM, p.969-972
【文献】Hideaki Kobayashi et al., “Fabrication of Piezoelectric Thin Film Resonators with Acoustic Quarter-Wave Multilayers”, Japan, J. Appl. Phys., 2002, Vol. 40, p.3455-3457
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-36915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1および2に記載のような空洞型FBARや、非特許文献6に記載の音響多層膜構造FBARでは、それぞれ5GHzや3GHzでインピーダンス比が50dBまで低下しており、6GHz以上の超高周波数帯では、インピーダンス比が大きい良好な特性を得ることはできないという課題があった。また、非特許文献1乃至3に記載のような空洞型FBARは、6GHz以上の超高周波数帯では、圧電薄膜が0.3~0.6μmと極端に薄くなるため、機械的強度を保つのが困難であるという課題もあった。特に、非特許文献3に記載の空洞型FBARは、圧電薄膜がLN単結晶薄板であるため、多結晶薄膜より機械的強度が得られず、実用化することはできない。
【0011】
音響多層膜構造FBARである特許文献1に記載の高次モード薄膜共振器は、非特許文献1乃至3に記載のような基本波を用いた空洞型FBARと比べ、同じ共振周波数では、圧電体薄膜の厚みは2倍となるが、圧電体薄膜を構成する2枚の圧電体層は、従来の圧電体薄膜と同じ厚みとなる。このため、6GHz以上の超高周波数帯では、各圧電体層が極端に薄くなり、これらの機械的強度を保つのが困難であるという課題があった。また、6GHz以上の超高周波数帯では、圧電体薄膜が2倍の厚みになっても、まだ非常に薄いため、圧電体薄膜自体の機械的強度を保つのも困難であるという課題もあった。また、周波数が560MHzの時でさえ12dBのインピーダンス比しか得られておらず、6GHzになると、インピーダンス比はさらに小さくなるため、実用化は困難であるという課題もあった。なお、非特許文献6や特許文献1に記載のような音響多層膜構造FBARは、多結晶圧電薄膜を用いたものしかなく、基本モードですら良好な特性が実現されておらず、その周波数は3GHz以下である。
【0012】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、6GHz以上の超高周波数帯で、良好な特性を得ることができると共に、十分な機械的強度を保つことができる弾性波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る弾性波デバイスは、圧電基板と、前記圧電基板に接するよう設けられた電極と、前記圧電基板および/または前記電極に接するよう設けられた音響多層膜とを有し、前記音響多層膜は、少なくとも3層で、低音響インピーダンス膜と高音響インピーダンス膜とが交互に積層され、前記音響多層膜の各低音響インピーダンス膜および各高音響インピーダンス膜のうち、前記少なくとも3層を構成する層の平均厚みが、バルク波の0.016波長~0.11波長であり、前記バルク波の共振特性のうちの6GHz以上となる高次モードを利用するよう構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る弾性波デバイスは、音響多層膜により、基本モード(0次)より周波数が高い高次モード(オーバートーン)(1次モード、2次モード、・・・)を励振することができる。また、圧電基板の種類や音響多層膜の各層の厚みを調製することにより、大きいインピーダンス比を有する高次モードを得ることができる。本発明に係る弾性波デバイスは、この高次モードを利用することにより、6GHz以上の超高周波数帯で、インピーダンス比が大きい良好な特性を得ることができる。また、高次モードを利用することにより、圧電基板を極端に薄くする必要がなく、圧電基板の上下に空洞を必要としないため、6GHz以上の超高周波数帯でも、十分な機械的強度を保つことができる。ここで、インピーダンス比は、共振周波数における共振インピーダンスZrと、反共振周波数における反共振インピーダンスZaとの比[20×log(Za/Zr)]である。
【0015】
本発明に係る弾性波デバイスで、電極は、2つ以上から成ることが好ましい。また、電極は、圧電基板の一方の表面全体を覆っていてもよく、圧電基板の一部を覆っていてもよい。また、電極は、平面形状が円形や多角形、楕円形など、いかなる形状であってもよい。また、本発明に係る弾性波デバイスは、圧電基板の両面にそれぞれ電極を有する構造であってもよく、2つの共振子が直列に接続された構造、すなわち圧電基板と音響多層膜との間に共通電極を有し、圧電基板の音響多層膜とは反対側の表面に2つの電極を有する構造であってもよい。また、圧電基板の片面または両面に電極を複数有し、圧電基板上に3個以上の共振子を形成し、それらを直列および/または並列に接続することにより、ラダーフィルタや多重モードフィルタを形成してもよい。なお、圧電基板には、圧電薄膜や圧電薄板も含まれる。
【0016】
本発明に係る弾性波デバイスで、前記音響多層膜は、低音響インピーダンス膜と高音響インピーダンス膜とが交互に連続して3層以上20層以下で積層されていることが好ましい。また、この場合、その音響インピーダンス膜は、圧電基板に近い層に形成されることが好ましい。また、前記音響多層膜は、前記低音響インピーダンス膜を1層以上、前記高音響インピーダンス膜を2層以上有し、1層の前記低音響インピーダンス膜の厚みまたはいずれか2層の各低音響インピーダンス膜の平均厚みと、いずれか2層の各高音響インピーダンス膜の平均厚みとの和が、前記バルク波の0.07~0.15波長であってもよい。これらにより、基本モードの約3倍以上の周波数で、高次モードを励振することができる。なお、バルク波の波長は、2×(圧電基板の厚み)で定義される。圧電基板の厚みtに、圧電基板両面の電極の平均厚mtを含めた実効的な厚み(t+mt)で定義されることもある。
【0017】
本発明に係る弾性波デバイスで、前記音響多層膜の各低音響インピーダンス膜および/または各高音響インピーダンス膜は、例えば、Mg合金、SiO、Al、Si、Ge、Ti、ZnO、Si、SiO(ここで、xおよびyは正の実数)、AlN、SiC、Al、Ag、Hf、TiO、Ni、Au、Ta、Mo、Pt、W、およびCuのうちの少なくとも1つを含む膜、または、これらのうちの少なくとも1つを含む酸化膜、窒化膜、炭化膜もしくはヨウ化膜から成ることが好ましい。低音響インピーダンス膜は、隣り合う高音響インピーダンス膜よりも、音響インピーダンスが小さいものから成っていればよい。
【0018】
本発明に係る弾性波デバイスで、前記圧電基板は、LiNbO、LiTaO、Li、またはランガサイトの単結晶から成ることが好ましい。この場合、高次モードを励振しやすい。なお、FBARで用いられるAlNやScAlNなどのc軸配向した圧電多結晶薄膜は、圧電定数が小さいため、高次モードを励振することが難しい。また、LiNbO(LN)やLiTaO(LT)などの単結晶の圧電基板は、結合係数が大きく、成膜による多結晶膜とは異なり、任意の方位角を使用することができる。このため、バルク波の縦波を利用した厚み縦振動に加え、横波を利用した厚みすべり振動も使用することができる。
【0019】
本発明に係る弾性波デバイスは、LiNbO結晶から成る圧電基板の厚みすべり振動を利用する場合、大きいインピーダンス比を得るために、圧電基板は、オイラー角が(0°±5°、66.5°~82°、0°~180°)および(90°±5°、90°±5°、0°~180°)のいずれか一方、または、これらのいずれか一方と結晶学的に等価なオイラー角であることが好ましく、オイラー角が(0°±5°、70°~81°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることがより好ましく、オイラー角が(0°±5°、72°~78°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることがさらに好ましい。
【0020】
また、LiNbO結晶から成る圧電基板の厚み縦振動を利用する場合、大きいインピーダンス比を得るために、圧電基板は、オイラー角が(0°±5°、119°~133°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることが好ましく、オイラー角が(0°±5°、123°~129°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることがより好ましい。
