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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】熱成形装置及び熱成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/42 20060101AFI20240729BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20240729BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20240729BHJP
   B29C 51/30 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B29C51/42
B29C51/10
B29C51/08
B29C51/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020021866
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021126803
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 貴之
(72)【発明者】
【氏名】金口 豊也
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
(72)【発明者】
【氏名】高井 章伍
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081127(JP,A)
【文献】特開2000-218686(JP,A)
【文献】特開平11-348110(JP,A)
【文献】特開2007-144828(JP,A)
【文献】特開2007-168281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00
B29C 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱によって軟化したシートを金型に対して賦形する、又は前記シートを成形基材に押圧し接着する熱成形装置であって、
前記金型又は前記成形基材を収容可能に保持する型枠と、
該型枠の枠上縁部に対して加熱面を密接可能に設けられた熱板と、を有し、
前記熱板は、
板面方向に分割された複数の分割熱板と、
ロッド先端を下向きにしたロッドを備え、前記ロッド先端に前記分割熱板を固定する伸縮シリンダと、
前記伸縮シリンダを上下方向に摺動可能に支持する複数のガイド部を備えて前記分割熱板を下面側で支持する板状中空のベース材と、
前記ベース材の中空部に設けられ、前記分割熱板を上側から加熱するヒーターと、を有し、
分割された前記分割熱板は、それぞれ前記金型又は前記成形基材に向けて進退可能に進出し、
前記ヒーターは、前記ベース材の下面を介して前記分割熱板に接するように配置され、
前記ヒーターによって加熱された任意の単数又は複数の前記分割熱板を所定の進出量で進出させることで、前記シートを部分的に前記金型又は前記成形基材に向けて誘導可能であることを特徴とする熱成形装置。
【請求項2】
前記分割熱板は、板面方向に縦横に配列され、前記加熱面に直交する方向から見た平面視で板面形状が矩形であることを特徴とする請求項1に記載の熱成形装置。
【請求項3】
前記分割熱板は、前記金型又は前記成形基材に合せた板面形状であることを特徴とする請求項1に記載の熱成形装置。
【請求項4】
前記分割熱板同士の間の隙間は、前記熱板の前記加熱面側の空間に連通する通気孔であり、
前記通気孔には負圧または加圧した熱媒体が流通されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱成形装置。
【請求項5】
前記分割熱板の加熱面端縁部の少なくとも一部は、テーパ面又は湾曲面からなる面取り部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱成形装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱成形装置を使用して、加熱によって軟化した前記シートを前記金型に対して賦形する、又は前記シートを前記成形基材に押圧し接着する熱成形方法であって、
