(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】フッ素樹脂含有シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4318 20120101AFI20240729BHJP
D04H 1/4334 20120101ALI20240729BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20240729BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240729BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240729BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240729BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
D04H1/4318
D04H1/4334
D04H1/728
B05D7/24 302L
B05D7/24 301E
B05D7/24 301B
B05D7/24 302X
B05D1/36 Z
B05D7/00 K
B05D3/02 Z
(21)【出願番号】P 2020086391
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】597083035
【氏名又は名称】名古屋合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 広裕
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-060773(JP,A)
【文献】特開2007-056440(JP,A)
【文献】特表2010-527414(JP,A)
【文献】特開2005-019026(JP,A)
【文献】特開2008-081919(JP,A)
【文献】国際公開第96/010668(WO,A1)
【文献】特開2016-074229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01D 1/00-13/02
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂含有シートであって、
該フッ素樹脂としてのポリテトラフルオロエチレン含有繊維とポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維
からなる層を含み、
該ポリテトラフルオロエチレン含有繊維ならびに該ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維が重畳的に配置されており、
該ポリテトラフルオロエチレンと該ポリアミドイミドおよび/またはポリイミドとの質量比が50:50~95:5であり、
該ポリテトラフルオロエチレン含有繊維の平均繊維径が300nm~2000nmであり、そして
該ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維の平均繊維径が100nm~1000nmである、フッ素樹脂含有シート。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維がフラクタルな外表面を有する、請求項1に記載のフッ素樹脂含有シート。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維ならびに前記ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維がそれぞれ多分岐構造を有する、請求項1または2に記載のフッ素樹脂含有シート。
【請求項4】
請求項1に記載のフッ素樹脂含有シートの製造方法であって、
ポリエチレングリコール水溶液中のポリテトラフルオロエチレンの分散体(1)と、ポリアミドイミドおよび/またはポリイミドならびに有機溶媒の溶液(2)とをエレクトロスプレーデポジション法によりそれぞれ基板電極上に、
該ポリテトラフルオロエチレン含有繊維ならびに該ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維が重畳的に配置されるように紡糸して焼成前生シートを作製する工程、ならびに
該焼成前生シートを焼成する工程、
を包含する、方法。
【請求項5】
前記有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記重畳的に紡糸する工程が、前記分散体(1)および前記溶液(2)を前記基板電極に対して水平二次元方向にスライドして同時スプレーすることにより行われる、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記焼成する工程が300℃から400℃の温度下で行われる、請求項
4から
6のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂含有シートおよびその製造方法に関し、より詳細には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有し、かつシート表面のクラックが低減されたフッ素樹脂含有シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレクトロスプレーデポジション(ESD)(またはエレクトロスピニング)技術を用いてPTFEを静電紡糸し、PTFEの不織シートを製造する技術が知られている(特許文献1)。この技術では、主としてPTFEからなる繊維の繊維径を均一化することができる。