【0021】
また、LiNbO結晶から成るストリップ型の圧電基板の厚みすべり振動を利用する場合、大きいインピーダンス比を得るために、圧電基板は、オイラー角が(0°±5°、-123°~-80°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることが好ましく、オイラー角が(0°±5°、-112°~-90°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることがより好ましい。
【0022】
本発明に係る弾性波デバイスは、LiTaO結晶から成る圧電基板の厚みすべり振動を利用する場合、大きいインピーダンス比を得るために、圧電基板は、オイラー角が(0°±5°、56°~96°、0°~180°)および(90°±5°、90°±5°、0°~180°)のいずれか一方、または、これらのいずれか一方と結晶学的に等価なオイラー角であることが好ましく、オイラー角が(0°±5°、62°~93°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることがより好ましい。
【0023】
また、LiTaO結晶から成る圧電基板の厚み縦振動を利用する場合、大きいインピーダンス比を得るために、圧電基板は、オイラー角が(0°±5°、112°~138°、0°~180°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることが好ましい。
【0024】
また、LiTaO結晶から成るストリップ型の圧電基板の厚みすべり振動を利用する場合、大きいインピーダンス比を得るために、圧電基板は、オイラー角が(0°±5°、63°~91°、0°~180°)および(90°±5°、90°±5°、0°~180°)のいずれか一方、または、これらのいずれか一方と結晶学的に等価なオイラー角であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る弾性波デバイスは、前記圧電基板との間に前記音響多層膜を挟むよう、前記音響多層膜の前記圧電基板とは反対側に設けられた保持基板を有することが好ましい。保持基板は、圧電基板や電極、音響多層膜を支持可能であれば、いかなるものから成っていてもよく、例えば、Si基板、水晶基板、サファイア基板、ガラス基板、石英基板、ゲルマニウム基板、アルミナ基板などから成っている。
【0026】
本発明に係る弾性波デバイスは、大きいインピーダンス比を得るために、圧電基板と、前記圧電基板に接するよう設けられた電極と、前記圧電基板および/または前記電極に接するよう設けられた音響多層膜とを有し、バルク波の共振特性のうちの高次モードを利用するよう構成され、前記圧電基板は2枚を重ね合わせて成り、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ、ψ)である、または、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ+180°)、下面のオイラー角が(φ、θ、ψ+180°)である、または、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ+180°)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ+180°)であり、前記圧電基板の厚み縦振動の2倍波の約3倍または約5倍の高次モードを利用するよう構成されていてもよい。この場合、各圧電基板は、φ=-5°~5°、θ=119°~133°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiNbO結晶、または、φ=-5°~5°、θ=112°~138°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiTaO結晶から成ることが好ましい。なお、圧電基板を2枚重ね合わせたときのバルク波の波長は、2×(2枚の圧電基板の合計厚み)である。
【0027】
また、本発明に係る弾性波デバイスは、大きいインピーダンス比を得るために、圧電基板と、前記圧電基板に接するよう設けられた電極と、前記圧電基板および/または前記電極に接するよう設けられた音響多層膜とを有し、バルク波の共振特性のうちの高次モードを利用するよう構成され、前記圧電基板は2枚を重ね合わせて成り、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ、ψ)である、または、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ+180°)、下面のオイラー角が(φ、θ、ψ+180°)である、または、一方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ)、他方の圧電基板は、上面のオイラー角が(φ、θ、ψ+180°)、下面のオイラー角が(φ、θ+180°、ψ+180°)であり、前記圧電基板の厚みすべり振動の2倍波の約3倍または約5倍の高次モードを利用するよう構成されていてもよい。この場合、前記圧電基板は、ストリップ型であってもよい。
【0028】
また、この場合、厚みすべり振動を利用するとき、各圧電基板は、φ=-5°~5°、θ=66.5°~82°、ψ=0°~180°、もしくはφ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiNbO結晶、または、φ=-5°~5°、θ=56°~96°、ψ=0°~180°、もしくはφ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiTaO結晶から成ることが好ましい。また、ストリップ型のとき、各圧電基板は、φ=-5°~5°、θ=-123°~-80°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiNbO結晶、または、φ=-5°~5°、θ=63°~91°、ψ=0°~180°、もしくはφ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、もしくはこれらと結晶学的に等価なオイラー角を有するLiTaO結晶から成ることが好ましい。
【0029】
また、これらの圧電基板が2枚を重ね合わせて成る場合、前記音響多層膜は、1層以上の低音響インピーダンス膜と2層以上の高音響インピーダンス膜とが交互に積層されており、1層の前記低音響インピーダンス膜の厚みまたはいずれか2層の各低音響インピーダンス膜の平均厚みと、いずれか2層の各高音響インピーダンス膜の平均厚みとの和が、前記バルク波の0.02~0.09波長であることが好ましい。
【0030】
ここで、オイラー角(φ、θ、ψ)は、右手系であり、圧電基板の切断面と、弾性波の伝搬方向とを表現するものである。すなわち、圧電基板を構成する結晶や、LTまたはLNの結晶軸X、Y、Zに対し、Z軸を回転軸としてX軸を反時計廻りにφ回転し、X’軸を得る。次に、そのX’軸を回転軸としてZ軸を反時計廻りにθ回転しZ’軸を得る。このとき、Z’軸を法線とし、X’軸を含む面を、圧電基板の切断面とする。また、Z’軸を回転軸としてX’軸を反時計廻りにψ回転した方向を、弾性波の伝搬方向とする。また、これらの回転によりY軸が移動して得られる、X’軸およびZ’軸と垂直な軸を、Y′軸とする。
【0031】
オイラー角をこのように定義することにより、例えば、40°回転Y板X方向伝搬は、オイラー角で(0°、-50°、0°)と表され、40°回転Y板90°X方向伝搬は、オイラー角で(0°、-50°、90°)と表される。なお、圧電基板を所望のオイラー角で切り出す際には、オイラー角の各成分に対して、最大で±0.5°程度の誤差が発生する可能性がある。弾性波の特性に関しては、(φ、θ、ψ)のオイラー角のうち、φ、ψに関しては、±5°程度のずれによる特性差はほとんどない。また、オイラー角(0°、θ、0°)に対し、(0°、θ+360°、0°)は、オイラー角で等価な面である。一方、(0°、θ+180°、0°)は、(0°、θ、0°)とはオイラー角で等価な面ではないが、基板の表裏の関係にある。しかし、圧電基板を単板で用いるときの弾性波デバイスでは、表と裏でも同じ特性を示すため、ここでは、基板の表裏の関係の方位も、等価な面とみなす。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、6GHz以上の超高周波数帯で、良好な特性を得ることができると共に、十分な機械的強度を保つことができる弾性波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】(a)本発明の実施の形態の弾性波デバイスを示す斜視図、(b) (a)の側面図、(c) (a)の弾性波デバイスの、上部電極が2つの変形例を示す斜視図、(d) (c)の側面図、(e) (a)の弾性波デバイスの、上部電極が3つの変形例を示す斜視図、(f) (e)の側面図、(g) (e)の等価回路である。