前記金型又は前記成形基材を前記型枠内に収容して保持する工程と、
前記型枠の上縁部と前記熱板とによって前記シートを挟持する工程と、
前記熱板の加熱面によって前記シートを加熱する工程と、
前記シートが加熱により軟化した状態で、任意の単数又は複数の前記分割熱板を前記金型又は前記成形基材に向けて所定の進出量で進出させ、前記シートを部分的に前記金型又は前記成形基材に向けて誘導する工程と、
前記シートの前記熱板側の空間を加圧して圧空する工程と、
を有することを特徴とする熱成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形装置及び熱成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色や模様を有する樹脂成型品の成形方法の一つとして、スクリーン印刷等の手法で印刷を施したポリカーボネート等の印刷樹脂シートを圧空成形する方法が知られている。このような圧空成形では、成形の過程で発生する軟化時の自重によるシートのドローダウンや、加熱状態や材料をはじめとした様々なばらつきが生じる。
具体的には、ドローダウンするシートの形状と量が一定しないことや、そのシートの延びる部位にばらつきが生じるため、圧空成形の対象となる形状部位(金型形状)に対して印刷模様の位置を合致させる成形ができなくなり、印刷模様の位置のばらつきが大きくなり、形状に対するずれが許容範囲を超えてしまうことがあった。つまり、印刷樹脂シートを金型の部位に張り付ける精度が低下し、現実的には印刷樹脂シートを形成することには使用が困難となっていた。
【0003】
このような基本的な圧空成形方法に対して、成形精度を高めた熱板方式のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、上方にヒーターを備えた熱板を有する上部チャンバーと、上部成形基材を収容するとともに上部チャンバー側の周縁部にシートをセットすることが可能な下部チャンバーと、を備え、真空タンク及び加圧タンクに接続されて上下のチャンバー内を真空及び加圧可能に設けられた構成の真空プレス積層成形装置について記載されている。
そして、特許文献1に記載の真空プレス積層成形装置では、中間チャンバーを減圧してシートを基材より引き離した状態にて、下部チャンバーを減圧する。これにより、基材とシートとの間の空気がシートにより阻害されることなく充分に排除され、この後に上部チャンバーが加圧される。そのため、上部チャンバーと下部チャンバーとの差圧によりシートが真空状態にて基材に密着するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3102916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の熱板方式による熱成形方法では、従来の上下とも輻射熱式のヒーターを使用する圧空成形手法に比べて、印刷模様の形状に対する位置のばらつき幅を低減することが可能になった。
しかしながら、熱板方式による熱成形方法であっても、ドローダウンは排除できても、圧空開始後の成形については熱板から離れたシートが成形基材の表面に達するまでの間のシートの伸びや移動量を制御することができず、シートにおける成り行きの要素を排除できないという問題があった。そのため、求める精度ばらつきによっては、熱板方式による熱成形方法の採用が難しいことから、その点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、シートの張り付け位置のばらつきを小さく抑えることで、成形品質を向上することができる熱成形装置及び熱成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る熱成形装置は、加熱によって軟化したシートを金型に対して賦形する、又は前記シートを成形基材に押圧し接着する熱成形装置であって、前記金型又は前記成形基材を収容可能に保持する型枠と、該型枠の枠上縁部に対して加熱面を密接可能に設けられた熱板と、を有し、前記熱板は、板面方向に分割された複数の分割熱板と、ロッド先端を下向きにしたロッドを備え、前記ロッド先端に前記分割熱板を固定する伸縮シリンダと、前記伸縮シリンダを上下方向に摺動可能に支持する複数のガイド部を備えて前記分割熱板を下面側で支持する板状