【0003】
PTFEを用いて作製された不織シートは、防水透湿材として機能することができ、例えばレインウエア、登山用衣類などの所定の防水性とウエア内部をドライに保持し得る透湿性とを備え持つ高機能の布帛として使用されている。あるいは、PTFEの不織シートは人工血管や骨増生膜のような医療分野の膜材料としても使用されている。
【0004】
しかし、PTFEの不織シートは、シートを焼成して完成させる際にクラックが発生し易く、広範な面積を有する製品をより安定的に生産かつ供給するためには高度な技術開発が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題の解決を課題とし、その目的とするところは、シート作製段階でのクラックの発生が低減され、かつ優れた防水性と透湿性とを兼ね備える、フッ素樹脂含有シートおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フッ素樹脂含有シートであって、
ポリテトラフルオロエチレン含有繊維とポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維とを含有し、
該ポリテトラフルオロエチレン含有繊維の平均繊維径が300nm~2000nmであり、そして
該ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維の平均繊維径が100nm~1000nmである、フッ素樹脂含有シートである。
【0008】
1つの実施形態では、上記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維ならびに上記ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維は重畳的に配置されている。
【0009】
1つの実施形態では、上記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維はフラクタルな外表面を有する。
【0010】
1つの実施形態では、上記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維ならびに上記ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維はそれぞれ多分岐構造を有する。
【0011】
本発明はまた、フッ素樹脂含有シートの製造方法であって、
ポリエチレングリコール水溶液中のポリテトラフルオロエチレンの分散体(1)と、ポリアミドイミドおよび/またはポリイミドならびに有機溶媒の溶液(2)とをエレクトロスプレーデポジション法によりそれぞれ基板電極上に重畳的に紡糸して焼成前生シートを作製する工程、ならびに
該焼成前生シートを焼成する工程、
を包含する、方法である。
【0012】
1つの実施形態では、上記有機溶媒はN-メチル-2-ピロリドンである。
【0013】
1つの実施形態では、上記重畳的に紡糸する工程は、上記分散体(1)および上記溶液(2)を上記基板電極に対して水平二次元方向にスライドして同時スプレーすることにより行われる。
【0014】
1つの実施形態では、上記焼成する工程は300℃から400℃の温度下で行われる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシートによれば、従来のPTFEの不織シートと同等またはそれ以上の防水性および透湿性を提供することができる。その際、クラックの発生が低減され、結果として高品質のシートを効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のフッ素樹脂含有シートの製造に使用され得るESD(エレクトロスプレーデポジション)装置の構成の一例を模式的に説明するための図である。
【
図2】本発明のフッ素樹脂含有シートの製造に使用され得るESD装置の構成の他の例を模式的に説明するための図である。
【
図3】
図1に示すESD装置を用いて作製した実施例1のフッ素樹脂含有シートの表面状態を表す走査型電子顕微鏡(SEM)写真であって、(a)は拡大率1000倍のSEM写真であり、(b)は拡大率5000倍のSEM写真である。
【
図4】
図1に示すESD装置を用いて作製した実施例1のフッ素樹脂含有シート表面が良好な撥水性を有していることを示す当該シート表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
【0018】
(フッ素樹脂含有シート)
本発明のフッ素樹脂含有シートは、ポリテトラフルオロエチレン含有繊維とポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維とを含有する。
【0019】
ポリテトラフルオロエチレン含有繊維は、好ましくは1.0×105~1×107の重量平均分子量を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主成分として含有する繊維である。PTFEはテトラフルオロエチレンの重合体で、フッ素原子および炭素原子から構成されるフッ素樹脂である。PTFE自体は、化学的に安定であり、耐熱性および耐薬品性に優れていることが知られている。
【0020】
ポリテトラフルオロエチレン含有繊維は、好ましくはフラクタルな外表面を有する。ここで、本明細書中に用いられる用語「フラクタルな外表面」とは、繊維表面が無数かつ微細な幾何学的またはそれに類似する複雑な凹凸面を有する状態を指していう。ポリテトラフルオロエチレン含有繊維のフラクタルな外表面は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を通じて当業者が容易に観察することができる。