図2】(a)本発明の実施の形態の弾性波デバイスの、細長いストリップ(strip)型の構造を成す変形例を示す斜視図、(b) (a)の側面図、(c) (a)の弾性波デバイスの、上部電極が2つの変形例を示す斜視図、(d) (c)の側面図、(e) (a)の弾性波デバイスの、細長い溝状の切込を有する変形例を示す斜視図、(f) (e)の側面図、(g) (a)の弾性波デバイスの、上部電極が3つの変形例を示す斜視図、(h) (g)の側面図、(i) (g)の等価回路である。
図3図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、75°、ψ)LN基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを、励起されるバルク波の(a)0.25波長、(b)0.05波長としたときの、厚みすべり振動の周波数特性を示すグラフである。
図4図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、θ、ψ)LN基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、厚みすべり振動の高次モードの(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)のθ依存性を示すグラフである。
図5図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、75°、ψ)LN基板とし、(a)高音響インピーダンス膜の厚さを0.0625波長としたときの、低音響インピーダンス膜の厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフ、(b)低音響インピーダンス膜の厚さを0.0625波長としたときの、高音響インピーダンス膜の厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフ、(c)音響多層膜の各層の平均厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図6図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、75°、ψ)LN基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、音響多層膜の層数と、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図7図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(90°、90°、ψ)LN基板としたときの、音響多層膜の各層の平均厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図8図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、(a)圧電基板を(0°、126°、ψ)LN基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、厚み縦振動の周波数特性を示すグラフ、(b)圧電基板を(0°、θ、ψ)LN基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、厚み縦振動の高次モードのインピーダンス比のθ依存性を示すグラフ、(c)圧電基板を(0°、126°、ψ)LN基板としたときの、音響多層膜の各層の平均厚さと、厚み縦振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図9図2(a)および(b)に示すストリップ型の弾性波デバイスの、(a)圧電基板を(0°、θ、18°)LN基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比のθ依存性を示すグラフ、(b)圧電基板を(0°、-100°、18°)LN基板としたときの、音響多層膜の各層の平均厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図10図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、(a)圧電基板を(0°、θ、ψ)のLT基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比のθ依存性を示すグラフ、(b)圧電基板を(0°、74°、ψ)LT基板としたときの、音響多層膜の各層の平均厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフ、(c)圧電基板を(90°、90°、ψ)LT基板としたときの、音響多層膜の各層の平均厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図11図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、(a)圧電基板を(0°、θ、ψ)LT基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、厚み縦振動の高次モードのインピーダンス比のθ依存性を示すグラフ、(b)圧電基板を(0°、130°、ψ)LT基板としたときの、音響多層膜の各層の平均厚さと、厚み縦振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図12図2(a)および(b)に示すストリップ型の弾性波デバイスの、(a)圧電基板を(0°、θ、ψ)LT基板とし、音響多層膜の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比のθ依存性を示すグラフ、(b)圧電基板を(0°、74°、175°)LT基板としたときの、音響多層膜の各層の平均厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフ、(c)圧電基板を(90°、90°、37°)LT基板としたときの、音響多層膜の各層の平均厚さと、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図13図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(90°、90°、ψ)LN基板としたときの、任意の2層の低音響インピーダンス膜の平均厚みと2層の高音響インピーダンス膜の平均厚みとの和と、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図14】本発明の実施の形態の弾性波デバイスの、圧電基板が2枚から成る変形例を示す側面図である。
図15図14に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、126°、ψ)LN基板(0°、306°、ψ)/(0°、306°、ψ)LN基板(0°、126°、ψ)としたときの、厚み縦振動の周波数特性を示すグラフである。
図16】(a) 図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、126°、0°)LN基板としたときの、厚み縦振動の基本モードの約3倍の高次モード付近、(b) 図15に示す厚み縦振動の2倍波の約3倍の高次モード(9.8GHz)付近の周波数特性を示すグラフである。
図17図14に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、126°、ψ)LN基板(0°、306°、ψ)/(0°、306°、ψ)LN基板(0°、126°、ψ)としたとき、および、圧電基板を(0°、126°、ψ)LN基板(0°、306°、ψ)/(0°、306°、ψ+180°)LN基板(0°、126°、ψ+180°)としたとき、ならびに、図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、126°、ψ)LN基板としたときの、(a)低音響インピーダンス膜の厚さと、厚み縦振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフ、(b)低音響インピーダンスの平均厚さと高音響インピーダンスの平均厚さの和と、厚み縦振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
