(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ポリイミド粉体、ポリイミドワニス、ポリイミドフィルムおよびポリイミド多孔質膜
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240729BHJP
C08J 3/14 20060101ALI20240729BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J3/14 CFG
C08J5/18
(21)【出願番号】P 2018154269
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2021-04-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592166137
【氏名又は名称】河村産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭三
(72)【発明者】
【氏名】河村 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊輔
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】近野 光知
【審判官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-538103(JP,A)
【文献】特開昭58-5343(JP,A)
【文献】特開2017-186473(JP,A)
【文献】特開2005-304207(JP,A)
【文献】特表2009-518500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00~73/26
C08J5/00~5/24
C08L1/00~101/16
C08J9/00~9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と2種類以上のテトラカルボン酸に由来する構造単位とを有し、N,N-ジメチルアセトアミドに5重量%以上可溶
であり、N,N-ジメチルアセトアミドに溶解して得られるポリイミド溶液を製膜して得られる50μm厚みのフィルムの引張弾性率が4.0GPa以上であり、イミド化率が97%以上
であるポリイミド粉体であって、
2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルに由来する構造単位が前記少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位全体の50モル%以上を占め、
4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物に由来する構造単位が前記2種類以上のテトラカルボン酸に由来する構造単位全体の40~60モル%を占め、
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位が前記2種類以上のテトラカルボン酸に由来する構造単位全体の40~60モル%を占めることを特徴とする
ポリイミド粉体。
【請求項2】
前記ポリイミド粉体が、少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物と2種類以上のテトラカルボン酸二無水物から、ポリアミド酸への重合、化学イミド化反応、生成ポリイミドの析出による粉体の形成、及び乾燥の工程を経て製造され、
芳香族ジアミン化合物として2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルが芳香族ジアミン化合物全体の50モル%以上用いられ、
テトラカルボン酸二無水物として4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物が全テトラカルボン酸のモル量に対して40~60%、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が40~60%の範囲で用いられていることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド粉体。
【請求項3】
還元粘度が2.0~3.5dL/gの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド粉体。
【請求項4】
N,N-ジメチルアセトアミドに溶解して得られるポリイミド溶液を製膜して得られる50μm厚みのフィルムの全光線透過率が80%以上であり、黄色度が3以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のポリイミド粉体。
【請求項5】
溶剤中に、請求項1~4の何れか一項に記載のポリイミド粉体を1~30重量%の濃度で含むポリイミドワニス。
【請求項6】
請求項5に記載のポリイミドワニスであって、ポリイミド100重量部に対して10~100重量部の無機粒子を更に含むことを特徴とするポリイミドワニス。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のポリイミドワニスを製膜して得られる、厚さ1~200μmのポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のポリイミドワニスを製膜して得られる、厚さ1~200μmのポリイミド多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド粉体、ポリイミドワニス、ポリイミドフィルムおよびポリイミド多孔質膜に関し、特にディスプレイ用途や電子材料用途に好適に用いられる、極めて優れた耐熱性、透明性および機械的特性を兼ね備えたポリイミドフィルムや、電解液への良好な耐性および耐熱性を兼ね備えたリチウムイオン電池等のセパレータに好適に使用可能なポリイミド多孔質膜を与える、ポリイミド粉体およびポリイミドワニスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は耐熱性に優れるプラスチックとして、航空宇宙分野、電気絶縁分野、電子分野等の耐熱性や高信頼性が要求される幅広い分野で活用されている。また、近年では耐熱性と透明性を兼ね備えた透明ポリイミドが提案されてきており、例えば特許文献1には、フッ素原子を含有する特定のモノマーから合成される、光導波路に好適な透明性に優れた可溶性のポリイミドが提案されている。特許文献2には、特定の脂環式ジアミンを用いた有機溶剤に可溶な透明ポリイミドが提案されている。しかしながら、特許文献1に記載されたポリイミドは製膜後のポリイミドに対して300℃以上の温度で熱処理を行っているため、十分な透明性の確保が困難であり、特許文献2に記載されたポリイミドは脂環式のジアミンを原料として用いているため、耐熱性に乏しく、また加熱により着色するという問題があった。
