(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー強化アルミニウム基複合材及びアルミニウム基複合押出材並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/10 20230101AFI20240729BHJP
C22C 49/06 20060101ALI20240729BHJP
C22C 47/00 20060101ALI20240729BHJP
B21C 23/00 20060101ALI20240729BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240729BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240729BHJP
【FI】
C22C1/10 F
C22C49/06
C22C47/00 Z
B21C23/00 A
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2020074576
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019083623
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】松田 健二
(72)【発明者】
【氏名】中村 直人
(72)【発明者】
【氏名】李 昇原
(72)【発明者】
【氏名】土屋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翔眞
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-209241(JP,A)
【文献】特開2006-249994(JP,A)
【文献】特開平10-088256(JP,A)
【文献】特開2017-222786(JP,A)
【文献】特開2011-021303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/10
C22C 49/06
C22C 47/00
B21C 23/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金のマトリックス中にセルロースナノファイバーが分散されていることを特徴とするアルミニウム基複合材。
【請求項2】
アルミニウム又はアルミニウム合金の押出材中にセルロースナノファイバーが分散されていることを特徴とするアルミニウム基複合押出材
の製造方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーの繊維径は3~100nmの範囲であることを特徴とする請求項
2記載
のアルミニウム基複合押出材
の製造方法。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーの体積含有率は20%以上であることを特徴とする請求項3記載
のアルミニウム基複合押出材
の製造方法。
【請求項5】
セルロースナノファイバーの懸濁液とアルミニウム繊維不織布とを相互に接触させた後に乾燥するステップと、次にプレス成型するステップとを有することを特徴とするセルロースナノファイバー強化アルミニウム基複合材の製造方法。
【請求項6】
セルロースナノファイバーの懸濁液とアルミニウム繊維不織布とを相互に接触させた後に乾燥するステップと、次にプレス成型にてシート材を得るステップと、
前記で得られたシート材を複数枚に重ねてプレス成型しバルク材を得るステップと、
前記バルク材を用いて押出加工するステップとを有していることを特徴とするアルミニウム基複合押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化アルミニウム複合材に関し、特に強化繊維にセルロースナノファイバーを用いた複合材並びにそれを押出加工して得られるアルミニウム基複合押出材に係る。
【背景技術】
【0002】
多くの産業の分野において、製品,部材の軽量化が要求されている。
その達成手段の1つとして、アルミニウム及びその合金の採用が検討されており、さらなる高強度,軽量化を目的に各種繊維を用いた繊維強化アルミニウム複合材が検討されている。
強化繊維としては、炭素繊維(CF)やセラミックスウイスカー等が提案されているが、繊維やウイスカーそのものが高価であるとともに、複合化のプロセスが複雑であり実用的ではなかった。
近年、竹,木材等の植物由来のセルロースナノファイバーが低比重でありながら、鉄鋼の5~8倍の引張強度を有し、天然由来の材料として環境負荷に優しく、安価に大量生産可能なことから、その応用が期待されている。
【0003】
特許文献1には、表面にアルデヒド基を有するセルロース系ファイバーに金属ナノ粒子を担持させた複合体を開示するが、触媒として用いるのが目的であって軽量部材として用いられるものではない。