【0021】
本発明のフッ素樹脂含有シートにおいて、ポリテトラフルオロエチレン含有繊維はまた、多数のフィラメントが多数の分岐点で結合した多分岐構造を有していることが好ましい。多分岐構造を有するポリテトラフルオロエチレン含有繊維は、後述するエレクトロスプレーデポジション(ESD)法による紡糸とその後の焼成によって容易に形成される、この多分岐構造は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を通じて当業者が容易に観察することができる。
【0022】
ポリテトラフルオロエチレン含有繊維はまた、例えば300nm~2000nm、好ましくは500nm~1000nmの平均繊維径を有するナノファイバーである。ポリテトラフルオロエチレン含有繊維の平均繊維径がこのような範囲を満足することにより、得られるフッ素樹脂含有シートでは、圧力損失が低減して通気量が増大する、濾過性能が向上する等の性能が向上し得る。
【0023】
ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維は、ポリアミドイミド(PAI)および/またはポリイミド(PI)を主成分として含有する繊維である。
【0024】
ポリアミドイミド(PAI)は、例えばトリメリット酸クロリドとジアミンとを用いる酸クロリド法やトリメリット酸無水物とジイソシアネートを用いるジイシシアネート法等の通常の方法で合成される高分子であり、本発明においては市販による入手が容易である等の理由からジイソシアネート法により得られたPAIであることが好ましい。
【0025】
上記方法に用いられるトリメリット酸クロリドまたはトリメリット酸無水物はその一部が他塩基酸またはその無水物に置き換えられたものであってもよい。このような例としては、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸およびこれらの無水物、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン-ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0026】
さらに上記トリメリット酸無水物の一部がグルコールに置き換えられたものであってもよい。このようなグリコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等のアルキレングリコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール;上記ジカルボン酸の1種または2種以上と上記グリコールの1種または2種以上とから合成される、末端水酸基のポリエステル;等が挙げられる。
【0027】
上記方法に用いられるジアミンまたはジイソシアネートの例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンおよびこれらのジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミンおよびこれらのジイソシアネート;m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、o-トリジン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンおよびこれらのジイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
ポリアミドイミドを構成する上記トリメリット酸クロリドまたはトリメリット酸無水物と上記ジアミンまたはジイソシアネートとのモル比は、好ましくは1:0.90~1:1.20であり、より好ましくは1:0.95~1:1.05である。
【0029】
ポリイミド(PI)は、上記ポリアミドイミドの代替として、またはポリアミドイミドと一緒に含有されていてもよい、当該ポリアミドイミド以外の耐熱性樹脂の1種である。
【0030】
ポリイミド、例えば、ポリアミド酸を溶剤中で加熱し、還元反応によってイミド化させることにより得ることができるものである。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分との重縮合物である。テトラカルボン酸二無水物の例としては、3,3,4,4-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。ジアミン成分の例としては、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4-ジアミノジフェニルエーテル、およびビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。上記ポリアミド酸のイミド化に用いられれる溶剤の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン、トルエン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、およびメトキシプロパノール、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。ポリアミド酸のイミド化のために設定される加熱温度は、例えば60℃~250℃であり、好ましくは100℃~200℃である。ポリアミド酸のイミド化のために設定される加熱時間は、好ましくは0.5時間~50時間である。
【0031】