【0003】
ポリイミドの粉体としては、可溶性ポリイミドのワニスに水やメタノールなどの貧溶媒を添加して塊状のポリイミド樹脂を析出させる方法が開示されている(特許文献3)。
【0004】
また、特許文献4にはジアミン類と酸二無水物類を重合して得られるポリアミド酸のイミド化物の粉末が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献3や特許文献4に記載されたポリイミドの粉体は、そのポリイミド粉体から得られるポリイミドフィルムの機械的特性、特に弾性率に対して注意が払われておらず、そのためポリイミドフィルムに対して折り曲げや引っ張り等の応力が加わった場合に変形し易いという問題があった。
【0006】
また、特許文献5には、比較的低い線膨張係数を有する、ジアミン類と酸二無水物類を重合して得られるポリアミド酸のイミド化物を除膜して得られるポリイミドフィルムが開示されており、特に実施例1~3には2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルをジアミンとして用い、酸無水物として2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)と、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)が、モル比率で6FDA:BPDA=80:20~50:50になるように共重合したポリアミド酸を、溶液中でイミド化した後、メタノール中で沈殿、濾過及び乾燥して得られたポリイミドの固形分粉末をN,N-ジメチルアセトアミド溶媒に再溶解させ、次いでそのポリイミド溶液をステンレス板上に塗布して製膜し、最終的に300℃まで昇温させて得られるポリイミドフィルムが開示されている。しかしながら、特許文献5に開示された技術では、ポリイミド粉末の溶媒への溶解性を保つためにイミド化率が約80.5%と低く抑えられており、製膜後のフィルムの段階で300℃以上の温度で熱処理することでイミド化を完結させている。このように、ポリイミド粉体のイミド化率が低い場合には、ポリイミドワニスからポリイミド粉体にする際や、ポリイミド粉体として保管する際の経時的な分子量の低下とそれに伴う機械的特性の低下という問題が生じやすく、更にはフィルムの状態で高温で熱処理することに伴いフィルムの変色という問題が発生する。また、高温での熱処理を必要とすることから、ポリイミドを製膜して熱処理する場合に、ポリイミド単体で熱処理を行うか、もしくは耐熱性の高い基材を使用する必要が生じ、ポリイミドの塗工基材や熱処理方法の選定が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-235505号公報
【文献】特開2000-169579号公報
【文献】特開2004-285355号公報
【文献】特表2013-523939号公報
【文献】特開2011-208143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱性、透明性及び機械的性質に優れたポリイミド膜を与える、着色や不純物が少ないポリイミド粉体、ポリイミドワニス及びそれを製膜して得られるポリイミドフィルムやポリイミド多孔質膜を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の構造を有するポリイミド粉体のイミド化率を高くすることで、透明性や溶媒への可溶性を維持したまま、機械的特性、特に弾性率の高いフィルムを与えること、更にはそのような粉体が耐熱性や耐電解液性もすぐれた多孔質膜を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明によれば、以下に示すポリイミド粉体、ポリイミドワニス、ポリイミドフィルムおよびポリイミド多孔質膜を得ることができる。
〔1〕 少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と2種類以上のテトラカルボン酸に由来する構造単位とを有し、N,N-ジメチルアセトアミドに5重量%以上可溶なイミド化率が90%以上のポリイミド粉体であって、
2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルに由来する構造単位が前記少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位全体の50モル%以上を占め、
4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物に由来する構造単位が前記2種類以上のテトラカルボン酸に由来する構造単位全体の30~70モル%を占め、
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位が
前記2種類以上のテトラカルボン酸に由来する構造単位全体の30~60モル%を占めることを特徴とする
ポリイミド粉体。
〔2〕 前記ポリイミド粉体が、少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物と2種類以上のテトラカルボン酸二無水物から、ポリアミド酸への重合、化学イミド化反応、生成ポリイミドの析出による粉体の形成、及び乾燥の工程を経て製造され、
芳香族ジアミン化合物として2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルが芳香族ジアミン化合物全体の50モル%以上用いられ、
テトラカルボン酸二無水物として4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物が全テトラカルボン酸のモル量に対して30~70%、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が30~60%の範囲で用いられていることを特徴とする〔1〕に記載のポリイミド粉体。