図18図14に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、254°、0°)LN基板(0°、74°、0°)、(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、254°、180°)LN基板(0°、74°、180°)、(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、74°、180°)LN基板(0°、254°、180°)、(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、254°、90°)LN基板(0°、74°、90°)、および(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、74°、90°)LN基板(0°、254°、90°)としたとき、ならびに、図1(a)および(b)に示す弾性波デバイスの、圧電基板を(0°、74°、0°)LN基板としたときの、低音響インピーダンスの平均厚さと高音響インピーダンスの平均厚さの和と、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図18は、本発明の実施の形態の弾性波デバイスを示している。
図1および図2に示すように、弾性波デバイス10は、バルク波の共振特性のうちの高次モードを利用するよう構成されており、圧電基板11と電極12と音響多層膜13と保持基板14とを有している。
【0035】
圧電基板11は、LiNbO、LiTaO、Li、またはランガサイトの単結晶から成っている。電極12は、2つ以上から成り、それぞれ薄い板状を成している。各電極12は、圧電基板11の表面に沿って、それぞれ圧電基板11の一方の表面または他方の表面に貼り付けられている。各電極12は、圧電基板11の表面全体を覆うよう設けられていてもよく、圧電基板11の表面の一部を覆うよう設けられていてもよい。また、各電極12は、平面形状がいかなる形状であってもよく、図1(a)に示すように円形であってもよく、図1(c)、(e)に示すように矩形状であってもよい。
【0036】
また、図1(a)、(b)、図2(a)、(b)、(e)、(f)に示すように、電極12は1対から成り、それぞれ圧電基板11の一方の表面および他方の表面に設けられていてもよい。また、図1(c)、(d)、図2(c)、(d)に示すように、電極12は3つから成り、2つの共振子が直列に接続された構造を成すよう、1つの電極12が、共通電極として圧電基板11の一方の表面を覆うよう設けられ、残りの2つの電極12が、圧電基板11の他方の表面に並べて設けられていてもよい。また、図1(e)、(f)、図2(g)、(h)に示すように、電極12は4つから成り、3つの共振子が直列または並列に接続された構造を成すよう、1つの電極12が、共通電極として圧電基板11の一方の表面を覆うよう設けられ、残りの3つの電極12が、圧電基板11の他方の表面に並べて設けられていてもよい。また、それらの電極12の個数がさらに多くてもよい。
【0037】
図1および図2に示すように、音響多層膜13は、圧電基板11の一方の表面に設けられた電極12の、圧電基板11とは反対側の面に貼り付けられている。音響多層膜13は、圧電基板11の側からその反対側に向かって、低音響インピーダンス膜13aと高音響インピーダンス膜13bとが交互に積層されている。また、音響多層膜13は、低音響インピーダンス膜13aと高音響インピーダンス膜13bとが交互に連続して3層以上20層以下で積層されていることが好ましい。図1および図2に示す具体的な一例では、最も圧電基板11に近い層が低音響インピーダンス膜13aであり、低音響インピーダンス膜13aと高音響インピーダンス膜13bとが交互に連続して6層積層されている。
【0038】
各低音響インピーダンス膜13aおよび各高音響インピーダンス膜13bは、バルク波の縦波および横波のいずれを利用する場合にも、表1または表2に示す材料の少なくとも1つを含む膜、または、これらのうちの少なくとも1つを含む酸化膜、窒化膜、炭化膜もしくはヨウ化膜から成っている。なお、表1中のZlは、バルク波の縦波の音響インピーダンス、c33は弾性スティッフネス定数、表2中のZsは、バルク波の横波の音響インピーダンス、c44は弾性スティッフネス定数である。また、表1および表2中のSiの、xおよびyは正の実数である。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
各低音響インピーダンス膜13aは、隣り合う高音響インピーダンス膜13bよりも、音響インピーダンスが小さいものから成っている。各低音響インピーダンス膜13aは、同じものから成っていてもよいが、異なるものから成っていてもよい。また、各高音響インピーダンス膜13bも、同じものから成っていてもよいが、異なるものから成っていてもよい。図1および図2に示す具体的な一例では、各低音響インピーダンス膜13aはAl膜、各高音響インピーダンス膜13bはW膜から成っている。
【0042】
保持基板14は、圧電基板11との間に音響多層膜13を挟むよう、音響多層膜13の圧電基板11とは反対側の面に貼り付けられている。保持基板14は、圧電基板11や電極12、音響多層膜13を支持するよう設けられている。図1および図2に示す具体的な一例では、保持基板14は、Si基板から成っているが、その他にも、水晶基板やサファイア基板、ガラス基板、石英基板、ゲルマニウム基板、アルミナ基板などから成っていてもよい。
【0043】
弾性波デバイス10は、図1(a)および(b)に示すように、電極12が1対から成るものであってもよい。また、図1(c)および(d)に示すように、圧電基板11の他方の表面、すなわち音響多層膜13とは反対側の面に、電極(上部電極)12が2つ、圧電基板11の一方の表面に、電極(下部電極)12が1つ設けられた、2つの共振子が直列に接続された構造を成していてもよい。この場合、上部電極12を入出力電極、下部電極12をアース共通電極とすることにより、多重モードフィルタを構成可能である。
【0044】
また、弾性波デバイス10は、図2に示すように、細長いストリップ(strip)型の構造を成していてもよい。この構造では、圧電基板11の他方の表面、すなわち音響多層膜13とは反対側の面に設けられた電極12の、1対の長辺側の側面が、圧電基板11の側面の位置に揃うよう形成されている。この場合、図2(a)および(b)に示すように、電極12が1対から成るものであってもよい。また、図2(c)および(d)に示すように、圧電基板11の他方の表面に、電極(上部電極)12が2つ、圧電基板11の一方の表面に、電極(下部電極)12が1つ設けられた、2つの共振子が直列に接続された構造を成していてもよい。この場合、上部電極12を入出力電極、下部電極12をアース共通電極とすることにより、多重モードフィルタを構成可能である。また、図2(e)および(f)に示すように、圧電基板11から音響多層膜13まで、それぞれ対向する一対の側縁に、その側縁間の幅が狭くなるよう、一方の端部と他方の端部とを残して細長い溝状(矩形状)の切込15を入れて、ストリップ(strip)型の構造を形成していてもよい。
【0045】
また、弾性波デバイス10は、図1(e)、(f)、図2(g)、(h)に示すように、上部電極12が3つ、下部電極が1つ設けられ、それらの電極12が接続された構造を成していてもよい。この場合、3つの上部電極12を、それぞれフィルタの入力電極、出力電極、アース共通電極とし、下部電極12をその3つの共振子を接続する共通電極とすることにより、それぞれ図1(g)および図2(i)の等価回路で示すT型ラダーフィルタを構成可能である。また、上部電極12、下部電極12がそれぞれ、4個以上、2個以上あってもよい。この場合、さらに段数の多いラダーフィルタを構成可能である。なお、図1に示す弾性波デバイス10は、圧電基板11の厚みすべり振動、または、圧電基板11の厚み縦振動を利用することができる。また、図2に示す弾性波デバイス10は、圧電基板11の厚みすべり振動を利用することができる。
【0046】
次に、作用について説明する。