中空のベース材と、前記ベース材の中空部に設けられ、前記分割熱板を上側から加熱するヒーターと、を有し、分割された前記分割熱板は、それぞれ前記金型又は前記成形基材に向けて進退可能に進出し、前記ヒーターは、前記ベース材の下面を介して前記分割熱板に接するように配置され、前記ヒーターによって加熱された任意の単数又は複数の前記分割熱板を所定の進出量で進出させることで、前記シートを部分的に前記金型又は前記成形基材に向けて誘導可能であることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る熱成形方法は、上述した熱成形装置を使用して、加熱によって軟化した前記シートを前記金型に対して賦形する、又は前記シートを前記成形基材に押圧し接着する熱成形方法であって、前記金型又は前記成形基材を前記型枠内に収容して保持する工程と、前記型枠の上縁部と前記熱板とによって前記シートを挟持する工程と、前記熱板の加熱面によって前記シートを加熱する工程と、前記シートが加熱により軟化した状態で、任意の単数又は複数の前記分割熱板を前記金型又は前記成形基材に向けて所定の進出量で進出させ、前記シートを部分的に前記金型又は前記成形基材に向けて誘導する工程と、前記シートの前記熱板側の空間を加圧して圧空する工程と、を有することを特徴としている。
【0009】
本発明では、熱板を複数の分割熱板とすることで、型枠に保持される金型又は成形基材の形状に合わせて任意の単数又は複数の分割熱板をシートとともに前記金型又は前記成形基材に向けて所定の進出量で進出させることができる。そのため、熱成形時において、シートの一部を金型又は成形基材の近傍に部分的に誘導することができ、金型又は成形基材の形状に対してシートを精度よく位置決めすることができる。具体的には、印刷模様が施されたシート(印刷樹脂シート)を金型又は成形基材の所定の位置に精度よく印刷模様が位置するように成形することができる。このように本発明では、金型又は成形基材に対するシートのずれを小さく抑えることができ、位置精度のばらつき幅を低減して成形することができる。
【0010】
また、本発明に係る熱成形装置は、前記分割熱板は、板面方向に縦横に配列され、前記加熱面に直交する方向から見た平面視で板面形状が矩形であることを特徴としてもよい。
【0011】
この場合には、分割熱板が縦横に均等に配列され、それぞれの分割熱板が平面視で同じ矩形状であるので、金型又は成形基材の形状が変わっても、その形状に対応した任意の分割熱板を所定の進出量で進出するように制御して成形を行うことができる。すなわち、本発明では、形状が異なる金型又は成形基材に対しても、熱板を変更することなく、1つの熱板で熱成形を行うことができる。
【0012】
また、本発明に係る熱成形装置は、前記分割熱板は、前記金型又は前記成形基材に合せた板面形状であることを特徴としてもよい。
【0013】
この場合には、予め金型又は成形基材に合せた形状の分割熱板を用いることで、成形時にその分割熱板のみを金型又は成形基材に向けて所定の進出量で進出させるだけで効率よく、かつ精度よくシートの一部を金型又は成形基材の形状に合せた位置に誘導した成形を行うことができる。そのため、本発明では、単に複数に配列される分割熱板の場合のように、金型又は成形基材の形状に応じて進出させる分割熱板を選択したり、その分割熱板の進出量を設定する必要がなく、制御が容易になる利点がある。
【0014】
また、本発明に係る熱成形装置は、前記分割熱板同士の間の隙間は、前記熱板の前記加熱面側の空間に連通する熱板通気孔であり、前記熱板通気孔には負圧または加圧した熱媒体が流通されることが好ましい。
【0015】
この場合には、分割熱板同士の間の隙間の熱板通気孔を利用して熱媒体を流通させることができるので、熱板に通気孔を新たに設けるといった複雑な構造とならず、簡単な構成とすることができる。
【0016】
また、本発明に係る熱成形装置は、前記分割熱板の加熱面端縁部の少なくとも一部は、テーパ面又は湾曲面からなる面取り部を有することが好ましい。
【0017】
この場合には、金型又は成形基材に向けて進出する分割熱板の加熱面端縁部が面取り部となってピン角になっていないので、この加熱面端縁部に接触するシートの損傷を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱成形装置及び熱成形方法によれば、シートの張り付け位置のばらつきを小さく抑えることで、成形品質を向上することができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態による熱成形装置の構成を示す縦断面図であって、型枠を開放した状態の図である。