〔3〕 還元粘度が2.0~3.5dL/gの範囲にあることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のポリイミド粉体。
〔4〕 N,N-ジメチルアセトアミドに溶解して得られるポリイミド溶液を製膜して得られる50μm厚みのフィルムの全光線透過率が80%以上であり、黄色度が3以下であることを特徴とする〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載のポリイミド粉体。
〔5〕 N,N-ジメチルアセトアミドに溶解して得られるポリイミド溶液を製膜して得られる50μm厚みのフィルムの引張弾性率が4.0GPa以上であることを特徴とする〔1〕~〔4〕の何れか一項に記載のポリイミド粉体。
〔6〕 溶剤中に、〔1〕~〔5〕の何れか一項に記載のポリイミド粉体を1~30重量%の濃度で含むポリイミドワニス。
〔7〕 〔6〕に記載のポリイミドワニスであって、ポリイミド100重量部に対して10~100重量部の無機粒子を更に含むことを特徴とするポリイミドワニス。
〔8〕 〔6〕又は〔7〕に記載のポリイミドワニスを製膜して得られる、厚さ1~200μmのポリイミドフィルム。
〔9〕 引張弾性率が4.0GPa以上であることを特徴とする〔8〕に記載のポリイミドフィルム。
〔10〕 〔6〕又は〔7〕に記載のポリイミドワニスを製膜して得られる、厚さ1~200μmのポリイミド多孔質膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐熱性、透明性及び高弾性率等の機械特性に優れたポリイミドフィルムおよび耐電解液性や耐熱性に優れたポリイミド多孔質膜を与える、溶媒に可溶なポリイミド粉体及びポリイミドワニスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一の実施態様であるポリイミド粉体は、後述される少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物と2種類以上のテトラカルボン酸二無水物から、ポリアミド酸への重合、化学イミド化反応、生成ポリイミドの析出による粉体の形成、及び乾燥の工程を経て製造される。
【0013】
本発明の第二の実施態様であるポリイミドワニスは、前記ポリイミド粉体を1~30%となるように有機溶媒に溶解させることで製造することができる。
【0014】
1.原料
1.1.芳香族ジアミン化合物
本発明において使用される芳香族ジアミン化合物としては、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(以下、TFMBともいう)を必須としており、その使用量は全芳香族ジアミンのモル量に対して50モル%以上であり、好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上である。また、芳香族ジアミン化合物として、TFMBのみを用いても良い。TFMBの使用量が全芳香族ジアミン化合物の50モル%未満の場合は、得られるポリイミド粉体の透明性や溶媒への可溶性を得難くなる。
【0015】
TFMB以外の芳香族ジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物全体の50モル%を超えない範囲で、任意の芳香族ジアミン化合物を使用することができ、例示するとm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェニル)スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェニル)スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-フルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどの芳香族ジアミン化合物が使用できる。本発明でいう芳香族ジアミン化合物とは、1以上の芳香族環と2個のアミノ基を有する化合物を指す。
【0016】
1.2.テトラカルボン酸二無水物
本発明において使用するテトラカルボン酸二無水物としては、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(以下、6FDAともいう)が全テトラカルボン酸二無水物のモル量に対して30~70モル%、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAともいう)が30~60モル%の範囲で用いられる。テトラカルボン酸二無水物として、6FDAとBPDAの2種類のみを用いてもよく、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエート-3, 3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物などの他のテトラカルボン酸二無水物を更に共重合することも可能である。
【0017】
2.ポリイミド粉体の製造方法
ポリイミド粉体は、上記芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を用いて、ポリアミド酸への重合、化学イミド化反応、生成ポリイミドの析出による粉体の形成、及び乾燥の工程を経て製造される。
【0018】
2.1.ポリアミド酸への重合
ポリアミド酸への重合は、生成するポリアミド酸が可溶な溶媒への溶解下で、上記芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を反応させることにより行うことができる。ポリアミド酸への重合に用いる溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の溶媒を用いることができる。
【0019】
ポリアミド酸への重合反応は、攪拌装置を備えた反応容器で攪拌しながら行うことが好ましい。例えば、上記溶媒に所定量の芳香族ジアミン化合物を溶解させて、攪拌しながらテトラカルボン酸二無水物を投入して反応を行いポリアミド酸を得る方法、テトラカルボン酸二無水物を溶媒に溶解させて、攪拌しながら芳香族ジアミン化合物を投入して反応を行いポリアミド酸を得る方法、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を交互に投入して反応させてポリアミド酸を得る方法などが挙げられる。