本発明のフッ素樹脂含有シートにおいて、ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維はまた、多数のフィラメントが多数の分岐点で結合した多分岐構造を有していることが好ましい。多分岐構造を有するポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維は、後述するESD法による紡糸とその後の焼成によって容易に形成される、この多分岐構造は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を通じて当業者が容易に観察することができる。
【0032】
ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維はまた、例えば100nm~1000nm、好ましくは200nm~500nmの平均繊維径を有するナノファイバーである。ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維の平均繊維径がこのような範囲を満足することにより、得られるフッ素樹脂含有シートでは、圧力損失が低減して通気量が増大する、濾過性能が向上する等の性能が向上し得る。
【0033】
なお、本発明のフッ素含有シートでは、上記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維と上記ポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維とが重畳的に配置されていることが好ましい。ここで、本明細書中に用いられる用語「重畳的に配置」とは、フッ素樹脂含有シートを構成するポリテトラフルオロエチレン含有繊維とポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維とがシートの全面または一部において互いに重なり合って複雑な積層構造を有することを意味し、必ずしもポリテトラフルオロエチレン含有繊維とポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維とが互いに絡合していることを意図するものではない。この点において、本発明のフッ素樹脂含有シートの上記ポリテトラフルオロエチレン含有繊維とポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維とは互いに絡合しているものであってもよく、互いに絡合していないものであってもよい。
【0034】
本発明のフッ素樹脂含有シートの平均厚みは必ずしも限定されず、任意の厚みを有する。一方で、防水透湿膜として適切な防水性と透湿性とを兼ね備えるためには、好ましくは10μm~100μm、より好ましくは20μm~50μmの平均厚みを有する。
【0035】
(フッ素樹脂含有シートの製造方法)
上記フッ素樹脂含有シートは例えば以下のようにして製造される。
【0036】
本発明の製造方法では、まず、ポリエチレングリコール水溶液中のPTFEの分散体(1)と、PAIおよび/またはPIならびに有機溶媒の溶液(2)とがエレクトロスプレーデポジション法によりそれぞれ基板電極上に重畳的に紡糸される。
【0037】
PTFEはそれ自体が疎水性であり水に不溶である。このため、分散体(1)は、PTFEとポリエチレングリコール(PEG)水溶液とを混合することにより、PEG水溶液中でPTFEを均一に分散させ、エレクトロスプレーデポジション(ESD)法による紡糸を容易に行うために使用される。
【0038】
PEG水溶液に含まれるPEGの含有量は、当該水溶液の全体質量を基準として、好ましくは5質量%~20質量%、より好ましくは8質量%~15質量%である。上記PEGの含有量が5質量%を下回ると、PEG水溶液の粘度が低くなり、例えば後述のようにノズルの先端部からスプレーした際にナノファイバーを形成することなく粒子状(ナノ粒子)となることがある。上記PEGの含有量が20質量%を上回ると、PEG水溶液の粘度が高くなりすぎて、ノズルからのより均一な紡糸が困難となり、所望のナノファイバーが形成され難くなる場合がある。
【0039】
上記PEG水溶液を用いることにより、PTFEは当該水溶液(1)に対して均一に分散し得る。PEGはまた、後述の焼成によってその多くが消失し、PTFE含有量が高められたポリテトラフルオロエチレン含有繊維を構成することができる。
【0040】
ここで、PEG水溶液に分散されるPTFEの量は必ずしも限定されないが、PEG水溶液100質量部に対して、好ましくは20質量部~70質量部、より好ましくは40質量部~50質量部である。PEG水溶液に対してPTFEがこのような範囲で含有されていることにより、PTFEはPEG水溶液中でより均一に分散した分散体(1)を調製することができ、ESD法により良好に紡糸することができる。
【0041】
分散体(1)はまた、良好なポリテトラフルオロエチレン含有繊維を構成するために、PTFE以外の他のフッ素樹脂(好ましくは改質フッ素樹脂)を含有していてもよい。このような他のフッ素樹脂の例としては、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)が挙げられる。
【0042】
PFAは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロエーテルとの共重合体であり、PTFEと類似の性質を有するとともに、その構造内にアルコキシ置換基が導入されていることにより溶融成形性が向上したフッ素樹脂である。PFAを構成するパーフルオロエーテルは、例えばCF2F3OFR1の化学式(ここでR1はハロゲン化アルキル(例えば、トリフルオロメチル基)である)で表される化合物である。
【0043】
PFAの含有量は必ずしも限定されないが、本発明のフッ素樹脂含有シートの効果を損なわない範囲において適切な量が上記分散体(1)に対して設定され得る。
【0044】