弾性波デバイス10は、音響多層膜13により、基本モード(0次)より周波数が高い高次モード(1次モード、2次モード、・・・)を励振することができる。また、圧電基板11の種類や音響多層膜13の各層の厚みを調製することにより、大きいインピーダンス比を有する高次モードを得ることができる。弾性波デバイス10は、この高次モードを利用することにより、6GHz以上の超高周波数帯で、インピーダンス比が大きい良好な特性を得ることができる。また、高次モードを利用することにより、圧電基板11を極端に薄くする必要がなく、圧電基板11の上下に空洞を必要としないため、6GHz以上の超高周波数帯でも、十分な機械的強度を保つことができる。
【0047】
なお、図1(a)および図2(a)において、M軸は、圧電基板が(±90°、±90°、ψ)の時はY軸を、それ以外のオイラー角の時はX軸を示している。また、ψは、図1(a)および図2(a)に示すように、M軸から反時計回りに、回転したM軸に接した面に垂直な方向Nとの角度である。
【0048】
[LN基板の厚みすべり振動]
図1(a)および(b)に示す弾性波デバイス10について、LN基板の圧電基板11を用いて、厚みすべり振動の周波数特性、および、高次モードのインピーダンス比等を求めた。圧電基板11の他方の表面、すなわち音響多層膜13とは反対側の面に設けられた電極12(以下では、「上部電極」という)をAl電極(厚み50nm)とし、圧電基板11を、オイラー角が(0°、75°、ψ)のLN基板(厚み1μm)とし、圧電基板11と音響多層膜13との間の電極12(以下では、「下部電極」という)をAl電極(厚み50nm)とした。また、音響多層膜13を、Al膜の低音響インピーダンス膜13aとW膜の高音響インピーダンス膜13bとを交互に6層積層したものとし、保持基板14をSi基板とした。なお、ここでは、下部電極のAl電極、および、1層目の低音響インピーダンス膜13aのAl膜の両者の厚みを区別しているが、その両者が同じ材料の場合、両者を合計した膜厚を低音響インピーダンス膜13aの厚みとしてもよい。
【0049】
なお、電極12は、質量負荷による周波数の低下を抑えるため、低密度で、50nmと薄いAl電極を上部電極に用いている。また、以下では、オイラー角(φ、θ、ψ)を、単に(φ、θ、ψ)で表す。
【0050】
音響多層膜13の各層の平均厚さを、励起されるバルク波の0.25波長(圧電基板11の厚みの半分)としたときの周波数特性を、図3(a)に示す。図3(a)に示すように、厚みすべり振動の基本共振周波数(基本モード)の1.9GHzが強く励振され、73dBのインピーダンス比が得られていることが確認された。また、基本モードの約3.6倍の6.9GHzの高次モードのインピーダンス比は、40dB程度であることも確認された。
【0051】
次に、音響多層膜13の各層の平均厚さを、図3(a)の1/5、すなわち0.05波長にしたときの周波数特性を、図3(b)に示す。図3(b)に示すように、6.9GHzの高次モードの周波数の共振特性が強く励振され、72dBのインピーダンス比が得られていることが確認された。これは、図3(a)の基本モードのインピーダンス比73dBと同程度である。また、基本モードの1~2GHz帯での励振が3つに分かれ、それぞれのインピーダンス比が、17dB以下に抑圧されており、スプリアスとして影響が少ないことが確認された。
【0052】
次に、圧電基板11を(0°、θ、ψ)LN基板とし、音響多層膜13の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、約7GHzの高次モードの帯域(Bandwidth)およびインピーダンス比(Impedance ratio)のθ依存性を、それぞれ図4(a)および(b)に示す。なお、厚み振動では、厚みに対して垂直な水平面での電極12の形状が、x方向およびy方向に対してほぼ対称であるため、ψ=0°~180°である(以下も同様)。図4(b)に示すように、インピーダンス比は、θ=66.5°~82°で50dB以上、θ=70°~81°で60dB以上、θ=72°~78°で70dB以上得られることが確認された。
【0053】
次に、図4(b)の結果から、圧電基板11を(0°、75°、ψ)LN基板とし、高音響インピーダンス膜13bの厚さを0.0625波長としたときの、低音響インピーダンス膜13aの厚さと、約7GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図5(a)に示す。図5(a)に示すように、インピーダンス比は、低音響インピーダンス膜13aの厚さが0.016波長~0.11波長で50dB以上、0.026波長~0.10波長で60dB以上、0.0375波長~0.09波長で70dB以上得られることが確認された。
【0054】
次に、圧電基板11を(0°、75°、ψ)LN基板とし、低音響インピーダンス膜13aの厚さを0.0625波長としたときの、高音響インピーダンス膜13bの厚さと、約7GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図5(b)に示す。図5(b)に示すように、インピーダンス比は、高音響インピーダンス膜13bの厚さが0.016波長~0.107波長で50dB以上、0.025波長~0.10波長で60dB以上、0.038波長~0.08波長で70dB以上得られることが確認された。
【0055】
次に、圧電基板11を(0°、75°、ψ)LN基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、約7GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図5(c)に示す。図5(c)に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.023波長~0.097波長で50dB以上、0.032波長~0.087波長で60dB以上、0.043波長~0.07波長で70dB以上得られることが確認された。
【0056】
次に、圧電基板11を(0°、75°、ψ)LN基板とし、音響多層膜13の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、音響多層膜13の層数と、約7GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図6に示す。図6に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13が3層以上で60dB以上、4層~20層で70dB以上得られることが確認された。なお、音響多層膜13が20層を超えると、圧電基板11に大きな反りが生じたり、割れたりするなど、製造上問題があるため、20層以下であることが好ましい。
【0057】
図6の結果から、例えば、音響多層膜13の1層目から4層目までの厚さが、それぞれ0.05波長であって、5層目および6層目が2波長のとき、音響多層膜13の6層の平均厚さは0.7波長になる。しかし、実際には、1層目から4層目までの厚さが、それぞれ0.05波長の条件を満たしているため、高インピ-ダンスを実現することができる。このため、音響多層膜13の各層の平均厚さは、圧電基板11の側から、3層目または4層目までの平均厚さ、あるいは、音響多層膜13中の任意の連続する3層または4層分の平均厚さで計算してもよい。なお、1層目近傍で電極12として非常に薄い多層膜電極12を用いた場合には、電極12として作用しているため、音響多層膜13として作用していないこともある。また、Al電極のように、電極12と音響インピーダンス膜とを兼用できる電極12は、音響多層膜13の層として含むこともできる。
【0058】
次に、圧電基板11を(90°、90°、ψ)LN基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、約7GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図7に示す。図7に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.02波長~0.095波長で50dB以上、0.03波長~0.088波長で60dB以上、0.05波長~0.07波長で70dB以上得られることが確認された。
【0059】
[LN基板の厚み縦振動]