【0020】
ポリアミド酸への重合反応の温度については特に制約はないが、0~70℃の温度で行うことが好ましく、より好ましくは10~60℃であり、更に好ましくは20~50℃である。重合反応を上記範囲内で行うことで、着色が少なく透明性に優れた高分子量のポリアミド酸を得ることが可能となる。
【0021】
また、ポリアミド酸への重合に使用するトータルの芳香族ジアミン化合物とトータルのテトラカルボン酸二無水物は概ね当モル量を使用するが、得られるポリアミド酸の重合度をコントロールするために、テトラカルボン酸二無水物のモル量/芳香族ジアミン化合物のモル量(モル比率)を0.95~1.05の範囲で変化させることも可能である。そして、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物のモル比率は、1.001~1.02の範囲であることが好ましく、1.001~1.01であることがより好ましい。このようにテトラカルボン酸二無水物を僅かに過剰にすることで、得られるポリアミド酸の重合度を安定させることができるとともに、テトラカルボン酸二無水物由来のユニットをポリマーの末端に配置することができ、その結果、着色が少なく透明性に優れたポリイミドを与えることが可能となる。
【0022】
生成するポリアミド酸溶液の濃度は、溶液の粘度を適正に保ち、その後の工程での取り扱いが容易になるよう、適切な濃度(例えば、10~30重量%程度)に整えることが好ましい。
【0023】
2.2.化学イミド化反応
次に得られたポリアミド酸溶液にイミド化剤を加えて化学イミド化反応を行う。イミド化剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸などのカルボン酸無水物を用いることができ、コストや反応後の除去のしやすさの観点から無水酢酸を使用することが好ましい。使用するイミド化剤の当量は化学イミド化反応を行うポリアミド酸のアミド結合の当量以上であり、アミド結合の当量の1.2~5倍であることが好ましく、1.5~4.5倍であることがより好まく、2~4倍であることが更に好ましい。このようにアミド結合に対して過剰のイミド化剤を使用することで、比較的低温でも効率的にイミド化反応を行うことができ、イミド化率が90%以上のポリイミドを得やすくなる。
【0024】
また、化学イミド化反応には、イミド化促進剤として、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族、芳香族又は複素環式第三級アミン類を使用することができる。このようなアミン類を使用することで、低温で効率的にイミド化反応を行うことができ、その結果イミド化反応時の着色を抑えることが可能となり、より透明なポリイミドを得ることができる。
【0025】
化学イミド化反応温度については特に制約はないが、10℃以上50℃未満で行うことが好ましく、15℃以上45℃未満で行うことがより好ましい。10℃以上50℃未満の温度で化学イミド化反応を行うことで、イミド化反応時の着色が抑えられ、透明性に優れたポリイミドを得ることができる。
【0026】
2.3.粉体化
次にイミド化により得られたポリイミド溶液中のポリイミドの粉体化を行う。ポリイミドの粉体化は任意の方法で行うことが可能であるが、ポリイミドの貧溶媒を加えてポリイミドを析出させて粉体を形成させる方法が簡便であり好ましい。貧溶媒を加えてポリイミドの析出・粉体化を行う場合、貧溶媒としては、ポリイミドを析出することができる任意の貧溶媒が使用でき、ポリイミド溶液の溶媒とは混和性であることが望ましいので、具体的には、水、メタノール、エタノール等を用いることができる。そして、貧溶媒としてメタノールを用いることで安定した形状のポリイミド粉体を収率良く得ることができ好ましい。
【0027】
貧溶媒によるポリイミドの析出・粉体化を行う場合、使用する貧溶媒の量はポリイミドの析出粉体化を行うのに十分な量を投入する必要があり、ポリイミドの構造、ポリイミド溶液の溶媒、ポリイミドの溶液濃度等を考慮して決定するが、通常はポリイミド溶液重量の0.5倍以上、好ましくはポリイミド溶液重量の0.8倍以上、より好ましくはポリイミド溶液重量の1倍以上の重量の貧溶媒を使用する。ポリイミド溶液を重量の0.5倍以上の重量の貧溶媒を使用することで、安定した形状のポリイミド粉体を高収率で得ることができる。また、通常はポリイミド溶液重量の10倍以下、好ましくはポリイミド溶液重量の7倍以下、より好ましくはポリイミド溶液重量の5倍以下、更に好ましくはポリイミド溶液重量の4倍以下の重量の貧溶媒を使用する。
【0028】
ポリイミドの粉体化を、上記のようにポリイミド溶液に貧溶媒を添加することで行う場合、ポリイミド溶液を攪拌しながら、貧溶媒を滴下する方法で行うことが好ましい。貧溶媒の拡散を容易にするため、ポリイミド溶液は予め好ましくは5~30重量%、より好ましくは10~20重量%程度の濃度に調整しておくことが望ましい。また、本発明により得られるポリイミド粉体の好ましい平均粒子径は0.02~0.8mmであるが、平均粒子径はポリイミド溶液への貧溶媒の添加速度によりコントロールすることができる。
【0029】
本発明において、ポリイミドの粉体化の温度に特に制約はないが、貧溶媒の添加により析出・粉体化を行う場合は、貧溶媒の蒸発を抑え、析出を効率的に行うという観点から、50℃以下の温度で行うことが好ましく、40℃以下で行うことがより好ましい。
【0030】
2.4.乾燥
次に得られたポリイミド粉体の乾燥を行い、溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤、貧溶媒等を除去する。乾燥は、ポリイミド粉体を予め濾過装置により濾別し、更に必要に応じて洗浄することにより、上記ポリイミドの溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤をあらかた取り除いた後に行うことが、乾燥を効率的に行う上で好ましい。
【0031】