図2図1に示すA-A線矢視図であって、熱板を下方から見た平面図である。
図3図1に示す熱成形装置において、一部の分割熱板を下降させた状態を示す縦断面図である。
図4】熱板の分割熱板と枠熱板の構成を示す斜視図であって、(a)は下降前の状態の図、(b)は一部の分割熱板を加工させた状態の図である。
図5】分割熱板の面取り部の構成を示す側面図であって、(a)は下降前の図、(b)はシートに対して一部の分割熱板を下降させた図である。
図6】(a)~(d)は、熱成形方法による成形動作を説明するための縦断面図である。
図7】(a)~(d)は、図6(d)に続く熱成形方法による成形動作を説明するための縦断面図である。
図8】(a)~(d)は、熱成形方法による他の成形動作を説明するための縦断面図である。
図9】第1変形例による熱成形装置の構成を示す縦断面図であって、熱板を型枠の枠上縁部に下降させた状態の図である。
図10図9に示す熱板を下方から見た平面図であって、図2に対応する図である。
図11】第2変形例による熱板を下方から見た平面図であって、図2に対応する図である。
図12】第3変形例による熱板を下方から見た平面図であって、図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態による熱成形装置及び熱成形方法について、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態による熱成形装置1は、熱板加熱方式を採用し、熱板3の加熱によって軟化したシート4を、型枠2のチャンバー2A内に収容され保持された成形基材5の表面に接着して被覆するための装置である。ここで、本実施形態では、成形基材5の表面にシート4が押圧され、接着された状態の成形後の物品を熱成形品5A(図7(d)参照)として以下説明する。
【0022】
熱成形品5A(図7(d)参照)は、例えば自動車部品等で表裏面を有する部品が採用され、樹脂製の成形基材5の表面に加熱により軟化したシート4を吸着させて被覆することにより熱成形された成形品である。
【0023】
熱成形装置1は、成形基材5を収容可能に保持する型枠2と、型枠2の枠上縁部2aに対して加熱面3aを密接可能に設けられた熱板3と、を備えている。熱成形装置1では、型枠2と熱板3との間に配置したシート4に対して上方から熱板3で加熱し、加熱により軟化したシート4を型枠2で保持された成形基材5に押圧し接着する熱成形が行われる。
【0024】
シート4は、印刷層と、該印刷層の表面側に設けられた不図示の保護フィルムまたはキャリアフィルムと、を有し、印刷層の裏面側に接着層を有した公知の多層シートである。シート4の材質としては、熱板3によって加熱及び成形され、且つ冷却された際に固化し得る樹脂材料が好ましい。なお、シート4として、ロール状に巻き取られたロールシートを採用することができる。この場合には、図示しないシート巻出装置によって順次巻き出され、図示しないシート切断部によって切断されて、各熱成形品5Aの成形毎に加熱面3aに沿って連続的に供給することができる。
【0025】
成形基材5は、例えばポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる成形品の本体であり、この表面にシート4が接着によって被覆される。但し、成形基材5の材質は、前記樹脂に限定されるものではない。
成形基材5は、本実施形態において側面視で中央および外周部が一方(型枠2内では上方)に突出した形状となっている。なお、成形基材5は、型枠2内に収容可能で保持可能な形状であればよく、とくに成形基材5の形状に限定されるものではない。
【0026】
型枠2は、上面視で矩形状のステンレス等の金属製の部材からなり、底盤21と、底盤21の外周部から上方に向けて立設された側壁22と、を有し、枠架台23上に固定されている。
【0027】
側壁22は、枠上縁部2aの位置がチャンバー2A内に収容される成形基材5よりも上方となる高さを有している。枠上縁部2aは、熱板3との間でシート4を挟持する部分である。すなわち、枠上縁部2aにおいて、熱板3がシート4を挟んで気密な状態で当接し、これにより型枠2と熱板3とが閉止状態となってチャンバー2A内が密閉空間となる。そのため、シート4が枠上縁部2aと熱板3との間に挟持された状態において、シート4を挟んだ上下に気密な空間が画成される。