特許文献2には、セルロースナノファイバーを親水性かつ多孔性基材に付着させた後に樹脂と複合化する複合体を開示するが、工程が複雑であるとともにアルミニウムとの複合化を図ったものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-240538号公報
【文献】特開2017-222786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルミニウム及びその合金のさらなる軽量化が可能な繊維強化複合材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミニウム基複合材は、アルミニウム又はアルミニウム合金のマトリックス中にセルロースナノファイバーが分散されていることを特徴とする。
また、本発明に係るアルミニウム基複合押出材は、アルミニウム又はアルミニウム合金の押出材中にセルロースナノファイバーが分散されていることを特徴とする。
【0007】
ここで、セルロースナノファイバー(CeNF)は、竹や木材などに由来する植物繊維を解繊することで得られ、繊維径(直径)が3~100nmでアスペクト比(繊維長/繊維径)が100以上の極細の繊維状物質をいう。
植物由来のカーボンニュートラルな素材であり、比重が1.3~1.5g/cm3と軽く、引張強度が3GPaレベルと鉄鋼の5倍以上と非常に高い性質を有している。
【0008】
本発明に係るアルミニウム基複合材あるいはアルミニウム基複合押出材は、体積含有率で20%以上のセルロースナノファイバー(CeNF)が含有しているのが好ましい。
【0009】
このようなアルミニウム基複合材は、セルロースナノファイバーの懸濁液とアルミニウム繊維不織布とを相互に接触させた後に乾燥するステップと、次にプレス成型するステップとを有することで容易に製造できる。
セルロースナノファイバーの懸濁液は、純水等に懸濁されているものを用いることができ、その懸濁濃度を変えることで、CeNFの含有率を調整することができる。
アルミニウム繊維不織布は、アルミニウム又はその合金を繊維径(直径)約50~250μm,長さ1cm以上の繊維状にしたものを布状に成形したものをいう。
また、繊維の製造方法としては、線引きになる機械加工法や溶融アルミから紡糸する方法等が採用されている。
本発明はさらに、押出加工することで押出材にしてもよく、セルロースナノファイバーの懸濁液とアルミニウム繊維不繊布とを相互に接触させた後に乾燥するステップと、次にプレス成型にてシート材を得るステップと、前記で得られたシート材を複数枚に重ねてプレス成型しバルク材を得るステップと、前記バルク材を用いて押出加工するステップとを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るセルロースナノファイバー強化アルミニウム基複合材は、軽量なアルミニウムをさらに軽量化できる。
また、本発明に係る製造方法によれば、アルミニウム繊維不織布に、セルロースナノファイバーをその懸濁液を用いて絡ませることができ、その後のプレス成型により容易に複合化でき、押出加工も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】セルロースナノファイバー強化アルミニウム基複合材の製造プロセスの例を模式的に示す。
【
図2】CeNF懸濁液を変えて製作した複合材の写真を示す。
【
図3】複合材のCeNF含有率と硬度変化を表に示す。
【
図4】アルミニウム繊維径を変化させた際の複合材の写真を示す。
【
図5】アルミニウム繊維径と硬さの変化を表に示す。
【
図6】複合材シートを重ね合わせプレス成型したバルク材の外観写真を示す。
【
図7】押出加工時の複合材と純アルミニウムとの配置例を示す。
【
図11】ケース2での押出材の外観、断面写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
アルミニウム基複合材を試作評価したので以下、説明する。
評価に用いたアルミニウム繊維不織布には、繊維径(直径)が80~100μm,100~115μm,115~130μmの3種(株式会社ユニックス製)を用いた。
セルロースナノファイバー(CeNF)には、竹パルプ由来の繊維径(直径)約50nm以下(中越パルプ工業株式会社製)のものを用いた。
【0013】
図1に試作した複合材の製造プロセスを示す。
セルロースナノファイバー(CeNF)を水に懸濁した懸濁液を容器に入れ、マグネティックスターラーにて約1時間撹拌した。
次にアルミニウム繊維不織布を、この懸濁液に浸漬した後に取り出し、その工程を経たものを複数枚用意して積層した。
次に100~120℃にて炉内乾燥した後に同程度の温度にて温間プレス成型した。
【0014】
図2に、CeNFの水による懸濁濃度を1%,10%,100%に変えてアルミニウム繊維不織布に絡ませた後に温間プレス成型した複合材の外観写真及び顕微鏡写真を示す。
アルミニウムマトリックス中にCeNFが概ね均一に分散していた。