上記ポリイミド粉体の乾燥は、ポリイミド溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤、貧溶媒等の残渣を除去することができれば任意の温度で行うことができるが、例えば上記貧溶媒にメタノール、エタノール等のヒドロキシ基を有する貧溶媒を用いた場合に、いきなり100℃以上の温度で乾燥を行うと、ポリイミド中のカルボン酸基もしくはカルボン酸無水物基と上記貧溶媒が反応してエステル結合を生成してしまい、耐熱性の低下、着色更には分子量の低下といった問題を引き起こす可能性がある。従って乾燥工程は、100℃未満の温度と100~350℃の温度の2段階以上もしくは、100℃未満の温度から、100℃以上350℃以下の温度まで昇温させて行うことが好ましい。また、ポリイミド粉体の乾燥は、常圧で行ってもよく、減圧下で行っても差し支えない。
【0032】
3.ポリイミド粉体
本発明の第一の実施態様であるポリイミド粉体は、上記方法で得られる、N,N-ジメチルアセトアミドに5重量%以上可溶で、後述のIR法(ATR法)により得られる赤外吸収スペクトルから算定されるイミド化率が90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上のポリイミド粉体である。ポリイミド粉体のイミド化率が90%よりも低いと、粉体の状態でポリマーの解裂が起こり、ポリイミドの分子量が低下して、その機械特性などの特性が低下する虞がある。また、イミド化率の低いポリイミド粉体を溶媒に溶解させてポリイミドワニスとした後に製膜してポリイミドフィルムとする際に、イミド化を進めるために300℃以上の高温での熱処理が必要となり、ポリイミドフィルムの透明性が損なわれる虞がある。
【0033】
本発明のポリイミド粉体の重量平均分子量は好ましくは20,000以上1,000,000以下、より好ましくは50,000以上500,000以下、更に好ましくは10,000以上300,000以下である。重量平均分子量が上記の下限未満だと透明性や機械特性が損なわれる虞があり、重量平均分子量が上記の上限を超える場合には、ポリイミド粉体を溶媒への溶解性が悪化するとともに、溶解できた場合でも粘度が上昇しすぎて取扱いが難しくなることがある。ポリイミドの重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフ装置により求めることができる。
【0034】
また、ポリイミド等の高分子の重合度を表す指標として還元粘度が用いられるが、本発明のポリイミド粉体においては、還元粘度が2.0~3.5dL/gの範囲にあることが好ましく、2.2~3.3dL/gの範囲にあることがより好ましい。還元粘度が上記の下限未満の場合には、透明性や機械特性が損なわれる虞があり、上記の上限を超える場合には、ポリイミド溶液の粘度が上昇しすぎて取扱いが難しくなることがある。
【0035】
4.ポリイミドワニス
本発明の第二の実施態様であるポリイミドワニスは、上記方法により得られたポリイミド粉体を、ポリイミドが可溶な任意の溶媒に1~30重量%の濃度で溶解させることにより得ることができる。
【0036】
本発明のポリイミドワニスに使用する溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N―メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、2-ブタノン、アセトン、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等、第一の実施態様のポリイミド粉体を溶解できる溶媒であれば任意の溶媒が使用可能である。また、ポリイミド粉体を溶媒に溶解させてポリイミドワニスを製造する方法は任意の方法が可能であり、攪拌翼を備えた容器中に所定量の溶媒を入れて、攪拌をしながらポリイミド粉体を添加する方法が簡便かつ均一なポリイミドワニスが得られ好ましい。
【0037】
また、本発明においては、最終的に得られるポリイミドフィルムの高弾性率化、低熱膨張化及び熱伝導性の向上等の観点から、ワニス中に溶解しているポリイミド樹脂100重量部に対して、10~100重量部の範囲で無機粒子を添加することが可能である。無機粒子としては、二酸化ケイ素(シリカ)、タルク、アルミナ、窒化ケイ素などの粒子が添加可能である。また、最終的に得られるフィルムの透明性や良好な機械特性を発現させるため、添加する無機粒子は粒子径が1~100nmの範囲にあるナノ粒子を使用するのが好ましく、特に好ましくはナノシリカである。ナノシリカをワニス中のポリイミド100重量部に対して、10~100重量部添加することで、透明性を維持したままポリイミドフィルムの高弾性率化等が可能となる。
【0038】
5.ポリイミドフィルム
次に上記ポリイミドワニスをフィルムに製膜することにより、本発明の第三の実施態様であるポリイミドフィルムが得られる。本発明のポリイミドフィルムは、ポリイミド単体のフィルムでもよく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、セルローストリアセテート等の基材上に塗膜して得られる複合フィルムの形態でもよい。
【0039】
ポリイミド単体フィルムを製造する場合は、ステンレスドラムや離型フィルムの塗膜基材上に第二の実施態様のポリイミドワニスを流延し、ポリイミドワニスの溶媒を乾燥した後に塗膜基材からポリイミドを引き剥がすことで得ることができ、必要により引き剥がしたポリイミドに更に乾燥を行って、ポリイミド中の残存溶媒を除去することができる。また、ポリイミドと他の基材との複合フィルムを製造する場合は、ポリイミドと組み合わせる基材上にポリイミドワニスを流延し、溶媒を乾燥することで得ることができる。
【0040】
本発明のポリイミドフィルムの厚みは1~200μmの範囲から、用途や目的に合わせて任意に選定することが可能であり、フィルム強度や製膜のやりやすさから、好ましい厚み範囲は5~150μmであり、10~120μmであることがより好ましく、25~100μmであることが更に好ましい。
【0041】
また、ポリイミドフィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。また、ポリイミドフィルムの黄色度(イエローインデックス)は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。ポリイミドフィルムの全光線透過率が80%未満の場合や黄色度が3.0を超える場合は、光学用途への適用において制約を受ける。