【0028】
底盤21と四方の側壁22によって囲まれる内側のチャンバー2A内には、成形基材5が収容されるとともに、底盤21上の所定の位置で所定の姿勢で着脱自在に固定された状態で保持される。型枠2に対する成形基材5の固定には、適宜な固定手段(図示省略)が採用される。例えば、型枠2に成形基材5の一部が係止可能な凹凸部等を固定手段としてもよい。
【0029】
また、型枠2には、チャンバー2A内に連通する複数の型枠通気孔24が設けられている。型枠通気孔24は、不図示の真空ポンプや加圧ポンプに接続され、チャンバー2A内を減圧、又は圧空することが可能となっている。
そして、成形基材5は、加圧ポンプによって熱板3からチャンバー2A側に圧縮空気が導入されることで、底盤21側に向けて下降し、かつ押圧されたシート4によって被覆・接着される。
【0030】
熱成形装置1には、型枠2のチャンバー2Aに対して成形基材5(又は成形基材5にシート4が被覆された熱成形品5A(図7(d)参照))を供給し、取り出すための不図示の供給手段が設けられている。
【0031】
熱板3は、図2乃至図4(a)、(b)に示すように、所定の成形位置に配置される型枠2の上方に位置し、その型枠2に対して不図示の伸縮装置によって上下移動可能に設けられている。熱板3は、下面側に滑らかな平面からなる加熱面3aを有し、シート4を吸着して加熱することで軟化させる構成となっている。
【0032】
熱板3は、加熱面3aに直交する方向から見た平面視で矩形である。熱板3は、前記矩形の外周に沿って設けられた枠熱板3Bと、枠熱板3Bの枠内において板面方向に縦横に分割されて配列された複数の分割熱板3A、3A、…と、を有している。熱板3は、上述した伸縮装置により下方に移動した状態で、成形位置に配置される型枠2の枠上縁部2aに対して上方から密接した状態で配置される。ここで、熱板3の上下移動の動作、後述する伸縮シリンダ34の動作、及び真空ポンプや加圧ポンプの駆動は、不図示の制御部によって制御される。
【0033】
熱板3は、枠熱板3B、及び複数の分割熱板3Aの板状中空のベース材31の下面31bに支持されている。ベース材31は、後述する伸縮シリンダ34を支持する複数のガイド部32を備えている。ガイド部32は、上下方向に延びる筒状であり、後述する伸縮シリンダ34のロッド34aを上下方向に摺動可能に支持する。
ベース材31の中空部31aには、複数のヒーター33が設けられている。ヒーター33は、ベース材31の下面31bに接している複数の分割熱板3A及び枠熱板3Bの全体にわたって均一な加熱温度となるように配置されている。
【0034】
分割熱板3Aは、下方からみた平面視で、それぞれ同じ大きさの長方形、或いは正方形である。複数の分割熱板3Aは、それぞれ上下方向、すなわち成形基材5に向けて進退可能に設けられている。分割熱板3Aは、先端(ロッド先端34b)を下向きにしてベース材31に支持される伸縮シリンダ34のロッド先端34bに固定されている。分割熱板3Aは、伸縮シリンダ34によって上下方向に往復移動可能に設けられている。
熱板3では、任意の単数又は複数の分割熱板3Aを所定の進出量で進出させることで、型枠2と熱板3との間に配置されるシート4を部分的に成形基材5側に向けて誘導させることが可能に設けられている。
【0035】
熱板3には、図1に示すように、加熱面3aに開口する複数の熱板通気孔35が所定の間隔をあけて設けられている。熱板通気孔35は、分割熱板3A同士の間に配置され、熱板3の下方空間(加熱面3a側の空間)に連通している。熱板通気孔35は、不図示の真空ポンプや加圧ポンプに接続され、これらポンプを駆動することで熱板3とシート4との間の空間を空気(熱媒体)を流通させて減圧、又は圧空することが可能となっている。
具体的に熱成形時には、適宜、真空ポンプと加圧ポンプとの接続を切り替え、真空状態に維持された真空タンクを開放し、シート4を熱板通気孔35より真空吸引させて加熱面3aに密着させたり、加圧ポンプより熱板通気孔35より圧縮空気を加熱面3aからシート4の上側に向けて供給して加圧し、シート4を成形基材5側に向けて下降し、かつ押圧させることが可能となっている。
【0036】