分散体(1)はまた、良好なポリテトラフルオロエチレン含有繊維を構成するための他の成分を含有していてもよい。分散体(1)に含有され得る他の成分としては、必ずしも限定されないが、例えば、デキストラン、アルギン酸塩、キトサン、グアーゴム化合物、デンプン、ポリビニルピリジン化合物、セルロース化合物、セルロースエーテル、加水分解したポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリカルボキシレート、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(イタコン酸)、ポリ(2-ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート-co-アクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、ポリ(メトキシエチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアルコール)12%アセチル、ポリ(2,4-ジメチル-6-トリアジニルエチレン)、ポリ(3-モルホリニルエチレン)、ポリ(N-1,2,4-トリアゾリルエチレン)、ポリ(ビニルスルホキシド)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(N-ビニルピロリドン-co-酢酸ビニル)、ポリ(g-グルタミン酸)、ポリ(N-プロパノイルイミノエチレン)、ポリ(4-アミノ-スルホ-アニリン)、ポリ[N-(p-スルホフェニル)アミノ-3-ヒドロキシメチル-1,4-フェニレンイミノ-1,4-フェニレン)]、イソプロピルセルロース、ヒドロキシエチル、ヒドロキシルプロピルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アルギン酸アンモニウム塩、i-カラギーナン、N-[(3’-ヒドロキシ-2’,3’-ジカルボキシ)エチル]キトサン、コンニャクグルコマンナン、プルラン、キサンタンゴム、ポリ(アリルアンモニウムクロリド)、ポリ(アリルアンモニウムホスフェート)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ジメチルドデシル(2-アクリルアミドエチル)アンモニウムブロミド)、ポリ(4-N-ブチルピリジニウムメチレンヨウ素)、ポリ(2-N-メチルピリジニウムメチレンヨウ素)、ポリ(N-メチルピリジニウム-2,5-ジイルエテニレン)、ポリエチレングリコールポリマーおよびコポリマー、セルロースエチルエーテル、セルロースエチルヒドロキシエチルエーテル、セルロースメチルヒドロキシエチルエーテル、ポリ(1-グリセロールメタクリレート)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリル酸)90:10、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(2-メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(2-ビニル-1-メチルピリジニウムブロミド)、ポリ(2-ビニルピリジンN-オキシド)、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル-2-メタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(4-ビニルピリジンN-オキシド)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(アクリルアミド/2-メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)80:20、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸)、ポリ(塩酸アリルアミン)、ポリ(ブタジエン/マレイン酸)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(アクリル酸エチル/アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)ビス(2-アミノエチル)、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル、ポリ(エチレングリコール)-ビスAジグリシジルエーテル付加物、ポリ(エチレンオキシド-b-プロピレンオキシド)、ポリ(エチレン/アクリル酸)92:8、ポリ(1-リジン臭化水素酸塩)、ポリ(1-リジン臭化水素酸塩)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(n-ブチルアクリレート/2-メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ポリ(N-イソ-プロピルアクリルアミド)、ポリ(N-ビニルピロリドン/2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ジメチルサルフェート四級化物、ポリ(N-ビニルピロリドン/酢酸ビニル)、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウレート(Tween 20(登録商標))、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(ビニルアルコール)、N-メチル-4(4’-ホルミルスチリル)ピリジニウム、メトサルフェートアセタール、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(ビニルアミン)塩酸塩、ポリ(ビニルホスホン酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)ナトリウム塩およびポリアニリンが挙げられる。