【0042】
また、ポリイミドフィルムの引張弾性率は4.0GPa以上であることが好ましく、4.2GPa以上であることがより好ましい。ポリイミドの引張弾性率を4.0GPa以上と高くすることで、ポリイミドフィルムに折り曲げや引っ張り等の応力が発生しても変形し難い上、後述の方法で無機フィラーの添加による弾性率向上の効果も大きくなるという特徴がある。
【0043】
また、上記ポリイミドワニスを塗工基材に流延後、溶剤乾燥速度をコントロールするなどの方法により、本発明の第四の実施態様であるポリイミド多孔質膜を得ることも可能である。本発明により得られたポリイミドはN,N-ジメチルアセトアミド等の溶剤に可溶である一方で、リチウムイオン電池の電解液等に一般的に使用されるエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の溶剤に不溶なため、この多孔質膜はリチウムイオン電池等のセパレータに好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(ポリイミドの還元粘度の測定方法)
0.5dL/gの濃度でN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)にポリイミド粉体を溶解して、ポリイミド溶液とした。ウベローデ粘度計を用いて、30℃の温度でポリイミド溶液の流出時間(T)と溶媒のDMACのみでの流出時間(T0)を測定し、下記の式から還元粘度を求めた。
還元粘度(dL/g)=(T-T0)/T0/0.5
【0045】
(ポリイミドの全光線透過率および黄色度の測定方法)
(1)測定用フィルムサンプルの作成方法
ポリイミド粉体を下記実施例や比較例で指定された量となるようにN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させた。つぎにアプリケータを用いて、平滑なガラス板上に乾燥後厚みが50μmとなるように製膜して、熱風オーブン内で、130℃で60分保持した後、130℃から260℃まで5℃/分で昇温し、更に260℃で10分間保持して乾燥して、その後熱風オーブンから取り出し、室温まで冷却した後に、ガラス板から引き剥がして測定用のポリイミドフィルムサンプルとした。
【0046】
(2)全光線透過率の測定
分光色彩計(コニカミノルタ株式会社製、CM-5)を用いて、ASTM E 1164に基づき、光源C、視野2°の条件で、フィルム厚さ50μm時の全光線透過率を求めた。
【0047】
(3)黄色度(YI)の測定
分光色彩計(コニカミノルタ株式会社製、CM-5)を用いて、ASTM D 1925に基づき、光源C、視野2°の条件で360~740nmの波長範囲でスキャンして、フィルム厚さ50μm時の黄色度(YI)を求めた。
【0048】
(イミド化率の測定方法)
ポリイミドの光線透過率測定用と同じ方法で作成した50μm厚みのフィルムサンプルを測定用サンプルとし、当該フィルムに更に380℃30分の条件で熱処理を施してイミド化を完結させたフィルムを比較サンプルとして、フーリエ変換赤外分光光度計(株式会社島津製作所製FT-IR)を用いて、ATR法により赤外吸収スペクトルを得て、そのスペクトルに基づき、以下の方法によりイミド化率を算定した。
【0049】
上記比較サンプルの赤外吸収スペクトルについて、イミドの特性吸収のひとつである1,365cm-1付近の吸収(イミド環C-N基の変角振動)と、ベンゼン環の特性吸収1,500cm-1との吸光度比をAとし、測定用サンプルの赤外吸収スペクトルの、1,365cm-1と1,500cm-1の吸光度比をBとして、以下の式よりイミド化率を求めた。
ポリイミドのイミド化率(%)=(B/A)×100
【0050】
(ポリイミドフィルムの引張弾性率の測定方法)
ポリイミドの全光線透過率及び黄色度の測定に使用するポリイミドフィルムの製造方法と同様の方法により、ポリイミドフィルムに異物や気泡等の欠点が入らないように注意して、厚さ50μmのポリイミドフィルムを作成した。次に得られたポリイミドフィルムを、フェザー刃(安全剃刀刃)を用いて5mm×120mmのサイズに切断して、10本の試験片を作成し、次いでJISK7161:2014に規定される方法に準じて、得られた試験片を引張試験機(株式会社島津製作所製 オートグラフAGS-H ロードセル50N)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度50mm/分の速度で引張試験を行い、ひずみε1=0.0005(0.05%)のときの応力σ1(GPa)と、ひずみε2=0.0025(0.25%)のときの応力σ2(GPa)から、以下の式に基づきそれぞれの試験片の引張弾性率を算定し、10本の試験片での平均値を引張弾性率とした。
引張弾性率E=(σ2-σ1)/(ε2-ε1)
【0051】
(実施例1)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)424gと2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)64.048g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)53.575g(0.1206モル)を10分程度かけて投入し、その後3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)23.655g(0.0804モル)を投入して、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用した6FDA:BPDAのモル比率は60:40、テトラカルボン酸二無水物(6FDAとBPDAの合計)/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.005であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0052】
次に、得られたポリアミド酸溶液にDMAC377gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5gを約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
【0053】