分割熱板3Aの下端縁部は、図5(a)、(b)に示すように、少なくとも一部に、湾曲面からなる面取り部3bを有している。なお、分割熱板3Aの面取り部3bの形状としては、湾曲面であることに限定されることはなく、テーパ面であってもかまわない。
【0037】
なお、本実施形態の熱成形装置1には、とくに図示しないが、成形基材5に被覆されたシート4の不要部分をトリミングする切断治具が設けられている。この切断治具は、例えば型枠2の底盤21に設けられ、刃部を上方に向けて配置し、型枠2に保持されている成形基材5に対して所定の間隔をあけて上下方向に対向する位置に配置されている。このように切断治具が構成され、切断治具の刃部が成形基材5に被覆されたシート4に当たってカットし、トリミングすることができる。
【0038】
次に、上述した熱成形装置1を使用して熱成形品5Aを成形する際の熱成形方法について、図面に基づいて説明する。
先ず、図6(a)に示すように、型枠2に対して熱板3が上昇してチャンバー2Aが開放された状態で、型枠2のチャンバー2A内に成形基材5を収容し、その成形基材5を底盤21上の所定位置に固定する。そして、型枠2と、その型枠2の上方に配置されている熱板3との間にシート4を供給する。このとき熱板3の加熱面3aは、シート4の上方に所定の間隔をあけて対向し。複数の分割熱板3Aのすべてが上昇位置となって平面状に揃った状態で配置されている。
【0039】
その後、図6(b)、(c)に示すように、シート4を型枠2の枠上縁部2aに接するように配置し、熱板3を下降して枠熱板3Bをシート4を介して型枠2の枠上縁部2aに上方から当接させる。シート4は、枠上縁部2aと熱板3とによって全周にわたって隙間なく挟持された状態となる。また、型枠2の上部開口が塞がれることでチャンバー2A内が密閉状態となる。これによりシート4は、熱板3の加熱面3aに接触した状態となる。そして、シート4の上側と下側とが互いに隔離された状態となる。
なお、シート4は、ロール状のシート4を枠上縁部2a上に巻き出して、熱板3で挟持した後に不図示の切断手段により所定の大きさに切断するようにしてもよい。あるいは、上述したように、予め設定された大きさのシート4を枠上縁部2a上に配置させて熱板3で挟持するようにしてもよい。
【0040】
熱板3を下降させた後、熱板3の熱板通気孔35(図1参照)を使用して真空吸引することでシート4の上側を減圧することにより真空にする。熱板3の加熱面3aは、ヒーター33(図1参照)によって加熱されており、熱板3において真空ポンプを作動させて複数の熱板通気孔35を通じて加熱面3aとシート4との間を真空吸引して減圧し、その加熱面3aにシート4を吸着させると同時に加熱する。
【0041】
次に、図6(d)、及び図7(a)~(c)に示すように、熱板3による加熱によって軟化したシート4を成形基材5の表面に被覆する成形工程が行われる。
先ず、図6(d)に示すように、シート4の加熱が完了した後に、分割熱板3Aのうちとくに位置精度を確保したい近傍に位置する任意の分割熱板3Aが下降を開始する。本実施形態では、図6(d)に示される成形基材5の2つの凹部5bに進入可能な伸縮シリンダ34が伸長する。
そして、図7(a)、(b)に示すように、下降を開始した伸縮シリンダ34をさらに伸長させることで、シート4の一部が成形基材5の凹部5bの底面5c近傍まで、あるいは凹部5bの底面5cに接触するまで下降した時点で伸縮シリンダ34の伸張が停止される。
【0042】
その後、図7(c)に示すように、シート4の上側から圧空を行って成形する。具体的には、型枠2の複数の型枠通気孔24(図1参照)を使用して空気を排気することによりシート4の下側のチャンバー2A内が圧空開放となる。そして、複数の型枠通気孔24から真空吸引してシート4の下側を減圧することで高真空度状態にする。さらに、熱板3側では、熱板通気孔35(図1参照)を使用して加圧ポンプを駆動することによりシート4の上側の空間を圧空する。
【0043】
このように所定の伸縮シリンダ34を伸長させ、シート4の一部を成形基材5の凹部5bの内側に誘導させた後のタイミングで、シート4の下側の空間を減圧するとともに、シート4の上側の空間を圧空することで、シート4の下側の空間が高真空度状態となる。これにより、熱板3の加熱面3aに吸着していたシート4が加熱面3aから離れ、シート4全体が下方に移動する。これにより、熱板3とシート4との間が大気開放されるので、シート4を挟んだ上下空間に圧力差が生じる。そして、加熱によって軟化したシート4が熱板3の加熱面3aから離れて下方に向かって移動し、成形基材5の表面を覆うように密着して押し付けられ、シート4が成形基材5の表面を被覆して接着される。