【0045】
上記他の成分の含有量は必ずしも限定されないが、本発明のフッ素樹脂含有シートの効果を損なわない範囲において適切な量が上記分散体(1)に対して設定され得る。
【0046】
本発明の製造方法において、溶液(2)を構成する有機溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、γ―ブチロラクトン、N-メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の水溶性エーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。PAIを効率よく溶解できるとの理由から、N-メチル-2-ピロリドンおよびN,N-ジメチルアセトアミド、ならびにそれらの組み合わせが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがより好ましい。
【0047】
本発明の製造方法では、上記有機溶媒を用いることにより、PAIおよび/またはPIは当該有機溶媒に対して適切に溶解し得る。ここで、溶液(2)を構成する有機溶媒中に溶解されるPAIおよび/またはPIの合計量は必ずしも限定されないが、有機溶媒100質量部に対して、好ましくは2質量部~30質量部、より好ましくは7質量部~20質量部である。当該有機溶媒に対してPAIおよび/またはPIの合計量がこのような範囲で含有されていることにより、得られる溶液(2)を用いてESD法による良好な紡糸が可能となる。
【0048】
本発明の製造方法における分散体(1)と溶液(2)との使用割合は、必ずしも限定されないが、後述する焼成後のクラックの発生を低減させ、かつ防水性および透湿性を兼ね備えたシートとするために、分散体(1)中のPTFEと溶液(2)中のPAIおよび/またはPIとが所定の割合となるように使用することが好ましい。この点において、分散体(1)と溶液(2)との使用割合は、それぞれに含まれるPTFEとPAIおよび/またはPIとの質量比が好ましくは50:50~95:5、より好ましくは70:30~90:10となるように設定されることが好ましい。
【0049】
上記分散体(1)および溶液(2)を用いるESD法による紡糸は、例えば、分散体(1)および溶液(2)を別々に収容し、基板電極上に同時に静電紡糸することができる公知のESD装置(静電紡糸装置)を用いて行われる。
【0050】
図1は、本発明のフッ素樹脂含有シートの製造に使用され得るESD(エレクトロスプレーデポジション)装置の構成の一例を模式的に説明するための図である。
【0051】
図1に示すようにEDS装置100は、水平方向に平坦なステージを構成する電極基板101上に、所定の間隔を空けて2つのスプレーヘッド102,104を備える。
【0052】
スプレーヘッド102には、上記PTFEを分散させた分散体(1)が収容される第1収容部106と、第1供給管108を通じてスプレーヘッド102に圧縮空気を送給することにより第1収容部106の分散体(1)を電極基板101に向けてスプレーする第1ノズル110とが設けられている。スプレーヘッド104には、上記PAIおよび/またはPIを含有する溶液(2)が収容される第2収容部112と、第2供給管114を通じてスプレーヘッド104に圧縮空気を送給することにより第2収容部112の溶液(2)を電極基板101に向けてスプレーする第2ノズル116とが設けられている。
【0053】
図1に示すESD装置100においては、スプレーヘッド102,104から分散体(1)または溶液(2)がスプレーされる際、スプレーヘッド102および104の底部に設けられたエアノズル(図示せず)を通じてスプレーヘッド102および104の各々底部から電極基板101に向かって、スプレーされる分散体(1)および溶液(2)の外周を取り囲むようにエアーが排出され、エアーカーテンを形成することが好ましい。このようなエアーカーテンは、第1ノズル110からの分散体(1)のスプレーと、第2ノズル116からの溶液(2)のスプレーとを独立して保持することができ、スプレーされた分散体(1)および溶液(2)が電極基板101側に到達する前に互いに混合することを防止することができる。
【0054】
さらに
図1に示すESD装置100では、スプレーヘッド102,104と電極基板101とは電気的に接続されており、両者に所定の電圧をかけることにより、第1ノズル110および第2ノズル116から各々スプレーされた分散体(1)および溶液(2)は電極基板101上に電気的に引き寄せられて配置される。ここで、上記において付加される電圧は必ずしも限定されず、ESD法による一般的な紡糸で採用される電圧に基づいて当業者が任意の値を設定することができる。
【0055】
第1ノズル110および第2ノズル116から分散体(1)および溶液(2)がそれぞれスプレーされる際、
図1に示す実施形態では、第1ノズル110および第2ノズル116(すなわち、スプレーヘッド102,104)は固定されている一方で、電極基板101は図示しない駆動手段によって予め設定されたプログラムに基づいて水平二次元方向(すなわち、水平面上の任意のX軸とそれに直行するY軸とで構成される二次元の任意方向)に移動する。そして、電極基板101による水平二次元方向の移動が繰り返されることにより、電極基板101上にスプレーされた分散体(1)および溶液(2)が略均一に配置され、重畳的な紡糸が行われる。
【0056】
なお、