図3の表に複合材の比重と、ビッカース硬度の測定値を示す。
CeNFの体積含有率の増加により比重が軽くなり、硬度が高くなっているのが分かる。
【0015】
次に、
図4に示すようにアルミニウム繊維不織布の繊維径、80~100μm,100~115μm,115~130μmの3種のものを用いて複合材を試作した。
その硬さ変化を
図5の表に示す。
アルミニウム繊維不織布の繊維径が80~130μmの範囲で、密度や硬さに大きな変化がなかった。
【0016】
次にアルミニウム基複合押出材を試作評価した。
セルロースナノファイバー(CeNF)を水に懸濁した懸濁液を容器に入れ、マグネティックスターラーにて約1時間撹拌した。
次にアルミニウム繊維不織布を、この懸濁液に浸漬した後に取り出し、その工程を経たものを複数枚用意して積層した。
今回、アルミニウム繊維不織布としては、繊維径約105~120μm,長さ1cm以上の繊維からなるものを用いた。
次に100~120℃にて炉内乾燥した後に同程度の温度にて温間プレス成型した。
このようなCeNFを付着させたアルミニウム繊維不織布を数枚の板(シート材)を、さらに数枚重ねて、上記とほぼ同じ温度でプレスすることで、最終的に20mm~30mmのバルクとした。
CeNFを付着させたアルミニウム繊維不織布としては、最終的には30枚以上を積層したことになる。
【0017】
図6に、上記の方法で作製したセルロースナノファイバー強化アルミニウム基複合材バルクの外観写真を示す。
高さが約25mm,直径30mmである。
図7に、押出時における複合材(バルク)と純アルミニウムの配置図を示す。
純アルミニウムを複合材の前方において、押出し材表面を被覆する目的のケース1と、アルミニウム繊維不織布のわずかな空隙を埋める目的で純アルミニウムを複合材後方にも置いたケース2を検討した。
押出条件は、押出材の先端に設置した熱電対で測温した温度約400℃、押出速度は約1.4mm/s、押出し比は9で、棒材として押出した。
図8は、ケース1で複合材を押出した後の外観写真を示す。
約200mm、直径φ10mmの棒材を得た。
図8の下段に、ケース1の押出材の横断面の光学顕微鏡観察像を示す。
それぞれ図中、1、2、3の部分の横断面を観察した。
押出し先端に近い1では、明るい部分が多く、CeNFが大変少ない。
2になると黒い斑点上の領域が多く観察されるようになり、ここにはCeNFが多く存在しているが、外周に近い部分は、明るい純アルミニウムの領域が多い。
3では、2に観察された黒い斑点上の領域が2よりも多くなり、外周部の明るい純アルミニウムの領域の幅が狭くなっていることがわかる。
図9は、ケース1の押出材の横断面2から得たSEM観察像を示す。
白いコントラストがCeNFで、グレー色の部分が純アルミニウム母相である。
CeNFは凝集しているが、純アルミニウム母相にほぼ均一に分散していることがわかる。
外周に近い部分のSEM観察では、先の
図8にも記したように、グレー色の純アルミニウム母相の部分にはCeNFはほとんど確認されない。
図10は、CeNFの存在を確認するため、ケース1の押出材の横断面2に対してXRD測定を行った結果を示す。
(a)グラファイト、(b)アルミニウムのICDDデータ、(c)今回使用したCeNFのみを乾燥させて作製したシート、(d)が押出材である。
(c)のCeNFのみを乾燥させて作製したシートでは23°付近に高い強度が得られたことを考慮して、(d)の押出し材の結果を見ると、純アルミニウムの回折ピークのほかに、これにも23°付近に低い強度のピークが確認された。
したがって、アルミニウム繊維不織布に付着させて、周囲をアルミニウムで密閉した条件を提供することで、400℃という通常ならばCeNFが炭化する温度でも、本発明の複合材は押出しが可能であることが分かる。
【0018】
図11に、ケース2で複合材料を押出した後の外観写真を示す。
ケース1とは異なり、表面に亀裂が観察された。
図11の下段に、ケース2の押出材の横断面の外観写真と光学顕微鏡観察像を示す。
外観写真では、中央付近の明るい領域と、外周部に近い部分に約1mm位の幅で暗いコントラストの領域と、最外周部には、再び明るいコントラストの領域が確認された。
光学顕微鏡観察では、中心部は明るい
コントラストであり、純アルミニウムが多いことがわかり、また、外周部は図の左側にCeNFが存在することを示す黒い斑点状のコントラストが多い領域が確認された。
これは、押出時に、前方の純アルミニウムが最外周部を覆い、後方の純アルミニウムは、アルミニウム繊維不織布の空隙を埋めることなく、押出し棒の中心部を流れ、CeNFが外周部に押しやられたことで、最外周部の純アルミニウムと押出ダイスとの摩擦が大きくなり、一部、最外周部の純アルミニウムが剥がれて亀裂のようになったと考えられた。
ただし、この場合もCeNFは炭化することなく存在していたので、熱間押出には、前方に純アルミニウムを置くことで十分な密閉性が保たれて、CeNFとして残存させることが可能であるといえる。