【0044】
その後、図7(d)に示すように、伸長させた分割熱板3Aを縮減して元の位置に戻すとともに熱板3全体を上昇させて型枠2の上部開口を開放し、成形した熱成形品5Aを型枠2から取り出す。
なお、被覆されたシート4に対して不図示の切断治具を用いて適宜なカットラインでカットすることでシート4のトリミングを行うことも可能である。
【0045】
以上の動作手順によって熱成形品5Aが完成し、1つの熱成形品5Aを熱成形する一連の成形動作が完了する。
【0046】
次に、上述した図6(a)~(d)、及び図7(a)~(d)で説明した熱成形方法とは別の成形方法について説明する。
図8(a)に示すように、シート4を型枠2の枠上縁部2aと熱板3の枠熱板3Bとの間で挟持した状態において、下降可能なすべての分割熱板3Aの伸縮シリンダ34を同時に伸長させ加工を開始する。ここでは、枠熱板3Bに隣接する分割熱板3Aのみを残して他のすべての分割熱板3Aが下降を開始する。さらに、図8(b)、(c)に示すように、下降する分割熱板3Aは成形基材5の凹部5bの形状に倣って各分割熱板3Aで押し出すシート4の一部が凹部5bに接触する位置まで下降する。つまり、シート4は複数の分割熱板3Aによって成形基材5の形状に沿った形で誘導されることになる。
【0047】
続いて、図8(d)に示すように、シート4の上側から圧空を行って成形する。具体的には、型枠2の複数の型枠通気孔24(図1参照)を使用して排気することによりシート4の下側のチャンバー2A内が圧空開放となる。そして、複数の型枠通気孔24から真空吸引してシート4の下側を減圧することで高真空度状態にする。さらに、熱板3側では、熱板通気孔35を使用して加圧ポンプを駆動することによりシート4の上側の空間を圧空する。
このように、図8(a)~(d)に示す別の熱成形方法では、成形基材5の形状に合わせて下降可能なすべての分割熱板3Aを下降させて、シート4全体を成形基材5の近傍に誘導する方法となるので、より精度のよい熱成形を行うことができる。
【0048】
次に、上述した熱成形装置及び熱成形方法による作用について、図面に基づいて説明する。
本実施形態では、図3図6(a)~(d)及び図7(a)~(d)に示すように、熱板3を複数の分割熱板3Aとすることで、型枠2に保持される成形基材5の形状に合わせて任意の単数又は複数の分割熱板3Aをシート4とともに成形基材5に向けて所定の進出量で進出させることができる。そのため、熱成形時において、シート4の一部を成形基材5の凹部5b近傍に部分的に誘導することができ、成形基材5の形状に対してシート4を精度よく位置決めすることができる。具体的には、本実施形態のように印刷模様が施されたシート4を成形基材5の所定の位置に精度よく印刷模様が位置するように成形することができる。
このように本実施形態では、成形基材5に対するシート4のずれを小さく抑えることができ、位置精度のばらつき幅を低減して成形することができる。
【0049】
また、本実施形態では、分割熱板3Aが板面方向に縦横に均等に配列され、下方から見た平面視で板面形状が矩形であり、それぞれの分割熱板3Aが平面視で同じ矩形状であるので、成形基材5の形状が変わっても、その形状に対応した任意の分割熱板3Aを所定の進出量で進出するように制御して成形を行うことができる。すなわち、本実施形態では、形状が異なる成形基材5に対しても、熱板3を変更することなく、1つの熱板3で熱成形を行うことができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、分割熱板3A同士の間の隙間を利用して熱板通気孔35を有しているので、熱板3に通気孔を新たに設けるといった複雑な構造とならず、簡単な構成とすることができる。
【0051】
さらにまた、本実施形態では、下降する分割熱板3Aの下端縁部が面取り部3bとなってピン角になっていないので、この下端縁部の面取り部3bに接触するシート4の損傷を防止することができる。
【0052】
上述のように本実施形態による熱成形装置及び熱成形方法では、シート4の張り付け位置のばらつきを小さく抑えることで、成形品質を向上することができる。