次に、得られたイミド化剤およびイミド化促進剤を含むポリイミド溶液500gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた3Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール750gを5g/分の速度で滴下させた。約400gのメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き750g全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。
【0054】
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に500gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
【0055】
その後、濾別した揮発分の残渣を含むポリイミド粉体25gを局所排気装置のついた乾燥機も用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、揮発成分を除去して目的とするポリイミド粉体を得た。
【0056】
得られたポリイミド粉体の還元粘度は2.5dL/gであり、イミド化率は99.6%であった。
【0057】
次に、得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させて均一なポリイミドワニスとした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は1.9であって、目視でも変色は見られず、極めて透明性に優れたものであった。また引張弾性率は4.0GPaであった。
【0058】
(実施例2)
ポリアミド酸の重合反応に使用するDMACの量を415gとし、テトラカルボン酸二無水物である6FDAとBPDAの使用量をそれぞれ44.646g(0.1005モル)、29.569g(0.1005モル)として、化学イミド化反応前の希釈用DMACの量を369gとした以外は実施例1と同様に行い、使用した6FDA:BPDAのモル比率が50:50であるポリイミド粉体を得た。
【0059】
得られたポリイミド粉体の還元粘度は2.9dL/gであり、イミド化率は99.9%であった。
【0060】
次に得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させて均一なポリイミドワニスとした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は2.3であって、目視でも変色は見られず、透明性に優れたものであった。また引張弾性率は4.2GPaであった。
【0061】
(実施例3)
ポリアミド酸の重合反応に使用するDMACの量を406gとし、テトラカルボン酸二無水物である6FDAとBPDAの使用量をそれぞれ35.717g(0.0804モル)、35.483g(0.1206モル)として、化学イミド化反応前の希釈用DMACの量を361gとした以外は実施例1と同様に行い、テトラカルボン酸二無水物のモル比率が6FDA:BPDA=40:60であるポリイミド粉体を得た。
【0062】
得られたポリイミド粉体の還元粘度は3.3dL/gであり、イミド化率は99.9%であった。
【0063】
次に、得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させて均一なポリイミドワニスとした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は2.5であって、目視でも変色は見られず、透明性に優れたものであった。また引張弾性率は4.5GPaであった。
【0064】
(実施例4)
ポリアミド酸の重合反応に使用するDMACの量を407gとし、テトラカルボン酸二無水物として、6FDAを35.717g(0.0804モル)、BPDAを29.569g(0.1005モル)並びに3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(ODPA)6.235g(0.0201モル)を用い、化学イミド化反応前の希釈用DMACの量を362gとした以外は実施例1と同様に行い、テトラカルボン酸二無水物のモル比率が6FDA:BPDA:ODPA=40:50:10であるポリイミド粉体を得た。
【0065】
得られたポリイミド粉体の還元粘度は2.6dL/gであり、イミド化率は99.5%であった。
【0066】
次に、得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させて均一なポリイミドワニスとした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は2.4であって、目視でも変色は見られず、透明性に優れたものであった。また引張弾性率は4.0GPaであった。
【0067】
(実施例5)
ポリアミド酸の重合反応に使用するDMACの量を408gとし、芳香族ジアミン化合物として、TFMB57.643g(0.1800モル)及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)4.005g(0.0200モル)を用いた以外は実施例2と同様に行って、芳香族ジアミン化合物のモル比率がTFMB:DAPE=90:10、テトラカルボン酸二無水物のモル比率が6FDA:BPDA=50:50であるポリイミド粉体を得た。
【0068】
得られたポリイミド粉体の還元粘度は2.8dL/gであり、イミド化率は99.8%であった。
【0069】
次に、得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させて均一なポリイミドワニスとした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は88%であり、黄色度は2.5であって、目視でも変色は見られず、透明性に優れたものであった。また引張弾性率は4.1GPaであった。
【0070】
(実施例6)
200mLの容積のセパラブルフラスコ中で、58gのDMAc中に粒子径10~15nmのジメチルアセトアミド(DMAc)分散ナノシリカ(日産化学株式会社製、オルガノシリカゾルDMAC-ST、シリカ濃度20%)30gを添加した後、攪拌して分散させた後、実施例2で得られたポリイミド粉体12gを添加してよく攪拌して溶解させ、固形分量で6gのシリカと12gのポリイミドが含まれるポリイミドワニス100gを作成した。