図1(a)および(b)に示す弾性波デバイス10について、LN基板の圧電基板11を用いて、厚み縦振動の周波数特性、および、高次モードのインピーダンス比等を求めた。上部電極をAl電極(厚み50nm)とし、圧電基板11を(0°、126°、ψ)LN基板(厚み1μm)とし、下部電極をAl電極(厚み50nm)とした。また、音響多層膜13を、Al膜の低音響インピーダンス膜13aとW膜の高音響インピーダンス膜13bとを交互に6層積層したものとし、保持基板14をSi基板とした。
【0060】
音響多層膜13の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの周波数特性を、図8(a)に示す。図8(a)に示すように、厚み縦振動の高次モードでは、図3(b)の厚みすべり振動の高次モードの約1.6倍の、11GHzの周波数の共振特性が強く励振され、63dBのインピーダンス比が得られていることが確認された。高次モードの周波数の違いは、バルク波の横波の音速と縦波の音速との差によるものである。これらの結果から、厚み縦振動の高次モードを利用すると、インピーダンス比は低くなるものの、より高周波のデバイスを実現できることがわかる。
【0061】
次に、圧電基板11を(0°、θ、ψ)LN基板とし、音響多層膜13の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、約11GHzの高次モードのインピーダンス比のθ依存性を、図8(b)に示す。図8(b)に示すように、インピーダンス比は、θ=119°~133°で50dB以上、θ=123°~129°で60dB以上得られることが確認された。
【0062】
次に、図8(b)の結果から、圧電基板11を(0°、126°、ψ)LN基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、約11GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図8(c)に示す。図8(c)に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.032波長~0.08波長で50dB以上、0.043波長~0.07波長で60dB以上得られることが確認された。
【0063】
[ストリップ型のLN基板の厚みすべり振動]
図2(a)および(b)に示すストリップ型の弾性波デバイス10について、LN基板の圧電基板11を用いて、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比等を求めた。上部電極をAl電極(厚み50nm)とし、圧電基板11を(0°、θ、18°)LN基板(厚み1μm)とし、下部電極をAl電極(厚み50nm)とした。また、音響多層膜13を、Al膜の低音響インピーダンス膜13aとW膜の高音響インピーダンス膜13bとを交互に6層積層したものとし、保持基板14をSi基板とした。
【0064】
音響多層膜13の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、高次モードのインピーダンス比のθ依存性を、図9(a)に示す。図9(a)に示すように、インピーダンス比は、θ=-123°~-80°で50dB以上、-112°~-90°で60dB以上得られることが確認された。なお、ψは18°で代表したが、上部電極12の構造等でψの最適値は多少異なるものの、ψ=0°~180°の範囲では、インピーダンス比の差は2dB以内に収まる。
【0065】
次に、図9(a)の結果から、圧電基板11を(0°、-100°、18°)LN基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図9(b)に示す。図9(b)に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.02波長~0.1波長で50dB以上、0.025波長~0.088波長で60dB以上得られることが確認された。
【0066】
[LT基板の厚みすべり振動]
図1(a)および(b)に示す弾性波デバイス10について、LT基板の圧電基板11を用いて、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比等を求めた。上部電極をAl電極(厚み50nm)とし、圧電基板11を(0°、θ、ψ)のLT基板(厚み1μm)とし、下部電極をAl電極(厚み50nm)とした。また、音響多層膜13を、Al膜の低音響インピーダンス膜13aとW膜の高音響インピーダンス膜13bとを交互に6層積層したものとし、保持基板14をSi基板とした。
【0067】
LT基板を用いたときには、横波音速がLNに比べて遅いため、厚みすべり振動の高次モードの周波数が低くなる。最適方位角近傍のLTを用いたときの高次モードの周波数は、約6.1GHzであった。音響多層膜13の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、その約6.1GHzの高次モードのインピーダンス比のθ依存性を、図10(a)に示す。図10(a)に示すように、インピーダンス比は、θ=56°~96°で50dB以上、θ=62°~93°で60dB以上得られることが確認された。
【0068】
次に、図10(a)の結果から、圧電基板11を(0°、74°、ψ)LT基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、約6.1GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図10(b)に示す。図10(b)に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.02波長~0.083波長で50dB以上、0.033波長~0.075波長で60dB以上得られることが確認された。
【0069】
次に、圧電基板11を(90°、90°、ψ)LT基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、約6.1GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図10(c)に示す。図10(c)に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.023波長~0.088波長で50dB以上、0.036波長~0.07波長で60dB以上得られることが確認された。
【0070】
[LT基板の厚み縦振動]
図1(a)および(b)に示す弾性波デバイス10について、LT基板の圧電基板11を用いて、厚み縦振動の高次モードのインピーダンス比等を求めた。上部電極をAl電極(厚み50nm)とし、圧電基板11を(0°、θ、ψ)LT基板(厚み1μm)とし、下部電極をAl電極(厚み50nm)とした。また、音響多層膜13を、Al膜の低音響インピーダンス膜13aとW膜の高音響インピーダンス膜13bとを交互に6層積層したものとし、保持基板14をSi基板とした。
【0071】
この場合も、LT基板を用いたときには、縦波音速がLNに比べて遅いため、厚み縦振動の高次モードの周波数が低くなる。最適方位角近傍のLTを用いたときの高次モードの周波数は、約10GHzであった。音響多層膜13の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、その約10GHzの高次モードのインピーダンス比のθ依存性を、図11(a)に示す。図11(a)に示すように、インピーダンス比は、θ=112°~138°で50dB以上得られることが確認された。
【0072】
次に、図11(a)の結果から、圧電基板11を(0°、130°、ψ)LT基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、約10GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図11(b)に示す。図11(b)に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.037波長~0.07波長で50dB以上得られることが確認された。
【0073】
[ストリップ型のLT基板の厚みすべり振動]
図2(a)および(b)に示すストリップ型の弾性波デバイス10について、LT基板の圧電基板11を用いて、厚みすべり振動の高次モードのインピーダンス比等を求めた。上部電極をAl電極(厚み50nm)とし、圧電基板11を(0°、θ、ψ)LT基板(厚み1μm)とし、下部電極をAl電極(厚み50nm)とした。また、音響多層膜13を、Al膜の低音響インピーダンス膜13aとW膜の高音響インピーダンス膜13bとを交互に6層積層したものとし、保持基板14をSi基板とした。
【0074】