【0053】
以上、本発明による熱成形方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0054】
例えば、本実施形態では、熱板3によって軟化させたシート4を成形基材5に接着して被覆する熱成形方法を対象としているが、このようなシート被覆による熱成形に限定されることはない。例えば、熱板の加熱によって軟化したシートを金型に対して賦形する熱成形を本発明の適用対象としてもよい。金型に対して賦形する場合も、熱成形方法は、上述した実施形態と同様の方法により行うことができる。
【0055】
また、本実施形態では、熱板3の分割構成として、枠熱板3Bの内側に縦横に配列された複数の分割熱板3Aを設けた構成とし、各分割熱板3Aの下方から見た平面視で板面形状が矩形となる構成としているが、このような分割熱板3Aであることに制限されることはなく、他の構成の分割熱板とすることも可能である。
【0056】
例えば、図9乃至図12に示す変形例のように、金型又は成形基材に合せた板面形状である分割熱板3C、3D、3E、3Fを採用してもよい。
図9及び図10に示す第1変形例による熱成形装置1Aは、型枠と一体化した成形基材51が有底筒状であり、この成形基材51の凹部51aの形状に対応した下方から見た平面視で円形の分割熱板3Cを備えた熱板36を設けた構成である。具体的に熱板36は、枠熱板36Aと、熱板36の中央に配置される1つの円形の分割熱板3Cと、を備えている。この場合、成形時において円形の分割熱板3Cのみがシート4と共に下降することになる。
図11に示す第2変形例の熱板37は、第1変形例の円形の分割熱板3Cに代えて平面視で三角形状の分割熱板3Dとしたものである。図12に示す第3変形例の熱板38は、平面視で異なる四角形状の2つの分割熱板3E、3Fを設けたものである。
【0057】
上述した変形例の場合、予め成形基材51に合せた形状である分割熱板3C、3D、3E、3Fを用いることで、成形時にその分割熱板3C、3D、3E、3Fのみを所定の進出量で下降させるだけで効率よく、かつ精度よくシートの一部を成形基材51の形状に合せた位置に誘導した成形を行うことができる。そのため、本変形例では、単に複数に配列される上述した実施形態による分割熱板3A(図1参照)の場合のように、成形基材の形状に応じて下降させる分割熱板3Aを選択したり、その下降する進出量を設定する必要がなく、制御が容易になる利点がある。
【0058】
また、本実施形態では、熱板3が上下移動する構成としているが、これに限定されることはなく、型枠2と熱板3とが上下方向に相対的に近接可能であればよく、熱板3の位置を固定とし、その熱板3に対して型枠2が上下移動可能に設けられていてもよい。或いは、型枠2と熱板3とがそれぞれ上下方向に移動できる構成であっても勿論かまわない。したがって、型枠2の位置が限定されるものではなく、熱成形時において、熱板3と型枠2とが平面視で重なるように設けられていればよい。
【0059】
なお、本実施形態では、シート4を成形基材5に被覆接着する熱成形方法を対象としているが、このような貼り合わせ成形の場合のみならず、転写トリムレスによりシート最上層のキャリアフィルムを剥離させて加飾層のみ(本発明のシートに相当する)を成形基材に転写させる場合も含んでいる。
【0060】
また、型枠2、熱板3の形状、大きさ、及びシートの切断手段などの構成は、適宜、設定することができる。
また、本実施形態の熱板3に設けられる熱板通気孔35を流通させる熱媒体として空気としているが、空気であることに限定されることはなく、例えば不活性ガスや液体を適用することも可能である。
【0061】
さらに、シート4のトリミングの工程は、本実施形態のように成形時と同時でもよいし、成形後、別工程で行うようにしてもよい。
【0062】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0063】
1、1A 熱成形装置
2 型枠
2a 枠上縁部
2A チャンバー
3 熱板
3a 加熱面
3A、3C、3D、3E、3F 分割熱板
3B 枠熱板
4 シート
5 成形基材
5A 熱成形品
5b 凹部
21 底盤
24 型枠通気孔
33 ヒーター
35 熱板通気孔
36、37、38 熱板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12