図1では、電極基板101が水平二次元方向の移動が繰り返される場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図2に示すようなESD装置200が用いられてもよい。なお、
図2では、
図1と共通する構成については、
図1と同一の符号を付している。
【0057】
図2のESD装置200では、電極基板101’が固定されており、スプレーヘッド102’,104’が図示しない駆動手段によって予め設定されたプログラムに基づいて水平二次元方向に移動する。そして、スプレーヘッド102’,104’による水平二次元方向の移動が繰り返されることにより、電極基板101’上にスプレーされた分散体(1)および溶液(2)が略均一に配置され、重畳的な紡糸が行われる。
【0058】
このようにして、PTFEの分散体(1)と、PAIおよび/またはPIならびに有機溶媒の溶液(2)とがエレクトロスプレーデポジション法によりそれぞれ基板電極上に重畳的に紡糸され、焼成前生シートが作製される。なお、この焼成前生シートは必要に応じて乾燥させてもよい。
【0059】
次いで、この焼成前生シートが焼成される。
【0060】
焼成は、例えば焼成前生シートを所定温度に設定されたオーブン内に配置することにより行われる。
【0061】
上記焼成において設定される温度は必ずしも限定されないが、好ましくは300℃~400℃、より好ましくは330℃~360℃である。設定される温度が300℃を下回ると、PTFE含有繊維内にPEGが不要物として多く残存する恐れがあり、PTFEが溶融しづらく繊維状にならないので、得られるシートが十分な強度を有さないことがある。設定される温度が400℃を上回ると、PAIおよび/またはPIの所望でない分解または焼失によりポリアミドイミドおよび/またはポリイミド含有繊維内のPAIおよび/またはPIの含有量が低下し、得られるシートが十分な強度を有さずシート表面にクラックを発生させることがある。
【0062】
さらに、焼成時間は、使用する焼成前生シートの厚みや大きさ、上記第1ノズルおよび第2ノズルからスプレーされた分散液(1)および溶液(2)の量等によって変動するため、必ずしも限定されないが、好ましくは10分間~60分間、より好ましくは20分間~40分間である。焼成時間が10分間を下回ると、PTFEが十分に溶融しないことにより適切に繊維状とならず、得られるシートが十分な強度を有さないことがある。焼成時間が60分間を上回ると、得られるシートの強度に変化がなく、むしろ製造効率を低下させることがある。
【0063】
このようにして、本発明のフッ素樹脂含有シートが作製される。
【0064】
上記により得られた本発明のフッ素樹脂含有シートは、シート作製段階でのクラックの発生が低減されるとともに、優れた防水性と透湿性とを兼ね備えることができる。このようなフッ素樹脂含有シートは、例えば、アパレルまたはスポーツ用衣料のための素材や、医療品の製造分野における様々な膜材料として利用され得る。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない
【0066】
(実施例1:フッ素樹脂含有シート(E1)の作製)
PTFE水分散体(三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製31JR;ポリテトラフルオロエチレンを60質量%の割合で含有する水分散体)100質量部と、PEG水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製162-18525;ポリエチレングリコールを10質量%の割合で含有する水溶液)100質量部とを混合して、分散体(E1-1)を調製した。
【0067】
次いで、この分散体(E1)を、
図1に示す構成を有するESD装置(株式会社フューエンス製Esprayer ES-2100H)の第1収容部(ノズルサイズ:21ゲージ)に入れ、PAI溶液(東洋紡株式会社製バイロマックス16NN;ポリアミドイミドを14質量%の割合で含有するN-メチル-2-ピロリドンの溶液)(E1-2)をN-メチル-2-ピロリドンで質量比1.5倍に希釈し、第2収容部(ノズルサイズ:21ゲージ)に入れ、表1に示す紡糸条件で電極基板上に240分間かけて、分散体(E1-1)および溶液(E1-2)を各々スプレーし、焼成前生シートを作製した。
【0068】
【0069】
この焼成前シートをオーブン内で345℃にて30分間焼成することにより、フッ素樹脂含有シート(E1)を得た。得られたシート(E1)を目視で観察したところ、その表面にクラックが生じていないことを確認した。
【0070】
このフッ素樹脂含有シート(E1)の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製FlexSEM 1000)で観察した結果を
図2に示す。
【0071】
図3の(a)に示すように、本実施例で得られたシート(E1)は、拡大率1000倍では多数の分岐点を有するフィラメントが重畳的に配置されていることがわかる。次いで、
図3の(b)に示すように、拡大率5000倍では、本実施例で得られたシート(E1)は、表面に微細な凹凸が形成されたフラクタルな外表面を有するフィラメントTと、当該フィラメントTと比較して明らかに表面に凹凸がないフィラメントAとが共存して配置されていることがわかる。
【0072】
次に、このフッ素樹脂含有シート(E1)を水平方向に固定し、その表面にスポイトで数滴の水を滴下した。得られた結果を
図4に示す。
図4に示すように、水滴はシート表面上で浸潤して広がることなく粒状に存在していた。このことから、本実施例で得られたシート(E1)は良好な撥水性を有していたことがわかる。
【0073】
さらに、このフッ素樹脂含有シート(E1)について以下の物性評価を行った。