この場合の高次モードの周波数は、約6GHzであった。音響多層膜13の各層の平均厚さを0.05波長にしたときの、その約6GHzの高次モードのインピーダンス比のθ依存性を、図12(a)に示す。図12(a)に示すように、インピーダンス比は、θ=63°~91°で50dB以上、θ=68°~86°で55dB以上得られることが確認された。
【0075】
次に、図12(a)の結果から、圧電基板11を(0°、74°、175°)LT基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、約6GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図12(b)に示す。図12(b)に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.02波長~0.08波長で50dB以上、0.03波長~0.07波長で55dB以上得られることが確認された。なお、ψは175°で代表したが、上部電極12の構造等でψの最適値は多少異なるものの、ψ=0°~180°の範囲では、インピーダンス比の差は2dB以内に収まる。
【0076】
次に、圧電基板11を(90°、90°、37°)LT基板としたときの、音響多層膜13の各層の平均厚さと、約6GHzの高次モードのインピーダンス比との関係を求め、図12(c)に示す。図12(c)に示すように、インピーダンス比は、音響多層膜13の各層の平均厚さが0.031波長~0.077波長で50dB以上、0.040波長~0.055波長で60dB以上得られることが確認された。なお、ψは37°で代表したが、上部電極12の構造等でψの最適値は多少異なるものの、ψ=0°~180°の範囲では、インピーダンス比の差は2dB以内に収まる。
【0077】
なお、図5図7図12には、高次(オーバートーン)モードのインピーダンス比と音響多層膜の各層の平均厚さとの関係を示しているが、低音響インピーダンス膜の平均厚みと高音響インピーダンス膜の平均厚みとが異なるときにも、大きなインピーダンス比が得られる。例えば、圧電基板11を(90°、90°、ψ)LN基板とし、音響多層膜13をSiO膜の低音響インピーダンス膜13aとTa膜の高音響インピーダンス膜13bとを交互に4層積層したものとしたときの、2層の低音響インピーダンス膜13aの平均厚みと2層の高音響インピーダンス膜13bの平均厚みとの和と、インピーダンス比との関係を求め、図13に示す。
【0078】
図13に示すように、インピ―ダンス比は、和の厚みが0.07~0.15波長で60dB以上、0.083~0.142波長で65dB以上、0.1~0.13波長で70dB以上得られることが確認された。この関係は、図5図7図12に示すLNやLTの方位角、厚みすべり、厚み縦振動においても適用することができ、0.07~0.15波長で大きなインピーダンス比が得られ、0.083~0.142波長でより大きなインピーダンス比が得られ、0.1~0.13波長でさらに大きなインピーダンス比が得られる。
【0079】
[圧電基板を2枚重ねたときの高次モード]
図1(a)および(b)に示す弾性波デバイス10は、圧電基板11が1枚の単板であるが、図14に示すように、圧電基板11が、2枚の圧電基板11a、11bを貼り合わせて成っていてもよい。図14に示す構造として、例えば、圧電基板11が、(0°、126°、ψ)LN基板(厚み1μm)から成る圧電基板11aと、(0°、306°、ψ)LN基板(厚み1μm)から成る圧電基板11bとが接合されたものから成り、圧電基板11の上下にそれぞれ電極12としてAl電極(厚み100nm)が設けられ、音響多層膜13として、下部電極の下部にSiO膜の低音響インピーダンス膜13a(厚み100nm)とTa膜の高音響インピーダンス膜13b(厚み100nm)とが交互に5層成膜され、その最下部のTa膜に保持基板14としてSi基板が接合された構造とした。このときの厚み縦振動の周波数特性を、図15に示す。
【0080】
なお、この圧電基板11は、接合された2枚の圧電基板11a、11bの構造が、(0°、126°、ψ)LN基板(0°、306°、ψ)/(0°、306°、ψ)LN基板(0°、126°、ψ)という組み合わせになっている。ここで、+Z方向を+面とすると、(0°、-90°~90°、ψ)はLN基板の+面、(0°、90°~270°、ψ)は-面となるため、-LN+/+LN-の接合に相当している。+面と-面は、それぞれθが360°ごとの周期となる。この構造は、特許文献1における[0001]配向((0°、0°、ψ)に相当)のZnO膜と、[000-1]配向((0°、180°、ψ)に相当)のZnO膜とが重ねられた構造とは、基板材料や方位角が異なっている。また、ZnO膜やAlN膜などの多結晶薄膜は、X方向、Y方向に等方で、正確には、ψ=∞であり、[0001]配向膜は(0°、0°、∞)に、[000-1]配向膜は(0°、180°、∞)に相当し、ψについては決定されず、X方向、Y方向に+、-はない。このように、多結晶薄膜は、単結晶薄板とは大きく異なる。また、c軸が面に平行に配向した膜の場合も同様で、[1000]膜は(∞、-90°、0°)に、[-1000]膜は(∞、90°、0°)に相当し、φについては決定されず、X方向、Y方向に+、-はない。このため、この方位でも、単結晶薄板とは大きく異なる。
【0081】
図15に示すように、3.3GHzに2倍波が認められ、9.8GHzにその3倍の高次モードが認められた。このように、軸方法が異なる2枚の圧電基板11a、11bを重ねた弾性波デバイス10において、2倍波の約3倍のオーバートーンレスポンス(高次モード)が励振されることが確認された。なお、図15中には記載されていないが、約5倍のオーバートーンレスポンスも励振されていることも確認している。
【0082】
図1(a)に示す構造の特性と、図14に示す構造の特性との比較を行った。図1(a)に示す構造として、圧電基板11が、(0°、126°、ψ)LN基板(厚み2μm)から成り、圧電基板11の上下にそれぞれ電極12としてAl電極(厚み100nm)が設けられ、音響多層膜13として、下部電極の下部にSiO膜の低音響インピーダンス膜13a(厚み100nm)とTa膜の高音響インピーダンス膜13b(厚み100nm)とが交互に6層成膜され、その最下部のTa膜に保持基板14としてSi基板が接合された構造とした。図14に示す構造は、上記の構造とした。
【0083】
図1(a)に示す構造の、基本モードの約3倍のオーバートーン(高次モード)、および、図14に示す構造の、2倍波の約3倍のオーバートーン(高次モード)の周波数特性を、それぞれ図16(a)および(b)に示す。図16(a)に示すように、圧電基板11が1枚のときには、4.8GHzで、63dBのインピーダンス比が得られるのに対し、図16(b)に示すように、圧電基板11が2枚から成るときには、9.8GHzで、より大きいインピーダンス比の75dBが得られることが確認された。また、図1(a)に示す構造では、図16(a)に示すように、帯域内にリップルが存在するのに対し、図14に示す構造では、図16(b)に示すように、帯域内にリップルが存在しないことも確認された。このように、圧電基板11として、2枚の圧電基板11a、11bを、+面同士、あるいは-面同士を重ねて構成することにより、大きな利点が得られるといえる。なお、音響多層膜13を6層として検討したが、3層以上であれば同様の特性を示す。
【0084】
次に、以下の3通りの構造について、検討を行った。
A構造:図14に示す構造において、圧電基板11が(0°、126°、ψ)LN基板(0°、306°、ψ)/(0°、306°、ψ)LN基板(0°、126°、ψ)で、厚みが2枚合わせて2μmの場合
B構造:図14に示す構造において、圧電基板11が(0°、126°、ψ)LN基板(0°、306°、ψ)/(0°、306°、ψ+180°)LN基板(0°、126°、ψ+180°)で、厚みが2枚合わせて2μmの場合
C構造(比較例):図1(a)に示す構造において、圧電基板11が(0°、126°、ψ)LN基板(厚み2μm)の場合
【0085】
A構造~C構造の3通りの場合について、Ta膜の高音響インピーダンス膜13bの厚さが0.04波長(波長は、圧電基板11の厚さの2倍の4μm)のときの、SiO膜の低音響インピーダンス膜13aの厚さとインピーダンス比との関係を、図17(a)に示す。また、これら3通りの場合について、低音響インピーダンス膜13aの平均厚さと高音響インピーダンス膜13bの平均厚さとの和と、インピーダンス比との関係を、図17(b)に示す。
【0086】