【0071】
得られたナノシリカ分散ポリイミドワニスを、アプリケータを用いてガラス板上に塗布し、所定の条件でDMAcを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして、50μm厚みのナノシリカを33.3%含有するポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は2.5と低く、目視での変色や濁りは確認されず、透明性に優れたものであった。また、引張弾性率は5.7GPaと高い値を示した。
【0072】
(実施例7)
実施例2で得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させてポリイミドワニスとした後、実施例2で使用したものと同じアプリケータを使用して銅箔の平滑面上にポリイミドワニスを流延後、30℃で1時間かけて溶剤のDMACを一部乾燥した後、25℃のイオン交換水に10分浸漬させてDMACを純水により抽出した後、200℃の熱風オーブンで10分間乾燥し、次いで塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、白色のポリイミド多孔質膜を得た。ポリイミド多孔質膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ポリイミド膜に多数の孔が形成された多孔質膜であることが確認された。
【0073】
(比較例1)
ポリアミド酸の重合反応に使用するDMACの量を460gとし、テトラカルボン酸二無水物として6FDAのみを89.294g(0.2010モル)用い、化学イミド化反応前の希釈用DMACの量を409gとした以外は実施例1と同様に行い、ポリイミド粉体を得た。
【0074】
得られたポリイミド粉体の還元粘度は2.1dL/gであり、イミド化率は99.9%であった。
【0075】
次に、得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させて均一なポリイミドワニスとした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は91%であり、黄色度は1.5であって、目視でも変色は見られず、透明性に優れたものであったが、引張弾性率が3.4GPaと低いものであった。
【0076】
(比較例2)
ポリアミド酸の重合反応に使用するDMACの量を437gとし、テトラカルボン酸二無水物である6FDAとBPDAの使用量をそれぞれ66.969g(0.1508モル)、14.785g(0.0503モル)として、化学イミド化反応前の希釈用DMACの量を389gとした以外は実施例1と同様に行い、テトラカルボン酸二無水物のモル比率が6FDA:BPDA=75:25であるポリイミド粉体を得た。
【0077】
得られたポリイミド粉体の還元粘度は2.2dL/gであり、イミド化率は99.9%であった。
【0078】
次に、得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させて均一なポリイミドワニスとした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は1.7であって、目視でも変色は見られず、透明性に優れたものであったが、引張弾性率は3.5GPaと低いものであった。
【0079】
(比較例3)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)397gと2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)64.048g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)26.788g(0.0603モル)を10分程度かけて投入し、その後3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)41.397g(0.1407モル)を投入して、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用した6FDA:BPDAのモル比率は30:70、テトラカルボン酸二無水物(6FDAとBPDAの合計)/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.005であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0080】
次に、得られたポリアミド酸溶液にDMAC353gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5gを約10分間かけてゆっくりと滴下したところ、滴下後にポリアミド酸ワニスがゲル状に固まってしまい、攪拌を継続することが困難となり、ポリイミド粉体を得ることができなかった。
【0081】
(比較例4)
化学イミド化反応の際のイミド化剤である無水酢酸の使用量を122.5gではなく、40.84gとした以外は実施例2と同様に行って、テトラカルボン酸二無水物のモル比率が6FDA:BPDA=50:50であるポリイミド粉体を得た。
【0082】
得られたポリイミド粉体の還元粘度は1.9dL/gであり、イミド化率は85.0%であった。
【0083】
次に、得られたポリイミド粉体15gを60gのDMACに溶解させて均一なポリイミド溶液とした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は83%であり、黄色度は3.8であって、目視で若干黄色であることが確認された。また引張弾性率は3.8GPaであった。
【0084】
以上の結果を表1に示す。
【0085】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るポリイミド粉体やポリイミドワニスを用いれば、極めて優れた耐熱性、透明性および弾性率とを兼ね備え、特にディスプレイ用途や電子材料用途に好適に用いられるポリイミドフィルムや、耐熱性やリチウムイオン電池の電解液への耐性に優れた多孔質膜を製造することができ、産業上の価値は極めて高い。