【0074】
(膜厚)
本実施例で得られたシート(E1)をマイクロメーター(株式会社ミツトヨ製M800))を用いて膜厚計測することにより、当該シートの膜厚(μm)を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0075】
(耐水圧)
本実施例で得られたシート(E1)を、手動式防水度試験機(株式会社安田精機製作所製No.169)を用いて測定することにより、当該シートの耐水圧(kPa)を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0076】
(ガーレー値)
本実施例で得られたシート(E1)を、ガーレー式デンソメーター(株式会社安田精機製作所製No.323)を用いて測定することにより、当該シートのガーレー値(秒/300cc)を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0077】
(フラジール値)
本実施例で得られたシート(E1)を、フラジール型通気度試験機(株式会社 安田精機製作所製(型番)No.415)を用いて測定することにより、当該シートのフラジール値(cc/cm2・秒)を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0078】
(実施例2:フッ素樹脂含有シート(E2)の作製)
実施例1で採用した送液速度(両ノズルとも20μL/分)の代わりに、PTFEを含有する分散体(1)がノズルからスプレーされる送液速度を40μL/分に変更し、かつPAIを含有する溶液(2)がノズルからスプレーされる送液速度を20μL/分に保持したこと以外は実施例1と同様にしてフッ素樹脂含有シート(E2)を作製した。得られたシート(E2)を目視で観察したところ、その表面にクラックが生じていないことを確認した。次いで、このフッ素樹脂含有シート(E2)について実施例1と同様の物性評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0079】
(比較例1:市販フッ素樹脂含有シート(C1)の評価)
実施例1で作製したフッ素樹脂含有シート(E1)の代わりに、シート(C1)として市販のフッ素樹脂含有シート(住友電気工業株式会社製ポアフロンWP-500-50)を用い、当該シート(C1)について実施例1と同様の物性評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0080】
(比較例2:市販フッ素樹脂含有シート(C2)の評価)
実施例1で作製したフッ素樹脂含有シート(E1)の代わりに、シート(C2)として市販のフッ素樹脂含有シート(日東電工株式会社製テミッシュNTF2133A)を選択し、当該シート(C2)のカタログ値を表2に併記した。
【0081】
(比較例3:市販フッ素樹脂含有シート(C3)の評価)
実施例1で作製したフッ素樹脂含有シート(E1)の代わりに、シート(C3)として市販のフッ素樹脂含有シート(日東電工株式会社製テミッシュNTF1033)を選択し、当該シート(C3)のカタログ値を表2に併記した。
【0082】
【0083】
表2に示すように、実施例1および2で作製されたフッ素樹脂含有シート(E1)および(E2)はいずれも市販シート(C1)~(C3)と比較して、同等またはそれらよりも薄い膜厚を有していたにも関わらず、耐水圧やガーレー値は比較的高い値を有していた。さらに、フラジール値も良好であった。このことから、実施例1および2で得られたフッ素樹脂含有シート(E1)および(E2)は、市販シート(C1)~(C3)に匹敵する良質な防水透湿膜であることがわかる。
【0084】
(比較例4:フッ素樹脂含有シート(C4)の作製)
実施例1のPTFEを含有する分散体(E1-1)およびPAIを含有する溶液(E1-2)の代わりに、当該PTFEを含有する分散体(E1-1)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様にして焼成前生シートを作製し、その後焼成してフッ素樹脂含有シート(C4)を得た。得られたシート(C4)を目視で観察したところ、その表面にクラックが生じていたことを確認した。
【0085】
(比較例5:フッ素樹脂含有シート(C5)の作製)
PTFE水分散体(三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製31-JR;ポリテトラフルオロエチレンを60質量%の割合で含有する水分散体)100質量部と、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製165-17915;PVAを10質量%の割合で含有する水溶液)100質量部とを混合して、分散体(E1-2)を調製した。
【0086】
実施例1のPTFEを含有する分散体(E1-1)の代わりに、この分散体(E1-2)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして焼成前生シートを作製し、その後焼成してフッ素樹脂含有シート(C5)の作製を試みた。しかし、焼成の段階でシート上からPVAが昇華せず、変色し最終的に炭化して目的のシートを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明、例えばアパレルまたはスポーツ用衣料の製造分野、医療品の製造分野において有用である。
【符号の説明】
【0088】
100,200 EDS装置100
101,10’ 電極基板
102,102’,104,104’ スプレーヘッド
106 第1収容部
108 第1供給管
110 第1ノズル
112 第2収容部
114 第2供給管
116 第2ノズル