図17(a)に示すように、A構造の場合、インピーダンス比は、低音響インピーダンス膜13aの厚さが0.005~0.05波長で60dB以上、0068~0.041波長で65dB以上、0.009~0.035波長で70dB以上得られることが確認された。また、図示していないが、低音響インピーダンス膜13aの厚さを0.04波長として、高音響インピーダンス膜13bの厚さを変化させたときも同様に、インピーダンス比は、高音響インピーダンス膜13bの厚さが0.005~0.05波長で60dB以上、0.0068~0.041波長で65dB以上、0.009~0.035波長で70dB以上得られることが確認された。
【0087】
また、B構造の場合、インピーダンス比は、低音響インピーダンス膜13aの厚さが0.008~0.04波長で60dB以上得られることが確認された。また、図示していないが、低音響インピーダンス膜13aの厚さを0.04波長として、高音響インピーダンス膜13bの厚さを変化させたときも同様に、インピーダンス比は、高音響インピーダンス膜13bの厚さが0.008~0.04波長で60dB以上得られることが確認された。また、A構造は、C構造と比べて、12dB程度大きいインピーダンス比が得られ、B構造は、C構造と同程度の大きさのインピーダンス比が得られることが確認された。
【0088】
また、図17(b)に示すように、A構造の場合、インピーダンス比は、低音響インピーダンス膜13aの平均厚さと高音響インピーダンス膜13bの平均厚さとの和が、0.02~0.09波長で60dB以上、0.028~0.085波長で65dB以上、0.04~0.08波長で70dB以上得られることが確認された。また、B構造の場合、インピーダンス比は、その和が0.034~0.082波長で60dB以上得られることが確認された。また、A構造は、C構造と比べて、14dB程度大きいインピーダンス比が得られ、B構造は、C構造と同程度の大きさのインピーダンス比が得られることが確認された。なお、A構造およびB構造での低音響インピーダンス膜13aおよび高音響インピーダンス膜13bの最適な厚さは、SiO膜およびTa膜以外の組み合わせでも同様である。なお、図中には記載していないが、(0°、126°、ψ)LN基板(0°、306°、ψ)/(0°、126°、ψ+180°)LN基板(0°、306°、ψ+180°)で、厚みが2枚合わせて2μmの構造についても、B構造と同じ特性を示すことを確認している。
【0089】
また、図15図17に示す結果は、LN基板やLT基板での、他の厚み縦振動の2倍波にも適用できる。すなわち、(φ、θ、ψ)(LN基板またはLT基板)(φ、θ+180°、ψ)/(φ、θ+180°、ψ)(LN基板またはLT基板)(φ、θ、ψ)の場合、(φ、θ、ψ)(LN基板またはLT基板)(φ、θ+180°、ψ)/(φ、θ+180°、ψ+180°)(LN基板またはLT基板)(φ、θ、ψ+180°)の場合、および、(φ、θ、ψ)(LN基板またはLT基板)(φ、θ+180°、ψ)/(φ、θ、ψ+180°)(LN基板またはLT基板)(φ、θ+180°、ψ+180°)の場合であって、LN基板のとき、φ=-5°~5°、θ=119°~133°、ψ=0°~180°およびこれらと結晶学的に等価なオイラー角の場合、LT基板のとき、φ=-5°~5°、θ=112°~138°、ψ=0°~180°およびこれらと結晶学的に等価なオイラー角の場合に適用できる。
【0090】
次に、圧電基板11が、(0°、74°、0°)LN基板を2枚重ねたものから成る場合の、厚みすべり振動の2倍波について検討を行った。検討した圧電基板11の構造は、以下の6通りである。
D構造:(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、254°、0°)LN基板(0°、74°、0°)
E構造:(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、254°、180°)LN基板(0°、74°、180°)
F構造:(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、74°、180°)LN基板(0°、254°、180°)
G構造:(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、254°、90°)LN基板(0°、74°、90°)
H構造:(0°、74°、0°)LN基板(0°、254°、0°)/(0°、74°、90°)LN基板(0°、254°、90°)
I構造(比較例):(0°、74°、0°)LN基板(厚み2μm)
【0091】
D構造~H構造の5通りは、いずれも1μmの厚さのLN基板を2枚重ねたものである。なお、いずれの構造も、圧電基板11の上下の電極12を、厚さ100nmのAl電極、音響多層膜13を、SiO膜の低音響インピーダンス膜13aとTa膜の高音響インピーダンス膜13bとを交互に6層積層したもの、保持基板14をSi基板としている。D構造~I構造の6通りの場合について、低音響インピーダンス膜13aの平均厚さと高音響インピーダンス膜13bの平均厚さとの和と、インピーダンス比との関係を、図18に示す。
【0092】
図18に示すように、D構造の場合、インピーダンス比は、低音響インピーダンス膜13aの平均厚さと高音響インピーダンス膜13bの平均厚さとの和が、0.045~0.073波長で60dB以上、0.0456~0.072波長で65dB以上、0.046~0.069波長で70dB以上、0.049~0.063波長で75dB以上得られることが確認された。また、E構造の場合、インピーダンス比は、その和が、0.047~0.065波長で55dB以上、0.05~0.062波長で60dB以上得られることが確認された。また、F構造の場合、インピーダンス比は、その和が、0.046~0.06波長で60dB以上、0.047~0.058波長で65dB以上、0.049~0.0563波長で70dB以上得られることが確認された。また、G構造およびH構造では、インピーダンス比が50dB以下となり、良好な特性が得られないことが確認された。なお、音響多層膜13は6層で検討したが、3層以上であれば同様の特性を示す。
【0093】
また、図18に示すように、D構造およびF構造は、I構造と比べて、それぞれ15dBおよび8dB程度大きいインピーダンス比が得られることが確認された。E構造は、I構造と同程度の大きさのインピーダンス比が得られることが確認された。また、D構造~F構造の音響多層膜13の各膜の波長(波長は、圧電基板11の厚さの2倍)で規格化したときの厚さは、I構造の場合の半分であることも確認された。
【0094】
また、図18に示す結果は、LN基板およびLT基板の厚みすべり振動、ストリップ型の厚みすべり振動、ならびに、図1図2の構造にも適用できる。すなわち、D構造では、(φ、θ、ψ)(LN基板またはLT基板)(φ、θ+180°、ψ)/(φ、θ+180°、ψ)(LNまたはLT)(φ、θ、ψ)、E構造では、(φ、θ、ψ)(LN基板またはLT基板)(φ、θ+180°、ψ)/(φ、θ+180°、ψ+180°)(LN基板またはLT基板)(φ、θ、ψ+180°)、F構造では、(φ、θ、ψ)(LN基板またはLT基板)(φ、θ+180°、ψ)/(φ、θ、ψ+180°)(LN基板またはLT基板)(φ、θ+180°、ψ+180°)の場合であって、それぞれ以下の場合に適用できる。LN基板のとき、φ=-5°~5°、θ=66.5°~82°、ψ=0°~180°、および、φ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、および、これらと結晶学的に等価なオイラー角の場合である。LT基板のとき、φ=-5°~5°、θ=56°~96°、ψ=0°~180°、および、φ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、および、これらと結晶学的に等価なオイラー角の場合である。ストリップ型の厚みすべり振動の場合、LN基板のとき、φ=-5°~5°、θ=-123°~―80°、ψ=0°~180°、および、これらと結晶学的に等価なオイラー角の場合、LT基板のとき、φ=-5°~5°、θ=63°~91°、ψ=0°~180°、および、φ=85°~95°、θ=85°~95°、ψ=0°~180°、および、これらと結晶学的に等価なオイラー角の場合である。
【符号の説明】
【0095】
10 弾性波デバイス
11 圧電基板
12 電極
13 音響多層膜
13a 低音響インピーダンス膜
13b 高音響インピーダンス膜
14 保持基板
15 切込
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図18